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障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
事件番号平成27(行ウ)119
事件名障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
裁判年月日平成28年10月5日
法廷名大阪地方裁判所
判示事項国民年金法(平成19年法律第109号による改正前)附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金を支給されている者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に同法30条の3に基づく障害基礎年金の支給を請求した場合において,仮にその者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至っていたとしても,同法附則9条の2の3が適用されるか。
裁判要旨国民年金法(平成19年法律第109号による改正前)附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金を支給されている者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に同法30条の3に基づく障害基礎年金の支給を請求した場合において,仮にその者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至っていたとしても,同法附則9条の2の3が適用され,上記障害基礎年金の支給の請求は認められない。
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平成28年10月5日判決言渡
平成27年(行ウ)第119号

障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
主1文
本件訴えのうち,厚生労働大臣が原告に対して障害基礎年金を支給する旨の裁定をすることの義務付けを求める部分を却下する。

2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
厚生労働大臣が平成25年7月17日付けで原告に対してした障害基礎年金不支給決定を取り消す。

2
厚生労働大臣は,原告に対し,原告が平成21年10月27日付けでした裁定請求に係る障害基礎年金を支給する旨の裁定をせよ。

第2
1
事案の概要
国民年金法(平成19年法律第109号による改正前のもの。以下,特に断りのない限り,同じ。)附則9条の2第3項により老齢基礎年金の支給繰上げを受けていた原告は,社会保険庁長官に対し,両内反足による障害と,うつ病による障害とを併合して初めて障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとして,同法30条の3に基づく障害基礎年金を支給する旨の裁定を求める請求(以下「本件裁定請求」という。)をしたところ,社会保険庁長官の事務を承継した厚生労働大臣は,同法附則9条の2の3(以下「本件規定」という。)により同法附則9条の2第3項による老齢基礎年金の受給権者には同法30条の3は適用されないことを理由として,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。
本件は,原告が,本件処分は,原告に本件規定が適用されないにもかかわらずされた違法な処分であるなどと主張して,本件処分の取消しを求めるとともに,厚生労働大臣において本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給する旨の裁定をすることの義務付けを求める事案である。
2
関係法令の定め
(1)

障害等級
国民年金法30条2項は,障害等級は,障害の程度に応じて重度のものか
ら1級及び2級とする旨規定する。
(2)

障害認定日による障害基礎年金
国民年金法30条1項は,傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を
受けた日(以下「初診日」という。)において,被保険者であること(同項1号)又は被保険者であった者であって,日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であること(同項2号)のいずれかに該当した者が,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては,その治った日〔その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。〕とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,その者に障害基礎年金(以下「障害認定日による障害基礎年金」という。)を支給する旨規定する。
同法18条1項は,障害認定日による障害基礎年金等の給付の支給は,これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始める旨規定する。(3)

基準障害による障害基礎年金
国民年金法30条の3第1項は,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病(以下「基準傷病」という。)に係る初診日において同法30条1項各号のいずれかに該当した者であって,基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが,基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において,初めて,基準傷病による障害(以下「基準障害」という。)と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとき(基準傷病の初診日が,基準傷病以外の傷病の初診日以降であるときに限る。)は,その者に基準障害と他の障害とを併合した障害の程度による障害基礎年金
(以下
「基準障害による障害基礎年金」
という。)を支給する旨規定する。
同条30条の3第3項は,基準障害による障害基礎年金の支給は,同法18条1項の規定にかかわらず,当該障害基礎年金の請求があった月の翌月から始めるものとする旨規定する。

なお,国民年金法16条は,障害基礎年金等の給付を受ける権利は,給付を受ける権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基づいて,社会保険庁長官が裁定する旨規定し,平成19年法律第109号による改正(平成22年1月1日施行)後の同条は,厚生労働大臣が裁定する旨規定するところ,平成19年法律第109号附則73条2項は,同法の施行の際現に社会保険庁長官等に対してされている申請等の行為は,同法の施行後は,施行後の法令の相当規定に基づいて厚生労働大臣等に対してされた申請等の行為とみなす旨規定する。

(4)

