判例検索β > 平成28年(行ケ)第10170号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成28(行ケ)10170
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年8月30日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成29年8月30日 担 知的財産高等裁判所 第1部

事 件 番 号 平成28年(行ケ)第10170号 部
○ 「累進屈折力レンズ」との名称の発明について,訂正が,特許法134条の2第9項
において準用する同法126条5項及び同条6項の規定に適合しないとした審決の判断
には誤りがあるとして,特許を一部無効とした審決を取り消した事例
(関連条文)特許法134条の2第9項,同法126条5項,同条6項
(関連する権利番号等)無効2014-800136号,特許第5000505号
判 決 要 旨
1 原告は,発明の名称を 「累進屈折力レンズ」とする発明についての 特許(特許第5
000505号。以下「本件特許」という。 )の特許権者である。被告は,本件特許 の無
効審判請求をし(無効2014-800 136号),原告は,訂正請求をした(以下「本
件訂正」という。)。これに対し,特許庁は,本件訂正が特許法134条の2第9項 にお
いて準用する同法126条5項 及び6項の規定に適合せず認められないとした上,本件特
許の一部を無効とする審決をした。
本件は,原告が,本件訂正の可否を争って,一部無効審決の無効 審決部分の取消を求め
た事案である。
2 本判決は,本件訂正について,要旨 ,次のとおり判示して,当業者によって本件明
細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項と
の関係において,新たな技術的事項を導入しないものであり, かつ,実質上特許請求の範
囲を拡張又は変更するものとは認められないから,本件訂正が特許法134条の2第9項
において準用する同法126条5項 及び6項の規定に適合せず認められないとした審決の
判断には誤りがあるとして,審決を取り消した。
(1) 本件第1訂正の訂正事項1-4は,請求項3及び請求項12の「所定領域」につ
いての規定である「前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前
記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき, |(x 2 +y 2 ) 1 /

|≦2.50の条件を満足する領域」を,それぞれ「前記測定基準点を原点としてレンズ
の水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向へ
の距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が |(x 2 +y 2 ) 1 / 2 |≦2.50 の条
件を満足する領域」と訂正するものである。
(2) 本件明細書の記載によれば,「所定領域」は,「面非点隔差成分の平均値(ΔA
Sav)」を所定の値以下に抑えるべき領域であると認められるから,「面非点隔差成分
の平均値(ΔASav)」を決めるための基準となる範囲を示すものであるといえる。す
なわち,面非点隔差成分の平均値(ΔASav)は,①面非点隔差成分ΔASと,②「所
定領域」によって特定されるものであると認められる。そして,本件条件式は,②「所定
領域」の範囲をx,yを用いた数式によって特定するものであると解される。
また,本件明細書の記載によれば, ①面非点隔差成分ΔASは,座標(x,y)を用い
て,ΔAS(x,y)で規定されており ,その具体例についても,表2及び表3において
,測定基準点OFを原点として,レンズの水平方向への距離をx(mm)と,鉛直方向へ
の距離をy(mm)とした座標(x,y)を用いて説明されている。
このような本件明細書に記載された技術的意義を踏まえると,本件明細書の記載に接し
た当業者であれば,「所定領域」が満足するべき本件条件式のx,yについても,①「面
非点隔差成分ΔAS(x,y)」と同様に,座標(x,y)であると解するのが自然であ
るといえる。
したがって,本件第1訂正の 訂正事項1-4は,もとより座標を示すものであると解さ
れる本件条件式のx,yが座標であることを明記したにすぎないものであり, 本件明細書
に記載した事項の範囲内においてするものということができる。
(3) 審決は,本件発明12の本件条件式「|(x 2 +y 2 ) 1 / 2 |≦2.50」を含む
本件訂正前発明特定事項について,①水平方向外縁位置と鉛直方向外縁位置との距離が2
.50mm以下になること(第1解釈),又は,②所定領域が測定基準点を中心とする半
径2.50mmの円内に収まること(第2 解釈)のいずれかに解釈できるとした上,いず
れに解しても,本件第1訂正によって,本件訂正発明12の技術的範囲の一部又は全部に
ついて,本件発明12の技術的範囲外であると認識するおそれがあるから,本件第1訂正
は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであると判断した。
しかしながら, 本件第1訂正の訂正事項1-4は,もとより座標を示すものであると理
解される本件条件式のx,yが座標であることを明記したにすぎないものであるから,本
件訂正の前後を通じて,請求項12の条件式で規定される範囲に変更はなく,実質上特許
請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。
戻る / PDF版
平成29年8月30日判決言渡
平成28年(行ケ)第10170号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年7月12日

判原決告
訴訟代理人弁護士

株式会社ニコン・エシロール


訴訟代理人弁護士

聖二林英了大谷寛鈴被野

弁理士

大木守
HOYA株式会社

島孝明安國忠彦朝吹英太野中信宏
弁理士

若山俊輔主1永文
特許庁が無効2014-800136号事件について平成28年6月21日にした審決のうち,特許第5000505号の請求項1,3,「
2,
4,5,6,9,10に係る発明についての特許を無効とする。
」との部
分を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1

原告の求めた裁判

主文同旨

第2

事案の概要

本件は,特許無効審判請求に対する一部無効審決の無効審決部分の取消訴訟である。争点は,①訂正要件に関する判断の適否,②手続違背の有無,③新規性判断の適否,④進歩性判断の適否である。
1
特許庁における手続の経緯

原告は,名称を「累進屈折力レンズ」とする発明につき,平成18年7月6日を国際出願日とする特許出願
(特願2007-525964号)(優先権主張
をし


成17年7月21日・日本国,国際公開・WO2007/010806),平成23
年11月7日に,手続補正(甲11)を行い,平成24年5月25日,設定の登録(特許第5000505号。請求項数12)を受けた(甲45。以下,この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書」という。。

被告は,平成26年8月27日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした(甲28)
。原告は,同年12月17日,訂正の請求をし(甲
30)
,さらに,特許庁から,平成27年5月26日付けで無効理由通知を受けたため(甲34)
,同年6月19日,訂正の請求をした(甲36)

その後,
原告は,
同年10月30日付けで特許庁から審決の予告を受けたため
(甲
39)平成28年1月5日,

本件特許の特許請求の範囲及び明細書について訂正の
請求をし(甲41)
,同月29日,その訂正請求書を補正する手続補正書を提出した
(甲42。以下,この補正後の訂正の請求に係る訂正を「本件訂正」という。先に
した各訂正の請求は取り下げられたものとみなされた(特許法134条の2第6項)。

特許庁は,平成28年3月4日,本件訂正に関し訂正拒絶理由通知をした上(甲43)
,同年6月21日,
「特許第5000505号の請求項1,2,3,4,5,
6,9,10に係る発明についての特許を無効とする。特許第5000505号の請求項7,8,11,12に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決の謄本は,同月30日に原告に送達された。
2
特許請求の範囲の記載
(1)

本件特許の特許請求の範囲の記載は,
以下のとおりである
(甲45。
以下,

請求項1ないし12に係る発明をそれぞれ「本件発明1」などといい,併せて「本件発明」という。。

【請求項1】
装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,
レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有し,
眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下であることを特徴とする累進屈折力レンズ。

【請求項2】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。【請求項3】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項2に記載の累進屈折力レンズ。【請求項4】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。【請求項5】
前記所定の値は0.15ディオプターであることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。
【請求項6】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項5に記載の累進屈折力レンズ。【請求項7】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項6に記載の累進屈折力レンズ。【請求項8】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項5に記載の累進屈折力レンズ。【請求項9】
前記所定領域は,実質的に球面形状またはトーリック面形状であることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。
【請求項10】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズ。【請求項11】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項10に記載の累進屈折力レンズ。
【請求項12】
前記所定領域は,前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズ。
(2)

本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである
(甲42。本件訂正による訂正部分には下線を付した。以下,本件訂正後の請求項1ないし12に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」などといい,併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件訂正明細書」という。。なお,審決の表示に従い,本件訂正発明1ないし3及び)
9ないし12に係る訂正を「本件第1訂正」
,本件訂正発明4に係る訂正を「本件第
2訂正」
,本件訂正発明5ないし7に係る訂正を「本件第3訂正」
,本件訂正発明8
に係る訂正を「本件第4訂正」という。
【請求項1】
装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,
累進面が外面に配置され,累進面を備えない処方面が内面に配置され,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有し,
眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きいことを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項2】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用
者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。【請求項3】
前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項2に記載の累進屈折力レンズ。【請求項4】
装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,
累進面が外面に配置され,累進面を備えない処方面が内面に配置され,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有し,
眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.12ディオプター以下,かつ0.00ディオプターより大きく,
前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)と
するとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする累進屈折力レンズ。【請求項5】
装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズ(ただし,処方の球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の累進屈折力レンズを除く)において,
累進面が外面に配置され,累進面を備えない処方面が内面に配置され,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有し,
眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きいことを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項6】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項5に記載の累進屈折力レンズ。【請求項7】

前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項6に記載の累進屈折力レンズ。【請求項8】
装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズ(ただし,処方の球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の累進屈折力レンズを除く)において,
累進面が外面に配置され,累進面を備えない処方面が内面に配置され,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有し,
眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.12ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きく,
前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項9】
前記所定領域は,実質的に球面形状またはトーリック面形状であることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズ。
【請求項10】
前記所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,およびレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められていることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズ。【請求項11】
前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項10に記載の累進屈折力レンズ。
【請求項12】
前記所定領域は,
前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が
|(x2+y2)1/2|≦2.50
の条件を満足する領域であることを特徴とする請求項9に記載の累進屈折力レンズ。
3
本件訂正の内容
(1)

本件第1訂正の訂正事項
訂正事項1-1

請求項1ないし3,
9ないし12からなる一群の請求項に係る発明について,
「累
進面が外面に配置され,
累進面を備えない処方面が内面に配置され,との発明特定

事項を付加する。

訂正事項1-2

上記アの各請求項に係る発明の「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面」との発明特定事項中の「処方面」との文言を「前記処方面」と訂正する。

訂正事項1-3

上記アの各請求項に係る発明の発明特定事項である
「所定の値以下である」「0.

15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい」と訂正する。エ
訂正事項1-4

上記アの各請求項のうち請求項3及び12に係る発明の発明特定事項である「所定領域」についての規定である「前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域」を,それぞれ「前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy
(mm)
とするとき,
座標
(x,
y)が|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域」と訂正する。オ
訂正事項1-5

上記アの各請求項のうち請求項11に係る発明の発明特定事項である「所定領域」
について,訂正事項1-4と同様に訂正する。

訂正事項1-6

本件明細書の記載(6頁2~13行,7頁32~41行)中の「測定基準点からレンズの水平方向への距離」

「測定基準点からレンズの鉛直方向への距離」(x

「|
2
+y2)1/2|≦2.50(mm)の条件を満足する領域」「|(x2+y2)1/2,

|≦4.00(mm)の条件を満足する領域」
,及び「|(x2+y2)1/2|≦5.
00(mm)の条件を満足する領域」という記載を,それぞれ,
「測定基準点を原点
としてレンズの水平方向への距離」「測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向へ,
の距離」「座標(x,y)が|(x2+y2)1/2|≦2.50(mm)の条件を満,
足する領域」「座標(x,y)が|(x2+y2)1/2|≦4.00(mm)の条件,
を満足する領域」
,及び「座標(x,y)が|(x2+y2)1/2|≦5.00(mm)の条件を満足する領域」との記載に訂正する。
(2)

本件第2訂正の訂正事項
訂正事項2-1

請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項4を,
独立形式の記載に改め,
引用関係を解消する。

訂正事項2-2

本件発明4について,
「累進面が外面に配置され,
累進面を備えない処方面が内面
に配置され,
」との発明特定事項を付加する。

訂正事項2-3

本件発明4の「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面」との発明特定事項中の「処方面」との文言を「前記処方面」と訂正する。エ
訂正事項2-4

本件発明4の発明特定事項である「所定の値以下である」を「0.12ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい」と訂正する。オ
訂正事項2-5

本件発明4の発明特定事項である「所定領域」について,訂正事項1-4と同様に訂正する。

訂正事項2-6

訂正事項1-6と同内容。
(3)

本件第3訂正の訂正事項
訂正事項3-1

請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項5を,
独立形式の記載に改め,
引用関係を解消する。

訂正事項3-2

請求項5ないし7からなる一群の請求項に係る発明について,(ただし,処方の「
球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の累進屈折力レンズを除く)」との発明特定
事項を付加する。

訂正事項3-3

上記イの各請求項に係る発明について,
「累進面が外面に配置され,
累進面を備え
ない処方面が内面に配置され,
」との発明特定事項を付加する。

訂正事項3-4

上記イの各請求項に係る発明の「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面」との発明特定事項中の「処方面」との文言を「前記処方面」と訂正する。

訂正事項3-5

上記イの各請求項に係る発明の発明特定事項である「所定の値以下である」及び「所定の値は0.15ディオプターである」について,
「0.15ディオプター以下
で,かつ0.00ディオプターより大きい」と訂正する。

訂正事項3-6

上記イの各請求項のうち請求項7に係る発明の発明特定事項である「所定領域」について,訂正事項1-4と同様に訂正する。

訂正事項3-7

訂正事項1-6と同内容。
(4)

本件第4訂正の訂正事項
訂正事項4-1

請求項5の記載を引用する形式で記載された請求項8を,
独立形式の記載に改め,
引用関係を解消する。

訂正事項4-2
本件発明8について,(ただし,処方の球面度数=0かつ処方の乱視度数=0の「
累進屈折力レンズを除く)
」との発明特定事項を付加する。

訂正事項4-3

本件発明8について,
「累進面が外面に配置され,
累進面を備えない処方面が内面
に配置され,
」との発明特定事項を付加する。

訂正事項4-4

本件発明8の「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面」との発明特定事項中の「処方面」との文言を「前記処方面」と訂正する。オ
訂正事項4-5

