判例検索β > 平成29年(行ケ)第10016号等
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10016等
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年7月24日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成29年7月24日判決言渡
平成29年(行ケ)第10016号

審決取消請求事件(第1事件)

平成29年(行ケ)第10018号

審決取消請求事件(第2事件)

平成29年(行ケ)第10019号

審決取消請求事件(第3事件)

平成29年(行ケ)第10020号

審決取消請求事件(第4事件)

平成29年(行ケ)第10021号

審決取消請求事件(第5事件)

平成29年(行ケ)第10022号

審決取消請求事件(第6事件)

平成29年(行ケ)第10023号

審決取消請求事件(第7事件)

口頭弁論終結の日

平成29年5月15日
判決
第1~第7事件原告(以下「原告」という。)
A・Tコミュニケーションズ株式会社

同訴訟代理人弁理士

雨宮康仁同磯田一真
第1~第7事件被告(以下「被告」という。)
株式会社デンソーウェーブ

同訴訟代理人弁理士

青木
同訴訟代理人弁護士

萩尾保繁同山口健司同石神恒同関口尚久同伊藤隆大篤太郎
同訴訟代理人弁理士

外川奈美同大橋啓輔主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
第1事件
特許庁が取消2015-300621号事件について平成28年12月20日にした審決を取り消す。

2
第2事件
特許庁が取消2015-300623号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。

3
第3事件
特許庁が取消2015-300624号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。

4
第4事件
特許庁が取消2015-300625号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。

5
第5事件
特許庁が取消2015-300626号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。

6
第6事件
特許庁が取消2015-300627号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。

7
第7事件

特許庁が取消2015-300628号事件について平成28年12月9日にした審決を取り消す。
第2

前提事実(いずれも当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認定し得るものである。)

1
本件商標
登録第4882830号商標(以下「本件商標」という。)は,別紙審決書(1)(写し)の別掲1のとおりの構成よりなり,平成16年9月17日に登録出願され,別紙商標登録原簿の「商品及び役務の区分」及び「指定商品」又は「指定役務」欄に各記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成17年7月29日に設定登録されたものであり,原告は,平成27年6月15日付けで本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)の譲渡を受け,その移転登録手続を行った。また,平成27年7月21日には本件商標権の存続期間の更新登録がされた。

2
特許庁における手続の経緯等
被告は,平成27年8月26日,特許庁に対し,本件商標に係る指定商品及び指定役務のうち,別紙「一覧表」の第1~第7事件における「請求に係る商品及び役務の区分」及び「請求に係る指定商品又は指定役務」欄に各記載の指定商品及び指定役務について,それぞれ,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれの者によっても登録商標を使用した事実が存在しないとして,商標登録の取消の審判を請求した(以下,これらの審判請求を合わせて「本件各審判請求」という。)。
なお,被告は,本件各審判請求と同日に,第35類の区分に属する指定役務を対象とする登録商標について不使用取消審判請求をしたほか,ほぼ同時期(平成27年8月24日審判請求の登録)に,第42類の区分に属する指定役務(一部)を対象とする登録商標について不使用取消審判請求をしている。この結果,本件商標は,第16類,第35類,第36類,第38類,第39類,
第41類,第42類,第45類の8類にわたる区分に属する多数の指定商品又は指定役務を対象としているものであるのに対し,被告は,第42類については2件,その余の類についてはそれぞれ1件(合計9件)の不使用取消審判請求を行ったことになる。
特許庁は,本件各審判請求につき,同別紙「審判事件番号」欄記載の事件としてそれぞれ審理した上,同別紙「審決の日」欄記載の各日付において,同別紙「審決の結論」欄に各記載のとおりの審決をし(以下,第1~第7事件に係る審決をそれぞれ「第1事件審決」のようにいい,また,これらを合わせて「本件各審決」という。),その謄本は,同別紙「審決送達の日」欄記載の各日付に原告に送達された。
なお,本件各審判請求の登録は,同別紙「審判請求の登録の日」記載の各日付にされた。
原告は,本件各審決を不服として,平成29年1月20日,本件各訴えを提起した。
3
本件各審決の理由の要旨
(1)

