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猶予費用の取立決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
事件番号平成28(許)40
事件名猶予費用の取立決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日平成29年9月5日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別決定
結果その他
原審裁判所名名古屋高等裁判所
原審事件番号平成28(ラ)96
原審裁判年月日平成28年6月3日
判示事項民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額につき受救助者に猶予した費用に相手方当事者の訴訟費用の負担割合を乗じた額と定めるべきものとした原審の判断に違法があるとされた事例
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平成28年(許)第40号
猶予費用の取立決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成29年9月5日

第三小法廷決定

主文
原決定を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
抗告代理人高橋俊光の抗告理由について
1
本件は,訴訟上の救助の決定を受けた者(以下「受救助者」とい

う。)との訴訟において受救助者に生じた訴訟費用の一部を負担することとされた相手方当事者(以下,単に「相手方」という。)である抗告人らが,裁判所から民訴法85条前段の費用の取立てとして受救助者に猶予した費用(以下「猶予費用」という。)の一部を国庫に支払うことを求められている事案である。
2
(1)

記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
Aは,平成23年2月,Bを被告として訴えを提起し,訴え提起の手
数料として8万6000円を納付した。一方,Bは,同月,A外1名を被告として訴えを提起し,訴え提起の手数料11万9000円について訴訟上の救助の決定を受けた。上記訴えは,Aの提起した訴えと併合審理された(以下,併合後の訴訟を「本件訴訟」という。)。
(2)

Aは,本件訴訟の第1審係属中に死亡し,抗告人ら及びCがその地位
を承継した。
(3)

Bは,本件訴訟の第1審判決に対し控訴を提起し,平成27年4月,
控訴提起の手数料17万8500円について訴訟上の救助の決定を受けた。(4)

平成27年10月に言い渡された本件訴訟の控訴審判決(確定)は,本件訴訟の訴訟費用につき,第1,2審を通じ,Bに生じた費用の5分の3と抗告人ら及びCに生じた費用との合計を2分し,その1を抗告人ら及びCの連帯負担とし,その余及びBに生じたその余の費用をBの負担とした。(5)

原々審は,平成28年2月,抗告人ら及びCに対し,Bの猶予費用合
計29万7500円のうち8万9250円及び原々決定正本の送達費用2144円を連帯して,国庫に支払うことを命ずる旨の決定(原々決定)をした。抗告人らは,これに対し,抗告人らに対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額(以下「本件取立額」という。)はBの抗告人らに対する訴訟費用請求権の額の範囲に限られ,Bの負担すべき費用との差引計算をしてその額の審理をすべきであるにもかかわらず,これをしていない点が違法である旨を主張して,即時抗告をした。
3
原審は,訴訟費用の負担の額を定める処分(以下「訴訟費用額確定処
分」という。)を求める申立てがされる前においては,本件取立額につき,Bの負担すべき費用との差引計算を考慮する必要はないとして,Bの猶予費用29万7500円の5分の3に2分の1を乗じた額である8万9250円とすべきものとした。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由
は次のとおりである。
(1)

民訴法85条前段の規定は,本来,受救助者が,訴訟費用請求権の行使
として相手方からその負担すべき費用を取り立てて,猶予費用を国庫に支払うべきであるところ,受救助者において,上記の取立て等をすることを必ずしも期待できないため,国が猶予費用を相手方から直接取り立てることができるようにしたものである。そして,同条前段の費用の取立てについては,第1審裁判所の決定により,強制執行をすることができるとされており(民事訴訟費用等に関する法律16条2項,15条1項),同裁判所が民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を定めることになる。一方,訴訟費用請求権の額,すなわち,訴訟費用の負担の額は,その負担の裁判が執行力を生じた後に,申立てにより,第1審裁判所の裁判所書記官が定めることとされ(民訴法71条1項),上記申立てにより,訴訟費用額確定処分を求めるときは,その申立人は,費用計算書等を裁判所書記官に提出しなければならず(民訴規則24条2項),裁判所書記官は,訴訟費用額確定処分をする前に,上記申立ての相手方に対し,費用計算書等を一定の期間内に提出すべき旨を催告しなければならないものとされている(同規則25条1項本文)。そして,訴訟費用額確定処分をする場合において,当事者双方が訴訟費用を負担するときは,各当事者の負担すべき費用は,その対当額について相殺があったものとみなすものとされているが,上記相手方が上記期間内に上記費用計算書等を提出しない場合には,そのような取扱いをしないものとされている(民訴法71条2項,民訴規則27条)。このように,各当事者の負担すべき費用につき訴訟費用額確定処分又は差引計算を求めるか否か及びその求める範囲がいずれも当事者の意思に委ねられていることからすると,上記の各点についての各当事者の意思が明らかにならない限り,当事者の一方の他方に対する各訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される各当事者の負担すべき費用を定めることができない。そして,上記各当事者の意思は,訴訟費用額確定処分を求める申立てがされる前においては明らかにならないのが通常である。以上によれば,民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額は,受救助者の相手方に対する訴訟費用請求権の額を超えることができない筋合いであるが,訴訟費用のうち一定割合を相手方の負担とし,その余を受救助者の負担とする旨の裁判が確定した後,訴訟費用額確定処分を求める申立てがされる前に,裁判所が同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を定める場合においては,上記の観点から当該事案に係る事情を踏まえた合理的な裁量に基づいてその額を定めるほかない。そして,訴訟費用額確定処分に係る上記の定めのとおり,訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される各当事者の負担すべき費用を定めることが当事者の意思に委ねられていることからすると,上記の場合において,猶予費用以外の当事者双方の支出した費用を考慮せずに,猶予費用に上記裁判で定められた相手方の負担割合を乗じた額と定めることが,直ちに裁判所の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない。(2)

しかしながら,本件においては,訴訟費用額確定処分を求める申立てがさ
れる前に,裁判所が民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を定めるという上記の場合に当たるものの,Aが訴え提起の手数料として少額とはいえない8万6000円の支出をし,抗告人らは,Aの地位を承継して,原々決定に対する即時抗告をし,その際にBの負担すべき費用との差引計算を求めることを明らかにしている。そして,裁判所が抗告人らに対しBの負担すべき費用との差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めたときに,抗告人らが上記範囲を明らかにしないと認められる事情はうかがわれない。このようなときには,裁判所は,訴訟記録等により判明するところに従って,Bの抗告人らに対する訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮されるBの負担すべき費用の有無及び額を審理すべく,抗告人らに対し上記範囲を明らかにするよう求めるべきである。
したがって,抗告人らに対しBの負担すべき費用との差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めることのないまま,本件取立額につき,Bの猶予費用29万7500円の5分の3に2分の1を乗じた額である8万9250円とすべきものとした原審の判断には,本件事案に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量の範囲を逸脱した違法がある。
5
以上のとおり,原審の判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,抗告人らに対しBの負担すべき費用との差引計算を求める範囲を明らかにするように求めた上で,Bの抗告人らに対する訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮されるBの負担すべき費用の有無及び額について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官
戸倉三郎

岡部喜代子

裁判官


裁判官

木内道祥

景一)
裁判官

山崎敏充

裁判官

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