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遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成25年(行ウ)第112号)
事件番号平成28(行コ)24
事件名遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成25年(行ウ)第112号)
裁判年月日平成28年9月1日
法廷名東京高等裁判所
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平成28年9月1日判決言渡
平成28年
(行コ)
第24号

遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
(原審・

東京地方裁判所平成25年(行ウ)第112号)
主文1
原判決を取り消す。

2
処分行政庁が控訴人に対して平成22年11月12日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金給付及び葬祭料を支給しないとの処分を取り消す。

3
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨
主文同旨

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,控訴人が処分行政庁に対し,控訴人の子であるaが過重な業務に従事したことにより精神障害を発病して自殺したと主張して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を請求したところ,処分行政庁がaには労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)別表第1の2第9号に定める疾病が発病していないとして,上記遺族補償一時金及び葬祭料を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,本件処分の取消しを求める事案である。原審は,aは,平成20年5月頃に適応障害を発病したものと認められるものの,平成21年1月下旬頃の自殺との相当因果関係を直ちに認めることはできないとしつつ,平成20年5月から平成21年1月下旬までの出来事を基にaの自殺の業務起因性を検討した結果,aの自殺には業務起因性が認められないため,本件処分は適法であると判断し,控訴人の請求をいずれも棄却したことから,これを不服とする控訴人が本件控訴に及んだ。
なお,略語等は,特に断らない限り,原判決の例による。
2
前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正し,後記3のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2

事案の概要等」の1及び2に記載のとおりであるから,

これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決2頁13行目末尾の後に,行を改めて,次のとおり加える。「aは,温厚で,優しく,余り泣き言を言わない性格であった(甲1・154頁,167頁,甲53)。」
(2)原判決2頁24行目の「行っていた。」の後に,行を改めて,次のとおり加える。
「本件会社では,店長は,一つのコンビニエンスストアの店舗の運営を任される地位にあった。」
(3)原判決2頁25行目の「326頁」の前に「325頁,」を加える。(4)原判決3頁7行目の「店長となった。」の後に,行を改めて,次のとおり加える。
「aは,大学卒業まで埼玉県鶴ヶ島市において両親と同居していたが,大学卒業後本件会社に就職すると同時に一人暮らしを始め,本件店舗の店長に就任した際には,東京都板橋区α所在の居室(以下「元居室」という。)に一人で居住していた。」
(5)原判決3頁8行目の「324頁」の前に「151頁,」を加える。(6)原判決4頁2行目の「同月12日」を「同年1月12日」に,同頁13行目の「同月16日以降」を「平成21年1月16日以降,無断で」に,同行目の「324頁」を「334頁」にそれぞれ改める。
(7)原判決6頁19行目末尾の後に,行を改めて,次のとおり加える。「判断指針は,精神障害による自殺の取扱いについて,「ICD-10のF0からF4に分類される多くの精神障害では,精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから,業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑止力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し,原則として業務起因性が認められる。」と指摘しており,改正判断指針も当該指摘を踏襲している。」(8)原判決14頁9行目から同10行目にかけての「東京板橋区α所在のaの居室(以下「元居室」という。)」を「元居室」に改める。
(9)原判決25頁24行目から25行目にかけての「売上げ,廃棄率などを向上させ」を「売上げなどを増加させ,廃棄率を低下させ」に改める。3
当審における当事者の主張
(控訴人の主張)
①aが,控訴人を含む家族と共に,平成20年5月末頃に食事をした際及び同年9月24日に温泉施設に宿泊した際に,また,同年7月頃及び平成21年1月1日に実家を訪れた際に,家族に対し,不眠,疲労感,食欲不振等の症状を訴えていたこと,②平成20年写真にはうつ病患者特有の陰鬱な表情が表れていること,③aが,平成20年12月15日に本件会社に提出する退職届を作成したにもかかわらず,その後,本件レジ事件を惹起したこと,④aが,元居室を賃借していたにもかかわらず,同月20日に本件居室を賃借し,その頃の元居室の状況は極めて混乱したものであったこと,⑤aが,平成21年1月16日以降,本件会社を無断欠勤したこと,⑥aの縊死現場である本件居室の状況からは,aには極めて強い希死念慮が認められることなどからすると,本件自殺は,その頃までに発病していた適応障害等の精神障害の影響の下で行われたものであるということができる。
(被控訴人の主張)
aの家族に対する言動は,限られた場面のものにすぎないし,aが,家族に何も知らせないまま,本件会社に退職願を提出し,本件居室を賃借していることからすると,aは,控訴人を含む家族を避けていたということができる。したがって,控訴人及びbの供述から,aの精神障害の症状を認めることはできない。
また,平成20年12月頃のaの状況は,それまでと変わりがなく,周囲はその異変に気付かなかったし,本件レジ事件は,aが何らかの理由によって多額の金銭を必要として惹起したものであるから,精神障害の影響によるものではない。仮に,本件自殺が何らかの精神障害によるものであるとしても,業務外の本件レジ事件の影響の下で行われたとみるほかない。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(業務起因性の判断基準)について
争点(1)(業務起因性の判断基準)についての判断は,原判決の「事実及び理由」中「第3

