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特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10001
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日平成29年6月28日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)25149
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平成29年6月28日判決言渡
平成29年(ネ)第10001号
(原審

特許権侵害差止請求控訴事件

東京地方裁判所平成27年(ワ)第25149号)

口頭弁論終結の日

平成29年4月24日
判控訴人決
渡邊機開工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

塩見渉同塩見明
同訴訟代理人弁理士

涌井被
フルタ電機株式会社

控訴人
同訴訟代理人弁護士

小南主謙明一也文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

第2
1
事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
本件は,その名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする発明(請求項の数5。その請求項1,3及び4記載の各発明が「本件発明1」,「本件発明3」及び「本件発明4」であり,これらを併
せたものが「本件各発明」である。)についての特許権を有する被控訴人が,①控訴人による原判決別紙物件目録1及び2記載の生海苔異物除去機(本件装置(LS型)及び本件新装置)の製造・販売につき,本件装置(LS型)は本件各発明の,本件新装置は本件発明3の技術的範囲にそれぞれ属し,また,②本件新装置の部品である原判決別紙物件目録3記載の回転円板(本件回転円板)は本件新装置の「生産にのみ用いる物」(特許法(以下「法」という。)101条1号)に当たるとして,控訴人に対し,法100条1項及び2項に基づき,本件装置(LS型),本件新装置及び本件回転円板の生産,譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案である。
原判決は,被控訴人の請求を全部認容したことから,控訴人は,これを不服として控訴した。
2
前提事実
前提事実は,原判決4頁20行目から同5頁8行目までを下記のとおり改め,同5頁12行目,14行目,16行目,同6頁6行目,8行目,12行目,14行目,18行目の各「当庁」をいずれも「東京地方裁判所」に改めるほかは,原判決「事実及び理由」「第2

事案の概要」「2

前提事実」(原判決2頁

18行目~7頁7行目)記載のとおりであるから,これを引用する。「(5)

本件特許権の審査経過
本件特許は,その出願当初,請求項の数が7であり,うち請求項1には
『生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,/前記回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段を,前記異物分離除去槽に設けた生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。』と(なお,「/」は改行を意味する。以下同じ。),請求項2には『上記の防止手段を,回転板の円周端面と,選別ケーシングの円周端面とで形成した寸法差部に設ける構成とした
請求項1に記載の生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。』と,それぞれ記載されていた。また,その請求項5(特許査定後の請求項3であり,本件発明3に相当する。)には,出願当初,「突起・板体等の突起物」との記載があった。
これに対し,特許庁は,①先願(実願平10-003304号。以下「本件先願」という。)の明細書には,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,クリアランスの目詰まりを防止する凹部を,前記異物分離除去槽に設けた生海苔異物分離除去装置が記載されているところ,当該クリアランスの目詰まりを防止する凹部は,共回りをしている生海苔をも通過させることができることから,前記回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段であるといってよく,上記請求項1及び2に係る発明は,本件先願の明細書に記載された発明と同一であること,②上記請求項5に記載されている『突起・板体等の突起物』の『等』は,突起・板体以外に何を包含しているのか不明であるから,上記請求項5に係る発明は不明確であることを理由として,本件特許に係る出願を拒絶すべきものとし,その旨被控訴人に通知した。そこで,被控訴人は,上記①に対しては上記請求項1及び2をいずれも削除し,上記②に対しては上記請求項5に係る『突起・板体等の突起物』を『突起・板体の突起物』として明確にするなどの補正等をした。また,これに合わせて,「異物分離除去装置において,選別ケーシング又は回転板に生海苔の共回りを防止する防止手段を設けた場合と,…この防止手段を設けない場合の写真」及び「回転板にこの防止手段を設けた場合と,この防止手段を設けない場合を記録したビデオ」を提出した。なお,当該写真及びビデオでは,板状の突起物がクリアランスに突出している状態が「選別ケーシング又は回転板に生海苔の共回りを防止する防止手段を設けた場合」として示さ
れている。
これを受け,特許庁は,本件特許に係る特許査定をした。(乙2~6,17,18)」
3
争点及び争点に対する当事者の主張
本件における争点及び争点に対する当事者の主張は,以下のとおり付加するとともに,後記4のとおり当審における補充ないし追加主張を付加するほかは,原判決「第2
及び「第3

事案の概要」の「3

争点」(原判決7頁8行目~17行目)

争点に関する当事者の主張」(原判決7頁18行目~13頁10

行目)に各記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決10頁24行目の末尾に,改行の上,以下のとおり加える。
「さらに,突部Dは,回転円板3の表面3bで,かつ外周側に形成されているから,構成要件B’2『この突起物を回転板…の円周面に設ける構成とした』に該当する。」
(2)

原判決12頁19行目の末尾に,改行の上,以下のとおり加える。
「他方,本件新装置の回転円板3,固定リングはいずれも『突起・板体の突起物』を備えていない。また,本件新装置は,回転板が固定リングの内側に位置する,いわゆる『内嵌め』されている構造であって,内嵌めされている回転板の上側の円周面に凹部が形成されているものでしかない。
このため,本件新装置は,構成要件B’2『この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした』に該当しない。」4
当審における補充ないし追加主張
(1)

争点(1)(控訴人による本件装置(LS型)の製造・販売の有無)につい

[控訴人の主張]

原判決は,控訴人が平成26年11月以降も本件装置(WK型)の型名を変更しただけの装置(本件装置(LS型))を製造・販売し続けてい
ると認定した根拠として,控訴人の平成27年2月13日付けパンフレット等の写真が,型番を削り取った点を除き従前の本件装置(WK型)のパンフレットの写真と同一であることや,本件検証調書添付の写真等に言及する。
イ(ア)

