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渋谷区議会本会議質問制限差止等請求事件
事件番号平成27(行ウ)542
事件名渋谷区議会本会議質問制限差止等請求事件
裁判年月日平成28年6月30日
法廷名東京地方裁判所
判示事項特別区の議会において,本会議における無所属議員の一般質問の時間を年間20分とすること等を内容とする時間制を定める議会運営委員会の申合せがされた場合において,無所属議員が上記時間制に基づき質問を制限する処分の差止め及び質問を制限されない地位にあることの確認を求める訴えが,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないとされた事例
裁判要旨特別区の議会において,本会議における無所属議員の一般質問の時間を年間20分とすること等を内容とする時間制を定める議会運営委員会の申合せがされた場合において,①上記時間制が本会議の一般質問の円滑かつ効率的な運用を図る趣旨で導入されたものであり,上記時間制による質問時間に係る制約は,委員会及び本会議の議案の審議等における質疑,討論等には一切及ばない上,②本会議の一般質問についても,会派所属議員には,定例会間の質問時間の繰り越しが認められず,1定例会当たり約8分程度に質問時間が制限される議員もいる一方で,無所属議員には,各定例会の質問時間を適宜配分する調整が認められ,少なくとも1定例会当たり平均5分の質問時間が付与されているなど判示の事情の下では,無所属議員が上記時間制に基づき質問を制限する処分の差止め及び質問を制限されない地位にあることの確認を求める訴えは,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらない。
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平成28年6月30日判決言渡
平成27年(行ウ)第542号

渋谷区議会本会議質問制限差止等請求事件

主1文
本件訴えのうち,請求の趣旨第1項及び第2項に係る訴えをいずれも却下する。

2
原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。

3
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求の趣旨
渋谷区議会議長は,原告に対し,渋谷区議会の会議(以下「本会議」という。)における原告の質問時間が年間(第2回定例会から翌年の第1回定例会まで)20分を超えたことを理由として,同議会の本会議における原告の質問を制限する不許可処分その他一切の処分をしてはならない。

2
原告が被告に対し,渋谷区議会の本会議における質問時間が年間(第2回定例会から翌年の第1回定例会まで)20分を超えたことを理由として,同議会の本会議における質問を制限されない地位にあることを確認する。
3
被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成27年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,渋谷区議会の会派に属さない議員(以下「無所属議員」という。)である原告が,同議会の本会議における無所属議員の一般質問の時間を年間(第2回定例会から翌年の第1回定例会まで)20分とすること等を内容とする時間制(以下「本件時間制」という。)によって原告の質問が制限されることは著しく合理性を欠き,原告の質問権を侵害するなどと主張して,①行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条7項の差止めの訴えとして,同議会議長が本会議における原告の質問を制限する一切の処分の差止めを求め(以下「本件差止請求」という。),②同法4条の当事者訴訟又はいわゆる無名抗告訴訟として,原告が本件時間制に基づいて質問を制限されない地位にあることの確認を求め(以下「本件地位確認請求」という。),③国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,慰謝料及び弁護士費用相当損害金並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件国賠請求」という。)事案である。1
関係法令等の定め
(1)

渋谷区議会の定例会に関する定め
普通地方公共団体の議会(以下単に「議会」という。)は,定例会及び臨
時会とし,定例会は,毎年,条例で定める回数これを招集しなければならない(地方自治法102条1項,2項)。渋谷区議会の定例会の回数は,毎年4回とする(渋谷区議会定例会の回数条例(昭和31年渋谷区条例第16号。乙13))。
(2)

会議規則に関する定め
議会は,会議規則を設けなければならない(地方自治法120条)。渋谷
区議会は,渋谷区議会会議規則(平成元年渋谷区議会規則第1号。乙5。以下「本件会議規則」という。)を設けている。
(3)

本会議に関する定め
渋谷区議会の本会議の時間は,原則として午後1時から午後5時までとする(本件会議規則8条)。


議員は,審議の日程に先立って,区の事務や区政一般について,議長の許可を得て質問することができる(本件会議規則61条1項。以下,この質問を「一般質問」という。)。


会議に付する事件は,会議において提出者の説明を聞き,議員の質疑があるときは質疑の後,議長が所管の常任委員会又は議会運営委員会に付託する(本件会議規則36条1項)。委員会が審査又は調査をした事件が議題となったときは,委員長がその経過及び結果を報告し,次いで,小数意見者が小数意見の報告をする(同38条1項)。議員は,委員長及び小数意見を報告した者に対し,質疑をすることができる(同40条1項前段)。議長は,質疑が終わったときは討論に付し,その終結の後,表決に付する(同41条)。
(4)

議長の権限に関する定め
議会の議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会の事務を統理し,
議会を代表する(地方自治法104条)。渋谷区議会において,一般質問を含め,発言は全て議長の許可を得ることを要し(本件会議規則49条本文,61条1項),議長は,必要があると認めるときは,あらかじめ発言時間を制限することができる(同56条1項)。
(5)

委員会に関する定め
議会は,条例で,常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会(以下併せて「委員会」という。)を置くことができる(地方自治法109条1項)。常任委員会は,その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い,議案,請願等を審査する(同条2項)。議会運営委員会は,議会の運営に関する事項,議会の会議規則等に関する事項及び議長の諮問に関する事項に関する調査を行い,議案,請願等を審査する(同条3項)。


