判例検索β > 平成26年(行ウ)第498号
納税告知取消請求事件
事件番号平成26(行ウ)498
事件名納税告知取消請求事件
裁判年月日平成28年7月19日
法廷名東京地方裁判所
判示事項破産するに至った営業者が匿名組合契約を締結した匿名組合員に対して利益の分配として支払をしていた金銭につき,当該支払が「匿名組合契約に基づく利益の分配」(所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの)210条,161条12号,174条9号)に該当し,営業者には,同法210条,212条1項,3項の規定に基づき,源泉徴収義務があるとされた事例
裁判要旨破産するに至った営業者が匿名組合契約を締結した匿名組合員に対して利益の分配として支払をしていた金銭につき,仮に,その支払の全てが営業者により粉飾された損益計算に基づくものであり,客観的評価においては,匿名組合契約上,匿名組合員に対して利益の分配として行うことができない支払であったとしても,営業者が匿名組合員に対して出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し,匿名組合員においても利益の分配として当該金銭を受領したものと取り扱われていたことが明らかであり,また,現時点に至るまで,匿名組合契約の当事者間において,当該支払行為は利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,それに沿った清算処理等が行われたとの事情はうかがわれないことからすると,当該支払は「匿名組合契約に基づく利益の分配」(所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの)210条,161条12号,174条9号)に該当し,営業者には,同法210条,212条1項,3項の規定に基づき,源泉徴収義務があるとされた事例
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平成28年7月19日判決言渡
平成26年(行ウ)第498号納税告知取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(1)渋谷税務署長が合同会社UNIKEに対し平成26年10月1日付けでした納税の告知(渋源特第○号)を取り消す。
(2)被告は,原告に対し,1億1241万円及びこれに対する平成26年10月4日から支払済みまで年7.3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合のいずれか低い割合を乗じて計算した金員(ただし,所得の種類かつ年月分ごとに計算し,その金額に100円未満の端数があるときはその端数金額を切り捨てたもの)を支払え。
2(1)渋谷税務署長が合同会社UNIKEに対し平成26年10月1日付けでした納税の告知(渋源特第○号)のうち,匿名組合利益の分配金に対する源泉所得税合計2327万円及びこれに対する不納付加算税合計232万7000円を取り消す。
(2)原告と被告との間において,渋谷税務署長が合同会社UNIKEに対し平成26年10月1日付けでした納税の告知(渋源特第○号)記載の租税債務のうち,匿名組合利益の分配金に対する源泉所得税支払債務金2327万円及びこれに対する不納付加算税支払債務金232万7000円について,それぞれ支払義務が存在しないことを確認する。
第2事案の概要
1事案の要旨本件は,破産者合同会社UNIKE(以下「破産会社」という。)が,同社を営業者として匿名組合員との間で締結した匿名組合契約において,匿名組合員に対して利益の分配として支払った金員につき,所轄税務署長から源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を受けたことに関し,破産会社の破産管財人である原告が,被告に対し,
上記各支払は出資の払戻しであって
「匿名組合契約に基づく利益の分配」
に該当せず,
源泉所得税の納付義務を負わないと主張して,
上記告知処分等
(①
平成26年10月1日付け納税の告知(渋源特第○号),②同日付け納税の告知及び不納付加算税の賦課決定(渋源特第○号)のうち匿名組合契約の利益の分配金に対する部分)の各取消しを求める(①につき請求1(1),②につき請求2(1))とともに,納付済みである上記①の源泉所得税1億1241万円につき,国税通則法56条1項に基づく還付及びこれに対する同法58条に基づく還付加算金の支払(請求1(2))を求め,上記②の源泉所得税2327万円及び不納付加算税232万7000円につき,その納税義務が存在しないことの確認(請求2(2))を求める事案である。
2関係法令等の定め
(1)匿名組合契約等の利益の分配に係る源泉徴収について
ア居住者に対し国内において匿名組合契約(これに準ずる契約として政令で定めるものを含む。)に基づく利益の分配(以下「匿名組合契約に基づく利益の分配」という。)につき支払をする者は,その支払の際,その利益の分配について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならず(所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)210条),これにより徴収すべき所得税の額は,上記の利益の分配の額に100分の20の税率を乗じて計算した金額である(同法211条)。

外国法人に対し国内において同法161条12号に掲げる国内源泉所得の支払をする者は,その支払の際,当該国内源泉所得について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならず(同法212条1項),同法161条12号は,国内において事業を行う者に対する出資につき,匿名組合契約に基づく利益の分配を国内源泉所得としている。
そして,
これにより徴収すべき所得税の額は,
上記の国内源泉所得の金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額である(同法213条1項1号)。

内国法人に対し国内において同法174条9号に掲げる利益の分配の支払をする者は,
その支払の際,
当該利益の分配について所得税を徴収し,
その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならず(同法212条3項),同法174条9号は,その内国法人が国内において支払を受けるべき匿名組合契約に基づく利益の分配を掲げている。そして,これにより徴収すべき所得税の額は,上記の利益の分配の金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額である(同法213条2項2号)。

(2)源泉所得税について
ア源泉所得税の納税義務は,利子,配当,給与,報酬,料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に成立し(国税通則法15条2項2号),源泉所得税は,上記の納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同条3項2号)。
イ税務署長は,源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは,納税の告知をしなければならず(同法36条1項2号),上記の国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には,
正当な理由があると認められる場合を除き,
当該納税者から,
上記の納税の告知に係る税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する(同法67条1項)。3前提事実(当事者間に争いがない事実か,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者等
ア破産会社(会社成立の年月日・平成22年2月12日,本店所在地・東京都渋谷区α×番○号○)は,集団投資スキームの組成・運営,未上場株式等を含む有価証券の取得,保有及び運用等を目的とする合同会社である(甲1の1)。
イ破産会社は,平成24年12月5日,当庁において破産手続開始決定を受け,
原告は,
破産会社の破産管財人に選任された
(甲1の1~1の3)

aは,破産会社の成立時及び破産手続開始決定時に同社の代表社員であったものであり(なお,bが同社の代表社員であった期間がある。),同日,破産会社と併せて当庁において破産手続開始決定を受け,原告が破産管財人に選任された(甲1の1,乙11~13)。
(2)破産会社による源泉取得税の納税と本件各処分に至る経緯
ア破産会社は,平成22年3月9日,関東財務局に対して適格機関投資家等特例業務の届出をし(金融商品取引法(平成27年法律第32号による改正前のもの。以下同じ。)63条2項),匿名組合員(適格機関投資家等である出資者)から出資された金銭等を,日経平均先物取引,日経平均先物オプション取引及び外国為替証拠金取引等により運用することを目的とする匿名組合「YNKファンド匿名組合」(以下「本件匿名組合」という。)を組成し,その営業者として,当該匿名組合の運営・管理を行ってきた(甲1の1,2,乙1)。
イ破産会社は,本件匿名組合の営業として,出資の勧誘をし,匿名組合員約50名との間で匿名組合契約を締結した(以下,破産会社と各匿名組合員との間で締結した匿名組合契約を「本件匿名組合契約」といい,その匿名組合員を「本件匿名組合員」という。)。本件匿名組合契約の内容は,別紙記載のとおりである。(甲2,乙1,16)ウ破産会社は,
本件匿名組合員に対し,
別表1記載のとおり,
「支払金額」
欄記載の金額を支払った(甲3の1,乙1,17)。
エ破産会社は,
被告国に対し,
上記ウの各支払に関する源泉所得税として,
別表1記載のとおり,「納付すべき税額」欄記載の金額(合計1億1241万円)を納付した(乙1,3)。
オ破産会社は,
本件匿名組合員に対し,
別表2記載のとおり,
「支払金額」
欄記載の金額を支払った(甲3の2,乙1,17)。
カ破産会社及びaは,平成24年12月5日,当庁において破産手続開始決定を受け
(当庁平成24年
(フ)
第14513号,
同第14515号)

原告が破産会社及びaの破産管財人に選任された
(上記(1)イ,
甲1の1,
1の3,乙1,13)。
キ原告は,上記ウの各支払は出資の払戻しであったと判断し,平成25年8月7日,上記エで破産会社が納付した源泉所得税額の還付を請求したところ,
渋谷税務署長は,
同月26日,
その請求額全額
(1億1241万円)
の還付をした(乙5)。
クその後,東京国税局において,上記カの還付には理由がなかったのではないかとの疑義が生じ,渋谷税務署長は,破産会社に対し,平成26年10月1日付けで,次の(ア)及び(イ)の各処分をした(以下,下記(ア)の本件告知処分1,下記(イ)①の本件告知処分2及びこれに対する本件賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。
(ア)別表1記載のとおり,上記エ及びキのとおり還付された部分である平成22年4月支払分から平成24年2月支払分までの匿名組合契約の利益の分配金の支払に対する源泉所得税
(その税額の合計1億1241
万円)
の納税の告知
(渋源特第○号。
以下
「本件告知処分1」
という。

