判例検索β > 平成26年(行ウ)第23号
移転補償費返還請求事件
事件番号平成26(行ウ)23
事件名移転補償費返還請求事件
裁判年月日平成29年7月6日
法廷名大阪地方裁判所
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別紙1当事者目録記載のとおり
主文1
原告及び原告共同訴訟参加人らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告及び原告共同訴訟参加人らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
被告は,A株式会社並びにB,C及びDに対し,次の金員を支払うよう請求せよ。
(1)A株式会社については,14億7195万3500円及び内金7億4865万5650円に対する平成25年4月10日から,内金7億2329万7850円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員
(2)Bについては,7億3597万6750円及び内金3億7432万7825円に対する平成25年4月10日から,内金3億6164万8925円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員(3)Cについては,3億6798万8375円及び内金1億8716万3912円に対する平成25年4月10日から,内金1億8082万4462円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員(4)Dについては,3億6798万8375円及び内金1億8716万3912円に対する平成25年4月10日から,内金1億8082万4462円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員
2
被告は,株式会社E並びにB,C及びDに対し,次の金員を支払うよう請求せよ。
(1)株式会社Eについては,14億7195万3500円及び内金7億4865万5650円に対する平成25年4月10日から,内金7億2329万
7850円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員
(2)Bについては,7億3597万6750円及び内金3億7432万7825円に対する平成25年4月10日から,内金3億6164万8925円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員(3)Cについては,3億6798万8375円及び内金1億8716万3912円に対する平成25年4月10日から,内金1億8082万4462円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員(4)Dについては,3億6798万8375円及び内金1億8716万3912円に対する平成25年4月10日から,内金1億8082万4462円に対する同年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員第2

事案の概要

1
事案の骨子
(1)門真市は,平成24年11月5日及び平成25年3月27日,同市a町所在の別紙2建物目録記載の各建物(以下「本件各建物」という。)の共有者であるA株式会社(以下「A」という。)及び株式会社E(以下「E」といい,Aと併せて「Aら」という。)との間で,本件各建物の移転補償費(以下「本件移転補償費」という。)を合計29億4390万7000円とする建物移転補償契約(以下「本件補償契約」という。)を締結し,後日,これを支払った(以下「本件支出」といい,本件補償契約の締結と併せて「本件補償」という。)。
(2)本件は,門真市の住民である原告及び原告共同訴訟参加人ら(以下,併せて「原告ら」という。)が,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,同市の執行機関である被告を相手に,Aら並びに本件補償の際に門真市長の職にあった亡F(以下「F」という。)の相続人であるB,C及びD(以下「F相続人ら」という。)に対して,次のアからウまでのとおり請求をす
ることを求める住民訴訟である。

F及びAらの共同不法行為に基づく請求(請求の相手方はAら及びF相続人ら)
本件補償に関し,FとAらが共謀して門真市の損失の下にAらに不当な利益を得させたとして,民法719条1項に基づき,Aら及びF相続人らに対して上記第1請求記載のとおり共同不法行為に基づく損害賠償請求及び遅延損害金の請求をすること


Fの不法行為に基づく請求(請求の相手方はF相続人ら)
Fが故意又は過失により本件移転補償費を過大に算定し門真市に損害を与えたとして,民法709条に基づき,F相続人らに対して上記第1請求1(2)から(4)まで及び同2(2)から(4)まで記載のとおり不法行為に基づく損害賠償請求及び遅延損害金の請求をすること


本件補償契約の無効に基づく請求(請求の相手方はAら)
本件移転補償費は過大であり,本件補償契約は公序良俗に反し無効であるとして,民法703条及び704条に基づき,Aらに対して上記第1請求1(1)及び同2(1)記載のとおり不当利得返還請求及び利息請求をすること2
関係法令の定め

(1)公有地の拡大の推進に関する法律(平成23年法律第105号による改正前のもの。以下「公拡法」という。)

公拡法4条1項は,都市計画区域(市街化調整区域を除く。)内に所在する土地でその面積が2000平方メートルを下回らない範囲内で政令で定める規模以上のもの(6号)を所有する者は,当該土地を有償で譲り渡そうとするときは,当該土地の所在及び面積,当該土地の譲渡予定価額,当該土地を譲り渡そうとする相手方その他主務省令で定める事項を,主務省令で定めるところにより,当該土地が所在する市町村の長を経由して,
都道府県知事に届け出なければならない旨規定する。

公拡法6条1項は,都道府県知事は,同法4条1項の届出があった場合においては,当該届出に係る土地の買取りを希望する地方公共団体等のうちから買取りの協議を行なう地方公共団体等を定め,買取りの目的を示して,当該地方公共団体等が買取りの協議を行なう旨を当該届出をした者に通知するものとする旨規定し,同条2項は,同条1項の通知は,届出のあった日から起算して3週間以内に,これを行なうものとする旨規定し,同条3項は,都道府県知事は,同条1項の場合において,当該届出に係る土地の買取りを希望する地方公共団体等がないときは,当該届出をした者に対し,直ちにその旨を通知しなければならない旨規定する。


公拡法7条は,地方公共団体等は,上記届出に係る土地を買い取る場合には,地価公示法6条の規定による公示価格を規準として算定した価格(当該土地が同法2条1項の公示区域以外の区域内に所在するときは,近傍類地の取引価格等を考慮して算定した当該土地の相当な価格)をもってその価格としなければならない旨規定する。

(2)社会資本整備総合交付金交付要綱(平成22年3月26日付け国官会第2317号国土交通事務次官通知別添。以下「交付要綱」という。乙4)ア
交付要綱附属第Ⅰ編「基幹事業」16-(8)は,住宅市街地総合整備事業とは,住宅等の整備,公共施設の整備等に関する事業及びこれに附帯する事業,都心共同住宅供給事業,防災街区整備事業並びに都市再生住宅等の整備に関する事業をいう旨規定する。


交付要綱附属第Ⅱ編「交付対象事業の要件」第1章16-(8)「住宅市街地総合整備事業」16は,密集住宅市街地整備型重点整備地区に係る事業の実施に伴い必要となる土地(土地の付加物を含む。)又は建物等の取得及び使用に対する損失補償並びにこれらに伴う通常損失の補償に要する費用の取扱いについては,「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」
(昭和37年6月29日閣議決定。以下「補償基準要綱」という。)の定めるところにより,適正に運用するものとし,ただし,老朽建築物の買収又は建築物の補償費の算定は,次の各号に定めるところによる旨規定する。同ただし書1号は,老朽建築物を買収する場合の買収価額については,近傍同種の建物の正常な取引価額とするものとし,取引事例がない場合は,当該建物の推定再建築費を取引時までの経過年数及び維持保全の状況に応じて減額した額,その他正当な評価額をもってその価額とする旨規定し,同2号は,建築物を買収せずに移転しようとする場合の移転料は,当該建築物を通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法(再築工法,曳家工法,改造工法,除却工法及び復元工法を標準とする。)によって,移転するのに要する費用をもって,その価額とする旨規定する。
なお,上記の交付要綱附属第Ⅱ編第1章16-(8)16の内容は,住宅市街地総合整備事業補助金交付要綱(平成16年4月1日付け国住市第352号)第5(乙3の2)と同様のものである。

交付要綱附属第Ⅱ編「交付対象事業の要件」第1章16-(8)「住宅市街地総合整備事業」23・1は,平成21年度以前に住宅市街地総合整備事業制度要綱(平成16年4月1日付け国住市第350号)及び住宅市街地総合整備事業補助金交付要綱に基づき行われている事業で地方公共団体が補助事業者のものについては,16-(8)で定める住宅市街地総合整備事業とみなし,事業に関する規定は,なお従前の例によることができると規定する(以下,交付要綱制定の前後を問わず,住宅市街地総合整備事業を「住市総事業」という。)。

(3)公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定。以下「補償基準」という。乙9の3)
なお,補償基準は,補償基準要綱を基に,その実施規程として定められた
ものである。

補償基準8条1項は,取得する土地に対しては,正常な取引価格をもって補償するものとする旨規定し,同条2項は,同条1項の場合において,当該土地に建物その他の物件があるときは,当該物件がないものとしての当該土地の正常な取引価格によるものとする旨規定する。


補償基準9条1項は,上記の正常な取引価格は,近傍類地(近傍地及び類地を含む。以下同じ。)の取引価格を基準とし,これらの土地及び取得する土地について,同項各号に掲げる土地価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するものとする旨規定し,同基準9条の2は,地価公示法2条1項の公示区域内の土地を取得する場合において,同基準9条の規定により当該土地の正常な取引価格を決定するときは,同法6条の規定により公示された標準地の価格を規準とする旨規定する。


補償基準15条は,取得する建物に対する補償については,土地の取得に係る補償の例による旨規定し,同基準16条は,近傍同種の建物の取引の事例がない場合においては,同基準15条の規定にかかわらず,取得する建物に対しては,当該建物の推定再建設費を,取得時までの経過年数及び維持保存の状況に応じて減価した額をもって補償するものとする旨規定する。