渋谷区議会には,常任委員会及び議会運営委員会を置き,特別委員会は必要がある場合に議会の議決で置き,委員会の委員は議長が本会議に諮って指名する(渋谷区議会委員会条例(平成3年渋谷区条例第24号。乙25)1条,4条,6条,7条)。渋谷区議会の委員会において,委員は,委員長の許可を得れば,原則として,議題について自由に質疑し及び意見を述べることができ,委員会は,必要があると認めるときは,委員でない議員に対し,その出席を求めて説明又は意見を聞くことができる(本件会議規則105条ないし108条)。
2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者
原告は,渋谷区議会の無所属議員である。

(2)

議会運営委員会について
渋谷区議会の議会運営委員会は,平成3年6月7日,本会議及び委員会に
関する事項等について,渋谷区議会申合せ事項(以下「本件申合せ事項」という。)を定めた。本件申合せ事項において,議会運営委員会の委員は,各会派幹事長,各常任委員長及び各特別委員長の職にある者を指名するものとされている。(乙3)
(3)

渋谷区議会における議員の一般質問について
渋谷区議会は,1回の定例会において,原則として3回の本会議を開催し
ており,初めの2回の本会議においては,議員による一般質問が行われる。本件申合せ事項において,渋谷区議会では,3名以上の議員から成る会派に所属する1名の議員が行う一般質問を「代表質問」,2名の議員から成る会派に所属する議員及び無所属議員が行う一般質問を「一般質問」と呼び,「代表質問」は「一般質問」の前に行うものとされている。(甲3,乙3,4,22)
(4)

本件時間制の採用の経緯及び協議の状況等について
渋谷区議会の議会運営委員会は,本件申合せ事項により,本会議における
一般質問について本件時間制を定めている(乙3)。本件時間制が定められた経緯及びその内容は,以下のとおりである。

平成11年12月17日の議会運営委員会において,出席委員から,あらかじめ決められた一定の時間内で,議員が住民の声を集約して発言すべきであること,何時に本会議が終わるのか分からない状況では様々な面で不都合が生じること,国会や他の普通地方公共団体の議会においても質問時間の時間制が採られていることなどから,渋谷区議会でも本会議の質問時間について時間制を設けることが提案された(乙16)。

その後1回の議会運営委員会での協議を経て,平成12年2月25日の同委員会において,本会議の一般質問について質問時間の時間制を設けることが議決により決定され,同年5月2日の同委員会において,本会議の一般質問につき,次のとおりの質問時間を定める内容で本件申合せ事項が改正された。なお,当時,渋谷区議会においては,所属議員1名でも会派として届け出ることが認められていた。(乙17ないし19)
(ア)

3名以上の会派

基礎時間30分に会派の構成人数(議長,副議長

及び監査委員(以下「議長等」という。)の人数を除く。以下同じ。)に5分を乗じた時間を加えた時間(1定例会当たり)
(イ)

2名以下の会派

基礎時間20分に会派の構成人数に5分を乗じた

時間を加えた時間(1定例会当たり)
(ウ)

上記の質問持ち時間には,区側説明員の答弁時間を算入しない。

幹事長会(渋谷区議会の議長,副議長及び各会派の幹事長を構成員とするもの)は,平成14年1月30日,以後,会派の結成及び変更は2名以上の所属議員を有する団体が議長に届け出るべきものとする旨の運用の変更及びこれを踏まえた渋谷区議会幹事会規約の改正を議決により決定し,議会運営委員会において,これを報告した。なお,渋谷区議会は,会派について,上記幹事長会の決定を先例とする取扱いをしている。(甲42,乙21,22)


平成14年2月18日の議会運営委員会において,会派の役割等についての議論がされた上,無所属議員の質問時間について,基礎時間20分を付与せず,議員1人の持ち時間を年間20分とし,質問回数を年間2回を限度とする内容で本件申合せ事項が改正された(乙23,24)。オ
平成16年3月24日の議会運営委員会において,無所属議員の質問回数の制限を撤廃する内容で本件申合せ事項が改正され,本件時間制は次のとおりの内容となった。その後,本件申合せ事項のうちの質問時間に係る部分については改正がされていない(甲1,乙3,24)。
(ア)

3名以上の会派

基礎時間30分に会派の構成人数に5分を乗じた

時間を加えた時間(1定例会当たり)
(イ)

2名の会派

基礎時間20分に会派の構成人数に5分を乗じた時間

を加えた時間(1定例会当たり)
(ウ)

無所属議員

年間(第2回定例会から翌年第1回定例会まで)20


(エ)

上記の質問持ち時間には,区側説明員の答弁時間を算入しない。

(オ)

会派の質問で質問時間を残した場合には,次の定例会に余剰時間を
繰り越さない。

議会運営委員会では,平成27年7月15日及び同月24日,本件時間制につき,無所属議員の質問時間を拡大することが提案され,同年8月25日,上記提案を協議対象とすることが決定され,同年9月2日,上記提案を含めた議会運営の諸問題について,予算に関わるものから順次協議していくことが決定された。原告は,上記各議会運営委員会について,あらかじめ委員外議員として出席を求められていたが,いずれも欠席した。(乙7ないし10)

