判例検索β > 平成28年(ネ)第5434号
事件番号平成28(ネ)5434
裁判年月日平成29年6月29日
法廷名東京高等裁判所
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平成29年6月29日判決言渡
平成28年(ネ)第5434号
平成27年

同日原本領収

裁判所書記官

検索結果削除請求控訴事件(原審

第35544号)

口頭弁論終結日

平成29年4月13日
主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

第1

東京地方裁判所

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,原判決別紙検索結果目録記載のURLにより表示されるウェブページから,同目録記載の各検索結果を削除せよ。

第2
1
事案の概要
本件は,控訴人が,インターネット上のウェブサイトの検索サービスを提供する被控訴人に対し,被控訴人の運営する検索サイト上で控訴人の氏名等の一定の文字列により検索を行うと,検索されたウェブページに関して被控訴人のシステムが作成したタイトル,URL及び控訴人が過去に逮捕された旨の記述を含むウェブページの抜粋(スニペット)が表示されることから,これにより控訴人の人格権の一内容である更生を妨げられない利益が侵害されているとして,人格権に基づき,上記検索結果(タイトル,URL及びスニペット)の削除(検索結果を表示することの差止め)を求めている事案である。原審は,控訴人の請求を棄却し,控訴人が控訴した。

2
前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。(原判決の補正)
原判決2頁24行目の「検索情報」及び同頁26行目の「情報」の次にそれぞれ「ないし索引」を加える。
同3頁13行目末尾の次に改行の上,以下を加える。


本件検索結果においてタイトル,URL及びスニペットが表示される各ウェブページ(以下「本件リンク先ウェブページ」という。)は,同一のウェブサイト(以下「本件リンク先サイト」という。)内のものである(甲1)。」
同8頁10行目の「同一であって」を「本件リンク先サイトであって」と,同頁12行目の「リンク先のウェブサイト」を「本件リンク先サイト」とそれぞれ改める。

3
当審における当事者の補充主張
(控訴人の主張)
最高裁平成28年

第45号同29年1月31日第三小法廷決定・民集7

1巻1号63頁(以下「平成29年最決」という。)の示した判断枠組みについて

平成29年最決は,ある者のプライバシー等に属する事実を公表されない法的利益と,当該事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」という。)を検索結果として提供する理由に関する諸事情とを比較衡量した結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,その者は,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるとしている。
上記の「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」とは,検索事業者による検索結果の提供によるプライバシー等の人格的利益の制限が受忍限度を超える場合を示したものであり,その意義については,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項1号所定の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」との要件(以下「権利侵害の明白性要件」という。)の解釈を参考にして解釈すべきである。権利侵害の明白性要件は,発信者の有するプライバシー及び表現の自由の利益と被害者の権利回復を図る必要性との調和を図るべく,権利侵害が明らかであることが要件とされたものであり,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在を意味すると解されている。平成29年最決の趣旨,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権がインターネット上の権利侵害による被害者の救済を目的として立法化されたとの立法事実と検索結果削除請求権の背景事情との類似性からすれば,平成29年最決の「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」とは,プロバイダ責任制限法の権利侵害の明白性要件と同様に,「違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在」を意味するものと解すべきである。
そして,平成29年最決が,総合衡量の結果として「優越することが明らか」との規範を定立していることからすれば,一つの違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在すれば,「優越することが明らか」の要件を満たさなくなると解すべきではなく,複数の評価根拠事実の総合衡量の結果として,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在するかどうかを判断すべきである。

平成29年最決は,前科等のある者の更生を妨げない利益について触れていないが,最高裁平成元年

第1649号同6年2月8日第三小法廷判

決・民集48巻2号149頁(以下「平成6年最判」という。)は,前科等をみだりに公表されない利益を法的保護に値する利益であると判示しているから,前科等のある者の更生を妨げられない利益については,プライバシー一般とは別途の配慮・検討を要すると解すべきである。
また,最高裁平成12年

