判例検索β > 平成28年(う)第525号
殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号平成28(う)525
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日平成29年7月10日
法廷名福岡高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名福岡地方裁判所
原審事件番号平成27(わ)528
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平成29年7月10日福岡高等裁判所第3刑事部判決
平成28年(う)第525号殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件主文
本件各控訴をいずれも棄却する
被告人Aに対し,当審における未決勾留日数中180日を原判決
の同被告人の刑に算入する。

第1
1由
事案の概要と裁判の経過等
本件は,暴力団組織の周辺における殺人事件(以下「本件射殺事

件」という。)について,その組長ないし幹部構成員であった被告人両名が,共謀共同正犯としての刑事責任を問われた事案である。なお,被告人両名は,銃砲刀剣類所持等取締法違反(本件射殺事件に際してのけん銃等所持。以下「本件所持事件」という。法令名は「銃刀法」と表記する。)でも併せて起訴されている。
2
前提として,以下の事実は当事者間に概ね争いがなく,証拠上も認
定できる。
関係者の地位等
本件射殺事件の発生当時における関係者らの地位は,以下のとおりである。
被告人Bは,暴力団四代目C会の下部組織たる暴力団二代目D組の組長であると同時に,C会の「風紀委員長」なる幹部の地位にもあった。被告人Aは,D組の組員であり,その若頭補佐であるEに次ぐ幹部の地位にあった。
F(本件射殺事件で殺害された者。以下「被害者」と記載。)は,D組の組員たる地位を退き,同組織の「相談役」と呼ばれる地位にあった。なお,同人は,D組の前身(初代D組)には,被告人Bより上位の組員として所属していた。
G(分離前の相被告人)は,C会の下部組織たる暴力団H組の若頭の地位にあった。なお,同人は,かつてD組の若頭として被告人Bの配下で活動していた。
Mは,H組の幹部の地位にあった。
Jは,H組の若中として,G,Mの配下で活動していた。
本件射殺事件の発生
被害者は,平成20年9月10日(以下,断らない限り日付は同年中のもの。)午前2時50分頃,福岡県中間市所在の自宅で射殺された。3
原判決は,本件射殺事件の実行犯をEと認定した上,被告人両名

が,E,G及びJと共謀して本件射殺事件と本件所持事件に及んだものと認め,被告人Bを無期懲役に,被告人Aを懲役15年に処した。
第2
1
各控訴の趣意
被告人Bについて

控訴の趣意は,弁護人岡田基志(主任),吉田雄策,真尾亮及び疋田展大作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用する。論旨は事実誤認の主張である(主任弁護人は,同書面における主張は事実誤認に尽きる旨を釈明した。)。要旨は,①被告人Bには被害者を殺害する動機がない,②原判決が被告人Bを有罪とする主要な根拠としたGの供述には信用性がない,③暴力団組織が常に銃を使用するわけではないから銃刀法違反も成立しないなどと指摘するもので,結論として,被告人Bを両事件について有罪とした原判決には判決に影響を及ぼす事実誤認がある,というのである。
2
被告人Aについて

控訴の趣意は,弁護人疋田展大(主任)及び岡田基志作成の控訴趣意書,主任弁護人疋田作成の控訴趣意書補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用する。
論旨は事実誤認(ひいては法令適用の誤り)及び量刑不当である。事実誤認等をいう主張の要旨は,④各関係者の供述には信用性がなく,原判決が共犯性を認める根拠として挙げた事実関係は存在しない,⑤原判決の事実認定を前提にしても法的評価として正犯と認めることはできず,銃刀法違反も成立しないなどと指摘するもので,被告人Aは無罪であり,少なくとも共同正犯までは成立しないから,被告人Aを両事件について共同正犯と認定した原判決には,判決に影響を及ぼす事実誤認等がある,というものである。また,量刑不当をいう主張は,要するに,⑥被告人Aを懲役15年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である,というものである。第3
1
当裁判所の判断