しかし,本件各発明の技術的範囲にかかわる箇所は,生海苔異物分
離除去装置の環状固定板とそこに付設された板状部材のみであり,それ以外の箇所は本件各発明と全く関係しない。また,本件装置(WK型)のパンフレットの写真は本件各発明とは全く無関係の外観写真であるし,LS型装置の外観は本件装置(WK型)と同一であるから,型番を削り取った点を除き,LS型装置のパンフレットに本件装置(WK型)の外観写真をそのまま利用することは自然なことであり,原判決の指摘は当たらない。そうである以上,当該パンフレットは,「LS-R」型装置及び「LS-L」型装置が本件装置(WK型)の型名のみを変更し製造販売したことの証拠にはならない。
(イ)

白石海苔が平成27年2月26日に鶴商に対して販売納入した装置
は「WK-550」型であって,「LS-S」型ではない。白石海苔作成の請求書(甲17の2添付請求書9丁)の記載は誤りである。また,この「WK-550」型装置は,平成26年10月27日に控訴人から白石海苔に対し「WK-550」型装置として販売され,白石海苔が平成27年2月26日に鶴商に販売したものであるが,これは,鶴商が控訴人に対し新しい異物除去機の購入を申し入れたが断られたため白石海苔から購入したという経過によるものであって,白石海苔による鶴商への販売である。
(ウ)

本件検証調書の記載内容は,不自然,不合理であって,信用するに
足るものではない。すなわち,本件検証調書の「機械3」の写真③~⑤には固定リングに装着された板状部材が写っているにもかかわらず,
白石海苔代表者の説明においては板状部材の装着につき一切記載されておらず,「第5

検証の結果」にもその旨の記載はないことなどに

鑑みると,「機械3」は板状部材を装着していないことが検証の結果である。このため,「機械3」に係る本件検証調書の記載は信用し得ない。

これらの点等から,控訴人による本件装置(LS型)の製造・販売を認定した原判決の判断は誤りである。

[被控訴人の主張]

原判決の認定・判断に誤りはなく,控訴人が原判決の誤りとして指摘する点は,いずれも失当である。


本件装置(WK型)の外観写真の利用については,仮に,別製品を新発売したのであれば,そのような紛らわしいことはせず,むしろ別製品であることを明確化して販売するのが,経験則に照らし合理的である。現に,控訴人は,平成28年1月以降に本件新装置のパンフレットを配布したが,そこでは,構成の相違する部分を写真で明示した上で,従来製品との相違点をセールスポイントとして強調している。
しかるに,本件においては,変更点を全く明示しないまま,従来のパンフレットと同じ写真を用い,製品名のみを変更していることから,別製品であることを明確にできない何らかの事情があるのではないかとの疑いを生じるのは当然である。

(2)

争点(2)ア(本件新装置の構成)について

[控訴人の主張]

原判決は,本件新装置につき,突部Dを6個有する回転円板を備えたものを控訴人が製造・販売した旨認定した根拠として,本件検証調書添付の写真に言及する。


しかし,本件検証調書において突部Dを6個有する回転円板を備えたも
のは「機械4」であるところ,これは,控訴人が白石海苔に販売した「WK-550」型装置に,白石海苔が,平成27年5月15日の展示会へ出品するため,従前の回転円板及び固定リングに替えて,凹部6か所の回転円板及び固定リングを設置し,「LS-S型」というシールを貼付したものである。当該回転円板は,控訴人にとっては試作品であり,展示会に出品するという白石海苔に貸与したものにすぎない。

これらの点等から,突部Dを6個有する回転円板を備えた本件新装置の製造・販売を認定した原判決の判断は誤りである。

[被控訴人の主張]
原判決の認定・判断に誤りはなく,控訴人が原判決の誤りとして指摘する点は失当である。
(3)

争点(2)ウ(構成要件B'1及びB’2の充足性)について

[控訴人の主張]

原判決の判断の誤り
(ア)

原判決は,本件特許権の審査経過を十分考慮することなく,本件新
装置の突部Dにつき構成要件B'1の「突起・板体の突起物」における「突起」又は「突起物」に該当する旨判示する。
(イ)

しかし,本件特許権の審査経過(本判決上記2)に鑑みれば,本件
発明3の共回り防止手段である「突起・板体の突起物」については,凹部(凹部形成の必然的結果である凸部も含む。)は意識的に排除され,凹凸により形成されるものを除く「突起・板体の突起物」に限定されたものであることが明らかである。そして,本件特許権の審査の際に提出された写真等以外に本件発明3の実施例らしきものは具体的に開示されていないことから,その技術的範囲は当該実施例を参考に検討せざるを得ない。
また,少なくとも凹部を形成したことにより必然的に出現する凸部に
は「突起」又は「突起物」に当たらず,凸部の形成手段としての凹部形成は認められない。
仮に,本件発明3の「突部・板体の突起物」に凹凸が含まれると解した場合も,凹部Eは目詰まりを解消する機能を果たすものの「突起・板体の突起物」に当たらず,また,凹部Eの形成によりその凹部の間に必然的に出現する凸部(突部D)は,その機能を果たさないため「突起・板体の突起物」に当たらない。クリアランスの目詰まりをなくす機能は,凹部Eが形成されている箇所の凹部の深さに該当する領域並びに凹部Eを構成するエッジx及び上部境界線yによるものである。
(ウ)