(5)

本件時間制に基づく会派及び無所属議員の質問時間等
渋谷区議会における会派及び無所属議員の人数と定例会1回当たりの質問
時間は,別紙2のとおりである(甲1,2)。
(6)

東京都の特別区の議会における時間制に関する採用状況
東京都の各特別区の議会は,いずれも,会議における議員の質問時間につ
いて,時間制を採用するなど,これを制限する取扱いを行っているが,その定め方や内容は様々であり,会派又は会派に所属する議員が無所属議員より多くの質問時間を得ることとなる取扱いを採る区議会も相当数ある一方で,両者の間で質問時間に差異が生じない取扱いを採る区議会も相当数ある(乙1)。
(7)

本件訴えの提起
原告は,平成27年9月8日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3
争点
(本案前の争点)
(1)

本件訴えが司法審査の対象になるか否か

(2)

本件差止請求の訴訟要件充足性

(本案の争点)
(3)
(4)

本件地位確認請求に係る原告の地位の有無

(5)
4
本件差止請求の本案要件充足性

本件国賠請求に係る損害賠償請求権の存否

争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(本件訴えが司法審査の対象になるか否か)について

(被告の主張の要旨)

議会は,憲法上定められた直接選挙による議員で構成される地方公共団体の議事機関であり(憲法93条),その役割と機能を適正かつ円滑に果たすため,その内部組織や運営に関する事項については,他の機関等から関与を受けることなく,自律権に基づいて,自主的,自律的に決定することができるとされている(地方自治法103条,120条等)。
したがって,議会の運営に関する事項は,内部規律の問題として,議会内において自主的に処理すべきであり,裁判による解決は相当ではなく,司法審査の対象にならないと解すべきである。


本会議は,住民の意見を反映させるという議会の根幹となる会議であり,このような本会議における質問時間についての時間制を導入するかどうか,これを導入するとして,どのように質問時間を設定するか,会派又は各議員に質問時間を設定するか,これら両者を組み合わせて設定するか等は,議会の運営に関する事項である。また,各議会の定例会の回数,本会議の会議時間,各会派の議員の構成等の事情は様々であり,どのような質問時間の時間制を導入するかは,正に当該議会でなければ適切に判断し得ないものである。
渋谷区議会においても,本会議における質問時間の時間制については,自らが自律権に基づいて自主的,自律的に決定すべき事項であることは明らかであり,実際,これまでも,質問時間の時間制の内容について問題提起がされると,渋谷区議会内において,その都度協議を重ねて検討し,その内容を変更するかどうかを自ら決定しており,現在も,無所属議員の質問時間の拡大を含めた本件時間制の内容について,議会運営委員会において継続協議となっている。

したがって,本件訴えは,いずれも,司法審査の対象にはならないものと解すべきである。

(原告の主張の要旨)

いわゆる部分社会の法理(一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会においては,その内部紛争は全て司法審査の対象にならないという見解)については,それぞれの団体の目的,性質及び機能はもとより,その自律性と自主性を支える憲法上の根拠の相違に即し,かつ,紛争や争われている権利の性質等を考慮に入れて個別具体的に検討すべきであり,「議会の運営に関する事項」という類型を設け,それに該当するものは一律に司法審査の対象にならないとすることに根拠はない。


議員は,憲法で定められた地方公共団体の議事機関である議会の構成員として,当該地方公共団体の住民による直接選挙で選出され,本会議等における自由な討論等を通じて,住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を当該地方公共団体の意思形成や事務執行等に反映させる役割を担っているのであるから,議会の議員には,表現の自由(憲法21条)及び参政権の一態様として,議会等において発言する自由が保障されており,議会等で質問することは議員としての最も基本的かつ中核的な権利というべきである。

本会議は住民の意見を反映させるという議会の役割の根幹となる会議であり,議員の質問は住民の意見を反映させるための重要な手段となるものであるから,議員の質問時間については,議会の恣意的な運用に任されるべきではない。
また,本件時間制は,議会運営委員会が本件申合せ事項において定めたものであり,一部の議員が確認したものにすぎず,原告は同委員会の構成員でもないのであるから,原告が本件時間制に拘束されるべき合理的理由はなく,本件時間制にのっとった議長の権限行使も正当化されるべきではない。


本件申合せ事項によれば,3名以上の議員から成る会派に所属する議員は,「代表質問」が認められ,会派内で質問時間を譲り合うことにより数十分という十分な質問時間を確保できるのに対し,2名の議員から成る会派に所属する議員には「代表質問」が認められておらず,原告のような無所属議員は一定例会当たり平均5分しか質問時間を付与されていないのであり,甚だしい差別がされている。そして,渋谷区議会においては,一定例会に数十の議案が出されることも多いところ,年間20分という質問時間は,極めて限られた時間であり,原告が本会議において質問をすることはほとんど不可能であるし,質問時間を年間20分に制限することは,原告を含む無所属議員に,将来どのような議案が出てくるかが不明のまま,どの議案にどれだけの時間を配分するかを決めることを強いるものであって,著しく合理性を欠く。
また,会派は政治的な意見を共通にする者が組むものであり,各議員は,会派を組むか否かについて政治活動の自由が保障されているのであるから,質問時間を確保するために会派を組むことが義務付けられているものではない。
さらに,委員会においては質問時間の制限がないといっても,委員会は本会議から付託された事項のみを審議の対象とし,議員は全ての委員会に委員として所属できるものではなく,各委員会が同じ時間帯に開かれることも頻繁にあるため,区議会全体の問題について十分な質問をすることはできない。

