判例検索β > 平成26年(ワ)第15717号
地位確認等請求事件
事件番号平成26(ワ)15717
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成29年2月23日
法廷名東京地方裁判所
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平成29年2月23日判決言渡
平成26年(ワ)第15717号

地位確認等請求事件

主1文
原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2
被告は,原告に対し,平成26年5月以降,本判決確定の日まで,毎月16日限り,93万1055円及びこれに対する各月17日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

3
被告は,原告に対し,491万6000円及びうち122万9000円に対する平成26年7月1日から,うち122万9000円に対する同年12月11日から,うち122万9000円に対する平成27年7月1日から,うち122万9000円に対する同年12月11日から,それぞれ支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は,これを40分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

6
この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1

請求

1
主文第1項及び第3項に同旨

2
被告は,原告に対し,平成26年5月以降,本判決確定の日まで,毎月16日限り,94万3565円及びこれらに対する各月17日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

3
被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成26年5月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2

事案の概要等
本件は,5年の期間の定めのある労働契約(以下「本件労働契約」という。)
に基づき被告の運営する病院(以下「被告病院」という。
)の歯科医長を務めて
いた原告が,歯科医療に適格性を欠く行為があり,部下職員を指導監督する役割を果たしていないなどとして,期間途中に普通解雇(以下「本件解雇」という。
)をされたが,やむを得ない事由はなく,本件解雇は無効であるとして,労働契約上の権利を有することの地位の確認を求めるとともに,未払賃金,賞与及び慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。
1
前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。

(1)

当事者等


原告は,F0大学を平成2年に卒業し,同年,国家試験に合格して歯科医師となり,同大学小児歯科医局員として大学に勤務するかたわら,同大学大学院に在籍し,小児歯科認定医(現在の専門医)の認定を受けた。平成13年4月にはF1大学小児歯科助手として赴任し,平成14年には同大学の講師となって,複数の障害者施設でも歯科医師として週一回程度勤務しており,平成25年10月には,障害者歯科認定医の認定を受けた。

被告は,健全な次世代を育成するための医療と研究の推進を目的とする独立行政法人である。

(2)

本件労働契約について
原告は,平成25年5月,被告のホームページで被告病院の歯科医長を募集していることを知り,同年6月にこれに応募した。被告は,同年8月12日に原告との面談等を実施し,同月23日付けで原告に採用の内定を通知し,平成25年11月1日付けで,年俸表1級,任期は平成30年10月31日までと指定された人事異動通知書を発令した。原告は平成25年11月1日から被告病院の歯科医長として勤務を開始した。


原告と被告との間の労働契約(本件労働契約)では年俸制が採られてお
り,救急待機手当と役職手当を除いた月額賃金は93万1055円,救急待機手当は月額8万7500円,役職特勤手当は月額1万2500円,毎月末日締め当月16日払い(16日が土曜日に当たるときは15日払い,16日が日曜日に当たるときは17日払い)とされていた(甲7)。

被告の職員給与規程によれば,年俸制適用者の賞与は業績年俸として,毎年6月1日及び12月1日時点で在籍する職員に対し,6月30日と12月10日にそれぞれ支給されるものとされている。業績年俸額は,初年度は理事長が決定した号俸により定まり,2年目以降は前年度の業績年俸額に当該職員の業績を考慮して100分の80から100分の120までの範囲で理事長が定める割合を乗じて得た額とするものとされている。原告の初年度号俸は,被告理事長により1級58号に位置付けられており,その業績年俸額は245万8000円である。
(甲31)

(3)

本件解雇に至る経緯
被告病院のF2病院長は,平成26年4月2日,原告を病院長室に呼び出し,スタッフから寄せられた原告に関する相談が25件に達しており,内容は伝えられないが,スタッフから信頼を得られていないため辞職を勧告すること,原告の治療レベルが一定レベルに達していないこと,すぐに辞めてくれとは言わないが,後は事務方と話し合うことなどを伝えた。F2病院長は,同日夕方には,被告の歯科スタッフを集めて,原告に退職勧奨をしたことを報告し,原告の前任者で非常勤となっていたF3前医長に対し,翌3日から毎日出勤するよう指示した。また,F2病院長は,同月分のオンコール当番表(24時間呼び出し担当医師の1か月の担当表。前月に提出される。
)の同月9日以降の原告の当番を全て取り消すよう歯科
スタッフに指示した。


原告は,同月7日,F2病院長と面談し,解雇理由を尋ねたところ,F2病院長は,スタッフから寄せられた相談は全て人間関係であると述べた。
原告が,スタッフは原告の治療を見ておらず治療レベルは分からないのではないかなどと質したところ,F2病院長は,上記アの面談時に技術の点を指摘したことは撤回し,人間関係の問題であるなどと述べた。

原告及びその妻は,同月15日,F2病院長と面談し,退職勧奨の理由とされる25件の内容を開示するよう求めたが,F2病院長は開示に応じなかった。


原告は,同月28日,面談したF2病院長から,部下をまとめきれず混乱を招いたこと,原告の担当した3件の症例を外部の歯科医師にみてもらったが,歯科医長として被告の歯科医療を遂行するには治療技術も適切でないことを指摘され,同月30日付けで退職するよう求められた。

被告は,同月30日,原告に対し,25件の解雇理由を挙げ,歯科医長として歯科医療に適格性を欠く行為があり,また,部下職員をまとめ指導監督する立場にありながら,これを果たしていないため,医療安全上問題があり,かつ,歯科医長として必要な適格性を欠くものと判断し,引き続き雇用しておくことが適当でないと認められるとして,同日をもって解雇する旨記載した解雇通知書を原告に交付した(本件解雇)
(甲6)


2
争点及び争点に関する当事者の主張
(1)

本件解雇の効力等(争点(1))

(被告)

原告は,歯科医師として必要な適格性を欠いていたため,被告は本件解雇を行った。具体的には,原告には,別紙1のとおり,解雇通知書に記載した25の解雇理由(以下,併せて「本件解雇理由」といい,別紙1左端記載の番号1から25までの個別の解雇理由を,それぞれ「本件解雇理由1」などという。
)があり,そのほかにも,別紙2のとおり,医療安全上問
題があり,かつ,歯科医長として必要な適格性を欠く行為(以下,併せて「本件問題行為」といい,別紙2左端記載の番号(1)から(19)まで
の個別の問題行為を,それぞれ「本件問題行為(1)
」などという。
)があ
った。その内容は,別紙1及び別紙2の各「義務内容」及び「義務違反」の各欄に記載のとおりである。

原告の医療行為は,医療安全上の問題を実際に生じさせ,あるいは,これを生じさせかねないことが多かった。患者の生命すら左右しかねない医療行為の現場に,医療安全上の問題を頻発させるような者を携わらせることは極めて危険であり,歯科医師及び歯科医長としての基本的な水準に達していない原告のような者を採用し続けることはおよそ不可能である。さらに,原告は歯科医長としての適切なコミュニケーションを図ることもできておらず,そのため多くの混乱を引き起こして医療安全上の問題を生じさせている。


本件解雇に当たって,被告は,原告に対し,問題とされた内容を平成26年4月当初の時点でF2病院長から通知し,意見を求めている。また,F3前医長も原告に対し,何度も注意したが,原告は一向に改めようとしなかった。原告の不適切な医療については,原告自身の歯科医師としての資質の問題であり,注意して振る舞いを直すという類いのものではない。したがって,本件解雇の手続に問題はない。


仮に本件解雇が無効であり,原告に労働契約上の権利を有する地位が認められたとしても,救急待機手当は当番をしたときに,役職特勤手当は休日出勤をしたときに,それぞれ加算されるものであるから,原告に支払われるべき賃金月額は,これらの各手当を除いた93万1055円である。
(原告)

本件労働契約は5年という期間の定めのある労働契約であり,やむを得ない事由がある場合でなければ期間途中で解雇することはできない。

本件解雇理由及び本件問題行為についての原告の反論は,別紙1及び別紙2の「義務内容への認否・反論」及び「義務違反への認否・反論」の各
欄に記載のとおりである。本件解雇にやむを得ない事由はない。

仮に被告の主張する解雇理由に該当する事実があったとしても,そのほとんどは一部スタッフとの人間関係に関する事柄であるところ,被告は,これらの事柄を原告に伝えることなく,改善のための努力を全く尽くさず解雇しており,やむを得ない事由に当たらない。治療技術を問題にしている点をみても,治療の現場を見ていない者による憶測である。


被告が解雇理由として主張するものは,カルテ等の客観的資料から直ちに認定できるものではなく,入念な聞き取り調査を行い客観的記録との整合性も検討してようやく推論として成り立つものであって,紛争の当事者である原告自身から事情を一切聞かずに本件解雇に及んでいること自体,客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当ではない。


被告は,原告の対人関係に問題があるように主張するが,コミュニケーション能力が欠けていたならば,被告の実施した考査を経て採用されることはないはずである。被告の指摘する点は,原告が医長の職に就いたことを快く思わないスタッフが原告を陥れるために悪評を立てたり,非協力的となったりして原告とコミュニケーションを図ろうとしなかったことによるものと考えられるが,それは当該スタッフのコミュニケーション能力や協調性の問題であって原告の問題ではない。


原告の医療技術に問題があるという指摘があり,改善の必要があれば,病院管理者としては指導をしたり,改善命令を出したりしてしかるべきところ,原告が就任中に診た患者は延べ770人に上っており,退職勧奨を受けた後も本件解雇がされた平成26年4月30日まで毎日患者の診察を続けており被告がこれを黙認していることからすれば,被告は原告の医療技術に問題がないと判断していたとしか考えられない。


以上により,本件解雇は無効であり,原告は,本件労働契約に基づき,被告に対し,平成26年5月以降,毎月16日限り,当番の回数により変
動する救急待機手当を除いた賃金月額94万3565円及びこれに対する各月17日からそれぞれ支払済みまで年5パーセントの割合による民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有する。(2)

慰謝料請求の成否(争点(2))

(原告)
F2病院長は,原告に対して退職勧奨を行うや,その日のうちに歯科スタッフにそのことを言いふらし,歯科スタッフがこれを流布したため,原告が退職勧奨を受けたことは第三者まで知るところとなり,原告は,被告の外にいる友人,知人から医療過誤でも起こしたかとの問合せを受けるまでになった。退職勧奨の噂を流布したこと及び後付けのように本件解雇が行われたことにより原告の名誉が毀損されたから,その精神的苦痛を慰謝するには少なくとも50万円が支払われるべきである。原告は,被告に対し,50万円及びこれに対する上記各行為があった日以降の日である平成26年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告)
争う。
(3)

賞与請求の成否(争点(3))

(原告)

被告において,年俸制適用者の賞与は業績年俸として支給されることになっており,原告は年俸制適用者として業績年俸の支給を受ける権利を有する。初年度は理事長が決定した1級58号に対応する245万8000円が支払われるべきであり,2年目以降は前年度の業績年俸に当該職員の業績を考慮して100分の80から100分の120の範囲で理事長が定める割合を乗じて得た額が支払われるべきものとされているが,原告の業績をマイナス査定する事情はないから,乗ずべき割合は100分の10
0を下らないといえる。

