判例検索β > 平成28年(ワ)第667号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)667
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成29年7月26日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成29年7月26日判決言渡
平成28年

第667号

損害賠償請求事件
主1文
被告は,原告に対し,44万0200円及びこれに対する平成27年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用はこれを10分し,その7を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4
この判決は,1項に限り仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求
被告は,原告に対し,133万7308円及びこれに対する平成27年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,原告が搭乗していたエレベーターが下降中に緊急停止したという事故(後記の本件事故)によって傷害を受けたと主張する原告が,エレベーターの保守管理を行っていた被告に対し,民法709条の不法行為による損害賠償請求権に基づき,133万7308円及びこれに対する本件事故日である平成27年7月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお,書証については,特に断らない限り枝番号を含む。

2
前提事実(当事者間に争いのない事実及び各項末尾に掲記した証拠により認定できる事実)


本件事故の発生
以下の事故が発生した(甲14,乙2,10,12の2,原告本人)。ア
日時
平成27年7月13日午前8時17分頃


場所
名古屋市a区bc丁目d-e所在の株式会社A銀行B支店の建物(以下「本件建物」という。)内に設置された被告が製造し,保守管理をしているエレベーター3号機(以下「本件エレベーター」という。)。


態様
原告が,本件建物の3階から地下1階へ降りようとして本件エレベーターに搭乗したところ,本件エレベーターが下降中に緊急停止した。


責任原因
本件事故の発生について被告に過失がある(当事者間に争いがない。)。


原告(f年g月h日生)は,平成27年7月13日午後5時5分頃,C整形外科を受診し,頚部,肩,腰の痛みと頭痛を訴え,頚椎捻挫,腰椎捻挫と診断され,同年9月6日まで通院治療を受けた(甲1,乙12の2)。
3
争点及びこれに関する当事者の主張


本件事故と原告の傷害との因果関係の有無
(原告の主張)
原告は,本件事故によって,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負った。ア
本件事故の態様等について
原告は,平成27年7月13日午前8時10分頃,本件建物3階にあるA銀行B支店の社員食堂へ食品を配送した後,同階から守衛室のある地下1階に降りるために従業員用の本件エレベーターに搭乗した。
本件エレベーターは,下降を開始したものの階数を示すランプが3階から2階に切り替わったところで,「ガタン」,「ゴーン」という音とともに強い衝撃が走り,急停止した。原告は,その衝撃のため体のバランスを保つことができず,左側に体勢を崩し,台車の取っ手を掴んでいたため床に転倒するまでには至らなかったが,首及び腰を捻った。停止後も本件エレベーターの扉は開かず,原告は,緊急コールのボタンを押したが連絡がなく,携帯電話の電波も届かなかったため,不安に感じながらもそのまま待機せざるを得なかった。5分程度経ったところ,緊急コールの応答があり,原告は状況を説明した。その後,守衛が外から扉を開けてくれたため,原告は,外へ出ることができたが,そこは地下1階であった。原告は,配送用の軽トラックに戻ってからも精神的な衝撃からしばらく放心状態でいたが,少し落ち着きを取り戻してから配送業務を再開したところ,次第に後頭部,首,肩,腰が痛くなり,吐き気もするようになり,その日のうちにC整形外科を受診したところ,頚椎捻挫,腰椎捻挫と診断された。
ところで,被告は,本件事故による受傷経緯に関する原告の供述が,客観的状況と整合せず信用できない旨主張する。
しかしながら,人間は,体の各所の筋肉を働かせて重心を適切な位置に維持することで直立姿勢を維持しているところ,不意の衝撃により重心の位置がずれて体勢を崩すことはよくあることである。本件エレベーターが急制動によって縦方向に衝撃が働いたとしても,人体に左右均等に力がかかるとはいえないし,衝撃を吸収するための反応も左右差が生じることはあり得るから,原告が本件事故によって体勢を崩すことは十分あり得る。また,エレベーターが下降時に急制動をした場合の乗客の物理的な入力状況と乗客の感覚は必ずしも一致するわけではないから,原告が本件事故当時上方向に引っ張られたという感覚を持ったとしても不自然ではない。イ
本件事故による衝撃について
被告は,本件エレベーターの本件事故当時の下降速度が毎分45m,ブレーキスリップ距離が116㎜以上であることを前提に本件事故によって原告が受けたであろう衝撃の程度を算出している(乙1,11)。しかし,本件エレベーターが本件事故当時に下降定格速度どおりの運行がされていたことを裏付ける証拠はない。本件エレベーターが本件事故時に急制動が作動したことからすれば,何らかの不具合により下降定格速度を上回る速度が出ていた可能性が高い。また,被告が提出する本件エレベーターの定期検査報告書(乙2)は,本件事故から半年近く経ってから実施された検査に基づくものであるから,本件事故当時の本件エレベーターの状態を把握するのに適した資料ではない。被告は,本件事故当時のエレベーターの下降速度が毎分45mであることを導くために「9730×1000×0.05÷10811」という計算式を用いているが,この計算式の内容については説明していないから,本件事故当時の本件エレベーターの下降速度が毎分45mであったことを裏付ける証拠はない。
さらに,被告が証拠として引用する「人間工学データブック」の図は,「力の負荷を予期し,最高にからだをささえ,あるいは拘束した健康な若い被験者を含んだ条件を基にして行なったものである」(甲10)が,原告は,本件事故を予期しておらず,身構えることもベルト等で負荷を分散できる状態でもなかったから,衝撃は減殺されることなく全身に伝わることになる。そして,神経繊維は,太いものでも20μmであり,3㎝の段差を踏み外した程度の衝撃でも容易に傷付くものである。
以上のとおり,本件事故により原告の身体にかかった衝撃は,決して小さなものではなかった。
そして,原告には頚椎の変形性脊椎症の所見が認められるから,事故の衝撃により変形した部分の周辺神経が傷付けられる高度の危険性があった。D医師作成の意見書(乙13)にも,いかに小さな衝撃であったとしても,軽度の頚椎捻挫が生じた可能性までを完全に否定することはできないとされている。
したがって,本件事故の衝撃により変形した頚椎が周辺の神経を損傷して,原告の症状が発生したと推認することは合理的であり,原告の自覚症状や治療経過にも合致する。

