判例検索β > 平成24年(ワ)第4561号
損害賠償請求事件
事件番号平成24(ワ)4561
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成28年3月29日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成28年3月29日判決言渡
平成24年(ワ)第4561号

損害賠償請求事件
主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
被告は,原告に対し,696万3127円及びこれに対する平成21年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,被告に対し,被告の安全配慮義務違反により業務中に右肩に傷害を負ったと主張して,雇用契約上の債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

1
前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)(1)

当事者
被告は,自動車,産業車両,鉄道車両,船舶,航空機等の各種輸送機器用,宇宙機器用及びその他原動機用の電気・電子部品,その他機器・システムの製造・販売・賃貸・修理等を目的とする株式会社である。


原告は,昭和38年○月○日生まれの男性であり,平成18年11月13日,雇用期間半年の約定で被告に雇用され,被告a製作所での勤務を経て,平成19年2月26日,被告b製作所の冷暖房製造1部クーラー1工場生産1課部品1係2班に配属され,○号工場の3号プレスラインのラインで,エバポレータ(カーエアコン部品)用構成部品のプレス加工業務に従事した。原被告間では以後5回にわたって同期間の雇用契約が更新され,原告は,平成21年11月12日,雇用期間満了により被告を退職した。(2)

原告の担当業務の内容等
被告b製作所の冷暖房製造1部クーラー1工場生産1課(有期契約者を含め,約100名の従業員が所属)部品1係はエバポレータ用構成部品のプレス加工業務を行う部署で,○号工場のプレスライン(2号プレス,3号プレス,カップサブ組付け,部品集荷運搬等)を担当する1班及び2班,○号工場のプレスライン(1号プレス,4号プレス,5号プレス,カップサブ組付け等)を担当する3班及び4班があり,工場ごとに,それぞれの班が昼夜交代で勤務していた(乙20)



原告が配属された○号工場の3号プレスラインにおける主な業務は,エバポレータ用構成部品のうち,サイドプレート,キャップ,セパレーター,カップのプレス加工業務であった。


プレス加工業務の具体的な作業工程は,①プレス機操作者(オペレーター)がプレス機を操作して原材料をプレスして成型する,②プレス成型された製品は,付着している油分が大気脱脂炉内で除去された後,機械でフラックス(蠟付け酸化除去剤)が塗布され,冷却される,③その後,製品がメッシュコンベアで搬送され,作業者が,製品がメッシュコンベア上にある状態で,目視によりフラックス塗布不良の有無を全数検査し,さらに,製品を手に取って打痕,傷等の不良の有無を目視により検査し,不良のある製品をラインの下に置かれた箱に入れる(打痕,傷等を確認した場合は,プレス機作業者に連絡してプレス作業を中止させる)
,④不良のない製品
は,作業者の左側のラインとほぼ同じ高さの机上に置かれた所定の箱に所定の数量を入れる(以下,③の作業と合わせ,
「取上作業」という。,⑤

作業者は,所定の数量の製品を所定の箱に詰め終わったら,その箱を台車に載せる(以下「移動作業」といい,取上作業と合わせ,
「取出作業」と
いう。,というものである。

原告は取出作業を担当しており,輸出用製品(CKD)についてはラインを挟んで2人で行っていたが,内製用(国内向け)製品については主に原告が1人で行っており,一部,原告に補助者が付いて,ラインを挟んで2人で行うこともあった。
(3)

同年5月28日(以下「本件当日」という。
)の原告の業務内容等
原告は,M勤務(所定就業時間は午前7時55分から午後4時30分まで,休憩時間は午前10時から午前10時10分まで,午後0時から午後0時45分まで及び午後3時から午後3時10分まで)であり,始業時刻から,10分の休憩を挟み,午前10時17分頃まで,内製用のキャップ(品番○。以下「本件キャップ」という。
)の取出作業を1人で担当した
(甲8・56頁)



原告は,午前10時30分頃から,内製用のサイドプレート(品番○。以下「本件サイドプレート」という。
)の取出作業を担当した。本件サイ
ドプレートは,C-4箱(縦27.8センチメートル,横38.4センチメートル,深さ16.0センチメートル)に150個ずつ詰めることになっていたが,午前11時頃,C-4箱が不足したので,プレス機操作者のcは,C-4箱の約2倍の容量のあるC-3箱(縦55.8センチメートル,横38.4センチメートル,深さ16.0センチメートル)を代用することにし,原告に対し,C-3箱に本件サイドプレートを300個ずつ詰めるように指示した。原告は,午後0時頃までの約1時間,C-3箱を用いて取出作業を行った。c及び原告が本件サイドプレートの取出作業にC-3箱を使用するのは,このときが初めてだった。なお,午後1時頃にはC-4箱の準備ができた。
本件サイドプレート1個当たりの重量は約40.39グラムであり,C-4箱に150個詰めたときの重量は約7.3キログラムで,C-3箱に300個詰めたときの重量は約14.5ないし14.6キログラムであった(乙19,20)


