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損害賠償請求控訴事件
事件番号平成28(ネ)912
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年6月30日
法廷名名古屋高等裁判所
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平成29年6月30日判決言渡
平成28年(ネ)第912号

名古屋高等裁判所

損害賠償請求控訴事件

(原審・名古屋地方裁判所平成23年(ワ)第7490号)
主1文
被控訴人が,弁護士法23条の2第2項の規定に基づき控訴人がした別紙の照会のうち,
C宛ての郵便物についての転居届の提出の有無,
転居届の届出年月日及び転居届記載の新住所(居所)について,控訴人に対し報告する義務があることを確認する。

2
当審における控訴人のその余の追加請求を棄却する。

3
控訴申立て後に生じた第1,2項についての訴訟費用は,これを4分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。事
第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨
(1)

被控訴人が,
弁護士法23条の2第2項の規定に基づき控訴人がした別紙

の照会について,控訴人に対し報告する義務があることを確認する(控訴人は,差戻し前の控訴審において,当該請求を追加した。。

(2)
2
(1)についての訴訟費用は,被控訴人の負担とする。

控訴の趣旨に対する答弁
(1)

本案前の答弁


当審における控訴人の追加請求に係る訴えを却下する。


アについての訴訟費用は控訴人の負担とする。

(2)

本案の答弁



第2

当審における控訴人の追加請求を棄却する。
アについての訴訟費用は控訴人の負担とする。

事案の概要
1
本件は,差戻し前相控訴人であった亡Aから,Aと訴外Cとの間の訴訟(以下「別件訴訟」という。における訴訟上の和解に基づき,同人の財産に対する)
強制執行手続を受任した控訴人に所属するB弁護士が,控訴人に対し,別紙のとおり,①C宛ての郵便物についての転居届の提出の有無,②転居届の届出年月日,③転居届記載の新住所(居所)④転居届記載の新住所(居所)の電話番,
号(以下,併せて「本件照会事項」といい,個別の照会事項を「本件照会事項①」などという。
)について,郵便事業株式会社(以下「本件会社」という。

に弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。をす)
るよう申し出(以下「本件申出」という。,本件申出を適当と認めた控訴人が,)
本件会社に対し,本件照会事項について23条照会をした(以下「本件照会」という。ところ,本件会社は,控訴人に対し,本件照会に応じない旨を回答し)
た(以下「本件拒絶」という。ため,A及び控訴人が,本件拒絶は不法行為に)
当たると主張して,本件会社を吸収合併した被控訴人に対し,損害賠償(控訴人においては一部請求)及び同損害賠償金に対する不法行為の日(本件拒絶を受けた平成23年10月17日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2
第1審判決は,本件拒絶は正当な理由を欠くが,被控訴人に過失があるとまではいえないとしてA及び控訴人の請求をいずれも棄却したため,両名が控訴した。
差戻し前の控訴審において,控訴人は,損害賠償請求を主位的請求として原審で主張していた損害額に控訴審における弁護士費用を加えた合計額の一部請求としたほか,予備的請求として,被控訴人が本件照会について控訴人に対し報告する義務がある旨の確認請求(以下「本件確認請求」といい,それに係る訴えを「本件訴え」という。
)を追加した。
差戻し前の控訴審判決は,Aの控訴は棄却したが,控訴人に関する原判決を変更し,主位的請求の一部を認容し,その余の請求を棄却するとともに,本件確認請求については,主位的請求が全部棄却である場合の予備的請求であることが明らかであるから判断する必要はない旨を判示したところ,Aの訴訟承継人及び被控訴人が上告及び上告受理の申立てをした。また,控訴人は,附帯上告受理の申立てをした。
3
上告審は,Aの訴訟承継人の上告を棄却するとともに,上告を受理しない旨の決定をし,被控訴人の上告についても棄却する旨の決定をした。他方,被控訴人の上告受理の申立て及び控訴人の附帯上告受理の申立てについては,被控訴人の上告受理の申立ては,上告審として受理するものの,申立ての理由のうち第3(違法性〔権利侵害〕を除く部分を排除し,控訴人の附帯)
上告受理の申立ては受理しない旨の決定をした。そして,被控訴人の上告受理の申立て理由第3につき,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されないと判示して,差戻し前の控訴審判決中,被控訴人敗訴部分を破棄し,かかる部分について控訴人の控訴を棄却するとともに,本件確認請求に関する部分を名古屋高等裁判所に差し戻した(以下「本件最高裁判決」という。。


第3
1
前提事実
当事者
控訴人は,弁護士法に基づき,昭和24年9月28日に設立された法人である。
本件会社は,本件照会がされた平成23年当時,郵便の業務等を営む株式会社であったところ,平成24年10月1日,郵便局株式会社が現商号に商号変更した被控訴人に吸収合併され,その事業等が承継されたものである(以下,本件会社についても「被控訴人」ということがある。。


2
別件訴訟(甲1)
Aは,平成22年2月8日頃,Cらに未公開株の購入代金名目で金員を詐取されたと主張して,同人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(別件訴訟)を提起した(名古屋地方裁判所平成22年(ワ)第▲▲▲号)。
その後,AとCの間で,同年9月16日,Cが損害賠償債務として200万円の支払義務があることを認め,このうち20万円を同年10月29日限りAに支払い,約定どおり支払ったときは,Aはその余の支払義務を免除することなどを内容とする訴訟上の和解が成立した(甲2)

3
本件申出(甲3)
別件訴訟においてAの訴訟代理人であったB弁護士は,平成23年9月26日,弁護士法23条の2第1項に基づき,控訴人に対し,本件照会事項について本件会社(a支店)に23条照会をするよう申し出た(本件申出)。
本件申出に当たって控訴人に提出された控訴人所定の「照会申出書」(別紙
2枚目。以下「本件申出書」という。
)には,
「受任事件及び照会を求める理
由」と題する書面(同3枚目。以下「照会理由書」という。,本件照会事項)
が記載された「照会を求める事項」と題する書面(同4枚目。以下「照会事項書」という。
)及びA作成の委任状が添付され,照会理由書には,別件訴訟の
事件番号のほか,別件訴訟においてCとの間で裁判上の和解が成立したがCが支払をしない旨,依頼者であるAは,同和解に基づき,Cに対し,動産執行等の強制執行手続をしたいと考えている旨,そのためにはCの住居所等が判明していることが必要となるが,Cは現在住民票上の住所に居住していない旨が記載されていた。

4
本件照会(甲4)
控訴人は,本件申出を適当と認め,翌27日,本件会社(a支店)に対し,本件照会事項について23条照会をした(本件照会)本件照会に当たっては,。
本件会社に対し,
「弁護士法第23条の2による照会書」
(別紙1枚目)のほ
か,本件申出書,照会理由書,照会事項書及び委任状の各写しが送付された。5
本件拒絶(甲5)
本件会社(a支店)は,控訴人に対し,同年10月14日付けの書面で,本件照会には応じかねる旨を回答した(本件拒絶)