補償基準28条1項前段は,土地の取得又は使用に係る土地に,建物で取得せず又は使用しないものがあるときは,当該建物を通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする旨規定し,同基準30条は,建物を移転させるものとして同基準28条の規定により算定した補償額が同基準15条の規定により算定した当該建物の価格を超えるときは,当該建物を取得することができるものとする旨規定する。

3
前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)
(1)当事者等

原告らは,門真市の住民である。


被告は,門真市の市長であり,同市の執行機関である。


Aらは,本件補償契約及び本件支出の相手方である。Aらは,本件補償契約締結当時,本件各建物をそれぞれ2分の1の割合で共有していた。

Fは,本件補償当時,門真市長の職にあった者であり,同市長在職中の平成28年6月7日に死亡した。BはFの妻であり,C及びDはFの子である。

(2)本件補償に至る経緯等

門真市は,平成19年3月,「門真市都市ビジョン」を策定し,同市内の「b町・c町・a町」地域を重点都市再生地域に位置付けた。これを受けて,平成20年3月,「門真市b町・a町まちづくり基本構想」(以下「本件基本構想」という。)が策定され,同年4月,門真市b町・c町・a町まちづくり協議会(以下「まちづくり協議会」という。)が設置された。


門真市は,平成21年3月,「門真市b町・a町まちづくり基本計画」(以下「本件基本計画」という。)を策定した。
本件各建物及びその敷地(当時の門真市a町d番e,同d番f及び同g番hの各土地。その後,合筆及び分筆により別紙3土地目録記載の各土地となった。以下,合筆及び分筆の前後を通じ,一体として「本件各土地」といい,本件各建物と併せて「本件不動産」という。)は,都市計画区域内にあるとともに本件基本計画の対象区域内にあり,当時,株式会社G(以下「G」という。)がこれを所有し,ディスカウントストア「H」(GI店・平成22年3月末閉店)の店舗等の敷地として使用されていた。

Gは,平成21年9月30日の取締役会において,Hの閉店を決定し,平成22年1月22日,本件不動産の購入希望者による入札を実施したところ,4件の応札があり,Aらによる入札額が最高額であった(甲16)。

Gは,本件不動産をAらに売却する予定があるとして,平成22年3月2日,大阪府知事に対し,公拡法4条1項6号に基づく土地有償譲渡届出書を提出した(甲3)。大阪府知事は,同日,門真市に対し,本件各土地の買取希望の有無について照会した(以下「本件照会」という。)。門真市は,同月3日,大阪府知事に対し,本件各土地につき買取希望がない旨を通知した(以下「本件回答」という。)。


Gは,平成22年3月26日,Aらとの間で,本件不動産を15億1725万円(内訳:本件各土地11億5500万円,本件各建物3億4500万円,消費税及び地方消費税1725万円)で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(乙2の3)。Aらは,本件売買契約により,それぞれ2分の1の割合で本件不動産の共有持分を取得し,同年6月22日,その所有権移転登記を受けた(甲4)。


Aらは,平成22年3月31日,独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)との間で,本件各土地のうち南側の約7000㎡の土地を売却する旨の契約を締結した(甲14,15の4)。
本件各土地(門真市a町d番e,同d番f及び同g番h)は,同年7月6日,同d番eに合筆され,同日,北側の同d番e(以下,後述する分筆登記の前後を問わず,「北側土地」という。)と南側の同d番i(以下「南側土地」という。)に分筆された(甲4の1の1)。そして,南側土地については,同日売買を原因として,URを所有者とする共有者全員持分全部移転登記がされた(甲4の1の2)。また,北側土地については,平成25年12月4日,同d番eと同d番jに分筆登記された(甲4の1の1,4の1の3)。


門真市は,平成24年11月5日及び平成25年3月27日,Aらとの間で,本件移転補償費を合計29億4390万7000円とする本件補償契約を締結し,Aらに対し,同年4月10日に14億9731万1300円,同年12月20日に14億4659万5700円をそれぞれ支払った(本件支出)。本件支出により,Aらはそれぞれ14億7195万3500円を受領した。
なお,本件補償契約により定められた本件各建物の除却期限は,同年3月29日付け変更契約により同年9月30日とされ,さらに,同日付け変更契約により平成26年3月31日とされた。

(3)本件訴訟に至る経緯等

原告は,平成25年11月18日付けで,門真市監査委員に対し,本件補償につき住民監査請求をしたが,門真市監査委員は,平成26年1月14日付けで,これを棄却する旨の決定をし,その頃,原告に対し,その旨を通知した。
原告は,同年2月10日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。


原告共同訴訟参加人らは,それぞれ,平成26年2月13日付けで,本件補償につき住民監査請求をしたが,門真市監査委員は,同年4月10日付けで,これらを棄却する旨の各決定をし,その頃,各原告共同訴訟参加人に対し,その旨を通知した。
原告共同訴訟参加人らは,同年5月7日,原告に共同訴訟参加する旨の申出をした(顕著な事実)。

4
争点及び当事者の主張

(1)F及びAらの共同不法行為の成否-事案の骨子(2)アの共同不法行為に基づく損害賠償請求
(原告らの主張)

主張の骨子

①門真市においては,本件回答がされた平成22年3月3日より前から,本件各土地に門真市立体育館(以下「市立体育館」という。)を建設することが計画又は想定されており,少なくとも,a町地区において市立体育館等の公共施設の建設用地が不足することは明らかであったから,門真市としては,同日時点で,本件各土地を購入する必要性があった(後記イ)。しかも,②門真市は,同月2日の本件照会に対し,本件各土地の買取りを希望する旨の回答をすれば,15億円を下回る価格で本件不動産を購入することができた(後記ウ)。にもかかわらず,③門真市は,通常行われている各部長への買取希望の有無の確認を省略し,都市建設部長にこれを確認するにとどめ,本件照会からわずか1日で「買取希望無し」という不合理な回答(本件回答)をした(後記エ)。そして,④門真市は,Aらとの間で,本件各建物につき本件補償契約を締結し,合計29億4390万7000円もの過大な本件移転補償費を支払った(後記オ)。
上記①から④までの経緯等(以下,順に「主張の骨子①」などと表記することがある。)によれば,本件回答及び本件補償は,Fやその意向を受けた門真市の職員らとAらとが共謀の上,門真市の損失の下でAらに不当な利益を得させるために行われたものというべきであり,F及びAらの行為は門真市に対する共同不法行為(民法719条)を構成する。

門真市には平成22年3月3日(本件回答)時点で本件各土地を購入する必要性があったこと(主張の骨子①)

(ア)平成21年3月に策定された本件基本計画においては,a町地区での市立体育館の建設が計画されている(甲7)。そして,同年8月に作成されたa町地区整備構想図(別紙図面1)においては,a町地区に,市役所庁舎のみならず防災機能を有する公園や統合中学校の建設も予定されていたのであり,市有地のみでは各施設の建設用地が不足するおそれがあったから,公有地の拡大は必要不可欠であった。したがって,市
立体育館の建設用地として本件各土地を活用することは,上記構想図が作成された平成21年8月当時から十分視野に入っていたというべきである。また,少なくとも,公共施設の用地が不足することは明らかであったから,門真市には,平成22年3月3日当時,本件各土地を購入する必要があったというべきである。
(イ)Fや門真市の職員らは,当初から,同市の損失の下にAらの利益を図る目的で,市立体育館の建設計画を進めていたというべきであり,市立体育館の建設と本件補償契約との間に関連性がない旨の被告の主張は失当である。本件補償の目的が道路整備とされているのは,国から老朽建築物等除却のための交付金の交付を受けるため,形式的にそのようにされているにすぎない。
門真市は,市立体育館の建設用地として本件各土地を取得し活用することを視野に入れて,「跡地公共建物補償費・建物補償3棟(G)」として平成23年度に45億6884万7600円支出見込みとの事業計画を作成し決裁していたものであり(甲8),門真市が当初から本件各土地を取得する意向を有していたことは明らかである。

門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望していれば15億円を下回る価格で本件不動産を購入し得たこと(主張の骨子②)
(ア)本件不動産を購入する場合,本件各建物の利用価値はなくその解体を前提として取得することとなるため,本件各土地の買取価格は,その更地価格から本件各建物の解体費用を控除した金額を上回ることはないというべきである。そうすると,本件各土地の更地価格が被告主張のとおり約16億円であったとしても,本件各建物の解体費用約5億8000万円を控除すると,本件各建物の時価約3億6000万円を加えても,本件不動産の買取価格は15億円を大きく下回る。本件不動産の価格につき鑑定したGの不動産鑑定評価書(甲21)も,鑑定評価額を14億
円としている。
(イ)被告は,民間取引の売買価格と任意買収の買取価格とは異なると主張するが,公拡法に基づく地方自治体等の先買権は,土地の所有者が有償譲渡をしようとする場合か買取りを希望する場合に行使することができるものであり,損失補償の考え方が当てはまるものではなく,民間取引の売買価格と任意買収の買取価格との間に違いはない。

