判例検索β > 平成27年(行ウ)第388号
更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)388
事件名更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求事件
裁判年月日平成28年11月29日
法廷名東京地方裁判所
判示事項納税義務者が弁護士に委任して提起した所得税に関する訴訟の判決の確定後に過納金の還付及び還付加算金の支払を受けた場合において,弁護士費用の金額を上記過納金と上記還付加算金の各金額に応じて按分した上記還付加算金に対応する金額が,所得税法37条1項前段に規定する必要経費である「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当しないとされた事例
裁判要旨納税義務者が弁護士に委任して提起した所得税に関する訴訟の判決の確定後に過納金の還付及び還付加算金の支払を受けた場合において,当該判決が所得税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す旨の判決であるという判示の事情の下では,弁護士費用の金額を上記過納金と上記還付加算金の各金額に応じて按分した上記還付加算金に対応する金額は,所得税法37条1項前段に規定する必要経費である「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当しない。
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平成28年11月29日判決言渡
平成27年(行ウ)第388号

更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求事件

主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
甲府税務署長が原告に対し平成26年8月25日付けでした,原告の平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る同年5月27日付け更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち,総所得金額4305万7361円,納付すべき税額723万2300円を超える部分を取り消す。

第2

事案の概要
本件は,平成16年分ないし平成18年分の所得税に係る各更正処分(申告額を超える部分等)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下,これらの処分を併せて「別件各更正処分等」という。)を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」といい,前訴判決に係る訴訟を「前訴」という。)を受けた原告が,所得税及び地方税(都道府県民税及び市町村民税。以下同じ。)に係る過納金(以下「本件過納金」という。)の還付を受けるとともに,国税通則法58条1項及び地方税法17条の4第1項に規定する還付加算金(以下「本件還付加算金」という。)の支払を受けたため,平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について,本件還付加算金を雑所得とする確定申告をした後,前訴に係る弁護士費用が雑所得に係る総収入金額から控除されるべき必要経費に該当するとして更正の請求をしたところ,甲府税務署長から更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けたことから,前訴に係る弁護士費用の金額を本件過納金と本件還付加算金の各金額に応じて按分した本件還付加算金に対応する金額(以下「前訴弁護士費用按分額」という。)は必要経費に当たると主張して,本件通知処分(原告主張の総所得金額及び納付すべき税額を超える部分)の取消しを求める事案である。
1
関係法令の定め
(1)

所得税法の定め
雑所得
(ア)

雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所
得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう(35条1項)。
(イ)

雑所得の金額は,次の各号に掲げる金額の合計額とする(35条2
項)。
1号

その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除し
た残額

2号

その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収
入金額から必要経費を控除した金額


収入金額
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする(36条1項)。


必要経費
その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち35条3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする(37条1項)。
(2)

国税通則法の定め
還付
国税局長,税務署長又は税関長(以下「税務署長等」という。)は,還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)があるときは,遅滞なく,金銭で還付しなければならない(56条1項)。


還付加算金
税務署長等は,還付金等を還付し,又は充当する場合には,次の各号に掲げる還付金等の区分に従い当該各号に定める日の翌日からその還付のための支払決定の日又はその充当の日(同日前に充当をするのに適することとなった日がある場合には,その適することとなった日)までの期間(他の国税に関する法律に別段の定めがある場合には,その定める期間)の日数に応じ,その金額に年7.3パーセントの割合を乗じて計算した金額(還付加算金)をその還付し,又は充当すべき金額に加算しなければならない(58条1項)。
1号

還付金及び次に掲げる過納金

当該還付金又は過納金に係る国税の

納付があった日(その日が当該国税の法定納期限前である場合に
は,当該法定納期限)

更正若しくは25条(決定)の規定による決定又は賦課決定によ
り納付すべき税額が確定した国税(当該国税に係る延滞税及び利子税を含む。)に係る過納金(次号に掲げるものを除く。)
ロ及びハ

(略)

2号及び3号

(略)

(なお,上記「年7.3パーセントの割合」については,租税特別措置法95条の適用がある場合にあっては,同条の特例の定めにより,同法93条2項に規定する特例基準割合となる。)
(3)

地方税法の定め
過誤納金の還付
地方団体の長(都道府県知事又は市町村長をいう(1条1項2号)。以下同じ。)は,過誤納に係る地方団体の徴収金(以下「過誤納金」という。)があるときは,政令で定めるところにより,遅滞なく還付しなければならない(17条)。


還付加算金
地方団体の長は,過誤納金を17条又は17条の2第1項から3項までの規定により還付し,又は充当する場合には,次の各号に掲げる過誤納金の区分に従い当該各号に掲げる日の翌日から地方団体の長が還付のための支出を決定した日又は充当をした日(同日前に充当をするのに適することとなった日があるときは,当該適することとなった日)までの期間の日数に応じ,その金額に年7.3パーセントの割合を乗じて計算した金額(還付加算金)をその還付又は充当をすべき金額に加算しなければならない(17条の4第1項(平成27年法律第2号による改正前のもの。以下同じ。))。
1号

更正,決定若しくは賦課決定…又は過少申告加算金,不申告加算金若しくは重加算金…の決定により納付し又は納入すべき額が確定した地方団体の徴収金(当該地方団体の徴収金に係る地方税に係る延滞金を含む。)に係る過納金(2号及び3号に掲げるものを除
く。)

当該過納金に係る地方団体の徴収金の納付又は納入があっ
た日
2号ないし4号
2
(略)

前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

原告は,山梨県南アルプス市に住所を有し,クラウンファスナー株式会
社の代表取締役を務めている者である。
(2)

前訴の経緯等


甲府税務署長は,平成20年3月11日,原告に対し,原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税について,各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(別件各更正処分等)をした(甲1の1ないし3)。

原告は,平成20年,別件各更正処分等により納付すべき所得税及び地方税として7321万5800円(国税5903万0900円及び地方税1418万4900円の合計額。ただし,いずれも附帯税を含む。)を納付した。