控訴人は,同月17日,上記の回答書面を受領し,B弁護士は,同日,控訴人からこれを受領した(甲5,弁論の全趣旨)


6
控訴人による通知書の送付(甲6)
控訴人は,同月27日,本件会社(a支店)に対し,本件照会の必要性及び相当性について,動産執行等のために事件の相手方の住所等を確認する目的の照会である旨,回答を拒否されると動産執行をすることが不可能となり,他に代替手段もない旨,東京高裁平成22年9月29日(通知書の「6月28日」は誤記)判決が判示するとおり,転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」にも,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当せず,転居届に係る照会に回答する義務は同条2項の守秘義務に優越する旨等を記載した通知書を送付し,本件照会に応じるよう求めた。

7
再度の報告拒絶(甲7)
本件会社(a支店)は,控訴人に対し,同年11月9日付けの書面で,上記東京高裁判決を根拠として転居届に係る23条照会に応ずることは困難であると判断しており,本件照会には応じかねる旨を回答した。

第4
1
争点
本件訴え(本件確認請求)の差戻し前の控訴審における予備的追加の適法性に関し,
(1)

本件訴えは行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。
)4条の「公法上

の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか。
(2)

損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか。控訴審におけ
る訴えの追加的変更が認められるか。
2
本件訴えの適法性に関し,
(1)
(2)

3
第5
1
本件訴えには確認の利益が認められるか。
控訴人には当事者適格が認められるか。

本件拒絶に正当な理由が認められるか。
争点に関する当事者の主張
争点1(1)(本件訴えは行訴法4条の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか。
)について

(控訴人の主張)
平成16年の行訴法改正により,行訴法4条後段の例示として「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が挿入された趣旨からすれば,公法上の法律関係「
に関する確認の訴え」は,行政の行為を契機として国民と行政主体との間で紛争が生じた場合の国民と行政主体との法律関係に関する確認の訴えをいうものと解される。本件訴えは,私法人である被控訴人と公共的性格は強いものの私法人である控訴人との間の法律関係に関する確認の訴えであり,国民と行政主体との法律関係に関する確認の訴えではないから,公法上の法律関係に関する「
確認の訴え」には該当しない。したがって,本件照会事項に対する報告義務の存否の確認手続は,民事訴訟手続で行うべきである。
(被控訴人の主張)
23条照会に対する報告義務は公法上の義務であるから,本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当することは明らかである。したがって,本件照会事項に対する報告義務の存否の確認手続には,行政事件訴訟法が適用される。
2
争点1(2)損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか。控訴審(
における訴えの追加的変更が認められるか。
)について

(控訴人の主張)
上記のとおり,本件照会事項に対する報告義務の存否の確認手続は民事訴訟手続であるから,損害賠償請求に本件確認請求を追加的に併合することは許されるし,損害賠償請求と本件確認請求とは,請求の基礎に同一性が認められるから,控訴審における訴えの追加的変更も認められる。
仮に,本件訴えが,広義に解釈した「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するとしても,控訴人と被控訴人は,公権力の行使主体とその相手方には当たらないという意味でいずれも私人であり,本件照会事項に対する報告義務の存否をめぐる紛争は私人間の紛争であるから,本件訴えは,第1義的には民事訴訟手続によるべきである。そうすると,損害賠償請求に本件確認請求を併合することは許される。
また,仮に,本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するとしても,本件確認請求に係る請求原因や訴訟資料は,損害賠償請求に係るものと共通であるから,損害賠償請求に本件確認請求を追加することは,訴えの追加的変更に準じて許されるし,第1審において損害賠償請求の審理が尽くされている以上,被控訴人の審級の利益を保護する必要はないから,本件確認請求を追加することについて被控訴人の同意は不要である。
(被控訴人の主張)
(1)

上記のとおり,本件訴えは「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に
該当し,本件確認請求は,請求の併合は同種の訴訟手続による場合に限るとする民事訴訟法(以下「民訴法」という。
)136条の要件を満たしていな
いから,損害賠償請求に本件確認請求を併合することは許されない。(2)

仮に,本件確認請求と損害賠償請求との間に請求の基礎の同一性が認め
られ,訴えの追加的変更が可能な場合があるとしても,控訴審において,民事訴訟に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を追加する場合,相手方の審級の利益に配慮して,その同意が必要となる。しかし,被控訴人は,控訴人が本件訴えを追加することに同意しないから,訴えの追加的変更は許されない。
3
争点2(1)(本件訴えには確認の利益が認められるか。
)について

(控訴人の主張)
確認の利益の有無の判断は,訴訟物が当事者間の具体的権利義務であるといえるかどうかに加え,訴訟物をめぐる紛争解決のための方法として確認訴訟が適切といえるか,確認判決が紛争の解決にとって有効といえるか(即時確定の利益があるか)という視点からされるべきであり,本件訴えについては,以下のとおり,確認の利益が認められる。
(1)

本件訴えの訴訟物が当事者間の具体的権利義務であること
確認の利益があるというためには,訴訟物が当事者間の具体的権利義務で
あることが必要であるところ,権利義務の具体性は,その主体及び内容の両面から定まる。本件では,照会の相手方及び具体的内容を定めたB弁護士による本件申出に基づいて,控訴人が被控訴人に対し当該具体的内容の報告を求めたのであるから,主体及び内容のいずれからみても,本件は控訴人と被控訴人との間の具体的権利義務の存否の争いであり,本件訴えの訴訟物は当事者間の具体的権利義務関係である。
(2)

本件訴えが紛争解決のために適切な方法であること
確認の利益が認められるためには,確認訴訟を選択したことが適切である
ことが必要であるところ,控訴人は,本件最高裁判決によって,被控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求が否定され,控訴人は,本件照会事項に対する報告義務の存否をめぐる紛争について給付の訴えを提起できない以上,その紛争解決のためには確認の訴えを提起するほかない。
また,夫婦の同居請求権や芸術作品の製作を求める請求権のように,例外的に,強制履行を求める権能がない給付請求権の確認が許される場合があるけれども,
公法上の義務については,
私法上の財産的請求権と変わりがなく,
強制執行手続によって実現されるべきものであればともかく,それ以外の公法上の義務又は請求権については,民事執行手続による旨の特別の定めがあるものを除き,その強制履行が民事執行手続によりできるとの見解が支配的ないし一般的であるという状況にはない。23条照会に基づく公法上の報告義務についても,弁護士会が公務所又は公私の団体に対し「報告せよ」との給付訴訟を提起できるか否かについて,裁判例も学説もない状況にあるし,仮にかかる給付訴訟を提起できたと仮定しても,当該給付判決に基づく民事執行の途が確立されているとはいえない。
したがって,公法上の義務である報告義務については,確認訴訟以外の紛争解決方式が存在するとはいえず,本件において,確認の訴えを選択したことは適切である。
(3)

