判例検索β > 平成26年(行ウ)第472号
国籍確認請求事件
事件番号平成26(行ウ)472
事件名国籍確認請求事件
裁判年月日平成28年6月24日
法廷名東京地方裁判所
判示事項日本国籍を有する父とロシア連邦国籍を有する母との間に出生して生来的に日本国籍を有する原告らにつき,出生後にロシア国籍を取得し,国籍法11条1項の適用により日本国籍を喪失したものと認められた事例
裁判要旨日本国籍を有する父とロシア国籍を有する母との間に出生して生来的に日本国籍を有する原告ら(未成年者である子ら)につき,原告らの父母が,簡易手続によるロシア国籍の許可の手続を行い,原告らのロシア国籍を取得した場合において,次の(1),(2)などの判示の事情の下では,国籍法11条1項所定の「自己の志望によって」外国の国籍を取得したものと認められ,同項の適用により日本国籍を喪失したものと認められた事例
(1) 原告らの母が記入したものと推認される各申請書の内容は単なる出生登録のための書面にとどまるものではないことが明らかであり,原告らの母は何度か書き直しを指示されたりしながら当該各申請書の作成を完了したこと,また,各申請に対する応答として原告らの母が受領した原告らに係るロシア国籍取得の決定書には,出生登録がされたことを示すような文言は見当たらないこと,他方,原告らの父は,原告らに係るロシア国籍の許可申請に同意するに当たり,「子どものロシア国籍に反対しませんか」という趣旨の質問をされ,それに反対しない旨の回答をし,署名をしたこと,また,原告(次男)の日本旅券発給申請手続において,同原告につき,出生によりロシア国籍を取得した旨の記載を抹消し,現在は未だ同国籍を取得していない旨の記載に訂正したことからして,上記のロシア国籍取得手続に係る申請行為が新たな国籍取得とは無関係の手続に係るものであると確定的に認識していたとは認められないこと
(2) 原告らの父母が原告らにつき生来的に日本とロシアの二重国籍となる旨を知人から聞いていたとしても,確たる根拠に基づく情報と認めるに足りないこと,また,原告らの父が閲覧したロシア大使館のホームページの記載内容から,原告らが生来的にロシア国籍を取得しており,出生登録をすれば二重国籍が認められると確信することはできないと考えられることからして,原告らの父母が上記のロシア国籍取得手続に及んだことにつき無理からぬといえるような確実な根拠があったとはいえないこと
戻る / PDF版
平成28年6月24日判決言渡
平成26年(行ウ)第472号

国籍確認請求事件

主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告Aが日本国籍を有することを確認する。
2原告Bが日本国籍を有することを確認する。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,日本国籍を有する父とロシア連邦(以下「ロシア」という。)国籍を有する母との間に出生し,生来的に日本国籍を取得した原告らが,ロシア国籍を取得する手続により同国籍を取得したため,国籍法11条1項の規定により日本国籍を喪失するおそれがあるところ,同項の規定は適用されず,日本国籍は喪失しないと主張して,被告国に対し,原告らが日本国籍を有することの確認を求めた事案である。
2関係法令の定め
(1)国籍法2条は,出生により日本国籍を取得する場合として,子が,①出生時に父又は母が日本国民であるとき(1号),②出生前に死亡した父が死亡時に日本国民であったとき(2号),③日本で生まれた場合おいて,父母がともに知れないとき又は国籍を有しないとき(3号)を定めている。(2)国籍法11条1項は,日本国籍を喪失する場合として,「日本国民は,自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは,日本の国籍を失う。」と定めている。
(3)庁公署がその職務上国籍を喪失した者があることを知ったときは,遅滞な
く本籍地の市町村長に,国籍喪失を証すべき書面を添付して,国籍喪失の報告をしなければならず(戸籍法105条1項),その報告書には,国籍喪失の原因及び年月日(同法103条2項1号),新たに外国の国籍を取得したときはその国籍(同項2号)を記載しなければならない(同法105条2項)。
3前提事実(当事者間に争いがない事実か,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者

日本国籍を有するC(昭和41年10月13日生。以下「原告ら父」ともいう。)とロシア国籍を有するD(1982年1月3日生。以下「原告ら母」ともいう。以下,両名を併せて「原告ら父母」という。)は,平成18年8月7日に婚姻した(甲1,8,13の7,13の8)。


原告A(平成19年7月9日生。長男),原告B(平成22年4月1日生。二男。以下,原告A及び原告Bを併せて「原告ら」という。)及びE(平成25年6月3日生。三男)は,いずれも原告ら父母の子であり,日本で出生した(甲1,8,13の5,13の6)。


原告らは,出生により,日本国籍を取得した(国籍法2条1号)。他方,原告らは,ロシア国籍法上,出生によるロシア国籍の取得はしていない(同法12条1項c号参照)。(甲2,3,乙5の1,5の2)

(2)本件訴訟に至る経緯等

簡易手続によるロシア国籍の許可の手続
ロシア国籍法は,外国人である子で,父母の一方がロシア国籍を有する者については,ロシア国籍を有する親が子のロシア国籍の許可を申請し,他方の親が子のロシア国籍の取得に同意をした場合には,簡易手続によりロシア国籍を取得することができる旨規定している(同法14条6項a号本文。乙5の1,5の2)。


原告Aのロシア国籍取得とその後の日本旅券発給
(ア)駐日ロシア連邦大使は,平成19年11月30日付けで,原告Aにつき,ロシア国籍法14条6項a号に基づきロシア国籍を取得する旨の決定をした。この頃,原告ら母は,上記の国籍取得の決定を受領するとともに,自身の旅券に登載される形式により,原告Aのロシア旅券の発給を受けた。(甲8,9の1~9の4,13の1~13の8)
(イ)原告Aは,平成20年3月6日,原告ら父の代理により,日本旅券発給申請の手続をとり,同月10日,日本旅券の発行を受けた。
この手続に係る原告Aの一般旅券発給申請書(甲6)には,「外国国籍を併せ有している場合」欄に,「国籍

ロシア」,「取得原因

ロシ

ア人の母による出生」及び「取得年月日

2007年7月9日」との記

載がある。(甲6)
(ウ)原告Aは,平成25年3月4日,原告ら父の代理により,日本旅券の切替発給申請の手続をとり,その発行を受けた。
この手続に係る原告Aの一般旅券発給申請書(甲16)には,「外国籍の有無」欄に,「現在外国の国籍を有していますか。はい」との記載がある。(甲16)

原告Bのロシア国籍取得とその後の日本旅券発給
(ア)駐日ロシア連邦大使は,平成22年7月15日付けで,原告Bにつき,ロシア国籍法14条6項a号に基づきロシア国籍を取得する旨の決定をした。また,この頃,原告ら母は,上記の国籍取得の決定を受領するとともに,自身の旅券に登載される形式により,原告Bのロシア旅券の発給を受けた。(甲8,10の1,10の2,13の1~13の8)(イ)原告Bは,平成22年8月6日,原告ら父の代理により,日本旅券発給申請の手続をとり,同月12日,日本旅券の発行を受けた。
この手続に係る原告Bの一般旅券発給申請書(甲7)には,「外国籍
の有無」欄に,「現在手続中」等の記載を抹消した上で,「現在外国の国籍を有していますか。いいえ」との記載がある。(甲7)

本件訴訟の提起等
(ア)原告らは,平成26年9月25日,本件訴訟を提起した。
(イ)原告らは,本件訴訟を提起するまでの間,日本の行政機関から,日本国籍を喪失したと取り扱われたことはなかった(上記イ(イ)及び(ウ)並びにウ(イ)参照)。
(ウ)当裁判所の示唆により,原告ら母は,原告らのロシア国籍の取得に係る申請(上記イ(ア)及びウ(ア))の取消しの可否を問い合わせたが,在日ロシア連邦大使館(以下「ロシア大使館」という。)の担当者は,それができない旨の返答をした(甲11,弁論の全趣旨)。