(甲3の1)(イ)①別表2記載のとおり,平成23年12月支払分及び平成24年3月支払分の匿名組合契約の利益の分配金の支払に対する源泉所得税
(その
税額の合計2327万円)の納税の告知(以下「本件告知処分2」という。)並びにこれに対する不納付加算税(その税額の合計232万7000円)の賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。),②破産手続開始前の給与に対する源泉所得税の納税の告知及びこれに対する不納付加算税の賦課決定(渋源特第○号)(甲3の2)
(以下,
別表1及び2の
「支払金額」
欄記載の金額の支払を
「本件各支払」
といい,当該各支払に係る金員を「本件各金員」という。)
ケ破産会社は,平成26年10月3日,本件告知処分1に係る源泉所得税の全額(1億1241万円)を納付したが(乙3),本件告知処分2に係る源泉所得税及びこれに対する不納付加算税は納付していない。
(3)本件訴訟の提起等
ア原告は,平成26年10月9日,本件訴訟(ただし,本件告知処分1及び2の取消請求(請求の趣旨1(1)及び2(1))に係る部分)を提起した。これに対し,被告は,上記の訴えは不服申立の前置を経ていない不適法なものであるとして,訴えの却下を求める旨の答弁をした。
イ原告は,平成26年11月26日,渋谷税務署長に対し,本件告知処分1及び2の取消しを求めて異議申立てをした。また,原告は,本件訴訟につき訴えの変更を求める申立てを行い,請求の趣旨1(2)及び2(2)に係る部分を追加した。

渋谷税務署長は平成27年2月23日付けで上記異議申立てを棄却する旨の決定をした。原告は,同月25日,国税不服審判所長に対し,本件告知処分1及び2の取消しを求めて審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成28年2月4日付けで上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲22,23,乙1,弁論の全趣旨)4被告が主張する本件各処分の適法性及び納税義務の根拠(1)本件告知処分1について
破産会社が,平成22年4月から平成24年2月までの間に本件匿名組合員に対して支払った金額は,別表1の「支払金額」欄記載のとおりであり,当該各支払は,
上記2(1)の所得税法210条等
(以下,
所得税法210条,
161条12号,174条9号を併せて「所得税法210条等」という。)に定める「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当することから,破産会社は,同法210条,212条1項又は同条3項の規定により,本件匿名組合員に対して当該各支払をするに当たり,その支払金額に100分の20の税率(同法211条,213条1項1号又は同条2項2号に規定する税率)を乗じて計算した所得税額を徴収し,その徴収する日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない。
これを計算すると,別表1の「納付すべき税額」欄記載のとおりとなり,その合計額は1億1241万円である。
(2)本件告知処分2及びこれに対する不納付加算税について
ア破産会社が,平成23年12月及び平成24年3月に本件匿名組合員に対して支払った金額は,別表2の「支払金額」欄記載のとおりであり,当該各支払は,上記2(1)の所得税法210条等に定める「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当することから,上記(1)と同様,破産会社は,本件匿名組合員に対して当該各支払をするに当たり,その支払金額に100分の20の税率を乗じて計算した所得税額を徴収し,その徴収する日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならず,これを計算すると,別表2の「納付すべき税額」欄記載のとおりとなり,その合計額は2327万円である。
イ不納付加算税(国税通則法67条)は,源泉徴収による国税が法定納期限までに完納されなかった場合に徴収されるものであるところ,破産会社は,本件告知処分2に係る源泉所得税額を法定納期限までに納付していない。これによる不納付加算税の額は,本件告知処分2に係る納付すべき税額(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額であり(同法67条1項),これを計算すると,納付すべき不納付加算税の税額は,別表2「不納付加算税の額」欄記載のとおりとなり,その合計額は232万7000円である。
5主な争点及び争点についての当事者の主張
本件の主な争点は,本件各支払が「匿名組合契約に基づく利益の分配」(所得税法210条等)に該当するか否かである。なお,本件匿名組合契約が商法535条及び所得税法210条等に定める匿名組合契約であることについては,当事者間に争いがない。
(被告の主張の要旨)
(1)本件各支払が「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当することア所得税法210条等の「匿名組合契約に基づく利益の分配」の意義(ア)所得税法上,
「匿名組合契約に基づく利益の分配」「利益の分配」
又は
の意義について定めた規定はなく,解釈によるほかない。
源泉所得税は,
源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に
納税義務が成立し(国税通則法15条2項2号),特別の手続を要することなく納付すべき税額が確定する税である(同条3項)。ここにいう「確定」とは,支払われた所得の額と法令の定める税率等から支払者の徴収すべき税額が法津上当然に決定されることをいうのであり,
国税通
則法は支払者における税額算出の過程が一義的に明白であることを前提とするものと解される(最高裁昭和43年(オ)第258号同45年12月24日第一小法廷判決・民集24巻13号2243頁の最高裁判所判例解説参照)。したがって,営業者から匿名組合員に対する支払について,これに対応する確定した源泉所得税の租税債務が存在したか否かは,
「匿名組合
契約に基づく利益の分配」
という納税義務の成立要件に該当する事実が
あったか否かによって客観的に決定されるべきであり,
匿名組合契約の
定めに沿って,営業者が「利益の分配」と表示して匿名組合員に対して金員を支払った場合には,特段の事情がない限り,「匿名組合に基づく利益の分配」としての支払があったものと解するのが相当である。(イ)もっとも,営業者が粉飾決算等に基づいて当該契約条項に違反して利益の分配を行っていたことが判明したときに,
「匿名組合契約に基づく
利益の分配」
としての支払があったものと扱うことが相当であるか否か
は問題となり得る。
しかしながら,ある「利益の分配」が,当該分配時点において,外形上,有効な利益の分配として行われたにもかかわらず,その実質につき子細に検討した結果,
契約条項に違反していたことが判明した場合にも,
常に当該分配時に遡って「利益の分配」がなかったものと直ちに取り扱うことになるのだとすれば,上記(ア)のとおり,支払者において徴収して納付すべき税額の算出過程が一義的に明白であることを前提とする源泉所得税の性質に反することになり,
ひいては所得の支払者に支払時
点において困難な実質判断を強いることにもなりかねず,
不合理である。
また,匿名組合契約の営業者は,通常,適正な損益計算を行って匿名組合員の出資財産を管理する契約上の義務があるところ
(本件匿名組合
契約6条,10条参照),匿名組合員の認識し得ないところで,営業者が自ら契約に違反して「利益の分配」をしたからといって,匿名組合員に分配額の返還義務が生じたり,
出資額が連動して減額されたりするよ
うなことは,契約当事者の合意によるものとは考えられない。他方,匿名組合契約の契約条項に違反する過大な利益の分配であったことが客観的にも確認することが可能であり,当該分配後に営業者と匿名組合員
との合意に基づき過大とされた利益の分配額が現実に返還されたというような特段の事情が存在する場合には,そのような分配は「匿名組合契約に基づく利益の分配」ではないと評価する余地はある。
したがって,所得税法210条等の適用においても,匿名組合契約の取決めに沿って,一応「利益の分配」として金員が支払われたものであれば,
その分配が匿名組合契約の条項に違反していたことが判明したと
しても,
匿名組合契約の契約条項に違反する過大な利益の分配であった
ことが客観的にも確認することが可能であり,
当該分配後に営業者と匿
名組合員との合意に基づき過大とされた利益の分配額が現実に返還されたというような特段の事情がない限り,
事後的に利益の分配が当初か
ら存在していないものと取扱い,
源泉所得税の納付義務の存在が否定さ
れると解するべきではない。
(ウ)最高裁昭和35年(オ)第54号同年10月7日第二小法廷判決・民集14巻12号2420頁(以下「最高裁昭和35年判決」という。)は,
会社の株主に対する利益配当に係る所得税の源泉徴収義務に関連して,「所得税法上の利益配当とは必ずしも,商法の規定に従って適法になされたものにかぎらず,商法が規制の対象とし,商法の見地からは不適法とされる配当
(たとえば,
蛸配当,
株主平等の原則に反する配当等)
の如きも,所得税法上の利益配当のうちに含まれるものと解すべき」と判示し,税法上の利益配当は実際に商法の規定に従って適法・適式に行われたものに限るというのは狭きに失することは明らかであるとされている(最高裁昭和35年判決の最高裁判例解説。甲9参照)。
本件は,会社の利益配当が問題となっている事案ではないが,出資者に対する利益の配分という点で,
匿名組合契約に基づく利益の分配と変
わる点はなく,また,両者を別異に解すべき根拠もないから,最高裁昭和35年判決の考え方は,「匿名組合契約に基づく利益の分配」についても妥当するというべきであり,上記に述べたところと整合する。イ本件各支払についてのあてはめ
下記(ア)ないし(エ)のとおり,本件においては,破産会社と本件匿名組合員との間で,商法535条に規定する匿名組合契約が有効に成立したことが認められ,かつ,当該匿名組合契約に基づく「利益の分配」が行われたという事実が認められる。そして,仮に,本件各支払が,本件匿名組合契約の取決めに違反して過大に行われた疑いがあるとしても,破産会社と本件匿名組合員との合意に基づいて現実にその過大分配額が返還された事実も認められないのであるから,契約当事者間においては一応有効な「利益の分配」があったものとされ,利益の分配としての性格はなお失われていないというべきである。
そうすると,本件各支払が所得税法210条等に規定する「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当することは明らかであり,後に契約に違反して過大に分配された疑いが生じたとしても,そのことのみでは「匿名組合契約に基づく利益の分配」であることは否定することはできない。(ア)本件匿名組合契約は,所得税法上の匿名組合契約であると認められることについては,当事者間に争いがない。
(イ)破産会社は,本件匿名組合員と締結した本件匿名組合契約に基づき,本件匿名組合員に対して,
同契約に規定する利益の分配額の上限である
出資額の5%(同契約10条4項)を,「YNKファンド配当分配のお知らせ」(乙8の1)により本件匿名組合契約に係る配当分配及び分配金払込実行について通知し,「匿名組合契約に基づく利益の分配」に係る源泉所得税額(20%相当額)を差し引いた残額を本件匿名組合員に支払い,その際,利益分配の支払調書(乙6)を交付していた。
(ウ)所得税法において,匿名組合契約に基づき営業者から受ける利益の分配は,雑所得として取り扱われているところ,
個人の本件匿名組合員は,
本件各支払による金員を,
匿名組合契約に基づく分配金として雑所得に
含め,源泉所得税額を控除して所得税の確定申告をし(乙9),また,法人の本件匿名組合員は,雑収入等の益金の額に計上し,源泉所得税額を控除して法人税の確定申告をしている(乙10)。したがって,本件匿名組合員は,
本件各支払による金員を匿名組合契約に基づく利益の分
配として支払われたものであると認識していたというべきである。(エ)営業者である破産会社においては,本件匿名組合員から受領した出資金を原資としてFX取引(外国為替証拠金取引。以下同じ。)等の本件匿名組合の目的及び事業に適合した投資を行っていたことがうかがわれ,
これによれば本件匿名組合員からの出資金を運用することなく着服するような違法な営業活動はなかったものと思料される。そして,破産会社は,
本件匿名組合の目的及び事業を前提として決算書
(損益計算書)
を作成し(乙12の1,12の2),また,上記(ウ)のとおり分配金から差し引いた源泉所得税額を,所得税法210条等に規定する「匿名組合契約に基づく利益の分配」に係る所得税として国に納付していた。加えて,破産会社の代表社員であるaによれば(乙11),破産会社においては,少なくとも本件匿名組合の事業開始当初においては,本件各支払が「利益の分配」であると認識しており,その後,運用利益により元本の毀損部分を取り戻すだけでなく,
5%の利益の分配を可能とす
る営業活動に復帰することを目指していたことがうかがわれる。
したがって,破産会社において,元本毀損の状況で利益の分配を続けたことがあったとしても,
円滑かつ適正な営業活動への復帰を目指して
いたことからすれば,利益をあげようとすることなく,「利益の分配」に仮装して出資の払戻しを行うといった確定的な意思があったとまでは認められない。(2)原告の主張に対する反論
ア本件各支払が出資の一部払戻しに該当しないこと
原告は,本件各支払の性質は実質的に判断されるべきであるとした上で,本件匿名組合においては,最初の計算期間から損失が生じており,その後に生じた利益をもって累積した損失が填補されたことは一切なく,かかる実態が仮装経理によって隠ぺいされていたのであり,公正な会計慣行に従えば,本件各支払の原資は出資元本部分しかない本件匿名組合財産であるから,本件各支払の実質は,商法上も所得税法上も利益の分配と解することはできず,出資元本の一部払戻しにすぎず,本件各支払は「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当せず,破産会社には本件各支払につき所得税法210条等の源泉徴収義務はない旨主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,金員の支払時において,これに対応する確定した租税債務が存在したか否かは,「匿名組合契約に基づく利益の分配」という納税債務の成立要件に該当する事実があったか否かによって客観的に決定されるのであって,その金員の原資の性質のみによって判断されるものではない。そして,次の(ア)及び(イ)のとおり,本件各支払に係る事実を客観的に判断すれば,本件各支払が所得税法210条等の「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当するすることは明らかであり,原告の上記主張は理由がない。
(ア)原告は,本件匿名組合の最初の計算期間から損失が生じ,その後に生じた利益をもって累積した損失が填補されたことは一切ない旨主張するが,次の①及び②のとおり,そのような事実は認められない。①