本件発明8の発明特定事項である「所定の値以下である」及び「所定の値は0.15ディオプターである」について,
「0.12ディオプター以下で,かつ0.00
ディオプターより大きい」と訂正する。

訂正事項4-6

本件発明8の発明特定事項である「所定領域」について,訂正事項1-4と同様に訂正する。

訂正事項4-7

訂正事項1-6と同内容。

4
審決の理由の要点(本件訴訟の争点に関連する部分)
(1)

被告が主張した無効理由
無効理由8(甲1号証に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性
欠如)
本件発明は,特開2004-341086号公報(甲1。以下「甲1文献」という。
)に記載された発明(以下「甲1発明」という。
)であるか,甲1発明に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

無効理由9(甲2号証に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性
欠如)
本件発明は,
特開2000-66148号公報
(甲2。「甲2文献」
以下
という。

に記載された発明(以下「甲2発明」という。
)であるか,甲2発明に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,
本件発明についての特許は,
特許法29条の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

無効理由12(甲15号証に記載された発明に基づく新規性欠如及び進
歩性欠如)
本件発明は,特開昭54-87243号公報(甲15。以下「甲15文献」という。
)に記載された発明(以下「甲15発明」という。
)であるか,甲15発明に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

無効理由13(甲14号証に記載された発明に基づく新規性欠如及び進
歩性欠如)
本件発明は,米国特許第5444503号明細書(甲14。以下「甲14文献」という。
)に記載された発明(以下「甲14発明」という。
)であるか,甲14発明
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。したがって,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

無効理由14(甲1発明及び甲2発明に基づく進歩性欠如)

本件発明は,甲1発明に甲2発明を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
(2)

本件訂正について

本件訂正のうち,本件第1訂正ないし本件第4訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲内でなされたものではなく,本件第1訂正,本件第3訂正及び本件第4訂正は,
実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるから,
本件訂正は,
特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項に規定する要件を満たしておらず,拒絶すべきものである。

本件訂正の目的
本件第1訂正

訂正事項1-1ないし訂正事項1-3の目的

訂正事項1-1ないし訂正事項1-3は,特許法134条の2第1項ただし書き1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項1-4の目的
(a)

本件訂正前の請求項3及び12に記載された「所定領域は,前記

測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である」との発明特定事項(以下「本件訂正前発明特定事項」という。
)については,その文言からは,測定基準点から水平線を延ばしたときに「領域」の外縁と交差する位置(以下「水平方向外縁位置」という。)までの距
離をx(mm)と,測定基準点から鉛直線を延ばしたときに「領域」の外縁と交差する位置(以下「鉛直方向外縁位置」という。
)までの距離をy(mm)としたとき
に,当該x,yが「|(x2+y2)1/2|≦2.50」の条件を満足すること(すなわち,
「水平方向外縁位置」と「鉛直方向外縁位置」の間の距離が2.50mm以下となること)を指していると解するのが自然である(以下,当該解釈を「第1解釈」という。。第1解釈によれば,本件訂正前発明特定事項は,測定基準点を基準)
として水平方向及び鉛直方向における
「所定領域」
の大きさを規定するのみである。
しかしながら,そもそも,本件発明において,
「所定領域」は,レンズメーターを
用いて測定した球面度数及び乱視度数の値を処方球面度数及び処方乱視度数と略同じ値にするために設けた領域なのであるから,測定時の測定基準点に対する位置決め誤差等を考慮しても,
「所定領域」は,測定基準点を中心としてどの方向にも大き
さが略一定の領域(すなわち,測定基準点を中心とする略円形の領域)として設ければよいのであり,水平方向及び鉛直方向の大きさとそれ以外の方向の大きさとが大きく異なるような不定形の形状の領域にすることは,必要がないばかりか,光学性能の低下という観点から有害であることが当業者に自明である。そうすると,
「所
定領域」についての本件訂正前発明特定事項は,測定基準点を中心としてどの方向にも「所定領域」の大きさが略一定であることを前提として,その大きさを規定したものであって,その前提については,本件訂正前の請求項3及び12に記載されなかったにすぎないと,当業者が理解することも可能である。したがって,当業者であれば本件訂正前の請求項3及び12に記載された本件訂正前発明特定事項が誤記であると気付くのが当然であるとまではいえない。
また,本件明細書の記載によれば,本件訂正前発明特定事項は,本件明細書の記載中で,
「装用状態における光学性能を重視する場合」に望ましいとされた「所定領域」の条件に他ならないのであるから,x及びyが何を指しているのかは措くとして,当業者は,当該発明特定事項が,装用状態における光学性能を低下させてしまう領域があまり大きなものとならないように,
その大きさを制限することによって,
光学性能の低下を抑制するものと理解すると認められる。これに対し,本件訂正後の請求項3及び12に記載された発明特定事項では,単に,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きいことを規定するに止まり,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域において面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きいのか否かは,
任意であると解されるのであって,
測定基準点を中心とする半径2.
5mmの円内の領域における面非点隔差平均増加量が0.
15ディオプター以下で,
かつ0.00ディオプターより大きければ,全領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となるような累進屈折力レンズも本件訂正発明3及び12に包含されることとなる(なお,当該解釈は,
「しかし,今般の訂正によって明
確にしたとおり,上記の条件式は上限を規定するものではなく」等の被請求人である原告の主張からも明らかである。。すなわち,本件訂正後の請求項3及び12に)
記載された発明特定事項では,装用状態における光学性能を低下させてしまう領域の大きさの上限に制限はない。
本件明細書の記載から,本件訂正前発明特定事項は,装用状態における光学性能を低下させてしまう領域があまり大きなものとならないように,その大きさを制限するものと理解されるのであるから,当業者が,本件訂正前発明特定事項を,前記領域の大きさの上限に制限のない本件訂正後の発明特定事項の趣旨に理解することはないというべきである。
なお,被請求人である原告の主張を参酌した場合に,本件訂正前の請求項3及び12や本件明細書の記載中の
「測定基準点からレンズの水平方向への距離」「測
及び
定基準点からレンズの鉛直方向への距離」が,それぞれ測定基準点を原点としたときの座標(x,y)におけるx座標及びy座標を指していると解するのが不可能とまではいえない。しかしながら,仮に,そのように解したとしても,本件明細書の記載(5頁48行ないし6頁13行)から,本件訂正前発明特定事項は,装用状態における光学性能を低下させてしまう領域があまり大きなものとならないように,その大きさを制限することによって,光学性能の低下を抑制するものと理解されるのだから,技術的観点からは,本件訂正前発明特定事項については,面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる「所定領域」内の如何なる地点の座標(x,y)も,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足すること,言い換えると,面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる「所定領域」が測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内に収まることを意味していると解するのが合理的である(以下,当該解釈を「第2解釈」という。。

したがって,仮に,本件明細書の記載を参酌して,
「測定基準点からレンズの水
平方向への距離」及び「測定基準点からレンズの鉛直方向への距離」が,測定基準点を原点としたときの座標(x,y)におけるx座標及びy座標を指していると解したとしても,当業者は,本件訂正前発明特定事項を,
「所定領域」が測定基準点を
中心とする半径2.50mmの円内に収まるとの趣旨に理解するのが自然なのであって,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下でありさえすれば,当該円内の領域よりも大きい領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下であってもよいというような本件訂正後の発明特定事項の趣旨に理解するのが当然であるとは到底いえない。
以上によれば,訂正事項1-4は,特許法134条の2第1項ただし書き2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものとは認められない。(b)

本件訂正前発明特定事項は明瞭でない記載であるといえるから,

訂正事項1-4については,特許法134条の2第1項ただし書き3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとして取り扱う。

訂正事項1-5及び訂正事項1-6の目的

訂正事項1-5のうち,
「.50」との記載を「2.50」と訂正する点について
は,明らかな誤記である訂正前の「.50」という記載を,本件明細書の記載から正しい記載であると把握される「2.50」に訂正するものであるから,特許法134条の2第1項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものと認められる。
訂正事項1-5及び1-6のうち,50」
「.
という記載を
「2.
50」
と訂正する点以外の訂正については,特許法134条の2第1項ただし書き3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとして取り扱う。本件第2訂正の目的

訂正事項2-1は,特許法134条の2第1項ただし書き4号に掲
げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

訂正事項2-2ないし訂正事項2-4は,特許法134条の2第1
項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。c
訂正事項2-5及び訂正事項2-6は,特許法134条の2第1項
ただし書き3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとして,取り扱う。
本件第3訂正の目的

訂正事項3-1は,特許法134条の2第1項ただし書き4号に掲
げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

訂正事項3-2ないし訂正事項3-5は,特許法134条の2第1
項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。c
訂正事項3-6及び訂正事項3-7は,特許法134条の2第1項
ただし書き3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとして取り扱う。本件第4訂正の目的

訂正事項4-1は,特許法134条の2第1項ただし書き4号に掲
げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

訂正事項4-2ないし訂正事項4-5は,特許法134条の2第1
項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。c
訂正事項4-6及び訂正事項4-7は,特許法134条の2第1項
ただし書き3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとして,取り扱う。イ
新規事項の追加の有無について
本件第1訂正について

請求項3に係る本件訂正における新規事項の追加の有無を判断する
際の基準明細書は,本件特許時点での特許請求の範囲,明細書及び図面である。b
本件訂正後の請求項3は,「処方面により発生する面非点隔差成分
と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい」
(請求項3が間接的に引用する請求項1に記載された発明特定事項。以
下「第1発明特定事項」という。
)及び「前記所定領域は,前記測定基準点を原点と
してレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が|(x2+y2
)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である」
(以下「第2発明特定事項」と

いう。
)という発明特定事項を有している。
これら発明特定事項は,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域における面非点隔差平均増加量が,0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きいことを規定しており,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域(例えば,全領域)における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となるのか否かは,任意であると解される。本件明細書の記載によれば,
「処方面の非球面化により実質的に発生する面非点
隔差成分の平均値」である「ΔASav」とは「面非点隔差平均増加量」に他ならないから,x及びyが何を指しているのかは措くとして,本件訂正前の「|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する」という記載に関しては,面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる領域(所定領域)が,装用状態における光学性能を低下させてしまうことから,当該面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる領域があまり大きなものとならないように,
その大きさを,
「|
(x2+y2)1/2|≦2.50(mm)
」との条件を満足するようなものに制限する
ことによって,光学性能の低下を抑制するという技術思想であると理解されるのであって,例え,技術常識及び本件明細書の全記載を参酌したとしても,装用状態における光学性能を低下させてしまう(面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる)領域の大きさの上限に制限のない本件訂正後の請求項3に記載された発明特定事項が指し示すような技術思想であると理解することはできない。c
以上のとおり,本件第1訂正によって,本件訂正発明3において特
定されることとなった第1発明特定事項及び第2発明特定事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとは認められない。したがって,本件第1訂正は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,
新たな技術的事項を導入するものであるから,
特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条5項に規定する要件を満たしていない。
本件第2訂正ないし本件第4訂正について
本件第2訂正による訂正後の請求項4,本件第3訂正による訂正後の請求項7,及び本件第4訂正による訂正後の請求項8においても第1発明特定事項及び第2発明特定事項が記載されており,本件訂正明細書においても第1発明特定事項及び第2発明特定事項に対応する事項が記載されているところ,これら発明特定事項及び記載事項に関しても,本件第1訂正と同様の理由により,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとは認められないから,本件第2訂正ないし本件第4訂正は,特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条5項に規定する要件を満たしていない。

特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無について
本件第1訂正について
本件第1訂正前の請求項12等に記載された本件訂正前発明特定事項については,第1解釈又は第2解釈の意味に理解されるのであって,本件第1訂正後の趣旨(測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内の領域における「面非点隔差平均増加量」が所定の値以下であること)に理解することはできない。
例えば,
「測定基準点を中心とする半径10mmの円内の領域のどの位置においても,
『処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値』(面非点
隔差平均増加量)が0.01ディオプターであるような処方面を有する累進屈折力レンズ」
(以下「累進屈折力レンズ例」という。
)を想定し,請求項9記載の「実質
的に球面形状またはトーリック面形状」が,面非点隔差成分が0.03ディオプター以下となるような形状を指していると仮定して考えると,本件訂正前発明特定事項を,第1解釈の意味に捉えた当業者は,本件訂正発明12の技術的範囲に包含される「累進屈折力レンズ例」を,本件発明12の技術的範囲外であると認識することとなる。
また,第2解釈を前提とした場合においても,
「累進屈折力レンズ例」において,
「実質的に球面形状またはトーリック面形状」となる処方面の領域(測定基準点を中心とする半径10mmの円より大きな領域)測定基準点を中心とする半径2.は,
5mmの円内に収まってはいないから,本件訂正前発明特定事項を,第2解釈の意味に捉えた当業者は,やはり,本件訂正発明12の技術的範囲に包含される「累進屈折力レンズ例」を,本件発明12の技術的範囲外であると認識することとなる。以上によれば,当業者は,本件第1訂正による訂正前の明瞭でない記載を本件第1訂正による訂正後の趣旨とは異なる意味(第1解釈又は第2解釈)に理解し,本件訂正発明12の技術的範囲の一部又は全部について,本件発明12の技術的範囲外であると認識するおそれがあるから,本件第1訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものといわざるを得ない。
本件第3訂正及び本件第4訂正について
前記

の事情は,本件第3訂正による訂正前後の請求項7及び本件第4訂正によ
る訂正前後の請求項8においても同様である。
したがって,本件第1訂正,本件第3訂正及び本件第4訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであって,特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条6項に規定する要件を満たしていない。(3)

無効理由について
甲1号証に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
甲1文献に記載された発明(甲1第1発明)の認定

レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための遠用部領域11と,遠用部領域11よりも下方に配置され遠用部領域11よりも大きな屈折力を有する近用部領域12と,遠用部領域11と近用部領域12の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯13を備え,レンズの物体側の面には遠用部領域11の遠用フィッティングポイントから近用部領域12の近用フィッティングポイントへと視線を移動させる際に視線が通過する主注視線S1が設定され,レンズの物体側には前記遠用部領域11,近用部領域12及び累進帯13からなる所定の累進面15を形成するとともに,累進面15の主注視線S1上での当該主注視線に沿う方向における当該累進面15の断面の曲率P1と前記主注視線S1と交差する任意の平面と累進面15が交わってできる断面曲線の曲率P2との曲率差ΔPを0にして面アスを発生しないように設定し,レンズの眼球側の面側には当該レンズの眼球側の面側の主注視線S2上での面アスを発生させるような補正面16を形成することでレンズの眼球側の面側の主注視線S2を透過する透過光の非点収差の一部又は全部を抑制するようにした累進屈折力レンズ1であって,表面(凸面側)には前記累進面15が形成され,裏面(凹面側)には単純な球面が形成され,ベースカーブ及び加入度の組合せにより合計で55種類のバリエーションが用意された,いわゆる「セミフィニッシュ」と呼ばれる材料ブロック10の中から,ユーザーに好適な材料ブロック10を選び,CAM装置を使用して裏面に切削加工及び研削加工を施して前記補正面16を形成することによって製造され,
主要条件が,
・レンズ径70mm,
・レンズ中心部厚み3mm,
・素材屈折率1.70,
・遠用度
数S+0.50D,C+0.50D,AX(軸度)180度→水平方向0.50D,垂直方向1.
00D,
・近用度数S+3.
453D,
C+0.
494D,
AX
(軸度)
180度→水平方向3.453D,垂直方向3.948D,
・加入度2.950
である,
累進屈折力レンズ1。
本件発明1と甲1第1発明との一致点
本件発明1と甲1第1発明は,「装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有する累進屈折力レンズ。」で一致する。
本件発明1と甲1第1発明との相違点(相違点1-1)
本件発明1では,眼鏡フレーム内に設定された,遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の測定基準点において,「処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」面(
非点隔差平均増加量)が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下である(構成要件C)のに対して,甲1第1発明では,そもそも測定基準点が設定されているか否かが定かでない点相違点の判断
甲1第1発明は,相違点1-1に係る本件発明1の構成要件Cを満たす構成を具備しているというべきであって,相違点1-1は実質的な相違点ではない。よって,本件発明1は,甲1第1発明と実質的に同一発明である。本件発明2について

対比

本件発明2と甲1第1発明とを対比すると,両者は,相違点1-1(ただし,本件発明1を本件発明2と読み替える。以下,本件発明3以下についても同じ。)に加えて,次の点でも一応相違し(相違点1-2),その余の点で一致する。本件発明2では,所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,及びレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められている(構成要件D)のに対して,甲1第1発明では,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。

相違点の判断

相違点1-1及び相違点1-2は,実質的な相違点ではない。
したがって,本件発明2は,甲1第1発明と実質的に同一発明である。本件発明3について

対比

本件発明3と甲1第1発明とを対比すると,両者は,相違点1-1及び相違点1-2に加えて,次の点でも一応相違し(相違点1-3),その余の点で一致する。本件発明3では,
所定領域は,
測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である(構成要件E)のに対して,甲1第1発明では,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。b
相違点の判断

相違点1-1ないし相違点1-3は,実質的な相違点ではない。
したがって,本件発明3は,甲1第1発明と実質的に同一発明である。本件発明4について

対比

本件発明4と甲1第1発明とを対比すると,両者は,相違点1-1及び相違点1-3で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点1-1及び相違点1-3は,実質的な相違点ではない。
したがって,本件発明4は,甲1第1発明と実質的に同一発明である。本件発明1ないし4は,いずれも,甲1第1発明と実質的に同一発明であるから,本件発明1ないし4についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
一方,本件発明5ないし12は,いずれも,甲1第1発明と同一発明でなく,甲1第1発明に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,
本件発明5ないし12についての無効理由8は成り立たない。

甲2発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
甲2発明の認定

眼鏡レンズを構成する物体側と眼球側の2つの屈折面のうち,少なくともどちらか1つの屈折面が異なる屈折力を備えた遠用部及び近用部とこれら遠用部及び近用部の間で屈折力が累進的に変化する累進部とを備えた累進屈折面を有し,当該累進屈折面は,球面設計の累進面形状を基にして,各処方に対する非球面付加量を,いちいち光線追跡に基づいて求めるのではなく,同じ基礎累進面を用いる処方の範囲に対して,
その中の数例に対して,
実際に光線追跡から最適な非球面付加量を求め,
それ以外の処方に対する非球面付加量を,
遠用部における最適な非球面付加量g
(r)
と近用部における最適な非球面付加量h(r)をそれぞれ累進開始点Oからの距離rの多項式である下記式(6)(7)

(省略)で表現し,これらの関数を決める係数
Gn,Hnを同じn項について内挿をして,各処方に対する係数の値を決定し,決定した係数を用いた前記式(6)(7)から算出することによって,簡便な設計に,
よりレンズ全体にわたって最適な非球面成分が付加され,非点収差の低減などの光学性能の向上とレンズの薄型化が実現できるようにした累進屈折力レンズであって,累進開始点Oより5ないし10mm遠用側にオフセットした位置に度数測定ポイントが設定され,累進開始点Oの近傍まで非球面設計を施してしまうと,レンズメータで度数を測定したときに,非点収差が発生し,レンズの度数が保証できなくなってしまうことから,もともと付加する理想的な非球面付加量が小さいため光学性能にさほど影響を及ぼすことのない累進開始点Oから所定の距離r0までの領域は,非球面を付加せずに球面設計部とし,前記所定の距離r0としては前記度数測定ポイントをカバーできる7mm以上12mm未満の範囲内の値を選択し,
眼球側の

屈折面に累進屈折面を配置し,眼球側の面の形状だけで使用者一人一人により異なる,球面度数,乱視度数,加入度数を得るようにした,完全なオーダーメード設計の累進屈折力レンズ。
(ただし,上記式中,Gn,Hnはg(r)及びh(r)を決める係数であり,ある1つの累進屈折面に対してはrによらない定数であり,
nは2以上の整数である。

本件発明1と甲2発明との一致点
本件発明1と甲2発明は,「装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された非球面形状を有する面を有し,眼鏡フレーム内に設定された,前記遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と前記近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の前記測定基準点において,前記非球面形状を有する面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下である累進屈折力レンズ。
」である点で一致する。
本件発明1と甲2発明との相違点(相違点2-1)
本件発明1では,
「非球面形状を有する面」が処方面とされているのに対して,
甲2発明には,そもそも処方面が存在するのか否かが定かでない点相違点の判断
本件発明1は「累進屈折力レンズ」という物の発明であるところ,相違点2-1に係る本件発明1の「非球面形状」を有する面が「処方面」である旨の規定は,「累
進屈折力レンズ」
における物の構成
(構造や特性等)
を何ら限定するものではない。
したがって,相違点2-1は実質的な相違点ではないというべきである。また,仮に,相違点2-1を実質的な相違点として検討したとしても,甲2発明は,眼球側の面の形状だけで使用者一人一人により異なる,球面度数,乱視度数,加入度数を得るようにしたものであるから,当該眼球側の面を加工する際に,物体側の面に球面又はトーリック面が予め形成されたセミフィニッシュレンズを使用して,その処方面である眼球側の面に,非球面成分が付加された累進屈折面を形成するのか,それとも,セミフィニッシュレンズを使用せずに,物体側の面への球面の形成と,眼球側の面への非球面成分が付加された累進屈折面の形成とを行うようにするのかは,甲2発明を製造するに際して,当業者が適宜決定し得る設計上の事項である。したがって,甲2発明において,眼球側の面(非球面形状を有する面)を処方面とすることは,単なる設計事項にすぎない。
以上のとおり,相違点2-1は実質的な相違点でないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1に係る本件発明1の「非球面形状を有する面を処方面とする」旨の要件を満たす構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことであるから,本件発明1は,甲2発明と実質的に同一発明であるか,少なくとも,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。本件発明2について

対比
本件発明2と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1(ただし,本件発明1を本件発明2と読み替える。
以下,
本件発明3以下についても同じ。に加えて,

次の点でも一応相違する(相違点2-2)

本件発明2では,所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,及びレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められているのに対して,甲2発明では,所定領域の大きさや形状を本件発明2のように決めることは特定されていない点。

相違点の判断

相違点2-1及び相違点2-2は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1及び相違点2-2に係る本件発明2の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明3について

対比

本件発明3と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1及び相違点2-2に加えて,次の点でも一応相違し(相違点2-3)
,その余の点で一致する。
本件発明3では,
所定領域は,
測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である(構成要件E)のに対して,甲2発明では,そのような所定領域について特定されていない点。b
相違点の判断

相違点2-1ないし相違点2-3は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1ないし相違点2-3に係る本件発明3の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明4について

対比
本件発明4と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1及び相違点2-3で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点2-1及び相違点2-3は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1及び相違点2-3に係る本件発明4の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明5について

対比

本件発明5と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1に加えて,次の点でも相違し(相違点2-4)
,その余の点で一致する。
本件発明5では,所定の値が0.15ディオプターである,すなわち,所定領域の「非球面形状を有する面(処方面)により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」が0.15ディオプター以下である(構成要件F)のに対して,甲2発明では,
「非球面形状を有する面(累進屈折面)により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」が0.15ディオプター以下となるような所定領域が存在するのか否かが定かでない点。

相違点の判断

相違点2-1及び相違点2-4は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1及び相違点2-4に係る本件発明5の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明6について

対比

本件発明6と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1,相違点2-2及び相違点2-4で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点2-1,相違点2-2及び相違点2-4は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1,相違点2-2及び相違点2-4に係る本件発明6の構成とすることは,
当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明9について

対比

本件発明9と甲2発明とを対比すると,両者は,相違点2-1に加えて,次の点でも一応相違し(相違点2-5)
,その余の点で一致する。
本件発明9では,所定領域が実質的に球面形状又はトーリック面形状である(構成要件G)のに対して,甲2発明では,そのような所定領域について特定されていない点。

相違点の判断

相違点2-1及び相違点2-5は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1及び相違点2-5に係る本件発明9の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明10について

対比

本件発明10と甲2発明とを対比すると,
両者は,
相違点2-1,
相違点2-2,
及び相違点2-5で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点2-1,相違点2-2及び相違点2-5は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲2発明において,相違点2-1,相違点2-2及び相違点2-5に係る本件発明10の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明1ないし6,9,10は,いずれも,甲2発明と実質的に同一発明であるか,少なくとも,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし6,9,10についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
一方,本件発明7,8,11,12は,いずれも,甲2発明と同一発明でなく,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,本件発明7,8,11,12についての無効理由9は成り立たない。ウ
甲15発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
甲15発明の認定

レンズ上方域に遠用視矯正部分Fを有し,下方域に近用視矯正部分Nを有し,中間帯域に上方域から下方域に向かつて表面屈折力が累進的に変化する中間視矯正部分Pを有し,レンズ凸面を左右に分割する主子午線M-M’に沿って前記遠用視矯正部分F,前記中間視矯正部分P,及び前記近用視矯正部分Nが配置され,前記レンズ凸面に累進度数屈折面を形成した累進度数眼鏡レンズにおいて,レンズ凹面に非球面あるいは非トーリック面を用いることによって,像の歪みや像の揺れ,あるいは累進帯域や近用視部分の視野の狭さを軽減した累進度数眼鏡レンズ。本件発明1と甲15発明との一致点
本件発明1と甲15発明とは,
「装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と
耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,累進面が外面に配置され,累進面を備えない処方面が内面に配置され,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された前記処方面は非球面形状を有する累進屈折力レンズ。である点で一致する。

本件発明1と甲15発明との相違点(相違点3-1)
本件発明1では,眼鏡フレーム内に設定された,遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と近用部領域の測定基準点である近用基準点の少なくとも一方の測定基準点において,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された非球面形状を有する面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値(面非点隔差平均増加量)が,レンズの度数を測定するための測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下である(構成要件C)のに対して,甲15発明は,そもそも測定基準点が設定されているか否かが定かでない点。
相違点の判断
甲15発明は,相違点3-1に係る本件発明1の構成要件Cを満たす構成を具備しているというべきであって,相違点3-1は実質的な相違点ではないから,本件発明1は,甲15発明と実質的に同一発明である。
また,仮に,甲15発明には測定基準点が設定されていないとした場合であっても,甲15発明に測定基準点を設定するに際して,「レンズメータで度数を測定したときに,非点収差が発生し,レンズの度数が保証できなくなってしまう」という問題を解決するために,甲2文献記載の技術を適用し,レンズメータの光線幅を加味して設定される一般的な位置である「累進開始点Oより5ないし10mm遠用側にオフセットした位置」に遠用測定基準点(度数測定ポイント)を設定するとともに,レンズ凹面に用いられた非球面あるいは非トーリック面における,累進開始点Oに相当する位置から所定の距離r0までの領域には非球面を付加せずに「球面設計部」とし,前記所定の距離r0として,設定した遠用測定基準点(度数測定ポイント)をカバーできるようにするために,7mm以上12mm以下の範囲内の値を選択することは,甲2文献の記載に接した当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。
したがって,本件発明1は,甲15発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2について

対比
本件発明2と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1(ただし,本件発明1を本件発明2と読み替える。以下,本件発明3以下についても同じ。)に加えて,次の点でも一応相違する(相違点3-2)。
本件発明2では,所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,及びレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められているのに対して,甲15発明では,所定領域の大きさや形状を本件発明2のように決めることは特定されていない点。

相違点の判断

相違点3-1及び相違点3-2は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲15発明において,相違点3-1及び相違点3-2に係る本件発明2の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明3について

対比

本件発明3と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1及び相違点3-2に加えて,次の点でも一応相違する(相違点3-3)

本件発明3では,
所定領域が,
測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である(構成要件E)のに対して,甲15発明は,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。b
相違点の判断

相違点3-1ないし相違点3-3は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲15発明において,相違点3-1ないし相違点3-3に係る本件発明3の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明4について