原告は,平成22年11月11日,外国法共同事業・ジョーンズ・デイ法律事務所の井上康一弁護士(以下「本件弁護士」という。)との間で,原告を委任者,本件弁護士を受任者として,要旨,下記のとおりの委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した(甲7)。



原告は,本件弁護士に対し,前訴に関する業務(以下「本件業務」という。)を委任する。



原告は,本件弁護士に対し,本件業務の着手金として300万円(消費税を含む。)を支払う。



原告は,本件弁護士に対し,前訴に勝訴した場合には,勝訴分(本税及び加算税の還付金並びに還付加算金をいう。以下同じ。)の20%を上限として,別途協議の上で定める成功報酬を支払う。

原告は,平成22年11月15日,本件弁護士に対し,本件委任契約に基づく着手金として300万円の支払をした(甲8の1及び2)。

原告は,平成22年12月22日,別件各更正処分等の取消しを求めて,東京地方裁判所に前訴の提起をした(同裁判所平成22年(行ウ)第725号所得税更正処分取消請求事件)(甲2)。


東京地方裁判所は,平成24年10月11日,前訴について,別件各更正処分等を取り消す旨の判決(前訴判決)の言渡しをした(甲2)。

東京高等裁判所は,平成25年5月29日,前訴判決に対する国の控訴を棄却する旨の判決の言渡しをした(甲3)。前訴判決は,上告期間が満了したことにより確定した。

(3)

過納金の還付等及び前訴の弁護士費用の支払
原告は,平成25年6月,本件過納金を還付する旨の支払決定に基づき,7321万5800円(本件過納金)の還付を受けるとともに,国税通則法58条1項及び地方税法17条の4第1項所定の還付加算金として1661万1200円(本件還付加算金。国税に係る還付加算金1355万5800円及び地方税に係る還付加算金305万5400円の合計額)の支払を受けた(甲4ないし6(いずれも枝番を含む。))。


原告は,平成25年7月10日,本件弁護士に対し,本件委任契約に基づく成功報酬として1496万2500円(以下,前記(2)エの着手金300万円との合計額1796万2500円を「前訴弁護士費用」という。)の支払をした(甲9の1及び2)。

(4)

本件通知処分に至る経緯
原告は,平成26年3月12日,甲府税務署長に対し,本件還付加算金1661万1200円を雑所得の総収入金額とし,別件各更正処分等により納付すべき所得税額等を納付するための借入金に係る支払利息188万4416円を雑所得の必要経費とし,雑所得の金額を1472万6784円と算定して他の所得とともに記載した平成25年分の所得税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出した(乙1)。

原告は,平成26年5月27日,甲府税務署長に対し,平成25年分の所得税等について,雑所得の金額の計算上,上記アの支払利息に加えて,前訴弁護士費用1796万2500円についても,本件還付加算金を得るために要した必要経費に算入すべきであるとして,更正の請求をした(甲10,弁論の全趣旨)。


甲府税務署長は,平成26年8月25日,上記イの更正の請求について,更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をした(甲11)。
(5)

不服申立て及び本件訴えの提起


原告は,平成26年10月24日,国税不服審判所長に対し,本件通知処分を不服として,審査請求をした(甲12)。


原告は,平成27年6月26日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

国税不服審判所長は,平成27年9月3日,上記アの審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙2)。

3
税額等に関する当事者の主張
被告が本件訴訟において主張する本件通知処分の根拠及び計算は,別紙2「課税の根拠及び計算」のとおりであるところ,原告は,後記4の争点に関する部分を除き,その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。
4
争点
本件の争点は本件通知処分の適法性であり,具体的には,前訴弁護士費用按分額(前訴弁護士費用の金額を本件過納金と本件還付加算金の各金額に応じて按分した本件還付加算金に対応する金額)が原告の雑所得に係る必要経費(所得税法37条1項)に当たるか否かが争われている。

5
争点に関する当事者の主張の要旨
(原告の主張の要旨)
(1)

ある支出が所得税法37条1項に規定する「総収入金額に係る売上原価
その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に該当するか否かは,直接的な関連性及び必要性が認められるか否かについて個別具体的な諸事情に即し社会通念に従って事案ごとに客観的に検討されるべきものである。
そして,最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁が,当たり馬券の払戻金という収入について,外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するとして,外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が上記収入に対応する必要経費に当たる旨判示していることからすれば,直接的な関連性及び必要性が認められるか否かについては,狭く形式的に解するのではなく,実質的に判定がされるべきものというべきである。
(2)ア

前訴は別件各更正処分等の取消判決(処分を取り消す旨の判決をい
う。以下同じ。)を求める訴訟であり,その訴訟追行が極めて専門的で困難であることからすれば,一般人である原告がその訴訟追行をすることは不可能である。そのため,原告は,前訴の訴訟追行を本件弁護士に委任し前訴弁護士費用を負担する必要があったのであり,前訴弁護士費用は原告が本件各更正処分等の取消しを受けるために必要不可欠な支出であった。したがって,前訴と前訴弁護士費用との間には直接的な関連性が認められる。