したがって,この点に関する原判決の判断には誤りがある。

イ「回転板…の円周面」の意義(当審における追加主張)について本件発明3の構成要件B’2「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成」における「回転板の円周面」の意義については,構成要件上「選別ケーシング」と「回転板」の位置関係が明記されていないので,本件訂正明細書等の記載を参酌すると,回転板の径サイズが選別ケーシングの径サイズより大きく,回転板が選別ケーシングの上側から選別ケーシングに対して覆いかぶさるようにして配置され,回転板の下側の円周面と選別ケーシングの円周面の上側との間に水平方向に伸びるクリアランスが形成されている場合における,回転板の下側の円周面のことであると解釈するのが相当である。
したがって,本件発明3の構成要件B'2「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成」とは,回転板の径サイズが選別ケーシングの径サイズより大きく,回転板が選別ケーシングの上側から選別ケーシングに対して覆いかぶさるようにして配置され,回転板の下側の円周面と選別ケーシングの円周面の上側との間に水平方向に伸びるクリアランスが形成されている場合に,回転板の下側の円周面に突
起物を設ける構成であると解釈すべきである。
これに対し,本件新装置は,回転板が固定リングの内側に配置されている「内嵌め」構造のものであり,内嵌めされている回転板の上側の円周面に凹部が形成されているものでしかない。
したがって,本件新装置は,本件発明3の構成要件B’2「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」を充足しておらず,本件発明3の技術的範囲に属しない。
[被控訴人の主張]

原判決の判断に誤りはなく,控訴人が原判決の判断の誤りとして指摘する点は,いずれも失当である。
(ア)

本件発明3のクレームの記載は「突起・板体の突起物」であり,そ
の技術的範囲は当該記載に基づいて定められなければならないところ,クレームの記載にその形成手段を限定した記載はない。一般的用語としても,「凹凸により形成されるものを除く『突起・板体の突起物』」と解釈することは不可能である。本件訂正明細書等の「図6の例は,回転板34の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a…に切り溝,凹凸,ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ所,或いは全周に設ける。」(【0026】)との記載は,「突起・板体の突起物」の解釈として,「切り溝,凹凸,ローレット等からなる(による)『突起物』が含まれる場合もある」と解釈されるにすぎない。(イ)

本件特許の出願経過において,被控訴人は,「突起・板体の突起物」
に「防止手段としての凹部は含まれない。」などと主張したことはない。「突起・板体の突起物」に「凹部」が含まれないとしても,それは「突起」の語義からそのように解釈され得るということであって,「凹凸」における「凸部」が「突起・板体の突起物」に含まれる場合があることは当然である。

イ「回転板…の円周面」の意義に関する控訴人の追加主張は,本件発明3の構成要件に基づかない主張であり,失当である。
(4)

特許無効の抗弁(当審における追加主張)について

[控訴人の主張]

本件発明3は,以下のとおり,特許出願前公知の発明であり,又は当該発明及び特許出願前に公然実施された発明に基づき,出願前に当業者が容易に想到し得たものであって,法29条1項又は2項に違反して特許が認められたものとして特許無効審判(法123条1項2号)により無効にされるべきものと認められる。このため,その特許権者である被控訴人は,控訴人に対し,その権利を行使し得ない。


本件特許出願日より前に公知になっていた生海苔異物分離除去装置(ア)

被控訴人は,本件特許の出願前から,「ダストール」FD-380
S型,FD-380K型等として「生海苔異物分離除去装置」(以下「本件公知装置」という。)を販売のために展示し,また,販売していた。その構成は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,回転板,異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置であり,本件発明3と対比すると,一致点は以下のとおりである。
A1

生海苔排出口を有する選別ケーシング,

A2

(及び)回転板,

A4

(並びに)異物排出口

A5

をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合
液槽を有する生海苔異物分離除去装置

(イ)

他方,本件公知装置は,以下の構成を備えていない点で本件発明3
と相違する。
A3

この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止

手段,
B’

前記防止手段を,

B’1

突起・板体の突起物とし,

B’2

この突起物を,回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に

設ける構成とした
Cウ
生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。

特許出願前に公知となった技術
本件発明3に係る特許出願(平成10年6月12日)前に公知となった技術として,同年4月28日付け「ダストールの試験機,展示会機から新型への変更点」と題する文書(乙22の9。以下「本件文書」という。)には,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける

選別タン

ク内の海苔濃度を濃くできることにより良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」と記載されている(以下,この記載を「本件記載」という。また,本件記載に基づく技術を「本件記載技術」ということがある。)。このうち,「ダストールの試験機,展示会機」とは,本件公知装置である。
本件文書は,平成10年4月28日の被控訴人における会議の際に参加者に配布された書面であり,同会議に出席したA(以下「A」という。)は,同日,本件文書の内容を知得した。また,Aは,本件文書の内容について,被控訴人に対し,契約上も,社会通念上・商慣習上・信義則上も,守秘義務を負っていない。
このため,本件公知装置における「選別ケースの外周に共回り防止ゴムを付けるもの」が「新型」の生海苔異物分離除去装置であることが,平成10年4月28日に公然と知られることになったものである。エ
本件公知装置及び本件記載に基づく容易想到性
(ア)