本件事故以外に原告の傷病の原因となり得るものがないこと
原告は,本件事故の約1時間後には頚部等の痛みと吐き気を訴えており,本件事故の当日にC整形外科を受診し,頚椎捻挫,腰椎捻挫と診断されている。本件事故前に原告の身体には異常がなかったから,本件事故以外に原告の傷病の原因となり得るものはなかった。
なお,被告は,原告が過去に交通事故に遭ったことを指摘するが,原告が最後に交通事故により頚部ないし腰部を痛めたのは,平成23年10月24日であり,本件事故以前にその痛みは完全になくなっていた。また,平成27年5月9日の背部から腰部にかけての鈍痛は,この症状が出る前の4,5日間毎日1000㎞程度の運転をしていたことから生じたものであって,頚椎や腰椎の損傷に起因するものではないし,その症状も本件事故前には消失していた。
したがって,過去の事故等によって本件事故後の原告の症状が生じたものではない。


自己負担による通院が1日もないことについて
被告は,原告が自費で治療を受けていないことを理由に原告の症状に疑問を呈するが,理学療法は即効性があるものではないことや,原告が自営業者であり長期の休職が困難であったことに加え,被告が契約していた保険会社が治療費や休業損害の補償を打ち切ったことから通院を続けることが困難になったのであり,通院を続けられなかったことをもって症状の不存在を推認することは相当でない。


治療期間について
頚椎捻挫の治療期間は,一般的に3か月から6か月とされている。そうであれば,仮に原告の頚椎捻挫が軽度のものであったとしても,3か月程度の治療期間は必要であったと考えられる。D医師作成の意見書では,本件事故による頚椎捻挫は,1,2週間程度で治癒するとされているが,その根拠は何ら示されていない。
(被告の主張)

原告が供述する受傷経緯が客観的状況と整合せず,信用できないこと原告は,本件事故による受傷経緯として,本件エレベーターの緊急停止により体が左に捻られるような衝撃を受け,同時に体が上方向に引っ張られるような衝撃を受けたと供述する。
しかし,本件エレベーターの制動によって横方向への入力が生じることは物理上あり得ない。また,下降するエレベーターが停止するために制動を行ったとき,エレベーター本体は下方向への運動を止めるのに対し,エレベーター内の乗員は慣性の法則により引き続き下方向への運動を続けようとするのであるから,体が上方向に引っ張られるような衝撃にはなり得ない。
したがって,原告の受傷経緯についての供述内容は,客観的な状況と整合せず,信用することができない。


本件事故による衝撃の程度が法定基準を大幅に下回るものであり,人体が受傷に至る衝撃とは認められないこと
本件エレベーターの下降時の最高速度は毎分45mであり(乙1,2),時速に換算してもわずか2.7㎞であり,一般的な成人の歩行速度よりも遅い。このような低速で下降していた本件エレベーターが急制動をしたとしても,それによって乗員が受傷する程度の衝撃が加わるとは考え難い。
エレベーターの制動装置については,建築基準法施行令129条の10第2項1号において,減速時の加速度が9.8m/s2を下回るように設計するよう規制されている。この規制は,急激な加速度で制動が行われることを防止し,もってエレベーターの乗員に受傷に至る程度の衝撃を生じさせないことを目的としたものであるから,上記基準を満たした加速度で制動ができているのであれば,乗員に受傷に至る程度の衝撃が加わることはないといえる。
本件事故当時,
本件エレベーターには原告のみが搭乗していた。
そこで,
原告の体重を65㎏程度と仮定して,急制動時の加速度を求めると2.65m/s2(0.27G)にすぎず,上記建築基準法施行令の基準値を大幅に下回り,2.9㎝の高さから自由落下して地面に着地した際の衝撃と同じ程度の加速度となる(乙1)。不意の加速度に耐える人間の限界について示した図(乙3)によれば,0.27Gは問題とされておらず,このことからしても,本件事故による衝撃で原告が受傷するとは考えられない。本件エレベーターの本件事故当時の動静に関するデータ(乙10)によれば,本件事故当時,本件エレベーターの制御装置が本件エレベーターに指示をしていた速度のデータは,
9730,
毎分45m
(9730×1000×0.05
÷10811)であり,本件事故直前の本件エレベーターの制動装置から指示を受けてかごの巻上機が動力を操作した結果としての本件エレベーターの現実の速度のデータは,9733,毎分45m(9733×1000×0.05÷10811≒45.014)であるから,本件エレベーターが本件事故当時に定格速度である毎分45mを上回っていたということはない。
また,本件エレベーターにおけるブレーキスリップ距離を計算するためには,かごの巻上機の動力に基づいて制動した距離(以下「巻上機制動距離」という。)に,制動に際してスリップした距離(以下「かごすべり量」という。)を加える必要がある。かごすべり量を算出できるデータは常時記録されておらず,本件事故当時のかごすべり量を算出できるデータはない。
そこで,
平成28年3月23日に本件事故を再現実験したデータ
(乙1)から本件事故当時のブレーキスリップ距離を推計する。
再現実験データによれば,巻上機制動距離が85㎜,かごすべり量が21㎜であり,ブレーキスリップ距離が106㎜となる。本件事故当時のかご位置データによれば,巻上機制動距離が116㎜(11438(急制動開始時)-11322(制動完了時))であり,再現実験時の巻上機制動距離よりも長いから,ブレーキスリップ距離も長いことになる。
急制動における衝撃は,ブレーキスリップ距離が長ければ長いほど,速度変化はゆるやかになるため衝撃の程度は小さくなる。
したがって,本件事故当時の本件エレベーターの急制動による衝撃は,再現実験時よりも下回ることは明らかである。
なお,本件事故直後に本件エレベーターの検査は行っておらず,本件事故後最も早い検査が平成28年1月7日に実施した検査(乙2)である。ウ
受傷を裏付ける客観的医学所見が見当たらないこと
本件事故当日の平成27年7月13日及び同月14日に撮影されたレントゲン写真には,頚椎,腰椎ともに椎体縁先鋭化(骨棘形成),椎間腔狭小化という変形性脊椎症の所見が認められるが,骨折・脱臼といった外傷の所見は認められない。同月21日にEクリニックでMRI検査を受けたが,異常は認められなかった。そのほかの受傷を裏付ける客観的な医学所見も認められない。
すなわち,原告が申告する受傷は,専ら原告の疼痛申告という主観的なものにすぎず,受傷を裏付ける客観的証拠は認められない。