4主な争点及び争点についての当事者の主張
本件の主な争点は,①確認の利益の有無(争点1),②原告らが国籍法11条1項に基づき日本国籍を喪失したか否か(争点2)であり,当事者の主張の要旨は,次のとおりである。
(1)争点1(確認の利益の有無)について
(被告の主張の要旨)
確認訴訟においては,訴訟要件として確認の利益が認められることが必要であり,その存否の判断に当たっては,紛争の成熟性の判断が重要となるとされている。
この点,原告らは,原告らが国籍法11条1項に該当するかのような外形的事実が存在しており,国から日本国籍喪失と取り扱われる現実的危険が存在し,確認訴訟を提起する以外に解決手段がないことから,確認の利益は存在する旨を主張する。
しかしながら,原告らは,現時点においても,日本国籍を喪失したと扱われて不利益を受けているという状況にはなく,原告ら父の戸籍に記載され,
法務局等の日本の行政機関の担当者から日本の国籍喪失届を出すように促された事実もない。
そうすると,現時点においても,原告らと被告との間には,成熟性を有する紛争が存在せず,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があるとも,確認訴訟が紛争解決のために有効適切な手段であるとも認められず,原告らの本件訴えは確認の利益を欠き,不適法である。(原告らの主張の要旨)

原告ら父母は,主観的には原告らが生来的に日本国籍とロシア国籍の重国籍であると考えていたが,客観的には,生来的に日本国籍を取得した後に後発的にロシア国籍を取得し,その結果,日本国籍を喪失したような外観が作出されてしまったのであり,法務省が公表している解釈(甲3参照)に従えば,日本国籍を喪失していると扱われる現実的危険性がある。

被告は,本件訴訟において,原告らが日本国籍を喪失している旨主張し,原告らの主張を全面的に争い,請求棄却を求めている。
仮に本件訴訟が確認の利益がないとして却下されたとしても,被告は,原告らが日本国籍を喪失したものと判断している以上,戸籍法105条1項の規定により,本籍地である東京都品川区長に対して原告らの国籍喪失を報告し,この報告を受けた同区長は,同法15条の規定により,原告らの国籍喪失を戸籍に記載することになる。
このように,本件訴訟の審理が進んだ現時点においては,原告らが日本国籍を喪失したとして,その戸籍が消除されることが制度上極めて高い確率で予測されるのであるから,本件訴訟において原告らが日本国籍を有することの確認を求める利益は認められるべきである。


また,上記イの事情に鑑みれば,紛争の成熟性は十分に認められる。加えて,原告らが日本国籍を喪失したとして扱われる場合の具体的な不利益としては,原告ら父を筆頭者とする戸籍からの抹消,旅券の発行の拒
否,その他日本国籍を前提とする様々な権利利益の喪失,さらに国籍喪失後30日以内に在留資格取得届を行わなかったことを理由とする退去強制事由による退去強制手続の進行(入管法22条の2第2項,同法24条7号),公的サービスの取消しと既に提供された給付の返還請求など様々な問題が想定されるのであり,いずれについても国籍法11条1項該当性が争点であり,原告らの日本国籍の存在を確認することにより,上記の様々な不利益を抜本的に阻止する意義を持つのであるから,紛争解決のための有効適切な手段であることは明白である。
(2)争点2(原告らが国籍法11条1項に基づき日本国籍を喪失したか否か)について
(被告の主張の要旨)

国籍法11条1項の趣旨等について
(ア)重国籍の弊害と国籍唯一の原則
国籍の積極的抵触(重国籍)及び消極的抵触(無国籍)は,個人の利益保護の見地及び国際協調主義の見地のいずれからみても避けるべき事態である。
重国籍者についてみると,二以上の国家に所属するため,国家が国民に対して有する対人主権が重複して及ぶこととなり,外交保護権の衝突等により国際的摩擦が生じるおそれがある。また,国家は,自国民に対し,兵役・納税の義務等を課し得るが,重国籍者はその所属する各国からの義務の履行を要求され,その義務が抵触する事態も生じ得る。さらに,重国籍者は,関係国間の通報制度がない限り,その属する各国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり,場合によっては,適正な入国管理が侵害され,重婚を防止し得ないという事態も生じ得る。
他方,重国籍者は,その属する各国において国民としての権利を与え
られ,複数の本国に自由に往来居住し,それぞれの国で社会保障の利益,経済活動の自由を享受し得ることになるが,それは単一の国籍のみを有する者には与えられていない利益であり,保護するに値する利益とはいえない。
このような見地から,人は必ず国籍を持ち,かつ,国籍は唯一であるべきであるということが国籍の得喪に関する理想と解されており,この「国籍唯一の原則」は,国籍の存在意義から当然導かれる原理ないし国籍立法のあるべき姿として,古くから今日に至るまで国際的に承認されている(乙7等参照)。
(イ)国籍自由の原則
国籍自由の原則とは,国家は個人の意思に反して自国の国籍を強制すべきでないという原則をいい,第一義的には国籍変更の自由を意味するが,生来の重国籍者が抵触する国籍のうちいずれか一方を放棄する自由(国籍離脱の自由)も含むとする見解もある。
国籍変更の自由及び国籍離脱の自由は,国籍の積極的抵触の防止に資するものであり,個人の尊厳及び国際強調の見地からは,国籍立法の一理念として承認されるべきものであると考えられる。
(ウ)国籍法11条の趣旨
我が国の国籍法は,重国籍の防止を基調としており,国籍法11条1項は,自己の志望により外国の国籍を取得したときは日本国籍を失うとしている。国籍離脱の自由に関しては,憲法及び国籍法で国籍を離脱する自由が保障され(憲法22条2項,国籍法13条),国籍法11条において国籍変更の自由が認められている。
このように国籍法11条1項は,国籍変更の自由を保障しつつ,重国籍の弊害を踏まえ,重国籍発生の防止を趣旨とする規定ということができる。

そして,「自己の志望によつて」とは,国籍変更の自由を保障する趣旨であり,本人の外国籍の取得を希望する意思表示に基づき,直接外国籍を取得するもの(志望取得)を広く指し,外国人との婚姻等の身分行為に伴う当然の外国籍の取得(当然取得)と対置される概念であり,単なる身分行為に伴う外国籍の取得によっては日本国籍を失わないことを示したものである(なお,この場合には,例外的に重国籍を許容することとなる。)。
また,国籍変更の自由を保障する趣旨から,外国籍を取得する者の主観的な事情による国籍の喪失の効果への影響については,抵抗し難い程度の強迫を受けて帰化の申請をした場合のように,実質上,外国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合には,単に取り消すことができる(民法96条1項)のではなく,「自己の志望」による外国籍の取得には該当しないこととされ,日本国籍を喪失しない。
他方で,日本の国籍を喪失すると知っていれば外国籍の取得を申請しなかった場合のように,法律の不知があったとしても,「自己の志望」により外国籍を取得した場合には,日本国籍を喪失する。
そして,「自己の志望によつて」外国籍を取得した者については,国籍変更の自由を保障している以上,重国籍防止の見地から,その反射的効果として日本国籍を失うとしたものである。この日本国籍喪失の効果は,直接日本国籍を離脱することに向けられた意思の効果ではなく,志望による外国籍の取得によって自動的に生じる効果と解される。
(エ)国籍法11条1項の「自己の志望によつて」及び「外国の国籍を取得したとき」の解釈について
「自己の志望によつて」とは,上記(ウ)のとおり,帰化による外国籍の取得に限られず,国籍の回復,届出による国籍取得,国籍申告等,その名称いかんにかかわらず,本人の外国籍取得を希望する意思表示に基
づき,直接外国籍を取得するもの(志望取得)を広く指すとされている。また,「外国の国籍を取得したとき」とは,外国の国籍を有効に取得することが必要であり,外国の国籍を有効に取得したかどうかは,その外国の法律によって決定するとされている。また,外国の国籍を取得するには,通常,「外国の国籍を取得する意思」が必要であり,これは「新たに外国の国籍を取得する意思」である。
そして,抵抗し難い程度の強迫を受けて帰化の申請をした場合のように,実質上,外国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合であっても,通常,当該外国政府によって当該外国籍を有効に取得したことが認められており,そうだとすると,特段の事情がない限り,「新たに外国の国籍を取得する意思」を有していたものと認められ,「外国の国籍を取得したとき」に該当しないと判断することはできないが,かかる場合には「自己の志望によつて」に該当するとはいえない。つまり,「自己の志望によつて」とは,身分行為に伴う当然取得を除外するほか,実質上外国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合を排除するものであって,「我が国の法解釈における伝統的な意思理論」と同様のものではない。
このように,単なる「外国の国籍を取得する意思」の有無は,「自己の志望によつて」の要件充足性の問題ではなく,外国の国籍を取得したときの要件充足性の問題として位置付けられ(もっとも,「外国の国籍を取得する意思」があることは「自己の志望によつて」の要件を充足する前提となっており,「外国の国籍を取得する意思」が欠けている場合には,およそ「自己の志望によつて」の要件が充足されることはない。),当該外国の法律上,有効に当該外国籍を取得した事実があれば,通常,「新たに外国の国籍を取得する意思がある」というべきであるから,特段の事情がない限り,「新たに外国の国籍を取得する意思」があ
るものと認められるというべきである。