納税者が,違法な課税処分により納付した税額に相当する金銭(以下「納付税額相当金」という。)の還付を受けるためには,当該課税処分について行政事件訴訟法3条2項に規定する処分の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)を提起してその取消判決を得ることが唯一の手段となる。そして,課税処分の取消判決が確定すると,その形成力により課税処分は処分の時に遡ってその効力を失い,納付税額相当金が過納金となり,過納金の還付請求権が納付の時点において既に発生していたことになるとともに,納付税額相当金につき納付から還付までの期間に応じた還付加算金が当然に発生し支払われることになる(国税通則法58条1項,地方税法17条の4第1項)。そのため,課税処分の取消訴訟を提起して取消判決を得ることは,納付税額相当金に係る還付加算金の支払を受けるための唯一の手段になるものであるから,違法な課税処分に係る取消訴訟の提起は,単に課税処分の取消しを求めるものにとどまらず,課税処分の取消しの結果として当然に生ずる納付税額相当金の還付及び納付から還付までの期間に応じた還付加算金の支払をも求めるものというべきである。このように,課税処分の取消判決,過納金の還付及び還付加算金の支払には,社会的事実としての一体性が認められる。
原告は,本件委任契約において還付加算金を含む勝訴分の20%を上限とする成功報酬を支払う旨の取決めがされていることからも明らかなとおり,別件各更正処分等の取消判決を得ることによって本件過納金の還付を受けることだけでなく還付加算金の支払を得ることをも目的として前訴を提起し,その訴訟追行を本件弁護士に委任して前訴弁護士費用の負担をしたのであり,このような目的で前訴を提起し別件各更正処分等の取消判決を得ることは,原告が本件還付加算金の支払を受けるための唯一の手段であり,原告と同様の立場に置かれる納税者に共通する客観的事情であるといえる。
したがって,本件還付加算金と前訴及び前訴判決の確定との間には,直接的な関連性が認められるというべきである。

前記アのとおり前訴と前訴弁護士費用との間に直接的な関連性が認められ,上記イのとおり本件還付加算金と前訴及び前訴判決の確定との間に直接的な関連性が認められるのであるから,本件還付加算金と前訴弁護士費用との間にも直接的な関連性が認められるというべきである。
(3)

本件過納金の還付自体は原告の課税所得を構成するものではなく,本件
還付加算金のみが原告の雑所得の総収入金額に算入されることになる。そして,前訴弁護士費用について本件過納金の還付に対応する部分と本件還付加算金の支払に対応する部分を特定する方法としては,還付された本件過納金の額と支払を受けた本件還付加算金の額によって按分する方法が客観的で合理的な方法であるといえる。
したがって,前訴弁護士費用のうち,本件過納金に対応する部分は本件還付加算金の支払を得るため直接に要した費用とはいい難いとしても,少なくとも,前訴弁護士費用按分額は雑所得の総収入金額に算入される本件還付加算金の支払を得るため直接に要した費用であるというべきである。(4)ア

この点につき,福岡高等裁判所平成22年10月12日判決(税務訴
訟資料260号順号11530。以下「福岡高裁平成22年判決」という。)は,①不法行為に基づく損害賠償金に係る遅延損害金は,履行遅滞による損害賠償金であって,元金使用の対価としての性質を有するから雑所得に該当すること,②その損害賠償金及び遅延損害金を得るために要した弁護士費用のうち,遅延損害金を得るために要した金額については,遅延損害金に相当する部分を得るため直接に要した費用として必要経費に算入されること,③この場合,必要経費に算入される弁護士費用の額は,弁護士費用に損害賠償金と遅延損害金の総額に占める遅延損害金の額の割合を乗じたものとなることを明らかにしている。
そして,本件還付加算金は,本件過納金の支払の遅滞によって生じた元本使用の対価たる遅延損害金と解され,福岡高裁平成22年判決の上記判示に係る遅延損害金と同様の性質を有するから,前訴弁護士費用按分額は本件還付加算金を得るため直接に要した費用として必要経費に算入されるというべきである。

また,事業的規模で行われていない金銭の貸付けの回収のために,貸主(個人)が弁護士に委任して,借主に対し訴訟を提起し,借主から貸付金元本,利息及び遅延損害金を回収した事例(以下「原告設定事例1」という。)においては,回収した貸付金の利息及び遅延損害金は雑所得に係る総収入金額に該当し,回収のために要した弁護士費用の金額に回収総額のうち利子及び遅延損害金の合計額が占める割合を乗じた金額が雑所得に係る必要経費に該当する。そして,前訴が取消訴訟であるのに対し,上記事例が給付訴訟であるという違いはあるものの,両訴訟における弁護士費用の性格が異なるものではないから,上記事例と同様に,原告は本件過納金の還付及び本件還付加算金の支払を求めるため前訴弁護士費用を直接に要したということができ,いずれの訴訟においても,弁護士費用の総額のうち,回収の対象となった金額の全体に対する雑所得の総収入金額に相当する割合の金額(按分額)が必要経費に該当するというべきである。ウ
さらに,源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を受けた個人が,弁護士に委任して過誤納金及び還付加算金の還付等請求訴訟を提起し,その結果,勝訴判決を得て源泉所得税,不納付加算税及び延滞税に係る過誤納金の還付に加え,還付加算金を受領した場合において,当該個人が当該弁護士に対し弁護士費用の支払をしたという事例(以下「原告設定事例2」という。)では,当該訴訟に要した弁護士費用の金額を還付加算金と過誤納金の各金額に応じて按分した還付加算金に対応する金額が雑所得に係る必要経費になる。そして,上記事例と本件は,訴訟形態こそ異なるものの,違法な課税処分に基づき納付した税額に相当する過誤納金の還付及び当該過誤納金に係る還付加算金の支払を受けるために,納税者が国を相手に訴訟を提起し,勝訴して過誤納金の還付と還付加算金の支払を受ける点では何ら変わることはないから,上記事例とほぼパラレルに考えられる本件において,前訴弁護士費用按分額が本件還付加算金に係る必要経費に当たることに疑問の余地はないというべきである。(5)

以上により,前訴弁護士費用按分額は,本件還付加算金と直接的な関連
性及び必要性が認められるから,原告の雑所得に係る必要経費に当たるというべきである。
なお,後記(被告の主張の要旨)(4)の指摘に係る広島高等裁判所平成24年3月1日判決(訟務月報58巻8号3045頁。以下「広島高裁平成24年判決」という。)は,本件と同種の事案において別異の判示をしているが,還付加算金の法的な性格が利子であることをもって更正処分等の取消訴訟に係る弁護士費用の必要経費該当性を否定する論拠が不明である上,過納金が違法な課税処分の取消判決の反射的効果として生ずるのであれば弁護士費用と過納金の関連性や過納金と還付加算金の関連性が強まると解することもできるから,十分な分析を経ていないものといわざるを得ず,本件において参照するのは適切ではない。
(被告の主張の要旨)
(1)