本件各審決の理由は,別紙審決書(1)~(7)(いずれも写し)記載のとおり
であるが,いずれも要証期間内における本件商標の使用事実は認められないとした上で,被告による審判請求行為は商標法(以下「法」という。)50条の不使用取消審判の本来の制度趣旨から逸脱し,専ら原告を害する目的で行われたものであり,権利の濫用として認められるべきではないとする原告の主張については,おおむね以下のとおり判断した。
(2)

第1事件審決
法50条1項所定の不使用取消審判請求については,「継続して三年以
上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標…の使用をしていないときは,何人も,その指定商品又は指定役務に係る登録商標を取り消すことについて
審判を請求することができる。」とされており,その請求人適格は,「何人も」とされていて,当該登録商標に係る譲渡等の事前交渉,請求人の使用意思等を要するとする規定はない。
また,上記規定における「各指定商品又は指定役務」とは,指定商品又は指定役務が2以上あるものをいい,商標登録に係る指定商品又は指定役務がいくつもあるときは,その一部の指定商品又は指定役務についての取消しを請求することもできると解され,一部の任意の指定商品を選択し,その取消しを求めることができる。本件商標は,別紙商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品又は指定役務としているものであるから,本件商標につき不使用取消審判を請求する場合,その一部の「各指定商品又は指定役務」ごとについての取消しを請求することもできることは明らかである。さらに,本件審判請求は,商標権者に何ら事前の交渉もないまま請求を行ったことのみにより,原告を害することを目的としたものであると認めることはできず,この認定が被告による「QRコード」関連の商標権取得状況により左右されるものともいえない。その他,本件商標に係る被告の不使用取消審判請求行為が,主として原告を害することを目的としたものであったことをうかがわせる事実はない。
したがって,本件審判請求は,被告の権利濫用に当たるということはできない。
(3)

第2~第7事件審決(各事件に共通)
法50条1項は,「各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用
をしていないときは,何人も,その指定商品又は指定役務に係る登録商標を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し,登録商標に係る指定商品又は指定役務が複数存在するときは,使用をしていない指定商品又は指定役務ごとに,その取消審判の請求ができることとしており,「各指定商品又は指定役務」の単位は,当該登録商標に係る指定商品又は指
定役務の範囲で,一部の商品又は役務のいずれも可能である。また,請求人については「何人も」とされており,当該登録商標を使用する意思を要するとするなど,これを制限する規定はない。
したがって,本件商標について,被告が法50条1項の規定により9件の審判請求を行っていることによって,本件審判請求を排斥し,その登録の取消しを免れることにはならないと解するのが相当である。
また,登録商標の不使用による取消審判の請求は,専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合等の特段の事情がない限り,権利の濫用となることはないと解するのが相当であるところ,本件審判請求に係る全証拠から見ても,権利の濫用とすべき事情を認めることはできないから,本件審判請求は,被告の権利濫用に当たるということはできない。第3
1
当事者の主張
原告の主張(各事件に共通)
(1)

被告による本件各審判請求は,以下のとおり,法50条1項・第2項及
び56条の規定・趣旨並びにこれらから導かれる法の審判請求人への要求,商標に化体した業務上の信用の保護という法の目的(法1条)を阻害し,商標制度そのものの根幹を揺るがしかねないものであるから,審判請求権の濫用(民法1条3項,民訴法2条)として不適法却下されるべきものであるとともに,専ら原告を害することを目的としてなされたものであるから,権利濫用(民法1条3項,民訴法2条)として棄却されるべきものでもある。本件各審決は,このような本件各審判請求につき,請求人である被告の権利濫用に当たるということはできないと判断した点で誤りであるから,取り消されるべきである。
(2)ア(ア)

法50条1項は,指定商品又は指定役務が2以上ある場合において,
その一部の指定商品等についての取消を請求するときには,その一部の指定商品等を一体とする1つの請求をすべきとする趣旨の規定と解され
る上,「各指定商品又は指定役務」ごとについての取消請求をむしろ積極的に排除しようとしているものと解される。
そうすると,本件各審判請求は,本来1つの請求ですべき不使用取消審判を,原告に過大な立証負担を課すために敢えて複数に分けて請求するものである点で,法50条1項の趣旨に明らかに反する。
(イ)