「買取希望無し」とした本件回答が不合理であること(主張の骨子③)
(ア)本件各土地は,平成22年3月3日当時,市立体育館建設の有力な候補地であり,門真市は,当時,本件各土地を取得する必要性を認識していた。ところが,F及び同市の職員らは,通常行っている各部長への買取希望の有無の確認を省略し,都市建設部長のみにその確認をするにとどめ,本件照会からわずか1日で「買取希望無し」と判断して回答したものであり,このような判断に合理性がないことは明らかである。買取希望の有無の確認を都市建設部長に限定し,他の部局,とりわけ市立体育館を所管する教育委員会にも買取希望の有無を確認することなく本件各土地の買取希望がない旨の本件回答をしたのは,多様な事務事業を執行する責任を有する行政の対応として異例というほかなく,このような異例な対応の背景には,買取希望の有無の判断を都市建設部長一人に委ねざるを得ない特殊な事情があったことが推測される。
(イ)被告は,本件各土地の買取りを希望する旨の回答をする行政目的はなく,その予算もなかったと主張するが,平成22年3月の時点で,本件各土地に市立体育館を建設することが計画又は想定されていたことからすれば,本件各土地を取得すべき行政目的はあったというべきである。また,予算措置としても,財政調整基金を一部活用したり土地開発公社を利用したりするなどして,本件各土地を取得することは十分に可能であったというべきである。


本件移転補償費が高額にすぎること(主張の骨子④)(ア)本件補償は交付要綱の定める住市総事業の一環としてされたものであるから,本件移転補償費の算定に当たっては,補償基準に則ったものでなければならない(交付要綱附属第Ⅱ編第1章16-(8)16,住宅市街地総合整備事業補助金交付要綱第5)。そして,補償基準によれば,建物の移転に伴う補償費が取得に伴う補償費を超えるときは,当該建物を取得することができ(30条),建物の取得に伴う補償費は,近傍同種の建物の取引事例を基準とした正常な取引価格によるものとされている(15条)。
GとAらとの間の本件売買契約は本件各建物の取引事例であって,その価格は正常な取引価格というべきであるから,本件各建物に対する補償費は,本件売買契約における本件各建物の代金3億6225万円を基準として算定されるべきである。しかし,本件においては,本件各建物の上記代金額が無視され,近傍同種の建物の取引事例がないものとして,本件移転補償費の金額が約29億5000万円と算定されている。このような算定方法は,補償基準に反するものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるものとして違法である。
(イ)被告は,本件売買契約は「近傍同種の建物」の取引事例(補償基準16条)に該当しない旨主張するが,補償基準が「近傍同種の建物」の取引事例を基準とする趣旨は,正常な取引価格を算定するためであるから,移転補償の対象となる建物自体の取引事例が直近にある場合には,その価格が正に正常な取引価格といえるのであって,被告の主張は補償基準の趣旨に反する。Gが実施した不動産鑑定によれば,本件各建物の価格はゼロであるとされており,本件各建物の正常な取引価格が本件売買契約の3億6225万円を超えることはあり得ない。
(ウ)そもそも,本件各土地につき土地区画整理事業の換地の手法を用いて
いれば,門真市はAらに対し損失補償を行う必要はなかった。すなわち,本件各建物が存在する状態のままで換地処分を行い,Aらが所有する本件各土地を門真市の所有地とした上で,本件各建物の除却工事を行えば,門真市は,Aらに本件各建物の取得に伴う補償費さえ支払う必要はなかった。このような財政負担の少ない方法があったのに,Fがあえて本件補償を行ったのは,Aらに不当な利益を得させる旨の共謀があったからである。
(被告の主張)

主張の骨子
原告らは,主張の骨子①から④までの経緯等に照らし,Fや門真市の職員らとAらとが共謀の上,門真市の損失の下でAらに不当な利益を得させるために本件回答及び本件補償を行ったと主張するが,門真市においては,①平成22年3月3日(本件回答)時点で本件各土地を購入する必要性はなく,本件補償と市立体育館の建設計画との間に関連性はないし(後記イ),②本件照会の際に買取りを希望しても本件不動産を15億円で買い取ることはできない(後記ウ)。また,③門真市が「買取希望無し」とした本件回答に不合理な点はなく(後記エ),④本件移転補償費の算定は補償基準等に則って行われたものであり,誤りはない(後記オ)。このように,主張の骨子①から④まではいずれも理由がない。また,いずれの過程においても,Fや門真市の職員らとAらとの間に共謀や癒着はなく,原告らの主張は単なる憶測にすぎない。


門真市には平成22年3月3日(本件回答)時点で本件各土地を購入する必要性はなく,本件補償と市立体育館の建設計画との間に関連性はないこと(主張の骨子①に対する反論)
(ア)本件各土地に市立体育館を建設する計画は,平成22年10月1日の政策調整会議を経て,その具体案が立案され,同年11月1日の政策調
整会議において,当該具体案について議論されるに至ったものであり,これ以前は本件各土地に市立体育館を建設するという議論はされていなかった。
平成21年8月に都市建設部が作成したa町地区住宅市街地総合整備事業事業計画(以下「本件事業計画」という。甲8)の資料によれば,土地区画整理事業施行後において,門真市所有の宅地が3万9874.77㎡確保される計画であり(乙20の2),他方,上記宅地に建設予定の各施設の計画面積は合計3万8844.57㎡であったから(乙11の1),当時の計画の下では,a町地区内の公共施設の建築用地は十分に確保されていた。したがって,平成22年3月時点において,門真市が約1万3000㎡もの本件各土地を取得する必要性はなかった。(イ)本件補償は,住市総事業に基づく,「居住環境形成施設整備事業」としての「地区公共施設等整備」(道路)事業の実施のため,同整備事業の支障となる建物に対する移転補償としてされたものであり,市立体育館の建設計画の有無にかかわらず実施される移転補償であるから,同建設計画とは関連性がない。
平成21年8月作成の本件事業計画(甲8)の「跡地公共建物補償費4,568,847,600円」との記載は,住市総事業において区画街路1号線を整備するための建物移転補償費の見積りとして記載されたものである。そして,この金額は,当時Gが本件各建物において営業を行っていたため,店舗の再建を前提とした「再築工法」により建物補償費の概算を算出したものである。市立体育館の建設は,道路整備のための建物移転補償とは別個の独立した問題であり,両者に関連性はない。

本件照会の際に買取りを希望しても本件不動産を15億円で買い取ることはできないこと(主張の骨子②に対する反論)
公拡法に基づく土地の買取価格は,公示価格を規準として算定した価格
になるのであるから(同法7条),本件不動産の取得について合計15億円での買取りの協議ができるわけではないし,同法上の通知は形成権ではないため,確実にこれを取得し得るものでもない。仮に,門真市が本件各土地の買取りを希望したとしても,市内で最も低い公示価格によっても本件各土地の更地価格は16億円を超えるのであり,これに本件移転補償費(除却工法の場合)である約29億5000万円を加えると,門真市は約45億円での買取りの協議ができるにすぎない。しかも,買取りの行政目的が明確でない場合,国及び大阪府からの補助金や交付金の対象となるかどうかも不明である。原告らの主張は,民間における不動産取引の発想であり,国や地方公共団体の任意買収の場面には妥当しない。

「買取希望無し」とした本件回答に不合理な点はないこと(主張の骨子③に対する反論)
(ア)本件各土地に市立体育館を建設する計画が立案されたのは,平成22年10月の政策調整会議以降のことであり,同年3月時点において,本件各土地を取得する必要性も具体的な行政目的もなかった以上,買取りを希望する際に示す必要のある「買取りの目的」を示すことはできず,門真市として,本件各土地につき買取りを希望する旨の通知をすることは不可能であった。
公拡法4条1項に基づく届出があった場合,届出をした者は土地の譲渡の制限を受けるため(同法8条),門真市においては,原則として二,三業務日以内に迅速に回答するものとされており,十分な検討をしなかったために本件照会の翌日に本件回答がされたわけではない。また,本件各土地のように,都市建設部の所管する都市計画等の該当地に係る届出であれば,都市建設部長にその買取希望の有無を確認し,買取りを希望する旨回答するかどうかを判断することは異例ではないし,本件照会に当たっては,総合政策部長の決裁ラインのほか関係部局の合議・審査
が行われており,当時の都市建設部長の独断で大阪府知事に「買取希望無し」の回答がされたわけではない。
(イ)仮に門真市が本件各土地を買い取るとすれば,その予算を確保することが必要となるところ,その方法としては,①財政調整基金を利用する方法,②土地開発公社を利用する方法,③公共用地先行取得事業特別会計において地方債を発行する方法が考えられるが,当時の状況の下では,いずれの手段をとることも不可能であった。
かえって,本件補償は住市総事業に基づく移転補償であるから,その事業の実施には国から交付金(本件移転補償費の2分の1)が交付され,しかも,同事業の遂行に当たっては,「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(平成25年1月11日閣議決定)において特別措置として創設された「地域の元気臨時交付金(地域経済活性化・雇用創出臨時交付金)」の対象事業として5億7863万8000円の交付金も活用された。さらに,地方財政法5条5号の道路の建設事業費として地方債を財源とすることにより,一般財源からの支出は最小限に抑えられたものである。