原告ら父母には,原告らについて「新たに外国の国籍を取得する意思」があったと認められること
(ア)原告らは,ロシア国籍を新たに有効に取得したものと認められ,ロシア国籍法上,国籍取得の前提となる国籍取得の意思があったものと取り扱われているにもかかわらず,これを否定すべき特段の事情は認められないから,新たにロシア国籍を取得する意思があったものというべきことは明らかである。
(イ)原告らは,原告ら父母には,原告らに係るロシア国籍取得の意思が欠缺していた旨主張している。
しかしながら,原告らは,実際には,ロシア官憲により,ロシア国籍を取得しているものと取り扱われている。そもそも,ロシア国籍の取得は,ロシア官憲に対し,ロシア国籍取得に向けてされた意思表示の結果として,その効果が発生するのであって,国籍法11条1項が,日本政府に対する何らの意思表示も介在させることなく日本国籍の喪失という重大な効果を発生させる特殊な制度となっているのは,重国籍の防止という重要な目的を達成するためである。そうだとすれば,日本政府としては,特段の事情がない限り,原告らがロシア官憲によりロシア国籍を取得しているものと取り扱われているという事実から,原告ら父母が原告らについてロシア国籍を取得させる意思があったことを推認して国籍法11条1項を適用するほかない。
仮にそのような取扱いを許さないのであれば,日本政府としては,ロシア官憲に対する申請により適法にロシア国籍を取得したという外形が存在したとしても,真にロシア国籍を取得する意思があったか否かにつき逐一実質的な調査をしなければ国籍法11条1項に該当する者であるか否かにつき判断ができないことになり,関連する戸籍事務(戸籍法1
03条,105条等)に著しい支障が生じる。
また,自らロシア国籍取得の手続を行い,当該手続を経てロシア国籍を取得しておきながら,後になって「ロシア国籍取得の意思はなかった」と主張するだけで国籍法11条1項の適用を容易に免れることができることになってしまい,重国籍防止という同項の趣旨が全く没却されることになり,不合理である。
したがって,上記(ア)のとおり,原告らがロシア官憲によりロシア国籍を新たに有効に取得したものと認められており,原告らのロシア国籍取得の意思の存在を否定すべき特段の事情も認められない本件においては,新たにロシア国籍を取得する意思があったものというべきである。ウ
原告らの簡易手続によるロシア国籍の許可申請は,法律の不知にすぎないこと
原告らは,出生登録や旅券申請の手続であると誤信して,外形上ロシア国籍の簡易取得手続(ロシア国籍法14条6項a号)を行ったものであり,原告らにロシア国籍を取得させる意思そのものが欠缺していたと主張する。しかしながら,このような原告らの主張からすると,原告らは,ロシア国民として処遇されることを希望ないし認容していたが,自ら行った手続がロシア国民としての単なる出生登録や旅券申請ではなく,ロシア国民でない者がロシア国籍を後発的に取得するための簡易手続であることを知っていたならば,また,当該手続をすることによりロシア国籍を取得する結果,日本国籍を喪失することを知っていたならば,当該手続はしなかったというのであるから,ロシア国籍法12条,14条6項a号及び国籍法11条1項の規定を知らなかったがために,それと知らずにロシア国籍の簡易取得の許可申請をしたということにほかならないところ,それはまさしく法の不知に当たるというべきである。
そして,法の不知があったとしても国籍法11条1項の要件を満たすと
解されるのであって,簡易手続によるロシア国籍の許可申請前の時点で,日本国民として国籍変更の自由を保障されていた原告らは,当該取得手続によりロシア国籍を取得した以上,その反射的効果として日本国籍を失うのは当然の帰結である。

原告らが二重国籍者であるとする原告らの主張は不合理であること(ア)原告らは,原告らが後発的にロシア国籍を取得した手続は有効であると主張しつつ,他方で,当該ロシア国籍取得はロシア国籍取得に向けた意思が欠缺しており,「自己の志望」によるものではないから,日本国籍を喪失せず,二重国籍になる旨主張している。
しかしながら,このような主張は,一方でロシア国籍取得の効果意思があることを前提に,ロシア国籍法上,有効に後発的なロシア国籍取得が認められるとしながら,他方で,ロシア国籍取得の効果意思がなかったとするものであり,そもそも論理的に不合理で自己矛盾した失当な主張である。
(イ)また,原告らが出生時からロシア国籍を保有しているとの認識であった以上,原告ら父母は,原告らについて申請により後発的にロシア国籍の取得手続を行う意思を持ちようがなかったとしつつ,原告らは,ロシア国籍法上は後発的国籍取得が認められるとする原告らの主張は,ロシア国籍を新たに取得した結果として旅券の発給を受けたり,ロシア国民として当然にロシアに入国,居住したりする等,ロシア国民としての種々の権利を享受する資格を得ておきながら,日本国籍を保持したまま,日本国民としての種々の権利を享受するという利益を主張するものであり,このような利益が国籍法11条1項の趣旨に反する保護に値しない失当なものであることは明らかである。