本件匿名組合の事業者は営業者である破産会社であるにもかかわ
らず,原告が損失の発生を示すために作成した別表3(訴状添付の別紙4の1及び4の2参照)には,破産会社名義ではない取引口座とみられるa個人名義の取引口座の記載があり,
これらをもって直ちに本件匿名組合に損失が生じていたとはいい難い。また,aは,破産会社以外にも別の会社(ユピカ株式会社)やa個人としてファンドを運用していたというのであり(乙13,14),a個人名義の口座における取引全てが破産会社に帰属するものであるかは必ずしも明らかではない。
さらに,a作成の書面(乙11,15)によると,少なくとも平成23年2月25日より前は分配金の支払が可能であったことを意味する記載があり,
最初の計算期間から損失が生じていたとの原告の主
張は,これらの証拠とは齟齬するものである。加えて,別表3は,破産会社の業務執行社員であるbが,
関東財務局長から報告命令を受け
て提出した投資運用損益の一覧表(乙19の2)と一致していない。②そもそも,匿名組合契約は,営業者と匿名組合員との間の個別の契約であり(東京地方裁判所昭和38年10月10日判決・訟務月報10巻2号391頁(甲5)),各匿名組合契約ごとに投資運用損益を個別に計算すべきである。
本件匿名組合契約も,ある計算期間において,ある本件匿名組合契約に係る投資損益の分配の計算の結果,利益が生じた場合には,当該計算期間より前の計算期間においてその本件匿名組合員に対して分配された損失累計額があるときには,
当該利益をもって当該損失累計
額に充当し,
当該損失累計額をゼロとした後の残高を当該本件匿名組
合員に分配することを定めている(同契約10条4項)。
したがって,中途で新規加入(契約)した者が,当該加入月に既に生じていた損失(他の匿名組合員が負担すべき損失累計額)を負担することはあり得ず,本件匿名組合員に対する分配損益は,その加入月ごとに異なる計算をすることになる。
そうすると,
仮に別表3が真実の投資運用損益の金額であったとしても,平成22年7月,8月,11月及び12月並びに平成23年3月,6月,7月,10月及び11月の各計算期間については,それぞれ利益が計上されているので,
当該計算期間に新規加入した匿名組合
員には投資運用利益が生じているはずであり,「利益の分配」にほかならない。
(イ)また,仮に本件匿名組合契約の条項に違反して,営業者である破産会社が過大に利益の分配を行っていたことが判明したとしても,
次の①な
いし③のとおり,私法上,本件各支払を出資の一部払戻しがあったものと扱う余地はない。所得税法上,匿名組合契約に基づいて支払を受けるものは,出資の払戻しとして支払を受けるものを除いて,「匿名組合契約に基づく利益の分配」として取り扱われている(所得税基本通達36・37共-21(注)1(乙7))ことからしても,本件各金員は,所得税法上,「匿名組合契約に基づく利益の分配」に当たるというべきである。
①上記(1)イ(エ)のとおり,破産会社においては,元本毀損の状況で利益の分配を続けたことがあったとしても,
利益をあげようとすること
なく,
利益の分配に仮装して出資の払戻しを行うといった確定的な意
思があったとまでは認められない。


商法上,匿名組合契約における出資の払戻し(商法542条)は,匿名組合契約が解除された場合(同法540条)及び匿名組合契約の法定終了事由(同法541条)が生じた場合に行われることとされ,商法上これらの事由以外に出資の払戻しは予定されていない。
そして,
本件匿名組合契約においても,
匿名組合契約の終了の態様について定
めた上で(同契約12条),上記の商法の規定と同様,本件匿名組合契約が終了した場合に出資金を払い戻す旨を定めているのみである(同契約13条)。なお,本件匿名組合契約においては,各計算期間の分配損益に相当する金額と営業者の預金口座の残高のいずれか低い方の金額から一定の金額を留保した残額を「利益又は出資金の一部返還」として,営業者がその裁量で必要と認めた金額を留保した残高を現金で支払う旨の規定がある(同契約11条1項)。しかしながら,その規定は,分配損益が存在する場合における裁量的な利益又は出資金の一部返還について定めた規定であり,
分配利益がない場合の出資金の払戻し
について定めたものではないし,
本件匿名組合員に出資金の払戻しに
係る請求権を認めたものでもない(同契約11条2項参照)。


