判例検索β > 平成29年(ネ)第10010号
特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10010
事件名特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日平成29年6月29日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)28699
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平成29年6月29日判決言渡
平成29年(ネ)第10010号

特許権侵害差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成27年(ワ)第28699号,同第28848号,同第29004号)
口頭弁論終結日

平成29年4月20日
判決
控訴人(一審原告)

デビオファーム・
インターナショナル・エス・アー

訴訟代理人弁護士

大野聖二同大野浩之同木村広行同多田宏文
被控訴人(一審被告)

第一三共エスファ株式会社


富士フイルムファーマ株式会社

同ニ
上記3名訴訟代理人弁護士

吉澤同川田プロ株式敬会社夫篤
同訴訟代理人弁理士

紺野同井波
同補佐人弁理士

伊藤主昭男実武泰文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人第一三共エスファ株式会社(以下「被控訴人第一三共」という。)

は,別紙被控訴人第一三共製品目録記載1~3の各製剤の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。
3
被控訴人第一三共は,別紙被控訴人第一三共製品目録記載1~3の各製剤を
廃棄せよ。
4
被控訴人富士フイルムファーマ株式会社(以下「被控訴人富士フイルム」と
いう。
)は,別紙被控訴人富士フイルム製品目録記載1~3の各製剤の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。
5
被控訴人富士フイルムは,別紙被控訴人富士フイルム製品目録記載1~3の
各製剤を廃棄せよ。
6
被控訴人ニプロ株式会社(以下「被控訴人ニプロ」という。
)は,別紙被控

訴人ニプロ製品目録記載1~3の各製剤の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。
7
被控訴人ニプロは,別紙被控訴人ニプロ製品目録記載1~3の各製剤を廃棄
せよ。
第2

事案の概要(以下,用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほ
か,原判決に従い,原判決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に,「被告」とあるのを「被控訴人」に,適宜読み替える。

1
事案の要旨

本件は,発明の名称を「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」とする発明についての特許権(特許第4430229号。以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。
)の特許権者である控訴人(一審原告)
が,被控訴人(一審被告)第一三共の製造,販売する別紙被控訴人第一三共製品目録記載1~3の各製剤(以下「被控訴人第一三共各製品」という。,被控訴人(一)
審被告)富士フイルムの製造,販売する別紙被控訴人富士フイルム製品目録記載1~3の各製剤(以下「被控訴人富士フイルム各製品」という。
)及び被控訴人(一
審被告)ニプロの製造,販売する別紙被控訴人ニプロ製品目録記載1~3の各製剤(以下「被控訴人ニプロ各製品」といい,被控訴人第一三共各製品,被控訴人富士フイルム各製品及び被控訴人ニプロ各製品を併せて「被控訴人ら各製品」という。)
は,本件特許の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明1)及び同請求項2に係る発明(本件発明2。以下,本件発明1及び2を併せて「本件各発明」という。
)の技術的範囲に属する旨主張して,
特許法100条1項及び2項に基づき,被控訴人(一審被告)第一三共に対し,被控訴人第一三共各製品の,被控訴人(一審被告)富士フイルムに対し,被控訴人富士フイルム各製品の,被控訴人(一審被告)ニプロに対し,被控訴人ニプロ各製品の,各生産等の差止め及び廃棄を求めた事案である。
原判決は,被控訴人ら各製品はいずれも本件発明1又は2の技術的範囲に属しないとして,控訴人(一審原告)の各請求をいずれも棄却したため,控訴人(一審原告)は,これを不服として本件控訴を提起した。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに文中掲
記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2(3頁8行目~8頁1行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決3頁16行目~20行目の「以下「本件特許権」又は「本件特許」
といい,
・・・添付する。
」を「本件特許権。
」と改める。
(2)

原判決5頁20行目の「同月24日」を「平成27年8月21日」と改
める。
(3)



原判決5頁21行目の末尾に,改行の上,次のとおり加える。
本件口頭弁論終結時において,上記エの審決取消訴訟は確定していな
かった。

(4)

原判決5頁23行目の「は次のとおりである。
」を「は,次のとおりとな

る。
」と改める。
(5)

原判決7頁2行目の「物。
」を「物。
」と改める。

(6)

原判決7頁4行目~5行目の「別紙被告第一三共製品目録,
・・・の各製

品」を「被控訴人ら各製品」と,同頁6行目~7行目の「別紙被告ニプロ製品目録記載の各製品(以下「被告ニプロ製品」という。」を「被控訴人ニプロ各製品」と,)
同頁8行目~9行目の「別紙被告第一三共製品目録記載の各製品(以下「被告第一三共製品」という。」を「被控訴人第一三共各製品」と,同頁10行目~12行目)
の「別紙被告富士フイル製品目録記載の各製品(・・・)
」を「被控訴人富士フイ
ルム各製品」と,それぞれ改める。
(7)

原判決7頁13行目,14行目及び15行目の各「被告各製品」を「被
控訴人ら各製品」と,同頁17行目~18行目の「甲5,10,13」を「甲5,6,10,11,13,14」と,それぞれ改める。
(8)

原判決7頁20行目~21行目の「の前には,以下の先行文献が存在す
る。
」を「前に頒布された刊行物として,次のものが存在する。
」と改める。
3
争点及び争点に関する当事者の主張

争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり,当審における主張を追加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の3,第3(8頁2行目~39頁8行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決で付された略称に「被告各製品」とあるのを「被控訴人ら各製品」に,
「被告第一三共製品」とあるのを「被控訴人第一三共各製品」に,「被告富士フ
イルム製品」とあるのを「被控訴人富士フイルム各製品」に,
「被告ニプロ製品」
とあるのを「被控訴人ニプロ各製品」に,適宜読み替え,原判決9頁4行目の「通り」を「とおり」と改め,同10頁8行目の「緩衝剤は,
」の後に「溶液組成物に」
を,同行目の「否かではなく,
」の後に「溶液組成物中に」を,それぞれ加え,同
頁14行目~15行目の「シュウ酸」を「シュウ酸ナトリウム又はシュウ酸」と,同11頁9行目~10行目(表や図を記載する行は行数に数えない。以下同じ。)の「通り」を「どおり」と,同12頁4行目の「敢えて」を「あえて」と,それぞれ改め,同頁25行目の「では」の後に「,緩衝剤は」を加え,同14頁2行目の「かかる」を「係る」と,同頁5行目の「手続き」を「手続」と,同15頁3行目の「本件発明2」を「本件発明1」と,同18頁21行目の「
〔表A〕なるもの」
を「前記〔控訴人の主張〕(2)エの〔表A〕
」と,それぞれ改め,同頁23行目の
「HPLC」の後に「
(highperformanceliquidchromatography)」を加え,同1
9頁3行目の「および」を「及び」と,同11行目の「実施例10」を「実施例9及び10」と,同頁12行目の「し」を,
「した値と,本件明細書に開示されてい
るpH測定値を」と,同行目の「
〔表A〕
」を「控訴人が主張する〔表A〕
」と,そ
れぞれ改め,同行目「とおりとなり」の後に「
(判決注:
「実施例No.
」の「8
(1カ月)
」の「ジアクオDACHプラチン二量体(B)
」欄には,
「1.2☓105

