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租税協定に基づく情報交換要請取消等請求事件
事件番号平成25(行ウ)618等
事件名租税協定に基づく情報交換要請取消等請求事件
裁判年月日平成29年2月17日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項及び所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づき,我が国が要請国としてする情報の要請行為と抗告訴訟の対象
2 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項及び所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づき,我が国が要請国としてする情報の要請行為により情報を交換されない地位にあることの確認並びに上記協定及び上記条約に基づき得られた資料を利用されない地位にあることの確認を求める訴えの適否
裁判要旨1 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項及び所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づき,我が国が要請国としてする情報の要請行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
2 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項及び所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づき,我が国が要請国としてする情報の要請行為により情報を交換されない地位にあることの確認並びに上記協定及び上記条約に基づき得られた資料を利用されない地位にあることの確認を求める訴えは,公法上の法律関係に関する予防的確認の訴えとして,不適法である。
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平成29年2月17日判決言渡
平成25年(行ウ)第618号租税協定に基づく情報交換要請取消等請求事件平成27年(行ウ)第172号租税条約に基づく情報交換要請取消等請求事件主1文
本件各訴えのうち原告らが被告に対し金員の支払を請求する以外の請求に係る部分をいずれも却下する。

2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1平成25年事件
(1)国税庁長官官房国際業務課長が,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項に基づき,シンガポール共和国政府に対して2012年(平成24年)11月22日付け「RE:ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもってした平成25年事件原告らに関する情報の要請を取り消す。
(2)平成25年事件原告らは,Z1及びZ2の平成21年分ないし平成23年分の所得税の調査手続の一環として,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定26条1項に基づく2012年
(平成24年)
11月22日付け
「RE:
ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもって日本国政府からシンガポール共和国政府に対して行われている情報の要請において,同日以降,それぞれ自身に関する一切の情報を交換されない地位にあることを確認する。
(3)平成25年事件原告らが,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定に基づきシンガポール共和国政府から得られるそれぞれ自身に係る情報が記載された資料を,被告及び関係行政庁によって利用されない地位にあることを確認する。
(4)被告は,平成25年事件原告Z3に対し,100万円を支払え。(5)被告は,平成25年事件原告MAMPTE.LTD.(以下「原告MAM」という。)に対し,1150万円を支払え。
2平成27年事件
(1)国税庁長官官房国際業務課長が,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づき,オランダ王国政府に対して2012年(平成24年)11月27日付け「RE:ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもってした平成27年事件原告に関する情報の要請を取り消す。
(2)平成27年事件原告は,Z1及びZ2の平成21年分ないし平成23年分の所得税の調査手続の一環として,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約25条1項に基づく2012年(平成24年)11月27日付け「RE:ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもって日本国政府からオランダ王国政府に対して行われている情報の要請において,同日以降,自身に関する一切の情報を交換されない地位にあることを確認する。
(3)平成27年事件原告が,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約に基づきオランダ王国政府から得られる自身に係る情報が記載された資料を,被告及び関係行政庁によって利用されない地位にあることを確認する。
(4)被告は,平成27年事件原告(以下「原告マキス」という。)に対し,100万円を支払え。第2事案の概要
本件は,Z1及びZ2(以下「Z4夫婦」という。)の平成21年分ないし平成23年分の所得税の調査に関連して,国税庁長官官房国際業務課長(以下「国際業務課長」という。)が,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定(以下「日星租税協定」という。)及び所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約(以下「日蘭租税条約」といい,日星租税協定と合わせて「本件各租税条約」という。)に基づき,シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)及びオランダ王国(以下「オランダ」という。)に対し,Z4夫婦の家族又は関係会社である原告らに関係する情報を要請したことについて,原告らが,当該情報要請は本件各租税条約に違反してされたものであり,これらにより自身ないし顧客のプライバシーその他の権利利益を侵害されると主張して,①その取消しを求め(平成25年事件請求(1),平成27年事件請求(1)。以下「本件各取消請求」という。),②これらの情報要請により一切の情報を交換されない地位にあることの確認(平成25年事件請求(2),平成27年事件請求(2))及び本件各租税条約に基づき自身に関して得られた資料を被告及び関係行政庁に利用されない地位にあることの確認を求める(平成25年事件請求(3),平成27年事件請求(3)。以下,②の各確認請求を「本件各確認請求」と総称する。)とともに,③国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,原告Z3において精神的損害の,原告MAM及び原告マキスにおいて財産的及び非財産的損害(原告マキスにおいてはその一部)
の各賠償を求める
(平成25年事件請求(4)
(5),平成27年事件請求(4)。以下「本件各国賠請求」という。)事案である。1関係法令等の定め
(1)日星租税協定

日星租税協定は,日本とシンガポールとの間で締結され発効している国際協定であり,別紙1のとおり規定している(甲1)。イ
別紙1の日星租税協定26条は,2010年(平成22年)2月4日に両国により署名された議定書により改正され,同改正は,同年7月14日に発効したものである(甲7,乙10)ところ,同改正前の日星租税協定(以下「旧日星租税協定」という。)26条1項1文及び2文は,「両締約国の権限のある当局は,この協定若しくはこの協定が適用される租税に関する両締約国の法令(当該法令に基づく課税がこの協定の規定に反しない場合に限る。)を実施するために必要な情報を交換する。情報の交換は,第1条の規定による制限を受けない。」と規定していた(甲6)。
すなわち,条文上,旧日星租税協定26条に基づく情報の交換においては,
同協定自体のほか,
同協定2条により同協定が適用される租税
(日
本国においては所得税,法人税及び住民税,シンガポールにおいては所得税)に関する両締約国の法令を実施するために必要な情報を対象とするとされていたものが,同改正後の現行の日星租税協定(以下,旧日星租税協定と区別する場合において「改正日星租税協定」ということがある。)26条に基づく情報の交換においては,同協定の実施のほか,両締約国又はそれらの地方公共団体が課する全ての種類の租税に関する両締約国の法令の規定の運用又は執行に関連する情報をも対象とするとされた。

(2)日蘭租税条約
日蘭租税条約は,日本とオランダとの間で締結され発効している国際条約であり,別紙2のとおり規定している(甲A1)。
(3)経済協力開発機構(以下「OECD」という。)モデル租税条約本件各租税条約は,いずれもOECDのモデル租税条約に準拠して締結されたものであり,二重課税の排除を目的として,所得と財産に関する税制等を定めるとともに,その不当な利用による租税回避及び逋脱を目的とした濫用に対処するため,締約国間で情報交換を行うことを可能にしているものである。
OECDモデル租税条約において,情報交換は,特定の事案を念頭に置いた要請に基づく情報交換のほか,自動的情報交換及び自発的情報交換が可能とされている。((3)全体につき,乙1)
(4)国税通則法
ア平成23年12月2日前までの更正期限
(ア)国税通則法
(平成23年法律第114号
(以下
「平成23年改正法」
という。)による改正(以下「平成23年改正」という。)前のもの。以下「旧通則法」という。)70条1項1号は,更正は,その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては,
すること
ができないと規定していたところ,その期限は,平成23年改正法により法定申告期限から5年と改められたが,
施行日である平成23年12
月2日前に法定申告期限が到来した国税については,
なお従前の例によ
るとされた(平成23年改正法附則1条本文,37条1項)。
(イ)もっとも,
偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税
額を免れた国税についての更正決定等は,上記(ア)にかかわらず,その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで,
することが
できる
(旧通則法70条5項。
平成23年改正後の国税通則法
(以下
「新
通則法」という。)70条4項においても同じ。)。
イ調査の終了の際の手続の整備
(ア)新通則法は,
従前各税法に分かれて置かれていた質問検査権に関す
る規定を整理統合等して新設した

「第7章の2国税の調査」
の中に,
「(調査の終了の際の手続)」として,「税務署長等は,国税に関する実地の調査を行った結果,
更正決定等をすべきと認められない場合には,納税義務者であって当該調査において質問検査等の相手方となった者に対し,
その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面
により通知するものとする。」と定める同法74条の11第1項を新設した。
ただし,同項の通知をした後においても,当該職員は,新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは,
同章に含まれる同法74条
の2から74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき,当該通知を受けた納税義務者に対し,質問検査等を行うことができる(同法74条の11第6項)。
(イ)上記(ア)の各規定は,
平成25年1月1日以後に納税義務者に対し
て行う質問検査等(同日前から引き続き行われている調査又は徴収(同日前にその者に対して当該調査又は徴収に係る各税法の規定による質問,検査等を行っていたものに限る(平成23年改正法附則39条1項参照)。以下「経過措置調査等」という。)に係るものを除く。)について適用する(同条3項)。
(ウ)国税庁は,平成24年9月,「税務調査手続等の先行的取組の実施について」と題する方針を公表した。
そこでは,
平成23年改正により法定化された税務調査手続等につい
ては,原則として,平成25年1月1日以後に開始する調査から適用されることになるが,国税庁においては,同改正の趣旨を踏まえ,新通則法施行後における税務調査手続等を円滑かつ適切に実施する観点から,平成24年10月1日以後に開始する調査から一定の調査手続について先行的に取り組むことを予定するとされていた。
もっとも,
上記の先行的取組では実施しない主な調査手続の1つとし
て「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」が挙げられ,その説明として,新通則法施行後においては,実施の調査の結果,調査した全ての税目及び課税期間のうち,非違が認められなかった税目及び課税期
間がある場合には「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」を送付することになるが,先行的取組においては,従来どおり調査した全ての税目及び課税期間について非違が認められなかった場合で,
かつ指導
事項がない場合に「調査結果のお知らせ」を送付する旨が述べられている。
また,
質問検査等の開始時期による区分と実際の運用月とをマトリッ
クス状にして運用方針を示した
「先行的取組の対象となる調査及び新法
の適用となる調査について」と題する図が参考として添付され,そこでは,「平成24年9月以前に質問検査等を開始する調査」及び「平成24年10月から12月の間に質問検査等を開始する調査」
の区分のいず
れについても,
平成25年1月以降の新通則法の適用はないとされつつ,
新通則法の施行される同月以降は,調査の終了の際の手続について,運用上,新通則法に準じて実施する方針が示されていた。
((ウ)全体につ
き,甲19)
2前提事実
(1)当事者等
アZ1(昭和23年●月●●日生。)は,パソコン周辺機器メーカーの株式会社バッファローなどから成るメルコグループの創業者で,
同グループ
の持株会社である株式会社メルコホールディングス(以下「メルコHD」という。の代表取締役であり,

その妻であるZ2との間に,
原告Z3
(昭
和55年●●月●●日生)及びZ5の2名の子がいる。Z4夫婦は,かねて名古屋市α区に在住していたが,
平成24年12月18日に東京都千代
田区に転居した。(乙3,5の1・2,弁論の全趣旨,オランダ商工会議所作成の原告マキスの商業登記簿登録事項証明書)
イ原告マキスは,Z4夫婦が出資して2002年(平成14年)10月18日にオランダで設立し,Z1が代表取締役に就任した有限責任かつ非公
開の外国会社(メルコHD株式の持株会社)である。
Z4夫婦は,Z1が別に2003年(平成15年)5月26日にオランダに設立し,単独で理事を務めるマキス財団に対し,同日,原告マキス株式の全部を預託し,その旨の証書(以下「本件マキス株式預託証書」という。)の発行を受けた。(イ全体につき,乙3,弁論の全趣旨,オランダ商工会議所作成の原告マキスの商業登記簿登録事項証明書)
ウ原告MAMは,原告Z3が全部を出資して2006年(平成18年)7月28日にシンガポールで設立し,
その後取締役に就任した有限責任かつ
非公開の外国会社(投資運営会社)であり,旧商号をメルコ・アセット・マネージメントPTE.LTD.といったが,2007年(平成19年)10月5日に現在の商号に変更された。なお,原告Z3は,シンガポールの永住権を取得している。(乙3,シンガポール会計・法人監督庁作成の原告MAMの登録証明書)
エオランダでは,原告Z3が全部を出資して2007年(平成19年)10月2日に外国会社であるM.マキ・アンド・サンズB.V.(以下「マキサン」という。)が設立され,同社は原告MAMがケイマン諸島のCLOSETRUSTEESLTDを介して運用していたユビキタス・マスター・シリーズ信託と呼ばれる投資ファンド(以下「ユビキタス・ファンド」という。)の管理に携わった。原告Z3は,2009年(平成21年)9月28日,マキサン株式の全部をZ1に譲渡し(以下「本件マキサン株式譲渡」という。),その後,マキサンは同年10月15日に解散した。(乙3)
オ一方,Z4夫婦は,2009年(平成21年)9月28日,本件マキス株式預託証書を原告MAMに譲渡した
(以下
「本件預託証書譲渡」
という。

ところ,その後,原告マキス株式の全部は,2013年(平成25年)7月1日,マキス財団に譲渡され,現在は同財団が原告マキスの単独株主となっている。(乙3,弁論の全趣旨,オランダ商工会議所作成の原告マキスの商業登記簿登録事項証明書)
(2)Z4夫婦に対する税務調査
ア名古屋国税局のZ6主査(以下「Z6」という。)は,平成24年8月7日,Z4夫婦に対し,平成21年分ないし平成23年分の所得税に係る調査(以下「本件所得税調査」という。)を行う旨の事前通知をし,平成24年9月18日から翌19日にかけて,Z7国税実査官(以下「Z7」という。)及びZ8国税実査官(以下「Z8」といい,Z6,Z7及びZ8の3名を「Z6等」という。)らを伴って,当時の名古屋市α区のZ4夫婦の自宅に臨場して調査をした。
また,
Z4夫婦並びに原告Z3及びZ5
(以下
「Z9一族」
と総称する。

は,
平成23年●●月●日に死亡したZ10を被相続人とする相続について,養子として,同人の妻のZ11とともに共同相続人となっており,この間の平成24年9月4日にその相続税の確定申告書が提出されていたことから,同調査に際しては,同相続税に係る調査(以下「本件相続税調査」という。)も合わせて行われた(以下,本件所得税調査と本件相続税調査を合わせて「本件調査」という。)。
イ本件調査に際し,Z6等は,Z4夫婦に対し,原告MAMが運用する外国証券投資信託の内容,その運用実態に係る資料及び財務諸表,原告マキス及びマキス財団の定款,
マキス財団の管理規則及びマキス財団が締結し
た預託証書に係る契約書等の提出を求めたが,
Z4夫婦はこれに応じなか
った(弁論の全趣旨)。
ウZ6等は,平成24年11月12日,Z4夫婦の自宅を訪問し,Z1に対し,それまでの本件調査の状況を説明する等したところ,Z1は,本件相続税調査の結果については受け入れ,
修正申告に応じる意思を示すなどした(乙21,弁論の全趣旨)。(3)本件各租税条約に基づく情報要請
ア国際業務課長は,日星租税協定26条に基づき,2012年(平成24年)11月22日付け「RE:ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもって,シンガポール政府内国歳入庁(以下「IRAS」という。)に対し,(ア)Z9一族の外国投資信託に係る適正な所得を把握するには,原告MAMが投資運用会社になっている信託のリスト,その信託の内容,運用実績,分配金額を把握する必要があるが,Z1は,原告MAMの申告書及び原告MAMが運用している投資信託に関する書類の提出を拒んでいる,(イ)Z1は,本件マキス株式預託証書を,譲渡時の時価に比べて著しく低い価額で原告MAMに対して譲渡しており,
譲渡時の時価と
の差額が原告MAMの隠れた利益となっているところ,
当該利益により原
告MAMの株式価値が増加していれば,
原告MAMの単独株主である原告
Z3は,
当該株式価値の増加による経済的利益をZ1から受けたことにな
るから,原告Z3に対して贈与税を課税する必要があり,その課税金額の確定及び証拠資料収集のためには原告MAMの財務諸表を得る必要がある,(ウ)原告Z3は,どの国においても非居住者となっている可能性が高いが,日本の居住者となる可能性があることから,シンガポールにおける税務申告内容を確認する必要があるとした上,
調査対象期間を2006年
(平成18年)1月1日から2012年(平成24年)2月28日までとして,以下の①ないし⑨に係る情報の提供を依頼した(以下「本件シンガポール情報要請」といい,上記書簡を「本件シンガポール情報要請書簡」という。)。


原告MAMが投資運用会社となった投資信託で2006年1月1日から2012年2月28日までに存在したものの一覧

②上記の各投資信託の内容(委託者,受託者,受益者,運用会社,事務管理会社,現物証券等保管会社,受益証券販売会社,運用内容,分配計算方法等)


上記の各投資信託の2006年1月1日から2012年2月28日までの受益者及びその異動



上記の各投資信託の2006年1月1日から2012年2月28日までの運用実績(各年内に分配されなかった利益を含む。)



上記の各投資信託の2006年1月1日から2012年2月28日までの分配又は償還の詳細(日付,金額,支払先等)



2008年12月期及び2009年12月期の各事業年度における原告MAMの損益計算書(収入及び経費の明細の分かる書類)並びに貸借対照表(資産,負債及び資本の明細の分かる書類)