ある費用が,所得税法37条1項に規定する「総収入金額に係る売上原
価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するには,特定の収入との間に直接の対応関係があり,個別的に対応するような費用でなければならない。
また,上記の「直接に要した費用」に該当するには,所得に係る収入金額に対し,何らかの関連性があればよいというものではなく,直接的な関連性及び必要性があると客観的に認められる必要があるというべきであり,主観的にいかなる目的で費用が支払われたかということは,必要経費該当性に係る判断を左右するものではない。
なお,前掲最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決は,本件と事実関係及び前提事情が全く異なるものである上,「直接に要した費用」の一般的な意義や範囲を具体的に特定できるような判断基準を判示したものではないから,直接的な関連性について緩やかに解すべきものとしたものではないというべきである。
(2)ア

課税処分の取消訴訟は,一般に,国税通則法24条に規定する「更
正」や同法25条に規定する「決定」等の処分の取消しを求めて提起する訴訟であり,このような課税処分の取消訴訟に要した弁護士費用は,客観的には,更正処分等の取消判決を求めて提起した訴訟の遂行上生じた費用というほかなく,還付加算金という収入と直接の対応関係を有するものではない。

また,国税通則法58条1項及び地方税法17条の4第1項の「加算しなければならない」との文言から明らかなとおり,税務署長等又は地方団体の長は,国税又は地方税の納付及びその納付金に係る還付金又は過誤納金の発生並びに納付後の期間の経過という要件(以下「還付加算要件」という。)を満たした場合に還付加算金の支払義務が課されているから,国又は地方団体が還付加算金の支払を怠ることはないのであって,このような還付加算金の性質からすると,納税者において現実に還付加算金の支払を求めて訴訟を提起する必要性はおよそ認め難い。さらに,上記各規定において,還付加算金の算定に係る割合や計算期間が具体的に定められており,訴訟追行の在り方によって還付加算金の発生や算定が上記各規定の定める内容と異なるものとなる余地もない。
このような還付加算金の性質からも,課税処分の取消訴訟に係る弁護士費用は,還付加算金に係る収入と直接の対応関係を有するものには当たり得ないと解すべきである。

(3)ア

還付加算金は,課税処分の取消判決の確定によって生じた形成力を端
緒として発生する場合があるものの,課税処分を受けた納税者が当該処分に係る税金を納付していることを前提とするものであり,課税処分の取消判決が確定することによって必ず発生するものではない。また,還付加算金は,還付加算要件を満たした場合に,過納金がどのような事情で生じたものであるかにかかわらず,過納金の納付があった日の翌日から還付のための支払決定の日までの期間等に応じて,当然に発生し自動的に付されるものである。
原告が本件還付加算金を得ることになったのも,前訴判決の直接の効力ではなく,従前,原告が別件各更正処分等により納付すべき所得税額等を全額納付していたところ,前訴判決の確定により別件各更正処分等が遡って効力を失い,本件過納金が発生して還付加算要件を満たすこととなったからにすぎない。
また,本件還付加算金が発生する前提となる本件過納金自体,前訴判決の反射的効果として発生したものにすぎない。

還付加算金が付される趣旨については,国税の納付の遅延に対して延滞税が課されること(国税通則法60条)との権衡を考慮して,還付金等に対しても一種の利子としてこれを付すことにある。本件還付加算金に含まれている地方税に係る還付加算金(地方税法17条の4第1項)も,過納金の存在と一定の期間を要件として法律上当然に発生し自動的に付されるという点で,国税通則法上の還付加算金と異ならないものと解される。

原告が,前訴の訴訟追行を本件弁護士に委任するに際し,還付加算金の支払を受けられるようにすることまでも委任していたとしても,このような事情は原告の主観的な意図ないし目的にすぎない。


上記アないしウに照らすと,本件還付加算金は,前訴や前訴判決の確定と直接的な関連性があると認められるものではなく,本件還付加算金と前訴を遂行するために必要とされた前訴弁護士費用との間に直接的な関連性及び必要性があると客観的に認められるものではないというべきである。
(4)

以上に鑑みると,別件各更正処分等の取消しを求めて提起された前訴に
係る前訴弁護士費用と本件還付加算金には直接の対応関係がないものと解するほかなく,また,直接の対応関係を認めるべき事情も存しない。この点につき,広島高裁平成24年判決も,還付加算金と更正処分等の取消訴訟に係るの弁護士費用との間に直接の対応関係はない旨判示しているところである。
したがって,前訴弁護士費用按分額は,本件還付加算金に係る収入金額に対して直接的な関連性及び必要性があるとは認められず,本件還付加算金に係る「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」には該当せず,原告の雑所得に係る必要経費に該当すると認めることはできないというべきである。
(5)ア

なお,福岡高裁平成22年判決の事案において実質的な遅延損害金
(形式上は和解金)とされたものは,個人が商品先物取引の委託会社に対して不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金を求める訴訟を提起したことによって得ることができたものであるところ,遅延損害金を請求するか否かは当事者の自由であり,その割合や計算期間についても当事者の合意によって定めることが可能なものであるのに対し,還付加算金は,還付加算要件が充足された場合に当然に発生し自動的に付され,税務署長等にその支払義務が課されるものであって,私的自治が及ぶ余地がない。そうすると,福岡高裁平成22年判決の事案において雑所得に係る収入とされた実質的な遅延損害金と本件還付加算金とでは,そもそも,その性質及び算定の基礎が大きく異なるのであって,同事案と本件とでは前提が大きく異なるから,福岡高裁平成22年判決を参照すべきであるとはいえない。

原告設定事例1における遅延損害金の法的性質は貸付金元本の返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権であり,上記アのとおり,遅延損害金の付加や算定には私的自治が及ぶのに対し,還付加算金には私的自治が及ぶ余地はなく,税務署長等が支払を怠ることもない。原告設定事例1における遅延損害金と還付加算金はそもそも性質を大きく異にしている上,本件と原告設定事例1は局面を異にするものであるから,原告設定事例1に基づいて本件を検討すること自体が適切ではない。