法50条2項の趣旨は,被請求人が使用の事実を証明する場合に取
消請求に係る指定商品等の全てについて使用の事実を証明しなければならないとすれば,その証明に要する手数が大変になるだけでなく,審判の迅速な処理も困難となる一方,請求人は自分で必要とする指定商品等のみにつき取消請求をすれば足りるから,不使用取消審判は,1つの請求でまとめてすべきこととしたことにある。
(ウ)

法56条(同条2項が,審判請求の取下げに関する特許法155条
3項を不使用取消審判請求に準用していないこと。)は,不使用取消審判の請求人がその請求に係る指定商品等の範囲を自由に減縮することは請求の要旨を変更するものであり許されないこととし,請求人に,不使用取消審判の請求に当たっては,実際上使用されていないことに確信のある指定商品等のみについて請求すべきことを要求している。(エ)

このような法50条1項・2項及び56条の規定・趣旨に照らせば,
法は,商標権者に使用事実の立証責任を負担させる一方で,審判の請求人には,請求に当たって,自分が必要とする指定商品等であって実際上使用されていないことに確信のある指定商品等のみについて,それらを一体とする1つの請求をすることを要求しているものと解される。
(オ)

本件において,請求人である被告は,被請求人が商標使用事実の立
証責任を負担することを殊更に悪用し,商標権者である原告の使用事実をろくに調査もせず,また,審判の迅速な処理が妨げられることも
顧みずに,原告に法の予定をはるかに超える過大な立証責任を一方的に負担させ,更には過大な手続的負担及び経済的負担を課すために,本来,一個一体の請求とすべき不使用取消審判請求を,特段の事情がないにも関わらず敢えて本件各審判請求を含む9件もの請求に分け,しかもほぼ同時に(特に8件については同時に)行うという行為に及んでいる。
このような被告による本件各審判請求は,上記法50条1項・2項及び56条の規定・趣旨並びにこれらから導かれる法の審判請求人への要求に著しく反するから,審判請求権の濫用(民法1条3項,民訴法2条)に当たり,許されないというべきである。

仮に本件各審判請求が適法となれば,逆に原告が被告の商標登録に対して,不使用取消審判を複数の請求に分けて請求することも当然に適法となり,原告及び被告の間の紛争が激化するおそれがあり,かつ,歯止めはきかなくなる。このような事態に陥れば,請求人が,商標権者に法の予定をはるかに超える過大な立証責任を負担させ,十分な使用の事実の証明を妨害することによって,現に使用している指定商品等も含めて登録商標を取り消すことが可能となってしまう。また,この場合,商標権者が全ての請求について十分な使用の事実を証明することは著しく困難なため,請求認容審決がなされる可能性が極めて高く,その審判費用のほとんどを商標権者が負担することとなる。このため,商標権者が資金力に乏しい者であれば倒産といった事態を招きかねない。さらに,請求人が商標権者を倒産させる意図でこのような請求をした場合でも,そのような意図を客観的に証明することは極めて困難であるから,適法とせざるを得なくなる。
これでは,商標権を保有すること自体がリスクにほかならなくなってしまい,商標権の取得意欲が著しく減退してしまうことを避けられない。
そうすると,商標に化体した業務上の信用を保護するという法の目的(1条)を達成することは極めて困難になり,商標制度そのものの根幹を揺るがしかねない事態に陥る。また,審判の渋滞は避けられず,その迅速な処理が著しく困難となり,その点でも法50条2項の趣旨を没却しかねない。
さらに,仮に本件各審判請求のごとき審判請求が適法とされれば,上記のとおり多額の審判費用を最終的に商標権者が負担することを利用して,商標権者に多額の和解金を請求し,支払を得るまで不使用取消審判を大量の請求に分けて請求し続ける者が現れる事態が予想される。ウ
以上のように,本来1つの請求で足りるにもかかわらず敢えて本件各審判請求を含む9件もの請求に分け,しかもほぼ同時に請求するという本件各審判請求は,法50条1項・2項及び56条の規定・趣旨並びにこれらから導かれる法の審判請求人への要求,更には商標に化体した業務上の信用を保護するといった法の目的(1条)を阻害し,商標制度そのものの根幹を揺るがしかねないものであるから,審判請求権の濫用(民法1条3項,民訴法2条)として不適法とすべきである。
したがって,本件審判請求は却下されるべきものである。