本件訴えには即時確定の利益が認められること
紛争解決のために確認判決が必要であること
被控訴人が本件照会事項に対する報告義務を負うかどうかは,本件拒絶に正当な理由があるかどうかの判断を経て初めて決定されるところ,本件においては,この点に関する控訴人と被控訴人の判断が食い違っているから,裁判所が中立かつ公正な立場から既判力のある判断を示すことが必要である。また,正当な理由の存否についての中立かつ公正な裁判所の判断を仰ぐことは,23条照会制度の適正な運用を図るために照会権限を付与された弁護士会たる控訴人の責務である。


確認訴訟が紛争解決のために適切であること
23条照会に対する報告拒絶が正当な理由に基づくとの理由で本件確認請求の棄却判決が確定した場合,当該事案について弁護士会が重ねて23条照会をすることは,高度の公共性を持った弁護士会の性格上想定し難いから,報告義務を否定する確定判決の既判力によって,本件紛争の抜本的解決を図ることができる。
他方,本件確認請求の認容判決が確定した場合,照会先の任意履行を求めることになるが,確定判決の既判力を受けるにもかかわらず,公務所又は公の団体が報告義務の履行を拒絶することは想定し難いし,23条照会の相手方となることが多い金融機関や郵便・通信事業者は公の監督を受ける立場にあるから,既判力をもって確定された報告義務を履行しないことは想定し難い。しかも,被控訴人代理人の意見書(乙21)には,「今後
の弁護士照会に対する対応は,個別判決により照会に対する回答を行うべきとの判断が示されない限りは,郵便法8条2項を優先させざるを得ないと思います。
」との記載があり,本件確認請求が認容されれば,被控訴人
代理人は本件照会に対し任意に報告する意向であることを示しているし,被控訴人は,今後の対応方針を監督官庁である総務省に報告し(乙22),
総務省は被控訴人に対し司法判断に従うことを求めるから,請求認容判決が確定すれば,被控訴人は報告義務を任意に履行すると考えられる。また,本件照会に対する被控訴人の報告義務が守秘義務に優先するとの裁判所の判断がされれば,被控訴人は,Cから守秘義務違反を理由とする損害賠償を請求される危険がなくなり,被控訴人にとっても,本件をめぐる紛争が抜本的に有効適切に解決されることになる。さらにいえば,本件照会事項となっている転居届記載の新住所等について,被控訴人は全国の弁護士会からの23条照会に対する報告を拒絶している状況にあり,今後も,全国の弁護士会から反復的かつ継続的に同様の23条照会を受ける状況にあるから,本件において本件照会事項に対する報告義務の存否が確定されることは,既判力の主観的範囲を超えて,同種の紛争を抜本的に予防することになり,確認の利益を認めるべき根拠となる。
したがって,請求認容判決,請求棄却判決のいずれであっても,本件訴えは,紛争解決のために必要かつ適切であるから,本件訴えには即時確定の利益が認められる。
また,被控訴人は,控訴人が本件照会をして以降現在に至るまで,本件照会事項に対する報告義務を争い,これを報告する姿勢を全く見せておらず,被控訴人の控訴人に対する報告義務という控訴人の法律関係の不安・危険は現実的なものとなっているから,本件訴えには即時確定の利益が認められる。
(被控訴人の主張)
確認の訴えは,即時確定の利益がある場合(現に控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被控訴人に対する確定判決を得ることが必要かつ適切な場合)である限り許されるものであり,判断の基礎となる権利又は法的地位は,法的保護に値するほどに具体的かつ現実的なものでなければならない。
しかし,23条照会を受けた公務所又は公私の団体の報告義務は,弁護士会に対する公法上の義務とされるとはいえ,本件最高裁判決が判示するとおり,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは,飽くまで23条照会制度の適正な運用を図るためにすぎないから,弁護士会は,23条照会を受けた公務所又は公私の団体から報告を受けることについて,法的に独自に保護されるべき権利又は利益を有しない。したがって,弁護士会は,23条照会を受けた公務所又は公私の団体が報告義務を負うか否かに関し,危険又は不安が生じるような権利又は法律的地位をそもそも有しない。
また,23条照会制度において,弁護士会は,所属弁護士からの照会の申出が適当か否かを審査する立場にあるものの,所属弁護士からの照会の申出がなければ23条照会をすることはできず,弁護士会が主体的に照会をすることは条文上予定されていないし,
弁護士会は照会内容に関して一切の関わりがなく,
23条照会を受けた公務所又は公私の団体が報告義務を有するか否かについて利害関係を有することはないから,このような弁護士会が,23条照会の報告義務の存否が確認されることについて,法的に独自に保護されるべき権利又は法律的地位を有することはない。
しかも,弁護士法23条の2が弁護士会に対し23条照会に回答するよう求める権利ないし権限を与えたかどうかは,条文上明確ではないから,23条照会に基づく報告義務は,具体的な法的義務を定めたものではなく,倫理的な指針としての意味しか有しないというべきである。
したがって,本件訴えには,訴えの利益(即時確定の利益)は認められない。4
争点2(2)(控訴人には当事者適格が認められるか。
)について

(控訴人の主張)
確認訴訟においては,訴訟物たる権利関係の主体に当事者適格が認められるところ,本件訴えの訴訟物は報告義務であり,弁護士法23条の2第2項の規定に照らせば,報告義務の履行を求めることができるのは弁護士会である。そして,本件訴えに確認の利益が認められること,報告義務の存否についての中立かつ公正な裁判所の判断を仰ぐことは弁護士会たる控訴人の責務であることは,上記のとおりである。
したがって,控訴人に当事者適格があることは明白である。
(被控訴人の主張)
当事者適格は,本案判決をすることが無意味である者の訴訟を排除するために導入された概念であり,確認の訴えでは,確認の利益が認められるときは当事者適格も認められるのが原則である。
しかし,上記のとおり,控訴人は,本件確認請求の認容判決によって保護されるべき実体的権利や,判決のいかんによって享受できるかどうかが決まる法的利益を有しておらず,また,確認の利益を有していないから,控訴人には本件訴えに関する当事者適格は認められない。
5
争点3(本件拒絶に正当な理由が認められるか。
)について

(控訴人の主張)
(1)

23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し,社会正義を実現する
ことを使命とする(弁護士法1条1項)ことに鑑み,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたものであり,その適切な運用を確保する目的から,照会する権限を弁護士会に付与し,その権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,個々の弁護士の申出が23条照会の趣旨に照らして適当であるか否かの判断を当該弁護士会の自律的判断に委ねて,濫用的照会を排除する制度的保障を図るという2段階の構造を有している。
このような23条照会の趣旨によれば,
23条照会を受けた者は,
照会した弁護士会に対し,報告を求められた事項について報告すべき公法上の義務を負う。
(2)

