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食品衛生法に基づく水俣病の法定調査等の義務付け行政訴訟等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第224号)
事件番号平成28(行コ)47
事件名食品衛生法に基づく水俣病の法定調査等の義務付け行政訴訟等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第224号)
裁判年月日平成28年7月21日
法廷名東京高等裁判所
判示事項食品衛生法58条2項所定の調査と抗告訴訟の対象
裁判要旨食品衛生法58条2項所定の調査は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
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平成28年7月21日判決言渡
平成28年(行コ)第47号

食品衛生法に基づく水俣病の法定調査等の義務付け

行政訴訟等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第224号)
主文1
本件各控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
(本件各義務付け請求)
(1)

被控訴人熊本県に対する請求
水俣保健所長及び天草保健所長は,昭和31年から現在までの管轄区域における控訴人を含む食中毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法58条2項に基づき,政令所定の調査を行うとともに,熊本県知事に対し,政令所定の報告を行え。


水俣保健所長及び天草保健所長は,食品衛生法58条2項に基づき実施した控訴人を含む調査の結果につき,同条4項に基づき,熊本県知事に対し,政令所定の報告を行え。


熊本県知事は,昭和31年から現在までの熊本県内の控訴人を含む食中毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法58条3項及び5項に基づき,厚生労働大臣に対し,政令所定の報告を行え。

(2)

被控訴人国に対する請求
厚生労働大臣は,昭和31年から現在までの熊本県内の控訴人を含む食中
毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法60条に基づき,熊本県知事に対し,期限を定めて調査,報告を行うよう求めよ。
3
(本件各違法確認請求)
(1)

被控訴人熊本県に対する請求
水俣保健所長及び天草保健所長が,昭和31年から現在までの管轄区域における控訴人を含む食中毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法58条2項に基づき,政令所定の調査を行わないこと及び熊本県知事に対し政令所定の報告を行わないことが違法であることを確認する。

水俣保健所長及び天草保健所長が,食品衛生法58条2項に基づき実施した控訴人を含む調査の結果につき,同条4項に基づき,熊本県知事に対し政令所定の報告を行わないことが違法であることを確認する。


熊本県知事が,昭和31年から現在までの熊本県内の控訴人を含む食中毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法58条3項及び5項に基づき,厚生労働大臣に対し政令所定の報告を行わないことが違法であることを確認する。

(2)

被控訴人国に対する請求
厚生労働大臣が,昭和31年から現在までの熊本県内の控訴人を含む食中
毒患者である水俣病患者発生について,食品衛生法60条に基づき,熊本県知事に対し期限を定めて調査,報告を行うよう求めないことが違法であることを確認する。
4
(本件国賠請求)
被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,10万円及びこれに対する被控訴人国においては平成26年6月21日から,被控訴人熊本県においては同月24日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,熊本県水俣市在住の控訴人(原告)が,控訴人を含む水俣病患者の発生につき,被控訴人熊本県に所属する水俣保健所長及び天草保健所長において,食品衛生法所定の調査及び熊本県知事への報告をせず,同被控訴人に所属する熊本県知事において,同法所定の厚生労働大臣(旧厚生大臣)への報告をせず,被控訴人国に所属する厚生労働大臣において,同法所定の熊本県知事に対する調査及び報告の求めをしてこなかったことは,それぞれ違法であり,控訴人はこれらにより精神的苦痛を被ったと主張して,(1)各関係被控訴人に対し,①行政事件訴訟法37条の2に基づき,これらの調査若しくは報告又はその求めをすることの義務付け(本件各義務付け請求)及び②行政事件訴訟法上の当事者訴訟として,これらの調査若しくは報告又はその求めをしないことが違法であることの確認(本件各違法確認請求)を求めるとともに,(2)被控訴人らに対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料1000万円の一部として10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払(本件国賠請求)を求めた事案である。
原審は,本件訴えのうち,本件各義務付け請求及び本件各違法確認請求に係る部分は不適法であるとしてこれを却下し,本件国賠請求は理由がないとしてこれを棄却した。これに対し控訴人が控訴した。
2
関係法令の定め,前提事実,主な争点及び当事者の主張は,3に当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2