被告人Bについて

Gは,被告人両名との分離後の自身の公判廷において,本件射殺事
件等に関与した経緯を被告人として供述した。そのうち被告人Bに関する部分の概要は,7月末から8月頃被告人Bから被害者の殺害を指示され,Mらに実行を命じた,8月中旬には被告人Bから月内の遂行を催促された,同月20日頃,被告人Bから,いわゆる飛ばし携帯で結果を報告するよう言われた,9月10日午前3時頃,Eから被害者殺害の連絡を受けるとすぐ被告人Bに電話して,被害者の殺害を実行したという意味で「明日ゴルフ行けます。」などと伝えた,というものである。
原判決は,この供述(証拠の方式としては裁判官調書謄本。以下「G供述」という。)が,JやMらの供述と合致し,通話記録等とも整合する上に,Gが被告人Bに責任を転嫁する理由もないとして信用性を認め,これを主たる根拠に,被告人Bが本件射殺事件について共犯者らと共謀していたことを認定した。また,被告人BないしC会の活動状況等を考慮すれば,被害者を殺害する手段として銃器の使用も想定していたとし,本件所持事件に関する共謀も併せて認定している。
この説示ないし認定に論理則・経験則等に照らして不合理な点はなく,原判決に事実誤認は認められない。以下,所論に対する説明を示す。2
所論①(被告人Bには殺害の動機がないとの主張)について
弁護人は,殺人罪で処罰するときには動機の明示が必要であるとか,動機を特定できない場合は殺人を指示した者も特定できないという前提に立ちつつ,原判決は,被害者を殺害する詳細な動機を解明せずに被告人Bが本件射殺事件を指示したと認定した点で事実誤認がある旨を主張するようである。しかし,動機の特定は犯罪事実の立証に際して不可欠ではなく,処罰要件でもないから,所論は独自の論理に拠るものといわざるを得ず,前提において採用できない。
また,弁護人は,被告人Bには被害者を殺害すべき動機がなく,むしろGにこれが認められるとも主張する。しかし,原判決は,殺害の動機に着目して被告人Bの指示を認定したものではないし,G及び被告人Bは本件射殺事件の共謀共同正犯として起訴されているのであり,論理上その一方のみが犯人になるという択一的な関係にあるわけでもない。結局,いずれに強い動機があるかという問題を独立して論じる意義は乏しく,所論①は採用できない。
3
所論②(G供述に信用性がないとの主張)について
弁護人は,G供述に信用性がないと解すべき主な根拠として以下の点を挙げる。即ち,Ⅰ:G供述では被害者との関係が円満であったというが,自身や共犯者の供述と矛盾する,Ⅱ:Gは,事件後,本件射殺事件の実行役であるEとJに多額の金品を供与したのであるが,単に殺害を指示された立場に留まるのであればこのような支出をすることなどあり得ない,Ⅲ:被告人Bから指示された内容やその状況が不明確で迫真性に乏しい,Ⅳ:本件射殺事件はGが主体的に実行したもので,Gはその責任を被告人Bに転嫁せんとしている,などというのである。
まず上記Ⅰの点についてみると,Gと被害者との関係に関し,G供述の中で相互に矛盾する箇所は見出せない。また,所論は,Gが被害者からの襲撃に警戒していたとするM及びJの供述があり,これとG供述が齟齬するというのであるが,G供述のうち,被害者との間に対立がなかったとする部分は本件以前の来歴を述べたものであるのに対して,Mらの当該供述は,被害者を殺害する話が持ち上がり,Gが被害者と被告人Bの仲裁に失敗するなど事態が緊迫した後の経緯に関するものであるから,そこに矛盾があるとはいえない。