第1335号同15年3月14日第二小法廷

判決・民集57巻3号229頁(以下「平成15年最判」という。)の差戻後の控訴審判決である名古屋高裁平成16年5月12日判決・判例時報1870号29頁,判例タイムズ1198号220頁(以下「平成16年名古屋高判」という。)は,前科等に関わる事実の公表によってその者が被る具体的被害の程度の検討において,事件発生からの時間的経過等を踏まえて,その者が短期間で社会復帰することは予想し難いなどとして,社会復帰への影響を検討しており,その判断は,その後の上告審の判断においても否定されていない。したがって,判例は,前科等に関わる事実の公表によりその者が受ける「具体的な被害の程度」とは,更生を妨げられない利益の侵害の度合いであると解し,時間の経過による公共性の減少も,上記の度合いの判断において考慮すべきものと位置づけていると解される。以上によれば,犯罪時からの時間の経過等,前科等のある者の更生を妨げられない利益の侵害の程度は,平成29年最決が比較衡量の考慮要素として挙げる「その者が被る具体的被害の程度」の問題として検討されるべきである。
本件について
前記

の解釈を前提として,平成29年最決の掲げる考慮要素に応じて,
控訴人の更生を妨げられない利益(本件逮捕事実を公表されない控訴人の法的利益)と本件検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量すると,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在せず,前者が優越することが明らかであるから,本件検索結果の削除請求は認められるべきである。ア
事実の性質及び内容
本件で問題となっている事実は,控訴人の逮捕記事における実名の記載及び逮捕の事実であり,同事実をみだりに公表されず,更生を妨げられない利益は,法的保護の対象となる人格的利益である。
本件リンク先ウェブページには,控訴人がオレオレ詐欺の出し子として逮捕された事実が記載されているところ,オレオレ詐欺は,強い社会的非難に値するものの,出し子は犯罪集団の核心部分ではなく末端に位置する者にすぎないし,本件犯罪には,法令改正のきっかけとなったなどの事情はなく,現在でも実名で報道されなければならないほどの歴史的又は社会的意義はない。

事実が伝達される範囲及び控訴人が被る具体的被害の程度等
本件検索結果に含まれる本件逮捕事実は,インターネット上に表示されて世界中に伝達される。また,本件検索結果は,控訴人の氏名及び控訴人の住所地の属する市区町村名を検索語として検索する場合だけでなく,控訴人の氏名のみを検索語として検索する場合も,検索結果として表示されるから,本件逮捕事実が伝達される範囲は広い。
控訴人は,■に懲役3年,執行猶予5年の有罪判決を受けた後,起業により更生する道を選び,現在,妻子と共に平穏な生活をしているが,被控訴人による本件検索結果の提供によって,控訴人と一定の社会生活上の関係を築いている者が,本件サイトを用いて検索を行い,本件検索結果を閲覧し,さらに本件リンク先ウェブページを閲覧して,控訴人が振り込め詐欺の引き出し役のグループのリーダー格であったこと等,より詳細な犯罪情報を知る可能性が高く,これらの情報を知った者が,控訴人との交流を敬遠し控訴人が新たに形成している社会生活の平穏を害する事態が生じると考えられる。本件犯罪から約12年が経過し,控訴人に科された刑が執行猶予期間の満了により消滅してから既に約6年が経過したことからすれば,本件検索結果の表示によって,控訴人の更生が妨げられない利益が侵害される度合いは大きい。
控訴人は会社の社長であるにすぎず,社会一般に対する影響力はない。

記事等の目的や意義,掲載時の社会的状況とその後の変化,当該記事において本件逮捕事実を記載する必要性
本件リンク先ウェブページに掲載されている本件逮捕事実に関する記事は,実名による犯罪報道であり,本件逮捕当時におけるこれらの記事の公共性,実名報道の必要性は肯定されるであろう。また,本件逮捕時以降,振り込め詐欺をめぐる社会的状況に,変化の兆しはない。
しかしながら,犯罪類型一般についての利益状況から控訴人に不利益を与えることは,他人の行為により不利益を与えることにつながり,自己責任の原則に反する。また,実名報道の意義は,報道の正確性の担保にあるところ,本件犯罪から約12年が経過した現在においては,本件犯罪を実名で報道する必要はなく,本件リンク先ウェブページに本件逮捕事実を実名で記載する必要性はない。現に,これらの記事を作成した報道機関自体は,報道から2週間ないし1年後頃に実名報道記事をインターネットから削除し,アーカイブにおいても実名を仮名に変えるなどの処理をしている。これらの記事のコピーが報道から約12年経過後も残り続ける必要性はない。
(被控訴人の主張)
平成29年最決の示した判断枠組みについて