原告設定事例2については,更正処分の取消訴訟の場合であっても,納税告知処分に基づき納付された源泉所得税に係る過誤納金及び還付加算金の還付等請求訴訟の場合であっても,納税者が勝訴した後に当該納税者が受領し,当該納税者の雑所得の総収入金額に算入されることになるのは,国税通則法に規定する還付加算金であり,還付加算金の内容及び性質が異なるものではないから,納税告知処分に基づき納付された源泉所得税に係る過誤納金及び還付加算金の還付等請求訴訟に係る弁護士費用と還付加算金との間には直接の対応関係は認められず,結論としては,本件のような更正処分の取消訴訟に要した弁護士費用と還付加算金との間に直接の対応関係が認められないのと同様の帰結に至るものと解すべきである。
第3
1
当裁判所の判断
本件還付加算金は,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから,所得税法35条1項に規定する雑所得に当たると解されるところ,本件還付加算金との関係で同法37条1項に規定する必要経費に該当する費用の額については,同法35条2項2号により雑所得に係る総収入金額から控除されることになる。
そこで,以下,所得税法37条1項に規定する必要経費の意義についてみた上で,前訴弁護士費用按分額が雑所得に係る総収入金額から控除される必要経費に該当するか否かについて検討することとする。

2
所得税法37条1項に規定する必要経費の意義
所得税法37条1項は,その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,①「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」(同項前段)及び②「その年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用…の額」(同項後段)とする旨を定めている。
これは,いわゆる費用収益対応の原則(必要経費は,それが生み出すことに役立った収入と対応させ,その収入から控除しなければならないという原則)により,特定の収入との対応関係を明らかにできる費用についてはそれが生み出した収入の帰属する年度の必要経費とすべきであり(以下,これを「個別対応」という。),特定の収入との対応関係を明らかにできない費用についてはそれが生じた年度の必要経費とすべきである(以下,これを「一般対応」という。)ことから,必要経費を二つに区分し,個別対応の費用に相当するものとして上記①の費用の額を,一般対応の費用に相当するものとして上記②の費用の額をそれぞれ定めたものと解される。
このように,所得税法37条1項が特定の収入との対応関係の有無に応じて必要経費を二つに区分し,同項前段が「総収入金額に係る売上原価」に加えて「その他総収入金額を得るため直接に要した費用の額」と規定していることからすれば,「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するといえるためには,特定の収入と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず,総収入金額を構成する特定の収入と直接の対応関係を有しており当該収入を得るために必要な費用であることを要すると解するのが相当であり,その該当性の判断は,当該費用に係る個別具体的な諸事情に即し社会通念に従って客観的に判断されるべきであると解される。
なお,以上の説示したところに加え,所得税法37条1項後段が「その年における販売費,一般管理費」に加えて「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用…の額」と規定していること,業務上の必要経費と家事上の経費等(同法45条1項1号)を識別する必要があることからすれば,「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用…の額」に該当するといえるためには,所得を生ずべき業務と何らかの関連性を有する費用というだけでは足りず,所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有しており当該業務の遂行上必要な費用であることを要すると解するのが相当である。
3
前訴弁護士費用按分額が所得税法37条1項前段に規定する費用に該当するか否かについて
(1)ア

国税通則法は,税務署長は,納税申告書の提出があった場合において,
その納税申告書に記載された課税標準等(2条6号イからハまで(定義)に掲げる事項をいう(19条1項柱書き参照)。以下同じ。)又は税額等(同号ニからヘまでに掲げる事項をいう(同項柱書き参照)。以下同じ。)の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは,その調査により,当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正するものとし(24条),また,期限内申告書(法定申告期限までに税務署長に提出された申告納税方式による国税に係る納税申告書をいう(17条2項参照)。)が提出された場合において,更正があったときは,当該納税者に対し,65条1項及び2項所定の方法により計算した金額の過少申告加算税を課する旨を定めている(同条1項及び2項)。
納税申告書の提出があった国税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,これらの処分を併せて「更正処分等」という。)は,当該国税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額を確定させる効力を有するものであり(国税通則法16条参照),その効力を否定するためには,当該更正処分等について取消訴訟を提起し,当該更正処分等を取り消す旨の判決を得る必要がある。そして,取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であると解されるから,更正処分等の取消訴訟においては当該更正処分等が違法であるか否かが審理の対象となる。
したがって,更正処分等の取消訴訟は,当該更正処分等が違法であるか否かを審理の対象とし,納税申告書の提出があった国税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額の存否ないし多寡を争い,当該納付すべき税額を確定させる効力を否定することを目的として提起されるものというべきであり,当該更正処分等を取り消す旨の判決により納税者が受ける直接の経済的利益は,当該判決により取消しの対象とされた納付すべき税額に相当する金額であるといえる。
そして,更正処分等の取消訴訟の訴訟追行に係る事務を弁護士に委任する場合も,このような目的のために当該取消訴訟の提起がされることに変わりはなく,当該取消訴訟を提起する前に当該更正処分等により確定した国税(附帯税を含む。)の納付が既にされているか否かによって上記委任事務の内容や弁護士費用の性質が異なるものではないというべきである。イ
上記アに説示したところに照らすと,前訴も,別件各更正処分等が違法であるか否かを審理の対象とし,原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額の存否ないし多寡を争い,当該納付すべき税額を確定させる効力を否定することを目的として提起されたものというべきであり,これを別異に解すべき事情は認められない。
そうすると,本件委任契約は原告が本件弁護士に対し本件業務を委任するものであるから(前記前提事実(2)ウ),前訴弁護士費用は,原告が本件弁護士に対しこのような目的のために提起される前訴の訴訟追行に係る事務を委任し,当該事務が遂行されたことに対する報酬として支払われたものとみるのが相当である。
そして,原告は,前訴判決により別件各更正処分等が取り消され,これにより原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額を確定させる効力が否定されるなどした結果,別件各更正処分等に基づく所得税及びこれに伴う地方税(いずれも附帯税を含む。)として納付していた合計7321万5800円の本件過納金の還付を受けたものである(前記前提事実(3)ア)。
したがって,原告が前訴判決に基づいて受けた直接の経済的利益は本件過納金の還付による経済的利益というべきであるから,前訴弁護士費用と直接の対応関係を有するのも本件過納金の還付による経済的利益というべきである。
(2)ア