原告らの主張に対する反論等
次のとおり,原告ら父母の供述等を前提としても,原告ら父母は,原告
らに新たにロシア国籍を取得させる意思を有していたと認められる。(ア)原告ら母は,ロシア大使館において,原告Aに係る簡易手続によるロシア国籍の許可申請書を記入する際,原告ら母が全て問いに対して答えを記載しているというのであり,同申請書のひな形(乙6の1,6の2)には,「申請書」という文言の直ぐ下に,「簡易手続によるロシア連邦国籍を許可していただくようお願いいたします。」と記載されており,その直ぐ下には「本申請をする契機となった動機」を記入する欄もある。そして,原告ら父は,ロシア大使館職員から「あなたは,子供のロシア国籍に反対しませんか。」という趣旨の質問をされ,何らの質問の趣旨を確認することなく「反対しません」と回答した上で,必要書類にサインをした。
このように原告ら父母は,原告Aに係る簡易手続によるロシア国籍の許可申請をした際,同原告に係るロシア国籍の取得手続であることを明示された上で,その手続を進めたというのであって,およそ新たにロシア国籍を取得する手続をしているとしか認識しようがない状況で同原告に係るロシア国籍取得がされたことは明らかである。このことのみをもってしても,原告ら父母が同原告に関して新たにロシア国籍を取得する意思を有していたというべきである。
また,原告ら父母が同様の手続をとった原告Bに関しても新たにロシア国籍を取得する意思を有していたというべきである。
(イ)原告ら父母は,原告らに係るロシア国籍の取得手続をした後,約3ないし4か月後には「ロシア連邦国籍を取得することを決定する」と明記された原告らに係るロシア国籍取得の決定書等(甲9の1,9の3,10の1)を受領し,これらの決定書等は,出生登録が完了したなどと読める部分などないというのであるから,原告Aについて,新たにロシア国籍を取得したことを認識したというべきであり,そのように認識した
のに,特段の措置もとらなかったというのであるから,このことからも上記(ア)の認識を有していたことが裏付けられる。
(ウ)原告ら父母は,原告らが日本で出生した時点でロシア国籍を取得しており,ロシア大使館では出生登録の完了をしているものと誤認していた旨供述する。
原告ら父は,上記のように誤認した理由として,①ロシア大使館の公式ホームページを確認し,日本とロシアの二重国籍となることが書いてあった,②周囲の日本人とロシア人の夫婦の間で生まれた子供はほぼ全て,日本とロシアのパスポートを持っていたことなどを挙げる。
しかしながら,①ロシア大使館の公式ホームページ(甲5)を見ても,日本人とロシア人との間に生まれた子供については出生した時点でロシア国籍を取得するという記載は見当たらず,かえって「婚在日ロシア連邦領事機関は,両親若しくは単親(例:シングルマザー)がロシア国民である子供の出生のみ登録手続を行っています。」とされ,日本人とロシア人との間に生まれた子供については出生登録ができないことが明記されている。
また,②周囲にいる日本人とロシア人の夫婦の子供が,結果的に,日本とロシア両国の旅券の発給を受けていたという事情があるとしても,そのことから直ちに,日本人とロシア人との間に生まれた子供が出生時にロシア国籍を取得していると確信するような事情ではない。すなわち,その二重国籍が子供の出生時に生じたものであるのか,出生後に何らかの手続をしたことによって生じたものであるのかは分からないはずであり,出生の時点でロシア国籍を取得しているはずだと確信するような事情であるとは認められないというべきである。
以上のとおり,原告ら父が誤信した根拠として挙げている上記①及び②は,いずれも,日本人とロシア人との間に生まれた子供が出生時から
ロシア国籍を取得していると確信するようなものではなく,せいぜい,日本人とロシア人との間に生まれた子については,何らかの手続をとることでロシア国籍を取得し得ると認識していたにすぎないというべきである。この点,原告ら父も,原告らのロシア国籍について,出生時に取得したものか,後発的に取得したものかという点が重要なものであるとの認識は具体的に持っていなかったとしている。
そして,このことは,原告ら父が平成22年8月に原告Bの日本旅券の発給手続を行った際の旅券センターの職員とのやり取りからも明らかである。すなわち,原告ら父は,旅券センターの職員から,原告Bのロシア国籍について,ロシア大使館での手続が完了したら出生に遡って取得することとなると説明されたとのことであるが,ロシア国籍を出生時から取得しているのか,手続を完了した時点で遡って取得するものであるのかについて,何ら確認をすることはしていなかったというのであり,その当時,「ロシア大使館で原告らのロシア国籍に関する手続をする」という漠然とした認識を有していたものの,原告らが出生時からロシア国籍を取得するものであると確信していたものではなかったといえる。(エ)また,原告ら母についても,周りにいる親しい人が出生届を出して,子供の二重国籍を取得していたとして,上記(ウ)のとおり誤信していたとしているが,原告ら父と同様,日本人とロシア人との間に生まれた子については,何らかの手続をとることでロシア国籍を取得し得ると認識していたにすぎないというべきである。
(オ)原告らは,原告ら父母には,原告らにロシア国籍を取得させる意思がなかったことの根拠として,原告らに係る日本旅券の一般旅券発給申請書(甲6,7)の記載内容を挙げているが,これらの記載は,原告ら父母が,上記(ウ)及び(エ)で述べたような認識を有していたことと矛盾するものではなく,新たにロシア国籍を取得する意思がなかったことの根拠
とすることはできないというべきである。
(カ)小括
以上のとおり,原告ら父母は,ロシア大使館において原告らに係る簡易手続によるロシア国籍の許可申請を行った際,それらがロシア国籍の取得手続であることを明示された状況で手続をとっている上,原告らが日本で出生した時点でロシア国籍を取得しているはずだと確信するような事情も認められないというのであるから,新たにロシア国籍を取得する意思に欠けるところはないというべきであるし,少なくとも,そのように認めるべきではない特段の事情がないことは明らかである。
したがって,原告らのロシア国籍の取得手続は,国籍法11条1項の解釈いかんにかかわらず,同項に規定する「外国の国籍を取得したとき」に該当することは明らかである。
(原告らの主張の要旨)

国籍法11条1項の解釈
(ア)「外国の国籍を取得したとき」とは,外国籍を有効に取得することであり,有効に取得したか否かは当該外国の法律によって決定される。この「外国の国籍を取得したとき」の要件は,当該外国の法律により,純粋に外国籍の取得の成否のみを判断するものであり,「外国の国籍を取得する意思」の有無といった事情は,例えばかかる意思を欠くために当該外国の法律に照らして国籍取得の要件を欠き,有効に国籍を取得したといえるか否かという当該外国の法律の解釈・適用の問題として取り上げられるものである。
(イ)「自己の志望によつて」外国籍を取得するとは,外国籍を取得するという自由意思による真意に基づいて当該外国籍を直接取得する行為を行うことである。
これを我が国の法解釈における伝統的な意思理論に即していうならば,
外国籍を取得するという内心の効果意思を有し,かつ,その効果意思の対外的な表示として外国籍の取得に直接向けられた行為を行った場合に,「自己の志望によつて」外国籍を取得したと評価することができるものである。逆に,「実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認められない場合には,たとえ当該外国がその強制の事実にかかわらず,本人に対しその国の国籍を付与する場合でも,自己の志望によって外国籍を取得したものというのに該当しない」ことになる(甲12)。
そして,外国籍を取得するという自由意思による真意に基づくものとはいえない場合とは,その意思表示に瑕疵がある場合であり,具体的には,強迫による場合のほかに,錯誤に当たる場合(自身の申請行為の真実の意味を知らず,それ故に表示された効果意思に対応する内心の効果意思が存在しない場合であり,その錯誤が本人自身の誤認に起因する場合と,他人による欺罔行為すなわち詐欺に起因する場合とがあり得る。)がある。意思理論によれば,錯誤は「意思の欠缺」に分類され,強迫や詐欺といった「瑕疵ある意思表示」よりも瑕疵の度合いは重大であるとされ,瑕疵ある意思表示は取り消し得るものとされているのに対し,錯誤の存する意思表示は無効とされているのである。このような意思表示における「錯誤」による意思の欠缺の重大性は,国籍法11条1項の「自己の志望によつて」の要件の解釈においても当然考慮されるべきであり,外国籍取得行為に錯誤があり,本人が外国籍取得行為であるとの認識を有しないまま客観的にはこれに該当する行為を行った場合には,「自己の志望によつて」外国の国籍を取得したものと評価することは不可能というべきである。
このように,「自己の志望によつて」とは,単に強迫など外部の圧力のない状態での任意の判断というにとどまらず,「客観的に存在する選択肢を十分理解した上での積極的な選択による判断」という内実を有す
るものであり,いわばそこで問われる自由意思とは,極めて実質的な内容を有するものとされている。
なお,原告らが上記のとおり意思理論を論じることの意味は,無効とか取消しといった民法上の効果を主張する趣旨ではなく,強迫及び詐欺の場合と錯誤の場合とを区別し,前者の場合のみ「自己の志望によつて」の要件を充足しないという被告の主張には理由がないと主張するものである。
(ウ)我が国においては,父母が親権者である場合には,親権は共同して行使すべきものである(民法818条3項)ことから,国籍法11条1項の適用においても,親権者が共同して,自己の志望により外国籍を取得してはじめて日本国籍喪失の効果が発生する。
したがって,外国籍の取得行為が共同親権者のうちの一方のみにより行われた場合,あるいは親権者の双方又は一方に「自己の志望によつて」外国籍を取得する意思が欠けていた場合には,国籍法11条1項による日本国籍喪失の効果は発生しない。

