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過失運転致傷被告事件
事件番号平成28(う)1354
事件名過失運転致傷被告事件
裁判年月日平成29年7月6日
法廷名大阪高等裁判所
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平成28年(う)第1354号
平成29年7月6日

過失運転致傷被告事件

大阪高等裁判所第1刑事部判決
主文
原判決を破棄する
本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人赤堀順一郎作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
論旨は,原審被害者参加人の被告人質問の申出を許可する手続に関する訴訟手続の法令違反の主張,嘆願書の証拠物としての証拠請求を却下したことに関する訴訟手続の法令違反の主張及び量刑不当の主張である。
第1

控訴趣意中,原審被害者参加人の被告人質問の申出を許可する手続に関する
訴訟手続の法令違反の主張について
1
控訴趣意の要旨

原審裁判所は,原審検察官が,原審裁判所に,原審被害者参加人の被告人質問の申出の通知をした際,自ら供述を求める場合を除き,意見を付すべきことを規定した刑訴法316条の37第2項に違反して,意見を付さなかったのに,原審弁護人の意見だけを聴いて,上記申出を許可し,原審被害者参加人に被告人質問を許可して実施させた上,その結果を量刑の判断に用いているから,原審裁判所の上記措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。2
原審の経過等



公訴事実の要旨

本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成27年9月29日午前10時34分頃,
後退発進するに当たり,後方左右を注視し,自車後方を通行する歩行者等の有無及びその安全を確認して後退発進すべき自動車運転上の注意義務を怠り,自車後方の
歩行者等の有無及びその安全確認不十分のまま,漫然時速約5㎞で後退発進した過失により,自車後方を歩行中の当時81歳の被害者に気付かず,同人に自車後部を衝突させて路上に転倒させ,同人に回復の見込みのない意識障害等の後遺症を伴う脳挫傷及び外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせた」というものである。⑵

原審では,被害者の子及びその委託を受けた弁護士が,被害者参加人及び被
害者参加弁護士として,原審第1回ないし同第3回公判期日に出席するなどした。⑶

原審第1回公判期日(平成28年9月13日)では,被告人が公訴事実を認
める旨陳述した後,検察官請求証拠の全て及び弁護人請求証拠の一部が採用されて取り調べられた。


原審第2回公判期日(同年10月7日)では,情状証人2名の取調べ及び被
告人質問が行われた後,出席した原審被害者参加人の意見陳述,論告,弁論及び被告人の最終陳述が行われて結審した。
上記被告人質問の際,原審検察官は,原審裁判所に,原審被害者参加人から,被告人が繰り返し電話をかけてくる点について被告人に質問を行いたい旨の申出があったことを通知し(以下「本件通知」という。),その後,原審弁護人が「しかるべく」との意見を述べ,原審裁判所が質問を許可して,原審被害者参加人が被告人に質問を行った。


原審立会裁判所書記官(以下「原審書記官」という。)は,同年11月18
日,原審第2回公判調書並びにこれと一体となる情状証人2名の供述要旨が記載された証人尋問調書2通(3頁及び2頁のもの)及び被告人の供述要旨等が記載された被告人供述調書(7頁のもの。以下「本件被告人供述調書」という。)等を作成した。
本件被告人供述調書には,本件通知について,次のとおりの記載がある(以下「本件記載」という。)。
「検察官
被害者参加人から,繰り返し電話をかけてくる点について質問を行いたいとの申
し出があり,検察官は,許可相当と思料します。
弁護人
しかるべく
裁判官
上記質問許可」


原審裁判所は,原審第3回公判期日(同年11月22日)において,被告人
を禁錮1年4月・3年間執行猶予に処する旨の判決を言い渡した。⑺

原審弁護人は,同年12月6日,原審裁判所に対して,本件記載のうち「検
察官は,許可相当と思料します」との部分につき,原審検察官がその旨の意見を述べたことはなく,また,原審裁判所が原審検察官に釈明を求めたこともなかったとして,公判調書の記載の正確性についての異議の申立てをした(以下「本件異議申立て」という。)。