選別ケースの上側に回転板が取り付けられ,選別ケーシング(選別
ケース)と回転板との間のクリアランス(隙間)を海水とともに通過した生海苔が選別ケーシングに配備されている生海苔排出口から良品として排出されていき,選別ケーシングと回転板との間のクリアランス(隙間)を通過できなかった異物が生海苔混合液槽の異物排出口から排出されていく構成は,本件公知装置を知る当業者にとって,本件特許の出願前である平成10年4月28日当時,自明の事項であった。また,回転板と選別ケーシングとの間に形成される隙間を介して海水と生海苔を通過させ,通過できない異物を分離する「生海苔異物分離除去装置」において,当該隙間に目詰まりが生じることがあることは,本件訂正明細書等にも記載のあるとおり,本件特許の出願当時,当業者に自明であった。
このため,本件記載の意義が,選別ケーシングと回転板との間に形成されるクリアランス(隙間)を通過して選別ケーシング内に入り,生海苔排出口から良品として排出されていく生海苔の量を増やす目的で,選別ケーシングと回転板との間でクリアランス(隙間)が形成される位置である「選別ケースの外周」に,選別ケーシングと回転板との間に形成されるクリアランス(隙間)に対して「突起物」となる「共回り防止ゴム」なる部材を「つける」ものであることを当業者が認識することに困難性はない。
そうすると,本件特許の出願当時に,本件記載に接した当業者において,本件公知装置につき,「選別ケースの外周」に相当する「選別ケーシングの円周面」に,選別ケーシングと回転板との間に形成されるクリアランス(隙間)に対して「突起物」となる「共回り防止ゴム」に相当する部材を取り付けることを発想することに困難性はない。また,「共回り防止ゴム」なる部材の名称と,選別ケーシングは固定され,回転板がこれに対して回転するという構成から,この「共回り防止ゴム」なる
部材が「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」に相当することを認識することや,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」という記載から,「選別ケースの外周」に相当する選別ケーシングの円周面に「共回り防止ゴムをつける」のに替えて,回転板の円周面又は回転板及び選別ケーシングの双方の円周面に「共回り防止ゴム」に相当する部材すなわち「突起物」を「つける」構成を発想することに困難性は無く,この「突起物」を「突起・板体の突起物」とすることにも困難性は無い。
(イ)

したがって,本件発明3は,本件記載をその内容とする本件文書が
公知となったことにより,本件特許の出願前に公知となり新規性を失ったものであり,又は,本件公知装置の存在を知っていた当業者が,本件記載(ないしその示唆)に接することで,その出願当時容易に想到し得たものである。
[被控訴人の主張]

信義則違反
控訴人が控訴審になって初めて無効主張をすることは,自らの無効審判についての態度及び原審段階における訴訟遂行態度に相反するものであり,信義則上許されない。


新規性ないし進歩性の欠如の主張について
(ア)

控訴人は,本件文書につき,平成10年4月28日にAが参加した
被控訴人の会議の際に配布された旨主張するけれども,これにより,本件文書の内容が本件特許の出願前に公然と知得されたとするのは論理に飛躍がある。また,本件文書によりAがどのような発明を知ったかについても,控訴人の主張においては,十分に特定されていない。(イ)

被控訴人が海苔生産現場で試験機を用いて試験を行ったことは事実
であるが,その試験機には,本件記載に見られる「共回り防止ゴム」
は付けていない。また,平成10年4月11日から同年6月6日までの間,被控訴人製品「FD-380」に,本件各発明を実施する「共回り防止手段」を設置していたわけでもない。
(ウ)

本件文書について
本件文書は,公衆に対し頒布して公開することを目的として作成されたものではない。


本件文書には,本件記載により「選別ケース」の「外周」に「共回り防止ゴム」を「つける」と記載されているが,「外周端面」に「取り付ける」とは記載されていない。また,「つける」と記載され,「つけた」とは記載されていないことから,将来の課題として検討中であることを記載しているにすぎない。


当時の「ダストール」の基本構成を前提としても,「共回り防止」といわれただけでは,「共回り」及び「共回り防止」の技術的意義は理解し得ない。
すなわち,本件特許の出願前後において,液体の攪拌等の技術分
野で一般的用語であった「共回り」とは,「円筒型の攪拌槽内で翼を回転させた場合,上下循環流が少なく,周方向の回転流が支配的である状態」を指す用語であり,同じく一般的用語であった「共回り防止」とは,攪拌槽の周壁にバッフル(邪魔板)等を設置することで,周方向の回転流を上下循環流に変換し,攪拌の効果を上げることを指す用語であった。他方,本件各発明における「共回り」及び「共回り防止」という用語は,本件訂正明細書等に記載のとおり,上記と異なる。これらは,被控訴人が創作した概念であり,本件訂正明細書等において初めて定義づけた用語である。


本件文書は,平成10年4月28日にAに対して配布されたものではない。仮に,同人が同日付の被控訴人における会議に参加していた
としても,本件文書に記載された全ての事項の検討には参加しておらず,また,本件文書はその会議の議事録である可能性が高いことから,同人は,本件記載についての検討内容は全く知らなかったとしか考えられない。

以上のとおり,本件文書記載の内容によれば,本件特許に係る発明はそこには開示されておらず,また,その内容が平成10年4月28日に公知となったものでもない。

(エ)

Aが被控訴人に対して守秘義務を負担すること
Aが,被控訴人の「FD-380」開発中において得た知見,及びそ
の事項に係る発明を知ったとしても,当該発明は特定の者が知っていただけであり,「公然知られた発明」には該当しない。
すなわち,西部機販愛知有限会社(その代表者がA)と被控訴人とは,平成10年初め頃,開発協力契約,秘密保持契約を含む業務提携契約を結んでいたものであり,かつ,相互にその義務を履行していた。
また,仮に両者間に明示的な合意がなかったとしても,社会通念もしくは商慣習上又は信義則上秘密保持義務が発生する場合がある。本件においても,Aは,「FD-380」の試験機の運転によって得た知見や被控訴人が開発中に得た情報について秘密を保持すべき立場にあったのであるから,仮に本件文書が本件特許の出願前にAに開示され,同人がそれによって本件特許の内容を知ったとしても,「公然知られた」(法29条1項1号)に該当しない。
(オ)
第3
1
以上より,本件特許には無効とされるべき理由はない。

当裁判所の判断
本件訂正明細書等の記載及び本件各発明の意義については,原判決「第4当裁判所の判断」の「1

本件各発明の意義」(原判決13頁11行目~2

0頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

2
争点(1)について
(1)

争点(1)についての判断は,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第
4
当裁判所の判断」の「2