したがって,原告は,被告に対し,245万8000円を2分した122万9000円を,毎年6月30日と12月10日に請求する権利を有し,平成26年6月分,同年12月分,平成27年6月分,同年12月分の合計491万6000円の請求権が既に発生している。
原告は,
被告に対し,
上記各金額及びこれらに対する支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告)
被告の賞与制度及び原告が1級58号であったことは認めるが,2年目以降の原告にマイナス査定する事情がなく乗ずべき割合が100分の100を下らないことは否認し,原告が賞与請求権を有することは争う。第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件解雇の効力等)について
(1)

被告病院における診療内容,原告採用の経緯等について
前提事実(第2の1)
,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告病院の歯

科における診療内容,原告の採用に至る経緯として,以下の事実を認めることができる。

被告病院は,成育医療のモデル医療や高度先駆的医療をチーム医療によって提供することを基本方針に掲げており,その歯科では,小児歯科,口腔外科,障害者歯科,矯正歯科等の分野の診療を行うほか,心臓や呼吸器等の全身疾患を持つ患者に係る歯科治療,外傷等の救急医療,入院患者や手術前後の患者の口腔全般の管理等を行っているが,有病者の歯科医療,他院より紹介される患者の治療を優先して行っており,被告病院内の他部門の医師等との連携を要する場面も少なくなかった(甲3,乙72)。


被告は,平成25年10月1日採用予定である被告病院感覚器・形態外科部の歯科医長職を公募する旨の記事をホームページに掲示した。同記事
では,①日本小児歯科学会の定める専門医の資格又はこれと同等の資格を有すること,②小児歯科医療について豊富な臨床経験を持ち,必要な知識と指導力を有すること,③関連する他診療部(科)やコメディカルスタッフなどと協調・連携して診療に当たる高い能力を有すること,④医師,看護師,コメディカルスタッフなどに対し,専門領域についての研究指導及び教育を行う強い意志とリーダーシップを有することを応募の要件に掲げ,応募者には,履歴書,業績目録,代表的論文,現在までの臨床と研究の概要と被告における小児期の歯科診療及び研究活動への抱負を記載した書面,専門医証のコピー,推薦状などの提出を求めた。
(甲3)

原告は,平成25年6月に上記イの募集に応募し,同年8月12日に被告において選考のための面接を受けた。面接では,選考委員の前でプレゼンテーション30分とインタビュー60分が行われ,プレゼンテーションでは原告がスライドを使用しながらそれまで自分が行ってきた診療・研究・教育・情報発信及び被告での抱負などを発表し,インタビューでは原告の発表に関する質疑応答が行われた。選考委員には,当時の病院長,歯科が所属する感覚器・形態外科部の各診療科医長,事務方などが含まれていたが,歯科スタッフはこれに含まれていなかった。
(甲41,原告本人)

(2)

本件解雇の効力を判断する上で考慮すべき事情について
上記(1)の認定事実によれば,
被告病院は専門性・先進性を備えた医療行
為を行うことを標榜しており,歯科の診療内容をみても,一般の歯科医院からの紹介患者を広く受け入れるなどして,治療困難な患者や症例等に積極的に対応して高度な治療行為を行っているほか,被告病院の他部門と連携を取りつつ入院患者や手術予定患者の口腔管理を行っているというのであるから,被告病院で歯科医療に携わる場合には,一般的な歯科医療機関に従事する以上に歯科医療に係る高度な知識や技術,他部門と連携して医療行為を行うための協調性やコミュニケーション能力が必要とされており,
取り分け歯科医長の地位に就く者については,自身がこうした資質を備えるほか,こうした資質を備えた他の歯科医師その他のスタッフを指導し,統率する能力が求められているということができる。被告が歯科医長を募集した際に掲げた上記(1)イの要件等や相応に高額の給与等が保障されていること(前記前提事実(2)イ,ウ)にも,これらの点が反映されているものとみることができる。

他方で,歯科医療行為に係る知識や技術については,それ自体高度な専門性を有する事柄であり,当該患者の身体の状況について実際に得られた具体的な情報を基に,当該患者の意思・希望や,治療行為を行う際の人的・物的態勢等を踏まえつつ,その都度適切な治療行為を選択して実施すべきことからして,その治療行為の選択には担当する歯科医師に相当広範な裁量が認められることも論をまたないところである。被告は,本件解雇の理由として,原告のした多数の治療行為について医療安全上の問題があったことを指摘するが,上でみたような医療行為の特性を踏まえるならば,治療行為が解雇の理由として考慮に値するようなものに当たるか否かは,当該治療行為が相当な医学的根拠を欠いたものか,実際に当該治療行為が行われた患者の身体の安全等に具体的な危険を及ぼしたか,治療行為に際して認められる裁量を考慮しても合理性を欠いた許容できないものといえるかといった観点からの検討が不可欠なものということができる。


以上のような観点を踏まえつつ,本件労働契約は有期労働契約であり,その解雇はやむを得ない事由がなければできないものとされていることから(民法628条,労働契約法17条1項)
,被告主張の解雇理由がやむを
得ない事由に当たるか否かについて順次検討を加える。なお,被告は,25の本件解雇理由及び19の本件問題行為と多岐にわたる解雇理由を主張するところ,これらのうち,まず,F3前医長作成の陳述書(乙79)において個別的に言及されるなど,被告が詳細な主張立証を展開している本
件解雇理由3,6,13,15,16及び18から22まで,並びに,本件問題行為(1)(2)(4)(6)(9)(11)(13)及び(14),





について検討を加え(後記(3))
,続いて残りの本件解雇理由及び本件問題
行為について検討を加える(後記(4))

(3)

被告主張の解雇理由の個別的な検討
本件解雇理由3について
(ア)

被告は,頭を大きく動かす患者に対しては怪我をしないよう頭を支
えて固定しながら治療すべきところ,
原告は,
平成25年11月20日,
そうした患者について頭部を固定することなく治療を継続し,患者の身体への危険を高め,医療安全上極めて危険な行為があったと主張する。(イ)

証拠(甲32,33,42,46,乙3の1から3まで,乙4の3,
乙26,79,81の1及び2,原告本人,証人F3)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は5P-synd(5番染色体短腕部分欠失症候群:重篤な発達障害を特徴とする常染色体異常)であるところ,当該疾患の患者は精神遅滞が重度であってIQは20から30程度であり,自傷行為が高頻度で見られ,ADHD(注意欠陥・多動性障害)の所見も半数に見られること,原告は,平成25年11月20日,当該患者の診察を行い,レストレイナー(身体抑制具)
(小)を使用したこと,この日
の診療内容は歯磨きであり,
同日のカルテには,
「知的障害のため歯科治
療に不協力なので,抑制具の使用」と記載したこと,同年12月10日に動揺歯があるとして診察の予約が入り,原告が担当医として当該患者を診察したこと,平成26年1月27日,当該患者側から急患として抜歯希望の連絡があり,F4歯科衛生士は,午前10時30分からF3前医長を担当として予約を入れ,
F3前医長が診療を担当したこと,
同日,
原告は午前11時から全身麻酔の手術の予定があり,午前11時14分に手術室に入室したこと,当該患者側の希望でF3前医長が担当となり
同年3月11日に当該患者の抜歯をしたことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者には知的障害があり,歯科治療に
非協力的であり,首を振るため抑制する必要があったことは認められるが,平成25年11月20日の診療内容は歯磨きであり,レストレイナーの使用が必須である診療とは認められない上,実際にも原告の診療方法により当該患者に怪我が生じたなどの事実は認められない。平成26年1月27日には当該患者が当日の急患として来院し,担当医が原告からF3前医長に替わっているが,原告には当日午前11時から別件の手術予定があったことからすれば,担当医の変更が原告に問題があったことが理由になっていたとは限らない上,当該患者側から原告の医療行為に苦情が述べられたことを裏付ける的確な証拠はない。以上に照らせば,原告の医療行為に問題があったとは認められない。
なお,仮に当該患者側が原告の医療行為を避けて担当の変更を申し出たとしても,直ちに原告の診療方法に医学的な問題があったということはできず,解雇理由として考慮すべき事情であるとは認められない。イ
本件解雇理由6について
(ア)

被告は,誤嚥の危険性の高い患者に対しては動揺歯を予防的に抜歯
する等の処置により誤嚥の危険性を除去すべきところ,原告は平成25年12月17日に動揺歯を放置したことによって誤嚥の危険性の高い患者の身体の危険を惹起させており,医療安全上極めて危険な行為があったと主張する。
(イ)

証拠(甲11,42,乙6の1から3まで)及び弁論の全趣旨によ
れば,当該患者は,脳瘤(先天性)
,脳形性異常,脳梁欠損などのある7
歳女児で,平成25年12月17日時点で経口摂取をしていたが,胃ろうを使用することもあり,車いすを使用して養護学校に登校していること,足部覆い式のSLB(短下肢装具)を作製され,リハビリテーショ
ン科においてできるだけ座位を取るよう指導されていること,F3前医長は,平成24年9月4日,当該患者を診察した際,6本の前歯の乳歯を動揺度「M3-4」と評価した上で自然脱落を待つという判断をしたこと,原告は,平成25年12月17日,総合診療科の担当医師であるF5医師からの依頼により当該患者を診療し,1本の乳歯の動揺が強いことを確認したが,過去の診療記録を見て,自然脱落を待つという記載があったため,保護者と相談の上今回も自然脱落を待つが,次回脱落していないようであればF5医師に確認の上抜歯することとして,その旨をカルテに記録したこと,当該患者の保護者は総合診療科でF5医師から可能なら抜歯してほしいとの説明を受け,再び歯科へ行ってF5医師の説明を伝え,これを受けて原告が抜歯をしたことが認められる。(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者に対して前医であるF3前医長も
6本の乳歯が動揺歯であっても自然脱落を待つという判断をしている点,当該患者は経口摂取しており嚥下能力はある点,車いすにて養護学校に登校し,SLBを作製されたり,できるだけ座位を取るよう指示されたりしており,完全な寝たきり状態とまでは認められない点などを踏まえると,当該患者について自然脱落した動揺歯の誤嚥の危険性が高かったとまでは認められない。以上に加え,F3前医長が以前に自然脱落を待つという判断をした6本の乳歯と原告が平成25年12月17日に抜歯を行った動揺歯とは,被告が指摘するように前歯と犬歯という違いはあるにせよ,動揺歯を抜歯しないことによる危険性の程度に明確な差異があるとまでは認められないこと,カルテの記録によれば,原告は同日保護者と相談の上動揺歯の様子を見るという方針を取り,次回抜歯をする方針をカルテに記録したものの,その後当該患者の診察を行ったF5医師の意向を踏まえ,同日の内に当該動揺歯の抜歯を行ったという経過に照らせば,原告の医療行為に問題があるとは認められない。

本件解雇理由13について
(ア)