当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用

する。
2
認定事実
認定事実は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3

当裁判所の判断」の2(原判決35頁20行目から54頁8行目ま
で)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決38頁4行目の「(甲1・543頁)」を「(甲12・543頁)」に改める。
(2)原判決46頁18行目の「同月30日」を「平成20年12月30日」に改める。
(3)原判決48頁13行目,16行目の「前居室」をそれぞれ「元居室」に改める。
(4)原判決48頁19行目から20行目にかけての「(甲1・151頁,152頁,甲17,原告本人)」を次のとおり改める。
「その際,本件居室の浴槽換気扇が天井からはがれ落ち,クローゼット内のポール2本が折れ曲がり,フローリング床には複数の傷があり,巾木も壁から外れているような状態であった。(甲1・151頁,152頁,甲17,60,原審控訴人本人)」
(5)原判決48頁21行目から49頁5行目までを次のとおり改める。「チ

平成20年6月20日から同年12月16日までのaの時間外労働時間は,別紙10「労働時間集計表(裁判所)

」のとおり,1か月

前60時間46分
(夜勤0日)2か月前74時間35分

(夜勤1日)

3か月前78時間51分(夜勤0日),4か月前83時間41分(夜勤0日),5か月前85時間10分(夜勤2日),6か月前87時間17分(夜勤2日)である。(甲1・361頁から367頁まで,弁論の全趣旨)」
(6)原判決121頁から128頁までの別紙10を別表のとおり改める。3
争点(2)(aは精神障害を発病していたか)について
(1)認定基準は,対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名は,診断ガイドラインに基づき,主治医の意見書や診療録等の関係資料,関係者からの聴取内容,その他の情報から得られた認定事実により,医学的に判断されるとした上,精神障害の治療歴のない事案の場合には,関係者からの聴取内容等を医学的に慎重に検討し,診断ガイドラインに示されている診断基準を満たす事実が認められる場合又は種々の状況から診断基準を満たすと医学的に推定される場合には,当該疾患名の精神障害が発病したものとして取り扱うものとしている(甲30)。
これを本件についてみるに,以下のとおり,aは,遅くとも平成20年12月中旬頃には,労基則別表第1の2第9号所定の「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当する精神障害であるうつ病エピソード又は適応障害を発病していたものと認めるのが相当である。(2)上記第2の2の前提事実及び上記2の認定事実によれば,次の事実を指摘することができる。

aは,平成19年夏頃,本件店舗よりも売上規模の大きいc店の店長を務めていたものの,業績の悪化や人事管理等に問題があり,本件会社からc店の店長を務めるのは難しいと判断されたたため,同年11月17日に同店の店長から本件店舗の店長に配置転換された。その後,本件店舗においても,競合店との厳しい競争の中,本件会社から売上げの増加及び廃棄率の低下を強く求められるとともに,人件費の軽減が課題とされ,おのずと店長であるaの勤務時間が増加していった。平成20年5月7日以前30日間のaの時間外労働時間は,163時間48分にも上った。
aは,平成20年5月31日の週間業務報告書に「店長として最低である」などと自らを非難する記載をし,同年6月21日の週間業務報告書には,自らの能力不足,d副店長とのスレ違い,限界を感じていることなどを記載した。