以上に鑑みると,本件時間制は,内部規律という一事で説明できるものではなく,原告を含む無所属議員の質問権を侵害し,その侵害は法の下の平等(憲法14条)にも反するものであって,議会の自律権の範囲を超えるものというべきである。そして,仮に,渋谷区議会において,本件時間制について今後協議が予定されており,また,これまでも協議がされてきたという事情があるとしても,この点に変わりはなく,原告が本件訴えを提起することは,裁判を受ける権利(憲法32条)として憲法上保障されているものである。


したがって,本件訴えは,いずれも,司法審査の対象になるものというべきである。
なお,名古屋高等裁判所平成24年5月11日判決・判例時報2163号10頁(以下「名古屋高裁判決」という。)も,市議会において議員が発言を不当に制限されたという点で本件と共通する事案について,司法審査の対象としている。

(2)

争点(2)(本件差止請求の訴訟要件充足性)について
(原告の主張の要旨)
本件申合せ事項において本件時間制が定められているため,原告の本会議での質問時間が年間20分を超えた場合,渋谷区議会議長は,原告の質問を制限する蓋然性がある。そして,このような質問制限がされた場合,原告は,本会議において質問をすることができなくなり,区政の諸問題について渋谷区長やその他の渋谷区職員の回答を得ることもできなくなるため,原告や区民はその回答に基づいて区政の諸問題について検討することもできなくなる。このような事態は,憲法や地方自治法において前提とされている住民自治の過程を著しく害するものであり,本来あるべきでない事態に基づいた政治的な意思決定がされることを招来するのであって,原告,区民及び渋谷区議会全体にとって重大な損害を及ぼすものにほかならない。
したがって,本件差止請求は,行訴法37条の4第1項の定める訴訟要件を満たしている。
(被告の主張の要旨)
否認ないし争う。原告は,本会議において,実際に質問や再質問を行い,渋谷区長やその他の渋谷区職員から回答を得ており,その回答に基づいて区政における諸問題について検討を行ってきているのであるから,本件時間制に基づいて原告の質問が制限されたとしても,原告に重大な損害が生ずるおそれはない。
(3)

争点(3)(本件差止請求の本案要件充足性)について

(原告の主張の要旨)
前記(1)(原告の主張の要旨)のとおり,渋谷区議会議長が原告の本会議における質問時間が年間20分を超えたことを理由として質問を制限することは,原告の質問権を侵害し,議員の質問が問題なく行われることを前提とした憲法及び地方自治法の規定及び趣旨にも反するものである。
また,円滑かつ効率的な議事の運営を図る必要があるといっても,無所属議員の質問の機会を実質的に奪うことが正当化されるものではなく,議論にとって重要であれば本会議の時間を延長すべき場合もあるのであり,日を改めれば議員の執務時間や関係職員の勤務時間に悪影響を及ぼすことはない。そのため,本件時間制に基づく質問制限を行うべきでないことは法令の規定から明らかであって,このような質問制限を行うことは渋谷区議会議長の裁量権の範囲を超え又はその濫用となるものといえる。
したがって,本件差止請求は,行訴法37条の4第5項の定める本案要件を満たしている。
(被告の主張の要旨)
渋谷区議会において,「代表質問」と「一般質問」は,本会議の初日と2日目の2日間に限って行われ,本会議の会議時間は原則として午後1時から午後5時までとされているところ,限られた時間内にできる限り多くの議員に発言する機会を設けることが求められていることや,議員や関係職員の勤務時間を考慮すると,円滑かつ効率的な議事の運営を図るためには,質問時間について時間制を導入することが必要といえる。実際に,国会や多くの議会において,質問時間の時間制が採られている。
今日の議会運営の在り方は,政党政治の議会制民主主義を積極的に肯定する現代立憲主義において,各議員が同じ考えの下に会派を組み,その代表意見により議論を深めていくことを理想とするものであることから,本件時間制の基礎時間は,1回の定例会につき,議員1人当たりの質問時間を5分としながらも,会派を組むことにより,より多くの質問時間を得られる利点があるとしたものである。また,渋谷区議会においては,各所管の委員会での審査を重視しており,委員会で審議が尽くされた後に,その結果が本会議において報告され,裁決が行われているところ,委員会での質問時間については制限がない。
以上に鑑みると,本件時間制は合理的なものということができ,本件時間制に基づいて質問制限を行うことが,渋谷区議会議長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となるものではない。
したがって,本件差止請求は,行訴法37条の4第5項の定める本案要件を満たしていない。
(4)

争点(4)(本件地位確認請求に係る原告の地位の有無)について
(原告の主張の要旨)
前記(1)(原告の主張の要旨)のとおり,原告は,本会議において年間20分を超えて質問をする権利を有するものであるから,本件時間制に基づいて質問を制限されない地位にある。
(被告の主張の要旨)
否認ないし争う。
(5)