被告は,患者を診療する際には従前のカルテを確認すること及び症
状やそれに対する治療方法について患者や保護者の訴えに真摯に耳を傾け,適時適切な治療をすべきであるところ,原告は,平成25年12月25日に診療した患者の口内炎の症状を軽視し,保護者からマウスピースの作製などの処置を求められたにもかかわらず,何らの治療も行わなかったため,当該患者は被告病院で治療を受けることを諦め,大学病院での受診を余儀なくされており,当該患者や保護者に大きな不安を生じさせたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,46,乙13の1から3まで,乙79,原告本人,
証人F3)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は,平成17年11月以降被告病院で診療を受けており,F3前医長が担当し,舌咬傷に対してはマウスピースを作製して対処したことがあったこと,当該患者は,平成25年12月3日に口内炎ができ,同月7日,F6病院を受診して治療を受け,同月11日,同月13日,同月26日,平成26年1月4日,同月8日,同月17日,同年2月1日,同月20日,同年3月15日,同月28日にも同病院で治療を受けていること,この間,平成25年12月26日には,マウスピースを作製し,症状を見て細胞診をすることとし,
平成26年1月8日に細胞診を施行したこと,
一方,
原告は,
平成25年12月25日,当該患者を診療したが,同日のカルテには口内炎についての記録がないこと,平成26年1月22日,同年2月24日にはF3前医長が当該患者を診療して,同日のカルテに「昨年12月に咬傷,F6にて処置してもらう。上下TP装着している。
」と記録,F
4歯科衛生士も,同日のカルテに,
「咬傷は12月から,1か月ほどで治
ると言われたとのこと」と記録していることが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者は,平成25年12月25日に原
告の診療を受ける前からF6病院において口内炎の治療を受けており,同日の原告の診療の前後を通じて同病院での治療を継続する予定があったと認められる上,被告病院及びF6病院のカルテからは,同日の被告病院での診療の際,当該患者及び保護者が原告に対し口内炎の治療やマウスピースの作製を求めたにもかかわらず原告がこれを放置したという事実をうかがわせる記録は見当たらない(なお,平成26年2月24日の被告病院のカルテ(乙13の2)には「1か月ほどで治ると言われた」との記載があるが,これはF6病院の医師の発言である可能性もあり,原告の発言とは即断できない。。このように,当該患者がF6病)
院において口内炎の治療を継続中であることや患者の当日の症状等を踏まえ,原告が特段の処置をせずに経過観察を選択したとしても歯科医師としての裁量の範囲内の行為というべきであるから,原告の医療行為に特段問題があったとは認められない。

本件解雇理由15について
(ア)

被告は,歯科治療経験が少なく恐怖心の強い小児患者に対しては治
療内容の説明の仕方を工夫し,安全かつ継続的に治療できるよう工夫すべきところ,平成26年1月9日,原告は当該患者に対し,
「これから歯
茎に穴を開けます」等と発言し,不必要に恐怖心をあおり号泣させたと主張する。
(イ)

証拠(甲35,42,乙15,73)及び弁論の全趣旨によれば,
当時8歳であった当該患者は,平成25年11月29日,6歳臼歯が生えてこない件で他院から被告病院を紹介され,原告は,同年12月18日に当該患者を初めて診察し,嚢包を摘出しその後6か月から1年くらい経過を見て歯の萌出性の動きが見られないときは歯の牽引を検討するという治療方針を立てたこと,平成26年1月9日,当該患者に対し萌出困難歯開窓術を行い,その際,
「これから歯茎に穴を開けます。
」と

発言し,
同月10日の診療の際は,
当該患者の患部の洗浄,
消毒を行い,
昨夕に痛みは少々あったが当日は特段の問題がないことを確認したこと,同年3月27日の診療の際,当該患者が永久歯が生えてこないと述べたため,原告が再開窓を提案したところ,保護者は自宅で相談してくると答えたことが認められる。
(ウ)

上記認定事実のとおり,原告は平成25年12月18日に当該患者
を初診し,嚢包摘出の治療方針を立て,平成26年1月9日の開窓術施行の際に「歯茎に穴を開けます。
」と発言したことが認められる。しかし
ながら,原告は,歯科治療に恐怖心を抱く小児であっても,自分が何をされるかの説明もしないで治療することは危険であり,患者の理解度に応じた分かりやすい説明を行い,患者に治療内容を良く理解してもらう必要があるとの考え方に基づき,当該患者への説明をしたというのであり
(甲42)このような治療方針や見解が歯科医師として適切さを欠い,
ていると一概にはいえないし,
「歯茎に穴を開けます」という発言も,上
記治療方針等を踏まえると当該患者の恐怖心を殊更あおる不適切な表現であるとも解されない。仮に上記発言により当時8歳の当該患者が歯科治療に一定の恐怖心を抱くことがあったとしても,そのことをもって原告の発言に歯科医師として殊更問題があったということはできない。その他,当該患者に対する原告の医療行為に問題があったことを認めるに足りる証拠はない。

本件解雇理由16について
(ア)

被告は,
脳外科の手術を控えた患者について,
被告病院では手術中・

手術後の咬傷防止のためにマウスピースを装着する対応が採られており,その旨原告も着任時に引継ぎを受けていたところ,原告は平成26年1月15日に脳神経外科の主治医であるF7医師からマウスピースの作製依頼を受けたにもかかわらず簡易な「パテ」を作製して対応した
ため,実際の手術で当該パテを使用することができず,患者に不利益を与えたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙16の1から3まで,乙71,74)及び弁論の
全趣旨によれば,F7医師は,平成26年1月15日午前9時07分,当該患者のカルテに,原告に対する院内対診依頼書という表題の項目に同日午後2時から午後3時頃入室予定で手術予定の当該患者の周術期に使用するマウスピースの作製を依頼する旨を記録したこと,原告は,同日午後1時45分,午後2時から当該患者を診療する予定を入れたが,手術開始までに時間が迫りマウスピースを作製する時間的余裕がなかったことから,F7医師とも相談の上,午後2時08分頃当該患者のパテを作製し,午後2時16分,同医師に対しマウスピース(パテ)を作製した旨回答したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告が当該患者の診療の予定を入れたのは
手術当日の午後1時45分頃であって,F7医師からの依頼内容を把握したのもその頃であったと考えられ,当該患者の手術までに時間が迫り,マウスピースを作製する時間的余裕がなかったことから,脳神経外科のF7医師とも相談の上マウスピースの代わりにパテを作製したものと認めることができる。そうすると,原告の上記対応に不相当な点があったとは認め難く,原告の上記対応により当該患者に具体的な危険や重大な不利益が生じたともにわかに認められない。なお,当該患者の診療時刻が手術予定時刻に接近して設定されたことについて,原告に何らかの責任があったことをうかがわせる証拠は見当たらない。

本件解雇理由18について
(ア)

被告は,誤嚥リスクが非常に高い患者を診察する際,唾液の誤嚥を
予防するため,吸引器具で唾液を吸引しながら歯科治療を行うべきところ,原告は,平成26年1月22日,こうした患者に対し,吸引器具の
届かない歯科治療ユニットを使用して,吸引を怠ったまま診療したと主張する。
(イ)

証拠(甲15,42,乙18の1及び2,乙77の1から3まで)
及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は,嚥下障害のある26歳男性であり胃ろうによるペースト食であったこと,原告は,平成25年11月27日,当該患者を診療する際,誤嚥の危険性を回避するため,舌前方に大きめのガーゼを置いて,プラークや歯石が落ちても回収できるようにしたこと,F4歯科衛生士は,同日,当該患者に対しバキュームを使用しながら歯磨きしていると,血中酸素濃度が低下しアラームが鳴り始めたことから,酸素吸入をしながら続行し,途中気管内吸引を行ったこと,原告は,平成26年1月22日,当該患者を診療する際,吸引器具の届かないユニットを使用しようとしていたが,直前に吸引器具の届くユニットが空いたため,同ユニットを使い,誤嚥防止のためガーゼを使用し診療したこと,原告は,同年2月19日,吸引器具の届くユニットが他の患者でふさがっていたため,吸引器具の届かないユニットを使用したことがあることを保護者に確認した上,同ユニットで診療し,誤嚥防止のために水を使わない手用スケーラーで歯石を除去し,唾液は角綿で吸い取って対応したこと,同年1月22日及び2月19日の診療時に誤嚥等の問題が生じたことをうかがわせるカルテの記録はないことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者は誤嚥リスクのある患者であると
はいえるものの,吸引器具の届くユニットでなければ誤嚥リスクが高かったとまではにわかに認められない上,原告は当該患者に対し一定の誤嚥防止措置をとりながら歯科治療を行っており,原告の医療行為により当該患者に誤嚥等の具体的な危険が生じた事実は証拠上認められないことなどに照らすと,原告の医療行為に問題があるとは認められない。

本件解雇理由19について
(ア)

被告は,研修医は指導医の下で適切な指導を受けながら患者の診療
に当たるべき立場であり,医療安全の観点からも研修医の診療が指導医の下で行われることは必須であり,研修医に処置させる場合は指導医が同席し,患部を目視した上で治療方針を判断し,処置内容を指示すべきところ,原告は,平成26年1月24日,自身が不在の時間帯に急患を来院させ,他の歯科医師に当該患者の診療を依頼することもないまま,研修医であるF8歯科医師に診療を指示し,同医師から診療内容を相談されたときも,直接患者を診ていない状態で診療内容を指示したと主張する。
(イ)

証拠(甲42,46,乙19,55,73,79,原告本人,証人
F3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,当該患者を平成25年12月4日及び同月18日に診療し,平成26年3月12日にも診療の予定を入れていたところ,当該患者は,同年1月24日朝,歯が欠けてしみるとして同日午前10時から診療予約を取ったこと,原告は,保護者からの電話を受けた際,予約票の個々の医師の名称が記載された欄とは異なる位置に当該患者の名前を記載したこと,カルテにはF4歯科衛生士のIDで
「予約枠名称(原告),
」「oncall:お待たせすること確認済み」
と記録されていること,F9歯科医師が当該患者の同日の診療を担当し,F8歯科医師が鎮痛薬を処方したこと,その際,F8歯科医師が原告の携帯電話に電話し,治療方針を質問したところ,原告はこれに回答し,F9歯科医師とも電話で話してF8歯科医師への指導を依頼したこと,当日のオンコール当番はF10歯科医師であったこと,同月27日,原告が当該患者を再度診療すると,同月24日の診療後,週末に患部の痛みなどの症状は出なかったと聞いたことなどが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,同月24日の当該患者の診療予約につき原
告が手書きした予約票の記載は欄外にあり,原告が診療を担当する時間帯の予約枠に当該患者の予約を入れたとは認められないこと,カルテの同日の予約枠が原告となっているが,これを入力したのはF4歯科衛生士であると考えられること,当日のオンコール当番はF10歯科医師であるが,それと異なるF9歯科医師が当該患者の診療を担当したとすると,原告からあらかじめF9歯科医師に対して何らかの連絡や依頼があった可能性もあること,原告はF8歯科医師からの電話連絡に対し当該患者の治療方針を伝えるとともに,F9歯科医師にF8歯科医師への指導を依頼していること,実際に当該患者への診療はF9歯科医師も行っており,研修医のF8歯科医師一人が行ったわけではないことなどに照らせば,原告の対応に直ちに問題があったとは認められないというべきである。

本件解雇理由20について
(ア)