同年5月頃,aは,控訴人及びbら家族に対し,「体が疲れている。」などと述べていたし,本件店舗近くのファミリーレストランで控訴人及びbと面会した際,うわの空で,疲れていることやノルマがきついことなどを述べた。同年7月頃,aは,夜勤明けに実家を訪問し,控訴人に対し,夜勤が多くて生活のリズムが崩れているので,夜勤明けで帰っても眠れないなどと訴え,食事もわずかしか食べなかった。同年9月24日,控訴人及びbら家族全員と温泉施設に宿泊した際,aは,控訴人に対し,不眠と疲労を訴え,別の仕事を探したいと述べ,食事を残し,ほとんど飲酒もせず,深夜2時か3時頃には上半身を起こして座っており,「最近眠りが浅くてすぐに起きてしまう」などと述べ,翌日の朝食もほとんど手を付けなかった。

同年6月頃以降,aは,本件会社に対し,控訴人が食道ガンに罹患したなどと虚偽の事実を告げ,迷惑をかける際相談するなどと述べ,同年8月頃には,eSVに対し,これを理由に退職の意向を示したが,退職後の生活設計も考えておらず,eSVから慰留された。


その後,aは,退職することもかなわないまま,定期的に開催される店長会議では,店長の責任が強調されるとともに,eSVからは,廃棄率の低下等を厳しく求める内容の携帯電話宛てメールが送信されるなどしたため,同年12月15日に改めて本件退職願①を作成し,同月16日には本件店舗のレジから合計20万円を出金した。また,aは,同月19日,eSVに対し,退職を希望する内容のメールを送信したため,同人がaと面談したところ,父の病気を理由に平成21年1月15日を最終勤務にしたい旨を希望し,本件退職願①をeSVに手渡した。しかし,eSVは,最終勤務日等の調整のためとの理由で,本件退職願①をいったんaに返却した。


そのような中,aは,元居室を賃借しているにもかかわらず,平成20年12月20日に家族に連絡もせずに,後に縊死現場となる本件居室を賃借した。


同月25日,aは,eSVと面談し,最終勤務日を平成21年1月26日とすることを決定した。


aは,平成20年12月30日に本件店舗に20万円を入金したが,同日中に本件店舗のレジから改めて10万円を出金し,平成21年1月1日に10万円を入金した。


aは,同日に予定より1日早く実家を訪問したが,うわの空の状態で食欲もなかった。

同月2日,aは,本件店舗から10万円を出金した。


同月6日,aは,本件会社に対し,退職事由を父の病気入院とし,最終勤務予定日を同月26日,退職予定日を同年3月5日とする本件退職願②を提出し,同年1月12日には,退職による有給休暇消化のための休暇届を提出した。


同月14日,aは,本件店舗に10万円を入金したが,その直後に,10万円,5万円を続けて出金するとともに,本件店舗の金庫等の鍵を無断で持ち帰り,その後,本件店舗には出勤せず,行方不明となった。

同月中旬頃,本件会社からaが無断欠勤している旨の連絡を受けたbが元居室を訪ねたところ,台所は使用されたままであり,布団及び洗濯物が放置されている状態であった。


同年2月7日,本件居室において縊死しているaが発見されたが,同居室の浴槽換気扇は天井からはがれ落ち,クローゼット内のポールが2本折れ曲がっており,床のフローリングには複数の傷があり,巾木も壁から外れているような状態であった。
なお,aの死亡時期は同年1月下旬頃と推定されている。