」と記載されているが,控訴人が主張する〔表A〕の当該欄には,「1.5☓1

0-5」と記載されている。,実施例1及び8の場合と実施例9及び10の場合とを)
それぞれ比較すると」を加え,同頁15行目の「成り得ない」を「なり得ない」と,同21頁7行目の「える」を「得る」と,同22頁9行目の「富士フイルムの」を「富士フイルムR&D統括本部」と,同23頁26行目の「原告は乙1発明」を「原告は,本件特許」と,同24頁2行目の「から」を「。また,控訴人は,乙1発明に係る特許権(乙1の3)についても,特許権存続期間延長登録出願を行い,乙7と同じ製品について,延長登録出願が認められている(乙8)。このような控
訴人の主張によると」と,同行目の「シュウ酸含量は」を「シュウ酸含量を測定すると,6.6☓10-5モルから7.4☓10-5モルまでの範囲になることを,控訴人が認めていることになるのであり,これは,
」と,同頁17行目の「または」
を「又は」と,同25頁13行目の「読みとれない」を「読み取れない」と,同26頁9行目の「敢えて」を「あえて」と,同頁10行目の「あたり」を「当たり」と,同頁14行目~15行目の「敢えて」を「あえて」と,同29頁1行目~2行目の「か,
・・・ある」を「。また,制癌剤の原薬に係る乙9発明において,その安全性の見地から,シュウ酸のモル濃度を測定することは,当業者において,当然に動機付けられることであり,そのような乙9発明のオキサリプラチン水溶液が当然に有していた性質を,特許請求の範囲に規定することは,容易である」と,同30頁3行目の「乙9公報記載」を「乙9発明」と,同31頁2行目の「を用いて」を「から」と,それぞれ改め,同33頁7行目の「ある」の後に「(特許法36条
6項1号)
」を加え,同34頁14行目の「かかる」を「係る」と,同35頁4行目の「いままで」を「前記4~7の〔控訴人らの主張〕において」と,同36頁24行目~25行目の「が乙1発明に基づいて・・・誤りである」を「には,無効理由はない」と,それぞれ改める。
(当審における当事者の主張)
1
控訴人

本件発明1及び本件訂正発明の構成要件B,F及びGに係る「緩衝剤」には,添加シュウ酸及び解離シュウ酸が含まれる。
(1)

特許請求の範囲の用語は,明細書中に明確に定義されている場合には,
これによって解釈されなければならない。
本件明細書においては,「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する」(【0022】),「緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約5×10-5M~約1×10-2Mの範囲のモル濃度で,好ましくは約5×10-5M~5×10-3Mの範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約5×10-5M~約2×10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約1×10-4M~約2×10-3Mの範囲のモル濃度で,特に約1×10-4M~約5×10-4Mの範囲のモル濃度で,特に約2×10-4M~約4×10-4Mの範囲のモル濃度で存在するのが便利である」(【0023】)と,「緩衝剤」が具体的に定義されており,これらの定義によると,「緩衝剤」は,本件発明1の対象である「オキサリプラチン溶液組成物」において,一定のモル濃度で存在するものであり,不純物の生成を防止,遅延するあらゆる酸性又は塩基性剤を意味するものである。
(2)

本件発明1は,オキサリプラチン溶液の安定化という課題を「緩衝剤」
であるシュウ酸の溶液中に存在するモル濃度を一定範囲にすることにより達成するものであり,このような発明の課題,作用効果という観点からすると,添加シュウ酸であろうと解離シュウ酸であろうと,オキサリプラチン溶液に存在するすべてのシュウ酸によってオキサリプラチン溶液の安定化という作用効果がもたらされる。(3)

本件特許の特許請求の範囲請求項10~14(以下,単に「請求項10
~14」という。)には,緩衝剤を「付加」,「混合」することが規定されているのに対し,本件発明1では,「包含」と,意識的に書き分けられており,本件発明1の「緩衝剤」は,「付加」等されたものに限定されない。
(4)

原判決が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」は,乙1記載
のオキサリプラチン水溶液を含むことを前提に,本件発明1における「緩衝剤」とは,乙1記載のオキサリプラチン水溶液と比較して不純物を減少させる効果を有するべきであるとしているのは,誤りである。

本件明細書【0022】の定義においては,「緩衝剤」は,従来既知の
水性組成物と比較して,不純物を減少させるとの効果を有するものとは記載されていない。

本件明細書において問題とされているのは,オキサリプラチンが時間を
追って分解していく製薬上安定とはいえない溶液組成物であること(【0013】~【0016】)であり,【0017】には,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供し,時間を追って分解する溶液組成物の欠点を克服することが本件発明1の目的である旨が記載されている。
乙1発明の実施品は既に製薬上安定であるから,時間を追って分解していく製薬上安定とはいえない溶液組成物に該当しない。
仮に,本件発明1が,乙1発明を前提として,更なる不純物の減少を問題としているのであれば,既に製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を前提に,更なる不純物の減少が望まれる旨記載されるはずであるが,そのように読み取れる記載は存在しないし,乙1発明においては,凍結乾燥物質の欠点は,既に解決済みであるから,乙1発明を前提として,凍結乾燥物質の欠点(【0012】,【0013】)を克服する(【0017】)等と記載されるはずがない。