老齢基礎年金の支給の繰上げ
国民年金法26条は,老齢基礎年金は,原則として,保険料納付済期間又は保険料免除期間を有する者が65歳に達した時に,その者に支給する旨規定する。
国民年金法附則9条の2第1項は,保険料納付済期間又は保険料免除期間を有する者であって,60歳以上65歳未満であるものは,65歳に達する前に,社会保険庁長官に老齢基礎年金の支給繰上げの請求をすることができる旨規定する。
同条3項は,上記請求があったときは,国民年金法26条の規定にかかわらず,その請求があった日から,その者に老齢基礎年金を支給する旨規定する。

なお,平成19年法律第109号による改正後の国民年金法附則9条の2第1項は,厚生労働大臣に老齢基礎年金の支給繰上げの請求をすることができる旨規定するところ,
平成19年法律第109号附則73条1項は,
同法の施行前に社会保険庁長官等がした裁定等の行為は,
同法の施行後は,
施行後の法令の相当規定に基づいて厚生労働大臣等がした裁定等の行為とみなす旨規定する。

(5)

本件規定の内容・制定経緯
本件規定(国民年金法附則9条の2の3)は,「第三十条第一項(第二号に限る。),…第三十条の三,…の規定は,当分の間,附則第九条の二第三項…の規定による老齢基礎年金の受給権者…については,
適用しない。

と規定する。


なお,昭和60年法律第34号による改正(以下「昭和60年改正」という。)前においては,国民年金法28条が,老齢年金の支給の繰上げについて規定していたが,障害年金に係る規定を同条の規定による老齢年金の受給権者について適用しない旨定めた規定は設けられていなかった。昭和60年改正により,同条に代わって,同法附則9条の2において,老齢基礎年金の支給の繰上げについて規定され,同条5項において,「第三十条第一項(第二号に限る。),…第三十条の三…の規定は,第二項の規定による老齢基礎年金の受給権者については,適用しない。」(上記にいう「第二項」とは,老齢基礎年金の支給繰上げの請求があったときは,その請求があった日から,その者に老齢基礎年金を支給する旨規定した上記昭和60年改正後の同法附則9条の2第2項を指す。)と規定されるようになった。
上記昭和60年改正後の同法附則9条の2第5項は,平成6年法律第95号による改正によって,同条4項とされた。
同項は,平成12年法律第18号による改正によって削除され,同項に代わって,本件規定が追加された。
3
前提となる事実(顕著な事実,当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)

原告
原告は,昭和22年●月●●日生まれの女性である。(甲3の1・2)
(2)

老齢基礎年金の支給の繰上げ
原告(当時60歳)は,平成19年6月21日,国民年金法附則9条の2
第1項に基づき,社会保険庁長官に対し,老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同年8月9日,社会保険庁長官から,同年6月21日を受給権発生日として老齢基礎年金を繰上げ支給する旨の裁定を受け,同条3項に基づき,同日から老齢基礎年金の支給を受けている。(乙4)
(3)

本件裁定請求
原告(当時62歳)は,平成21年10月27日,社会保険庁長官に対し,
基準障害であるうつ病による障害と両内反足による歩行障害とを併合して初めて障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとして,基準障害による障害基礎年金を支給する旨の裁定を求める本件裁定請求をした。(甲5,乙5)
(4)

当初の決定及びその取消し
社会保険庁長官の事務を承継した厚生労働大臣は,平成22年4月9日,
原告に対し,「初めて障害等級の1,2級に該当しないため」との理由により,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の決定をした。(甲6)
原告は,厚生労働大臣による上記決定に不服があるとして,同年5月26日,社会保険審査官に対して審査請求をし,社会保険審査官は,平成23年2月21日,原告のうつ病による障害と両内反足による歩行障害とを併合した障害の状態が障害等級1級又は2級に該当しない旨判断して,当該審査請求を棄却する旨の決定をした。(甲7,8,乙6)
原告は,社会保険審査官による上記決定に不服があるとして,同年4月22日,社会保険審査会に対して再審査請求をし,社会保険審査会は,同年11月30日,厚生労働大臣による上記決定は本件規定に照らし正当である旨判断して,当該再審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲9,乙7,8)その後,原告は,厚生労働大臣による上記決定の取消しを求める訴訟を提起したところ,大阪地方裁判所は,平成25年4月19日,行政手続法8条の処分理由提示義務に違反するとして,上記決定を取り消す旨の判決を言い渡した。(甲10)
(5)