本件移転補償費の算定に誤りはないこと(主張の骨子④に対する反論)
(ア)本件各建物については,既に店舗機能を停止していることなどから,店舗の再築を要しない「除却工法」が選択されたところ,同工法における補償額の算定は,「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」(昭和38年3月7日用地対策連絡会決定。以下「補償細則」という。乙9の4)第15第1項(六)五ロ,「近畿地区用地対策連絡協議会損失補償標準書」(乙9の5)の「建物・工作物補償の算定申し合わせ」(以下「算定標準」という。)Ⅱ4(5)イ及び同(1)①アaに従い,次の計算式によることになる。そして,本件移転補償費は,この計算式に則って算定されたものであり,適法である。

(計算式)
移転補償費=従前建物の現在価額(次の計算式のとおり)+取壊し工事費-発生材価額
従前建物の現在価額=推定再建築費×{1-(1-残存価額率)×経過年数/耐用年数}
(イ)原告らは,本件売買契約における本件各建物の代金額3億6225万円を基準として本件移転補償費を算定すべき旨をいうが,本件売買契約は移転補償の対象となるべき建物自体とその敷地の取引であって,「近傍同種の建物」の取引事例ではないし,少なくとも,およそ契約当事者間にしか知り得ない特殊個別事情を含む多種多様な要因によって形成される民間不動産取引における対価設定に係る一事例をもって「正常な取引価格」とすることは,補償基準が要請するところではない。
門真市としては,本件各建物の権利者が誰であろうと,事業計画及び損失補償基準に基づいた適正な移転補償を行う責務があるのであり,本件各建物が売却されずにGがその所有者のままであったとしても,移転補償額は今回と同じである。Aらが最高額で入札しGから本件不動産を購入したのも,その経営判断の結果にすぎない。
(ウ)原告らは,土地区画整理法上の換地処分を利用すれば,Aらに対し損失補償を行う必要はなかったと主張する。しかし,同法上,建物未撤去のまま換地処分を行うことはできないから,仮換地指定を行った上で本件各建物の移転又は除却を行うことになるが,その場合,施行者である組合が本件各建物に対し損失補償をしなければならず,補償基準に準拠して約29億円の移転補償費が必要となるのであり,国費からの補助金を活用しても門真市がその2分の1を負担する必要があるから,原告らの主張はその前提を誤るものである。なお,原告らが,本件各建物の所有権の放棄を求める手法を主張しているとすれば,そのような手法は制
度として認められていない。
(2)本件移転補償費の算定に係るFの不法行為の成否-事案の骨子(2)イの不法行為に基づく損害賠償請求
(原告らの主張)
前記(1)(原告らの主張)オ(ア)(イ)記載のとおり,本件移転補償費の算定方法は,補償基準に反するものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるものとして違法である。Fは,補償基準を恣意的に解釈して違法に本件補償を行ったものであり,少なくとも過失があることは明白であって,門真市に対して不法行為責任を負う。
(被告の主張)
前記(1)(被告の主張)オ(ア)(イ)記載のとおり,本件移転補償費は,補償基準及び本件補償細則等に基づいて適正に算定されている。したがって,本件移転補償費の算定につき,Fの門真市に対する不法行為は成立しない。(3)本件補償契約の有効性-事案の骨子(2)ウの不当利得返還請求(原告らの主張)
前記(1)(原告らの主張)オ(ア)(イ)記載のとおり,本件移転補償費の算定方法は,補償基準に反するものであり,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものとして違法である。そして,本件移転補償費の金額はあまりに高額であって,地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項の趣旨に著しく反するから,本件補償契約は公序良俗に反するものとして無効である。
(被告の主張)
前記(1)(被告の主張)オ(ア)(イ)記載のとおり,本件移転補償費は,補償基準及び本件補償細則等に基づいて適正に算定されている。したがって,本件補償契約は適法かつ有効である。
(4)請求金額の根拠等

(原告らの主張)

事案の骨子(2)ア及びイの各損害賠償請求について
門真市は,F及びAらの共同不法行為又は本件移転補償費の算定に係るFの不法行為により,本件移転補償費に相当する29億4390万7000円の損害を被った。
Fは,門真市に対し,上記金額の損害賠償金及びこれに対する本件支出の日からの遅延損害金の支払義務を負っていたところ,平成28年6月7日に死亡したことから,Fの妻であるBがその2分の1を,Fの子らであるC及びDが各4分の1を法定相続分に従い相続した。


事案の骨子(2)ウの不当利得返還請求について
本件補償契約は公序良俗に反し無効であるから,門真市は,本件移転補償費に相当する29億4390万7000円の損失を被り,Aらは,法律上の原因なくそれぞれ14億7195万3500円(本件移転補償費の2分の1)を利得した。
Aらは,本件補償契約が無効であることを知りながら,門真市から本件移転補償費の支払を受けたものであり,民法704条の悪意の受益者に該当する。

(被告の主張)
いずれも争う。
第3
1
当裁判所の判断
事実経過
前記前提となる事実に加え,証拠(各項末尾記載の各証拠のほか,乙42,43,49,50,証人K(以下「K」という。),証人L)及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実経過として以下の事実が認められる。
(1)門真市は,大阪府の東北部に位置し,高度経済成長期である昭和30年代後半から昭和40年代後半にかけて,大阪都市圏への急激な人口流入の受
け皿として大量の文化住宅,木造アパート,長屋住宅等が基盤未整備のまま無秩序に建設され,密集市街地が広範囲に形成された。
門真市は,これらの老朽化した密集市街地が形成されている同市北部地区(国道163号以北の461ha)について,昭和59年11月12日,当時の建設大臣に,木造賃貸住宅地区総合整備事業の整備計画の承認を申請し,同月21日付けで同整備計画の承認を受けた。その後,同事業は,住市総事業として継続され,門真市は,平成20年3月31日付けで,国土交通大臣から,同事業の事業計画に係る変更同意を受けた。その後,住市総事業は,交付要綱(平成22年4月1日施行)の定める事業の一つに位置付けられ,門真市北部地区は,住市総事業の密集住宅市街地整備型重点整備地区として,整備計画が実施された。
(以上につき,乙1,3,4)
(2)門真市は,平成19年3月,門真市都市ビジョンを策定し,同市内の「b町・c町・a町」地域を重点都市再生地域に位置付けた。これを受けて,平成20年3月,本件基本構想が策定され,同年4月,まちづくり協議会が設置された。なお,まちづくり協議会の事務局はAの事務所内に置かれており,その会長はA及びEの代表取締役であるM(当時の商業登記簿上の氏名はN又はO)であった。
本件各土地は,本件基本構想の「整備の基本方針」の面的整備検討ゾーンに含まれており,当該ゾーンの土地利用に関する基本方針は,「P中学校,市役所,市立体育館,体育館及び隣接地においては,地区内の道路や緑道等の歩行者動線,防災機能をもった公園等の基盤施設の整備と各施設の建替え等とを一体的に整備していくため,土地の交換分合や集約化を図りながら,各建物の段階的更新を図っていく。」などとされていた。
(以上につき,甲5,7,11,25,乙41)
(3)門真市(所管は総合政策部地域整備課)は,平成21年3月,住市総事業
及び土地区画整理事業(土地区画整理法3条2項に基づき土地区画整理組合が施行するもの)の合併施行を前提とする本件基本計画を策定した。門真市が上記各事業の合併施行としたのは,過去に同市内で同様の合併施行を行った実績があることに加え,a町地区には広範囲にわたって市有地が存在していたため,住市総事業に基づく整備事業として国から交付金の交付を受け,同整備事業に伴う各補償を実施し,その後,土地区画整理事業に基づく換地により,a町地区における民有地及び市有地等の再配置及び整備を意図したものである。
本件各土地については,本件基本計画の土地利用計画検討図において,「民間大規模建替用地」に位置付けられており,本件各土地の中央付近には,東西方向に横切る道路の設置が計画されていた。なお,本件各土地上に道路を設置する計画とされたのは,本件各建物の移転補償費につき,単に老朽建築物を除却するという名目(老朽建築物等除却)では,国からの交付金の額が減少してしまうことが意識されたものである。
市立体育館については,a町地区の土地利用計画検討図や「a町地区の施設配置イメージ」には記載されていない。また,本件基本計画の「公共施設導入の基本的な考え方」においては,市立体育館につき,想定される施設規模として,敷地面積約4500㎡,延べ床面積約2000㎡とされ,防災機能向上のため防災公園に隣接した配置が望ましいものとされ,市立体育館の配置については,①地区外の別敷地に建設,②地区内の単独敷地に建設及び③統合中学校に複合という3つの選択肢が示され,②については,「敷地確保は可能であるが,転がし計画,総事業費等との関係より可能性は低い」とされていた。
(以上につき,甲7,乙1,3,5)
(4)平成21年4月から,本件基本計画に係る事業は,総合政策部の所管から都市建設部(現まちづくり部)の所管となった。そして,都市建設部は,
同月以降,事業スキームの検討や地権者に対する意向調査を開始し,住市総事業を主事業としつつ,土地区画整理事業の合併施行により換地を行うことを前提に,予算査定用の本件事業計画の策定を行った。
本件事業計画によれば,本件各建物については,住市総事業として,平成22年度に建物調査を行い,平成23年度に「跡地公共建物補償(道路)」を行うこととされ,その事業費見積額は再築工法により45億6884万7600円とされた(なお,上記の金額は本件各建物の移転補償費のみの見積額であり,本件各土地の先行取得及びその準備に関する予算は見積もられていない。)。また,市立体育館については,門真市単独の事業として,平成23年度及び平成24年度に検討調査を行い,平成25年度に実施設計,平成26年度に建設工事を行うこととされた。なお,本件事業計画は,次年度の予算規模の見積りを算定するための資料として作成されたものであり,事業の実施・不実施を含めて総合政策部企画課との再調整を要する「調整事業」と位置付けられた。
本件事業計画に添付されている平成21年8月22日付けa町地区整備構想図整備計画案(別紙図面1)及び同月25日付けa町地区整備構想図建替計画案には,市立体育館を,従来の市立体育館の敷地付近の区画(3050.96㎡)に設置する案が記載されており,本件各土地については,民間の所有地として,北側土地付近に共同住宅,南側土地付近に商業施設の建設が想定されている。また,上記整備計画案(別紙図面1)によれば,市所有地(宅地)に建設予定の各施設の計画面積は,統合中学校用地1万6156.96㎡,市庁舎用地合計8505.47㎡,市立体育館用地3050.96㎡,シルバー人材センター用地512.28㎡とされており,他に,民間活用地(共同住宅)が1万0618.90㎡とされている。本件事業計画によれば,住市総事業で交付金の対象となる先行買収面積の限度は6458.74㎡(門真市の持出し用地9000㎡を除く。)とな
るところ,公共用地の先行取得の計画(a町地区事業年次計画の項目「公共用地取得(先行取得)」欄及び平成21年8月20日付けa町地区用地取得計画図参照)として,平成22年度に592.01㎡,平成23年度に474.64㎡及び110.00㎡(地区外権利者),平成24年度に334.48㎡及び32.67㎡(同上)とされており,1万3028.94㎡の本件各土地については,先行取得の計画の対象とはされていない。(以上につき,甲8,乙11の1,20,30,38)
(5)Gは,平成21年9月30日の取締役会において,Hの閉店を決定し,同年11月8日から,本件不動産の入札参加意向者に対する照会を開始した。上記取締役会の議案書には,「当該店舗所在地域における門真市が計画している区画整理事業との連携により,閉鎖損金圧縮の可能性を検討してまいりましたが,当該事業が確立していないこともあり,その可能性も少ないとの結論に至ったため,以下の試算により提案致します。」,「また,営業終了後の不動産…については,この区画整理事業の進捗及び不動産市況を踏まえ,今後検討してまいります」などと記載されている。
Gは,その頃,不動産鑑定業者に対し,同年10月1日時点における本件不動産の評価額の鑑定を依頼し,同年12月9日付け不動産鑑定評価書が作成されたところ,同評価書における本件不動産の鑑定評価額は14億円(本件各建物の解体費控除後の評価額。消費税を除く。)であった。なお,上記評価額の算定過程において,本件各土地の更地としての価格は21億円,本件各建物の解体工事費は3億2700万円(アスベスト除去費用及び消費税を除く。)と査定されている。
(以上につき,甲16,21,乙38)
(6)Gは,平成22年1月22日,本件不動産の購入希望者による入札を実施したところ,11件の照会先から4件の応札があり,そのうちAらによる入札額15億円(消費税別)が最高額であった。Aらが入札の際に提出し
た不動産購入申込書には,購入目的として,「門真市a町・b町まちづくりに関連する①道路,公園,広場等公共施設

