判例検索β > 平成27年(わ)第362号
殺人 窃盗 詐欺 有印私文書偽造 同行使
事件番号平成27(わ)362
事件名殺人 窃盗 詐欺 有印私文書偽造 同行使
裁判年月日平成28年12月19日
法廷名大分地方裁判所
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平成28年12月19日宣告
平成27年(わ)第362号,第386号,平成28年(わ)第21号判決主文
被告人を懲役22年に処する
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
押収してある払戻請求書1枚(平成28年押第3号符号1)の偽造部分を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

平成27年8月3日午後5時頃から同月5日午前8時30分頃までの間,
大分県別府市a町b番c号Aビル西側駐輪場において,同所に駐輪してあったB所有の自転車1台(時価約9000円相当)を窃取し
第2

同年9月14日午後4時45分頃,同市d町e番f号C南側路上において,
同所に駐車してあった自動車内から,D所有の現金2万4050円及び財布等2点在中の手提げバッグ1個(時価合計約6000円相当)を窃取し
第3

同月27日午前10時58分頃から同日午後7時12分頃までの間,同市
g町h番i号Eマンションj号室F方において,G(当時60歳)に対し,殺意をもって,ひも状の物をその頸部に巻き付けて締め付けるなどし,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し第4

同日午前10時58分頃から同月28日午後4時2分頃までの間,前記F
方において,前記Gが所有し又は管理するクレジットカード及び総合口座通帳等20点(時価合計約2000円相当)を窃取し
第5

判示第4のとおり不正に入手したHクレジットサービス株式会社発行の前
記G名義のクレジットカードを使用して商品をだまし取ろうと考え
1
同月27日午後2時56分頃,同市a町k番地のlI2階J店において,同
店店員Kに対し,真実は,同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるかのように装って,同クレジットカードを提示してTシャツの購入を申し込み,同人を,被告人が同クレジットカードの正当な使用権限を有する者であり,後日同クレジットカードシステム所定の方法により代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,その頃,同所において,KからTシャツ1枚(販売価格6900円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ
2
同日午後4時10分頃,同市mn番o号L専門店棟3階Mにおいて,同店店
員Nに対し,真実は,同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるかのように装って,同クレジットカードを提示して靴の購入を申し込み,同人を,被告人が同クレジットカードの正当な使用権限を有する者であり,後日同クレジットカードシステム所定の方法により代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,その頃,同所において,Nから靴1足(販売価格8640円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ
第6

判示第4のとおり不正に入手した前記G名義の総合口座通帳及び印鑑を使
用して預金払戻しの名目で現金をだまし取ろうと考え,同月28日午後2時48分頃,同市mn番o号株式会社O銀行P支店において,行使の目的で,同支店備付けの払戻請求書のおなまえ欄に「G」,金額欄に「¥300000」などとそれぞれ記入した上,お届け印欄に前記印鑑を押印し,もって前記G名義の払戻請求書1通(平成28年押第3号符号1)を偽造した上,その頃,同所において,同支店従業員Qに対し,前記偽造の払戻請求書1通が真正に作成されたもののように装い,同払戻請求書及び前記総合口座通帳を提出行使して現金30万円の払戻しを請求し,同人に,正当な権限に基づく払戻請求であると誤信させ,よって,その頃,同所において,同人から現金30万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ
たものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の数字は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。判示全事実について
・被告人の公判供述
判示第1の事実について
・Bの警察官調書抄本(甲81)
・捜査報告書(甲120)
判示第2の事実について
・Dの警察官調書抄本(甲88)
・捜査報告書(甲121)
判示第3ないし第6の各事実について
・証人Fの公判供述
・捜査報告書(甲130ないし132)
判示第3及び第4の各事実について
・証人Rの公判供述
・Sの検察官調書(甲58)
・捜査報告書(甲126ないし129)
判示第5の1の事実について
・Kの検察官調書(甲96)
・捜査報告書(甲122)
判示第5の2の事実について
・Nの検察官調書(甲102)
・捜査報告書(甲123)
判示第6の事実について
・証人T,同Qの各公判供述