フォックス投資事業有限責任組合など一部の本件匿名組合員にお
いては,
本件匿名組合契約の契約期間に係る本件各金員の支払合計額
がその出資額を超えているが(被告準備書面(2)添付の別表5,乙16,17),その出資額を超える金額について破産会社から返還請求はされていない。また,本件匿名組合契約の契約期間中に本件匿名組合契約を一部解除したcなどの一部の本件匿名組合員においては,本
件各金員の支払を受けていたほか,
解除により出資金の払戻しも受け
ている(被告準備書面(2)添付の別表6。乙16~18)。
加えて,営業者である破産会社の貸借対照表上における「預り出資金」科目につき,本件匿名組合員からの出資額は,本件匿名組合契約の解除に係る金額を除いて,本件各支払後も減算されていない(乙12の1,12の2)。仮に本件各支払が出資の払戻しであったとすると,本件匿名組合員は,出資額の全額の払戻しを受けた時点において匿名組合員としての地位を有しないこととなるが,
出資額相当額に達
するまでの支払を受けた本件匿名組合員に対しても,
その後も引き続
き本件各支払がされている。他方,本件匿名組合員であるレイアップ株式会社は,
本件各金員の受領後も,
貸借対照表上における
「出資金」科目の金額を減算していない(乙10,16)。
④原告が作成した破産会社の出資金明細表(乙16)においても,契約の解除等の場合を除いて,本件各支払の都度,本件匿名組合員の出資額についてこれを減額するなどの管理は行われていない。
また,破産会社の破産手続において,本件匿名組合員は,破産債権の届出において,出資額の全額を届け出ている(乙20)。
⑤仮に,原告が主張するとおり,本件匿名組合において分配の対象となった利益は一切発生しておらず,
本件各支払が出資の払戻しであっ
たとするならば,
上記③の出資額を超過して払戻しを受けた本件匿名組合員については,
他の組合員の出資額の一部を取得したことにほか
ならないのであるから,
総債権者の利益のために業務を行う破産管財
人である原告は,
当然にその超過分の返還を求めるなどすべきである
ところ,そうした事実は認められない。

本件匿名組合員の被害は破産会社の納税義務の存否の判断に影響しないこと
(ア)原告は,本件告知処分1及び2につき,欺罔者(破産会社)の仮装経理があったことをもって,経済的利益(果実)を得ていない被害者(本件匿名組合員)に不当な納税負担を課すことにより,被害者の被害をさらに拡大させるものであり許されない旨主張する。
しかしながら,上記(1)イで述べたとおり,本件各金員は,契約当事者間においては,飽くまで有効な「利益の分配」として支払われたものであり,
その後においてもこれを契約に違反する過大な支払があったも
のとして,
本件匿名組合員から破産会社に対して本件各金員が返還され
た事実は存在しない。なお,所得税基本通達は,源泉徴収の対象となった支払額が誤払等により過大であり,その後,源泉徴収義務者がその過大支払額の返還を受けた場合には,
既に納付された源泉徴収額を還付するものとしている(所得税基本通達181~223共-6(2))。本件匿名組合員においては,
本件各支払に係る経済的成果が現実に失
われた事実は認められないのであって,「経済的利益(果実)を得ていない被害者に不当な納税負担を課すことになる」
との原告の批判は当た
らない。また,本件匿名組合員は,本件匿名組合契約の営業者である破産会社の破産によって出資金の返還を受けられなくなったのであり,原
告の主張は,
これにより破産前に受けた利益の分配に対して源泉徴収義
務を課されることが不当になるとするものにほかならず,
失当であるこ
とは明らかというべきである。
(イ)原告は,破産会社が真正な経理をしていれば,源泉所得税を納付する必要はなく,
少なくとも破産会社が納付した源泉所得税額だけ本件匿名
組合財産が増加し,
本件匿名組合員への出資の払戻し可能額が増加して
いたはずであり,
破産会社の仮装経理によって被告が本件匿名組合員の
出資払戻し額の減少という犠牲の下に利得をしていることとなるが,本
件告知処分1及び2は,担税力のない本件匿名組合員に課税し,その犠牲のもとに納税資金という利得を確保するものであって,
極めて不当で
あると主張している。
しかしながら,仮に,原告主張のとおり,本件匿名組合契約に基づく利益がなく,破産会社が真正な経理をしていたとすれば,本件匿名組合員に対し,「利益の分配」や「出資の払戻し」(本件匿名組合契約11条1項)などの金員の支払は一切ないはずであるから,源泉所得税の納付義務も生じない。それにもかかわらず,本件匿名組合員は,利益の分配として本件各金員を受領しており,
仮に本件各金員について返還義務
が生じたとしても,それを返還せずに利得している以上,本件匿名組合員には担税力が認められる。
なお,将来的な破産処理の結果,本件匿名組合員が出資額の全額につき返還を受けられない結果が生じることがあり得るとしても,それは破
産処理の結果として,本件各出資額が毀損するからにすぎず,本件各金員の性格が出資の払戻しであったことによるものではない。また,出資額が返還されないことが確定した場合には,
その返還されない金額につ
いて,所得税においては,その年分の雑所得の金額の計算上,必要経費に算入され(所得税法51条4項),法人税については,特別損失等として損金の額に算入されることとなるのであって,この点からしても,被告は本件匿名組合員に対して何ら不当な納税負担を課しているものではない。
(原告の主張の要旨)
(1)本件各支払は出資の払戻しと認められること
下記アないしエのとおり,破産会社は,本件匿名組合に運用益が生じていたとして本件匿名組合員に対して分配金を支払っていたものの,実際には本件匿名組合の投資運用では利益が生じておらず,運用益が生じていたように仮装経理をしていたにすぎなかったのであり,本件匿名組合員に対する本件各支払は出資の払戻しにすぎないから,本件各支払が「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当するとして破産会社が源泉徴収義務を負うことはない。ア所得税法210条等の「匿名組合契約に基づく利益の分配」の意義商法上,匿名組合契約(同法535条)における利益及び損失とは,その営業年度の営業活動により生じた財産の増加額又は減少額で,評価益を含まないと解するのが定説である(甲6の1,6の2)。なお,本件匿名組合契約は,本件匿名組合に損失が生じた場合には,出資者が出資金の範囲内でその損失を負担することとされている(同契約10条3項及び4項,商法538条参照)。
したがって,「匿名組合契約に基づく利益の分配」とは,匿名組合の営業活動によって生じた財産の増加部分(ただし,匿名組合に累積運用損失が生じている場合はそれを填補した後のもの)の全部又は一部を出資者に分配することであると解される。
イ本件匿名組合においては,その最初の計算期間から損失が生じ,その後に生じた利益をもって累積した損失が填補されたことはなかったこと(ア)本件匿名組合の営業者である破産会社がその出資金を運用していた口座は,①トレイダーズ証券におけるFX取引(破産会社名義),②トレイダーズ証券におけるFX取引(a名義),③トレイダーズ証券における先物取引(a名義),④ひまわり証券における日経225先物取引(a名義),⑤カブドットコム証券における日経225先物取引及び日経225オプション取引(a名義)の5口座である。なお,②ないし⑤の口座はa個人の口座であるが,
これは破産会社が合同会社であること
から,破産会社名義の証券口座の開設が容易に認められなかったため,破産会社の代表社員であるa名義の個人口座を利用したのであるが,当
該各口座の運用資金は本件匿名組合員から出資された金銭が振り込まれ,破産会社の計算にて運用されていたのであるから,同口座における投資運用損益は本件匿名組合に帰属する。
上記①ないし⑤の口座における運用状況は,別表3のとおりであり,本件匿名組合の最初の計算期間から損失が生じ,
その後に生じた利益を
もって累積した損失が填補されたことはなかった。
(イ)被告の主張に対する反論等
被告は,上記(ア)に関して,匿名組合契約は営業者と匿名組合員との個別契約であり,
匿名組合契約ごとに投資運用損益を個別に計算すべき
であると主張するが,
匿名組合契約の法的性質を理解していないもので
あり,失当である。理由は次のとおりである。
匿名組合契約は,
匿名組合員と営業者との個別契約という形式をとっ
ているものの,匿名組合契約の出資の対象は,営業者の「営業」である(商法535条)。匿名組合においては,営業者と多数の匿名組合員とが同一の内容の匿名組合契約を締結することによって,
不特定多数の匿
名組合員が営業者の営業に出資することが可能であり,
その出資された
匿名組合の財産は,営業者に帰属する(同法536条1項)から,営業者は,
匿名組合が受けた出資金を一体として自らの営業に利用すること
ができる。
かかる営業によって生じた利益は匿名組合員に分配されるが
(同法535条),匿名組合の上記性質から,出資割合によって生じる差異は別として,匿名組合員を平等かつ公平に扱うことが要請され,利益の分配方法は,各出資者の出資額の割合に応じるものとされる(組合に関する民法674条1項及び2項の類推)。
以上によれば,匿名組合契約の損益は,出資の目的である営業単位で把握すべきものであり,
被告主張のように匿名組合員ごとに個別に損益
を算定しなければならない法的根拠はない。
加えて,本件匿名組合は,日経平均先物取引,日経平均先物オプション取引及びFX取引等で資金運用をするファンドであり,
破産会社は匿
名組合員との間で同一内容の匿名組合契約を締結し,また,利益分配は出資割合に応じるとのみ規定されており(本件匿名組合契約10条1項),本件匿名組合の損益は,事業全体で計算し,利益は出資割合に応じて分配する必要がある。さらに,営業者は各計算期間において利益が生じた場合において,損失累計額がある場合には,まず損失累計額がゼロに達するまで当該利益を充当し,その後,超過する利益を営業者の裁量において分配するものとするとされており
(本件匿名組合契約10条
4項本文)飽くまで本件匿名組合事業