原審書記官は,同月7日,異議申立調書を作成した(以下「本件異議申立調
書」という。)。同調書には「裁判官の意見」として次のとおりの記載がある(以下「本件意見」という。)。
「上記異議申立書第1の3には,被告人質問の中で被害者参加人から質問の申し出があった際に検察官が意見を付さずに裁判所に通知したのに,「裁判官が検察官に対して当該意見の釈明を求めた事実はない。」と記載されているが,当該手続の中で裁判官の釈明により検察官から許可相当の意見が明確に述べられ,それを裁判官及び書記官がともに確認している。本件異議申立てには理由がないものと思料する。」
3
当裁判所の判断

原審記録及び当審における事実取調べの結果も併せて検討すると,原審検察官が,原審裁判所に,原審被害者参加人の被告人質問の申出を通知する際,明示的に許可相当との意見を述べたり,原審担当裁判官が原審検察官に意見を述べるよう釈明したりしたことはなかったと認められるが,原審担当裁判官のこのような措置が違法
とまではいえない,しかし,本件異議申立調書に記載された本件意見は事実と異なるものといわざるを得ず,かつ,事実と異なる本件意見が本件異議申立調書に記載された原因について,原審担当裁判官が,事実と異なることを認識しながら本件意見を記載させた可能性を否定することができず,このような事態は,原審における審理の公平性に対して疑念を抱かせるものであるから,本件異議申立調書に事実と異なる本件意見を記載した原審裁判所の措置は,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反といわざるを得ない。
その理由は次のとおりである。


原審被告人質問における原審裁判所の措置について


被告人の当審公判供述(当審弁人1)及び検察官作成の捜査報告書(当審検
1)によれば,原審第2回公判期日における被告人質問の際,原審検察官は,その意見を付することなく本件通知をし,原審弁護人が検察官の意見が述べられていない旨指摘したのに対し,原審裁判所は,原審検察官に対してその意見を明示するよう釈明するなどしないまま,原審弁護人に意見を求め,これに対して,原審弁護人がしかるべくとの意見を述べたことが認められる。

これに対して,原審書記官は,当審公判廷において,原審検察官は,当初,
意見を付することなく本件通知をしたが,その後,本件異議申立調書に記載されたとおり,原審裁判所の釈明を受けて,明示的に許可相当との意見を述べた旨供述する。
しかし,上記捜査報告書(当審検1)によると,原審検察官自らが,当審検察官に,「明示的に許可相当との意見を述べたことはなく,原審裁判所が,「現にこうして申し出ているのだから,相当ということだと思いますよ。」などと説明し,自分が意見を明示しなかった理由がそれと同じだったので,黙っていることでこの説明を肯定した」旨説明したというのであり,被告人も,当審公判廷で,表現こそやや異なるものの,原審検察官の上記説明と同旨の供述をしているのであって,このように,検察官と被告人という対立当事者の認識が一致しているのであるから,こ
れに反する原審書記官の上記供述は,信用できないというほかない。原審書記官は,当審公判廷で,公判調書の作成に備えるために,手書きの手控えを作成していたほか,原審公判廷での様子を事実上ICレコーダーで録音し,これを確認しながら,本件被告人供述調書等を作成したと供述しているが,上記手控えには,原審被害者参加人から質問の申出があり,原審弁護人がしかるべくとの意見を述べたということしか記載されておらず,上記録音データは,本件被告人供述調書等を作成してから本件異議申立てまでの間に行われた業務用端末の更新作業の際に,新しい業務用端末に引き継ぐことなく削除したというのであるから,原審書記官の上記供述が,記録に基づく確実なものとはいえないし,また,原審書記官は,本件異議申立てがされたことから,原審担当裁判官と記憶をすり合わせたところ,上記供述のとおりであったとも供述しているが,原審担当裁判官がいかなる資料に基づいて記憶を喚起したか不明であり,その一事をもって,原審書記官の上記供述に,原審検察官や被告人の供述を排斥するまでの信用性があるとはいえない。ウ
しかし,原審検察官の上記説明に鑑みると,原審検察官は,黙示のうちに許
可相当との意見を述べたと解する余地が十分あるから,意見を付さずに本件通知をした原審検察官に対して求釈明するなどして明示的に意見を述べるよう求めなかった原審裁判所の措置が誤っているとまではいえず,また,本件被告人供述調書が要旨調書であることからすると,本件記載をそのような趣旨のものと理解することもできるから,これを直ちに誤りということもできない。