⑦2009年9月28日に,Z1が,本件マキス株式預託証書を,譲渡時の時価に比べて著しく低い価額で原告MAMに対して譲渡しており,譲渡時の時価との差額が原告MAMの隠れた利益となっていることについて,この隠れた利益が原告MAMに贈与された経済的利益として,シンガポールで課税されるか。
課税されている場合はそれを示す申告書

⑧原告Z3のシンガポールでの申告状況を確認いただき,申告している
場合には申告書の写し
⑨Z1,原告Z3,原告マキス,原告MAM,マキサン並びにケイマン諸島のCLOSETRUSTEESLTDのユビキタス・ファンドB,ユビキタス・ファンドH及びユビキタス・ファンドDが三菱東京UFJ銀行Z17支店に保有する特定の各口座(以下「本件シンガポール各口座」と総称し,個別の口座をいうときは,それぞれ「本件シンガポールZ1口座」,「本件シンガポールZ3口座」,「本件シンガポールマキス口座」,「本件シンガポールMAM口座」,「本件シンガポールマキサン口座」「本件ユビキタスB口座」「本件ユビキタスH口座」,


「本件ユビキタスD口座」という。)の取引明細書(2006年から2011年までの期間を含むもの)
本件シンガポール情報要請書簡には,
上記各情報の提供の依頼に当たり,
(a)同依頼は,日本国の法律及び行政実務に則っており,情報提供依頼者は,
日本国の法令の下において又は行政の通常の運営において当該情報を入手する権限を有していること,及び(b)要請する情報の関係者から直接情報を収集することを含めて情報を入手するための当国内で可能な全ての手段は実施済みであることを,発出者(国際業務課長)において確認する旨の文言が記載されていた。(ア全体につき,乙3)
イ国際業務課長は,日蘭租税条約25条に基づき,2012年(平成24年)11月27日付け「RE:ExchangeofInformationonRequest」と題する書簡をもって,オランダ政府の権限ある当局に対し,(ア)日本の税務当局としては,Z4夫婦は,(譲渡損失は一般に総合所得から控除できるが,
株式の譲渡損失は株式から発生した所得からのみ控除できるとされている日本の所得税法の下で,)本件マキス株式預託証書は株式に当たらないとして,
譲渡損失を役員報酬を含む総合所得から控除することにより所
得税を回避したと考えているため,
マキス財団と預託証書保有者の間の契
約,マキス財団の管理規則等の書類を確認し,預託証書の性質を検証する必要がある,
(イ)Z4夫婦が本件マキス株式預託証書の保有者として原告
マキスからの配当を日本で適正に申告しているかどうかを検討するため,原告マキス及びマキス財団の申告書及び資金の流れを確認する必要があるとした上,(ウ)本件預託証書譲渡は2009年(平成21年)中に行われており,日本の税法によると2013年(平成25年)3月15日(以下「本件要望期限」という。)に所得税の更正期限を迎えることから,要急案件として扱うよう要望しつつ,調査対象期間を2009年(平成21年)1月1日から2011年(平成23年)12月31日として,以下の①ないし④に係る情報の至急の提供を依頼した(以下「本件オランダ情報要請」といい,上記書簡を「本件オランダ情報要請書簡」という。また,本件シンガポール情報要請と本件オランダ情報要請とを合わせて
「本件各
情報要請」という。)。


原告マキス及びマキス財団の定款並びにマキス財団の管理規則の写し
②マキス財団とZ4夫婦,
Z10及びZ11の間で締結された預託証書
に係る契約書の写し


原告マキス及びマキス財団の国税に係る2009年から2011年までの分の申告書の写し



原告マキスが三菱東京UFJ銀行Z12支店及びING銀行Z13支店に保有する特定の各口座
(以下
「本件オランダ各口座」
と総称する。

の2009年から2011年までの取引明細書

本件オランダ情報要請書簡には,
上記各情報の提供の依頼に当たり,
(a)
類似の状況において情報を収集し提供することができること,及び(b)通常の調査においてできることは全て尽くしたこと等を,発出者(国際業務課長)において確認する旨の文言が記載されていた。(イ全体につき,甲A2,乙8)
(4)本件各租税条約に基づく情報要請の帰すう
アIRASは,2013年(平成25年)1月17日付けで,租税条約に基づく情報交換を促進するために要求されるものであることを明示した上で,
(ア)原告MAMに対し,原告MAMは多数の投資信託・投資ファンドの運用会社として営業していると理解しているとして,
本件シンガポール情
報要請に係る前記(3)ア①ないし⑤(ただし,本件シンガポール情報要請上「各投資信託」とある部分に「各ファンド」を付け加えたもの)及び本件預託証書譲渡に係る譲渡価額及び譲渡時の時価の情報の提供を求めた(甲4の1)。
(イ)原告Z3に対し,
原告Z3は原告MAMの取締役かつ唯一の株主であ
り,原告MAMは多数の投資信託・投資ファンドの運用会社であり,原告マキス,マキサン,ケイマン諸島のCLOSETRUSTEESLTDと取引があると理解しているとして,
本件シンガポール情報要請
に係る前記(3)ア⑨の本件シンガポール各口座の取引明細書(ただし,期間は2006年1月から2012年2月まで)の提供を求めた(甲4の3)。
イオランダのロッテルダム税務事務局は,2013年(平成25年)2月5日付けで,
租税条約に基づき複数の第三者に課税するための情報収集す
るためのものであることを明示した上で,原告マキスに対し,同月22日に同社及びマキス財団に関する情報の取得を目的とする実地監査を行うことを予告する書面を送付した。当該書面には,監査のため,原告マキス及びマキス財団の2009年から2011年までの記録が必要であり,監
査開始時に,
以下の書類を提出してもらう必要があることが付記されてい
た。(甲A3)
①2009年,2010年及び2011年の年次決算書②2009年から2011年までの総勘定元帳
③原告マキスの定款
④マキス財団の管理規則
⑤株主総会議事録
⑥取締役会議事録
⑦マキス財団の会議録
⑧2009年から2011年までの原告マキスの全取締役一覧⑨当該期間にマキス財団が署名した契約書類⑩原告マキス及びマキス財団の通信文書及び請求書
⑪原告マキス及びマキス財団の銀行口座取引明細書
ウIRASの所得税検査官は,2013年(平成25年)4月19日,シンガポール所得税法105D条(1)項(甲15),105J条(1)項,(2)項(甲14)に基づき,三菱東京UFJ銀行Z17支店に対し,本件シンガポール各口座の保有者により保有される全ての口座の2006年1月1日から2011年12月31日までの全銀行取引明細書を,
命令日から
21日以内に作成して,
その写しを申立人に引き渡すべきこと等を求める
旨をシンガポール高等裁判所に申し立て,同裁判所は,間もなく,全ての関係者を審問期日に呼び出した(甲2)。Z1は,当該手続への参加を許可され,審問期日が開かれたが,シンガポール高等裁判所は,2013年(平成25年)5月31日,上記所得税検査官の申立てを全部認めてその旨の命令を発した(以下「シンガポール原命令」という。)。
Z1は,同年6月19日,シンガポール高等裁判所に対し,シンガポール原命令の取消しを求める申立てをし,
他の本件シンガポール各口座の保
有者5名も,同日,同裁判所に対し,手続参加とともに同命令の取消しを求める申立てをした。さらに,Z1は,原告Z3及び原告MAMが同年9月20日に本訴平成25年事件を提起したことを理由に,同月25日,日本における同事件の判決までシンガポール原命令の執行の停止を求める申立てをした。シンガポール高等裁判所は,同年10月17日,これらの申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。
この決定に対し,Z1のみが同年11月13日に上訴したところ,シンガポール最高裁判所は,2014年(平成26年)10月15日に審問期日を開いた上で,2015年(平成27年)1月22日付けで,前記命令は,特定された8つの本件シンガポール各口座については正当であるが,同各口座の保有者により保有される全ての口座に広げて銀行取引明細書の写しの作成及び引渡しを命じた部分は同国所得税法の規定に違反するとして,その限度でこれを取り消し,本件シンガポール各口座のみの銀行取引明細書の写しの作成及び引渡しを命ずる内容に前記命令を変更する旨の決定書を公表した。(ウ全体につき,乙20。以下,この一連のシンガポールの裁判所での手続を「本件シンガポール裁判」という。)(5)Z4夫婦に対する所得税調査の帰すう
アこの間の平成24年12月25日,Z4夫婦は,名古屋市α区から東京都千代田区に納税地が変わる旨の所得税の納税地の異動に関する届出書を新旧管轄の昭和税務署長及び麹町税務署長に提出したことから,本件所
得税調査事務は,名古屋国税局から東京国税局に引き継がれた(弁論の全趣旨)。
イ東京国税局のZ14主査(以下「Z14」という。)及びZ15国税実査官(以下「Z14等」と総称する。)は,平成25年3月6日,東京都千代田区のZ4夫婦の自宅に臨場した後,同年4月24日,Z4夫婦の税務代理人であるZ16税理士及び本訴原告ら代理人である山中眞人弁護士
(以下
「山中弁護士」
という。と面談した

(以下
「本件面談」
という。。

Z14等は,遅くとも本件面談時までに,Z4夫婦の平成21年分ないし平成23年分の所得税について,
その時点で更正決定等をすべきと認め
られず,平成25年5月末頃にその旨の通知書を送付する旨を告げた。Z16税理士及び山中弁護士は,本件面談時以降,Z14等に対し,本件各情報要請を撤回するよう求めた。(イ全体につき,弁論の全趣旨)ウ麹町税務署長は,Z4夫婦に対し,平成25年5月27日付けで,平成21年分ないし平成23年分の所得税について
「更正決定等をすべきと認
められない旨の通知書」を発し,同月29日頃に到達した(甲5,弁論の全趣旨)。エ一方,国際業務課長は,IRASに対し,2013年(平成25年)7月16日付けで,
シンガポール原命令に対しZ1が変更又は取消しの申立
てをしたこと及び麹町税務署長が同年5月27日付けで上記ウの通知をしたことを踏まえても,
本件シンガポール情報要請により要請した情報は
いまだ必要であり,
当要請は引き続き日本国の法律及び行政実務に従って
いることを確認する旨の書簡を発した(甲3)。
3主な争点
本件の主な争点は,以下のとおりである。
(1)本件各訴え部分の適否
ア本件各取消請求に係る本件各情報要請の処分性の有無(争点1)イ本件各確認請求に係る確認の利益の有無(争点2)
(2)本件各情報要請の適否
ア本件各情報要請が本件各租税条約に関連しない情報(日星租税協定26条1項又は日蘭租税条約25条1項の対象とならない情報。以下「非関連情報」という。)を要請するものとして違法か否か(争点3)
イ本件各情報要請が本件各租税条約の適用を除外される情報(日星租税協定26条3項b号又は日蘭租税条約25条3項b号の日本国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない情報。以
下「国内入手不能情報」という。)を要請するものとして違法か否か(争点4)
(ア)本件シンガポール各口座に関する情報について(争点4-①)(イ)本件要望期限後における本件オランダ情報要請継続について(争点
4-②)
(ウ)

更正決定等をしない旨の通知後における本件各情報要請継続につ

いて(争点4-③)

本件各情報要請が情報入手手段を尽くさずに行われ又は既に我が国で得た情報を要請するものとして違法か否か(争点5)(3)本件各情報要請を原因とする原告らの国家賠償請求権の有無(争点6)4主な争点に関する当事者の主張
(1)本件各取消請求に係る本件各情報要請の処分性の有無(争点1)(被告の主張)
ア処分の取消しの訴えは,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消しを求める訴訟をいう(行政事件訴訟法3条2項)ところ,ここでいう「行政庁の処分」とは,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい,「公権力の行使に当たる行為」とは,行政庁の一方的意思決定に基づき,特定の行政目的のために国民の身体,
財産等に実力を加えて行政上必要な
状態を実現させようとする権力的行為をいうものと解されている。イしかるところ,本件各租税条約に基づく情報要請は,一方の締約国が他方の締約国に対し,
自国の租税に関する法令の規定の運用又は執行を適正
に行うために,情報の提供を要請する二国間の行為にとどまり,行政機関相互の行為と同視すべきものであって,それ以上に,情報の対象者について,何らかの権利義務を形成し,又はその範囲を確定する効果を生じさせるものではなく,また,その財産等に実力を加える権力的行為でもない。原告らは,本件各情報要請により,相当程度の確実さをもって,原告ら及び三菱東京UFJ銀行Z17支店が一定の義務を負う旨主張するが,そ
のような義務は,
被要請国の権限のある当局が行った情報収集活動によっ
て負うものであり,当該活動は,本件各情報要請に対して行い得る手段の中から選択して行われるものであるから,これをもって,原告らが本件各情報要請により相当程度の確実さをもって一定の義務を負うなどとはいえない。我が国が行う租税条約に基づく情報交換要請の処分性が,我が国の法令を離れて他国の国内法により左右されることなどあり得ない。ウしたがって,本件各取消請求に係る本訴部分は,処分性が認められない本件各情報要請の取消しを求めるものであり,不適法である。
(原告らの主張)
ア本件各租税条約は,
OECDモデル租税条約が2005年
(平成17年)
に情報交換を実効性のあるものとすべく,
自国の課税目的のために必要で
ない情報であること及び要請を受けた情報が銀行秘密に該当することを理由とする情報提供の拒否の禁止を明記するものとしたのと軌を一にして,日星租税協定26条4項,5項及び日蘭租税条約25条4項,5項でこれらと同旨の禁止を定めているから,
同各条は被要請国に対し情報提供
義務を課すことを内容としている。
すなわち,日本国の権限ある当局者が,上記各条1項に基づく本件各情報要請を行ったことにより,シンガポール当局及びオランダ当局は,本件各情報要請に係る情報の収集・提供義務を負うこととなり,その義務を果たさなければならない両国当局は,相当程度の確実性をもって,要請された原告らに係る情報を入手する方向で行動することになるものである。イ(ア)この点,シンガポールにおいては,
a銀行は,
シンガポール銀行法47条による顧客情報保護義務を負っ
ているために,IRASが顧客情報を入手するには,同国所得税法105J条(2)項の命令を得なければならないから,本件シンガポール各口座に係る本件シンガポール情報要請を受けたシンガポール当局は,相当程度の確実性をもって,同命令を申請することになるものであり(現にシンガポール当局は,同国の裁判所に対し,かかる申請をした。),同項の命令は,正当性と公序良俗に反しないことという充足するのが当たり前の2つのみが要件となっているから,
その申請が
されれば,相当程度の確実性をもって,上記の命令という結果をもたらすことになる。したがって,本件シンガポール情報要請は,三菱東京UFJ銀行Z17支店に対し直接権利義務を形成する法律上の効果が認められ,原
告Z3に対してもプライバシーの開示を法的に強制するものとして,直接権利義務を形成し又はその範囲を確定する法律上の効果が認められる。
bまた,
シンガポール当局の所得税検査官に認められる情報入手権は,
相手方の承諾がなくとも建物,場所,コンピュータ等に自由にアクセスすることのできる権利であり(同国所得税法65B条),同法105D条に基づく要請(租税条約に基づく要請)についても,この入手権の適用があるものとされている(同法105F条(1)項)。
したがって,原告MAMは,本件シンガポール情報要請がされたことにより,シンガポール税務当局が建物,場所,コンピュータ等に自由にアクセスすることを受忍すべき義務を負うことになる。
(イ)一方,オランダにおいても,課税情報を入手するための税務職員の調査権は,
調査の通知又は調査それ自体に対して異議を述べることがで
きないものであり(同国の「課税における国際支援及び援助に関する法律」8条。現に原告マキスがオランダの税務事務所から受領した情報開示命令書には,同条に基づく旨が明記されている。),一般法でも,税法に基づき又は税法に従って記録を保管する義務を負う者は,
課税の関
係で関連性があると税務調査官が認めるデータ及び情報を,
その税法に
基づく又は税法に従った指示のとおりに,
税務調査官に対して提供する
義務を負うとされている(同国一般税法53条2項)。
したがって,原告マキスは,本件オランダ情報要請がされたことにより,
オランダ税務当局に対して情報を提供すべき義務を負うことになる。ウさらに,日本の当局の情報要請行為に違法性があるのか否かは,シンガポール当局及びオランダ当局において実態を知るところではないから,この点については,両国の裁判で争うよりも,日本の裁判所で争う方が紛争の適切な解決に資する
(特に当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くし
たという要件については,
要請国がその旨を要請書簡に記述しさえすれば,
被要請国は従わざるを得ないから,
要請国の裁判所で争うよりほかない。

