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決定取消請求事件
事件番号平成25(行ウ)464
事件名決定取消請求事件
裁判年月日平成28年9月1日
法廷名東京地方裁判所
判示事項資産運用コンサルティング会社の役員が証券会社の営業員から上場会社の公募増資に係る重要事実の伝達を受けて当該上場会社の株式を売り付けたとして金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)175条1項1号,166条3項に基づきされた課徴金納付命令が違法であるとされた事例
裁判要旨資産運用コンサルティング会社の役員が証券会社の営業員から上場会社の公募増資に係る重要事実の伝達を受けて当該上場会社の株式を売り付けたとして金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの)175条1項1号,166条3項に基づきされた課徴金納付命令につき,当該営業員が,当該証券会社の証券アナリストや募集担当者との接触により,その職務に関し,当該証券会社が引受契約の締結の交渉をしている上場会社において公募増資を行うことが決定されたと知ったとは認められないとして,違法であるとされた事例
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平成28年9月1日判決言渡
平成25年(行ウ)第464号

決定取消請求事件

主1文
処分行政庁が平成25年6月27日付けで原告に対してした課徴金6万円を同年8月28日までに納付するよう命ずる旨の決定を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文と同旨

第2

事案の概要
本件は,原告が,処分行政庁から,金融商品取引法175条1項1号,166条3項に基づき,課徴金6万円を納付すべき旨の決定を受けたのに対し,同決定の取消しを求める事案である。

1
関係法令の定め
本件に関係する金融商品取引法(平成23年法律第49号による改正前のもの。以下「法」という。)の定めは,別紙2「金融商品取引法の定め」記載のとおりである。

2
前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1)

当事者等
原告は,複数の証券会社にトレーダー等として勤務した後,平成20年1月から,投資運用会社であるZ1株式会社に勤務し,同社が平成21年8月に閉鎖されたため退職し,平成22年1月20日,新たに設立されたZ2株式会社(コンサルティング業務や資産運用に関する情報提供等を業とする株式会社。以下「Z2」という。)の代表取締役に就任した。

Z3は,複数の証券会社等に勤務した後,平成19年,Z4證券株式会社(以下「Z4證券」という。)に入社し,平成22年9月時点において,Z4證券の機関投資家営業二部営業員として勤務していた。

Z2は,平成22年当時,米国法人Z5社(以下「Z5」という。)とコンサルティング契約を締結していたところ(乙25,26),Z6は,同社のトレーダーであった(甲25の1・2,甲40,乙7)。

(2)

原告による株式の売買等
Z7株式会社(以下「Z7」という。)は,電力の供給を目的とする株式会社であり,その発行する株式は東京証券取引所市場第一部に上場されている。


原告は,平成22年9月27日(以下,平成22年中の事項については月日のみで表記することがある。)午後2時58分,東京証券取引所において,株式会社Z8証券を介し,自己名義の証券口座により,Z7の株式100株を23万3600円で売り付けた(甲3,乙21)。


原告は,9月29日午前9時14分,上記イと同様の方法で,Z7の株式100株を21万5300円で買い付けた(甲3,乙21)。


原告は,9月29日午前9時39分,上記イと同様の方法で,Z7の株式100株を20万9500円で売り付けた(以下,この売付けと上記イの売付けを併せて「本件売付け」という。甲3,乙21)。


原告は,9月29日午前9時42分,上記イと同様の方法で,Z7の株式100株を21万0200円で買い付けた(甲3,乙21)。

(3)

Z7の公募増資の経緯
Z7は,9月29日に開催された取締役会において,以下の内容で新株式の発行及び株式の売出し(以下「本件公募増資」という。)を行うことを決議した(乙17)。
(ア)

公募による新株式発行
一般募集とし,Z4證券を主幹事会社とする引受団に全株式を買取引
受けさせる方法により,普通株式2億2100万株を発行し,募集株式の一部につき海外投資家に対して販売されることがあり,引受人に追加的に発行する普通株式663万株(上限)を買い取る権利を付与する。(イ)

株式の売出し(オーバーアロットメントによる売出し)
Z4證券を売出人として,
普通株式2652万株
(上限)
を売り出す。

(ウ)

第三者割当による新株式発行
Z4證券を割当先として,普通株式2652万株を発行する。


Z7は,9月29日,東京証券取引所に対し,TDnet(適時開示情報伝達システム)を利用して,「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」と題する文書により,本件公募増資の実施を決定した旨通知した。東京証券取引所は,同日午後3時50分,これを同取引所のウェブサイトに掲載して公衆の縦覧に供した
(以下,
この公表を
「本件公募増資の公表」
又は「本件公表」という。)。


Z7は,10月12日付けで,本件公募増資に関し,Z4證券ほか4社との間で,新株式の引受契約を締結した(乙17)。

(4)

原告に対する課徴金納付命令
内閣総理大臣から権限の委任を受けた処分行政庁は,平成25年6月27
日付けで,原告に対し,課徴金6万円を同年8月28日までに国庫に納付することを命ずる旨の決定(以下「本件決定」という。)をし,その頃,同決定書謄本を送達した。本件決定においては,本件売付けが法175条1項1号,166条3項に該当するとされた。(甲1,弁論の全趣旨)
(5)

本件訴えの提起
原告は,平成25年7月26日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3
争点
(1)

Z3が,
本件公表前に,
職務に関し本件公募増資に係る重要事実を知った

か否か。
(2)

原告が,
本件公表前に,
Z3から本件公募増資に係る重要事実の伝達を受
けたか否か。
4
争点に関する当事者の主張
(1)

争点(1)(Z3が職務に関し重要事実を知ったか否か。)について
(被告の主張)

法166条1項5号の意義
(ア)

法166条1項5号に規定される「職務に関し」とは,職務行為自体
により知った場合のほか,
職務と密接に関連する行為により知った場合も
含み,
職務と密接に関連するか否かについては,
インサイダー取引を禁止
する趣旨に鑑み,
その者が会社の業務に従事しているがゆえにいまだ一般
投資者には知られていないような情報を有しているかという観点から常識的に判断していくことが求められるものである。
また,
重要事実の一部
であれ,
その職務等に関し当該事実を知った会社関係者は,
事実の一部す
ら知り得ない一般投資者との関係において特権的立場に立つといえるため,
インサイダー取引を禁止する趣旨に鑑みれば,
重要事実の一部を知り,
かつ,
未必的な認識を有しているにすぎない場合も,
その会社関係者が重
要事実を「知った」場合に含まれると解される。
(イ)

原告の主張は,法166条1項5号が定める重要事実を「知った」と
の要件につき,その範囲を「知った」との文言以上に更に限定し,重要事実を知った当該法人の他の役員等の意思に基づいて当該重要事実が「伝達」
されることを必要とするものであるが,
同号は,
その規定上も既に十分な
構成要件の客観化,
明確化がされており,
それ以上に処罰範囲を狭める必
要がない上,同号が「その職務に関して『知った』とき」と規定し,第一次情報受領者に関する同条3項の定める要件として
「伝達」
の用語が用い
られているのと明確に異なった規定方法をしている点を無視している。また,原告は,単一の情報ルートから得られた情報それ自体のみで,重要事実の主要部分が含まれていることが必要と主張するが,
断片的な情報
であれ,
これを統合することにより重要事実に関する認識が得られたと評
価できる場合には,正に,特権的立場を利用した場合といえ,他の投資者との情報格差が生じているのであって,
これをインサイダー取引規制の対
象外としなければならない事情はない。

Z9及びZ10の認識
(ア)

平成22年9月当時,Z4證券においては,特定の銘柄につき,公募
増資の実施公表が予定されている等の事情がある場合,
その銘柄を担当す
る証券アナリストは,
その銘柄についてコメントできないというルールが
定められており,
また,
証券アナリストがコメントできなくなった銘柄は,
カバレッジリスト(カバレッジとは,特定の上場会社について,目標株価を設定して,レーティングを付与し,継続的に企業調査を行うことをいう。)から削除されるなどしていたところ,当時,証券アナリストとしてZ4證券に勤務し,かつ,Z7のカバレッジを担当していたZ9は,当該銘柄の公募増資等に係る情報を,事前に知る立場にあった。
Z9は,9月15日,○部のZ11から,Z9が上記の情報を受けることとなり所定の手続を経てイン登録された場合に備えた準備作業として,Z7のレポート管理について,
社内で閲覧可能な状態にしておくと法令違
反になる旨を伝えられた。そのため,Z9は,遅くとも9月15日までには,本件公募増資に係る重要事実を確定的に認識していた。
(イ)

Z10は,
平成22年9月当時,
Z4證券の機関投資家営業二部にお

いて,
公募増資等のファイナンス案件に関する部内の取りまとめ等を行う募集担当を務めていたところ,募集担当は,直属の上司である部長から,あらかじめ,
翌月に行われる募集案件の大まかな予定を知らされた上,そ
の案件が予定されている期間には,
営業員に休暇を取得させないよう指示
を受けていたため,募集案件等に係る情報を事前に知る立場にあった。Z10は,
9月24日,
正式にイン登録され,
遅くとも同日の時点では,
本件公募増資に係る重要事実を確定的に認識していた。
(ウ)

Z3は,
Z9及びZ10が本件公募増資に係る重要事実を公表前に知

る立場にあることを認識していた。

Z3のZ9及びZ10に対する接触
(ア)

Z3は,
9月8日頃,本件公募増資に係るうわさを顧客であるZ12

LimitedのZ13から知らされた。
Z3のような証券営業員にとっては,
顧客からの評価が悪くなれば当該
顧客の担当から外されるというリスクもあったため,
顧客に対して取引に
役立つ情報を提供するという動機が少なからずあったから,
Z3には本件
公募増資に係るうわさの真偽を確かめる動機もあった。
(イ)

