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α西地区第一種市街地再開発事業に係る資産価額請求控訴事件
事件番号平成28(行コ)138
事件名α西地区第一種市街地再開発事業に係る資産価額請求控訴事件
裁判年月日平成28年12月15日
法廷名東京高等裁判所
判示事項第一種市街地再開発事業の完成の期待と都市再開発法80条1項にいう「相当の価額」
裁判要旨第一種市街地再開発事業を起因とする施行地区内の宅地の価格の上昇は,再開発事業による市街地の活性化,利便性の向上等又はこれに対する期待に伴う価値の増分として,都市再開発法80条1項所定の評価基準日までに,施行地区内の同法73条1項3号にいう宅地のみならずその近隣周辺において同等に生じているときは,当該宅地の同法80条1項にいう「相当の価額」の算定において考慮されるべきものであると解されるが,上記価格の上昇が,当該宅地が再開発事業の施行される土地であることにより生じる同事業完成の期待に伴うものであるときは,同価値の増分は,評価基準日以降に生じる付加価値であり,個別的要因によって変動し得る不確定なものであって,施行地区内の土地全体に一般的,普遍的に及ぶ利益ではないから,当該宅地の同項にいう「相当の価額」の算定において考慮されるべきものではないと解するのが相当である。
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平成28年12月15日判決言渡
平成28年(行コ)第138号α西地区第一種市街地再開発事業に係る資産価額請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第330号)
主文
1本件控訴を棄却する
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原判決を取り消す。
2裁決行政庁が控訴人に対し平成26年1月23日付けでした,α西地区第一種市街地再開発事業の施行地区内にある原判決別紙1-1「物件目録」記載1の土地並びに同目録記載2及び3の各建物の価額に関する裁決のうち,同土地の価額に関する部分を121億8255万円と変更する。
3被控訴人は,控訴人に対し,20億円及びこれに対する平成24年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,
α西地区第一種市街地再開発事業
(以下
「本件再開発事業」
という。

に関し,裁決行政庁において,都市再開発法(以下「都再法」という。)85条3項,土地収用法94条8項に基づき,控訴人が本件再開発事業の施行地区(以下
「本件施行地区」
という。内に所有する原判決別紙1-1

「物件目録」
記載1の土地(以下「本件土地」という。)並びに同目録記載2及び3の各建物の都再法73条1項3号に規定する価額を本件土地につき95億3998万6000円,上記各建物につき13億0143万5074円と定める裁決(以下「本件裁決」という。)をしたところ,このうち本件土地の価額に不服のある控訴人が,被控訴人に対し,①都再法85条3項,土地収用法133条2項に基づき,本件裁決のうち本件土地の価額に関する部分を121億8255万円と変更(増額)することを求め(前記第1の2。行政事件訴訟法4条前段の当事者訴訟),②施行者である被控訴人に対し,この変更(増額)に伴う清算金として,20億円及びこれに対する権利変換期日の翌日である平成24年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の3。同条後段の当事者訴訟又は民事訴訟)事案である。
2原審は,①都市計画法21条1項,18条1項に基づく平成21年6月22日付けの都市計画「東京都市計画都市再生特別地区(α三区)」の変更の決定は,本件施行地区における容積率の最高限度を1330パーセントに緩和するものであり,壁面位置の制限を伴うものであることを考慮したとしても,本件施行地区内の土地全体の利用効率を増進する規制緩和であり,本件再開発事業の完成前の段階においても,本件再開発事業に係る計画の実現が相当程度確実な段階に至っているとの期待を反映して,本件施行地区内の各土地の価格(客観的な交換価値)の上昇をもたらしていると評価する余地があることを一概に否定することはできず,このような価格の上昇が評価基準日の時点で既に発生しているとすれば,その部分については,本件施行地区内の各土地の所有者をして権利変換の前後を通じて等しい財産価値を保有ならしめるという都再法80条1項の趣旨を踏まえると,当該各土地についての同項にいう相当の価額(以下,「相当の価額」と表記しているものは,同項にいう相当の価額を意味する。)を算定するに当たり考慮する余地があると解するのが相当であるが,②控訴人の主張する本件土地の「相当の価額」の算定方法は,中央通りと称している都市計画道路放射▲号線(一般国道▲号。「中央通り」以下
という。

に面する本件施行地区内の南東側の土地(以下「表地」ともいう。)に対するβと称している特別区道▲号線(以下「β」という。)に面する本件土地が存在する本件施行地区内の北西側の土地(以下「裏地」ともいう。)の地域格差修正率を71パーセントとしていることにおいて合理性は認められず,同修正率は50パーセントを上回ることはないから,仮に控訴人の主張する算定方法のうち同修正率以外の点において合理性を一概には否定できない部分はそのままとし,その合理性を認め難い部分は修正を加えたものを前提としても,本件土地の価額は85億7542万6440円となり,本件裁決の定めた95億3998万6000円を上回らないから,その余の点につき判断するまでもなく,本件裁決は適法であると判断して,控訴人の請求を棄却した。そこで,控訴人が,原審の上記判断を不服として控訴した。
3関係法令の定め
原判決2頁20行目から同頁21行目まで及び同行で引用する原判決別紙2-1「関係法令の定め」(原判決44頁から55頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,本項を含め,以下において引用する原判決中「別紙」とあるのをいずれも「原判決別紙」と改める。
4前提事実
以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の「3前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決3頁4行目の「(以下「本件土地」という。)」を「(本件土地)」と,同頁10行目の「本件再開発事業」から同頁11行目の「という。)」までを「本件施行地区(後記(3)カ参照)」とそれぞれ改め,4頁2行目の「甲1,13,」を削る。
(2)

原判決5頁15行目から16行目にかけての「従前土地」を「従前資産
(評価基準日(都再法80条1項)における本件施行地区内の土地及び建物のことをいい,このうち都再法73条1項3号にいう宅地である土地を「従前土地」という。)」と改め,同行の「従後資産」の後に「(本件再開発事業によって建築される施設建築物の専有部分(当該専有部分に係る共用部分の共有持分及び敷地利用権を含む。)のことをいう。)」を,同頁20行目の「定めた」の後に「(以下,これらを併せて「従前資産評価基準等」という。)」を,同頁26行目で引用する原判決別紙6-1「本件調査報告書の要旨」(原判決66頁から69頁まで)の原判決66頁下から7行目末尾の後を改行して以下のとおりそれぞれ加え,同頁下から6行目冒頭の「(2)」を「(3)」と,同頁下から3行目冒頭の「(3)」を「(4)」と,67頁3行目冒頭の「(4)」を「(5)」とそれぞれ改める。
「(2)標準価格の査定には,中央通りに接面する近隣地域A,背後の地域を代表する地域として近隣地域Cの各標準価格を査定し,次に,近隣地域Cの価額形成要因と,近隣地域B,D,E,Fの価額形成要因とを比較し,近隣地域Cの標準価格を基に,近隣地域B,D,E,Fの各標準価格を査定する。近隣地域Gについては,他の地域と比較して規模が大きい画地によって構成されるため,
標準的使用の類似性から近隣地域Aの
価額形成要因と,近隣地域Gの価額形成要因とを比較し,近隣地域Aの標準価格を基に,近隣地域Gの標準価格を査定する。」
(3)

原判決7頁3行目から4行目にかけての「,21の1」を削り,同頁1
7行目の「立てた。」の後に,「控訴人が主張した本件土地の価額の算定根拠は,控訴人に帰属する開発利益は,被控訴人が委託した鑑定機関の評価による本件施行地区内の全ての土地を一体化した土地の価額約1250億円から,本件施行地区内の全ての従前土地の評価額の合計額約608億円を控除して算出した開発利益の総額約642億円に,控訴人の従前資産(控訴人が本件施行地区内に所有する本件各不動産)の額の割合15.6パーセントを乗じた額は約99億円となるところ,被控訴人は既に開発利益として従後資産である施設建築物に係る権利床取得価額の減額による利益約79億円を見積もっているので,その差額約20億円の開発利益が未配分となることから,開発利益を反映させていない被控訴人の見積額95億3998万6000円に,上記未配分の開発利益約20億円を加えた額が115億3998万6000円であるというものであった。を,

同頁19行目の
「提出し,

の後に「本件調査報告書の査定に基づいて」を,同頁21行目の「乙1」の後に「,10」をそれぞれ加える。
(4)

原判決8頁13行目の「18日,」の後に「本件審理における控訴
人の主張と同様の算定根拠(前記(6)ウ)に基づき,」を加え,同頁15行目の「(上記第1の2)」を削り,同頁16行目の「顕著な事実」の後に「,乙1」を,同頁17行目の「15日,」の後に「不動産鑑定士P1作成の平成27年4月27日付け不動産鑑定評価書(甲19)及び同年7月31日付け鑑定補充書(甲24)(以下,これらを併せて「P1鑑定書」という。)等に基づき,をそれぞれ加え,