本件処分
厚生労働大臣は,同年7月17日,原告に対し,本件規定により国民年金
法附則9条の2第3項による老齢基礎年金の受給権者には同法30条の3は適用されないことを理由として,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の本件処分をした。(甲11)
(6)

本件訴訟の提起に至る経緯
原告は,本件処分に不服があるとして,同年8月29日,社会保険審査官
に対して審査請求をし,社会保険審査官は,平成26年3月26日,当該審査請求を却下する旨の決定をした。(甲12,乙9)
原告は,上記決定に不服があるとして,同年4月21日,社会保険審査会に対して再審査請求をし,社会保険審査会は,同年10月31日,当該再審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲13,乙10)
原告は,平成27年4月25日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)4
争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は,本件処分の適法性であり,具体的には,①本件規定の適用範囲(国民年金法附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金を支給されている者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に基準障害による障害基礎年金の支給を請求した場合において,その者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至っていれば,本件規定が適用されないものと解されるか。争点1),②本件において,原告が,国民年金法30条の3第1項に基づく基準障害による障害基礎年金の支給要件を充足しているか(争点2)が争われており,これらについての当事者の主張は以下のとおりである。
(1)

争点1(本件規定の適用範囲)

(原告の主張)

本件規定の趣旨,適用範囲等
障害基礎年金は,65歳に達する前に障害の状態となった場合に所得保障をすることを基本的な考え方とするところ,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者については,障害基礎年金の支給要件の規定上,老齢基礎年金の原則的な支払開始年齢である65歳に達している者と同様に扱うとの趣旨に基づき,老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に障害の状態になった場合には,65歳に達してから障害の状態になったものと擬制し,障害基礎年金を支給しない旨定めたものである。
かかる本件規定の趣旨等からすると,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に障害の状態になった場合に,障害基礎年金の基本権が発生することを排除する旨定めたものであり,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害の状態になり,障害基礎年金の基本権が既に発生していた場合には,適用されないと解される。
国民年金法30条の3第1項によれば,基準障害による障害基礎年金の基本権は,基準障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の状態に該当するに至ったときに発生すると解されるから,同法附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金を支給されている者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に基準障害による障害基礎年金の支給を請求した場合であっても,その者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至っていれば,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が既に発生していたものとして,本件規定は適用されないと解すべきである。

老齢基礎年金の支給繰上げを請求しない場合との比較
老齢基礎年金の支給繰上げを請求しなかった場合,65歳に達するまでに基準障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至り,基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していれば,65歳以降であっても,基準障害による障害基礎年金の支給を請求することができる。
そして,前記アのとおり,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者については65歳に達している者と同様に扱うとの趣旨に基づくものであり,そのような趣旨に照らせば,65歳に達するまでに老齢基礎年金の支給繰上げを請求していた場合であっても,老齢基礎年金の支給繰上げを請求しなかった場合と同様に,当該支給繰上げを請求する前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していれば,基準障害による障害基礎年金の支給を請求することができるものと解すべきである。他方,被告が主張するように,老齢基礎年金の支給繰上げを請求する前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していても,当該支給繰上げの請求後に基準障害による障害基礎年金の支給を請求した場合には本件規定が適用されると解するならば,上記趣旨に反して,老齢基礎年金の支給繰上げを請求した場合にのみ,基準障害による障害基礎年金の支給を請求できないとの不利益を課すこととなり,不合理である。

障害認定日による障害基礎年金との比較
社会保険庁の質疑応答内容を記録した資料(甲9の添付資料9)や日本年金機構が発行した「年金相談マニュアル」(甲21)には,障害認定日による障害基礎年金について,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に初診日及び障害認定日がある場合には,本件規定が適用されず,障害認定日による障害基礎年金が支給される旨記載されており,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に「障害認定日の翌月が到来していること」を要する旨の記載はされていない。
そして,国民年金法30条1項及び18条1項によれば,障害認定日による障害基礎年金については,障害認定日に基本権が発生し,その翌月に支分権が発生して支給が開始される。そうすると,例えば,障害認定日が平成26年6月10日で,老齢基礎年金の支給繰上げの請求が同月20日であった場合,障害認定日による障害基礎年金の支分権の発生は同年7月であり,老齢基礎年金の支給繰上げの請求よりも後になるが,上記「年金相談マニュアル」等の記載によれば,かかる場合でも,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害認定日がある以上,本件規定が適用されず,障害認定日による障害基礎年金が支給されることとなる。
このように,障害認定日による障害基礎年金については,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害認定日があり,基本権が発生していれば,当該支給繰上げの請求後に障害認定日による障害基礎年金の支分権が発生する場合であっても,本件規定が適用されず,障害認定日による障害基礎年金が支給されるものとされている以上,基準障害による障害基礎年金についても,同様に老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基本権さえ発生していれば,本件規定は適用されないと解すべきである。