本件特許明細書の【0012】(2段落)~【0016】と,【003
0】~【0032】とは対応した記載になっているところ,【0012】(2段落)~【0013】(2段落)には,凍結乾燥物を利用する際の課題が記載されており,【0016】には,「上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。」と,【0017】には,「前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。」と記載されている。
【0013】(3段落)~【0016】(1行)は,【0012】(2段落)~【0013】(2段落)と同様,凍結乾燥物に関する記載であり,【0013】(3段落)で示された「水性溶液」とは,凍結乾燥物であるオキサリプラチンを水に溶かして再構築した水性溶液のことを意味している。
【0013】(3段落)~【0016】(1行)に対応する【0031】(2段落)で示された「従来既知の水性組成物」も,凍結乾燥物であるオキサリプラチンを水に溶かして再構築した水性組成物を意味している。
【0012】(2段落)に対応する【0030】(2段落)及び【0031】(1段落)と,【0013】(1段落「(b)」)に対応する【0032】(1段落)との間に,【0031】(2段落)が記載されていることも,【0031】(2段落)における「従来既知の水性組成物」が,凍結乾燥物であるオキサリプラチンを水に溶かして再構築した水性組成物を意味していることを裏付けている。エ
本件明細書には,従来技術としての公報が多数列記されており(【00
02】~【0012】(1段落)),そのうちの一つとして乙1公報が挙げられているにすぎない。これらの多数の従来技術の公報から乙1公報だけを抜き出して,その他の本件明細書の記載(【0012】(2段落)~【0016】及び【0030】~【0032】)に反して,本件発明1は,乙1公報に開示されたオキサリプラチン水溶液よりも不純物を減少させなければならないと解釈することは,妥当性を欠く。

緩衝剤を添加したものが,乙1発明と比較して「製造工程中に安定」で
あると考えると,乙1公報に記載されたオキサリプラチン水溶液を製造する工程と,オキサリプラチンに緩衝剤を添加した本件発明1に係る水溶液を製造する工程という,別々の製造工程を比較する概念が突如として出てくることになる。本件明細書には,乙1公報に関するオキサリプラチン水溶液を製造する間(製造工程中)における安定性と,オキサリプラチンに緩衝剤を添加した水溶液を製造する間(製造工程中)における安定性という,別々の製造工程を比較した結果は示されていないのであるから,このように理解することは不自然である。本件明細書には,凍結乾燥物質の再構築における不具合が記載されており(【0012】3段落(a),【0013】2段落(c)),【0013】(2段落(c))の直後に,「オキサリプラチンは,時間を追って,分解して,種々の量のジアクオDACHプラチン(式I),ジアクオDACHプラチン二量体(式II)およびプラチナ(IV)種(式III)・・・を不純物として生成し得る,ということが示されている。」と記載されているから,凍結乾燥物質を溶解させて再構築させる工程が【0031】の製造工程であると考えることが自然である。凍結乾燥物を再構築する際にはオキサリプラチンを水に溶かして水性組成物を製造するという工程が存在し,その工程が不安定であるという問題が当業者においては認識されていたのであり,これを前提に【0031】の「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており」という記載はされている。
(5)

当業者であれば,本件発明1は,実施例で示されている添加されたシュ
ウ酸又はシュウ酸ナトリウムの濃度に解離されたシュウ酸の濃度を加えた値を採用していると容易に理解できる。

本件明細書には,シュウ酸を添加しない場合の実施例として,実施例1
8(b)の記載が存在するから,当業者は,添加シュウ酸のみならず解離シュウ酸も含めた溶液組成物中のシュウ酸の存在が安定性に寄与しているとの技術的意義を理解する(【0022】,【0023】)。
解離シュウ酸が溶液中に存在することで,オキサリプラチンがそれ以上分解しないのであって,解離シュウ酸は,まさにオキサリプラチン溶液を安定化し,不純物の生成を防止するか又は遅延させ得るものである(下図参照)。

本件発明1は,乙1発明とは異なり,オキサリプラチンの濃度やpHを限定しなくとも,解離シュウ酸を含めたシュウ酸濃度によって製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物の提供を可能にするという重要な技術的意義を有する発明である。イ
本件明細書の実施例1及び8の結果を表す各表に列記された添加された
シュウ酸又はシュウ酸ナトリウムのモル濃度の数値の下限値である1×10-5Mという数値と,【0023】において組成物中に存在する緩衝剤のモル濃度の下限値として示されている5×10-5Mという数値は合致しない。また,本件明細書の実施例7及び14の結果を表す各表に列記された添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムのモル濃度の数値の上限値である0.002Mという数値と,【0023】において組成物中に存在する緩衝剤のモル濃度の上限値として示された1×10-2Mという数値も合致しない。
【0023】で示された組成物中に存在する緩衝剤の量(モル濃度)の下限値は,実施例1~17における添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの量の下限値である1☓10-5Mより大きく,これが本件発明1の構成要件Gの下限値として採用されている。

実施例1,8及び18(b)は「実施例」と明記されている。

技術常識に基づき,解離シュウ酸を含めた溶液組成物中のシュウ酸の総量は,下記【表1】のように推計され,その下限は5×10-5Mを超える値になるから,当業者は,本件発明1の構成要件Gの濃度の下限値は,添加したシュウ酸の濃度を規定するものではなく,これに解離シュウ酸の濃度を加えた値であると理解するのであって,本件発明1の緩衝剤であるシュウ酸は,組成物に包含されたすべてのシュウ酸の量であると認識する。
【表1】
実施例ジアクオD

(A)及び

付加さ

(C)+

ACHプラ

ACHプラ

(B)量から

れたシ

(D)の合

チン(A)

チン二量体

予想されるシ

ュウ酸

計値

(B)

ュウ酸量(分


解量)(C)

No.

ジアクオD

(D)

1(初期)

2.9×10-5

1.2×10-5

5.2×10-5

1×10-5

6.2×10-5

1
3.0×10-5

1.2×10-5

5.3×10-5

1×10-5

6.3×10-5

8(初期)

3.2×10-5

1.3×10-5

5.8×10-5

1×10-5

6.8×10-5

8
3.9×10-5

1.5×10-5

6.8×10-5

1×10-5

7.8×10-5

3.9×10-5

1.2×10-5

6.4×10-5

6.4×10-5

3.3×10-5

1.2×10-5

5.8×10-5

5.8×10-5

(1か月)

(1か月)
18(b)
(初期)
18(b)
(1か月)
このように,包含される全てのシュウ酸の量を算出することによって初めて,実施例のシュウ酸量は,本件発明1のシュウ酸モル濃度の下限(5×10-5M)を超えることとなり,【0023】の記載や,実施例1,8,18(b)が実施例と記載されていることと整合的に理解される。
また,【表1】のように推計を行えば,実施例1,8及び18(b)では,包含されるシュウ酸量が近似することが分かり,効果の面でも差がないことが分かり,当業者は,このことから,概ね同じ値になっている推計結果が妥当なものであると認識する。
(6)

原判決は,実施例1及び8が比較例である旨を判示しているが,実施例
1及び8が本件発明1の比較例であれば,これらは出願当初から比較例であったところ,出願当初の特許請求の範囲請求項1には,「5×10-5M」という限定は入っていなかったから,この数値が実施例と比較例とを区別する根拠にはならない。(7)