同頁18行目から19行目にかけての(上

記第1の1)」を削り,同行の「拡張した。」の後に「なお,上記本件土地の価額121億8255万円を前提とすると清算金の額は,同額から95億3998万6000円を差し引いた26億4256万4000円となるところ,前記ア②については請求の拡張をしていない。」を,同行の「顕著な事実」の後に「,甲19,24」をそれぞれ加える。
第3争点及び争点についての当事者の主張の要旨
本件の主たる争点は,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の「4争点」に記載のとおり(ただし,原判決8頁24行目の「否か」の後に
「,
上回るとした場合にはその価額がいくらであるか」
を加える。であり,

争点についての当事者の主張の要旨は,以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3

争点についての当事者の主張の要旨」

の1及び2に記載のとおりであるから,これらを引用する。
1原判決9頁22行目冒頭に「ア」を,同頁23行目の「30日の期間」の後に「(施行地区内の地権者等が権利変換を希望しない旨を申し出ることのできる期間)」を,10頁18行目冒頭に「イ」を,11頁4行目末尾の後に改行して以下のとおりそれぞれ加え,同頁5行目冒頭の「ア」を削る。「ア本件土地の評価は,従前資産評価基準5条及び6条に基づき,正常な取引価格によるものとされ,土地価格形成上の諸要素が考慮されなければならないから,本件評価基準日である平成24年3月11日より前に土地の価格形成要因となっているものについては,本件土地の「相当の価額」の算定に際し考慮されなければならない。」
2原判決11頁12行目の「そうすると」を「すなわち,本件再開発事業の完成前の段階においても,本件特区決定による容積率の緩和は,本件再開発事業に係る計画の実現が相当程度確実な段階に至っているとの期待を反映して,本件施行地区内の各土地の価格の上昇をもたらしているから」と改める。3原判決12頁4行目の
「本件再開発事業の施行地区内」「本件施行地区内」

と改め,同頁12行目から13行目,同頁17行目から18行目及び同頁22行目から23行目においてそれぞれ引用する原判決別紙9「鑑定書等の合理性に関する当事者の主張」の各「原告の主張」(原判決82頁から94頁までのうちの各
「原告の主張」
の部分)
のうち,
原判決83頁12行目末尾の後に
「そ
のことは,大和不動産鑑定株式会社の価格等調査による近隣地域Aの標準的画地aと近隣地域Gの標準的画地gの収益価格を比較すると,標準的画地gは標準的画地aの約73%となることや,近隣地域Cの標準的画地cの評価との比較検討からも裏付けられる。」を加え,84頁11行目,88頁7行目及び93頁25行目の各「本文第3」をいずれも「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3」と,94頁5行目から6行目にかけての「上記(4)ア」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3の1(4)ア」とそれぞれ改める。4原判決12頁13行目末尾の後に改行して以下のとおり加える。「被控訴人は,本件調査報告書は,施行者が「相当の価額」を下回らない範囲で,参加組合員を含めた幅広い合意が得られるように土地の価額を算定するために作成されたものであるから,本件調査報告書は「相当の価額」の根拠となるものではないと主張するが,被控訴人は,収用委員会の本件審理においては,本件調査報告書の評価額が「相当の価額」であると主張し,本件再開発事業における権利変換手続においても本件調査報告書の評価額を前提とするなど,本件調査報告書による本件土地の評価額をそのまま「相当の価額」であるとしてきたことに照らすと,被控訴人の上記の主張は信義側に反し許されない(民法1条2項)。」
5原判決17頁20行目から21行目,同頁25行目から26行目及び18頁4行目から5行目においてそれぞれ引用する原判決別紙9「鑑定書等の合理性に関する当事者の主張」の各「被告の主張」(原判決82頁ないし94頁までのうちの各
「被告の主張」
部分)
のうち,
原判決89頁13行目の
「本文第3」
を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3」と,94頁12行目の「第1の2(1)」を「第1の1(2)」とそれぞれ改める。
第4当裁判所の判断
1従前土地の価額を審理判断する方法
以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。(1)

原判決19頁17行目冒頭から同頁21行目の「1項)」までを「本件
訴えは,都再法85条3項において土地収用法133条が準用される従前土地の価額に係る裁決行政庁の裁決に関する訴えであるところ,従前土地の価額は「相当の価額」」と改め,同頁23行目の「上記」を削り,同頁25行目から26行目にかけての「都再法73条1項3号に掲げる宅地」を「従前土地」と改める。
(2)原判決20頁7行目から同頁10行目までを以下のとおり改める。「ところで,裁決行政庁は,本件評価基準日における本件土地の価額は45億2943万9800円と評価するのが相当であると判断しつつ,都再法85条3項において準用する土地収用法94条8項により,被控訴人が意見書により申し立てた価額である95億3998万6000円が本件土地の価額について裁決をする上で下限の額となることから,同額をもって本件土地の「相当の価額」と定めている。(前記第2の4で引用する補正後の原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の「3前提事実」(以下,単に「前提事実」という。)(6)エ,カ)。そうすると,本件訴えにおいては,客観的に認定される本件土地の「相当の価額」が,本件裁決が定めた上記価額を上回らない限り,本件裁決を違法と判断することはできないと解される。」
2「相当の価額」の意義
以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」の2に記載のとおりであるから,これを引用する。(1)

原判決20頁17行目の「権利変換計画」から同頁22行目の「再開発
事業においては,」までを削る。
(2)原判決21頁13行目の
「その権利変換によって当該宅地の所有者」「財

産権の保障の見地から,当該再開発事業によって従前土地の所有者」と,同頁15行目から16行目にかけての「権利変換の前後を通じて当該所有者の」を「従前土地に関する権利変換の前後を通じて当該従前土地の所有者の保有する」と,同頁16行目の「当該宅地」を「従前土地」と,同頁17行目の「要すると解される。を「要し,

かつ,
それで足りるというべきである(最
高裁昭和48年10月18日第一小法廷
・民集27巻9号1210頁参照)」

とそれぞれ改める。
(3)原判決21頁19行目の「同項は,」から同頁23行目末尾までを「この「相当の価額」とは,評価基準日において,従前土地の所有者がその近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得し得る金額であることを要し,かつ,それで足りるものと解される。」と改める。
3「相当の価額」の算定において開発利益を考慮することの可否(争点1)(1)控訴人は,再開発事業の対象となっている従前土地につき,その価格が同事業が予定されていることが原因となって評価基準日までの間に上昇した場合,その上昇分を「開発利益」として当該従前土地の「相当の価額」に反映すべきである旨を主張する(前記第3で引用する補正後の原判決の「第3争点についての当事者の主張の要旨」
(以下,「当事者の主張要旨」
単に
という。)の1(2))。
(2)開発利益の概念等
ア「開発利益」という用語は,都再法上の用語ではなく,実務において多義的に使用されているものであるところ,本件で証拠として提出されている文献等(甲1,17,25,乙3,4,12)において述べられているその意義を整理すれば,①再開発事業のもたらす全体の効用を指す概念であり,粗効用-(工事費+資本コスト+用地費)として捉えるもの,②個別の再開発事業において形成された従後資産の価値と事業の原価たる従前資産及び事業費の合計額との差額をいうとするもの,③再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,再開発事業により土地が一体利用されることによる価値の増分をいうとするもの,④再開発事業の施行地区の近隣の土地の価値という観点から,再開発事業による市街地の活性化,利便性の向上等又はこれに対する期待に伴う価値の増分をいうとするもの,⑤再開発事業の施行地区内の土地の価値という観点から,都市計画等の見込み,決定等に基づく再開発事業の完成の期待に伴う価値の増分をいうとするものがある。そして,控訴人の主張する「開発利益」は,その主張内容に照らし,
⑤に該当するもの
(以下,
これを
「開発期待」
と称する。