(3)ア

本件各審決は,いずれも,本件各審判請求につき,専ら又は主に原告
を害する目的であることを認めることはできないとするが,その判断は誤りである。

原告は従業員数12名の零細企業であるから,本件各審判請求を含む9件もの不使用取消審判手続に同時に対応するに当たって生じる証拠方法の収集に関する手続的負担や経費負担は,原告にとって甚大である。また,使用の立証が不十分と判断されれば商標の登録は取り消され,審判費用及び裁判費用を負担することとなり,更新費用や前商標権者への譲渡費用さえも意味のないものとなる上,悪意ある第三者により「QRコ
ード」に係る商標が登録され事業継続そのものが難しくなるというリスクまで抱えることとなる。

原告と被告とは過去にビジネスパートナーとして共同で技術開発等を行ってきた経緯もあることから,本件各審判請求が原告にとってこのように大きな負担となり得ることは,被告も十分に認識している。


被告による「QRコード」関連の商標権獲得実績のほとんどは,第9類及び第42類に限られる。近年出願されたものも,第9類,第35類及び第42類の3区分に限られている。これらのことから,被告のQRコード関連業務と関係性のある指定商品・役務は,第9類,第35類及び第42類の3つの区分に属する商品及び役務に限られ,本件商標権の指定商品及び指定役務のうち第16類,第36類,第38類,第39類,第41類及び第45類の区分に属する商品及び役務については,被告のQRコード関連業務とは全く関係がなく,商標権を取得する意思すら被告は持ちあわせていないと容易に推認し得る。


そうすると,被告が,自分で必要とする指定商品等のみならず,必要としない指定商品等についてまで,本来1つの請求で足りる不使用取消審判請求を敢えて本件各審判請求を含む9件もの請求に分け,しかもほぼ同時に請求した行為は,原告に,法の予定をはるかに超える過大な立証責任を負担させ,十分な使用の事実の証明を妨害することによって,現に使用している指定商品等も含めて本件商標を取り消そうという,専ら原告を害することを目的としてなされたものとしか考えられない。したがって,被告による本件各審判請求は,専ら原告を害することを目的としてなされたものであり,権利濫用(民法1条3項,民訴法2条)として棄却されるべきものである。

2
被告の主張(各事件に共通)
(1)

本件各審判請求は,以下のとおり,権利濫用に当たるものではなく,こ
の点に関する本件各審決の認定・判断に誤りはない。
(2)

法50条1項は,何人も指定商品等ごとに不使用取消審判の請求を行い
得ることを明らかにしていることから,被告が,本件各審判請求を含む9件の不使用取消審判請求を行ったこと自体を権利の濫用とすることはできない。また,法50条2項及び56条を考慮した場合でも,法は,不使用取消審判請求につき,登録商標の一部の指定商品等を対象とすることを許容していることに変わりはなく(法50条1項),ただ,いったん複数の指定商品等を対象として請求された不使用取消審判請求は,1つの請求と法的に評価されることとなるから,審判請求後は,請求中の一部の指定商品等に自由に減縮することはできない一方で(法56条は特許法155条3項を準用していない。),被請求人が,請求人が審判対象とした指定商品等の一部でも使用の事実を立証すれば,審判対象となった全ての指定商品等について使用があったものとして審決が行われる(法50条2項)ものとして明確に定めている。原告の取消事由における法解釈の主張は,このような法の規定の文言に反し,その趣旨を誤解したものであり,失当である。
また,被告が原告に対し過大な立証負担を課す目的で本件各審判請求を行った事実はなく,原告が立証責任を負担することを悪用した事実もなく,いずれも原告の憶測にすぎない。本件各審判請求を適法とすることの弊害等として原告が主張する点も,いずれも論理に飛躍があるか,根拠のない憶測ないし事実に基づかない主張にすぎない。
さらに,法50条1項,2項は,指定商品等のいくつかのまとまりごとに不使用取消審判を請求することを許容し,当然予定しているといえるし,その場合でも,商標権者は,実際に使用している商標であれば,その証拠を提出することにより取消しを免れることができるのであるから,過大な負担を負うものではない。実際に使用していない商標であれば,むしろ登録を取り消すことが法50条1項の趣旨に沿うし,公益的観点からも望ましいとい
うことができる。
(3)