原告は,昼の休憩時間中に,上司のd班長に対し,湿布がないか尋ねたことから,d班長からその事情を問われ,肩が痛いと述べた。原告は,休憩時間後,被告b製作所内にある被告e診療所を受診したところ,軽い筋肉痛と診断され,湿布と塗り薬を処方されたが,業務上の措置については特に指示はなかった。原告が被告e診療所から戻った後,d班長が,原告に対し,業務に就けるか確認したところ,原告は業務に就けると答えた。原告は,午後も本件サイドプレートの取出作業に従事する予定であったが,d班長は,原告の肩関節痛の訴えを考慮し,肩に負担をかけないカップサブ組付作業(カーエアコンの部品であるカップをセットしてサブ組付けする作業で,部品をセットしてスイッチを押す作業)に従事させることにし,原告は,翌29日にもこの作業を担当した。

(4)

その後の経過
原告は,同年6月1日,d班長に架電し,同日に病院で診察を受けると連
絡した。そこで,d班長から連絡を受けた係長(SL)のfは,原告に架電し,被告e診療所で紹介状をもらって他の病院で受診するのが良いと助言し,原告は,その助言に従い,同日午後,被告e診療所を受診した(乙20)。
その後,原告は,gクリニックを受診し,fもそれに同行した。
原告は,同月2日,出勤し,d班長から,カップサブ組付作業を継続するかどうか確認されたのに対し,それまで行っていたサイドプレート等の取出作業に従事する旨答え,取出作業に従事した。
同年7月17日未明(原告の夜勤時)
,原告とcが作業を巡って口論とな
った。原告は,駆けつけたd班長らに対し,cと同じ班では仕事はできない,まだ肩が痛い,投薬されている等と述べた。そこで,fは,同月22日又は23日から,原告をカップにフラックスを刷毛で塗布する軽作業に従事させることにし,原告は,雇用期間満了まで,同作業に従事した。
(5)

原告が負った傷害(以下「本件傷害」という。

原告の右肩関節痛は,gクリニックでは右肩関節周囲炎と診断され,その後受診したh病院では,右肩腱板損傷,右肩関節周囲炎,外傷性右肩関節周囲炎と診断された。
(6)

原告の労災申請等
原告は,同年8月17日,岡崎労働基準監督署西尾支署長に対し,労働者
災害補償保険法による療養補償給付を申請したが,同年12月14日,不支給処分を受け,愛知労働者災害補償保険審査官に対し不服の申立てをしたところ,同審査官は,平成22年11月30日付けで,上記不支給処分を取り消す旨の決定をした(甲2)

2
主な争点
(1)

被告について,以下の安全配慮義務の違反の有無(雇用契約上の債務不
履行又は不法行為上の過失の有無)

本件サイドプレートの取出作業に当たり,C-4箱を十分に準備しておく義務


本件サイドプレートの取出作業にC-3箱を使用する場合に,手伝い人員を配置したり作業ペースを落としたりする義務


本件サイドプレートの取出作業において,全体としての作業負荷が適切になるよう調整する義務


(2)

原告が右肩関節痛を訴えた時点で,以後の作業を休ませる義務
上記(1)の安全配慮義務違反(債務不履行又は過失)と本件傷害との相当
因果関係
(3)
3
本件傷害による原告の損害額

当事者の主張
(1)

争点(1)(安全配慮義務違反の有無)について

(原告の主張)
被告は,原告に対し,原告の労働時間,労働状況,健康状態等を把握し,原告の健康を害しないよう配慮すべき安全配慮義務を負っていた。具体的には,被告は以下のアからエまでの義務を負っていたが,それらに違反したもので,雇用契約上の債務不履行又は不法行為上の過失がある。

本件サイドプレートの取出作業に当たり,C-4箱を十分に準備しておく義務
原告が本件傷害を負った大きな原因は,本件サイドプレートを詰める箱がC-3箱になり,通常の2倍の重量負担のある作業を反復して行わざるを得なかったことにある。本件サイドプレートの取出作業により肩にかかる負荷の度合いや,本件当日に既に3時間も重量物を扱う作業を行ったことによる疲労の蓄積があったことも考慮すると,通常の2倍の重量負担のある作業をすれば,身体に通常生じ得ない故障が生じる可能性があることは容易に想定し得る。被告としては,そのような結果を生じさせないよう,本件サイドプレートの取出作業に当たり,C-4箱を十分に準備しておくべき義務を負っていた。
この点,被告が策定した安全衛生基準によれば,本件サイドプレートの移動作業で用いる箱の重量は10キログラム以下に制限されており,14キログラムの重量物を反復して差し出す作業を強いることになる,C-3箱を使用しないことが,安全配慮義務の内容となるというべきである。

本件サイドプレートの取出作業にC-3箱を使用する場合に,手伝い人員を配置したり作業ペースを落としたりする義務
仮に,C-3箱を用いて業務を行わざるを得なかったとしても,原告が1人で作業に当たるのではなく,これを助ける者がいれば,原告の負担は低減し,本件傷害を防ぎ得たと考えられる。したがって,被告は,C-3箱を用いての作業を指示するのであれば,その他の社員に補助させるという義務を負っていた。特に,本件では,原告から「これを一人でやるのですか,手伝ってくれませんか。
」とcに助けを求めたのであるから,被告
としては,原告の窮状を認識し,適切な補助を付ける義務があったにもかかわらず,これに応じなかったものである。