自己負担による通院が1日もないこと
被告は,平成27年9月6日まで原告の治療費を立替払いしていたが,同日,被告が治療費の支払を打ち切ったところ,原告は,それ以後,通院していない。仮に本件事故により原告が受傷し,症状が出ていたのであれば,原告が主張するように症状が残存する中で治療費の支払を打ち切られたとしても,それ以後も自己負担で引き続き通院するはずである。オ
原告には本件事故直前を含め過去に多数の通院歴があること
原告は,本件事故以前に,①平成22年4月30日に停車中に追突され(玉突き追突の2台目),頭痛,腰痛の症状により同年8月25日まで通院し,②同年7月6日にトラック運転中に左手掌にしびれ感が出現して通院し,
③平成23年10月24日に歩行にて道路を横断中に車両と衝突し,右前腕,右下腿を打撲し,転倒しかけて腰部を捻ったとして通院し,同月25日,右肩,頚部に疼痛を訴え,平成24年3月9日まで通院し,④同年9月29日に自転車走行中に軽自動車に衝突して転倒し,左大腿,下腿を打撲し,同年12月21日まで通院し,⑤平成27年5月9日に自動車を運転中に背部から腰部にかけて鈍痛が出現して通院している。
このように原告には本件事故前に複数回にわたる頚部・腰部の神経症状に関する通院歴があることから,本件事故当時,既に原告の頚部・腰部には相当の損傷が生じていたといえる。特に,上記⑤のとおり,原告が本件事故直前には特に外的要因がないにもかかわらず腰部の神経症状によって通院していたことからすれば,本件事故後に原告に頚部・腰部の疼痛が生じたとしても,それは,本件事故による衝撃がなくても発生していた可能性がある。


以上によれば,原告が本件事故によって受傷したとは認められない。仮に,ごく軽微な衝撃であったとしても,ごく軽度の頚椎捻挫が生じた可能性までを完全に否定することはできないとしても,本件事故による傷害の治療期間としては1,2週間程度である。



素因減額の可否
(被告の主張)
上記⑴の被告の主張のとおり,原告は,本件事故前に外傷であれば頚椎捻挫と診断されるような症状を訴えて,長期にわたって対症療法を受けるということを繰り返していることからすれば,原告にはそのような症状を呈しやすいといった素因があることが想定される。また,過去の治療においても本件事故後の治療においても局所注射の頻度が非常に高いことからすれば,原告には医療機関においての治療,特に注射への依存心が高いのかもしれない。また,原告の希望もあったのかもしれないが,頻回の注射を継続したことについてC整形外科の漫然治療の関与の可能性も考えられる。特に注射の頻度・回数は,医学的に妥当と考えられる範囲を超えており,原告の医療機関への依存を助長した可能性がある。
以上によれば,本件事故後,1,2週間を超えて行われた治療について,具体的な傷病名を挙げることは困難であるが,本件事故によって生じた傷病ではないといえることは確実である。
なお,原告の頚椎,腰椎には変形性脊椎症の所見が認められるが,その程度では無症状のことは少なくないので,長期化した治療の対象となった傷病が変形性脊椎症であると考える根拠はない。
(原告の主張)
素因減額をするには,少なくとも素因を具体的に特定し,かつ,その素因が原告に帰責されるべきものであることが示される必要があるが,被告は,素因を具体的に特定していない。
また,被告は,原告が本件事故前に外傷であれば頚椎捻挫と診断されるような症状を訴えたことが数回あると主張するが,平成24年9月29日の事故時の主訴は左大腿・下腿打撲であり,頚部痛ではない。仮にこれらの事故の際に頚椎を損傷していた可能性があるとしても,頚椎捻挫の治療期間は3か月から6か月であるから,本件事故前にはこれらの症状は消失していた。なお,平成27年5月9日の背部から腰部にかけての鈍痛は,この症状が出る前の4,5日間毎日1000㎞程度の運転をしていたことから生じたものであって,頚椎の損傷に起因するものではない。以上によれば,素因減額をすべきではない。⑶

損害の有無及び額
(原告の主張)