対比
本件発明4と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1及び相違点3-3で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点3-1及び相違点3-3は,実質的な相違点ではないか,少なくとも,甲15発明において,相違点3-1及び相違点3-3に係る本件発明4の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たことである。
本件発明5について

対比

本件発明5と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1に加えて,次の点でも相違し(相違点3-4),その余の点で一致する。
本件発明5では,所定の値が0.15ディオプターである,すなわち,所定領域の「処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」(面非点隔差平均増加量)が0.15ディオプター以下である(構成要件F)のに対して,甲15発明は,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。b
相違点の判断

甲15発明を,相違点3-1に係る本件発明5の構成要件Cを満たす構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。甲15発明は,像の歪みや像の揺れ,あるいは累進帯域の視野の狭さ,近用視部分の視野の狭さを軽減するために,レンズ凹面に「非球面」あるいは「非トーリック面」を用いるものであるところ,前記「非球面」とは乱視屈折力を生じない球面に非球面設計を施した面であり,前記「非トーリック面」とは乱視屈折力を生じるトーリック面に非球面設計を施した面であるのだから,前記の構成の変更を行った甲15発明において,非球面を付加しない「球面設計部」とは,球面又はトーリック面に他ならない。そうすると,当該「球面設計部」における「処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」(面非点隔差平均増加量)はゼロである。
したがって,構成の変更を行った甲15発明には,遠用測定基準点(度数測定ポイント)を含む近傍の位置に,「面非点隔差平均増加量」が0.15ディオプター以下となる
「所定領域」
が存在することが明らかであるから,
甲15発明について,
相違点3-4に係る本件発明5の構成要件Fを満たす構成を具備することとなる。本件発明6について

対比

本件発明6と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1,相違点3-2及び相違点3-4で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

甲15発明において,相違点3-1,相違点3-2及び相違点3-4に係る本件発明6の構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明9について

対比

本件発明9と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1に加えて,次の点でも一応相違し(相違点3-5),その余の点で一致する。
本件発明9の所定領域は,実質的に球面形状又はトーリック面形状であるのに対して,甲15発明は,そのような形状の所定領域を有していない点。b
相違点の判断

甲15発明において,相違点3-1及び相違点3-5に係る本件発明9の構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明10について

対比
本件発明10と甲15発明とを対比すると,両者は,相違点3-1,相違点3-2及び相違点3-5で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

甲15発明において,相違点3-1,相違点3-2及び相違点3-5に係る本件発明10の構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明1ないし4は,いずれも,甲15発明と実質的に同一であるか,少なくとも,甲15発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明5,6,9,10は,いずれも,甲15発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これら本件発明1ないし6,9,10についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
一方,本件発明7,8,11,12は,いずれも,甲15発明と同一発明でなく,甲15発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,本件発明7,8,11,12についての無効理由12は成り立たない。

甲14発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
甲14発明の認定

仕上げ加工済みの累進面を前面に備えた半仕上げ品を用いて,処方面である裏面を加工することによって製造される多焦点眼鏡レンズであって,前記累進面は,遠方視に適した屈折力を発生する遠用領域,近方視に適した屈折力を発生する近用領域,及び中間視に適した屈折力を発生する中間領域を備え,当該累進面によって,近用領域に対する意図された屈折度数の増加が実現され,前記処方面は,結像誤差の増加を排除するように作用する,点及び軸対称性のない通常の非球面形状とされた,多焦点眼鏡レンズ。
本件発明1と甲14発明との一致点
本件発明1と甲14発明とは,「装用状態においてレンズの屈折面を鼻側領域と耳側領域とに分割する主注視線に沿って,比較的遠方視に適した遠用部領域と,該遠用部領域に対して比較的近方視に適した近用部領域と,前記遠用部領域と前記近用部領域との間において前記遠用部領域の面屈折力と前記近用部領域の面屈折力とを連続的に接続する累進部領域とを備えた累進屈折力レンズにおいて,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有する累進屈折力レンズ。」である点で一致する。
本件発明1と甲14発明との相違点(相違点4-1)
本件発明1では,眼鏡フレーム内に設定された,遠用部領域の測定基準点である遠用基準点と近用部領域の測定基準である近用基準点の少なくとも一方の測定基準点において,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された非球面形状を有する面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値(面非点隔差平均増加量)が,レンズの度数を測定するための測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下である(構成要件C)のに対して,甲14発明は,そもそも測定基準点が設定されているか否かが定かでない点。
相違点の判断
甲14発明は,相違点4-1に係る構成を具備しているというべきであって,相違点4-1は実質的な相違点ではなく,仮に,甲14発明には測定基準点が設定されていないとした場合であっても,甲14発明を,相違点4-1に係る本件発明1の構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。また,本件発明1が有する効果は,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。
本件発明2について

対比

本件発明2と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1(ただし,本件発明1を本件発明2と読み替える。以下,本件発明3以下についても同じ。)に加え
て,次の点でも一応相違する(相違点4-2)

本件発明2では,所定領域の大きさ及び形状のうちの少なくとも一方は,装用者の処方,装用者の使用条件,製品としてのレンズの仕様,レンズの度数を測定する方法,及びレンズの度数を測定する測定器の仕様のうちの少なくとも1つの条件に基づいて決められているのに対して,甲14発明では,所定領域の大きさや形状を本件発明2のように決めることは特定されていない点。

相違点の判断

相違点4-1及び相違点4-2は,実質的な相違点でないか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,
当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明3について

対比

本件発明3と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1及び相違点4-2に加えて,次の点でも一応相違する(相違点4-3)

本件発明3では,
所定領域が,
測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(m
m)とし,測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である(構成要件E)のに対して,甲14発明は,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。b
相違点の判断

相違点4-1ないし相違点4-3は,実質的な相違点でないか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明4について

対比

本件発明4と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1及び相違点4-3で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点4-1及び相違点4-3は,実質的な相違点でないか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,
当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明5について

対比

本件発明5と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1に加えて,次の点でも相違し(相違点4-4)
,その余の点で一致する。
本件発明5では,所定の値が0.15ディオプターである,すなわち,所定領域の「処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」(面非点隔差
平均増加量)が0.15ディオプター以下である(構成要件F)のに対して,甲14発明は,そもそも所定領域が存在するのか否かが定かでない点。b
相違点の判断

相違点4-1は,実質的な相違点でないか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。甲14発明は,結像誤差の増加を排除するために,処方面を「点及び軸対称性のない通常の非球面形状」とするものであるところ,前記の構成の変更を行った甲14発明において,非球面を付加しない「球面設計部」とは,球面又はトーリック面に他ならない。そうすると,当該「球面設計部」における「処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値」
(面非点隔差平均増加量)はゼロである。
したがって,構成の変更を行った甲14発明には,遠用測定基準点(度数測定ポイント)を含む近傍の位置に,
「面非点隔差平均増加量」が0.15ディオプター以
下となる「所定領域」が存在することが明らかであるから,甲14発明について,構成の変更を行うと,相違点4-4に係る本件発明5の構成要件Fを満たす構成を具備することとなる。
本件発明6について

対比

本件発明6と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1,相違点4-2及び相違点4-4で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

相違点4-1及び相違点4-2は,実質的な相違点でないか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,
当業者が容易に想到し得たことである。
甲14発明について,構成の変更を行うと,相違点4-4に係る本件発明6の構成要件Fを満たす構成を具備することとなる。
本件発明9について

対比

本件発明9と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1に加えて,次の点でも一応相違し(相違点4-5)
,その余の点で一致する。
本件発明9の所定領域は,実質的に球面形状又はトーリック面形状である(構成要件G)
のに対して,
甲14発明は,
そのような形状の所定領域を有していない点。

相違点の判断

甲14発明において,相違点4-1に係る本件発明9の構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。甲14発明について,構成の変更を行うと,相違点4-5に係る本件発明9の構成要件Gを満たす構成を具備することとなる。
本件発明10について

対比

本件発明10と甲14発明とを対比すると,両者は,相違点4-1,相違点4-2及び相違点4-5で一応相違し,その余の点で一致する。

相違点の判断

甲14発明において,相違点4-1及び相違点4-5に係る本件発明10の構成要件C及びGを満たす構成とすることは,甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。相違点4-2は,実質的な相違点でないか,構成の変更を行うと,相違点4-2に係る本件発明10の構成を具備することとなる。以上のとおり,本件発明1ないし4は,いずれも,甲14発明と実質的に同一であるか,少なくとも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,
本件発明5,
6,
9,
10は,
いずれも,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし6,9,10についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
一方,本件発明7,8,11,12は,いずれも,甲14発明と同一発明でなく,甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,本件発明7,8,11,12に対する無効理由13は成り立たない。

甲1第1発明及び甲2発明に基づく進歩性欠如について
本件発明1ないし4について

本件発明1ないし4が,甲1第1発明と実質的に同一であることは,前記のとおりであり,甲1第1発明に対して新規性を欠如する以上,甲1第1発明に対して進歩性を有しているとは認められない。
以上のとおり,本件発明1ないし4は,いずれも,甲1第1発明に対して進歩性を欠如するから,本件発明1ないし4についての特許は,特許法29条の規定に違反してされたものである。
一方,本件発明5ないし12は,いずれも,甲1第1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明5ないし12について無効理由14は成り立たない。

第3

原告主張の審決取消事由
1
取消事由1(特許法126条5項の要件に関する判断の誤り)

本件訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであるにもかかわらず,審決は誤って,本件訂正は特許法126条5項の要件を満たさないと判断したものであり,その誤りは,審決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきものである。
(1)

本件訂正前の請求項3等は,
「|(x2+y2)1/2|≦2.50」との条

件式(以下「本件条件式」という。
)を含んでいるところ,審決は,請求項3等に,
x,yが座標(x,y)であるとの明記がないことのみをもって,x,yが測定基準点から水平方向及び鉛直方向の外縁までの距離を示すものであると判断している(第1解釈)
。しかしながら,そもそも,x2+y2=r2が半径rの円の方程式であるということは当業者にとっての技術常識であり,本件条件式は,この円の方程式を単純に変形して半径rの円内の領域であることを明確にしたものである。x,yの距離を規定したいだけなら,わざわざ|(x2+y2)1/2|という算式を不自然に用いる必要はない。しかも,本件明細書には,x,yが座標を表わすことが明確に記載されているのであるから
(本件明細書6頁21~26行,
9頁25~27行)

当業者であれば,本件条件式の形から,本件条件式が半径2.5mmの円内の領域を表していると当然に理解する。また,レンズの設計,製造,販売を行っている当業者である被告も,審判請求書(甲28)において,本条件式のx,yは距離ではなく座標であり,条件式は半径2.5mmの円の領域であると理解している。審決も,当業者であれば,測定基準点を中心としてどの方向にも「所定領域」の大きさが略一定であることを前提として理解するということ,すなわち,所定領域が円内の領域であることを前提として理解するということを認めている。当業者が,所定領域を円内の領域であることを前提として理解しているのであれば,円内の領域を表わす式の形を有する本件条件式は円内の領域を表わしたものであると理解するのが当然である。
(2)

審決の特許法126条5項の要件に関する判断は,本件明細書に記載された技術思想を,あたかも,所定領域が増減可能なパラメータであって,本件条件式が所定領域の上限を決めるものであるかのように理解している点で誤っている。本件明細書に記載された技術思想は,所定領域が決められている上で,その領域における平均値ΔASavを規定するものであり,ΔASavに基づいて所定領域を決めるものではない。また,所定領域の大きさは決められており増減するものではないから,本件条件式が所定領域の上限を規定していると理解することはできない。本件明細書では,この平均値ΔASavを求める基準となる領域としての「所定領域」の例を示しているが,ΔASavをもとにして「所定領域」を設定するという技術思想は一切開示していない。本件明細書には,所定領域として挙げられた複数の例の1つとして半径2.5mmの円領域が開示され,その所定領域内のΔASavを0.
15ディオプター以下にするという技術思想が開示されている。
そして,
この技術思想において,
「|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域」
は,ΔASavの平均値算出の基準となる領域であり,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域のΔASavについては何らの限定もしていない。つまり,本件明細書には,所定領域内の平均値ΔASavをいかに設定するかという技術思想が開示されているのである。そして,請求項3等には,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域における平均値ΔASavを所定の値以下とするということが定められており,本件明細書に記載された技術思想と請求項3等の内容は合致しているから,本件訂正(訂正事項1-3及び1-4)は何ら新規事項を追加するものではない。
したがって,
特許法126条5項の要件に関する審決の判断には誤りがあるから,取り消されるべきである。

2
取消事由2(特許法126条6項の要件に関する判断の誤り)

審決は,本件条件式は,第1解釈又は第2解釈の意味に理解されるところ,本件第1訂正後の趣旨(測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内の領域における「面非点隔差平均増加量」が所定の値以下であること)に理解することはできないから,特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更であると判断した。しかしながら,
前記1のとおり,
本件訂正前の請求項においても,
本件条件式は,
所定領域が測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内の領域であることを定めているのであり,当該所定領域におけるΔASav(審決のいう「面非点隔差平均増加量」が所定の値以下であると理解されるから,

特許請求の範囲を実質的に拡
張又は変更するものではない。
したがって,
審決の特許法126条6項の要件に関する判断には誤りがあるから,取り消されるべきである。

3
取消事由3(手続違背)

審決は,所定領域について,審決の予告では示されていなかった「第2解釈」を新たに示した。審決の予告では,第1解釈であることが明らかであると断定していたにもかかわらず,審決において,|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件式の解釈について,新しく第2解釈を示したのは,第1解釈が誤りであったことを自認しているに等しい。また,審決は,請求項に記載された発明を特定しないまま,訂正要件について判断しており,審決の予告における判断の誤りを覆い隠さんとするものであり,審決の予告の制度趣旨を没却するものであるといえる。本件では,審決の予告において,所定領域に関して,当業者の常識からかけ離れた第1解釈が示されたため,原告は,x,yが座標(x,y)であることを明示する訂正請求を行った。審決の予告が第1解釈(審決において,誤りを是正せざるを得ない誤った解釈)を示さなければ,原告は,別の訂正請求を行って意見を述べることができたところ,審決とは内容の異なる審決の予告が出されたことによって,この反論の機会を奪われた。
したがって,審決には,手続違背があるから,取り消されるべきである。4
取消事由4(本件発明1と甲1第1発明との相違点の認定の誤り)(1)