次に上記Ⅱの点をみると,Gが,Jに対し,本件射殺事件直後に旅行費用を提供したほか,同人が一審で無罪判決を受けた後には現金300万円を渡したこと,Eに対しても有罪判決の確定後に多額の現金を渡したことは認められる。しかし,Gにとって,JはH組の配下,Eは系列組織の組員であるところ,Jは自身の指示で被害者の殺害を手伝わせ,EはJと協力して殺害を遂げた立場にあるのであるから,報酬や多大なリスクを冒させたことへの代償等の趣旨で両名に金銭を提供したとみて少しも不自然ではなく,このことは,Gが被告人Bから殺害を指示された立場にあったとしても変わらない。
また,上記Ⅲの点につき,所論は,被告人Bによる指示の文言,それをGが聞いた日時・場所等が不明確であるという。たしかに,G供述は,最初の指示があった時期を「平成20年7月末か8月の初め」とし,その場所は明確に説明せず,内容についても実際の文言を具体的に再現しているわけではない。しかし,これは本件射殺事件発生から7年以上を経過した時点での供述であるから,会話の日付や個々の語句まで特定できなくとも別段問題とはいえず,この点が,被告人Bから殺害の指示を受けたとする核心部分の信用性に影響するとは考えられない。
そして上記Ⅳの点については,一般論としていわゆる引き込みの危険があること自体は否定できず,その意味で慎重な検討を要するというべきであるが,本件では,Gが被告人Bの関与を述べることによる利益と不利益の程度等に照らし,その危険性が大きいとはいえない。即ち,Gは,配下であるM及びJに繰り返し殺害を指示したことを自認しており,被告人Bの関与を述べても刑罰を免れたり大幅な酌量を期待できる状況にはない。他方,被告人BはC会の幹部であって,その配下にあったGが虚偽の供述により被告人Bを罪に陥れることには極めて大きな危険があることが明らかである。そもそも,所論は,H組若頭に過ぎないGが,D組組長にしてC会幹部の被告人Bから了解を得ず,D組幹部のEに指示をして同組相談役の被害者を殺害させ,その責任を被告人Bに被せているという主張であるが,各関係者の立場等に照らせば,Gがかかる指示を出し,なおかつEがこれに応じるというのは到底考え難いところである。
所論は,更に,Gが自身の公判廷では上記の説明をしながら,被告人B及びAの裁判に証人として参加したときには実質的に証言を拒否したことを論難する。しかしながら,被告人Bの地位やGとの人的関係に照らせば,Gが,被告人Bの裁判では,心情的に処罰に直結する証言ができなかったとみても不自然ではないから,この証言拒絶がG供述の信用性を減殺するとみることはできない。
この他弁護人の指摘する諸点を逐一勘案しても,G供述のうち,被告人Bの関与をいう中核的な部分の信用性に疑問はなく,所論②は採用できない。
4
所論③(被告人Bには本件所持事件につき共謀も故意もないとの主
張)について
G供述によっても,被告人Bから,被害者の殺害に銃器を使うよう直接的な指示があったとは認められない。しかし,暴力団構成員による暴力事犯に際してはしばしば銃器が使用されるところ,被告人Bの所属するC会においては,この傾向が一層顕著に認められる。また,Gは,M及びJにけん銃の使用を指示しているが,被告人Bの意思に反してこのような指示をする理由はなく,この他,特に銃器を使用しないように被告人Bが求めたことを示す事情は何ら窺われない。
そうすると,被告人Bは,被害者の殺害に銃器が使用される可能性を当然想定していたというべきであるから,本件所持事件についての故意と共謀も認められる。
弁護人は暴力団組織が必ず銃器を使用するわけではないというが,上記のとおり,その現実的な可能性を認識していれば,少なくとも未必的な故意は認められるから,所論は採用できない。
5
この他に所論の主張する点につき逐一検討しても,原判決の認定に
不合理な点はなく,原判決に所論のいうような事実の誤認はない。以上によれば,被告人Bの論旨には理由がない。
第4
1
当裁判所の判断