他方,通信の秘密」憲法21条2項後段)とは,通信の秘密に属する通「


信内容や事務上の事項について調査,探求をしてはならないこと(積極的知得行為の禁止)通信事務取扱者が通信の秘密について知り得た事項につき秘,
密を守るべきこと(漏えい行為の禁止)を意味し,郵便法8条1項の「信書の秘密」は,憲法21条2項後段を受けてこれを具体化したものであるが,転居届は通信,信書そのものとはいえず,個々の郵便物とは離れて存在するものであって,転居届に記載された情報が報告されても,個々の郵便物の内容は何ら推知されるものではない。したがって,同情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しない。
もっとも,本件照会事項②ないし④は転居届に記載された事項であり,本件照会事項①はその前提となる事項であるところ,これらはいずれも郵便法8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たるので,被控訴人は同項に基づく守秘義務を負う。しかし,これらは個々の郵便物の内容に関する情報ではなく,単なる住居所に関する情報である。そして,住居所は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえず,その実質的な秘密性は低いと評価すべきであるし,本件照会事項に対する報告がされても,この情報を得るのは,控訴人のほか,照会申出をしたB弁護士及びその依頼者であるAの訴訟承継人のみであるから,これが知られる範囲は限定的である。
これに対し,23条照会は,上記のとおり,弁護士が受任した事件を処理するために所属弁護士会に照会申出をし,同弁護士会が照会を適当と認めた情報について報告を求めるものであるから,その制度趣旨からして,23条照会に対する報告の必要性は高いというべきである。
(3)

よって,被控訴人が本件照会事項を報告すべき義務は,郵便法8条2項に
基づく守秘義務に優越するから,本件拒絶に正当な理由はない。
(被控訴人の主張)
(1)

「通信の秘密」
(憲法21条2項後段)の保障の対象には,通信の内容の

みならず,通信の存在それ自体に関する事項,すなわち,通信・信書の差出人・受取人の氏名・住所・居所,差出個数,年月日等も含まれる。そして,郵便法8条1項の「信書の秘密」は,憲法21条2項後段の保障内容を,被控訴人が取り扱う信書に関して規定したものであり,その範囲は信書に関わる「通信の秘密」の範囲と同一である。
転居届に従って郵便物が転送される場合,転居届に係る情報は,個々の郵便物の宛て所そのものに成り代わり,
その郵便物の受取人の宛て所そのもの,
場合によっては宛名ともなるから,転居届に従って既に郵便物の転送がされた場合には,転居届に係る情報には当然に通信の秘密の保障が及ぶ。また,転居届を提出する郵便利用者は,郵便物の受取を前提として転居届を提出するのであるから,
一定期間のうちには当然転送されてくる郵便物が存在する。
したがって,転居届そのものが郵便物の転送を前提とした存在であり,転居届は個々の郵便物と密接に関係せざるを得ないから,転居届そのものが「通信の秘密」に準じて取り扱われる必要がある。
さらに,転居届の情報が「通信の秘密」信書の秘密」に該当しないとした「
場合,
「特定の郵便物の転送先住所・居所の開示」という照会の仕方であれば,係る情報は「通信の秘密」信書の秘密」に該当するとして開示されない「
ところ,転居届記載の住所・居所」として照会されれば,開示されるべきで「
ない情報が容易に保護の対象から外される結果となり,著しい不都合が生じる。そして,当初から特定の郵便物の転送先情報を得る目的で,転居届の情報について23条照会がされることもあれば,
制度の悪用という意図もなく,
単に照会事項の記載方法として,目的である特定の郵便物について触れずに転居届の情報のみについて23条照会がされることも考えられ,被控訴人としては,現行の23条照会制度の下では,当該照会の真の目的を判断することは不可能である。
そして,憲法上の保障である「通信の秘密」が23条照会に対する報告義務に優越することは明らかであるから,本件拒絶には正当な理由がある。(2)

仮に,比較衡量が必要であるとしても,次のとおり,郵便法8条2項に基
づく転居届に係る情報に関する守秘義務は23条照会に対する報告義務に優先するから,本件拒絶には正当な理由がある。
まず,
(ア)転居届に係る情報は,郵便物の転送のために被控訴人に提供される情報であって,
個々の郵便物の配達以外の目的で使用されることはなく,
開示することが予定されていない情報であり,憲法21条2項後段の「通信の秘密」の対象事項そのもの,若しくはこれと密接な関連性を有し,通信の「
秘密」に準じて取り扱われるべき情報であり,少なくとも郵便法8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し,守秘義務について明文の根拠がある。そして,イ)住所」情報の開示は,本来,住民基本台帳の閲覧(「
及び住民票の写しの交付に限定され(なお,電話番号については,このような情報開示の制度もない。,法文上,開示可能な場合が列挙され,ドメステ)
ィック・バイオレンス(以下「DV」という。やストーカーの被害者は,加)
害者の閲覧請求を拒否することが可能とされている。
(ウ)被控訴人の従業員
は,転居届に関して証人として尋問された場合に証言拒絶権を有するし,転居届は文書提出義務除外文書に該当する。
これに対し,
(エ)23条照会における報告義務は,弁護士法上明文の規定
がなく,法文上拒否事由や除外事由も規定されず,照会を受ける者に事前に意見を述べる機会も事後に異議を述べて争う機会もない上,DVやストーカーの被害者を保護する制度も設けられていない。しかも,
(オ)23条照会に
当たっての弁護士会の審査は,弁護士会ごとに差異が出ることが予想されるし,必要性,相当性等の判断が厳密でない場合もあるが,そのような場合であっても,弁護士会にはペナルティがない。
さらに,カ)
(仮に,
被控訴人が23条照会に従い情報を開示した場合には,
被控訴人が不法行為責任を負うリスクを負担せざるを得ない上,被控訴人が郵便法8条1項の「信書の秘密」を侵害した場合,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰則が定められているが,同項と同条2項は,その保障対象を明確に区別することは困難であるから,転居届に係る情報を弁護士会に報告しなければならないとすれば,被控訴人の業務従事者は重い罰則を科される危険を負担しなければならない。
これを本件についてみると,
(キ)本件照会事項は,Aの訴訟承継人が将来
にわたり強制執行手続をするために必要不可欠とはいえないし,少なくとも控訴人はその立証をしていない。これに対し,
(ク)被控訴人が本件照会に従
い本件照会事項を報告した場合には,23条照会に関する最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁(以下「昭和56年最判」という。の基準に当てはめると,開示対象者との関係で不法行為に該当)
する可能性があり,不合理である。
第6
1
当裁判所の判断
争点1(1)(本件訴えは行訴法4条の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか。
)について
(1)