被告の主張を前提とした場合の不合理性
被告は,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に,障害基礎年金の基本権及び支分権の双方が既に発生していない限り,本件規定が適用され,障害基礎年金の基本権又は支分権の発生が排除される旨主張する。
国民年金法30条の3第3項によれば,基準障害による障害基礎年金の支分権は,
請求があった月の翌月に発生するところ,
本件において原告は,
老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に本件裁定請求をしているため,被告の主張を前提にすると,原告には,前記のとおり老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していたにもかかわらず,支分権は発生せず,基準障害による障害基礎年金は支給されないこととなる。
しかし,原告が基準障害による障害基礎年金の基本権を有する受給権者である以上,国民年金保険料の納付義務が免除されるとともに,すでに納付した保険料は還付されるべきであり(同法89条1項1号),また,原告には年金証書が交付されるべきこととなるが,被告においてこれらの対応を採ることは現実には困難であるものと思われ,かかる不合理な状況を発生させる被告の主張が失当であることは明らかである。
(被告の主張)

本件規定の趣旨,適用範囲等
老齢基礎年金の支給繰上げ制度は,受給権者の請求によって,原則的な支給開始年齢である65歳に達する前に特例的に老齢基礎年金を支給するものであり,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者については,
既に65歳に達したものと同視して,
老齢基礎年金のみを支給し,
障害基礎年金は支給しないものとするとの趣旨に基づき,支給繰上げを請求した老齢基礎年金の受給権者については,基本権に関する規定と支分権に関する規定とを区別することなく,障害基礎年金に係る規定の適用を否定し,老齢基礎年金の支給繰上げの請求後における障害基礎年金の基本権及び支分権の発生を排除することを定めたものである。そうすると,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に,障害基礎年金の基本権及び支分権の双方が既に発生していない限り,当該老齢基礎年金の受給権者に適用されるものと解される。
国民年金法30条の3第1項によれば,基準障害による障害基礎年金の基本権は,基準障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の状態に該当するに至ったときに発生し,同条3項によれば,支分権は,基準障害による障害基礎年金の請求があった月の翌月から発生するものと解されるところ,同法附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金を支給されている者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に基準障害による障害基礎年金の支給を請求した場合には,仮にその者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至り,基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していたとしても,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の支分権が発生していない以上,本件規定は適用されるものと解すべきである。

老齢基礎年金の支給繰上げを請求しない場合との比較について
原告は,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生している場合には,本件規定が適用されないと解すべきであり,かかる場合に本件規定が適用されると解するならば,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者を65歳に達している者と同様に扱うとの本件規定の趣旨に反して,老齢基礎年金の支給繰上げを請求しない場合とは異なり,支給繰上げを請求した場合にのみ,基準障害による障害基礎年金の支給を請求できないとの不利益を課すものであって,不合理である旨主張する。
しかし,老齢基礎年金の支給繰上げに係る規定は,昭和60年改正によって国民年金法の本則28条から附則9条の2に移行され,同条5項によって本件規定と同旨が規定されたところ,上記のとおり老齢基礎年金の支給繰上げに係る規定が本則から附則に移行された趣旨には,同条5項による受給制限等の不利益が生じることを踏まえ,近視眼的な考えから安易に支給繰上げが請求されることのないようにする趣旨も含まれている。そして,実際の老齢基礎年金の支給繰上げの請求手続においては,当該請求者に対し,支給繰上げに伴う受給制限等の不利益について説明し,慎重に請求させる運用が実施されている。
したがって,原告が主張する不利益は,老齢基礎年金の支給繰上げ制度自体が予定する範囲内の効果であり,不合理であるとはいえないから,上記不利益が存在するとしても,本件規定の適用範囲について,原告が主張するように解すべきであるということはできない。