②分譲および賃貸住宅等



医療,福祉,教養等の施設」と記載されているが,Aらが本件不動産の購入を希望した事情は,上記の購入目的のほか,本件各土地に他の大型総合スーパーが出店すると,GJ駅店(Eが店舗建物の所有者かつ賃貸人)の売上等に影響が出ることに危機感を有していた点にもある。
なお,実際に入札した他の3社のうち,2社の購入目的は「マンション建設」(Gの取締役会議事録に記載されている入札額は,多い順に12億4800万円,10億8300万円),うち1社の購入目的は「学校建設」(入札額は,売主において本件各建物を撤去し更地として引き渡す条件で10億円,上記議事録に記載されている入札額は6億7200万円)であった。
Aらは,Gから同年2月8日付け売渡承諾書が送付されたのを受けて,同年3月初旬頃から,門真市及びURとの協議を開始した。
(以上につき,甲16,19,22,24)
(7)Gは,本件不動産をAらに売却する予定があるとして,平成22年3月2日,大阪府知事に対し,公拡法4条1項6号に基づく土地有償譲渡届出書を提出した。これを受けて,大阪府知事は,同日,門真市に対し,本件各土地の買取希望の有無について照会した。
総合政策部財務課管財グループ主任は,「当該届出に係る物件については,本市が計画を進めている『a町地区住宅市街地総合整備事業』の計画区域内にあるため,通常行っている各部長への買取希望有無の確認を省略し,当該事業を所管している都市建設部長に買取希望の有無を確認した上,門真市として買取り希望無き旨の回答をいたしたくお伺いします。」などと記載された決裁文書を起案し,総合政策部財務課の決裁(主任,課長補佐,課長・次長,部長)並びに都市建設部長,総合政策部企画課長,同部地域
整備課長,総合政策部次長(企画担当)の合議・審査を経て,上記決裁文書のとおり,都市建設部長に買取希望の有無を確認したところ,同部長であるQ(以下「Q」という。)は,買取希望の有無の「無」の欄に押印した。
そして,門真市は,同月3日,大阪府知事に対し,本件各土地につき買取希望がない旨の本件回答をした。なお,本件回答は,当時門真市長であったF名義で行われているが,門真市内部の意思決定は上記決裁(門真市事務処理規程〔平成18年9月15日門真市庁達第10号〕7条,別表2第6項により部長による専決)及び合議等により行われており,Fが直接その意思決定に関与した形跡は見当たらない。
(以上につき,甲3,9,乙42,53)
(8)門真市は,URの要請を受けて(なお,URが事業に参画するためには,独立行政法人都市再生機構の都市再生事業実施に係る基準細則1条1項3号により,地方公共団体からURに対する要請等の書面が必要となる。),URに対し,平成22年3月23日付けの「門真市b町・c町・a町まちづくりについて(要請)」と題する文書を交付した。同文書には,「基本計画の実現に向けた土地取得を含む総合的なご支援ご協力をいただきますようお願い申し上げます。」などと記載されている。
門真市,まちづくり協議会及びURは,同月26日付けで,「門真市b町・c町・a町におけるまちづくりの推進に関する覚書」を作成し,これに合意した。また,まちづくり協議会は,URに対し,同日付けの「門真市b町・c町・a町地区まちづくりにおける土地取得へのご協力について」と題する書面を交付した(上記細則1条1項4号参照)。同文書には,「跡地取得を行う両社が,単独で保有し続けるには規模的な面からも民間企業として限界があることから,…貴機構による当該地の一部を取得いただくと共に周辺まちづくりに参画いただく等ご協力いただきたい」などと記載さ
れている。
UR西日本支社都市再生業務部は,同日付けで,本件各土地のうち南側の約7000㎡の土地(南側土地)に係る「個別プロジェクト地区選定及び個別プロジェクト基本方針【門真市a町地区】」を作成した。
(以上につき,甲12,13,17,乙52,証人Q)。
(9)Gは,平成22年3月24日の取締役会において,本件不動産をAらに売却する旨決定し,同月26日,Aらとの間で,本件不動産を15億1725万円(内訳:本件各土地11億5500万円,本件各建物3億4500万円,消費税及び地方消費税1725万円)で売却する旨の本件売買契約を締結した。なお,Gは,本件売買契約に当たり,本件各建物の価格を0円又は備忘価格にとどめることも検討したが,このような価格にすると税務調査があったときに説明に耐えられない可能性があるとの指摘があったため,固定資産評価額(なお,本件各土地の平成21年度の固定資産評価額は合計13億4067万4076円,本件各建物の固定資産評価額は合計7億4938万3394円である。)や取壊費用を考慮して,本件各建物の価格を上記のとおり設定した。
Gは,平成22年3月31日,ディスカウントストア「H」(GI店)の営業を終了した。なお,本件各建物は,平成25年11月1日頃に取り壊された。
(以上につき,甲4,15,16,24,乙2,46)
(10)Aらは,平成22年3月31日,URとの間で,南側土地を売却する旨の契約を締結し,同年4月1日付けで,大阪府知事に対し,国土利用計画法に基づく土地売買等届出書を提出した。
本件各土地(門真市a町d番e,同d番f及び同g番h)は,同年6月22日,同日付け売買を原因として,Aらを共有者(持分各2分の1)とする所有権移転登記がされ,同年7月6日,同d番eに合筆され,同日,北
側の同d番eと南側の同d番iに分筆された。そして,同d番i(南側土地)については,同日付け売買を原因として,URを所有者とする共有者全員持分全部移転登記がされた。また,同d番eについては,同年12月4日,同d番eと同d番jに分筆された。
(以上につき,甲2,4,14,15)
(11)平成22年4月の人事異動により総合政策部長となったKは,門真市のまちづくりに係る検討課題を整理するため,同月13日付けで,「b町・c町・a町のまちづくりに係る公共施設設置の方向性について」と題する一覧表を作成した。同一覧表には,市立体育館につき,「a町に建設の方向。防災公園との機能連携を考慮する必要がある。敷地を効率的に使う場合,または,管理運営を効率化する場合,他の施設との併設,例えば,図書館等も検討できるのではないか。また,現在の規模での建設でよいのかどうか。アリーナや防災設備関係の整備も含めると建設費は,増大していくが。」と記載されている。(甲6の1)
(12)都市建設部が作成した平成22年9月15日付けb町・c町・a町地区施設計画図(案)(別紙図面2)には,市立体育館を従来の敷地の南側付近の場所(3032.14㎡)に設置する案が記載されている。また,同計画図(案)において,本件各土地に相当する場所は,計画宅地,都市計画道路,駐車場兼防災用空地等に区分けされている。(乙11の2)(13)門真市は,平成22年10月1日,関連部局の部長等による第1回門真市政策調整会議(司会・K総合政策部長)を開催したところ,同会議において,他の施設に優先して,a町地区に市立体育館を建設する方向性が示された。これを受けて,都市建設部は,北側土地上に市立体育館を建設する案の検討を進め,総合政策部との協議用の図面として,同月12日付けで,北側土地上に市立体育館を配置したb町・c町・a町地区施設計画図(案2-1)(別紙図面3),同(案2-2),同(案3-1)及び同(案3-
2)を作成した。
門真市は,同年11月1日,第2回門真市政策調整会議を開催した。同会議の事務局(総合政策部企画課企画グループ)が作成した同日付け「公共施設整備実施計画素案」には,市立体育館につき,「a町H跡地に建設