Z3は,
本件公募増資に係る事実を知る立場にあるZ9に数度にわた

り接触することで,
本件公募増資に係るうわさの真偽を確かめた。
Z3は,
9月8日から9日にかけて,Z9に対し,メールで,電力・公益セクターのものを含むバリュエーションシート(セクターごとに作成され,当該セクターに属する銘柄について格付け等の情報を一覧にしたシート)の送付を依頼したり,同月14日,Z9に対し,メールで,他の証券会社作成の「Z7は,増資よりも営業キャッシュフローでの蓄積と述べた」旨指摘されたレポートを引用して,
その内容についてコメントできるか等につ
いて確認したりするなどしたほか,
9月中旬から下旬頃には,
Z9に対し,
Z7の公募増資のうわさが出ているが,資金はどうするのかなどと聞いて,Z9から,「可能性は否定できないね。やってもおかしくないよ。」などという回答を得た。
また,9月頃には,Z7のほかに,Z14株式会社(以下「Z14」という。)にも公募増資を実施するとのうわさがあった中で,Z3は,同月21日頃には,原告に対し,電話で,アナリスト(Z9のことと認められる。)がZ14については否定したので,Z7の方がZ14よりも可能性が高い旨を伝えていることからすると,この頃,Z3は,Z9から,Z14ではなく,
Z7の公募増資が実施される見込みが高い旨の回答を得たと
認められる。
(ウ)

他方で,
Z3は,
本件公募増資に係る事実を知る立場にあるZ10に

も接触することで,
本件公募増資の公表がされる具体的な日付に係る情報
を取得した。
すなわち,Z3は,9月下旬頃に,Z10に対し,同月29日に機関投資家との食事の予定を入れても支障がないか確認し,
Z10から
「その日
は,何かがあるかもしれない。規模は大きいかもしれない」などと言われたほか,同月22日から24日頃には,Z10に対し,同月27日の週の休暇取得の可否を問い合わせ,
Z10から,
その週は忙しくなりそうであ
る旨回答を得た。
この点,Z3は,9月下旬の時点では,本件公募増資が公表されるといううわさ自体は確度が高いと認識していた反面,
公表に係る具体的な日付
についてのうわさはなかったから,その時点では,具体的な日付こそが本件公募増資に係る重要事実のいわば核心部分ともいえるものであったところ,Z3は,上記のとおりZ10に会食設定や休暇取得の可否を問い合わせることで,
本件公募増資の公表がされる具体的な日付に係る情報を取
得した。
(エ)

以上のとおり,Z3は,Z9及びZ10の言動を通じて,Z7の公募
増資が行われるといううわさが真実であり,
かつ,
その公表予定日が9月
29日であるということを認識するに至ったものである。
なお,Z3は,調査段階から審判手続段階に至るまで,一貫して,Z9との接触を通じて本件公募増資の可能性を探るとともに,
Z10とのやり
取りを通じ,
自己の推察等を組み合わせることで9月29日の本件公表の
可能性を認識するに至った旨自認しており,
その供述の一貫性に照らして
も,その信用性は高い。

原告がZ6に伝達していた内容
(ア)

Z3は,
本件以前から,
Z15株式会社及びZ16株式会社に関して,

アナリストとの接触や休暇取得の可否といった事情を通じて,
公募増資に
係る情報を入手し,原告らに当該情報を伝達していた。
(イ)

本件に関しても,原告は,Z6に対し,自己の情報源がZ4ガイ,す
なわちZ3であることを明示した上で,9月7日には,①「9月の第5週については,Z4ガイは,休みを取ることができない。」とのチャットを,同月21日には,②「私のZ4ガイが電話してきたところによれば,アナリスト(引用者注:Z9のことと認められる)がZ14については否定したので,
Z7について,
Z14よりも可能性が高い」
とのチャットを,
同月27日午前10時29分頃には,③「Z4ガイが只今私の携帯電話に案件は29日らしいというメッセージを送ってきた」
とのチャットを送
るなどしている。
上記①及び②のチャットによれば,Z3が本件公募増資
に係る情報の入手のために,Z10に休暇取得の可否を確認したり,アナ
リストであるZ9に接触したりしていたことが強く推認されるとともに,上記③のチャットによれば,Z3がZ9やZ10への接触を通じて,遅く
とも同月27日午前10時29分頃には,
Z7の本件公募増資の公表が同
月29日にされるとの情報を取得していたことが強く推認される。オ
結論
Z3のZ9及びZ10との具体的やり取りや,
原告がZ6に伝達していた
具体的内容からすれば,Z3が,Z9及びZ10から情報収集を行い,本件公募増資に係る重要事実を知ったと認められる。

(原告の主張)

法166条1項5号の意義
(ア)

法166条1項5号に掲げる会社関係者が「重要事実をその職務に関し知った」といえるためには,その者が役員等である法人の他の役員等が重要事実を当該会社関係者に「伝達した」又は「流した」といえることが必要である(情報伝達要件説)。
特に留意すべき点は,①情報を「伝達した」又は「流した」と評価できるような場合に限って情報の伝達があったと認められるのであって,同号の会社関係者が他の役員等を一方的に調査して得た情報は,「伝達された」又は「流された」といえないこと,②伝達される対象としての情報は,インサイダー取引規制の趣旨から,重要事実の主要な部分を構成するものでなければならず,同号の会社関係者に情報が伝達されるまでの過程で情報の一部が伝わらず,重要事実の主要な部分を構成しなくなったときは,情報伝達要件を満たさないことである。
(イ)


情報伝達要件説の根拠は以下の4点である。
法166条1項5号の立法趣旨は,法人内で情報が業務上伝達された場合に,
その伝達された者を会社関係者として規制することにあり,
「伝達した」又は「流した」場合以外をも広く規制するのは同号の趣旨ではない。



法166条は,会社関係者が上場会社等との間の一定の関係から重要事実を知った場合に限って規制の対象としており,そのような一定の関係とは無関係に重要事実を知った場合は規制されないはずであるが,同条1項5号を無限定に解するならば,同じ会社に契約締結の交渉等に当たる役員等がたまたま存在しただけで,それと無関係に重要事実を知った場合も規制の対象とされることになってしまう。同号に基づく処分を正当化するには,契約締結の交渉等に当たる役員等が重要事実を知ったことと当該会社関係者が知ったこととの間に関連性がなければならず,その関連性は両者の知得が因果的に結ばれるものでなければならない。会社関係者と重要事実との関係を限定的に捉えている我が国のインサイダー取引規制の構造からは,法人内で当該情報が業務上伝達された場合に限って処罰されると解するのが整合的である。


法は,情報の第二次以降の受領者を規制対象としておらず,法人内で情報が伝達されれば容易に第二次受領者に該当して規制から外れることになるところ,法166条1項5号は,法人内での第二次以降受領者を規制範囲内に取り込んで規制範囲を妥当なものとするために設けられた規定であって,情報伝達要件説は情報の第二次以降受領者が規制されないという特徴とも整合的である。



仮に法166条1項5号が広く職務上重要事実を知った者を規制対象とする趣旨であれば,そもそも同項1号から4号までのような規定を設けずに,端的に広く規制する規定にすれば足りるはずであるところ,会社関係者と重要事実との限定的な関係についてのみ規制対象とする法形式を採用したのであるから,同項5号の規制対象も限定する必要がある。


Z3のZ9及びZ10に対する接触
(ア)

Z3は,9月24日の段階でも,顧客に対し,公募増資関連の売り
推奨銘柄として,
「Z17銀行,Z18銀行,Z19,Z20,Z21,
Z7」を挙げる電子メールを送信しており,公募増資の可能性をZ7だけに絞っていたわけではなく,公募増資のうわさが市場にあった上記六つの銘柄のいずれについても公募増資があり得ると考えていた(Z14については当時市場には公募増資のうわさはなかったため,ここには掲記されていない。)。Z3にとって,Z7の公募増資は飽くまでもうわさレベルでの可能性の一つにすぎなかったのである。
(イ)

Z9との接触について,被告は,Z3が,9月21日頃Z9がZ1
4を否定したからZ7と思ったと主張するが,その根拠とする原告のZ6に対するチャットメールに係る英文を誤訳している。原告は,Z6に対して「ところで,(知り合いの)Z4の証券営業員が電話してきました。私は,Z7の方がありそうな気がします。アナリストは,なんだかZ14は否定的だったようですし。」というチャットメールを送信したのである。また,上記(ア)のとおり,これ以降の日である同月24日時点でもZ3は6銘柄を売り推奨していたのである。
Z9が,9月中旬から下旬にかけて,Z3に対し「可能性は否定できないね。やってもおかしくないよ」と述べたという点は,アナリストとして公正で中立的な客観的意見を述べたにすぎないというべきであり,これをもって重要事実を知ることなどできない。
Z3がZ9との接触から重要事実を認識することなど,
客観的にみて,
およそ不可能であった。
(ウ)

Z10との接触についても,上記(ア)のとおり,Z3は,9月24
日の段階でも,公募増資が市場でうわさになっていた「Z17銀行,Z18銀行,Z19,Z20,Z21,Z7」の6社の株を売り推奨していたのであり,
公募増資の可能性をZ7だけに絞っていたわけではなく,
被告はこの点を無視した主張をしている。
そもそも,Z10が「何かあるかもしれない。規模は大きいかもしれない」と述べたというが,実際にZ10がZ3に話した言葉が正確にこのとおりとは限らない。仮に,Z3がZ10からそのように言われたとしても,それだけのことでZ7に可能性を絞って公募増資の実施を「知る」ことなどできない。しかも,Z3がZ10と話した時点よりも,上記の公募増資関連6銘柄推奨メールの方が後の時点であり,この経過からしても,Z3がZ10の発言からZ7株に特定して重要事実を知ることなどできなかった。
(エ)

以上のとおり,Z9との接触及びZ10との接触のいずれについても,Z3が重要事実を認識できるものではない。

9月27日の原告とZ6のチャット
(ア)

被告が指摘する9月27日の原告のZ6に対するチャットは,正し
くは
「ところで,
Z4の証券営業員が,
私の携帯電話にちょっとメッセー
ジを送信してきました。私は,公募増資の実施公表は29日になるだろうと思います(そんな気がするのです)。」と翻訳されるべきであり,被告の訳文は誤訳である。
(イ)

9月24日金曜日の取引終了時点まででZ4證券全体で1700億
円の売り,2100億円の買いであったところ,原告はこの情報をZ3から得た。
原告は,9月27日午前10時26分,400億円の買い越しであった売買状況などの分析から買いの姿勢を勧めるチャットをZ6に送信した。この日の投資行動についてのアドバイスであるから,本来ならば市場の寄り付き(午前9時)前に送信すべきチャットであったが,上記のように遅れた理由は,売買状況の情報がZ3から届くのが遅くなったからと考えるほかなく,
その情報が1700/2100」