障害認定日による障害基礎年金との比較について
原告は,障害認定日による障害基礎年金と同様に,基準障害による障害基礎年金についても,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害基礎年金の基本権が発生していれば,本件規定は適用されないと解すべきである旨主張する。
しかし,
基準障害による障害基礎年金については,
基本権が発生しても,
支分権が発生するためには請求をすることが必要とされる(国民年金法30条の3第3項)のに対し,障害認定日による障害基礎年金については,障害認定日において要件を満たせば基本権が発生し(同法30条1項),支分権は,
請求をしなくても基本権が発生した翌月に自動的に発生する
(同
法18条1項)のであって,両者は,支分権発生の仕組みが異なり,単純に比較することはできない。
また,原告が主張する「年金相談マニュアル」等の資料の記載は,いずれも老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害基礎年金の基本権及び支分権が既に発生していれば,本件規定が適用されない旨を説明したものである。原告が例示するような,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害基礎年金の基本権のみが発生する場合であっても,基本権が発生した翌月に支分権が自動的に発生するため,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害基礎年金の基本権及び支分権が既に発生している場合と実質的に同視することができ,本件規定が適用されないのであり,障害認定日による障害基礎年金についてのかかる例外的な場合の存在を根拠として,基準障害による障害基礎年金について,一般的に,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に障害基礎年金の基本権さえ発生していれば,本件規定が適用されないと解することはできない。

被告の主張を前提としても不合理な事態は生じないこと
仮に,
原告に基準障害による障害基礎年金の基本権のみが発生しており,支分権は発生していないとしても,原告は,基準障害による障害基礎年金について,厚生労働大臣による裁定を受けていないため,国民年金保険料の還付や年金証書の交付を受ける受給権者には該当せず,原告が主張するような不合理な状況は生じないから,本件規定の適用範囲についての被告の主張が失当であるということはできない。

(2)

争点2(基準障害による障害基礎年金の支給要件充足の有無)

(原告の主張)
原告は,基準傷病としてのうつ病に係る初診日である平成5年9月28日において,国民年金の被保険者に該当し,両内反足により先天的に歩行障害の状態にあったところ,うつ病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間である平成18年9月において,うつ病による障害と両内反足による歩行障害とを併合して障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったもので,国民年金法30条の3第1項に基づく基準障害による障害基礎年金の支給要件を充足する。
(被告の主張)
争う。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(本件規定の適用範囲)について
(1)ア

国民年金法30条の3第1項は,
65歳に達する日の前日までの間にお

いて,初めて,基準障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至った者に,基準障害による障害基礎年金を支給する旨規定し,基準障害による障害基礎年金の給付を受ける権利(同法16条参照)
としての基本権の発生要件について規定したものと解される。
そして,
同法30条の3第3項は,
基準障害による障害基礎年金の支給は,
当該障害基礎年金の請求があった月の翌月から始めるものとする旨規定していることからして,基準障害による障害基礎年金の支分権の発生要件について規定したものと解される。
このように,同条1項及び3項が,基準障害による障害基礎年金について基本権及び支分権の発生要件を個別に規定していることからすれば,基準障害による障害基礎年金が支給されるためには,その者が基準障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至った時点において,同条1項が適用され,次いで,当該障害基礎年金の支給の請求をした時点において,同条3項が適用されることにより,基準障害による障害基礎年金の基本権及び支分権の双方が発生することが必要であるものと解するのが相当である。