争点(1)(被告による本件装置(LS型)の

製造・販売の有無)について」(原判決20頁17行目~23頁22行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア

控訴人は,LS型装置のパンフレットに本件装置(WK型)の外観写
真を利用したことは不自然ではないこと,白石海苔が平成27年2月27日に鶴商に対して販売等した装置は「WK-550」型であって「LS-S」型ではないこと,本件検証調書の記載は信用し得ないことなどを指摘して,原判決の判断の誤りを主張する。
イ(ア)

このうち,パンフレット(甲18,19の1及び2)については,
原判決の認定のとおり,従前のパンフレット(甲4,5の1~4)における「WK-500」型装置等の写真と同一の写真から型番部分を削り取った(又は写真の同部分に周囲の色と同様の色調のマスクをした)だけの写真を掲載したものと認められるが,他方で,掲載製品につき,従来の製品と比較した構成や機能の相違・変更点やセールスポイント等を説明する記載は一切見当たらず,かえって,各パンフレット記載の製品の特長の説明文が同一内容であることが認められる(甲5の2と甲19の1,甲5の3の1及び2と甲19の2)。従来の製品と新製品とが外観において実質的に相違がないことを前提とすると,このような取扱いは新製品の宣伝広告媒体としては必ずしも合理的でなく,したがって,上記事情は,控訴人が,従来の製品の型番のみ形式的に変更したにとどまるものを別個の製品として販売等していたことをうかがわせるに足りる事情といってよい。
(イ)

白石海苔が平成27年2月26日に鶴商に対し販売等した装置につ
いては,証拠(甲17の2,20)によれば,納品された装置そのも
の及び納品書には「WK-550」と表示されているにもかかわらず,当該装置に関する白石海苔作成の鶴商宛て請求書には「異物機

LS

-S型」と明記されていることが認められる。このことに,この時点で既に「LS-S」型を含むLS型装置に関する同月13日付けパンフレット(甲18)を控訴人が作成していたことを併せ考えると,これらの事実は,控訴人が当該装置につき型番を「LS-S」として白石海苔に対し販売したこと,又は既に控訴人から白石海苔に販売等されていた「WK-550」型装置につき書類上「LS-S」型装置と称して転売することにつき両者間で了解が成立していたことなど,控訴人の何らかの関与の下に白石海苔が「WK-550」型装置を「LS-S」型装置と称して鶴商に販売等したことをうかがわせるに足りる事情であるといってよい。
これに対し,控訴人は,上記請求書の記載につき白石海苔による誤表示である旨指摘するけれども,「LS-S」と「WK-550」とは,型番としてはおよそ類似点がなく全く異なるものであり,単純な誤記といえる程度を超えていることなどを考えると,そのように理解する余地は乏しいと思われる。
(ウ)

本件検証調書の信用性については,確かに「機械3」に関する白石
海苔代表者の指示説明と検証の結果として添付された「機械3」の写真とは,板状部材等の使用につき一見整合しない内容となっているけれども,いずれも検証当時のありのままを調書に記載等したものと理解することに不自然,不合理な点はなく,これをもって直ちに添付写真が誤っていると見ることはできないというべきである。
この点,控訴人は,平成27年3月18日の納品時の写真(乙16)及び動画(乙21の1及び2)とするものを提出するけれども,原判決が指摘するとおり,これらの写真等が控訴人が白石海苔に販売した「L
S-G」型装置の写真等であるのかといった問題がある上,回転円板及び固定リングの脱着は容易と見られることから,控訴人と被控訴人とのそれまでの係争状況を念頭に置くと,その内容を直ちに信用することはできないというべきである。

その他控訴人が原審及び当審においてるる指摘する点を考慮しても,争点(1)における原判決の認定・判断に誤りはないというべきであって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

3
争点(2)アについて
(1)

争点(2)アについての判断は,原判決24頁26行目の「各固定リング4」
を「各環状固定板4」に改めるとともに,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4

当裁判所の判断」の「3

争点(2)ア(本件新装置の構成)

について」(原判決23頁23行目~27頁15行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア

控訴人は,突部Dを6個有する回転円板を備えた本件検証調書の「機
械4」につき,控訴人が白石海苔に販売した「WK-550」型装置に,白石海苔が,平成27年5月15日の展示会への出品のため,従前の回転円板及び固定リングに替えて凹部6か所の回転円板及び固定リングを設置し,「LS-S型」というシールを貼付したものであり,控訴人は,試作品である当該回転円板を白石海苔に貸与したにすぎない旨指摘し,この点に関する原判決の判断の誤りを主張する。

しかし,控訴人の原審における同旨の主張に対し原判決の論ずるところに特段誤りはない。
また,突部Dを6個有する回転円板を白石海苔に貸し出した経緯につき,渡邊は,凹部が6個のものを試験的に製作したものの,凹部の数が多いと海苔が細かくなることがあったため製品としては採用せず,いまだ廃棄せずに社内に残していたところ,白石海苔が展示会に機械を出品
するに当たり,他に回転円板の在庫がなかったため,WK-500型の回転円板を凹部6個のものに取り替え,「LS-S型」というシールを貼付した旨供述するところ,既に発売されていた機械の主要部品(回転円板)の在庫がなかったということ自体疑問がある上,他社が控訴人の製品を展示会に出品するに当たり,回転円板を,控訴人自身が製品化に適しないと判断したものに取り替えて機械を出品させたとする点には不自然,不合理な感を拭えない。「機械4」には「LS-S型」なるシールが貼付されているところ,平成27年5月15日当時既にこれと同じ型番の製品をパンフレットに掲載するなどして控訴人が販売等していたことを考えれば,尚更である。

