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遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件
事件番号平成27(行コ)320
事件名遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件
裁判年月日平成28年4月27日
法廷名東京高等裁判所
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平成28年4月27日判決言渡
平成27年(行コ)第320号

遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件

主文
1
原判決を取り消す。

2
中央労働基準監督署長が控訴人に対し平成24年10月18日付
けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。

3
訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨
主文同旨

第2
1
事案の概要
本件は,海外に事業展開する運送会社である株式会社日本運搬社(以下「訴外会社」という。)の従業員で,平成22年▲月▲日に中国の上海において急性心筋梗塞により死亡した亡Aについて,亡Aの妻で亡Aの死亡の当時その収入によって生計を維持していた控訴人が,亡Aの死亡は業務上の死亡に当たると主張して,被控訴人に対し,中央労働基準監督署長(以下「中央労基署長」という。)が控訴人に対し平成24年10月18日付けでした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分の取消しを求めた事案である。
原審が控訴人の請求を棄却したので,控訴人が控訴した。前提事実,関係法令等の定め並びに本件の争点及びこれについての当事者の主張は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人の当審における主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2
のとおりであるから,これを引用する。

2
原判決の補正
事案の概要」の2ないし4に記載

原判決10頁9行目冒頭から同10行目末尾までを次のとおり改める。「(1)

亡Aは,労災保険法の施行地内(国内)で行われる事業に使用される海
外出張者か,それとも,同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって,国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続を必要である者か」
3
控訴人の当審における主張
亡Aは,訴外会社の従業員であり,国内の事業場である訴外会社B営業所海
運部に所属し,その国際輸送課課長代理として,訴外会社の指揮命令に従って勤務していた者であって,その死亡時において,単に労働の提供の場が海外にあったにすぎない。亡Aは,ほかに訴外会社C代表処の首席代表及び現地法人である云搬社の責任者(総経理)としての地位を併せ持っていたものの,C代表処や云搬社が独立した事業所であるかどうかは重要な問題ではなく,国内の事業場である訴外会社の使用者の指揮に従って勤務していたという実態が重要なのである。結局のところ,亡Aは,訴外会社の業務に上海で従事する海外出張者に該当するから,
海外派遣者を対象とする特別加入手続を要することなく,
当然に労災保険法上の保険給付の対象となるというべきである。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求を認容すべきものと判断する。その理由は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3

当裁判所の判

断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
原判決の補正
(1)

原判決21頁19行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「(1)

亡Aの訴外会社における勤務関係


亡A(昭和40年▲月▲日生)は,平成元年4月1日,訴外会社に入
社し,海運部D営業所に配属されて営業を担当していたが,平成14年10月1日,同社海運部B営業所国際輸送課に異動となり,以後平成22年▲月▲日の死亡に至るまで,同課に配属されていた。その間,平成15年4月頃までE事務所において勤務したほか,香港,上海,東京の間の出張を繰り返して業務に当たっていた(乙1)。

訴外会社が中国における物流の窓口及び営業拡大の拠点としてC代
表処を立ち上げたことに伴い,亡Aは,平成18年5月,C代表処の首席代表に就任し,
控訴人を含む家族も同年8月に上海へ転居した。
なお,
上記就任の前後にかけて,亡Aの訴外会社における所属及び地位は,海運部B営業所国際輸送課係長であり,上記就任に伴う変更はなかった。また,亡Aの地位は,平成19年6月1日,同課課長待遇に,平成20年4月1日,同課課長代理にそれぞれ昇進しているものの,その後,死亡時まで変更はなく,平成21年12月28日,云搬社が設立されてその総経理に就任したことに伴う訴外会社内における所属及び地位の変更もなかった(乙1,当審における証人Fの供述)。」
(2)

同頁20行目の「(1)」を「(2)」に,改める。

(3)

同頁21行目の「該当する組織であり」から同22行目の「分支機構であ
る。」までを「該当し,中国における訴外会社の分支機構で,独立した法人格を有しない駐在員事務所である。」に改める。
(4)

原判決22頁4行目の「納税についは」を「納税については」に改める。
(5)

同頁26行目の「処理した。」の次に行を改めて「エ」を加える。
(6)

原判決23頁5行目の「C代表処が」を「訴外会社が中国において」に改
める。
(7)

同頁10行目の
「訴外会社にとって,の次に

「C代表処は,を加える。


(8)

同頁20行目冒頭から同24行目末尾までを削る。

(9)

原判決24頁1行目の「(2)」を「(3)」に改める。

(10)

同頁22行目を「(4)

云搬社の設立」に改める。
(11)

原判決26頁20行目の「スバル」を「スバル販売会社」に改める。
(12)

原判決27頁10行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「(5)