と解される。
イ前記ア①ないし③の意味における開発利益は,その内容に照らし,再開発事業の完成によって生じるものであることが明らかであり,かかる意味の開発利益が「相当の価額」において考慮されるべきものに該当しないことは,「相当の価額」が評価基準日における価額であるとされていること(都再法80条1項)から明らかというべきである。
ウ一方,再開発事業は,事業による市街地の活性化,利便性の向上等及びこれに対する期待から,評価基準日までに施行区域を含むその近隣の土地全体の地価を上昇させることがあり得る。「相当の価額」とは,従前土地を有する者が近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金額をいうことは前記2に説示したとおりであることからすると,上記のような近隣の土地全体の地価の上昇があるときには当該地価の上昇分を考慮しなければ,従前土地の所有者は近傍において当該従前土地と同等の代替地を取得することができなくなるから,その場合における「相当の価額」の算定に当たっては当該地価の上昇を考慮する必要があるというべきである。前記ア④の意味における開発利益は,このような意味の評価基準日までに生じた施行地区の近隣の土地の価格上昇をいうものであり,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものであると解される。
エ控訴人は,従前土地について,評価基準日までに生じた前記ア⑤の意味における開発期待による価格の上昇を「相当の価額」の算定において考慮されなければならないと主張する。
評価基準日までの期間において従前土地の処分に関する制限はないから,従前土地についても,再開発事業に参加することを希望する者との間で売買が成立することはあり得ることであり,その場合に再開発事業に参加したいと希望する者が開発期待を織り込んだ割増価格で買い受けることもあり得ると考えられる。しかし,当該割増分は,再開発事業に参加を希望する者が再開発事業に対して付加する価値であり,再開発事業の完成によって実現するものであるから,従前土地の売買時点における客観的価値とは異なるものであり,その性質上,従前土地の所有者に補償されるべきものとはいえないというべきである。また,控訴人の主張する開発期待は,評価基準日の時点における従前土地の価格上昇分として把握するものであるから,権利取得者に限らず権利喪失者にも等しく及ぶことになると解されるところ,再開発事業は評価基準日から完成まで更に数年を要することが多く,本件再開発事業においても,本件評価基準日(平成24年3月11日)からその完成予定時期(平成28年10月頃。前提事実(5)キ)まで4年7か月余りの期間が予定されているところであり,その間には多くのリスクが存在し得ることに鑑みると,当該リスクを負担することがなくなる権利喪失者にまで,再開発事業が施行されて初めて実現する付加価値というべき期待に係る利益を,再開発事業が予定されることによって評価基準日までに施行地区及びその近隣の土地全体に等しく生じ得る地価の上昇分に加えて補償する必要があるとは解されず,また,再開発事業で行われる権利変換によって従前土地の所有者が被る特別の犠牲とは,本来,再開発事業が行われない従前の状態における所有権の価値であることからしても,前記ア④の意味の開発利益とは別に再開発事業が施行されるということにより従前土地に係る付加価値として生じるとする開発期待は,従前土地の価値に含まれると解することはできないというべきである。
さらに,「相当の価額」が評価基準日における価額であることに鑑みると,評価基準日までに現実に生じた地価の上昇分は加味されるべきであるということになるところ,前記ア④の意味における開発利益を「相当の価額」の算定に当たって考慮することは,従前土地の所有者に近傍において同等の代替地を取得せしめてその財産権の保障を実行ならしめるために必要不可欠であり,また,都再法80条1項が「相当の価額」を近傍類似の土地の取引価格等を考慮して定めるものと規定することとも整合するのに対し,
控訴人が主張する前記ア⑤の意味の開発期待は,
上記のとおり,再開発事業の完成に期待して付加される価値であり,評価基準日の時点における従前資産の価値とは別個のものである上,多分に個別的要因の強いものであって,かかる付加価値分が施行地区内の土地全体に等しく妥当すると解する根拠を欠くものというべきであるから,「相当の価額」を構成する要因とするのは相当とはいえない。
オ以上によれば,本件再開発事業を起因とする地価の上昇が,前記ア④の意味における評価基準日までに本件施行地区内の従前土地のみならずその近隣周辺において同等に生じるものは,「相当の価額」に含まれるべきものであるが,前記ア⑤の意味における従前土地が再開発事業の施行される土地であることにより生じる同事業完成の期待に伴う価値の増分は,評価基準日以降に生じる付加価値であり,個別的要因によって変動し得る不確定なものであって,施行地区内の土地全体に一般的,普遍的に及ぶ利益ではないから,「相当の価額」の算定において考慮されるべきものではないと解するのが相当である。
したがって,控訴人の前記エの主張及びこれを前提とする本件施行地区内に存在する本件土地の「相当の価額」の算定に当たって本件再開発事業の成果に対する期待による価値の上昇分を考慮しなければならないことをいう控訴人の主張は,採用することができない。
4本件土地の「相当の価額」の算定において本件特区決定の存在を考慮することの可否(争点2)
(1)

控訴人は,建築物の容積率の規制を大幅に緩和する本件特区決定の存在
は,本件再開発事業による開発期待を生じさせる重要な価格形成要因として,本件土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきであると主張する(当事者の主張要旨1(3))。
(2)ア前提事実(3)によれば,本件特区決定は,本件評価基準日の約2年8か月前である平成21年6月22日,本件再開発事業に係る本件都市計画決定と同時に,かつ,本件再開発事業の施行者である被控訴人の前身である本件準備組合の提案に基づいてされたものであり,その内容は,本件再開発事業に係る本件事業計画に沿って,本件施行地区における容積率の最高限度を1330%に緩和し,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築物の建築面積の最低限度を1000㎡と定めるとともに,本件施行地区を一体利用して建築される建築物の外壁又はこれに代わる柱は原判決別紙3-2「計画図」に示す壁面線を越えて建築してはならない旨の壁面の位置の制限等を課すものであることが認められる。
イ以上認定のとおり,本件特区決定は,本件評価基準日前にされたものであり,これが本件施行地区の周辺の土地に影響を及ぼし,本件評価基準日までに当該周辺の土地の価格上昇をもたらした場合には,その価格上昇は,本件施行地区内の従前土地の価格にも影響を及ぼすものであるから,その場合における当該従前土地の「相当の価額」の算定に当たり考慮されるべきものであり,この意味における本件特区決定による影響が考慮されるものであることは,前記3で説示したとおりである。
ウ他方,本件特区決定による本件施行地区内の従前土地についての容積率等の緩和自体は,本件再開発事業により建築される施設建築物を前提として壁面の位置の制限などとともに定められているのであるから,本件再開発事業が完成することでしか実現できないものである。
また,本件特区決定は,前記アのとおり,建築物の建ぺい率の最高限度を8/10,建築面積の最低限度を1000㎡と定めていることからすれば,本件土地(1173.43㎡(土地面積)×0.8(建ぺい率)=938.744㎡(建物建築面積)<1000㎡)はもとより,本件施行地区内のいずれの従前土地も単体では本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることはできないものであり,これに壁面の位置の制限を併せみると,従前土地単体で適用されることは想定されていないということができる。以上によると,本件特区決定それ自体が本件評価基準日前にされていたとしても,本件土地を含む本件施行地区内のいずれの従前土地も単体で本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受けることは想定されておらず,本件再開発事業の施行を離れて本件特区決定があることによる独自の価値増加は観念できない。そして,前記3において説示したとおり,本件再開発事業の成果として実現する価値は従前土地の「相当の価額」を算定する上で考慮されないものであるから,本件特区決定は従前資産たる本件土地自体の価格形成要因として考慮されるものということはできない。また,
本件特区決定が本件再開発事業の実現可能性を高めるものとして,その期待に対する地価の上昇が観念できるとしても,それは本件施行地区の近隣の土地について同様に及んだ地価の上昇を介して従前資産の評価に反映されることになるから,これに加えて,本件土地が本件特区決定の対象とされた本件施行地区内の土地であることを考慮して「相当な価額」の算定をすべきことにはならない。
(3)

控訴人は,被控訴人の定めた従前資産評価基準5条1項は,権利変換又
は取得する土地の価額は「正常な取引価格」によるものとし,従前資産評価基準細則第1が,土地の正常な取引価格は,標準価格比較法により評価するものとし,標準価格は不動産鑑定士が鑑定評価した価格によるものと定めているところ,本件特区決定による公法上の規制を考慮外とすることは,不動産鑑定評価基準に則っていないことになり,許されないと主張する。しかしながら,本件土地を含む本件施行地区内の各従前土地は,前記(2)ウで説示したとおり,本件特区決定による容積率の緩和等の利益を受け得ない土地であるから,結局のところ,本件土地の「相当の価額」を算定するに当たり本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がないことになる。そうすると,被控訴人の定めた従前資産評価基準等に基づいて本件土地の「正常な取引価格」を評価する場合にも,本件特区決定による公法上の規制を考慮する余地がなく,これは同規制がない場合と同じことになるから,本件土地について同規制を考慮外として上記「正常な取引価格」を評価したことが不動産鑑定評価基準に則っていないということにはならない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができず,同主張が指摘する事由は,前記3の「相当の価額」の解釈及び本件土地の「相当の価額」を算定する際の本件特区決定の取扱いについての前記(2)の各説示を左右するものではない。
5本件土地の「相当の価額」の算定方法(争点3の1)
以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決26頁12行目から28頁9行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決26頁16行目の「上記第3の」を「当事者の主張要旨」と,同頁19行目の「前提事実(4)」から同頁21行目末尾までを「前提事実(4)ウによれば,被控訴人は,本件施行地区内の従前資産を評価する基準として従前資産評価基準を,同基準の運用に関する細目として従前資産評価基準細則をそれぞれ定めていること,以上の従前資産評価基準等の定めのうち本件土地の価額の算定に関する部分は,原判決別紙2-2「関係する評価基準等の定め」
のとおりであることが認められる。」と改め,同頁22行目の「まず,」を削る。
(2)原判決27頁17行目の「評価格」(2か所)をいずれも「評価額」と改め,同頁21行目の「上記の」を削る。
(3)

