判例検索β > 平成29年(う)第143号
窃盗、窃盗未遂、死体遺棄
事件番号平成29(う)143
事件名窃盗,窃盗未遂,死体遺棄
裁判年月日平成29年8月17日
法廷名名古屋高等裁判所
結果破棄自判
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役3年に処する
原審における未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,
弁護人柳場雄貴作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書1に記
載されているとおりであるから,これらを引用する。
論旨は,要するに,被告人を懲役4年6月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるというのであり,社会内での更生が期待できるとも主張しているから,刑を減じた上で執行猶予を付するのが相当であるともいうものであろう。
そこで,記録を調査し,当審での事実取調べの結果をも併せて検討する。1本件は,被告人が,交際相手の共犯男性と共に,いずれも職に就かず,定住する場所もない中で車上生活等を続けていた約1年2か月の間に,
いずれも同男性と共
謀して行った死体遺棄事案と多数の窃盗事案(その内訳は,自動車窃盗3件(後記①④⑥)キャッシュカードを使用した預金の引出し窃盗9件,
(同③)
及びさい銭盗
2件(同⑤⑦,⑦は未遂))である。すなわち,被告人は,交際していたAと共謀の
上,
①平成27年6月21日頃,
愛知県田原市内の駐車場で普通乗用自動車1台
(時
価約2万円相当)を窃取し,②同年12月31日頃,当時居候していた家の家主の女性(当時71歳)の死体を,同県新城市内の廃屋トイレ便槽内に運び入れるなどして遺棄し,③同女性名義のキャッシュカードを使用して,平成28年1月5日から同年3月8日までの間に9回にわたり,現金自動預払機から現金合計17万6000円を引き出して窃取し,④同年3月10日頃,同県豊川市内の駐車場で普通貨物自動車1台(時価約60万円相当)を窃取し,⑤同年7月20日,同県田原市内の神社でさい銭約200円を窃取し,⑥同月23日頃,同県田原市内のゴルフ倶楽部で普通貨物自動車1台(時価約20万円相当)を窃取し,⑦同月30日,⑤の神社でさい銭を窃取しようとしたが,さい銭箱に現金が入っていなかったためその目
的を遂げなかった,というものである。
2まず,窃盗についてみてみる。車中泊をしていた被告人らは,その生活を維持するため長期間にわたり窃盗を多数回繰り返していたから,本件窃盗事案は,常習的犯行の一環である。すなわち,被告人らは,平成27年4月以降平成28年8月に逮捕されるまでの間,無職無収入で生活費を得る当てもない中,移動や寝泊まりに使用していた自動車が故障等により使えなくなる都度,別の自動車を盗んで(①④⑥)は乗り換え,生活費は,さい銭泥棒をして(⑤⑦)賄いつつ,死体遺棄(②)の被害女性方に居候していた時期(平成27年9月から12月までの間)には同女性の年金や生活保護費のほか,同女性の親族の援助金をも当てにし,更に同女性名義のキャッシュカードを入手すると同カードで引き出して盗んだ現金(③)をも費消していた。その結果,自動車窃盗が3件で被害額合計約82万円,引出し窃盗が9件で被害額合計17万6000円などそれなりに多額の被害を生じさせたが,原審段階では被害弁償等が全くなされていない。引出し窃盗は,被告人も関与した死体遺棄の被害女性名義のキャッシュカードと知りつつ,これを不正使用したもので,強い非難に値する。以上のように,窃盗だけをとってみても,本件は犯情が重く,実刑が相当な事案であるといえる。
さらに,死体遺棄(②)についてみると,被告人らは,被害女性方に居候し寝食等世話になっていたところ,共犯男性の手酷い暴行により被害女性が死亡し,その発覚を防ぐため同女性の死体を廃屋トイレ便槽内に運び入れて遺棄したというのであり,そのような場所に約9か月間放置されて白骨化した死体は,痛ましい限りである。車上生活から抜け出すため,被害女性の好意を利用した挙句,被害女性が死亡すると保身のためにその死体を遺棄したものとみるほかなく,動機経緯に酌むべき点は見当たらない。遺棄の態様自体には損壊を伴うなどの悪質さまではなく,計画性もないといえるが,死体遺棄としても,犯情はやや重いと評価すべき事案である。
3
共犯者間での被告人の役割や犯行への関与の程度について検討する。被告人は,
共犯男性との上記のような共同生活を維持するため,共犯男性に追従して犯行に関与したもので,当然に被告人自身も窃盗の利得を受けているし,自動車窃盗では見張り役,
引出し窃盗では9回中7回で引出し役,
さい銭盗では実行役又は見張り役,
死体遺棄では死体の運び役という,いずれも犯行において重要な役割を果たしている。本件各犯行にこのような関与の仕方をした被告人の刑事責任は重く,本件の犯情に照らし実刑が相当と評価した原判断に誤りがあるとは認められない。4しかし,原判決は,被告人の犯行への関与の程度を表面的に評価したために,結果的に,所論が指摘するように,これを過大に評価したものと考えざるを得ない。まず,犯罪に関わるという点では,被告人は,本件までは窃盗罪の前科前歴は全くなかった者であり(薬物関係前科1犯を有するにとどまる。,そのような被告人が)
多数の窃盗を重ねるに至ったのは,共犯男性の影響が大きかったことがうかがわれる。また,これらの犯罪に至った原因の一つとして,被告人らが車上生活を始めたことがあるが,被告人がそのような生活に陥ったのは,共犯男性が,被告人が警察に追われているから一緒に逃げてやるなどと嘘を言ったことに端を発している。のみならず,その話が嘘と分かった後も行動を共にしていたのは,被告人が共犯男性に対する情があって離れ難かったからだけでなく,
被告人自身には親族や知人との
連絡手段がなかった(携帯電話機を使用して他者と連絡できたのは共犯男性だけであった。
被告人は自動車の運転もできなかった。こともあって,

