判例検索β > 平成27年(ワ)第28184号
地位確認等請求事件
事件番号平成27(ワ)28184
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成29年1月24日
法廷名東京地方裁判所
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平成29年1月24日判決言渡
平成27年(ワ)第28184号

地位確認等請求事件

主文1
原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2
被告は原告に対し,平成27年9月1日から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額37万7702円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
原告のその余の請求を棄却する。

4
訴訟費用は被告の負担とする。

5
この判決は,第2項に限り仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

1
主文第1項同旨

2
被告は原告に対し,平成27年9月1日から本判決確定の日まで,毎月25
日限り月額37万7702円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は,被告に雇用されていた原告が,懲戒解雇されたがこれが無効である
として,労働契約上の地位の確認,並びに解雇日以降である平成27年9月1日から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額37万7702円の割合による賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合の遅延損害金の支払を求めている事案である。
2
前提となる事実(認定証拠等は括弧内に掲記した。)
(1)

被告の組織
被告は,地域住民の健康の維持及び増進に関する事業,公衆衛生の向上に
関する事業等を主な事業とする一般社団法人である(甲1)。被告の事務局では,事務局長職については,平成23年度まではa(以下「a事務局長」という。),平成24年度は空位(ただし,1か月間はbが在任している。),平成25年度はc(以下「c事務局長」という。),平成26年度はd(以下「d事務局長」という。),平成27年度以降はe(以下「e事務局長」という。)がそれぞれ在任し,また,次長職(事務局長補佐)については,平成25年度まではf(以下「f次長」という。)が在任している(甲17,18,乙21,22,26)。
(2)

労働契約の締結
原告は,平成9年4月,被告との間で労働契約を締結して入職し,平成1
0年以降は経理業務を担当し,平成16年4月に主任に昇格し,平成27年8月当時の労働条件は以下のとおりである(争いがない)。

職位

主任職


期間

期間の定めなし


勤務地

事務局


担当業務

経理業務全般


月額賃金

37万7702円


支払方法

毎月月末締め当月25日払い

(3)

懲戒解雇
被告は,平成27年8月25日,原告に対して諭旨解雇を告げ,退職願の
提出を促したが,原告からこれを拒絶されたため,同日,原告に対して懲戒解雇を通知した(以下「本件懲戒解雇」という。甲5,弁論の趣旨)。(4)

就業規則の定め
被告の就業規則では以下の条項が定められている(甲6)。

46条

職員は,本会の目的を達成するため,本会の一員としての責任を自覚して誠実に職務を遂行するとともに,職場の秩序維持に努めなければならない。47条

職員は,明朗はつらつとした気風を養い,もって相互に和を図り,本会事業の円滑な運営に寄与するため,次の事項を遵守しなければならない。

1号

勤務時間を厳守し,全力をあげて自己の職責を遂行すること。

4号

勤務時間中は職務に専念しみだりに所定の勤務場所を離れないこと。
6号

業務に関連して自らの利益を図り,または他より不当に金品を借用し,もしくは贈与を受けるなどの不正な行為を行わないこと。

56条1項

懲戒は,その情状により,次の6つの区分に従って行う。

1号

譴責

始末書をとり,将来を戒める。

2号

減給

始末書をとり,給与を減じて将来を戒める。

3号

出勤停止

始末書をとり,7日以内の期間を定めて出勤を停止する。

4号

昇給停止

始末書をとり,次期の昇給を停止する。

5号

諭旨退職

退職願を提出するよう勧告を行う。職員がこれに従わな

い場合は第6号の懲戒解雇とする。
6号
58条

懲戒解雇

予告期間を設けることなく即日解雇する。

職員が次の各号の1に該当する場合は懲戒解雇とする。ただし情状によっては処分を軽減し,または諭旨退職とすることがある。

3号

正当な理由なく,しばしば業務上の指示または命令に従わないとき。
6号

本会内で暴行,傷害,窃盗,横領など,刑法その他の刑罰法規に違反する行為を行い,その犯罪事実が明らかになったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)。

10号

職務上の地位を利用して私利を図り,または会員や取引先等から不当な金品を受け,もしくは求め,または供応を受けたとき。

13号

その他,第1号から第12号までの規定に準ずる程度の不適切な行為があったとき。

(5)

医師国保茶菓代残金等被告では,医師国民健康保険の高齢者表彰に伴い,東京都医師国民健康保険組合より茶菓子代として毎年5月に1万円が交付され,その交付金から高齢表彰の対象者1名当たり1000円を交付していた。平成23年度から平成26年度までの表彰者は,平成23年度が6名,平成24年度が3名,平成25年度が2名,平成26年度が4名である。そのため,各表彰者に交付後の残金は平成26年度末時点で2万5000円である。(乙5の1ないし4,6の1ないし4,21,弁論の全趣旨)
被告では,平成23年度から平成26年度までの間,会員である診療所から毎年6月と12月に中元・歳暮として商品券等が贈られていたほか,ある会員からは毎回現金5000円が贈られていた(乙8,21,弁論の全趣旨)。
原告は,経理担当職員として上記医師国保茶菓代の表彰者交付後の残金及び中元・歳暮で受領した現金(以下,これらを合わせて「医師国保茶菓代残金等」という。)を手提げ金庫で管理していたところ,平成27年7月30日時点で同手提げ金庫内に確認された残金は6000円である(乙21,証人c)。
医師国保茶菓代残金等については,少なくとも平成27年7月までは被告において会計処理はなされていない(争いがない)。
(6)