というメールメッセー
ジとして午前10時26分の少し前にZ3から届いたのである。
(ウ)

原告は,それから3分余り後の10時29分,「ところで,Z4の
証券営業員から携帯にメッセージがあったんです」
とチャットしている。
ここにいう「メッセージ」は,上記(イ)のZ3の「1700/2100」というメールメッセージであったと考えるほかない。Z4の証券営業員から上記情報が届くのが遅くなり,そのために原告の分析をお届けするのが遅くなったという弁解の気持ちがこの一文には籠もっている。
全体としては基本的に買いの姿勢を続けるべきというのがこの日の原告の分析であったが,逆に買いの姿勢をとってはならない場合もあり,そのために原告は「案件は29日になりそうな,そんな感じが私はします」とチャットし,原告自身の直感による推測として案件(公募増資を指す。)が9月29日になりそうな気がすると述べた。
(エ)

以上のとおり,9月27日の原告とZ6とのチャットは,Z7公募
増資のことが主たる話題ではなく,話題の中心はあくまでもその日の市場全体の動向であった。上記のチャットを根拠に,Z3が本件公募増資に係る重要事実を知ったなどということはできない。

結論
以上のとおり,Z3が職務に関し本件公募増資に係る重要事実を知ったことはない。

(2)

争点(2)(原告に対する伝達の有無)について

(被告の主張)

原告とZ6のやり取り
原告は,Z6に対し,9月7日,メールで,「9月の第5週については,Z4ガイは,
休みを取ることができない。などと連絡し,

同月9日,
チャッ
トで,「Z4ガイが,昨日Z7の案件のうわさを聞いたと言っている。」,「彼は,
アナリストに確認したんだけど,
彼らはそうは思わないんだって。,

「彼(引用者注:Z3)はまだ▲1(引用者注:Z14)のような気がするらしいんだけど」と伝えるなどしたほか,同月21日,チャットで,「私のZ4ガイが電話してきたところによれば,
アナリストがZ14については否
定したので,Z7について,Z14よりも可能性が高いとのこと」などと伝えた上,同月27日午前10時29分頃,チャットで,
「Z4ガイが只今私
の携帯電話に案件は29日らしいというメッセージを送ってきた」などと連
絡した。
そして,
上記メール又はチャットの内容のほか,
原告がメール又はチャッ
トにおいてZ4ガイ,
すなわちZ3という具体的な情報源を示した上で,Z

4ガイが只今私の携帯電話に(中略)というメッセージを送ってきた。」などと伝達方法まで具体的に示していることに照らせば,
原告がZ3から本件
公募増資に係る重要事実の伝達を受けたことは明らかというべきである。イ
原告の供述について
原告がその供述において,
9月27日の時点で本件公募増資の公表日を同
月29日と推測した根拠として挙げるものは,
いずれも説得力に欠けるもの
しかなく,結局,原告は同日と推測した合理的理由を一切述べていない。他方で,
原告が本件公募増資の公表日について,
Z3以外の第三者から事実の
伝達を受けたことをうかがわせる事情は全く見当たらない。
そうすると,
原告がZ6に本件公募増資の公表日を9月29日と具体的に

示したチャットを送信することができた合理的な理由としては,
そのチャッ
トに先立って原告がZ3から本件公募増資に係る重要事実の伝達を受けたことのほかに想定することは困難であり,翻ってみれば,原告がZ3から同重要事実の伝達を受けたのでなければ,
Z6に上記チャットを送信すること
ができた合理的理由の説明がつかない。
なお,
9月下旬の時点では本件公募増資の公表がされること自体は情報として重要でもなかったのであるから,
公表の具体的日付こそが本件公募増資
に係る重要事実の核心部分というべきであったところ,
原告がその核心部分
たる具体的日付を認識した経緯について合理的根拠を一切述べていないことは,
9月29日という日付を自ら推測したとの原告の供述の信用性に重大な疑義を与え,
Z3から伝達を受けたからこそ具体的日付を認識したことを
より一層強く推認させるというべきである。
原告は,調査段階においては,Z3から本件公募増資に係る事実の伝達を受けたことを自認していたところ,原告に対する事情聴取は,原告が不要な心理的圧迫を感じることがないよう可能な限り配慮し,
任意に供述できるよ
うな状況でされており,上記調査段階の供述は信用できるというべきである。

結論
以上のとおり,原告は,Z3から本件公募増資に係る重要事実の伝達を受
けたと認められる。
(原告の主張)

9月27日のチャット
(ア)

上記(1)(原告の主張)ウのとおり,被告が指摘する9月27日の原
告のチャットは,正しくは「ところで,Z4の証券営業員が,私の携帯電話にちょっとメッセージを送信してきました。私は,公募増資の実施公表は29日になるだろうと思います(そんな気がするのです)。」と翻訳されるべきであり,原告がZ3から本件公募増資に係る重要事実の伝達を受けたことを示すようなものではない。
(イ)

9月27日当時は,原告の知り合いの市場関係者の多くが,「Z7
の公募増資があるよ。今月間違いないよ(9月のうちにZ7は公募増資を公表する)」とうわさし合っており,原告は友人らが信じるそのうわさを信じた。このうわさを信じれば,9月27日の時点では公表日は28,29,30日の三つの選択肢しかない。
そして,上記(ア)のチャットにおいては,「29日」は,あくまでも「feellike」として言及されているにすぎず,「29日に間違いありません」という話ではなく,「自分の直感ではそうです。間違ってたらごめんなさい」という趣旨である。
本件公募増資の公表が9月28,29,30日のいずれであるのかを高度の蓋然性をもって認識するという話ではなく,ただ単に,どれが最もありそうな気がするかという話である。9月29日は3択の一つにすぎず,それが結果的にたまたま実際の実施公表日に合致したというだけのことであり,うわさのみからピンポイントで特定することは困難なことではない。

被告の主張について
被告は,上記ア(ア)のメールを根拠に,Z3が原告に対し本件公募増資に関する重要事実を伝達したと主張するが,以下の6点から認められない。(ア)

被告が主張するように,9月27日午前10時26分の少し前に

「Z7公募増資が9月29日に公表される」と知った会社関係者からその伝達を受けた者がいたとすれば,それは大儲けができる材料なのであるから,その者は,まずチャットの最初からそのことを話題にするはずである。
ところが実際の原告とZ6とのチャットはそうではなく,公募増資の話は,市場全体としては買い推奨を基本姿勢とする話の流れの中で,派生的に例外事象として出てきた付随的な話題である。このような付随的な話題にとどまるのは,「案件は29日(feellike)」が重要事実を伝達されたためなどではなく,単なる直感による推測にすぎないからである。
(イ)

「feellike」とは,客観的事実ではなく,主観的な感じ,推測,希
望などを述べる英語表現であり,発話者が論理的に思考し,客観的根拠をもって認識した事実を述べるのではなく,直感的な感覚を述べているものである。「feellike」
この
という表現が用いられていること自体が,
重要事実を伝達されたこととは無縁であることを雄弁に物語っている。(ウ)

原告はZ6とチャットをしている最中に9月27日午前10時38
分頃,Z3から電話を受け,その電話を肩と首に挟みながらパソコンを打って,「依然として▲2のような気がします,だって。」(▲2とはZ7のことを指す。)とチャットを続けた。Z7の公募増資に関する日付を特定した重要事実を伝えた者が今さらのように,「依然としてZ7のような気がします」などと言うはずもない。
(エ)

9月27日の朝も午後も原告とZ3のパソコンメールのやり取りは日常と全く変わらない内容であり,インサイダー情報を扱う者の危ない橋を現に渡っているという異常事態の緊迫感がない。
(オ)

本件公募増資に係る重要事実を知った者からその伝達を受ければ,
その公表日に至るまで売りが基本の姿勢となり,公募増資の公表後に買い戻すはずである。ところが,前提事実(2)のとおり,原告は売りと買いを繰り返しており,この売買経過自体が重要事実の伝達を受けたものでなかったことを物語っている(Z6のZ5も同様である。)。
(カ)

上記チャットの翌日である9月28日時点でも,
Z6は,
「everyone

sayingZ22

isthedeal(だれもみな,公募増資があるのはZ2

2だと言っています)」と述べ,公募増資についてZ7以外の可能性に拘泥していた。

結論
以上のとおり,原告は,Z3から本件公募増資に係る重要事実の伝達を受
けたことはない。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)

本件公募増資の経緯

ア(ア)

Z7は,
平成21年秋頃から,
自己資本比率の改善等を目的として,

公募増資による資金調達を行うことを検討し始めた
(甲30,
乙17)

(イ)

Z7の担当者は,平成21年12月22日には,同社代表取締役会
長,代表取締役社長及び公募増資の起案部署の担当役員である常務取締役らに対して,調達額を5000億円程度,主幹事証券会社をZ4證券とする公募増資の実施について報告をし,代表取締役会長らはこれを承認した(甲30,乙17)。
当時,Z7では,公募増資等の重要な意思決定につき,常務会及び取締役会に付議する前に,代表取締役会長,代表取締役社長及び起案担当部署の担当役員に諮っており,同人らの承認が得られた時点で,実質的に会社として了解したものと扱われていた(乙17)。
(ウ)

公募増資を担当するZ7の常務取締役らは,平成22年1月5日,
Z4證券の代表執行役専務らに対し,Z4證券を主幹事証券会社として公募増資の準備を進めることを伝えた。Z7の代表取締役社長は,2月5日,Z4證券の執行役社長に対して,正式にZ4證券を主幹事証券会社として公募増資の実施準備を進めることを連絡した。(甲30,乙17)
イ(ア)

Z7の実務担当者らは,8月4日,公募増資の実施決議を9月29
日に行う方向で準備を進める旨を話し合った(乙17)。
(イ)

Z7の実務担当者らは,8月30日までに,取締役副社長,代表取
締役社長及び代表取締役会長に対し,公募増資の実施決議を9月29日に行うことを報告し,それぞれ了承を得た(乙17)。
ウ(ア)