他方,国税通則法58条1項は,税務署長等は,還付金等を還付する
場合には,還付金又は過納金に係る国税の納付があった日(同項1号)など,同項各号に掲げる還付金等の区分に従い当該各号に定める日の翌日からその還付のための支払決定の日等までの期間の日数に応じ,その金額に年7.3パーセントの割合(租税特別措置法95条の適用がある場合にあっては,同法93条2項に規定する特例基準割合)を乗じて計算した金額(還付加算金)をその還付をすべき金額に加算しなければならない旨を定めている。また,地方税法17条の4第1項も,過誤納金を還付する場合における還付加算金について,国税通則法58条1項と同旨の規定を定めている。
そして,還付加算金は,国税又は地方税の納付及びその納付金に係る還付金等の発生など法定の還付加算要件が満たされる場合に,還付金等が発生する原因にかかわらず,税務署長等が法律上当然に加算して支払わなければならない金員として還付金等に加算されるものであるから,還付金等に対する一種の利子としての性格を有するものと解される。

本件還付加算金も,原告が別件各更正処分等に基づく所得税及びこれに伴う地方税(いずれも附帯税を含む。)として合計7321万5800円を納付していたところ(前記前提事実(2)イ),前訴判決により別件各更正処分等が取り消されたことによって本件過納金が生じたことから,国税通則法58条1項及び地方税法17条の4第1項に基づき,本件過納金の還付を受けた際に,一種の利子としての性格を有する金員として法律上当然に加算して支払われたものである。
このように,原告が本件還付加算金の支払を受けることとなったのは,原告が前訴判決を受ける以前に上記7321万5800円の納付をしていたところ,前訴判決の効力によって本件過納金が生じ,本件過納金の支払決定によりその還付を受けることになったことなど法定の還付加算要件を満たしたことによるものであって,前訴判決の直接の効力によって本件還付加算金が生じたものではない。
以上の点に加え,前記(1)イにおいて説示した点を併せ考慮すると,本件還付加算金は,前訴弁護士費用や前訴判決との間に間接的な関連性を有するということはできるものの,前訴弁護士費用と直接の対応関係を有するものということはできないというべきである。
(3)

以上によれば,前訴弁護士費用の一部である前訴弁護士費用按分額は,
本件還付加算金と直接の対応関係を有するものではないというべきである。したがって,前訴弁護士費用按分額は,所得税法37条1項前段に規定する「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するとはいえない。4
所得税法37条1項前段該当性に関する原告の主張について
(1)

原告は,当たり馬券の払戻金という収入との関係における外れ馬券を含
む馬券の購入代金の必要経費該当性に関する前掲最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決の判示を根拠として,収入と費用との間に直接的な関連性及び必要性が認められるか否かについては,狭く形式的に解するのではなく,実質的に判定がされるべきである旨主張する。
しかしながら,上記の最高裁判決は,当該事案の具体的な事実関係の下における必要経費該当性について個別の当てはめを示した事例にとどまり,所論のような一般的な解釈を判示したものではなく,この点をおくとしても,前記2において説示したとおり,所得税法37条1項前段に規定する「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するか否かは,総収入金額を構成する特定の収入と直接の対応関係を有しており当該収入を得るために必要な費用であるか否かについて,当該費用に係る個別具体的な諸事情に即し社会通念に従って客観的に判断されるべきであるところ,その該当性の判断において所論のように実質的な観点から検討するとしても,前記3(2)において検討したところによれば,前訴弁護士費用按分額が,本件還付加算金と直接の対応関係を有するものではなく,同項前段に規定する「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するといえないとの前記3の判断が左右されるものではないというべきである。
(2)

原告は,課税処分の取消訴訟を提起して取消判決を得ることは,納付税
額相当金に係る還付加算金の支払を受けるための唯一の手段になるものであるから,違法な課税処分に係る取消訴訟の提起は,単に課税処分の取消しを求めるものにとどまらず,課税処分の取消しの結果として当然に生ずる納付税額相当金の還付及び納付から還付までの期間に応じた還付加算金の支払をも求めるものというべきであり,課税処分の取消判決,過納金の還付及び還付加算金の支払には,社会的事実としての一体性が認められる旨主張する。しかしながら,前記3(1)イにおいて説示したとおり,前訴は,別件各更正処分等が違法であるか否かを審理の対象とし,原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額の存否ないし多寡を争い,当該納付すべき税額を確定させる効力を否定することを目的として提起されたものというべきである。また,前記3(2)イにおいて説示したとおり,原告が本件還付加算金の支払を受けることとなったのは,原告が前訴判決を受ける以前に合計7321万5800円の国税及び地方税の納付をしていたところ,前訴判決の効力によって本件過納金が生じ,本件過納金の支払決定によりその還付を受けることになったことなど法定の還付加算要件を満たしたことによるものであって,前訴判決の直接の効力によって本件還付加算金が生じたものではない。そのため,仮に課税処分の取消判決,過納金の還付及び還付加算金の支払に社会的事実としては一定の関連性が認められるとしても,前訴弁護士費用の一部である前訴弁護士費用按分額が本件還付加算金と直接の対応関係を有するものではないとの前記3の判断を左右するものではないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。(3)