案の概要」の1から3までに記載のとおりであるから,これを引用する。以下,略語については,原判決の例による。
3
当審における控訴人の主張
(1)

食中毒調査報告等の処分性の有無について
原判決は,本件各義務付け請求のうち,食中毒報告及び食中毒調査報告要請は,行政機関相互の行為であるとし,控訴人は食品衛生法の目的が国民の生命・健康を図ることにあるから,食品衛生法の諸手続は全て国民の権利義務と直接関係性を持つというが,目的と手続とは別次元のことであると判示する。
しかし,行政機関の行為と国民の権利形成等の行政行為は,二律背反ではない。また、一切の行政機関相互の行為が行政訴訟の対象から排除されるという解釈は,明らかに憲法の定める民主主義行政に反する。したがって,機関相互の行為であれ,その目的と手続が直接国民に関するものである場合や手続が必然的に連続して直接国民に関するものとなる場合は,処分とみなすべきである。本件においては,食中毒報告及び食中毒調査報告要請は,
行政機関相互の行為であるが,
その手続は食品衛生法で法定され,
個々の食中毒患者の存在,
対処を決定するものであるから,
処分性がある。

原判決は,食品衛生法の調査は,認定・判断行為であり,患者・国民の権利を形成しないと断定する。
しかし,
認定・
判断行為と権利形成行為とは二律背反するものではなく,
食中毒患者と判断されるからこそ,患者・国民は食品衛生法の調査手続の中で患者としての法的地位を占め,それに付随する権利を有するに至るのである。すなわち,食中毒調査における患者と確認されることにより,患者・国民は行政に対して食中毒事件(一般には集団的に起きるが,その内実はあくまで個人食中毒患者の,集合による集団である)の発生の確認と措置を要求できる権利を持つ。被控訴人らはいまだ水俣病事件が食中毒事件とは正式には認めていない。


原判決は,食品衛生法1条の文言が国民を名宛人としているが,調査はあくまでも規制のための情報収集でしかなく,患者・国民の権利を形成するものではないと判示する。
しかし,
データを採集すること,
データと集約されること自身が,
患者・
国民の権利なのである。食中毒事件においての,データ自身の権利性と重要性とそれが食品衛生法の調査でなければ適正に収集できず,食品衛生法であれば極めて厳密・迅速・広範囲収集できることは,法令上明らかである。

原判決は,食品衛生法調査マニュアル・用紙に規定されている「診定」の意義に関して,医者が診断する以上の意味はないと断定する。
しかし,「診定」
この
の言葉が実際に公式食中毒事件調査用紙に使われ,
当該用紙は保健所長に作成権限があることなどを原判決は無視している。食中毒患者が「診定」とされた時から,公式に食中毒調査の対象となるのであり(それまでは診断)
,食中毒事件の統計の公式な1人という地位を
与えられ,調査の内実を構成する因子となる。したがって,食中毒事件の統計手続に限っても,確実に法的地位・意味を付与されるのである。さらに,食中毒事件の申告人は一般的には国民の1人である医師であり,保健所に食品衛生法上の水俣病診断をしたものであるが,食中毒患者を診察して申告しない場合は罰則がある。その上,医師は,医師法19条の診療義務,23条の保健指導義務があり,健康増進法5条での地域協力義務があるので,食中毒患者を申告だけで放置することは許されない。食品衛生法は,
1人の国民である医師に対しては,
権利義務形成の法令となっていて,
行政行為が国民に直接影響を持つのである。