本件サイドプレートの取出作業において,全体としての作業負荷が適切になるよう調整する義務
上記ア及びイの事情に加え,本件当日は,製品の数自体が多く,製品の並びが悪くて重なって流れたり,フラックス塗布不良が多かったりして,通常より神経を遣う厳しい作業となっていたのであるから,その精神的負担も相まって,事故が発生する可能性が高かった。したがって,被告は,コンベアのスピードを落とすなど,全体として作業の負荷が適切になるよう調整する義務を負っていた。


原告が右肩関節痛を訴えた時点で,以後の作業を休ませる義務
労働者が業務中に身体の故障を訴えた際には,使用者には,その悪化・拡大を防ぐべく,少なくとも労働者の身体の故障の原因と考えられる作業を停止するよう指示し,又は,それ以上の業務を指示しないことが求められる。被告は,原告が肩の痛みを訴えた本件当日の昼の時点において,原告に少なくとも午後の作業を休ませる対応をとるべき義務があった。しかし,原告は,被告e診療所を受診し,軽い筋肉痛と診断されて湿布と塗り薬をもらったのみで,本件当日午後も翌29日も,何ら安全上の配慮のないまま作業に従事した。


予見可能性について
被告は,原告に対し,日常的に肩等に過重な負荷がかかる作業を繰り返させており,cが作業量を増やすようせかし,過重な業務をさせてきたものである。被告は,そのような作業を原告が行っていたことを承知しており,本件のような労働災害の発生を十分予期できたのであるから,上記の安全配慮義務違反がある。

(被告の主張)
争う。

原告や他の3号プレスラインで取出作業に従事する従業員は,本件サイドプレートだけではなく,キャップやセパレーター,カップの取出作業にも従事しており,14キログラム以上の重量のある箱の移動作業は日常的に行っていた。また,C-3箱を用いたことで,本件サイドプレートを詰めたときの箱の重量は2倍程度になるものの,移動作業の回数は半分で済むため,作業負荷が増えるとはいえない。さらに,同種作業に従事しているラインの作業者で,原告以外に肩の疼痛を訴えた者は,ライン稼働開始以来現在に至るまで皆無であるから,C-3箱を使用させたことにより,原告に本件傷害が起こることを予見することはできなかった。
したがって,C-4箱を不足させないよう準備しておくことが安全配慮義務の内容にはなり得ない。なお,被告が策定した安全衛生基準は,移動作業には適用されない。


本件当日,cはプレス機のサイクルタイムを遅く設定して作業ペースを落としており,原告の業務が特に過重だったことはないし,cが原告から本件当日に手伝いを依頼されたこともない。


原告の本件傷害は,本件当日以降悪化しておらず,かえって改善していたのであるから,被告に本件当日午後に原告に業務に就かせないような措置をとるべき義務やその違反はない。

(2)

争点(2)(相当因果関係)について

(原告の主張)
原告は,被告の安全配慮義務違反(雇用契約上の債務不履行又は不法行為上の過失)により,右肩腱板断裂の傷害(本件傷害)を負った。
原告が従事していた取出作業は,通常であっても筋骨格系,特に上肢に相当程度の身体的負荷を生じさせるものであり,原告は,取出作業に2年以上にわたって従事していたことから,何らかのきっかけで容易に右肩に損傷が生じる程度に疲労が蓄積していたと推測される。そして,本件当日,本件サイドプレートの並びが悪く,重なりが生じるなどの問題があって不良品が多かったため,焦りや不安で心理的負荷が高く,筋緊張を亢進させるなど筋骨格系障害発生のリスクを高めていたところに,通常の倍の約14キログラムの箱の移動作業という産業医学的にリスクの高い作業を行ったことで,本件損傷を負うに至ったものである。
(被告の主張)
争う。そもそも,原告が負った傷害は,肩腱板損傷及びそれに基づく肩関節周囲炎ではあるが,肩腱板断裂ではない。肩腱板損傷は,加齢や日常生活によっても普遍的に発症し得る発症頻度の高いものであるから,相当因果関係の判断は,労働省労働基準局長通達「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」
(平成9年2月3日基発第65号。乙2)と同様の枠組
みによるべきであり,当該業務が同種の労働者にとっても過重であると客観的に認められ,かつ,そのような負荷が原因となって発症したと医学経験則上認められた場合に相当因果関係が認められるというべきである。原告は当時46歳であり,肩関節周囲組織は加齢による退行性変性を来していたとして何ら不思議ではないところ,同種労働者と比較しても,業務負荷が過重であったとはいえない。
(3)

争点(3)(損害額)について

(原告の主張)
原告は,被告の安全配慮義務違反(債務不履行又は不法行為)により,本件傷害を負い,以下のとおり,財産的及び精神的損害を被った。

休業損害

528万5691円

原告の基礎収入(1日当たりの収入額)は9129円であり,被告からの離職日の翌日である平成21年11月13日から平成23年6月14日まで合計579日休業した。

逸失利益

201万3412円

原告は後遺障害等級14級9号の後遺障害を負ったものであるから,後遺障害による逸失利益は,労働能力喪失率を5パーセント,基礎年収を333万2085円(1日当たりの収入額9129円×365日)同日,
(当時48歳)から67歳までの就労可能年数19年に対応するライプニッツ係数12.085を用いて算出すべきである。