Z7は,9月13日,Z7グループの中期経営方針を示したZ7グ
ループ中長期成長宣言2020ビジョン(以下「本件経営ビジョン」という。)を発表したところ,その中では「2020年度までの10年間で,12兆円以上の営業キャッシュフローを創出し,『2020ビジョン』達成に向けた資産形成を進めます。」,「2020年度までにD/Eレシオ1.5程度(現状の半分程度)を目安として,それに近づくように資本を蓄積していきます。」(2015年度までに2.0程度)という記載がある(D/Eレシオとは,有利子負債残高が自己資本の何倍に当たるかを示す指標をいう。)。
Z7の代表取締役社長は,本件経営ビジョンの発表に伴うアナリスト向け説明会において,営業キャッシュフローの積み上げが基本である旨の発言をした。(乙9,19)
(イ)

Z23証券株式会社の担当アナリストは,9月13日,本件経営ビ
ジョンの発表を受けて,Z7についてのレポートを発表したところ,その中には「今回の長期計画で,同社は今後10年間で累計8000億円から1兆円の成長事業投資(主に海外投資)を計画しているが,年平均1兆円以上の営業キャッシュフローで十分に賄える計画となっている。過去1ヵ月ほど,当社はZ7の増資の可能性について複数の質問を受けていたが,本日の説明会での質疑応答から,増資の必要はないことが確認できたと考えている。」という記載がある(乙19)。
(ウ)

Z24証券株式会社の担当アナリストは,9月14日,本件経営ビ
ジョンの発表を受けて,Z7についてのレポートを発表したところ,その中には「資本の蓄積によりD/Eレシオは現状の3.1から2015年時点で2.
0程度,2020年度時点で1.
5程度を目指す。エクイティ
ファイナンスは考えておらず,あくまで潤沢な営業キャッシュフローの実現により達成する。」という記載がある(乙19)。
(エ)

Z25証券株式会社の担当アナリストは,9月14日までに,本件
経営ビジョンの発表を受けて,Z7についてのレポートを発表したところ,その中には「Z7は有利子負債の増加を回避としているため,資本を2.5兆円積み増す意向。Z7は,増資よりも営業キャッシュフローでの蓄積と述べた。」という記載がある(乙18)。

Z7の9月29日開催の取締役会は,同月15日に招集通知が発送され
たが,招集通知に議題の明示はされなかった(乙17)。

Z26は,9月28日午後9時24分,Z7が同日,数千億円規模の増
資を実施する方針を固め,近く正式発表するという記事を配信した(乙20)。Z27新聞の同月29日朝刊にも,同内容の記事が掲載された(弁論の全趣旨)。

Z7は,9月29日,東京証券取引所に対し,TDnetを利用して,
本件公募増資の実施を決定した旨通知した。東京証券取引所は,同日午後3時50分,これを同取引所のウェブサイトに掲載して公衆の縦覧に供した(本件公表。前提事実(3)イ)。

Z7の株価は,9月6日以降,本件公表まで,おおむね日々下落し続け
た(9月6日の終値は2494円,9月28日の終値は2282円。)。なお,同時期の東証株価指数(TOPIX)は,おおむね横ばいあるいはわずかに上昇していた。(甲2,14)
(2)

Z9及びZ10について
イン部署及びイン登録等について
(ア)

Z4證券では,内部者取引管理に関する規程が定められ,業務上,
法人関係情報(上場会社等の運営,業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって,顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるもの等)に接する可能性が高い部署として,○部等をイン部署と定め,他の部署から物理的に隔離するなどして,法人関係情報及びZ4證券が重要な取引(合併,買収,公開買付,新株等の発行又は発行会社の経営の重要な変更等をいう。)に関与している場合の当該取引に関する情報が業務上不必要な部署に伝わらないよう管理するものとされていた(乙10)。
(イ)

Z4證券では,イン部署ではない部署に所属する職員について,業
務上,未公表の内部情報を当該職員に伝達する必要が生じた際には,当該職員を内部情報受領者としてシステム上登録し,内部情報を持たない部署や職員と区別して,情報管理を行うことがあり,この登録をイン登録と呼んでいた(甲39,乙13)。
(ウ)

Z4證券の売買管理部等が作成した「決算説明会等とファイナンス
日程について」と題する書面においては,「アナリスト(他社のアナリストも含む。)対応については,受動的な性格のものであるため,インフォメーション・ミーティング等とは位置付けが異なるが,発行決議まで1ヵ月以内に面談する場合は,経営成績の見通し等,将来にわたる発言は差し控えるよう指導する」,「発行決議まで1週間未満のものについては,何らかの理由を作って,アナリストとは一切接触しない方向で対応するよう指導する」「アナリストへのファイナンス情報の伝達は,,
発行決議の1週間前までに行うことを原則とし,情報伝達からファイナンス終了後1週間は,アナリスト・レポート(ファイナンス・メモは除く)の新規作成・発行を禁止する」という記載がある(乙13)。(エ)

Z3は,平成22年当時,Z4證券の機関投資家営業二部(主とし
て海外機関投資家及びヘッジファンド向けの日本株の営業を行う部署。)
に所属し,担当顧客に対し,企業調査部のアナリストが推奨する銘柄や自分なりに情報収集・分析した投資アイデアを提供すること(方法としては,毎朝,推奨銘柄を電子メールで送信するなど。),顧客から問合せがあった銘柄について,アナリストと議論したり情報を収集したりして回答をすることなどを業務としていた
(甲23,
24,
39,
乙31)

機関投資家営業二部はイン部署ではなく,Z3が,本件公募増資に関してイン登録されたことはない
(甲39,
乙10,
31,
弁論の全趣旨)


Z9について
(ア)

Z9は,平成22年当時,Z4證券の企業調査部において,Z7を
含む資源・エネルギー関連銘柄を担当する証券アナリストとして勤務していた(乙5)。
(イ)

Z9は,9月上旬頃までに,他部署の職員から,Z7の公募増資が
公表された後の投資家への説明会と予想されるスケジュールを打診されたことなどから,
Z7が公募増資を行う可能性があると認識した
(乙5)

(ウ)

Z4證券の○部の業務管理者を務めていたZ11は,平成22年当時,
Z4證券が引受幹事証券会社を務める公募増資等のエクイティ・ファイナンス案件において,実施企業の調査を担当するアナリスト等を事前にイン登録する作業にも従事していた(乙13)。
Z11は,9月15日,Z9に対し,「実際にレポート等が発行されていたら,そのレポートの通番を教えてください。コンプラ対策です。過去レポートを社内ポータル上で見られないようにしないと法令違反になるケースがあります。などと記載した電子メールを送信した

(乙5)

なお,
Z4證券では,
職員や一部の投資家のみ閲覧可能なグローバル・
リサーチ・ポータルという共有サイトがあり,アナリスト・レポートも同サイト上に掲載されるところ,上記エクイティ・ファイナンス案件の公表日の夕方から一定期間,
該当銘柄に関するアナリスト・レポート
(過
去に作成されたものを含む。)は閲覧できないようにされることになっていた(乙13)。
(エ)

Z9は,9月22日,本件公募増資についてイン登録され,本件公
募増資が同月29日に公表されることを知った(乙3)。

Z10について
(ア)

Z10は,平成22年当時,Z4證券の機関投資家営業二部におい
て,公募増資等のファイナンス案件に関する部内の取りまとめ等を行う募集担当を務めていた(乙1,2)。
(イ)

Z10は,機関投資家営業二部長から,翌月に予定されている募集
案件の大まかな予定を伝えられ,機関投資家営業二部の営業員の休暇取得が,重要案件の予定と重ならないように,営業員の休暇管理を指示されていた(乙1)。
(ウ)

Z4證券においては,夏季休暇は毎年9月末までの間に取得するこ
とができるとされていたところ,機関投資家営業二部において,8月後半頃,全ての営業員に対して,9月最終週(27日月曜日から30日木曜日)における夏季休暇の取得は控えるように指示された(甲39,乙2,証人Z3)。
(エ)

Z10は,9月24日,本件公募増資についてイン登録され,本件
公募増資が同月29日に公表されることを知った(乙3)。
(3)

9月上旬におけるZ3の行動等


原告は,9月7日,インターネット上のチャットを通じZ6に対して,「Z4の政治アナリストとの一対一のミーティングは役に立った。(中略)
ところで,9月の第5週については,Z4ガイ(Z4myguy)は,休みを取ることができない。ご参考まで。これをZ28に伝えておいてよ。とりあえず。」という英文のメッセージを送信した(乙47)。
なお,Z2は,Z29合同会社とコンサルティング契約を締結していたところ(乙7),上記のZ28とは,同社に勤務するZ28のことを指す(乙40,46)。また,原告は,Z3のことを意味するものとしてZ4ガイという表現を用いていた(甲40,原告本人)。


Z3は,9月8日,自身が担当する顧客であるZ13(Z12Limitedのパートナー)から,他の証券会社の営業員がZ7の公募増資のうわさを聞いたので確認してくれないかという連絡を受けた(甲39,乙18,31,48,証人Z3)。
Z3は,上記連絡を受けて(甲39,乙48),9月8日及び同月9日,Z9に対して,Z9が担当するZ7を含む電力会社や石油関連会社等のバリュエーションシートの送付を依頼する旨の電子メールを送信し,Z9は,
同各日,Z3に対して,上記バリュエーションシートを電子メールにて送信したところ,これにはZ7に関する記載もあった(乙32)。なお,バリュエーションシートとは,複数の銘柄について格付け等の情報を一覧にしたシートであり,公募増資やM&Aが予定されている,倒産の可能性があるなどの事情がある会社については,上記シートから当該会社に関する情報が削除される場合がある(甲39,乙31)。
ウ(ア)

原告及びZ6は,9月9日,チャットを通じて以下の内容の英文の
メッセージを送受信した(甲42の1,乙6)。
原告「Z4ガイが,
昨日Z7の案件のうわさを聞いたと言っている。