以下の「QRコード」の開発及び普及の経緯並びに不使用取消審判請求
に至る経緯からは,本件各審判請求が専ら原告を害する目的でされたものでないことも明らかである。

「QRコード」の開発及び普及の経緯
「QRコード」は,大容量でありながら他のコードより10倍以上のスピードで読み取ることができる2次元コードとして被告により開発され,平成6年に発表されたものである。その名称は「QuickResponse/クイック・レスポンス」に由来し,高速読み取りという開発のコンセプトが込められた,被告の創作に係る造語である。被告は,「QRコード」に係る最初の商標出願を平成7年6月16日に行い,平成9年10月24日に登録されている。
また,被告は,開発当初から,「QRコード」の基本特許を開放しつつ普及活動を行い,その結果,「QRコード」は,自動車部品業界等において商品管理等様々な用途に使用され,種々の業界標準規格,国際/国家標準規格を取得することにより,現在では国内・海外の各分野の企業活動に不可欠なものとなった。このことは,我が国の取引者・需要者に広く知られている事実である。
このように,本件商標に対する不使用取消審判請求(本件各審判請求を含む。以下同じ。)は,そもそもの開発者であり,「QRコード」の名称の創作者によりなされたものである。また,上記経緯に照らすと,被告以外の者に「QRコード」に係る商標権が帰属した場合,商標の出所について需要者の誤認・混同を招くおそれがあり,そのことにより「QRコード」に係る商品・役務の品質に対する需要者の信用を損なう弊害を否定し得ない。さらに,膨大な労力,時間及び費用を要した被告の普及宣伝活動によって「QRコード」は著名化され,信用が化体した
ものであり,このような信用へのただ乗りは許されるべきでない。被告による本件商標に対する不使用取消審判請求は,こうした「QRコード」の出所識別標識としての機能と品質に対する需要者からの信用を維持するとともに,ただ乗り阻止のために,使用されていない本件商標の取消しを求める必要があったことにより行われたものであって,専ら原告を害することを目的としてされたものではなく,権利濫用には当たらない。

不使用取消審判請求に至る経緯
被告は,原告との間で平成21年から平成24年にかけて特許のクロスライセンス契約を締結し(原告は「ロゴQ」に関する特許を被告にライセンスし,被告は「QRコード」に関する特許を原告にライセンスしていた。),同契約は,平成24年にはビジネスアライアンス契約に切り替わった。
しかし,その後両者の関係がこじれてきたため,平成27年7月に同契約を解消するに至ったが,その過程で,本件商標に関する話し合いが行われたことも,話題に上ることもなかった。
本件商標は,もともと平成17年7月29日に個人が登録したものであり,その後実際の使用が長年行われていなかったことと,「QRコード」の普及に努めるというポリシーの下,被告は,不使用取消審判請求等の積極的な措置を取ることはせず,存続期間満了による権利消滅を待っていた。ところが,上記ビジネスアライアンス契約解消に向けた協議を重ねていた平成27年6月15日を受付日として原告が本件商標の移転登録を得たことが,その登録後に判明した。個人が本件商標を実際使用せずに保有していることと,被告と直近までビジネスパートナーであった事業者である原告が保有することとは,「QRコード」の出所識別機能への影響という点で意味が異なるのであって,被告が原告に対して
本件商標に対する不使用取消審判請求を行ったのは,この点を踏まえた被告側のQRコード商標のブランド戦略からくる必要性に基づくものであり,原告を害する目的で行ったものではない。
以上の事実に照らしても,本件各審判請求は,専ら原告を害することを目的としてされたものではなく,権利濫用に当たらない。
第4