(全体)
として損益計算を行い,
分配をすることが規定されている。
ウ本件各支払は,出資の一部払戻しであり,「匿名組合契約に基づく利益の配当」に該当しないこと本件匿名組合における出資金の運用の実態は,破産会社の仮装経理によって隠ぺいされ,破産会社から本件匿名組合員に対しては,本件各支払が利益の分配であると説明され,源泉徴収票が交付されている。
このように仮装経理によって形式及び外観が経済実態と異なる場合の解釈については,外観・形式ないし名目に従ってではなく,実体・実質ないし内容に従って,それらを判断し認定しなければならないのが,租税法の解釈における大原則である(実質課税の原則)(甲7参照)。
この点は,仮装経理に基づく過大申告の更正(法人税法135条参照)等が認められていることからも明らかである。本件のように本件匿名組合員が実際に利益を得ていないのに,第三者が利益を仮装しただけで課税がされるとすれば,課税負担の公平に著しく反し,不合理であることはいうまでもない。
したがって,所得税法上も本件各支払の性質は実質的に判断されるべきであるから,商法上も所得税法上も,本件各支払を「利益の分配」とすることはできない。破産会社が本件匿名組合員に対してした利益の分配名目の本件各支払は,本件匿名組合財産の一部を本件匿名組合員に対して交付することであり,利益の分配以外のものであって,すなわち,本件匿名組合員に対する出資元本の一部の払戻しにすぎないと解すべきである。エ本件各支払が「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当すると解することによる結果の不当性について
(ア)本件は,本件匿名組合の営業者である破産会社が,本件匿名組合に運用利益が生じていないにもかかわらず,
多額の利益が生じているかのよ
うに欺罔して出資を募り,また,本件匿名組合契約の解約を妨げ,ついに破産するに至って多くの出資者に予期しない多額の損害を与えた事件である。
本件告知処分1及び2は,
破産会社が本件匿名組合に利益が生じていたかのように仮装経理をして源泉徴収票を交付していたこと等をもって,
本件各支払が
「匿名組合契約に基づく利益の分配」
に当たるとして,
被害者である本件匿名組合員に対し破産会社がかかる仮装経理をしていなければ負担しなかったはずの所得税の負担を強制するものにほかならず,極めて不当である。かかる解釈は,欺罔者の仮装経理があったことをもって,経済的利益(果実)を得ていない被害者に不当な納税負担を課すことにより,被害者の被害をさらに拡大するものであり,許されない。
このような観点からも,
本件告知処分1及び2は取り消されなければ
ならない。
(イ)これに対して,
被告は,
①本件各金員が有効な
「利益の分配」
であり,
過大な分配があったものとして本件匿名組合員から破産会社に返還されていないのであるから,経済効果が現実に失われた事実はない,②本件匿名組合員に出資額が返還されないことが確定すれば,
当該金額が将
来の所得税ないし法人税の所得計算上,損金に算入されるとして,「利益の分配」があったとして課税されたとしても,被告国が不当な納税負担を課すものではないと主張している。
上記①の主張は,本件匿名組合員が本件各金員を受領し,返還をしていない以上,
金員受領の経済効果は変わらないとするもののようである
が,破産会社が真正な経理をしていれば,源泉所得税を納付する必要はなく,
少なくとも破産会社が納付した源泉所得税額だけ本件匿名組合財
産が増加し,
本件匿名組合員への出資払戻し可能額が増加していたこと
を理解しない主張である。
被告が破産会社から本件匿名組合員の法人税又は所得税の概算前払である源泉所得税1億1241万円を収受したのは,
破産会社が仮装経
理をしたからであって,
破産会社が真正な経理をしていればそもそもかかる金員は収受できなかったのである。すなわち,破産会社の仮装経理により,
被告が本件匿名組合員の出資払戻し額の減少という犠牲のもと
に,利得をしていることを意味するのである。加えて,本件匿名組合員は,本件各金員の受給によって,同時に同額の出資金返還請求権を失っており,自らの所得が増えたわけではないのであるから,結果として,被告が所得増加のない国民に対して所得税を課税することになるものであり,極めて不当である。
また,
上記②の主張のような損金ないし経費処理をした場合であっても,
それを減額できる他の所得が存在してはじめて税額の減額効果が生じるのであり,これに見合う課税所得がない場合には,その減額効果を得ることはできず,不当な課税は救済されない。そもそも,出資額のうち返還されない金額の損金算入の処理は,
返還されない金額がある限り
行うことができる通常の税務処理であって,
不当な源泉所得税の徴収を
是正する目的のための規定ではない。したがって,被告の上記主張②には理由がない。
オ小括
以上より,本件各支払は,「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当しないから,本件匿名組合員に課税所得は発生せず,破産会社には所得税法210条等の源泉徴収義務がない。
(2)その他の被告の主張に対する反論等
ア源泉所得税の確定方式との関係について
被告は,支払時に外形上有効な「利益の分配」として行われたにもかかわらず,その実質につき子細に検討した結果,契約条項に違反していたこと等が判明し,支払時に遡って「利益の分配」がなかったものと直ちに取り扱うことは,納税額の算出過程が一義的に明白であることを前提とする源泉所得税の性質に反し,ひいては所得の支払者に支払時において困難な実質判断を強いることにつながりかねないとして,営業者が
「利益の分配」
と表示して金員を支払った場合には,
所得税法210条等の
「利益の分配」
があったものと取り扱われるべきである旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,営業者が「利益の分配」と表示して匿名組合員に金銭を支払う際に源泉所得税の納付義務を負うか否かの問題と,事後において当該支払が「利益の分配」ではなかったことが判明した場合に,誤って納付した源泉所得税の還付を受けられるか否かという問題を混同したものである。
営業者が
「利益の分配」
と表示して金員を支払う場合に,
「利益の分配」
の真の実態を判断しなければ源泉所得税の納税義務の存否が明らかにならないとすると法律関係が不安定になる。そのため,国税通則法15条3項の自動確定方式の租税の「確定」は,原則として形式的に判断されることになるとしても,かかる「確定」は,事後的に一切の修正を許さないような絶対的なものではない。国税通則法56条1項が国税の過誤納金の還付を認めており,また,所得税基本通達は,正当税額を超えて納付した源泉所得税額に係る過誤納金の還付について規定している(同通達181~223-6(1))。
また,
本件とは逆に,
匿名組合に利益が出ているのにこれを隠ぺいして,
営業者が出資の払戻しと称して実質的に「利益の分配」をした事例を想定すると,国は,負担の公平上,金員の支払形式や当事者の意思にかかわらず,「利益の分配」があったとして課税するはずである。国税通則法15条3項の「確定」は,事後において追加の課税や還付を拒否する趣旨では断じてない。最高裁昭和45年12月24日第一小法廷判決は,源泉所得税の税額は自動的に確定するものであるが,「確定とは,もとより行政上又は司法上争うことを許さない趣旨ではない」(甲4の1)と判示していることからも明らかである。源泉徴収制度の趣旨は,納税義務者の納税を容易ならしめるため,所得が納税義務者の手中に帰する以前の段階で徴収して税金の概算前払の方法で国が一応これを収納し,他日所得金額が明らかになってから,改めて納税義務者から納税される代わりに既に源泉所得税によって納付した当該税額をもってこれに充て,もし不足があれば追加納付させ,余剰があれば還付して,納税義務者の事後納税によって生ずる煩雑な事務を軽減すること,他面,源泉徴収の方法によらないと容易に捕捉し難い種類の収入を容易に捕捉してその支払の段階で支払者をして捕捉徴収させ,これによって国の所得調査の手数を省くこと等にあるものとされている(甲20,21)。
このように源泉徴収制度は,国税の税収確保の便宜のための制度にすぎないのであり,被告の主張は,租税徴収側の便宜のための単なる租税手続論から,所得税法210条等の「利益の分配」の有無という租税実体論を論ずるものであり,法解釈を誤っている。
イ過大分配額の返金の要否について
被告は,営業者と匿名組合員との合意に基づき過大とされた利益の分配額が現実に返還されたというような特段の事情がない限りは,「利益の分配」としての性格は失われないと主張する。
しかしながら,被告の上記主張には,何らの法的根拠もなく,本件各金員が現実に本件匿名組合に返還されるか否かは,本件各金員が所得税法210条等の「利益の分配」に当たるか否かの議論とは関係がない。理由は次のとおりである。
(ア)本件各支払の性質について
上記(1)アで述べたとおり,所得税法210条等の「匿名組合契約に基づく利益の分配」とは,匿名組合の営業活動によって生じた財産の増加部分(ただし,匿名組合に累積運用損失が生じている場合はそれを填補した後のもの)と解される。また,商人の会計は,一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従わなければならない(商法17条1項)から,匿名組合における上記「財産の増加」の有無は,公正な会計慣行に従って客観的に算定されるべきことになる。
公正な会計慣行に従って算定した本件匿名組合の運用状況
は,上記(1)イ(ア)のとおり(別表3参照),本件匿名組合の最初の計算期間から損失が生じ,
その後に生じた利益をもって累積した損失が填補
されたことはなかったのであり,本件匿名組合には,利益すなわち累積運用損失填補後の財産の増加は一切生じていない。
したがって,本件各支払は,税法上も会計上も出資の払戻しに該当することは明らかである。
(イ)本件各金員の返還義務について
被告の主張は,受給者に利得があってもそれが支給者に返還されれば,課税の根拠がなくなるという一般論を述べているものと思われる。本件匿名組合契約において,営業者は,計算期間の分配損益に相当する金額と営業者口座の残高のいずれか低い方の金額から,
本匿名組合員
に対して利益又は出資金の一部返還として,
営業者がその裁量で必要で
ある金額及び上位債務の支払への充当等に備えて算定した金額を留保した残額を現金で支払うものとしている(同契約11条1項)。すなわち,本件匿名組合契約は,本件匿名組合の財産の範囲で営業者の裁量で出資金の一部返還ができるとされているのである。したがって,本件各金員の支払が客観的に「利益の分配」の実質を備えていなかった場合には,
本件各金員の支払をした営業者及びこれを収受した本件匿名組合員の意思を合理的に解釈し,本件各金員は「出資金の一部返還」であったと考えるべきであるから,本件各金員の支払には法律上の原因があり,本件匿名組合員は,本件各金員につき,不当利得返還義務は負わない。また,仮に本件各支払が本件匿名組合の内部手続に違反するものであ
り,それが故に法律上の原因を欠くことになったとしても,当該「利益の分配」により匿名組合員が金員を収受すると,他方で本件匿名組合の財産が当該支給額相当分だけ減少する関係にあるから,匿名組合員は,当然に,
将来の契約終了時の出資金返還請求権が同額だけ毀損するとい
う損失を被ることになり,本件各支払は,将来の契約終了時に払戻しされるべき出資金が前払いされたにすぎないから,
本件各支払によって匿
名組合員に利得は生じない。
いずれにせよ,
本件匿名組合員が破産会社に対して本件各金員の返還
義務を負うわけではないから,
本件各金員が破産会社に対して返還され
たかどうかは,本件各金員が所得税法210条等の「利益の分配」に当たるか否かの議論とは全く関係がない。
ウ営業者及び組合員の認識について