原判決28頁2行目の「上記第3の」を「当事者の主張要旨」と改め,
同頁7行目から同頁9行目までを以下のとおり改める。
「ウ以上のとおり,従前資産評価基準等に定める従前土地の算定方法が本件土地の「相当の価額」を算定する方法として合理性があるものと認められ,控訴人は,従前資産評価基準等に則った算定方法により本件土地の「相当の価額」の主張をしているので,以下,同主張について検討する。」6控訴人の主張する本件土地の「相当の価額」の合理性の有無について(争点3の2)
(1)

控訴人は,本件調査報告書における本件土地の「相当の価額」の評価内
容は,①近隣地域Aの標準的画地aの標準価格について,開発期待や本件特区決定等の影響を除外して1050万円/㎡と評価しているのは誤っており,P1鑑定書(甲19)における1260万円/㎡によるべきであり,②近隣地域Gの標準的画地gの価格に対する本件土地の個別格差修正率について,合計で109%としているのは誤っており,116%とすべきであるほかは,標準的画地aと標準的画地gとの地域格差修正率を71%としていることを含め合理的であり,同報告書の誤りを修正すると,原判決別紙8-1「原告による本件土地の価額の算定方法」のとおり,本件土地に係る「相当の価額」は,本件調査報告書における95億3998万6000円を超える121億8255万円となると主張する
(当事者の主張要旨1(1),
(4)ア,
イ)。
(2)P1鑑定書(甲19)による標準的画地aの標準価格の合理性についてア取引事例比較法の適用について
(ア)採用した取引事例の合理性について
以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決30頁8行目から31頁16行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
a原判決30頁11行目及び31頁11行目の各「上記第3の」をいずれも「当事者の主張要旨」と改める。
b原判決31頁1行目冒頭から同頁3行目の「ところ,」までを「そして,」と,同頁4行目の「回答意見書(甲23)」を「P1鑑定書を補足する回答意見書(甲23。以下「P1補足意見書」という。)」と,同頁12行目の「回答意見書(甲23)」を「P1補足意見書」とそれぞれ改める。c原判決31頁6行目の
「いえなくもない。の後を改行し,

同行の
「ま
た,」から同頁9行目末尾までを「そうすると,P1鑑定書における取引事例(事例地A~C)の選択それ自体が,およそ不合理なものであって,
これらを比較の対象とする取引事例とすることができないとまではいえない。」と改める。
d原判決31頁14行目から同頁16行目までを削る。
(イ)標準的画地aの標準価格の査定における地域要因の比較における開発期待の考慮について
aP1鑑定書は,標準的画地aの標準価格について,本件特区決定による将来の開発可能性がその価格形成要因となるとして,
取引事例比
較法による比準価格の算定(原判決別紙8-2の6(1))及び公示価格等を規準とした価格の算定(同(3))に当たり,
取引事例(A~C)
又は公示地との間の地域要因の比較の中で,いずれも「環境条件」の「将来性」
として標準的画地aを100とした場合に取引事例又は公
示地が5%劣っているとの格差(以下「本件5%の格差」という。)を付している。
P1補足意見書によれば,本件5%の格差を付した理由は,本件特区決定による容積率の緩和を受けるためには建築物の建築面積の最低限度が1000㎡とされているところ,
標準的画地aは500㎡の
ため,
緩和後の容積率を前提として評価することができないことを踏
まえつつ,本件評価基準日において本件特区決定による直接的,具体的恩恵を受けていなくとも,
本件特区決定を受けていることの市場へ
の影響等を評価額に反映させるべきとの観点から,
将来の開発可能性
に係る価格形成要因としたというものである。
しかしながら,本件再開発事業が施行される本件施行地区内の土地であること及び本件特区決定を受けていることによる当該土地自体に係る開発期待は,その「相当の価額」の算定において考慮すべきものでないことは,前記3及び4において説示したとおりであり,P1鑑定書においては,
本件特区決定を受けていることによる付加価値が
現実に発生していることやその程度についての根拠は何ら検証されていない。
bまた,P1鑑定書において標準的画地aと比較の対象となった取引事例(原判決別紙8-2の6(1))は,中央区γ(A),港区δ(B)及び中央区ε(C)にそれぞれ所在するものであり,また,P1鑑定書において考慮の対象となった公示地(同(3))は,中央区ζに所在し,
標準的画地aから100m程度離れているものである。
しかるに,
取引事例Aや公示地が属する近隣地域であるP2駅周辺には,
日本を
代表する高度商業地域が広がり,丸の内,八重洲,京橋エリア等では近年再開発等が多く行われ,高度な商業集積が見られ,近年再開発事業等による建物建替等が進んでおり,
既存ビルを中心とした従来の街
並みから徐々に耐震性能や事務所機能等の優れた高スペックの大型の事務所ビルが増えてゆくものと予測されていること
(乙10,
25)
に照らすと,
再開発事業等に伴う容積率の緩和といった将来の開発可
能性による期待が土地の価格に対して及ぼす影響の有無及びその程度につき,
中央通り沿いの高度商業地域として十分に成熟している標
準的画地aの所在地域と,
上記の取引事例地や公示地との間において,
5%に相当するような有意の差を明確に見いだし得るのかどうかは明らかでない。
P1補足意見書によっても,不動産鑑定の手法として,容積率の緩和自体を捉えるのではなく,再開発事業等に伴う将来の開発可能性(開発期待)
といった要素が施行地区内の宅地の価格に及ぼす影響を捉えるという前提において,当該影響を数量的に把握する方法が確立
している状況にあることは窺われないところであり,また,本件施行地区内の宅地の評価基準日前の直近における取引事例に基づく相場感といったものがあることも窺われないことも考えると,
P1鑑定書
が,標準的画地aと比較の対象となった取引事例等との間で,「将来性」
として5%という僅少とはいえない格差を付するべきであるとし
たことについて,合理性を見いだすことはできない。
c以上のとおりであるから,P1鑑定書における本件土地についての本件5%の格差付けは採用することができないというべきである。そ
うすると,
標準的画地aの標準価格として1260万円/㎡を採用す
ることもできない。
(ウ)前記(ア)及び(イ)を基に前記(イ)で採用できない本件5%の格差付けを除外したP1鑑定書における各取引事例における比準価格は,取引事例Aが1091万円/㎡,取引事例Bが1167万円/㎡,取引事例Cが1148万円/㎡となる。
イ公示価格等を基準とした価格の適用について
P1鑑定書の上記価格1110万円/㎡も,前記ア(イ)で採用できないとした期待性,将来性として本件5%の格差付けをしているものであるから,採用することができない。そして,この格差付けを除外した価格は1053万円/㎡となる。
ウ収益還元法の適用について
P1補足意見書によれば,P1鑑定書の収益還元法では,前記ア(イ)で採用できないとした期待性,将来性を考慮して還元利回りを算出するための数値である賃料の変動率を定め,その変動率を用いて本件土地の収益価格1020万円/㎡を導き出していることが認められるから,同価格を採用することはできない。そして,この点を修正した上記の変動率を認め得る証拠はない。エ以上によれば,P1鑑定書が算定した標準的画地aの価額1260万円/㎡は,その余の点を判断するまでもなく合理性がなく,これを本件土地の「相当の価額」の算定に当たって用いることはできない。
(3)近隣地域Aと近隣地域Gとの地域格差修正率について
ア控訴人は,近隣地域Aと本件土地が存在する近隣地域Gとの地域格差修正率について,本件調査報告書が採用している71%が相当であると主張する。
イ本件調査報告書が採用している地域格差修正率71%の合理性について(ア)本件調査報告書が近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率として71%を採用した経緯及び根拠
前提事実(3)及び(4)並びに証拠(甲21,34の1及び2,38,43,46ないし48,50,乙10,42ないし50)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a本件準備組合は,平成18年2月14日に設立され,都市再生特別措置法(以下「措置法」という。)37条1項に基づく「都市再生特別地区(α3地区)」変更の提案(以下「特区提案」という。)を行うための検討作業を開始した。
本件準備組合は,特区提案の同意(当該提案に係る都市計画の素案の対象となる区域内の土地について,所有権又は建物の所有を目的とする対抗要件を備えた借地権を有する者の3分の2以上の同意を得ること,その同意をした者が所有するその区域内の土地の地積と同意した者が有する借地権の目的となっているその区域内の土地の地積の合計が,その区域内の土地の総地積と借地権の目的となっている土地の総地積との合計の3分の2以上となることが必要となる(措置法37条2項2号)。)を得るための方策として,また,再開発事業の円滑な推進に資することを目的として,不動研に対し,各地権者に対して従前資産及び従後資産の概要を示すための基礎資料とする従前資産及び従後資産の概略調査を依頼した。不動研は,同依頼に基づき,平成19年3月30日付け調査報告書(価格時点を平成18年8月1日とするもの。
以下
「平成19年3月調査報告書」
という。を提出した。