23条照会制度の趣旨と報告義務の性質
23条照会制度は,弁護士が,基本的人権を擁護し,社会正義を実現する
ことを使命として法律事務を職務の内容とするとともに弁護士法1条1項,(
3条)
,民事訴訟における訴訟代理人(民訴法54条1項)及び刑事訴訟における弁護人刑事訴訟法31条1項)

となることが認められていること等,
我が国の司法制度の一翼を担っていることに鑑み,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,事件の適正な解決に資することを目的として創設されたものと解される。また,弁護士会は,弁護士及び弁護士法人の使命及び職務に鑑み,その品位を保持し,弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため,弁護士及び弁護士法人の指導,連絡及び監督に関する事務を行うことを目的としており(弁護士法31条1項)
,このような弁護士会の目的に鑑み,23条照会
制度の適正な運用を確保するため,照会の権限を弁護士会に付与し,権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,その申出が23条照会の制度趣旨に照らして適当であるかについて,弁護士会の自律的な判断に委ねたものと解される。
そして,上記のような弁護士の使命及び職務や弁護士会に加え,弁護士の資格並びに権利及び義務等を定める弁護士法は,我が国の司法制度に関与する主体としての弁護士及び弁護士会を規律する点からすると,国法の類型を公法と私法に分かつならば,公法の性質を有しているものと解される。そうすると,23条照会は,依頼者の私益を図る制度ではなく,事件を適正に解決することにより国民の権利を実現し,弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には,当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすという公益を図る制度として理解されるべきであるから,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,照会事項を報告すべき法的義務があるとともに,23条照会が公法の性質を有する弁護士法により認められた公益を図る制度であることに照らせば,その義務は公法上の義務であると解される(なお,後述するとおり,23条照会を受けた者に報告をしないことについて正当な理由があるときは,照会先は,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解される。。

(2)

23条照会に基づく報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関
する紛争についての訴訟手続

もっとも,23条照会に基づく報告義務が公法上の義務であり,弁護士会が司法制度に関与する主体として公共的・公益的な地位にあるとはいっても,弁護士会は国の機関や行政過程の主体となる法人ではないし,弁護士法は,23条照会に関し,これを発した後の照会先との権利義務関係の形成や照会先が報告を拒絶した場合の強制履行ないし制裁の規定を設けておらず,単に「報告を求めることができる。と規定するにとどまるから,」
弁護士会が23条照会に関し,公権力の行使の権限を付与されているとはいえず,行訴法上の「行政庁」に当たるとはいえない。また,照会先が公務所や公の団体であったとしても,照会先が23条照会に対する報告を拒絶する行為は事実行為であって行政処分でないことはもちろんのこと,所管する行政過程上の行為ということもできない。したがって,本件における控訴人と被控訴人との紛争が,行政過程における紛争といえないことは明らかである。


次に,
「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を訴訟手続の面からみ
ると,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟(抗告訴訟)を中心として定められた行訴法が,行政権行使の過程で生じる行政庁と国民との間で生じた紛争の解決を主眼とした訴訟制度であり,そのような行政権行使の過程の特質に応じて民訴法の特別法として定められたことは明らかである。さらに,平成16年の行訴法改正の際,行政過程の中で多用されながら,抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として国民と行政主体との間に紛争が生じた場合,実質的当事者訴訟の活用を図るため,実質的当事者訴訟の例示として「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が加えられた(甲61,63)ことからすれば,行訴法4条後段にいう「公法上の法律関係に関する訴訟」についても,国民と行政主体との間の紛争を予定していることが明らかであり,
「公法上の法律関係に関する確認の訴え」
が認められる行政主体との紛争は,行政処分を背景とし,あるいは後に行政処分が控えていることにより,現に存在する不利益を除去するための確認の利益が認められる場合であるということができる。
また,
「公法上の法律関係に関する確認の訴え」には,抗告訴訟の規定
の一部が準用されるが(行訴法41条1項。行政庁の訴訟参加〔同法23条〕
,職権証拠調べ〔同法24条〕
,判決の拘束力〔同法33条1項〕
,釈
明処分の特例〔同法23条の2〕,本件は,控訴人と被控訴人との間に)
おける本件照会事項に対する報告義務の存否をめぐる訴訟であり,かかる個別具体的な事案における判断が求められている事件であるから,他の関係機関なり団体の訴訟参加やこれらに対する判決の拘束力を認めたり弁論主義を排除したりする理由はないし,
本件では,
釈明処分の対象となる処

分又は裁決」は存在しない。そうすると,行政過程における紛争とはいえない本件において,行政過程の特質に応じた上記規定を本件の訴訟手続に準用する実益や必要性を見いだすことはできない。

したがって,本件訴えは,
「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に
該当するとしてこれに行政事件訴訟手続を適用するのではなく,原則に戻り,民事訴訟であると解するのが相当である。

2
争点1(2)(損害賠償請求に本件確認請求の追加的併合が許されるか。控訴審における訴えの追加的変更が認められるか。
)について
上記のとおり,本件訴えの訴訟類型は民事訴訟であると解され,損害賠償請求訴訟とは同種の訴訟手続であるから,損害賠償請求に本件確認請求を追加的に併合することは許される(民訴法136条)
。また,本件において,本件拒
絶に正当な理由があったか否かは,損害賠償請求が認められるか否かの判断の前提となっていたことは記録上明らかであるから,損害賠償請求と本件確認請求とは,請求の基礎に同一性(同法143条1項)が認められ,控訴審における訴えの追加的変更に相手方の同意は要求されていない(同法297条,143条)から,控訴人が控訴審において本件訴えを追加的に変更したことは適法である。
なお,仮に,本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当する余地があるとしても,上記のとおり,本件確認請求は損害賠償請求の判断の前提となっており,損害賠償請求の判断には本件確認請求の判断を含む関係にあった上,いずれも本件拒絶に起因し,控訴人が被控訴人に本件照会に対する報告を求める手段として提起された訴えであるから,両請求は請求の基礎を同一にするものにして,損害賠償請求に本件確認請求を併合することは,民訴法143条1項による訴えの追加的変更に準じて認められるというべきであるし,上記のとおり,本件では,他の関係機関や団体の訴訟参加を考慮する必要はない上,本件照会に対する報告義務の存否(本件拒絶の正当な理由の有無)は,第1審から審理の対象となっており,被控訴人が審級の利益を害されることはないから,行訴法41条2項,19条1項,16条2項の規定にかかわらず,被控訴人の同意を要しないと解するのが相当である。
3
争点2(1)(本件訴えには確認の利益が認められるか。
)について
(1)

対象選択の適否
確認の訴えが適法となるためには,確認の対象とされた法律関係ないし権
利義務が具体的であるとともに,確認訴訟を選択したことが紛争の解決にとって適切であり,確認判決が紛争の解決にとって有効であること(即時確定の利益があること)が必要であると解される。
そして,本件訴えで確認の対象とされたのは,具体的に特定された本件照会事項に対する被控訴人の報告義務であるから,対象の具体性は満たしていると認められる。
(2)