(原文「Z4guysaying-Z7rumoreddealyesterday..?」)Z6「ああ,誰かも自分にZ7かもしれないと言った。」
原告

「彼は,アナリストに確認したんだけど,彼らはそう思わない
んだって。資源か公益などのうわさからZ7ということになっ
たんだろうか?もっとも,彼はまだ▲1のような気がするらし
いんだけど。」(注・▲1とはZ14の証券コードである。)

(イ)

なお,
8月19日のZ27新聞には,
「Z14,
環境車時代も収益」


「資源開発会社に軸足」との見出しで,「Z14は2012年度までの3カ年で9600億円の投融資を計画。このうち5200億円を金属・石油の開発や権益取得に充てる。」,「狙いは『資源開発会社』への大胆なシフトだ。」という記載のある記事が掲載されていた(甲27)。(4)

本件経営ビジョンの発表後のZ3の行動等
Z3は,9月14日,原告やZ13に対して,Z7による同月13日の本件経営ビジョンの発表について,「他社のレポートですが,Z7に関して,『Z7は有利子負債の増加を回避としているため,資本を2.5兆円積み増す意向。Z7は,増資よりも営業キャッシュフローでの蓄積と述べた』
との一文がありました。と記載した電子メールを送信した

(甲36,
乙18)。「他社のレポート」とは,上記(1)ウ(エ)のZ25証券株式会社のレポートのことを指す。
Z3は,9月14日,Z13から「Z9さんは何て言ってますか?」という電子メールを受信し(甲36,乙18),Z9に対して,上記レポートを引用して,「これ,コメントできますか?」と記載した電子メールを送信したが(乙32),Z9から確たるコメントは得られなかった(甲39,乙31)。

原告及びZ6は,9月14日,チャットを通じて以下の内容の英文のメッセージを送受信した(甲42の1,乙6)。
原告「ところで,
▲2の件で,
ちょうど今,
Z4ガイが電話してきた。
1兆円規模の投資を今後10年間で行うとZ27が報じている。
株はこの頃売られている。何か聞いてる?Z4ガイは依然として
▲1らしいと言っている。まだ全然はっきりしない。」(注・▲
2とはZ7の証券コードである。原文「▲2-bytheway..justZ4guycalled.today'sZ27saying1trnyinvestingfor10yrs.Stockhasbeensoldthesedays,..youhearingany?

4guysaysstillfeellike▲1tho..notsuresureyetso.」)
(5)

9月16日頃から同月24日までのZ3の行動等


Z3は,9月16日,担当する顧客2社(原告は含まれない。)に対して,「Z14(株)(▲1),Z7(株)(▲2),さらに,(株)Z30(▲3)も,公募増資のうわさがあります。」,「けれども,(株)Z30のZ31会長は,はっきりとローンチ(公募増資)の可能性を否定したようで,なさそうです。Z7(株)とZ14(株)は,ありそうです…」,「Z7(株)は,社債や借入により借り換えが可能です。したがって,100%の自信はありませんが,Z14(株)のほうが,より可能性があります。という内容の英文の電子メールを送信した

(甲41の1,
乙35)

Z3は,9月17日,担当する多数の顧客(原告を含む。)に対して,買いの推奨銘柄として,Z32,Z33及びZ34,売りの推奨銘柄として,Z7及びZ14を挙げた電子メールを送信した(乙34)。


Z3は,9月21日,Z9に対して,Z7の公募増資について尋ねたところ,
Z9は,
可能性は否定できない,
やってもおかしくないと答えた
(甲
39,乙4,11,48,証人Z3)。
その際,Z3は,Z9に対して,Z14の公募増資についても尋ねたところ,Z3は,Z9がZ14の公募増資については否定的であると受け止めた(乙6,証人Z3)。
ウ(ア)

Z3は,9月21日,担当する顧客2社(原告は含まれない。)に
対して,
「私は,▲2Z7のショート売りを推奨します。」,
「Z7は,
少なくとも1兆円の海外投資を公表しました。」,「私は,Z35やZ36などの格付けを維持するためのエクイティファイナンスリスクがあると考えています。」,Z7の「デッドエクイティレシオは,他の電力セクターのZ37,Z38と比較しても,非常に低いです。」という内容の英文の電子メールを送信した(甲41の1,乙35)。
(イ)

Z3は,9月21日,担当する多数の顧客(原告を含む。)に対し
て,売りの推奨銘柄として,Z39,Z40及びZ7(買いの推奨銘柄はなし。)を挙げた電子メールを送信した。なお,Z3は,同月22日から同月28日までの間に,
4回,
同様の電子メール
(下記クの電子メー
ルは含まれない。)を送信したが,これらにおいては推奨銘柄としてZ7は挙げられていない。(乙34)

原告及びZ6は,
9月21日,
チャットを通じて以下の内容の英文のメッ

セージを送受信した(甲28の1,40,42の1・2,乙6)。原告

「ところで,Z4ガイが電話してきた‐アナリストが▲1につい
ては否定的だったので,▲2の方がありそうな気がする。」(原

「bytheway,Z4guycalled-morefeellike▲2,asAnalystkindofdenying▲1so.」)

Z6「オッケー,素晴らしい。今週はちょっと様子を見ようかな。」原告

「▲2には,綱引き状態になる材料がいくつもありますね。中間
配当がある。しかし,ガイジンが輸出業者に資金シフトしている
のが逆風になっている。加えてもしこの案件があれば」

Z4證券○部の担当者は,
9月22日,
Z4證券内の多数の者に対して,

同月21日現在のカバレッジリストを電子メールで送信したところ,同リストからZ7の表記は外されていた(乙3,12)。

Z3は,9月24日までに,Z10に対し,9月の最終週に休暇を取得
することが可能かどうかを聞いたところ,Z10は,忙しくなりそうですと答えた(甲39,乙31,証人Z3)。

Z3は,9月24日まで(下記クの電子メールを送信する以前)に,Z
10に対し,9月下旬に顧客とのディナーの予定を入れることができるかどうかを問い合わせた(甲39,乙4,証人Z3)。

Z3は,9月24日(金曜日)午前9時頃,担当する多数の顧客(原告
を含む。)に対して,「公募増資がうわさされているZ17,Z18,Z19,Z20,Z21,Z7は売りを推奨する。」という内容の英文の電子メールを送信した(甲39,43,証人Z3)。
(6)

9月27日における原告及びZ6のチャット等


原告は,9月27日(月曜日)午前9時前頃,Z3に対して,「Z3さ
ん?いらっしゃいますか?」という電子メールを送信し,Z3は,その直後,原告に対して,「今かけますね。」という電子メールを送信した(甲36)。

原告及びZ6は,9月27日午前10時26分頃から42分頃までの間
に,チャットを通じて以下の内容の英文のメッセージを送受信した(甲28の1,40,42の1・2,乙6)。
原告(10時26分)「先週の金曜日の取引のことです。‐Z4全体では,1700億円の売り,2100億円の買い(DMA電子取引
を含む)で,差引き400億円の買越しでした。300億円超の
買い注文があったことを確認している。でも,それがGICかど
うかは確認できていない。しかし,アジア系のガイジンであった
だろうことは間違いないと思います。こうしたグローバルファン
ド,あるいは,SWFは,グローバルに買い注文を出し続ける可
能性があり,月末と月初に向けての調整に関して,まだ買いを終
えていないかもしれないと思います。他の証券会社を通じて今日
もどこかで買い注文が行われている可能性がある。」(注・GI
Cとはシンガポール政府系ファンドのこと,SWFとはソブリ
ン・ウェルス・ファンドの略称。)
Z6(10時28分)「goodstuff

Z41から電話ありましたか?」

(注・Z41とは,原告及びZ6の元同僚のZ41のこと。)
原告(10時28分)「いいえ!!」
Z6(10時29分)「彼は愚か者ですね,僕が思っていたよりも。」原告(10時29分)「ところで,Z4ガイが只今私の携帯電話にメッセージを送ってきた‐案件は29日のような気がする」
(原文
「by
theway,Z4guyjustsentmsgonmymobile–Dealwillbe29th(feellike)」)
Z6(10時34分)「すばらしい。どうも」
原告
(10時38分)
「依然として,
▲2だろうだって」
(原文
「▲2feel
likestilldatte.」)
原告(10時38分)「今,携帯で」(原文「onmobilenow.」)Z6
(10時38分)
「ああ,
明確に売りに一層拍車がかかっています。

原告(10時42分)「▲2が29日だろうということをZ28に伝えてくれた?」
Z6(10時42分)「いいや,だけど伝えるよ。」
原告(10時42分)「よろしく。」

原告及びZ6は,
9月28日午後2時46分頃から53分頃までの間に,
チャットを通じて以下の内容の英文のメッセージを送受信した(甲28の1,42の1,乙6)。
原告「▲2はうまくポジションをもったでしょ?」
Z6「はい。」
原告「ははは」
Z6「素晴らしい。」
原告「私は,昨日売ったよ。よかった!あなたは,29日についてZ28に話してくれたんでしょ?」
Z6「ああ。」
原告「よかった。」
(中略)
Z6「みんな,案件はZ4だと言っている。」
原告「それはないよ。」
原告「絶対▲2。」

Z6及びZ42証券株式会社のZ43は,9月28日午後2時50分頃
までに,以下の内容の英文の電子メールを送受信した(甲7)。
Z43「Z4證券株についてのうわさだ。別のファイナンスがあるらしい。古いうわさなんだけど,今日何か聞いている?」
Z6「確かにZ4證券株のことでメールを送ってきた人がいた。とはいえ,正確な情報とは思えない。たぶん,あり得るのは▲2の方
だ。そういうメールを送ってくれた人がいる。Z7株は大きく
値崩れしている。」
Z43「でも,Z7は融資を受ければ済むんじゃないの。銀行はどこもみな進んで融資するだろう。銀行は融資先に困っているんだか
ら。
その話には,
無理があると思う。
情報源は信頼できるの?」
Z6「ガイジン証券営業員だ。間違っているかもしれない。でも上層部と話ができる人だ。だから,正しいかもしれない。現に株価は
そのように動いている。」
(7)

本件売付け等


原告は,9月27日午後2時58分以降,本件売付けをした(前提事実(2))。


Z6は,9月15日から10月4日にかけて,別表「Z7株

注文約定

一覧(Z5Z6)」のとおり,東京証券取引所において,証券会社を介するなどして,Z5名義及びZ5の発注を受託している証券会社名義の証券口座により,Z7の株式を売買した(甲4,乙22ないし24,27,28)。