本件異議申立調書中の本件意見について(職権判断)

しかし,更に職権で調査すると,前認定のとおり,本件異議申立調書中の本件意見のうち,「当該手続の中で裁判官の釈明により検察官から許可相当の意見が明確に述べられ,それを裁判官及び書記官がともに確認している。」との部分は,事実と異なっているものというほかない。
そして,事実と異なる本件意見が本件異議申立調書に記載された原因については,様々なものが考えられ,①

本件異議申立調書作成までの間に,原審担当裁判官の

当時のやり取りに関する記憶が変容して,本件意見に記載されたとおりの認識を有するに至った可能性や,②

確たる認識がないまま,本件異議申立ての後に,原審

書記官と互いに認識をすり合わせることを通じて,本件意見に記載されたとおりの認識を得るに至った可能性のほか,③

原審担当裁判官が,あえて事実と異なる本

件意見を記載した可能性等を想定することができるが,本件記録を精査検討しても,そのいずれであったかを確定することを可能にするような資料はない。したがって,③の可能性についても,これを否定することができない。確かに,①及び②の可能性もあるが,原審第2回公判期日に立ち会った原審担当裁判官,原審書記官,被告人及び原審検察官のうち,本件異議申立ての当事者である被告人だけでなく,原審検察官までもが,原審第2回公判期日から半年程度を経過した後の当審の段階においても,本件通知に関する原審公判廷での様子について相互に一致する内容の記憶を喚起できていることや,本件被告人供述調書中の本件記載が,同調書の他の部分と異なり,被告人の供述の要旨ではなく,原審検察官,原審弁護人及び原審担当裁判官のやりとりを逐語的に記載したものであることからすれば,少なくとも原審書記官は,本件被告人供述調書を作成するにあたり,意識して録音データを確認して調書を作成したと考えられ,原審担当裁判官も調書に認印をし,あるいは,判決を起案する際に本件記載を確認して原審第2回公判期日についての記憶を喚起する機会があったと考えられることなども考慮すれば,原審担当裁判官及び原審書記官のみが,原審第2回公判期日から本件異議申立調書作成までの約2か月の間に,記憶を変容させ,あるいは,不確かな記憶をすり合わせることを通じて,事実と異なる認識を有するに至ったと考えることは困難であり,①又は②の可能性が高いということはできず,③の可能性が抽象的なものにとどまるとはいえない。
以上によれば,原審担当裁判官が,本件異議申立調書に,裁判官の意見として,あえて事実と異なる本件意見を記載させた可能性を否定することができず,そして,それが原審の訴訟手続を主宰した原審担当裁判官のものであることに鑑みると,こ
れを単なる手続的過誤として看過することもできない。上記行為は違法であり,そのような違法が存在することは,原審における審理の公平性に対しても疑念を抱かせるものといわざるを得ない。
したがって,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるといわざるを得ない。


結論

以上の次第であるから,その他の論旨について検討するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
第2

破棄差戻し

よって,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄した上,上記疑念を払しょくして改めて適正な審理を行わせるため,同法400条本文により,本件を原裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すこととする。
よって,主文のとおり判決する。
平成29年7月6日
大阪高等裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

福崎
伸一郎

裁判官

福井健太
裁判官

酒井英臣
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