原告は,本件委任契約において還付加算金を含む勝訴分の20%を上限
とする成功報酬を支払う旨の取決めがされていることからも明らかなとおり,別件各更正処分等の取消判決を得ることによって本件過納金の還付を受けることだけでなく還付加算金の支払を得ることをも目的として前訴を提起し,その訴訟追行を本件弁護士に委任して前訴弁護士費用の負担をしたのであり,このような目的で前訴を提起し別件各更正処分等の取消判決を得ることは,原告が本件還付加算金の支払を受けるための唯一の手段であり,原告と同様の立場に置かれる納税者に共通する客観的事情であるといえる旨主張する。しかしながら,前記2において説示したとおり,「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するか否かの判断は,当該費用に係る個別具体的な諸事情に即し社会通念に従って客観的に判断されるべきであるところ,前記3(1)イにおいて説示したとおり,前訴は,別件各更正処分等が違法であるか否かを審理の対象とし,原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額の存否ないし多寡を争い,当該納付すべき税額を確定させる効力を否定することを目的として提起されたものというべきであり,前訴弁護士費用は,原告が本件弁護士に対しこのような目的のために提起される前訴の訴訟追行に係る事務を委任し,当該事務が遂行されたことに対する報酬として支払われたものであるとみるのが相当である。また,前記3(1)アにおいて説示したとおり,更正処分等の取消訴訟の訴訟追行に係る事務を弁護士に対し委任する場合に,当該取消訴訟を提起する前に当該更正処分等により確定した国税(附帯税を含む。)の納付が既にされているか否かによって上記委任事務の内容や弁護士費用の性質が異なるものではないというべきである。
そのため,原告が,本件委任契約において,前訴弁護士費用につき,勝訴をした場合に勝訴分(本税及び加算税の還付金並びに還付加算金)の20%を上限として別途協議の上で定める成功報酬を支払う旨の合意をしており(前記前提事実(2)ウ),仮にそのような合意が更正処分等の取消訴訟に関する弁護士との委任契約において一般的に行われているものであるとしても,成功報酬に関する合意をするに当たり還付加算金の額を当該成功報酬の算定の基礎に含めるか否かは,委任契約の当事者間において任意に取り決められる主観的な事情にとどまるものであって,客観的な評価として前訴弁護士費用の一部である前訴弁護士費用按分額が本件還付加算金と直接の対応関係を有するものではないとの前記3の判断を左右するものではないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。(4)

原告は,本件還付加算金は,本件過納金の支払の遅滞によって生じた元
本使用の対価たる遅延損害金と解され,福岡高裁平成22年判決の判示に係る遅延損害金と同様の性質を有するから,前訴弁護士費用按分額は本件還付加算金を得るため直接に要した費用として必要経費に算入されるというべきである旨主張する。
しかるに,所得税法は,一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し課税を行うこととしており,同法36条1項が上記期間中の収入金額又は総収入金額の計算について「収入すべき金額」によるとしていることから考えると,同法は,現実の収入がなくても,その収入の原因となる権利が確定した場合には,その時点で所得の実現があったものとして,その権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解され,ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は,それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものであるところ,ある金銭債権の存否ないし多寡が債務者により争われた場合には,同債権の存否及び金額に係る裁判の確定(訴訟上の和解の成立を含む。)までは,同債権の存否ないし多寡を正確に判断することは困難であり,債権者である納税者に同債権に関し確定申告及び納税を強いることは相当でなく,課税庁に独自の立場でその認定をさせることも相当ではないから,原則として,同債権の存否及び金額に係る裁判の確定時(訴訟上の和解にあってはその成立時)にその権利が確定するものと解するのが相当である(最高裁昭和50年(行ツ)第123号同53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁等参照)。この点につき,福岡高裁平成22年判決の認定に係る不法行為に基づく損害賠償請求訴訟は,損害賠償金及びこれに対する遅延損害金を請求の対象とする給付訴訟であり,請求対象となる両債権の存否ないし多寡が争われた上で,当該訴訟の当事者間においてその存否及び金額に係る訴訟上の和解が成立したことにより,その時点で遅延損害金に係る債権が確定したものといえるから,当該訴訟に係る弁護士費用のうち遅延損害金に対応する部分は,遅延損害金に係る収入と直接の対応関係を有しており当該収入を得るために必要な費用に当たるとみることが可能である。
これに対し,前記3(1)イにおいて説示したとおり,前訴は,別件各更正処分等が違法であるか否かを審理の対象とし,原告の平成16年分ないし平成18年分の所得税及び過少申告加算税に係る納付すべき税額の存否ないし多寡を争い,当該納付すべき税額を確定させる効力を否定することを目的として提起されたものというべきであり,前訴弁護士費用は,原告が本件弁護士に対しこのような目的のために提起される前訴の訴訟追行に係る事務を委任し,当該事務が遂行されたことに対する報酬として支払われたものであるとみるのが相当である。そして,前記3(2)においてみたとおり,還付加算金は,既納付の国税又は地方税に係る更正処分の取消判決による還付金等の発生及びその支払決定までの期間の経過により,法定の還付加算要件が充足されることによって,法定の算定方法に従って所定の金額の公法上の債権が当然に発生して権利が確定するものであり(当事者間の合意の内容によって税務署長等又は地方団体の長の支払義務の範囲が異なり得るものではない。),更正処分等の取消訴訟の請求対象に含まれない(還付加算金は,法律上当然に加算され支払われるものであって,税務署長等又は地方団体の長がその支払を怠ることはないといえるから,その支払を求めて別途の給付訴訟を提起する必要もないものといえる。)から,当該訴訟に係る弁護士費用の一部が,還付加算金に係る収入と直接の対応関係を有しており当該収入を得るために必要な費用に当たるとみることは困難である。このように,福岡高裁平成22年判決の認定に係る不法行為に基づく損害賠償請求訴訟と別件各更正処分等の取消訴訟である前訴とは,訴訟類型や提訴の目的,内容等が異なるものである上,それぞれの訴訟の結果として当事者(弁護士との間の委任契約の委任者)が受ける直接の経済的利益も異なるものである。以上に鑑みると,福岡高裁平成22年判決の認定に係る上記の給付訴訟における弁護士費用の中に遅延損害金に対応するものとして必要経費に該当すると認められるものがあるとしても,そのことをもって,前訴における弁護士費用のうち本件還付加算金に対応する前訴弁護士費用按分額が所得税法37条1項前段所定の必要経費である「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するとはいえないとの前記3の判断が左右されるものではないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。(5)