「緩衝剤」が添加したものに限定されるとすれば,実施例1及び8でも
添加シュウ酸等が存在する以上,「緩衝剤」が含まれていることになる。原判決は,実施例1及び8は,本件発明1の効果を奏しない比較例である旨判示しているところ,本件発明1の効果を奏しない実施例1及び8でも「緩衝剤」を含むことになり,「緩衝剤」の意味を解釈する際に,乙1発明と比較しなければならないという原判決の前提は,論理的に矛盾している。
2
被控訴人ら

本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件B,F及びGに係る「緩衝剤」に,解離シュウ酸は含まれない。
(1)ア

本件明細書【0022】の記載に従うと,「緩衝剤」は,オキサリプ
ラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するか又は遅延させ得るものでなければならない。
解離シュウ酸は,オキサリプラチンを水に溶解しただけでジアクオDACHプラチン又はジアクオDACHプラチン二量体とともに発生する「分解により生じた不純物」そのものであり,「緩衝剤」に含まれない。
オキサリプラチン水溶液において分解物としてシュウ酸が発生することは,従来技術(乙1の1)において必然的に発生する現象にすぎず,そのような物質と現象が新たな発明を構成することはあり得ない。

本件明細書【0023】の記載は,緩衝剤のモル濃度を記載しているも
のであって,緩衝剤そのものの定義ではない。
(2)

本件発明1では,従来のオキサリプラチン水溶液において必然的に発生
する不純物を全く生成しないか,少なくすることを「安定」と呼んでいる(本件明細書【0015】,【0016】)。
解離シュウ酸は,オキサリプラチンを安定化しなかった結果,分解により発生するものであり,本件発明1の「安定化」の目的から外れるものである。(3)

本件特許に係る特許請求の範囲請求項1は,物の発明であるから,物の
状態として「包含」と記載されているのに対し,請求項10~14は,方法の発明であるから,その製法として「緩衝剤」を「付加」と記載されているにすぎない。請求項10~14の文言は,請求項1の「包含」状態を得るには,「付加」することが必要であることをむしろ裏付けており,本件発明1の「緩衝剤」が「付加」されるものに限られないとする根拠にはならない。
(4)ア

本件明細書には,オキサリプラチンが水溶液中で分解して種々の不純
物を生成することが記載されており(【0015】~【0017】),本件発明1は,そのような分解物を生成しないか,有意に少ない量で生成する「安定な溶液組成物」を得ようとするものである。
乙1発明のオキサリプラチン水溶液は,オキサリプラチンを水に溶解しただけの組成物であるから,乙1発明においても,本件発明1で問題とされている分解物を生成する。
本件発明1は,公知の乙1発明と異なる作用効果を奏するものでなければならず,本件発明1が乙1発明と同じ程度の「安定性」しか得られず,乙1発明よりも不純物を減少させるものでなく,乙1発明において分解物として自然発生するシュウ酸を「緩衝剤」であるとしているものであるとすれば,本件発明1と乙1発明は,目的,構成,作用効果の点で差異がないことになる。

仮に,乙1発明において「安定化」について既に解決されているとすれ
ば,本件発明1は,乙1発明の目的と同一の目的を,同一の構成において達成しようとしているものにすぎないことになる。

オキサリプラチンの凍結乾燥製剤の問題点を解決するために乙1発明
(オキサリプラチンを注射用水に溶解しただけのもの)が出願され,公開された後,オキサリプラチンの注射用水の中における分解をより防止するために,「緩衝剤」として,シュウ酸をあらかじめ添加するものが,本件発明1である。凍結乾燥製剤の問題点を解決するという技術的課題は,乙1発明と本件発明1とにおいて共通するから,本件明細書において当該課題に言及されていたとしても,「緩衝剤」の用語の解釈に影響を与えるものではない。

前記ウのような乙1発明と本件発明1との関係に鑑みると,乙1は多数
列記された公報の一つにすぎず,乙1発明を重視することは不当である旨の控訴人の主張には,理由がない。

あらかじめ添加されたシュウ酸の有無により「初期」のジアクオDAC
Hプラチン又はジアクオDACHプラチン二量体の濃度に差があることは,乙1発明に相当する実施例18(b)からも明らかであり,乙1発明と本件発明1との効果の差異も明らかである。
また,凍結乾燥製剤自体の「製造工程」が別途存在するのであり,それと離れて,凍結乾燥製剤の再構築が「製造工程」に該当するとの控訴人の主張は,理由がない。(5)ア

本件特許優先日当時,オキサリプラチンは,水溶液中で分解して不純
物としてシュウ酸が生じることが知られていた(乙1)のであるから,本件明細書を見た当業者は,解離シュウ酸については,分解を防ぐべき対象物であるとしか理解せず,不純物の発生を防ぐ緩衝剤と理解することはあり得ない。「緩衝剤」は,「緩衝作用をもつ溶液をつくるために用いられる試薬」を意味し(乙33の1・2),溶液に外部から加えられる試薬であるから,溶液中で分解によって発生する成分を意味することはあり得ない。
本件明細書には,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の「包含」には,解離シュウ酸が含まれるとは記載されておらず,また,本件明細書【0022】において,「望ましくない不純物」に解離シュウ酸を含まないとは記載されていない。オキサリプラチンが水溶液中で分解して自然に発生する解離シュウ酸は,ジアクオDACHプラチンと必ず対になって発生する物質であるから,ジアクオDACHプラチンの生成を防止することは,解離シュウ酸の発生を防止することにほかならない。解離シュウ酸は,「望ましくない不純物」であるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体が発生することを防止することができなかった結果の副産物にすぎず,分解を抑制するための手段を講じない結果発生してしまった不純物そのものであるから,ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の「生成を防止するかまたは遅延させ」ていない。イ
実施例18は,乙1発明の豪州出願である公知技術を実施したものであ
るから,本件発明1の課題を解決している実施例ではない。

本件明細書の実施例1~14の組成物は,いずれもあらかじめ計量した
緩衝剤を注射用水に混合し,これに計量したオキサリプラチンを加えるという方法で得られており(【0034】~【0036】),表1A~Dに記載されたシュウ酸の量は,いずれも添加シュウ酸の量である。これに対し,本件明細書の実施例中に,解離シュウ酸を緩衝剤として定義する記述は存在せず,解離シュウ酸を測定したことの記載もなく,解離シュウ酸によって発明の作用効果を奏する旨の記載もない。

