判例検索β > 平成25年(行ウ)第414号
法人税更正処分取消請求事件
事件番号平成25(行ウ)414
事件名法人税更正処分取消請求事件
裁判年月日平成29年1月19日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 親会社がその企業グループの財務改善計画の一環として行った子会社の事業譲渡に伴って当該子会社に対して有する債権の全額を放棄した場合において,当該債権の額につき,法人税法22条3項3号所定の「当該事業年度の損失の額」に含まれる貸倒損失に該当するものとして損金の額に算入することはできないとされた事例
2 親会社がその企業グループの財務改善計画の一環として行った子会社の事業譲渡及び解散に伴って当該子会社に対して有する債権の全額を放棄した場合において,当該債権の額につき,法人税法37条1項所定の「寄附金の額」に該当しないものとして損金の額に算入することはできないとされた事例
裁判要旨1 親会社がその企業グループの財務改善計画の一環として行った子会社の事業譲渡に伴って当該子会社に対して有する債権の全額を放棄した場合において,当該子会社の資産状況や支払能力等,債権者らの当該子会社との企業グループ関係や債権回収に未着手の状況等,当該親会社の主要取引銀行による財務改善要請の内容等の経済的環境等に照らし,当該親会社が無条件に当該債権の放棄に係る損失を全額負担することに経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認められないという判示の事情の下では,当該債権の額につき,法人税法22条3項3号所定の「当該事業年度の損失の額」に含まれる貸倒損失に該当するものとして損金の額に算入することはできない。
2 親会社がその企業グループの財務改善計画の一環として行った子会社の事業譲渡及び解散に伴って当該子会社に対して有する債権の全額を放棄した場合において,当該子会社の資産状況や支払能力等,債権者らの当該子会社との企業グループ関係や債権回収に未着手の状況等,当該親会社の主要取引銀行による財務改善要請の内容等の経済的環境等に加え,当該親会社が当該事業譲渡の内容や条件について主体的かつ自由に判断できる立場にあったこと等に照らし,当該親会社による当該債権の放棄は経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いという判示の事情の下では,当該債権の額につき,法人税法37条1項所定の「寄附金の額」に該当しないものとして損金の額に算入することはできない。
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平成29年1月19日判決言渡
平成25年(行ウ)第414号

法人税更正処分取消請求事件

主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
青森税務署長が平成23年5月24日付けで原告に対してした平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス11億8294万6785円を超える部分及び翌期に繰り越す欠損金額11億8294万6785円を下回る部分を取り消す。
第2

事案の概要
本件は,原告が,原告の子会社である角弘三協サッシ株式会社(以下「角弘三協サッシ」という。)及び株式会社角弘スチール加工センター(以下「角弘スチール」といい,角弘三協サッシと併せて「本件子会社2社」という。)に対して有する債権の放棄(以下「本件債権放棄」という。)をし,その放棄された債権の額9億9479万5646円(以下「本件債権放棄額」という。)を損金の額に算入して平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税の確定申告をしたところ,青森税務署長(以下「処分行政庁」という。)から,本件債権放棄額は本件子会社2社に対する法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)37条の寄附金の額に該当するとして,法人税の更正処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告に対し,本件処分の一部(原告主張の所得金額を超える部分及び原告主張の繰越欠損金額を下回る部分)の取消しを求める事案である。

1
関係法令の定め等
(1)

法人税法
法人税法22条1項は,内国法人(国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう(同法2条3号)。以下同じ。)の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨を定めている。


法人税法22条3項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,次に掲げる額とする旨を定めている。
(ア)

当該事業年度の収益に係る売上原価,完成工事原価その他これらに
準ずる原価の額(1号)
(イ)

上記(ア)に掲げるもののほか,当該事業年度の販売費,一般管理費
その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(2号)
(ウ)

当該事業年度の損失の額で資本等取引(後記エ参照)以外の取引に
係るもの(3号)

法人税法22条4項は,上記イ(ア)ないし(ウ)に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨を定めている。


法人税法22条5項は,上記イ(ウ)の資本等取引とは,法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律115条1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)をいう旨を定めている。


法人税法37条1項は,内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(同条2項の規定の適用を受ける連結完全支配関係がある連結法人に対して支出した寄附金の額を除く。)の合計額のうち,その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は,当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨を定めている。

法人税法37条7項は,上記オの寄附金の額は,寄附金,拠出金,見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず,内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨を定めている。

(2)

法人税法施行令
法人税法施行令73条3項は,同条1項各号に規定する所得の金額は,内国法人が当該事業年度において支出した法人税法37条7項(寄附金の意義)に規定する寄附金の額の全額は損金の額に算入しないものとして計算するものとする旨を定めている。


法人税法施行令78条は,法人税法37条7項(寄附金の意義)に規定する寄附金の支出は,各事業年度の所得の金額の計算については,その支払がされるまでの間,なかったものとする旨を定めている。

(3)

法人税基本通達(昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規))
(以下「基本通達」という。)

9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)
基本通達9-4-1は,法人がその子会社等(当該法人と資本関係を有する者のほか,取引関係,人的関係,資金関係等において事業関連性を有する者を含む。以下同じ。)の解散,経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下,併せて「損失負担等」又は「債権放棄等」という。)をした場合において,その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは,その損失負担等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする旨を定めている。

9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)
基本通達9-4-2は,法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下,併せて「無利息貸付け等」又は「債権放棄等」という。)をした場合において,その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは,その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする旨を定めている。
なお,基本通達9-4-2は,上記の合理的な再建計画かどうかについては,支援額の合理性,支援者による再建管理の有無,支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について,個々の事例に応じ,総合的に判断するものとし,例えば,利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は,原則として合理的なものと取り扱う旨を注記している。


9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)基本通達9-6-1は,法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には,その金銭債権の額のうち下記に掲げる金額は,その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する旨を定めている。

(1)

更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において
(以下,更生計画及び再生計画を併せて「更生計画等」といい,更生計画認可及び再生計画認可を併せて「更生計画認可等」という。),これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2)

特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において(以下,こ
の協定を「特別清算協定」といい,この認可を「特別清算協定認可」という。),この決定により切り捨てられることとなった部分の金額(3)

法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げ
るものにより切り捨てられることとなった部分の金額

債権者集会の協議決定で合理的な基準により債権者の負債整理を定めているもの


行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4)

債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その金銭債権の弁済を
受けることができないと認められる場合において,その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者等
原告は,建設関連資材卸及び石油燃料販売等を業とする法人であり,原告
の子会社等合計12社との間で企業グループ(以下「角弘グループ」という。)を形成していた。
本件子会社2社及び角弘エスアンドエー株式会社(平成21年2月25日の変更前の商号は東北ホームイング株式会社。以下,商号変更の前後を問わず「エスアンドエー」という。)は,いずれも原告の子会社であり,株式会社青森サンキョウ(以下「青森サンキョウ」という。)も,同年10月31日に解散して平成22年2月15日に清算を結了するまでは原告の子会社として事業を行っていた。
原告の事業年度は,毎年4月1日から翌年3月31日までであり,本件子会社2社の事業年度は,毎年1月1日から同年12月31日までである(乙3,4,弁論の全趣旨)。
(2)

原告の財務改善計画書(第1案)の作成経緯
原告は,平成20年3月25日,経営コンサルタント会社である株式会社グラックス・アンド・アソシエイツ(以下「グラックス社」という。)との間で,角弘グループの財務調査業務,同グループの所有する不動産の評価業務及びこれらの調査結果を踏まえた同グループの財務改善計画書の作成業務を委託した(乙22,弁論の全趣旨)。


グラックス社は,原告に対し,平成20年7月30日付け角弘グループ財務改善計画書(第1案)(以下「本件計画書第1案」という。)を策定した。本件計画書第1案の内容は,おおむね以下のとおりである。(乙3)
(ア)

角弘スチールは,その営む事業を原告に譲渡し,その後,特別清算
をする。
(イ)

角弘スチールの事業譲渡及び特別清算により,角弘スチールは製造
機能に集中し,原告が営業機能を担当することによるシナジー効果の発揮及び税務メリット(事業税等の税負担の軽減並びに子会社の特別清算を通じた貸倒損失及び株式の評価減の損金処理)という効果が見込まれる。
(ウ)

財務改善策として,原告の自己資本の増強を図るため,原告が財務
体質の良好な子会社である株式会社ビジネスサービス(KBS)と合併する。
(3)

原告の財務改善計画書(第2案)の作成経緯

原告のメインバンクである株式会社青森銀行(以下「青森銀行」という。)は,本件計画書第1案を了承せず,平成20年8月22日,原告に対し,原告の回収不能な債権についての処理方法の明確化,角弘グループで行っている不採算事業からの撤退及び従業員のリストラを含む抜本的な収益改善策並びに青森銀行からの貸付金を10年程度で返済することを織り込んだ財務改善策を策定するよう要請した。なお,青森銀行は,同年9月8日,原告の当座貸越契約の一部を解除して手形貸付けに切り替えるとともに貸付利率を0.125パーセント引き上げることを決定した。(甲4,9,弁論の全趣旨)


原告とグラックス社は,上記アの要請を受けて,平成20年12月9日付け角弘グループ財務改善計画書(第2案)(以下「本件計画書第2案」という。)を策定した。本件計画書第2案の内容は,おおむね以下のとおりである。(乙4)
(ア)

本件子会社2社及び青森サンキョウ(以下「角弘子会社3社」とい
う。)が,その営む事業を原告に譲渡し,その後,それぞれ特別清算をする。
(イ)

角弘子会社3社の原告に対する事業譲渡により,原告の営業力をい
かした販売強化及び管理費用の圧縮ないし削減を通じて収益力の改善を図る。
角弘スチールについては特別清算による「負の遺産」の一括処理を行い,角弘三協サッシ及び青森サンキョウの営む事業については,上記事業譲渡によっても収益が改善しない場合には,同事業からの撤退を検討する。
(4)

角弘子会社3社の事業譲渡に係る経緯
青森銀行は,平成20年12月24日,本件計画書第2案につき,角弘グループ内の不採算事業からの撤退を再度求め,原告の債務超過の解消と有利子負債の圧縮の観点から角弘子会社3社の事業継続の必要性について再度検討した上で財務改善計画案を策定するよう要請した。これに対し,原告は,平成21年1月22日,青森銀行に対し,角弘子会社3社の事業譲渡先をエスアンドエーに変更した上で,角弘子会社3社を清算するとともに,原告が本件子会社2社に対して有する債権を放棄するという内容の計画案に変更したい旨の打診をした。青森銀行は,同年2月3日,原告に対し,角弘子会社3社の事業統合では現状と変わらず,財務改善の効果がない旨を指摘した。(甲4,弁論の全趣旨)

原告は,青森銀行からの上記アの指摘を受けた後も,角弘子会社3社の事業統合が必要であるとの方針を変更せず,以下のとおり,角弘子会社3社の事業譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)を実施した(甲4,弁論の全趣旨)。
(ア)

角弘子会社3社は,平成21年2月17日,エスアンドエーとの間
で,それぞれの事業の全部を同年3月31日付けでエスアンドエーに譲渡する旨の契約を締結した(乙6,14,20)。
(イ)

本件事業譲渡に係る譲渡すべき財産,譲渡の対価及び決済方法等の
項目については,譲渡契約締結後,別途協議の上で決定することとされ,平成21年4月24日には角弘スチールが,同年5月8日には角弘三協サッシが,それぞれエスアンドエーとの間で上記項目につき覚書を作成した。本件子会社2社の事業譲渡に係る譲渡の対価及び決済方法に関する覚書の内容は,以下のとおりである。(乙24,26)

角弘スチール分
事業譲渡の対価は8億1961万0659円(譲渡資産時価総額7億8530万0750円及びのれん3430万9909円の合計)とし,上記譲渡の対価の額は,エスアンドエーが角弘スチールから譲り受ける負債の金額と一致するため,角弘スチールとエスアンドエーの間における金銭の授受はないものとする。

角弘三協サッシ分
事業譲渡の対価は2億8619万5761円(譲渡資産時価総額
2億5873万6215円及びのれん2745万9546円の合計)とし,上記譲渡の対価の額に係る債務については,エスアンドエーが角弘三協サッシから譲り受ける負債とその対当額について相殺する。
(5)