争点(5)(本件国賠請求に係る損害賠償請求権の存否)について
(原告の主張の要旨)
前記(1)(原告の主張の要旨)のとおり,原告は,本会議において年間20分を超えて一般質問をする権利を有するところ,本件時間制に基づいて一般質問を制限されることにより,質問権が侵害されている。これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は200万円を下らず,これを請求するための弁護士費用相当損害金は20万円を下らない。
よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,合計220万円及びこれに対する平成27年10月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。(被告の主張の要旨)
否認ないし争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件訴えが司法審査の対象となるか否か)について
(1)ア

裁判所は,憲法に特別の定めがある場合を除いて,一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するのであるが(裁判所法3条1項),ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではない。すなわち,法律上の係争といっても,その範囲は広汎であり,その中には事柄の特質上裁判所の司法審査の対象外におくのを適当とするものもあるのであって,自律的な法規範を有する社会ないし団体における法律上の係争のごときは,それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが相当である(最高裁昭和34年(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁,最高裁昭和46年(行ツ)第52号同52年3月15日第三小法廷判決・民集31巻2号234頁,最高裁昭和60年(オ)第4号同63年12月20日第三小法廷判決・裁判集民事155号405頁参照)。イ
地方公共団体の議会に関する関係法令等の定めについてみるに,憲法は,第8章に「地方自治」の章を設けて地方自治を制度として保障し,地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基づいて,法律でこれを定め(92条),地方公共団体の議事機関として議会を設置し(93条1項),議会の議員等は住民が直接これを選挙し(同条2項),地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができる旨定めている(94条)。地方自治法も,憲法の規定を受けて,議会は,地方公共団体の重要事項について議決権を有するとともに(地方自治法96条等),執行機関の事務に対する検査権,調査権等を有するものとし(同法98条,100条等),議会が,地方公共団体の重要事項について自律的な意思形成をするとともに,執行機関の事務の監視,調査等をすべき役割を担わせているところ,このような議会の役割及び機能を適正かつ円滑に果たすため,同法が,議会について,議長及び副議長の選任権(同法103条1項),会議規則の制定権(120条)及び議員懲罰権(135条,137条)等を定めているのも,議会の組織や運営に関する事項については,他の機関等から関与を受けることなく,自主的,自律的に決定し処理する権限を有するものとして,議会の自律権を認める趣旨に出たものであり,このような議会の運営に関する事項は,基本的には,議会の内部規律の問題として,議会の裁量に委ねられているものと解される。
また,本会議における議員の発言については,限られた会議時間内にできる限り多くの議員に発言をする機会を与えるなどの要請もあるところであり,申合せ等の方法によりあらかじめ発言時間の配分等を定める時間制を設けることは,議会が自律的に定め得る措置であるというべきである。そして,地方自治法上,議会の議長は,議事の整理や議場の秩序維持等(104条,129条,130条)の権限を有するところ,本会議における議事等の円滑かつ効率的な運営と秩序の確保を図るため,議会運営委員会の申合せ等にのっとって本会議における議員の発言の時間を制限することは,基本的には議長の権限の範囲に属する事柄というべきであり,このような議長の議事整理に係る権限の行使の在り方も,上記の議会の運営に関する事項として,議会の自律権の内容を成すものということができる。したがって,議会運営委員会において本会議における議員の発言時間の配分等を定める申合せ等の決定がされ,議長が当該申合せ等にのっとって本会議における議員の発言時間を制限し又はこれを制限することが予定されている場合において,当該議員がその時間配分等の当否につき異議を述べたとしても,このような議会の運営に関する事項は,基本的には議会内における協議や討論等を通じた自治的措置に委ねられるべきものであり(現に渋谷区議会においても無所属議員の質問時間の拡大に係る提案について継続協議とされている。),それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない議会の内部規律の問題にとどまる限り,裁判所が法規の解釈適用を通じて判断すべき「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)には当たらないものと解するのが相当である。

他方,議会の議員は,憲法で定められた地方公共団体の議事機関である議会(憲法93条1項)の構成員として,当該地方公共団体の住民による直接選挙で選出され(同条2項),本会議や委員会等における質問,質疑や討論等を通じて,当該地方公共団体の住民の間に存する多元的な意見や諸々の利益を,当該地方公共団体の意思形成や事務執行等に反映させる役割を担っているのであるから,議員が議会において発言することは,憲法15条1項及び93条2項の趣旨に照らして憲法21条1項による保障が及ぶと解される議員の議員活動の自由の中核となる重要な行為であるということができる。
したがって,議会運営委員会の申合せ等及びこれにのっとった議長の権限の行使が,議員の発言を一般的に阻害し,その機会を与えないに等しい状態を惹起するなど,議員の発言の機会をはく奪するものと認められる場合には,これによる議員の議員活動の自由に対する侵害の排除を求める訴えは,一般市民法秩序に関わるものとして,「法律上の争訟」に当たるものというべきである。


そこで,以上の観点から,関係法令等の定め(前記第2の1)及び前提事実(同第2の2)を踏まえ,本件訴えが司法審査の対象になるといえるか否かについて以下検討する。

(2)

まず,本件訴えのうち,本件時間制による質問時間の制限の排除自体を
直接の目的とする本件差止請求及び本件地位確認請求に係る訴えにつき,司法審査の対象になるといえるか否かについて検討する。