被告は,ICU回診の際には事前に回診対象の患者のカルテを十分
確認し,前医からの伝達事項を注意して聞かなければならないところ,原告は,平成26年2月14日,ICUにおいて人工呼吸器管理中の患者につき,前医であるF10歯科医師からパテは片方ずつ使用する旨の伝達を受けていたにもかかわらず,両方装着するものと誤解し,実際に装着すると不適合であったとして片方のパテを使用しないように担当医や看護師に説明していたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙20)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は,
ICUにおいて人工呼吸器管理中であり,当該患者を診療したF10歯科医師は,舌腫脹があり歯列外へ舌のはみ出しがあるため,左右のパテを作製し,側臥時に顔の下側になる方にパテを装着するよう指示し,平成26年2月12日にも当該患者を診療してパテ使用の継続を指示し,同日のカルテに「パテ

左側に挿入中だが,前庭部に外れている」「自


分ではずすことはないとのこと
(担当看護師より)と記録していること,

原告は,事前にF10歯科医師から当該患者に使用しているパテについて伝達を受け,同月14日,当該患者を診療し,右側のパテを使用した状態で左側のパテもつけてみて,左側は不適合と判断し,右側のパテを使うよう看護師に指示したこと,F10歯科医師は,同月17日,当該患者を診療し,パテが上下逆に使用されていることを確認したこと,当該患者がパテの高径以上に開口しておりパテを挿入する必要なしとして,パテの使用を中止したこと,F10歯科医師は同日のカルテに「右側に左側のパテを上下逆にして使用中」と記録したこととなどが認められる(乙20)

(ウ)

上記認定事実によれば,F10歯科医師が同月12日に当該患者を
診療した時点で左側のパテが前庭部に外れていたことからすれば,原告が同月14日に診療し,左側のパテを不適合と判断したことに問題があるとはいえないし,その際右側のパテが適合することを確認した上で,右側のパテを装着し開口を保持した状態にして左側のパテを装着しその不適合を確認したとしても不合理とまでは認められない。また,原告は当該患者の同月14日のカルテに,左側のパテは不適合とし,右側のパテの使用指示を記録しているのであるから,同月17日にパテが上下逆に使用されていたのは,看護師の誤解に基づくものである可能性が高いというべきであり,原告の指示が誤っていたとは認められないことからすれば,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由21について
(ア)

被告は,原告が,平成26年2月19日,脳神経外科の手術時に使
用するマウスピースの作製依頼を受けたにもかかわらずシリコンパテを作製し,脳神経外科から作り直しを求められ,患者に余計な負担を負わせたと主張する。

(イ)

証拠(甲42,乙21,71)及び弁論の全趣旨によれば,当該患
者には,平成26年2月24日に松果体部奇形腫の脳神経外科手術が予定されていたこと,脳神経外科のF7医師は,同月19日,歯科に対しマウスピースの作製を依頼したこと,
原告は,
同日,
当該患者を診療し,
上顎左側乳中切歯が動揺2度と判断した上,右側に装着するシリコンパテを作製したこと,F7医師は,同月20日,F9歯科医師に対し,原告が作製したシリコンパテは製作依頼したものと違うとして再製作を依頼したこと,原告は,F9歯科医師と話し,一般的なマウスピースの作製方法を尋ね,同日中に当該患者の歯列全体を覆うタイプのマウスピースを作製し,当該マウスピースは問題なく使用されたことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告が当初作製したシリコンパテはF7医
師の希望したものと違っており,F9歯科医師に再作製の依頼があったことから,原告はF9歯科医師に作製方法について質問した上でマウスピースを作製した事実が認められるが,手術までにマウスピースの作製を間に合わせ,問題なく使われているのであるから,患者が再度の診察を受けたことを一定の負担とみる余地があるにしても,特に大きな負担とまではいえず,原告の上記医療行為を捉えて解雇理由として考慮できるような事情であるとは認められない。
なお,被告は,原告が当該患者の上顎左側に動揺歯があったことを理由に右側のシリコンパテを作製したなどと説明していたことを捉えて,手術前の当該患者に動揺歯があったのであれば,主治医に確認の上抜歯をすべきであったとも主張するが,当該患者の当時の状態に照らして動揺歯の抜歯が必須であったことの立証はないから,被告の上記主張を採用することはできない。

本件解雇理由22について

(ア)

被告は,パテの作製に当たっては,それが破折することのないよう
適切な形態で作製しなければならないところ,原告は,平成26年2月26日,パテの舌側(歯の内側)部分を薄く作製するという危険な対応を行い,結果的に当該部分が破折するという医療安全上重大な問題を生じさせたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙22,56の1及び2)及び弁論の全趣旨によれ
ば,当該患者は,急性脳症によりICUにて治療中の6歳男児であるところ,ICUは,平成26年2月26日,歯科に対し,舌腫脹が出ているとして診察を依頼し,原告が,同日,当該患者を診療して,舌の犬歯付近に圧痕を認めたためパテを作製し,
舌咬傷を予防したこと,
その際,
頬側よりも舌側を薄く作ったこと,原告は,同日のカルテに「舌側のシリコンが薄い。
」と記録したこと,ICUは,同月28日,歯科に対し,
舌が大きくなって咬みそうなので,両側にパテが必要かと問合せがあったこと,原告は,同日,当該患者を診療し,前回作製したパテの一部が破損していたため,
やや厚みを持たせてパテを再作製したこと,
原告は,
同日のカルテに「前回作成したパテの薄かった部分が破折していた。,」
「開口量1cm程度」と記録したこと,原告が作製したパテに関して患者に特段危険が生じたとのカルテの記録は見当たらないことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告が当初作製したパテの薄い部分が破折
した事実が認められるものの,患者の動作等により一定の厚みを持ったパテであっても破損が生じる可能性も否定できない上,原告の行為が当該患者に大きな危険を及ぼすものとまでは認められず,医療安全上重大な問題を生じさせたとはいえない。

本件問題行為(1)について
(ア)

被告は,原告が,平成25年12月18日,動揺の激しい歯の存在
を確認しながら,その全てを抜歯しなかったため,当該患者はその後脱落した歯を誤嚥しており,平成26年12月19日,全身麻酔下の右気管支異物除去の手術を実施して脱落した前歯を取り出したと主張する。(イ)

証拠(甲21,43から46まで,乙27から31まで,乙58の
1及び2,乙69の1及び2,乙70の1及び2,乙75の1及び2,乙78,79,原告本人,証人F3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成25年12月18日,当該患者を診療し,上顎両側乳中切歯,下顎両側乳中切歯の動揺が激しいと認め,次回の定期検診時に乳歯が自然脱落していないときは抜歯するという方針を立て,平成26年2月20日の診療時には,下顎右側乳中切歯が自然脱落していたことから,上顎両側乳中切歯及び下顎左側乳中切歯の3本を抜歯したこと,F3前医長は,同年5月27日,下顎のBの歯2本の動揺度を「M2-3」であると認め,次回抜歯の予定としたこと,同年8月26日,F11歯科医師は,自然脱落時の誤嚥予防のため下顎のBの歯2本を抜歯したこと,同年12月19日,当該患者に対し右気管支異物除去手術が行われ,右気管支から7×4ミリメートルの歯牙が摘出されたこと,その際当該患者の保護者は,半年前に見ている間に抜け飲み込んだと思っていた前歯であり,それ以外は歯科で抜歯はしたが自然に抜け落ちた歯はないと話したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告が平成25年12月18日の診察で当
該患者の下顎右側乳中切歯の動揺を認めた後に当該歯は自然脱落しているが,その後原告が診療した平成26年2月20日に当該歯の行方について保護者等から飲み込んだなどの説明があったとは認められない上,取り出された歯の写真,誤嚥した体内のレントゲン写真,自然脱落する前のレントゲン写真を比較しても,当該患者から除去手術で取り出した歯牙を下顎右側乳中切歯と特定することは困難である。以上に加え,
平成26年12月19日に実施された上記除去手術の際,当該患者の保護者は半年前に抜け落ちた前歯を飲み込んだと説明しているところ,原告が指摘するとおり,同年5月27日にF3前医長が診療した後に下顎のBの歯の歯冠部分が自然脱落してこれを誤嚥しており,F11医師が抜歯したのは歯根部分であった可能性もあることなどに照らすと,当該患者の気管支内から除去された歯が原告の抜歯しなかった動揺歯(下顎右側乳中切歯)が自然脱落したものと断定することは困難というべきである。
また,仮に当該患者の気管支内から除去された歯が原告の抜歯しなかった動揺歯が誤嚥されたものであったとしても,原告が平成25年12月18日の当該患者の診察において,動揺の激しかった下顎右側乳中切歯を即日抜歯せず,次回の定期診断時に自然脱落していなければ抜歯するとの判断をしたことについては,平成26年5月27日に当該患者を診察したF3前医長が,下顎Bの歯2本の動揺度を「M2-3」を認めながらすぐに抜歯せず,その3か月後にF11歯科医師が当該動揺歯を抜歯していることに照らしても,不合理なものとまではいい難いというべきである。

本件問題行為(2)について
(ア)

被告は,原告が,平成26年2月25日,抜けそうな乳歯があると
して抜歯希望があった患者を診療したが,すぐに抜歯せず,同年4月9日に次回予約を入れたところ,同月1日に当該患者の動揺歯が脱落し,たまたま保護者が口腔内に残っていた当該歯に気が付き除去したため誤嚥は免れたが,誤嚥の危険性を生じさせたと主張する。
(イ)

証拠(甲37,46,乙32の1及び2,乙59の1及び2,乙6
0の1及び2,乙79,原告本人,証人F3)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は,基礎疾患として精神・発達障害があり,気管切開を行
った7歳女児であったこと,当該患者の保護者は,抜けそうな乳歯の抜歯を希望して平成26年2月25日に診療予約を取ったこと,原告は,同日,当該患者を診察し,動揺のある上顎左側乳側切歯が唇舌的方向は動くが,近遠心的方向は動きが悪いという状態であり,すぐに脱落して誤嚥する危険性は低いことから,抜去時期は永久歯の左側中切歯が萌出した後でよいと判断したこと,F3前医長は,同年4月9日,当該患者を診療したところ,同月1日に上顎左側乳側切歯が脱落し口腔内に歯が残っているところを保護者が発見して除去し,誤嚥しなくてよかったという話を聞いたこと,F10歯科医師は,平成25年6月21日,当該患者の動揺歯について,誤嚥の危険性がありケア時は注意するよう指示したものの抜歯はしなかったこと,F9歯科医師は,同年7月2日,当該患者の動揺歯の動揺度を精査し,左下の1本のみを抜歯したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告は,平成26年2月25日の当該患者
の診察時,動揺歯は近遠心的方向には動きが悪く,動揺が激しいとは認められないという当該歯の状態に照らして,即日抜歯せずに経過観察としたものであるから,原告の上記判断に医学的に問題があったとは認められないというべきである。
このことは,
被告病院の他の歯科医師らが,
当該患者に動揺歯が認められたとしても必ずしもその日のうちに抜歯していないことからも裏付けられているというべきである。

本件問題行為(4)について
(ア)

被告は,原告が,平成26年2月13日,免疫抑制剤を使用し特に
感染源除去が強く求められ,その旨移植外科医師からも要請された生体肝移植を受けた患者について,感染源であるう歯の存在を認めながら,必要な治療をせずに放置したため,当該患者に根管から血液を含む排膿を生じさせ,血流により全身に感染を拡大させた可能性もある旨主張す
る。
(イ)