前記〔控訴人の主張〕(5)ウ記載の表の「(C)」及び「(C)+(D)
の合計値」欄記載の各数値は,本件明細書に記載のない数値であり,その計算方法の詳細について主張がなく,正しい数値であることの裏付けはない。本件明細書には,シュウ酸濃度の測定方法は記載されておらず,控訴人主張の添加シュウ酸と解離シュウ酸の合計量を推定する方法の記載はなく,本件明細書の記載に接した当業者は,添加シュウ酸を把握することができるだけである。仮に,解離シュウ酸も「緩衝剤」に含まれるという前提で,実施例9及び10につき,控訴人が表1で行った計算方法を採用し,その計算結果及びpH測定値を対比すると,次の表Xのとおりとなる。

実施例1及び8と実施例9及び10の場合とを比較すると,不純物であるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の量に差があることが分かり,実施例1,8及び18(b)は,本件発明1の効果をサポートする実施例となり得ないのであって,これらは本件発明1の実施例ではない。
(6)

実施例1及び8は,添加される緩衝剤の量が少ないため,本件発明1の
目的とする効果が得られないものであり,出願経過の補正において実施例ではなくなったものにすぎない。
(7)

本件発明1は,緩衝剤の量も規定しているのであって,シュウ酸を添加
しさえすれば本件発明1に含まれるのではないから,実施例1及び8に緩衝剤として機能する可能性がある添加シュウ酸が含まれるとしても,緩衝剤を含まない実施例18(b)と有意な差を示すほどに十分な量の添加シュウ酸を含まず,本件発明1の効果を奏しない比較例である。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明1における
「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人ら各製品は,いずれも,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明1,本件訂正発明1,本件発明2又は本件訂正発明2の各技術的範囲に属しないものと判断する。
その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の1~3(39頁10行目~53頁6行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)

原判決39頁11行目の(1)の後に「本件発明1及び2に係る特許請求の
範囲の記載は,前記第2の2で引用した原判決「事実及び理由」の第2の2(3)のとおりであり,
」を加える。
(2)

原判決39頁18行目の「)
」の後に「
(判決注:乙1発明に対応する豪

州国出願である。
〔乙1の1~3〕」を加える。

(3)

原判決44頁13行目の「3月7日」を「3月7日」と改める。

(4)

原判決44頁18行目の「実施例」の後に「18」を加える。

(5)

原判決45頁15行目~46頁6行目の「上記各記載によれば,
・・・発

明であり」を「以上を総合すると,本件各発明は,従来からある凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン生成物及びオキサリプラチン水溶液の欠点を克服し,すぐに使える形態の製薬上安定であるオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする発明であり(
【0010】【0012】~【0017】,オキサリプラチン,


有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び製薬上許容可能な担体である水を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関するものである(特許請求の範囲請求項1,
【0018】。そして,この緩衝剤は,構成要件Gの

範囲のモル濃度で上記組成物中に存在することでジアクオDACHプラチンやジアクオDACHプラチン二量体といった不純物の生成を防止し,又は遅延させることができ(特許請求の範囲請求項1,
【0022】【0023】,これによっ


て,本件各発明は,従来既知の前記オキサリプラチン組成物と比較して優れた効果,すなわち,①凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン生成物と比較すると,低コストで,かつさほど複雑でない製造方法により製造することができ,また,投与前の再構築を必要としないので,再構築のための適切な溶媒の選択に際してエラーが生じる機会がなく,②乙1発明を含むオキサリプラチンの従来既知の水性組成物と比較すると,製造工程中に安定であり,生成されるジアクオDACHプラチンやジアクオDACHプラチン二量体といった不純物が少ないという効果を有するものであり(
【0030】【0031】」と改める。


(6)

原判決46頁18行目の「であって」の後に「
(段落【0012】」を


加え,同頁20行目の「あげる」を「挙げる」と,同頁21行目の「がたい」を「難い」と,それぞれ改める。
(7)

原判決47頁1行目の「本件発明」を「本件各発明」と,同頁5行目
の「における」を「の構成要件B,F及びGの」と,同行目の「添加されたシュウ酸または」を「添加されたシュウ酸(添加シュウ酸)又は」と,同頁17行目の「がたい」を「難い」と,それぞれ改める。
(8)

原判決47頁20行目の「から(特許法70条2項)
」を「
(特許法7

0条2項)から」と,同頁25行目の「の」を「が」と,同行目の「定義が」を「定義」と,それぞれ改める。
(9)

原判決48頁3行目~4行目の「酸性または塩基性の各種の薬を調合
した薬」を「各種の薬を調合した薬であって,酸性又は塩基性であるもの」と,同頁5行目の「
「各種の薬を調合した薬」に当たるとはいえない」を「オキサリ
プラチンの分解によって自然に生成されるものであるから,薬として調合することが想定し難い」と改める。
(10)

原判決48頁11行目~13行目の「,
「比較例18の安定性・・・

ここで」を「と記載され,また,実施例18の安定性試験の結果を示すに当たっては,
「比較例18の安定性」との表題が付された上で,実施例18(b)については「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」と表現されている(段落【0073】。そして」と,同頁16行目の「あるから」を「あって,本件明細書で従)
来技術として挙げられるもの(段落【0010】
)にほかならない。
」と,同行目
の「からは」を「を総合すると」と,それぞれ改め,同頁21行目の「緩衝剤」の前に「実施例18(b)の」を,同頁24行目の「シュウ酸」の後に「又はシュウ酸ナトリウム」を,同頁26行目の「シュウ酸」の後に「又はシュウ酸ナトリウム」を,それぞれ加える。
(11)

原判決49頁8行目~9行目の「前記1(2)のとおり,
・・・である。


を次のとおり改める。
「前記1(2)のとおり,本件発明1は,従来からある凍結乾燥物質形態のオキサリプラチン及びオキサリプラチン水溶液の欠点を克服し,すぐに使える形態の製薬上安定であるオキサリプラチンを提供することを目的とするものであり,乙1発明を含むオキサリプラチンの従来既知の水性組成物と比較すると,製造工程中に安定であり,生成されるジアクオDACHプラチンやジアクオDACHプラチン二量体といった不純物が少ないという効果を有するものである。
前記の本件発明1の目的・効果に鑑みると,本件発明1の「緩衝剤」は,乙1発明において生成される上記不純物の量に比して少ない量の不純物しか生成されないように作用するものでなければならない。しかるところ,オキサリプラチン水溶液中のオキサリプラチンの分解により平衡状態に達するまで自然に生成される解離シュウ酸は,乙1発明において当然に存在するものであり,このような解離シュウ酸のみでは,乙1発明に比して少ない量の不純物しか生成し得ないように作用することは通常考え難いことといえる。