被告は,①破産会社の業務執行社員であるaが,本件各金員につき,その支払時において,利益の分配に仮装して出資の払戻しを行う意思を有していたとは認められず,むしろ,本件各支払について「利益の分配」であると認識していたこと,②営業者である破産会社において,円滑かつ適正な営業活動への復帰を目指していたことからすれば,本件各支払につき,利益をあげようとすることなく利益の分配に仮装して出資の払戻しを行うといった確定的な意思があったとまでは認められないこと,③本件匿名組合員も,本件各金員を匿名組合契約に基づく利益の分配として支払われたものであると認識していたこと等の主観から,本件各金員がなお「利益の分配」の性質を失わないと主張している。
しかしながら,上記イ(ア)のとおり,匿名組合の利益(財産の増加)の有無は,公正な会計慣行に従って客観的に判断されるべきであり,営業者や匿名組合員の認識が「利益の分配」であるか否かの判断を左右することはあり得ない。被告が主張するように実質を無視して形式や主観により課税されることになるとすれば,同様の状況にあるものが課税上,異なった取扱いを受けることになってしまい,到底,負担の公平を図ることはできない。エ出資元本相当額の支払を受けた者等の存在について
被告は,本件匿名組合員の中には,本件各金員の合計額がその出資額を超える匿名組合員や,本件各金員に加えて中途解約時にその出資額相当額の払戻しを受けた匿名組合員が存在するにもかかわらず,本件各出資額を超えた部分について返還がされていないとして,本件各金員が出資の払戻しとして取り扱われていないと主張する。
たしかに,本件各金員の支払を続けた結果,その総額が出資額を超えた匿名組合員が存在し,また,中途解約したことにより出資の払戻しとして出資額相当額の支払を受けた結果,出資額を超えて支払を受けた匿名組合員も存在しており,これらの出資額を超えた部分については破産会社は,当該各匿名組合員に対して法律上の原因なく支払ったものであるから,原告は,原則として,当該匿名組合員に対して不当利得返還請求権を有することになる。
もっとも,破産管財人は,総債権者の利益のために業務を行うものであるから,不当利得返還請求権の行使の是非,行使する場合の時期及び方法等は,当該行使が破産財団の増殖にどれだけ貢献するかという観点から,破産裁判所の監督の下,破産管財人が決めるべきものである。破産会社の破産手続が係属中である中で,上記の観点から現段階において,同社の破産管財人である原告が訴訟上の不当利得返還請求を行っていないことと,本件各金員の取扱いは何ら関係がないから,被告がこれを理由に本件匿名組合の
「利益の分配」
の有無を論じること自体が失当である。
なお,
仮に,
破産管財人である原告が,不当利得返還請求債権の全額を回収できなかったとしても,これらは出資の過大払戻しにすぎないから,かかる支払を受けて経済的利益を受けた者が所得税法210条等の「利益の分配」以外の所得に対する課税を受けることは格別,本件各支払が所得税法210条等の「利益の分配」に該当するか否かは,何ら関係がない。
オ最高裁昭和35年判決について
被告は,最高裁昭和35年判決を引用し,本件各支払が実際には本件匿名組合に利益が生じていない中で行われたものであったとしても,所得税法は利益の分配を受けたものとして所得を構成すると主張している。しかしながら,被告の上記主張は,最高裁昭和35年判決の趣旨を誤解したものである。理由は次のとおりである。
(ア)最高裁昭和35年判決は,会社法施行以前の旧商法(平成17年法律第87号による改正前の商法。以下同じ。)下において,いわゆる株主相互金融会社における株主優待金が所得税法上の利益配当に当たるか否かが争われた事案であり,
蛸配当が所得税法上の利益配当に該当する
か否かが正面から争われたものではないが,
所得税法上の利益配当は旧
商法の株式会社の利益配当概念と同一と解した上で,
かかる利益配当に
は商法の見地からすれば不適当とされるもの(蛸配当等)も含まれるとしたが,株主優待金は当該利益配当と同一性質のものではないとして,所得税法上の利益配当に当たらないと判示した。
株式会社において蛸配当が行われた場合,
配当を受領した株主は返還
義務を負い(旧商法下では民法704条,会社法462条1項),会社債権者は当該株主に対して違法配当に相当する金員を支払わせることができる(旧商法290条2項,会社法463条2項)。これは,株式会社において株主は,旧商法下の減資手続(会社法下では配当規制のある自己株式の取得手続)
を経なければ株式の払戻しを受けることはでき
ない上,蛸配当は,株主よりも優先的に弁済を受けられるはずの会社債権者の犠牲の下で株主が利益を得るものであるからであり,株主は,蛸配当による配当金を受領する正当な権利がなく,
これを受領している限
り,利得が残っているから,株式会社が蛸配当に基づく過誤納源泉所得税の還付を受けるためには,株主から現実に配当金の返金を受けて,株主が受けた経済的利益(配当所得)を消滅させる必要がある(所得税基本通達181~223共-6(2)参照)。
このように,株式会社において,受領した蛸配当による配当金の法的性質は
「果実」
にほかならず,
「違法所得も所得」
と解する所得税法上,
まさしく「所得」に該当する。最高裁昭和35年判決の最高裁判例解説においても「税法の見地からは,その取引行為が,商法その他の法律の見地から適法であることは必要でなく,
その取引行為が当事者間に一応
有効なものとして成立し,現実に所得を生じ,それが担税力の表現として課税標準としてとらえるに適するものであれば十分である」
とされて
おり(甲9),株主が蛸配当等によって現実に担税力のある「果実」を取得していることが,違法配当も配当所得と解する根拠とされている。(イ)これに対し,匿名組合契約は,営業者と匿名組合員との間の契約にすぎない上,
株式会社のような資本充実の要請や配当可能利益の概念はな
いから,営業者が任意に出資の払戻しを行い,出資者がこれを受領することは何ら禁止されていない。本件各支払が「果実」である「匿名組合契約に基づく利益の分配」ではなく,出資の払戻しであることは上記のとおりであり,匿名組合において,本件各支払が「出資の払戻し」であることを否定し,「果実」と認めるに足りる法的根拠は一切ないのであり,「果実」の性質を有する株式会社の蛸配当とは,法的性質が全く異なるのであり,最高裁昭和35年判決は,本件告知処分1及び2を正当化する理由にはなり得ない。
第3当裁判所の判断1争点について
(1)所得税法210条等の「匿名組合契約に基づく利益の分配」の意義ア匿名組合契約とは,当事者の一方が相手方の営業のために出資をし,その営業から生ずる利益を分配することを約することによって,その効力を生ずるものであり(商法535条),匿名組合員は,利益の分配を受ける権利を持つが,出資が損失によって減少したときは,その損失をてん補した後でなければ,利益の配当を請求することができないとされている(同法538条)。
イ所得税法は,「匿名組合契約に基づく利益の分配」(同法210条等)につき源泉徴収義務があるものと定めているところ,上記の「匿名組合契約」及び「利益の分配」は,それぞれ商法が定める匿名組合契約及び同契約に基づく利益の分配と同義に解され,「利益」には,出資の払戻しとして支払を受けるものは含まれないと解される(所得税基本通達36・37共-21,同(注)1同旨)。
ウ税法の見地においては,課税の原因となった行為が,厳密な法令の解釈適用の見地から客観的評価において不適法・無効とされるかどうかは問題ではなく,課税の原因となった行為が関係当事者間において有効なものとして取り扱われ,これにより,現実に課税の要件事実が満たされると認められる場合である限り,当該行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは妨げられないものと解される(最高裁昭和33年(オ)第311号同38年10月29日第三小法廷判決・集民68号529頁)。
この理は,課税の原因となった契約に基づく行為が,客観的評価においては当該契約上の権利義務と一致しないものであった場合であっても同様であるというべきであり,本件についていえば,匿名組合契約に基づく利益の分配としてされた支払行為が,客観的評価においては,営業者における損益計算等に誤りがあるため当事者間で成立した契約上の権利義務と一致しないものであったとしても,営業者が匿名組合員に対して出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し,匿名組合員においても利益の分配として当該金銭を受領したものと取り扱われているのであれば,後に上記の損益計算等の誤りの存在が確認され,匿名組合契約の当事者間において当該支払行為は利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,それに沿った清算処理等が行われるなどして,課税要件事実の不充足が明らかになったなどの特段の事情がない限り,当該匿名組合契約に基づく「利益の分配」という課税要件事実の充足があったものとして課税することができると解することが相当である。
(2)認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア本件各支払と源泉所得税の納付等
(ア)破産会社は,平成22年3月頃以降,本件匿名組合員約50名との間で,本件匿名組合契約を順次締結し,本件匿名組合員は,それぞれ出資した(乙1,12の1,12の2,16)。
(イ)破産会社は,平成22年4月以降,本件匿名組合員に対し,別表1及び2の「支払金額」欄記載の額(本件匿名組合員の各出資口数につき,出資1口(100万円)当たり5万円(出資金の5%相当額)とした合計額)のとおり本件各支払を行った(前提事実(2)ウ,甲2,乙17)。(ウ)破産会社は,本件各支払の際,本件匿名組合員に対し,下記①及び②のようなメールを送信するとともに,
下記③のような記載がされている
利益分配の支払調書を発行していた(乙6,8の1,8の2,14)。①(件名)【UNIKE】YNKファンド配当分配のお知らせYNKファンド配当分配の報告及び振込日をご報告致します。2011年12月分(2011年12月12日~2012年1月1
3日
基準日:2011年12月12日(月)
支払年月日:2012年1月25日(水)
出資1口当たりの分配金額:4万円(税引き後)
②(件名)【UNIKE】分配金振込実行のお知らせ【YNKファンド】2011年12月分(2011年12月12日~2012年1月13日)
分配金を指定口座に振り込み実行致しましたので,
ご確認頂きます
様宜しくお願い致します。
振込人名:ゴ)ユニーク
振込金額:マイページから『支払調書』をご確認下さい。
③(書面の題名)2010年03月分分配金及び出資金通知書・利益分配の支払調書
出資1口
配当総額5万円,源泉徴収額1万円
支払い額4万円,出資1口当たりの分配金額4万円
(エ)破産会社は,平成22年2月12日から平成23年1月31日までの事業年度及び同年2月1日から平成24年1月31日までの事業年度の決算報告書において,損益計算書上,投資収益が上がっている旨の記載をしていた(甲24,25,乙12の1,2)。
(オ)本件匿名組合員の中には,受領した本件各支払に係る金員の合計額が,出資した金額を上回る者が5名存在した。また,本件匿名組合員の中には,本件匿名契約を解除した者が7名いるところ,それらの者に対しては,
本件各支払に係る金員を差し引くことなく出資金が返還された。
(乙
16,17,弁論の全趣旨[被告準備書面(2)別表5及び6])(カ)破産会社は,本件各支払に関し,別表1の「納付すべき税額」欄記載の金額(合計1億1241万円)を納付した(前提事実(2)エ)。他方,本件各支払を受けた本件匿名組合員は,確定申告において,本件各支払の額を所得の金額に含め,
その源泉所得税額を控除して納付税額を算出
していた(乙9,10,弁論の全趣旨)。
イ破産会社の事業の破綻等
(ア)破産会社は,平成24年4月以降,本件匿名組合員に対する現金の分配をしなかった(別表1及び2)。
(イ)破産会社は,関東財務局長から,平成24年7月27日付けで,金融商品取引法63条7項に基づく報告を求められたところ
(乙19の1)