本件時間制が設けられた経緯及びその趣旨についてみるに,渋谷区議会では,年4回の定例会中各3回程度,各4時間にわたり本会議が開催され,一般質問はそのうち2回の本会議における審議の日程に先立って行われるものであって,同区議会における議員数が34名に上ることを考慮すると,全ての議員に時間の制限なく一般質問をする機会を認めた場合には,本会議で行われる審議の日程,すなわち,議案等に関する説明,質疑,討論その他の議事の進行に停滞や混乱を来すなど,本会議における議事等の円滑かつ効率的な運営と秩序の確保に支障が生ずるおそれがあるものといえる。そして,渋谷区議会においては,平成11年以降,このような問題意識を踏まえた質問の時間制の導入に係る議員の提案を受けて,会派の役割等についての議論と並行して,議会運営委員会における協議が重ねられた結果,本件申合せ事項の一部として一般質問の時間制が導入され,以後数次の本件申合せ事項の改正を経て現在の内容の本件時間制が成立するに至ったものであり,本件訴えの提起後も,同委員会において本件時間制に係る本件申合せ事項の改正が引き続き協議の対象とされているところである。議会運営委員会は,地方自治法において,議会の運営に関する事項,議会の会議規則等に関する事項及び議長の諮問に関する事項に関する調査を行い,議案,請願等を審査する権限を付与されているものであるから,議会の運営に関する事項について同委員会において申合せの決定がされている場合には,議長においては,当該申合せ事項を先例又は慣行として尊重し,基本的にはこれにのっとった議会の運営や本件会議規則の運用を行うことが予定されているものと解される。したがって,本件時間制は,議長が,議員の質問を許可し又は制限するなど議会の運営に係る法令上の権限(前記第2の1⑷参照)を行使するに当たって通常参酌すべき基準となり,議長において,特段の事情がない限り本件時間制にのっとった上記権限の行使がされることが予定されているものと解される。

そして,本件時間制による質問時間に係る制約の程度についてみるに,本会議における一般質問について,原告を含む無所属議員の質問時間は議員1人当たり1年間で20分であり,仮にこれを年4回の各定例会において均等に使用した場合の質問時間は1定例会当たり5分であるところ,会派については質問の基礎時間が与えられているため,現在の渋谷区議会の会派構成の下で本件時間制を適用した場合に得られる各会派の議員1名が1定例会当たりに与えられる質問時間は,別紙2のとおり,8.3分ないし12.5分となっており,無所属議員については会派所属議員と比べて質問時間の配分が相応に少なくなることとなる。
もっとも,本件時間制による質問時間に係る制約は,本会議における一般質問の局面,すなわち,議員が区の事務や区政一般に関する質問をする機会においてのみ適用されるものであり,本会議における議案等の審議(質疑,討論等を含む。)の局面については適用されず,また,委員会における議案等の審議(質疑,討論等を含む。)の局面についても適用されるものではない。また,本会議における一般質問の局面でも,本件時間制の下では,会派に所属する議員は,各定例会ごとに与えられた質問時間のうち当該定例会において使用しなかった分をその後の定例会に繰り越して使用することができないのに対して,無所属議員は,年間20分の枠内で各定例会の質問時間を適宜配分する調整が認められるなど,むしろ制約が緩やかな面もある。そして,無所属議員がその選択により議会内において他の1名以上の議員とともに会派を形成すれば,より長い質問時間を獲得することが可能となる途も開けているところである(例えば,2名の議員で会派を形成した場合,本件時間制の下では,当該会派の議員1名が1定例会当たり15分の質問時間を与えられることとなる。)。

上記ア及びイにおいて検討したところによれば,本件時間制は,議会運営委員会における協議の結果,渋谷区議会の本会議における一般質問の円滑かつ効率的な運用を図る趣旨で導入されたものということができ,また,本件時間制による質問時間に係る制約は,議案の審議等に入る前の本会議における一般質問の局面に限定され,委員会及び本会議における議案の審議等における質疑,討論等の発言には一切及ばないものである上,本会議における一般質問についても,会派所属議員には,定例会間の質問時間の繰り越しが認められておらず,1定例会当たり約8分程度に質問時間が制限される議員もいる一方で,無所属議員には,年間20分の枠内で各定例会の質問時間を適宜配分する調整が認められ,少なくとも1定例会当たり平均5分の質問時間が付与されていること等に鑑みれば,その制約の程度は,上記の趣旨に沿った自律的な時間配分の範ちゅうにとどまり,住民の直接選挙によって選出された議員による議会における発言の機会を一般的に阻害し,その機会を与えないに等しい状態を惹起するなど,議員の発言の機会をはく奪するものとは認められないというべきである。
以上の諸点に照らすと,本件訴えのうち,本件時間制による質問時間の制限の排除自体を直接の目的とする本件差止請求及び本件地位確認請求の訴訟物は,一般市民法秩序と直接の関係を有しない渋谷区議会の内部規律の問題にとどまるものというべきであり,仮に本件時間制における時間配分の当否について議論の余地があり得るとしても,それは渋谷区議会内における協議や討論等によって自律的にその取扱いの変更や調整が図られるべきものであって,裁判所が法規の解釈適用を通じて判断すべき事柄には当たらないものというべきである。したがって,本件訴えのうち本件差止請求及び本件地位確認請求に係る訴えは,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるものとはいえず,司法審査の対象にならないものと解するのが相当である。