(12)

原判決49頁10行目の「ところが」を「また」と改め,同頁15行
目~18行目の「本件各発明は,
・・・自然である。
」を「本件各発明は,
「緩衝
剤」としての「シュウ酸またはそのアルカリ金属塩」を外部から加えることにより,乙1発明において生成される上記不純物の量に比して少ない量の不純物しか生成されないようにしたものといえ,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,解離シュウ酸を含まず,添加シュウ酸に限られると解するのが相当である。
」と改める。
(13)

原判決49頁20行目の「イブライム(Ibrahim)
」を「イブラ

ヒム(Ibrahim)ら」と改め,同頁25行目の「」
」の後に「,
」を加える。
(14)

原判決50頁13行目~17行目の「
「緩衝剤が添加された安定オキサ

リプラチン溶液組成物」を・・・何ら不自然ではないから」を「
「緩衝剤をつつ
みこみ,中に含む安定オキサリプラチン溶液組成物」を意味するにすぎず,これによって,当該組成物中の「緩衝剤」の由来について,添加されたものに限るか否かの解釈が当然に定まるものではなく,本件発明の「緩衝剤」を外部から添加されたものに限るとの解釈をとることが,上記文言と矛盾することにはならない。同様に,
「緩衝剤」は添加されたものに限るとの解釈をとったとしても,
「緩衝剤
の量」という文言を添加された緩衝剤の量を意味すると解釈することが,控訴人指摘の特許請求の範囲の文言と矛盾するとはいえない。したがって」と改める。(15)

原判決50頁21行目~25行目の「が(構成要件F)・・・考えら,

れない」を「
(構成要件F)から,
「緩衝剤」として「シュウ酸のアルカリ金属塩」
のみを選択することも可能なはずであるところ,オキサリプラチンの分解によって自然に生じた解離シュウ酸は「シュウ酸のアルカリ金属塩」ではないから,「緩衝剤」としての「シュウ酸のアルカリ金属塩」とは,添加されたものを指すと解さざるを得ないことになる。そうであるとすると,
「緩衝剤」となり得るも
のとして「シュウ酸のアルカリ金属塩」と並列的に規定される「シュウ酸」についても同様に,添加されたものを意味すると解するのが自然といえる」と改める。(16)

原判決50頁26行目の「における緩衝剤の定義」を削除し,同行目

(段落【0022】
)の後に「で」を加え,同51頁1行目の「は,
」の後に「緩
衝剤は,
」を加え,同行目の「しておらず」を「されておらず」と,同頁4行目の「と」を「旨」と,同頁5行目の「の定義が,添加された緩衝剤を」を「としてのシュウ酸が,添加されるものであることを」と,同頁6行目~8行目の「「存在す
る」との文言は,
・・・不自然ではない。
」を「
「緩衝剤」が組成物中に「存在する」
とは,前記アで述べた「緩衝剤」が組成物に「包含」されるということと同義であり,これによって,当該組成物中の「緩衝剤」の由来について,添加されたものに限るか否かの解釈が当然に定めるものではなく,本件発明の「緩衝剤」を外部から添加されたものに限るとの解釈をとることが,上記文言と矛盾するということにはならない。
」と,それぞれ改める。
(17)

原判決51頁9行目~10行目の「における「緩衝剤」の定義(段落
【0022】
)において」を「
(段落【0022】
)において,緩衝剤は」と改め,
同頁10行目~11行目の「オキサリプラチン溶液を・・・不純物,」及び同頁1
3行目の「。
」を削り,同行目の「あることを踏まえ」を「されているところ」と,同頁15行目の「いずれもオキサリプラチンの分解を抑制する働きをするのであるから」を「解離シュウ酸が存在することにより,不純物の生成を防止し又は遅延させているから」と,同頁16行目の「上記定義に合致すると」を「「緩衝剤」に該
当する旨」と,それぞれ改める。
(18)

原判決51頁17行目~23行目の「シュウ酸を・・・できない。」を

「証拠(乙2の1~3)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。すなわち,オキサリプラチン水溶液においては,下図のとおり,オキサリプラチンと水が反応し,オキサリプラチンの一部が分解されて,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸(解離シュウ酸)が生成される。その際,これとは逆に,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸が反応してオキサリプラチンが生成される反応も同時に進行することになって,両反応(正反応と逆反応)の速度が等しい状態(化学平衡の状態)が生じ,オキサリプラチン,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の量(濃度)が一定となる。また,上記反応に伴い,オキサリプラチンの分解によって生じたジアクオDACHプラチンからジアクオDACHプラチン二量体が生成されることになるが,その際にもこれとは逆の反応が同時に進行し,同様に化学平衡の状態が生じることになる。
オキサリプラチン溶液中に存在するシュウ酸のうち,オキサリプラチンに由来する解離シュウ酸は,水溶液中のオキサリプラチンの一部が分解され,ジアクオDACHプラチンと共に生成されるものであって,オキサリプラチン水溶液において,オキサリプラチンと水とが反応して自然に生じる上記平衡状態を構成する要素の一つにすぎないものであるから,このような解離シュウ酸をもって,ジアクオDACHプラチンの生成を防止し,又は遅延させ,かつ,ジアクオDACHプラチンから生成されるジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し,又は遅延させる作用を果たすものとみることはできないというべきである。」と改め
る。
(19)

原判決52頁3行目の「に定義された」を「の」と,同頁5行目の
「定義によっても」を「段落【0022】の記載は」と,それぞれ改める。(20)

原判決52頁9行目~10行目の「いるから,
・・・おらず」を「お

り」と,同行目~11行目の「における不純物の量」を「の実験結果」と,同行目の「と大差」を「の実験結果と大きな差」と,同行目~12行目の「も,
・・・あると」を「,解離シュウ酸が支配的な働きをしていることが確認でき,本件明細書には,解離シュウ酸の存在を考慮した記載が存在している旨」と,同頁17行目の「の」を「な」と,それぞれ改める。
(21)

原判決52頁20行目の「第2,2」を「第2の2」と改め,同頁2
2行目の「本件発明1」の後に「の技術的範囲」を加える。
(22)

原判決52頁26行目の「
(本件発明2に基づく請求の可否)
」を「ア

(被控訴人ら各製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)
」と改める。
(23)

原判決53頁2行目の「特許の」の後に「特許請求の範囲請求項2の」
を,同行目の「構成要件K」の前に「本件発明2の」を,それぞれ加える。2
当審における当事者の主張に対する判断
(1)