即時確定の利益
次に,被控訴人は,控訴人には,23条照会を受けた公務所又は公私の団
体から報告を受けることについて,法的に独自に保護されるべき権利又は利益を有しないから,本件訴えには即時確定の利益がない旨主張するので,先にこの点から判断する。
弁護士法23条の2が,23条照会制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,その申出が23条照会の制度趣旨に照らして適当であるかについて,弁護士会の自律的な判断に委ねたものと解されることは上記のとおりであり,弁護士会の照会権限は,飽くまでも制度の適正や運用を図るためにすぎないことから,照会先の報告拒絶に対し,弁護士会が独自の損害を被ったと主張してその賠償を受けることができる法律上の利益を有するものではないと解される。しかしながら,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,公法上の報告義務を弁護士会に対して負い,23条照会を拒絶する照会先に対して報告を促す権限と責務を負うのは弁護士会であるから,23条照会に対する報告義務の存否をめぐる紛争の主体は,弁護士会と照会先であるというほかない。そして,上記のとおり,23条照会制度は,弁護士が事件を適正に解決することにより国民の権利を実現し,弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には,当事者の立場から裁判所の行う真実の発見と公正な判断に寄与する結果をもたらすという公益を図る制度として理解されるべきであることに加え,照会先には公法上の報告義務が生じ,正当な理由がない限り,報告を拒絶することはできないと解されることに照らせば,報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関し,弁護士会と照会先の判断が食い違った場合でも,常に照会先の判断が優先されるならば,結局のところ,23条照会に対する報告の拒絶を自由に許す結果を招くことになり,我が国の司法制度の円滑かつ適正な運営に寄与している23条照会制度がその使命を果たすことは困難となる。また,照会権限を付与された弁護士会は,23条照会制度の適正な運用を図る責務を負っているというべきであるから,23条照会制度の使命を実現することができるか否かについては,制度の存続にもかかわる重大な利害関係を有しているといえる。そうすると,23条照会制度の趣旨及び弁護士会に課せられた責務に照らせば,弁護士会が23条照会制度を適正かつ円滑に運営し,その実効性を確保することは,法的に保護された弁護士会固有の利益であるということができるとともに,報告義務の存否(拒絶する正当な理由の有無)に関し,弁護士会と照会先の判断が食い違った場合には,司法判断により紛争解決を図るのが相当であると解される。本件においては,本件拒絶により,そのような控訴人の利益に対する現在の危険ないし不安が問題となっているのであるから,控訴人には法的保護に値するほどの具体的かつ現実的な法的地位はない旨の被控訴人の主張は採用することはできない(なお,被控訴人は,23条照会に基づく報告義務は,具体的な法的義務を定めたものではなく,倫理的な指針としての意味しか有しないとも主張するが,23条照会制度の趣旨に照らし,採用することができない。。

そして,後述するとおり,控訴人が本件確認請求を選択したことが紛争の解決にとって適切であると認められるところ,
本件確認請求が認容されれば,
被控訴人がこれに応じて報告義務を履行することが期待できることは,控訴人が主張するとおりであると認められる上,認容判決を受けた上での本件照会事項に対する報告であれば,被控訴人がCから守秘義務違反を理由として損害賠償を請求されても,違法性がないことを理由にこれを拒むことができるし,控訴人は,本件確認請求が棄却されれば,同一の照会事項による23条照会はしない旨明言しているから,本件照会事項に対する報告義務の存否に関する紛争は,判決によって収束する可能性が高いと認められ,本件紛争の解決にとって有効であると認められる。
そうすると,本件訴えには,即時確定の利益が認められるというべきである。
(3)

方法選択の適否
一般に給付訴訟が可能な場合には,給付判決を得た上でそれを執行する手
続に移行すればよいから,確認の利益は認められない。しかしながら,公法上の義務である23条照会に対する報告義務に基づき,23条照会に対する報告を拒絶する照会先に対して「報告せよ」との給付判決を求めることができるかについては,上記のとおり,弁護士法には報告拒絶に対する強制履行の規定がない上,照会権限についても「報告を求めることができる。」と規
定されるにとどまっていることからすれば,その許容性については疑義があるというほかない。仮に,給付訴訟が可能であるとしても,民事執行手続によって公法上の義務の履行を実現することはできないと解されるし,行政庁ではない弁護士会が行政代執行による義務の履行を求めることはできない。また,本件最高裁判決により,本件拒絶に対する損害賠償請求は否定されている。そうすると,控訴人が,訴訟手続を利用して本件照会に対する被控訴人の報告義務の存否の判断を得るには,確認の訴えという方法を採るよりほかないと考えられる。
もっとも,控訴人が本件確認請求の認容判決を得たとしても,結局のところ,被控訴人の任意の履行に委ねるしかないことは上記(2)のとおりであり,そのような強制力を背景としない確認の訴えを認めることが相当であるかという問題もあろう。しかしながら,本件照会に対する被控訴人の報告義務の存否について現に紛争が生じている上,そもそも本件照会は,Cに対する強制執行手続をするために必要不可欠な同人の住居所を把握して,訴訟上の和解に基づくAないしその訴訟承継人の権利の実現を図るという司法制度の実効性に関わる照会であるから,かかる紛争に対する司法判断が認められないという結論は相当とは解されない。しかも,被控訴人の任意の履行に委ねるしかないとはいっても,認容判決がされれば,その履行の蓋然性が見込まれる上,本件照会に対する報告に関し,Cからの損害賠償請求も阻止することができることに照らせば,本件紛争をめぐる問題の抜本的解決につながるということができる。そうすると,強制力を背景としないからといって,本件訴えを否定する理由はないと考える。
4
争点2(2)(控訴人には当事者適格が認められるか。
)について
上記のとおり,本件照会に対する報告義務の存否をめぐる法律関係は,控訴人と被控訴人との間で認められるものである上,本件訴えには確認の利益が認められるのであるから,控訴人に本件訴えの当事者適格がないとの被控訴人の主張は,採用することができない。

5
争点3(本件拒絶に正当な理由が認められるか。
)について
(1)

23条照会の対象とされた情報について,照会先において,当該情報を
使用するに当たり,個人の秘密を侵害することがないよう特に慎重な取扱いをすることが要求される場合もあり得るから,23条照会については,照会先に対し全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,照会先において,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解される。(2)