被告人Aについて

まず原判決の構造を確認する。原判決は,被告人Aにつき,ア:被
害者を殺害する計画の進捗状況を把握していたこと,イ:本件射殺事件の直前,実行犯のEと頻繁に連絡を取り,被害者を捜して,その動向をEに報告していたことという事実関係を認定した上,これによれば,被告人Aは本件射殺事件等について共謀を遂げていたものと推認でき,かつ,正犯と評価できるとの結論に至っている。所論には,原判決が上記アの事実のみを以て共謀ないし正犯性を認定したかのように批判する部分があるが,かかる指摘は原判決の趣旨を正解していない。
そして,証拠との対応関係をみると,原判決は,上記アの事実を専らMの公判供述によって,上記イの事実をJの公判供述とKの捜査段階供述によってそれぞれ認定したところ,所論④は,この3点の供述証拠には信用性がなく,上記アイの各事実はいずれも認められない,というのである。そこで検討したが,原判決の説示には一部に誤りがあるものの,実質的な内容において不合理な点はなく,上記アイの各事実を認めた点に誤認があるとはいえない。所論を踏まえて説明する。
2
上記アの事実について

Mによる公判供述中,被告人Aに関する部分の概要は以下のとおりであった。即ち,Gから被害者の殺害を指示されるも進展がないので,8月上旬頃,被告人Aに,被害者の件で何か聞いたことがあるか尋ねたところ,御大(事件前に死亡したC会総裁Lのこと)の四十九日まで待つのではないかと言われた,その後,Gから殺害を一時待つよう指示され,同月下旬頃,被告人Aにその理由を尋ねたところ,被告人Bが被害者に300万円を渡して両者間の問題を決着させようとしており,被害者がこれを受け取れば殺害の話はなくなるが拒否すればこれを実行する,もしH組でできなければD組で実行するとの由であった,9月上旬頃,再度被告人Aに計画の進捗状況を尋ねたところ,もう二,三日で終わるのではないかという見通しを言われた,というものである。
原判決は,Mによる供述の全体的評価として,内容が具体的で迫真性を備えていること,通話履歴等の客観的な証拠と合致すること等から信用できるとした上で,被告人Aに関する部分についても,これと同じ指摘が妥当し,かつ,虚偽供述をして同人を罪に陥れる動機もないと述べて,信用性があると説示した。この判断は,結論において支持することができる。弁護人は,Mの供述が信用できない根拠として,Ⅰ:その内容に具体性がない,Ⅱ:被告人AとMは,当時,借金の返済に関する相談をしていたのであるから,両者間に通話履歴があることは殺害の謀議をした裏付けにならない,Ⅲ:原判決は8月27日に両者間の通話履歴があるとしているところ,かかる記録は存在しない,Ⅳ:被告人Bが被害者と交渉したという,供述の根幹部分に対応する証拠がない,Ⅴ:Mは殺人予備罪に問われかねない状況にあり,自らの処罰を免れるべく捜査機関の意向に沿う供述をした可能性がある,などというのである。
このうちⅠは結局評価の問題であるが,上記の供述は,要するに,計画の実行を巡りその時々の事情が考慮されていると聞いたとの内容であって,これが具体的であるとして信用性を肯定する方向の一要素とした原判決の捉え方が誤っているとはいえない。
また,原判決は,被告人AとMとの通話記録それ自体が殺害に関する共謀を裏付ける根拠になるとしているわけではなく,飽くまでもM供述の信用性を担保する事情として,その証言内容が被告人A含む関係者との通話記録と合致する旨を述べているのであるから,上記Ⅱの指摘は当を得ていない。
一方,上記Ⅲの指摘は正当なものであって,証拠上,8月27日にMと被告人Aの間の通話履歴は見当たらないから,これがあるとした原判決の記述は誤りというほかない。しかし,Mは8月下旬頃にE,被告人Aと順次電話をした旨説明するところ(原審尋問調書32頁),8月26日午後8時24分にはEとの,同日午後8時45分には被告人Aの通話履歴がそれぞれ確認できるから(原審甲92号証の整理番号6973番,6978番),結局その供述内容と通話履歴が整合するという見方が誤っていることにはならない。
上記Ⅳの指摘は,被告人Bが被害者に現金300万円を提供するという経緯を「供述の根幹部分」とするのであるが,ここでの検討課題は,被告人Aが計画の進捗状況を把握していたことを示すM供述の信憑性である。即ち,被告人AがMに計画を認識していることを前提にした発言をしたか否かが肝要なのであって,被告人Bによる金銭提供の有無自体は本質的な問題とはいえない。また,物事の性質上,その点に関する客観的な証拠がないことも別段不自然ではない。
最後に上記Ⅴの主張をみると,Mも本件射殺事件に一定の関与をしていた以上,所論のいう懸念が絶無とはいえないが,仮に処罰を免れるべく捜査機関に迎合して被告人Aを誣告するとすれば,敢えて自身と結びつけた内容を選ぶとは考え難い。被告人Aは本件射殺事件の実行犯たるEと近い関係にあり,その被告人Aに計画の進捗状況を幾度も確認したと自認することは,却って自らの処罰を招きかねないからである。更に,被告人Aは,平成27年に逮捕された当時,D組若頭補佐,C会常任理事の地位にあり,殊更に虚偽の供述をして陥れる危険にも大きなものがあることは被告人Bの場合と同様である。
他に弁護人の指摘する諸点を勘案しても,原判決が上記アの事実を認定した点に合理的な疑問を容れる余地はない。
3
上記イの事実について