原告の財務改善計画書(最終案)の作成経緯
原告は,本件事業譲渡の契約締結を受けて,角弘子会社3社の事業譲渡先をエスアンドエーとする財務改善計画書(最終案)を策定し,平成21年3月3日,青森銀行に対し,これを提示し,同月12日,同銀行の了承を得て,同月16日から同月26日にかけて,全ての取引金融機関に対し,上記の最終案の内容を説明し,了承を得た(甲4,弁論の全趣旨)。

原告は,上記アの最終案を基に,以下の内容の平成21年5月26日付け角弘グループ財務改善計画書(以下「本件計画書」といい,これに基づく角弘グループの財務改善計画を「本件計画」という。)を策定し,青森銀行にこれを提出し,同年8月24日に同銀行の同意を得た(甲4,乙23,弁論の全趣旨)。
(ア)

角弘子会社3社は,その営む事業を,原告ではなく,休眠中である
エスアンドエーに譲渡し,1社に集約(従業員の引受けを含む。)をすることにより,コストないし管理費用の削減及び収益管理の徹底ないし強化を行い,収益力の改善を図る(なお,角弘子会社3社の金融機関からの借入金については,エスアンドエーが全て承継する。)。角弘子会社3社については,本件事業譲渡後に特別清算をすることとし,これに伴い,原告は,本件子会社2社に対して有する不良債権を損失処理する。なお,エスアンドエーが承継した事業の収益が本件事業譲渡後も改善しない場合には,同事業からの撤退を検討する。
(イ)

本件事業譲渡及び特別清算の主なスケジュールについては,以下の
とおりとする(なお,上記スケジュールは,飽くまでも本件計画書の策定時における目安であり,実際の実施に当たっては若干異なることがあるとされている。)。

平成21年2月
角弘子会社3社につき,取締役会及び株主総会において本件事業譲渡の承認を得て事業譲渡契約を締結する(本件計画書上,実施済みとされている。)。


平成21年3月末
不動産及び動産の個別移転手続,債権譲渡及び債務引受の手続,従業員雇用契約の締結等(本件計画書上,実施済みとされている。)

平成21年4月1日
角弘子会社3社の事業譲渡の効力発生日


平成21年秋口
株主総会(解散決議)


平成22年3月末まで
角弘スチール及び青森サンキョウに係る特別清算の申立て


平成23年3月末まで
角弘三協サッシに係る特別清算の申立て

(ウ)

角弘子会社3社からエスアンドエーへの事業統合後は,製造会社の
集約による管理コストの削減等により5532万円の財務改善効果を見込むとともに,売上高の増加を目指し,償却前経常利益は,平成21年12月期(ただし,同年4月1日から同年12月31日までの9か月間)においては6700万円,平成22年12月期においては8500万円,その後の事業年度においては9400万円ないし9500万円の達成を目指すものとする。
(6)

本件子会社2社の解散及び特別清算


角弘スチールについて
(ア)

角弘スチールは,平成21年11月27日,臨時株主総会の決議に
より,同月30日をもって解散することとされた(乙28)。
(イ)

角弘スチールは,平成21年12月24日,青森地方裁判所に対し,
特別清算開始の申立てをし,同裁判所は,平成22年1月20日,角弘スチールにつき,特別清算の開始を決定した(甲23,乙13)。イ
角弘三協サッシについて
(ア)

角弘三協サッシは,平成21年10月23日,臨時株主総会の決議
により,同月31日をもって解散することとされた(乙29)。
(イ)

角弘三協サッシは,平成21年12月3日,仙台地方裁判所に対し,
特別清算開始の申立てをし,同裁判所は,同月17日,角弘三協サッシにつき,特別清算の開始を決定した(甲25,乙19)。
(7)

原告による本件子会社2社に対する貸付金等債権の放棄(本件債権放
棄)

原告は,平成22年2月10日,臨時取締役会の決議により,角弘三協サッシに対する貸付金等債権3億5155万3294円(短期貸付金9086万0520円,未収入金(土地売掛金)1億6619万2774円及び長期貸付金9450万円の合計額。なお,後記(9)のとおり,正確な合計額は3億5201万7720円であった。)及び角弘スチールに対する短期貸付金債権6億4277万7926円(以下,併せて「本件貸付金等債権」という。)の全額をそれぞれ放棄することを決定した(乙30,31)。


角弘三協サッシは,平成22年2月25日,上記アの債権放棄(角弘三協サッシ分)に係る契約を締結することにつき,仙台地方裁判所の許可を得た上で,同年3月1日,原告との間で,同契約を締結した(甲26,39,乙32)。

角弘スチールは,平成22年3月2日,上記アの債権放棄(角弘スチール分)に係る契約を締結することにつき,青森地方裁判所の許可を得た上で,同月3日,原告との間で,同契約を締結した(甲24,38,乙33)。

(8)

本件子会社2社の特別清算の終結
角弘スチールは,平成22年3月15日,青森地方裁判所から特別清算終結決定を受け,同年4月10日,同決定は確定した(甲4,乙7,弁論の全趣旨)。


角弘三協サッシは,平成22年3月11日,仙台地方裁判所から特別清算終結決定を受け,同年4月8日,同決定は確定した(甲4,乙15,弁論の全趣旨)。

(9)

本件処分等の経緯
本件処分等の経緯は,次に掲げるもののほか,別表1のとおりである。

原告は,平成22年3月31日,角弘三協サッシに対する貸付金及び土地売掛金に係る債権合計3億5201万7720円(上記(7)アの金額がこれと異なるのは,上記(7)アの臨時取締役会議事録及び同イの債権放棄契約書の各作成時における計算の誤りによるものであり,上記(7)アの未収入金(土地売掛金)1億6619万2774円の正確な額は1億6665万7200円である。)及び角弘スチールに対する貸付金債権6億4277万7926円の合計9億9479万5646円(本件債権放棄額)を「その他の特別損」勘定に損失として計上した(乙34,弁論の全趣旨)。

処分行政庁は,平成23年5月24日,原告に対し,本件子会社2社に対する債権放棄により計上した上記アの特別損失の合計額9億9479万5646円(本件債権放棄額)は本件子会社2社に対する経済的利益の供与として寄附金の額に該当するとして,更正処分(本件処分)をした(甲2)。

原告は,平成23年7月15日,国税不服審判所長に対し,本件処分の一部について審査請求をしたが,同所長は,平成25年3月25日,同審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲3,4,弁論の全趣旨)。

(10)

本件訴えの提起
原告は,平成25年7月5日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3
税額等に関する当事者の主張
被告が本件訴訟において主張する本件処分に係る課税の根拠及び計算は別紙2「課税の根拠及び計算」記載のとおりであるところ,原告は,後記4の争点に関する部分を除き,その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。

4
争点
本件の争点は,原告が本件債権放棄額を損金の額に算入すること(以下「損金算入」ともいう。)の可否であり,具体的な争点は,以下のとおりである。(1)
(2)

5
本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か
本件債権放棄額が寄附金の額に該当するか否か

争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か)について
(被告の主張の要旨)

基本通達9-6-1(2)(特別清算協定認可の決定に係る貸倒損失)について
(ア)

個別和解手続への適用の可否について
基本通達9-6-1は,所定の事由が発生した場合には,法人の有す
る金銭債権の額が消滅することとなるので,これらの金額をその事実発生の日の属する事業年度において損金の額に算入することとしたものであるところ,基本通達9-6-1(2)に特別清算協定認可の決定が掲げられているのは,裁判所の決定に至る過程において当事者間の公平が担保されていること(関係者集会や債権者集会が必ず開催され,複数の債権者等による合意等の形成が法律上予定されていること),私的自治が大幅に修正されていること(個別の当事者の意思にかかわらず権利が消滅すること等)に基づくものであり,個別和解による本件債権放棄は,上記の場面とは異質のものというほかない。
原告は,特別清算手続における裁判所の許可の下で行われる個別和解(会社法535条1項4号)についても基本通達9-6-1(2)が適用されるべきである旨主張するが,上記の個別和解については,飽くまでも協定の認可とは別個の手続であり,当事者間の公平を担保し又は私的自治を修正するための規定も見当たらないから,基本通達9-6-1(2)の趣旨に合致しない。特別清算手続が税務対策手段として一般的に利用されている実情があるとしても,特別清算手続を利用すれば,子会社の整理に関する親会社の負担額を無条件に損失に算入することができるわけではなく,基本通達等の要件を満たすことが必要となる以上,上記の実情を理由に本件債権放棄に係る個別和解が基本通達9-6-1(2)の適用を受けるということはできない。
なお,個別和解による債権放棄が,債務超過の子会社を整理するためにその親会社により行われた場合には,後記イにおいても述べるように,それに伴って生じた損失は,一般的には,基本通達9-4-1の適用によって処理されるべきである(ただし,本件においては,後記(2)(被告の主張の要旨)ア(ア)において主張するとおり,基本通達9-4-1の適用の前提を欠くから,その適用を受けない。)。
(イ)

したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(2)
の適用により損金の額に算入することはできないというべきである。イ
基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除に係る貸倒損失)について
(ア)

適用範囲の限定の有無について
上記アにおいて主張したとおり,個別和解による債権放棄が,債務超
過の子会社を整理するためにその親会社により行われた場合には,それに伴って生じた損失は,一般的には,基本通達9-4-1の適用によって処理されるべきであるから,本件債権放棄額につき,基本通達9-6-1(4)は適用されないというべきである。
(イ)

本件における基本通達9-6-1(4)の要件該当性について


仮に,本件において基本通達9-6-1(4)が適用されるとしても,金銭債権の貸倒損失を損金の額に算入するには,単に当該金銭債権の債務者につき債務超過の状態が継続しているだけでは足りず,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならない。そして,法人税法33条2項等が預貯金,貸付金,売掛金その他の債権を評価損の損金算入の対象から除外していることからすると,金銭債権の一部の貸倒れを損金の額に算入することは許されないと解されるところ,以下の事情に照らすと,本件債権放棄額の全額が回収不能であることが客観的に明らかであり将来的にも弁済を受ける見込みがなかったものとは認められないというべきである。


角弘スチールにおいては,売上金額が増加傾向にあり,平成20
年12月期以前の税引後当期利益は2000万円超であった上,平成16年12月期以降,借入金の額も減少傾向にあった。加えて,同社の事業を承継するエスアンドエーにおいても,角弘スチールとの関係で1690万円の経費削減等を見込んでいたため,更なる財務状況の改善が可能であった。



角弘三協サッシにおいては,平成19年及び平成20年の各12
月期に損失を計上しているものの,平成18年12月期以前は利益を計上しており,上記損失も売上が減少する中で労務費や人件費を削減することができなかったことが要因と考えられるところ(なお,平成19年12月期については,機械の入替えに伴い特別損失が発生したこともその要因であった。),平成21年当時においても角弘三協サッシが原告から借入れをする際に売掛金の回収等による返済を見込んでいたこと,角弘三協サッシの事業を承継するエスアンドエーが当該事業につき人件費や設計外注費1662万円の削減等を見込んでいたことからすれば,更なる財務状況の改善が可能であった。


原告は,角弘子会社3社の事業を存続させることが必要との認識
を持ち,角弘子会社3社の事業をエスアンドエーに引き継がせることを予定していたのであり,現に青森銀行から債務超過先と判断されていた本件子会社2社も倒産又は休業をすることなく営業を継続していたから,その債務超過が当然に債権の回収不能に結び付くものではなく,本件事業譲渡の際に本件債権放棄に係る債権もエスアンドエーに引き継がせてその回収を図ることは十分に可能であった。


角弘子会社3社から事業譲渡を受けたエスアンドエーは,本件計
画上,事業統合後約9000万円前後の償却前経常利益を計上する見込みであり,当該利益は,本件事業譲渡がなければ,本件債権放棄に係る原告の本件子会社2社に対する債権の返済の財源となり得るものであった。



本件子会社2社の主たる債権者は原告や原告のグループ会社であ
ったが,原告らが直ちに債権を回収しようとしていた状況や,原告ら以外の債権者に対する債務の支払が困難となっていた事情はなく,原告が本件子会社2社に対して支払猶予や利息の免除をすれば債権放棄と同様の資金繰りが得られたはずであった。