そして,同法附則9条の2第3項は,同条1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をした者に,その請求があった日から,老齢基礎年金を支給する旨規定し,当該請求をした者は,その請求をした日から老齢基礎年金の受給権者になるものと解されるところ,本件規定は,「…第三十条の三…の規定は,当分の間,附則第九条の二第三項…の規定による老齢基礎年金の受給権者…については,適用しない。」と規定しており,「第三十条の三」との文言も同条1項には限定していないことからして,支給繰上げを請求したことにより老齢基礎年金の受給権者となったとき以降は,本件規定が適用され,
当該老齢基礎年金の受給権者には,
同項のみならず,
同条3項も適用されなくなるものと解さざるを得ない。
そうすると,同法附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,同条3項に基づき老齢基礎年金の受給権者となった者が,当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求後に基準障害による障害基礎年金の支給を請求した場合において,仮にその者が当該老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準傷病による障害と他の障害とを併合して障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至っており,その時点(当該障害の状態に該当するに至った時点)において同法30条の3第1項が適用される結果として基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していたとしても,当該基準障害による障害基礎年金の支給を請求した時点においては,同法附則9条の2第3項による老齢基礎年金の受給権者となっている以上,本件規定が適用され,
同法30条の3第3項が適用されないこととなるから,
当該基準障害による障害基礎年金の支分権は発生せず,当該基準障害による障害基礎年金は支給されないこととなるものと解するのが相当である(本
件規定の趣旨に関し,原告は,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者について,障害基礎年金の支給要件の規定上,老齢基礎年金の原則的な支払開始年齢である65歳に達している者と同様に扱おうとするものである旨主張するが,本件規定は,その文言に照らせば,原告の主張する趣旨にとどまらず,既に老齢基礎年金の受給権者となっている以上,老齢基礎年金のみを支給し,基準障害による障害基礎年金は支給しないこととする趣旨と解される。)。

本件についてこれをみると,前記前提となる事実(2),(3)のとおり,原告は,平成19年6月21日に国民年金法附則9条の2第1項に基づき老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,裁定を経て,同条3項に基づき同日からの期間につき老齢基礎年金を支給され,その後,平成21年10月27日に本件裁定請求をしたところ,本件裁定請求をした時点において,同項による老齢基礎年金の受給権者となっていた以上,
本件規定が適用され,
同法30条の3第3項が適用されないこととなるから,原告に基準障害による障害基礎年金は支給されないこととなる。
(2)ア

原告は,本件規定は,老齢基礎年金の支給繰上げを受けている者を65
歳に達している者と同様に扱うとの趣旨に基づくものであり,老齢基礎年金の支給繰上げを請求しなかった場合において,65歳に達するまでに基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していれば,65歳以降であっても,基準障害による障害基礎年金の支給を請求することができるものとされていることからしても,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が既に発生していた場合には,本件規定が適用されないと解すべきである旨主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,本件規定は,支給繰上げを請求し,老齢基礎年金の受給権者となった者を,65歳に達している者と同様に扱うとの趣旨にとどまらず,既に老齢基礎年金の受給権者となっている以上,老齢基礎年金のみを支給し,基準障害による障害基礎年金は支給しないこととする趣旨と解される。また,原告の上記主張は,本件規定の適用対象となる「老齢基礎年金の受給権者」が,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していない者に限定されることを前提とするものと解されるが,本件規定は,「老齢基礎年金の受給権者」との文言に限定を付していない。
したがって,原告の上記主張は,本件規定の趣旨,文言に沿うものとはいえず,採用することができない。