証拠(乙35から38まで,乙53,乙62の1から4まで)及び
弁論の全趣旨によれば,当該患者は,平成18年に生体肝移植を受けたこと,F9歯科医師は,平成24年10月2日,当該患者を診療し,歯髄炎を認めたものの,以後の治療について当該患者が近医への通院を希望したことから被告病院における治療を終了したこと,当該患者は,平成26年2月
(当時7歳)肝生検と免疫抑制剤の調節目的で被告病院に

入院していたところ,移植外科のF12医師は,同月12日,原告に対し,当該患者は受診中の近医で,う歯が神経まで達しているため被告病院での治療を勧められたとして,う歯の処置に関する評価等を求め,これを受けて原告は,同月13日,当該患者を診察し,視診だけで5歯のう蝕を認め,詳細はエックス線検査が必要と回答したこと,原告は,同月14日,F12医師から歯に感染源が無いようにしたいとの連絡を受け,同月18日,当該患者のレントゲン撮影を行い,破折した歯の治療を行った上,う歯の治療方針を立て,F12医師と相談し,観血的処置は実施せず,歯からの感染が生じないような対応をとり,病棟に連絡を入れて空いている時間に歯科治療を進めることにしたこと,原告は,同月21日F12医師から,当該患者が同月22日に退院するとの連絡を受け,当該患者の最寄りの歯科医院のリストを作成して希望する歯科医院を保護者に決めてもらうことにしたこと,
当該患者は,
同年3月6日,
歯が痛いとして被告病院に来院し,原告が診察したところ,露髄している歯があって,遠心根管から排膿(血液含む)があり,最寄りの歯科医院で治療可能か相談するよう当該患者に説明し,同月11日の診察時には近心根管から排膿があり,同月25日,同年4月22日にも当該患者の診療を行っていることが認められるほか,周術期の歯科医療としては,口腔内の感染源を精査し,感染源の除去を行うべきという医学的知見が
あることが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,原告は,F12医師からの当初の依頼を受
けて,当該患者のう歯の処置に関する評価等を行っているし,その後,F12医師から感染源が無いようにしたいとの連絡を受け,当該患者のレントゲン撮影を行った上でう歯の治療方針を立て,F12医師と相談して観血的処置は実施せず歯からの感染を生じさせずに,入院中の空いた時間に歯科治療を進めるという方針を立てているのであるから,当該患者の口腔内に感染源の存在を認めながら何らの治療もせずに放置したと認めることはできない。被告は,当該患者及び保護者が被告病院での歯科治療の継続を希望したにもかかわらず原告が治療を終了させたなどと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。また,平成26年3月6日及び11日の診療時に,当該患者のう歯に認められた排膿は,同年2月13日以降の原告の医療行為以前から生じていた可能性が否定できず,原告の医療行為に起因すると認めるに足りない。以上に照らすと,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(6)について
(ア)

被告は,原告が,心臓手術を翌日に控えた患者に対し,主治医(心
臓血管外科)に問合せをせず歯石除去を行い,歯肉から出血させて感染源を作出し,かつ主治医への報告を怠ったと主張する。
(イ)

証拠(甲46,乙34から37まで,乙40,79,原告本人,証
人F3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成25年12月3日に心臓血管外科において手術予定であった患者をその前日に周術期口腔機能管理として診察し,う蝕はないが下顎前歯部に歯石沈着を認め,歯間診査の方法として一般的なデンタルフロスの方法を用いたところ,歯肉から若干の出血があり,心臓血管外科のF16医師に連絡し,歯肉からの出血の事実を告げたところ,既に止血されているならば問題なしと
の回答を得たことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,出血の原因が歯石除去にあったとは認めら
れないこと,デンタルフロスによる歯間の診査は歯科診療上一般的なものであって,周術期の歯科治療において当該医療行為を避けなければならないといった医学的知見は証拠上認められないこと,原告は当日主治医に出血について確認し問題ないとの回答を得ていること,歯肉からの出血により当該患者の身体に危険を生じさせた事実は認められないことに照らすと,原告の医療行為に問題があったとは認められない。ソ
本件問題行為(9)について
(ア)

被告は,原告が,右頬部腫脹と自発痛により他院連携で紹介された
患者を診察し,2歯に動揺を認め,右側頬部硬結,発赤腫脹を確認し,急性化膿性根尖性歯周炎と診断しているところ,蜂窩織炎の可能性も否定できないことから,レントゲン撮影し,保存処置の可能性又は抜歯の必要性を診断すべきであり,最低限消炎処置を施し,消炎の確認をしてから連携元医院に戻すべきであるにもかかわらず,原告は薬物処方のみを行って当該患者を連携元医院に戻してしまった旨主張する。
(イ)

証拠(乙43)及び弁論の全趣旨によれば,F13医院は,平成2
5年12月11日,当該患者の右下頬部に動揺及び打診痛を認め,感染根管治療を行い開放し,同時に頬部の波動部分を切開したが排膿せず,痛みを繰り返しているとして,
当該患者を被告に紹介したこと,
原告は,
同日当該患者を診療し,2歯に動揺,右側頬部硬結,発赤腫脹を認め,抗菌薬及び鎮痛薬を処方し,F13医院に引き続き対応してもらうことにしたこと,原告は,F13医院に対し,診察の結果,下顎右側乳臼歯の急性化膿性根尖性歯周炎と診断し,現在は炎症浸潤のステージが骨膜下期から骨内期辺りにあると判断し,処置を行うことで症状が再発するのを避けるため,抗菌薬及び鎮痛薬の処方のみを行ったことや,当該患
者が同医院での受診を希望したので症状が緩和されたら根管治療を続けていけばよいと思うことなどを報告したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者が蜂窩織炎であったとは証拠上認
められないこと,
原告は,
処置を行うことで症状が再発することを避け,
抗菌薬及び鎮痛薬の処方のみ行い,症状が緩和されたら根管治療を行うという方針の下で治療を行っており,当該治療方針が不合理であるとは認められないこと,連携元医院に戻したのは当該患者の希望によるものであることに照らせば,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(11)について
(ア)

被告は,原告がカルテ上に「エックス線所見:異常なし」と記録し
たことについて,その際に撮影されたレントゲン写真では歯根部分まで撮影できていないから,
「異常なし」
との所見は得ることはできないにも
かかわらず,そうした判断をしてその旨記録したことが不適当である旨主張する。
(イ)

証拠
(乙45の1及び2)
及び弁論の全趣旨によれば,
当該患者は,

平成25年11月4日,ベンチに顔面を強打し歯が取れたとして被告病院を受診したものであるところ,原告は,両側乳中切歯の完全脱臼と診断し,右側乳中切歯の再植を行って,レントゲン撮影をしたこと,原告は,同月11日,歯槽骨の観察のためレントゲン撮影をし,同年12月16日にも症状確認のためレントゲン撮影をしたが,同日のレントゲン写真には歯根部分が写っていないところ,同日のカルテに「低年齢児のため歯科治療に対して協力性が乏しい」「エックス線所見:異常なし。,
歯冠色異常なし。
動揺異常なし。
歯肉発赤なし。
根尖部相当部圧痛なし。
日常生活で問題ないという。
」と記録したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,低年齢児である当該患者がレントゲン撮影
に協力的ではないため,平成25年12月16日のレントゲン写真には歯根部分が写らなかったこと,もっとも,同日の治療は同年11月4日の治療後の経過観察であり,原告は,同年12月16日のカルテ上の記録は,レントゲン写真のみではなく,他の臨床所見も含めて当該患者の症状に問題はないと判断をしたと考えられることからすれば,確かに,何らの留保も付さずに「エックス線所見:異常なし。
」と記録したことが
不正確であったと評価される余地はあるとしても,異常なしと判断したこと自体に問題があるとする確たる根拠はなく,また,その結果,当該患者の治療に何らかの支障が生じたと認めるに足りず,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(13)について
(ア)

被告は,原告が,本来口腔外科が処置すべき抜歯の特に困難な上顎
奥の水平埋伏歯について抜歯を試みた挙句,これを実施できず手術を中断したことにより,患者に不必要な侵襲を与えたと主張する。
(イ)

証拠(甲26,38,39,乙47の1から6まで)及び弁論の全
趣旨によれば,当該患者は,親知らずの抜歯を希望して被告病院を受診したものであり,原告は,平成26年3月13日,レントゲン撮影を行って,右側第3大臼歯埋伏で抜歯を適当と判断し,前回の親知らずの抜歯時にアレルギー科で抗不安薬の処方を受け,部分麻酔を行って抜歯したことを確認の上,アレルギー科の医師に問い合わせて抗不安薬の服用の指示を受けたこと,原告は,同月25日,当該患者の上顎右側第3大臼歯の抜歯を試みて歯茎を切開したところ,歯はレントゲン写真より水平に傾いており抜歯の難易度が高いことが判明し,さらに,当日不吉なものを見たなどと話しており,局所麻酔をすると動悸がするとも訴えていた当該患者の心理面・体力面を考慮して抜歯を中止し,口腔外科専門医に抜歯を依頼すること,全身麻酔下で抜歯を行う可能性があること及
び不安を排除するには全身麻酔が適当であることを説明したこと,被告病院の口腔外科医は,同年8月18日,当該患者の両側上顎埋伏智歯抜歯を行ったが,上顎右側第3大臼歯は骨を切開せず,上顎左側第3大臼歯は骨を切開して抜歯したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,当該患者の上顎右側第3大臼歯は水平埋伏
歯であり,原告が歯茎を切開したところ,レントゲン写真よりも歯が埋伏した状態で抜歯に時間がかかり難易度が高いことが判明したというのであるから,その治療・診断の経過や抜歯を中止したことについて医学的に特段の問題があるとは認められない。難抜歯や埋伏歯についてどのような程度・状況であれば,歯科医師である原告が抜歯をすべきではないことになるのかという点について確たる医学的知見は見当たらないし,抗不安薬の処方やカルテに記録された抜歯当日の当該患者の言動からすると,抜歯を中止した理由は原告の技術不足が原因ではなく,当該患者の希望や心理面を考慮したことによると認められる。以上に照らすと,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(14)について
(ア)

被告は,原告が,歯科医療時に予防内服薬「オゼックス」の服用を
総合診療部から指示されていた患者について,その旨がカルテに明示されていたにもかかわらず,これを確認せず,感染性心内膜炎予防のための薬剤投与と勘違いして,指示と異なる薬剤「ワイドシリン」を処方したと主張する。
(イ)

証拠(甲46,乙48の1及び2,乙66,67,76,79,原
告本人,証人F3)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は,平成17年1月に心室中隔欠損を手術したこと,当該患者については,総合診療科の平成25年8月25日のカルテに「ABPC/SBT耐性であったが,治療効果はありと判断」と記載されていること,同月26日,総合
診療科から当該患者につき,歯科治療時抗菌薬予防内服が必要であり,その薬剤としてオゼックスを指示され,当該指示はカルテの基本情報の特記事項の注意事項欄に「歯科処置時予防内服必要

