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過払金返還請求事件
事件番号平成28(受)1463
事件名過払金返還請求事件
裁判年月日平成29年7月24日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名名古屋高等裁判所  金沢支部
原審事件番号平成28(ネ)18
原審裁判年月日平成28年5月18日
判示事項認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した裁判外の和解契約の効力
裁判要旨認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが弁護士法72条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならない。
参照法条弁護士法72条,司法書士法3条1項7号,民法90条
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平成28年(受)第1463号
平成29年7月24日

過払金返還請求事件

第一小法廷判決

主文
原判決を破棄する
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告人の上告受理申立て理由について
1
本件は,Aの破産管財人である被上告人が,貸金業者である上告人に対し,
Aと上告人との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還等を求める事案である。
本件では,上記の過払金等について,司法書士法3条2項各号のいずれにも該当する司法書士(以下「認定司法書士」という。)である上告補助参加人(以下,単に「補助参加人」という。)がAを代理して上告人との間で従前締結した裁判外の和解契約の効力が争われている。
2
(1)

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
Aは,上告人との間で,平成5年5月25日から平成20年11月30日
まで,利息制限法所定の制限を超える利息の約定で継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引」という。)を行った。本件取引の結果,同日時点で,過払金約330万円及び法定利息が発生していた。
(2)

Aは,平成20年12月17日,補助参加人との間で,債務整理を目的と
する委任契約を締結した。補助参加人は,上記委任契約の締結の際,Aに対し,過払金の額が140万円を超える場合には,司法書士である補助参加人は代理人となることができないこと等を説明した。(3)

補助参加人は,平成21年1月頃,上告人から取引履歴の開示を受け,利
息制限法所定の制限利率に引き直して計算をしたところ,前記(1)のとおり過払金等が発生していることが判明したため,同年2月3日,Aに対し,本件取引について約330万円の過払金が発生しており,補助参加人は代理人となることができないこと等を説明した。しかし,Aは,本件取引に係る過払金の返還請求等についても,補助参加人に委任することを希望し,同日,補助参加人との間で,上記過払金の返還請求権等について和解をすることを含む委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。
(4)

補助参加人は,平成21年3月25日,上告人に対し,本件取引に係る過
払金の返還を求める請求書を送付したところ,上告人は,同月31日,補助参加人に対し,191万円を3箇月後に支払う旨の和解案を提示した。その後,200万円を同年4月中に返還するのであれば和解に応ずる旨のAの意向が上告人に伝えられ,上告人は,同月1日,補助参加人に対し,上記意向に沿った内容で和解をする旨の連絡をした。Aは,上告人に対して約330万円の過払金の返還請求ができること等を理解していたが,訴訟になる場合の負担等を考慮して,上告人から200万円の支払を受ける内容の和解をすることとした。補助参加人は,同月2日,Aを代理して,上告人との間で,上告人がAに対し同月30日限り200万円を支払うこと及びAと上告人との間にはそれ以外には何らの債権債務がないことを相互に確認することを内容とする裁判外の和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結し,上告人は,本件和解契約に基づき,200万円を支払った。補助参加人がAを代理して本件和解契約を締結することは,本件取引に係る過払金の額が司法書士法3条1項7号に規定する額である140万円を超えるため,弁護士法72条に違反するものであった。
(5)

Aは,平成28年2月2日,破産手続開始の決定を受け,被上告人が破産
管財人に選任された。3

原審は,上記事実関係等の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を認
容した。
補助参加人が代理人として本件和解契約を締結した行為は,公益規定である弁護士法72条に違反するものというべきであり,この点に関する補助参加人とAとの間の本件委任契約は無効であって,本件和解契約も,そのような委任契約に基づいて締結されたという点において,無効であるというべきである。したがって,本件取引に係る過払金の返還請求権等は消滅しておらず,上告人はAの破産管財人である被上告人に対し,上記の過払金等を支払うべきである。
4
しかしながら,本件和解契約を無効とする原審の上記判断は是認することが
できない。その理由は,次のとおりである。
弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で法律事件に関して代理や和解等の法律事務を取り扱うことを業とすることができない旨を定めているところ,認定司法書士が,報酬を得る目的で業として司法書士法3条1項7号に規定する額である140万円を超える過払金の返還請求権につき裁判外の和解をすることについての委任契約を締結することは,弁護士法72条に違反するものであって,その委任契約は,民法90条に照らして無効となると解される(最高裁昭和37年(オ)第1460号同38年6月13日第一小法廷判決・民集17巻5号744頁参照)。上記の場合,当該委任契約を締結した認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することも,弁護士法72条に違反するものであるが,その和解契約の効力については,委任契約の効力とは別に,同条の趣旨を達するために当該和解契約を無効とする必要性があるか否か等を考慮して判断されるべきものである。
弁護士法72条の趣旨は,弁護士の資格のない者が,自らの利益のため,みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは,当事者その他の関係人らの利益を損ね,法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ,ひいては法律秩序を害することになるので,かかる行為を禁止するものと解されるところ(最高裁昭和44年(あ)第1124号同46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照),同条に違反する行為に対しては,これを処罰の対象とする(同法77条3号)ことによって,同法72条による禁止の実効性を保障することとされている。そして,認定司法書士による裁判外の和解契約の締結が同条に違反する場合には,司法書士の品位を害するものとして,司法書士法2条違反を理由とする懲戒の対象になる(同法47条)上,弁護士法72条に違反して締結された委任契約は上記のとおり無効となると解されるから,当該認定司法書士は委任者から報酬を得ることもできないこととなる。このような同条の実効性を保障する規律等に照らすと,認定司法書士による同条に違反する行為を禁止するために,認定司法書士が委任者を代理して締結した裁判外の和解契約の効力まで否定する必要はないものと解される。また,当該和解契約の当事者の利益保護の見地からも,当該和解契約の内容及びその締結に至る経緯等に特に問題となる事情がないのであれば,当該和解契約の効力を否定する必要はなく,かえって,同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば,紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり,相当ではないというべきである。以上によれば,認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないと解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件和解契約の内容は,本件取引に係る約330万円の過払金等について上告人が200万円を支払うことにより紛争を解決するというものであり,その締結に至る経緯をみても,補助参加人は,Aに対し,本件取引に係る過払金の額を説明し,Aの理解を得た上で,Aの意向に沿った内容の本件和解契約を締結したというのであって,上記特段の事情はうかがわれず,本件和解契約を無効ということはできない。
5
以上によれば,被上告人の請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決の結論は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
木澤克之

池上政幸

裁判官

山口

裁判官

大谷直人

厚)
裁判官

小池


裁判官

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