ところ,本件各情報要請の後は,相手国から当該情報を受け取るまで,日本の当局による行為は基本的に存在しない。そして,情報というものは,一旦これを人間が五感を通して入手してしまうと,
これを無かったことに
するのは不可能なものであることからすると,
本件各情報要請に違法性が
存する場合,被告が情報を入手する前に,これを是正できる機会を与えられることが非常に重要な位置を占める。
したがって,本件各情報要請に処分性を認めて争訟の対象とするのが,裁判上の救済を与えるタイミングとして最も適切というべきである。エ本件各情報要請には処分性が認められる。
(2)本件各確認請求に係る確認の利益の有無(争点2)
(被告の主張)
ア公法上の法律関係に関する確認の訴えが適法なものと認められるためには,確認の利益が必要であり,確認の利益が認められるのは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限られる。
イしかるところ,本件各情報要請に基づいて国税庁に対して原告らの情報が提供されることによって,直ちに原告らの有する権利や法律的地位に影響を及ぼすものではないから,現に原告らの有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在するとはいえない。また,我が国及び関係行政庁が提供された資料を利用したことによって,直ちに原告らの有する権利又は法律的地位に影響を及ぼすものでもなく,いまだ我が国が取得していない資料について利用されないことの確認を求めるにつき,現に原告らの有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在するとは認められない。なお,被告が受領した情報は,日星租税協定26条2項,日蘭租税条約25条2項により,Z9一族の税務申告の適法性や正確性を確認するためだけに使用され,その情報に関して,被告に守秘義務が課されることが保証されている。それらの情報が被告に開示されることによって,原告らのプライバシーの侵害や顧客情報の流出に係る具体的な危険又は不安が生じることはなく,即時確定の利益はない。
ウしたがって,本件各確認請求に係る本訴部分は,確認の利益を欠き不適法である。
(原告らの主張)
ア銀行口座の取引明細は,取引先名や取引高といった事業活動の根幹そのものに関わる様々なことを如実に示すもの故,一般に,法人も個人もそのみだりな開示を欲さず,プライバシー権等によってみだりに開示されないことが保障されている。また,原告MAM及び原告マキスにとっては,投資運用内容の詳細や顧客等の取引先に関する情報も,みだりに他人に知られたくない事項である。
しかるところ,
前記(1)の争点1に関する原告らの主張イのとおり,
本件
シンガポールMAM口座,本件シンガポールZ3口座及び本件オランダ各口座の取引状況がシンガポール当局又はオランダ当局ひいては被告に明らかになるのが時間の問題となっているほか,原告MAM及び原告マキスにとっては,投資運用内容の詳細や顧客等の取引先に関する情報の開示を義務付けられる事態にも追い込まれており,原告ら(及び取引先)のプライバシーが侵害される現実的危険性が迫っている。
被告は,本件各情報要請によって入手した情報について,被告に厳格な利用目的と守秘義務が課されていることから即時確定の利益がないと主張するが,被告に違法に自身ないし顧客の情報を取得される事態そのものが,自身ないし顧客のプライバシー権の侵害を構成するのであって,かかる侵害が存在する以上,被告が当該情報を第三者に漏洩しようがしまいが,目的外使用をしようがしまいが,プライバシー権侵害の成立は揺るがない。イまた,
前記(1)の争点1に関する原告らの主張ウのとおり,
人間が情報に
接してしまった場合,当該情報を消去するのは現実的には不可能というほかないから,本来被告において入手することのできない情報の取得を完全に防止するためには,現時点で情報そのもののやり取りを防止しなければならない高度の必要性が存在するし,被告においてかかる情報を利用することを確実に防止するためには,いまだ情報が入手されていない現段階においても,情報を利用されない地位にあることを確認するのに十分な理由がある。
ウ本件各確認請求には優に即時確定の利益が認められる。
(3)本件各情報要請が非関連情報を要請するものとして違法か否か(争点3)(原告らの主張)
ア他国政府に対する本件各情報要請が適法なものであるためには,当該要請が情報漁りに該当しないことが必要であり,名前を特定しない情報収集や,調査対象の納税者の租税問題と関連しているとは思われない情報の要求が情報漁りの典型とされているところ,本件各情報要請は,以下のとおり,非居住者である原告らに関して情報漁りを行うものである。
イ(ア)すなわち,第1に,被告は,Z4夫婦がユビキタス・ファンドHから得た分配利益について,Z4夫婦の平成23年分の所得税の確定申告書の記載に差異があったとして,原告MAMが運用する外国証券投資信託の運用実態及び本件シンガポールZ1口座の取引を解明する必要があったと主張する。
(イ)しかし,原告MAMが運用する投資信託に関する情報は,Z4夫婦の租税問題と全く関連性がない。Z4夫婦に対する税務調査のためである以上,シンガポール当局に要請する情報は,Z9一族のうち居住者を受益者とする投資信託に係るものに限定する取扱いで目的は達成できたはずであるのに,原告MAMが投資運用会社となった全ての投資信託について,全ての受益者の氏名や異動に係る情報を要請するのは,Z4夫婦に対する税務調査の範囲を大きく逸脱した名前を特定しない情報収集であり,情報漁りの典型である。
本件シンガポール情報要請において,国際業務課長が原告MAMが運用する全ての投資信託に関する情報の提供を依頼した理由は,原告MAMの株主及び役員である原告Z3がZ1の息子であるということにあるが,仮に原告MAMが日本法人であったとしても,原告MAMは,その株主でも役員でもないZ4夫婦の税務調査の際に,全ての投資信託に関する情報を税務当局の求めに応じて出す必要はない。国内での税務調査でも得られない情報は,本件シンガポール情報要請によっても得ることができない。
原告MAMの運用する投資信託は,外国投資信託である以上,外国人投資家や非居住者たる投資家が受益者となっていることは当然に想定すべきであり,また,国税庁は,少なくともメルコHD等のZ9一族以外の日本人や日本法人が投資信託に出資しているとの認識を有していたにもかかわらず,本件シンガポール情報要請は,あわよくばかような出資者の情報まで取得しようと試みたものである。仮に国税庁にそのような認識はなかったとしても,過失によりそれを取得する試みとなってしまっている。これは日星租税協定の違法利用である。
そのような違法利用による本件シンガポール情報要請も違法である。(ウ)また,国際業務課長は,上記(イ)の認識にもかかわらず,本件シンガポール情報要請において,Z9一族だけが受益者となっていると想定される旨,虚偽の前提情報をIRASに伝えている。前提事項が虚偽である以上,本件シンガポール情報要請自体が全体として違法である。
(エ)さらに,そもそも,上記(ア)の各確定申告書の記載は,分配利益に関するものではなく,平成23年の年末に約定し,翌平成24年明けに受渡しがされた取引の譲渡益の取扱いに関するものであり,約定日と受渡日のいずれの時点で譲渡益を計上することも許されている。この点,Z2は年末の約定日を選択し,Z1は年明けの受渡日を選択し,それぞれ法令で許される範囲で確定申告書を提出したものであり,その記載に差異があったとしても何ら違法なものではない。Z16税理士は,本件所得税調査開始後平成24年11月12日までに,
Z1の代理人として,
受渡日に譲渡益を計上した平成24年分の確定申告書を平成25年3月に提出する旨をZ6等に伝えていたのであるから,上記の記載の差異を把握したことをもって,本件シンガポールZ1口座や原告MAMの投資信託取引を解明する必要があったなどという結論は到底導かれない。被告が,このような点を本件シンガポールZ1口座や原告MAMの投資信託取引に関する情報要請の根拠として挙げていること自体,本件シンガポール情報要請が情報漁りであることの証左である。
ウ(ア)第2に,被告は,2009年(平成21年)9月28日に行われた本件預託証書譲渡について,原告Z3に贈与税の対象となり得るみなし贈与が生ずる可能性があったとして,原告MAMの財務諸表及び申告事績を入手する必要があったと主張する。
(イ)しかし,2010年(平成22年)7月14日に発効する前の旧日星租税協定26条1項1文は,この協定が適用される租税に関する締約国の法令を実施するために必要な情報を交換すると明記し,対象税目について定めている同協定2条は,日本においてもシンガポールにおいても贈与税を含めていないから,旧日星租税協定に基づいて贈与税に関する情報を交換することは認められていなかった。
そもそも租税法規は,他の一般法規にも増して,遡及立法,遡及適用が許されず,特に,人々は,現在妥当している租税法規に依拠しつつ各種取引を行うのであるから,後になってその信頼を裏切ることは,租税法律主義(憲法84条)の狙いである予測可能性や法的安定性を害することになるため,憲法31条の趣旨に照らしても,納税者に不利益な遡及的な変更は許されてはならない。憲法は,条約,法律より上位に位置しそれらを拘束する法規範であるから,租税条約の日本における解釈においても,この理は妥当するというべきである。
取引当時に適用されていた旧日星租税協定において要請,交換し得なかった情報は,改定後の日星租税協定によっても,要請,交換することができないと解すべきである。
本件シンガポール情報要請のうち贈与税に関する部分については,国際業務課長は,憲法84条及び日星租税協定上,要請することができない情報をIRASに要請したものであり,当該部分は直ちに違法を構成する。
(ウ)仮に百歩譲って,日星租税協定改正後の事由に関連する改正前の情報は取得できると解したとしても,
本件預託証書譲渡は,
2009年
(平
成21年)9月28日に完結しており,改正後の事由に関連する余地は全くない。
エ(ア)第3に,被告は,原告Z3が,2009年(平成21年)9月30日にZ1から多額の送金を受けるとともに,日本の居住者となり得る可能性があったとして,原告Z3のシンガポールにおける申告事績と本件シンガポールZ3口座とを確認する必要があったと主張する。
(イ)しかし,原告Z3のシンガポールにおける申告事績は,IRASに対してそれを直接尋ねることでしか把握することのできない事項であるとともに,現に,本件シンガポール情報要請において当該申告状況と申告書の写しを要請していることで十分に目的が達成されることであり,申告事績の確認名目で本件シンガポールZ3口座の取引明細を要求することは単なる情報漁りでしかない。
(ウ)また,
納税義務のない者の預金口座の取引明細書を要求する行為は,
客観的かつ具体的な必要性が立証されている場合は別として,単なる情報漁りであるといわざるを得ず,納税義務の有無を確定できていない者に係る預金口座の取引明細書を要求する行為は情報漁りに該当するところ,被告の主張によれば,本件シンガポール情報要請の段階で原告Z3に所得税の納税義務があるのか否か確定できていなかったものであるから,情報漁りとなることを避けるためには,まず,原告Z3の納税義務の有無を確定すべく,シンガポールにおける滞在日数を確認しなければならなかったし,そのような確認を行えば,本件シンガポールZ3口座の取引明細書の情報を要請する根拠がないことに気付くことができたはずである。
しかるに,国際業務課長は,それを行うことなく,いきなり本件シンガポールZ3口座の取引明細書を要求したものであるから,本件シンガポール情報要請は単なる情報漁りでしかない。
(エ)Z1から本件シンガポールZ3口座に対する前記(ア)の送金については,その2日前の2009年(平成21年)9月28日に行われた本件マキサン株式譲渡に係る売買代金の支払であり,その送金の事実は,本件シンガポールZ3口座にZ1の収入とすべきものがあることを一切基礎付けるものではない。調査対象者に物を売って代金を受け取ったという一事だけで,その取引に使用した自己名義の口座の全取引内容を開示しなければならないというようなことが到底許されるものではなく,情報漁りが禁止されたのは,まさにかかる事態を防止するためである。本件シンガポールZ3口座にZ1の収入とすべきものがあるか否かの確認名目で同口座の取引明細書を要求することは,結局単なる情報漁りでしかないものである。
オ(ア)第4に,被告は,Z1が本件シンガポールマキス口座に,原告Z3が本件シンガポールマキサン口座に,それぞれ多額の送金をした事実が存在する故に,これら口座にZ1の収入とすべきものがあるか否かを確認する必要があったと主張する。
(イ)しかし,まず,上記(ア)のうち本件シンガポールマキス口座に対する送金は,
2007年
(平成19年)
10月18日にされたものであり,
本件シンガポール情報要請よりも5年以上前の出来事であって,通常の更正期限は優に過ぎている。
その上,同送金は,送金依頼書の送金理由欄に「貸付け」とあるとおり,Z1が原告マキスに貸付けをした事実を示すものでしかなく,これだけをもって本件シンガポールマキス口座にZ1の収入とすべきものがあり得ると推認するのは,銀行が貸付けをした先の企業の口座に銀行の収入とすべきものが存在する可能性があると言っているに等しく,論理的根拠を欠いた失当なものでしかない。
上記送金の事実を理由に本件シンガポールマキス口座の取引明細書を要求することは,全く根拠のないものである。
(ウ)次に,上記(ア)のうち本件シンガポールマキサン口座に対する送金の事実については,どのように考えても,非居住者の原告Z3から送金がされた非居住者であるマキサンの口座にZ1の収入があるということに結び付かず,論理の破綻である。
本件シンガポール情報要請において本件シンガポールマキサン口座の取引明細書を要求することは,単なる情報漁り,特に調査対象の納税義務者であるZ1の租税問題に関連していると思われない情報の要求という以外にない。
カ(ア)第5に,被告は,①原告マキスがメルコHD株式を取得した取引,②Z4夫婦が本件マキス株式預託証書を取得した取引及び③本件預託証書譲渡取引がZ4夫婦の所得税の確定申告書に適切に反映されているか,並びにZ4夫婦が本件マキス株式預託証書に係る配当を適正に申告しているかを確認する必要があったことから,Z1からの送金のある本件オランダ各口座の取引明細書等を収集する必要があったと主張する。(イ)しかし,上記(ア)の①ないし③の各取引は,そもそも本件オランダ各口座と関係がない。
また,そもそも本件オランダ各口座に対する送金は,マキサンの法人所得税の支払目的でされたもので,本件マキス株式預託証書の保有者への配当と無関係であって,配当を適正に申告しているかを検討する必要があることが,本件オランダ各口座の取引明細書を確認する必要があることの理由には全くならない。
さらに,配当を適正に申告しているかを検討するための資料が必要であるということは,本件オランダ情報要請を行った時点では,原告マキスによってされるべき配当と,Z1が申告書に記載した配当の額が一致するか否かすら把握していなかったということであり,両者が一致すれば,当然のことながら,それ以上の資料は必要なくなり,本件オランダ各口座の取引明細書も必要がない。
本件オランダ情報要請による本件オランダ各口座の取引明細書の要請は,情報漁りの典型である調査対象の納税者の租税問題と関連しているとは思われない情報の要求に該当する。
キ本件各情報要請は,本件各租税条約上の「両締約国の法令の規定の運用若しくは執行に関する情報であること」との要件を欠くものである。(被告の主張)ア本件各租税条約に基づく情報交換要請は,租税に関するもので,両締約国の法令の規定の運用若しくは執行に関連する情報の交換であることが要件とされている
(日星租税協定26条1項,
日蘭租税条約25条1項)
が,
具体的な税務調査の必要性があるときのみに限られるものではない。証拠漁りの制限は,税務調査において調査対象者の行う取引を確認するに当たって,想定される税務上の問題点であるとする税法上の規定と条約相手国に収集を要請する情報との間に予想される関連性が乏しい場合に,被要請国は,当該要請に関する情報の提供を行うことを義務付けられないとする趣旨の要件であるが,
以下のとおり,
本件各情報要請の対象情報は,
いずれもZ6等において確認する必要のある情報であり,本件各情報要請においては,税務上の問題点と収集依頼情報との間に予想される関連性がシンガポール又はオランダの権限のある当局に明示されている(仮に被要請国当局において本件各情報要請の内容について疑義がある場合には,締約国間の協議においてその範囲を明確にすることができる)
のであるから,
何ら証拠漁りに該当するものではない。
イ(ア)Z6等は,本件調査において,Z4夫婦及びZ5が本件シンガポール各口座に多額の送金している事実,その送金先であるユビキタス・ファンドB,D及びHの投資運用会社は原告MAMである事実,うちユビキタス・ファンドHについて,立花証券株式会社(以下「立花証券」という。)が日本における販売代理店となっており,かつ,同社において同ファンドの顧客はZ4夫婦のみである事実を把握するとともに,Z4夫婦が同ファンドから得た分配利益について,Z2の平成23年分の所得税の確定申告書には記載があるにもかかわらず,Z1の同年分の所得税の確定申告書には記載がないことを把握した。
Z6等は,本件調査において,問題点を解明する必要があったことから,原告MAMが運用する外国証券投資信託の運用実態並びに本件シンガポールZ1口座,本件シンガポールMAM口座,本件ユビキタスB口座,本件ユビキタスD口座及び本件ユビキタスH口座の取引を解明する必要があった。
(イ)本件シンガポール情報要請は,Z9一族の税務申告の適法性や正確性を確認するための要請であり,調査対象の納税者の租税問題と関連しているとは思われない情報の要求に該当するものではないし,そもそも本件シンガポール情報要請においては,調査対象者がZ9一族であることが明示されているのであるから,名前を特定しない情報収集にも該当しないことは明らかである。