処分行政庁は,平成25年6月27日付けで,原告に対し本件決定をするとともに,Z5に対し,課徴金1468万円を同年8月28日までに国庫に納付することを命ずる旨の決定をした。同決定においては,上記イのうち平成22年9月28日午前9時から午後2時34分までの間に,Z7の株式合計3万5000株を合計8051万8900円で売り付けたことが,法175条1項1号,166条3項に該当するとされた。なお,同決定時には,Z5は,上記違反事実を認めていた。(甲1)

2
上記1の事実認定に関する補足説明
(1)

9月9日,同月14日及び同月21日のチャット


原告は,9月9日のチャットにおいて送信した「Z4guysaying-Z7
rumoreddealyesterday..?」というメッセージにつき,「Z4の証券営業員が言っています。昨日,Z7の公募増資のうわさが(市場に)出ましたか?」という意味であり,「昨日,Z7の公募増資のうわさが(市場に)出ましたか?」という部分は,Z4guyの発言ではなく,原告の発言であると陳述する(甲28の1)。
しかし,「Z4ガイが言っている」としながら,その後の文章がZ4ガイの発言ではないというのは極めて不合理な説明である。原告が,Z6に対してZ7の公募増資のうわさを聞いたかどうかを質問するだけであれば,「Z4guysaying」という部分は不要であるし,Z6が「昨日」うわさを聞いたかと質問するのも意味不明であり,「昨日」という部分は,Z4ガイが昨日,Z7の案件のうわさを聞いたという意味にしか考えられない。したがって,原告の上記陳述を採用することはできず,このメッセージの訳文としては認定事実(3)ウ(ア)のとおりとするのが相当である。イ
原告は,
9月14日のチャットにおいて送信した
「▲2-bytheway..just

Z4guycalled.today'sZ27saying1trnyinvestingfor10yrs.Stockhasbeensoldthesedays,..youhearingany?Z4guysaysstillfeellike▲1tho..notsuresureyetso.」というメッセージのうち,「1兆円規模の投資を今後10年間で行うとZ27が報じている」,「株はこの頃売られている」という部分は,Z4ガイの発言ではないと陳述する(甲28の1)。
しかし,上記アと同様,「Z4ガイが電話してきた」としながら,その後の文章がZ4ガイの発言ではないというのは極めて不合理な説明であり,少なくともZ27新聞の報道内容の説明は,原告がZ4ガイから聞いた話と読むべきである(原告が,Z27新聞を読んで,その内容を伝えるというなら,「justZ4guycalled.」の部分は不要である。)。ウ
原告は,
9月21日のチャットにおいて送信した
「bytheway,Z4guy

called-morefeellike▲2,asAnalystkindofdenying▲1so.」というメッセージにつき,「ところで,(知り合いの)Z4の証券営業員が電話してきました。私は,Z7の方がありそうな気がします。アナリストは,
なんだかZ14は否定的だったようですし。という意味であり,

「more
feellike▲2,asAnalystkindofdenying▲1so.」の部分はZ4guyの発言ではなく,原告の発言であると供述する(甲28の1,40,42の2,原告本人)。
しかし,原告は,「asAnalystkindofdenying▲1so.」という部分は,Z3からこのままを聞いたというよりは,Z3が何らかの形でアナリストが何だか否定的だったような印象を受けていて,それを原告が聞いたのだと思うとも供述しており(原告本人),原告も,Z3から聞いた内容そのままかはともかく,Z3から聞いたことであるとは認めている(少なくとも,原告が「Analyst」から直接聞いたことを記載したものではないことは明らかである。)。
「morefeellike▲2」という部分は,「Z4guycalled-」に続けて記載されており,Z4ガイの発言ではないというのは極めて不合理な説明であり,その後の「asAnalystkindofdenying▲1so.」という部分が,Z3から聞いたものであるのに,「morefeellike▲2」という部分だけが,原告の発言とは読みようがない。したがって,原告の上記供述を採用することはできない。
もっとも,証券取引等監視委員会証券調査官は,「アナリストがZ14については否定したので,Z7について,Z14よりも可能性が高いとのこと。」と訳しているが(乙6),「kindof」や「feellike」という部分を捨象しており,
このメッセージの訳文としては認定事実(5)エのとおり
とするのが相当である。
(2)

認定事実(5)キのZ3のZ10に対する問合せについて


Z3の平成24年4月24日付け質問調書には,「私は,平成22年9
月下旬ころ,私の担当する機関投資家のディナーを平成22年9月29日に入れようと考え,確か,募集担当者に確認したところ,その日は,何かがあるかもしれない。規模は大きいかもしれないなどと言われたと記憶しています。」という記載があり(乙4),Z3の陳述書にも同旨の記載がある(甲39)。Z3は,本件決定に係る審判手続の参考人審問において,指定職員から上記質問調書の内容を読み上げられ,間違いないかと質問されて,「はい。その言葉どおりにそのままZ10と話したかどうかはわかりませんけれども,そのような内容の趣旨だったかと思います。」と答えている(乙48)。
しかし,Z3は,証人尋問において,上記質問調書作成時,9月29日にディナーの予約を入れようとしたという日付を特定した明確な記憶はなく,9月下旬頃にディナーの予約を入れようとしたという記憶があっただけである,Z10からどのような回答であったか明確な記憶はなかったと証言する。

上記アのように,Z3は,証人尋問において,質問調書,陳述書及び参考人質問における供述内容を変遷させており,特に,陳述書において明確な記述がある上,参考人審問において端的な質問に対し間違いない旨述べている。
もっとも,
Z3は,
証人尋問において,
証券調査官から9月29日頃に,
顧客とのディナーや休暇等について何か記憶がないか執拗に質問され,質問調書が作成された平成24年4月24日の時点では日付を特定した記憶がなく,9月下旬頃にディナーの予約を入れようとしたと述べただけである旨証言し,また,Z10の回答についても,その前後にZ10から同じようなことを言われたことがあり,9月下旬頃も同じような回答だったのではないかと考えて,証券調査官に話したと証言しており,これらの説明をあながち不合理であると断ずることはできない。
一方,Z10は,後記3(4)イ(ア)のとおり,上記Z3とのやり取りの時点において,本件公募増資についてイン登録されておらず本件公募増資の公表日を知っていたとは認められない上に,Z3からの休暇等の取得の可否に対しては社内の人間関係を考慮して応じていたが,同時にこれを警戒していたものであり(乙1),仮にZ3が日付を特定して休暇等の取得の可否を尋ねた場合に,Z3の上記質問調書等における供述のように当該日付の日に重要事実に係る公表等が行われることを強く示唆するような回答をなし得たのか否かについて疑問を容れる余地があるところ,Z10の質問調書(乙1,2)には上記Z3とのやり取りに関する具体的な記載はなく,その他,Z3の上記供述を裏付ける証拠はないのであって,本件証拠上,これをそのまま採用することは困難といわざるを得ず,認定事実(5)キの事実の限度で認定するのが相当である。
(3)

9月27日のチャット


原告は,
9月27日のチャットにおいて送信した
「bytheway,Z4guy

justsentmsgonmymobile–Dealwillbe29th(feellike)」というメッセージにつき,「ところで,Z4の証券営業員が,私の携帯電話にちょっとメッセージを送信してきました。私は,公募増資の実施公表は29日になるだろうと思います(そんな気がするのです)。」という意味であり,「Dealwillbe29th(feellike)」の部分は,Z4ガイのメッセージの内容ではなく,原告自身の推測を述べたものである,
「bytheway,Z4guy
justsentmsgonmymobile」と記載したのは,同チャットより前にされた午前10時26分の原告のチャット(Z4全体で1700億円の売り,2100億円の買いがあったことなど)を受けたものであり,これがZ4ガイのメッセージの内容であったと供述する(甲28の1,40,42の2,原告本人)。
しかし,「Z4ガイがメッセージを送ってきた」としながら,その後の文章がそのメッセージの内容ではないというのは極めて不合理な説明であり,午前10時26分のチャットが,その後若干のやり取りを経てされたチャットにおいてZ4ガイのメッセージの内容であったと説明するというのも不合理である。原告は,午前10時26分のチャットは,本来,もっと早い時間帯に送信しなければならないものであり,このように送信が遅くなったのは,Z4ガイからの連絡が遅かったからであるということを伝えるために「bytheway,Z4guyjustsentmsgonmymobile」と記載したと供述するが(原告本人),チャットの経過からしてそのように考えることは到底できない。したがって,原告の上記供述を採用することはできず,このメッセージの訳文としては認定事実(6)イのとおりであり,「案
件は29日のような気がする」という部分は,Z4ガイのメッセージの内容と認めるのが相当である(なお,認定事実(3)アによれば,Z4ガイとはZ3のことを指す。)。
そうである以上,Z3は,この直前に,原告の携帯電話にその旨の電子メールを送信したことが推認される(「sentmsg」という以上,電子メールを送信したものと考えられる。甲40)。

その後,原告は,「▲2feellikestilldatte.」というメッセージを
送信したところ,「▲2のような気がする『だって』。今でもなお,そういう気がしているそうです。」という意味であると供述するところ(甲28の1,
40,
42の2,
原告本人),feellikeのニュアンスはともかく,
これがZ3の発言内容を指すことは原告も認めるところである(「datte」とある以上,原告の認識を示すものと解することはできない。)。ウ
原告は,「onmobilenow.」は「今,携帯電話で電話中です。」という
意味であると供述するが(甲42の2,原告本人),陳述書等においては「今,携帯電話でそう言っていました。」という意味であると陳述していた(甲28の1,40)。
いずれにせよ,上記イのとおり,「▲2feellikestilldatte.」という部分は,Z3の発言内容(又は電子メールの内容)であり,「onmobilenow.」の部分は,「▲2feellikestilldatte.」の部分がZ3からまさに連絡を受けた内容を示す趣旨に理解される。
この点について,原告は,「bytheway,Z4guyjustsentmsgonmymobile–Dealwillbe29th(feellike)」という午前10時29分のチャットと「▲2feellikestilldatte.」という午前10時38分のチャットの間の9分間に,Z3から原告に電話があったと思うとした上で,Z3が午前10時29分のチャットの直前に「Z7の公募増資実施公表は29日らしい」と伝えたのだとすれば,その後の電話で原告がZ3はZ7のような気がしていると受け止めるような会話がされるはずはないと供述する(甲40,原告本人)。
しかし,仮に,上記9分間の間に原告とZ3が電話で話したという経過があったとしても,Z3が「案件は29日のような気がする」という電子メールを送信し,原告が電話でZ3にどの案件かを確認して,
「▲2feel
likestilldatte.」というチャットをしたということも考えられ,原告が供述するように,電話で原告がZ3はZ7のような気がしていると受け止めるような会話がされるはずはないなどということはできない。