転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」及び郵便法
8条1項の「信書の秘密」に当たるか。

憲法21条2項後段は,
「通信の秘密は,これを侵してはならない。

と規定し,これを受けて,郵便法8条1項は,
「会社(被控訴人)の取扱
中に係る信書の秘密は,これを侵してはならない。
」と規定している。し
かしながら,本件で問題となっている転居届は,通信や信書そのものではなく,個々の郵便物とは別個のものである。そして,そこに記載された情報について報告がされても,
個々の通信の内容が推知されるものではない。
したがって,転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」にも郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないと解するのが相当であるから,被控訴人は,本件照会事項について,
「通信の秘密」や「信書
の秘密」に基づく守秘義務を負うものではない。
イ(ア)被控訴人は,転居届に係る情報について,個々の郵便物の受取人の宛て所そのもの,場合によっては宛名ともなることから,現実に郵便物が転送された場合,同情報には当然に「通信の秘密」の保障が及び,これと異なる判断は憲法解釈を誤るものである旨主張する。しかしながら,本件照会事項については,個々の通信とは関係のない情報としての転居届に記載された新住居所等の報告を求めるものであるから,
「通信の秘
密」
の対象となる事項であるとはいえず,
その保障が及ぶものではない。
(イ)被控訴人は,転居届は郵便物の転送を前提としており,個々の郵便物と密接に関係せざるを得ないから,転居届に係る情報については「通信の秘密」に準じて取り扱われる必要がある旨主張する。しかしながら,転居届は,郵便物を転送する前提のものであるとしても,具体的な郵便物を離れて転居先を一般的に明らかにするものにすぎず,その存在により直ちに個々の郵便物の転送の有無が明らかになるものではない。また,
「通信の秘密」の保障が,通信・信書の差出人・受取人の氏名・住所・居所に及ぶとしても,それは,当該信書等を通じて得た情報に関する積極的知得行為や漏えい行為の禁止を意味すると解されるから,転居届に記載された新住居所と同列に考えることはできない。したがって,転居届に係る情報について現実に転送された具体的な郵便物に関連する情報(個々の通信と結び付いている情報)に準じて取り扱われる必要があるとはいえない。
(ウ)さらに,被控訴人は,23条照会の真の目的が特定の郵便物の転送先を知ることにある場合の不都合性を指摘する。しかしながら,制度の悪用については,
その適切な運用を図るべき立場にある弁護士会において,
防止措置を講じるなど別途対処すべき問題であり,本件では,そのような照会事項とはなっていない上,Cに対する強制執行手続を行うために必要であるとして本件照会がされているのであるから,上記不都合性と本件拒絶における正当な理由の有無が直ちに結び付くわけではないというべきである。
(3)

郵便法8条2項に基づく守秘義務との関係
郵便法8条2項は,郵便の業務に従事する者が,郵便物に関して知り得た他人の秘密を漏えいすることを禁じている。そして,控訴人は,転居届に係る情報が「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たり,被控訴人が同項に基づく守秘義務を負うことについて争っていないところ,被控訴人は,上記守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると主張するので,以下検討する。


上記1(1)で説示したとおり,23条照会の制度は,事件を適正に解決することにより,国民の権利を実現するという司法制度の根幹に関わる公法上の重要な役割を担っているというべきである。そうすると,照会先が法律上の守秘義務を負っているとの一事をもって,23条照会に対する報告を拒絶する正当な理由があると判断するのは相当でない。被控訴人は,郵便法8条2項の守秘義務が,憲法21条2項後段を受けて定められていることを殊更に強調するが,国民の権利の実現や司法制度の適正な運営もまた,憲法上の要請にほかならない。したがって,報告を拒絶する正当な理由があるか否かについては,照会事項ごとに,これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量により決せられるべきである。

被控訴人は,郵便法8条2項に基づく守秘義務が優越する根拠として,(ア)転居届に係る情報が少なくとも通信の秘密に準じて取り扱われる情報であり,守秘義務について明文の根拠があること,
(イ)住所情報の開
示は本来住民票の写しの交付等に限定され,開示可能な場合も法文上列挙され,DV等の被害者保護の制度があること,
(ウ)転居届については,
被控訴人の従業員に証言拒絶権があり,文書提出義務除外文書に該当すること,これに対し,
(エ)23条照会における報告義務は,明文の規定が
なく,拒否事由や除外事由等も規定されておらず,DV等の被害者の保護の制度もないこと,
(オ)弁護士会の審査が厳密でない場合もあるが,そ
のような場合でもペナルティがないこと,
(カ)そうであるにもかかわら
ず,被控訴人が情報を開示した場合には,不法行為責任を負ったり,郵便法8条1項に基づく守秘義務違反について罰則を科されたりする危険があることなどを挙げる。
しかしながら,)(イ)及び(エ)については,転居届に係る情報が(ア,
通信の秘密に該当しないことは,上記(2)で説示したとおりであり,守秘義務についての明文の根拠があるからといって,直ちに守秘義務が報告義務に優越するとの結論が導かれるものではないところ,23条照会の制度趣旨に鑑みれば,報告義務が守秘義務に優越する場合もあることは認められる。また,23条照会の場合に,DV等の被害者保護の制度が設けられていないことは,被控訴人の主張するとおりであるが,23条照会は,弁護士が受任している事件について所属弁護士会に対し必要な事項の照会を申し出た上,当該弁護士会がその申出を適当と認めたときにされるものであるところ,弁護士は,受任している事件について必要な場合には,住民票の写しの交付等を職務上請求することが認められ(住民基本台帳法12条の3)
,DV等の被害者が支援措置の実施を求める旨の申出をした場合
であっても,弁護士による職務上の請求であれば,住民票の写しの交付等が認められる場合もあること(甲26,乙2)
,他方,日本弁護士連合会
は,23条照会の申出に対する審査基準のモデル案を作成し,控訴人は,これに基づいて,照会事項が個人の高度な秘密事項に関わるときは,①当該秘密の性質,法的保護の必要性の程度,②当該個人と係争当事者との関係,③報告を求める事項の争点としての重要性の程度,④他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かを総合的に考慮して,照会申出の必要性及び相当性を判断すること等を規定した基準を設けて23条照会の申出に対する適否を審査していると認められること(甲27,28),した
がって,住民票の写しの交付等に関する弁護士による職務上の請求に対する審査基準より,23条照会の申出に対する弁護士会の審査基準が緩いということはできず,他にそのように認めるに足りる証拠はないことに照らしても,DV等の被害者保護に欠けるということはできない。
(ウ)については,仮に,被控訴人が主張するように,その業務に従事する者について,証言拒絶権に係る民訴法197条1項2号が類推適用されるとしても,同号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう(最高裁平成16年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁)
。したがって,転居届に係る
情報であるとの一事をもって,
直ちに同号に基づく証言拒絶権があるとか,
同号を前提とする同法220条4号ハに基づいて文書提出義務を負わないということにはならない。
(オ)については,特定の情報について守秘義務を負う者は,当該情報を使用するに当たり,個人の秘密を侵害することがないよう特に慎重な取扱いをすることが要求されるというべきであるから,漫然と23条照会に応じ,その全てを報告した場合,守秘義務に違反したと評価されることもあり得るところである。しかしながら,23条照会については,照会先に対し,
全ての照会事項について必ず報告する義務を負わせるものではなく,報告をしないことについて正当な理由があるときは,その全部又は一部について報告を拒絶することが許されると解されることは,上記のとおりである。そうすると,守秘義務を負う照会先は,23条照会に対し報告をする必要があるか自ら判断すべき職責があるといえる。弁護士会の審査に不備があり得るとしても,被控訴人において,この職責を放棄し,常に守秘義務を優越させて報告を拒むことを肯定する理由にはならないというべきである。被控訴人は,不当な23条照会をした弁護士会にはペナルティがないというが,審査に不備があれば,照会先から責任を追及され得るところであるし,弁護士会に対する信頼の失墜を招き,照会の権限を弁護士会に与えた現行の23条照会制度の存続自体にも影響しかねないのであるから,弁護士会においても,厳密な審査をする動機付けは働くといえる。(カ)について,特定の情報に守秘義務を負う者が漫然と23条照会に応じた場合に,守秘義務違反と評価される場合があること,転居届に係る情報が,侵害について罰則の定めがある郵便法8条1項の「信書の秘密」に該当しないことは,いずれも上記のとおりである。また,事業者である被控訴人は,通信の秘密の保護の対象であるか,個々の通信とは無関係の情報であるかについて,自ら識別して情報を取り扱うべき立場にあり,かつそれが可能な立場にあるといえる(甲8,41,42)