以上より,争点(2)アにおける原判決の認定・判断に誤りはないというべきであって,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

4
争点(2)イについて
争点(2)イについての判断は,原判決「第4

当裁判所の判断」の「4


点(2)イ(構成要件A3の充足性)について」(原判決27頁16行目~26行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
5
争点(2)ウについて
(1)

争点(2)ウについての判断は,後記(2)及び(3)のとおり付加するほかは,原
判決「第4

当裁判所の判断」の「5

争点(2)ウ(構成要件B'1及びB'2

の充足性)について」(原判決28頁1行目~34頁9行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア

控訴人は,原判決は,本件特許権の審査経過を十分考慮することなく,
本件新装置の突部Dが,構成要件B′1の「突起・板体の突起物」における「突起」あるいは「突起物」に該当するとした点で,その判断に誤りがある旨主張する。

しかし,原判決が本件特許権の審査経過を考慮した上で判断したもので
あることは,その記載上明らかである(原判決29頁10行目~30頁11行目)。
また,本件発明3は,「防止手段」について,「前記防止手段を突起・板体の突起物とし」(B’,B’1),「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」(B’2)と特定するのみであり,「突起」及び「突起物」の特徴については,何らの限定もない。本件特許権の出願経過に鑑みても,本件先願のような,クリアランスに対向し,かつ周囲から突出することのない「凹部」は,本件各発明から除外されたものと解されるけれども,本件新装置のように,「凹凸」であってもその構成がなお「突起」に該当するといい得る構成まで本件各発明から意識的に除外する趣旨であったことはうかがわれない。ウ
なお,控訴人は,少なくとも凹部を形成したことにより必然的に出現する凸部は「突起」又は「突起物」に当たらないとするけれども,本件新装置の回転円板に形成された凹凸につき凹部と見るか凸部と見るかは,平面部3b1と平面部3b2のいずれを基準面とするかにより定まり,その意味で相対的な関係にあるものにすぎない。上記凹凸の下面である平面部3b2を基準面とすれば,突部Dは,周囲の基準面から突出する突起として把握し得るものであり,回転円板の表面の外周部に形成された突起ということができるから,「回転円板…の円周面」に設けられた「突起・板体の突起物」に該当する。


本件訂正明細書等の記載によれば,本件発明3の「防止手段」である「突起・板体の突起物」は,「生海苔の共回りが発生しても,…防止手段に達した段階で解消される(防止効果)。…前記防止手段は,単なる解消に留まらず,生海苔の動きを矯正し,効率的にクリアランスに導く働きも備えている(矯正効果)」(【0020】)ことによって,「生海苔の分離が,極めて効率的にかつトラブルもなく行われることと,当該回
転板,又は当該装置の停止等は未然に防止できる」(【0021】)点に特徴を有し,「共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰まりを無くすこと,又は効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能率低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)が図れること,またこの防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置できること」(【0029】,【0031】)等の効果を奏するものである。この点について,控訴人は,本件新装置においてクリアランスの目詰まりをなくす機能は,凹部Eが形成されている箇所の凹部の深さに該当する領域並びに凹部Eを構成するエッジx及び上部境界線yが果たす旨指摘する。
しかし,上記のとおり,本件新装置の回転円板に形成された凹凸につき凹部と見るか凸部と見るかは,基準面をいずれとするかにより定まる相対的なものにすぎないのであって,平面部3b2を基準面とすれば,突部Dのエッジx及び上部境界線y等がクリアランスの目詰まりをなくす機能を果たしているということができる。

このほか,控訴人が原審及び当審においてるる指摘する事情を考慮に入れても,この点に関する原判決の判断に誤りはないというべきである。
(3)

「回転板…の円周面」の意義(当審における追加主張)について
控訴人は,本件発明3の構成要件B’2「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成」とは,本件訂正明細書等の記載によれば,回転板の径サイズが選別ケーシングの径サイズより大きく,回転板が選別ケーシングの上側から選別ケーシングに対して覆いかぶさるようにして配置され,回転板の下側の円周面と選別ケーシングの円周面の上側との間に水平方向に伸びるクリアランスが形成されている場合に,回転板の下側の円周面に突起物を設ける構成であると解釈すべきところ,本件新装置はこれを充足しないから,本件発明3の技術的範囲に
属しない旨主張する。

本件訂正明細書等の記載によれば,本件発明3に直接的に対応する実施例は図6と見られるところ,これについては,「防止手段6は,一例として寸法差部Aに設ける。…さらに他の図6の例は,回転板34の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a…に切り溝,凹凸,ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ所,或いは全周に設ける。」と記載されている(【0026】)。
そうすると,本件発明3に関し本件訂正明細書等に記載された実施例は,回転板の径サイズが選別ケーシングの径サイズより大きく,回転板が選別ケーシングの上側から選別ケーシングに対して覆いかぶさるようにして配置され,回転板の下側の円周面と選別ケーシングの円周面の上側との間に水平方向に伸びるクリアランスが形成されている場合において,回転板の下側の円周面,選別ケーシングの円周面の上側又はこれらの双方に,共回り防止手段としての突起・板体の突起物を設ける構成と認められることは事実である。
しかし,本件発明3は,「生海苔排出口を有する選別ケーシング,/(及び)回転板,/この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,/(並びに)異物排出口/をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において」(構成要件A1~5),「前記防止手段を」(構成要件B’)「突起・板体の突起物とし,」(構成要件B'1)「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」(構成要件B’2)とのみ特定しており,回転板と選別ケーシングとの嵌め合わせの構造やクリアランスと突起物との位置関係等を特定するものではない。しかも,本件訂正明細書等の発明の詳細な説明には,前記のとおり,「防止手段6は,一例として寸法差部Aに設ける。」と記載されているので
あるから(【0026】),図6に示された防止手段としての突起物とクリアランスとの位置関係等は一例にすぎず,これに限られないことは明らかである。