上海駐在時における亡Aと訴外会社の関係
C代表処及び云搬社のいずれについても,上海駐在時を通じて亡Aが訴
外会社から命じられた業務の中心は,訴外会社が取引先から受注した運送業務に関する中国国内における運送手配等であった。もっとも,これら運送業務について,亡Aは,受注の可否の決定や値段や納期など契約内容の決定を行う権限を訴外会社から与えられておらず,その決裁権者はB営業所の海運部長であった。また,亡Aは,顧客に発行する見積書の内容を決定する権限も与えられておらず,国内の営業所の担当課長にその権限があった。そして,これら運送業務を実際に行うに当たり,亡Aは,運搬に関することや契約に関する細かな指示について,荷主の担当に応じてB営業所海運部の営業第1課ないし第4課の課長等に宛ててメール等の手段でほぼ毎日のように連絡して,その指示を仰ぎつつ業務を遂行していた。また,労務管理について,亡Aは,自らの出勤簿をB営業所業務管理課のG課長に宛てて毎月月末に郵送又はファクシミリ通信によって提出することを義務付けられており,G課長において,これに基づいて亡Aの勤務状況を把握していた。
C代表処及び云搬社のいずれについても,
亡Aは,
現地スタッフの採用に関し,採用する人数や賃金を決定する権限を与えられておらず,その決裁権は訴外会社本社にあった。
経理業務については,C代表処及び云搬社の経理に関する現地からの収支報告について,訴外会社管理部経理課において,これを取りまとめて収支報告書を作成して,現地の作業をチェックしていた。亡Aに経理に関する専門的知識がなかったこともあって,現地スタッフは,収支報告をする上で不明な点について,訴外会社管理部経理課に問い合わせていた。訴外会社が亡Aの裁量に任せていた通常の業務は,現地の荷主への表敬訪問,荷の受取時期の設定,受渡し等の作業手順についての部下への指導等の特定の分野に限られていた。(甲4の2,甲5の2,甲9の1ないし6,甲10,乙1,当審における証人Fの供述)」
(13)

同頁11行目の「(4)」を「(6)

亡Aの後任者の所属及び地位」に改め

た上,行を改める。
(14)

同行目の「身分」を「所属及び地位」に改める。

(15)

原判決28頁12行目の「事業に属し,」の次に「当該事業場の使用者
の指揮に従って勤務し,」を加える。
3
控訴人の当審における主張に対する判断
(1)

控訴人は,
亡Aは,
国内の事業場である訴外会社の使用者の指揮に従って

勤務していた者であり,単に労働の提供の場が海外にあったにすぎない海外出張者に該当するから,海外派遣者を対象とする特別加入手続を要することなく,当然に労災保険法上の保険給付の対象となると主張する。
(2)

そこで,検討するに,前記のとおり,労災保険法の施行地内(国内)で行
われる事業に使用される海外出張者か,それとも,同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって,国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続が必要である者かについては,単に労働の提供の場が海外にあるだけで,国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか,それとも,海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から,当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ,どのような労働関係にあるかによって,総合的に判断されるべきものである。
そして,前記認定事実によると,亡Aの所属は,上海駐在時を通じて,訴外会社海運部B営業所国際輸送課で変わらず,亡Aの地位は,平成19年6月1日,同課課長待遇に,平成20年4月1日,同課課長代理にそれぞれ昇進しているものの,平成21年12月28日に云搬社が設立されてその総経理に就任したことによる訴外会社における所属及び地位についての変更はなかったこと,C代表処及び云搬社のいずれについても,亡Aは,その業務の中心となる運送業務について,受注の可否の決定や値段や納期など契約内容の決定を行う権限も,顧客に発行する見積書の内容を決定する権限も,訴外会社から与えられておらず,それらの決定権限は日本国内の訴外会社の担当者にあったこと,訴外会社は,亡AのC代表処赴任に当たり,文書による辞令交付や諸手当の説明等は行っておらず,所属するB営業所における長期的な出張として内部処理していたこと,上海駐在時を通じて,亡Aの人件費が訴外会社からC代表処を介して亡Aに支払われていたこと,亡Aが訴外会社B営業所海運部国際輸送課に籍を置き,出勤簿を業務管理課長に提出するなど,訴外会社の労務管理等に服していたこと,云搬社の業務は,C代表処の業務を移行したものであり,云搬社の設立前後を通じて,亡Aの日常業務に大きな変化はなかったこと,C代表処は,独立した法人格を持たない駐在員事務所にすぎず,また,云搬社は,独立した法人格を有するものの,訴外会社の100パーセント子会社であること,訴外会社は,亡Aの上海駐在時を通じて,国内事業場の事業に属する労働者である海外出張者として亡Aに係る労災保険料の納付を継続していたこと等の事実が認められる。
以上認定の事実によると,亡Aについては,単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず,国内の事業場に所属し,当該事業場の使用者の指揮命令に従い勤務する労働者である海外出張者に当たるというべきであり,海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務する海外派遣者ではないというべきである。したがって,海外派遣者を対象とする特別加入手続がされていないことを理由に,亡Aを労災保険法上の保険給付の対象から除外することは相当ではない。
(3)

よって,控訴人の前記(1)の主張には理由がある。
なお,本件訴訟は,亡Aの死亡について,労災保険法上の保険給付の対象になり得ないものであることを理由とする本件不支給決定の取消訴訟であるから,裁判所は,労災保険法上の保険給付の対象になり得るものであることを明らかにして,本件不支給決定を取り消す旨の判決をすれば足りると解される。そこで,被災労働者の疾病等の業務起因性の有無については,第一次的に労働基準監督署長にその判断の権限が与えられていることを考慮して,上記業務起因性の有無についての認定,判断を留保した上,本件不支給決定を取り消すこととする(最高裁判所平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻2号473頁参照)。
4
以上のとおりであるから,本件控訴は理由があり,当裁判所の上記判断と異なる原判決は相当でないから,これを取り消し,主文のとおり判決する。東京高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官

杉原
裁判官

山口
裁判官

高瀬則彦均順久
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