Z6等は,原告MAMの運用する投資信託のうちユビキタス・ファンドB,D及びH以外にもZ9一族が受益者となっている投資信託があると想定して,本件シンガポール情報要請を行ったのであり,仮に,原告らの主張するように,同要請の対象を「Z9一族が受益者となっているもの」と限定した場合には,Z9一族に帰属すべき所得を正しく把握することができなくなる可能性があり,Z9一族の税務申告の適法性や正確性を確認できないのであるから,かかる限定をしない限り証拠漁りに該当するという原告らの主張には理由がない。
原告らは,仮に原告MAMが日本法人であったとしても,国税庁は,原告MAMの全ての投資信託に関する情報を取得することができないとも主張するが,上記(ア)のユビキタス・ファンドB,D及びHをめぐる資金の移動の状況を踏まえれば,
仮に原告MAMが国内の法人であれば,
国税庁等の当該職員がファンドの実態を確認するため質問検査権を行使して,必要な情報を収集することは何ら違法ではない。
(ウ)また,原告らは,国税庁は,メルコHDが原告MAMの運用する投資信託に出資しているとの認識を有していたにもかかわらず,本件シンガポール情報要請において,Z9一族だけが受益者となっていると想定される旨の虚偽の前提情報をIRASに伝えたと主張する。
しかし,国税庁において,メルコHDが出資していたと理解していたのは,本件シンガポール情報要請の対象である原告MAMの運用する投資信託とは別のファンドであり,上記の原告らの主張は何ら当を得たものではない。
(エ)さらに,原告らは,Z4夫婦の平成23年分の所得税の確定申告書の記載は,分配利益に関するものではなく,譲渡益の取扱いに関するものであるとした上で,両名の確定申告書の記載の差異をもって,本件シンガポールZ1口座や原告MAMの投資信託取引を解明する必要があったなどという結論は導かれないと主張する。
しかし,本件調査時点においては,ユビキタス・ファンドHの償還に伴って生じた利益が譲渡所得なのか配当所得なのかを解明する必要があったから,上記の原告らの主張はその前提において理由がない。
ウ(ア)Z6等は,Z4夫婦が,本件預託証書譲渡について,平成21年分の所得税の確定申告において,譲渡所得の計算上,多額の譲渡損失を計上していた事実を把握した。これについては,Z4夫婦から原告MAMへの経済的利益の供与が想定されたところ,仮に,その供与に伴い,原告MAM株式の価値が増加していた場合には,同社の単独株主である原告Z3が,Z4夫婦から経済的利益を得ていることになり,原告Z3に相続税法9条に定めるみなし贈与が生ずる可能性があった。
Z6等は,原告Z3の贈与税の申告義務の有無を確認するために,原告MAMの財務諸表及び申告事績を入手し,同社の株式の価値が増加しているか否かを解明する必要があった。
(イ)原告らは,遡及立法の禁止を理由として,旧日星租税協定において要請し得なかった贈与税に関する情報は,改正日星租税協定によっても要請できない旨主張する。しかし,遡及立法の禁止は,納税義務の内容を納税者の不利益に変更する遡及立法は原則として許されないとする原則であるところ,日星租税協定が準拠するOECDモデル租税条約における情報交換制度は,納税義務の内容を定めるものではない。旧日星租税協定においては情報交換の対象とされていなかった税目を改正日星租税協定においてその対象とすることは,納税義務の内容を不利益に変更するものではないから,憲法84条が定める租税法律主義から導かれる遡及立法の禁止のらち外であるというべきである。
(ウ)そして,改正日星租税協定については,両国間の協議の結果,改正議定書の効力発生前に課された租税についても新たな情報交換の法的枠組みの対象とすることで差し支えないことで両国の合意が得られ,両締約国は,改正日星租税協定に基づいて改正議定書発効前に課された租税についても情報交換の対象とすることが可能とされた。
本件シンガポール情報要請は,改正日星租税協定発効後の平成24年11月22日にされたものであるから,同発効前において贈与税の課税対象となり得る本件預託証書譲渡についてであっても,新たな情報交換の法的枠組みによって情報交換が可能なのであって,この点において何らの違法も存しない。
エ(ア)Z6等は,本件調査において,原告Z3が,2009年(平成21年)9月30日に本件シンガポールZ3口座にZ1から多額の送金を受けるとともに,日本とシンガポール等の海外との間を往来していた事実があり,シンガポールにおける滞在日数次第では,原告Z3が日本の居住者となり得る可能性があることを把握した。
Z6等は,原告Z3の日本の所得税の納税義務の有無を確認するために,原告Z3のシンガポールにおける申告事績を確認する必要があり,また,Z1の所得税の確定申告の適法性を確認するために,本件シンガポールZ3口座の取引中にZ1の収入とすべきものがあるか否かを確認する必要があった。
(イ)原告らは,申告事績の確認名目で本件シンガポールZ3口座の取引明細を要求することは情報漁りに該当すると主張するが,被告は,本件シンガポールZ3口座の取引明細を要請した1つの理由として,原告Z3のシンガポールにおける申告事績を確認する必要があったなどとは述べていない。
(ウ)また,原告らは,原告Z3のシンガポールにおける滞在日数の確認がされていないため,納税義務の有無が確定されていない原告Z3名義の預金口座の取引明細書の要求は情報漁りでしかないと主張するが,居住者か非居住者かの判断は,住居,職業,親族の居所及び資産の所在等を総合勘案して行うものであるから,滞在日数のみをもってその別を判断するかのごとき原告らの主張は,前提において理由がない。
(エ)さらに,
原告らは,
Z1から本件シンガポールZ3口座への送金は,
売買代金の支払であって,売買代金の送金の事実が同口座にZ1の収入とすべきものがあることを基礎付けるものではないとして,これを理由に,同口座にZ1の収入とすべきものがあるか否かの確認の名目で同口座の取引明細を要求することは情報漁りでしかないと主張する。
しかし,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールZ3口座の取引明細書を要請した理由は,同口座の預金を利用することによりZ1が所得を隠している可能性があるというものであり,具体的にされた送金の事実は,Z1から本件シンガポールZ3口座への送金があることを示すためのものであって,被告は,当該送金をもってZ1の収入とすべきものであると主張するものではないから,上記の原告らの主張には理由がない。オ(ア)Z6等は,本件調査において,Z1が2007年(平成19年)10月18日に本件シンガポールマキス口座に多額の送金をし,原告Z3が同月29日に本件シンガポールマキサン口座(同口座の名義人であるマキサンはZ1が代表者を務めている。)に多額の送金をしていた事実を把握した。
Z6等は,Z1の所得税の確定申告の適法性を確認するために,本件シンガポールマキス口座及び本件シンガポールマキサン口座の取引中にZ1の収入とすべきものがあるか否かを確認する必要があった。
(イ)原告らは,Z1から本件シンガポールマキス口座への送金は,貸付けをした事実を示すものでしかなく,これだけをもって同口座にZ1の収入とすべきものがあり得ると推認するのは論理的根拠を欠いた失当な推認であると主張する。
しかし,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールマキス口座の取引明細書を要請した理由は,
原告マキスの代表者はZ1であり,
その主な収入もZ1が創業者であるメルコHDからの配当収入であり,同口座を開設することによりZ1に帰属する運用益・分配金等を回収していることが想定されたためであり,具体的にされた送金の事実は,Z1から本件シンガポールマキス口座への送金があることを示すためのものであって,被告は,当該送金をもってZ1の収入とすべきものであると主張するものではないから,上記の原告らの主張には理由がない。(ウ)原告らは,
原告Z3から本件シンガポールマキサン口座への送金は,
同口座にZ1の収入があるということに結び付かず,論理の破綻であると主張する。
しかし,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールマキサン口座の取引明細書を要請した理由は,Z9一族がマキサンの解散後においても同社名義の預金口座を利用し,各個人に帰属する運用益及び配当等を回収していることが想定されたためであり,具体的にされた送金の事実は,原告Z3から本件シンガポールマキサン口座への送金があることを示すためのものであって,被告は,当該送金をもってZ1の収入とすべきものであると主張するものではないから,上記の原告らの主張には理由がない。
カ(ア)Z6等は,Z4夫婦が,①保有していたメルコHD株式に係る売却代金を原告マキスに出資し,その後,原告マキスがメルコHD株式を取得した取引,②これに関連して原告マキス株式をマキス財団に預託し本件マキス株式預託証書を取得した取引,及び③原告MAMへの本件預託証書譲渡取引等について,Z4夫婦の所得税の確定申告書に適切に反映されているか,また,Z4夫婦が本件マキス株式預託証書の保有者として原告マキスからの配当を適正に申告しているかを確認する必要があったことから,原告マキス及びマキス財団の定款,マキス財団の管理規則及びマキス財団が締結した預託証書に係る契約書並びにZ1からの送金のある本件オランダ各口座の取引明細書等を収集する必要があった。(イ)原告らは,Z1から本件オランダ各口座への送金は,マキサンの法人所得税の支払目的でされたもので,本件マキス株式預託証書の保有者への配当と無関係であって,本件オランダ各口座の取引明細書を確認する必要があることの理由にならず,さらに,原告マキスによってされるべき配当とZ1が申告書に記載した配当の額が一致すれば,それ以上の資料としての同口座の取引明細書も必要がないと主張する。
しかし,具体的にされた送金の事実は,Z1から本件オランダ各口座への送金があることを示すためのものであって,被告は,当該送金の事実や送金の目的そのものをもってZ1が収入すべき配当であると主張するものではないし,原告マキスによってされるべき配当の趣旨も不明であり,上記の原告らの主張には理由がない。キ本件各情報要請は,いずれも我が国において課すことができる租税に関し,所得税法等の法令の規定の運用若しくは執行に関連する情報を求めるものであるから,情報漁りと認められるものではなく,日星租税協定26条1項又は日蘭租税条約25条1項の要件を満たし,適法である。(4)本件シンガポール各口座に関する本件シンガポール情報要請が国内入手不能情報を要請するものとして違法か否か(争点4-①)(原告MAM及び原告Z3の主張)
シンガポール所得税法105J条による手続は,司法が直接に対象情報の提出を命じるものとして日本法には存在しない手続である。
したがって,本件シンガポール裁判によって得られる本件シンガポール各口座に関する情報は,日本の法令又は日本の行政の通常の運営において入手できる情報の範囲を超えるものとして,国内入手不能情報の取得を許容しない日星租税協定26条3項b号の要件を満たさず,そのような司法制度の利用に至った本件シンガポール情報要請は違法である。
(被告の主張)
国内入手不能情報を提供する必要はないとする日星租税協定26条3項は,情報交換に関する相互主義原則を規定したものであるところ,この原則を余りに厳格に適用すると,効果的な情報交換を阻害するおそれがあるので,相互主義の原則は広い意味に,
かつ,
実践的に解釈すべきであるとされ,
また,
各国において情報を入手し又は提供する方法には何かしら異なっている部分が多く,この慣行や手続の違いが重大でない場合には,要請を拒否する理由とすべきではないとされている。
そして,一方の締約国のみが特別の手続規定を有する場合に,このような手続規定を有する国は,要請国が規定を有しないからといって相互主義の原則を理由に情報提供を拒否することはできないとされ,情報が,税務当局が所有するもの又は租税の賦課決定の通常の手続において税務当局が入手できる場合には,通常の行政慣行において入手することができるとみなされるとされている。
本件シンガポール各口座に関する情報は,IRASが国内法の通常の手続において入手できる情報であり,行政の通常の運営において入手できる情報である。原告MAM及び原告Z3の主張は,シンガポール国内法と日本の国内法における手続法の違いを理由とするものにすぎず,いずれにしても理由がない。
(5)本件要望期限後における本件オランダ情報要請の継続が国内入手不能情報を要請するものとして違法か否か(争点4-②)
(原告マキスの主張)
国税庁は,本件オランダ情報要請書簡において,要急案件であり情報の至急の提供を依頼していることから明らかなように,自身,本件要望期限とした2013年(平成25年)3月15日の更正期限以後は調査の法的根拠を失うことを十分に理解していた。上記書簡において言及されている取引は本件預託証書譲渡のみであり,問題とされた申告は平成21年分のもののみであるところ,上記の更正期限の徒過により,本件オランダ情報要請を継続する根拠は失われた。
被告は,偽りその他不正の行為により税額を免れていた場合,法定申告期限から7年を経過する日までは更正することができると主張するが,この場合に該当することを示す事実を全く主張立証していない。
(被告の主張)
確かに,国際業務課長が,本件オランダ情報要請書簡に本件要望期限等を記載した理由は,旧通則法70条1項1号において,増額更正については原則として3年の除斥期間が定められており,この期間を経過した場合,平成21年分について是正することが困難になると見込まれたためである。しかしながら,旧通則法70条5項は,偽りその他不正の行為により税額を免れていた場合,法定申告期限から7年を経過する日までは更正することができる旨規定しているのであるから,更正期限の徒過により,調査継続の法的根拠が喪失したとする原告マキスの主張には理由がない。
なお,本件オランダ情報要請において言及している取引は,本件預託証書譲渡のみならず,原告マキスからの配当収入の有無をも含むものであることから,本件オランダ情報要請で問題とされた申告が平成21年分のもののみであるとの原告マキスの理解は誤りである。
(6)更正決定等をしない旨の通知後における本件各情報要請の継続が国内入手不能情報を要請するものとして違法か否か(争点4-③)(原告らの主張)
ア東京国税局のZ14は,Z4夫婦の税務代理人であるZ16税理士に対し,平成25年3月15日,電話で平成21年分の所得税については更正処分をしない旨を,同年4月17日,同じく電話で平成22年分及び平成23年分の所得税についても更正処分をしない旨を,それぞれ連絡し,本件所得税調査は,同日をもって終了していた。調査が終了した以上,本件各情報要請を継続する法的根拠を欠き,同日以降,原告らは,これを続行されないべき地位にあり,被告は,本件各租税条約に基づき受領する原告らに関する情報が記載された資料を利用することができない。
本件各租税条約に基づく情報交換は,要請国の法令上又は行政の通常の運営において入手できない情報の取得を許容するものではない(日星租税協定26条3項,日蘭租税条約25条3項)のであるから,日本法上,税務調査が終了した場合には,本件各租税条約に基づく情報交換を継続することは違法というべきであり,
国際業務課長は,
平成25年4月17日
(又
は遅くとも同年5月27日)以降,本件各情報要請を撤回すべき義務を負っている。
なお,被告は,租税条約に基づく情報交換要請自体又はそれに基づいて情報を取得,利用することが調査ではないと主張しているように見えるが,
租税条約に基づく情報交換要請は調査である。
イ(ア)被告は,平成24年9月からZ4夫婦に対して行われた本件調査に新通則法の適用はない旨を主張するが,現実には,麹町税務署長は,Z4夫婦に対し,新通則法74条の11第1項による更正決定等をすべきと認められない旨の書面による通知をしている。
(イ)この点,そもそも同条項を含む新通則法7章の2は,従前から存在する租税法の一般原則を確認的に規定したものにすぎず,平成23年改正法の附則にかかわらず,同章の明文規定と同様の趣旨が適用されるべきものであり,麹町税務署長が上記通知書をZ4夫婦に送付したのも,法の一般原則の趣旨に沿った対応というべきである。
仮に同附則により本件調査に新通則法の適用がなかったとしても,被告は,自ら進んで上記通知書を送付したことにより,新通則法の適用を受ける途を選択したものであり,一旦その適用を選択したのであれば,信義則ないし禁反言の原則からして,自らの都合の良い部分だけを切り取って適用を受けたり,都合の悪い部分を切り離して適用を受けないという選択をすることはできず,原告らとの関係においては,新通則法7章の2の全面的な適用を受けるというべきである。
(ウ)また,一般論として,調査終了後に他の納税者から新たに得られた情報があれば,調査を再開できる余地はあるかもしれないが,新通則法74条の11第6項が許容するのは,調査とは関係なしに他で新たに得られた情報に基づく調査再開である。
これに対し,本件では,新たな情報を得るために本件調査の一部である本件各情報要請を継続しようとしているものであり,論理の順序が逆である。非違を新たに発見するために本件各情報要請を継続して調査する必要があるとの主張は,既に調査が終了しているという事実と明らかに矛盾している。更正決定等をすべきと認められない旨の通知書を送付した後に,日本国内の銀行本支店に対していわゆる反面調査を行うことは到底許されるものでなく,一見して明白に違法であるところ,日本国内の銀行本支店に対する調査が許されないのに,外国支店に対しては調査が許されるという論理が通る余地はない。
(被告の主張)
ア(ア)新通則法における調査手続は,
前記1の関係法令等の定め(4)イ(イ)
のとおり,原則として,平成25年1月1日以後に納税者に対して行う質問検査等
(同日前から引き続き行われている調査等に係るものは除く。