カルテ用紙等販売事業の収支
被告では,従前から会員のために事務局でカルテ用紙,診断書及び紹介状
の販売を行い(以下「カルテ用紙等販売事業」という。),事務局内にレジが設置され,年次の浅い事務局職員が,その販売業務,小口現金,在庫及び通帳の管理を担当していた。原告も,採用後しばらくはこの業務を担当していたが,その後は後輩の事務局職員に順次引き継がれている。(甲20)カルテ用紙等販売事業の収支については,少なくとも平成27年6月までは被告において会計処理はなされていない(争いがない)。(7)
ビール瓶リターナブル代金
被告では,医師会内での懇親会用にビールを購入しているところ,その容
器であるビール瓶を返還する際,購入時に保証金として支払っている部分について1本当たり5円の返還を受ける(以下,この返還金を「ビール瓶リターナブル代金」という。)。原告は,このビール瓶リターナブル代金を自己の机の引出し内にビニール袋に入れて保管していた。平成27年7月30日時点で引出し内に確認された金額は1264円である。(甲20,乙2,21)
ビール瓶リターナブル代金については,少なくとも平成27年7月までは被告において会計処理はなされていない(争いがない)。
3
争点及び当事者の主張
(1)

懲戒解雇事由該当性

(被告の主張)

医師国保茶菓代残金等の着服,簿外処理,報告義務違反
被告では,平成23年度から平成26年度までの間,医師国民健康保険の高齢者表彰に伴い東京都医師国民健康保険組合より茶菓子代として毎年1万円が交付され,そこから高齢表彰の対象者1名当たり1000円,4年間で15名に合計1万5000円を交付していたため,本来なら平成26年度末時点で茶菓子代の残金2万5000円が存在するはずである。また,被告では,平成23年度から平成26年度までの間,会員の診療所から毎年6月と12月に中元・歳暮として現金5000円が贈られていたため(なお,平成27年6月以降はe事務局長が受領を断っている。),本来なら平成26年度末時点で現金4万円が存在し,医師国保茶菓代残金等の全体で合計6万5000円が存在するはずである。原告は,医師国保茶菓代残金等を自らが管理する手提げ金庫に保管していたところ,平成27年7月30日時点で同手提げ金庫内に確認された残金は6000円であり,5万9000円が使途不明である。また,上記の医師国保茶菓代は,東京都医師国民健康保険組合より,正式な書面に基づいて高齢者表彰費という名目で諸経費目的で交付され,領収書も発行しているため,儀礼的に交付された金員ではなく,金額の多寡を問わず会計処理が必要な金員であるが,原告は経理業務全般を担当する主任であるにもかかわらず,その会計処理をしていない。
原告は,医師国保茶菓代残金等の使途について縷々弁解するが,いずれも合理的な説明ではなく,信用できない。まず,原告は,被告事務局内で開催される御用納め時の懇親会に際し,主食の寿司以外のつまみ等の購入費用に充てた旨弁解するが,領収書など上記支出を裏付ける資料は提出されていないし,そもそも公式の懇親会であれば被告の経費から支出すれば足りるのに主食の寿司代だけ被告の経費から支出し,その他を医師国保茶菓代残金等から支出すること自体不自然である。また,原告は,時折a事務局長の声掛けにより,業務終了後に全員参加で臨時の懇親会が開催され,その費用としても医師国保茶菓代残金等が支出された旨弁解するが,その支出を裏付ける資料は提出されていないし,そもそもかかる全員参加の臨時の懇親会が開催された事実はない。また,原告は,退職職員の花代としても医師国保茶菓代残金等を支出していた旨弁解するが,その支出についても裏付ける資料は提出されていない。さらに,原告は,医師国保茶菓代の残金と中元・歳暮で受領した現金及び商品券を併せ,各封筒に現金1000円又は商品券1000円分を入れて各職員に配布した旨弁解するが,その配布行為は全過程を原告独りで行っているため,現金が職員1名に1000円ずつ配布されているか疑問であり,被告の職員に対するヒアリング調査でも現金1000円の受領を確認できたのは2件であり,原告が現金を多めに受領していた可能性も否定できない。そもそも各職員に配布した経緯についても,原告は,平成25年度はf次長に相談して決めた旨説明するが,当時のc事務局長には相談しておらず,平成26年度はf次長が退職していないし,当時のd事務局長にも相談せずに配布しており,上司の許可を得ずに自由に費消していたものである。
以上から,原告は,経理担当者の立場を利用して医師国保茶菓代残金等を私的に費消し着服したものであり,就業規則47条6号に違反し,懲戒解雇事由としては就業規則58条6号・10号に該当する。また,経理担当者としては本来なら帳簿上で会計処理しなければならない医師国保茶菓代残金等を簿外処理しているため,就業規則46条,47条1号(自己の職責を遂行)・4号(職務に専念)に違反し,懲戒事由としては58条13号に該当する。さらに,原告は,e事務局長から,個人で管理する現金・通帳の有無を報告するよう業務命令を複数回出されていたが,医師国保茶菓代残金等の現金の存在を報告していないため,業務命令違反があり,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する。