原告は,障害認定日による障害基礎年金に係る本件規定の適用範囲についての解釈と同様に,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していれば,本件規定は適用されないと解すべきである旨主張する。
証拠(甲9,21)によれば,日本年金機構が発行した「年金相談マニュアル」等の文献には,60歳以降に初診日及び障害認定日があり,障害認定日が老齢基礎年金の支給繰上げの請求よりも前になった場合には,障害認定日による障害基礎年金の支給を請求することができる旨の記載がされていることが認められる。
国民年金法30条1項2号は,初診日において60歳以上65歳未満であることなどの要件に該当した者が,障害認定日において,障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,その者に障害認定日による障害基礎年金を支給する旨規定しており,障害認定日による障害基礎年金の基本権は,障害認定日に生じるものと解される。また,同法18条1項は,障害認定日による障害基礎年金等の給付の支給は,これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始める旨規定しており,障害認定日による障害基礎年金の支分権は,障害認定日の属する月の翌月から生じるものと解される。
ところで,本件規定は,同法30条1項2号について,同法附則9条の2第3項による老齢基礎年金の受給権者には適用しない旨規定するものの,同法18条1項について,当該老齢基礎年金の受給権者に適用しない旨規定してはおらず,本件規定以外の規定をみても,同項を当該老齢基礎年金の受給権者に適用しない旨定めたものは見当たらない。
そうすると,老齢基礎年金の支給繰上げの請求があった日よりも前に障害認定日がある場合には,当該障害認定日の時点では老齢基礎年金の受給権が生じていないため,本件規定が適用されず,同法30条1項2号が適用され,同日の時点で障害認定日による障害基礎年金の基本権が発生し,そして,同法18条1項が当然に適用されるため,当該障害認定日の属する月の翌月から支分権が発生することとなる。
したがって,そもそも上記文献中の記載は,支分権の発生につき本件規定が適用されない障害認定日による障害基礎年金について,当然の内容を説明したものにすぎず,支分権の発生につき本件規定が適用され得る基準障害による障害基礎年金とは前提を異にしており,このような障害認定日による障害基礎年金に係る本件規定の適用範囲についての解釈内容を理由として,基準障害による障害基礎年金について,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基本権が発生していれば,本件規定が適用されないと解することはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。ウ
原告は,原告には基準障害による障害基礎年金の基本権が発生しているところ,仮に支分権が発生しないことになれば,被告において原告に国民年金保険料の還付や年金証書の交付を実施することが現実には困難であるにもかかわらず,法令の規定上はこれら国民年金保険料の還付や年金証書の交付をすべきこととなり,不合理な状況が生じる旨主張する。
平成19年法律第109号による改正の前後を通じ,国民年金法16条は,給付を受ける権利は,その権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて,社会保険庁長官又は厚生労働大臣が裁定する旨規定するところ,これは,画一公平な処理により無用の紛争を防止し,給付の法的確実性を担保するため,その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官又は同大臣が公権的に確認するのが相当であるとの見地から,基本権たる受給権について,同長官又は同大臣による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものと解される(最高裁平成7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照)。
同法89条1号は,障害基礎年金の受給権者は,既に納付されたものを除き,保険料を納付することを要しない旨規定するところ,同号に該当するか否かについても,障害基礎年金の給付を受ける権利としての基本権の発生要件の存否等につき公権的に確認されるのが相当であることからすれば,同号の障害基礎年金の受給権者とは,当該障害基礎年金の基本権を有するだけでなく,当該障害基礎年金を支給する旨の裁定をも受けた者をいうものと解される。
また,平成21年厚生労働省令第167号による改正の前後を通じ,国民年金法施行規則65条2項は,社会保険庁長官又は厚生労働大臣は,国民年金法による年金たる給付の受給権の裁定をしたときは,その年金の年金証書を作成し,
当該受給権者に交付しなければならない旨規定しており,
当該受給権者は,同様に当該年金を支給する旨の裁定を受けた者をいうものと解される。
そうすると,原告は,基準障害による障害基礎年金について,当該障害基礎年金を支給する旨の社会保険庁長官又は厚生労働大臣の裁定を受けておらず,国民年金法89条1号及び国民年金法施行規則65条2項のいずれの受給権者にも当たらないから,仮に原告が基準障害による障害基礎年金の基本権を有するとしても,原告が主張するような不合理な状況が生じるとはいえず,本件規定の適用範囲についての解釈を左右するものとはいえない。

その他,原告は,原告に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生した平成18年9月においては,原告は,老齢基礎年金の支給繰上げをいまだ請求しておらず,国民年金法附則9条の2第3項の規定による老齢基礎年金の受給権者ではなかった以上,原告に本件規定は適用されない旨主張する。
しかし,仮に,上記主張のとおり,平成18年9月においては本件規定が適用されず,原告に基準障害による障害基礎年金の基本権が発生していたとしても,原告が平成19年6月21日に老齢基礎年金の支給繰上げの請求をし,その後,平成21年10月27日に本件裁定請求をした時点において,本件規定が適用され,基準障害による障害基礎年金の支分権の発生要件について規定した国民年金法30条の3第3項が適用されなくなるのは前記(1)ウのとおりであるから,
原告の上記主張は,採用することがで
きない(原告の上記主張は,基本権の発生と支分権の発生とを区別することなく,両者を混同するものであって,失当である。)。
オ(ア)