原告は,何とか利益を計上するために本件計画を策定して本件事業譲渡を実行したのであり,通常の回収努力を払わずに意識的に貸倒損失として処理したわけではないから,基本通達9-6-1(4)の適用上問題はないなどと主張するが,原告は,本件計画を通じて,計画的に本件子会社2社に実態のない資産と原告に対する負債のみを残し,実質的な倒産状態を生じさせたものであるところ,本件事業譲渡により,本件子会社2社から債権の回収見込みがなくなるのは当然であって,原告が本件子会社2社及びエスアンドエーの親会社であり,本件計画の策定及び実行を主体的に決定できる立場にあったことからすれば,原告は,通常の回収努力も払わずに意識的に本件債権放棄をして貸倒損失に計上したというべきであり,最終的に債務超過となったからといって,本件債権放棄額につき貸倒損失としての損金算入が認められるべきではない。

(ウ)

損金算入の時期について
上記(イ)の点をおくとしても,貸倒損失の損金算入については,前事
業年度に債権の回収不能又は放棄の事実が確定したものを後の事業年度に繰り越して損金の額に算入することは許されず,法人の意図的又は恣意的な利益調整を排除した上で,その計上時期を厳密にしなければならないところ,本件では,原告の主張を前提とすれば和解契約締結のはるか以前に回収不能と判断された金銭債権の額について,事後に本件債権放棄に係る書面があることを理由として,本件事業年度における損金の額への算入を求めるものであって,このような損金算入は許されないものというべきである。
(エ)

したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(4)
の適用により損金の額に算入することはできないというべきである。(原告の主張の要旨)

基本通達9-6-1(2)(特別清算協定認可の決定に係る貸倒損失)について
(ア)

個別和解手続への適用の可否について
本件債権放棄は,特別清算手続において裁判所の許可に基づき行われ
た個別和解に基づくものであるところ,基本通達9-6-1(2)は,特別清算が,私的整理とは異なり,裁判所の厳重な監督の下において,特別清算会社の資産と負債を無にして会社を清算させる手続であるため,恣意的な判断や財務上の不正が行われ難いことから,法人税法上,当該手続によって法律上消滅した金銭債権については,当然にその全額を損金の額に算入することを認めたものである。
そして,子会社を整理する際には,債権者である親会社が自己の債権を貸倒れとして損金の額に算入するために特別清算手続を利用するいわゆる対税型の手法が実務上定着しており,この場合における債権者は親会社のみであることが多いことから,会社法570条による協定の認可ではなく裁判所の許可に基づく個別和解により債権を消滅させることがほとんどであり,このようにして消滅した債権額については,基本通達9-6-1(2)により貸倒損失として損金算入を認める旨の運用が実務上定着している。このことは,基本通達9-6-1(2)と同趣旨の規定である基本通達9-6-1(1)(更生手続に関するもの)において,更生計画認可前に裁判所の許可を受けて行う少額弁済により債権者が放棄することになる弁済額超過部分の債権額が,貸倒損失として損金の額に算入されるものとされていることからも裏付けられる。
被告は,本件債権放棄に係る個別和解については,特別清算協定認可の決定がない以上,基本通達9-6-1(2)の適用を受けないなどと主張するが,個別和解も,特別清算協定認可の決定と同様に,裁判所の許可を受けた特別清算手続の一環として裁判所の監督の下で行われるものであり,特別清算協定認可は,債権者集会によって出席債権者の過半数及び総債権額の3分の2以上の債権者の同意を得ることが要件とされているところ,本件債権放棄当時における本件子会社2社の債権者は原告及びその子会社(エスアンドエー)のみであったから,裁判所の許可に基づいて行われた上記個別和解は,特別清算協定認可の決定と同視し得るものである(被告の主張に係る基本通達9-4-1ないし同9-4-2は,個別和解による子会社に対する債権放棄につき,その親会社が当該子会社の第三者に対する債務を肩代わりしたような場合に適用されるものであるが,本件ではそのような事情は認められないから,原則どおり,基本通達9-6-1(2)の適用を検討すべきである。)。
(イ)

本件における基本通達9-6-1(2)の要件該当性について
原告は,角弘スチールが特別清算開始決定を受けた後,青森地方裁判
所から,原告が角弘スチールに対して有する貸付金債権の債権放棄の合意につき許可を得て,当該債権を放棄するとともに,角弘三協サッシが特別清算開始決定を受けた後,仙台地方裁判所から,原告が角弘三協サッシに対して有する貸付金及び土地売掛金債権の債権放棄の合意につき許可を得て,当該債権を放棄したものであるから,本件債権放棄は,特別清算手続における裁判所の許可に基づいて行われたものであり,基本通達9-6-1(2)の要件を満たすというべきである。
この点については,本件子会社2社の特別清算や本件債権放棄に係る債権の回収不能状態の発生が原告の恣意的な判断によるものであれば,当該特別清算に基づいて切り捨てられた本件債権放棄額を損金の額に算入すべきでないとの評価もあり得るところである。しかしながら,本件子会社2社は,平成18年12月期の時点で実質的な債務超過(角弘スチールにつき約5億0100万円,角弘三協サッシにつき約5800万円)であると評価され,平成19年12月期の決算においても減価償却不足(角弘スチールにつき約2億4500万円,角弘三協サッシにつき約1億0900万円)による実質的な債務超過(角弘スチールにつき約6億4818万円,角弘三協サッシにつき約3億5775万円)に陥っており,原告からの資金援助により事業を継続していたものであるところ,このような状況の下において,原告は,青森銀行の強い要請により当該資金援助を継続することができなくなった結果,本件子会社2社が単体で事業継続をすることが困難な状態となったものであって,本件子会社2社に対する債権は,本件計画書第1案の策定(平成20年7月)より前から既に回収不能となっていたものである。
なお,本件計画書上,本件事業譲渡によりその譲渡先のエスアンドエーが毎年約9000万円前後の償却前経常利益を計上する見込みとされていることからすれば,本件債権放棄に係る債権につき将来的な回収可能性があったとの評価もあり得るところであるが,これは青森銀行からの融資を継続させるために事業統合によるシナジー効果等のメリットを最大限評価して策定したものであり,客観的には,本件子会社2社の事業統合により実質的な債務超過の状態を改善できる可能性は極めて低く,本件計画書の記載をもって上記債権につき回収可能性があったと評価することはできない(本件計画書に関する被告の指摘は,本件子会社2社がそのまま存続した場合の見込みではなく,同2社がエスアンドエーに統合された後の見込みに関するものであるところ,原告において同2社の事業譲渡や事業統合をする義務を負うものではない以上,統合後の見込み等を回収可能性の判断において考慮すべきではない。)。また,エスアンドエーが本件子会社2社から承継した事業は,本件事業譲渡以前から収益性が低く,原告や角弘グループからの借入れなくして事業を継続することができない状況にあるなど,これらの借入金債務を返済するための収益を上げられておらず,現に,エスアンドエーは,本件事業譲渡の直後の決算期である平成21年12月期には約2400万円の償却前経常利益を計上しているものの,平成22年12月期及び平成23年12月期にはそれぞれ約7800万円及び約9900万円の償却前経常損失を計上しているのであるから,本件子会社2社に対する債権は,本件債権放棄の時点において,既に回収不能であり,将来的な回収可能性もなかったというべきである。
このように,本件債権放棄に係る債権については,債権者である原告の恣意的な判断により回収不能な状態が生じたものではないから,本件債権放棄額は,基本通達9-6-1(2)の要件を満たすというべきである。
(ウ)

損金算入の時期について
基本通達9-6-1は,その事実の発生した日の属する事業年度を損
金算入の時期と定めているから,基本通達9-6-2の場合(損金算入の時期は,債権全額が回収できないことが明らかになった事業年度とされている。)とは異なり,本件債権放棄額を損金算入すべき時期は,特別清算手続に基づく裁判所の許可による個別和解が成立した日(平成22年3月1日及び同月3日)が属する本件事業年度(平成22年3月期)である。
本件のように,親会社が子会社を整理する場合(特に対税型の特別清算手続の場合),債権者である親会社が子会社に対する債権につき回収不能であると認識してから当該債権が法的に消滅して貸倒損失として処理されるまでの間,一定の期間が経過することになるが,これは法が当然に予定しているところであり,税務上,基本通達9-6-1による損金処理を選択した場合には,損金算入の時期についてもその通達の定めに従って判断されるのが当然であり,基本通達9-6-2に従って損金算入の時期を判断すべきではない。
(エ)

したがって,本件債権放棄額は,基本通達9-6-1(2)の適用に
より,貸倒損失として損金の額に算入されるべきである。

基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除に係る貸倒損失)について
(ア)

適用範囲の限定の有無について
一般に,法人が自己の債権を放棄した場合の処理としては,その債務
者が当該法人の子会社に当たるか否かにかかわらず,当該債権につき回収可能性がない場合には貸倒損失に関する基本通達9-6-1等が適用され,回収可能性がないとはいえない場合には,原則として寄附金に該当するものの,子会社等の整理ないし再建に関する基本通達9-4-1ないし同9-4-2の適用が問題となる。そして,後記(イ)のとおり,本件債権放棄に係る債権については回収可能性がなかったというべきであるから,本件債権放棄については基本通達9-6-1(4)が適用されるというべきである。
(イ)

本件における基本通達9-6-1(4)の要件該当性について
以下の事情からすれば,本件債権放棄額は,その全額が回収不能であ
ることが客観的に明らかであり将来的にも弁済を受ける見込みはなく,「債務超過の状態が相当期間継続し,その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」に当たるので,基本通達9-6-1(4)の適用により,貸倒損失として損金の額に算入されるべきである(なお,原告の本件子会社2社に対する債権については,前記ア(イ)のとおり,債権者である原告の恣意的な判断により回収不能状態が生じたものではなく,貸倒損失の判断に当たっては,以下のとおり,債権者において「相当期間」継続して「弁済を受けることができないと認められる」という判断を要するものであるから,原告が慎重を期して特別清算手続の進捗を見極めてから本件債権放棄をしたことに何ら落ち度はない。)。a
基本通達9-6-1(4)における「債務超過」に当たるか否かは,簿価ではなく時価を基準に判断するものとされているところ,本件子会社2社は,前記ア(イ)のとおり,原告の財務改善計画書の策定より前から,本件事業譲渡の有無にかかわらず実質的な債務超過の状態に陥っていた。


また,基本通達9-6-1(4)にいう「相当期間」とは,通常,1年ないし2年の期間を指すといわれているところ,前記ア(イ)のとおり,本件子会社2社は,遅くとも平成18年12月期の時点では既に実質的な債務超過の状態に陥っており,本件計画書が策定された平成21年5月までの間に約2年6か月が経過している上,実際に本件債権放棄が行われた平成22年3月までの間に3年以上が経過しているから,本件子会社2社の実質的な債務超過の状態が相当期間継続していることは明らかである(特に,角弘スチールの原告に対する無利息の短期借入金は,角弘スチールの設立以降,増加し続け,昭和63年には債務額が8億円に達し,それ以降も所有不動産の売却利益に基づく一部返済により債務残高が約6億3750万円になったにとどまり,平成12年から本件事業譲渡が実施された平成21年までの間,上記債務は全く返済されないまま残存していた。)。


そして,債務超過の状態が相当期間継続していれば,通常,当該債務者は,弁済原資を有しておらず,支払能力がない状態にあると推認されるので,基本通達9-6-1(4)にいう「その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合」に当たるということができる。実際にも,前記ア(イ)及び上記bのとおり,本件子会社2社は,平成18年12月期には実質的な債務超過の状態に陥っており,原告による実質的な資金援助(支払猶予,資金注入)により事業を継続していたものの,青森銀行の強い要請により当該資金援助が中止された結果,事業継続が不可能となったものであるから,原告の本件子会社2社に対する債権は,既に回収不能なものとして上記の要件を満たすというべきである(本件計画書には,上記債権が回収可能であったかのような記載があるが,その客観的な実現可能性が極めて乏しいことは前記ア(イ)のとおりであり,本件子会社2社の事業を承継したエスアンドエーが,本件計画書上は経常利益を計上する見込みとなっていたものの,実際には平成22年12月期以降に償却前経常損失を計上していることからも明らかである。)。
(ウ)

損金算入の時期について
本件債権放棄額を損金算入すべき時期については,前記ア(ウ)記載の
とおり,特別清算手続に基づく裁判所の許可による個別和解が成立した日(平成22年3月1日及び同月3日)が属する本件事業年度(平成22年3月期)である。
(エ)