本件発明1の理解の誤り

本件発明は,背景技術を用いて,セミフィニッシュレンズの処方面を非球面形状としたことにより新たに生じた課題,すなわち,レンズメーターによって測定した球面度数及び乱視度数と装用者の処方度数との差が大きくなる傾向があることを解決するものである。
請求項1は,
「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有し」と規定している。これは,処方(例えば,球面度数や乱視度数)を満たす処方面に対して,レンズの透過光線における光学性能を補正するための非球面化を施した面であることを規定したものである。
したがって,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものであり,
「光学性能を補正する」とはこのことを意味している。
審決は,
「処方度数が基準度数から外れるに従って低下した光学性能」
であること
は,本件特許の請求項1には記載されていないから,当該「処方度数が基準度数から外れるに従って低下した光学性能を補正する」点をもって,甲1第1発明が本件発明1と相違するということはできない,と判断しているが,本件明細書の記載を参酌して解釈すると,審決の判断には誤りがあるといえる。
(2)

甲1第1発明の認定の誤り

甲1文献には,
「基準度数」という文言は一切なく,甲1第1発明は,基準度数に基づく構成を有していない。したがって,甲1第1発明における補正面16が「処方度数が基準度数から外れるに従って光学性能の低下」を補正する方向に作用するとしても,
「レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面」ではない。
したがって,審決の甲1第1発明の認定は誤りである。
(3)

審決は,本件発明1の理解を誤り,かつ,甲1第1発明の認定を誤った結果,本件発明1と甲1第1発明の相違点の認定(レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面)を誤ったことになる。本件発明2ないし4は,本件発明1に従属する発明であり,本件発明1と同じ構成を備えているから,本件発明2ないし4も同様に,相違点の認定に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。

5
取消事由5(本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り)

審決は,
本件発明1と甲2発明との相違点として,
相違点2-1のみを認定した。
しかしながら,前記4で主張したとおり,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものである。これに対し,甲2文献に,「基
準度数」という文言は一切なく,甲2発明は,基準度数に基づく構成を認識していない。したがって,甲2発明は,
「レンズの透過光線における光学性能を補正するた
めに形成された処方面は非球面形状を有し,との構成を備えていない点で,」
本件発
明と相違するから,
本件発明1と甲2発明との相違点の認定に誤りがある。
そして,
本件発明2ないし6,9,10は,本件発明1に従属する発明であり,本件発明1と同じ構成を備えているので,本件発明2ないし6,9,10についても同様に,相違点の認定に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。

6
取消事由6(相違点2-1の判断の誤り)

審決は,本件発明において,
「処方面」とは,
「加工面である他方の面を指すと解
するのが相当である」と正しく認定し,甲2発明との相違点として認定した。甲2発明は,非球面設計の累進屈折面形状を作り出す方法であり,元になる座標zpに対して付加座標δを足すことで,新たな累進屈折面の座標ztを求めている。つまり,甲2発明は,単一の累進屈折面をいかにして設計するかを規定した発明であり,非球面設計の累進屈折面形状を作り出すこと,すなわち,累進屈折面と,本件発明でいう処方面とが同じ面にあることこそが甲2発明の本質であるといえる。したがって,眼球側の面への非球面成分を付加することは,甲2発明の本質的な特徴を損なうことになるから,甲2発明にそのような改変を加えて,本件発明に想到することには阻害事由がある。
以上のとおり,
審決の相違点2-1の判断には誤りがある。
本件発明2ないし6,
9,10は,本件発明1に従属する発明であり,本件発明1と同じ構成を備えているので,本件発明2ないし6,9,10についても同様に,相違点の判断に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。

7
取消事由7(本件発明1と甲15発明との相違点の認定の誤り)

審決は,本件発明1と甲15発明との相違点として,相違点3-1のみを認定した。しかしながら,前記4で主張したとおり,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものである。
これに対し,
甲15文献に,
「基準度数」という文言は一切なく,甲15発明は,基準度数に基づく構成を認識していない。したがって,甲15発明は,
「レンズの透過光線における光学性能を補
正するために形成された処方面は非球面形状を有し,
」との構成を備えていない点
で,本件発明と相違するから,本件発明1と甲15発明との相違点の認定には誤りがある。そして,本件発明2ないし6,9,10は,本件発明1に従属する発明であり,本件発明1と同じ構成を備えているので,本件発明2ないし6,9,10についても同様に,相違点の認定に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。

8
取消事由8(相違点3-4の判断の誤り)
甲15発明と甲2発明とはレンズのタイプが異なり,設計の仕方も全く異なるから,
甲15発明に甲2発明を適用することは容易ではない。
すなわち,
甲2発明は,
元となる累進面形状に対して,非球面設計の新たな累進屈折面形状を簡便な方法で作り出すレンズ設計の発明である(甲2。段落【0080】
【0081】。

これに対し,甲15発明は,外面が累進度数屈折面,内面が非球面あるいはトーリック面のレンズである。甲15発明の内面は,そもそも,元となる面に対して非球面付加量を加えて設計されているものではない。したがって,甲15発明において非球面付加量という概念はなく,
同非球面付加量を特定することはできないので,
甲2発明の非球面付加量=0にするという構成を甲15発明に適用することはできない。また,本件発明は,
「前記処方面により発生する面非点隔差成分」と「処方度
数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分」との差の絶対値の平均値の範囲を規定しているのに対し,甲2文献にはこうした技術的事項は開示されていないので,仮に,甲15発明に甲2発明を組み合わせたとしても本件発明には想到し得ない。
以上のとおり,
審決には,
本件発明5と甲15発明の相違点の判断に誤りがある。
そして,本件発明6は,本件発明5に従属する発明であり,本件発明5と同じ構成を備えているので,本件発明6についても同様に,相違点の判断に誤りがある。したがって,審決は取り消されるべきである。

9
取消事由9(本件発明1と甲14発明との相違点の認定の誤り)

審決は,本件発明1と甲14発明との相違点として,相違点4-1のみを認定した。しかしながら,前記4で主張したとおり,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものである。
これに対し,
甲14文献に,
「基準度数」という文言は一切なく,甲14発明は,基準度数に基づく構成を認識していない。したがって,甲14発明は,
「レンズの透過光線における光学性能を補
正するために形成された処方面は非球面形状を有し,
」との構成を備えていない点
で,本件発明と相違するから,本件発明1と甲14発明の相違点の認定には誤りがある。そして,本件発明2ないし6,9,10は,本件発明1に従属する発明であり,本件発明1と同じ構成を備えているので,本件発明2ないし6,9,10についても同様に,相違点の認定に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。

10

取消事由10(相違点4-4の判断の誤り)

甲14発明と甲2発明とはレンズのタイプが異なり,設計の仕方も全く異なるから,
甲14発明に甲2発明を適用することは容易ではない。
すなわち,
甲2発明は,
元となる累進面形状に対して,非球面設計の新たな累進屈折面形状を簡便な方法で作り出すレンズ設計の発明である(甲2。段落【0080】
【0081】。

これに対し,甲14発明は,前面が累進面,裏面が点及び軸対称性のない通常の非球面形状のレンズである。甲14発明の裏面は,そもそも,元となる面に対して非球面付加量を加えて設計されているものではない。したがって,甲14発明において非球面付加量という概念はなく,同非球面付加量を特定することはできないので,甲2発明の非球面付加量=0にするという構成を甲14発明に適用することはできない。また,本件発明は,
「前記処方面により発生する面非点隔差成分」と「処
方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分」との差の絶対値の平均値の範囲を規定しているのに対し,甲2文献にはこうした技術的事項は開示されていないので,仮に,甲14発明に甲2発明を組み合わせたとしても本件発明には想到し得ない。
以上のとおり,審決には,本件発明5と甲14発明との相違点の判断に誤りがある。そして,本件発明6は,本件発明5に従属する発明であり,本件発明5と同じ構成を備えているので,
本件発明6についても同様に,
相違点の判断に誤りがある。
したがって,審決は取り消されるべきである。
11

取消事由11(本件発明1と甲1第1発明との相違点の判断の脱漏)
前記4のとおり,審決には,本件発明1と甲1第1発明の相違点の認定に誤りがある。そして,審決は,相違点についての判断をしていないから,甲1第1発明に基づく進歩性欠如(無効理由14)は成り立たない。
したがって,審決は取り消されるべきである。

第4
1
被告の主張
取消事由1(特許法126条5項の要件に関する判断の誤り)について
(1)

本件訂正前の請求項3等に記載された発明特定事項から,
x,
yが測定基

準点から水平方向及び鉛直方向の外縁までの距離を示すものであるとする審決の解釈は,当業者の理解とかけ離れたものではない。本件条件式「|(x2+y2)1/2|≦2.50」は,通常距離を表す式として理解されるのであり,むしろ,原告が主張するように,所定領域が円内の領域であると規定したいというのであれば,敢えて絶対値に置き換えた式を規定するのではなく,円内の領域であることを明細書に記載し,また,円を示す方程式であるx2+y2=2.502と規定すべきであって,わざわざ円内の領域であることを規定するのに|(x2+y2)1/2|という算式を用いる必要はない。
(2)

本件明細書の記載内容を総合すると,本件条件式は,度数のみならず,装
用状態における光学性能の改善を考慮して規定されている制限に他ならない。本件訂正前の請求項3に対して,本件第1訂正に含まれる本件訂正発明3の第1発明特定事項及び第2発明特定事項は,所定領域が測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内であることとし,その所定領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下で,かつ,0.00ディオプターより大きいことのみを規定している。そうすると,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量はどのような値であってもよく,0.15ディオプター以下であっても,0.15を超えてもよいことになる。つまり,本件発明3の発明特定事項となっていた所定領域を規定する本件条件式を訂正することにより,本件訂正発明3は,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量は任意のものとなっているのである。したがって,
本件訂正発明3の第1発明特定事項及び第2発明特定事項である
「測
定基準点を中心とする2.5mmの円内の領域とは異なる領域(外,全領域)における面非点隔差平均増加量が任意となってしまう領域」は,本件明細書の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項に該当するものとなる。
よって,本件第1訂正によって特定されることとなった第1発明特定事項及び第2発明特定事項は,当業者が本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認められないとし,本件第1訂正を新規事項の追加であると判断した審決は妥当である。また,本件第2訂正による訂正後の請求項4,本件第3訂正による訂正後の請求項7及び本件第4訂正による訂正後の請求項8についても,第1発明特定事項及び第2発明特定事項を含むものであるから,本件第1訂正と同様の理由により本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認められないとする審決の判断は妥当である。
なお,原告は,本件条件式が所定領域の上限を規定していると理解することはできないと主張する。しかしながら,本件明細書には,
「本発明では,処方面の非球面
化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えることによって本発明の目的を達成している。」

【0005】
)と記載されているとおり,ΔASavに基づいて所定領域を広く決定した場合に装用状態における光学性能は低下することから,ΔASavに基づいた所定領域に制限を設けるために,本件条件式(|(x2+y2)1/2|≦2.50)により,上限を設けることによって「所定領域」を決定するものである。本件発明は,所定領域が定められた上,処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えるために,条件式によって上限を設け,所定領域を決定するものなのである。以上のとおり,本件第1訂正は,特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条5項に規定する要件を満たしておらず,また,本件第2訂正ないし本件第4訂正のいずれも同項に規定する要件を満たしていないから,その旨の審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2
取消事由2(特許法126条6項の要件に関する判断の誤り)について
審決の認定判断のとおり,「累進屈折レンズ例」は,本件第1訂正による訂正前の請求項12に記載された「所定領域」の条件を満足しないことから,訂正前の請求項12に記載された技術的事項を信頼した当業者は,この「累進屈折レンズ例」を本件発明12の技術的範囲に含まれないものと理解する。本件発明12の技術的範囲に含まれないこととされていた技術思想が,本件第1訂正によって,本件訂正発明12の技術的範囲に含まれるとなれば,特許請求の範囲の記載を信頼する一般第三者の利益を害することは明らかであるから,本件第1訂正による訂正は,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがある場合に該当する。
これに対し,原告は,本件訂正前の請求項においても,本件条件式は,所定領域が測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内の領域であることを定めているのであり,
当該所定領域におけるΔASav
(審決のいう
「面非点隔差平均増加量」

が所定の値以下であると理解されるから,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないと主張する。しかしながら,本件訂正前の請求項12等に記載された,前記所定領域は,

前記測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(mm)
とし,前記測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,|1/2
(x2+y2)|≦2.
50の条件を満足する領域である」
との発明特定事項は,

第1解釈又は第2解釈のいずれの意味にも理解することができるものであって,いずれの解釈を採用しても,本件訂正発明12の技術的範囲に包含される「累進屈折力レンズ例」は,本件発明12の技術的範囲外となるのである。結局,本件訂正発明12は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれることのない技術的事項を含んでしまうことになるから,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更することに該当することは明白である。
以上のとおり,本件第1訂正は,特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条6項に規定する要件を満たしておらず,本件第3訂正,本件第4訂正についても同項に規定する要件を満たしていないから,その旨の審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由2は理由がない。

3
取消事由3(手続違背)について

原告は,
「所定領域」について,審決の予告には示されていない第2解釈が審決において新たに認定されている点について,手続違背があると主張する。しかしながら,本件訂正前の請求項3等の「所定領域」について,第1解釈に加えて第2解釈が示されたとしても,審決の結論に何ら影響を与えないものであり,そもそも,審決は,特許権者である原告の救済のために「所定領域」の解釈に努めようとしたものであり,原告に対して不利益を与えるようなものではない。
したがって,審決の予告において,第1解釈のみが示されていたとしても,装用状態における光学性能を改善するために必要な制限について,特許請求の範囲を訂正する機会は実質的に十分担保されていたものであり,この点においても,審決に手続違背はない。
以上のとおり,審決には手続違背がないから,原告が主張する取消事由3は理由がない。