について適用するとされているから,平成24年9月からZ4夫婦に対して行われた本件調査に新通則法の適用がないことは明らかである。(イ)また,新通則法74条の11第1項に「その時点において」という条件が付されていることからも明らかなように,例えば新たな情報を得たなど,その後の状況に変化があれば,更正決定等をすることがあり得るということを留保していると解されており,同条6項も,新たに得られた情報に基づく再調査を行うことができる旨規定している。
イ本件調査については,新通則法の適用がないことから,新たに得られた情報の有無にかかわらず,必要があると認められれば,改めて質問検査権を行使することができるし,仮に本件調査に新通則法の適用があったとしても,
本件各情報要請により得られた情報は新たに得られた情報に該当し,これに照らして非違があると認められた場合には再調査をすることができるのであるから,本件各租税条約に基づき受領する原告らに関する情報が記載された資料を被告において利用することができないとの原告らの主張は失当である。
また,以上のことを踏まえれば,一旦調査が終了したとしても,改めて調査を行う場合があることは法律も当然に予定しているのであり,そうだとすると,調査終了後に資料収集を行うことが禁止されるものと解することはできないから,調査の終了手続を経た後において本件各情報要請を継続することも違法ではない。
(7)本件各情報要請が情報入手手段を尽くさずに行われ又は既に我が国で得た情報を要請するものとして違法か否か(争点5)
(原告らの主張)
ア租税条約に基づく情報要請を行うに際しては,事前に,当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くすこと(使い果たすこと)が要件として必要である。これは行為規範であるから,調査対象者が資料を出さなかったという結果ではなく,被告がいかにしてこれを尽くしたのかが問われるべきである。
また,その論理的な大前提として,日本で得た情報について重ねて情報要請をしないことが求められる。自国で入手可能な情報について外国政府を巻き込むべきでないから,租税条約に基づく情報交換要請については,客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うとされている国内調査における反面調査以上に極めて厳格な補充性が要求されるものである。
イ(ア)この点,まず,原告マキス及びマキス財団の定款,マキス財団の管理規則及びマキス財団が締結した預託証書に係る契約書等については,Z16税理士は,以前に国税不服審判所における別の裁決手続前に昭和税務署に提出しており,英語又はオランダ語で書かれているこれら文書の主要部分の和訳が当該裁決書に付されていることから,
Z6等に対し,
当該裁決書を見てほしいと依頼したところ,Z6等もそれ以上提出を求めなかった。とすれば,それらの資料は国内において入手することが困難なものではないし,まして本件オランダ情報要請をするのであれば,その前に再度,Z4夫婦又はZ16税理士に提出を依頼すべきであったのに,適切な依頼をしなかったのであり,できることを全て尽くしたとは到底いえない。
被告は,Z16税理士が国税不服審判所に提出した資料であるからといって,Z6等が必ずしも入手することができるというものでもないと主張するが,その閲覧を求めることができない旨の規定もないのであるから,まずは入手できるかどうか試すべきであり,それを試しもしないのであれば,当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くした(使い果たした)とはいえない。
(イ)また,被告は,平成24年11月9日に原告マキスに係る資料の提出をZ16税理士に依頼しているところ,本件オランダ情報要請は,同日から12営業日しか経っていない同月27日付けでされており,英訳や禀議や決裁の手続を行わなければならないことに照らせば,同月9日時点では,本件オランダ情報要請書簡のドラフトはできていたと考えられ,そもそも被告は可能な全ての情報入手手段を尽くすつもりがなかったというべきである。
ウ(ア)次に,本件シンガポールZ1口座の銀行取引明細書については,本件調査当初にZ6等から提出依頼を受けた資料のリスト中に同口座について言及がないことから明らかであるとおり,Z6等は,Z1又はZ16税理士にその提出を求めておらず,当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くしていないことは明らかである。
この点,被告は,本件調査当初において,本件シンガポールZ1口座があることを認識していなかったと主張するが,Z6等は,平成24年9月18日に,Z4夫婦に対して本件シンガポールZ1口座に関して質問しており,認識していなかったというのは明らかに虚偽である。(イ)また,被告によれば,平成24年11月12日に本件シンガポールZ1口座の有無について確認したところ,Z1から必要があれば資料を取り寄せる旨の回答があったというのであるから,取寄せを求めれば済む話であり,その一言すら言っていないのであるから,当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くしていない。
さらに,本件シンガポール情報要請は,同回答があったとする同日から7営業日しか経っていない同月22日付けでされており,英訳や禀議や決裁の手続を行わなければならないことに照らせば,同月12日時点では,本件シンガポール情報要請書簡の日本語版は国税庁に渡っていたと考えられ,そもそも被告は可能な全ての情報入手手段を尽くすつもりがなかったというべきである。
エ(ア)さらに,原告MAMが投資運用会社である2006年1月1日から2012年2月28日までに存在した各投資信託の内容(委託者,受託者,受益者,運用会社,事務管理会社,現物証券等保管会社,受益証券販売会社,運用内容,分配計算方法等)のほとんど全ては,Z1がZ6等に提出していたユビキタス・ファンドA,B,D,E及びHの目論見書(以下「ユビキタス目論見書」という。)に掲載されており,国税庁は,IRASにそれらの情報を要請するまでもなく,それらの情報を得ていた。
それにもかかわらず,本件シンガポール情報要請をしたことは,日本で得た情報について重ねて情報要請しないという租税条約に基づく情報要請の大前提を満たしていない。
(イ)また,このうちユビキタス・ファンドHについては,上記投資信託内容が記載された資料を,その販売代理店であった立花証券から入手することが可能であった。
それにもかかわらず,国税庁は,当国内で可能な全ての情報入手手段としての上記手段を実施しないまま,ユビキタス・ファンドHの内容に係る情報を本件シンガポール情報要請において要請したものであり(あるいは,立花証券からこれを入手していたのであれば上記(ア)と同様に日本で得た情報について重ねて情報要請しないという租税条約に基づく情報要請の大前提を満たしていないことになる。),同要請は,要件を欠いた違法なものである。
オ国際業務課長は,
当国内で可能な全ての情報入手手段を実施しないまま,
これを実施した旨の虚偽の記載をして本件各情報要請を行ったものであり,明白かつ重大な違法がある。
(被告の主張)
ア租税条約における情報交換制度の目的は,租税に関する国内法を適正に執行するため必要な情報を交換すること,自国の税務当局の調査権限が及ばない範囲での調査を相互に補完することにある。我が国では,OECDモデル租税条約に関するコメンタリーの記載を踏まえ,実務上の取扱いとして,事務運営指針上,情報交換要請をすることができる情報は,国内において入手することが困難なものに限るとしているが,これは,まず国内の課税上の手続に基づき利用し得る通常の情報源に依拠すべきとする考え方に基づき,一義的には要請国が自国の領域で入手を試みるべきであるとしているものである。
しかしながら,調査対象者の税務申告の適法性や正確性を確認するに当たって,調査対象者等から提示された資料のみではこれを判断することが困難な場合があるのは当然であり,上記租税条約の情報交換制度の目的からすれば,このような場合,税務申告の適法性や正確性を確認するために必要な情報や,あるいは調査対象者やその取引先等から提示された資料の真偽を確認するために必要な情報等を要請することが情報交換制度において否定されているとは到底考えられない。
イ(ア)この点,原告らは,原告マキス及びマキス財団の定款,マキス財団の管理規則及びマキス財団が締結した預託証書に係る契約書等については,Z16税理士から国税不服審判所に提出済みである旨主張するが,国税不服審判所は,
税務署や国税局等の執行機関から分離された機関で
あり,
原処分庁が審査請求人の提出した資料の閲覧を求めることができ
る旨の規定は存しないのであって,
国税不服審判所に提出された資料を
Z6等が必ずしも入手できるものではない。
また,そもそも原告らの指摘する裁決は,第三者に係るもので,Z4夫婦の課税関係を争うものですらない。
したがって,
Z16税理士が第三者に係る審査請求において国税不服
審判所に資料を提出したことから直ちに,
対象資料が国内において入手
が困難なものでなくなるというものではない。
(イ)なお,
被告が平成24年11月9日にZ16税理士に提出を依頼し
た資料は,本件オランダ情報要請とは関係がないものである。
ウ(ア)次に,本件シンガポールZ1口座の銀行取引明細書については,Z6等は,平成24年9月18日にZ4夫婦の自宅に臨場して本件調査を実施した際には,三菱東京UFJ銀行Z17支店にZ1名義の預金口座があることを認識していなかったが,
その後,
本件調査の過程において,
これを把握したという経緯である。
そこで,Z6等は,同年11月12日,Z1に対し,同支店の預金口座の有無について確認したところ,Z1から,三,四年前に解約したが必要であれば取り寄せる旨の回答があったものの,その後に取寄せを求めても資料が提出されることはなかったため,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールZ1口座の取引に係る情報を要請したものである。
(イ)本件においては,①Z6等が,平成24年9月18日に,Z4夫婦に対して国外の預金口座を含めて通帳等を提出するよう依頼したにもかかわらず,
Z1は本件シンガポールZ1口座があることを明らかにせず,②Z4夫婦は,原告MAMに関する資料については株主ではないなどの理由により提出せず,③Z1は,同年11月12日に行われた2回目の面接で,Z6等から他に預金口座を保有していないかと質問されたのに対して,見せたもの以外に持っていないつもりと回答した後,Z6等が本件シンガポールZ1口座があることを指摘して初めて同口座の存在を認めたことからすると,Z1は国外に存する資料の提出について消極的な姿勢であって,同人から同口座の取引に係る資料が即時に提出されることが期待できる状況にはなかったというべきである(なお,Z4夫婦は,本件シンガポール情報要請後においてもこれを提出することはなかった。)。
また,我が国は,国外にある金融機関から特定の口座についての情報を取得するための課税上の手続を有しておらず,本件シンガポールZ1口座の取引に係る資料は,日星租税協定に基づく情報要請以外の手段で入手することができないものであったといえる。
したがって,本件シンガポール情報要請が行われるよりも前に,通常の情報源に依拠して本件調査が行われており,その段階で既に国内における情報入手手段は尽くされていたというべきであり,平成24年11月12日に行われたZ1とZ6等とのやり取りのみをもって,当国内で可能な全ての情報入手手段を尽くしていないとする原告らの主張は理由がない。
エさらに,原告MAMが運用する外国証券投資信託の内容,その運用実態に係る資料及び財務諸表については,Z6等は,Z4夫婦に対し,その提出を求めたが,Z4夫婦は,原告MAMの決算書にはシンガポールの投資家情報(第三者情報)が記載されていること,Z4夫婦は原告MAMの株主ではないことなどを理由に,資料を提出しなかった。
そして,本件シンガポール各口座に送金された多額の資金は国外において運用されていることから,Z4夫婦から提示されたユビキタス目論見書や国内で入手できる資料のみでは,Z9一族に帰属する収入の全てを把握することは困難であった。
Z6等は,Z4夫婦から提示された資料の内容が適正か否か,また,提示された資料が全てであるかの確認を含め,国外において運用されている所得の有無等を把握するために本件シンガポール情報要請を行ったのであり,国内において入手することが困難な情報を要請するものであって,情報交換を要請するための要件を満たすものである。
オ本件各情報要請に係る情報は,国内において入手することが困難な情報であって,本件各租税条約に基づき情報を要請するための要件を満たす。(8)本件各情報要請を原因とする原告らの国家賠償請求権の有無(争点6)(原告らの主張)
ア被告は,プライバシーを保護する職務上の義務を負い,情報の提出を求められた者が当該情報の提出により第三者のプライバシーを侵害することのないように配慮して情報の要請を行う義務を負っているところ,原告ら(特に投資運用会社である原告MAM)において顧客のプライバシーを守る義務,権限を侵害する形で本件各情報要請を行った。
イそして,Z16税理士や山中弁護士は,Z14から更正処分をしない旨の電話連絡があった平成25年4月17日以降,本件面談時をはじめ,繰り返しZ14等に対し本件各情報要請の不継続を要請し,Z9一族以外の他の投資家の情報は黒塗りにするという形式で資料の提出を求められればそれに応じるので,その代わりに本件各情報要請は撤回してほしい旨申し入れるなどして,
その撤回に向けて尽力したにもかかわらず,
Z14等は,
これを故意に無視し,継続を強行した。Z14等は,本件面談時,本件各情報要請の撤回は権限外であり,撤回をしたかったとしてもするすべがないという説明をしたが,実際には撤回の要請はできたものであり,Z14等が,直接,間接に本件各情報要請の撤回に至る方法を有しているにもかかわらず,撤回の主張を断念させる等の意図で,Z16税理士及び山中弁護士にその旨を告げなかったのであれば,
違法行為を構成し,
これにより,
原告らが自己の情報を保護する機会を減少させ,
損害を与えたものである。
ウ(ア)原告MAMが,違法な本件シンガポール情報要請に対応するために支出した費用は1000万円を下らない。
また,原告MAMが運用する投資ファンドの投資家や受託会社との関係で社会的評価ないし信用の低下減退に見舞われた無形損害を金銭で評価すると,100万円が相当である。
さらに,原告MAMの本訴追行のための弁護士費用は50万円が相当である。
(イ)原告Z3が,違法な本件シンガポール情報要請により生じた問題を解決するために強いられた多大な苦労による甚大な精神的苦痛を慰謝するには50万円が相当である。
また,原告Z3の本訴追行のための弁護士費用は50万円が相当である。(ウ)原告マキスが,違法な本件オランダ情報要請に対応するために支出した費用は50万円を下らない。
また,原告マキスの事業に対する社会的評価ないし信用の低下減退に見舞われた無形損害を金銭で評価すると50万円を下らない。
さらに,原告マキスの本訴追行のための弁護士費用は50万円が相当である。
エ被告は,
本件各情報要請が国賠法1条1項の適用上違法というためには,
国際業務課長が個別の原告らに対して職務上の法的義務を負担していることが必要となると主張する。
しかし,憲法15条2項,国家公務員法96条1項にあるとおり,公務員は全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではなく,国民全体に対して職務上の注意義務を負っているのであって,個別具体的な特定の国民に対して義務を負うかどうかにかかわらず,
適正に職務を執行すべき存在である。
(被告の主張)
ア国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであるから,当該公務員の行為が国賠法上違法と認められるためには,当該公務員が損害賠償を求める個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反したことが必要であり,公務員が当該個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反したというためには,当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要である。
しかるところ,本件各租税条約が必要な情報を交換することを二国間で約束するものであることからすると,日星租税協定26条1項,3項,日蘭租税条約25条1項,3項は,被要請国の利益を保護する趣旨の規定であると解され,被要請国の居住者の権利利益を保護する責任を負うのは,国内法令を執行する被要請国の税務当局であるといえる。本件各租税条約上の情報交換制度において,要請国の税務当局が,被要請国に情報を要請するに当たり,被要請国の居住者の権利利益を保護すべき職務上の法的義務を負っているものということはできない。
国際業務課長は,本件各情報要請に当たり,被要請国の居住者である原告らに対し職務上の法的義務を負っているとは認められないから,その職務上の法的義務違反は認められない。
イまた,
前記(2)の争点2に関する被告の主張イで述べたところからも明らかなとおり,本件各情報要請に基づいて原告らの情報が提供され,あるいは提供された当該情報を我が国の関係行政庁が利用したとしても,そのことが直ちに原告らの有する何らかの権利ないし法益を侵害することにはならず,原告らには国賠法上の違法の前提となる権利ないし法益の侵害も存在しない。
原告らは,本件各情報要請が,原告らや顧客のプライバシーを侵害するものとして許されない旨主張するが,
前記(2)の争点2に関する被告の主張
イに述べたとおり,被告が受領する情報の使用目的は限定され,被告に守秘義務が課されていることからすれば,本件各情報要請によって得られる情報がみだりに開示されることはない。
ウなお,
本件面談時におけるZ14等の説明内容に関する原告らの主張は,事実に反する。
Z14等は,本件面談時,本件調査を開始してから既に8か月と長期にわたっていた上,本件各情報要請に基づく情報入手には相当期間を要する可能性があり,その回答待ちだけを理由として調査を長引かせることは,納税者にとって負担となり,体調も考慮して適当でないとの判断から,Z4夫婦に対し,本件各情報要請に係る部分を切り離したところで本件調査を終了する旨伝えるとともに,当時までに入手した情報や提示された資料からは問題点が認められないとの判断に至ったことから,「今回の調査は終了するが,情報交換要請により得られる情報等により,新たに課税上の問題点が認められた場合には再調査を行う」旨の説明を行った。
エ原告らの損害は争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件各取消請求に係る本件各情報要請の処分性の有無)について(1)判断の枠組み
処分の取消しの訴えにおける「処分」とは,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいい(行政事件訴訟法3条2項),公権力の主体が行う行為のうち,その行為によって国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁判所昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁各参照)。なお,ここにいう国民とは,法人や外国人を排除する趣旨のものではなく,外国法人を含めて,これらの者の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものも,同項にいう「処分」に当たるものと解される。(2)検討
アこれを本件各租税条約に基づき我が国が要請国としてする情報要請行為についてみると,本件各租税条約に基づく情報要請行為の根拠規定である日星租税協定26条及び日蘭租税条約25条は,各3項において,同項各号に掲げることを行う義務を課するものと解してはならないと規定し,各4項において,被要請国は,自己の課税目的のために必要ないときであっても,当該情報を入手するために必要な手段を講ずべき旨を規定するとともに,各5項ともども,一定の事由を理由として,被要請国が情報の提供を拒否することを認めるものと解してはならないとも規定しているから,上記各条に基づく情報要請行為は,これが同各条において明文で規定され又は本件各租税条約の解釈上要求される要件に適合する内容のものである限りにおいて,要請された情報を要請国に提供すべき条約上の義務を,被要請国に対して課すこととなる行為であるということができる。
イしかしながら,上記各条に基づく情報要請行為は,被要請国の権限ある当局を名宛人としてその職務権限の行使を依頼するものであり,国民を名宛人とするものではなく,国内における行為になぞらえていえば,他の行政機関に対する内部的な依頼に類似する行為であるということができ,情報要請行為それ自体により,国民(外国法人を含む。以下同じ。)に対して何らかの作用や法律上の効果を及ぼすものであるとはいえない。また,被要請国が要請された情報を提供すべき義務を負うのは,当該情報要請行為が上記各条等の本件各租税条約上の要件に適合する内容のものである場合に限られるところ,我が国が要請国としてした情報の要請に被要請国が応じるか否かは,本件各租税条約上の要件に適合するか否かについての被要請国の権限ある当局の判断に委ねられており,その適合性の有無について,要請国である我が国の当局が被要請国の当局との間で協議を行う余地があるにしても,最終的には被要請国の当局における本件各租税条約の解釈と適用に委ねられていると解されるから,当然に,被要請国が要請された情報を提供すべきことになるわけではない。
さらに,
当該情報要請行為が上記各条等の本件各租税条約上の要件に適
合するものであり,
被要請国が要請国に対しそのような義務を負うことと
なるとして,
被要請国の権限のある当局が要請に応じると判断した場合で
あっても,具体的にいかなる方法で当該情報を入手,提供するかについては,
被要請国の国内法令の定めと当局の決定に委ねられていると解される。すなわち,
仮に要請された情報が被要請国において既に保有している情報
であれば,
関係者から当該情報を取得するための行為に直ちに出ることは
ないと考えられるし,
被要請国においてこれを保有しておらず関係者から
情報を取得する必要がある場合にしても,
まず任意の方法により情報の提
出を求めるのか,あるいは強制的な行為に出るのかは,当該関係者の態度等をも考慮した上での被要請国の当局の合理的な裁量に委ねられていると解される。
ウしたがって,上記各条に基づく情報要請行為がされたからといって,当該要請のされた情報の関係者に対して被要請国において必然的に義務が課されることになると考えるのは早計であって,このように被要請国において義務が課されることが必然であるといえない以上は,本件各租税条約に基づく情報要請行為は,国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに該当するとはいえず,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないというべきである。(3)原告らの主張について
アこれに対し,原告らは,シンガポール及びオランダ両国の国内法を引用するなどして,本件各情報要請により,原告ら又は三菱東京UFJ銀行Z17支店が相当程度の確実性をもって義務を負うこととなる旨主張する。しかしながら,本件各租税条約に基づき,我が国が要請国としてシンガポール又はオランダに対して情報を要請したとしても,それに応じるか否かは被要請国の権限ある当局の判断に委ねられ,当然に被要請国が当該情報を提供すべきことになるとはいえず,また,被要請国がそれを提供するとしても,具体的にいかなる方法で当該情報を入手,提供するかについては,被要請国の国内法に基づく当局の合理的な裁量に委ねられていると解すべきことは前記(2)イに判示したとおりであるから,本件各租税条約上,情報交換要請がされれば被要請国における特定の強制的な措置が相当程度の確実性をもって実施されると評価することはできない。
上記の原告らの主張は,実際に行われた個別具体的な本件各情報要請において生じた事実関係を捉えて,原告ら又は三菱東京UFJ銀行Z17支店が義務を負うこととなっている旨の主張をする域を出るものではないというべきであり,採用することができない。
イまた,原告らは,我が国のする情報要請行為に違法性があるのか否かはシンガポール又はオランダにおいて知るところではないから,その違法性の有無は,我が国の裁判所で争うのが紛争の適切な解決に資するとした上で,被告が情報を入手した後では違法を是正する機会として遅きに失するから,本件各情報要請に処分性を認めて争訟の対象とするのが,裁判上の救済のタイミングとして適切である旨主張する。
しかし,
前記(2)イに判示したとおり,
被要請国が情報要請に応じるか否
かは,本件各租税条約が定める要件を充足しているか否かについての被要請国の権限ある当局の判断に委ねられていると解されるから,むしろ,被要請国の当局の判断の適否を,被要請国の居住者が被要請国において争うほうが適切であり,我が国の裁判所においてその点を審理判断することは必ずしも適切であるとはいえない場合もあると考えられる。他方,要請国の当局による情報要請行為は,基本的に,課税要件事実に関する資料を収集する目的で行われるものであり,課税のための手段にすぎないものであるところ,具体的な課税に至る前の段階におけるその手段たる行為について処分性を認めなければ適切な時期に救済を得られないと解すべき理由もない。
したがって,上記の原告らの主張は,採用することができない。
(4)小括
以上によれば,本件各情報要請について抗告訴訟の対象としての処分性を認めることはできず,これらの取消しを求める本件各取消請求に係る訴え部分は不適法である。
2争点2(本件各確認請求に係る確認の利益の有無)について
(1)判断の枠組み
本件各確認請求に係る訴え部分は,本件各情報要請に基づく情報の取得,保有又は本件各租税条約に基づき提供される情報の利用を未然に防止しようとするいわゆる予防的確認の訴えであると解されるところ,これらの情報の取得,保有又は利用は,それ自体行政処分に当たるとは解されないから,行政処分以外の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する実質的当事者訴訟としての確認の訴えと解するのが相当である(最高裁判所平成24年2月9日第一小法廷判決・民集66巻2号183頁参照)。
そして,実質的当事者訴訟としての確認の訴えについても,民事訴訟一般における確認の訴えと同様に,即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,確認の利益があるものとして,これを提起することが許されるものというべきである(最高裁判所昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。
(2)検討
ア本件各情報要請は,Z4夫婦に対する本件所得税調査の一環として行われたものであり,当該調査が行われ,本件各情報要請に係る情報が取得,保有されるに至ったからといって,当然にそれが利用されて,Z4夫婦に対する更正処分や,まして原告らに対する何らかの課税が行われることになるという関係にはないから,Z4夫婦や原告らの課税関係に係る法的地位に現実の危険を及ぼすものではないことが明らかである。
また,本件各租税条約に基づき我が国が要請した情報は,要請国である我が国が国内法令に基づいて入手した情報と同様に秘密として取り扱うものとされるとともに,租税の賦課,徴収等に関与する公務所に対してのみ開示することが許されることとなっており(日星租税協定26条2項,日蘭租税条約25条2項),我が国の法令上も,これらの公務所に属する公務員は守秘義務を負っていることからすると,一旦これを行政機関の職員が入手したとしても,これが現実に第三者に流布されるなどして,当該情報関係者の権利利益が侵害される可能性は直ちには想定し難い。
イこの点,原告らは,銀行における取引明細,投資運用の内容,顧客などに関する情報は,プライバシー権等により,みだりに開示されないことが保障されているところ,これらの情報が被告に明らかとなるのは時間の問題となっており,原告らのプライバシー権が侵害される現実的な危険性が迫っていることをもって,
前記(1)の確認の利益がある旨主張し,
このこと
は,被告が当該情報を第三者に漏洩したり目的外使用をする危険性の有無に左右されない旨主張する。しかしながら,我が国の当局においては,課税処分を行うために必要な資料の取得収集を可能ならしめるため,課税要件事実についての調査権限が認められており(所得税に関する調査についていえば,新通則法74条の2第1項,
平成23年改正前の所得税法234条)調査の相手方には,