この点につき,原告は,要旨,①「議会の運営に関する事項」という類型を設け,それに該当するものは一律に司法審査の対象にならないとすることに根拠はない,②議員が議会等で質問することは議員としての最も基本的かつ中核的な権利であるから,議員の質問時間については議会の恣意的な運用に任されるべきではなく,原告は本件時間制に拘束されず,本件時間制にのっとった議長の権限の行使も正当化されるべきではない,③本件申合せ事項は,3名以上の議員から成る会派に所属する議員にのみ「代表質問」を認めており,1定例会当たり平均5分しか質問時間が付与されていない無所属議員との間に,甚だしい差別がある,④多数の議案がある中,年間20分の質問時間で質問をすることはほとんど不可能であり,無所属議員の質問時間を年間20分に制限することは,著しく合理性を欠く,⑤各議員は質問時間を確保するために会派を組むことが義務付けられているものではない,⑥委員会は本会議から付託された事項のみを審議の対象とし,議員は全ての委員会に委員として所属しているものではないから,区議会全体の問題について十分な質問をすることはできない旨主張する。しかしながら,①前記1(1)において説示したとおり,議会の運営に関する事項は,基本的にはその自治的措置に委ねられるべきものであり,それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない議会の内部規律の問題にとどまる限り,裁判所が法規の解釈適用を通じて判断すべき「法律上の争訟」には当たらないと解される一方で,上記事項に係る議会運営委員会の申合せ等にのっとった議長の権限の行使が,議員の発言を一般的に阻害し,その機会を与えないに等しい状態を惹起するなど,議員の発言の機会をはく奪するものと認められる場合には,一般市民法秩序に関わるものとして「法律上の争訟」に当たると解されるのであり,上記の判断枠組みは,議会の運営に関する事項であることをもって一律に司法審査の対象にならないと解するものではない。また,②本会議における議員の一般質問について時間制を設けるか否か,時間制を設けるとしてその内容をどのようなものとするかは,基本的には,議会の内部規律の問題として,議会の裁量に委ねられているものと解され,地方自治法により議会の運営に関する事項に係る調査等の権限を付与されている議会運営委員会の申合せ等に基づき,同法により議事の整理等の権限を付与されている議長が所定の時間制にのっとった質問時間の配分や制限を行う場合には,それが一部の議員の発言の機会をはく奪して議員活動の自由を侵害するものに当たらない限り,当該議会の議員らは,議長の正当な権限の行使としてこれに従うべきものと解するのが相当である。そして,③会派は,政党と同様,政治上の信条や意見等を共通にする議員らが任意に結成する政治団体であり,住民がその政治的意思を議会に反映させて実現するための有効な媒体であって,議会制民主主義を支える上で重要な存在であるといえるから,3名以上の議員から成る会派に代表質問を認め,一定の基礎時間を付与したとしても,そのことをもって直ちに無所属議員との間に不合理な差別を設けていると評価することはできない。さらに,④本件時間制が適用される一般質問は,議員が区の事務や区政一般について行う質問であり,議案等の審議に先立って別途行われるものであるところ,議案等の審議については,本会議における質疑や討論等の機会があるほか,委員会における質疑や討論等の機会もあるのであり,これらの質疑等については本件時間制のような制約は定められていないから,多数の議案等についての質問が不当に制限されるものとはいえず,また,一般質問自体についてみても,会派所属議員には,定例会間の質問時間の繰り越しが認められておらず,1定例会当たり約8分程度に質問時間が制限される議員もいる一方で,無所属議員には,年間20分の枠内で各定例会の質問時間を適宜配分する調整が認められ,少なくとも1定例会当たり平均5分の質問時間が付与されていること等に鑑みれば,無所属議員への質問時間の配分が著しく合理性を欠くものともいえない。加えて,⑤本件時間制は,各議員に質問時間を確保するために会派を組むことを義務付けているものではなく,議員の員数の多寡と時間数の多寡が連動する配分方法自体は,上記③の会派の意義や重要性にも鑑み,それが前示の時間制の趣旨に沿った自律的な時間配分の範ちゅうにとどまる限り,一定の合理性を有するものということができる。また,⑥一人の議員が全ての委員会に委員として所属することができず,全ての委員会に出席して質問等をすることができないことは,無所属議員に限らず,会派所属議員についても同様にいえることであり,会派が複数の所属議員の配属を通じてより多数の委員会でこれらの機会を得られることは,議員一人当たりの質問時間の多寡にかかわらず,会派がその結成自体により得られる利点であるということができ,原告の上記各主張に係るいずれの点も上記ウの判断を左右するに足りるものとはいえない。
本件時間制による質問時間に係る制約の程度については前記イのとおりであり,原告の上記各主張は,結局,本件時間制における時間配分の当否を論ずるものに帰着するというべきであって,本件時間制が,議員の発言を一般的に阻害し,その機会を与えないに等しい状態を惹起するなど,議員の発言の機会をはく奪するものとは認められないとの上記ウの判断を左右するに足りるものではない。
なお,原告は,本件と共通する事案について司法審査の対象とした事例として名古屋高裁判決を挙げるが,同高裁判決は,発音障害者である市議会議員が代読による発言を認められず,議会の本会議のみならず委員会での発言もできない状態が2年半以上続いたという事実関係の下において,議会が当該議員の発言の自由そのものを一般的に阻害し,発言の機会を奪うに等しい状態を惹起するなど,上記の自由を侵害していると認められ,当該事案の係争は一般市民法秩序に関わるものとして「法律上の争訟」に当たるとした上で,当該議員が市及び他の議員らに対し損害賠償を求めた請求が司法審査の対象になるとしたものであり(なお,損害賠償請求につき,後記(3)参照),本件とは事案を異にするものというべきである。オ
以上によれば,本件訴えのうち,本件差止請求及び本件地位確認請求に係る訴えは,司法審査の対象にならないものと解するのが相当であるから,争点(2)及び(3)(本件差止請求の訴訟要件充足性及び本案要件充足性)並びに争点(4)(本件地位確認請求に係る原告の地位の有無)について判断するまでもなく,不適法であって却下を免れないものというべきである。(3)