4
取消事由4(本件発明1と甲1第1発明との相違点の認定の誤り)について(1)

審決が示すとおり,非球面形状を有する処方面によって補正される光学性
能が,原告がいう「処方度数が基準度数から外れるに従って低下した光学性能」であることは本件特許の請求項1には記載されていない。したがって,当該「処方度数が基準度数から外れるに従って低下した光学性能を補正する」点をもって,甲1第1発明が本件発明1と相違するということはできない。
原告は,甲1文献に「基準度数」という文言は一切なく,甲1第1発明は,基準度数に基づく構成を有していないと主張する。しかしながら,甲1文献に「基準度数」なる文言が記載されていなかったとしても,甲1第1発明において,セミフィニッシュレンズ(材料ブロック10)を使用している以上,そこには特定の処方度数において最も好ましい光学性能が得られる基準である「基準度数」が既に存在していることは自明であるから,甲1第1発明は,基準度数に基づく構成を有する。したがって,本件発明1と甲1第1発明の相違点に関する審決の認定に誤りはない。
(2)

本件発明と甲1第1発明との各相違点に関する審決の判断に誤りはなく,
本件発明1ないし4は,甲1第1発明と実質的に同一であり,新規性を欠如しているとした審決の認定判断には誤りはない。さらに,本件発明1ないし4は,甲1第1発明に対して新規性を欠如する以上,必然的に甲1第1発明に対して進歩性を欠如するものであり,本件発明1ないし4は,特許法29条1項又は同条2項に違反して特許されたものである。よって,本件発明1ないし4について,特許法123条1項2号により特許を無効とするとの審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由4は理由がない。

5
取消事由5(本件発明1と甲2発明との相違点の認定の誤り)について(1)

審決が認定した本件発明と甲2発明の各相違点に誤りはない。

(2)

原告は,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別
の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものであると主張する。
しかしながら,
「処方度数が基準度数から外れ
るに従って低下した光学性能を補正する」点をもって,甲2発明が本件発明1と相違するということはできない。
また,原告は,甲2文献に,
「基準度数」という文言は一切なく,甲2発明は,基
準度数に基づく構成を認識していないから,
甲2発明は,
「レンズの透過光線におけ
る光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有し」との構成を備えていない点で,
本件発明と相違するとも主張する。
しかしながら,
甲2文献に
「基
準度数」という文言が記載されていなかったとしても,甲2発明において,セミフィニッシュレンズ(材料ブロック10)を使用している以上,そこには特定の処方度数において最も好ましい光学性能が得られる基準である「基準度数」が既に存在していることは自明である。したがって,甲2発明は「基準度数」に基づく構成を具備しているとの審決の相違点の認定に誤りがあるとする原告の主張は失当であり,原告の主張する取消事由5は理由がない。

6
取消事由6(相違点2-1の判断の誤り)について
(1)

審決は,本件明細書の記載から,本件発明1において,
「処方面」とは,セ

ミフィニッシュレンズの他方の面を加工して眼鏡レンズ・・・とする場合の,加工面である他方の面を指すと解するのが相当であるとし,相違点2-1に係る本件発明1の
「非球面形状」
を有する面が
「処方面」
である旨の規定は,
「累進屈折力レンズ」
における物の構成(構造や特性等)を何ら限定するものではないと認定した。そもそも,
甲2発明に記載された視力補正用累進屈折力レンズにおいて,
「非球面
形状を有する面が処方面であること」という規定は,レンズの構造を特定するものではなく,上記累進屈折力レンズの製造工程における技術的事項にすぎないものである。そうすると,審決の相違点2-1が実質的な相違点ではないという認定判断は妥当である。
したがって,本件発明1は甲2発明と実質的に同一であるか,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとする審決の判断に誤りはない。(2)

原告は,眼球側の面への非球面成分を付加することは,甲2発明の本質的特徴を損なうことになるとして,甲2発明に眼球側の面への非球面成分を付加して本件発明1に想到することには阻害事由があると主張するけれども,原告の上記主張の根拠は全く明かではない。
本件発明と甲2発明の各相違点に関する審決の判断に誤りはなく,本件発明1ないし6,9,10は,甲2発明と実質的に同一であるか,少なくとも甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条1項又は同条2項に違反して特許されたものである。
したがって,本件発明1ないし6,9,10について,特許法123条1項2号により特許を無効とすべきであるとの審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由6は理由がない。

7
取消事由7(本件発明1と甲15発明との相違点の認定の誤り)について(1)

審決が認定した本件発明と甲15発明の各相違点に誤りはない。

(2)

原告は,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別
の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものであると主張する。
しかしながら,
「処方度数が基準度数から外れ
るに従って低下した光学性能を補正する」点をもって,甲15発明が本件発明1と相違するということはできない。
また,
原告は,
甲15文献に,
「基準度数」
という文言は一切なく,
甲15発明は,
基準度数に基づく構成を認識していないから,
甲15発明は,
「レンズの透過光線に
おける光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有し」との構成を備えていない点で,本件発明と相違するとも主張する。しかしながら,甲15文献に「基準度数」という文言が記載されていなかったとしても,甲15発明において,セミフィニッシュレンズを使用している以上,そこには特定の処方度数において最も好ましい光学性能が得られる基準である「基準度数」が既に存在していることは自明である。したがって,甲15発明は「基準度数」に基づく構成を具備しているとの審決の相違点の認定に誤りがあるとする原告の主張は失当であり,原告の主張する取消事由7は理由がない。

8
取消事由8(相違点3-4の判断の誤り)について
(1)

審決が認定するとおり,
甲15発明において,
「レンズメータで度数を測定

した時に非点収差が発生し,レンズの度数が保証できなくなってしまう」という技術的課題は,甲2発明と共通する。そして,この技術的課題を解決するために,甲15発明は,甲2文献記載の技術を適用することによって「遠用測定基準点」(度数
ポイント)
を設定し,
累進開始点Oから所定の距離rOまでの領域に
「球面設計部」
を設定し,所定の距離rOとして,累進開始点Oより5ないし10mm遠用側にオフセットした位置に設定される度数測定ポイントをカバーできるようにするために,7mm以上12mm以下の範囲内の値を選択している。また,甲15発明に甲2文献記載の技術を適用した「球面設計部」は,球面であるから,球面設計部の面非点隔差平均増加量はゼロであることも自明である。さらに,甲15発明に甲2文献記載の技術を適用した「遠用測定基準点」
(度数ポイント)を含む近傍の位置には,面
非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる所定領域が存在する。したがって,甲15発明に所定領域が存在する以上,相違点3-4は,実質的な相違点ではなく,本件発明5は,甲15発明と甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとした審決の判断は妥当である。(2)

原告は,相違点3-4について,甲15発明と甲2発明とはレンズのタイ
プが異なり,設計の仕方も全く異なるから,甲15発明に甲2発明を適用することは容易ではないと主張するけれども,原告の上記主張の根拠は明かではない。また,甲15発明において,レンズ凹面に非球面又は非トーリック面を用いた上で測定基準点を設定する際,
「レンズメータで度数を測定したときに,
非点収差が発
生し,レンズの度数を保証できなくなってしまう」という甲2文献記載の技術と同一の技術的課題が生じてしまうことは明らかであるから,甲15発明と甲2文献記載の技術を組み合わせることには積極的な動機付けが存在する。
したがって,審決が正当に認定するように,元となる面に対して非球面付加量を加えて設計されている甲15発明において,測定基準点を含む近傍の所定領域に対し,甲2発明の非球面付加量=0にするという構成を適用することは,当業者が容易に想到できるものである。
本件発明と甲15発明の各相違点に関する審決の判断に誤りはなく,本件発明1ないし6,9,10は,甲15発明と実質的に同一であるか,少なくとも甲15発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条1項又は同条2項に違反して特許されたものである。よって,本件発明1ないし6,9,10について,特許法123条1項2号により特許を無効とすべきであるとの審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由8は理由がない。

9
取消事由9(本件発明1と甲14発明との相違点の認定の誤り)について(1)

審決が認定した本件発明と甲14発明の各相違点に誤りはない。

(2)

原告は,本件発明において,処方面は,累進部領域を有する累進面とは別
の面であり,処方度数が基準度数から外れることによる光学性能の低下を補正する構成を有するものであると主張する。
しかしながら,
「処方度数が基準度数から外れ
るに従って低下した光学性能を補正する」点をもって,甲14発明が本件発明1と相違するということはできない。
また,
原告は,
甲14文献に,
「基準度数」
という文言は一切なく,
甲14発明は,
基準度数に基づく構成を認識していないから,
甲14発明は,
「レンズの透過光線に
おける光学性能を補正するために形成された処方面は非球面形状を有し」との構成を備えていない点で,本件発明と相違するとも主張する。しかしながら,甲14文献に「基準度数」という文言が記載されていなかったとしても,甲14発明において,セミフィニッシュレンズを使用している以上,そこには特定の処方度数において最も好ましい光学性能が得られる基準である「基準度数」が既に存在していることは自明である。したがって,甲14発明は「基準度数」に基づく構成を具備しているとの審決の相違点の認定に誤りがあるとする原告の主張は失当であり,原告の主張する取消事由9は理由がない。

10
(1)

取消事由10(相違点4-4の判断の誤り)について
甲14発明に甲2文献記載の技術を適用した場合,甲14発明に所定領域
が存在する以上,相違点4-4は実質的な相違点ではないから,本件発明5は,甲14発明と甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとした審決の判断は妥当である。
(2)

原告は,相違点4-4について,甲14発明と甲2発明とはレンズのタイ
プが異なり,設計の仕方も全く異なるから,甲14発明に甲2発明を適用することは容易ではないと主張するけれども,甲14発明と甲2文献記載の技術を組み合わせることには積極的な動機付けが存在する。
したがって,審決が正当に認定するように,甲14発明において,測定基準点を含む近傍の所定領域に対し,甲2発明の非球面付加量=0にするという構成を適用することは,当業者が容易に想到できるものである。
本件発明と甲14発明の各相違点に関する審決の判断に誤りはなく,本件発明1ないし6,9,10は,甲14発明と実質的に同一であるか,少なくとも甲14発明及び甲2文献記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条1項又は同条2項に違反して特許されたものである。よって,本件発明1ないし6,9,10について,特許法123条1項2号により特許を無効とすべきであるとの審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由10は理由がない。

11

取消事由11(本件発明1と甲1第1発明との相違点の判断の脱漏)について
前記4のとおり,本件発明1と甲1第1発明の相違点に関する審決の認定に誤りはないから,原告の主張する取消事由11は,その前提を欠くものである。したがって,原告の主張する取消事由11は理由がない。

第5
1
当裁判所の判断
本件発明について
(1)

本件明細書の記載

本件明細書(甲45)には,次の記載がある。

技術分野

【0001】
本発明は,累進屈折力レンズに関し,特に眼の調節力の補助として使用する累進屈折力レンズに関する。
(2頁50行~3頁1行)

背景技術

【0002】
・・・ところが,装用状態における光学性能を重視して処方面を非球面化した累進屈折力レンズでは,処方面が非球面化されているために測定基準点において面非点隔差が発生する。その結果,レンズメーターでの測定に際して,処方度数とは異なる球面度数及び乱視度数が表示される。しかも,処方面に付与される非球面量が大きくなるに従って,レンズメーターによって測定した球面度数及び乱視度数と装用者の処方度数との差が大きくなる傾向がある。
そのため,メーカーでは,装用状態での度数を測定する特殊なレンズメーターを導入したり,本来の処方度数とは別に,一般的なレンズメーターで測定した場合に得られる度数を測定理論度数として併記したりしている。処方度数と測定理論度数とを併記することは,
「二重表記」と呼ばれている。実際に,一般の眼鏡店では,装
用状態での度数が測定可能な特殊なレンズメーターを導入することは困難であるため,二重表記による測定方法が主流となっている。
(3頁40行~4頁1行)
・・・二重表記の累進屈折力レンズの度数測定では,従来の累進屈折力レンズとは異なる複雑な手順が必要となるうえ,測定に不慣れな人間が測定する場合や大量のレンズを測定する場合には,正確な測定結果を得るために従来の累進屈折力レンズよりも時間および労力が必要になる。
そのため,
一部の眼鏡店やユーザーからは,
光学性能だけを重視せずに,レンズの度数測定をより容易に行うことのできる両面非球面型の累進屈折力レンズに対する要望が出ている。
そこで,特開2004-341086号公報に開示された従来の両面非球面型の累進屈折力レンズでは,処方度数と測定度数とが異なるという問題を解決するために,処方面上の主注視線に沿った線状部分の一部に面非点隔差の発生しない領域を設けている。
具体的には,実際にレンズをフレーム形状に加工する際に不要部分として廃棄される主注視線を含む遠用部の一部の領域において,処方面の主注視線上を面非点隔差の生じない形状とし,その領域でレンズの度数を測定することによって,処方度数と同じ測定度数が得られるように構成している。ところが,本願発明者の研究によると,従来のように面屈折力分布で評価されていた累進屈折力レンズでは,主注視線の形状による評価は重要であったが,透過光線におけるレンズ全体の光学性能を重視して両面を非球面化した両面非球面型の累進屈折力レンズにおいては,主注視線の一部の線状部分の面形状を規定するだけでは不十分であることがわかった。(4頁9行~25行)
・・・本来のレンズの度数測定は,装用者の処方通りにレンズが正しく作成されているか否かを確認するために行うものである。従って,累進屈折力レンズに限らず一般の眼鏡レンズでは,レンズの幾何学中心の近傍,あるいはレンズを装用する上で最も重要な位置に,測定基準点が配置されている。つまり,特開2004-341086号公報に記載されているようにフレーム形状外の主子午線(主注視線)上を面非点隔差の生じない形状にすれば,装用時での光学性能への影響を小さく抑えつつ処方度数と同じ測定度数を得ることはできるが,特開2004-341086号公報の従来技術で得られる測定度数は,本来求められているレンズの度数測定の目的とは異なり適切であるとはいえない。
(4頁36行~43行)