本件射殺事件に際して実行犯のEに同行していたJは,事件前日の9月9日から当日午前0時頃にかけてEが何回も電話をし,お互いに被害者を捜す前提で話をしていたこと,その相手からの情報を得て,北九州市aの繁華街,被害者の自宅へと,順次移動したこと等を証言した。当時Eが使用していたと認められる携帯電話と被告人Aの携帯電話の間では,この9日午後7時40分頃から10日午前0時20分頃にかけて,19回の通話履歴がある。また,被告人Aの知人であるKは,検察官調書(原審甲12:以下「K調書」という。)において,9日夜にaで被告人Aと合流し,その指示に従って繁華街の中を車で移動した,途中で3回ほど車を降りて電話をしたりしており,誰かを捜しているのかと思った,事件後,被告人Aに何かあったのか尋ねたところ,怒ったような顔つきで「お前知らん方がいいんやねえんか」などと鋭く言われた旨を供述した。
原判決は以上を総合して,被告人Aが,本件射殺事件の直前,実行犯のEと頻繁に連絡を取り,被害者を捜して動向をEに報告していたことを認定したのであるが,この判断は正当として支持できる。
弁護人は,Ⅵ:Jは本件射殺事件に関する自身の刑事裁判で無罪となった後に上記の供述をしたもので,視認できないはずの被害者の車両が見えたという調書を作成するなど捜査機関への迎合を窺わせる点もあるから,その証言は信用できない,Ⅶ:被告人Aは予てからEと頻繁に通話をしていたから,通話履歴は被害者を捜していたことを意味するものではない,Ⅷ:被告人Aが,いわゆる飛ばしではなく自分名義の携帯電話を使用していたことこそ,本件射殺事件に関与していないことを示している,Ⅸ:K調書は警察官による脅迫の影響下で作成されたもので信用性がない,などと主張する。
そこで順番にみると,Jには所論Ⅵ指摘の経緯がある上に,本件射殺事件への関与を認めた後も供述を小出しにしていた部分があり,その証言の信用性は慎重に判断する必要がある。しかし,Eが9月9日夜にa周辺に行き,電話で頻繁に連絡を取っていたことは,携帯電話の位置情報や通話履歴等の客観的な証拠と合致している。また,事件前日からEに同行し,他の関係者とも連絡しつつ被害者を捜し回ったというのは,殺害計画を遂行する意思の強さを示す不利益な事情であり,敢えて虚偽を述べる必然性はないし,捜査機関に迎合したのであれば,より端的に被告人Aの関与を述べてもよいところ,実際の内容は上記の程度に留まり,他の証拠と組み合わせないと意味をなさないものとなっている。さらに,Jがaで被害者の車両を現認したとの調書が作成された経緯はあるも,後に訂正されており,この点が証言の信用性をさして毀損するともいえない。そうすると,所論の指摘を踏まえてみても,J証言のうち先に挙示した点については,その信用性に問題はないというべきである。
次いでⅦの点であるが,原判決は上記の通話履歴自体から会話の内容を認定しているわけでは勿論なく,それをJによる証言の裏付けと位置付けているのである。被告人AとEの間では,事件前日から当日にかけて多数回の通話があり,殺害直前の5回はEが飛ばしの携帯に切り替えていたところ,そのうち9月10日午前0時15分頃からのものは,被告人AからEの使用する携帯電話にかけられており,通話時間は3分27秒に及んでいる。他方,Jは,事件前夜からEと被害者の所在を探し回った際,Eが頻繁に電話をしていたこと,Eは,10日午前0時17分頃自宅マンションに出入りした際も電話をしており,その相手から被害者の所在を聞いたようで,急いで被害者宅に向かってくれと言われたこと等を証言したのであるが,上記の通話履歴は,かかる証言の内容と極めてよく整合する。そうすると,この点に関する原判決の評価に誤りがあるとはいえない。Ⅷの指摘は,殺人等の犯罪に関与する者が自己名義の携帯電話を使用することはないという前提によるものであるが,本件射殺事件の実行犯たるEが犯行前後に自己名義の携帯電話を併用していることからも明らかなように,そうした経験則は認められないというほかない。
最後にⅨの点についてみる。前提として,K調書それ自体の信用性には特段の問題がない。録取時期が大きく離れていないことに加え,供述の内容は,本件射殺事件の報道を確認して被告人Aの関与が分かった,手伝った自分まで共犯として疑われないか不安になったなどと具体的なもので,問題の日付を特定できる理由についても,殺害事件の前夜として明確に記憶に残っていたという納得できる説明がなされているからである。他方,Kは,公判廷において9月9日晩の行動は覚えていない旨証言し,K調書は,その前段階の取調べで警察官から脅された影響で作成してしまったなどと説明しており,弁護人もこれに沿う主張をする。