2013年8月2

6日カルテ参照」「抗菌薬:オゼックス」と記録されていたこと,F3,
前医長は,同年8月26日,当該患者を診療し,カルテに「次回治療時には当日朝より,翌日まで抗生剤投与するよう総診ドクターより指示あり。
」と記録したこと,原告は,同年11月15日,当該患者を診療し,心疾患のため感染性心内膜炎予防を理由に抗生剤としてワイドシリンを処方したことが認められる。
(ウ)

上記認定事実によれば,総合診療科から当該患者に対し抗菌薬とし
てオゼックスの処方を指示されていたものの,原告は当該部分を見ず,当該指示と異なるワイドシリンを処方しているから,本件問題行為(14)に該当する事実は認められる。
もっとも,ワイドシリンではオゼックスを指示したことにより意図した抗菌作用は生じなかった可能性はあるものの,原告がワイドシリンを処方したことで当該患者に問題が生じたと認めるに足りる証拠はない。(4)

その余の被告主張の解雇理由について
本件解雇理由1について
(ア)

被告は,原告が,平成25年11月7日,肝炎後再生不良性貧血の
患者の診察において,前医からう歯を注意するよう指摘のあった歯について慎重に確認し,他科の主治医と相談の上適時適切なう歯治療をすべきところ,
これらを怠って研修医に指摘されるまでう蝕を看過し,
かつ,
指摘後の処置も不適切であったと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙1,73)及び弁論の全趣旨によれば,平成26
年1月30日に当該患者にう窩が生じたのは前医であるF10歯科医師が指摘した左上DEの歯ではなく,右上Dの歯であるから,前医の指
摘があったにもかかわらず治療を怠ったとは認められない。また,代診とはいえF10歯科医師が1か月ほど診療に当たっていたが左上DEの歯や右上Dの歯の治療を行っておらず,平成26年1月9日に診察したF8歯科医師もう窩を発見していないことや,診療の都度毎回レントゲン撮影をしなかったからといって医学的に不相当とは認められないことを考慮すると,同月30日に右上Dの歯のう窩を発見したからといって直ちに問題があったとは認められない。さらに,その後F3前医長が診察しているが特に治療が行われた経過は認められず,当該患者にその後問題が生じたとも認められないことからすると,右上Dの歯のう窩を発見後,原告がレントゲン撮影をせず感染歯質の除去とセメント充填という治療をしたことに問題があるとはいえない。

本件解雇理由2について
(ア)

被告は,原告が,平成25年11月14日,適応障害や発達障害の
傾向があり不安定な精神状態にある患者の診察において,当該患者が大学受験中であり,成績が伸び悩み入学を希望する国立大学の合格可能性が低いとの判定を受けていたところ,診察中に原告が国立大学出身であることを話題にしたため,当該患者との信頼関係が損なわれ,当該患者から担当医をF3前医長に戻すよう希望が出されたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,原告が診察した
当日に当該患者が担当医を前医のF3前医長に変更するよう求めたことが認められるが,当該患者の大学受験に関する情報がカルテには表れていないほか,当該患者が原告の出身大学に関する会話に不満を持ったことを示す記録も見当たらず,被告が主張するような担当医の変更理由を認定するに足りる証拠はないことからすると,原告の医療行為に問題があったとは認められない。
なお,仮に当該患者が診療中に原告が話題にした内容が気に入らずに
担当医の変更を希望したとしても,当該患者のそうした反応を当然予測すべきものともいえない。

本件解雇理由4について
(ア)

被告は,レストレイナーで固定した患者を残して診療室を出るので
あれば,患者が頭を動かして怪我をする等の危険を防止するため,補佐を呼ぶなどして患者を一人にしないよう注意すべきところ,原告は,平成25年11月20日,これを怠って患者を一人残して部屋を出たことにより,患者の身体等に危険を及ぼし,医療安全上極めて危険な行為をしたと主張する。
(イ)

証拠(甲8,9,42,乙4の1から3まで)及び弁論の全趣旨に
よれば,当該患者は軽度の知的障害がある成人女性であるところ,自力でできることが増えていたため,ベッド等から転落する懸念はあったものの,平成25年11月20日にあまり首を動かさないで治療を受けることができたというのであり,原告は,急患の別の患者が来院したことから一時的に当該患者の下を離れたものの,被告の主張によっても,その状況に気付いたF4歯科衛生士が当該患者の枕元で見守っていたというのであり,当該患者から離れていたという時間も証拠上明らかではなく,レストレイナーを使用していた状況の下で当該患者に危険が生じていたとはにわかに認められないというべきであって,原告の医療行為に問題があるとはいえない。

本件解雇理由5について
(ア)

被告は,原告が,既製冠が新たに製造されておらず在庫のみである
ことや,当該患者の治療対象の歯がそもそも既製冠の装着に適していないことなど,歯科医師として当然有しているべき前提知識を欠いていたため,既製冠の有無を調査して対応するなどの誤った方針を立てて不要な期間を経過させており,しかも,その調査結果を報告すると患者の保
護者に約束したにもかかわらず連絡を怠ったと主張する。
(イ)

証拠(甲30,42,乙5,54)及び弁論の全趣旨によれば,原
告が診療した患者は,既製冠の外れた永久歯の治療を求めて来院したわけではなく,別の歯についての痛みを訴えたものであり,平成25年11月7日の診察で原告が既製冠の外れた永久歯をそのまま経過観察とした点はF3前医長の対応と同様であり,同月22日,原告は永久歯をできるだけ削らないという方針により既製冠を調査したものであるが,その方針に直ちに医学的に問題があるとは認められないこと,適合する既製冠がないということを知るのが遅れたとしても,それにより当該患者の当該歯の治療上に特段の支障が生じたとは認められないこと,その後保護者から当該患者の診療予約が入れられたのは同年12月17日であるところ,原告はそれまでに保護者に調査結果を連絡したと供述しており,その供述を左右するだけの証拠もないことに照らすと,原告の医療行為に問題があるとは認められない。

本件解雇理由7について
(ア)

被告は,原告が,平成25年12月6日,抜髄済みの歯の詰め物が
脱離した患者に対し,口腔内の菌が歯の中に侵入しやすい状態となっており,他の歯に優先して処置すべきところ,これを怠ったため,隣の歯に負担がかかりその歯冠も脱離してしまった旨主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,当該患者は歯が
欠けたという訴えで来院したが,実際には歯が欠けたのではなくコンポジットレジン(歯の詰め物)が脱離していたこと,当該患者の上顎右側乳側切歯の歯冠脱離が生じたのは遅くとも平成25年11月19日であるところ,当該患者は同月22日の診療予約をキャンセルしており,同年12月5日に翌6日の診療予約をしていることからすると,当該歯についての痛み等の訴えがあったとも認められないから,当該歯の治療
について緊急性が高かったとは認められないこと,同月13日,奥歯にう歯があったため,その処置を行っているところ,当該処置を優先したという原告の判断が不合理であるとする根拠もないこと,平成26年1月10日に上顎右側乳側切歯の処置をするまでに当該歯に問題が生じたとは認められないこと,その隣の上顎右側乳中切歯の歯冠修復物が脱離した事実はあるが装着後約2か月で脱離していることからすれば,修復物自体が不適合であった可能性も考えられることに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由8について
(ア)

被告は,患者の疾患その他の背景事情を考慮し,必要に応じて他科
との連携を図った上で治療方針を立て,それについて保護者へ十分な説明をしなければならず,特に重い障害を抱える患者の場合はこれらの点について特段の配慮を要するところ,原告は,平成25年12月6日,CHARGE症候群(C:網膜の部分欠損,H:心奇形,A:後鼻腔閉塞,R:成長障害・発達障害,G:外陰部低形成,E:耳奇形・難聴を主症状とする難病)の患者を抱える保護者への十分な説明を怠り,一か所のみを治療しようとして治療箇所の選択を保護者に迫り,当該患者の体調面に問題を感じたにもかかわらず,主治医にも相談しないまま治療の継続の判断を保護者に委ねたと主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙8の1及び2)によれば,原告が保護者に対し当
該患者のいずれの歯を治療するか選択を求めたと認めるに足りる証拠はないこと,原告が当初奥歯1か所のみを治療しようとしたとしても,その方針が医学的に不相当とすべき根拠もなく,しかも,結果的に保護者の意見を踏まえ2か所に治療を実施していること,当該患者の体調面についても主治医への相談が必要な状況であったと認めるに足りる証拠もないことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められな
い。

本件解雇理由9について
(ア)

被告は,全身麻酔下でう蝕手術を行う場合,使用する可能性のある
器具はあらかじめ準備しなければならないところ,原告は,平成25年12月9日,上記手術を行う際に必要な歯髄処置の器具の準備を怠り,手術中に露髄を生じさせて抜歯予定ではない歯を抜歯せざるを得なくなったと主張する。
(イ)

証拠(甲34,42,乙9の1から6まで)によれば,当該患者に
係る手術説明書において上顎右側第1乳臼歯等について抜歯が予定されており,歯髄処置が予定されていたとは認められず,原告はこうした方針を保護者に説明していたこと,同年11月14日の診療計画では当該歯につき歯冠修復が予定されていたものの,原告が主張するように,その後のレントゲン写真を見て保護者に対する説明前に抜歯に治療方針を変更したとしても特に不自然ではないこと,同年12月9日の手術時は原告の外にも複数の医師がアシスタントに付いていたにもかかわらず,原告が抜歯することに異を唱えた者がいたとは認められないことに照らし,原告の医療行為に問題があるとは認められない。

本件解雇理由10について
(ア)

被告は,発達心理科を受診している患者の場合にはできるだけ診察
までの待ち時間を短くするよう注意する必要があるところ,原告は,平成25年12月10日,配慮を怠り待たせたため,当該患者はパニック状態となり,原告の診療を拒否したと主張する。
(イ)

一般に外来診療においては,他の患者の診察予約の状況や診療内容
等により,各患者の実際の診療開始時刻が予定時刻と前後することが避けられないと考えられることからすると,原告が当該患者を予約時間より待たせたとしても,原告が責任を負うべき事柄とまでいい難いところ
であり,このことを理由にして原告の医療行為や歯科医師としての適格性を問題にすることはできない。

本件解雇理由11について
(ア)

被告は,被告病院の入院患者について他科から依頼を受けて往診し
た際,経過観察や予防策の検討が必要と判断したのであれば,再度の往診依頼がなくとも自ら病棟へ足を運ぶなどして経過観察や予防措置をすべきであり,往診依頼のあった医師へも診察結果等の回答をすべきであるところ,原告は平成25年12月10日に往診した患者についてこれらの措置を怠ったと主張する。
(イ)

証拠
(甲42,
乙11の1から3まで)
及び弁論の全趣旨によれば,

原告は平成25年12月12日に当該患者を往診し,経過観察を指示し,その旨をカルテにも記録したこと,その際当該患者の口内炎は改善傾向であったこと,カルテには予防策を検討すべきとして具体的な予防策も記録されているところ,患者に負担もあるので再発してから予防策の実行を検討しようとしたという原告の主張も一概に不合理なものと排斥できないこと,カルテに記録されていれば担当医も通常これに目を通し,必要であれば原告に連絡をして指示や依頼がされることになると考えられるから,常に原告から自発的に往診をすることまで求められているとは認められないこと,その後当該患者の症状が再発したとは認められないことなどに照らすと,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由12について
(ア)