次に,本件訴えのうち,本件国賠請求に係る訴えが司法審査の対象にな
るか否かについて検討する。

本件国賠請求は,渋谷区議会の無所属議員である原告が,本会議において年間20分を超えて質問をする権利を有するにもかかわらず,本件時間制に基づいて一般質問を制限されることにより,質問権が侵害されており,精神的苦痛を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,被告に対し,慰謝料及び弁護士費用相当損害金の合計220万円及びその遅延損害金の支払を求めるものである。


本件国賠請求に係る審判の対象は,上記損害賠償請求権の存否という原告と被告との間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であるところ,地方公共団体が国家賠償法に基づき損害賠償責任を負う関係は,実質上,民法上の不法行為により損害を賠償すべき関係と性質を同じくするものであって,国家賠償法に基づく普通地方公共団体に対する損害賠償請求権も,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権と同様に,私法上の金銭債権であるといえる(最高裁昭和42年(オ)第668号同46年11月30日第三小法廷判決・民集25巻8号1389頁参照)。そして,本件国賠請求に係る損害賠償請求権の存否を決するためには,本件時間制に基づく質問時間の制限が国家賠償法上違法と評価されるか否かがその前提問題となるところ,後記2のとおり,裁判所としては,渋谷区議会内において自律的にその取扱いが定められるべきものとして,渋谷区議会の議会運営委員会及び議長の自律的判断を尊重し,それを前提として請求の当否を判断すれば足りるのであるから,上記質問時間の制限が議会の運営に関する事項に含まれるとしても,裁判所が上記損害賠償請求権の存否を判断すること自体が妨げられるものとまではいえないと解するのが相当である。
したがって,本件国賠請求に係る訴え自体が司法審査の対象にならないとまでいうことはできない。
2
争点(5)(本件国賠請求に係る損害賠償請求権の存否)について(1)

前記1(1)イにおいて説示したとおり,議会は,議会の運営に関する事項
について,他の機関等から関与を受けることなく,自主的,自律的に決定し処理する権限,すなわち自律権を有しており,本会議における議員の一般質問についてあらかじめ時間制を設けることは,議会が自律的に定め得る措置というべきであり,議会運営委員会の申合せ等にのっとって,議長が,本会議における議事等の円滑かつ効率的な運営と秩序の確保を図るため,本会議における議員の質問時間を制限することもまた,議会の運営に関する事項として,議会の自律権の内容を成すものということができる。
そうすると,本会議における一般質問の時間制限をめぐる紛争については,それが国家賠償法に基づく普通地方公共団体に対する損害賠償請求権の存否という形で争われているとしても,このような時間制限が議会の内部規律の問題として議会内において自律的にその取扱いが定められるべきものとされる限り,裁判所としては,議会内の議会運営委員会及び議長の自律的判断を尊重し(当該時間制限が国家賠償法上違法と評価されるか否かについては裁判所の判断が及ばない結果,議会内の自律的判断を尊重すべきこととなる。),それを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当である。
(2)

これを本件についてみるに,前記1(3)において説示したとおり,本件時
間制による質問時間に係る制約は,渋谷区議会の内部規律の問題にとどまるものであり,渋谷区議会内の協議等によって自律的にその取扱いが定められるべきものであるから,当裁判所としては,渋谷区議会内の議会運営委員会及び議長の自律的判断を尊重し(本件時間制に基づく一般質問の時間制限が国家賠償法上違法と評価されるか否かについては裁判所の判断が及ばない結果,同議会内の自律的判断を尊重すべきこととなる。),それを前提として本件国賠請求の成否を判断すれば足りるものというべきである。
そうすると,本件国賠請求については,被告の公務員による違法な公権力の行使を認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する損害賠償請求権の存在を認めることはできず,本件国賠請求は理由がないものというべきである。
第4

結論
以上によれば,本件訴えのうち,請求の趣旨第1項及び第2項に係る訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下することとし,原告のその余の訴え(請求の趣旨第3項に係る訴え)に係る請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部

裁判長裁判官

岩井伸晃
裁判官

堀内元城
裁判官徳井真は,差し支えにつき,署名押印することができない。
裁判長裁判官

岩井伸晃
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