したがって,本件債権放棄額は,基本通達9-6-1(4)の適用に
より,貸倒損失として損金の額に算入されるべきである。
(2)

争点(2)(本件債権放棄額が寄附金の額に該当するか否か)について
(被告の主張の要旨)

基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について(ア)

適用範囲の限定の有無について
基本通達9-4-1は,社会情勢等を踏まえ,子会社等の解散,経営
権の譲渡等に伴い,親会社自体として今後より大きな損失を被ることを回避するためにやむを得ず債権放棄その他の損失負担等を行った場合には,その損失負担等の額は,親会社自らが生き残るために必要かつ不可欠のものとして負担したものであるとして,寄附金の額に該当しないこととしているものである。しかるところ,グループ内での事業譲渡のように実質的に子会社の経営権が移動していない場合には,第三者に経営権を譲渡する場合と異なり,当該損失負担等をしなければ経営権を譲渡できない等の事情を認めることはできず,また,損失負担等をしたとしても親会社としての経営責任は継続するため,当該損失負担等が親会社として今後より大きな損失を被ることを回避するためのものであるともいえない。したがって,上記のような場合における損失負担等は,経済的合理性がなく,親会社の存続のために必要不可欠ともいえないから,基本通達9-4-1の適用を受けないというべきである。
そして,本件子会社2社の事業譲渡を受けたエスアンドエーが原告の完全子会社であり,エスアンドエーの代表取締役が原告代表者であることからすれば,原告は,本件子会社2社の事業を別の子会社であるエスアンドエーに統合し再編したにすぎず,本件子会社2社の経営権は移動していないので,本件債権放棄は基本通達9-4-1の適用を受けないというべきである(本件の場合,特別清算手続による本件債権放棄が,角弘グループの財務改善計画という一連の事業再編の枠組みの一環として本件子会社2社に対して行われたものであるから,本件債権放棄により生じた損失負担の寄附金該当性については,基本通達9-4-2によって判断するのが相当である。)。
(イ)

本件における基本通達9-4-1の要件該当性について
仮に,本件債権放棄に基本通達9-4-1が適用されるとしても,
以下の事情からすれば,本件債権放棄は,青森銀行の要請に応じるためにやむを得ずしたものとはいえず,また,経済的合理性があるともいえないので,相当な理由があるものとは認められない。


青森銀行は,原告に対し,財務面において債務超過及び過大債務
(有利子債務)の解消を目指し,経営コンサルタントの関与の下,グループ再編,収益力の強化及び債権等のデータ管理を検討項目とした計画策定を要請したにすぎず,本件債権放棄を要請したり,本件債権放棄を含まない財務改善計画は受け入れられないなどと要求したりしていない。


原告は,本件計画書の記載からうかがわれるように,主体的に財
務改善計画書を作成している上,原告における内部決裁文書上も,グラックス社に対する計画策定等の依頼を組織的かつ主体的に行っている。また,原告は,財務改善計画書の具体的な計画策定のほか,策定した計画を他の金融機関に説明し,その了承を得ている。加えて,原告は,青森銀行から,赤字事業からの撤退及び再建期間中の配当停止を要請されたにもかかわらず,これを原告の財務改善計画に組み込まなかった。



青森銀行は,原告の実質的な債務超過や本件子会社2社への資金
流出の解消を要請してはいたが,本件債権放棄を行った場合,本件子会社2社の債務超過が解消される反面,本件債権放棄額に相当する原告の資産が減少することになるから,本件債権放棄は,原告の実質的な債務超過や本件子会社2社への資金流出の解消にとって効果のないものであり,有利子負債の削減にも結び付くものではない。

原告は,いわゆるタックスメリットを得るために本件債権放棄をした旨主張するが,原告の主張するタックスメリットとは,本件債権放棄額が損金の額に算入されて税負担の減少をもたらすことをいうにすぎず,本件債権放棄額が損金の額に算入されるか否かを論ずる上で,このようなタックスメリットを持ち出す原告の主張はトートロジーである。

(ウ)

したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-4-1の適
用を受けず,これを損金の額に算入することはできないというべきである。

基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について
(ア)

一般に,債権放棄の額は,そのことに経済取引として是認できる合
理的理由がない限り,寄附金の額に該当することになるところ,本件債権放棄は,角弘グループの財務改善計画の初期段階から計画されていたものであり,かつ,本件事業譲渡から本件債権放棄に至るまでの一連の過程において,本件債権放棄に係る債権の支払に充てることが可能な資産の全て及び上記支払の原資となる事業そのものをエスアンドエーに引き継ぐことにより,本件子会社2社における上記支払の原資を喪失させた結果,行われることになったものであるから,本件債権放棄の経済的合理性の有無は,こうした一連の過程を踏まえて判断すべきである。そして,以下の事情からすれば,本件債権放棄は,これを行うにつき相当な理由があるものとはいえないというべきである。

本件債権放棄が業績不振の子会社等の倒産を防止するためやむを得ず行われたものとはいえないこと


本件子会社2社が本件債権放棄を必要とするほど倒産の危機に瀕
していなかったこと

角弘スチールの損益及び財務の状況についてみると,平成20
年12月期に原告からの短期借入金3900万円を返済し,かつ,同月期末の時点において定期預金以外の銀行預金4500万円を
有していた上,平成16年12月期以降の売上高は増加傾向にあ
り,税引後当期利益の額も平成16年12月期ないし平成19年
12月期は2000万円程度であったほか,借入金の額も年々減
少傾向にあったのであるから,角弘スチールの財務状況は,原告
による資金援助がなければ事業継続不能な程度に悪化していたと
はいえない。
原告は,買掛金残高が売掛金残高に比べて増加していることは
実質的に原告による角弘スチールへの資金援助である旨主張する
が,平成19年12月期末と平成20年12月期末の買掛金の残
高の増加額が売掛金の残高の増加額を上回っているにすぎず,こ
のことから,原告が実際に角弘スチールに資金援助をしたと評価
することはできない(売掛金と買掛金は必ず同時に発生するもの
ではなく,取引条件によっても残高として残る期間が変動するも
のであるから,事業年度末ごとの残高の差額を算定して単純に比
較して,角弘スチールの財務状況が事業継続不能な程度に悪化し
ていたと結論付けることはできない。)。
また,原告は,角弘スチールの有形固定資産の減価償却不足が
平成19年12月期でマイナス2億4500万円にまで膨らんで
いた旨主張するが,平成21年3月30日現在の償却不足額2億
3300万円余のうち,角弘スチールが平成19年1月以降に取
得した資産に係る償却不足額は400万円余であり,その余の約
2億2900万円は平成18年12月以前に取得した資産に係る
ものであるから,償却不足額の大部分は同月以前から積み重ねら
れてきたものであり,それにもかかわらず長年にわたり事業を継
続してきたことに加え,減価償却費が実際の資金移動を伴わない
ものであることからすると,償却不足額が多額であることをもっ
て角弘スチールが実質的に倒産の危機に瀕していたとはいえない。そして,原告は,角弘スチールの原告に対する無利息の借入金
に係る利息や本社工場の敷地の無償貸借に係る賃料を加味して角
弘スチールの財務諸表を作成すれば各事業年度の当期純損益が赤
字になる旨主張するが,青森銀行が,現に行われている無利息の
借入れや無償貸借につき,仮定的な利息や賃料を基に費用を算定
し直すことまでを求めていたとは解し難い上,その算定根拠も薄
弱であるから,これをもって倒産の危機にあったか否かを判断す
ることは妥当でない。

角弘三協サッシの損益及び財務の状況についてみると,角弘三
協サッシは,平成19年12月期に1353万円(なお,平成1
9年12月期の損失額合計約3500万円のうち約2000万円
は設備投資に伴う特別損失であって経常的なものではない。),
平成20年12月期に2498万円の営業損失を計上しているが,平成18年12月期以前は営業利益を計上しており,同社の事業
を承継するエスアンドエーも,人件費・設計外注費1662万円
の削減を見込んでいたほか,角弘子会社3社合計で1500万円
の経営指導料の削減を見込んでいた。これに加え,角弘三協サッ
シの売上高も増加が見込まれていたのであるから,角弘三協サッ
シの財務状況は,原告による資金援助がなければ事業継続不能な
程度に悪化していたとはいえない。
原告は,角弘三協サッシの平成19年12月期及び平成20年
12月期における借入金が毎年5000万円以上増加し,かつ,
決算書上も営業利益,経常利益及び当期純利益が2期連続マイナ
スとなっていることを指摘するが,そもそも借入金という特定の
負債科目のみに着目して倒産の危機に瀕していたか否かを検討す
るのは相当ではなく,平成18年12月期末と平成20年12月
期末の財務状況を比較すると,借入金を除いた流動負債及び固定
負債が約3600万円減少し,かつ,流動資産が約2200万円
増加しており,その合計額は約6000万円に上るので,借入金
という特定の負債勘定の増加額のみから直ちに角弘三協サッシの
財務状況が悪化していたとはいえない。


以上に加え,本件事業譲渡時における本件子会社2社の借入金
の主たる債権者であった原告及びその関連法人が直ちに当該借入
金の回収をしようとはしておらず,本件子会社2社につき当該借
入金以外の債務の支払が困難となっていた事情もないことからす
れば,本件子会社2社は,少なくとも倒産の危機に直面していた
とはいえず,本件債権放棄は,業績不振の子会社等の倒産を防止
するためにやむを得ず行われたものとはいえない。
原告は,本件子会社2社の流動比率(流動資産÷流動負債×1
00)及び当座比率(当座資産÷流動負債)が健全な数値を大き
く下回っていた点を指摘するが,これらの比率は飽くまで企業の
短期的な支払能力を測る指標の一つにすぎない(現に日本全国の
中小製造企業の3分の1以上が本件子会社2社と同様に健全な数
字を下回る流動比率となっている。)上,本件子会社2社の流動
比率及び当座比率はいずれも連年同じような水準で推移していた
にもかかわらず相当期間事業を実際に継続してきているのである
から,本件子会社2社の財務状況が急激に悪化したものとはいえ
ない。


原告において本件債権放棄以外に採り得る手段があったこと
債権放棄が子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われた
というためには,当該債権放棄が倒産防止のために必要不可欠であることを要するところ,本件においては,原告の本件子会社2社に対する支援の方法として,無利息貸付け等,経費負担,資金贈与,債務引受け等が考えられるのであって,原告が本件子会社2社に対して債務の履行を猶予し,これに対する利息を免除すれば,本件子会社2社において本件債権放棄がされたのと同様の資金繰りが得られる以上,それを超えて,本件債権放棄まで行う必要性はないというべきである(実際,青森銀行が要請していたのは有利子負債の圧縮及び債務超過の解消に向けたグループ再編,収益強化及び債権管理であって,買掛金の支払猶予や売掛金の取立てを要請していたとはいえない。)。
原告は,債権放棄以外の支援方法を青森銀行が了承するはずがな
い旨主張するが,そもそも原告において本件債権放棄以外の支援方法を具体的に検討した形跡はなく,上記主張は明確な根拠もなく臆測を述べるものにすぎない上,原告は,青森銀行が要請していた赤字事業からの撤退や再建期間中の配当停止を計画に組み込まず,青森銀行の意に沿わない行動をとっていたのであるから,青森銀行が了承するはずがないという上記主張はその前提を欠くものである。b
本件債権放棄が合理的な再建計画に基づくものであるとはいえないこと
一般に,債権放棄を含む無利息貸付け等が基本通達9-4-2にいう「合理的な再建計画に基づくものである」か否かを判断するに当たっては,支援の合理性,支援者による再建管理の有無,支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について総合的に検討する必要があるところ,①本件子会社2社が債務超過等の倒産の危機に瀕していなかったこと(この点に関し,原告は,本件子会社2社の事業を承継したエスアンドエーが2期連続で償却前経常損失を計上したことから,結果的に,本件子会社2社が事業を継続していても債権回収は不可能であった旨主張するが,原告の上記主張はエスアンドエーの財務状況から結果的に本件子会社2社に対する債権回収が不能であったとの見込みをいうにすぎず,本件子会社2社につき本件債権放棄を必要とするまでの財務状況であったことを根拠付けるものではない。),②本件事業譲渡後におけるエスアンドエーの償却前経常利益の見込額が,本来は本件債権放棄に係る債権の弁済の財源となり得たことからすれば,本件債権放棄額は必要最小限度のものとはいえないこと(なお,本件計画書の作成段階(平成21年5月)では,エスアンドエーの平成21年12月期ないし平成23年12月期の最終的な償却前経常利益額は不明であるから,その利益額については,本件債権放棄が必要最小限度の支援であるか否かの判断に当たって考慮すべきではな
い。),③原告が,本件子会社2社を角弘グループ内に残すことを優先し,当初から角弘グループ内での再建を計画して本件事業譲渡の譲渡先としてグループ外の第三者を探すなどの自己努力をした形跡がないこと(本件子会社2社の決算書には,減価償却を過少に行うなど財務状況の実態を適切に表していない面があったにもかかわらず,本件子会社2社の債権者である原告において責任追及等の検討が具体的にされた形跡はなく,この点からしても,原告による自己努力がされているとはいえない。),④本件子会社2社が原告以外にもグループ会社や金融機関から多額の借入れを行っていたにもかかわらず,財務改善計画では当初の段階から原告のみが債権放棄により支援することとされており,複数存在したその余の債権者に対して支援を要請し又は仕入先などの債権者を含めた債権者集会等が行われた形跡もないなど支援者の範囲や損失負担等の割合に合理性や相当性がないことからすれば,本件債権放棄は合理的な計画に基づくものとはいえない。
(イ)

したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-4-2の適
用を受けず,これを損金の額に算入することはできないというべきである。
(原告の主張の要旨)

基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について(ア)

適用範囲の限定の有無について

基本通達9-4-1は,子会社の整理に際して親会社が何らかの負担をしなければならない場合において,当該負担が,これを行わない場合に親会社自体が今後被る損失を回避するためにやむを得ず行われたものであれば,寄附金には該当しない旨を定めたものであって,子会社の事業譲渡等を行った際にその経営権が実質的に移動したか否かにかかわらず適用されるものというべきである。
(イ)

本件における基本通達9-4-1の要件該当性について
本件債権放棄は,原告が,当時のメインバンクであった青森銀行か
らの強い要請により,角弘グループの再編を通じて,本件子会社2社に対する資金流出及び原告の実質的な債務超過を解消するためにやむを得ず行ったものである。すなわち,原告は,平成19年5月頃,青森銀行から角弘グループ各社の財務調査をすると言われ,各社の財務諸表を提出したところ,青森銀行は,平成20年2月頃,原告が債務超過先である本件子会社2社に対して有する売掛金債権は,実質的に本件子会社2社の債務超過を肩代わりしているにすぎず回収不能であると判断して,上記売掛金債権につき,その資産性を否定して約10億円以上もの減額修正をした上で,原告の実質的な営業利益がほとんどマイナスであると評価し,早急に改善策を検討するよう要請した。これを受けて原告は財務改善計画の策定をしたものであるが,原告を含む角弘グループの財務改善計画を策定したグラックス社は,青森銀行が紹介したコンサルティング会社3社のうちの1社であるから,角弘グループの財務改善計画は,青森銀行が主導したものである。そして,青森銀行は,原告が財務改善計画書の案を提出するたびに,本件子会社2社への資金流出を解消するとともに原告本体の実質的な債務超過を解消するよう求めていた上,財務改善計画が未完成の時点である平成20年9月に当座貸越契約を解除し,原告に対する圧力を強化した。
このように,原告は,その財務改善のためには本件債権放棄以外に採るべき手段がなく,これをしなければ,メインバンクからの協力を得られず貸し剝がし等の不利益を被る蓋然性が非常に高かったのであるから,本件債権放棄は,これを行わない場合に原告自体が今後被ることになるより大きな損失を回避するためにやむを得ずにしたものであることは明らかである(なお,過剰債務等により財務状況が悪化している中小企業の収益性のある事業を事業譲渡や会社分割により切り離し,他の事業者に承継させるとともに,不採算部門は旧会社に残して特別清算を行うという方法は,一般的に採用されている事業再生の手法であり,何ら特異なものではない。)。

青森銀行は,明示的に本件債権放棄を要請したわけではないが,一般に,金融機関の融資先に対する要請は目標達成の結果を要請する場合がほとんどであり,融資先の経営判断に対する不当な介入につながるおそれがあるため,金融機関が当該目的を達成するための手段について債権放棄や事業譲渡といった具体的な方法を明示的に要請することは事実上皆無であり,本件債権放棄は,青森銀行による事実上の要請に基づくものである。また,企業の財務改善を図る一般的な手法の一つである含み損益の実現や不良資産の処分に際しては,税金の支払額を圧縮して資金流出を抑えることによって総資産利益率(ROA〔Return

On

Assets〕)の改善等を図ること(いわ

ゆるタックスメリットを得ること)が重要であるところ,本件においても,原告は,不良資産となっていた本件子会社2社に対する債権の処分方法として事業譲渡及び特別清算に伴う本件債権放棄を実施したものであり,これにより本件子会社2社への資金流出を回避することができ,原告ないし角弘グループの財務改善(有利子負債の圧縮)が可能となるから,本件債権放棄は,青森銀行の要請に応えるために行ったものというべきである。

これらの事実からすれば,本件債権放棄は,基本通達9-4-1の要件を満たすというべきである。

(ウ)

したがって,本件債権放棄額は,基本通達9-4-1の適用により,
寄附金の額に該当しないものとして損金の額に算入されるべきである。イ
基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について
(ア)

以下の事情からすれば,本件債権放棄は,本件子会社2社の倒産を
防止するためにやむを得ず行われた合理的な再建計画に基づくものであって,必要最小限度の支援として相当な理由があるものというべきである。

前記(1)(原告の主張の要旨)ア(イ)のとおり,本件子会社2社は,本件計画書の策定当時,いずれも倒産の危機に瀕しており,原告による継続的な資金援助(多額の貸付利息の免除,返済猶予等)によりその事業を継続していた。すなわち,角弘スチールについては,原告を介してその仕入れを行っていたところ,平成19年12月期から平成20年12月期にかけて,原告に対する買掛金が2億6300万円増加しているのに対し,売掛金は1億2100万円しか増加しておらず,このような買掛金の増加額と売掛金の増加額との差額は原告からの資金援助にほかならない(実際,角弘スチールの平成20年12月期の当期純利益は300万円しかなく,他方で有形固定資産の減価償却不足が平成19年12月期でマイナス約2億4500万円にまで膨らんでいるところ,角弘スチールの原告に対する無利息の借入金6億3750万円につき手形割引と同じ2パーセントの金利を付すと1275万円の利息を計上する必要があり,また,角弘スチールが原告から無償貸借をしている本社工場の敷地につき毎月100万円の賃料を付すと年間1200万円の賃料を計上する必要があり,これらを加味すると角弘スチールの当期純損益は赤字となる。)。また,角弘三協サッシにおいても,平成19年12月期及び平成20年12月期の借入金の額が毎年5000万円以上増加しており,上記2期の営業利益,経常利益及び当期純利益が2期連続でマイナスとなっている。そして,企業の短期的安定性を図る指標の一つである流動比率についても,本件子会社2社については健全な数字(120ないし140パーセント)を大きく下回り(角弘スチールにつき約27.76ないし45.04パーセント,角弘三協サッシにつき約27.10ないし36.71パーセント),より厳密な短期的支払能力を判断する指標といわれている当座比率についても短期的支払能力が厳しいと判断される基準値(70パーセント)を大きく下回っている(角弘スチールにつき約21.23ないし36.81パーセント,角弘三協サッシにつき約18.73ないし30.02パーセント)。
このような状況の下において,青森銀行からの強い要請により原告からの資金援助が中止された結果,本件子会社2社の倒産のおそれは更に強まっていた(なお,被告は,原告が角弘スチールに無償で貸与していた角弘スチール本社工場の敷地の賃料につき,原告が仮定した金額(年間1200万円)が実態とかけ離れた高額なものである旨主張するが,被告が比較対象とするC工業団地は空港や基地に隣接する立地条件であるのに対し,上記本社工場の敷地は繁華街の中心地に所在し,近隣にショッピングセンターが存在するなど立地条件を全く異にするものであるから,被告の主張は失当である。)。

原告は,本件子会社2社の事業が青森県に根ざした多角経営という原告及び角弘グループの経営理念や企業イメージの保持にとって有益であり(特に角弘スチールの鉄骨加工等の技術は青森県下トップクラスであった。),これを廃業すれば上記企業イメージや青森県の地域経済及び雇用に大きな影響を与えることから,本件子会社2社を存続させることとしたが,原告による本件子会社2社の吸収合併には労務問題等が伴うため,次善の策として,エスアンドエーに対する本件事業譲渡及び本件債権放棄により上記の吸収合併と同様の効果をもたらすこととした。なお,原告が本件子会社2社に更なる資金援助をすることについては,青森銀行が了承するはずがなく,同銀行の意に反して本件子会社2社への資金援助を継続すれば,原告は破綻懸念先に格下げされ,追加融資の中止や担保の追加を求められることになるため,原告としては本件債権放棄以外の方法を採り得なかった。

本件子会社2社から事業譲渡を受けたエスアンドエーの償却前経常利益は,前記(1)(原告の主張の要旨)ア(イ)のとおり,平成21年12月期にはプラスであったものの,平成22年12月期及び平成23年12月期には2期連続でマイナスとなっており,本件債権放棄に係る債務を弁済するに足りるような収益を上げることはできなかった(なお,被告は,本件計画書の策定時には平成23年12月期における償却前経常利益が不明であった旨を指摘するが,計画策定後の事実関係を加味することを制限する規定等はない。)。

(イ)

被告は,本件債権放棄が必要最小限度の支援とはいえない旨主張す
るが,原告は,本件債権放棄において,「短期借入金」,「長期借入金」及び「未払金」に係る債権全額を放棄したわけではなく,「未払金」の一部や「前受金」に係る債権についてはエスアンドエーに譲渡していたのであるから,本件債権放棄は,本件子会社2社に対する必要最小限度の支援というべきである(このことは,原告が,本件の事業譲渡において,のれん代を含む譲渡対象資産と同額の負債をエスアンドエーに譲渡し,譲渡対価を無償とした上で,本件子会社2社に残った負債のみを本件債権放棄の対象としていたことからも明らかである。)。また,原告の財務改善計画は,本件事業譲渡と本件債権放棄を併せて行うことにより初めて利益を生み出すことが可能となるというものであり,償却前経常利益の存在のみに着目して本件債権放棄が必要最小限度の支援とはいえないとするのは全体のスキームを見誤っている。
そして,本件事業譲渡につき不当に低廉な価格で行われた等の事情がない以上,これに伴う本件債権放棄も経済的合理性を有する適正なものというべきである。
(ウ)

したがって,本件債権放棄額は,基本通達9-4-2の適用により,
寄附金の額に該当しないものとして損金の額に算入されるべきである。第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か)について(1)

基本通達9-6-1(2)(特別清算協定認可の決定に係る貸倒損失)につ
いて

法人税法22条3項は,法人が当該事業年度の所得の金額の計算において損金算入をすることができる金額として,当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものを掲げており(同項3号),この損失には,法人の有する金銭債権について当該事業年度に貸倒れが発生した場合における貸倒損失が含まれるものと解されるところ,基本通達9-6-1(1)ないし(4)は,①法的整理手続における裁判所の更生計画認可等若しくは特別清算協定認可の決定により(同(1)及び(2))又は②当事者間における合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意により(同(3)及び(4))法人の有する金銭債権が消滅したと認められる場合には,それぞれに掲げる金銭債権の額に相当する資産価値が客観的な事由により消滅したものといえるので,税務上,これらの金額をその事由の発生した日の属する事業年度において貸倒損失として損金の額に算入するものと定めており,同通達の上記定めの内容は,貸倒損失の認定に係る基準として合理性を有するものといえる。
そして,基本通達9-6-1(2)が,特別清算の手続における金銭債権の消滅事由について,「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」に限定して,当該決定により切り捨てられることとなった部分の金額につき,貸倒れとして損金の額に算入するものと定めており(このことは,同通達が「等」といった文言を用いていないことからも明らかである。),特別清算協定認可の決定によらずに当事者間の合意で切り捨てられた部分の金額については損金算入を認める旨の文言が見当たらないことからすれば,特別清算手続において,裁判所の上記認可の決定によらずに個別和解等により切り捨てられることとなった部分の金額については,上記の場合に該当しないものとして,基本通達9-6-1(2)の適用を受けないものと解するのが相当である。そして,基本通達9-6-1(1)及び(2)において,法令の規制(会社更生法167条,168条,170条等,民事再生法154条ないし157条等,会社法564条,565条等)及びこれに係る裁判所の審査と決定により認可の対象とされる更生計画等及び特別清算協定の内容の合理性が客観的に担保されるのと同様に,基本通達9-6-1(3)及び(4)が,当事者間の合意に基づく金銭債権の消滅による貸倒損失の損金算入を,合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意による場合に限定している趣旨に照らすと,特別清算手続において,裁判所の特別清算協定認可の決定によらずに,当事者間の個別和解に基づいて法人の金銭債権が消滅した場合については,合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意がされたとはいえないから,裁判所の上記認可の決定による場合に準じて貸倒損失の損金算入を認めることはできないというべきである。
これを本件についてみるに,本件債権放棄は,前記前提事実(6)ないし(8)のとおり,本件子会社2社の特別清算手続における個別和解によって行われたものであって,裁判所の特別清算協定認可の決定を経たものではないから,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(2)の適用を受けるものではなく,これに準じて貸倒損失の損金算入を認めることもできないというべきである。