国籍法11条1項に係る被告の主張に対する反論等
(ア)被告が重国籍防止の要請を強調していることについて
被告は,国籍法11条1項の解釈適用に当たっては,なるべく重国籍の発生を防止するよう,外国籍を有効に取得した場合には,日本国籍喪失の効果が生じるよう,同項を解釈し適用すべきであるとする意図のように解される。
しかしながら,そのような解釈論を示す文献は皆無である。また,重国籍の発生の防止は,たしかに,国籍法の理念の一つであるが,既に日本国籍を有する者の「国益を保持する利益」に対して絶対的に優位に立つ要請ではなく,実際には両者の調整の結果,多くの場面において重国籍が容認されており(例えば,国籍法2条1号及び2号,3条1項,5
条2項,12条等),このような国籍法を正確に理解するならば,抽象的な重国籍発生の防止という理念にのみ依拠して,重国籍を解消すべきだという解釈態度をとることが誤っていることは明らかである。日本国民の権利利益を擁護するという日本国の責務からいっても,日本国籍の保持よりも重国籍の防止・解消が無条件に優先されるという解釈の在り方はおよそ採用し難いものといわざるを得ない。
(イ)「自己の志望によつて」に関する被告の解釈が誤りであること被告は,「自己の志望によつて」に該当しないものとして,強迫のほかには,「強迫そのものがあったとは認められないが,本人がやむにやまれぬ事情のもとで余儀なく国籍取得に向けられた意思表示を行ったが,実質上外国籍の取得が自己の意思に基づくとは認め難い場合」を想定したものであると主張する。
しかしながら,「自己の志望によつて」といえるためには本人の申請が自由意思に基づき任意にされたことが必要であり,「抵抗することのできない程度の強迫を受けて外国籍取得の行為をなした場合などのように実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認められない場合には,たとえ当該外国がその強制の事実にかかわらず,本人に対して国籍を付与する場合でも,自己の志望によって外国籍を取得したものというのに該当しない」などとされ(甲4及び12の文献参照),強迫及びこれに準ずる場合と,詐欺や錯誤などそれ以外の事由による場合との区別はされておらず,被告が上記主張のように区別する理由は全く不明であり,裏付けのないものである。
(ウ)「外国の国籍を取得したとき」の解釈について
被告は,「外国の国籍を取得したとき」の要件解釈において,「新たに外国の国籍を取得する意思」が必要であるとしつつ,外国籍を取得するための意思表示が自由意思に基づき任意にされ,当該外国の国籍を有
効に取得した場合であれば,特段の事情がない限り,「新たに外国の国籍を取得する意思」があったものと認められると主張する。
しかしながら,かかる見解を裏付ける記述は,文献にも裁判例にも一切なく(甲4,12,乙1等参照),被告の主張と同様の解釈を示すものは皆無である。
「重ねて当該外国籍を取得する意思を持つこと」が通常考えられないのは,被告が主張するようにその者が「外国籍を既に持っている」からではなく,「外国籍を既に持っていると認識している」からであり,ある者が「新たに外国籍を取得する意思」を有するときは,その者が「自分が当該外国籍を有していない」との認識を有していることが絶対不可欠な前提である。
(エ)法の不知であるとする被告の主張について
被告の主張は,要するに,当該外国法上有効に当該外国の国籍を取得している以上,本人が当該外国の国籍法の制度を知らなかったために,当該手続が外国籍の取得手続であることを認識せず,別の手続であると誤認していた場合であっても,新たに外国籍を取得する意思があったものとなるというものであり,「法の不知は害する」との法格言を念頭に置いて,原告ら父母につき,ロシア国籍法12条,同法14条6項a号及び国籍法11条1項の不知を理由として同項の不適用を主張することは許されないとするものと推測される。
しかしながら,「法の不知は害する」は,その法格言という性格上,厳密な定義や射程範囲の特定がされているものではないが,通常は,刑罰法規の適用に際して用いられ,「刑罰法規を知らなかった」との弁解に対して「刑罰法規を知らなかったからといってその適用を免れることはできない」という文脈で用いられるものであり,また,通常,適用が問題となる刑罰法規それ自体の適用を肯定するものとして用いられるも
のである。被告の主張は,処罰規定ではないロシア国籍法にこの法格言を当然に適用するものであり,また,最終的には国籍法11条1項の不適用を主張することはできないとするものであり,相当ではない。なお,被告は,法の不知と国籍法11条1項の関係について,乙第4号証を提出するが,その事案は,日本人女性がドイツ人男性との婚姻に際してドイツ国籍取得の意思自体は有していた事案であり,本件とは事案を異にするものである。

原告らにつき国籍法11条1項の要件を満たさないこと
(ア)国籍法11条1項の立証責任は被告国が負うこと
原告らが国籍法11条1項に該当し,日本国籍を喪失したことの立証責任は被告国にあると解されている(東京地方裁判所平成7年12月22日判決・行裁集46巻12号1205頁)。
したがって,本件においては,原告らのロシア大使館での手続の際の原告ら父母の認識内容が争点となっているのであるから,被告は,当該各手続の際に,原告ら父母が当該手続がロシア国籍の取得申請に係る手続であることを認識していたこと,そしてその論理的前提として遅くとも当該各手続の時点で原告ら父母が生来的にロシア国籍を取得していないことを認識していたことを立証する責任を負う。
(イ)原告ら父母において,原告らが生来的にロシア国籍を取得しているものと認識していたことについて
原告ら父は,原告Aにつき,出生登録及び旅券申請を行うためにロシア大使館に行くに先立ち,その手続等について確認するために同大使館のホームページを閲覧したところ,その日本語のホームページ(甲5)には,「出生登録」との見出しが付けられ,「帰化」や「国籍取得」という言葉は全く見られないほか,「日本の国籍と同時にロシア国籍も有することができます」と二重国籍を取得できることが明記されているな
ど,これを読む限りでは,子供が生来的にロシア国籍を取得し,日本国籍との二重国籍となるとしか解することができず,原告ら父もそのように理解した。
そして,在日ロシア人の間でも,子供は生来的に日本とロシアの二重国籍となるという話が広まっており,原告ら父母はその話を信じており,原告ら父は,上記のとおりロシア大使館のホームページを理解したのである。
(ウ)原告Aについて
平成19年8月から9月頃,原告ら母は,原告ら父及び原告Aと一緒にロシア大使館に行き,同原告が生来的にロシア国籍を取得しているとの認識のもとで,同大使館において,出生登録を目的とした手続を行ったのであり,その手続中に,同大使館の担当者から「国籍の取得」や「帰化」について話が出たことはなかった。原告ら母は,原告Aのためのロシア大使館での手続の際に,同原告に新たにロシア国籍を取得させるとの認識を有していなかった。
また,原告ら父も,原告ら母と同様に,原告Aが生来的にロシア国籍を取得しているとの認識の下で,上記のロシア大使館において出生登録を目的とした手続を行った。原告ら父は,同原告のためのロシア大使館での手続の際に,同原告に新たにロシア国籍を取得させる認識を有していなかった。それは,ロシア大使館における上記手続後,日本旅券申請の際の「一般旅券発給申請書」(甲6)の記載にも現れている。
以上より,原告ら父母は,自己の志望によって原告Aのロシア国籍の取得申請をしたわけではなく,同原告は「自己の志望によつて外国の国籍を取得した」には該当しない。
(エ)原告Bについて
平成22年5月から6月頃,原告ら母は,原告ら父及び原告Bと一緒
にロシア大使館に行き,同原告が生来的にロシア国籍を取得しているとの認識のもとで,同大使館において,出生登録を目的とした手続を行ったのであり,その手続中に,同大使館の担当者から「国籍の取得」や「帰化」について話が出たことはなかった。原告ら母は,原告Bのためのロシア大使館での手続の際に,同原告に新たにロシア国籍を取得させるとの認識を有していなかった。
また,原告ら父も,原告ら母と同様,原告Bが生来的にロシア国籍を取得しているとの認識の下で,上記のロシア大使館において出生登録を目的とした手続を行った。原告ら父は,原告Bのためのロシア大使館での手続の際に,同原告に新たにロシア国籍を取得させる認識を有していなかった。それは,ロシア大使館における上記手続後,日本旅券申請の際の「一般旅券発給申請書」(甲7)の記載にも現れている。
以上より,原告ら父母は,自己の志望によって原告Bのロシア国籍の取得申請をしたわけではなく,同原告は「自己の志望によつて外国の国籍を取得した」には該当しない。
第3当裁判所の判断
1争点1(確認の利益の有無)について
確認の訴えは,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。これを本件についてみると,原告らは,被告国に対し,本件訴訟を提起し,原告らについてはロシア国籍法14条6項a号に基づきロシア国籍を取得する旨の決定がされていることから国籍法11条1項が適用されて被告国から日本国籍を喪失していると取り扱われるおそれがある旨を主張して,原告らが日本国籍を有することの確認を求めたところ,被告国は,これに応訴し,原告らに
ついては同項の適用により日本国籍を喪失した旨主張し,原告らの請求を棄却する旨の本案の答弁をしており,原告らの日本国籍の喪失に関する公的見解を明らかにしている。そうすると,原告らが,現時点において,日本の行政機関から日本国籍を喪失したと取り扱われることにより何らかの現実的な不利益を受けたことがないとしても,原告らの法律的地位には現に危険が存在するものと認められ,これを除去するため,本件訴訟の遂行により,原告らが日本国籍を有するか否かにつき,被告国との間で,これを確定することが必要かつ適切というべきである。
したがって,本件訴えに確認の利益は認められ,確認の利益が認められず不適法であるとする被告の主張は採用することができない。
2争点2(原告らが国籍法11条1項に基づき日本国籍を喪失したか否か)について
(1)国籍法11条1項について