カルテ用紙等販売事業の収支の簿外処理
被告事務局では会員である医院のためにカルテ用紙等を販売していたため,経理業務全般を担当する主任である原告としては,本来ならこのカルテ用紙等販売事業の収支についても会計処理をしなければならないところ,簿外処理をして,顧問会計士や事務局長にも報告していない。この簿外処理がなされたカルテ用紙等販売事業は,平成27年7月30日時点で通帳残高69万1437円、現金6万6879円,カルテ棚卸12万1398円という規模である。また,簿外処理をしたため,会員から徴収した消費税についても納税していない。
原告は,上記簿外処理について,前任者の方針を踏襲して会計処理をしていなかった旨弁解する。しかし,被告では,一連の公益法人改革により,平成25年ないし平成26年頃から一層の経理・会計準則の強化が求められ,安易に前例を踏襲してはならないことは原告自身も熟知しているはずである。また,一般社団法人に移行する際には顧問会計士から何度も簿外処理の有無を確認されているのに簿外処理はないと回答している。よって,原告の弁解には合理性はない。
以上から,経理担当主任の立場にある原告が,カルテ用紙等販売事業の収支について無断で簿外処理をなし,顧問会計士に対しても簿外処理はない旨虚偽の回答をしているため,就業規則46条、47条1号(自己の職責を遂行)・4号(職務に専念)に違反し,懲戒解雇事由としては58条13号に該当する。

ビール瓶リターナブル代金の着服,簿外処理,報告義務違反
原告は,被告のビール瓶リターナブル代金を自己の机の引出し内にビニ
ール袋に入れて保管していたところ,この代金についても着服している。原告は,ビール瓶リターナブル代金についても,懇親会費用等に費消した旨弁解しているが,医師国保茶菓代残金等と同様に懇親会等に支出したことを裏付ける帳簿,領収書等の資料を提出しておらず,信用できない。また,ビール瓶リターナブル代金は,被告がその資金で購入したビールの容器を返還する際,購入時に容器の保証金として支払っている部分について返還される金銭であるため,当然に被告に帰属する性質のものである。そのため,金額の多寡にかかわらず,本来なら雑収入として会計処理する必要がある。特に被告では公益法人改革に伴う経理・会計準則の強化により,こうした金銭についても一層会計処理が必要となる。ところが,原告は,かかるビール瓶リターナブル代金を簿外処理した上,自己の机の引出し内にビニール袋に入れて保管していた。しかも,平成27年4月以降,e事務局長から繰り返し個人で管理している現金や通帳の有無を報告するよう求められ,医師国保茶菓代の関係で使途不明金が指摘された後も,同年7月30日にその存在が確認されるまで報告しなかったものである。以上から,原告は,ビール瓶リターナブル代金を着服しているため,就業規則47条6号に違反し,懲戒解雇事由としては就業規則58条6号・10号に該当する。また,現金を簿外処理している点では,就業規則46条,47条1・4号に違反し,懲戒解雇事由としては就業規則58条13号に該当する。さらに,個人で管理する現金・通帳の有無を報告するよう求められていながら,ビール瓶リターナブル代金の存在を報告していないため,業務命令違反があり,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する。

業務に必要なファイルの削除
被告事務局では,従前は口頭での事務処理を中心で,各職員が事務処理
上作成した電子ファイルについても各自に貸与されたLAN端末パソコンに保存していたが,平成26年頃,情報管理と情報処理の効率化のため,共有データサーバーを導入し,職員に対して同12月12日を目安に各自のLAN端末パソコン内の保存しているデータを共有データサーバーに移行するよう指示した(他の職員は遅くとも平成27年3月頃までには概ねでデータ移行を完了させている。)。しかし,原告はこれに非協力的であり,多くのファイルを原告に貸与されたLAN端末パソコン(以下「原告パソコン」という。)又はUSBメモリ等に格納している状態を継続していた(平成27年7月31日午前10時30分前後に集中してデータサーバーにデータ移行しているところ,この時刻は,自宅待機命令が発令された直後の時間帯であり,原告は自宅待機命令が発令されると慌ててデータをデータサーバーに移行させている。)。このように原告は,業務上必要なファイルをデータサーバーに移行させず原告パソコン及びUSBメモリに格納していたところ,これらファイルを被告に無断で削除した。原告は,業務上必要なファイルは削除していない旨弁解するが,原告パソコン内又はUSBメモリ内で削除されたデータを復元したところ,データサーバー内には格納されていないファイルが多数存在し,その中には下書きファイルや作成途中のファイルではないと考えられるファイルも多数存在する(もっとも,復元作業の結果,極めて膨大な数のファイルが削除されているため,その全てを特定できるものではなく,削除の時期も特定はできない。また,削除されたファイルの中には,許可なく録音した音声ファイルや画像ファイル等も含まれている。)。削除されたファイルの中で業務上必要なものとして,「H26地域包括ケア支払一覧」と題するファイルがある。原告は,当該ファイルは地域包括ケア事業用の外付けハードディスクに格納している旨指摘するが,同外付けハードディスクは地域包括ケア研究会の業務を共同して行っていた外部の共同研究者(会員)の私物であり,被告の所有ではないため,当該会員から返還を求められて返還している。被告は,同外付けハードディスクに上記データファイルを保存するよう指示したことはない。
以上から,原告は,業務に必要なファイルを権限なくして削除し,業務命令に違反しているため,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する。(原告の主張)