破産会社が同年8月19日付けで提出した資料(乙19の2)では,平成23年1月ないし3月頃までは元本毀損が生じていない損益状況であったとされていた。
(ウ)破産会社の代表社員であるaは,本件匿名組合員に対し,本件匿名組合に関する平成24年8月28日付け
「YNKファンド匿名組合の終了
に関するご報告」(乙11)と題する書面を送付した。この書面には,本件匿名組合は,開始当初は順調に運用が進んでおり,分配金の支払が可能であったが,平成23年1月から同年2月にかけて,最初の元本毀損が起こり,さらに同年3月の東日本大震災の影響により,大きく元本毀損が起こり,
その後の運用によりさらに損失を拡大させた旨などが記
載されていた。
また,破産会社の代表社員であるaは,本件匿名組合員に対し,本件匿名組合に関する平成24年8月28日付け
「源泉税納付に関して」
(乙
15)と題する書面を送付した。この書面には,平成23年2月25日以降は分配金を支払うことができる状態にはなかったことが判明したため,同日以降に破産会社から支払った金員は,実質的に出資金の返還であると考えられる旨などが記載されていた。(乙15)(エ)破産会社及びaは,平成24年12月5日,当庁において破産手続開始決定を受け,原告が破産会社及びaの破産管財人に選任された(前提事実(2)カ)。
(オ)本件匿名組合員は,破産会社の破産手続において,出資金全額の返還請求権を破産債権として届け出た(乙20,弁論の全趣旨)。
(カ)原告は,破産会社の取引記録を調査し,匿名組合契約書に基づく損益計算方法によれば営業者は利益分配は行うことができないにもかかわらず,
存在しない利益分配につき出資の返還と認識しながら金銭の分配
を行い,
出資の返還であることの発覚を遅らせるために源泉所得税を徴
収することにより利益分配と仮装していたにすぎないと判断し(乙13),平成25年8月7日,渋谷税務署長に対し,破産会社が納付した源泉所得税額の還付を請求したところ,
同月26日,
その請求額全額
(1
億1241万円)につき還付を受けた(乙5,弁論の全趣旨)。
なお,上記の請求において,原告は,別表3と同旨のもの及びその根拠資料一式を提出しており,破産会社においては,本件匿名組合員から出資を受けた金員を,①トレイダーズ証券におけるFX取引(破産会社名義),②トレイダーズ証券におけるFX取引(a名義),③トレイダーズ証券における先物取引(a名義),④ひまわり証券における日経225先物取引(a名義),⑤カブドットコム証券における日経225先物取引及び日経225オプション取引(a名義)の5口座において運用していたものと認め,その投資運用状況を分析し,破産会社においては第1回計算期間から投資による損失が継続して出ており,
累積した損失
が出資金の額まで回復したことは一度もなかったと判断していた。(乙
1・4丁(5),弁論の全趣旨)
(キ)その後,東京国税局は,上記の還付には理由がなかったと判断し,渋谷税務署長は,破産会社に対し,平成26年10月1日付けで,本件各処分をした(前提事実(2)ク)。
(3)検討
ア上記認定事実によれば,①破産会社は,本件各支払に際し,本件匿名組合員に対し,
「配当分配のお知らせ」
などの題名のメールを送信し,
また,
「利益分配の支払調書」を交付していたが,これらの文書の内容は,本件各支払が出資金1口(100万円)当たり5万円の利益を分配するものであって,そこから分配額の20%(1万円)を源泉所得税として差し引いた後の4万円を支払うものであることを前提とする記載となっており,これらの文書の記載からは,本件各支払の一部又は全部が出資の払戻しであることを読み取ることはできないこと,②破産会社は,本件各支払を利益の分配に係るものとして取り扱い,本件各支払に係る金額を基準として源泉所得税額を算定して納付していたこと,③他方,本件匿名組合員は,確定申告に際し,本件各支払に係る金額を所得の金額に含め,その源泉所得税額を控除して納付税額を算出していたこと,④本件匿名組合員の中には,本件各支払により受けた金員の総額が出資した金額を超えている者がおり,また,契約を解除した際,本件各支払に係る金員を差し引くことなく出資金の返還を受けた者がいること,⑤本件匿名組合員は,破産会社の破産手続において,出資金全額の返還請求権を破産債権として届け出たことが認められる。
他方,
上記認定事実及び証拠
(甲13の1~19の4の2,
26~30,
乙13,14)によれば,破産会社は,本件匿名組合員から出資を受けた金員を実際に投資し運用しており,その損益の状況は概ね別表3のとおりであることがうかがわれる(ただし,a個人名義の取引口座における損益全てが本件匿名組合に帰属するものといえるか否かは必ずしも明らかではないことは原告も認めている。ところ,