・捜査報告書(甲124,125)
・押収してある払戻請求書1通(平成28年押第3号符号1)
(争点に対する判断)
弁護人は,判示第3の事実について,被告人は被害者を殺害した犯人ではなく,被害者は次女であるFによって殺害されたと主張する。また,判示第4ないし第6の事実について,被告人が被害者名義のクレジットカード及び総合口座通帳等20点(以下「本件被害品」という。)をFから受け取り,Fの承諾を得て,Tシャツや靴を購入したり,30万円を払い戻したりしたと主張する。
関係証拠によれば,被害者の遺体発見時に前記Eマンションj号室F方(以下「j号室」という。)が施錠されており,被害者を殺害した犯人は,F方の鍵を持っていた被告人かF以外に考え難く,この点は弁護人も争っていない。そこで,本件の主たる争点は,被告人が殺人の犯人であるか否かであり,特に,被害者の殺害に関与したことや,被告人に本件被害品を渡したことを否定するFの証言が信用できるか否かが中心的な問題となる。
1Fの証言を除く証拠から認められる事実及びこれから推認できる事実(1)証拠から明らかに認められる事実について

被告人は,平成27年9月30日(以下,年を記載しない月日は,平成27
年のことである。)に逮捕された際,本件被害品,すなわち,被害者名義のクレジットカード,総合口座通帳,印鑑のみならず,健康保険証や領収書を含む20点を所持していた。これらは通常他人に渡すことが考えにくい物品であり,その持ち主が殺害されていることからすれば,被告人が被害者を殺害して,本件被害品を奪ったことが推認される。

被害者のボストンバッグ内の封筒4枚(そのうち3枚が銀行のもの)に被告
人の指紋が付いていた。そして,被告人が被害者から煙たがられており,良好な関係ではなかったことからすれば,被害者が被告人にバッグの中を触らせるなどした可能性は考えにくく,被告人が被害者を殺害してバッグを物色したことが推認され
る。

被害者の両足首に巻かれていた結束バンドから被告人のDNA型と一致する
DNAが検出されたことから,被告人が被害者の足首に結束バンドを巻いた際にDNAが付着したと考えられる。そして,犯行以外の機会に被害者の足首に結束バンドを巻く可能性は考えにくいから,被告人が被害者を殺害し,その足首に結束バンドを巻いたことが推認される。
また,被害者のジーパンやTシャツからも,被告人のDNA型と一致するDNAが検出されている。被告人と被害者との関係からすると,犯行以外の機会に被告人がこれらに触った可能性は考えにくいから,この点も被告人が被害者を殺害したことを推認させる。
他方,遺体の近くにあったソファーの下部からも被告人のDNAが検出されているが,被告人が以前からj号室に出入りしており,他の機会に付着した可能性があるから,被告人が犯人であることを推認させる事実とはいえない。エ
被告人は,本件後,子供の頃からの知人であるSに対し,「人を殺しちゃっ
た」と発言している。被告人が,親しい相手に対して自発的に発言する一方,警察には罪を認めるような話をしていないことからすると,被告人が誰かをかばってうその話をした可能性は考えにくく,被告人が犯人であることを推認させる。(2)Rの証言について
元勤務先の社長であるRは,当公判廷において,被告人から,「社長,僕がやったのは殺人罪です」と聞いたと証言している。
Rには,殊更に被告人を陥れるようなうそをつく理由はない上,Rが述べる被告人の発言は具体的で明確であり,聞き違いや勘違いをしている様子もうかがえない。Rの証言は信用でき,被告人がRに上記の発言をしたことが認められる。そして,被告人がRに対しうその話をした可能性は考えにくく,被告人が犯人であることを推認させることは,Sに対する発言と同様である。
(3)

以上のとおり認定した各事実を総合すると,被告人が犯人であることを推認
させる力は非常に強いというべきである。
2以上を前提に,Fの証言の信用性を検討する。
(1)

Fは,「被告人に本件被害品を渡していないし,それらを使って買い物をし
たり預金の払戻しをしたりすることも承諾していない」「被告人に被害者の殺害を依頼していないし,自分で殺害してもいない」などと証言する。
(2)

Fの証言は,以下のとおり,前記認定事実やこれから推認できる事実に整合
し,事態の流れに沿う自然なものである。また,殊更にうそをついているとは考え難く,十分に信用することができる。