共犯男性と行動を
共にせざるを得ないという状況があったことも一因となっていた。さらには,共犯男性の暴力から逃げ出そうとしたが,すぐに追い掛けられたため逃げるのを諦めたということもあった。死体遺棄についても,被告人は,被害女性の具合が急変した頃から共犯男性に対し同女性を病院に連れて行くように促し,同女性を自動車に乗せたものの,運転のできる共犯男性が病院に連れて行かず,死体の遺棄場所を探す目的で車を走らせたという経緯があったことも考慮されるべきである。以上によれば,所論が指摘するように,被告人が共犯男性の日常的な暴力によって強制的に従わされていたとまではいえないものの,被告人は,共犯男性からの働
き掛けに応じて窃盗に加担し,死体遺棄も,共犯男性に引きずられるようにして加担したものと評価するのが相当である。確かに,被告人が犯行に不可欠な実行役をした(引出し窃盗,死体遺棄)こともあったが,これらもいわば損な役回り(預金の引出しは実行役の方が検挙されやすく,死体を運搬するなどは誰もやりたくないなど)を共犯男性から押し付けられやむなく引き受けた面もうかがわれるから,実行役をしたことが被告人の犯行に対する積極性や関与の深さを表すとは必ずしもいえない。原判決は,その説示に照らし,被告人の追従の程度について本件事案の実体に即した正当な評価をしたとは認め難く,現実の行動を表面的に捉えた結果,被告人の関与の程度を重く評価し過ぎたものといわざるを得ない。5
以上の本件の犯情に加え,原判決の指摘する一般情状(被告人が各事実を認め,共犯男性との関係を断つ決意を示していること,被告人の前科関係)に照らせば,被告人を懲役4年6月の実刑に処するのが相当とした原判決の量刑は,原判決の時点においても重過ぎて不当であるから,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
さらに,当審での事実取調べの結果によると,被告人は,原判決後,更に内省を深め,今後犯罪に一切関わらないために共犯男性と縁を切る決意を新たにし,同男性からの手紙に対する返信をやめたこと,また,①及び④の自動車窃盗の各被害者に対して各3万円を被害弁償し,各被害者から被告人に対して厳罰までは望まない意向が示されたこと,さい銭盗(⑤⑦)の被害者に対し反省文を書いて謝罪の意思を伝えるとともに被害弁償の申入れをし,
同被害者から被害弁償は不要であり社会
復帰後に参拝に来て反省の言葉を伝えてもらえればよい旨の意向が示されたことが認められる。特に上記慰謝の措置を講じた点は,被告人の努力によって上記各被害者の処罰感情が緩和したものと考えられるから,明らかに原判決後の被告人に有利な事情と認められる。

6原判決も指摘している諸事情に,原判決時においても考慮されるべきであった被告人に有利な事情と,さらに,当審において明らかになった原判決後の被告人に有
利な事情を加えて,被告人の量刑を再考すると,前記2,3で述べたところからみて,被告人に対してはやはり執行猶予を付することはできないが,原判決の量定した刑期は重過ぎて不当であり,相応に減じる必要がある。
7そこで,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に次のとおり判決する。
原判決の認定した罪となるべき事実に法令を適用すると,原判示第1,第3(原判決添付の別表記載の番号ごとに)ないし第6の各所為はいずれも刑法60条,235条に,原判示第2の所為は同法60条,190条に,原判示第7の所為は同法60条,243条,235条にそれぞれ該当するところ,原判示第1,第3ないし第7の各罪について各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い(原判決は,単に「犯情の最も重い」とするがこれは誤りである。
)原判示第4の罪の刑に法
定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中120日をその刑に算入し,原審及び当審の訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
平成29年8月17日
名古屋高等裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

村山浩昭
裁判官

入江恭子
裁判官

赤松亨太
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