憲法は,国・行政が国民に対して公衆衛生の向上と増進をなすことを直接義務付けており,この規定を受けて,国は食品衛生法を定め,その中には保健所長の調査義務も規定し,さらにその実効性を高めるために政令で詳しい調査方法を確定している。
食品衛生法1条は,
憲法25条2項の個々
人の国民に対する要請を受けて規定され,しかも食品衛生法1条の文言は明確に法令の名宛人として国民が明記されているのである。したがって,食中毒調査は,保健所長は義務であると同時に国民の権利である。原判決は,食品衛生法の調査請求権は控訴人にないと判示したが,国民の1人である申告医師には調査請求権があり,水俣病事件では,過去60年間に熊本県下,鹿児島県下の各保健所長も水俣病を確認していたから調査義務が発生しており,さらには医師の届け出がされていて,保健所長は食品衛生法上,直ちに調査を開始する義務がありながら,60年間敢えて調査を拒否している法状況においては,国民である控訴人には調査請求権が発生しているのである。
(2)

食中毒調査報告等をしないことが違法であることの確認を求める訴えの
利益の有無について
原判決は,確認の訴えは即時確定の利益がある場合,すなわち現に控訴人の有する権利等の危険・不安があり,この除去のためには判決が必要適切である場合に限り認められるところ,控訴人の訴えは守るべき現に有する権利・地位が明らかでないから確認の利益を欠く,控訴人は被控訴人らの調査拒否の違法の明確性や結果の重大性を主張するが,これらは確認の利益とはならないと判示した。
しかし,原判決の上記判示は食品衛生法の規定や水俣病食中毒事件の実態から完全に乖離している。控訴人は,まず国民として日本史上の悲惨・大量被害者の大公害事件である水俣病食中毒事件に対して,被控訴人らに法定の調査をさせ,事件の実態,食中毒患者の実態を明らかにさせる権利がある。一日も早く,報告・要請・調査が行われなければ,水俣病事件の実態,食中毒患者の実態は不明となる。しかも,控訴人は食中毒患者自身であるから,食品衛生法の特に調査による患者としての権利・地位が失われている。ここで被控訴人らの報告・要請・調査拒否の違法性が確認されれば,直ちにこれらの違法・不当な状況は解消され,控訴人は救済されるのである。(3)

食中毒調査報告等をしないことが違法であり,
これにより控訴人の利益が

侵害されていることについて
原判決は,国家賠償請求の不法行為が成立するためには,一般に控訴人の法的保護の対象となる利益が違法に侵害されたことを要するところ,食中毒調査により控訴人主張の利益が事実上得られるとしても,それは反射的利益にすぎず,法的対象となる利益とはいえないと判示した。
しかし,
昭和31年に,
食品衛生法の調査が適正にされれば,
全ての住民・
患者・国民が水俣病の有無が即時に確認がされ,水俣病審査制度など全くいらなかったことはもとより,そもそも万単位の被害者発生が未然に防げたのである。この食品衛生法の阻止力・本来の公衆衛生の目的と効果が,どうして反射的効力であろうか。これらの効果こそが,食品衛生法の調査の最高にして究極の効果であり,国民が当然享受すべき権利である。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,本件訴えのうち,本件各義務付け請求及び本件各違法確認請求に係る部分は不適法であり,本件国賠請求は理由がないものと判断する。その理由は,2に当審における控訴人の主張に対する説示を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3

当裁判所の判断」の1から3までに記載の

とおりであるから,これを引用する。
2
当審における控訴人の主張について
(1)

食中毒調査報告等の処分性の有無について
控訴人は,行政機関の行為と国民の権利形成等の行政行為は二律背反ではなく,その目的と手続が直接国民に関するものである場合や,手続が必然的に連続して直接国民に関するものとなる場合は,処分とみなすべきであるところ,食中毒報告及び食中毒調査報告要請の手続は食品衛生法で法定され,個々の食中毒患者の存在,対処を決定するものであるから,処分性がある旨主張する。
しかしながら,法律の目的は,個々の規定の解釈指針となるものの,その目的から直接に権利義務が導き出されるものではなく,個々の手続の究極の目的が国民の権利保護にあるとしても,そのことと,個々の手続に処分性が認められるか否かは,次元を異にする問題であることは,原判決が説示するとおりである。行政機関相互の行為である保健所長及び都道府県知事による食中毒報告並びに厚生労働大臣による食中毒調査報告要請の結果が,個々の食中毒患者の存在及び対処に結び付くことがあるとしても,控訴人主張の食品衛生法上の手続が,必然的に直接国民に関するものであるということはできない。したがって,控訴人の上記主張は前提を欠くものであるから,採用することはできない。