被告は,原告が,被告病院においては土曜日と日曜日は救急対応専
門となっており,診療予約は平日にしか受け付けていないにもかかわらず,金曜日に治療した患者に対し必要な処置を行わないまま緊急ではないのに土曜日にも受診するよう指示し,受診させたと主張する。

(イ)

仮に,原告が土曜日に予約を受け付けたとしても,当該患者の緊急
性の程度や金曜日のうちに必要な措置が終えられたかは明らかではなく(原告は,緊急の処置が必要である患者であり,重傷で土曜日の治療も必要であったことからスタッフに許可を得て土曜日に診察した旨供述している。
甲42)それが不当な措置であったとはにわかに認められ

ない。

本件解雇理由14について
(ア)

被告は,予約の当日に患者を診療すべきであり,そのために適時適
切な診療をスピード感をもって行う必要があるところ,原告は,平成25年12月25日の診療において,原告の技術不足により他の歯科医師に比べ診療時間がかかり,午前の診療時間内に午前中の患者の診療を終えられず,当該患者をその当日に診ることができなかったと主張する。(イ)

証拠
(甲42,
乙14の1から3まで)
及び弁論の全趣旨によれば,

当該患者は,被告病院の歯科を平成25年12月25日午前11時に,神経内科を同日午前11時30分に,麻酔科を同日午後0時にそれぞれ予約したにもかかわらず,来院したのが午後0時30分頃になったため,他科の診療を優先し,歯科の診療を受けなかったものと認められ,一方で,当該患者が当日の歯科の診療をキャンセルした理由が原告の診療時間が長かったためであると認めるに足りる証拠はないのであるから,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由17について
(ア)

被告は,精密検査の結果を慎重に判断した上,正確な診断を患者に
伝えるべきであるところ,原告は,平成26年1月22日,患者のレントゲン写真に奥歯(第1大臼歯)と考えられる歯が写っていたのにこれを見落とし,第1大臼歯が先天欠如であると断定して当該患者の保護者に説明したと主張する。

(イ)

証拠(甲42,乙17の1から4まで,乙73)及び弁論の全趣旨
によれば,紹介元歯科から第1,2臼歯の融合又は第2臼歯の欠損として当該患者を紹介されていること,原告は,先天性欠如と病名を付した後にレントゲン撮影し,読影所見として,第1大臼歯は存在し第2大臼歯は歯胚がやっと写ってきた感じと診断しており,先天性欠如と萌出の遅れの両方の可能性をカルテ及び紹介元への報告書に記録していること,カルテには経過観察とも記録しており,先天性欠如又は萌出の遅れのいずれであるかを保護者に断定的に説明をしたと認めるに足りる証拠もないことからすると,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由23について
(ア)

被告は,心身障害のため開口量が極度に少ない患者の歯科診療では,
ピンセットの柄を使用する等工夫して開口しなければならないところ,原告は平成26年2月28日の診療時にこうした措置を講じなかったため,必要な診療ができないまま診察が終わってしまい,患者の奥歯の裏側の歯石を除去しなかったと主張する。
(イ)

証拠(甲16から18まで,33,42,乙23の1から3まで)
によれば,原告は平成25年12月20日及び平成26年2月28日に当該患者を診療して,清掃やスケーリングを行っており,その過程で除去すべき歯石が除去されなかった事実は認めるに足りないこと,当該患者を開口させる方法としてピンセットの柄を用いる方法が医学的に最適であると認める確たる根拠もないことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件解雇理由24について
(ア)

被告は,医療機関における患者の個人情報は,他の患者に漏れるこ
とのないよう慎重に扱うべきであり,患者に他の患者のカルテ情報を見
せてはならないところ,原告は,平成26年3月19日,4歳3か月の患者(女児)の保護者を前にして,3歳8か月の別の患者(男児)のカルテを開き,その個人情報が見える状態にし,同男児の氏名等が表示されているレントゲン写真も示して説明を加えた旨主張する。
(イ)

証拠(甲42,乙24の1及び2)によれば,原告は平成26年3
月19日,男児と女児の患者をそれぞれ診察した事実は認められるが,原告が当日女児の保護者に対し男児のカルテを見える状態にし,レントゲン写真を示して説明をした事実を認めるに足りる証拠はない。

本件解雇理由25について
(ア)

被告は,被告病院では職員以外の者が研修で患者の対応をするには
必ず所定の書類と免許状の提出を求めており,これがない状態では患者や保護者の了解の有無にかかわらず,患者の対応を行わせることはできないところ,原告は,平成26年3月20日,同年4月1日から被告病院に就労予定で見学に来ていた(研修のための書類や免許状の提出をしていない)F14歯科衛生士に患者の口腔ケアを行わせたと主張する。(イ)

証拠(甲42,乙25)及び弁論の全趣旨によれば,F14歯科衛
生士は,平成26年4月1日から被告病院に勤務予定であり,同年3月20日,F15歯科衛生士とともに患者の歯磨きを担当しているところ,勤務開始が迫ったその時点でF14歯科衛生士が必要な書類を被告に提出していなかったことについては,その裏付けがないこと,F14歯科衛生士の勤務開始が迫っていることからすれば,正規の職員として稼働しているF15歯科衛生士と共に,患者の歯磨きに対応させたことを捉えて一概に不適切であるとも決め付けることはできず,少なくとも医療安全上の問題が生じるおそれは極めて小さなものであったと考えられることからすれば,原告の医療行為に問題があったとは認められない。タ
本件問題行為(3)について

(ア)

被告は,原告が,平成26年3月5日,救急から生後1か月の新生
児の動揺歯の処置に関して依頼を受け,近々脱落が見込まれたにもかかわらず,経過観察の判断をしたことにより誤嚥の危険性を生じさせたと主張する。
(イ)

証拠(甲22,23,乙30,33,61)によれば,先天歯の動
揺があったとしても,授乳中の痛みや当該患者の口腔内に異常所見がない場合,生後1か月の新生児に対し出血を伴う抜歯には危険もあることを踏まえ経過観察を選択した原告の判断が医学的に不合理であるとは認められないこと,原告が経過観察とし先天歯を抜歯しなかったことにより当該患者に何らかの危険が生じたとは認められないことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(5)について
(ア)

被告は,原告が,心房中隔欠損症(ASD)による手術予定の患者
についての心臓血管外科から周術期の口腔ケアを依頼され,乳歯を抜歯した際に破折した歯根尖端を抜去せず,口腔内に感染源を残置したと主張する。
(イ)

証拠(甲24,乙39)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成2
6年2月4日に当該患者の乳歯を抜歯した際,歯根尖端が破折して一部が残存しているところ,一般に乳歯を抜歯する際には歯根が破折して残留することがあるとされており,破折片が小さい場合には無理して抜歯する必要はないとの医学的知見が認められ,上記破折が原告の手技の未熟さにより生じたものではなく,破折片を残置させた措置も直ちに不適切なものであるとは認められないこと,当該患者はその後手術を受けているが,原告の歯科治療により感染等の問題が生じたとは認められないことなどに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。ツ
本件問題行為(7)について

(ア)

被告は,原告が,心臓手術を控えた患者につき,心臓血管外科から
周術期口腔機能管理を依頼されたが放置したと主張する。
(イ)

証拠(乙41)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成25年1
2月18日,心臓手術を控えた成人の男性患者につき心臓血管外科から周術期口腔機能管理を依頼され,平成26年3月17日(手術前日)の診察において,当該患者からう歯3歯を特に治療してこなかったとの話を聞き,当該う歯が前回受診時から特に進行していないことを確認していること,原告は翌18日手術担当のF16医師に対し,当該患者のう歯3歯が未治療であるものの神経まで達するう蝕ではなく軽度なので緊急性は低い旨伝えていることが認められ,これに対してF16医師から意見や異論が述べられた形跡も見当たらないところであって,原告の当該対応に医学的に問題があったとは認められず,原告の当該対応により当該患者の心臓手術に問題が生じたなどの事実も認められないことからすれば,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(8)について
(ア)

被告は,原告が,積み木をぶつけて上顎前歯が口蓋側に傾斜し出血
もあって摂食もできない患者を他院連携で紹介され,唇側歯肉腫脹と痛み,上顎左側乳中切歯の動揺を認め,外傷による亜脱臼と診断したのであるから,歯骨折を疑い,レントゲン撮影による診断を経た上,場合によって整復固定の措置を要するところ,これらを行わず薬剤処方のみをして連携元医院に返してしまったと主張する。
(イ)

証拠(甲25,乙42の1及び2,乙63,64の1及び2)によ
れば,原告は,平成25年11月20日,外傷性歯牙脱臼の疑いと診断された患者の紹介を受けて診察に当たったところ,抗菌薬・鎮痛薬を処方した上で経過観察が望ましく,固定等は必要ないものと判断し,その旨を保護者に説明したところ,保護者が紹介元の歯科医での経過観察を
希望したこと,以上の経過については,原告が紹介元の歯科医師に宛てた報告書で詳細に説明していることが認められ,当該患者についてした原告の判断や措置に医学的な問題があると認めるに足りる証拠はない。ト
本件問題行為(10)について
(ア)

被告は,原告が,歯根破折の認められる患者からセカンドオピニオ
ンを求められた際,保存治療が不可能で抜歯が避けられないにもかかわらず,抜歯の治療方針を示した歯科医院ではなく,経過観察の治療方針を示した歯科医院での診療を指示したと主張する。
(イ)

証拠(乙44の1及び2)によれば,当該患者は,平成26年1月
22日,前年末に他人の頭にぶつかって歯が折れたとして被告病院に来院したものであるところ,それまでに2か所の歯科医院を受診しており,歯根破折している歯の歯冠を除去するという治療方針と,経過観察を行うとの治療方針をそれぞれから示されており,破折した歯の治療をしない状態のまま意見を求める目的で被告病院を受診したこと,原告は当該患者の下顎に歯根破折及び歯冠破折を認め,後者の治療方針を示した歯科医院を受診するよう指示したことが認められる。この点について,原告は,保護者から抜歯を避け治療を急ぎたくない旨の希望を聴いて上記の指示をしており,そうした希望は保護者作成の予診票に記載されているから,被告は上記予診票を提出すべき旨主張するところ,この点について被告は応答しておらず,保護者の希望を重視して上記指示をしたとする原告の主張もあながち否定できず,しかも,当該患者の歯が経過観察という治療方針をおよそ許容しない状態であったとするだけの確かな根拠もないことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(12)について
(ア)

被告は,他院連携で紹介された患者について,リガフェーデ病が拡
大しており,切縁を丸める等の処置を施し,潰瘍が拡大しないよう,また,哺乳障害等が生じないよう処置すべきところ,原告はこれらの適切な治療をしないまま,連携元医院に返してしまったと主張する。
(イ)