(3)以上指摘の事実によれば,aは,c店勤務時から本件店舗に配置転換された後も,店舗の業績や人事管理,人間関係等に悩み,平成20年1月から同年6月までの間,毎月おおむね120時間を超える時間外労働に連続して従事し,自らの限界を感じて自信を喪失し,罪責感を抱いて本件会社を退職することを考えるようになり,遂には本件会社に退職の意向を伝えたものの,慰留され,次第に追い詰められた心境になったものと認められる。aは,本件会社に対し,退職理由として仕事上の不満や問題を伝えることなく,あえて父の病気という虚偽の事実を伝え,退職後の生活設計もないまま本件会社を退職しようとしたところ,被控訴人は,これを本件会社を円満に退職するための方便と指摘するが,
aが虚偽事実を伝えてまで退職を希望したことは,
その追い詰められた精神状態の一端を示すものと考えるべきである。また,平成20年5月以降に家族と共に食事や温泉施設に宿泊をした際のaの様子からは,仕事で疲弊し,不眠や食欲不振等の症状があったことが認められるし,aは,元居室を賃借していたにもかかわらず,家族に黙って新たに本件居室を賃借し,後に同居室で縊死したところ,その頃の元居室及び本件居室の状況からは,本件自殺直前のaの強い希死念慮と精神状態の混乱がうかがわれる。加えて,aは,本件会社において一度も不正を行ったことがなかった(甲1・164頁)ところ,漸く本件会社を退職することが決まって退職日を調整中であったにもかかわらず,あえて本件レジ事件を惹起した上(本件店舗のレジから現金を出入金すれば,システム上,その日時や出入金者が特定される仕組みとされており(甲1・163頁,164頁),このことをaが知らなかったとは考えられない。),本件店舗の金庫の鍵等を所持したまま,無断欠勤して行方不明になるなど,aの性格や従前の行状からは考えられない異常な行動を取るに至っている。
そして,aの行動等に関する上記諸事情を診断ガイドラインの診断基準に照らして検討すると,平成20年5月から,本件レジ事件を惹起して本件居室を新たに賃借するなど異常な行動を取るようになった同年12月中旬頃にかけて,aには,①抑うつ気分,②興味と喜びの喪失,③自己評価と自信の低下,④罪責感と無価値感,⑤将来に対する希望のない悲観的な見方,⑥睡眠障害,⑦食欲不振等の症状があり,いずれも一時的なものではなく,2週間以上の期間にわたって持続していたと認められるから,中等症うつ病エピソードの診断基準に合致するものであるということができる。
確かに,aが本件自殺前に精神科医を受診した事実は認められず,その確定診断がない中,職場の上司や同僚がaの異常に気付かなかった経緯もあるものの,職場では欠勤することなく何とか仕事をこなしているため,周囲が異常に気付かず,突然の自殺企図で初めて問題が表面化するに至ることも多く,一般に精神障害の発見は遅れがちとなることが認められていること(甲31,41から43まで)に照らすと,aは,上記のとおり,遅くとも本件レジ事件を惹起して本件居室を新たに賃借するなど異常な行動を取るようになった平成20年12月中旬頃には,労基則別表第1の2第9号所定の「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するうつ病エピソード(以下「本件精神障害」という。)を発病していたものと認めるのが相当であり,当該判断は,控訴人提出の精神科医らの各意見書(甲50,51,72)の記載にも沿ったものであるといえる。
これに対し,東京労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会の意見書(甲1・142頁から149頁まで)及び精神科医師の各意見書(乙7,10)は,aの精神障害の発病自体を否定するが,いずれも上記(2)の事実関係を十分に考慮していないし,一部考慮している事実についても,客観的裏付けに乏しい控訴人又はその家族の申述に基づく一時的・断片的なエピソードにすぎないものとみてこれを重視しないなど,上記のとおり説示したところとは,
前提となる事実及びその評価を異にしているものというほかないから,直ちに採用することができない。
また,被控訴人は,本件レジ事件は,aが何らかの理由によって多額の金銭を必要として惹起したものであるから,精神障害の影響によるものではないと主張するが,そうであれば,aが本件会社に容易に把握される方法で出金と入金とを繰り返しているのは不自然であるし,その当時,aが多額の金銭を必要とした理由としては,元居室に加えて,本件居室を新たに賃借したことによる諸経費を必要としたことが考えられるが,本件居室を新たに賃借したこと自体がaの精神状態の変調を裏付ける事情であると考えられることは,上記のとおりである。したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。4
争点(3)(業務起因性)について
(1)aが本件精神障害を発病した時期は正確には明らかではないが,遅くとも平成20年12月中旬頃には発病していたといえるから,これを発病の時期とみて,以下では,原則として認定基準に照らし,必要に応じてこれを修正しつつ,具体的出来事及びこれを前提とする心理的負荷の強度を判断し,その業務起因性を検討する。
(2)具体的出来事について