それが適法な調査である限り,
これを受忍する義務が課されているところ,
原告らの主張する上記の情報についても,正当な行政目的に資するものとして客観的な必要性が認められるのであれば,法令上の根拠に基づき,その開示が義務付けられているものであって,被告がそれを取得し,利用することは,直ちにプライバシーを侵害するものとはならないという性質のものである。
そして,仮にこの範囲を超える情報を被告が取得するに至った場合に,原告らのプライバシーが侵害されると評価することができるとしても,上記の情報は,原告らの財産上の行為に関するものであって,直接その人格的利益に関わるものではないことや,上記アにおいて検討したように,その情報が現実に第三者に流布されるなどして情報関係者に不利益が及ぶことも直ちに想定されるわけではないことに照らすと,被告が取得することそれ自体による不利益があるとしても,相当程度観念的なものであることは否めない。
他方,原告らが主張する上記の情報を被告が取得,保有し,利用するに至った場合に,原告らにおいて何らかの損害が生じるのであれば,別途,その回復を求めて訴訟を提起することは何ら妨げられないし,現に原告らは本件各国賠請求をしている。また,上記の情報のうち,個人情報については,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)に基づき,所定の手続を経て,利用停止請求(同法36条)をすることにより,被告における利用を阻止することができる。ウ以上のとおり,原告らが主張する上記の情報を被告が取得等した場合の不利益の性質や,事後的な損害の回復の困難性の程度等を勘案すると,プライバシーの侵害の予防を目的とした確認の訴えについては,その目的に即した有効適切な争訟方法であるということはできず,その確認の利益を肯定することはできないというべきである。
(3)小括
以上によれば,
本件各確認請求について確認の利益を認めることはできず,
上記各請求に係る訴え部分は,公法上の法律関係に関する実質的当事者訴訟たる予防的確認の訴えとして,不適法である。
3本件各訴え部分の適否についてのまとめ
以上によれば,本件各訴えのうち,本件各取消請求及び本件各確認請求に係る部分はいずれも不適法であることに帰着し,本件各国賠請求に係る部分のみが適法な訴えであることになる。
そこで以下,本案の争点である本件各情報要請の適否について,国賠法上の違法が認められるかという観点から,検討する。
4本件各租税条約に基づく情報要請に際しての税務職員の職務上の法的義務について
(1)被告は,本件各租税条約は必要な情報を交換することを二国間で約束するものであり,日星租税協定26条1項,3項,日蘭租税条約25条1項,3項は,被要請国の利益を保護する趣旨の規定にすぎず,被要請国の居住者の権利利益を保護する責任を負うのは,国内法令を執行する被要請国の税務当局であるから,国際業務課長は,本件各情報要請に当たり,被要請国の居住者である原告らに対し職務上の法的義務を負っているとは認められない旨主張する(前記第2の4(8)の争点6に関する被告の主張ア)。
(2)しかしながら,租税条約に基づく特定の事案に係る情報交換要請行為は,租税に関する国内法を適正に執行するために必要な情報の交換を目的とするものであり,国内であればいわゆる反面調査等に相当するものを外国に存在する情報について行うのに類するものということができるから,税務職員としては,
国内における場合に準じて,
各個別の租税に関する調査について
「必
要があるとき」という要件(所得税に関する調査についていえば,新通則法74条の2第1項,平成23年改正前の所得税法234条)の下でこれを行う必要があるものと解するのが相当である(行政機関個人情報保護法3条1項も参照)。
そして,
適法に取得されたものでない情報が,
行政機関個人情報保護法上,
利用停止請求の対象とされていること
(同法36条1項1号)
にも鑑みれば,
本件各租税条約に基づく情報要請が本件各租税条約上の要件に適合したものであることも,上記の必要性の要件が満たされているといえるための前提となるというべきである。
(3)したがって,税務職員は,被要請国の居住者との関係でも,上記の必要性の要件及び本件各租税条約上の要件のいずれにも沿って,本件各租税条約に基づく情報要請を行うべき職務上の法的義務を負っているというべきであり,これと異なる被告の主張は採用することができない。
5争点3(本件各情報要請が非関連情報を要請するものとして違法か否か)について
(1)非関連情報に関する税務職員の職務上の注意義務
本件各租税条約は,本件各租税条約の実施又は両締約国若しくはそれらの地方公共団体が課する全ての種類の租税に関する両締約国の法令の規定の運用又は執行に関連する情報を,要請に基づく情報交換の対象としている(日星租税協定26条1項,日蘭租税条約25条1項)。そして,上記4に判示したところに照らせば,税務職員は,被要請国に所在する情報関係者との関係においても,上記に該当しない非関連情報を要請してはならないという職務上の注意義務を負っているものと解される。そこで以下,本件各情報要請に基づきシンガポール又はオランダに要請された情報のうち,原告らが非関連情報に該当すると主張するものについて,これに該当するか否かを検討する。
(2)認定事実
前記第2の2の前提事実並びに証拠(甲A2,乙3,8)及び弁論の全趣旨によれば,原告ら関係者の間における平成23年に至るまでの資産の移動及びZ4夫婦の所得税の申告状況について,以下の各事実が認められる。アZ4夫婦は,2002年(平成14年)10月18日,オランダにおいて,メルコHD株式の持株会社として有限責任かつ非公開の原告マキス(代表取締役・Z1)を設立し,同年11月15日,かねて保有するメルコHD株式を証券会社に売却した代金から原告マキスの資本金に出資した。
原告マキスは,間もなく,当該証券会社からメルコHD株式を購入してメルコHDの株主となった。
イ次いで,Z1は,2003年(平成15年)5月26日,オランダにおいてマキス財団(単独理事・Z1)を設立し,Z4夫婦は,同日,同財団にその保有する原告マキス株式の全部を預託して同財団から本件マキス株式預託証書の発行を受けた。
ウ一方,原告Z3は,2006年(平成18年)7月28日,シンガポールにおいて,資本金の全額を出資して,投資運営会社として有限責任かつ非公開の原告MAM
(当時の取締役・原告Z3。
旧商号メルコ・アセット・
マネージメントPTEリミテッド)を設立し,同社は,ケイマン諸島において,ユビキタス・ファンドを運用した。
Z1は,同年12月8日,本件ユビキタスB口座に投資信託購入名目で5億円を送金した。
エまた,Z1は,2007年(平成19年)7月10日,三菱東京UFJ銀行Z18の自身の口座から本件シンガポールZ1口座に2億円を送金して振り替えた。
オ原告Z3は,
2007年
(平成19年)
10月2日,
オランダにおいて,
マキサン(代表取締役・Z1)を設立した。
Z1は,同月18日,本件シンガポールマキス口座に貸付け名目で22億円を送金し,
この頃までにシンガポールに住所を移していた原告Z3は,
同月29日,
本件シンガポールマキサン口座に投資管理会社への送金名目
で12億円を送金した。
マキサンは,ユビキタス・ファンドの管理に携わった。
カZ2は,2009年(平成21年)7月23日,本件ユビキタスD口座に資金運用名目で2億円を送金した。
キ原告Z3は,同年9月28日,マキサン株式全部をZ1に譲渡し(本件マキサン株式譲渡),同日,Z4夫婦は,本件マキス株式預託証書を原告MAMに譲渡した(本件預託証書譲渡)。
Z1は,同月30日,本件シンガポールZ3口座に株式購入名目で31億5827万3673円を送金するとともに,
本件シンガポールMAM口
座に貸付け名目で14億5000万円を送金した。
その直後頃,メルコHDの業績回復が公表され,同社株式の価格が上昇した。
マキサンは同年10月15日に解散した。
クZ1は,同年11月27日,本件ユビキタスH口座に運用名目で8億5000万円を送金した。
ケZ4夫婦は,同年分の所得税について,メルコHD株式の持株会社である原告マキスの株式の預託に係る本件マキス株式預託証書の譲渡
(本件預
託証書譲渡)により譲渡損失が生じたとして,これと役員報酬を含む総合所得とを損益通算する内容の確定申告書を提出した。コユビキタス・ファンドHは,日本の販売代理店である立花証券においてZ4夫婦のみが受益者となっていたところ,2011年(平成23年)末頃に,同ファンドの利益が償還された。
Z2の同年分の所得税の確定申告書においては,
同利益が譲渡所得とし
て計上されていたが,
Z1の同年分の所得税の確定申告書においてはこれ
に相当する記載がなかった。
(3)検討
上記(2)に認定した事実によれば,Z4夫婦及び原告Z3,原告MAM,原告マキス及びマキサンの関係各社,マキス財団並びに原告MAM及びマキサンが運用に関与したユビキタス・ファンドB,D及びHの間では,平成23年までに,客観的に見て相当複雑な資金やメルコHDを含む関係各社の株式の移動が行われてきていたというべきであり,これらの取引に関与していない第三者の立場から見れば,これらの資金の移動,関係各社の株式の移動や関係各社及びマキス財団の設立の経緯等について,その趣旨ないし目的が一見して明瞭であるとはいえない。そうすると,平成24年当時,Z4夫婦に対する所得税法の適用を含め,我が国の租税法を適正に執行するためには,これらの資金及び株式の移動の全容や関係各社及びマキス財団の設立の真の趣旨ないし目的を解明する必要があったものと認められる。
原告らが非関連情報に該当すると主張するのは,本件各情報要請の対象とされた情報のうち,①原告MAMの運用する投資信託及び本件シンガポールZ1口座に係る情報,②原告MAMの財務諸表及び申告事績に係る情報,③本件シンガポールZ3口座に係る情報,④本件シンガポールマキス口座及び本件シンガポールマキサン口座に係る情報,並びに⑤本件オランダ各口座に係る情報であるが,これらはいずれもこれらの資金及び株式の移動や関係各社及びマキス財団の設立の真の趣旨ないし目的を解明する上で必要な情報であったということができるというべきであり,一般に,租税条約における情報交換制度の趣旨・目的が,国内租税法を適正に執行するため必要な情報を交換し,自国の税務当局の調査権限が及ばない範囲での調査を相互に補完することにあると考えられることからすれば,上記①ないし⑤の情報は,本件各租税条約との関係において,非関連情報に該当するとはいえない。(4)原告らの主張について
ア(ア)原告らは,
本件シンガポール情報要請において,
上記(3)①のうち原
告MAMの運用する投資信託に係る情報を要請したことについて,Z4夫婦に対する税務調査目的である以上,Z9一族のうち居住者であるZ4夫婦及びZ5を受託者とする投資信託に係るものに限定する取扱いで目的は達成できたはずであるのに,原告MAMが投資運用会社となった全ての投資信託に係る全ての受益者の氏名や異動に係る情報を要請するのは,名前を特定しない情報収集として,非関連情報の要請に該当する旨主張する。
しかしながら,前記(2)に認定した事実に基づき上記(3)において検討したとおり,原告MAMが運用した複数の投資信託に関連して,趣旨ないし目的の不明瞭な資金移動が行われているほか,原告MAMが,Z4夫婦の子である原告Z3が資本金の全部を出資した非公開のいわゆる一人会社であり
(前記(2)の認定事実ウ)さらに,