これに対し,原告は,税金対策で特別清算手続を利用する場合には個別和解によることが多く,この場合でも特別清算協定認可の場合と同様に裁判所の監督の下にある以上,基本通達9-6-1(2)が適用されるべきである旨主張する。
しかしながら,基本通達9-6-1(2)は,会社更生法又は民事再生法に基づく更生計画認可等の決定があった場合に関する同(1)と同様に,会社法に基づく特別清算協定認可の決定があった場合に当該決定により切り捨てられることになった部分の金額につき貸倒損失としての損金算入を認めているところ,これらの法的整理の手続において裁判所の決定に基づき法人の有する金銭債権が消滅する場合には,当該債権の消滅に係る協定及び計画の内容の合理性が法令の規制(特別清算協定につき,協定条項における権利変更の一般的基準や協定内容の平等及び衡平等に関する会社法564条,565条等,更生計画認可等につき,同旨の規律に関する会社更生法167条,168条,170条等,民事再生法154条ないし157条等)及びこれに係る裁判所の審査と決定によって客観的に担保されているのに対し,特別清算手続における個別和解については,このような法令の規制及びこれに係る裁判所の審査と決定を欠いており,和解の合意内容は当事者間の自由な意思の合致に委ねられるため,基本通達9-6-1(2)所定の特別清算協定認可の決定の場合と同視することはできないから,基本通達9-6-1(2)の適用の前提を欠いており,これに準じて貸倒損失の損金算入を認めることもできないというべきであり,原告の上記主張は採用することができない(なお,原告は,特別清算手続に関する論文等の見解(甲34ないし36)を根拠として,特別清算手続における個別和解により消滅した債権額については貸倒損失として損金算入を認める旨の運用が実務上定着しているなどと主張するが,上記の論文等の見解はいずれも特別清算手続における個別和解により消滅した債権額につき基本通達9-6-1(2)の適用の有無やその適用の具体的な根拠について何ら言及しておらず,他方で,上記の個別和解により消滅した債権額については基本通達9-6-1(4)の要件該当性の有無によって損金算入の可否が検討されるべきである旨を明記している文献(乙57,58)もあることに照らせば,原告の主張するような運用が実務上定着しているとは認められないというべきである。)。
この点につき,原告は,個別和解も,裁判所の許可を受けた特別清算手続の一環として裁判所の監督の下に行われるものであり,本件債権放棄当時の本件子会社2社の債権者は原告及びその子会社(エスアンドエー)のみであったから,本件債権放棄に係る個別和解は,一定割合以上の債権者の同意を要件とする特別清算協定認可と同視し得る旨主張するが,特別清算手続において,特別清算協定によらない一部の債務に係る個別和解の合意の形成を裁判所の監督によって制限することは予定されておらず,単に当該個別和解に同意した債権者の全債権者中の割合のみをもってこれを特別清算協定認可と同視することはできないから,原告の上記主張も採用することができない。

したがって,原告の主張に係るその余の点(基本通達9-6-1(2)の要件該当性及び損金算入の時期)について検討するまでもなく,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(2)の適用を受けるものではなく,同(2)所定の基準により又はこれに準じて貸倒損失に該当するものとして法人税法22条3項3号に従って損金算入を認めることはできないというべきである。
(2)

基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除による貸倒損失)につい
てア
法人の各事業年度の所得の金額の計算において,金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならず,そのことは,債務者の資産状況,支払能力等の債務者側の事情のみならず,債権回収に必要な労力,債権額と取立費用との比較衡量,債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断されるべきものであると解される(最高裁平成14年(行ヒ)第147号同16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2637頁参照)。
基本通達9-6-1(4)は,法人の有する金銭債権について,債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その金銭債権の弁済を受けることができない(回収不能)と認められる場合において,その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額は,その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する旨を定めており,この定めは,同(3)の定めと同様に,当事者間における合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意により法人の有する金銭債権が消滅したと認められる場合の類型として合理性を有するものということができるところ,同(4)の適用の有無の検討に当たっても,上記の各事情を踏まえ,当該債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであるか否かにつき,社会通念に従って総合的に判断されるべきものであると解するのが相当である(なお,この点につき,被告は,個別和解による債権放棄が債務超過の子会社を整理するためにその親会社により行われた場合には,それによって生じた損失に係る損金算入の可否は,専ら基本通達9-4-1の適用の有無によって決せられるべきであり,基本通達9-6-1(4)の適用の余地はない旨主張するが,同(4)は,法人の有する金銭債権につき,「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において,その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を貸倒損失として損金の額に算入するものと定めており,その適用範囲につき被告が主張するような限定を付していないから,この点に関する被告の主張は採用することができない。)。

前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)

本件債権放棄を行う前における本件子会社2社の経営状況等は,以
下のとおりであった。

角弘スチールについて(乙8ないし12,25,弁論の全趣旨)
平成16年から平成20年までの各年12月期の売上高及び売上総利益(売上高から売上原価を控除したものをいう。以下同じ。)の額は,売上高がそれぞれ約13億1152万円,約17億1845万円,約13億5713万円,約15億6230万円,約23億1555万円であり,売上総利益がそれぞれ約6990万円,約7626万円,約7319万円,約8148万円,約6773万円であった。
また,平成16年から平成20年までの各年12月期の当期利益
(税引前当期純利益から法人税等の額を控除したものをいう。以下同じ。)の額は,それぞれ約3305万円,約2943万円,約2031万円,約2094万円,約301万円であった。
そして,定期預金の額は,平成16年から平成18年までの各年12月期がいずれも1700万円,平成19年及び平成20年の各12月期がいずれも1000万円であり,他の銀行預金の額は,平成16年から平成20年までの各年12月期においてそれぞれ約3169万円,約379万円,約2341万円,約593万円,約4505万円であった。
他方,借入金のうち,平成16年から平成20年までの各年12月期の長期借入金(債権者は角弘グループの一員である協同組合カクヒログループ(以下「協同組合カクヒロ」という。)である。)の額はいずれも9000万円であり,同期間の各年12月期の短期借入金(債権者は原告)の額はそれぞれ約7億2250万円(なお,営業報告書上の合計額は貸借対照表上の額と異なり約7億9233万円とされている。),約7億0750万円(なお,営業報告書上の合計額は貸借対照表上の額と異なり約7億5387万円とされている。),約6億8708万円,約6億7695万円,約6億3750万円であった(なお,本件事業譲渡後の解散時における平成21年11月30日付け清算貸借対照表上の長期借入金の額は0円であり,短期借入金(債権者は原告)の額は約6億4278万円であった。)。

角弘三協サッシについて(乙16ないし18,27,弁論の全趣
旨)
平成16年から平成20年までの各年12月期の売上高及び売上総利益の額は,売上高がそれぞれ約4億9606万円,約5億0234万円,約4億7143万円,約4億5541万円,約4億4280万円であり,売上総利益がそれぞれ約6294万円,約6367万円,約6044万円,約4919万円,約3620万円であった。
また,平成16年から平成20年までの各年12月期の当期利益
(損失)の額は,それぞれ約865万円,約853万円,約353万円,マイナス約3580万円(うち約2024万円は特別損失),マイナス約2548万円であった。
そして,定期預金の額は,平成16年から平成18年までの各年12月期がいずれも約1050万円,平成19年12月期が530万円,平成20年12月期が560万円であり,他の銀行預金の額は,平成16年から平成20年までの各年12月期がそれぞれ約485万円,約375万円,約475万円,約379万円,約142万円であった。他方,借入金のうち,平成16年から平成20年までの各年12月期の長期借入金の額はそれぞれ1億5800万円,1億3900万円,9200万円,9900万円,1億3350万円であり,同期間の各年12月期の短期借入金の額はそれぞれ300万円,2080万円,5600万円,9900万円,1億1700万円であった。なお,上記の長期借入金及び短期借入金の主な債権者は原告であり,その割合は全体の約6割ないし7割であった(なお,本件事業譲渡後の解散時における平成21年10月31日付け清算貸借対照表上の長期借入金(債権者は原告のみ)の額は9450万円であり,短期借入金(債権者は原告及びエスアンドエー)の額は約9086万円であった。)。(イ)

本件計画の内容等
本件計画は,角弘スチールについては業績悪化による脆弱な収益基盤の改善と債務超過状態の早期解消が必要である一方,スチール加工事業が角弘グループの強みであり,角弘三協サッシについても収益基盤の確立と債務超過状態の早期解消が必要であることから,これらの事業に係るコスト削減及び収益管理の徹底を図るため,製造会社3社(角弘子会社3社)の事業につき休眠会社であるエスアンドエー(事業内容の大幅な変更に伴い社名を「東北ホームイング」から変更)に事業譲渡(資産・負債両建て)をして1社に集約し,角弘子会社3社をそれぞれ特別清算することをその計画の骨子とするものであった。なお,本件計画書においては,角弘グループ各社の現況,経営上の課題及び方針概要として,角弘子会社3社の事業については本件計画の実行によっても収益が改善しない場合には,同事業からの撤退を検討するものと記載されていた。(乙23〔4,5,7,8頁〕)

本件計画書には,①角弘子会社3社の事業譲渡先につき,当初は原告を予定しており,従業員については業種の違いや組合員加入の必要等の事情を考慮して休眠中のエスアンドエーへの転籍を計画していたものの,角弘スチールの事業継続に不可欠な許認可を得るためには一定の資格を保有した技術者ないし技能者を事業者において雇用していることが条件となっているため,エスアンドエーに事業(資産・負債)の譲渡及び従業員の移転をすることとしたこと,②事業譲渡先が原告からエスアンドエーに変更されたものの,特別清算後において本件子会社2社に対する不良債権の処理をすることは当然に可能であり,かつ,同2社から原告への従業員の抱え込みによる健康保険組合の赤字補塡負担分の増加を回避することができるため,エスアンドエーへの事業譲渡が現状において最良の選択であると考えられることなどが記載されていた(乙23〔7頁〕)。


本件計画においては,エスアンドエーの財務改善に向けた具体的な施策として,本件事業譲渡により角弘子会社3社の事業をエスアンドエーに統合することにより,製造会社の集約による管理コストの削減,業務管理の一元化等により5532万円(①角弘スチールにつき人件費や経費(リース料)の削減,下請業者の価格見直し等により合計1690万円,②角弘三協サッシにつき人員や給与の削減及び設計外注費の改善等により合計1662万円,③青森サンキョウにつき支店統合等により合計680万円,④角弘子会社3社から原告への経営指導料の削減により1500万円)の財務改善効果を見込むとともに,エスアンドエーの財務シミュレーションとして,売上高の増加(平成21年12月期には23億9600万円,平成22年12月期には31億1500万円,平成23年12月期には33億6500万円)と金融機関からの借入金の解消(平成24年度までに実質的な借入金をほぼゼロとすること)を目指し,これらを通じて,償却前経常利益として,平成21年12月期(同年4月1日から同年12月31日までの事業年度)においては6700万円,平成22年12月期においては8500万円,その後の事業年度においては9400万円ないし9500万円を見込んでいた(乙23〔8頁,20頁〕)。
(ウ)