本件被害品は,通常人に渡すような物品ではないし,被害者名義の健康保険
証等,Fが被告人に渡すとは考え難い物も含まれており,これらの物品を被告人に渡していないというFの証言は自然で合理的である。また,そのような物品を所持している者は,通常殺害に関わっている者と考えられるが,被告人が本件被害品を所持し,Fが所持していないということは,Fが,被告人に被害者の殺害を依頼していないし,自分で殺害してもいないと述べているところと整合する。イ
Fが被告人と離婚した後,被告人に対して金を返済するよう要求し,被告人
も返済に応じていたこと,9月28日午後にFが被告人に金を返さないことを責めるメールを送り,被告人がちゃんと返す旨返信するやりとりを多数回繰り返していることは明らかである。そのようなFが,被告人に被害者のクレジットカードや通帳を渡して使用を許すとは考え難い。Fの証言は,この点とも整合する。ウ
被告人は9月28日午後2時48分に30万円を払い戻したのに,そのこと
をFに報告せず,かえって同時刻頃に「社長から19万円を預かった」とうそのメールを送信している。このことからすれば,被告人としては,30万円の払戻しについてFにうその説明をして,そのことを伝えないようにしていたと考えられ,Fは30万円の払戻しを知らなかったと推認できる。Fの証言は,この点とも整合する。

FのDNA型と完全に一致するDNA型は,被害者の遺体発見現場付近から
は検出されていない。Fが被害者の殺害に関わっていたのであれば,もっと検出されるのが自然であり,このことは,殺害に関わっていない旨のFの証言と整合する。オ
Fは,9月27日の夜(被告人は,そのときにFが被害者を殺害したと供述
している。)について,「鍵とU字ロックをかけていたのに,被告人が突然j号室に入ってきて,携帯電話を取り上げられた。頭が痛く,病院に連れて行ってほしいと言ったのに,被告人から性行為を強要された」などと証言する。そして,Fは,翌28日,被告人に「チェーンも勝手に開けて」「頭が痛い時に病院にも行けない」「頭が割れるように痛くても,性欲を満たす方が先」「昨日また,iPhoneとられた」などのメールを多数送っているが,被告人はこれらの事実を否定する返信をしていない。また,Fによる殺人をうかがわせるようなメールも存在しない。Fの証言は,これらのメールの内容と整合している。

Fは,被害者と連絡が取れなくなった日の翌朝には,被害者がいなくなった
ことを警察に相談したり,警察と一緒に被害者の実家の近くまで探しに行ったりしており,被害者の消息を心配する者の行動として自然である。逆に被害者の死亡を知らなかったことを装うにしては,あまりにも手間をかけすぎている。キ
Fと被害者との間には,①被害者が,Fが母親代わりをしている姪に暴言を
言ったこと,②被害者からj号室の家賃を払うように言われていたこと,③被害者に被告人との交際を反対されていたのに,被害者に隠れて被告人に会っていたことといったもめ事があったことが認められる。しかし,これらはいずれも実母の殺害を計画するだけの確執に発展するとは通常考え難い。かえって,①の後もFと被害者が一緒に買物をしていることからすれば,Fに被害者を殺害する動機があるとは考えにくく,Fの証言とも符合する。

Fは,被害者との間のもめ事や,被告人との関係等,自分に不利益な内容も
正直に話しているのであって,あえてうそをついて,被告人を殊更に悪者にしようとする態度はうかがわれない。
(3)