控訴人は,食品衛生法の調査は認定・判断行為であるとしても,認定・判断行為と権利形成行為とは二律背反するものではなく,食中毒調査における患者と確認されることにより,患者・国民は行政に対して食中毒事件の発生の確認と措置を要求できる権利を持つから,食品衛生法の調査は,権利形成行為である旨主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,食中毒調査における認定・判断によって,個々の患者や国民が行政に対して,食品衛生法上のいかなる規定によって,具体的にどのような措置を要求できるかについて明らかにするものではないから,採用することができない。


控訴人は,原判決は食品衛生法上の調査は,規制のための情報収集でしかなく,患者・国民の権利を形成するものではないと判示するが,食中毒事件においてのデータ自身の権利性と重要性と,それが食品衛生法の調査でなければ適正に収集できず,食品衛生法であれば極めて厳密・迅速・広範囲収集できることからすると,データを採集すること,データと集約されること自身が,患者・国民の権利である旨主張する。
しかしながら,食中毒事件におけるデータの採集及び集約が患者にとって重要な意義を有しているとしても,食品衛生法上,食中毒調査において患者について法的権利性を付与していると解すべき法令上の根拠は見出せない以上,個々の食中毒患者との関係で食中毒調査のデータを採集し集約すること自体が権利として保護されているとまではいえないから,控訴人の上記主張は採用できない。


控訴人は,食中毒患者が「診定」とされた時から,公式に食中毒調査の対象となり,食中毒事件の統計の公式な1人という地位を与えられ,調査の内実を構成する因子となるから,食中毒事件の統計手続に限っても,確実に法的地位・意味を付与される旨主張し,さらに,
「食中毒事件の申告
人は一般的には国民の1人である医師であり,保健所に食品衛生法上の水俣病診断をしたものであるが,食中毒患者を診察して申告しない場合は罰則があり,その上,医師は,医師法19条の診療義務,23条の保健指導義務があり,健康増進法5条での地域協力義務があるので,食中毒患者を申告だけで放置することは許されない。食品衛生法は,1人の国民である医師に対しては,権利義務形成の法令となっていて,行政行為が国民に直接影響を持つ。
」旨主張する。
しかしながら,原判決の説示するとおり,
「診定」とは医師が臨床的に病
名を食中毒と診断する臨床診断それ自体を指すと解され,食中毒調査の過程において,食中毒患者等が医師による診断の対象とされるからといって,当該食中毒患者等を患者として認定するものではなく,また,食中毒事件において医師が食品衛生法上の権利義務を有するからといって,当然に当該食中毒患者等に何らかの権利や法的地位が付与されるとも,行政行為が国民に直接法的な影響を与えるとも解することはできないから,控訴人の上記主張は採用することができない。

控訴人は,憲法は,国・行政が国民に対して公衆衛生の向上と増進をなすことを直接義務付けており,
この規定を受けて,
国は食品衛生法を定め,
その中には保健所長の調査義務も規定し,さらにその実効性を高めるために政令で詳しい調査方法を確定していることから,食中毒調査は,保健所長の義務であると同時に国民の権利である,国民の1人である申告医師には調査請求権があり,水俣病事件では,過去60年間に熊本県下,鹿児島県下の各保健所長も水俣病を確認していたから調査義務が発生しており,さらには医師の届け出がされていて,保健所長は食品衛生法上,直ちに調査を開始する義務がありながら,60年間敢えて調査を拒否している法状況においては,国民である控訴人には調査請求権が発生している旨主張する。
しかしながら,行政機関相互の関係における義務が直接国民の権利に結び付くものでないことは,これまで説示したとおりである。また,このような性質の義務を長期間行わなかったからといって,そのことにより国民にその実行を求める権利が発生するものではないから,控訴人の上記主張は前提を欠くものとして,採用することができない。
(2)