慰謝料

270万円

原告は,gクリニックに平成21年6月1日から同年9月14日まで,h病院に同年11月9日から平成23年6月14日まで通院しており,通院慰謝料は150万円が相当である。また,原告は後遺障害等級14級の後遺障害を負ったことから,後遺障害慰謝料は120万円が相当である。エ
損益相殺(控除)366万5976円
原告は,労災認定を受けたことにより,労災保険から,休業補償給付として315万4752円,障害補償一時金として51万1224円の合計366万5976円の支給を受けたため,同額を損害額から控除する。

弁護士費用

63万円

原告は本件紛争の解決のために弁護士に委任せざるを得なかったため,弁護士費用としては,上記アからウまでの損害額の合計999万9103円から上記エの損益相殺をした633万3127円の約1割である63万円が相当である。

合計額

696万3127円

以上を合計(損益相殺については控除)すると,損害額は合計696万3127円となる。
よって,原告は,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金696万3127円及びこれに対する平成21年5月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(被告の主張)
争う。
第3
1
当裁判所の判断
判断の前提となる事実関係
争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,前記前提事実に加え,以下の事実が認められる。
(1)

原告の通常の業務内容
3号プレスラインにおける作業体制
○号工場及び○号工場のプレスラインは,基本的に,平成21年3月まではオペレーター1人,取出作業者2人の体制で業務を行っていたが,同月4月からは,製品の包装作業のない内製用製品については,取出作業を1人で行うことになった。3号プレスラインにおいては,原告が配属された以降,cがオペレーター,原告が取出作業者という体制であった。(甲
8・64頁から98頁まで,証人f)


原告の担当作業
3号プレスラインにおけるプレス加工業務の作業工程は前記第2の1(2)のとおりであり,原告は主として取出作業を担当していた。作業者は,フラックス塗布不良の有無を製品がメッシュコンベア上にある状態で目視による全数検査をした後,製品を手に取って打痕,傷,バリ等の有無を目視により検査をするところ,この検査は1回につき10枚程度の製品を手に取り,その1枚について行うこととされているが(甲8・27頁,98頁,25,乙22)
,熟練度や力量によっては,18枚ない
し19枚ほどの製品を手に取って行う作業者もいた(証人f,同c)。原
告も,1回につき10枚程度から19枚程度の製品を手に取り,それについて目視検査を行っていた(甲24,乙23,証人c,原告本人)。
移動作業において,製品を詰め終わった箱を台車に移動させる際の作業者の移動距離は,具体的な作業状況によって異なり,個人差もあると考えられるため,正確なところは不明であるが,半歩から2歩程度の距離である(甲13,乙7,17(枝番を含む。以下,枝番を明示しない限り,全ての枝番を含む。乙18号証についても同じ)
,18,証人f,同c,原
告本人)
。また,取上作業を行うコンベアの高さは約95センチメートル,箱を移動させる台車の高さは約69センチメートルであり,台車には箱を3箱から4箱積み上げる(甲24,26。なお,コンベアや台車の高さについては,被告において,証拠提出のためにコンベアや台車の高さを特に変更する必要性・合理性はうかがえない一方,原告の再現実験(甲13)は,本件当日から長期間経過していることもあって再現環境の正確性が担保されていない可能性があることから,乙7号証,17号証及び18号証のとおり認めるのが相当である。。

なお,台車に載せられた箱は,内製用製品は,取出作業者がその業務に従事している間はプレス機操作者が,ロケ棚と呼ばれる所定の場所まで台車を動かして運搬し,取出作業終了時は取出作業者が運搬を行う。輸出用製品は,取出作業を2人で行うため,取出作業者が交互に運搬を行う(乙21,証人c)

(2)

取扱製品の状況
3号プレスラインでは,平成20年11月から平成21年5月までの時期には,サイドプレート29種類,セパレーター15種類,キャップ3種類及びカップ3種類がプレス加工製造されていた(甲8・64頁から97頁まで,乙19,23,証人f)
。生産量は,キャップ,サイドプ
レート,セパレーター,カップの順に多かった(乙23,証人f)。


製品の成形には,製品の品番ごとに標準となる成形速度(サイクルタイム)が設定されており,これにより加工製造される製品の単位時間当たりの個数が決まっていた。標準サイクルタイムは,カップ,キャップ,セパレーター,サイドプレートの順に遅かった。
(乙23,証人f)

本件サイドプレートの標準サイクルタイム(1分当たりの加工製造数)は95,製品1個当たり0.63秒であった(甲8・58頁,乙23,証人f)

なお,コンベアの速度はどの種類の製品でも同一である(乙23,証人f)