Z3及び原告は,Z3が,原告に対して,Z7の公募増資の公表が9月
29日にされることについて,
推測を含め,
伝達したことを否定するが
(甲
40,証人Z3,原告本人),上記アないしウのとおり,同月27日の原告及びZ6のチャットの内容から,Z3が,原告に対して,Z7の公募増資の公表が同月29日にされることに関する何らかの情報を伝達したことが推認されるのであり,この点を否定するZ3及び原告の供述は採用できない。
3
争点(1)(Z3が職務に関し重要事実を知ったか否か。)について(1)

本件公募増資の決定について
認定事実(1)ア,イによれば,Z7においては,8月30日までに,本件公
募増資を実施すること,及び,本件公募増資を9月29日に決議し公表することが決定されたと認めるのが相当である。
(2)

Z9及びZ10の認識について

Z9について
Z9は,認定事実(2)イのとおり,9月上旬頃までに,他部署の職員から
Z7の公募増資が公表された後の投資家への説明会と予想されるスケジュールを打診され,Z7が公募増資を行う可能性があると認識し,同月15日には,Z11から,アナリスト・レポートの通番の連絡を求める電子メールを受信したのであって,
認定事実(2)イ(ウ)のとおりのZ4證券に
おけるアナリスト・レポートに関する取扱いや,Z11からコンプライアンス対策であるとか法令違反になるという説明が付されていたことにも照らせば,Z9は,その供述のとおり(乙5),同日の時点において,近い将来,Z7の公募増資が公表されることを認識したと認められる。イ
Z10について
Z10は,認定事実(2)ウ(エ)のとおり,9月24日,本件公募増資につ
いてイン登録され,本件公募増資が同月29日に公表されることを知ったと認められる。
(3)

9月21日頃までのZ3の認識について(Z9とのやり取り等)


9月8日及び同月9日頃
Z3は,9月8日及び同月9日,Z9からZ7に関する記載もされているバリュエーションシートの送付を受けている(認定事実(3)イ)。認定事実(3)ウ(ア)のとおりの原告及びZ6のチャットからすると(原告

のメッセージにおける「Z4ガイ」及び「彼」はZ3のことであると認められる。),Z3は,その頃,原告に対し,アナリストらに確認した結果,アナリストらはZ7が公募増資をするとは思っていないこと,Z3自身としてはZ14が公募増資を行うような気がすることを伝えたことが推認される。これによれば,Z3は,Z9及びZ9以外のアナリストと接触したことがうかがわれるが,その結果,当該アナリストらから,どのような情報を伝えられ,又は,伝えられなかったのかを認定するに足りる証拠はない。また,Z3が,Z14のような気がすると言うほか,Z9からZ7に関する記載も含むバリュエーションシートの送付を受けた事実にも照らせば,この時点において,Z3が,Z7が公募増資を実施すると決定したことを知ったものとは認められない。

9月14日頃
Z7は,9月13日,本件経営ビジョンを発表したところ(認定事実(1)ウ(ア))Z3は,

原告やZ13に対して,
「Z7は,
増資よりも営業キャッ
シュフローでの蓄積と述べた」という記載のあるZ25証券株式会社のアナリスト・レポートを紹介する電子メールを送信したほか,同電子メールに対するZ13からの返信を受けて,Z9に対して同アナリスト・レポートについてのコメントを求めたものの,Z9から確たるコメントは得られなかったというのである(認定事実(4)ア)。
認定事実(4)イの原告及びZ6のチャット「Z4ガイは依然として▲1(

らしいと言っている。」)によれば,Z3は,9月14日頃,原告に対して,Z14が公募増資を行う可能性について連絡したことが推認され,上記アの事実やZ3が本件経営ビジョンの発表を受けて送付した電子メールの内容にも照らせば,Z3は,この頃,Z7よりもZ14の公募増資の可能性の方が高いと考えていたことが認められ,Z9から上記アナリスト・リポートに関する確たるコメントを得られなかったことも踏まえると,この時点において,
Z3が,
Z7が公募増資を実施すると決定したことを知っ
たものとは認められない。

9月16日
Z3は,9月16日,自身が担当する顧客2社に対して,Z7よりもZ14の方が公募増資を行う可能性がある旨の英文の電子メールを送信しており(認定事実(5)ア),上記イと同様,同日時点でも,Z3が,Z7が公募増資を実施すると決定したことを知ったものとは認められない。エ
9月21日
(ア)

Z3は,9月21日,Z9に対して,Z7及びZ14の公募増資に
ついて尋ね,Z9がZ14の公募増資については否定的であると受け止めたことが認められる(認定事実(5)イ)。
もっとも,
上記Z3及びZ9の会話については,
認定事実(5)イで認定
した以上に具体的な発言や状況を認めるに足りる証拠はなく,特に,Z9がZ14の公募増資についてどのような発言をし,その結果,Z3がZ9はZ14の公募増資については否定的であると受け止めたのかは明らかではない。Z7の公募増資についても,Z9は,可能性は否定できない,やってもおかしくないと答えたと認められるのみであり,上記(2)アのとおり,Z9は,この時点で,近い将来,Z7の公募増資が公表されることを認識していたとはいっても,少なくとも,9月21日のやり取りにより,Z3に対して,Z7が公募増資を実施すると決定したことを伝えたと認めることはできない。また,可能性は否定できない,やってもおかしくないという回答からは,Z9は,Z7が公募増資を実施する可能性を否定しなかったといえるのみであり,Z7が公募増資を実施すると決定したことを示唆したということもできない。
(イ)

9月21日の原告及びZ6のチャット(認定事実(5)エ)によれば,
Z3は,原告に対して,アナリストがZ14の公募増資については否定的であったので,Z7の公募増資の方がありそうな気がすると電話で伝えたことが推認される。
そうすると,Z3が,Z9との会話の結果,Z14とZ7とを比較した場合に,Z7の方が公募増資を実施しそうであるという感触を得たとはいえるものの,
認定事実(5)ウ(ア)のZ3の電子メールからは,
Z3は,
Z7の本件経営ビジョンの内容やデッドエクイティレシオに係る分析から,Z7の公募増資の可能性について推測したとも考えられ,上記(ア)の検討を踏まえれば,Z3が,同日時点で,Z7が公募増資を実施すると決定したことを知ったものとは認められない。

カバレッジリスト
認定事実(5)オのとおり,9月21日現在のカバレッジリストにおいて,Z7の表記は外されていたが,Z3がこれを認識したと認めるに足りる証拠はない。

(4)

9月24日頃のZ3の認識について(Z10とのやり取り)
Z3は,9月24日までに,Z10に対し,9月の最終週に休暇を取得することが可能かどうかを聞いたり,9月下旬に顧客とのディナーの予定を入れることができるかどうかを聞いたりしたことが認められる(認定事実(5)カ,キ)。

イ(ア)

Z10は,上記(2)イのとおり,9月24日,本件公募増資につい
てイン登録され,本件公募増資が同月29日に公表されることを知ったと認められるところ,Z10とZ3との上記の各会話が,Z10がイン登録された後のことであったのかどうかについて,Z10の質問調書(乙1,2)には何らの記載もないし,Z3は,Z10がイン登録されたかどうかは,営業員には知らされていなかったと証言しており(甲39,
証人Z3)他にこの点を認めるに足りる証拠はない。

そうすると,
Z10が,Z3と上記の各会話をした際に,本件公募増資についてイン登録されていたと認めることはできず,同各会話をもって,本件公募増資が同月29日に公表されることを知っているZ10から,Z3に対して,この点が伝わったということはできないというほかない(なお,Z10は,同月24日のイン登録以前に本件公募増資がされることを知っていたとは供述しておらず(乙1,2),他にそのように認めるに足りる証拠もない。)。
(イ)

また,Z3は,8月頃,Z10が休暇を取得できると答えた時期に公募増資が実施されたことがあり,Z10は,正確な情報を知らされているわけではないか,わざと嘘を言っているかもしれないと考えていたと証言している(甲39,証人Z3)。この点,Z10は,証券取引等監視委員会の証券調査官に対して,たとえ案件が予定されても,悟られないよう「大丈夫じゃないですか」などといつも同じ回答をしていたと供述したことがあったが,証券調査官に追及されると心配したことや,Z3を庇おうとしたため,事実と異なる供述をしたと述べる(乙1)。しかし,このZ10の説明は,いつのどの案件に関するZ3とのやり取りについて述べたものかも判然とせず,これをもってZ3の上記証言が直ちに採用できないものであるということはできない。そして,Z3の上記証言によれば,Z3がZ10の回答をそのとおりに受け取ったのかどうかについても慎重に検討する必要があるというべきである。
ウ(ア)

認定事実(5)カ(Z3が9月の最終週に休暇を取得することが可能
かどうか聞いたところ,Z10が忙しくなりそうですと答えた。)についてみると,既に8月後半頃に営業二部の全ての営業員に対して9月最終週に夏季休暇の取得を控えるように指示されていたから(認定事実(2)ウ(ウ)),9月最終週が忙しくなりそうであるということは,上記8月後半頃の指示の際の状況に変化がないことを述べるものにすぎない。
(イ)