平成19年3月調査報告書の従前土地の概略調査においては,調査対象区域(本件施行地区と同じ)は中央通りに接面する地域と背後の地域に大別することができ,価額形成要因を分析して,広幅員の道路に接面し,繁華性・業務環境が優れ,容積率の高い中央通り沿い,繁華性・業務環境がやや優るβ沿い,これらの地域内を除くその他各区道沿い及び繁華性のやや低い私道(建築基準法42条2項の道路)沿いの地域に分けて6つの近隣地域に区分することが妥当と判断し,本件施行地区をAからFまでの6つの近隣地域(原判決別紙6-2の図面参照。ただし,この時点の近隣地域Fは,近隣地域Gを含むものであった。)に区分した上,中央通りに接面する近隣地域A,背後の地域を代表する地域としての近隣地域Cにおける各標準的画地の標準価格を査定し,次に近隣地域Cの標準的画地の価格形成要因と,近隣地域B,D,E,Fの価格形成要因とを比較し,近隣地域Cの標準価格をもとに,近隣地域B,D,E,Fの各標準価格を査定した。本件土地は,β沿いの近隣地域F内に位置しているところ,近隣地域Fの標準的画地fの面積は120㎡で,その標準価格は,近隣地域Cの標準的画地cの標準価格530万円/㎡×120%=636万円/㎡と評価された。(乙42)
b本件準備組合は,平成19年3月調査報告書提出前の同年1月22日,既に内容が確定していた同報告書の調査内容を踏まえ,控訴人に対し,従前資産の概算として,本件土地については,評価単価を725万円/㎡,総額84億9700万円と説明した。この評価単価は,前記aの近隣地域Fの標準価格636万円に対し,規模格差修正率110%と接面状況による修正率104%を乗じて得られた補正率114%を乗じたものである。控訴人は,上記評価説明に対し,近隣地域Fの中でも本件土地と他の土地とでは大きさが全く異なるため,同じ基準とすべきでない等主張した。(甲21,乙43,44)
c本件準備組合は,平成19年4月通常総会での提示において,控訴人の上記主張も考慮して,
大規模オフィス需要が一段と逼迫しており,
1000㎡以上の画地のスケールメリットが大きくなっているという理由付けにより,近隣地域Fの時点修正後の標準価格700万円に対し,規模格差修正率を115%に拡大し,これに接面状況による修正率104%を乗じて得られた補正率120%を乗じて,本件土地の評価単価を840万円/㎡,総額98億4500万円と評価した。控訴人は,同評価に対し,近隣地域Gを設けて本件土地の従前土地評価額を見直すことなどの要求をした。(甲21,乙44,45)
本件準備組合は,不動研と協議の上,同年10月3日の控訴人との協議において,新たに近隣地域G(原判決別紙6-2の図面参照)を設け,近隣地域Aの標準価格1180万円/㎡に対し,地域格差修正率70%を乗じて近隣地域Gの標準価格を826万円/㎡と算出し,これに規模格差修正率110%に接面状況による修正率104%を乗じた補正率114%を乗じて,
本件土地の評価単価を942万円/
㎡,
総額を110億4100万円としたが,
控訴人は納得しなかった。
(甲21,乙44)
d本件準備組合は,平成22年5月24日,控訴人に対し,改めて,本件土地について,評価単価813万円/㎡,総額95億2900円とする一方,建物について,平成19年3月時点の評価において採用した現価率23.2%を55.5%とする大幅な増額方向での見直しを行い,
控訴人の従前資産全体の評価合計額を107億3900万円
とする従前資産評価を提示をした。(乙45)
控訴人は,上記提示に対し,①本件土地は,近隣地域Gに属しており,標準的画地g(面積500㎡)が適用されているが,近隣地域Gに属する土地は本件土地のみであるから,面積は500㎡ではなく,控訴人所有地の面積1172.09㎡とするのが妥当である,②近隣地域Gの環境条件が中央通り沿いの近隣地域Aと比較して,
繁華性-
5,業務環境-15と低く評価されているが,業務環境に係るJRP2駅への近接性等に鑑みても,
近隣地域Gが近隣地域Aと比較して著
しく劣るとは考えられず,同等以上の評価が適切である旨主張した。(乙46)
本件準備組合は,上記2点について,不動研作成の補足説明資料により,控訴人に説明をしたが,控訴人は納得しなかった。不動研の補足説明資料には,交通・接近条件として,P3駅の近接性が劣る画地についてはP2駅への近接性に優るという傾向が認められるため,近隣地域Aと近隣地域Gとでは同等の評価を行っていること,平成21年相続税路線価によれば,中央通り沿いが1240万円/㎡,β沿いが268万円/㎡であり,近隣地域Aに対する近隣地域Gの路線価割合としては22%程度であるという格差があるが,評価においてはスケールメリット等を十分に考慮して相当程度減価率を圧縮し,近隣地域Aに対する近隣地域Gの標準価格割合は71%程度にしたことなどが記載されている。(乙47)
e本件準備組合は,平成23年2月1日,控訴人に対し,市街地再開発組合設立認可申請のための事業計画内容を控訴人の従前資産にあてはめて算出した参考値として,改めて,本件土地の評価単価813万円/㎡,総額95億2900万円,建物価額12億1000万円,合計107億3900万円を示した。この提示内容は,平成22年5月24日の提示内容と同じであり,控訴人は納得しなかった。(乙48)
f不動研は,平成23年9月21日頃,それまでの概略調査の結果も採り入れて,被控訴人から依頼を受けた本件調査を開始し,平成24年3月29日頃,
本件調査報告書
(乙10)
を作成し,
これを被控訴人に提出した。
本件調査報告書は,本件再開発事業における権利変換計画書の作成のための基礎資料とすることを目的として,従前資産評価基準等に従って本件施行地区内の従前資産の評価を行ったものであり,本件調査の調査目的として,都再法72条及び73条に規定する権利変換計画の策定に必要な従前土地の価額及び従後資産の地価配分比等の調査を行うことにより,事業の円滑な実現を図ることを目的とする旨,従前土地の更地価格の査定について,
調査の条件として都市再生特別地区による公法上の規制は考慮外とし,価格形成要因の分析に当たってこれを考慮外としている点において不動産鑑定評価基準との相違があるが,調査の条件により,建築物の敷地面積の最低限度,壁面の位置の制限等を考慮外として更地価格の査定を行うことは,
都再法80条等の趣旨に合致するものであって合理性が認められる旨,価格等の種類としては,不動産鑑定評価基準における「正常価格」に相当するものである旨記載されている。
g不動研は,控訴人からされた本件調査報告書についての質問に対し,大要,以下のとおり回答した。(甲38,46,50)
(a)本件調査報告書における従前土地の更地価格の査定は,
不動産鑑
定評価基準における正常価格に相当するものであると考える。ただし,市街地再開発事業において施行者の依頼により実施される従前土地の価格等調査業務は,収用委員会が地権者に対する適正な補償額を算定する目的で実施する都再法80条1項に定める従前資産評価額の鑑定業務とは異なり,本件再開発事業の円滑な実現を図ることを目的として行われるものであるため,不動研としては,被控訴人より事情聴取を行った上で,本件再開発事業の事業収支,組合員等の合意形成の必要性,本件再開発事業のそれまでの経緯等の諸般の事情を考慮して,組合員等の従前資産評価額として不当でなくバランスの取れた調査結果を提出した。
(b)組合員の合意形成の必要性等との関係で,
主に中央通り沿いの土
地(表地)と中央通りに面していない土地(裏地(後背地))の評価額の価格差を縮小するように検討し,そのように算定した。その理由は,被控訴人の事情聴取から,本件準備組合が設立される前の段階で,中央区が,本件施行地区内の地権者に対し,土地の従前資産評価額について,表地と裏地との間の評価の格差を小さくする旨の説明していたことが分かり,同格差を放置したままで従前資産評価額を算出すれば,地権者の合意形成が困難であると考えられたためである。
一般に,市街地再開発事業において,施行区域が比較的広い場合
には,繁華な前面道路に面している表地と当該前面道路に面していない裏地とでは従前土地評価額に大きな開差が生じることがあるが,市街地再開発事業の実現により施行区域の土地が全体として一筆の土地になることから,裏地の所有者において表地との価格差について理解が得られず,大きな開差を放置したままでは合意形成が図られない場合がある。その場合に,実務上,裏地である従前土地の状況で継続利用を想定する場合との相対的比較において,近い将来に権利変換によって表地としての競争力の高い資産へと移行する可能性の高い資産であることを地区内の評価バランスを考慮しながら敢えて反映することは可能と考えられ,このような理論・理由で,表地と裏地との間の価格差を縮小する評価を行うことがある。本件再開発事業においても,それまでの経緯を考慮し,上記のような再開発事業の特性から,本件施行地区内の土地の価格の全体的なバランスを考慮して,
表地と裏地との間の価格差を縮小した。
具体的には,
近隣地域Cについては将来性として事例地等に対し-20%の格差付け(結果として25%の上乗せ)をしており,近隣地域Gについては,繁華性,業務環境によるマイナス格差を縮小して評価した。(c)以上のように表地と裏地との間の価格差を縮小することは,再開
発事業の施行区域内の土地であることから理論的に可能となると
考えられる。しかし,この理論は,権利変換により施行地区内の土地が合筆されることを直接評価の対象としているわけではない。
近隣地域Aと近隣地域Gの地域格差修正率71%は,恣意的に高
くしたものではないが,前記(b)のとおり,諸般の事情を総合的に考慮し,
中央通り沿いの表地と中央通りに面していない裏地との間
の評価額の格差を縮小するように算出したものである。
本件土地については,控訴人の合意を得るために恣意的にその評
価額を高位に算出した事実はないが,控訴人から提出された従前資産評価についての意見も十分に考慮した。
(d)不動研としては,収用委員会又は裁判所が「相当の価額」を鑑定した場合には,異なる結果となる可能性があるものと認識しているが,本件調査報告書における調査結果が収用委員会や裁判所が「相当の価額」を鑑定した場合の金額を下回ることは無いと考える。それは,市街地再開発事業における従前資産評価として理論的にも認め得る範囲内において,表地と裏地との間の価格差を縮小し,裏地をより高位に評価しているためである。
(イ)前記(ア)の認定事実によれば,本件調査報告書は,本件再開発事業の権利変換計画の策定のために被控訴人から依頼されて行われた本件施行地区内の従前資産の価格等の調査結果を報告するものであり,本件調査報告書における従前土地の価格は,本件再開発事業の円滑な実現を図るためという依頼目的に沿って,市街地再開発事業における従前資産評価として理論的にも許容される範囲内のものという認識を持って算定されたものであることが認められるが,その算定においては,組合員の合意形成の必要性や本件再開発事業の準備段階からの経緯等の諸事情も考慮して,中央通り沿いの表地と中央通りに面していない裏地との間の価格差の縮小を図り,裏地をより高位に評価したものであり,特に本件土地の価格については,控訴人の意向が相当採り入れられて出されたものであることが認められる(前記(ア)bないしg)。また,本件調査報告書を作成した不動研自身が,本件土地の「相当の価額」を鑑定した場合には,本件調査報告書とは異なる価額となる可能性があるとの見解を示していることを併せ鑑みると,本件調査報告書は,その作成依頼目的に沿う価格等調査としては正当なものと評価し得ても,上記のとおり調整された価格を提示したものであるという点で,
当裁判所が本件土地の
「相
当の価額」を認定する根拠としてそのまま採用することはできないものである。殊に,本件施行地区内の従前土地のうち裏地に当たる土地の価額は,上記の諸事情を考慮し,表地との価格差の縮小を図るために高位に評価したというものであることからすると,本件調査報告書が採用している近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率71%については,当裁判所が行う本件土地の「相当の価額」の認定をする際の基礎数値として採用することはできないものである。
なお,以上の点に関して,控訴人は,被控訴人が,収用委員会の本件審理において本件調査報告書における本件土地の評価額を本件土地の「相当の価額」と主張するなど,本件調査報告書における評価額をもって「相当の価額」であるとしていたことに照らすと,被控訴人において同評価額が直ちに「相当の価額」になるわけではないなどと主張することは信義に反し許されないと主張する。しかしながら,本件訴訟における本件土地の「相当の価額」の審理判断は,本件評価基準日における本件土地の「相当の価額」を客観的に認定し,認定された価額が収用委員会の裁決に定められた価額と異なるときは,裁決に定められた価額を違法とし,本件土地の「相当の価額」を確定することであるから,被控訴人が本件審理において主張した価額と異なる価額を本件訴訟において主張することが,直ちに信義則に反するものとはいえないこと,被控訴人は,本件再開発事業の円滑な実現を図ることを目的として,組合員等の合意形成の必要性や従前の経緯等にも配慮した本件調査報告書の調査結果を踏まえて本件再開発事業を進めてきたが,控訴人との間においては本件裁決を経て本件訴訟に至ったことから,本件訴訟においては,収用委員会の鑑定(都再法85条3項,土地収用法94条6項,65条1項2号)の結果を踏まえた本件土地の「相当の価額」の主張をしていることが窺われ,控訴人自身も,本件土地の「相当の価額」について,本件審理において主張した価額とは異なる価額及びその算定根拠を本件訴訟において主張していることを考慮すると,本件訴訟における被控訴人の本件土地の「相当の価額」に関する主張が信義に反し許されないものであるとはいえない。
ウ控訴人は,前記アの点以外にも,近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率は71%とするのが相当であることの根拠を主張しているので,以下検討する。
(ア)控訴人は,再開発予定地における表地と裏地との間の格差率が,商業地については,一般的に,表地10に対し裏地7又は6とされていることから,
近隣地域Aと近隣地域Gとの地域格差修正率を71%とすることは合理的であるとの主張をしている(当事者の主張要旨1(4)ア,原判決別紙9の第1の2(1))。
この点,再開発事業における従前土地の評価について,「商業地について,一般的に表地と裏地の格差を10:7とか10:6とかいうことがある。」と記載されている不動産鑑定士の執筆による文献(甲20)があるが,同文献は,同記載に続けて,「上記のような一般論では,地権者を納得させることはできないであろう。」と記載し,地権者の納得を得るためには,表地と裏地との格差率の算定に当たり,現地における通行量,店舗の特徴,核店舗との関係等の実査が必要であることを述べており,上記の格差率の正当性ないし通用性について,具体的な根拠を挙げて論じているものではない。このような記載内容に照らすと,上記文献によって上記の格差率の正当性を肯定することはできない。
(イ)控訴人は,上記文献が言及する格差率6~7割というのは,再開発事業完成後の施行地区内の各土地は全体として一体利用の敷地となり,当該各土地の効用の和以上の効用増をもたらし,
裏地もこの効用増に寄
与することから,
この寄与分を裏地の評価において考慮するのが妥当で
あるという再開発事業の施行区域内に属する表地と裏地の格差の特性によるものであるとも主張するところ,
これと同旨の理由をもって表地
と裏地との間の格差率が通常の評価よりも小さく扱われることが実務上多いことを指摘する文献(甲14)もある。
しかしながら,再開発事業完成後の一体利用の敷地としての効用増に対する寄与分という考え方は,前記3(2)ア③の開発利益又は同⑤の開発期待と同じものを観念していると解されるところ,
これらが評価基準
日における従前土地の「相当の価額」を算定するに当たって考慮すべきではないと解されるものであることは,
前記3及び4において説示した
とおりである。(ウ)控訴人は,本件調査報告書において,近隣地域Aと近隣地域Fとの間の地域格差修正率が62%とされていることからすると,
近隣地域A
と近隣地域Gとの間の地域格差修正率を71%とすることは合理的であると主張する
(当事者の主張要旨1(4),
原判決別紙9の第1の2(1))