医師国保茶菓代残金等の着服,簿外処理,報告義務違反
原告は,医師国保茶菓代残金等を手提げ金庫に入れて保管し,特段会計処理はしていないが,これは前任者から経理業務を引き継いだ際,その保管方法も引き継いだものである。この保管方法は,上司であるa事務局長やf次長も当然に把握していた。また,平成25年3月までは,事務局の御用納め時の懇親会や時折開催される臨時の懇親会において,a事務局長やf次長の了解の下で支出していた。御用納め時の懇親会では,主食となる寿司代は被告の経費で支出し,ビール等の飲み物,つまみ等については医師国保茶菓代残金等から毎年6000円程度を支出し(平成23年度と平成24年度で合計1万2000円程度を支出している。),臨時開催の懇親会は,a事務局長の声掛けにより事務室内で行われ,同事務局長が一部費用を負担し,不足分を医師国保茶菓代残金等から支出し(平成23年度と平成24年度で合計1万5000円程度を支出している。),酒類,茶,菓子類等を購入していた。また,退職職員には,被告の費用により送別会でプレゼントが贈呈されるほか,勤務最終日には,各職員から1000円ずつ徴収してプレゼントを贈呈した上,3000円程度の花束を贈呈し,この花代を医師国保茶菓代残金等から支出していた(平成23年度から平成26年度までに合計6名の退職職員に対して合計1万8000円程度支出している。)。平成25年4月にc事務局長が就任すると,事務局内での懇親会が禁止されたため,以降医師国保茶菓代残金等は原告がそのまま保管していたが,あまり費消されなくなった。そのため,平成25年末頃,上長であるf次長に取扱いを相談したところ,医師国保茶菓代残金と中元・歳暮で受領した現金や商品券(1000円×5枚)を併せ,事務局職員に1人1000円ずつ配布することになった。そこで,平成25年12月には,現金1000円又は商品券1000円分を封筒に入れた上,くじ引きをするような形で,当時の職員10名(原告を含む)に対して合計1万円分(商品券合計5000円,現金合計5000円)を配布した。平成26年6月頃(中元の時期)にも,同様の方法で,当時の職員11名(原告を含む)に合計1万1000円分(商品券合計5000円,現金合計6000円)を配布し,平成26年12月頃(歳暮の時期)にも,同様の方法で,当時の職員10名(原告を含む)に合計1万円分(商品券合計5000円,現金合計5000円)を配布した。
以上から,原告は,医師国保茶菓代残金等について,前任者の取扱いを踏襲して手提げ金庫で保管していたものであり,上司の了解のもとに,懇親会費として2万7000円程度,花代として1万8000円程度を支出し,各職員に対して1万5000円程度を配布したものであり,着服・横領による懲戒解雇事由には当たらない。また,原告は医師国保茶菓代残金等を簿外処理しているが,これは,従前の取扱いを踏襲したものであり原告の判断で会計処理から除外したものではないし,上司から会計処理をするよう指示されていながら敢えて簿外処理を継続したものではないから,かかる簿外処理が懲戒解雇事由に該当するとはいえない。また,平成27年4月以降のe事務局長から個人で管理している現金及び通帳を報告するよう指示されていたが,その報告対象は自らが経理処理を担当している被告資産としての通帳や現金であると理解していたため,元々簿外処理している医師国保茶菓代残金等(ビール瓶リターナブル代金も同様である。)を報告しなかったものであり,これを報告していないことが業務命令違反とはいえず,この点でも懲戒解雇事由には当たらない。

カルテ用紙等販売事業の収支の簿外処理
被告では,従前からカルテ用紙等販売事業の収支は簿外処理されているところ,この取扱いは原告が被告に採用される以前からであり,採用後も一貫して簿外処理がなされていた。この簿外処理の是非はともかくとして,長期にわたり慣習としてなされていた処理方法であり,たまたまこれが問題として発覚した際の経理担当主任が原告であるに過ぎない。原告は,これまでカルテ用紙等販売事業を会計処理するよう上司から指示されたこともない。よって,かかる簿外処理が懲戒解雇事由に当たるとはいえないし,業務命令違反として懲戒解雇事由に当たることもない。


ビール瓶リターナブル代金の着服,簿外処理,報告義務違反
原告は,ビール瓶リターナブル代金を自己の机内に保管していたが,これも医師国保茶菓代と同じように前任者から引き継いだものである。そして,a事務局長やf次長の了解の下で,事務局の懇親会の際に飲み物代やつまみ代に支出していた。平成25年4月以降は事務局内での懇親会が禁止されたため,その後は費消されることはなく原告が解雇されるまで保管していた。よって,原告がこれを横領・着服したものとして懲戒解雇事由には当たらない。また,原告はビール瓶リターナブル代金を簿外処理しているが,これは従前の取扱いを踏襲したものであるし,上司から会計処理するよう指示されたこともなく,報告を求められたこともない。よって,簿外処理についても,業務命令違反としても,懲戒解雇事由には当たらない。