治療費

12万3780円


休業損害

63万0444円

休業の必要性・相当性について
原告は,本件事故当時,運送業を自営していた。その業務は,株式会社Fの下請であり,同社からトラックのリースを受け,トラックのリース料等の諸経費を控除した金額の報酬を受けていた。株式会社Fからの下請の内容としては,株式会社Gの定期便業務と単発の運送業務があり,主に食品を配送しており,トラックの運転だけでなく,手で荷物を積み下ろしする作業も含まれていた。
原告は,本件事故による傷害のため,自動車を長時間運転することや荷物を積み下ろしする作業に従事することが困難であったため,本件事故後,交替が困難であった株式会社Gの定期便業務とそのほかの一部の業務については行っていたものの,そのほかの業務については断らざるを得なくなった。
なお,被告は,頚椎捻挫時の急性期の安静の有用性は認められないとして,休業の必要性がないと主張するが,急性期には周辺筋肉等の炎症が起きているため安静を保たなければならず,医師からも急性期の安静を指導される。また,亜急性期には筋肉等が固まってしまうことを防ぐために筋肉を動かすこと(牽引療法などの理学療法)を行うことが好ましいとされるところ,原告の職種が運転手であるため,仕事を行うと長時間姿勢を固定することを余儀なくされるため,症状を悪化させる可能性があるし,運転中に痛みやしびれが生じて事故を起こす可能性があるため,運転を差し控える必要性がある。そのため,本件事故による休業の必要性・相当性はある。休業損害の期間について
株式会社Gの定期便業務は,同社側の業務上の理由で平成27年8月20日に終了したが,原告は,本件事故による傷害のため仕事を断らざるを得なくなり財政的に事業の維持が困難になったこと,仕事を断ったため株式会社Gの定期便業務に代わる新規業務の受注を受けられなくなったため,事業を続けることができなくなり,同日,運送業を廃業した。そのため,少なくとも同年8月21日から同月末日までの減収についても,本件事故と相当因果関係のある損害である。
売上減収分に相当する休業損害について
原告の平成27年4月から同年6月までの売上げの平均値は月額55万8522円(円未満切り捨て)である。7月前半は気温の上昇により食品の配送量が減少するが,7月の後半から8月までが冷たい飲料や食品の需要が増え配送量が増えることは食品業界・運送業界の共通認識であり,7月全体の売上げは4月から6月までの売上げの平均値を上回ることがほぼ間違いなかった。そのため,原告は本件事故がなければ月額55万8522円を下らない額の売上げを得ることができた。
しかし,原告は,本件事故のため,同年7月分が33万1600円,同年8月分が15万5000円の売上げしか得ることができなかった。そのため,月額55万8522円との差額である22万6922円(7月分)及び40万3522円(8月分)の合計63万0444円が原告に生じた休業損害である。
なお,トラックのリース料は,毎月固定額の8万4456円であり,本件事故後も売上げの減少と関係なく固定経費として発生していたから,トラックのリース料については経費として控除すべきではない。利益減少分に相当する休業損害について仮に被告の主張のとおり,休業損害の基礎収入を売上げから経費を控除した利益とした場合の休業損害は,次のとおりとなる。
株式会社Fから原告に対して支払われる金額は,売上げである「運送代金合計」に「高速料金立替金」,「H分」(原告の従業員Hの給料は,株式会社Fから直接支払われていたが,Hの売上げに連動する業務委託手数料が原告に支払われていた。)を加算し,そこから「業務委託手数料」、「車リース」,「振込手数料」,「前借分」が控除されていた。原告の平成27年4月分から同年6月分までの各月の「運送代金合計」から「業務委託手数料」及び「車リース」を控除した額の平均値は42万5366円になる。そのほかの経費としては,ガソリン代(甲9のうちのレギュラーと記載されているもの)と高速料金であるが,高速料金については,原告が一旦立て替えた後,領収書の提出により片道分が「高速料金立替金」として株式会社Fから支払われていた。そのため,同年4月分の経費は,ETC・ガソリン代14万7643円から「高速料金立替金」2万7350円を控除した12万0293円,同年5月分は12万4968円(15万6768円-3万1800円),同年6月分は12万1814円(14万7604円-2万5790円)であり,平均すると月額12万2359円(円未満切り上げ)となる。したがって,原告の1か月当たりの利益の平均は30万3007円となる。
しかし,本件事故のため,同年7月分の「運送代金合計」から「業務委託手数料」及び「車リース」を控除した額は21万3984円,同年8月分の「運送代金合計」から「業務委託手数料」及び「車リース」を控除した額は8万3196円にとどまった。そして,同年7月分の経費は9万1209円(9万5719円-4510円),同年8月分の経費は7万0084円(7万0904円-820円)であり,同年7月分の利益は12万2775円,同年8月分の利益は1万3112円である。そのため,本件事故による利益の減少は,同年7月分が18万0232円(30万3007円-12万2775円),同年8月分が28万9895円(30万3007円-1万3112円)の合計47万0127円となり,休業損害は,少なくとも47万0127円である。

傷害慰謝料

52万円

原告が本件事故による傷害のため約2か月間通院していたことからすれば,傷害慰謝料は52万円が相当である。原告の本件事故による傷害の痛みや吐き気が概ね治まったのが平成27年9月末であることからすれば,傷害慰謝料は,少なくとも44万5000円である。

損害賠償請求費用(複写費用)


弁護士費用

40円
8万3532円

(被告の主張)

治療費について
上記⑴の被告の主張のとおり原告が本件事故によって受傷したとは認められない。仮に原告が本件事故によって受傷したとしても,治療が必要となる期間は,本件事故から2週間にとどまるから,その治療費は,多くとも4万1940円である。


休業損害について
休業の必要性・相当性について
上記⑴の被告の主張のとおり原告が本件事故によって受傷したとは認められないから,休業損害は発生しない。
仮に原告が本件事故によって受傷したとしても,治療が必要となる期間は,本件事故から1,2週間程度であり,就労制限を行う必要性があるとは考えられない。ケベック報告によれば,頚椎捻挫の急性期の安静の有用性は認められないばかりか,長期化の原因になる可能性も否定できないとして,早期に社会復帰を目指すのであれば急性期の安静や休業を指示してはならないとされている。
したがって,本件事故による休業の必要性・相当性は認められない。休業損害の算定について
原告は,休業損害の基礎収入につき平成27年4月から同年6月までの月額の平均売上額としているが,これは同年7月1日から本件事故前の同月12日までの売上額を基礎にしていない点で不当である。同年7月1日から同月12日までの上記期間の平均売上額は日額1万1550円であり,同年4月から同年6月までの平均売上額である日額1万8412円から大幅に減少している。そのため,原告の売上額については,本件事故の直近である同年7月1日から同月12日までの平均売上額である日額1万1550円を基礎とすべきである。
また,休業損害において基礎収入とされるのは、売上げそのものではなく,売上げから経費を控除した利益であるところ,原告が主張する基礎収入には経費が控除されていない。なお,個人事業主が事故により完全に休業した場合における基礎収入の算出において,利益に固定経費を加算する事例があるが,原告は,本件事故後も営業を続けており,トラックのリース料が無駄になっていないから,これを利益に加算することはできない。
同年4月から同年6月までの売上げと経費からすれば,利益率は約48.1%にとどまるから,原告が本件事故によって売上げの減少が認められるとしても,休業損害としては売上減少額の48.1%とすべきである。
さらに,原告と株式会社Fとの運送業務に関する契約は,本件事故とは関係のない事情によって同年8月20日に解除されたから,同月21日以降の減収については,本件事故と因果関係はない。なお,原告は,本件事故がなければ株式会社Fから受注していた定期便業務に代わる業務を受注していたはずである旨供述するが,株式会社Fから定期便業務に代わる業務を発注できないと通知された具体的な時期について何ら記憶がないと抽象的な供述に終始しているから,原告の供述は信用できない。
したがって,仮に本件事故による休業損害が発生するとしても,以下のとおり4万9278円を上回らない。
(平成27年7月13日から同年8月20日までの39日間の得べかりし売上額)
1万1550円×39日=45万0450円
(平成27年7月13日から同年8月20日までの売上げ)
34万8000円
(休業損害)
(45万0450円-34万8000円)×0.481=4万9278円ウ
傷害慰謝料について
上記⑴の被告の主張のとおり原告が本件事故によって受傷したとは認められない。仮に原告が本件事故によって受傷したとしても,治療が必要となる期間は,本件事故から2週間にとどまるから,傷害慰謝料は,多くとも7万3600円である。