控訴人は,本件明細書の「緩衝剤」の定義(【0022】,【0023】)によると,「緩衝剤」は,本件発明1の対象である「オキサリプラチン溶液組成物」において,一定のモル濃度で存在するものであり,不純物の生成を防止,遅延するあらゆる酸性又は塩基性剤を意味する旨主張する。
しかし,前記説示(原判決「事実及び理由」の第4の2(2)ア,イ)のとおりであって,控訴人の前記主張は採用することができない。
オキサリプラチン水溶液において,水溶液中のオキサリプラチンの一部は,水と反応して分解し,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸となるが,水溶液中のジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の一部は,反応してオキサリプラチンとなる(乙2の1~3)ところ,①オキサリプラチンの分解に係る平衡状態が生じるよりも前の段階では,水溶液中のオキサリプラチンの量は減少し,ジアクオDACHプラチン及びこれの一部から生成されたジアクオDACHプラチン二量体並びにシュウ酸の量は増加していくのであって,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチン等の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
オキサリプラチン水溶液が,②オキサリプラチンの分解に係る平衡状態に至った段階では,オキサリプラチンと水の反応によるオキサリプラチンの分解の速度と,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の反応によるオキサリプラチンの生成の速度が,等しくなる。なお,オキサリプラチン溶液中のオキサリプラチンの分解によって生じたジアクオDACHプラチンの一部から,ジアクオDACHプラチン二量体が生成される。その結果,水溶液中のオキサリプラチン及びシュウ酸の量(濃度)は,いずれも一定の値となり,不変となる。この段階において,オキサリプラチンの量が減少しないのは,平衡状態に達したからであり,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチンやこれから生成されたジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
前記②の段階にあるオキサリプラチン水溶液から,解離シュウ酸の一部を取り除けば,シュウ酸の量を増加させる方向,すなわち,オキサリプラチンが分解してジアクオDACHプラチンとシュウ酸が生成される方向の反応が進行し,新たな平衡状態に至ると考えられるが,この新たな平衡状態に至るまでの段階は,前記①の段階と同様,水溶液中のオキサリプラチンの量は減少し,ジアクオDACHプラチン及びこれの一部から生成されたジアクオDACHプラチン二量体並びにシュウ酸の量は増加していき,新たな平衡状態に至れば,前記②の段階と同様,水溶液中のオキサリプラチン及びシュウ酸の量(濃度)は,いずれも一定の値になり,不変となる。平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液から,解離シュウ酸の一部を取り除けば,オキサリプラチン水溶液中のオキサリプラチンが更に分解して減少するという事実は,解離シュウ酸が,オキサリプラチン水溶液中におけるオキサリプラチンの分解とジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の反応の平衡状態を構成する要素の一つであることを示しているにすぎず,これをもって,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチン等の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
以上のとおり,解離シュウ酸の存在は,オキサリプラチンの分解の結果生じるものであって,不純物の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない以上,解離シュウ酸を,オキサリプラチンの分解を防止し又は遅延させ,不純物の生成を防止し又は遅延させるものということはできない。
(2)

控訴人は,本件発明1の課題,作用効果の観点からすると,添加シュウ
酸と解離シュウ酸は,いずれもオキサリプラチン溶液の安定化という作用効果をもたらす旨主張する。
しかし,前記(1)で説示したとおり,解離シュウ酸は,オキサリプラチンの分解を防止し又は遅延させ,不純物の生成を防止し又は遅延させるものということはできないから,解離シュウ酸がオキサリプラチン溶液の安定化という作用効果をもたらすものということはできない。
(3)

控訴人は,請求項10~14には,緩衝剤を「付加」「混合」すると,,
本件発明1には,緩衝剤を「包含」すると,意識的に書き分けられているから,本件発明1の「緩衝剤」は,
「付加」等されたものに限定されない旨主張する。
しかし,本件発明1における「包含」は,
「有効安定化量の緩衝剤および製薬上
許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物」という記載の一部であるところ,前記(1)のとおり,
「緩衝剤」には,解離シュウ酸は含まれないと解さ
れるのであって,
「緩衝剤」を「包含」する「オキサリプラチン溶液組成物」とい
う本件発明1に係る請求項1の記載をもって,その判断を左右するものとは認められないことは,前記説示(原判決「事実及び理由」の第4の2(3)ア)のとおりである。
請求項10は,
「オキサリプラチンの溶液の安定化方法」
,請求項11~14は,
請求項1~9のいずれかの組成物の「製造方法」であって,
「付加」との記載は,
緩衝剤を水性溶液に付加すること,
「混合」との記載は,緩衝剤を,担体及びオキ
サリプラチン,又は,担体のみと混合すること,という構成要件に含まれている(甲2)のに対し,本件発明1における「包含」との記載は,組成物を構成する物を記載したものであるから,
「付加」及び「混合」は,外部からの添加を意味し,
「包含」は,外部からの添加を必ずしも意味しないものとして,意識的に書き分けられたものとは,評価できない。
(4)

控訴人は,本件明細書における「オキサリプラチンの従来既知の水性組
成物」は,乙1記載のオキサリプラチン水溶液を含むものではない旨主張する。しかし,本件明細書においては,凍結乾燥物質形態のオキサリプラチンのみならず,乙1発明に対応する豪州国特許出願第29896/95号(WO96/04904)に係るオキサリプラチン水溶液について従来技術として挙げた上で(
【0010】,凍結乾燥物質の再構築における不具合のみならず,オキサリプラ)
チンの水溶液中において不純物が生成されるという問題についての説明がされ(
【0012】~【0016】,
)「上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれ
までに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。(
」【0016】
)と記載
されており,また,本件明細書の【0030】には,
「現在既知のオキサリプラチ
ン組成物」との記載があり,凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチンに対する本件発明1の利点について記載されており,
【0031】には,第1段落で,凍結乾燥物
質を用いる場合に存在する再構築のための適切な溶媒の選択に際してエラーが生じる機会がないことが記載されているが,第2段落で,本件発明1の組成物が,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定で,ジアクオDACHプラチン等の不純物が少ない旨が記載されているから,本件発明1は,乙1発明を含む従来既知のオキサリプラチン水性組成物における不純物生成の問題を克服,改善することをも目的とする発明である。
凍結乾燥物質形態のオキサリプラチンは,注入用の水又は5%グルコース溶液を用いて患者への投与の直前に再構築されて利用されるものであり(【0012】,