そして,
この点に関して,
本件調査報告書の標準的画地a
(500㎡)
の標準価格に対する標準的画地f(120㎡)の標準価格を計算すると62%となることから,
標準的画地aと標準的画地fの地域格差修正率
は62%であるという前提で考えた場合,
標準的画地aと標準的画地g
との地域格差修正率(71%)と標準的画地aと標準的画地fとの同修正率(62%)とは,標準的画地gと標準的画地fの環境条件等を勘案すれば,整合性がとれている旨の不動産鑑定士の意見書(甲22)がある。
しかしながら,上記意見書は,本件調査報告書における標準的画地aと標準的画地fの各調査価格から計算した地域格差修正率が62%であることを前提とした意見であるところ,
本件調査報告書における裏地
の評価額は,組合員の合意形成の必要性等諸般の事情を考慮して,表地(標準的画地a)
の評価額との価格差を縮小するように調整したもので
あることは前記イ(イ)において説示したとおりであるから,
裏地に属す
る標準的画地fの評価額は客観的な価額に比べて過大なものであることが推認されるのに対し,上記意見書では,その前提としている本件調査報告書における標準的画地fの評価額の合理性について何ら言及していないことに照らすと,
単純に本件調査報告書における標準的画地f
の評価額を用いて上記意見を述べているものと解されるから,
その前提
において失当であり,採用することはできない。
(エ)控訴人は,本件調査報告書における近隣地域Cの標準価格から検証しても,
近隣地域Aと近隣地域Gとの地域格差修正率71%は妥当であると主張する(当事者の主張の要旨1(4),原判決別紙9の第1の2(1)(補正後のもの))。
しかしながら,
本件調査報告書は,
組合員の合意形成の必要性等から,
それまでの経緯や控訴人からの意見要望等を考慮して,
表地と裏地の価
格差を縮小するように調整しているものであり,その一環として,近隣地域Cについては将来性として事例地等に対し-20%の格差付けをして結果として25%の上乗せ評価になっているのである
(前記イ(ア)
g(b))。そうすると,本件調査報告書における近隣地域Cの標準価格は,
本件調査報告書作成依頼の目的の観点からは正当性を肯認し得るとしても,当裁判所が審理判断する「相当の価額」の基礎事実とすることはできないものというべきであるから,
控訴人の上記主張は採用するこ
とができない。
(オ)控訴人は,近隣地域A及び近隣地域Gのような都心の高度商業地においては,収益性が重視されて価額が決定されるところ,大和不動産鑑定株式会社作成の調査報告書(甲28。以下「大和不動産調査報告書」という。)は,収益還元法によって収益価格を求めると,近隣地域Aの標準的画地aは48億4000万円(単価968万円/㎡),近隣地域Gの標準的画地gは35億3000万円(単価706万円/㎡)と算定評価され,その比率は73%となるとし,本件調査報告書が両者の間の地域格差修正率を71%としたことには一定の合理性があると結論づけていることからも,上記地域格差修正率が妥当であると主張する(当事者の主張の要旨1(4),
原判決別紙9の第1の2(1)補正後のもの)。