その営業を全体としてみると,平成22年5月の計算期間(営業開始後2回目の計算期間)に多額の損失が生じた後,利益を生じた計算期間もあったが,それをもって損失累計額を解消するという事態は生じなかったことがうかがわれ,それにもかかわらず,破産会社は,上記①及び②のような取扱いを行い,また,各事業年度の営業に関する損益計算において利益が生じた旨の粉飾決算をしていたことが認められる。
もっとも,上記認定事実によれば,破産会社における上記の損益の状況と粉飾決算が判明したのは,原告が破産管財人に選任されて調査を行ったことを契機とするものであるところ,本件証拠によっても,現時点に至るまで,本件匿名組合契約の当事者間において,本件各支払行為は利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,それに沿った清算処理等(上記④の点をも踏まえたもの)が行われたとの事情はうかがわれない。
これらの事実を総合勘案するに,本件匿名組合契約に基づく本件各支払は,営業者が匿名組合員に対して出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し,匿名組合員においても利益の分配として当該金銭を受領したものと取り扱われていたことが明らかであるから,仮に,本件各支払の全てが営業者による粉飾された損益計算に基づくものであり,客観的評価においては,本件匿名組合契約上,匿名組合員に対して利益の分配として行うことはできないものであったとしても,現時点に至るまで,本件匿名組合契約の当事者間において本件各支払行為は利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,それに沿った清算処理等が行われるなどして,課税要件事実の不充足が明らかになったとの事情があるとまではいえない以上,本件各支払は,「匿名組合契約に基づく利益の分配」という課税要件事実を充足するものというべきである。イ原告の主張について
原告は,①実質課税の原則によれば,本件各支払の性質は実質的に判断されるべきであるところ,本件各支払の実態は出資の払戻しであると解すべきであること(原告の主張(1)ウ),②匿名組合の利益(財産の増加)は,公正な会計慣行に従って客観的に判断されるべきものであること(同(2)イ(ア)),③株式会社における蛸配当とは異なり,本件匿名組合契約において,本件匿名組合員は本件各金員につき不当利得返還義務を負わず,経済的利益(果実)を取得していないこと(同(2)イ(イ),オ(イ)),④仮に本件各支払を「匿名組合契約に基づく利益の分配」に該当するものと解する場合には,被告国は,破産会社の仮装経理により,本件匿名組合員の出資の払戻し額の減少という犠牲のもとに利得をすることとなり,不当な結論を生じること(同(1)エ)を主張する。
(ア)上記①ないし③の点について所得税法12条は,実質所得者課税の原則を定め,同条は税法上の原則である実質主義の一側面を宣明したものと解されるところ,
実質課税
の原則とは,課税要件事実の認定の場面において,その認定に必要な事実関係や法律関係の外観や形式よりも実体や実質(経済的実質)に着目して判断すべきであるとの考え方である。ただし,このことは,真実に存在する法律関係に即して要件事実の認定がされるべきことを意味するに止まり,そこから離れて,その経済的成果なり目的に即して課税要件事実の存否を判断することを許容するものではないと解される(甲7)。
他方,上記の考え方に関連したものとして,税法の見地からは,取引行為が法律的に見て適法であることは必要ではなく,
取引行為が当事者
間に一応有効なものとして成立し,現実に所得を生じ,それが担税力の表現として課税標準として捉えるのに適するものであれば,
課税要件事実を満たすとの考え方も存在しており
(この考え方に基礎を置くと考え
られるものとして,最高裁昭和35年判決や,上記(1)に挙げた最高裁判決のほか,利息制限法による制限利率を超過する利息・損害金が現実に支払われた場合の所得について判示した最高裁昭和43年(行ツ)第25号同46年11月9日第三小法廷判決・民集25巻8号1120頁参照),上記のような場面においては,差し当たり,当事者間で一応有効なものとして成立した取引行為の外観をもって課税要件事実の存在を認定できるのであれば課税することができるとされる点で,
外観や形
式が重視される一方,
外観上は実現されたようにみえる経済的成果につ
いて,
経済的な実質から見て真にそれを収受した者における所得とすべ
きものかどうか(また,その所得の種別をどのように判定すべきか)の吟味を経なければ課税できないものではないものと考えられる。
このよ
うに,実質課税の原則は,課税要件事実の認定に当たり,常に私法上の契約等に基づいて行われる取引行為の外観よりも経済的実質を優先すべきことを要請するものとまではいえない。そして,本件においては,上記アで判示したとおり,本件匿名組合契約に基づく本件各支払は,営業者が匿名組合員に対して出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し,
匿名組合員においても利益の分配として当該金銭を受領し
たものと取り扱われていたことが明らかであり,
これを担税力の表現と
して課税標準として捉えることができる一応の外観を有しているのであって,その状況の下において,これを実質課税の原則の観点から修正し,課税要件事実の認定に際し,本件匿名組合契約の内容と公正な会計慣行に従って客観的に判断された利益の有無を吟味した上で課税の当否を決定しなければならないとまではいえない。したがって,原告の上記①及び②の主張は採用することができない。また,上記アで判示したとおり,現時点に至るまで,本件匿名組合契約の当事者間において本件各支払行為を利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,
それに沿
った清算処理等が行われたなどの事情はうかがわれず,
本件匿名組合員
は,
依然として利益の分配としての経済的成果を得ているという外観を維持しているという状況にある。したがって,原告の上記③の主張も採用することができない。なお,本件匿名組合契約11条1項は,現金の分配として,利益又は出資金の一部返還ができることを定めているが,同項によっても,分配される金額の上限は,「当該計算期間の分配損益に相当する金額」である(この金額は,同契約10条2項及び4項に従って計算されるものと解される。)から,それがマイナスとなっている場合には,
利益としてであろうと,
出資金の一部返還としてであろうと,
現金の分配を行うことはできない。そうすると,原告が主張するように最初の計算期間から損失が生じ,
累積損失が解消されることはなかった
としても,本件匿名組合員は,同項との関係において,本来は支払を受けることができなかった現金を取得していることとなる
(同項の適用上,
本件各支払が出資の一部返還であったとみることはできない。)のであるから,この観点からみても,経済的な利益を収受していないとはいえない。
(イ)上記④の点について
上記認定事実によれば,本件匿名組合員が,利益の分配としての経済的成果を得ているという外観を呈していることの直接の原因となったのは,破産会社が粉飾決算をしたことによるものであり,本件匿名組合員の多くは,
破産会社が粉飾決算をしなければ負担することはなかった
はずの所得税の負担をしている可能性があるが,他方において,現時点に至るまで,
本件匿名組合契約の当事者間において本件各支払行為は利
益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ,それに沿った清算処理等が行われるなどして,課税要件事実の不充足が明らかになったということもできない。
そうすると,
現時点において,本件各支払が「匿名組合契約に基づく分配」に該当するものとされることは,必ずしも不当なものとはいえない。原告の上記④の主張は採用することができない。
2本件各処分の適法性及び納税義務
以上によれば,本件各支払は「匿名組合契約に基づく利益の分配」(所得税法210条等)に該当し,破産会社は,匿名組合員に対して本件各支払をするに当たり,別表1及び2の「支払金額」欄記載の金額に100分の20の税率を乗じて計算した所得税額を徴収し,「法定納期限」欄記載の日までにこれを国に納付する義務がある。したがって,破産会社は,別表1及び2の「納付すべき税額」欄記載の金額を納付する義務があり,これと同額の納税の告知をした本件告知処分1及び2は適法である。
また,本件告知処分2については,破産会社は,別表2の「法定納期限」欄記載の日までに,同処分に係る金額を納付していない。したがって,破産会社は,不納付加算税として,同表の「不納付加算税の額」欄記載の金額を納付すべき義務を負うので,これと同額の不納付加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。
3結論
よって,原告の本件各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

谷口


裁判官

馬場潤
裁判官

徳井

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