凍結乾燥物質を適切な溶液に溶かして溶液組成物にした状態で,長期間保存した上で,患者への投与を行うことは予定されていなかったところ,乙1発明は,使用時の再構成操作における間違った操作のリスクを排除し,すぐに使用でき,医薬的に許容される期間の貯蔵後でも,オキサリプラチン含有量が当初含量の少なくとも95%であるオキサリプラチン注射液を製造することを目的とするものであり(乙1の1・2)
,本件明細書で,従来技術として挙げられたもののうち,オキサリプラチン水溶液であることが明示されているものは,乙1発明のみである(【0007】
~【0012】。

そうすると,本件発明1は,乙1発明のオキサリプラチン水溶液より少ない量でしか不純物を生成しないオキサリプラチン水溶液に関するものといえる。また,前記の【0031】の記載からすると,製造工程中の安定性は,それが,本件発明1の組成物中に生成される不純物が少ないことを意味することから記載されているにとどまるのであって,本件明細書における製造工程を凍結乾燥物を溶解させて再構築させる工程と限定して解釈することはできない。
(5)

控訴人は,当業者は,本件発明1が添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナ
トリウムの濃度に解離シュウ酸の濃度を加えた値を採用していると理解できる旨主張する。
しかし,本件明細書には,実施例として添加シュウ酸又は添加されたシュウ酸ナトリウムのモル濃度のみが数値として記載されており(
【表8】~【表13】,解

離シュウ酸のモル濃度の測定値も推定値も記載されていない(甲2)。本件発明1
の構成要件Gに係るモル濃度の数値は,本件明細書【0023】に記載されたモル濃度の各範囲のうち,最後の範囲と各「約」を除いたものであり,本件明細書には,前記特許出願時から【表8】~【表13】の記載がある(甲2,乙22,弁論の全趣旨)から,当業者は,この構成要件Gに係るモル濃度の数値は,本件明細書に記載されている添加シュウ酸又は添加されたシュウ酸ナトリウムのモル濃度の数値と理解するのであって,解離シュウ酸のモル濃度の推定値を足し合わせた数値が,前記の構成要件Gに係るモル濃度とされていると理解するとは考えられない。そして,実施例1~17のうち,実施例1及び8を除く実施例の添加シュウ酸又は添加されたシュウ酸ナトリウムのモル濃度は,前記の構成要件Gに係るモル濃度の数値の範囲内である(甲2)

本件明細書の実施例18(b)が本件発明1の実施例であるとする控訴人の主張については,前記説示(原判決「事実及び理由」の第4の2(2)ウ,(3)エ)のとおりであって,採用することができない。
また,控訴人は,本件明細書の実施例1及び8は,本件発明1の実施例であると主張する。しかし,実施例1及び8において添加された緩衝剤のモル濃度は,いずれも「0.00001M」(1☓10-5M)である(甲2【表1】【表2】,

【表8】【表9】

)ところ,証拠(甲2,乙22)及び弁論の全趣旨によると,本
件特許出願時,本件特許請求の範囲請求項1は,
「オキサリプラチン,有効安定化
量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物。
」というものであって,その後の補正で,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸又はそのアルカリ金属塩であり,しかも,その緩衝剤の量が,構成要件Gのとおりの範囲のモル濃度であるとの限定がされ,本件発明1に係る特許が登録されたものであると認められる。そうすると,当初の本件特許請求の範囲請求項1に係る発明に数値制限はなく,実施例1及び8は実施例であったが,「5☓
10-5M」以上との数値限定がされたため,実施例1及び8は,本件発明1の実施例に該当しなくなったものと解される。以上によると,実施例1及び8は,前記の補正の結果,構成要件Gを満たさないものとして,本件発明1の実施例から除外されたものであると認められ,本件発明1の実施例であるとは認められない。さらに,控訴人は,実施例7及び14における添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムのモル濃度の数値の上限値である0.002Mという数値と,本件明細書【0023】において緩衝剤のモル濃度の上限値として示された1☓10-2Mという数値も合致しない旨主張する。しかし,一定の数値の範囲を限定した特許発明につき,その数値の範囲内において当該発明を実施すれば,実施例といえるのであって,明細書に記載される実施例が,その数値の範囲の上限及び下限を画するものである必要性はなく,当業者が,明細書に記載された実施例が,必ず前記の数値の範囲の上限又は下限を画するものであると理解するとは考えられない。前記のとおり,本件明細書には解離シュウ酸のモル濃度の測定値も推定値も記載されていないから,当業者が,実施例7及び14における添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムのモル濃度の数値の上限値が,本件明細書【0023】において緩衝剤のモル濃度の上限値として示された数値と合致しないことから,本件発明が添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの濃度に解離シュウ酸の濃度を加えた値を採用していると理解するとは考えられない。
(6)

控訴人は,実施例1及び8が本件発明1の比較例であれば,当初から比
較例であった旨も主張するが,前記(5)のとおりであって,実施例1及び8が当初から比較例として挙げられていたことを認めるに足りる証拠はなく,控訴人の前記主張は,採用することができない。
(7)

控訴人は,
「緩衝剤」が添加シュウ酸に限られるとすれば,比較例である

はずの実施例1及び8にも「緩衝剤」が含まれることになる旨主張するが,前記(5)のとおりであって,実施例1及び8は,
「緩衝剤」が含まれないから比較例にな
るわけではなく,
「緩衝剤」が含まれるものの,数値限定により,本件発明1の技
術的範囲から除外されたものであると認められるのであり,控訴人の前記主張は採用することができない。
(8)

以上のとおりであって,控訴人の前記主張は,いずれも採用することが
できない。他に前記認定を覆すに足りる主張・立証はない。
(9)

そうすると,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,
添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解される。被控訴人ら各製品は,解離シュウ酸を含むものの,シュウ酸が添加されたものではないから,
「緩衝剤」を含有するものとはいえず,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」に係る構成を有しない。
以上によると,被控訴人ら各製品は,その余の構成要件について検討するまでもなく,いずれも本件発明1の技術的範囲に属しないものと認められる。そうすると,被控訴人ら各製品は,いずれも,本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含む本件訂正発明1の技術的範囲にも属さないことになる。また,本件発明2は,本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含むものであるから,被控訴人ら各製品は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも本件発明2の技術的範囲に属さない。
そうすると,被控訴人ら各製品は,いずれも,本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含む本件訂正発明2の技術的範囲にも属さないことになる。第4

結論

以上の次第で,控訴人の本件各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐藤達文森岡礼子
裁判官

別紙

被控訴人第一三共製品目録

1
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2
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別紙

被控訴人富士フイルム製品目録

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