証拠(乙30,46,65)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
平成25年12月25日,舌腫瘍の疑いとして皮膚科医師から被告病院の紹介を受けた患者を診察しており,同医師作成の紹介状には症状が拡大傾向と記載されているものの,原告は,当該患者のカルテに「先天性歯の影響で舌下に潰瘍ができ,そのまま白くなり角化が強くなった。問題ないと説明」と記録しており,そこに示された原告の判断が医学的にみて不合理なものであり,被告の主張する処置が必須であったとする確かな根拠はなく,当該患者について原告に誤診があったことが明らかとなり,当該患者に何らかの支障が生じたなどの経過をうかがわせる証拠も見当たらない。以上に照らすと,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(15)について
(ア)

被告は,原告が,歯肉,頬部に腫脹を認め,急性化膿性根尖性歯周
炎と診断した患者の治療として排膿処置をする際,既に感染が生じているにもかかわらず,無菌的処置を行う場合に用いるラバーダム(ゴムのマスク)を使用するという矛盾のある処置を行い,しかも,触れると強烈な痛みの生じる歯にラバーダムをかけ強固に押さえつけたことから当該患者を大暴れさせレストレイナー(抑制具)を使わざるを得なくなり,患者に不必要な苦痛を与えたと主張する。
(イ)

証拠(甲24,乙49の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,当
該患者は平成25年11月9日に蜂窩織炎で被告病院に入院しており,翌日,右頬部下顎部の腫脹,発赤が出現し,口腔内・う歯からの進展が考慮されるとして,総合診療部の医師から原告に診療依頼があったとこ
ろ,同月11日,原告は,当該患者に恐怖心が強く協力性が乏しいと判断してレストレイナーを使用し,切削する金属の誤飲・誤嚥防止のためにラバーダムを使用したものと認められるところ,これらの使用が医学的に不合理であることや,ラバーダムの使用が原因となって当該患者が大暴れしレストレイナーを使用せざるを得なくなったことを認めるに足りる証拠はない上,レストレイナーの使用が患者に大きな負担・苦痛を生じさせたともにわかに認め難いことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(16)について
(ア)

被告は,原告が,保護者が授乳中に乳輪の痛みを訴え,舌癒着症の
疑いと指摘されて来院した乳児患者を上皮真珠と診断したことについて,歯科医師としての基本的知識に疑問を持たざるを得ないと主張する。(イ)

証拠(甲21,23,乙50,51)によれば,当該患者は助産師
及び耳鼻咽喉科から舌癒着症ではないかとの指摘を受けて被告病院を受診したものの,舌癒着症との確定的な診断を受けていたとは認められないこと,上皮真珠は,乳児の歯の発育過程で口腔内の組織の一部が吸収されずに角質化し,腫瘤化したものであり,これが原因となって授乳時に乳輪に痛みが生じる可能性があるという原告の説明が医学的に不合理とは認められず,当該患者が後に舌癒着症と診断された事実を認める足りる証拠もないことに照らし,原告の医療行為に問題があったとは認められない。

本件問題行為(17)について
(ア)

被告は,原告が,歯科診療が著しく困難な障害者に対して診療を行
った場合の初診料加算として認められる初診時歯科診察導入加算を,加算してはならない6件の患者に対して行ったと主張する。
(イ)

証拠(甲18,乙52の1から6まで,乙68の1及び2)及び弁
論の全趣旨によれば,被告の指摘する初診時歯科診察導入加算については,カルテに初診時歯科診療導入加算の根拠となる事実の記録漏れがあった可能性もあり,実際に加算の要件を欠いた治療例に加算を行ったといえるかは定かではないこと,仮に原告にカルテの記録漏れがあったとすると,正確な記録をしないまま初診料加算をしたことには問題があるにしても,そうしてされた保険請求に虚偽,不正があるとして問題になったなどの状況もうかがえないことからすれば,被告の主張する程度の頻度,回数の記録漏れがあったというだけではそれをもって解雇事由として考慮に値するような問題行為であるとはいえない。

本件問題行為(18)について
(ア)

被告は,原告が,その他にも歯科医師としての適格性を欠いている
として,別紙2記載の本件問題行為(18)の各事実を主張する。(イ)

これについては,被告の上記主張を裏付ける客観的証拠はないこと,
仮に,本件問題行為(18)のような事実を問題視して,解雇の理由にするのであれば,注意・指導等をし,改善の機会を与えることが必須と考えられるところ,そうした手順をふんだとは認められないことに照らせば,本件問題行為(18)が解雇事由として考慮に値するようなものであるとはいえない。

本件問題行為(19)について
(ア)

被告は,原告が歯科医長としての適格性も欠いていたとして,別紙
2記載の本件問題行為(19)の各事実を主張する。
(イ)

これについては,被告の主張を裏付ける客観的証拠はなく,かえっ
て原告の主張(別紙2の「義務違反への認否・反論」欄記載)に沿う証拠があること(甲28,29)
,注意・指導等をし,改善の機会を与える
ことが必須と考えられるところ,こうした手順をふんでいないことは,本件問題行為
(18)
について述べたことと同様であることに照らせば,

本件問題行為(19)が解雇事由として考慮に値するようなものであるとはいえない。
(5)

解雇理由の判断に関する補足説明
F3前医長は,陳述書(乙79)及び証人尋問において,原告の医療行為が不適切であるとして,本件解雇理由3,13,15,16及び18から20まで,並びに,本件問題行為(1)
(2)
(6)
(9)
(13)及び(1
4)につき詳細に供述・証言する。


しかし,F3前医長が問題とされる原告の医療行為を行った患者に直接関わった例は限られており,その余はカルテの記録や伝聞による情報等に基づいて判断したものであるところ,実際に診療に当たった原告が逐一具体的な反論を加えている(甲46)上,本件解雇理由3,15,16及び18,本件問題行為(1)
(2)
(9)
(13)及び(14)については,F
0大学小児歯科学教室に長期間在籍し,
被告病院
(当時は国立F17病院)
に非常勤として勤務した経験もあるF18歯科医師も,具体的な理由を付し治療行為として相当である旨を述べていること
(甲32)
を踏まえると,
原告の治療行為が相当な医学的根拠を欠いており,その裁量を考慮しても合理性を欠いた許容できないものと認めるには足りないというべきである。

(6)

本件解雇に至る経緯として考慮すべきその余の事情について
原告に対する注意・指導の有無について
(ア)

被告の主張する本件解雇理由及び本件問題行為は,原告が平成25
年11月1日に勤務開始した直後である同月7日から始まり,発生時期に特段の偏りは見られずに平成26年3月まで続いている。これだけの頻度で多数の問題のある医療行為がされ,しかも,それが医療安全上も問題があったというのであれば,歯科医長という立場にあることを考慮しても,原告に対して問題の指摘や何らかの注意・指導がされてしかる
べきものと考えられる。しかし,本件解雇理由及び本件問題行為について,問題のある医療行為であることを示した上で明確な注意・指導が行われたことがあったとは証拠上認められない。また,被告にはインシデント(問題事象)を協議する場が設けられている(証人F3)にもかかわらず,本件解雇理由及び本件問題行為が取り上げられたことをうかがわせる証拠は存在しない。
(イ)

このように原告に対する注意・指導が行われたことも被告病院内で
の協議・検討の対象とされたこともうかがえないことからすると,そもそも本件解雇理由及び本件問題行為が存在しないか,存在したとしてもその都度取り上げなければならないほど重大なものとは,被告病院内で認識されていなかったことを強く推認させる。

本件解雇の手続について
本件解雇に至る経緯は前記前提事実(3)のとおりであり,
本件解雇理由に
ついては解雇理由書でその内容をある程度明らかにしているとはいえ,事前にはその内容の開示に応じていないし,そもそも本件問題行為については解雇時に考慮された事情として明らかにされていない。本件解雇理由や本件問題行為が原告のした医療行為としての相当性を問題にしていることからすれば,当事者である原告に具体的事実を示さず,弁明の機会を一切与えていない点は,手続面で本件解雇の相当性を大きく減殺させる事情といわなければならない。

(7)

上記(3),
(4)で検討したところによれば,
本件解雇理由及び本件問題行為

は被告主張の事実自体認められないものが多くを占め,一部認められるもの(本件解雇理由21及び本件問題行為(14)
)もあるが,定められた期間途
中での解雇を可能とする,やむを得ない事由に該当するとはいい難く,さらに,
上記(6)でみた事情も勘案するならば,
本件解雇は無効という評価を免れ
難いものというべきである。

したがって,
原告は,
被告に対し,
労働契約上の権利を有する地位にあり,
賃金請求権を有すると認められる。もっとも,弁論の全趣旨によれば,役職特勤手当は休日に特別に勤務した場合に支払われる手当であると認められるところ,本件解雇後原告に対し休日出勤が義務付けられていたとは認められないから,当該手当については解雇後の賃金として請求できないというべきである。
そうすると,原告は,被告に対し,平成26年5月以降,本判決確定の日まで,毎月16日限り,賃金93万1055円及びこれに対する各月17日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求権を有する。2
争点(2)(慰謝料請求の成否)について
(1)

原告は,本件解雇やこれに前後したF2病院長らの言動により原告の名
誉が棄損されたとして慰謝料50万円を請求する。
(2)

しかし,解雇や退職勧奨を受けた事実が周囲に知られた場合に通常は不
名誉を感じることを否定できないとしても,解雇された労働者が被る精神的苦痛は,当該解雇が無効であることが確認され,その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり,これによってもなお償うことのできない精神的苦痛を生ずる事実があったときに慰謝料請求が認められると解するのが相当である。原告は,F2病院長が退職勧奨の事実を言いふらし,歯科スタッフを通じてその事実が被告病院外へも流布されたと主張し,これに沿う供述をする(甲41)が,情報が被告病院外に拡散した経過は定かではない上,原告が被告から解雇を受けたことが公にされた場合に通常生ずる以上の精神的苦痛を被ったとまではにわかに認め難い。
(3)
3
よって,原告の被告に対する慰謝料請求は理由がない。

争点(3)(賞与請求の成否)について
(1)

原告は,
初年度は1級58号に対応する業績年俸245万8000円,
2
年目以降は初年度の業績年俸の100分の100の乗率,すなわち初年度と
同額の業績年俸を請求する。
(2)

原告が業績年俸の支給対象者であること,原告の初年度年俸は1級58
号でありそれに対応する業績年俸は245万8000円であること,2年目以降は前年度の業績年俸に当該職員の業績を考慮して100分の80から100分の120の範囲で理事長が定める割合を乗じて得た額とすることは,当事者間に争いがない。
したがって,原告は,被告に対し,初年度の業績年俸として245万8000円の請求権を有するものと認められる。また,原告が業務をしていないのは被告が本件解雇をしたためであること,争点(1)に対する判断で説示したとおり,本件解雇理由及び本件問題行為のほとんどは認められず,原告の業績をマイナス査定する事情があるとはいえないことから,2年目以降は前年度の業績年俸に100分の100を乗じた業績年俸の請求権を有すると認めるのが相当である。
(3)

よって,原告は,被告に対し,賞与に該当する業績年俸491万6000
円及びうち122万9000円に対する平成26年7月1日から,うち122万9000円に対する同年12月11日から,うち122万9000円に対する平成27年7月1日から,うち122万9000円に対する同年12月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求権を有すると認められる。
第4

結論
以上によれば,原告の請求は主文1項から3項までに掲記した限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部

裁判長裁判官

吉田徹
裁判官


裁判官

佐淵久間健司隆
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