被控訴人の主張は,いずれも採用することができない。

本件についての検討
(ア)報告することによって生ずる不利益について
本件照会事項は,個々の郵便物の内容についての情報ではなく,住居所や電話番号に関する情報であって,上記(2)のとおり,憲法21条2項後段の「通信の秘密」や郵便法8条1項の「信書の秘密」に基づく守秘義務の対象となるものではない。また,住居所や電話番号は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。そして,控訴人を含む各弁護士会は,会員である個々の弁護士に対し,
23条照会により得られた報告について,
慎重に取り扱うよう求め,
当該照会申出の目的以外に使用することを禁じ(甲16,17)
,依頼
者により情報の漏えいや目的外の使用がされることがないよう配慮することを求めるなどしているのであるから(甲58)
,本件照会事項に係
る情報が不必要に拡散されるおそれは低いと判断される。
しかも,
Cは,
訴訟上の和解によって自認した債務を履行すべき義務を負いながら,住居所を明らかにしないで義務の履行を免れている状況である一方,転居届をしていたならば,義務の履行を免れつつ郵便サービスの利益は享受しようというのであるから,Cの転居先という情報に限ってみても,報告することによって生ずる不利益を重視すべき理由は乏しいということができる。
この点に関し,被控訴人は,転居届に係る情報については開示が予定されていない旨主張する。しかしながら,転居届に係る情報は,公的な開示手続の面において,住民基本台帳に記載された住所情報とは異なるとしても,特定の郵便物の送付先を離れた情報としての住居所(郵便法35条によれば,転居届は,郵便物の送付先(転送先)を任意に指定するものではなく,転居先の住居所を届け出るものである。
)や電話番号
である以上,社会生活において一定の範囲の他者には開示されることが予定されているといえる。
(イ)報告を拒絶することによって犠牲となる利益について
本件照会の目的は,AがCに対し強制執行手続(動産執行)をするため,Cの住居所を知ることにあったと認められる。そして,動産執行を申し立てるに当たっては,債務者であるCの住所を明らかにする必要があるところ(民事執行規則21条1号)
,当時,Cは,住民票上の住所
には居住していなかったのである(乙1)
。そうすると,本件照会に対
する報告が拒絶されれば,Aの訴訟承継人は,司法手続によって救済が認められた権利を実現する機会を奪われることになり,これにより損なわれる利益は大きい。そして,本件照会事項①ないし③は,転居届の有無及び届出年月日並びに転居届記載の新住居所であり,
強制執行手続動

産執行)をするに当たり,これを知る必要性が高いといえる。この点につき,被控訴人は,本件照会事項は,将来にわたり強制執行手続をするために必要不可欠とはいえない旨主張するが,
採用することはできない。
これに対し,本件照会事項④は,新住居所の電話番号であるところ,これを知れば,さらに通信事業会社に照会するなどして,住居所についての情報を取得することができる可能性があるとしても(甲46),住
居所を知る手段としては間接的なものである。そして,B弁護士において,過去にCの電話番号を知っていたのであれば(甲2によれば,B弁護士は,別件訴訟の和解の際にCと対面しているから,これを知る機会が全くなかったわけではないといえる。,これに基づいて照会をすべ)
きである。他方,これまで知らなかったのであれば,上記のような手段としての間接性からしても,Cの電話番号を知る利益について,被控訴人の守秘義務に優先させるのは相当でない。しかも,動産執行を申し立てるに当たって,債務者の電話番号は記載事項とはされていない(民事執行規則21条)
。そうすると,本件照会事項①ないし③について報告を求めている本件照会において,さらに同④について報告を求める必要があったということはできない。

上記エの(ア)と(イ)を比較衡量すれば,本件においては,本件照会事項①ないし③については,23条照会に対する報告義務が郵便法8条2項の守秘義務に優越し,同④については,同項の守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると解するのが相当である。したがって,被控訴人には,本件照会事項①ないし③について,控訴人に報告すべき義務があるというべきである。
なお,被控訴人は,昭和56年最判の基準に当てはめれば,本件拒絶には正当な理由があった旨主張するところ,昭和56年最判の事案では,23条照会に対する報告が違法であり過失があるとの判断がされているけれども,その判決の要旨は,前科及び犯罪経歴に係る23条照会を受けた政令指定都市の区長が,照会文書中に照会を必要とする事由としては「中央労働委員会,京都地方裁判所に提出するため」との記載があったにすぎないのに,漫然と照会に応じて前科及び犯罪経歴の全てを報告することは,前科及び犯罪経歴については,従来通達により一般の身元照会に応じない取扱いであり,23条照会にも回答できないとの趣旨の自治省(現在の総務省)行政課長回答があったなどの事実関係の下においては,過失による違法な公権力の行使に当たるというものである。したがって,同判決は,当該事案についての事例判決というべきであるから,転居届に係る本件照会について,同判決への当てはめをするのは相当でない。被控訴人の主張は,採用することができない。


被控訴人は,本件拒絶に正当な理由があったことについて,その他るる主張するが,いずれも上記判断を左右するに足りない。
第7

結論
よって,当審における控訴人の予備的請求については,主文の限度で理由があり,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部

裁判長裁判官

揖斐
裁判官

池田信
裁判官

蛯名日
(別紙につき省略)
潔彦奈

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