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殺人未遂被告事件
事件番号平成29(わ)184
事件名殺人未遂被告事件
裁判年月日平成29年7月11日
法廷名札幌地方裁判所
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平成29年7月11日宣告
平成29年(わ)第184号

殺人未遂被告事件
判決主文
被告人を懲役3年に処する
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
札幌地方検察庁で保管中のつるはし1本(略)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
bc丁目d番e号有限会社Aに勤務し,同Aの上司で
あるB(当時64歳)らから指導を受ける中で,仕事を押し付けられているなどと不満を感じていたところ,平成29年2月27日,Bから仕事をしていなかったことについて注意を受け,更に太ももの辺りを一度蹴られたことに立腹し,それまでの不満もあいまって,同日午前1時45分頃,前記A作業場において,Bに対し,
殺意をもって,
その右側頭部をつるはし
(重量約1.
7キログラム
〔略〕

で1回殴打したが,その場にいた同僚から制止されるなどしたため,Bに入院加療10日間及び3か月間以上の経過観察を要する脳挫傷等の傷害を負わせたにとどまった。
(証拠の標目)

(争点に対する判断)
本件の争点は,被告人の殺意の有無,すなわち人を死亡させる危険性が高い行為をそのような行為であると分かっていたといえるかである。
被告人が本件犯行に用いたつるはし(以下「本件つるはし」という。)は,長さ90センチメートルの柄の先に弓状の硬質金属部分
(長さ37センチメートル)
が取り付けられた重量約1.7キログラムのものであり,金属部分の一方の先端は平坦,他方の先端は鋭利であった。
そして,被告人は,被害者の頭部を殴打しようと考え,本件つるはしを持ち出して被害者に近付いた上,その金属部分の尖鋭な方で被害者の右側頭部を殴打した。これにより,被害者の頭蓋骨が陥没骨折し,頭部表皮から約4.6センチメートル,頭蓋骨内側から約2.1センチメートルの深さの傷が生じ,脳挫傷等の傷害も生じている。そして,これらの傷の深さ及び角度等を分析した法医学者である証人Cの証言によれば,被告人は,被害者の頭部に対し,本件つるはしを相当強い力で振り下ろして殴打したと認められる。
このように,重量がある上,先端が金属製で鋭利なつるはしで,頭蓋骨が骨折し,上記の深さの傷を負わせるほどの相当強い力で頭部を殴打する行為は,人を死亡させる危険性が高い行為であるといえる。
そして,被告人は,以前から本件つるはしを用いて氷を割るなどしており,その危険性は十分認識していたところ,本件において,これを取りに行って持ち出し,被害者の頭部を狙って相当強く殴打しているのであるから,自己の行為が,人を死亡させる危険性が高い行為であることを分かっていたといえる。被告人に発達障害があるとしてもこの結論に影響はない。
よって,被告人には殺意があったと認められる。
(法令の適用)
罰刑条種の選
刑法203条,199条


有期懲役刑

法律上の減軽

同法43条本文,68条3号

未決勾留日数の算入

同法21条


同法19条1項2号,2項本文(札幌地方検察庁で


保管中のつるはし1本〔略〕は判示殺人未遂の用に
供した物で被告人以外の者に属しない。)
訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
本件の犯行態様は,上記のとおり危険な凶器を用いて頭部を相当強い力で1回殴打したというものである。本件では,被害者のけがは入院加療10日間及び3か月間以上の経過観察を要する脳挫傷等であり,
幸いにも命に別状はなかったが,
頭部に加えられた衝撃の強さからすれば,部位がわずかにずれれば被害者が死亡していた可能性もあった。このように,本件犯行は,1回にとどまるとはいえ危険なものであり,これによって生じた結果も軽いとはいえない。
もっとも,本件は,被告人が,従前より職場において上司である被害者から指導,叱責され,不満を募らせていた中で,被害者から蹴られたことに立腹して衝動的に犯行に及んだものであるところ,被告人に発達障害があると窺われ,職場の上司,同僚らと十分なコミュニケーションが取れず,対人関係が上手に形成できない中で,被害者の厳しい指導,叱責により大きなストレスを抱えていたことが背景にあることには一定の酌むべき余地があるとみるべきである。そうすると,被告人の責任の重さは,本件と同様の事案の中で,中程度からやや軽い程度までの幅の間に位置付けられるというべきであるが,執行猶予を付すべきほど軽いものとはいえず,懲役刑の実刑を科すのが相当である。以上を前提に,被告人及びその父親と被害者の間で示談が成立し,被害者が被告人に対し強い処罰感情までは有していないこと,被告人に前科がないこと,稼働環境や家庭環境の調整が進むなど今後の被告人の更生環境が整備されていると認められること等も考慮し,上記の実刑の幅の中で比較的軽い刑期を定めることとした。
(求刑

懲役5年,つるはし1本没収)

平成29年7月11日
札幌地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

島戸
裁判官

平手健
裁判官

亀井直純太郎子
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