地面積:約3909㎡+駐車場1644㎡」などと記載されており,同会議においては,「体育館はa町の中で24年度から27年度のオープンの見込み…備考に書いているようにH跡地が有力で,敷地3900㎡と駐車場1600㎡を確保,現状より1.5倍を想定している。」などといった説明がされている。
(以上につき,甲6,26,乙11の3,証人Q)
(14)門真市は,平成23年7月,門真市財政健全化計画・中期財政見通しを策定し,同年8月にこれを公表した。その資料として作成された「門真市b町・c町・a町地区

公共公益施設構想図」(別紙図面4)には,平成28

年度見込みとして,南側土地上の約5000㎡の区画に市立体育館を建設する構想が記載されており,門真市において,南側土地上に市立体育館を建設する方針が確定した。(乙28)
(15)門真市は,平成24年11月5日及び平成25年3月27日,Aらとの間で,本件移転補償費を合計29億4390万7000円(本件各建物の現在価値23億9000万円,除却費用5億5000万円)とする本件補償契約を締結し,Aらに対し,同年4月10日に14億9731万1300円,同年12月20日に14億4659万5700円をそれぞれ支払った(本件支出)。本件支出により,Aらはそれぞれ14億7195万3500円を受領した。
本件移転補償費については,店舗の再築を要しない「除却工法」によるものとして,補償基準28条1項前段,補償細則第15第1項(六)五ロ,算定標準Ⅱ4(5)イ及び同(1)①アaにより,次の計算式に則って算定され
た。
(計算式)
移転補償費=従前建物の現在価額(次の計算式のとおり)+取壊し工事費-発生材価額
従前建物の現在価額=推定再建築費×{1-(1-残存価額率)×経過年数/耐用年数}
(以上につき,乙9,35)
(16)本件補償は,住市総事業に基づく居住環境形成施設整備事業としての地区公共施設等整備事業(道路整備事業)の実施を根拠に,同整備事業の支障となる本件各建物に対する移転補償として行われたものであり,門真市に対しては,交付要綱に基づき,国から本件移転補償費の2分の1に相当する14億7195万2000円の交付金が交付された。
また,門真市は,本件移転補償費につき,上記交付金のほかに,「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(平成25年1月11日閣議決定)において創設された「地域の元気臨時交付金(地域経済活性化・雇用創出臨時交付金)」の対象事業として,国から5億7863万8000円の交付金の交付を受け,さらに,地方財政法5条5号の道路の建設事業費として8億9320万円の地方債を起債し,その余の11万7000円を一般財源から支出した。
(以上につき,甲2,乙4,19)
(17)門真市は,平成25年3月6日付けで,URに対し,「a町地区における防災拠点整備に伴う土地の移動について(協力依頼)」と題する書面により,市立体育館を南側土地に建設する予定であるとして,土地区画整理事業において,南側土地と北側土地との換地(北側土地への移動)への協力を依頼した。URは,同月14日付けで,門真市に対し,上記要請に協力する旨を回答するとともに,土壌汚染等に関する協議を要請し,門真市
とURは,同月29日付けで,門真市a町地区における土地の移動に関する確認書を締結した。
門真市a町土地区画整理組合は,平成26年2月13日に設立を認可され,同年4月25日付けで地権者に対する仮換地指定をした。その結果,南側土地は市立体育館の建設用地とされ,URが所有する南側土地はほぼ北側土地に相当する画地に仮換地され,Aらが所有する北側土地はa町地区の別の画地(南側土地の南側に隣接する画地)に仮換地された。上記仮換地指定後の所有者別の配置は,「a町地区従前従後土地所有者別分布図」(別紙図面5)の右側の図のとおりである。
(以上につき,甲12,乙7,15,39,40)
2
争点(1)(F及びAらの共同不法行為の成否-事案の骨子(2)アの共同不法行為に基づく損害賠償請求)について
(1)門真市に平成22年3月3日(本件回答)時点で本件各土地を購入する必要性があったか否か(主張の骨子①)

原告らは,要旨,門真市においては,本件回答がされた平成22年3月3日より前から,本件各土地に市立体育館を建設することが計画又は想定されており,少なくとも,a町地区において市立体育館等の公共施設の建設用地が不足することは明らかであったから,門真市としては,同日時点で,本件各土地を購入する必要性があったと主張する。


しかし,本件の事実経過によれば,門真市において,本件回答がされた平成22年3月3日より前から,本件各土地に市立体育館を建設することが計画又は想定されていたとは認められない。
すなわち,本件の事実経過を順にみていくと,平成20年3月の本件基本構想においては,まちづくりのイメージが示されているにすぎず,市立体育館を含む公共施設の配置については何も決まっておらず(事実経過(2)),平成21年3月の本件基本計画においては,a町地区の土
地利用計画検討図等に市立体育館は記載されておらず,a町地区内に市立体育館を建設する選択肢についても,敷地の確保は可能であるが採用の可能性は低いとされており,市立体育館をa町地区に設置するかどうかすら方針が定まっていない(事実経過(3))。同年8月に都市建設部が作成した本件事業計画添付のa町地区整備構想図整備計画案(別紙図面1)及び同建替計画案においても,市立体育館については,従来の敷地付近の区画に設置する案が記載されており,本件各土地については,民間の所有地として,共同住宅や商業施設の建設が想定されている(事実経過(4))。さらに,平成22年4月にKが作成した一覧表には,市立体育館につき「a町に建設の方向」とされているものの,施設の規模等を含め具体的な計画の内容は定まっておらず(事実経過(11)),同年9月に都市建設部が作成したb町・c町・a町地区施設計画図(案)(別紙図面2)においても,市立体育館については,従来の敷地付近に設置する案が記載されており,本件各土地については,計画宅地等とする案が記載されている(事実経過(12))。このように,平成22年9月頃に至るまで,門真市において,本件各土地(北側土地又は南側土地)に市立体育館を建設する案が具体的に検討された形跡は見当たらない。かえって,本件の事実経過によれば,都市建設部は,平成22年10月1日の第1回門真市政策調整会議の議論を踏まえ,北側土地上に市立体育館を配置した施設計画図(別紙図面3)を作成し,同年11月1日の第2回門真市政策調整会議において,本件各土地に市立体育館を建設する方針が具体化し(事実経過(13)),平成23年7月に策定された門真市財政健全化計画・中期財政見通しの添付資料(公共公益施設構想図・別紙図面4)において,南側土地上の約5000㎡の区画に市立体育館を建設する構想が記載されている(事実経過(14))ことからすると,門真市において,本件各土地に市立体育館を建設することが計画又は想
定されたといえるのは,平成22年11月1日の第2回門真市政策調整会議又はそれ以降というべきである。