なお,原告は,老齢基礎年金の支給繰上げを請求した際,くも膜下
出血による後遺症等により理解力が低下していたにもかかわらず,担当職員から何らの助言もなかったため,基準障害による障害基礎年金の支給を請求することができなかったもので,原告に本件規定を適用することは著しく不合理である旨も主張する。
しかし,証拠(乙11,12)及び弁論の全趣旨によれば,原告が記入し平成19年6月21日に提出した「国民年金

老齢基礎年金支給繰

上げ請求書」と題する書面には,注意事項として,「老齢基礎年金を繰上げて請求した後は,事後重症などによる障害基礎(厚生)年金の裁定請求をすることができなくなります。」と記載されていたこと,原告が同日に提出した「国民年金・老齢基礎年金支給繰上げ請求にかかる注意点」と題する書面には,「老齢基礎年金を繰上げて受給した後に障害基礎年金または寡婦年金が発生しても受けられません。」と記載され,原告は,同書面において,「私は,上記について説明を受け,理解をしたうえで老齢基礎年金支給繰上げの請求をすることを申し添えます。」と印字された箇所の下の部分に署名したことが認められる。
これらの事情に照らせば,原告は,被告から上記各書面の記載に沿って,本件規定に基づく効果について相応の説明を受けた上で,自ら老齢基礎年金の支給繰上げを請求したものであるといえるから,本件規定を原告に適用することが著しく不合理であるとはいえず,他に本件規定を原告に適用することが著しく不合理であることを基礎付ける事情はうかがわれないから,上記主張は採用することができない。
(イ)

また,原告は,基準障害による障害基礎年金についての地方公共団
体のホームページの記載内容(甲23の1・2)や厚生労働省等の各担当者の説明内容(甲24,25の1・2)に加え,当初は,厚生労働大臣による平成22年4月9日の決定(甲6)や社会保険審査官による平成23年2月21日の決定(甲8)も,原告に本件規定が適用されないことを前提としていたから,本件のように老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が既に発生していた場合には,本件規定が適用されないと解すべきであり,かかる解釈が年金実務上の常識である旨主張する。
しかし,原告が主張する厚生労働省等の各担当者の説明内容については,当該内容による説明がされたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。また,上記社会保険審査官による平成23年2月21日の決定に対してされた再審査請求について,社会保険審査会は,同年11月30日,上記厚生労働大臣による平成22年4月9日の決定は本件規定に照らし正当である旨判断して,当該再審査請求を棄却する旨の裁決をしており(前記前提となる事実(4)),本件のような場合に本件規定が適用されないとの解釈が,年金実務上の当然の前提になっていたとまではいい難い。
上記の点はさておき,仮に年金実務に携わる地方公共団体や関係省庁等の職員の間において,老齢基礎年金の支給繰上げの請求前に基準障害による障害基礎年金の基本権が既に発生していた場合には本件規定が適用されないとの解釈が採られていたとしても,かかる解釈は,本件規定の文言等(前記(1)イ参照)に沿うものではなく,本件規定を正解しないものとして採用することはできず,
前記判断が左右されるものではない。
(3)ア

以上によれば,
仮に原告が老齢基礎年金の支給繰上げの請求よりも前に

基準障害による障害基礎年金に係る基本権を有していたとしても,前記(1)
ウのとおり,原告には本件規定が適用され,国民年金法30条の3第3項が適用されないこととなるから,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の本件処分は,違法であるとはいえない。そうすると,本件処分の取消請求は,争点2について判断するまでもなく,理由がない。イ
また,一定の処分を求める旨の法令に基づく申請を却下し又は棄却する旨の処分がされた場合における当該一定の処分についての義務付けの訴えは,当該申請に対する応答としてされた処分が「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在である」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)という要件に該当するときに限り提起することができるものである(同項柱書)。
そして,本件においては,厚生労働大臣において本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給する旨の裁定をすることの義務付けを求める訴えと併合して提起された本件処分の取消請求に理由がないことは前記アのとおりであるから,本件訴えのうち上記義務付けを求める部分は,訴訟要件を満たさない不適法な訴えとして却下を免れない。

2
結論
以上によれば,本件訴えのうち厚生労働大臣において本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給する旨の裁定をすることの義務付けを求める部分は不適法であるからこれを却下し,原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官

西田隆裕
裁判官

山崎雄大
裁判官吉川慶は,差支えのため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

西田隆裕
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