これに対し,弁護人は,次のとおりFの証言が信用できないと主張する。

弁護人は,Fが自分に都合の悪いメールを消去したり,被告人に罪をなすり
つけるためにうそのメールを送ったりするなど,メールの履歴を操作したと主張する。
しかし,仮にFが自分の携帯電話内のメールを消去したとしても,被告人の携帯電話にはメールのデータが残っており,警察がこれを調べればすぐにうそが発覚することになるから,Fがそのような方法で証拠を隠滅する意味は全くない。また,仮に被告人に罪をなすりつけるのであれば,もっと直接的なメールを送るなどの偽装工作をすると考えられる。さらに,同日の何百通にも及ぶメールの中から,Fに都合の悪いメールのみを選別して消去するのは容易ではない。なお,Fは,9月28日午前以前の被告人とのメールを全て消去しているが,Fは,その理由について,警察に被告人のことを相談した際,メールを見られて相手にされないことがあったため,このような対応をされるのを防ぐためであると,納得できる説明をしている。したがって,Fが,弁護人主張のようなメールの履歴を操作したとは認められない。イ
弁護人は,Fが被告人に食事をおごったり,金銭を渡したりしていたのに,
9月28日になって,突如として金の返済を執拗に求めるメールを送っているのは不自然であると主張する。
しかし,Fによれば,同月27日,被告人が,Fに金を返さないのに,滞納していた携帯料金を支払ったことや,新しいTシャツを買ったこと,Fに返済した以上の金額を所持していたことが分かり,それをきっかけに,不満のはけ口として金の支払を強く求めたと考えられ,何ら不自然ではない。

弁護人は,Fは,10月5日にクローゼット内の被害者のボストンバッグを
発見したことについて,「下着を取りに帰った時に偶然見つけた」と証言するが,Fの下着はクローゼットの外にある衣装ケースに収納されていたから,偶然見つけたというFの証言は信用できないと主張する。
しかし,Fは,普段,クローゼットを開けたままにしていたことが認められ,衣装ケースから下着を持ち出す際に,クローゼットの中のバッグを発見したとしても
不自然ではない。

弁護人は,①Fが,被告人が隠れているかどうか怖いから被告人に何度も電
話をかけたと言いながら,被告人がどうせ余所の女性のところに行くんだろうと述べたというのは,明らかに矛盾している,②電話では被告人が隠れているかどうか実際には分からないから,不自然である,③9月27日の夜は,そもそもマンションの1階で被告人と立ち話をした後,一人で9階に上がってj号室に入っているから,被告人が部屋の中で隠れていないことは明らかなのに,またそれを確認するために電話をかけたというのは不自然であると主張する。
しかし,①について,Fと被告人が離婚したいきさつには,被告人が以前女性と遊びに行ったことが含まれており,Fが弁護人指摘のような不満をぶつけることも不自然とはいえない。また,②について,Fは,被告人がこれまで何度も部屋の中に隠れていたことがあって怖かったと述べており,電話をすれば話し声が聞こえるから,少しでも不安を解消するために被告人に電話をかけたというのが不自然とはいえない。さらに,③について,Fの立場からすれば,冷静に考えれば部屋の中に被告人がいるはずがないと分かるとしても,少しでも不安を解消するために部屋の中から再度確認の電話をするのが不自然とまではいえない。

弁護人は,j号室の扉にU字ロックの台座がないことは一目瞭然であるし,
台座がなければロックを掛けた時に音はしないはずであり,当然気付くはずであるから,Fが9月27日の夜にU字ロックを掛けたと述べるのは不自然であると主張する。
しかし,Fは,翌日,被告人がチェーンを勝手に開けて部屋に入ったことを非難するメールを送信しており,U字ロックを掛けたことを前提にしている。また,U字ロックの可動部分から「ガシャン」という音がすることも自然であるから,Fがその音を聞いてロックされたと思い,台座がないことに気付かなかったとしても不自然とはいえない。

弁護人は,Fが,被害者と連絡が取れなくなって丸一日も経過していないの
にW警察署に相談していることや,X警察署の警察官に対し,被害者がqの実家にいるかを確認してもらう前の段階なのに,「母は殺されているかもしれない。Uは殺し方を知っている」などと言ったことからすると,Fは,既に被害者が殺害されたことを知っていたと推認できるから,「被害者が殺されていることは知らなかった」旨のFの証言は信用できないと主張する。
しかし,Fは,9月27日の夜に,被告人から傷害致死事件を起こしたことがある旨の話を聞いたこと等から,一つの可能性として被害者が殺されている可能性を述べたと考えられる。逆に殺されていることを知っていたとすれば,わざわざ被害者の実家まで警察と一緒に探しに行く理由はないから,被害者が殺されていることは知らなかった旨のFの証言が不自然であるとはいえない。