弁論の全趣旨によれば,
どれほど広範に一般投資家向けの投資信託を運用する会社であったのか必ずしも明らかでない事実(少なくとも本件調査当時必ずしも明らかでなかった事実)が認められることにも照らせば,原告MAMの運用していた投資信託の全容を解明しなければ,Z4夫婦の所得税に関して我が国の租税法の適正な執行が実現しているかを確認できない関係にあったものといい得る。
原告らは,より広く一般投資家向けの投資信託の募集を行っていることが公知の事実である他社と原告MAMとを対比して,本件シンガポール情報要請において,原告MAMの全ての受益者に関する情報を要請するのは非関連情報の要請に該当する旨述べるが,投資信託募集の広範性等の相違を無視して対比することには意味がないというべきである。上記の原告らの主張は,採用の限りでない。
(イ)原告らは,国税庁においても,原告MAMの投資信託の受益者としてZ9一族以外に少なくともメルコHDが存在することは認識していたとし,それにもかからわず,本件シンガポール情報要請において,原告MAMの運用する投資信託の全てについて,Z9一族だけが受益者となっていると想定される旨をIRASに伝えたのは,虚偽の前提情報に基づき情報を要請するものである旨も主張する。
しかし,メルコHD自体,上記(3)のとおり,その株式の移動の趣旨ないし目的が一見して明瞭であるとはいえない関係各社に含まれ,全くの第三者であるとはいえないから,そのような受益者が存在するとの一事をもって,原告MAMの運用する投資信託の全てについての情報を取得することが,Z4夫婦の所得税に関する我が国の租税法の適正な執行の確保のために不必要であることにはならず,当該情報が非関連情報に該当することにもならないというべきである。
そうだとすれば,国税庁において,原告MAMの運用する投資信託の受益者の中にメルコHDが含まれるものがあるとの認識を有していながら,本件シンガポール情報要請において,原告MAMの運用する投資信託の受益者がZ9一族だけであると想定される旨記述した事実があったとしても,非関連情報を強いて詐取しようとする意図等に基づくような違法性の高い記述であるとまではいえず,当該事実は,本件シンガポール情報要請の違法を導くような事情であるとはいえないというべきである。
(ウ)原告らは,さらに,Z4夫婦の平成23年分の所得税の確定申告書の記載の差異については,Z16税理士がZ6等に説明していたとおりの合理的な理由があり,
これを根拠として,
上記(3)①の原告MAMの運
用する投資信託及び本件シンガポールZ1口座に係る情報を解明する必要があるとはいえないから,本件シンガポール情報要請は,これらの情報に関する情報漁りを行うものである旨主張する。
しかし,これらの確定申告書の記載の差異に合理的な理由があるか否かは,客観的な資料を探索しなければ裏付けられるとはいえず,Z4夫婦の税務代理人の立場にあるZ16税理士の陳述内容のみをもって,Z4夫婦の確定申告書の記載の差異に合理性があるとは客観的には確認できないものというべきであるから,その合理性を確認する目的で上記各情報を探索すべき必要性がないことにはならないというべきである。上記各情報は,Z16税理士の陳述を前提としても,なお非関連情報には該当しないものといわざるを得ない。
(エ)以上のとおりであるから,本件シンガポール情報要請において原告MAMの運用する投資信託及び本件シンガポールZ1口座に係る情報を要請したことが,非関連情報を要請したものとして違法であるとはいえない。
イ(ア)次に,
原告らは,
上記(3)②の原告MAMの財務諸表及び申告事績に係る情報について,被告においては原告Z3の贈与税の申告義務の有無を確認するために要請したものであると主張するが,贈与税については旧日星租税協定で情報の交換を認められていなかったところ,旧日星租税協定が施行されていた当時の本件預託証書譲渡について贈与税の課税の可能性があることを理由に上記各情報を要請することは許されない旨,憲法84条及び31条を援用して,主張する。
しかし,憲法84条において保障されたいわゆる租税法律主義の趣旨を参酌しても,贈与税に関する我が国の租税法は本件預託証書譲渡当時既に施行されていたのであるから,これを適正に執行するため,改正日星租税協定施行後に事後的に情報を取得することが何ら妨げられるものとはいえない。まして証拠(乙11の1・2)によれば,日本とシンガポールとの間において上記のような理解が明示的に確認されている事実も認められるから,このことは一層明らかである。
また,
原告らが憲法31条を援用する趣旨は必ずしも判然としないが,
改正日星租税協定に基づく情報要請として適正なものであるといえる以上,その情報要請が適正手続保障の趣旨に反するともいえない。
いずれにしても,原告MAMの財務諸表及び申告事績に係る情報が,日星租税協定の対象外である非関連情報に該当するとはいえない。(イ)なお,原告らは,日星租税協定改正後の事由に関連する改正前の情報は取得することができるとした場合の仮定的主張も展開するが,そもそも日星租税協定改正後の事由に関連した改正前の情報のみを交換できるとする前提において失当であり,採用の限りでない。
(ウ)したがって,本件シンガポール情報要請において原告MAMの財務諸表及び申告事績に係る情報を要請したことが,非関連情報を要請したものとして違法であるとはいえない。
ウ(ア)原告らは,
上記(3)③の本件シンガポールZ3口座に係る情報について,原告Z3の申告事績を確認する名目で要請することは情報漁りである旨主張するが,被告はそのような名目で同情報を要請した旨主張するところではないから,その前提において失当である。
(イ)また,原告らは,本件シンガポールZ3口座に係る情報について,原告Z3が日本の非居住者であることを確認する前に直ちに本件シンガポール情報要請をしたことが情報漁りである旨主張する。
しかし,日星租税協定上の情報漁りの禁止は,非関連情報の要請を許さないという趣旨のものであって,情報要請の手順についての問題とは異なるから,上記の原告らの主張は失当である。なお,上記の原告らの主張を,これとは別に情報要請の手順についての違法を述べる趣旨のものと捉えたとしても,その場合には,後記7で争点5について判示するのと同様の考え方に従って,本件シンガポール情報要請の違法性の有無を判断すべきこととなるところ,上記の本件シンガポールZ3口座に係る情報の要請に至った税務職員の判断は,その情報としての必要性と,要請手順に関する原告らの私的利益との衡量において,社会通念上相当な限度にとどまるものというべきであり,その情報を要請したことに違法はないと解するのが相当である。
(ウ)さらに,
原告らは,
前記(2)の認定事実キのZ1から本件シンガポー
ルZ3口座への送金は,本件マキサン株式譲渡に係る売買代金の支払であり,この送金の事実をもって,同口座にZ1の収入とすべきものがあることを基礎付けるものではなく,情報漁りが禁じられるのは,このような調査対象者から売買代金の入金を受けただけでこれに使用した口座の全取引内容を開示しなければならないような事態を防止するためである旨主張する。
しかしながら,本件シンガポールZ3口座に係る情報が非関連情報に該当しないと考えられる理由は,
前記(3)に判示したような一切の事情に
鑑みて資金移動等の全容を解明する必要性に鑑みてのことであるというべきであるから,そのうち一部の事情だけを断片的に切り出した上で,当該断片的な事実のみからであれば非関連情報に該当すると指摘してみたところで,当を得た主張であるとはいえない。
上記の原告らの主張は失当である。
(エ)以上のとおりであるから,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールZ3口座に係る情報を要請したことが,非関連情報を要請したものとして違法であるとはいえない。エ(ア)原告らは,
上記(3)④の本件シンガポールマキス口座及び本件シンガポールマキサン口座に係る情報についても,
前記(2)の認定事実オのZ1
から本件シンガポールマキス口座への送金及び原告Z3から本件シンガポールマキサン口座への送金の事実は,これら口座にZ1の収入とすべきものがあることを基礎付けるものではない等の旨主張する。
しかし,上記ウ(ウ)に判示したところと同様,本件シンガポールマキス口座及び本件シンガポールマキサン口座に係る情報が非関連情報に該当しないと考えられる理由は,
前記(3)に判示したような一切の事情に鑑
みて資金移動等の全容を解明する必要性に鑑みてのことであるというべきであるから,そのうち一部の事情だけを断片的に切り出した上で,当該断片的な事実のみからであれば非関連情報に該当すると指摘してみたところで,当を得た主張であるとはいえない。
(イ)したがって,本件シンガポール情報要請において本件シンガポールマキス口座及び本件シンガポールマキサン口座に係る情報を要請したことが,非関連情報を要請したものとして違法であるとはいえない。オ(ア)原告らは,
上記(3)⑤の本件オランダ各口座に係る情報について,こ
れら口座への送金の事実は,①被告において,Z4夫婦の確定申告書に適切に反映されているか,適正に申告されているかを確認する必要がある旨述べている取引や,本件マキス株式預託証書の配当とは関係がない旨主張するとともに,②原告マキスによってされるべき配当とZ1が申告書に記載した配当の額が一致すれば,それ以上の資料は必要がない旨主張して,上記情報の要請が,調査対象の納税者の租税問題と関連しているとは思われない情報の要求に該当する旨主張する。
しかし,上記原告らの主張のうち①の点は,前記ウ(ウ)及びエ(ア)に判示したところと同様,本件オランダ各口座に係る情報が非関連情報に該当しないと考えられる理由は,
前記(3)に判示したような一切の事情に鑑みて資金移動等の全容を解明する必要性に鑑みてのことであるというべきであるから,そのうち一部の事情だけを断片的に切り出した上で,当該断片的な事実のみからであれば非関連情報に該当すると指摘してみたところで,当を得た主張であるとはいえない。
また,上記原告らの主張のうち②の点は,日星租税協定について前記ウ(イ)に判示したところと同様,日蘭租税条約上の情報漁りの禁止も,非関連情報の要請を許さないという趣旨のものであって,情報要請の手順についての問題とは異なるから,同主張は失当である上,仮にこれを情報要請の手順についての違法を述べる趣旨のものと捉えたとしても,上記の本件オランダ各口座に係る情報の要請に至った税務職員の判断は,その情報としての必要性と,要請手順に関する原告らの私的利益との衡量において,社会通念上相当な限度にとどまるものというべきであり,その情報を要請したことに違法はないと解するのが相当である。
(イ)したがって,本件オランダ情報要請において本件オランダ各口座に係る情報を要請したことが,非関連情報を要請したものとして違法であるとはいえない。
(5)小括
以上によれば,本件各情報要請が非関連情報を要請するものとして違法であるとはいえない。
6争点4(本件各情報要請が国内入手不能情報を要請するものとして違法か否か)について
(1)国内入手不能情報に関する税務職員の職務上の注意義務
本件各租税条約は,被要請国において,被要請国又は要請国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない情報を提供する義務を免除している(日星租税協定26条3項b号,日蘭租税条約25条3項b号)。そして,上記4に判示したところに照らせば,税務職員は,我が国が要請国としてする情報要請に際し,被要請国に所在する情報関係者との関係においても,我が国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない情報(国内入手不能情報)を要請してはならないという職務上の注意義務を負っているものと解される。
そこで以下,本件各情報要請に基づきシンガポール又はオランダに要請された情報のうち,原告らが国内入手不能情報に該当すると主張するものについて,これに該当するか否かを順に検討する。
(2)本件シンガポール各口座に関する情報(争点4-①)についてア原告MAM及び原告Z3は,シンガポール所得税法105J条による手続は,日本法には存在しない司法が直接に対象情報の提出を命じる手続であるとした上で,このような日本法には存在しない司法制度の利用に至った本件シンガポール情報要請は,国内入手不能情報の取得を許容しない日星租税協定26条3項b号の要件を満たさない旨主張する。
イしかし,前記5(3)に判示したとおり,一般に,租税条約における情報交換制度の趣旨・目的は,国内租税法を適正に執行するため必要な情報を交換し,自国の税務当局の調査権限が及ばない範囲での調査を相互に補完することにあると考えられるものであることからすると,要請国の国内入手不能情報が情報交換制度の適用から除外されることの意味は,要請国の国内租税法の適正な執行のためにも入手することが予定されていないような情報については,当該適正な執行のために必要な情報の範囲を超えるものであり,当該情報がたまたま租税条約の締約相手国に存在していることを奇貨として要請国が当該情報を入手することを認める必要がないという点にあるものと解される。
そうすると,
ある情報が要請国の国内入手不能情報に該当するか否かは,
当該情報と同じ性質の情報が要請国の国内に存在すると仮定した場合に,要請国の税務当局がこれを要請国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができないかどうかという観点から判断すべきものである。
上記の判断基準に拠らず,要請国と被要請国における当該性質の情報を入手するための手続上の負担の相違等の点に着目して,被要請国において当該情報関係者の手続上の負担が重い情報は,要請国の国内入手不能情報に該当すると判断すべきであるといった解釈を採るときには,情報関係者としては,自身にとって不都合な情報は,その入手のための手続上の負担が重い国に移してしまいさえすれば,租税条約に基づく情報交換を免れ得ることとなり,前記の租税条約に基づく情報交換制度の趣旨・目的が骨抜きとなるものであって,こうした解釈が租税条約の趣旨・目的に到底適合しないものであることは明らかである。ある情報が要請国の国内入手不能情報に該当するか否かを,当該性質の情報を入手するための手続上の負担の相違等の点に着目して判断すべきものであるとはいえない。
ウこれを本件についてみると,
原告MAM及び原告Z3の上記アの主張は,
本件シンガポール各口座に関する情報が国内入手不能情報に該当するとする原因として,正しく日本とシンガポールにおける手続上の負担の相違を主張するものであり,その主張が失当であることは上記イに判示したとおりである。
エしたがって,本件各シンガポール口座に関する本件シンガポール情報要請が国内入手不能情報を要請するものとして違法であるとはいえない。(3)本件要望期限後における本件オランダ情報要請継続の適否(争点4-②)について
ア原告マキスは,本件オランダ情報要請書簡において本件要望期限として2013年(平成25年)3月15日の更正期限を明示していたことは,それ以後本件オランダ情報要請は法的根拠を失うことを国税庁が理解していたことの表れであり,その更正期限後本件オランダ情報要請を継続する根拠は失われた旨主張するところ,これは,本件要望期限後において本件オランダ情報要請を継続することは,国内入手不能情報を要請するものとして違法である旨を述べる趣旨であると解される。
イしかしながら,本件オランダ情報要請書簡において本件要望期限として2013年(平成25年)3月15日が明示されたのは,提供される情報の内容次第では更正することを検討する必要のある平成21年分以降のZ4夫婦の所得税等について,更正の期限が最も早く到来する場合を慮ってのことであると考えられ,国税庁において,これを経過した場合にZ4夫婦に対して一切の更正ができないこととなるとの認識までをも有していたものとは認め難い。
国税庁においては,オランダ政府から提供される情報の内容次第では,翌年分以降のZ4夫婦の所得税等について更正し得る場合もあるであろうことは,当然想定に入れていたと考えられるし,平成21年分の所得税等に限定しても,偽りその他不正の行為により税額を免れていたとの加重要件を充足する場合には,上記期限後も更正し得る場合があることは念頭に置いていたものと十分に想定することができるというべきである。そのような想定をしていたとしても,情報要請書簡において最も早く到来する更正期限に言及されることは当然にあり得るというべきである。
そうすると,上記アの原告マキスの主張は,まず,本件オランダ情報要請書簡の記載内容から国税庁の理解していたところの推知を試みるその内容自体において失当である。
ウまた,法が偽りその他不正の行為により税額を免れていたとの加重要件が充足される場合において,通常の場合よりも長期間の更正を認めている趣旨は,不正の行為を意図して税額を免れたような場合には,租税法上の正義を貫徹する見地から納税義務の内容を更正により是正する必要性が高いとの考えに基づくものと解される。そうすると,上記の加重要件が認められる場合における納税義務の是正の必要性も,当然,国内租税法の適正な執行の内容として含まれているということができるから,前記5(3)及び上記(2)イに判示したように,国内租税法を適正に執行するため必要な情報を交換すること等を趣旨・目的とする租税条約における情報交換制度の下において,この加重要件の基礎となるべき事情の調査を補完することが排除されているものとも解されない。通常の更正期限後に,加重要件の基礎となるべき事情について,我が国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができないとはいえない。
エしたがって,本件要望期限後において本件オランダ情報要請を継続したことが,
国内入手不能情報を要請するものとして違法であるとはいえない。なお,原告マキスは,本件においてZ4夫婦の平成21年分の所得税の通常の更正期限である平成25年3月15日より後に更正すべき加重要件が存在することを被告は何ら主張立証していない旨主張するところ,この主張は,通常の更正期限後に情報の要請を(継続)するに際しては加重要件が存在することが必要であるとの前提に基づくものであると解される。この点,原告らにおいて,通常の更正期限である同日に平成21年分の所得税の更正決定等をしない旨の通知を受けたと主張している本件においては,結局のところ,加重要件が存在しないことを前提に更正決定等をしない旨の通知を受けた後も情報の要請を継続することが違法かという問題として収れんされるものと考えられるので,次の争点4-③に含まれる問題として,検討を進めることとする。
(4)更正決定等をしない旨の通知後における本件各情報要請継続の適否(争点4-③)について
ア原告らは,更正決定等をしない旨の通知をして本件所得税調査が終了した以上,同調査の一環である本件各情報要請を継続するのは法的根拠を欠き,その通知後に本件各情報要請を継続することは,国内入手不能情報を要請するものとして違法である旨主張する。
イこの点,確かに,新通則法は,「調査の終了の際の手続」として74条の11を置き,その1項において,「税務署長等は,国税に関する実地の調査を行った結果,更正決定等をすべきと認められない場合には,納税義務者であって当該調査において質問検査等の相手方となった者に対し,その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする」と定めていること(前記第2の1の関係法令等の定め(4)イ(ア))からすると,この規定に基づき,更正決定等をすべきと認められない旨の通知書が発出されたときは,その時点で一旦調査は終了したことになるものと考えられる。
しかしながら,この規定は,平成23年改正法附則39条3項により,平成25年1月1日以後に納税義務者に対して行う質問検査等について適用されるものとされ,同日前にその者に対して質問,検査等を行っていた経過措置調査等はこの質問検査等から明示で除かれている(関係法令等の定め(4)イ(イ))ところ,平成24年9月18日から質問,検査等を行っていた本件所得税調査は,この経過措置調査等に該当するから,新通則法74条の11第1項の規定の適用がないことは明らかである。
原告らは,同条を含む新通則法7章の2の規定群は,租税法の一般原則を確認的に規定したものであり,同附則にかかわらず,本件所得税調査にも新通則法が適用されるべきものである旨主張するが,独自の見解といわざるを得ず,採用することができない。
そうすると,本件所得税調査について,新通則法74条の11第1項に基づきその時点で一旦調査が終了したことになるものではない。
ウ他方,平成23年改正前においても,上記イの通知書に類するものとして,「調査結果の通知の実施について」と題する国税庁長官通達(平成10年6月29日課所6-16ほか7課共同)に基づき,実地調査の結果,調査対象税目の全てについて,更正・決定や修正申告・期限後申告の慫慂を行わず,かつ,爾後の申告や帳簿書類の備付け,記録及び保存について指導すべき事項もない事案のような,何らの非違も認められない事案に限り,納税者から要求があった場合に,納税者本人に対して,「調査結果についてのお知らせ」と題する標準的な様式により調査結果の通知を実施するものとされていた(乙17の1・2,公知の事実)。
しかし,当該通知は,調査に当たって,納税者が適切に収支明細及び取引内容の開示や証拠資料の提示を行うなど,これに協力することが必要不可欠であるところ,調査の結果,是正すべき事項がないと認められる事案について,その旨を書面により通知することで,納税者の申告納税制度に対する理解を一層深めるとともに,調査等に当たっての納税者の適切な協力を促し,もって申告納税制度の一層の充実・発展に資することを目的として行われるものであり,したがって,当該通知を行うことにより,爾後の調査に制約を及ぼすものではないとされていた
(同通達記載1)また,