本件計画の策定に係る経緯等
原告のメインバンクであった青森銀行は,原告の決算を精査した結果,
債務超過の解消策として本業収益力の強化や売掛債権等のデータ管理等とともにグループの再編も必要な手法の一つとして検討するよう原告に要請したところ,原告から提案された財務改善計画の基本方針としてコーポレートガバナンスの強化及び営業体質や財務体質の抜本的な改善(具体的には原告内部の組織再編,資産リストラ及びグループ企業との再編を通じたグループとしてのシナジー効果の追求,原告の自己資本の増強及び過去の負の遺産の整理の推進)を図る旨が掲げられていたことから,本件計画書が同銀行の要請事項(財務面での有利子負債の圧縮及び債務超過の解消)を検討した上で作成されたものと考え,角弘子会社3社の事業継続を前提とした統合による経営の合理化により黒字への転換が図れる旨の原告の上記(イ)の提案もあったことから,最終的に同3社の事業の継続及び統合を内容とする本件計画を受け入れることとした。なお,青森銀行は,原告に対し,原告の財務改善計画書の策定につき,原告の本件子会社2社に対する債権の放棄を含まない財務改善計画は受け入れられないなどとしてその債権の放棄を要請したことはなかった。(乙39,40)

そこで,以下,上記イの認定事実を基に,前記アの判断枠組みに照らして検討する。
本件債権放棄は,原告が,その財務改善計画(本件計画)の一環として,自己のグループ会社の一部である本件子会社2社の事業を同じグループ会社の一つであるエスアンドエーに譲渡するのに伴い,原告が本件子会社2社に対して有する本件貸付金等債権の全額を放棄することとしたものであるところ,①本件子会社2社のうち,角弘スチールについては,平成16年から平成20年にかけて,売上高が約13億円から約23億円に漸次増加し,売上総利益も約6000万円ないし約8000万円程度で推移しており,預金額も平成20年12月期には合計約5500万円存在している一方,借入金については平成18年12月期以降は原告及びその企業グループ(角弘グループ)に属する協同組合カクヒロを債権者とするものしか残っていなかったこと(なお,解散時には原告を債権者とする短期借入金のみであった。),②角弘三協サッシについては,上記の期間,売上高及び売上総利益が減少傾向に,借入金の額が増加傾向にあったものの,なお平成20年12月期の売上高は約4億4280万円,売上総利益は約3620万円の水準を維持しており,当該借入金の大半は原告を債権者とするものであったこと(なお,解散時には原告及びエスアンドエーを債権者とする借入金のみであった。),③本件子会社2社については,本件計画上も人件費等の削減等により数千万円規模の財務改善が見込まれており,エスアンドエーに対する本件事業譲渡後もこれらの事業の継続と経費の削減等により少なくとも約3000万円余の収益の改善が見込まれていたことからすれば,このような債務者(本件子会社2社)の資産状況や支払能力等の債務者側の事情に照らし,直ちに本件債権放棄に係る債権の全額が回収不能であったとはいい難いというべきである。加えて,④原告及び協同組合カクヒロの本件子会社2社に対する本件貸付金等債権を含む貸付金等債権については,原告のメインバンクである青森銀行も債権放棄を要請しておらず(なお,前記イ(イ)bのとおり,本件計画書においても,本件子会社2社の特別清算後に両社に対する不良債権の処理を行う旨が記載されているにとどまり,当該特別清算の終結前に行われた本件債権放棄は本件計画の内容の項目として何ら掲記されていない。),借入金の全部又は大半に係る債権者である原告及び協同組合カクヒロにおいてこれを直ちに回収しようとしていたといった事情もうかがわれないこと,⑤本件事業譲渡の当事者であるエスアンドエーと本件子会社2社がいずれも原告の子会社であることに鑑みると,債権回収に必要な労力等の債権者側の事情や経済的環境等に照らしても,原告が無条件に本件債権放棄に係る損失を全額負担することに経済的合理性の観点から特段の必要性があったとはいえず,上記①ないし⑤の諸事情を踏まえて総合的に判断すれば,本件貸付金等債権の全額が客観的に回収不能であったということはできないというべきである。
エ(ア)

これに対し,原告は,平成18年12月期には実質的な債務超過に
陥っていた本件子会社2社が,原告による実質的な資金援助(支払猶予,資金注入)によって事業を継続していたものの,青森銀行の強い要請により当該資金援助が中止された結果,事業継続が不可能となったとして,原告の本件子会社2社に対する債権は,既に回収不能なものであったなどと主張する。
しかしながら,⒜平成16年12月期から本件事業譲渡(平成21年3月)の直近の事業年度である平成20年12月期まで,前記ウ①ないし③のとおり,本件子会社2社は,なお相当額の売上高及び売上総利益の水準を維持し,事業の継続を前提とする人件費や経費の削減等により数千万円規模の財務及び収益の改善が見込まれる状況にある一方で,平成18年12月期以降の借入金の全部又は大半は原告及び協同組合カクヒロを債権者とするものであったこと(なお,同2社の解散時には借入金の全部が原告又は原告及びエスアンドエーを債権者とするものであった。)に加え,原告が,青森銀行から不採算事業からの撤退や従業員の人員削減を含む抜本的な収益改善策を求められている中で,角弘子会社3社の事業統合による事業継続を選択したこと(前記前提事実(3)ないし(5),前記イ(ウ))等に照らせば,本件子会社2社については,事業譲渡を前提としない財務及び収益の改善策の実施によっても,その財務及び収益を改善しながら事業を継続することは可能であったとみるのが相当であり,また,⒝原告の本件子会社2社に対する本件貸付金等債権につき,上記④及び⑤のとおり,原告のメインバンクである青森銀行も債権放棄を要請しておらず,原告及び協同組合カクヒロにおいても即時の回収の動きはうかがわれない中で,原告の子会社である事業譲渡先において,上記⒜のとおり改善が見込まれる収益の中から将来的に一定の範囲で回収される可能性が想定されたものといえること等に照らせば,上記債権の全額につき客観的に回収不能であったということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ)

また,原告は,本件子会社2社の事業を承継したエスアンドエーが,
本件計画における見通しに反し,平成22年12月期以降,償却前経常損失を計上していることを指摘するが,前記イ(イ)cのとおり,本件計画においては,同c①ないし④の諸経費や人件費の削減等その他の様々な経営上の諸施策により,事業譲渡先のエスアンドエーにおいて当初の4事業年度に6700万円ないし9500円の償却前経常利益の計上が見込まれるとされ,原告及びそのメインバンクである青森銀行もこれを客観的に合理性のある計画として提案し又は承認したものであって,青森サンキョウを事業譲渡元に含む本件事業譲渡後にその事業譲渡先において償却前経常損失を計上した原因が上記諸施策の実施の懈怠又は別途の阻害要因の発生ではなく計画内容自体の合理性又は実現可能性の欠如にあることを認めるに足りる証拠ないし事情の存在はうかがわれないから,原告の上記指摘は,本件貸付金等債権の回収可能性に関する前記ウの判断を左右するに足りるものとはいえない。
(ウ)

さらに,原告は,債務超過の状態が相当期間継続していれば債務者
が支払能力のない状態にあることが推認されるから基本通達9-6-1(4)所定の要件に該当する旨主張するが,同(4)の適用による貸倒損失の損金算入の可否については,債務者側の事情,債権者側の事情,経済的環境等の諸事情を踏まえた総合的な検討により社会通念に従って当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであるか否かを判断すべきであることは,前記アにおいて説示したとおりであって,債務者である法人の債務超過の状態が相当期間継続していることの一事をもって直ちに当該金銭債権が回収不能であることが推認されるものではなく,また,上記の諸事情に照らせば本件貸付金等債権の全額が回収不能であったとは認められないことは,前記ウにおいて説示したとおりであるから,原告の上記主張も採用することができない。
そのほか,他に原告が主張する諸点も,本件貸付金等債権の回収可能性に関する前記ウの判断を左右するに足りるものとはいえない。

したがって,原告の主張に係るその余の点(本件子会社2社に係る債務超過の状態が相当期間継続しているか否か)について判断するまでもなく,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(4)の適用を受けるものではなく,同(4)所定の基準により又はこれに準じて貸倒損金に該当するものとして法人税法22条3項3号に従って損金算入を認めることはできないというべきである。

(3)

小括
以上によれば,本件債権放棄額については,基本通達9-6-1(2)又は(4)の適用を受けるものではなく,基本通達9-6-1(2)若しくは(4)所定の基準により又はこれらに準じて貸倒損金に該当するものとして法人税法22条3項3号に従って損金算入を認めることはできないというべきである。2
争点(2)(本件債権放棄額が寄附金の額に該当するか否か)について(1)

基本通達9-4-1(子会社を整理する場合の損失負担等)について基本通達9-4-1は,法人がその子会社等の解散,経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債権放棄等をした場合において,その債権放棄等をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその債権放棄等をするに至ったなど,そのことについて相当な理由があると認められるときに限り,その債権放棄等により供与する経済的利益の額を寄附金の額から除外するものであるところ,この通達の定めは,経営不振に陥っている子会社等を整理する際に,債権放棄等によって当該子会社等に対する援助をしなければ,当該子会社等の整理を実現することができず,その結果,親会社自体に当該子会社等の従業員の再雇用や経営権の譲渡の取りやめといったより大きな損失が生ずる場合を念頭に,例外的に損失処理を認めるものと解される。そして,基本通達9-4-1が「解散,経営権の譲渡等」という文言を用いて,子会社等が解散された場合と子会社等を解散させずに他の企業に経営権の譲渡等をした場合を並列的に記載していることに鑑みれば,法人の子会社等の解散に伴い債権放棄等をした場合には,当該法人が当該子会社につき経営権を事実上移譲しているか否かを問わず,同通達9-4-1の適用対象となり,その要件該当性の検討が必要になるものと解するのが相当である(なお,被告は,基本通達9-4-1は,法人がその子会社等につき経営権を事実上移譲して当該子会社の経営から撤退する場合に限り適用対象となると解すべきである旨主張するが,この通達の定めにはそのような限定の文言が付されていないことに加え,基本通達9-4-1の見出しが「子会社等を整理する場合の損失負担等」とされ,同9-4-2の見出しが「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」とされていること等からすれば,本件子会社2社の解散後に行われた本件債権放棄については,本件債権放棄が角弘グループの事業再編の一環として行われたこと等の被告の指摘に係る事情を踏まえても,既に本件子会社2社が解散により整理されている以上,基本通達9-4-1の適用対象となり,その要件該当性の検討が必要になると解するのが相当であるから,被告の上記主張は採用することができない。)。
イ(ア)

法人税法37条1項は,内国法人が各事業年度において支出した寄
附金の額の合計額のうち,その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(以下「損金算入限度額」という。)を超える部分の金額は,当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨を定めている。また,同条7項は,上記寄附金の額は,寄附金,拠出金,見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず,内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨を定めている。
このように,法人税法が一定額を超える寄附金を損金の額に算入しない旨の制度(損金算入限度額の制度)を採用しているのは,法人が支出した寄附金の全額を金額の制限なく損金の額に算入するとすれば,国の財政収入の確保を阻害し,課税の公平を害することとなる一方で,法人が支出する寄附金の中には法人の収益を生み出すのに必要な費用としての性質を有するものもあるところ,寄附金は反対給付がない上,個々の寄附金の支出が当該法人の事業に直接関連があるものであるか否かが明確ではなく,これを区別することが困難であることを踏まえ,統一的な損金算入限度額を設け,その範囲に限り寄附金の損金算入を認めることとしたものと解される。
そして,法人がする債権放棄についても,対価的意義を有する反対給付を受けることなく一方的に債務者に経済的利益を与えるものであることからすれば,原則として,その放棄に係る債権額は寄附金として扱われるべきものであって,損金算入限度額を超える部分の金額が課税の対象となるものといえる。
(イ)

