判例検索β > 平成28年(わ)第1738号
住居侵入、強盗殺人、非現住建造物等放火、死体損壊、窃盗
事件番号平成28(わ)1738
事件名住居侵入,強盗殺人,非現住建造物等放火,死体損壊,窃盗
裁判年月日平成29年7月5日
法廷名名古屋地方裁判所
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主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

被告人は,金品窃取の目的で,平成28年6月5日午前8時15分頃から同日午前9時14分頃までの間に,名古屋市a区bc丁目d番e号A方に,無施錠の東側勝手口ドアから侵入し,その頃,同所において,同人所有の現金約140万円を窃取した。

第2

被告人は,金品窃取の目的で,同月28日午前4時41分頃から同日午前7時43分頃までの間に,前記A方の塀等で囲まれた敷地内に侵入し,さらに,同人方の建物内に,無施錠の東側勝手口ドアから侵入し,

1
同建物内において,同人所有又は管理の現金約40万円を窃取し,同建物から敷地内に出た際,同人に発見され,「誰か助けて。」などと叫ばれるや,逮捕を免れるため,同所において,同人(当時84歳)に対し,殺意をもって,その頸部を両手で絞め付け,窒息死させて殺害し,

2
前記1の罪証を隠滅するため,同人の死体もろとも同建物(鉄筋コンクリート造陸屋根2階建,床面積合計約156.36平方メートル)を焼損しようと決意し,同建物の1階東側居間兼台所において,同死体を置いた敷き布団様のもの,同死体の上に置いた布団及びその周囲に食用油を散布し,同死体の上に置いた布団にライターで点火して火を放ち,その火を同室内の敷居,柱,鴨居等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同建物の前記居間兼台所(焼損表面積約3.77平方メートル)を焼損するとともに,同死体の両下肢を炭化させて損壊した。

(争点に対する判断)
本件の争点は強盗殺人の犯行についての殺意の有無であり,当裁判所は,被告人が強い殺意(確定的殺意)を有していたと認めたので,以下その理由を補足して説明する。
被告人の供述によれば,犯行態様は,立って正対した状態で被害者の首を両手で絞め付けた上,被害者が倒れた後も,被害者の動きがなくなるまで絞め続けたというものと認められる。また,被害者の死体解剖を行ったB医師の証言によれば,死因は頸部圧迫による窒息死であり,被害者は舌骨及び甲状軟骨を骨折していたほか,眼瞼結膜,口腔粘膜,声門下粘膜に溢血点が存在していたことが認められる。なお,被告人は,首を絞めた時間について,倒れるまで二,三分程度,倒れた後も二,三分程度と述べているところ,B医師の証言を踏まえると,この時間的経過は医学的にみても矛盾がない。
相当時間かけて首を絞めるという行為自体,通常,人を殺すためにとる行動と考えられるところ,被告人は,5分前後の時間をかけ,しかも,被害者が倒れた後も継続して,被害者が窒息死するに至るまでその首を絞め続けたものである。前記のとおり,舌骨等に骨折がみられることや,前記場所に溢血点が生じていることは,頸部に強い外力が作用したことを示しているというB医師の証言にも照らすと,被告人が強い殺意を有していたことを優に認めることができる。
これに対し,被告人は,被害者に発見され,大声を上げられたために,パニック状態になり,静かにしてほしいとの一心で被害者の首を絞めたなどと述べて殺意を否定する。しかし,被告人は,そのときの状況を詳しく記憶しており,状況に応じた行動をとっていたとみられることからして,静かにしてほしいという思い以外の意識や思考が働かなかったとは考えにくいし,そもそも被告人のいうような心理状態にある者が,首を強く絞め続けたばかりでなく,被害者が倒れた後も絞め続けるという行動をとるとは到底思えない。殺意を否定する被告人の主張は採用できず,その余の弁護人の主張を検討しても,上記殺意の認定は左右されない。(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第2の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強盗殺人の点は同法240条後段に,非現住建造物等放火の点は同法109条1項に,死体損壊の点は同法190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の住居侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断し,判示第2の住居侵入と強盗殺人及び非現住建造物等放火との間にはそれぞれ手段結果の関係があり,非現住建造物等放火と死体損壊は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い強盗殺人罪の刑で処断することとし,各所定刑中,判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中250日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
被告人は,自堕落で無計画な生活を続けた末に,2回にわたって被害者方に窃盗に入り,合計約180万円の多額の現金を盗んだほか,2回目の窃盗後に被害者に発見されると,被害者を押しのけて逃走するなど他にとりうる手段もあったのに,逮捕を免れるために被害者を殺害し,それにとどまらずその罪証を隠滅するために火を放ち,被害者の遺体を損傷するとともに被害者方を焼損したものである。最も重く悪質な強盗殺人の態様をみると,高齢の女性である被害者の頸部を,途中被害者が倒れた後も,動かなくなるまで両手で強い力で絞め続けたというもので,強い殺意に基づく執拗な犯行といわねばならない。犯行動機はいずれも身勝手で酌量の余地はなく,悪質な犯罪行為を重ねた点も強い非難に値する。尊い人命が失われるなど取り返しのつかない結果が生じており,被害者遺族が極刑を望む心情も十分理解できる。
以上によれば,被告人の行為に対する責任は重大であり,強盗殺人の事案の中で特に重い部類に属するものではないが,当初は強盗目的がなく,事後強盗事案であることを踏まえても,軽い方の部類に属するとはいえない。よって,前科がないことや,被告人なりに反省の態度を示していることなど被告人に有利な事情を考慮しても,酌量減軽をする余地はなく,被告人に対しては,主文のとおり無期懲役刑をもって臨むのが相当である。
(求刑

無期懲役刑,弁護人の意見

有期懲役刑)

平成29年7月11日
名古屋地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

山田耕司
裁判官

諸徳寺

聡子
裁判官

荻原惇
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