当裁判所の判断

1
本件において,原告は,本件各事件の取消事由として,被告の本件各審判請求は審判請求権の濫用及び権利濫用であるにもかかわらず,これを認めなかった点で誤りである旨主張するが,当裁判所も,以下のとおり,被告の本件各審判請求は審判請求権の濫用にも権利濫用にも当たらず,本件各審決に誤りはないものと判断する。

2
審判請求権の濫用の主張について
(1)

法50条は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権
者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは,何人も,その指定商品等に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができ(1項),この審判の請求があった場合においては,その審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者等のいずれかがその請求に係る指定商品等のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品等に係る商標登録の取消しを免れない(2項本文)旨を定める。また,法56条1項は不使用取消審判に特許法155条3項(「二以上の請求項に係る特許の二以上の請求項について特許無効審判を請求したときは,その請求は,請求項ごとに取り下げることができる。」)を準用していない。これらの規定によれば,商標の不使用取消審判は,何人も,登録商標に係る指定商品等のうちの一部を対象として請求することができ,これに対し,登録商標の商標権者は,その請求に係る指定商品等のいずれかについて商標権
者等が登録商標の使用をしていることを証明しなければ,その請求に係る指定商品等につき商標登録の取消しを免れないが,これが証明された場合,請求人はその請求に係る指定商品等の一部につき請求を取り下げることができず,他方で,商標権者は,その請求に係る指定商品等の全体について,登録商標の取消しを免れることができることとなる。
本件において,被告は,別紙「一覧表」の第1~第7事件における「請求に係る商品及び役務の区分」及び「請求に係る指定商品又は指定役務」欄に各記載の指定商品等に係る本件商標の商標登録の不使用取消審判を請求した。これに対し,本件各審決は,いずれも原告主張に係る本件商標の要証期間内での使用事実は認められない旨判断したところ,原告は,本件各事件のいずれにおいても,商標使用事実の有無に関する本件各審決の判断の誤りを取消事由として主張していない。
そうすると,本件各審判請求は,いずれも法50条1項所定の要件を満たすものといってよく,これらをもって審判請求権の濫用と評価すべき事情も見当たらない。
(2)