発明の課題

【0003】
本発明は,前述の課題に鑑みてなされたものであり,装用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レンズを提供することを目的とする。(4頁
46行~48行)

発明の効果

本発明では,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面が非球面形状を有する。そして,処方面の非球面形状により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値(以下,単に「処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値」
あるいは
「面非点隔差成分の平均値」
という)
が,
レンズの度数を測定するための測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下に抑えられている。
したがって,処方面の非球面化により装用状態における光学性能を補正する構成を採用しているにもかかわらず,例えばレンズメーターを用いて測定基準点を基準として測定することにより処方度数とほぼ同じ測定度数を得ることができる。すなわち,本発明の累進屈折力レンズでは,装用者の処方や使用条件等を考慮して装用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことができる。
(5頁11行~22行)

発明を実施するための最良の形態(
【0005】

本発明の実施形態の具体的な説明に先立って,本発明の基本的な構成
および作用を説明する。レンズメーターによる度数測定はレンズ面上の測定基準点を基準として行われるが,実際には点ではなくある一定の面積を持った測定領域内で測定が行われる。さらに,この測定領域はレンズメーターの種類や測定するレンズの仕様等によって異なる広さ(面積)を有する。このため,本発明において処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値を所定の値以下に抑えるべき測定基準点を含む近傍の所定領域は,レンズメーターの測定に必要な領域(以下,
「測定領域」という)を考慮して決定することが必要である。
(5頁40行
~47行)
つまり,度数測定のみを考慮するのであれば,上記面非点隔差成分の平均値が所定の値以下の所定領域はできるだけ広い方が効果的であるが,この所定領域を広くするほど装用状態における光学性能は低下する。このため,本発明の目的を達成できるように,上記測定基準点を含む近傍の所定領域はこれらの様々な条件を考慮して決定されるべきである。本発明において,装用状態における光学性能を重視する場合,上記面非点隔差成分の平均値が所定の値以下の測定基準点を含む近傍の所定領域は,測定基準点からレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy
(mm)
とするとき,(x2+y2)

1/2

|≦2.50(mm)の条件を満足する領域であることが望ましい。
また,本発明では,装用状態における光学性能の改善と度数測定の容易さとのバランスを考慮する場合,上記面非点隔差成分の平均値を所定の値以下に抑えるべき所定領域は,|(x2+y2)1/2|≦4.00(mm)の条件を満足する領域であることが望ましい。
更に,本発明では,レンズメーターの測定位置合わせの精度の影響を考慮して度数測定の容易さを重視する場合,|(x2+y2)1/2|≦5.00(mm)の条件を満足する領域であることが望ましい。
(5頁48行~6頁13行)
ところで,トーリック面では必ず面非点隔差が存在するが,これはもともと乱視矯正に必要な面非点隔差であり,光学性能の向上のために付与されているものではない。従って,本発明では,この乱視矯正に必要な面非点隔差を,処方面の非球面化により発生する面非点隔差から分離して考える。即ち,上述したように,本発明において処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分を,非球面化された処方面の任意の座標における面非点隔差と,処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面の当該座標における面非点隔差との差分の絶対値として表す。
すなわち,処方面の任意の座標(x,y)における面非点隔差をAS(x,y)とし,非球面化される前の処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面の当該座標(x,y)における面非点隔差をC(x,y)とし,処方面の非球面化により当該座標(x,y)において実質的に発生する面非点隔差成分をΔAS(x,y)とするとき,ΔAS(x,y)は下記の式(1)で表される。
ΔAS(x,y)=|AS(x,y)-C(x,y)|

(1)

レンズメーターによる度数の測定は,処方面に対してほぼ垂直に入射する光線に基づいて行われるため,測定領域内での面非点隔差成分の分布が,ほぼそのまま測定度数に影響する。従って,本発明では,処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えることによって本発明の目的を達成している。
(6頁14行~31行)
表1を参照してわかるように,度数測定における許容値は処方度数や乱視度数によって異なる値をとることが望ましいが,設計や製造における実務の簡略化から,平均値ΔASavの許容値を装用者の処方に依存することなく一定にすることも可能である。その場合,平均値ΔASavの許容値を表1に記載されている許容値の中から選択して決定することもできるが,本願発明者の検討によると,装用状態における光学性能を重視する場合にはΔASav≦0.15(ディオプター)を満足することが望ましく,装用状態における光学性能をさらに重視する場合にはΔASav≦0.12(ディオプター)を満足することが望ましい。また,本発明において,装用状態における光学性能の改善と度数測定の容易さとのバランスを考慮する場合には,ΔASav≦0.10(ディオプター)を満足することが望ましく,ΔASav≦0.09(ディオプター)を満足することがさらに望ましい。更に,本発明において,度数測定の容易さを重視する場合には,ΔASav≦0.06(ディオプター)を満足することが望ましい。
(7頁10行~22
行)
また,本発明において,上記面非点隔差成分の平均値ΔASavを所定の値以下に抑えるべき測定基準点を含む近傍の所定領域は,実質的に球面形状またはトーリック面形状であることが好ましい。眼鏡店やユーザーが,透過光線における光学性能の改善よりもレンズメーターによる度数測定を重視する場合,即ち,規格による許容値を考慮することなく処方度数と測定度数とが実質的に一致することを望む場合,上記所定領域において,処方面を実質的に球面形状またはトーリック面形状にすることが有効である。本願発明者の検討によると,レンズメーターの測定領域の全体を実質的に球面形状またはトーリック面形状にしなくても,測定領域内における中心部分の一定の領域を実質的に球面形状またはトーリック面形状にすることによって,
本発明の目的が達成可能であることがわかった。
(7頁23行~
31行)
従って,実質的に球面形状またはトーリック面形状である測定基準点を含む近傍の領域は,
測定基準点からレンズの水平方向への距離をx
(mm)
とし,
測定基準点からレンズの鉛直方向への距離をy
(mm)
とするとき,(x2+y2)

1/2

|≦1.75(mm)

の条件を満足する領域であることが望ましい。また,処方度数と測定度数とをさらに良好に一致させるには,実質的に球面形状またはトーリック面形状である測定基準点を含む近傍の領域は,|(x2+y2)1/2|≦2.50(mm)の条件を満足する領域であること
が望ましく,|(x2+y2)1/2|≦4.00(mm)の条件を満足する領域であることがさらに望ましい。
(7頁31行~41行)
表2
表2において,最も上側の行に記載された横軸は測定基準点OFを原点としてレンズの水平方向への距離x(mm)を示し,最も左側の列に記載された縦軸は,測定基準点OFを原点としてレンズの鉛直方向への距離y(mm)を示している。図4および表2を参照して分かるように,測定基準点OFを含む近傍の領域の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分は,比較的小さい値(ディオプター)に抑えられている。
(9頁25行~29行)
表3
表3においても表2と同様に,最も上側の行に記載された横軸は,測定基準点OFを原点としてレンズの水平方向への距離x(mm)を示し,最も左側の列に記載された縦軸は,測定基準点OFを原点としてレンズの鉛直方向への距離y(mm)を示している。図7および表3を参照して分かるように,測定基準点OFを含む近傍の領域の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分は,ほぼ0(ディオプター)
に抑えられ,
実質的にトーリック面と等しい面形状になっている。
(10頁34行~39行)
(2)

本件発明の内容

前記(1)によれば,本件発明の内容は,以下のとおりであると認められる。本件発明は,累進屈折力レンズに関するものである(前記(1)ア)。
装用状態における光学性能を重視して処方面を非球面化した累進屈折力レンズでは,処方面が非球面化されているために測定基準点において面非点隔差が発生する結果,レンズメーターでの測定に際して,処方度数とは異なる球面度数及び乱視度数が表示されてしまうため,本来の処方度数とは別に,一般的なレンズメーターで測定した場合に得られる度数を測定理論度数として併記する「二重表記」による測定が主流となっている。
しかしながら,
度数測定では,
複雑な手順が必要となる上,
正確な測定結果を得るために従来の累進屈折力レンズよりも時間及び労力が必要になる。また,実際にレンズをフレーム形状に加工する際に不要部分として廃棄される主注視線を含む遠用部の一部の領域において,処方面の主注視線上を面非点隔差の生じない形状とし,その領域でレンズの度数を測定することも提案されているけれども,得られる測定度数は,本来求められているレンズの度数測定の目的とは異なるため適切とはいえない。
(前記(1)イ)
そこで,本件発明は,装用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レンズを提供することを目的とし
(前記(1)ウ)この目的を達成するために,

本件発明では,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面が非球面形状を有し,処方面の非球面形状により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値(ΔASav)が,レンズの度数を測定するための測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下に抑えられている。そのため,処方面の非球面化により装用状態における光学性能を補正する構成を採用しているにもかかわらず,例えばレンズメーターを用いて測定基準点を基準として測定することにより処方度数とほぼ同じ測定度数を得ることができ,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことができる。
(前記(1)エ)
本件発明の「所定の値」は,レンズメーターによる度数測定と光学性能のバランスを考慮して決定されるものであり,装用状態における光学性能を重視する場合には,
より大きな値(0.15)が好ましく,度数測定の容易さを重視する場合には,より小さな値(0.06)が好ましい。
(前記(1)オ)

また,本件発明の
「所定領域」は,処方面の非球面化により実質的に発生する「面
非点隔差成分の平均値(ΔASav)
」を所定の値以下に抑えるべき領域であり,レ
ンズメーターの測定に必要な領域(測定領域)を考慮して決定することが必要である
(前記(1)

)レンズメーターの測定領域の全体を所定領域(実質的に球面形状。

又はトーリック面形状)としなくても,測定領域内における中心部分の一定の領域を所定領域とすることができる(前記(1)オ


。もっとも,測定領域内での面非点隔

差成分の分布は,ほぼそのまま測定度数に影響することから,度数測定のみを考慮するのであれば,所定領域はできるだけ広い方が効果的である。ただし,所定領域を広くするほど装用状態における光学性能は低下するため,
「所定領域」は,レンズ
メーターによる度数測定と光学性能のバランスを考慮して決定される。(前記(1)オ



2
取消事由1(特許法126条5項の要件に関する判断の誤り)について(1)

審決の認定

審決は,本件第1訂正によって,本件訂正発明3において特定されることになった第1発明特定事項(処方面により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面またはトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値が,レンズの度数を測定するための前記測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい。訂正事項1-3)及び第2発明特定事項(前記所定領域は,前記測定基準点を原点としてレンズの水平方向への距離をx(mm)とし,前記測定基準点を原点としてレンズの鉛直方向への距離をy(mm)とするとき,座標(x,y)が|(x2+y2)1/2|≦2.50の条件を満足する領域である。訂正事項1-4)が,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとは認められないと判断した。
そして,本件第1訂正に係る本件訂正発明11及び12,本件第2訂正に係る本件訂正発明4,本件第3訂正に係る本件訂正発明7,本件第4訂正に係る本件訂正発明8及び本件訂正明細書においても第1発明特定事項及び第2発明特定事項に対応する事項が記載されているから,本件第1訂正ないし本件第4訂正は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとは認められないと判断した。
(2)

訂正の目的について
訂正事項1-3

訂正事項1-3は,本件発明1ないし3,9ないし12の「所定の値以下」であるとの記載を「0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい」として,具体的な数値により範囲を限定する趣旨のものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる(当事者間に争いはない。。)

訂正事項1-4

訂正事項1-4は,本件発明3及び12に記載された本件条件式|(x2+y2)1/2

|≦2.
50について,
x,
yが座標であることを明記する趣旨のものであり,

明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
なお,誤記の訂正が認められるためには,前提として「誤記」
,すなわち,誤った
記載が存在することが必要であるところ,本件発明3及び12の本件条件式自体に誤りは認められないから,訂正事項1-4は,誤記の訂正を目的とするものとはいえない。また,後記(3)イのとおり,本件明細書の記載によれば,当業者であれば,本件発明3に記載された本件条件式も座標を前提としたものであると理解することができるから,本件条件式については,単に,明記されていないことでx,yが座標であることが明瞭ではなかったと解するのが相当である。

以上のとおり,訂正事項1-3及び1-4の訂正の目的についての審決
の判断に誤りはない。したがって,訂正事項1-3及び1-4が特許法126条5項の要件を満たすか否か(新規事項の追加の有無)は,審決と同様に,本件明細書(甲45)に基づいて判断することとする。
(3)

特許法126条5項について

訂正事項1-3について

訂正事項1-3は,本件発明1ないし3,9ないし12の「所定の値以下」であるとの記載を「0.15ディオプター以下で,かつ0.00ディオプターより大きい」として,具体的な数値により範囲を限定する趣旨のものである。明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法126条5項)
,訂正が,当業者によって,本件明細書の全ての記載を総合することにより,導かれる技術的事項であり,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。
請求項1の記載を引用する請求項5(本件発明5)は,
「前記所定の値は0.15
ディオプターである」との構成を含むものであるから,訂正事項1-3は,本件発明1ないし3,9ないし12において,本件発明5の上記構成を組み込んだ上,下限が「0.00」であることを明記したものと認められる。そして,この下限について,本件明細書には「図7および表3を参照して分かるように,測定基準点OFを含む近傍の領域の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分は,ほぼ0
(デ
ィオプター)に抑えられ,実質的にトーリック面と等しい面形状になっている。」と
記載され(前記1(1)
「0.00」となることが記載されている。
以上によれば,訂正事項1-3に係る本件訂正発明3の第1発明特定事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる。

訂正事項1-4について

訂正事項1-4は,本件発明3及び12に記載された「所定領域」が満足するべき本件条件式「|(x2+y2)1/2|≦2.50」について,x,yが座標であることを明記する趣旨のものであり,
明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
本件条件式については,本件明細書においても同一の表現を用いて説明がされていることが認められるところ(前記1(1)オ