業務に必要なファイルの削除
原告は,業務上保管が必要となるファイル(削除した場合に業務に支障
を来す)を削除したことはないし,意図的に不正行為等を隠蔽するためにファイルを削除したこともない。原告が業務上使用していた自己のパソコンから削除したファイルは,①下書きの文書ファイルを一旦,別に保存しておき,当該ファイルの完成後,下書きファイルを削除したもの,②文書を途中まで作成したものの,最終的に作成の必要がなくなったために削除したもの,③文書ファイル作成の際の誤操作により意図せず作成されてしまったものを削除したもの,④確認用に確定文書の前文書としてファイルを保存していたものの,最終的に不要になったことから削除したもの,⑤同内容の文書を複数のフォルダに保存していた場合に,フォルダ整理の際に重複ファイルを削除したもの等に過ぎない。当然のことながら,一つの文書等のデータを作成する場合,状況に応じて下書き,修正版,最終版とアップデートされるものであり,この場合,最終版のみ事務局データサーバーに保存すれば十分であり,下書きや修正版等を削除することは問題ない。また,ビジネスの常識で考えれば,職員が自己のパソコンで作成したデータについて,特段の保存規定がない限り,当該案件が終了し,成果物を提出した後は,相当期間後に各自で適宜削除・整理するのが通常であり,入職してから数十年もデータの削除をしないということはあり得ないことである。
被告は,業務上必要なファイルの削除として「H26地域包括ケア支払一覧」と題するファイルの削除を指摘しているが,地域包括ケア事業については,事務局内の戸棚に「地域包括ケア」と○シールが貼付された外付けハードディスクが設置され,当該ハードディスクに業務上必要なファイルは全て保存されていた。原告が削除した上記ファイルについても,上記外付けハードディスクに保存していたため,データサーバーに移行させずに削除したものである。
被告は,USBメモリのデータ削除についても指摘するが,原告は,以前は原告のパソコン内のファイルをUSBメモリにもバックアップとして保存していたところ,平成27年2月13日に全職員のUSBメモリが回収され,その際,同USBメモリ内のファイルはすべて削除した(その際の同USBメモリには,これのみに保存されている業務上必要なファイルは存在しなかった。)。その後,原告は,会計事務所に経理データを渡す用途のため,同日,一旦返還したUSBメモリを再度貸与された。同日以降は会計事務所に対する提出用に使用しているだけで,業務上必要となるファイルをUSBメモリのみに保存してこれを削除したということはない。(2)

懲戒解雇の相当性

(被告の主張)
平成25年4月頃まで,被告の事務局では事務処理が口頭中心になされ,データの共有もされていない状態であり,人的にはa事務局長,f次長,主任である原告の3名が事務の根幹となる業務情報を独占し,他の職員は細切れの事務を脈絡なく命じられて動いている状況であった。こうした状況下で,被告では,公益型一般社団法人への移行に伴い,経理処理や事務局の改革改善など事務執行態勢の大転換を実行した。具体的には,被告の経理規定を全面的に見直し,平成26年4月1日付で新たな経理規程を施行した。この経理規程は新たな公益法人会計基準に準じた処理を求めているほか,会計帳簿の種類の具体化や記帳方法も定め,これまで規程上曖昧だった出納責任者を事務局長と定め,現金の取扱いについても具体的な定めを置いた。また,事務局の職務についても事務局処務規程を新設し,同年10月1日に施行した。同規程では,職員の職責,職務の報告,事案決定方式や起案方法等が定められている。こうした改革の中で,被告事務局では,a事務局長が平成25年7月に退職し,f次長が平成26年3月に退職した。原告は,会計経理業務担当の主任であり,しかも平成27年4月1日当時,事務局の中で最も勤続年数が長い職員であるため,本来なら被告の方針に従い,改正された経理規程等を遵守し,事務局長等の上長を補佐して事務処理,経理処理の改革改善に向けて積極的に協力すべき立場にあった。しかし,原告は,経理規程等の改正後の諸規程に従わず,起案決裁制度の定着にも協力せず,むしろ非協力的な姿勢を強め,業務情報を独占する状態を継続し,被告事務局の改革改善を妨害した。原告が不適切な経理処理,事務処理の方法を継続していたため,現在も他の職員は手探りで事務処理をしなければならない状況であるなど,実害も生じている。また,原告にはこれまで幾度も事務処理方法を改善する機会はあったのに,各種問題が発覚するまで何の対応もしていない。これまでの原告の態度に照らすと,今後の改善の見込みがないことは明白である。以上の経緯をふまえ,被告は,平成27年8月25日,懲罰委員会を開催し,原告の弁明を聞いた上,出席委員の評議を行い,諭旨退職が相当であると判断し,これを告知したが,原告はこれを拒絶したため,やむを得ず懲戒解雇するに至った。よって,本件懲戒解雇には相当性があり,有効である。(原告の主張)
被告の主張は争う。原告は,被告主張の懲戒事由に該当する行為はしていないし,それ以外でも,これまで被告の業務命令に違反するような対応はしていない。被告の公益型一般社団法人移行に伴う事務局の改革に対して,原告がこれに協力しなかったことも,妨害したこともない。また,原告は,解雇直前の時期においても誠実に対応している。原告は,平成27年7月30日,被告から業務命令が出ると,これに従い,翌31日には原告パソコンからデータサーバーに移行未了のファイルを確認して移行させ,同日,自宅待機命令が出されると,e事務局長に原告パソコンのパスワードを提出して退所している。また,自宅待機命令後も,被告から質問書が送付される度に自己の記憶に基づき回答し,誠実に調査に協力している。同年8月25日,懲戒委員会が開催されると,原告は懲戒該当事由に該当する事実はない旨説明したが,被告はこれを受け入れず,諭旨解雇を言い渡して退職届の提出を命じた。原告がこれを拒絶すると,被告から即日懲戒解雇を言い渡された。このように原告は,これまで被告の業務命令に応じて職務を遂行し,懲戒解雇事由の調査に対しても誠実に協力してきたものである。さらに,会計処理の点で不適切な方法が発覚したのであれば,その時点で注意指導すれば足り,懲戒解雇を行う必要性は全く認められない。よって,本件懲戒解雇は相当性を欠く。
第3
1
当裁判所の判断
事実経過について(認定証拠等は括弧内に掲記した。)
(1)