また,本件の事実経過によれば,平成22年3月3日当時,a町地区において,市立体育館等の公共施設の建設用地が不足していたとは認められない。
すなわち,本件の事実経過をみると,平成21年3月の本件基本計画においては,市立体育館の想定される施設規模として,敷地面積約4500㎡とされていたところ,a町地区内に市立体育館を建設する選択肢については,「敷地の確保は可能である」とされている(事実経過(3))。また,都市建設部が作成した本件事業計画においては,本件各建物の移転補償費として約45億7000万円(再築工法により算定)が事業費として見積もられているものの,本件各土地の先行取得の計画はなく,その先行取得やその準備のための予算も見積もられていない。また,a町地区整備構想図整備計画案(別紙図面1)によれば,市所有地(宅地)のうち約1万㎡もの土地が民間活用地(共同住宅)とされており,仮に市立体育館の敷地の規模を拡大しても市所有地が不足するとは考え難い上,上記事業計画によれば,住市総事業で交付金の対象となる先行買収面積の限度は6458.74㎡となるところ,1万3000㎡を超える本件各土地はこの先行買収面積の限度を超えている(事実経過(4))。さらに,門真市は,平成26年4月,a町地区従前従後土地所有者別分布図(別紙図面5)のとおり,市立体育館の敷地(南側土地)につき仮換地指定を受けており,本件基本計画において計画されていた先行取得予定の土地を除き,市所有地を増やすことなく市立体育館の敷地を確保している(事実経過(17))。このように,a町地区においては,本件基本計画から上記の仮換地指定に至るまで,市立体育館等の公共施設の建設用地は十分に確保されていたというべきであり,これが
不足していたとは認められない。

以上のとおり,門真市において,本件回答がされた平成22年3月3日より前から,本件各土地に市立体育館を建設することが計画又は想定されていたとは認められないし,a町地区において,市立体育館等の公共施設の建設用地が不足していたとも認められないから,原告らの上記主張(主張の骨子①)は採用することができない。
(2)門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望していれば15億円を下回る価格で本件不動産を購入し得たか否か(主張の骨子②)ア
本件各土地の買取価格について
(ア)門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望した場合には,本件各土地は地価公示法2条1項の公示区域(都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域)内に所在する土地であるから(弁論の全趣旨),その買収価格は,公拡法7条により,地価公示法6条の規定による公示価格を規準として算定した価格,すなわち,当該土地と同法2条1項の標準地との位置,地積,環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因について比較して,標準地の公示価格と当該土地の買収価格との間に均衡を保たせるように算定した価格としなければならない(最高裁判所平成17年10月11日第三小法廷判決・裁判集民事218号1頁参照)。
ところで,Gは,不動産鑑定業者に対し,平成21年10月1日時点における本件不動産の評価額の鑑定を依頼しているところ,その不動産鑑定評価書において,本件各土地の更地価格は21億円と査定されている(事実経過(5))。また,一般に,宅地の固定資産評価額は,標準宅地の公示価格及び不動産鑑定士等による鑑定評価から求められた価格の7割程度の価格を規準として算定するものとされており(固定資産評価基準〔昭和38年12月25日自治省告示第158号〕第
1章第12節一参照),宅地の固定資産評価額を0.7で割った価格は,公示価格を規準として算定した価格に近いものといえるところ,本件各土地の平成21年度の固定資産評価額は13億4067万4076円であるから(事実経過(9)),これを0.7で割った価格は19億1524万8680円となる。
また,本件各土地はR駅やS駅の徒歩圏内にあり,その1平米当たりの価格は,平成21年度の門真市の公示価格の標準地25か所のうち最も低い価格12万3000円/㎡を下回ることは考えにくいところ,これに本件各土地の面積1万3028.94㎡を乗ずると,16億0255万9620円となる。
以上のとおり,門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望した場合には,Gとの間で協議が成立したとしても,本件各土地の買取価格は20億円前後であると見込まれ,少なくとも16億円を超えるものと考えられる。
(イ)この点につき,原告らは,門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望していれば,本件各土地の更地価格(上記(ア))から本件各建物の解体費用(約5億8000万円)を控除した金額で買収することができる旨主張する。
しかし,門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望し,本件各土地を買い取ることとなった場合には,その買取価格については,補償基準要綱及びその実施規程である補償基準の定めによることが求められる(補償基準要綱1条,補償基準1条,交付要綱附属第Ⅱ編第1章16-(8)16参照)。しかるところ,補償基準8条2項は,取得する土地に対して正常な取引価格をもって補償する場合(同条1項の場合)において,当該土地に建物その他の物件があるときは,当該物件がないものとしての当該土地の正常な取引価格によるものとす
る旨規定しているのであるから,本件各土地についても,上記の場合における買取価格は本件各建物がないものとしての本件各土地の正常な取引価格(更地価格)となるのであって,本件各建物の解体費用を控除することは補償基準に反するものというべきである。原告らの上記主張は,補償基準に反する取扱いを求めるものであって,採用することができない。

本件各建物の移転補償費について
(ア)前述のとおり,門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望し,本件各土地を買い取ることとなった場合には,本件各建物の買取価格又は移転補償費についても,補償基準要綱及びその実施規程である補償基準の定めによることが求められる。しかるところ,補償基準28条1項前段は,土地の取得又は使用に係る土地に,建物で取得せず又は使用しないものがあるときは,当該建物を通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする旨規定しているのであるから,門真市は,本件各土地を取得するに当たり,取得し又は使用する必要のない本件各建物について,「通常妥当と認められる移転先に,通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用」(移転補償費)を補償する必要があるというべきである。そして,本件各建物の除却工法による移転補償費は,本件補償の際に用いられた損失補償金算定調書(乙35)によれば,合計29億4390万7000円であると認められる。
(イ)この点につき,原告らは,門真市が本件各土地を買い取る場合には,Gとの協議により,本件売買契約における代金額(3億6225万円)程度で本件各建物を取得することもできると主張するようである。しかし,前述のとおり,本件各建物の補償についても,補償基準要
綱及び補償基準の定めによることが求められるというべきであって,民間における通常の不動産取引と同様の価格交渉が可能であるとする原告らの主張は採用することができない(なお,本件各建物につき,補償基準30条の適用がないことについては後述する。)。

小括
以上によれば,門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望した場合には,Gとの協議が成立したとしても,本件各土地の買取価格及び本件各建物の移転補償費の合計は,約49億円であると見込まれ,少なく見積もっても45億円を超えるものと認められる。
したがって,門真市が買取りを希望すれば15億円を下回る価格で本件不動産を購入し得たとはいえず,むしろ,本件移転補償費よりも多額の支出を要したものというべきであるから,原告らの主張(主張の骨子②)は採用することができない。

(3)「買取希望無し」とした本件回答は不合理であるか否か(主張の骨子③)

原告らは,F及び門真市の職員らは,本件各土地を取得する必要性を認識していたにもかかわらず,通常行っている各部長への買取希望の有無の確認を省略し,都市建設部長のみにその確認をするにとどめ,本件照会からわずか1日で「買取希望無し」と判断して回答したものであり,本件回答に合理性がないことは明らかであるなどと主張する。


しかし,門真市には平成22年3月3日(本件回答)時点で本件各土地を購入する必要性はなかったというべきであるから(上記(1)),原告らの上記主張は,その前提を誤るものといわざるを得ない。また,門真市が本件各土地につき「買取希望有り」と回答するためには,具体的な買取りの目的(公拡法6条1項)を示す必要があるところ(甲3の3,乙14,33の3,34の3),上記のとおり,門真市には,当時,本
件各土地を買い取る必要性はなかったのであり,これを買い取って使用する行政上の目的もなかったといえるから,門真市として,本件照会に対し,買取りの目的を示して「買取希望有り」と回答することはできなかったといえる。
なお,門真市が本件照会に対し「買取希望有り」の回答をするためには,そのための予算措置が必要であるところ(乙33の3,34の3),門真市の財政状況は非常に厳しく,平成20年度の財政調整基金残高はわずか14億6300万円であったこと(乙28),当時,門真市土地開発公社は,解散に向けて累積赤字を減らす業務のみを行っており(平成25年1月25日解散),新たに土地を取得する業務は行っていなかったこと(乙28,36,49,証人K),公共用地先行取得事業特別会計において地方債を発行するための手続を3週間の回答期限(公拡法6条2項)内に間に合わせることは事実上不可能であったこと(乙37,49)などの事情が認められ,たとい原告らが主張する金額を前提としても,門真市が本件照会に対し「買取希望有り」と回答することは,門真市の予算面からみて困難であったと認められる。

原告らは,門真市において,議会に諮ることもなく,各部長への買取希望の有無の確認を省略し,都市建設部長のみにその確認をするにとどめ,わずか1日で本件回答をしたのは異例の措置であると主張する。しかし,門真市において,公拡法上の届出等につき買取希望の有無の通知を行うまでの期間が数日程度のものは少なくなく,当日中に通知しているものもあること(乙16,49,証人K),公拡法に基づく届出に係る決裁は部長の専決事項とされており(門真市事務処理規程7条,別表2第6項),これを議会に諮る運用はされていないこと(乙53,弁論の全趣旨),本件の他にも,門真市において,公拡法上の届出等につき,事業を所管する都市建設部長にのみ買取希望の有無を確認する例
は複数存在すること(乙29,33)が認められ,前述のとおり,当時,門真市において本件各土地を購入する必要性はなかったことにも鑑みると,本件照会から本件回答に至るまでの手続等が異例のものであったとは認められない。