弁護人は,Fが,被害者の遺体が存在するj号室で被告人と一夜を過ごしな
がら,被害者の置手紙や荷物を捜すなどせず,遺体にも気づかなかったと述べるのは不自然であると主張する。
しかし,Fは,同日夜の時点で被害者が実家に帰っていると思っていた上に,帰宅後,被告人から携帯電話を取り上げられて性行為を強要され,精神安定剤のデパスを飲んで就寝したというのである。そうすると,被害者の置手紙等を探すような状況ではなかったと考えられるから,不自然とまではいえない。

その他弁護人はFの証言が信用できない理由についていろいろと主張するが,
いずれもFの証言の信用性を動かすものではない。
3
これに対し,被告人は,「9月26日の夜,Fから本件被害品を手渡され,
クレジットカードを自由に使ってよいと言われ,商品の購入や30万円の払戻しを頼まれた」「同月27日,被害者と口論していたFから『お母さんを殺して』と頼まれたが,自分は殺害できなかった。被害者の首を延長コードで絞めて殺害したのはFであり,自分とFで被害者の遺体を運んだ」などと供述する。(1)

被告人の供述は,客観的事実やこれから推認できる事実と整合せず,不自然
さや不合理さが目立つものである。


本件被害品は,前記のとおり,いずれも通常人に渡すことが考え難いもので
ある。しかも,Fは被告人に金の返済を求めていたのであるから,被告人にクレジットカードや通帳を渡して使用を許すとは考え難い。また,被告人によれば,Fと被害者はFが殺意を抱くほど仲が悪かったというのに,被害者から預かったというFの話をたやすく信じて,両者の間で話がついていると思ったというのも,全くもって不可解である。

被告人によれば,被告人が被害者を気絶させた後,Fが一人で殺人の実行行
為を行い,被告人と一緒に遺体の運搬を行ったというのに,被告人のDNAは複数箇所から検出される一方,FのDNA型と一致するDNAは検出されていない。ウ
被告人が述べる9月27日の夜の出来事は,Fが同月28日に送った前記メ
ールの内容や,被告人がこれを否定する返信をしていないことと整合しない。エ
Fに被害者を殺害する動機があるとは考えにくい。また,Fがローソンでシ
ューズの返品手続をするなどした直後に,殺人の依頼をしてきたという流れもあまりに唐突で,不自然である。

被告人によれば,被害者を殺すというFを止めるためにj号室に入ったと述
べながら,結局Fが被害者を殺害するところを止めず,数十分間台所で目をつぶって耳をふさいでいたというのも明らかに不自然,不合理である。
(2)

弁護人は,次のとおり,被告人の供述には裏付けがあるとか,被告人にアリ
バイがあるとか主張するが,いずれも採用できない。

弁護人は,「9月27日に被害者が作成したVカードは,被害者のボストン
バッグの中から発見されており,被告人がFから渡された袋の中に入っていなかった。このことは,袋ごと本件被害品を預かったのは同月26日の夜であるという被告人の供述と整合する」と主張する。
しかし,ボストンバッグにはその他にも大量の物品が入っており,中を物色しても気付かなかったか,気づいたとしても必ず被告人が持ち出すとはいえないから,弁護人指摘の点が被告人の供述を裏付けるとはいえない。


弁護人は,被告人は9月27日の正午頃までマンションの非常階段部分や屋
上階で寝ていたから,その後起きてから午後0時35分にマンション1階に降りるまでの間に被害者を殺害し,ボストンバッグを物色し終えるのは物理的に不可能であると主張する。
しかし,正午頃まで寝ていたというのは裏付けのない被告人の供述を前提にしている。客観的には,被害者の最終生存確認時刻である同日午前10時58分から午後0時35分までの間に犯行を行うことは十分可能であるから,弁護人の主張は採用できない。

弁護人は,j号室の階下の住民が,①同日午後7時から午後8時までの間に,
j号室から大きな物音がしたと供述しているのは,この頃が事件発生時であるという被告人の供述と一致し,また,②同日午後8時45分頃から午後9時50分頃までの間にも,再度大きな物音がしたと述べているのは,この頃に二人でソファーを動かして被害者の遺体を移動させたという被告人の供述と一致すると主張する。しかし,Fの証言によっても,被告人に携帯電話を取り上げられた際や,性行為後に部屋から出て連れ戻された際に足音を立てたというのであるから,被告人の供述だけに整合するとはいえない。
(3)