国籍法11条1項は,「日本国民は,自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは,日本の国籍を失う。」と規定している。同項が設けられた趣旨は,①国籍離脱の自由を保障する憲法22条2項の規定を受けて,国籍離脱の自由の一場合として,自己の志望によって外国籍を取得する自由を認める必要があること,②自己の志望により外国籍を取得したときには,二重国籍の発生を防止するためにも,当然に従来の国籍を放棄する意思があるとみるべきであり,外国籍を取得することによって当然に日本国籍を喪失させることが相当であることにあると解される。
上記の趣旨に照らすと,国籍法11条1項の規定により国籍を喪失するという効果を生じるには,日本国籍離脱の意思又は日本国籍喪失の認識は要件とされていないと解され,このような解釈は,従前の国籍喪失を帰化の条件とする国への帰化の途を塞がないようにして外国籍取得の途を確保するという点で,上記①の憲法の規定の趣旨にも沿うものということがで
きる。

国籍法11条1項の「外国の国籍を取得した」とは,外国籍を有効に取得することを要件とするものであり,その外国籍取得の有効性は,当該外国の法律によって判断されるべきものと解される。


国籍法11条1項の「自己の志望によつて」とは,上記アの趣旨に鑑みると,帰化,国籍の選択・回復,国籍取得の届出その他名称のいかんにかかわらず,新たに外国の国籍を取得することを直接に希望する意思行為により,その効果として,外国の国籍を取得した場合(以下「志望取得」という。)を意味し,婚姻や養子縁組等の身分行為や,親権者の帰化の効果が当然に子に及ぶ場合など一定の事実に伴って法律上当然の効果として外国籍を取得した場合(いわゆる「当然取得」)を除外する趣旨であると解される。
また,上記アの趣旨に鑑みると,外国籍の取得の態様が志望取得に当たり,当該外国が国籍を付与する場合であっても,抵抗することのできない程度の強迫を受けて外国籍取得の申請をした場合などのように,真にやむを得ない事情があるため,実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認めることができない場合には,「自己の志望によつて」した外国籍の取得には当たらず,日本国籍を喪失するという効果は生じないと解することが相当である。
これに対し,原告らは,「自己の志望によつて」の意義につき,いわゆる意思表示理論にいう意思表示に瑕疵がある場合全般を除外するものであり,強迫のほか,錯誤により内心の効果意思を欠く場合も含めるべきであること,そして,意思表示における「錯誤」は「強迫」よりも意思の欠缺の重大性が高いから,「自己の志望によつて」の要件の解釈において当然考慮されるべきであることを主張する。
しかしながら,外国の国籍の取得に関して問題となる意思表示は,外国
の当局に対するものであるところ,上記イのとおり,外国籍取得の有効性は,外国の法律に基づいて判断されるべきものであり,その意思表示の瑕疵に関する問題についても同様であるから,それを当然に「自己の志望によつて」の要件に取り込んで,いわゆる意思表示理論に従って判断すべきものと考えなければならないとまではいえない。他方,上記アのとおり,国籍法11条1項の規定により国籍を喪失するには日本国籍離脱の意思ないし日本国籍喪失の認識は不要であるから,国籍法との関係では日本国籍喪失に係る意思表示自体は想定されておらず,その点に関する意思表示の瑕疵は問題とする余地がない。そうすると,同項の「自己の志望によつて」との要件においては,意思表示の瑕疵の問題についていわゆる意思表示理論に従って規律することが予定されていないものと解するほかない。また,いわゆる意思表示理論によっても,重過失のある錯誤は,意思表示を無効とはしないのであるから,具体的な事情を離れて,錯誤のほうが強迫よりも一律に意思の欠缺の重大性が高いと断じることは相当ではない。もっとも,外国の権限ある当局が,ある申請に係る外国籍の取得が有効であると判断している場合であっても,抵抗することのできない程度の強迫を受けて当該申請をした場合など,真にやむを得ない事情がある場合においては,自己の志望により外国籍を取得したと認めることが極めて酷な結果を招来することがあり得るのであり,このような場合においては,実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認めることができないものとして,「自己の志望によつて」した外国籍の取得には当たらないと解することが相当であることは,上記で判示したとおりである。また,外形的には志望取得に該当する申請行為等があるとしても,例えば,当該申請行為等が新たな国籍取得とは無関係の手続に係るものであると確定的に認識しており,かつ,当該申請行為等に及んだことにつき無理からぬといえるような確実な根拠があるような場合も,真にやむを得ない事情があり実質
上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認めることができないものに該当すると解する余地がある。以上と異なる原告らの主張は,採用することができない。

以下,「自己の志望によつて」に関して,原告らにつき,実質上その国籍取得が原告らの意思に基づくものと認めることができない場合に該当し,国籍法11条1項の適用が除外されるか否かを検討する。