しかし,Kは被告人Aのためみかじめ料を集金する立場にあり,本件射殺事件後も密接な関係を続けていた上に,先の証言に際しては,警察が自分や家族をC会の報復から完全に守ってくれるか不安があるとも吐露しており,被告人Aの公判で同人に不利益な証言をするには強い抵抗があったものと窺われる。また,その証言内容も,9日晩の行動は全てにおいて普段どおりであったのにK調書では特別な人捜しと決めつけられたとする一方で,普段は人を捜すため長時間aを回ることはないなどと,調書が示唆する特異性(いつまでも帰してくれずに痺れを切らした,ようやく解放してくれたのは10日午前0時過ぎか午前1時前と思うとの記載がある。)を肯定するかのような部分もあり,統一的に理解することが難しい。結局,Kの公判供述は全体として信用できず,これによってK調書の信用性が揺らぐことはないというべきである。
弁護人は,9月9日に被告人AとKが連絡をとった時刻には被害者がaにいなかったから,被告人Aが被害者を捜すためにKを呼んだとは考えられないなどというが,或る者を捜すこととその者がいなかったことは何ら矛盾しないから,所論は採用できない。
この他に弁護人の指摘する諸点を勘案しても,原判決が上記イの事実を認定した点に合理的な疑問を容れる余地は見出せず,結局,所論④は採用できない。
4
所論⑤(被告人Aには本件所持事件につき共謀も故意も認められな
いとの主張)について
まず本件射殺事件に関する共犯としての責任について検討するに,被告人Aは,上記アイとして整理したとおり,被害者を殺害する計画が進行していることを把握しながら,その決行の直前,実行犯と頻繁に連絡を取り合いつつ被害者の居場所を捜してその動向を連絡し,現に実行犯が被害者を射殺したものであるから,Eら共犯者と意思を通じて重要な役割を果たしたものといえ,共同正犯としての責任を負うとみるべきで,これと同旨の原判決は相当である。
弁護人は,9月9日以前の日時において共謀が成立したとの証拠がないというが,原判決は上記イ,即ち9月9日から10日にかけての経緯も踏まえて被告人Aの共謀ないし正犯性を肯認したもので,所論は判旨と噛み合わない。
また,弁護人は,本件射殺事件は,被告人Aにとって「他人の犯罪」に過ぎず,関与してもせいぜい幇助犯が問題とされるに過ぎないとか,原判決の認定を前提としても被告人Aは突発的に関与させられたという評価しかできないとも主張する。
そこで検討すると,たしかに本件射殺事件について被告人Aに個人的な動機や利益があったことを示す証拠はないが,それだけで「他人の犯罪」として正犯性が否定されるわけではなく,共謀共同正犯と幇助の別は,犯行に際して担った行為の内容,実行行為者との関係,意思連絡の状況といった要素も勘案して総合的に判断されるべきものである。然るに被告人Aは,G及びEに被害者の殺害を指示した首謀者たる被告人B,実行犯たるEが所属するD組の幹部であるところ,上記アイのとおり,被害者を捜索しつつ,犯行の僅か2時間半前までEと頻繁に連絡をとり,被害者の動向をEに報告するなどしていたもので,暴力団の一員として組織的犯行の重要部分を担当し,被害者の殺害に大きく加功したといえるから,幇助犯に留まるとは到底いえず,共謀共同正犯の成立が認められる。そして,上記イ以外に被告人Aが本件射殺事件に向けた具体的な行動を取っていたと認めるに足る証拠はないものの,だからといって他の如何なる関与も一切していないということにはならず,単に不明であるに過ぎないのであるから,これを不利益な方向に考慮することは許容されないにせよ,被害者の殺害が実行に移されるまでに紆余曲折があった経緯等について知っていたことなどからすると,所論のように「突発的な関与」を前提とした評価を行う必然性は認められない。その他に所論の指摘する諸点を逐一検討しても,先の結論を揺るがす事情は見当たらない。
次いで本件所持事件についてみるに,この点に関しては,被告人Bに対すると同様の理由が妥当する。被告人Aは,C会という暴力団の一員としてその行動傾向を当然に承知していたところ,殺害の実行犯において銃器を使用しない旨確信して本件射殺事件に関与したことを窺わせる事情は何ら存しないから,本件所持事件についても共謀があったことを認定することができ,少なくとも,本件射殺事件でけん銃が使用されるかも知れないがそれでも構わないという未必の故意があったことも認められる。弁護人は,被告人Aの立場や暴力団周辺における銃器使用事犯の発生状況等を前提にしても,被告人Aが本件射殺事件で銃器が使用されると認識していたとの事実はかけらも見当たらないとして,原判決を感情的認定などと非難するのであるが,C会という暴力団組織の性質,未必的故意という法的概念のいずれか,若しくは両方について理解を誤った主張というほかない。
以上によれば,所論⑤も採用できない。
よって,事実誤認ないし法令適用の誤りをいう被告人Aの論旨には理由がない。
5
所論⑥(量刑不当の主張)について