当該通知に際して,当該通知はそれまでの調査の結果を通知するものであって,爾後の再調査により遡及して是正することもあり得ること及び保存期間を経過していない帳簿書類の保存が引き続き必要であることを,併せて説明することに留意するものとされていた(同通達記載4)。
これらのことを踏まえると,当該通知は,当該時点では一応調査を終了させるものの,その後の調査を一切行わないといった意味のものでなかったと解されるところである。納税者から不要との申出がない限り,当該通知を行うこととして差し支えないとされながらも(同),当該通知は納税者から要求があった場合に行うことが原則とされていたのも,前記の当該通知の目的に基づくものであると考えられるところ,納税者からの要求の有無によってその後の調査を一切行わないことが決せられるべきでないことに照らしても,当該通知は,当該時点では一応調査を終了させるという趣旨のものにとどまっていたと解するのが相当である。
そうすると,原告らに対してされた更正決定等をしない旨の通知が上記の調査結果の通知の趣旨を出るものといえない場合には,当該通知は,当該時点では一応調査を終了させるという趣旨のものにとどまり,その後の調査を一切行わないというような意味のものであるとはいえないというべきである。
エ(ア)以上を踏まえて,本件の事実関係についてみると,Z4夫婦に対しては,麹町税務署長から,平成25年5月27日付けで,平成21年分ないし平成23年分の所得税について「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が発出されている(前記第2の2の前提事実(5)ウ)ところ,その様式は,「国税に関する実施の調査を行った結果,」と記載されていることなどから,新通則法74条の11第1項による通知書に準ずるものといえる(甲5)。
(イ)これは,前記イに判示したように,本件所得税調査には新通則法74条の11の適用はないものではあるが,その時点において新通則法が施行されていたことから,平成24年9月に国税庁が公表した「税務調査手続等の先行的取組の実施について」と題する方針(前記第2の1の関係法令等の定め(4)イ(ウ),甲19)に基づき,新通則法下における調査の終了の際の手続に準じて,通知書が発出されたものと解される。そして,同方針の趣旨とするところは,新通則法施行前の「調査結果についてのお知らせ」は,調査した全ての税目及び課税期間について非違が認められず,かつ指導事項がない場合に,納税者から不要との申出がない限り,送付するとしていたもの(上記ウ)が,新通則法下においては,納税者の意向にかかわらず,非違が認められなかった税目及び課税期間ごとに「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を送付するとされたことから,その範囲の運用の限度で,新通則法下における調査の終了の際の手続に準じて実施するものとすることにあると解される。
換言すると,この実施措置は,経過措置調査等の終了について,新通則法を適用ないし準用することを前提にしているものとは解されない。(ウ)原告らは,被告は,Z4夫婦に対し「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」を送付したことにより,新通則法の適用を受ける途を選択したものである旨主張するが,上記の国税庁の方針の趣旨を正解しないものというべきであり,採用することができない。
(エ)そうすると,Z4夫婦に対して新通則法下の様式に準じて税目及び課税期間を特定した「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が送付されているからといって,当該通知は,それ以外の点において,新通則法施行前において行われていた上記ウの調査結果の通知の趣旨を出るものとはいえないというべきであり,当該通知の時点では一応本件所得税調査を終了させるが,その後の調査を一切行わないというまでの意味のものであったとはいえない。
原告らにおいて上記通知書の送付前に電話で更正決定等をしない旨の通知を受けたと主張する点についても,仮にそのような口頭の通知があったとしても,上記通知書にもましてその後の本件所得税調査を一切行わないというまでの意味のものであったとはいえない。
オしたがって,Z4夫婦に対する「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」
の送付等の後において本件各情報要請を継続したことについて,
国内入手不能情報を要請するものとして違法であるとまではいえない。(5)小括
以上によれば,本件各情報要請が国内入手不能情報を要請するものとして違法であるとはいえない。7争点5(本件各情報要請が情報入手手段を尽くさずに行われ又は既に我が国で得た情報を要請するものとして違法か否か)
(1)情報入手手段を尽くすことについての税務職員の職務上の注意義務ア租税条約における情報交換制度の目的は,租税に関する国内法を適正に執行するために必要な情報を交換することにあり,自国の税務当局の調査権限が及ばない範囲での調査を相互に補完することにあると解される。本件各租税条約が準拠するОECDモデル租税条約に関するコメンタリーにおいても,「他方の国に対して情報の提供要請が行われる前に,まず,国内の課税上の手続に基づき利用し得る通常の情報源に依拠すべきことが了解されている」とされている(乙1)。
これらの点に照らすと,本件各租税条約上,上記の了解された内容についての明文の規定は置かれてはいないものの,要請の対象となる情報は,要請国の国内における調査を補完するようなものに限定されると解されるところである。
そして,
上記4に判示したところに照らせば,
税務職員は,
我が国が要請国としてする情報要請に際し,被要請国に所在する情報関係者との関係においても,上記のような補完性を有しない情報を要請してはならないという職務上の注意義務を負っているものと解される。
イそこで更に進んで,我が国が要請国としてする情報要請に際しての上記の補完性の内容を具体的に見ると,この点は,結局のところ,税務職員が情報要請をするに際しての「必要があるとき」との要件(前記4(2)参照)に収れんされるものと解される。そして,上記要件の意味は,国内において質問検査権の行使が許される場合に準じて理解すべきところ,当該調査の目的,調査すべき事項,申告の内容,帳簿等の記入保存状況,調査対象者の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み,客観的な必要性があると判断される場合をいうものと考えられ,この場合における情報要請の範囲,程度,時期,場所等の実施の細目については,上記の客観的な必要性と,調査対象者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り,権限ある税務職員の合理的な判断に委ねられているものと解するのが相当である(最高裁判所昭和48年7月10日第三小法廷決定・刑集27巻7号1205頁,最高裁判所昭和58年7月14日第一小法廷判決・訟務月報30巻1号151頁,最高裁判所平成5年3月11日第一小法廷判決・訟務月報40巻2号305頁各参照)。
ウこの点に関し,原告らは,租税条約に基づく情報交換要請については,自国で入手可能な情報について外国政府を巻き込むべきでないとして,国内調査における反面調査以上に極めて厳格な補充性が要求されるべきである旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件各租税条約上,この点についての明文の規定は存在しないところ,極めて厳格な補充性が要求されるべきであるとする上記の原告らの主張は,その法文上の根拠が明らかではなく,採用の限りでない。
エそこで以下,上記の見地に立って,本件各情報要請に至った税務職員の判断について,対象情報の必要性と原告らの私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかという観点から,その適否を検討する。(2)認定事実
前記第2の2の前提事実並びに証拠(甲24,乙21のほか,各事実の末尾に掲げる当該事実に関係するもの)及び弁論の全趣旨によれば,主として本件各情報要請に至るまでの本件調査の経緯について,少なくとも以下の各事実が認められる。
アZ6等を含む数名は,平成24年9月18日から翌19日にかけて,Z4夫婦の自宅に本件調査に臨場したところ,
Z1が初日の3時間ほど同席
したほか,Z2とZ16税理士において対応した。
Z6等は,Z4夫婦ないしZ16税理士に対し,口頭で①原告MAMが運用する外国証券投資信託の内容,その運用実態に係る資料及び財務諸表,
②原告マキス及びマキス財団の定款,
マキス財団の管理規則及びマキス財
団が締結した預託証書に係る契約書の提出を求めたところ,
Z4夫婦ない
しZ16税理士は,上記①については,Z4夫婦は原告MAMの株主ではなく,
その決算書には第三者の投資家情報が記載されていることなどを理由に,上記②については,Z10を当事者とする別の裁決に係る審査請求手続時に提出済みであることを理由に,
いずれもZ6等に提出しなかった。
また,Z6等は,Z4夫婦ないしZ16税理士に対し,口頭で,Z4夫婦の国外の預金口座の通帳(取引明細書)等の提出を求めるとともに,書面で,ユビキタス・ファンドA,B,D,E及びHの目論見書,これらの時価一覧,
原告マキス及びマキサンの財務諸表並びにシンガポールの銀行
であるユナイテッド・オーバーシーズ・バンクのZ1名義の口座
(以下
「U
OB口座」という。)の取引明細書等の提出を求めた(甲11の2)ところ,Z16税理士は,後日,ユビキタス・ファンドA,B,D,E及びHの目論見書,これらの時価一覧,原告マキスの財務諸表並びにUOB口座の取引明細書等をZ6等に提出したが,
本件シンガポールZ1口座につい
ては,一切の情報を出さなかった。
イZ6等は,平成24年11月12日,再度,Z4夫婦の自宅に赴いた。午前中,Z7及びZ8が,Z1に対し,銀行口座は提出されたもの以外に存在しないかを尋ねたところ,Z1は,提出したもの以外に持っていないつもりだが,具体的に教えてほしい旨を応答した。これを受けて,Z7及びZ8が,Z1に対し,提出された金融機関の金銭の移動状況から本件シンガポールZ1口座が存在すると思われる旨を申し向けると,Z1は,解約したと思うが,三,四年前まで確かにあった旨を応答した。Z1が,必要があれば取引明細書を取り寄せるが必要かを尋ねたところ,
Z7ない
しZ8は,取寄せを求めた。さらに,Z7及びZ8が,Z1に対し,本件預託証書譲渡について質問した際,Z1は,昔は正直に言うと税金を多少ちょろまかしてしまえという考えも持っていたが,
今はそういう考えは持っていない旨などを述べた。
ウその後,現在まで,本件シンガポールZ1口座の取引明細書は,名古屋国税局又は東京国税局に提出されていない。
(3)検討
上記(2)に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,
Z4夫婦ないしZ16
税理士は,税務当局側で具体的に特定して提出を依頼した資料については,相応の対応をしていたとはいえても,国外の預金口座の取引明細書の提出といった概括的な依頼に対しては,依頼の対象が具体的に特定されない限り,自ら資料を提出しようというような姿勢で本件所得税調査に臨んでいなかったことは明らかであり,特に情報取得についての障壁の大きい外国に存在する情報についての概括的な依頼に対する対応が上記のようなものにとどまっていたことからすると,Z4夫婦ないしZ16税理士の対応が本件所得税調査に協力的なものであったとまでは評価することができない。
そして,
前記5(3)に判示したとおり,
本件各情報要請の行われた平成24
年当時,我が国の租税法を適正に執行するためには,Z4夫婦及び原告Z3並びに関係各社及びマキス財団間の資金及び株式の移動の全容や関係各社及びマキス財団の設立の真の趣旨ないし目的を解明する必要があったものと認められることをも踏まえると,本件各情報要請の対象となった情報については本件各租税条約に基づき情報を要請する客観的な必要性があったものということができ,その必要性と本件所得税調査の対象者たるZ4夫婦の私的利益との衡量において,本件各情報要請に至った税務職員の判断が社会通念上相当な限度を逸脱していたと認めることはできない。
(4)原告らの主張について
ア原告らは,租税条約に基づく情報交換要請を行うには厳格な補充性の要件を満たす必要があるとの主張を前提に,本件各情報要請の対象とされた各種情報について,Z4夫婦側に依頼して入手することができることの試みを尽くすべきであった旨主張する。
しかしながら,そもそも租税条約に基づく情報交換要請について,情報関係者との関係で厳格な補充性が要求されるべきものとはいえないことは,前記(1)に判示したとおりであって,
上記の原告らの主張は,
その前提にお
いて失当である。
イまた,原告らは,日本で得た情報について重ねて情報要請をしてはならないとの主張を前提に,原告MAMが運用する各投資信託に係る情報については,Z16税理士の提出したユビキタス目論見書に掲載されており,本件シンガポール情報要請に及ぶ必要がなかった旨主張する。
しかし,
上記(3)に判示したとおり,
Z4夫婦ないしZ16税理士の対応
が本件所得税調査に協力的なものであったとまでは評価することができないことを前提とすると,仮にこれらの情報がユビキタス目論見書に掲載されていたとしても,当該情報が正確であることの裏付けを取る等の目的で本件シンガポール情報要請に至ったとしても,必ずしも社会通念上相当な限度を逸脱していたとまではいえないというべきである。
ウさらに,原告らは,本件各情報要請の対象とされた各種情報をZ4夫婦ないしZ16税理士に依頼した日と本件各情報要請がされた日が近接していることから,そもそも被告は,全ての可能な情報入手手段を尽くすつもりがなかった旨主張する。
しかし,この主張も,そもそも租税条約に基づく情報交換要請を行うには厳格な補充性の要件を満たす必要があるとの主張を前提とするものであると解されるところ,その前提において失当であることは,上記アに判示したところと同様である。
(5)小括以上によれば,本件各情報要請が情報入手手段を尽くさずに行われ又は既に我が国で得た情報を要請するものとして違法であるとはいえない。8争点6(本件各情報要請を原因とする原告らの国家賠償請求権の有無)について
以上の5ないし7において検討したところによれば,本件各情報要請に国賠法上の違法があるとはいえないから,その余の点につき判断するまでもなく,原告らに本件各情報要請を原因とする国家賠償請求権が成立するとはいえない。原告らの本件各国賠請求はいずれも理由がない。
9結論
よって,本件各訴えのうち本件各取消請求及び本件各確認請求に係る部分は不適法であるからこれらを却下し,その余の本件各国賠請求は理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

谷口豊
裁判官

平山馨
裁判官

馬場

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