原告は,平成9年4月に被告に採用されると事務局に配属され,当初は
窓口受付,電話対応,宛名印刷,レセプト受付等の業務を担当した。被告事務局では,会員である医師の要望により,昭和40年代の頃からカルテ用紙等販売事業が行われ,事務局内にレジが設置され,年次の浅い職員が販売,小口現金,在庫,通帳の管理等の業務を担当し,原告も当初は同業務を担当した。カルテ用紙等販売事業の収支については,従前から被告で会計処理がされておらず,担当者が交代しても簿外処理が継続されていた。(前記前提となる事実,甲20,原告本人)
(2)

原告は,平成10年の途中で経理業務の担当になり,小口現金の扱いや
帳簿記入,消費税申告等の業務を担当するようになった。平成16年4月には経理業務担当の主任職に昇格し,前任のg氏から,伝票の作成,出金・支払,予算・決算書の作成,各種税務関係申告書の作成,給与計算書等の経理業務全般を引き継ぎ,会計処理の方法も同人のやり方を踏襲した。また,当時,医師国保茶菓代残金等とビール瓶リターナブル代金は,現金で保管され,簿外処理がなされていたところ,原告は,その保管についてもg氏から引き継ぎ,同様に簿外処理を継続した。(前記前提となる事実,甲20,原告本人)
(3)

被告は,もともと民法上の公益法人であったが,法制度の改正に伴い,
平成20年12月1日に特例民法法人となり,平成26年4月1日に一般社団法人に移行した。この一般社団法人に移行する過程において,その態勢の整備が求められ,平成25年から平成26年にかけては,様々な制度改革が行われた。まず,経理・会計準則の強化が求められたため,平成26年4月1日付で新たな経理規程を施行し,また,事務局内の決裁制度についても,平成25年10月頃に簡易ながらも書面による決裁制度を導入し,平成26年10月にはより厳格な起案決裁制度を導入した。さらに,事務局の職務についても整備し,同月1日から事務局処務規程,役職員の職務及び権限に関する規程を施行した。(乙16ないし19,22,証人c,弁論の全趣旨)。(4)

他方で,被告事務局では,従前は業務上必要なファイルが各職員に貸与
されたパソコン内に格納され,必ずしも業務情報が共有化されず,また,口頭中心の業務がなされていたため,被告は事務の効率化を企図し,平成26年11月頃,事務局共有のデータサーバーを導入し,同年12月12日を目途に各職員に貸与されたLAN端末パソコンに格納された業務上必要なファイル等はデータサーバーに移行させるよう指示した(乙14の1及び2,22,証人c)。
(5)

しかし,こうした制度改革の過程でも,カルテ用紙等販売事業,医師国
保茶菓代残金等及びビール瓶リターナブル代金の簿外処理については変更されず,カルテ用紙等販売事業及び医師国保茶菓代残金等の簿外処理については,平成27年6月に至るまで,ビール瓶リターナブル代金の簿外処理については,同年7月30日に至るまで,代々の事務局長及び次長からその管理の問題性が指摘されることはなかった(前記前提となる事実,弁論の全趣旨)。
(6)

こうした制度改革が進む中,幹部職員の人的構成についても交替が進ん
だ。a事務局長は,平成24年4月1日に事務局長から相談役に変更されていたが,平成25年7月31日に退職した。同年4月1日にはc事務局長が就任し,事務局内の懇親会を廃止した。平成26年4月1日にはd事務局長が就任し,同年3月31日にはf次長が退職した。こうして一連の制度改革は,c事務局長,d事務局長の体制下で実行された。(前記前提となる事実,甲17,18,乙21,22)
(7)

平成27年4月1日,e事務局長が就任した。当時,原告は,被告事務
局では最も在勤期間の長い職員であった。e事務局長は,同月から5月頃,事務局職員全体に対し,個人で管理する現金や通帳があれば報告するよう指示を出した。しかし,この時点でも,カルテ用紙等販売事業の収支,医師国保茶菓代残金等,ビール瓶リターナブル代金が簿外処理されている点については,原告を含むどの職員からも指摘・報告はなかった。(乙21,証人e,弁論全趣旨)
(8)

e事務局長は,平成27年6月上旬頃,医師国保茶菓代の残金が被告の
雑収入で会計処理されておらず,原告が手提げ金庫に現金で管理していることを知るに至り,原告に対して他に自らが管理する預金通帳や現金がないか,報告するよう指導した。また,同じ頃,e事務局長は,カルテ用紙等販売事業の収支についても,簿外処理がなされていることを知った。(乙21,証人e)
(9)

e事務局長は,平成27年7月30日午後4時30分頃,原告に対して
指示書を交付する方法で業務命令を出した。その内容は,禁止事項として,①事前承認なく執務時間外に医師会館への立入り禁止,②被告事務局の文書等の持ち出し禁止,③原告パソコンで発信し又は受信したメールの削除禁止,翌31日までに実行する事として,①原告パソコン内のドキュメントを全て事務局データサーバーに移行すること,②原告パソコンのパスワードを事務局長に提出すること,③被告関連で保管する通帳・現金等を全て提出すること,④ロッカー内の私物を除いた物を全て提出すること,また,自宅にある被告関連の文書を提出することを求めるものであった。(甲20,乙1,証人e)
さらに,e事務局長は,原告に保管する預金通帳と手提げ金庫を提出させ,原告が同金庫の鍵を机の引出しから取り出そうとした際,同引出しの中からビニール袋に入った現金を発見し,原告の説明によりそれがビール瓶リターナブル代金であり,簿外処理されていることが判明した(甲20,乙21,証人e)。
(10)