以上のとおり,本件各土地につき「買取希望無し」とした本件回答は,内容的にも手続的にも不合理であるとは認められず,原告らの主張(主張の骨子③)は採用することができない。

(4)本件移転補償費の算定に誤りがあるか否か(主張の骨子④)ア
本件移転補償費については,店舗の再築を要しない「除却工法」によるものとして,補償基準28条1項前段,補償細則第15第1項(六)五ロ並びに算定標準Ⅱ4(5)イ及び同(1)①アaにより,従前建物の現在価額(推定再建築費及び耐用年数等を基に算定)に取壊し工事費を加え,発生材価額を控除して算定されたことが認められ(事実経過(15)),その計算過程において誤りがあるとは認められない(乙35,弁論の全趣旨)。


この点につき,原告らは,本件売買契約は本件各建物の直近の取引事例であって,その価格は「正常な取引価格」というべきであるから,本件各建物に対する補償費は,補償基準30条(要旨,建物の移転補償費が当該建物の取得価格を超えるときは,当該建物を取得することができる旨の規定)により,本件売買契約における本件各建物の代金3億6225万円を基準として算定されるべきであるとか,本件各建物を上記金額をもって買い取るべきであったなどと主張する。
そこで検討するに,補償基準15条は,取得する建物に対する補償については,土地の取得に係る補償の例による旨規定し,同基準8条1項は,取得する土地に対しては,正常な取引価格をもって補償するものとする旨規定し,同基準9条1項は,上記の正常な取引価格は,近傍類地
の取引価格を基準とし,これらの土地及び取得する土地について,同項各号に掲げる土地価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するものとする旨規定する。他方,同基準16条は,近傍同種の建物の取引の事例がない場合においては,同基準15条の規定にかかわらず,取得する建物に対しては,当該建物の推定再建設費を,取得時までの経過年数及び維持保存の状況に応じて減価した額をもって補償するものとする旨規定する。
これらの規定によれば,建物の「正常な取引価格」は,「近傍同種の建物」の取引事例がある場合には,近傍同種の建物の取引価格を基準とし,近傍同種の建物と取得する建物との間で,価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定すべきものとされているものといえ,補償基準において,取得する建物それ自体の過去の取引価格をもって,当該建物の「正常な取引価格」とするものとはされていない。また,「近傍同種の建物」との文言や上記の比較考量による算定方法等に照らせば,「近傍同種の建物」には,取得する建物それ自体を含まないことは明らかである。
そうすると,本件売買契約における本件各建物の価格は,本件各建物の「正常な取引価格」でも,「近傍同種の建物」の取引価格でもないというべきである(なお付言するに,本件売買契約においては,本件各建物の価格を0円又は備忘価格にとどめることも検討されたが,このような価格にすると税務調査があったときに説明に耐えられない可能性があるとの指摘があったため,固定資産評価額等を考慮して3億6225万円とされたというのであり(事実経過(9)),このような特殊な事情に基づき決定された価格を「正常な取引価格」と評価し得ないことは,この点からも明らかである。)。
したがって,本件各建物を取得することとした場合の取得価格につい
ては,「近傍同種の建物」の取引事例がない場合に係る補償基準16条により,本件各建物の推定再建設費を基に算定することになるところ,その算定結果が本件移転補償費の金額を下回るとは認められないから,本件各建物につき補償基準30条の適用はないというべきであり,門真市が同基準28条1項前段により移転補償を行ったことに誤りがあるとは認められない。原告らの主張(主張の骨子④)は採用することができない。

なお,原告らは,最終準備書面において,本件各土地につき,本件各建物が存在する状態のままで換地処分を行い,本件各建物の除却工事を行えば,門真市は原告らに対し損失補償を行う必要はなかったと主張する。
しかし,換地処分は,原則として,換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完了した後に行われるものであり(土地区画整理法103条2項本文),除却すべき建物があれば,仮換地を指定した上で当該建物を除却し,移転補償を行うことになるのであって(同法98条1項,77条1項,78条1項),換地処分により建物の所有権の放棄を強制することはできない。原告らの上記主張は,その前提を誤るものといわざるを得ず,採用することができない。
また,原告らは,Aらが自ら本件各建物を除却すれば,門真市は損失補償を行う必要はなく,解体費用も負担する必要がないと主張するが,Aらが自らの負担で本件各建物を除却する予定であったことはうかがわれないし,門真市において,Aらが自らこれを除却するまで事業の遂行を停止すべきであったともいえない。原告らの主張は採用することができない。

(5)小括
以上のとおり,①門真市に平成22年3月3日(本件回答)時点で本件
各土地を購入する必要性があったとは認められず,②門真市が本件照会の際に本件各土地の買取りを希望していれば15億円を下回る価格で本件不動産を購入し得たとは認められず,かえって,本件移転補償費の金額を超える負担が必要であったと認められ,③「買取希望無し」とした本件回答は内容的にも手続的にも不合理であるとは認められないから,本件回答が違法であるとは認められない。また,④本件移転補償費の算定に誤りがあるとは認められないから,本件補償が違法であるとも認められない。また,原告らは,本件回答及び本件補償は,Fやその意向を受けた門真市の職員らとAらとが共謀の上,門真市の損失の下でAらに不当な利益を得させるために行われたものであると主張するが,これらの者が上記のような意図をもって共謀したことをうかがわせる証拠は見当たらない(なお,都市計画部長であったQは,門真市を退職した後にAに再就職しているが,そのことをもって直ちに,Qが門真市に在職中にAらと癒着していたとか,背任の意図をもって共謀していたと推認することはできない。)。よって,F及びAらによる共同不法行為があったとは認められないから,これに基づく損害賠償請求(事案の骨子(2)ア)はいずれも理由がない。3
争点(2)(本件移転補償費の算定に係るFの不法行為の成否-事案の骨子(2)イの不法行為に基づく損害賠償請求)について
上記2(4)記載のとおり,本件移転補償費の算定に誤りがあるとは認められないから,本件移転補償費の算定に係るFの不法行為が成立する余地はなく,これに基づく損害賠償請求(事案の骨子(2)イ)はいずれも理由がない。
4
争点(3)(本件補償契約の有効性-事案の骨子(2)ウの不当利得返還請求)について
原告らは,本件移転補償費の算定は補償基準に反しており,その金額はあまりに高額であって,地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項の趣旨に著しく反するから,本件補償契約は公序良俗に反するものとして無効である
と主張するが,上記2(4)記載のとおり,本件移転補償費の算定に誤りがあるとは認められないから,本件補償契約が公序良俗に反し無効であるとも認められない。
したがって,本件補償は法律上の原因を欠くものではなく,Aらに対する不当利得返還請求(事案の骨子(2)ウ)は,いずれも理由がない。第4

結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

山田明
裁判官

徳地淳
裁判官

湯川舞子
(別紙1)
当事者目録
(省略)

(別紙2)
建物目録

1(一棟の建物の表示)
所在
門真市a町d番地f,d番地e,g番地h

構造
鉄筋コンクリート造陸屋根5階建

床面積

1階

6992.29㎡

2階

6740.99㎡

3階

3919.14㎡

4階

3771.22㎡

5階

73.52㎡

(専有部分の建物の表示)
家屋番号

a町d番k

建物の名称

B種類
店舗

構造
鉄筋コンクリート造陸屋根5階建

床面積

1階部分

4172.66㎡

2階部分

6688.47㎡

3階部分

3866.09㎡

4階部分

3744.93㎡

5階部分

71.35㎡

(附属建物の表示)
符号1種類
守衛室

構造
a町d番地f木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積

4.00㎡

所有者

持分2分の1

A株式会社

持分2分の1

株式会社E

2(一棟の建物の表示)
所在
門真市a町d番地f,d番地e,g番地h

構造
鉄筋コンクリート造陸屋根5階建

床面積

1階

6992.29㎡

2階

6740.99㎡

3階

3919.14㎡

4階

3771.22㎡

5階

73.52㎡

(専有部分の建物の表示)
家屋番号

a町d番l

種類
店舗

構造
鉄筋コンクリート造1階建

床面積

1階部分

2714.35㎡

所有者

持分2分の1

A株式会社

持分2分の1

株式会社E

(別紙3)
土地目録

1所在
門真市a町

地番
d番e

地目
宅地

地積
2979.45㎡

所有者

A株式会社

持分2分の1

2
持分2分の1

株式会社E

所在
門真市a町

地番
d番i

地目
宅地

地積
7070.04㎡

所有者

3
独立行政法人都市再生機構

所在
門真市a町

地番
d番j

地目
宅地

地積
2979.45㎡

所有者

持分2分の1
持分2分の1

A株式会社
株式会社E

別紙図面1~5(省略)

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