(2)認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告Aのロシア国籍取得とその後の日本旅券発給
(ア)原告Aは,平成19年7月9日,原告ら父母との間において,日本で出生し,出生により日本国籍を取得した(前提事実(1)イ,ウ)。原告ら母は,友人の話を聞いて,ロシア人から生まれた子は生まれながらに当然ロシア国籍を有していると信じており,また,日本で子供を産んだ場合には友人たちがみなロシア大使館で出生登録をしていたことから,そうしなければならないと考えていた(甲14,原告ら母本人尋問)。
原告ら父は,原告Aが出生した後,出生登録について調べ,友人から,ロシア大使館で登録をしなければならないとの話を聞いた。また,原告ら父は,ロシア大使館の日本語のホームページを閲覧し,日本人とロシア人との婚姻で出生した子は日本とロシアの二重国籍になると考えた。他方,原告ら父は,上記の当時,ロシア国籍法12条及び14条の規定や,国籍法11条1項の規定を知らなかった。(甲5,15,原告ら父本人尋問)
(イ)原告ら父母は,同年8月ないし9月頃,ロシア大使館に赴き,原告Aに関する手続(以下「本件手続1」という。)を行った。本件手続1は,
外形的にみれば,同原告のロシア国籍の簡易取得(ロシア国籍法14条6項a号)についてのものであり,原告ら母は,申請書(ロシア語で記載されたもの)を作成し,原告ら父は,同申請書の末尾に,同原告のロシア国籍の取得について同意をし,同大使館に同申請書を提出した。なお,原告ら母は,同申請書を作成する際,ラミネート加工された記入見本を参考にして記載したが,質問事項が多数あったこともあり,書き損じてしまい,ロシア大使館職員から何度か書き直しを指示され,作成を完了した。また,原告ら父は,原告ら母が上記のとおり申請書を作成した後に呼ばれ,ロシア大使館職員から同申請書を示された上,「あなたは,子供のロシア国籍に反対しませんか。」などという趣旨の質問をされ,これに対して反対しない旨の回答をし,サインをした。(甲9の1,9の2,14,15,原告ら父本人尋問,原告ら母本人尋問)(ウ)上記の申請に係る申請書のひな形(乙6の1,6の2。ただし,平成26年9月時点のもの。以下「本件申請書ひな形」という。)には,「申請書」との題名の直下に「簡易手続きによるロシア連邦国籍を許可していただくようお願いいたします。」との記載があり,「本申請をする契機となった動機」,「子の情報」などを記載する欄が設けられ,「子の情報」欄には,「国籍(いつ,どこで,どのような事由で取得したか)」を記載する項目が設けられている(乙6の1,6の2)。(エ)駐日ロシア連邦大使は,平成19年11月30日付けで,原告Aにつき,ロシア国籍法14条6項a号に基づきロシア国籍を取得する旨の決定をした。その決定書(甲9の1,9の2。以下「本件決定書1」という。)には,その書面の中央付近に「決定」と表示され,その直下に「息子A(2007年7月9日生まれ)のロシア国籍取得に関するDの申請書について決定する」,「Aの父親であるCは,息子のロシア連邦国籍取得に反対していないことを認定した」旨の記載があり,また,
「以下の者はロシア連邦国籍を取得することを決定する」との記載の下に原告Aの表示がされている。また,上記決定を原告ら母に知らせる通知文書(甲9の3,9の4)には,原告Aにつき「ロシア連邦国籍を取得したことをお知らせ致します」旨の記載がされている。(甲9の1~9の4,乙5の1,5の2)
(オ)原告ら母は,平成19年12月頃,ロシア大使館に行き,原告Aに関する上記(エ)の国籍取得の決定書,原告ら母のパスポートに登載される形式によるロシア旅券等を受領した(前提事実(2)イ(ア),甲8,13の5,13の6,15,原告ら父本人尋問,原告ら母本人尋問)。
(カ)原告ら父は,平成20年3月6日,原告Aの代理として同原告の日本旅券の発給の申請をし,同月10日,その発行を受けた。
原告ら父が上記申請に際して作成した一般旅券発給申請書(甲6)には,「外国国籍を併せ有している場合」欄に「国籍

ロシア」,「取得

原因

2007年7月9

ロシア人の母による出生」及び「取得年月日

日」との記載がされている。(前提事実(2)イ(イ),甲6,15)(キ)原告ら父は,平成25年3月4日,原告Aの代理として同原告の日本旅券の切替えの申請をし,その発行を受けた。
原告ら父が上記申請に際して作成した一般旅券発給申請書(甲16)には,「外国籍の有無」欄に「現在外国の国籍を有していますか。はい」,「どの国の国籍ですか。ロシア」,「取得年月日

2007年7

月9日」及び「どのような方法で取得しましたか。外国籍の父又は母の子として出生」との記載がある。(前提事実(2)イ(ウ),甲16)イ
原告Bのロシア国籍取得とその後の日本旅券発給
(ア)原告Bは,平成22年4月1日,原告ら父母との間において,日本で出生し,出生により日本国籍を取得した(前提事実(1)イ,ウ)。(イ)原告ら父母は,同年5月ないし6月頃,ロシア大使館に赴き,原告B
に関する手続(以下「本件手続2」という。)を行った。本件手続2は,外形的にみれば,同原告のロシア国籍の簡易取得(ロシア国籍法14条6項a号)についてのものであり,原告ら母は,申請書(ロシア語で記載されたもの)を作成し,原告ら父は,同申請書の末尾に,同原告のロシア国籍の取得について同意をし,同大使館に同申請書を提出した。なお,原告ら母は,上記ア(イ)と同様,質問事項が多数あったこともあり,書き損じてしまい,ロシア大使館職員から何度か書き直しを指示され,作成を完了した。また,原告ら父も,上記ア(イ)と同様,「あなたは,子供のロシア国籍に反対しませんか。」などという趣旨の質問をされ,これに対して反対しない旨の回答をし,サインをした。(甲10の1,10の2,14,15,原告ら父本人尋問,原告ら母本人尋問)(ウ)駐日ロシア連邦大使は,平成22年7月15日付けで,原告Bにつき,ロシア国籍法14条6項a号に基づき,ロシア国籍を取得する旨の決定をした。その決定書(甲10の1,10の2。以下「本件決定書2」という。)には,その書面の中央付近に「決定」と表示され,その直下に「息子B(2010年4月1日生まれ)のロシア国籍取得に関するDの申請書について決定する」,「Bの父親であるCは,息子のロシア連邦国籍取得に反対していないことを認定した」旨の記載があり,また,「以下の者はロシア連邦国籍を取得することを決定する」との記載の下に原告Bの表示がされている。(甲10の1,10の2,乙5の1,5の2)
(エ)その後,原告ら母は,ロシア大使館に行き,原告Bに関する上記(ウ)の国籍取得の決定書,原告ら母のパスポートに登載される形式によるロシア旅券等を受領した(前提事実(2)ウ(ア),甲8,13の5,13の6,原告ら父本人尋問,原告ら母本人尋問)。
(オ)原告ら父は,平成22年8月6日,原告Bの代理として同原告の日本
旅券の発給の申請をし,同月12日,その発行を受けた。
原告ら父が上記申請に際して作成した一般旅券発給申請書(甲7)には,「外国籍の有無」欄に「現在外国の国籍を有していますか。いいえ」との記載がされているほか,「現在手続中」及び「どの国の国籍ですか。ロシア」,「どのような方法で取得しましたか。外国籍の父又は母の子として出生」との記載が二重線で抹消されている。(前提事実(2)ウ(イ),甲7,15)

E(三男)の出生等
(ア)E(三男)は,平成25年6月3日,原告ら父母との間において,日本で出生した(前提事実(1)イ)。
(イ)原告ら父は,同年10月頃,原告ら母から,ロシア大使館において手続をすると日本国籍が失われるとの話を聞き,また,その頃,原告らが日本国籍を喪失しているとの扱いを受けるおそれがあることを記載したホームページを閲覧したということがあった(甲15,原告ら父本人尋問,原告ら母本人尋問)。

(3)検討

原告ら父母が行った本件手続1及び2に係る手続は,外形的にみれば,ロシア国籍の簡易取得についてのものであり(上記認定事実ア(イ)及びイ(イ)),これが新たに外国の国籍を取得することを直接に希望する志望取得に係る行為に当たることは明らかである。そこで,これが「実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認めることができない場合」に当たるか否かについて検討する。