原告は,翌31日午前8時40分頃に出勤し,原告パソコン内のファイ
ルの中で移行未了なものをデータサーバーに移行させていたところ,同日午前10時過ぎ頃に会議室に呼び出され,e事務局長から自宅待機命令を告知された(甲8,20)。
原告は,その直後に自己の机に戻り,e事務局長に対してパソコンのパスワードを提出した上,引き続きデータサーバーへの移行未了のファイルの有無を確認しようとしたが,e事務局長からの指示により,同日午前11時30分過ぎ頃,被告事務局から退所した(甲20)。
(11)

原告は,平成27年7月31日,同年8月4日,同月11日,同月14
日の合計4回にわたり,被告からファイルの保存場所等について質問状が送付されたため,同年8月3日,同月9日,同月13日,同月19日に,それぞれの質問に対する回答を送付した(甲9ないし16,弁論の全趣旨)(12)

被告は,平成27年8月25日,懲戒委員会を開催し,原告自身にも質疑応答をした上,諭旨退職を決定し,退職願いの提出を促した。しかし,原告からこれを拒絶されたため,本件懲戒解雇が告知した(前記前提となる事実,乙21)。
2
本件懲戒解雇の懲戒解雇事由該当性
(1)

医師国保茶菓代残金等の着服,簿外処理,報告義務違反
前記前提となる事実記載のとおり,医師国保茶菓代残金等は,これが費消
されていない限り,平成27年7月30日時点で6万5000円(=医師国保茶菓代残金2万5000円+中元・歳暮の受領現金5000円×年2回×4年)が残存する計算になるところ,同日時点で手提げ金庫内の残金は6000円であるため,差額5万9000円が何らかの形で費消されているものと推定される。この点,被告は,原告が差額5万9000円を着服したものであり,就業規則58条6号・10号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。この点に関する原告の弁解(甲20,原告本人)は,平成24年度までは,a事務局長の了解の下,事務局内で開催する御用納め時の懇親会で,被告経費で賄われる主食以外のつまみや飲み物の費用として1万2000円程度(平成23年度6000円,平成24年度6000円)を支出し,a事務局長の声掛けで開催する臨時の懇親会に同事務局長が個人で支出する費用に不足分として1万5000円程度(平成23年度と平成24年度で7000円,8000円程度)を支出し,平成25年度以降は事務局内での懇親会が禁止されたため,f次長に相談の上,医国保代残金と中元・歳暮で受領した現金・商品券1枚1000円も混ぜて封筒に入れてくじ引きをする形で各職員に1000円ずつ,現金は合計1万6000円(平成25年12月は商品券5000円・現金5000円,平成26年6月は商品券5000円・現金6000円,同年12月は商品券5000円・現金5000円)を配布し,平成23年度から平成26年度までの間に退職職員の最終勤務日に花代として6名の退職職員に1万8000円程度(各人3000円程度)を支出したというものであるところ,その説明内容に特段不合理な点は見当たらず,計算上も残金6000円とほぼ整合すること,被告が指摘する領収書が提出されていないという点についても,元々簿外で管理されていた現金である上,事務局内の行事で支出しているため,領収書を保存していなくてもやむを得ない面はあると,当時のa事務局長やf次長も陳述書(甲17,18)で同旨供述していること,くじ引きの形で現金を配布したという事実については,被告側の職員に対する調査でも現金1000円入りの封筒を受領した事実が2名確認されていること(証人e)に照らすと,上記原告の弁解は信用できる。そして,原告の着服を認定するに足りる証拠はない。よって,就業規則58条6号・10号に該当する懲戒解雇事由は認められない。
次に,被告は,簿外処理をしている点で,就業規則58条13号の懲戒解雇事由に該当し,また,e事務局長から個人で管理する預金通帳・現金の有無を報告するよう求められていながらこれを報告しなかったという業務命令違反の点で,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。確かに,少なくとも医師国保茶菓代残金(中元・歳暮の受領現金を除く)は,領収書も発行される現金であり,本来的には経理担当主任である原告から帳簿上の処理を提案すべきとも考えられる。しかし,これは,原告の判断で簿外処理をしたものではなく,原告が経理担当主任になる以前から簿外で処理されていたものをそのまま引き継いだものであり,その後も長期間にわたり,原告の上司であるa事務局長やf次長からもその存在を認識していながら指摘はなく(甲17,18),特に一般社団法人化に備えて会計準則の強化のため経理規程の改革が行われた平成25年度から平成26年度の過程においてさえも,特段指摘はされずに経過していることに照らすと,当該簿外処理をもって,就業規則58条13号の「その他,第1号から第12号までの規定に準ずる程度の不適切な行為」があるとは認められない。また,これまでの医師国保茶菓代残金等の扱いを考えれば原告が意図的にこの現金を隠匿していたものとまでは認定できず,原告がこれをe事務局長に報告しなかった点をもって,就業規則58条3号が想定する業務命令違反があるとまでは認められない。
(2)