損害賠償請求費用(複写費用)
原告の立証責任を果たすための費用であり,損害としては認められな
い。

既払金
被告は,原告に対し,本件事故の治療費等として合計20万3620円を支払っている。
仮に本件事故により原告に損害が発生しているとしても,上記のとおり,その合計額は既払金を下回る。第3

当裁判所の判断

1
事実経過等
前提事実,証拠(甲1,2,14,乙2,5,10,12,13,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


原告は,配送関係の会社に勤務して配送業務及び配送管理業務に従事していたが,退職して,平成27年2月から配送業の自営を始めた。原告の業務は,株式会社Fの下請であり,同月頃,株式会社Fと契約を締結し,同社からトラックのリースを受け,トラックを運転して,主に食品を配送するというものであるが,トラックの運転だけでなく,通称「オリコン」と呼ばれるプラスティック製の折り畳みコンテナや段ボール箱に入った食品をフォークリフト等の機器を使わずに,トラックに積み込む作業や,トラックから下ろして配送先まで運搬するという作業が含まれる。原告の業務のうち約3分の1が株式会社Gの定期便業務であった。
原告は,従業員2名を雇用していたが,そのうち1名(H)の歩合制の給与は,直接株式会社Fから支払われ,株式会社Fから原告に対してH分の業務委託手数料が支払われており,そのうち1名(I)の歩合制の給与は,株式会社Fから原告名義の口座に支払われ,原告がIにその給与分を支払っていた。
株式会社Fからは,毎月,原告に対して,運送代金の支払明細書(甲2)が送付され,毎月1日から末日までの運送代金合計額に原告が立て替えた高速料金と原告の従業員のうちのH分の業務委託手数料を加算した金額から,運送代金の10%の業務委託手数料,トラックのリース料,振込手数料,前借分等が控除されていた。



原告は,平成27年7月13日午前8時10分頃,本件建物3階にあるA銀行B支店の社員食堂へ食品を配送した後,同階から守衛室のある地下1階に降りるため本件エレベーターに搭乗した。原告は,本件エレベーターに一人で搭乗し,台車のストッパーをかけ,取っ手を両手で軽く握っていた状態で立っていたところ,本件エレベーターが緊急停止した。
その際,原告は,台車の取っ手を掴んでおり,かつ,台車にストッパーがかかっていたため台車が動いてそれに伴って体が動くことはなく,床に転倒することも本件エレベーター内で体をぶつけるということもなかったが,体のバランスを保つことができず,体を左側に捻るようにして体勢を崩し,首及び腰を捻った。
本件エレベーターは,緊急停止後,直ちに扉が開かず,原告は,緊急コールのボタンを押したが応答がなく,携帯電話の電波も届かなかったため,不安に感じながらも,そのまま待機し,しばらく経った頃に緊急コールの応答があったため,状況を説明した。その後,守衛が外から扉を開けてくれたため,原告は,本件エレベーターから地下1階へ出ることができた。原告は,その後,配送業務を再開したところ,次第に後頭部,首,肩,腰が痛くなり,吐き気もするようになり,同日午前9時30分頃,被告に電話をかけて本件事故の内容や現在の症状等を伝えるとともに株式会社Fにも連絡した。


原告は,同日午後5時5分頃,C整形外科を受診し,「本日午前8時30分頃,エレベーターで3階から降りているときに1階で急に止まり,ショックがあった。台車につかまっていたので,転倒はしなかったが,徐々に頚部,肩,腰に痛みが生じ,頭痛もある。」旨訴えた。原告は,頚椎に可動域制限(頚部の左側屈,右回旋にて疼痛あり)があったが,肩関節の可動域制限はなく,知覚は正常であり,腱反射異常もなかった。そして,頚椎レントゲン検査を受けたが,椎体縁先鋭化(骨棘形成),椎間腔狭小化という変性所見は認められたが,骨折・脱臼という外傷性所見は認められなかった。原告は,頚椎捻挫,腰椎捻挫と診断され,激しい疼痛を訴えたため,痛み止めの筋肉注射とトリガーポイント注射(局所麻酔薬の局所注射)を受け,消炎鎮痛薬(内服・外用)を投与された。


原告は,同月14日,C整形外科を受診し,頚部痛と腰痛が変わらないと述べたため,腰椎のレントゲン検査を受けたが,椎体縁先鋭化(骨棘形成),椎間腔狭小化という変性所見は認められたが,骨折・脱臼という外傷性所見は認められず,下肢の神経学的異常所見も認められなかった。原告が激しい疼痛を訴えたため,痛み止めの筋肉注射を受け,消炎鎮痛剤(座薬)等を投与された。
原告は,その後も,ほぼ毎日,C整形外科を受診し,頚部痛,頭痛,吐き気等を訴えた。
原告は,同月21日,Eクリニックにおいて頭部,頚部のMRI検査を受けたが,特に異常は認められなかった。
原告は,その後もほぼ毎日のようにC整形外科を受診し,主に頚部痛,頭痛,吐き気を訴え,筋肉注射の投与や理学療法(温熱療法)を受け,消炎鎮痛剤を投与された。
原告は,同年9月6日,まだ頚部に鈍痛があると訴え,筋肉注射と点滴注射を受けたが,被告が同日で治療費の立替払を中止すると通告していたため,以後,通院しなくなった。
なお,原告は,同月末頃まで痛みや吐き気が続いたが,経済的な理由で通院しなかったと供述している。



C整形外科の担当医師は,同年7月27日付けの診断書(甲1の1)では,頚椎捻挫,腰椎捻挫のため今後なお約4週間の局所安静通院加療を要する見込みであると記載し,同年8月24日付けの診断書(甲1の2)では,頚椎捻挫,腰椎捻挫のため今後なお約4週間の局所安静通院加療を要する見込みであると記載している。⑹