食中毒調査報告等をしないことが違法であることについて
控訴人は,原判決は,確認の訴えについて,即時確定の利益が明らかでな
いとしたが,控訴人は,まず国民として日本史上の悲惨・大量被害者の大公害事件である水俣病食中毒事件に対して,被控訴人らが法定の調査をし,事件の実態,食中毒患者の実態を明らかにさせる権利があり,一日も早く,報告・要請・調査が行われなければ,水俣病事件の実態,食中毒患者の実態は不明となること,しかも,控訴人は食中毒患者自身であるから,食品衛生法の特に調査による患者としての権利・地位が失われていることからすると,ここで被控訴人らの報告・要請・調査拒否の違法性が確認されれば,直ちにこれらの違法・不当な状況は解消され,控訴人は救済される旨主張する。しかしながら,
水俣病食中毒事件について,
被控訴人らが法定の調査をし,
事件の実態,食中毒患者の実態を明らかにすることと,控訴人が水俣病患者として救済されることとは別問題であって,被控訴人らの報告・要請・調査拒否の違法性が確認されれば,直ちに,控訴人が救済されるという関係にあるとはいえない。控訴人の上記主張は,論理に飛躍があるというべきであって,採用できない。
(3)

食中毒調査報告等をしないことが違法であり,これにより控訴人の利益
が侵害されていることについて控訴人は,水俣病の公式発見の年である昭和31年に,食品衛生法の調査が適正にされれば,
「全ての住民・患者・国民が水俣病の有無が即時に確認が
なされ,水俣病審査制度など全くいらなかった」ことはもとより,「そもそも
万単位の被害者発生が未然に防げた」のであり,この食品衛生法の阻止力・本来の公衆衛生の目的と効果こそが,食品衛生法の調査の最高にして究極の効果であり,国民が当然享受すべき権利である旨主張する。
しかしながら,控訴人の主張する侵害された権利とは,①食品衛生法所定の食中毒調査を受けることができる手続上の地位,②自己が食中毒患者であるか否かの確認を受けることができる利益,③食中毒である水俣病の正しい病像及び患者発生実態を知ることができる利益というにあるところ,食中毒調査が,その本来的目的である汚染食品等の規制のために必要な情報収集手段であることを離れて,食中毒患者等が食中毒調査を受けることができること(上記①の権利)及び調査の対象者が食中毒患者であるか否かを確認すること(上記②の権利)自体を,食中毒患者等に対してその手続的な地位として法的に保障してこれを保護しているとは解されないこと,また,食中毒調査の本来的目的は,原因食品等及び病因物質を追及した上,汚染食品等を規制することを通じて,食品衛生上の危害の発生を防止することにあり,食品衛生法は,当該食中毒の病像や患者の発生の広がりについて,せいぜいこれらの原因食品等や病因物質を特定するために必要な限度において把握しようとしているにとどまると解され,これらのために必要な範囲を超えて,食中毒患者の詳細な病像や患者発生状況の詳細までをも把握しようとしているとは考え難いことなどから,控訴人の主張する利益(上記③の権利)が食品衛生法上保護された法的利益といえないことは,原判決が説示するとおりである。
昭和31年に食品衛生法に基づく調査を適正に行うべきであったとの控訴人の上記主張は,国民が当然に享受すべき権利であるというにすぎず,控訴人のいかなる具体的な法的権利が侵害されたと主張するものか明らかでない上,上記③の権利に関する原判決説示のとおりの食品衛生法の調査の目的及び範囲に鑑みれば,同時点における調査によって,食中毒患者の詳細な病像や患者発生状況の詳細を知ることができ,
「全ての住民・患者・国民が水俣病
の有無が即時に確認がなされ,
水俣病審査制度など全くいらなかった」
とも,
「そもそも万単位の被害者発生が未然に防げた」ともいうことはできないから,控訴人の上記主張は採用できない。
3
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官

柴田寛
裁判官

梅本圭
裁判官

小田靖之一郎子
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