したがって,被告人の供述は信用することが困難であるから,Fの証言の信
用性を揺るがすものではなく,また,被告人が犯人であるとの前記推認を覆すものではない。
4
以上のとおり,前記1において認定した各事実を総合すれば,被告人が犯人
であると非常に強く推認できることに加え,被害者の殺害に関与していないし,被告人に本件被害品を渡してもいないというFの証言は信用でき,他方で,Fが犯人であるという被告人の供述は信用することが困難であるから,被告人が,被害者を殺害して本件被害品を奪い,被害者やFの承諾がないのに被害者名義のクレジットカードを使用してTシャツや靴を購入し,銀行で通帳や印鑑を使用して30万円を払い戻したものと認められる。

(累犯前科)
1事実
平成22年2月25日東京地方裁判所宣告
窃盗,横領罪により懲役3年
平成24年12月26日刑執行終了
2証拠
前科調書(乙3)
(法令の適用)
1罰


判示第1,第2及び第4の各所為
刑法235条
判示第3の所為

刑法199条

判示第5の各所為

いずれも刑法246条1項

判示第6の所為
有印私文書偽造の点

刑法159条1項

偽造有印私文書行使の点
刑法161条1項,159条1項
詐欺の点

刑法246条1項

2科刑上一罪の処理
判示第6の罪

刑法54条1項後段,10条(有印私文書偽造と
その行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があ
るので,1罪として最も重い詐欺罪の刑〔ただし,
短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。〕
で処断)

3刑

種選択
判示第1,第2及び第4の各罪

いずれも懲役刑を選択
判示第3の罪
4累

犯加
有期懲役刑を選択

判示各罪

刑法56条1項,57条(それぞれ再犯の加重
〔判示第3の罪の刑については,同法14条2項の
制限に従う。〕)

5
併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い
判示第3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定
の加重)

6未決勾留日数の算入

刑法21条

7
刑法19条1項3号,2項本文(押収してある払戻請

没収
求書1枚〔平成28年押第3号符号1〕の偽造部分は,
判示第6の有印私文書偽造の犯罪行為によって生じた
物で,何人の所有をも許さない)
8訴

訟費用
刑訴法181条1項ただし書(不負担)

(量刑の理由)
量刑判断の中心となる殺人についてみると,犯行態様は,ひも状の物を首に巻き付けて窒息させるという,被害者を確実に死に至らしめようとするものであり,被害者との間に何らかのやり取りがあって衝動的・突発的に犯行に及んだ可能性があるものの,強固な殺意に基づく犯行である。動機はもとより不明であるが,当時の被告人は,Fとは一緒に食事をしたり連絡を取り合ったりするなどそれなりの関係にあったものの,一人でj号室に立ち入ることについてFや被害者の承諾を得ておらず,本件は,被告人が,当時Fに無断で作った合鍵を使って勝手にj号室に入ったところ,部屋の所有者で,Fと同居していた被害者と鉢合わせになったことから,犯行に至ったと考えられ,そのいきさつは身勝手と言わざるを得ない。また,本件被害品の窃盗や詐欺等の犯行についてみても,殺害後に窃取した被害
品を用いて相当額の金銭等をだまし取っており,犯情はそれなりに重いというべきである。
以上に,被告人に累犯前科があることも併せると,本件は,同種事案(殺人1件,単独犯,凶器あり:ひも・ロープ類,突発的だが強固な殺意あり,示談等なし)の量刑傾向の中では重い部類に属し,概ね20年を中心とする幅の量刑が考えられる。そして,被告人が本件犯行後に他県へ逃走していることや,被害者遺族を更に精神的に傷つけることをいとわず,同女を真犯人と名指しし,同女が被告人に実母の殺害を依頼したり,実際に同女が実母の殺害に及んだりしたという全くのうその話を作り上げるなど,必死になって罪を免れようとしていることからすると,反省の態度は全くうかがえず,将来の立ち直りに不安が大きい。このことも,量刑上一定程度考慮すべきである。
以上の検討を経て,裁判員と評議の上で,主文の刑を導いた。
(求刑・懲役23年,払戻請求書の偽造部分没収)
平成28年12月19日
大分地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

今泉裕登
裁判官

家入美香
裁判官

藤丸貴久
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