原告は,本件事故以降,午前中のみ株式会社Gの定期便業務,「J」,「K」を発注先とする配送業務に従事した。原告は,これらの業務については,納品先で商品を取り出して伝票と照合して検品するという作業が含まれており,ほかの人に代わることができなかったため,やむをえず従事したと供述する。
原告は,本件事故後,十分に仕事ができなくなったことで経済的不安を抱え,また,被告の担当者と本件事故による補償交渉が円滑に進めなかったことによってストレスを受けていた。



株式会社Gの定期便業務は,原告の売上げのうち3分の1程度を占めるものであったが,株式会社Fと株式会社Gとの話合いにより同年8月20日で終了することになった。しかし,原告は,株式会社Fから株式会社Gの定期便業務に代わる業務を受注できず,同日,配送業を廃業した。
なお,原告は,平成27年分の確定申告をしていない。



本件エレベーターの定格速度は,上昇・下降ともに毎分45m(時速2.7㎞)である。
本件事故当時の動静に関するデータ(乙10)では,本件事故当時,本件エレベーターの制御装置が本件エレベーターに指示をしていた速度のデータとして9730,本件エレベーターの制動装置から指示を受けてかごの巻上機が動力を操作した結果としての現実のデータとして9733と記録されているが,これを毎分の速度に換算するための計算式(9733×1000×0.05÷10811)が何を意味するのかは明らかになっていない。
被告は,本件事故直後に本件エレベーターの検査を行っておらず,本件事故後最も早い検査は平成28年1月7日に実施した定期検査(乙2)であり,当該検査では指摘事項はなかった。



原告は,本件事故以前に,①平成22年4月30日に停車中に追突され(玉突き追突の2台目),頭痛,腰痛のため県立病院等に通院していたが,同年5月24日,C整形外科を受診し,筋肉注射及びトリガーポイント注射を受け,消炎鎮痛剤(内服・外用・座薬)等を処方され,同年8月25日まで通院し,②平成22年7月6日,トラックの運転中に急に左手掌にしびれ感があるとして,同月14日,C整形外科を受診し,左手関節腔内注射及び点滴注射を受け,消炎鎮痛剤等を処方され,③平成23年10月24日に歩行にて道路を横断中に右折してきた車両と衝突し,同日,C整形外科を受診し,右前腕,右下腿を打撲し,転倒しかけて腰部を捻ったと訴え,消炎鎮痛剤(内服・外用・座薬)を処方されたが,同月25日,右肩,頚部にも痛みがあると訴えて,筋肉注射,トリガーポイント注射を受け,平成24年3月9日まで通院し,④同年9月29日に自転車走行中に左から来た軽自動車の右後輪に衝突して転倒し,左大腿,下腿を打撲したとして,同日,C整形外科を受診し,消炎鎮痛剤(内服・外用)等を処方され,同年12月21日まで通院し,⑤平成27年5月9日に自動車を運転中に背部から腰部にかけて鈍痛が出現したとして,同日,C整形外科を受診し,ここ4,5日は毎日1000㎞程度自動車の運転をしていたなどと述べ,筋肉注射及びトリガーポイント注射を受け,消炎鎮痛剤(内服・外用)等を処方された。
しかし,原告は,同日以降,通院しておらず,その後も,ほぼ毎日のように配送業務に従事していた。
2
争点⑴(本件事故と原告の傷害との因果関係の有無)について上記1認定事実によれば,①原告は,平成27年5月9日に自動車を運転中に背部から腰部にかけて鈍痛が出現したとして,同日,C整形外科を受診し,筋肉注射及びトリガーポイント注射を受け,消炎鎮痛剤等を処方されたが,同日以降,通院していなかったこと,②原告の業務内容は,トラックの運転だけでなく,食品の入ったオリコンや段ボール箱といった荷物を人力でトラックに積み込む作業,トラックから下ろす作業,配送先まで運搬する作業が含まれ,相応の肉体労働を伴うものであるが,同年5月10日から本件事故前日の同年7月12日までそのような業務をほぼ毎日のように行っていたこと,③原告は,本件事故の約1時間後から後頭部,首,肩,腰が痛くなり,吐き気もするようになり,本件事故当日,C整形外科を受診し,頚部,肩,腰の痛み,頭痛を訴え,頚椎捻挫,腰椎捻挫と診断され,痛み止めの筋肉注射,トリガーポイント注射を受け,消炎鎮痛剤を処方され,理学療法を受けたが,主に頚部痛が続き,同年9月6日まで通院治療を受けたことが認められる。
これらに加えて,本件事故は,本件エレベーターが下降中に緊急停止をしたというものであるから,搭乗していた人体に何らかの衝撃があったと認められること,上記1認定事実によれば,原告には頚椎及び腰椎のレントゲン検査において骨棘の形成及び椎間腔狭小化という変性所見が認められるところ,証拠(甲13,乙13,14)及び弁論の全趣旨によれば,頚椎にこのような変性がある場合,事故の衝撃等によって周辺神経が損傷され,又は,刺激によってこれまで無症状であったものが症状が出現して,頚椎可動域制限,頚部痛,項部のこり感などの頚椎症状が出現することがあり得ること,疼痛については,ストレスや心因的要因によっても発現するところ,上記1認定事実によれば,原告は,本件事故後,本件エレベーター内に閉じ込められて外部と連絡がとれなかったという不安,仕事が十分にできないことによる経済的不安,被告との交渉によるストレスがあったことが認められる。
これらを総合考慮すれば,原告は,本件事故によって頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負ったと認めるのが相当である。
ところで,被告は,本件事故による受傷経緯に関する原告の供述が,客観的状況と整合せず信用できない旨主張する。しかしながら,本件エレベーターが急制動によって物理的には縦方向にしか力が働かないとしても,内部にいる人体に対しては,事故当時の姿勢等によって左右均等に力がかかるとはいえないから,原告が本件事故によって体勢を崩すことは十分あり得るといえる。また,原告は,本件事故の状況として,ガタンという衝撃で上方向に引っ張られるような感じを受けたと供述しているが,他方で,気が動転していたので正確な記憶がない旨供述しているから,原告が上方向に引っ張られるような感じを受けたという供述が物理法則と異なるという理由で原告の本件事故による受傷経緯についての供述が信用性を欠くとはいえない。
また,被告は,本件エレベーターの本件事故当時の下降速度が毎分45m,ブレーキスリップ距離が116㎜以上であることを前提に本件事故による原告が受けたであろう衝撃の程度が0.27G,高さ2.9㎝から落下して着地した衝撃に相当するとの意見を述べている(乙1,11)。しかしながら,仮に被告の上記意見どおり,本件事故の衝撃が2.9㎝の高さから落下する程度であったとしても,原告が本件事故を予期していなかったことからすれば,その衝撃が人体に何らかの影響を与えることは否定できない。
そして,上記1認定の治療経過等からすれば,原告が本件事故当日である平成27年7月13日から同年9月6日まで通院治療を受けたことは,本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。
これに対し,被告は,仮に原告が本件事故によって頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負ったとしても,その治療期間は,1,2週間程度である旨主張し,D医師は,同旨の意見を述べ,本件事故後の治療やそれ以前の治療からすれば,注射の頻度・回数が妥当と考えられる範囲を超えており,C整形外科の漫然診療の可能性や原告の医療機関においての治療(特に注射)への依存心が高いために,本件事故後1,2週間を超える治療がなされたと考えられるとの意見を述べている。
しかしながら,本件事故の衝撃が軽微であったとしても,それが人体に与える影響は個人差があり,症状の出現や継続についても個人差があると考えられるところ,上記認定のとおり,原告の頚椎及び腰椎には変性があったことからすれば,軽微な衝撃によって頚椎症状等が出現し,それが継続するということは不自然ではなく,原告が本件事故によってストレスを受けていたことからすれば,それによって疼痛が増強し,継続したということも十分考えられる。確かに,原告の本件事故後の治療経過やそれ以前の治療経過において,痛み止めの筋肉注射やトリガーポイント注射の頻度が高いといえるが,だからといって,原告が疼痛が生じていないにもかかわらず,それを訴えて注射を受けていたとは考え難く,C整形外科としても,疼痛を訴える患者に対して疼痛を緩和させるために注射をしていたとみることができるのであって,不必要な治療をしていたと断ずることはできない。
以上によれば,本件事故と原告の頚椎捻挫,腰椎捻挫との間には相当因果関係があり,原告がそれにより同年9月6日まで通院治療を受けたことについても本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。
3
争点⑵(素因減額の可否)について
上記2認定事実によれば,原告が本件事故により頚椎捻挫,腰椎捻挫を負ったことについては,原告の頚椎及び腰椎に変性があったことや,原告の心因的要因が寄与していることは否定できない。
しかしながら,原告の頚椎及び腰椎の変性は,原告の年齢等からすれば加齢性の変性と認められるところ,本件事故前に疾患といえるような状態であったと認めるには足りない。すなわち,原告は,本件事故前に何度か事故に遭って頚部や腰部の疼痛等の症状によって通院治療を受けており,本件事故の約2か月前の平成27年5月9日に背部から腰部にかけて鈍痛があったとして筋肉注射やトリガーポイント注射を受けるなどの治療をしているが,その後,2か月余りほぼ毎日のように肉体労働を伴う食品の配送業務に従事していたことからすれば,原告の頚椎及び腰椎の変性は,本件事故前に疾患といえるような状態であったと認めるには足りない。
また,原告の本件事故による通院期間が約2か月であることからすれば,原告の頚椎及び腰椎の変性や心因的要因が損害を拡大させ,被告に損害の全部を賠償させるのが公平を失するということもいえない。以上によれば,本件において素因減額をするのは相当でない。4
争点⑶(損害の有無及び額)について