ロシア国籍の志望取得に係る行為における原告ら父母の認識について(ア)原告らは,原告ら父母は,本件手続1及び2を行うに当たり,原告らは出生により生来的にロシア国籍を取得していて,本件手続1及び2は,いずれも単に出生登録に関するものであると認識しており,新たな国籍
取得に関するものであるとの認識はなかった旨主張し,これに沿う原告ら父母の各陳述(甲14,15)及び各本人尋問の供述がある。
(イ)しかしながら,上記認定事実によれば,①原告らのロシア国籍取得に関する原告ら母の上記の認識は,友人の話などによるものであり,確実な根拠に基づくものではなく,いわば風聞によるものであって,本件手続1及び2に及んだのも,日本で子供を産んだ場合には友人たちがみなロシア大使館で出生登録をしていたことにならったものにすぎなかったこと,②原告ら母は,本件手続1及び2に際し,本件申請書ひな形(乙6の1,6の2)と同様の内容の申請書に記入したことが推認されるところ,本件申請書の記載内容(「申請書」との題名直下の文言や,国籍の記載欄など)からすると,それが単なる出生登録のための書面にとどまるものではないことは文面からみても明らかであること,③原告ら母は,本件手続1及び2に係る申請書を作成した際,ラミネート加工された記入見本を参考にしたり,ロシア大使館職員から何度か書き直しを指示されたりしながら,申請書の作成を完了したというのであるから,申請書の内容を十分に理解したことが推認されること,④原告ら母は,本件手続1及び2に係る各申請に対する応答として,本件決定書1及び2を受領しているところ,そこには,ロシア国籍法14条6項a号に基づいてロシア連邦国籍を取得することを決定する旨の文言があるのに対し,出生による国籍取得を前提とした出生登録がされたことを示すような文言は見当たらないこと,また,そのような決定書に対して異議を述べた形跡がなく(甲14,原告ら母本人尋問,弁論の全趣旨),原告Aに係る本件手続1に引き続いて原告Bに関しても同様に本件手続2を行ったことが認められ,これらの事情に照らすと,原告ら母は,本件手続1及び2に係る申請を行うに先立ち,当該申請がいずれも単なる出生登録に関するものであるとの確定的な認識に基づいてそれを行う意思を有して
いたものと評価することはできず,むしろ,原告ら母は,実際に本件手続1及び2に係る申請を行ったことを通じて,それが原告らのロシア国籍の正式な取得に関係するものであることを認識した上,各手続を終了することにより,ロシア国籍をロシア政府との間で正式に取得できることになるとの認識を有するに至っていたと推認することが相当である。したがって,原告ら母が本件手続1及び2に係る申請行為等が新たな国籍取得とは無関係の手続に係るものであると確定的に認識していたとは認められない。これと異なる原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ)また,上記認定事実によれば,原告ら父は,①本件手続1及び2の当時,原告らのロシア国籍取得が出生により生じたのかロシア大使館における手続により生じるのかの違いについての明確に認識していたわけではなかったこと(原告ら父本人尋問の25~26頁),②原告らに係る簡易手続によるロシア国籍の許可申請に同意するに当たり,ロシア大使館職員から「子供のロシア国籍に反対しませんか」という趣旨の質問をされ,それに反対しない旨の回答をし,署名をしていること,③原告Bの日本旅券発給申請手続において,旅券センターの職員の説明を受けて,同原告につき,出生によりロシア国籍を取得した旨の記載を抹消し,現在は未だロシア国籍を取得していない旨の記載に訂正していることが認められ(甲15,原告ら父本人尋問),これらの事情に照らすと,原告ら父は,本件手続1及び2に係る申請を行うに先立ち,当該申請がいずれも単なる出生登録に関するものであるとの確定的な認識に基づいてそれを行う意思を有していたものと評価することはできず,むしろ,原告ら父は,実際に本件手続1及び2に係る申請を行ったことを通じて,それが原告らのロシア国籍の正式な取得に関係するものであることを認識した上,各手続を終了することにより,ロシア国籍をロシア政府との間
で正式に取得できることになるとの認識を有するに至っていたと推認することが相当である。したがって,原告ら父が本件手続1及び2に係る申請行為等が新たな国籍取得とは無関係の手続に係るものであると確定的に認識していたとは認められない。これと異なる原告らの上記主張は採用することができない。

原告ら父母が本件手続1及び2に及んだ根拠について
原告らは,原告ら父母が本件手続1及び2に及んだ根拠として,①原告ら父母は,在日ロシア人の友人から,日本で子供を出産した場合はロシア大使館でも手続をしなければならないとの話を聞いていたこと,②在日ロシア人の間では,子供は生来的に日本とロシアの二重国籍になるとの話が広まっていたこと,③原告ら父がロシア大使館のホームページを見たことろ,出生登録の項目において,日本とロシアの二重国籍を有することになる旨の記載があったことなどを挙げる。
しかしながら,上記①及び②は,何らかの確たる根拠に基づく情報であったことを認めるに足りる証拠はなく,原告ら父母が本件手続1及び2に及んだことが無理からぬといえるような事情ではないことが明らかである。また,上記③について検討するに,ロシア大使館のホームページ(甲5,平成26年9月時点のもの)には,戸籍登録の一つとして「出生登録」の項目が挙げられ,同項目の内容として,(ア)「婚在日ロシア連邦領事機関は,両親もしくは単親(例:シングルマザー)がロシア国民である子供の出生のみ登録手続きを取扱っています。」,(イ)「日本人とロシア人との婚姻で出生した子供は,日本人配偶者の居住地の役所で登録することになります。」,(ウ)「この場合,ロシア領事部は,出生証明書のロシア語への翻訳サービスのみ行っています。」,(エ)「この場合の子供は,ロシア国籍として認められ,日本の国籍と同時にロシア国籍も有することができます。(現行のロシア連邦法では,二重国籍が認められています。)」と
の記載があり,また,(オ)「子供にロシア国籍を申請できるのはロシア人のみ。(詳細はロシア語の国籍の項目でご確認下さい)」との記載があり,本件手続1及び2の当時のロシア大使館のホームページの内容も,上記と同様のものであったことが認められる(原告ら父本人尋問)ところ,上記の記載のうち,(エ)の部分には,原告らが指摘する文章が存在する。しかしながら,(エ)の「この場合の子供」が(ア)の子供(出生によりロシア国籍を取得したことが前提となるもの)をいうのか,(イ)の子供(出生によりロシア国籍を取得したか否かがこの条件だけでは決まらないもの)をいうのかが不明確であるほか,(イ)の子供についてはロシア大使館では出生登録を取り扱っていないとも読むことができ,全体として意味をとりづらいものとなっている(なお,二重国籍となる例としては,(イ)の子供がロシアで出生した場合が考えられる(ロシア国籍法12条1項c号)が,そのような注釈は明示されていない。)。そうすると,このホームページの記載内容から,原告らが生来的にロシア国籍を取得しており,出生登録をすれば二重国籍が認められると確信することはできないと考えられる。以上のとおりであるから,原告ら父母が,本件手続1及び2に及んだことについて無理からぬといえるような確実な根拠があったとはいえない。エ
小括
以上のとおり,原告ら父母は,本件手続1及び2に係る申請行為等が新たな国籍取得とは無関係の出生登録手続に係るものであると確定的に認識していたとは認められず,また,当該申請行為等に及んだことにつき無理からぬといえるような確実な根拠があったともいえないことからすると,当該申請行為等は,真にやむを得ない事情があるため実質上その国籍取得が本人の意思に基づくものと認めることができない場合には当たらない。したがって,原告らの外国籍取得は,「自己の志望によつて」したものと認められ,原告らは,国籍法11条1項に基づき,ロシア国籍を取得し
たことにより,日本国籍を喪失したものというべきである。
3結論
よって,原告らの本件各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

谷口豊
裁判官

馬場潤
裁判官

徳井真
トップに戻る

saiban.in