3号プレスラインでプレス加工される製品の重量及び所定の数量の製品を詰めた1箱の重量は,別紙1のとおりである(なお,同別紙中,8Yはタイ用,8Pは中国用,9Tはアメリカ用,EYはオーストラリア用を意味する。。所定の箱は,サイドプレート及びセパレーターがC-4箱,キ)
ャップ及びカップがC-A箱(縦55.8センチメートル,横38.4センチメートル,深さ25.0センチメートル)であり,所定の箱に所定数量の製品が入った重量は,サイドプレートは4キログラム台から9キログラム台,セパレーターは6キログラム台から10キログラム台,キャップはいずれも14キログラム台,カップは12キログラム台又は14キログラム台であった。
(乙19,20)
このうち,本件当日に原告が取出作業を担当した本件キャップは,1個の重量が約30.99グラム,箱詰め後の重量が約14.8キログラムであり,本件サイドプレートは,前記第2の1(3)イのとおり,1個の重量は約40.39グラム,C-4箱に150個詰めたときの重量は約7.3キログラム,C-3箱に300個詰めたときの重量は約14.5ないし14.6キログラムであった。


標準サイクルタイムにより,所定数量の製品を所定の箱に詰めて移動作業を行う時間間隔は,キャップが12分程度,サイドプレートでは,本件サイドプレートで4分程度,他のもので3分程度であった(証人c)。

(3)

3号プレスラインの不調
同年4月中旬以降,3号プレスラインの大気脱脂炉内のチェーンコンベアのチェーンの調子が悪く,同ラインで加工される製品は,大気脱脂工程以降の工程において,くっつき合ったり重なり合ったりして搬送されるため,フラックス塗布不良が生じやすくなったり,製品の向きがばらついて搬送されたりする異常が発生していた。その都度必要な補修がされていたが,この異常は平成23年5月まで完全には補修できなかった。
(乙20,21,証人
f,同c)
フラックス塗布不良に対してはサイクルタイムを低くすることにより対応することができるため,cは,不良の発生状況を見て,本件サイドプレートのサイクルタイムを標準タイムサイクルよりも下げ,90,85又は80に設定するなどして対処していた(乙10の1,20,23,証人f,同c)。
(4)

本件当日の原告の作業量,作業速度等
本件当日は,原告は,午前7時55分頃から,午前10時から午前10時10分までの休憩時間を挟んで,午前10時17分頃まで,本件キャップの取出作業に従事した(この間のプレス機の停止時間は合計12分程度)
。この間のサイクルタイム(1分当たりの加工製造数)は105,製品1個(本件キャップはプレス機により3回スタンプされて製造される。)
当たり1.7秒ないし1.8秒程度であり,原告が箱詰めした製品は4350個(フラックス不良品を再塗布したものを含む。,移動作業を行った)
C-A箱(400個詰め)は11箱程度であった。
(甲8・56頁,乙2
0,証人f。なお,cは,本件キャップの箱詰め数は5550個,箱詰め数は14箱であったと供述するが(乙21,証人c)
,これを裏付ける客
観的な証拠はない。



原告は,午前10時30分頃から午後0時頃まで,本件サイドプレートの取出作業に従事した(この間のプレス停止時間は合計22分程度)。こ
の間のサイクルタイム(1分当たりの加工製造数)は80,製品1個当たり0.75秒であり,原告が箱詰めした製品は6750個(フラックス不良品を再塗布したものを含む。,移動作業を行ったC-4箱は17箱,C)
-3箱は14箱であった。
(甲8・5頁,6頁,56頁,24,乙20,
証人f,同c,原告本人)

上記サイクルタイムは,前日までの不良の状況を見て,前日の85から下げたものである(乙23,証人f,同c)

なお,本件当日に発生した本件サイドプレートのフラックス塗布不良は20個から30個程度であり(証人f,同c)
,移動作業の間隔は,プレ
ス停止時間を控除せずに単純計算した場合,本件サイドプレートのC-4箱への箱詰めは約1分46秒に1回程度(30分/17箱)
,C-3箱へ
の箱詰めは約4分17秒に1回程度(60分/14箱)であった。(5)

本件当日以前の業務量について
本件当日の6か月以前における原告の業務量,原告の所属する班と対にな
っている班で,原告と同内容の業務に従事する従業員であるiの同期間の業務量,両者の業務量を比較した結果等は,別紙2のとおりである(甲2・11頁)

(6)

本件傷害について
gクリニック
平成21年6月1日,原告が右肩関節痛を訴えてgクリニックを受診した際,肩関節可動域にもレントゲン写真にも問題がなく,右肩関節周囲炎(肩関節挫傷後)により,同日から1日間の安静加療を要するものと診断された(甲8・13頁,乙15)

原告はその後も右肩の痛みを訴えてgクリニックに通院し,肩関節可動域に問題はなかったが,同年8月18日のMRI検査において,右肩に腱板損傷の所見(診療録には「tear?」と記載)が指摘され(甲2・10頁,8・3頁,13頁から15頁まで,乙13,15)
,同日付けで,右肩関
節周囲炎(肩関節挫傷後)により,同年6月1日から3か月間の安静加療通院を要する旨の診断書が作成された(甲8・112頁)


h病院
原告は,同年11月9日から平成23年6月14日までの間,h病院に通院し,この間,平成21年11月9日にMRI検査を受けた。同病院では,右肩腱板損傷,外傷性右肩関節周囲炎,右肩関節周囲炎が診断病名として挙げられている。
(甲2・11頁,16,乙14)


その他
労災協力医は,同年8月18日のMRIで腱板損傷の所見を認めた上で,右肩関節周囲炎と判断し,審査請求段階の鑑定医は,上記両MRI検査の結果から,右肩腱板断裂と判断している(甲2・11頁,12頁,8・3頁)
。なお,j医師は,原告の症状は,gクリニック受診中,増悪は見られないとしている(証人j)