また,本件新装置の回転円板の突部Dが「突起・板体の突起物」に当たること,突部Dのエッジxや上部境界線y等が生海苔の詰まりを防止する効果を有するものであり,突部Dは,回転円板のクリアランスに対向する側の円周面ではないものの,それが円周面に設けられていることによって,本件訂正明細書等記載の防止効果及び矯正効果を生じ,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰まりを無くすこと等の効果を奏し得るものであることは,前記のとおりなのであるから,控訴人主張の構成を採用しなければ,本件発明3の作用効果が生じ得ないというわけではないことは明らかである。


そうである以上,本件発明3を本件訂正明細書等に記載された実施例のとおりに解釈すべき特段の事情があるということはできず,本件発明3の構成を,控訴人主張のように限定的に解釈すべき理由はない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

6
争点(2)エ及び(3)について
争点(2)エ及び(3)についての判断は,原判決「第4
「6

当裁判所の判断」の

争点(2)エ(構成要件Cの充足性)について」(原判決34頁10行目
~35頁4行目)及び「7

争点(3)(特許法101条1号の間接侵害の成否)

について」(原判決35頁5行目~20行目)に各記載のとおりであるから,これを引用する。
7
特許無効の抗弁(当審における追加主張)について
(1)

証拠(各項に掲げたもの)によれば,以下の事実が認められる。
本件文書(乙22の9)
本件文書は,「フルタ電機㈱

技研工場」作成名義の平成10年4月

28日付け「ダストールの試験機,展示会機から新型への変更点」と題する文書であるところ,「1

選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつ

ける/選別タンク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」との記載(本件記載)がある。

平成10年4月11日付け「海苔タイムス」(乙22の3)及びカタログ(乙22の4)
平成10年4月11日付け「海苔タイムス」広告欄には,以下の記載並びにFD-380K及びFD-380Sの外観写真を含む広告が掲載されている。また,FD-380K及びFD-380Sのカタログ(乙22の4)にも,同様の記載がある。
「●良い海苔づくりを推進する。」
「フルタダストール」
「性能アップで作業時間大幅短縮!」
「異物はミンチ前に除去!!」
「FD-380K/海水が豊富に使用できる作業場向きです。/メリット:/大型洗浄撹拌槽付ですので/海苔が,よりキレイに洗えます。」「FD-380S/海水量が少なくてすみます。/メリット:/海水の運搬労力・コストを節約します。」
「■特長/…●高濃度選別(異物除去)が出来ます。/…●逆洗機能付/濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し,/詰まりを取り除きます。」「フルタ電機株式会社」


カタログ(乙22の5)
被控訴人作成の平成10年4月付けカタログ「フルタ海苔機械」(乙22の5)は,当時の被控訴人の取扱製品に関する総合カタログであるところ,「ダストール」の項目が設けられ,FD-380K及びFD-380Sが紹介されているところ,これらの製品の「特長」の1つとし
て「逆洗機能付き/隙間に濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し隙間を広げ洗浄し,詰まりを取り除きます。」との記載がある。
(2)

「ダストール」の構成
上記(1)イ及びウ認定の各記載によれば,平成10年4月頃に製造・販売
されていた「ダストール」FD-380K型及びFD-380S型(控訴人主張に係る「本件公知装置」に相当する。以下「『ダストール』」という。)は,海苔づくりに使用する洗浄及び異物除去機能を備えた装置であり,その洗浄及び異物除去の過程で隙間の目詰まりを生じた場合には,自動的に逆噴して隙間を広げることによりその詰まりを取り除く機能を有するものであることがうかがわれるとともに,被控訴人の製造又は販売に係るものであることが認められる。
しかし,それ以上に,本件特許の出願当時における「ダストール」が具体的にどのような構造の装置であるかをうかがわせる証拠はない。なお,控訴人は,写真集(乙22の18)における被写体である装置につき,L型金具が取り付けられている点を除き本件公知装置と構成を同じくする旨主張するけれども,同装置の型式は「FD380D-2K」であって,「FD-380K」や「FD-380S」とは異なること,その納入は平成12年1月18日(本件特許の出願より後の日)とされていること,撮影日は平成28年12月3日とされており,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに鑑みると,これがL型金具の点を除き本件公知装置と構成を同じくするものと断定することはできないというべきである。
(3)

仮に,本件特許の出願当時における「ダストール」が,L型金具の点を
除き,上記写真集の被写体である装置と同一の構造を有するとした場合(「ダストール」が本件公知装置といえる場合),本件発明3と本件公知装置とは,以下の点で相違する。すなわち,本件発明3は,

A3

この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止
手段,

B´

前記防止手段を,

B´1

突起・板体の突起物とし,

B´2

この突起物を,回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設け
る構成とした


生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置

であるのに対し,本件公知装置は,この構成を有しない。
(4)

上記(3)を前提に,本件発明3の新規性ないし進歩性について検討する。
ア(ア)

本件文書には,共回り防止ゴムについて,本件記載はあるものの,
それ以外にこれに言及した記載はない。このため,本件記載に示された「共回り防止ゴム」がいかなる形状のものであり,選別ケーシングの外周のどの位置に,どのような態様で設けられるかといった具体的な構成は,本件記載ないし本件文書には示されていない。
(イ)