長時間労働(1か月に80時間以上の時間外労働を行った)について別紙10のとおり,aの時間外労働時間は,上記発病時期である平成20年12月中旬頃から遡っておおむね4か月前(平成20年9月17日から同年8月19日まで)が83時間41分,5か月前(同年8月18日から同年7月20日まで)が85時間10分であり,6か月前(同年7月19日から同年6月20日まで)が87時間17分であり,3か月続けて80時間を超えている。また,上記発病時期から遡って6か月を超えるが,平成20年1月中旬から同年6月中旬までの間,aの時間外労働時間は,毎月おおむね120時間を超え,起算日(平成20年5月1日から同月7日までの各日から遡って30日間)によっては,1か月160時間を超える場合もあったことを看過することはできない。しかも,aの業務はコンビニエンスストアの店長であるから,その労働密度は決して低いとはいえない。確かに,本件精神障害の発病から遡って1か月前から3か月前までの間の時間外労働時間は,平均して70時間程度であり,それ以前と比較して軽減されたとはいうものの,aは,依然として長時間労働に従事していたということができるし,上記のとおり,その前には認定基準の「特別な出来事」にも匹敵する長時間労働に従事していたことを考えると,上記発病時期前の1年間の長時間労働は,相当に過酷なものであったとみることができる。
以上によれば,発病時期前の数か月間の時間外労働時間が若干軽減されたことを考慮しても,長時間労働によるaの心理的負荷の程度は,相当に強度なものであったと評価すべきである。

連続勤務(2週間以上にわたって連続勤務を行った)について
別紙10のとおり,aは,平成20年7月17日から同年8月5日までの間,20日間にわたり連続勤務を行い,その間,深夜時間帯に及ぶ時間外労働に従事することもあり,平成20年7月31日及び同年8月1日には連続して夜勤に従事した。
したがって,その心理的負荷の程度は,決して低いとはいえない。

ノルマ(達成困難なノルマが課された又はノルマが達成できなかった)について
前記2の認定によれば,本件会社においては,店舗ごとに売上げ,廃棄率,人件費の目標が設定されており,その責任は店長にあり,平成20年当時,本件店舗を含めて多くの店舗では売上目標が達成されていなかった中,定期的に開催される店長会議でも,店長の責任が強調されていたことが認められるところ,aは,自らが店長を務めたc店における業績不振を原因としてマイナス評価を受けた結果,平成19年11月に同店よりも規模の小さい本件店舗の店長に配置転換された経緯があることからすると,本件会社においては,店長が上記目標の不達成による責任を全く問われないということはできない。しかも,aは,本件会社を退職したい旨述べてからも,eSVから,平成20年11月末頃,同月の廃棄率の低下を強い口調で命ずる内容の携帯電話宛てメールを何度も受信したほか,同年12月15日には,年末年始の繁忙期に向けて人件費の削減を求めるとの実現困難な内容のメールを受信し,その前後に本件退職願①を作成していることに照らすと,その頃のaの精神状態は,かなり追い詰められていたと推認される。
したがって,ノルマによる心理的負荷の程度も決して小さくはない。(3)心理的負荷の強度の判断について
上記のとおり,本件精神障害の発病に関与する業務による出来事は複数あるが,いずれの心理的負荷の程度も,単体で「中」ないし「強」とみるべきであるし,少なくとも,各出来事が関連して生じているということができるから,その全体を一つの出来事として評価すれば,その全体評価は「強」に当たるというべきである。
そして,本件全証拠によっても,aには,業務以外の心理的負荷及び個体側要因は認められない。この点,被控訴人は,本件レジ事件を業務外のものとみて,aがその影響の下で本件自殺を図ったと主張する(なお,東京労働者災害補償保険審査官も,審査請求に対する棄却決定において,本件レジ事件が業務外の心理的負荷に当たると判断しているようである(甲2・74頁)。)が,本件レジ事件等のaの異常行動は,業務起因性のある本件精神障害の影響によるものと解すべきことは上記のとおりである。被控訴人の上記主張は実体を見誤ったものといわざるを得ず,到底採用できない。したがって,本件精神障害の発病には業務起因性が認められ,aは本件精神障害の発病による影響の下で本件自殺に至ったというべきである。(4)以上のとおり,平成20年12月中旬頃に発病した本件精神障害及びその影響下における本件自殺には,
業務起因性が認められるということができる。
第4

結論
以上の次第で,本件処分は違法であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消し,本件処分を取り消すこととする。
よって,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第24民事部

裁判長裁判官

髙野


裁判官

河本晶子

裁判官

菊池憲久

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