もっとも,法人税法37条7項は,資産又は経済的な利益の贈与又
は無償の供与であっても,「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきもの」については寄附金から除く旨を定めているところ,これは,上記に掲げられた費用が,その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものであるため,その全額を寄附金に当たらないものとして損金の額に算入することとしたものと解される。
そうすると,このような法人税法37条7項の規定の趣旨に照らせば,資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるものであっても,その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものであれば,同項にいう寄附金に当たらないものとして,同条1項所定の損金算入限度額を超えてその全額を損金の額に算入することも許容されるものと解することができる。
そして,上記(ア)のとおり,法人税法37条1項が,統一的な損金算入限度額の制度を設け,寄附金について原則として画一的な処理をすることとしている趣旨に鑑みれば,経済的な利益の無償の供与等について,上記(ア)の例外としてその性質が寄附金に当たらないことを理由にその全額の損金算入を認めることができるのは,それが客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって,その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものであると認められる場合に限られると解するのが相当である。
(ウ)

以上を踏まえると,法人(債権者)と当該債権放棄の相手方(債務
者)との間に資本関係,取引関係,人的関係,資金関係等において関連性が存する場合において,例えば業績不振の子会社等の解散又はその経営権の譲渡等に際して当該子会社等の従業員に退職金を支給するためには親会社の当該子会社に対する債権につき債権放棄等をしなければ親会社において当該従業員の再雇用等を余儀なくされるなど,当該債権放棄に経済的合理性の観点から特段の必要性があるときは,当該債権放棄により消滅した債権額は,一般に,客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって,その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものに当たると認められるものと解され,これに当たらないと認めるべき個別的な事情のない限り,その損金算入を認めることができるものと解される。
基本通達9-4-1は,法人がその子会社等に対して債権放棄等をした場合において,その債権放棄等をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその債権放棄等をするに至ったなど,そのことについて相当な理由があると認められるときは,その債権放棄等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする旨を定めているところ,この定めは,債権放棄等に経済的合理性の観点から特段の必要性があるか否かを判断する基準として相当なものであるということができる。そして,上記(イ)のとおり,債権放棄の額が寄附金の額に当たらないと認められるのが,法人税法の定める寄附金の損金算入限度額の制度の下での例外的な取扱いであることに鑑みると,法人の子会社等に対する債権放棄について,経済的合理性の観点から特段の必要性があるか否かを基準として上記の定めにいうやむを得ずこれをするに至ったなどの相当な理由があるか否かを判断するに当たっては,証拠に基づいて認められる客観的な事実に即して判断すべきであり,当該法人の主観的な動機や目的のみによってこれを判断するのは相当ではないというべきである。

そこで,上記イの判断枠組みに照らして検討するに,前記前提事実及び前記1(2)イの認定事実並びに証拠(乙5,24,26)及び弁論の全趣旨によれば,①本件子会社2社のうち,角弘スチールについては,平成16年から平成20年にかけて,売上高が約13億円から約23億円に漸次増加し,売上総利益も約6000万円ないし約8000万円程度で推移しており,預金額も平成20年12月期には合計約5500万円存在している一方,借入金の額は減少傾向にあり,本件事業譲渡の直近の事業年度である平成20年12月期における借入金の債権者は原告及び協同組合カクヒロのみであったこと,②角弘三協サッシについては,上記の期間,売上高及び売上総利益並びに預金額が減少傾向に,借入金の額が増加傾向にあったものの,なお平成20年12月期の売上高は約4億4280万円,売上総利益は約3620万円の水準を維持しており,当該借入金の大半は原告を債権者とするものであったこと,③本件子会社2社については,本件計画上も人件費等の削減等により数千万円規模の財務改善が見込まれており,エスアンドエーに対する本件事業譲渡後もこれらの事業の継続と経費の削減等により少なくとも合計約3000万円余の収益の改善が見込まれていたこと,④原告のメインバンクである青森銀行が本件債権放棄を要請していないこと(本件計画書においても,本件子会社2社の特別清算の終結前に行われた本件債権放棄は本件計画の内容の項目として何ら掲記されていないこと),⑤本件子会社2社の借入金の全部又は大半に係る債権者である原告及び協同組合カクヒロにおいてこれを直ちに回収しようとしていたといった事情もうかがわれないこと,⑥本件事業譲渡の当事者であるエスアンドエーと本件子会社2社がいずれも原告の子会社であり,本件事業譲渡に係る譲渡財産,譲渡価額及び決済方法について各当事者間で合意内容を記載した覚書の作成時におけるエスアンドエーの代表取締役が原告代表者であったことが認められる。
そうすると,本件子会社2社は,上記の売上高や売上総利益及び借入金の額の推移のほか,当該借入金の全部又は大半に係る債権者が原告及び協同組合カクヒロであったこと,客観的に合理性のある計画として原告から提案されそのメインバンクである青森銀行により承認された本件計画における諸費用削減等の諸施策による財務及び収益の改善及びその規模の見通しに加え,前記1(2)ウのとおり本件貸付金等債権については上記の改善が見込まれる収益の中から将来的に一定の範囲で回収される可能性が想定されたものといえること等に照らすと,本件債権放棄の当時,所論のように倒産の危機に瀕した状況に至っていたとはいえないとみるのが相当である。また,本件債権放棄は,青森銀行からの要請を受けたものではなく,本件計画書上も明記されていないなど,原告における財務及び収益の改善の計画において必要不可欠のものであったとはいい難い。そして,本件事業譲渡の当事者がいずれも原告の子会社であり,事業譲渡の条件に係る覚書の作成をしたエスアンドエーの代表者が原告代表者であることに鑑みれば,原告は,本件事業譲渡の内容や条件について主体的かつ自由に判断することのできる立場にあったものといえ,他に本件子会社2社の整理に当たって本件貸付金等債権を処理しなければ両社の従業員の再雇用を余儀なくされて人件費の増大等のより大きな損失が生ずるといった事情もうかがわれないことからすれば,本件債権放棄は,当時の状況の下で経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難く,基本通達9-4-1にいうやむを得ずこれをするに至ったなどの相当な理由があったとはいえないから,これにより消滅した本件貸付金等債権の債権額は,客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用(費用としての性質が明白であり明確に区別し得るもの)に当たるとはいえず,寄附金に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。

これに対し,原告は,青森銀行が本件債権放棄について明示的ではないにしても事実上の要請をしており,原告はこの要請に応えたものであって,原告ないし角弘グループの財務改善(有利子負債の圧縮)のためには本件債権放棄以外に採るべき手段がなく,これをしなければ貸し剝がし等の不利益を被る蓋然性が非常に高かったなどと主張する。
しかしながら,上記ウにおいてみたとおり,青森銀行が,原告の財務改善に関し,本件債権放棄を行うことを要請したことはなく(そもそも,原告が青森銀行からの財務及び収益の改善の要請に応えて策定して同銀行の承認を得た本件計画書に本件債権放棄が記載されておらず,また,同銀行が原告の主張に係るいわゆるタックスメリットを得ることによって本件子会社2社の財務改善を図るよう原告に要請したという事情もうかがわれないことに照らすと,青森銀行が事実上も本件債権放棄を要請していたとは考え難く,他に同銀行による事実上の要請の存在を認めるに足りる証拠及び事実は存しない。),かえって,原告は,青森銀行から不採算事業からの撤退や従業員のリストラを含む抜本的な収益改善策を求められている中で,角弘子会社3社の事業統合による事業継続をあえて選択し,本件事業譲渡や本件債権放棄を内容とする財務改善計画書の策定を主導的に行ったこと(前記前提事実(3)ないし(5),前記1(2)イ(ウ))等に照らせば,本件債権放棄は,メインバンクである青森銀行からの再三の要請にもかかわらず,原告が本件子会社2社の事業を含む不採算事業からの撤退を拒み,これらの事業の継続を前提とする財務及び収益の改善策のみを自ら策定したことに伴い,他に様々な財務及び収益の改善策を数千万円規模で掲記した本件計画書に記載することなく,青森銀行の要請及び承認の対象に含まれない角弘グループ内の内部的措置として行われたものとみるのが相当であり,所論の青森銀行との関係や財務改善策との関連をもって,当時の状況の下で経済的合理性の観点から特段の必要性があったと認めることはできず,その有無に関する前記ウの判断が左右されるものとはいえない。そのほか,原告が他に種々主張する点も,この点に関する前記ウの判断を左右するに足りるものとはいえない。

したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-4-1の適用を受けるものではなく,同通達9-4-1所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。

(2)

基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)につ
いて

基本通達9-4-2は,前記(1)イ(ア)及び(イ)においてみた法人税法37条の趣旨に基づき,法人がその子会社等に対して債権放棄等をした場合において,その債権放棄等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど,その債権放棄等をしたことについて相当な理由があると認められるときは,その債権放棄等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする旨を定めているところ,前記(1)アにおいてみたとおり,基本通達9-4-1の見出しが「子会社等を整理する場合の損失負担等」とされてその本文も専ら子会社等の「解散,経営権の譲渡等」の場合が対象とされ,同9-4-2の見出しが「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」とされてその本文も専ら子会社等の「再建」(「合理的な再建計画」)の場合が対象とされていること等からすれば,本件子会社2社の解散後に行われた本件債権放棄については,既に本件子会社2社が解散により整理されている以上,専ら基本通達9-4-1がその適用対象となるものと解するのが相当であり,子会社等を再建する場合に関する基本通達9-4-2はその適用対象とならないものというべきである。イ
したがって,本件債権放棄額については,基本通達9-4-2の適用を受けるものではなく,同通達9-4-2所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。
なお,仮に,本件債権放棄につき,本件事業譲渡等を内容とする角弘グループ内における事業再編の一環として行われていることに鑑み,本件子会社2社の解散による整理をもって実質的にはその統合による再建と同視し得るとして基本通達9-4-2を適用する余地があると解したとしても,前記(1)イないしエにおいて説示したところ(本件子会社2社に係る資産や事業の状況及びその改善の見込み,同2社の借入金に係る全部又は大半の債権者である原告及び協同組合カクヒロの当時の対応状況,青森銀行の要請に係る事項の範囲及び本件債権放棄に係る本件計画書の記載の欠如,原告とエスアンドエーの代表者の同一性及び本件子会社2社を含む各社の関係等の諸事情)に照らせば,本件子会社2社が,本件債権放棄の当時,所論のような倒産の危機に瀕した状況に至っていたとはいえず,上記の事業再編において本件債権放棄につき経済的合理性の観点から特段の必要性があったとはいえないから,原告が本件子会社2社に対してした本件債権放棄については,業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われたなどの相当な理由があったということはできず(前記(1)イと同様の判断枠組みが妥当するものと解される。),本件債権放棄は,基本通達9-4-2の要件を満たさないものであって,いずれにしてもその適用の余地はないというべきである(この点に関し,原告は,本件子会社2社の事業が青森県に根ざした多角経営という原告及び角弘グループの経営理念や企業イメージの保持にとって有益であり,これを廃業すれば上記の企業イメージや青森県の地域経済及び雇用に大きな影響を与えるなどと主張するが,上記不採算事業からの撤退が原告及び本件子会社2社の財務及び収益の改善の可否に与える影響については,原告の主観的な動機や目的によるものにとどまるといわざるを得ず,客観的な財務及び収益の悪化の蓋然性及び程度を基礎付けるに足りる具体的な事実及び証拠もない上,当該事業の継続が原告及び角弘グループの経営理念や企業イメージの保持にとって有益である旨の原告の上記主張を前提としたとしても,そのことから直ちに,事業譲渡先からの債権回収の途を採らずにあえて本件債権放棄を行ったこと自体につき経済的合理性の観点から特段の必要性が基礎付けられるものでもないから,他に原告が主張する諸点を含め,原告の上記主張も前示の判断を左右するものとはいえない。)。
(3)

小括
以上によれば,本件債権放棄額については,基本通達9-4-1又は9-
4-2の適用を受けるものではなく,同通達9-4-1又は9-4-2所定の基準により又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄附金の額に該当しないものとして損金算入を認めることはできないというべきである。3
本件処分の適法性について
以上を前提として,本件処分についてみると,原告の本件事業年度の法人税に関し,被告が本件訴訟において主張する別紙2記載1の本件処分に係る課税の根拠及び計算はいずれも相当であり,かつ,その根拠及び計算に基づいて算定した所得金額及び翌期に繰り越す欠損金額は,同別紙記載2のとおりであると認められ,別表2記載の本件処分における所得金額及び翌期に繰り越す欠損金額と一致するから,本件処分は適法というべきである。
第4

結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第51部

裁判長裁判官

岩井伸晃
裁判官

堀内元城
裁判官

吉賀朝哉
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