この点,控訴人は,本件記載の意義につき,選別ケーシングと回転
板との間に形成されるクリアランス(隙間)を通過して選別ケーシング内に入り,生海苔排出口から良品として排出されていく生海苔の量を増やす目的で,選別ケーシングと回転板との間でクリアランス(隙間)が形成される位置である「選別ケースの外周」に,選別ケーシングと回転板との間に形成されるクリアランス(隙間)に対して「突起物」となる「共回り防止ゴム」なる部材を「つける」ものであることを当業者が認識することに困難性はない旨主張する。
しかし,本件記載から,当業者が,選別ケーシングの外周に共回り防止ゴムを付ける目的が,生海苔排出口から良品として排出されていく生海苔の量を増やすことにあることを認識し得たとしても,そのための構成については,本件記載には「選別ケースの外周」に「共回り防止ゴム
をつける」という記載があるにすぎず,共回り防止ゴムの具体的な取付位置や,共回り防止ゴムの形状(「突起物」といえるものであるか)等については何ら特定されていない。そうである以上,本件特許の出願当時において,当業者といえども,本件記載から控訴人主張に係る構成を認識し得たとはいえない。
イ(ア)

「共回り」なる用語については,本件訂正明細書等において「前記
生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転することから,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等である。この状況を共回りとする。」と定義されている(【0003】)。
(イ)

しかし,「共回り」なる用語が,本件特許の出願前に,生海苔異物
除去装置の分野において,本件訂正明細書等記載の意味と同じ意味に用いられていたことをうかがわせる証拠はない。なお,控訴人出願に係るその名称を「生海苔の洗浄熟成機」とする発明の公開特許公報(特開2003-93027。平成13年9月26日出願。甲57の3)の明細書には,「この発明においては,筒状槽の内壁に突条を縦設…したので,回転軸の回転に伴い,撹拌羽根により混合水(生海苔と水)の共回りを防止し,撹拌効果を向上させると共に,遠心力で槽壁側へ流動し,そのまま回転軸と同心状に流動しようとする混合水の流動方向を中心側へ向ける作用効果がある。」(【0014】),「前記発明における突条は,混合水が回転軸と同心状に共回りするのを防止すると共に,筒状槽の内壁側へ向けられた水流を,中心側へ方
向変換させる作用も考えられている。」(【0021】)といった記載がある。ここにいう「共回り」なる用語の意味を明確に定義する記載は見当たらないが,「混合水が回転軸と同心状に共回りする」などといった記載に照らしても,本件訂正明細書等で定義された,回転板を用いた場合に生じる問題点としての意味において用いられていないことは明らかといってよい。
そうすると,本件記載に含まれる「共回り」なる用語につき,本件特許の出願当時において,当業者により,本件訂正明細書等記載の定義と同じ意味に理解されたと見ることはできない。
(ウ)

証拠(乙22の4及び5,23~30)によれば,生海苔異物除去
装置において隙間の目詰まりの問題を生じることがあること自体は,本件特許の出願当時,当業者に周知であったことがうかがわれる。もっとも,その目詰まりの原因や機序について,本件訂正明細書等における上記「共回り」の定義づけにより示されたものであることが周知であったことまでをうかがわせるに足りる証拠はない。
そうすると,本件記載の「共回り」なる記載から,当業者が,本件訂正明細書等に定義された意味での「共回り」の状況等を認識し得ると考えることはできない。

以上によれば,本件特許の出願当時,仮に当業者が本件記載に接することができたとしても,これに基づき,「共回り防止ゴム」が,本件訂正明細書等に定義された意味での「共回り」の状況の解決を意図したものであることを理解するとはいえないし,いかなる形状ないし構造を有するものであるのかを理解することもできず,また,これが取り付けられるべき「選別ケースの外周」がどの位置を意図したものかを理解することもできないというべきである。
そうすると,仮に,本件特許の出願当時,本件公知装置が公然知られ
たものであり,また,本件記載技術が公然知られた又は公然実施された発明であったとしても,本件発明3は,本件記載技術と一致するものといえないことはもちろん,本件公知装置及び本件記載技術に基づき当業者が容易に想到し得たものということもできない。

したがって,本件発明3に係る特許につき特許無効審判により無効にされるべきものと認めることはできない。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

(5)

なお,本件の口頭弁論終結後,控訴人は,特許無効の抗弁に関する準備
書面及び証拠を追加的に提出するとともに口頭弁論再開の申立てをしたが,弁論再開の必要性は認められない。
すなわち,追加に係る主張及び書証(とりわけ乙35,38)を踏まえても,株式会社九研に保管されていた「ダストール

FD-380S」につ

き,その納入日は「平成10年」又は「不明」とされている上,「共回り防止ゴム」に相当するものと見ることもできるゴムを使用した部材が制御盤内に袋入りで保管されている一方で,同袋内にはL型金具も保管されていたところ,少なくとも本件特許の出願前にクリアランスの目詰まりをなくす構成としてL型金具が構想されたことをうかがわせる証拠はないこと(なお,平成28年12月9日付け審判請求書(乙22の1)によれば,控訴人も「本件出願前においては,回転板3の外周端面や円周面に何も工夫をしていなかったが,『前橋ダストール』において,回転板3の回転板用リング13の外周面である円周端面11にL型金具からなる突起物8(防止手段4に相当)を固着してクリアランスの外周側を回転するようにしたり,…」としていることに鑑みると,L型金具の使用は本件特許の出願後であることがうかがわれる。),上記「ダストール」の納入時期からこれが写真撮影された平成29年4月25日までの期間等を踏まえると,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに鑑みると,本件
特許の出願前に,上記「ダストール」に上記「ゴムを使用した部材」が「共回り防止ゴム」として取り付けられ,本件記載技術が公然実施されたことを認めること,及びこのような構成に係る発明が公知となっていたことを推認することは,依然としてできないというべきである。
第4

結論
よって,被控訴人の請求を全部認容した原判決は正当であり,控訴人による本件控訴は理由がないから,これを棄却する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦杉浦正樹寺田利彦
裁判官

裁判官

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