認定事実(5)キ(Z3が顧客とのディナーの予定を入れることがで
きるか問い合わせた。)についてみると,本件証拠上,Z3が9月29日にディナーの予定を入れようとしたところ,Z10が,その日は何かがあるかもしれない,規模は大きいかもしれないと答えたとは認定できないことは,上記2(2)で説示したとおりであり,この際のZ10とのやり取りから,Z3がZ7が公募増資を実施すると決定したことやその公表日について知ったとは認められない。
仮に,Z10がその日(9月29日)は何かがあるかもしれない,規模は大きいかもしれないと答えたということがあったとしても,上記(3)のとおり,Z3は,Z9とのやり取りにより,Z7が公募増資を実施すると決定したことを知ったとは認められず,Z10の回答も,特定の企業につき特定の事実があると示すものではないから,Z3が,これにより,Z7の公募増資のことを指すと認識することはできない。この時点で,Z3が,Z9とのやり取り等により,Z7の方がZ14よりも公募増資を実施しそうであるという感触を得ていたことを踏まえると,Z10がいう「規模の大きい何か」とはZ7の公募増資のことではないかと推測することができたという余地がないではないが,それは飽くまで推測の域を出るものではない。また,Z10の上記回答は,9月29日にディナーの予定を入れることができるかというZ3の問いに回答したものであるところ,上記イ(ア)のとおり,同回答はZ10がイン登録された後にされたものとはいえず,Z10が9月29日にZ7について公募増資が行われることを認識していたとはいえないことからすれば,Z10が「その日」と回答した点は,Z3の問いに対応させて回答したということを超えて9月29日に確定的に何かがあるという意味まで含んだ発言であるとは必ずしも評価できない。したがって,これによりZ3がZ7の公募増資の実施を知ったと認めることはできない。エ
Z3は,認定事実(5)クのとおり,9月24日午前9時頃,担当する多数の顧客に対して,
「公募増資がZ17,Z18,Z19,Z20,Z21,
Z7は売りを推奨する。という内容の英文の電子メールを送信している。」
この電子メールにおいて,Z3は,Z14を挙げずにZ7を挙げているから,9月21日のZ9との会話以前には,むしろZ14の方が公募増資の可能性があると考えていた(上記(3)イ,ウ)ところ,同日のZ9との会話も踏まえて,その認識を改めたことが認められるものの,Z10に対する上記問合せをした後に送信された上記電子メールにはZ7以外にも5社の銘柄が挙げられており,やはり,Z3が,Z9やZ10との会話によって,
Z7が公募増資を実施すると決定したことを知ったとは認められない。また,
Z3は,
認定事実(4)イ,
(5)エのとおり,
Z9との接触の直後に,
原告に対してこれを踏まえた連絡をしているものの,Z10との各会話がされた直後に,原告に対してこれを踏まえた連絡をしたと認める証拠はない。仮に,被告の主張するようにZ10とのやり取りにより,Z3が9月29日にZ7の公募増資が公表されることを知ったというのであれば,Z3から原告に対してその情報が速やかに伝えられるはずであるところ,同月27日にZ3から原告に対してZ7の公募増資の公表日に係る情報が伝えられた
(後記(5)ア)
際の原告とZ6とのチャットでのやり取りの内容に
照らせば,当該情報はその時点で初めてZ3から原告に伝えられたことがうかがわれるのであるから,この点からも,Z3がZ10との上記各会話によりZ7の公募増資の実施等を知ったとすることには疑問が残る。オ
以上のとおり,Z3は,Z10との各会話により,Z7が公募増資を実施すると決定したことや,それが9月29日に公表されることを知ったとは認められない。

(5)

9月27日におけるZ3から原告への連絡について


上記2(3)エのとおり,
9月27日の原告及びZ6のチャットの内容から,

Z3が,原告に対して,Z7の公募増資の公表が同月29日にされることに関する何らかの情報を伝達したことが推認されるというべきであるが,Z3が送信した電子メールの具体的な内容を認める証拠はない。
原告がZ6に送信したメッセージにおいては,「案件は29日のような気がする」「willbe」「(feellike)」,


)「▲2だろう」「feellike」


などと曖昧な表現が用いられており,Z3は,原告に対して,Z7の公募増資の公表が9月29日にされると確定的に伝えたのではなく,そのような気がするなどの曖昧で不確定な表現を用いたことが推認される。イ
Z3は,9月27日までの間に,Z7の公募増資の公表が同月29日に
されるといううわさに接したり,複数の情報を総合してそのように推察したりしたものと考え得るが,上記(3),(4)で検討したように,Z3が,Z9やZ10とのやり取りを通じて,Z7が公募増資を実施すると決定したことや,それが同日に公表されることを知ったとは認められない。Z3が同月27日に原告に電子メールを送信するなどしたことの直接の契機になったのが,認定事実(5)カあるいはキのZ10との会話であるとすれば,上記(4)エのとおり,
同日まで原告に対して連絡をしていないことは不可解
である。
Z3が,Z10との上記会話の後,別の情報に接し,それに基づいて,9月27日に原告に電子メールを送信するなどしたとも考えられないではないが,同日の原告とZ6のチャットの内容を踏まえてみても,Z3が,Z10との上記会話の後,別の情報に接したはずであると断定することはできないし,Z3が接したと考え得る情報を具体的に認定することも到底できない。
なお,認定事実(6)ウのとおり,原告は,9月28日,Z6に対して「絶対▲2。」というチャットをしており,原告は,この時点でZ7が公募増資をするということに強い確信を持っていたことがうかがわれるが,他方で,認定事実(6)エのとおり,原告と頻繁にやり取りをし,情報を共有していたZ6が,
同日,
Z7の公募増資に関して
「間違っているかもしれない」
し,「正しいかもしれない」などとする電子メールを送信するなどZ7の公募増資について半信半疑であったことなどを踏まえると,上記以上にZ3の認識を具体的に認定することはできない。

以上のとおり,
9月27日の原告とZ6のチャットの内容から,
Z3は,
同日までの間に,Z7の公募増資の公表が同月29日にされるといううわさに接したり,複数の情報を総合したりしてZ3自身がそのように推察したものと考え得るものの,それ以上に,Z3の認識を具体的に推認することはできない。上記チャットの内容により,Z3が,Z7が公募増資を実施すると決定したことや,その公表が同日にされることを知ったとは認められない。
(6)

小括
以上のとおりであって,本件証拠上,Z3が,本件公表前に,Z7が公募
増資を実施すると決定したことや,それが9月29日に公表されることを知ったとは認められない。
第4

結論
したがって,本件売付けは,その余の点について判断するまでもなく法166条3項に該当せず,本件決定は違法であり,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

池俊之橋心平田好英
別紙2
金融商品取引法の定め

1
166条(会社関係者の禁止行為)
(1)

1項
次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であっ
て,2条1項5号,7号又は9号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)で金融商品取引所に上場されているもの,店頭売買有価証券又は取扱有価証券に該当するものその他の政令で定める有価証券の発行者(以下「上場会社等」という。)に係る業務等に関する重要事実(〔括弧内略〕)を当該各号に定めるところにより知ったものは,当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ,当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。〔以下略〕
1号

当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員(〔括弧内略〕),代理人,使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。)

その者

の職務に関し知ったとき。
2号

当該上場会社等の会社法433条1項に定める権利を有する株主若し
くは優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者又は同条3項に定める権利を有する社員(これらの株主,普通出資者又は社員が法人(〔括弧内略〕)であるときはその役員等を,これらの株主,普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)

当該権利の行使に関し知った

とき。
3号

当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者
当該権限の行使

に関し知ったとき。
4号

当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を,その者が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)であって,当該上場会社等の役員等以外のもの

当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったと

き。
5号

2号又は前号に掲げる者であって法人であるものの役員等(その者が役員等である当該法人の他の役員等が,それぞれ2号又は前号に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った場合におけるその者に限る。)

(2)

その者の職務に関し知ったとき。

2項
前項に規定する業務等に関する重要事実とは,次に掲げる事実(1号,2
号,5号及び6号に掲げる事実にあっては,投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)をいう。1号

当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。


会社法199条1項に規定する株式会社の発行する株式若しくはその処分する自己株式を引き受ける者(〔括弧内略〕)の募集(〔括弧内略〕)又は同法238条1項に規定する募集新株予約権を引き受ける者の募集
ロないしヨ

〔略〕

2ないし8号

〔略〕

(3)

3項
会社関係者(〔括弧内略〕)から当該会社関係者が1項各号に定めるとこ
ろにより知った同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であって,当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知ったものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であって,その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知ったものは,当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ,当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。
(4)
2
4ないし6項

〔略〕

175条(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令)
(1)

1項
166条1項又は3項の規定に違反して,同条1項に規定する売買等をし
た者があるときは,内閣総理大臣は,次節に定める手続に従い,その者に対し,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める額(次の各号のうち2以上の号に掲げる場合に該当するときは,当該2以上の号に定める額の合計額)に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
1号

166条1項又は3項の規定に違反して,自己の計算において有価証券の売付け等(同条1項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日以前6月以内に行われたもの(当該公表がされた日については,当該公表がされた後に行われたものを除く。)に限る。以下この号において同じ。)をした場合

次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控

除した額

当該有価証券の売付け等について当該有価証券の売付け等をした価格にその数量を乗じて得た額


当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額
2及び3号
(2)

2項

(3)

〔略〕

〔略〕

3項
前2項の「有価証券の売付け等」とは,有価証券の売付け,2条21項2号
に掲げる取引(現実数値が約定数値を上回った場合に金銭を支払う立場の当事者となるものに限る。)、同項3号に掲げる取引(オプションを付与する立場の当事者となるものに限る。)その他の政令で定める取引をいう。(4)

4項

(5)

〔略〕

5項
1項1号ロの「業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最
も低い価格」とは,166条1項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた時から2週間を経過するまでの間の各日における67条の19又は130条に規定する最低の価格(〔括弧内略〕)のうち最も低い価格をいう。(6)
3
6ないし12項

〔略〕

176条(課徴金の額の端数計算等)
(1)

1項
172条から前条までの規定により計算した課徴金の額が1万円未満である
ときは,課徴金の納付を命ずることができない。
(2)

2項
172条から前条までの規定により計算した課徴金の額に1万円未満の端数
があるときは,その端数は,切り捨てる。
(3)

3項
172条から前条までの規定による命令を受けた者は,これらの規定による
課徴金を納付しなければならない。
(4)

4項

〔略〕
以上
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