(7)

他の従業員の負傷状況
被告b製作所においては,○号工場及び○号工場の各ライン(1号ライン
は平成16年,2号ラインは平成17年,3号ラインは平成18年に稼働開始)において,原告と同様の作業に従事する者がいるが,本件当日まで,肩の疼痛を訴えた者はいない(証人f,同c,弁論の全趣旨)

2
争点(1)(安全配慮義務違反の有無)について
一般に,使用者は,雇用契約上,労働者に対し,労働者が労務を提供するに当たり,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている(労働契約法5条参照)
。もっとも,その具体
的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等の具体的状況によって異なることから,以上で認定した事実(前記第2の1,第3の1)を踏まえつつ,本件において,原告の主張する安全配慮義務及び同義務の違反が被告に認められるかどうかを検討する必要がある(原告は債務不履行又は不法行為に基づいて請求をしているが,その債務内容及び過失の前提となる注意義務の内容の判断に当たり,本件の具体的状況を踏まえる必要がある。。)
(1)

本件サイドプレートの取出作業に当たり,C-4箱を十分に準備してお
く義務について

原告の通常業務の負荷について
原告が行う取出作業のうち,取上作業は,自身で作業量や作業速度をコントロールすることが困難な他律的な作業で,一定時間同じ姿勢を継続したり,上肢を中心に同じ動作を反復継続したりするところに特徴があり,立位で,流れてくる製品を手袋を着用した手で把握し,把握した製品を目視するために一時的に腕を拳上し,手を回旋する作業を繰り返す作業を行うが,継続的な手の拳上や回旋はなく,前屈や腰の回転等も要しない作業である(乙7,18)
。また,手で把握する製品の重量は1
個当たり12グラムから41グラム程度と軽く(別紙1)
,製品の形状
(甲25,乙7,18,22)からしても,それほど握力を要するものではないと解される。作業内容も,製品の目視検査であり,それほどの重作業とはいえず,定期的な休憩も設けられており(前記第2の1(2)ウ,(3)ア,第3の1(1)イ)
,熟練度が上がるに従ってその効率が向上し,負
荷が軽減されるものと考えられる。作業速度も,前記1(2)イに照らすと,製品によっては,相当の速度で流れてくる中で上記のような動作により作業を行う必要があるが,それのみによって,過大な負荷が生じるようなものとまでは認められない。
移動作業についても,取り扱う重量は4キログラムから14キログラム程度,頻度は3分から12分に1回程度であり,移動距離も半歩から2歩程度であり,移動させる高さも,取上作業を行うコンベアよりやや低い台車に3箱から4箱を積み上げるという程度にとどまっており(別紙1,前記第3の1(1)イ)
,原告の身長からみても,過度な腕の拳上や
腰の屈伸,回旋を要するようなものとは認められない(甲13,乙7,17,18)

したがって,原告の通常業務(取出作業)自体が筋骨格系に障害を引き起こす危険性が高いとはいえない(乙12)


同種労働者との比較
原告の業務量を同一事業場における同一労働者であるiの業務量と比較すると,別紙2のとおり,原告の1か月当たり業務量(箱詰め量)は,本件当日の前3か月目は198.0パーセントと多いが,2か月目は94.6パーセント,1か月目は105.9パーセントにとどまっており,それらの月の1日当たりの業務量で20パーセント以上業務量が増加した日は,本件当日の前3か月目が8日,2か月目は2日,1か月目は4日にとどまっていることが認められる。なお,iよりも,原告の方が作業能力が高く,作業効率が良かったこともうかがわれる(乙23)。
そうすると,同一労働者との比較において,原告の業務による負荷が過重であったと認めることはできない(乙3参照)



本件当日の原告の業務負荷について
(ア)

本件当日,本件キャップの取出作業を行ったが,この作業自体が,
作業量や作業速度,取扱重量等の点で,それまでと比較して特に負荷が過重であったことを示す証拠はない。
(イ)

本件サイドプレートの取上作業について,原告は,本件当日は,製
品の数自体が多く,製品の並びが悪くて重なって流れたり,フラックスが塗布されていない不良品が多かった旨の主張をし,これに沿う供述をする(甲24,26,原告本人)

確かに,本件当日の本件サイドプレートの箱詰め量は,作業日報上,平成21年5月15日と比較して多かったが(乙10の1)
,プレス停
止時間が正確に記載されていない可能性も否定できないところであり(証人f)
,本件当日の本件サイドプレートのサイクルタイムや作業時
間からみて,本件サイドプレートの箱詰め量が不相当に多いわけではなく(甲8・56頁,証人f)
,他の日に本件当日と同程度ないし同程度
以上の量の本件サイドプレートを加工製造したこともあるから(甲8・64頁から97頁まで)
,本件当日に加工製造された本件サイドプレー
トの数が通常に比して特に多かったり,本件当日に何らかの異常が生じたりしたとは認められない。また,フラックス塗布不良の発生個数についても,それに関するf及びcの証言(証人f,同c)は作業日報の記載や日常的に発生しているフラックス塗布不良の個数と整合的であるところ(甲8・56頁,証人f,同c,原告本人)
,他の製品のプレス加
工も同じプレスラインで行っていることから,フラックス塗布不良の発生頻度が本件サイドプレートのみ特に高かったとは考え難く,むしろ,3号プレスラインの不調の状況に大きな変動がなければ,本件当日に本件サイドプレートのサイクルタイムを前日よりも下げたことからフラックス塗布不良が生じる可能性が低減することになるし,原告も不良の発生個数を具体的に供述するわけではなく(原告本人)
,他に客観的に本
件当日の作業量や作業速度,具体的な不良の個数を示す証拠もない。したがって,本件サイドプレートの取上作業の作業量や作業速度,フラックス塗布不良の個数については,前記1(4)のとおりであったと認められるから,本件サイドプレートの取上作業の負荷が,前日までと比べて増大したとは認められない。
(ウ)