しかし,証拠(甲28)によれば,大和不動産調査報告書には,その調査価格について,
不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行った場合
には結果が異なる可能性がある旨注記されている上,
調査に当たっては
収益還元法(開発賃貸型)による収益価格をもって調査価格等を出したとしており,複数の評価方法を総合するのではなく,そのうちの収益還元法のみに依拠して上記意見を出しているにすぎないことが認められる。そして,収益価格算定の主要な要素である還元利回り率を標準的画地aについては4.1%,標準的画地gについては4.2%としたことについて具体的な説明はなく,その相当性,正当性を検討することができないものである。そうすると,上記意見書における調査価格の客観性が担保されているということは困難であり,
同調査価格を直ちに近隣地
域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率の合理性,
相当性の判断に反
映させることはできない。
エ近隣地区Aと近隣地区Gとの間の地域格差修正率の検討
(ア)下記に挙げる証拠によれば,近隣地域A(標準的画地a)と近隣地域G(標準的画地g)に関して,以下の事実が認められる。
a平成24年度の路線価は,近隣地域Aが896万円/㎡,近隣地域Gが210万円/㎡であった。(乙31)
b平成24年1月1日時点における公示価格は,中央通り沿いの「公示地中央5-33」(中央区ζ)が1200万円/㎡,β沿いの「公示地5-7」(中央区η)が555万円/㎡であった。(乙10,25,30)
c標準的画地aの接する中央通りは,幅員27.23mの両側歩道付舗装道路(国道)である。他方,標準的画地gの接するβは,幅員11mの両側歩道付舗装道路(区道)である。(乙10)
d平成18年9月26日の時点における自動車交通量(12時間当たり)中央通りが1万4173台であり,
は,
βが3178台であった。
(乙13)
e近隣地域Aは,東京メトロP4線P3駅7番出口に近接し,中央通りに面していることから,歩行者通行量が多い地域となっている。近隣地域Gは,裏地ではあるものの,βの歩行者通行量は一定程度認められる。(甲28の15頁)
f中央区が平成21年9月に策定した「P2駅前地域のまちづくりガイドライン」(以下「本件ガイドライン」という。)は,P5・P2駅前地区地区計画の区域のうち,P2駅前の外堀通り,永代通り,昭和通り及び鍛冶橋通りに四方を囲まれた約39haの区域を対象範囲とし,
文化と歴史を継承しつつ日本の活力を象徴する安全で快適な
国際的に活力にあふれた都心として再生し受け継いでいくため,
ガイ
ドラインとして,その将来像を示すものであるところ,中央通りは,本件ガイドラインの対象範囲における商業,
文化及び観光の骨格軸と
してP4~P3~P5のにぎわいの連続性を形成する唯一の
「にぎわ
い骨格軸」として位置づけられているのに対し,βは,街区再編に伴う質の高い機能集積を支える地区内サービス動線として整備される「地区内回遊道路」のうちの一つとして位置づけられている。(乙13,36)

不動研における近年の市街地再開発事業の従前土地評価事例4例
(中央区2例,
港区1例,
文京区1例)
によると,
主要道路
(表通り)
沿いの近隣地域の標準価格を100とした場合の後背地道路
(裏通り)
沿いの近隣地域の標準価格の指数は,38,40,49,59(指数の平均値は46.5)であった。(乙35)

(イ)前記(ア)の認定事実に基づき,近隣地域Gと近隣地域Aを比較すると,以下のとおりである。
①客観的な土地の価格の物差しとしての信頼性が肯定できる路線価(控訴人が依拠しているP1鑑定書を作成したP1不動産鑑定士も,路
線価は客観的な物差しとして決して小さくない信頼性が認められるとしている(甲23)。)は,近隣地域Gは近隣地域Aの約23.4%である。②公示価格は,β沿い(近隣地域G)は中央通り沿い(近隣地域A)の約46.3%である。③前面道路は,近隣地域Gに面するβは区道であるのに対し,近隣地域Aに面する中央通りは国道であり,βの幅員は中央通りの半分にも満たない。
自動車交通量
(12時間当たり)
は,
βは中央通りの約22.4%にとどまっている。④中央区作成の本件ガイドラインでは,
中央通りを本件ガイドライン対象地区約39haにお
ける唯一の「にぎわい骨格軸」として位置づけているのに対し,βは地区内サービス動線として整備される「地区内回遊道路」とされているにすぎない。
以上の事実関係を勘案すると,
裏地である近隣地域G
(標準的画地g)
は,表地である近隣地域A(標準的画地a)よりも街路条件(幅員)及び環境条件(繁華性,業務環境等)が著しく劣っているということができ,また,再開発事業の完成によって表地と裏地が一体利用の敷地となることによる寄与分を従前資産の「相当の価額」の算定過程における地域格差修正率に反映させるという考え方が採用できないことに鑑みると,両地域ないし両標準的画地の地域格差修正率は,容積率(行政的条件)の差によるマイナス修正(本件調査報告書では修正率-6%(原判決別紙6-1の4)とされている。)を含めても,近隣地域Aと近隣地域Gとの地域格差修正率は最大でも50%を上回ることはない
(標準的
画地aの標準価格を100とした場合には標準的画地gの標準価格は50以下である。)と解するのが相当である。
(ウ)前記(イ)の点に関して,控訴人は,平成24年度の路線価では開発期待が具現化される土地であることが考慮されておらず,
平成25年度
の路線価表において本件施行地区は再開発事業区域(個別評価)とされていることが考慮されるべきであると主張する。しかしながら,「相当の価額」
の算定において開発期待を考慮すべきでないことは前記3において説示したとおりであり,平成25年度路線価表は,平成24年12月14日に本件施行地区において権利変換が行われたこと(前提事実(5)ア)に対応するものであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
また,
控訴人は,
自動車交通量を判断要素とすることに合理性はなく,
歩行者通行量を比較すべきであると主張する。しかしながら,両通りの歩行者通行量の実数を認定し得る証拠はないものの,
中央通りの歩行者
通行量は多いとされ,
βのそれは一定程度認められるというものであっ
て(前記(ア)e),中央通りの方がβを上回っていることは明らかであるといえる上,一般的に,繁華街における自動車交通量の差(βは中央通りの4分の1以下。前記(ア)d)は,歩行者通行量の差にも反映するものと考えられるから,いずれの比較においても,近隣地域G(標準的画地g)と近隣地域A(標準的画地a)との地域格差は2倍以上の大きさがあるということができ,両土地の地域格差率の割合に関する前記(イ)の判断を左右するものではない。
さらに,控訴人は,本件ガイドラインの内容は近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差を示すものではなく,近隣地域Gは,近隣地域AよりもP2駅に近く,P2駅への至便性を考慮すべきであると主張する。しかしながら,中央通りとβの幅員,自動車通行量及び歩行者通行量に大きな差があることは,上記のとおりであり,証拠(乙10の64頁)及び弁論の全趣旨によれば,
近隣地域GはP2駅から約400メートル,
P3駅から約120メートルの場所にあるのに対し,近隣地域AはP2駅から約500メートル,P3駅から約10メートルの場所にあり,近隣地域Gは,近隣地域Aと比較して,P2駅との近接性では約100メートル遠いというにすぎず,P3駅との近接性では110メートル近いことを併せ鑑みると,上記の差は前記(イ)の判断を左右するものではない。(4)