論旨は,仮に被告人Aが有罪であったとしても,懲役15年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。
そこで検討すると,本件は,被告人Aら現役の暴力団構成員が,共謀の上,元組員の被害者を射殺し,その際,適合する実包と共にけん銃を所持した事案である。この犯行,殊に本件射殺事件の刑事責任が極めて重いものであることは事案の内容自体から明らかといえ,被告人Aは,その中で上記の重要な役割を果たした以上,相当長期の服役は免れない。他方,被告人Aは,被告人B,実行犯であるEよりも下位の立場にあり,その指示命令によって従属的な立場で関与したものとも考えられるところ,原判決はこのような事情も勘案した上で上記両名よりも格段に軽い刑を選択したもので,銃器が使用された暴力団抗争事件における殺人罪の量刑動向等を踏まえてみても,これが重過ぎて不当であるとはいえない。
所論は,原判決が被告人Aについて共犯者との共謀や正犯性を認定したことが誤りという前提に立ったものであるが,採り得ないこと叙上のとおりである。また,所論には,原判決の事実認定に拠っても刑が過重であるとの指摘もあるが,そこで挙げられている,暴力団組織における地位や関与の態様といった要素は,原判決が適切に斟酌したことが明らかである。すると,所論⑥も採用できず,量刑不当をいう被告人Aの論旨にも理由がない。
第5

結論

以上によれば,被告人両名の論旨には,いずれも理由がない。
なお,原判決の「証拠の標目」中,Kの検察官調書(甲12)については,その謄本の一部が証拠として取り調べられた上で抄本が提出されたものであるから,挙示の方法としては「抄本」でなく「謄本の一部」などとするのが正確であったが,この点は判決に影響しない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却することとし,被告人Aに対しては,当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。
平成29年7月10日
福岡高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

鈴木浩美
裁判官

岩田光
裁判官

岡田龍生太郎
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