また,本件当日の本件サイドプレートの移動作業についても,C-
4箱をC-3箱で代用するのは初めてであり,箱の変更により本件サイドプレートの移動作業において取り扱う重量が約7.3キログラムから約14.5ないし14.6キログラムと2倍程度に増加したが,移動作業の頻度は約1分46秒に1回程度から約4分17秒に1回程度と半分程度に減少したものであり,それまでも14キログラム台の重量のある箱の移動作業を日常的に行っていたことからすれば,直ちに業務負荷が大きくなったものとは認められない。

被告が策定した安全衛生基準との関係について
原告は,被告が策定した安全衛生基準において,本件サイドプレートの移動作業において取り扱う箱の重量は10キログラム以下に制限される旨を指摘する。
確かに,被告の策定した安全衛生基準が,法令よりも厳しい被告社内の安全衛生の指針を策定したもので,その内容や根拠に合理性が認められる場合には,被告とその労働者との間の雇用関係における安全配慮義務の内容を検討する際に参考になるものと考えられるが,そもそも原告が指摘するDAS700000作業共通安全衛生環境基準(乙5)7.21項,それを受けたDAS733001重量物手扱い作業基準(乙6)5項,DAS790313上肢作業管理基準(乙4)5.4項は,その規定上,本件サイドプレートの移動作業に適用されるとは解されない。したがって,本件サイドプレートの移動作業において,取扱重量が10キログラムに制限されているとは解されず,被告が策定した安全衛生基準を被告が負うべき安全配慮義務の根拠とすることはできない。


上肢作業と運動機能障害との関係について
そもそも,運動機能障害は,特定の業務に関連して特異的に発症するものではなく,加齢や日常生活によっても普遍的に発症し得る日常的に発症頻度の高い非特異的なものであり,労働条件や労働環境以外にも,身長,体重,運動習慣,生活習慣,素因・基礎疾患・既存疾病,加齢による退行性変性等の様々な要因が影響するものであり,どのような作業をどの程度行えば,運動機能障害が発生するかについての定量的な見積もりは困難である(乙2,3,12,証人j)
。特に,肩関節周囲炎は,加齢による退
行性変性を基盤とし,40歳代から60歳代に好発するとされており(甲2・12頁,13頁)
,本件における安全配慮義務の判断に当たり,これ
らに留意する必要がある。

原告の主張する安全配慮義務及び同義務の違反の検討
以上からすれば,本件サイドプレートの取出作業の負荷自体を過重なものと評価することはできず,本件サイドプレートの取出作業において,C-3箱をC-4箱に代用すること自体により,業務負荷が大きくなるとは考えられないところであり,○号工場及び○号工場で原告と同様の作業に従事していた作業員で,肩に疼痛を訴えた者はいなかったこと(前記1(7))も考慮すると,被告において,原告に本件当日の本件キャップの取出作業や本件当日より以前の業務により疲労が蓄積しており,C-3箱の代用により身体的に障害が生じる危険性が高くなると判断できるような状況にあったとは認められない。したがって,円滑な業務遂行の観点から,事前に,見込まれる本件サイドプレートの加工製造個数を踏まえてC-4箱の確保を含む必要な準備を整えることは業務遂行上望ましいとはいえるものの,法的な義務として,C-4箱を十分に準備しておくべき義務を認める前提を欠くというべきであるから,被告において,原告が主張する安全配慮義務を負うと認めることはできず,同義務の違反があったと認めることもできない。


補足的検討
(ア)

j医師作成の意見書について
原告は,主として本件傷害の業務起因性(相当因果関係)に関し,j
医師の意見書を提出するが(甲9,11,17)
,j医師が意見書の作
成に当たって参照した資料は限定されており,前提とした事実関係についての認識や業務負荷の評価において重視する部分が,以上で述べた内容とは異なっていると解される上,j医師自身も,原告が従事していた取出作業の意義ないし必要性を否定するものではなく,原告を診察した産業医の対応や被告における従業員の健康管理に問題意識の主眼があると考えられるから(証人j)
,上記判断を左右するものではない。
(イ)

被告作成資料等について
被告が作成した「kさんの確認事項(事実検証結果)
」と題する資料

(甲8・57頁)には,本件サイドプレートの取出作業に関する改善方策が提示され,その後実際に実行に移されたものもあることが認められるが(証人f)
,この資料は原告が指摘した問題点に対する回答を記載
した書面にとどまり,被告の法的責任を認める趣旨のものではないと解されるから,それを根拠に原告の主張する被告の安全配慮義務及びその違反を認めることはできない。
(2)