近隣地域Gの標準的画地gの価格に対する本件土地の個別格差修正率に
ついて
原判決37頁11行目から40頁6行目までに記載のとおり(ただし,原判決37頁18行目,38頁12行目及び25行目並びに39頁23行目の各
「上記第3の」
をいずれも「当事者の主張要旨」と,38頁17行目の「上
記2」を「前記2で引用する補正後の原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」
の2」
とそれぞれ改める。であるから,

これを引用する。
(5)

以上によれば,控訴人が主張する本件土地の「相当の価額」(原判決別
紙8-1「控訴人による本件土地の価額の算定」)は,その算定過程において近隣地域Gの標準的画地gの標準価格に対する本件土地の個別格差修正率を116%とすべきであるとする点においては是認することができるが,その修正率による修正をする前提となる①本件土地について開発期待に相当する将来性という理由で本件5%の格差を採り入れたP1鑑定書に基づいて近隣地域Aの標準的画地aの標準価格を1260万円/㎡としている点(同別紙の2),②近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率を71%としている点(同別紙の3)において合理性がなく,これらの金額及び数値に基づいて算定している点において,採用することはできない。7収用委鑑定書の合理性の有無について(争点3の3)
(1)前提事実(6)オによれば,収用委鑑定書における鑑定の手法の概要は,原判決別紙7-1「収用委鑑定書の要旨」のとおりであることが認められ,同手法は,本件土地だけを対象としてその「相当の価額」を算定評価するものであり,本件施行地区内の従前土地全部について一様に適用する従前資産評価基準等が定める手法と同じものではないと認められる。
(2)

控訴人は,本件評価基準日前に生じた本件特区決定による影響を考慮し
ない収用委鑑定書は合理性を欠くと主張し,(乙25,
証拠
28)
によれば,収用委鑑定書においては,本件特区決定による容積率の緩和は考慮していないと認められる。
しかしながら,本件土地の「相当の価額」を算定するに当たり,本件土地に係る本件特区決定の影響は考慮すべきでないことは,前記4において説示したとおりであるから,上記主張は,収用委鑑定書の合理性を左右するものではない。
(3)ア控訴人は,
再開発事業の従前資産である土地の評価は,
標準地比準評価
法(損失補償基準別記1土地評価事務処理要領4条参照)によるべきであり,本件再開発事業における従前資産評価基準細則第1の3も,原則として標準価格比較法により評価するものとされているから,近隣地域の設定に当たっては,行政的条件に着目して本件施行地区の範囲を近隣地域とすべきところ,収用委鑑定書が,本件再開発事業を考慮外とする前提条件を定め,本件施行地区外を含む範囲を近隣地域として設定している点は不合理であると主張する。
イ損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)別記1土地評価事務処理要領4条1項は,土地の評価は,原則として標準地比準評価法により行うものとし,同条2項は,標準地比準評価法により難い場合は,路線価式評価によることができるものとし,同条3項は,その他の地域内の土地は個別に評価することができるものとするところ,ここに標準地比準評価法とは,評価に係る地域を土地の用途的観点から用途地域に区分し,用途地域を地域的統制に着目して同一状況地域に区分した上,同一状況地域内に標準地を設定し,その標準地と比準して各画地を評価する方法であり,一度に多数の画地の正常な取引価格を求める手法である。(甲12の1及び2,乙26)
他方,不動産鑑定評価基準の近隣地域とは,対象不動産の属する用途的地域であって,より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって,居住,商業活動,工業生産活動等人の生活と活動に関して,ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域であると規定されている。(乙26)
ウ前提事実(6)オ及び証拠(乙25)によると,収用委鑑定書は,近隣地域を,対象不動産を中心として北東方約60メートル,北西方約45メートル,南西方約30メートル,南東方約40メートルの中高層の店舗付事務所ビルないし事務所ビルを中心とする業務型の商業地と判定しており,商業地としての用途や地域要因の共通性という観点からβ沿いの地域の複数の街区を取り込んでいるものであり,上記不動産鑑定評価基準の近隣地域の概念に沿ったものといえること,前記3において説示したとおり,前記3(2)ア①ないし③の開発利益並びに同⑤の開発期待は「相当の価額」の算定に当たって考慮されるものではないのに対し,近隣の地価の上昇を通じて施行地区内の土地の価格にも反映され得ることから同④の意味における開発利益は考慮されるべきものであることに鑑みると,本件施行地区に隣接する地域を取り込んで近隣地域を設定して本件土地の「相当の価額」を算定することは,評価手法として許容されるものと解される。そして,本件審理においては,本件土地の「相当の価額」のみが問題となっており,一度に多数の画地の評価を求める案件ではなかったことを考慮すると,本件審理において上記の標準地比準評価法を適用すべき絶対的な必然性は認められず,本件土地のみを対象としてその「相当の価額」の鑑定評価を行った収用委鑑定書について,その具体的方法に問題があるなどの事情がない限り,収用委鑑定書が妥当性を欠くものであると解することはできないというべきである。
そして,証拠(乙25)により認められる収用委鑑定書における本件土地の「相当の価額」の具体的な鑑定評価の手法及び評価額の決定の過程に照らし,また,それらが問題のないものとする不動研の意見(乙28)があるのに対し,収用委鑑定書の鑑定評価を覆すに足りる的確な証拠はないことに鑑みると,収用委鑑定書における本件土地の鑑定評価額45億2943万9800円は,同鑑定書における鑑定手法の下において算定される本件土地の「相当の価額」として妥当性を有するものと認めるのが相当である。
(4)

控訴人は,事情として,本件準備組合及び被控訴人と連続性のあるθ会
地区検討会が地権者に対して貢献度に応じて開発利益を配分するとしていたこと,平成20年6月26日付けで中央区副区長との間で本件覚書が作成された経緯を踏まえると,控訴人に対する未配分の開発利益が本件土地の価額に反映されるべきであると主張する。
しかしながら,θ地区検討会が本件準備組合ないし被控訴人と権利主体として連続性を有する組織であったことや,本件覚書の作成に本件準備組合ないし被控訴人が関与したことを認めるに足りる証拠はなく,本件覚書の効力が本件準備組合ないし被控訴人に及ぶことを認め得る事情も窺えない。また,控訴人は,控訴人に帰属すべき未配分の開発利益は20億円を下らないとも主張するが,「相当の価額」の算定において上記開発利益の配分が考慮されるものではないことは,前記3において説示したところから明らかである。
したがって,控訴人の上記各主張は,前記(3)の判断を左右するものではない。
8以上の検討によれば,本件訴訟において本件土地の「相当の価額」として採用できるのは,収用委鑑定書が示す価額であるところ,同価額は,本件裁決が定めた価額を上回らないものである。また,P1鑑定書における取引事例比較法で挙げられている取引事例AないしCについての前記6(2)ア(ウ)の比準価格のうち最も高額な取引事例Bの1167万円/㎡,前記6(3)で検討した近隣地域Aと近隣地域Gとの間の地域格差修正率として是認できる範囲で最も高い50%及び前記6(4)の標準的画地gの価格に対する本件土地の個別格差修正率116%に基づいて本件土地の価額を算定しても,その価額は本件裁決における本件土地の価額85億7542万6440円を超えない79億4247万8298円にとどまるから,本件裁決を違法と判断することはできない。9以上のほかに控訴人が当審において主張していることは,いずれも前提を欠くものか,独自の見解によるものであり,採用することができない。10以上によれば,控訴人の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は結論において相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16民事部

裁判長裁判官

青野洋士
裁判官

前田英子
裁判官

藤澤孝彦
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