カルテ用紙等販売事業の収支の簿外処理
被告は,原告としてはカルテ用紙等販売事業の収支についても会計処理を
しなければならず,これをしないで簿外処理を継続させている点で,就業規則58条13号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
確かに被告のカルテ用紙等販売事業は被告で会計処理が必要であり,経理担当主任である原告としては,本来なら会計処理を要するとも考えられる。しかし,カルテ用紙等販売事業の収支は,原告が前任者から引き継いだものであり,原告の判断で簿外処理をしたものではないこと,それでも経理担当主任としては簿外処理の問題提起をすべきともいえるが,この簿外処理は原告が採用される以前に始まり,e事務局長から問題性を指摘される平成27年6月頃に至るまでの数十年間,長期にわたり継続されていたものであること,同事業は事務局内にレジを置いて公然と行われていたため,代々の事務局長や次長もカルテ用紙等販売事業の存在は認識していたと思われるが,平成27年6月まで原告の上司の誰もその簿外処理について指摘していないこと,特に一般社団法人化に備えて経理規程の改革が行われた平成25年度から平成26年度の過程においてさえも是正されずに経過していることに照らすと,同事業の収支の簿外処理が不適切であるとしても,その責任を原告に帰することはできないと考える。よって,当該簿外処理をもって,就業規則58条13号の「その他,第1号から第12号までの規定に準ずる程度の不適切な行為」があるとは認められない。
(3)

ビール瓶リターナブル代金の着服
被告は,原告がビール瓶リターナブル代金を着服しているため,就業規則
58条6号・10号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。この点に関する原告の弁解(甲20,原告本人)は,医師国保茶菓代と同様に,上司であるa事務局長やf次長の了解の下に被告事務局内で開催された懇親会の飲み物代やつまみ代に支出したという内容であるところ,その説明内容に特段不合理な点は見当たらず,被告が指摘する領収書が提出されていないという点についても,元々簿外で管理されていた現金である上,事務局内で支出しているため,領収書を保存していなくてもやむを得ない面はあること,当時のa事務局長やf次長も陳述書(甲17,18)で同旨供述していることに照らすと,上記原告の弁解は信用できる。そして,原告の着服を認定するに足りる証拠はない。よって,就業規則58条6号・10号に該当する懲戒解雇事由は認められない。
次に,被告は,これを簿外処理している点は就業規則58条13号の懲戒解雇事由に該当し,e事務局長から個人で管理する現金・通帳を報告するよう求められていながら報告していない点は業務命令違反になるため,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
確かに,ビール瓶リターナブル代金も被告に帰属すべき性質の現金であるが,これは原告の判断で簿外処理をしたものではなく,原告が経理担当主任になる以前から簿外で処理されていたものをそのまま引き継いだものであり,その後も長期間にわたり,原告の上司であるa事務局長やf次長からもその存在を認識していながら指摘はなく(甲17,18),特に一般社団法人化に備えて経理規程の改革が行われた平成25年度から平成26年度の過程においてさえも特段指摘はされずに経過していることに照らすと,当該簿外処理をもって,就業規則58条13号の「その他,第1号から第12号までの規定に準ずる程度の不適切な行為」があるとは認められない。また,これまでのビール瓶リターナブル代金の扱い及びその金額が僅少であることを考えれば原告が意図的にこの現金を隠匿していたものとまでは認定できず,原告がこれをe事務局長に報告しなかった点をもって,就業規則58条3号が想定する業務命令違反があるとまでは認められない。(4)

業務に必要なファイルの削除
被告は,原告が業務に必要なファイルを権限なくして削除し,業務命令に
違反しているため,就業規則58条3号の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。
確かに,原告は,被告からLAN端末として貸与されている原告パソコンやUSBメモリ内のファイル等を削除しているところ,その削除されたファイル等の中には事務局のデータサーバーには格納されず,原告パソコンやUSBメモリ内だけに存在したと思われるファイル等も削除されている。しかし,一般的に職員が業務遂行の過程で作成したファイル等のデータの中には,文書作成途上の下書き,自らの手控えとして作成したもののように,本来的にデータサーバーへの移行が予定されていないものも存在するほか,当初は保管が必要でも,目的を達してから長期間が経過し,あるいは依拠する制度が変更されたりして不要となり,整理のために適宜削除するものも存在するところ,本件では,消去された電子ファイル一覧(乙3,4)を見ても,それがデータサーバーに移行することが予定された業務に必要なファイルであるのか,削除されると業務上支障が出るような性質のものであるのか,明らかではない。仮に被告が主張するように「H26地域包括ケア支払一覧」と題するファイルが,業務上必要なファイルであるとしても,その削除によって被告の業務にどの程度の支障を及ぼしたのかについては不明である。以上に照らすと,本件では被告の業務に支障を及ぼすような重要なファイルを削除したとまでは認められず,就業規則58条3号が想定するような業務命令違反があるとまでは認められない。
(5)

まとめ
以上から,被告が主張する懲戒解雇該当事由はいずれも認められない。仮
にこれが認められたとしても,本件の懲戒解雇事由がそれほど悪質なものとはいえないこと,原告にこれまで懲戒処分歴はないこと,被告側で原告に対して問題点を指摘して繰り返し注意指導した形跡もないことに照らすと,懲戒解雇は重きに失し,相当性が認められない。よって,本件懲戒解雇は無効である。
3
以上から,原告の労働契約上の地位確認及び解雇日以降の賃金及びその遅延
損害金の支払を求める請求には,主文の限度で理由があるので,これを認容し,その余は棄却する。なお,遅延損害金の利率については,本件では商事法定利率を適用すべき事情はないため,民法所定の年5パーセントの限度でこれを認める。
4
よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第36部

裁判官遠藤東路
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