,これらの記載のみからは,原告

が主張するように,本件条件式のx,yが座標を示しているか否かは直ちに明らかではないので,以下,本件条件式について検討する。
前記認定のとおり,本件発明は,装用状態における光学性能を良好に改善しているにもかかわらず,眼鏡店やユーザーによるレンズの度数測定を容易に行うことのできる累進屈折力レンズを提供することを目的とし
(前記1(1)ウ)この

目的を達成するために,レンズの透過光線における光学性能を補正するために形成された処方面が非球面形状を有し,処方面の非球面形状により発生する面非点隔差成分と処方度数の矯正に必要な球面又はトーリック面により発生する面非点隔差成分との差の絶対値の平均値(ΔASav)が,レンズの度数を測定するための測定基準点を含む近傍の所定領域に亘って所定の値以下に抑えられている,との構成とすることによって,処方面の非球面化により装用状態における光学性能を補正する構成を採用しているにもかかわらず,レンズの度数測定を容易に行うことができるとの効果を奏するものであると認められる。
本件明細書の記載(前記1(1)オ

)によれば,
「所定領域」は,
「面非点隔差成分

の平均値
(ΔASav)を所定の値以下に抑えるべき領域であると認められるから,」
「面非点隔差成分の平均値
(ΔASav)を決めるための基準となる範囲を示すも

のであるといえる。すなわち,面非点隔差成分の平均値(ΔASav)は,①面非点隔差成分ΔASと,「所定領域」

によって特定されるものであると認められる。
そして,本件条件式は,②「所定領域」の範囲をx,yを用いた数式によって特定するものであると解される。
また,本件明細書の記載によれば,①面非点隔差成分ΔASは,座標(x,y)を用いて,ΔAS(x,y)で規定されており(前記1(1)オ


,その具体例につい

ても,表2及び表3において,測定基準点OFを原点として,レンズの水平方向への距離をx(mm)と,鉛直方向への距離をy(mm)とした座標(x,y)を用いて説明されている(前記(1)




このような本件明細書に記載された技術的意義を踏まえると,本件明細書の記載に接した当業者であれば,
「所定領域」が満足するべき本件条件式のx,yについて
も,①「面非点隔差成分ΔAS(x,y)
」と同様に,座標(x,y)であると解す
るのが自然であるといえる。
審決は,2+y2=r2」の式は,原点を中心とする半径rの円周上「x
の各点の座標(x,y)の方程式とみることもできるが,斜辺の長さがrとなる直角三角形における直角をはさむ2辺の長さx,yの方程式とみることもでき,この場合,本件条件式(|(x2+y2)1/2|≦2.50)のx,yは,それぞれ,測定基準点から水平線を延ばしたときに所定領域の外縁と交差する位置(水平方向外縁位置)までの距離,及び,測定基準点から鉛直線を延ばしたときに所定領域の外縁と交差する位置(鉛直方向外縁位置)までの距離を示すと解するのが自然であるとする(第1解釈)

しかしながら,審決の上記認定に従って,本件条件式のx,yを理解すると,本件条件式は,
「水平方向外縁位置と鉛直方向外縁位置の距離」が2.5mm以下であればよく,水平方向と鉛直方向以外については何ら規定していないのであるから,本件条件式によっては,
「所定領域」の形状が定まらないことになる。また,水平方
向外縁位置と鉛直方向外縁位置の距離が2.5mm「以下」であればよいことになるので,水平方向外縁位置及び鉛直方向外縁位置が0のもの,すなわち,所定領域として大きさをもたないものも含むことになる。
面非点隔差成分の平均値(ΔASav)を決めるた
めの基準となる範囲を示すものであって,本件条件式は,この所定領域が満足すべき範囲を定めるものであることからすれば,本件条件式について,上記のように,形状が定まらず,また,大きさを持たないものも含むように解することは,不自然であるといわざるを得ない。
また,
本件明細書には,
「実質的に球面形状またはトーリック面形状である測定基
準点を含む近傍の領域は,…|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の条件を満足する領域であることが望ましい。また,処方度数と測定度数とをさらに良好に一致させるには,実質的に球面形状またはトーリック面形状である測定基準点を含む近傍の領域は,|(x2+y2)1/2|≦2.50(mm)の条件を満足する領域であることが望ましく」
(前記1(1)

と記載されていることからすると,本件条件

式は,少なくとも,|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の場合と比較して,度数測定がより容易になる条件を規定しているものと認められる。しかしながら,審決の上記解釈によれば,本件条件式は,所定領域の形状が特定されるものではなく,しかも,所定領域として大きさを持たないものも含むことになるものであるから,
度数測定がより容易になる条件を規定したものとはいい難く,
上記のとおり,|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の条件式と対比して,本件条件式を規定している本件明細書の記載と整合するものとはいえない。したがって,審決の上記解釈は,不自然であるといわざるを得ない。なお,審決は,
「所定領域」は,測定基準点を中心としてどの方向にも大きさが略一定の領域(すなわち,測定基準点を中心とする略円形の領域)として設ければよいのであり,水平方向及び鉛直方向の大きさとそれ以外の方向の大きさとが大きく異なるような不定形の形状の領域にすることは,必要がないばかりか,光学性能の低下という観点から有害であることが当業者に自明であるとして,本件条件式は,測定基準点を中心としてどの方向にも「所定領域」の大きさが略一定であることを前提として,その大きさを規定したものである,とも認定している。むしろ,このように,所定領域の大きさが略一定であることが当業者にとって当然の前提となるのであれば,
本件明細書の記載に接した当業者は,
本件条件式が円を規定するもの,
すなわち,x,yを座標であると理解するというのが自然かつ合理的である。以上によれば,本件明細書において,本件条件式とともに面非点隔差成分の平均値を求める基礎となる面非点隔差成分ΔASについて,x,yが座標として用いられていること,本件条件式のx,yを測定基準点から水平方向外縁位置及び鉛直方向外縁位置までの距離であると解することが本件明細書の全体の記載に照らして不自然であることなどから,本件条件式のx,yは,座標として用いられていると解するのが相当である。
そして,
このように解しても,
本件訂正後の本件訂正発明は,
処方面の非球面化により装用状態における光学性能を補正する構成を採用しているにもかかわらず,レンズの度数測定を容易に行うことができるとの効果を奏するものであると認められる。
したがって,訂正事項1-4は,もとより座標を示すものであると解される本件条件式のx,yが座標であることを明記したにすぎないものであり,訂正事項1-4に係る本件訂正発明3の第2発明特定事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,新たな技術的事項を導入しないものであるから,
本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものということができる。ウ
被告の主張について
被告は,訂正事項1-4に関し,本件条件式のx,yが測定基準点か
ら所定領域の水平方向及び鉛直方向の外縁までの距離を示すものであるとする審決の解釈は,当業者の理解とかけ離れたものではないと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,審決の上記解釈は,本件明細書の全体の記載に照らし,当業者が自然に理解することができるものであるとはいい難い。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
被告は,本件条件式「|(x2+y2)1/2|≦2.50」は,通常距離を表す式として理解されるのであり,所定領域が円内の領域であることを規定したいというのであれば,円を示す方程式であるx2+y2=2.502と規定するべきであって,わざわざ円内の領域であることを規定するのに|(x2+y2)1/2|という算式を用いる必要はないと主張する。
しかしながら,本件条件式は,被告がいうx2+y2≦2.502の式と等価なものであり実質的な差異はないから,所定領域が円内の領域であることを規定するために本件条件式を用いることが不自然であるということはできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
被告は,本件訂正前の請求項3に対して,第1発明特定事項及び第2発明特定事項は,所定領域が測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内であることとし,その所定領域における面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下で,かつ,0.00ディオプターより大きいことのみを規定しているから,本件訂正発明3において,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量は任意のものとなる(測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量はどのような値であってもよい。
),そうすると,第1発明特定事項及び第2発明特定
事項である
「測定基準点を中心とする2.
5mmの円内の領域とは異なる領域
(外,
全領域)における面非点隔差平均増加量が任意となってしまう領域」は,本件明細書の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項に該当するものとなる旨主張する。
しかしながら,訂正事項1-4は,もとより座標を示すものであると解される本件条件式のx,yが座標であることを明記したにすぎないものであり,本件明細書の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないのは前記認定のとおりである。本件訂正発明3において,測定基準点を中心とする半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量が任意のものとなるか否かという点については,本件訂正の前後を通じて,上記円内の領域と異なる領域についての解釈が変わるものではないから,本件訂正の適否に関する前記認定判断を左右するものではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
被告は,原告が,審決の解釈によれば,本件条件式が所定領域の上限を規定していると理解することはできないと主張するのに対し,本件明細書には,「本発明では,処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えることによって本発明の目的を達成している。(
」【0005】
)と記載されるとおり,ΔASavに基
づいて所定領域を広く決定した場合に装用状態における光学性能は低下することから,ΔASavに基づいた所定領域に制限を設けるために,本件条件式(|(x2+y2)1/2|≦2.50)により,上限を設けることによって「所定領域」を決定するものである,すなわち,本件発明は,所定領域が定められた上,処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えるために,条件式によって上限を設け,所定領域を決定するものである旨主張する。
しかしながら,本件明細書の記載(前記1(1)オ

)によれば,
「所定領域」は,
「面

非点隔差成分の平均値
(ΔASav)を所定の値以下に抑えるべき領域であり,

「面
非点隔差成分の平均値
(ΔASav)を決めるための基準となる範囲を示すもので

あって,面非点隔差成分の平均値(ΔASav)は,①面非点隔差成分ΔASと,②「所定領域」によって特定されるものであるから,所定領域が定められた上で,面非点隔差成分の平均値(ΔASav)が特定されるものであると認められる。そうすると,被告が主張するように,所定領域が定められた上で,処方面の非球面化により実質的に発生する面非点隔差成分の平均値をΔASavとし,この平均値ΔASavを所定の値以下に抑えるために,条件式によって上限を設け,所定領域を決定するものであるということはできないし,そもそも,技術常識に照らしても,所定領域を定めた上で更に所定領域を決定するということは考えられない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

以上のとおり,本件第1訂正による本件訂正発明3の第1発明特定事項
及び第2発明特定事項は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,また,本件訂正発明4,7,8,11,12及び本件訂正明細書の第1発明特定事項及び第2発明特定事項に対応する事項についても,同様に,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認められるから,上記認定に反する審決の判断には誤りがある。
したがって,特許法126条5項の要件に関する審決の判断には誤りがあり,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,取消事由1は理由がある。
3
取消事由2(特許法126条6項の要件に関する判断の誤り)について(1)

審決は,本件発明12の本件条件式「|(x2+y2)1/2|≦2.50」
を含む本件訂正前発明特定事項について,①水平方向外縁位置と鉛直方向外縁位置との距離が2.50mm以下になること(第1解釈)
,又は,②所定領域が測定基準
点を中心とする半径2.50mmの円内に収まること(第2解釈)のいずれかに解釈できるとした上,いずれに解しても,本件第1訂正によって,本件訂正発明12の技術的範囲の一部又は全部について,本件発明12の技術的範囲外であると認識するおそれがあるから,本件第1訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであると判断した。そして,同様の事情は,本件第3訂正に係る本件訂正発明7,本件第4訂正に係る本件訂正発明8においても妥当するから,本件第3訂正,本件第4訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであると判断した。
しかしながら,本件明細書の記載に接した当業者であれば,本件条件式のx,yが座標であると理解することができるのは,前記認定のとおりであり,本件第1訂正の訂正事項1-4は,もとより座標を示すものであると理解される本件条件式のx,yが座標であることを明記したにすぎないものであるから,本件訂正の前後を通じて,請求項12の条件式で規定される範囲に変更はないものと認められる。したがって,本件第1訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。本件第3訂正,本件第4訂正についても,同様に,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。
第1解釈又は第2解釈を前提として,本件第1訂正,本件第3訂正及び本件第4訂正が実質的に特許請求の範囲の拡張又は変更に当たるとした審決の判断には誤りがある。
(2)

被告は,本件訂正前発明特定事項は,第1解釈又は第2解釈のいずれの意
味にも理解することができるものであって,そのいずれを採用しても,本件訂正発明12の技術的範囲に包含される「累進屈折力レンズ例」は,本件発明12の技術的範囲外となるのであるから,結局,本件訂正発明12は,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれることのない技術的事項を含んでしまうこととなるため,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更することに当たる旨主張する。しかしながら,本件明細書の記載に照らし,第1解釈が不自然であり採用することができないことは前記2(3)イ

のとおりである。また,本件条件式のx,yが座

標であるのであれば,所定領域は,半径2.5mmの円内の領域であると認められるから,文言上,第2解釈についても採用することはできない。なお,第2解釈によると,面非点隔差平均増加量が0.15ディオプター以下となる「所定領域」が測定基準点を中心とする半径2.50mmの円内に収まることを意味するのであるから,本件条件式による領域は,|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の条件式による領域よりも小さい領域である場合を含むことになる。そうすると,本件条件式が,少なくとも,|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の場合と比較して,常に度数測定がより容易になる条件を規定しているということはできないから,第2解釈は,|(x2+y2)1/2|≦1.75(mm)の条件式と対比して,本件条件式を規定している本件明細書の記載と整合するものとはいえない。本件訂正発明12の技術的範囲に包含される「累進屈折力レンズ例」が,本件発明12の技術的範囲外となるか否かについて,
すなわち,
本件訂正発明3において,
測定基準点を中心する半径2.5mmの円内の領域とは異なる領域における面非点隔差平均増加量が任意のものとなるか否かという点については,本件訂正の前後を通じて,上記円内の領域とは異なる領域についての解釈が変わることはないから,本件訂正の適否に関する前記認定判断を左右するものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)

以上のとおり,特許法126条6項の要件に関する審決の判断は誤りであり,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,取消事由2は理由がある。
4
まとめ

以上によれば,原告の主張する取消事由1及び2は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。
第6

結論

よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
清水節中島基至岡田慎吾
裁判官

裁判官
トップに戻る

saiban.in