本件サイドプレートの取出作業にC-3箱を使用する場合に,手伝い人
員を配置したり作業ペースを落としたりする義務,及び,本件サイドプレートの取出作業において,全体としての作業負荷が適切になるよう調整する義務について

上記(1)で述べたとおり,本件サイドプレートの取出作業の負荷自体を過重なものと評価することはできず,本件サイドプレートの移動作業において,C-3箱をC-4箱に代用することにより,業務負荷が大きくなるとは考えられないから,被告において,原告に本件当日の本件キャップの取出作業や本件当日より以前の業務により疲労が蓄積しており,C-3箱の代用により身体的に障害が生じる危険性が高くなると判断できるような状況にあったとは認められない。特に,本件当日は,前日までの不良の状況を見て,本件サイドプレートのサイクルタイムが前日より下げられており,前日までと比べ,本件サイドプレートの取上作業の作業量や作業速度が増加したり,フラックス塗布不良の個数が増加したりして,負荷が増大したとは認められないところである。

この点,原告は,cに対し,手助けを依頼したが,cがこれに応じなかったことを主張し,それに沿う供述をしたり書証を提出したりしているところ(甲22,24,26,原告本人)
,確かに,原告とcとの関係が芳
しくないことから(前記第2の1(4),甲8・57頁)
,本件当日以前も含
め,原告がcに対して何らかの不満を述べ,両者間で何らかの意思疎通の齟齬があった可能性自体は否定できない。しかしながら,上記のとおり,本件当日に,前日までと比べ,本件サイドプレートの取上作業の作業量や作業速度が増加したり,フラックス塗布不良の個数が増加したりして,負荷が増大したとは認められないことに照らすと,原告が手助けを求め,cがその手助けを行うべき客観的状況にあったとは考えられず,本件証拠上,原告が主張するような事実があったとは認められない。


そうすると,原告の主張する安全配慮義務を認める前提となる事実が認められないというべきであるから,本件サイドプレートの取出作業にC-3箱を使用する場合に,被告において,手伝い人員を配置したり作業ペースを落としたりする法的な義務や,本件サイドプレートの取出作業において,コンベアのスピードを更に落とすなどして,全体としての作業負荷が適切になるよう調整する法的な義務があったと認めることはできず,被告にそれらの義務の違反があったと認めることもできない(仮に,原告がcに手助けを依頼した事実があったとしても,被告に原告が主張するような法的な義務を認めることはできない。。


(3)

原告が右肩関節痛を訴えた時点で,以後の作業を休ませる義務について本件当日に原告が右肩関節痛を訴えた以降の事実経過は,前記第2の1(4)のとおりであったと認められ,原告が被告b製作所内にある被告e診療所を受診したところ,軽い筋肉痛と診断され,湿布と塗り薬を処方されたが,業務上の措置については特に指示はなかったこと,原告が,被告e診療所から戻った後,d班長に対し,業務に就けると答えたこと,d班長が,本件当日午後及びその翌日,原告の肩関節痛の訴えを考慮し,肩に負担をかけないカップサブ組付作業に従事させたことが認められる。

この点,原告は,被告が,本件当日の午後の作業を休ませる対応をとるべき義務があったと主張し,確かに,被告としては,原告の訴えの内容に応じて医師の診察を受けさせた上,その診断内容を踏まえてその後の業務に関する配慮を検討すべき義務があったというべきである。
しかしながら,d班長は,被告e診療所の担当医師の判断及びd班長に対する原告の回答を踏まえて本件当日午後以降の原告の担当作業を判断したところ,被告e診療所の担当医師の判断は,同年6月1日時点のgクリニックの診断が,肩関節可動域にもレントゲン写真にも問題がなく,同日から1日間の安静加療を要するとの診断にとどまっていること(前記1(6))に照らし,やむを得ないと考えられるし,d班長に対する原告の回答も,被告e診療所の担当医師の判断と齟齬するようなものではなかったものである。そうすると,d班長において,原告の右肩関節痛の訴えを受けて,医師の判断を疑い,予後の悪化を防止すべく,本件当日の以後の業務を中止させる対応をとることまで求めることは難しかったというべきである。


したがって,被告において,本件当日の午後の作業を休ませる対応をとるべき義務があったとまでは認められず,原告に被告e診療所を受診させた上,本件当日午後及びその翌日の業務を肩に負担をかけないカップサブ組付作業に変更したことから,求められる安全配慮義務に違反したと認めることもできない。

3
まとめ
以上のとおりであるから,被告に原告の主張する安全配慮義務やその違反があったと認めることはできないから,その余の点を判断するまでもなく,原告の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない。なお,被告は,平成28年1月14日付けの原告の陳述書(甲26)について,時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を申し立てているが,同陳述書は,原告ら代理人による主張とは別に,原告本人の意見及び心情をまとめたものということであり,その内容を検討しても,本件「訴訟の完結を遅延させることとなる」
(民事訴訟法157条1項)とは認められないから,被
告の同申立てには理由がない。
第4

結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第1部

裁判官岡大地
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