治療費等

12万3780円

上記1,2認定事実及び証拠(乙5,6,9)によれば,原告は,本件事故の傷害の治療費等として合計12万3780円を要したと認められ,これは,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
なお,証拠(乙13)によれば,D医師は,C整形外科での原告に対する治療につき,注射の頻度・回数が妥当と考えられる範囲を超えている旨意見を述べているが,上記2認定説示のとおり,C整形外科が不必要な治療を行ったとまでみることはできない。


休業損害

18万円

休業の必要性,相当性について
上記1,2認定事実及び証拠(甲2,乙12の2,原告本人)によれば,原告は,本件事故当時,食品等の配送業を自営していたところ,本件事故による頚椎捻挫,腰椎捻挫のため,頚椎可動域制限(側屈及び回旋にて疼痛あり)や頚部痛等の症状が同年9月6日まで継続していたこと,原告の業務内容は,トラックの運転だけではなく,食品の入ったオリコン等をトラックに積み込む作業やトラックから下ろす作業,配送先までの運搬作業を含むものであったこと,原告は,本件事故後,自動車を長時間運転することや積み下ろし作業等に従事することに支障が生じ,本件事故後,午前中の株式会社Gの定期便業務や2社を発注先とする業務については行っていたものの,そのほかの業務を断わり,その分,減収が生じたことが認められる。
これらの事実によれば,原告は,本件事故による傷害のため,休業の必要性・相当性があったと認められる。