これに対し,原告は,不使用取消審判の請求人がその請求に当たり指定
商品等を細分化した場合の被請求人の立証の負担等を指摘し,そのような請求は法50条1項・2項及び56条の規定・趣旨並びにこれらから導かれる法の請求人への要求,法の目的を阻害し,商標制度の根幹を揺るがしかねないなどとして,そのような請求である本件各審判請求は審判請求権の濫用である旨主張する。
しかし,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であるところ,法50条所定の登録商標の不使用取消審判制度の趣旨は,一定期間登録商標の使用をしない場合には,そのような信用が発生しないか,又は消滅してその保護すべき対象がなくなること及び不使用に係る登録商標に対して排他的独占的な権利を与えておく理由
はなく,かつ,その存在により商標使用を希望する第三者の商標選択の余地を狭めることから,そのような商標登録を取り消すことにあると解される。また,法50条2項は,登録商標がその指定商品等について使用されていないことを請求人が証明することは不可能に近いまでに困難であるところ,登録商標の不使用の事実の立証責任を請求人が負うとすると,商標権者が審判請求に何らの応答もしないような場合には当該請求の処理に窮することとなり,また,不使用の立証が困難であるというだけで,実際には不使用であるのに商標権者はその商標登録の取消しを免れ,不使用の登録商標の存在により不利益を受けるものである請求人の利益は擁護されないこととなるのは妥当でないこと,被請求人である商標権者は,その指定商品等に係る登録商標の使用の有無を最もよく知るとともに,現にその証拠を有し,又は容易にこれを収集し得る立場にある以上,登録商標の使用事実の立証責任を被請求人に負担させる方が当事者間の公平にかなうと考えられることなどを踏まえ,被請求人が立証責任を負担することを明らかにするとともに,審判の迅速な処理に資することとしたものである。他方,法56条が不使用取消審判に特許法155条3項を準用していないのは,請求に係る指定商品等に属する商品等が複数ある場合でも,審判請求はその商品等ごとに複数あるのではなく,1個であることを明確にするためである。
以上指摘した点も踏まえて検討すると,まず,原告が依拠する法50条2項及び法56条の規定は,複数の指定商品又は指定役務を対象とした1つの不使用取消審判請求がされた場合,その対象となった指定商品又は指定役務のいずれかについて使用事実の立証がされれば,当該請求全部について不使用取消しを免れることと,1つの不使用取消審判請求の一部について請求を取り下げることはできないことを定めているのにとどまり,不使用取消審判請求をする場合に,審判請求の仕方に制約があるのかどうか(すなわち,原告が主張するとおり,審判請求をする場合には,1つにまとめて請求をし
なければならないのかどうか)については,何ら触れていない。そして,仮に請求の仕方(すなわち審判請求権の行使の仕方)に制約があるのであれば,その旨が明示的に定められるべきであることを考慮すると,そのような明示的な定めがされているわけではない以上,上記各規定により,原告主張のような制約が課されたと解することは困難である。実質論として考えてみても,前記のとおり,3年以上使用されていない商標登録は取り消されるべきであり,また,不使用取消審判手続においては,商標の使用について一番よく知り得る立場にある被請求人が商標使用の事実について証明責任を負うべきであるというのが不使用取消審判制度に関する法の趣旨である以上,多数の指定商品又は指定役務について商標登録を得た商標権者は,不使用取消審判請求を受けた場合には,相応の立証の負担等を負うことを予期すべきものである。これに対し,原告の主張を敷衍すると,不使用取消審判請求をされた被請求人の立証の負担や経済的負担への配慮を優先し,多数の指定商品又は指定役務中1つでも使用の事実を立証すれば,すべての指定商品又は指定役務について不使用取消しを免れるというのが法の趣旨であるということになるが,そのような解釈は本末転倒であって,到底成り立たないものであるといわざるを得ない。
3
権利濫用の主張について
原告は,本件各審判請求につき,専ら原告を害することを目的としてされたものである旨主張するけれども,これを認めるべき事情として原告が主張するもののうち,使用事実の立証のための証拠方法収集による手続的及び経済的負担をいう点は,そもそも具体的な主張立証に欠けるし,その点を措くとしても,複数の商品等を指定商品等とする登録商標の商標権を有することに伴う負担というべきものであって,あながち不当ないし過大なものとはいえない。そのような原告の負担を仮に請求人である被告が認識していたとしても,そのことをもって直ちに,被告が専ら原告を害することを目的としていたことをうかがわ
せる事情ということもできない(本件においては,原告が,8類にわたる区分に属する多数の指定商品又は指定役務について商標登録を得ているのに対し,被告は,各類につき,それぞれ1件(ただし,第42類については2件)の不使用取消審判請求をしたのにすぎない。不使用取消審判請求の対象となる指定商品又は指定役務を殊更分断し,極めて多数の審判請求をしているのであればともかく,この程度の不使用取消審判請求をもって,専ら原告を害する目的としてされたものであると断じることは到底困難というべきである。)。また,被告による「QRコード」関連の商標権獲得実績等が原告主張のとおりであるとしても,法50条が不使用取消審判の請求人につき商標の使用意思等を要求していないことなどを考えると,そのような事情をもって直ちに,本件各審判請求につき被告が専ら原告を害することを目的とするものであることをうかがわせる事情ということもできない。
その他原告がるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用し得ない。
4
結論
以上のとおり,被告による本件各審判請求は,審判請求権の濫用と見ることも,権利濫用と見ることもできないのであって,これと同旨の判断をした本件各審決にはいずれも誤りはない。
よって,原告の本件各事件の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
杉浦正樹寺田利彦
裁判官

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