原告は,事業的規模で行われていない金銭の貸付けの回収のために,貸
主(個人)が弁護士に委任して借主に対し訴訟を提起し,借主から貸付金元本,利息及び遅延損害金を回収した事例(原告設定事例1)においては,回収した貸付金の利息及び遅延損害金は雑所得に係る総収入金額に該当し,回収のために要した弁護士費用の金額に回収総額のうち利息及び遅延損害金の合計額が占める割合を乗じた金額が雑所得に係る必要経費に該当するところ,前訴が取消訴訟であるのに対し,上記事例が給付訴訟であるという違いはあるものの,両訴訟における弁護士費用の性格が異なるものではないから,上記事例と同様に,原告は本件過納金の還付及び本件還付加算金の支払を求めるため前訴弁護士費用を直接に要したということができ,いずれの訴訟においても,弁護士費用の総額のうち,回収の対象となった金額の全体に対する雑所得の総収入金額に相当する割合の金額(按分額)が必要経費に該当するというべきである旨主張する。
しかしながら,還付加算金と更正処分等の取消訴訟との関係が,遅延損害金とこれを請求の対象とする給付訴訟との関係と,その性質及び内容等を本質的に異にするものであることは,上記(4)において説示したとおりである。そして,原告設定事例1に係る貸金返還請求訴訟は,貸付金元本及び利息並びに遅延損害金を請求の対象とする給付訴訟であり,請求の対象とされたこれらの債権の存否が争われ,これらの債権の存在及び金額に係る裁判の確定時にその権利が確定するものと解され,福岡高裁平成22年判決の認定に係る不法行為に基づく損害賠償請求訴訟と訴訟類型を同じくするものであって,主たる請求の対象が損害賠償金か又は貸付金元本及び利息かの差異があるにとどまるものであることに鑑みると,上記(4)において説示したとおり,仮に原告設定事例1に係る上記の給付訴訟における弁護士費用の中に遅延損害金に対応するものとして必要経費に該当すると認められ得るものがあるとしても,そのことをもって,前訴における弁護士費用のうち本件還付加算金に対応する前訴弁護士費用按分額が所得税法37条1項前段所定の必要経費である「総収入金額を得るため直接に要した費用」に該当するとはいえないとの前記3の判断が左右されるものではないというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。(6)

原告は,源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を
受けた個人が,弁護士に委任して過誤納金及び還付加算金の還付等請求訴訟を提起し,その結果,勝訴判決を得て源泉所得税,不納付加算税及び延滞税の還付に加え,還付加算金を受領した場合において,当該個人が当該弁護士に対し弁護士費用の支払をしたという事例(原告設定事例2)では,当該訴訟に要した弁護士費用の金額を還付加算金と過誤納金の各金額に応じて按分した還付加算金に対応する金額が雑所得に係る必要経費になるところ,上記事例と本件は,訴訟形態こそ異なるものの,違法な課税処分に基づき納付した税額に相当する過誤納金の還付及び当該過誤納金に係る還付加算金の支払を受けるため,納税者が国を相手に訴訟を提起し,勝訴して過誤納金の還付と還付加算金の支払を受ける点では何ら変わることはないから,上記事例とほぼパラレルに考えられる本件において,前訴弁護士費用按分額が本件還付加算金に係る必要経費に当たることに疑問の余地はないというべきである旨主張する。
しかしながら,そもそも,原告設定事例2において,過誤納金の還付請求を認容する旨の判決が確定すれば,税務署長等又は地方団体の長が既に発生している還付加算金の支払を怠ることはないといえるから,客観的な評価としては,過誤納金の還付に加えて還付加算金の支払を求めて給付訴訟を提起する必要はなく,当該訴訟に係る弁護士費用の一部が当該還付加算金との間に直接の対応関係を有するものではないといえるので,上記事例に係る訴訟に要した弁護士費用の金額のうち還付加算金と過誤納金の合計額に占める前者の割合に係る按分額は,還付加算金に係る雑所得との関係で所得税法37条1項前段所定の必要経費である「総収入金額を得るため直接に要した費用」に当たるとはいえないものと解するのが相当であり,原告の上記主張はその前提を欠くものというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。5
前訴弁護士費用按分額が所得税法37条1項後段に規定する費用に該当するか否かについて
本件還付加算金は,国税通則法58条1項及び地方税法17条の4第1項により法律上当然に加算され支払われたものであって,前記3及び4において検討したところに照らせば,前訴の提起及びその訴訟追行が雑所得である本件還付加算金を生ずべき「業務」に該当するものということはできず,他に雑所得である本件還付加算金を生ずべき「業務」に該当するものがあるということもできない(以上の理は,事柄の性質及び前記4において説示したところに照らし,前記4(1)ないし(6)の原告の主張(収入と費用との関連性等に係るもの)によっても左右されるものではないというべきである。)。
したがって,前訴弁護士費用按分額は,所得税法37条1項後段に規定する「その年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用…の額」に該当するとはいえない。

6
小括
以上のとおり,前訴弁護士費用按分額は,所得税法37条1項前段又は後段に規定する費用のいずれかに該当するとはいえないから,原告の雑所得に係る総収入金額から控除される必要経費に該当するとはいえないというべきである。
7
本件通知処分の適法性について
以上に説示したところに加え,本件通知処分における課税の根拠及び計算は,別紙2「課税の根拠及び計算」に記載するとおりであると認められるから(前記第2の3参照),本件通知処分は適法というべきである。

第4

結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部

裁判長裁判官

岩井伸晃
裁判官

堀内元城
裁判官

吉賀朝哉
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