基礎収入について原告は,本件事故当時,事業所得者であるが,平成27年2月から自営業を始めたため,本件事故の前年度の申告所得額や収益についての資料がなく,平成27年分の確定申告をしていない。そのため,原告の休業損害の基礎収入については,原告の元請業者である株式会社F作成の支払明細書と経費であるガソリン代,高速料金代の資料によって,収入(総売上高)から経費を控除した営業収益によることになる。
ところで,原告は,休業損害の基礎収入として,平成27年4月から同年6月までの売上げの平均値又は売上げから経費を控除した金額の平均値とすべきである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲2)によれば,同年4月分の運送代金合計が58万9527円,1日当たりの運送代金が1万9650円(円未満切り捨て。以下同じ。),同年5月分の運送代金合計が57万6940円,1日当たりの運送代金が1万8610円,同年6月分の運送代金合計が50万9100円,1日当たりの運送代金が1万6970円であるのに対し,同年7月1日から本件事故の前日である同月12日までの運送代金合計が13万8600円,1日当たりの運送代金が1万1550円と減収になっていることが認められる。
この点,原告は,7月前半は気温の上昇により食品の配送量が減少するが,7月の後半から8月までが冷たい飲料や食品の需要が増え配送量が増えることは食品業界・運送業界の共通認識であり,7月全体の売上げは4月から6月までの売上げの平均値を上回ることがほぼ確実であったと主張し,原告も同旨の供述をするが,原告の供述を裏付ける的確な証拠がないことからすれば,原告の基礎収入については,同年4月1日から同年7月12日までの総売上高から経費を控除した平均値によるのが相当である。証拠(甲2,9,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社Fから原告に対して支払われる金額は,原告自身が配送業務に従事したことによって得られる「運送代金合計」に「高速料金立替金」,原告の従業員Hが配送業務に従事したことによる運送代金に連動する業務委託手数料が加算され,そこから運送代金合計の10%に相当する「業務委託手数料」,「車リース」,「振込手数料」が控除されていたこと,そのほかの経費としては,ガソリン代(甲9のうちのレギュラーと記載されているもの)と高速料金であるが,高速料金については,原告が一旦立て替えた後,領収書の提出により片道分が「高速料金立替金」として株式会社Fから支払われていたことが認められる。Hが配送業務に従事したことによる運送代金に連動する業務委託手数料は,原告が本件事故の傷害で休業したことによって影響を受けない性質ものであるから,原告の休業損害を算定するための基礎収入としては,総売上高としては運送代金,経費としては,業務委託手数料,車リース代,振込手数料,ガソリン代と高速料金から株式会社Fから支払われる高速料金分を控除したものとするのが相当である。ところで,証拠(甲2)によれば,原告は,本件事故後も同年8月20日まで業務を継続していたことが認められるから,トラックのリース料についても経費として控除するのが相当である。
そして,証拠(甲2,9)によれば,平成27年4月1日から同年7月12日までの営業収益の月額の平均値を算出すると,次のとおり26万0034円となる。
(平成27年4月分の営業収益)
58万9527円-(5万8953円+6万3000円+840円)-(14万7003円-2万7350円)=34万7081円
(平成27年5月分の営業収益)
57万6940円-(5万7694円+8万4456円+840円)-(15万8718円-3万1800円)=30万7032円
(平成27年6月分の営業収益)50万9100円-(5万0910円+8万4456円+840円)-(14万7604円-2万5790円)=25万1080円
(平成27年7月1日から同月12日までの営業収益)
13万8600円-(1万3860円+(8万4456円×12日÷31日)+(840円×13万8600円÷33万1600円))-(4万1511円-2050円)=5万2236円5万2236円×31日÷12日=13万4943円
(平成27年4月1日から同年7月12日までの月額の平均営業収益)(34万7081円+30万7032円+25万1080円+13万4943円)÷4=26万0034円ウ
休業損害について
原告は,株式会社Gの定期便業務は,同社側の業務上の理由で平成27年8月20日に終了したが,原告が本件事故による傷害のため仕事を断ったことから,これに代わる仕事を受注することができなくなったのであるから,少なくとも同月31日までの期間について休業損害が発生したとみるべきである旨主張する。上記1認定事実のとおり,原告が本件事故後,株式会社Gの定期便業務とそのほか2社を発注先とする業務以外の業務に従事しなくなったことからすれば,原告が株式会社Gの定期便業務に代わる業務を受注できなくなったことについては,本件事故が何らかの影響を与えたかのようである。しかしながら,上記イ認定のとおり,原告の株式会社Fからの運送代金は,同年4月から本件事故日までに減少を続けていることからすれば,原告が株式会社Gの定期便業務に代わる業務を受注できなくなったことや原告が廃業したことについては,本件事故以外の要因があったと推認できる。
したがって,原告が本件事故に遭わなければ,株式会社Fから株式会社Gの定期便業務に代わる業務を受注でき,事業を継続することができたと認めるには足りない。
そのため,原告の休業損害については,本件事故前の営業収益の平均値から推計される本件事故日から同年8月20日までの営業収益と実際の営業収益との差額を算出した上で,本件事故による傷害の影響によると認められる範囲で算定するのが相当である。
証拠(甲2,9)によれば,本件事故日である平成27年7月13日から同年8月20日までの営業収益は,次のとおり合計10万1512円となることが認められる。
(平成27年7月13日から同月31日までの営業収益)
19万3000円-(1万9300円+(8万4456円-3万2692円)+(840円-351円))-(5万4208円-2460円)=6万9699円
(平成27年8月1日から同月20日までの営業収益)
15万5000円-(1万5500円+5万6304円+840円)-(5万1363円-820円)=3万1813円
平成27年4月1日から同年7月12日までの月額の平均営業収益26万0034円をもとに,同月13日から同年8月20日までの営業収益を推計すると32万7139円(26万0034円×39日÷31日=32万7139円)になり,上記期間の実際の営業収益合計10万1512円との差額は22万5627円となる。
ところで,上記イ認定のとおり,原告の株式会社Fからの運送代金が同年4月から本件事故日までに減少を続けていることからすれば,上記の差額が全て本件事故による傷害やこれに対する療養のために生じたと認めるには足りない。
原告の傷害の内容,程度,通院状況等からすれば,上記の差額分のうちの約8割に相当する18万円を原告の休業損害と認めるのが相当である。⑶

傷害慰謝料

30万円

原告が本件事故による傷害のため約2か月間通院していたこと,原告の傷害の内容,程度が他覚的所見の乏しい頚椎捻挫,腰椎捻挫であることなどからすれば,本件事故による傷害慰謝料を30万円と認めるのが相当である。⑷

損害賠償請求関係費用(複写費用)

40円

証拠(甲14,乙7)によれば,原告は,本件訴訟提起前,被告の担当者と保険事故による補償の交渉をしており,休業損害の補償を受けるために,支払明細書を複写して提出し,その複写費用として合計40円を要したことが認められ,これは,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。


既払金
証拠(乙4ないし9)によれば,被告は,本件事故に関し,治療費等として合計20万3620円を支払っていることが認められるから,これを控除すると,残額は40万0200円となる。



弁護士費用

4万円

本件事案の内容,認容額等を総合考慮すれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用を4万円と認める。

5
合計

44万0200円

結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,44万0200円及びこれに対する不法行為日である平成27年7月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
なお,仮執行免脱宣言については,必要性がないため,これを付さない。よって,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第6部

裁判官

山本
万起子
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