平成29年最決は,検索エンジンの役割の重要性や検索結果削除による知る権利等への影響を重視し,私的事実を公表されない法的利益(プライバシーの利益)と当該検索結果に関する公共の利益を比較衡量して,前者が後者を明らかに上回る場合に限り,検索結果の削除請求が認められる(わずかに上回る程度では検索結果の削除は認められない)という厳格な基準を示したものと解すべきである。このように厳格な基準が採用された理由は,検索エンジンがインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしているからであると考えられる。


発信者情報開示請求権の権利侵害の明白性要件を定めるプロバイダ責任制限法4条1項1号の趣旨は,発信者のプライバシー及び表現の自由の利益と,被害者の権利回復を図る必要性との調和であって,同規定において想定されている利益状況は,検索結果の削除を求める事案とは異なる上,発信者情報開示請求権と人格権に基づく検索結果の削除請求権とは,発生する効果を異にするから,平成29年最決の「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」との判断基準を,権利侵害の明白性要件と同様に解すべきであるとの控訴人の主張は,合理性を欠く。また,違法性阻却事由の存在をうかがわる事情が一つ存在するだけで直ちに,上記の「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」への該当性が否定されることにはならないとの控訴人の主張も,合理的根拠を欠く。

平成16年名古屋高判が,当該事案の若年の元被告人の社会復帰について説示していることは,本件とは全く無関係なことであり,これをあえて「更生を妨げられない利益」としてプライバシーとは別に検討すべき必要性は認められない。なお,「更生を妨げられない利益」とは,犯罪後の社会復帰を妨げられない利益を抽象的にいうものと考えられるが,控訴人について社会復帰を妨げられているという事情はおよそ認められない。本件について
本件について平成29年最決の示した判断枠組みに従って以下のアないし
ウのとおり比較衡量をすると,本件検索結果を表示することについては公共の利益が認められる一方,控訴人に生じる不利益は全く認められず,本件逮捕事実の重大性や,会社代表者という控訴人の属性に照らすと,本件逮捕事実を公表されない控訴人の法的利益(プライバシー保護の利益)が本件検索結果に関する公共の利益に優越することが明らかであるとはいえないから,被控訴人は本件検索結果の削除義務を負わない。

事実の性質及び内容
本件検索結果には,控訴人が■金銭を詐取するいわゆる振り込め詐欺の容疑で逮捕されたとの本件逮捕事実が含まれている。本件逮捕事実の具体的な内容は,控訴人が,振り込め詐欺の詐取金の引き出し役のグループのリーダーとして,振り込め詐欺に関与していたとの事実であり,控訴人は,詐欺罪で懲役3年,執行猶予5年(保護観察付き)の有罪判決を受けていること,振り込め詐欺は,今なお社会的に注目されている犯罪であり,被害金額も大きく,悪質な犯罪であること,執行猶予期間満了から約6年程度しか経過していないことなどを考えると,本件逮捕事実は,強い公益性を有する事実であり,今なお公共の関心事といえる。

事実が伝達される範囲及び控訴人が被る具体的被害の程度等
本件検索結果は,控訴人の氏名及び住所地名を検索語として検索した場合に表示されるものであり,本件逮捕事実が伝達される範囲は極めて限定されているといえる。
控訴人の主張する本件検索結果の表示により受ける不利益については,これを裏付ける客観的な証拠はなく,具体的な被害は認められない。また,控訴人の主張する「更生を妨げられない利益」なる法益が,プライバシー権と別個に観念されるものではないことは,前記

ウのとおりである。控

訴人は,妻子と共に生活し,会社の代表取締役として事業を行い,社会復帰等が妨げられているという事情は全く見受けられない。
控訴人は,二つの株式会社の代表取締役を務め,これらの会社の代表として対外的な責任を負っており,その影響力は大きい。そのような地位を有する者が,かつて詐欺罪で逮捕・処罰されたという事実は,会社の顧客や一般の消費者を含む取引先,銀行等の融資者にとって重大かつ正当な関心事である。

記事等の目的や意義,掲載時の社会的状況とその後の変化,当該記事において本件逮捕事実を記載する必要性
本件リンク先サイトは,消費者問題等に関するニュースを収集しているウェブサイトであり,消費者問題等,公共性の高いニュースを収集・保存し,ウェブサイト訪問者の閲覧に供している点で,一定の公益目的,公共性が認められる。また,同種のニュースが集積されており,比較や検索などが容易となっている点や,新聞社等のニュースサイトの情報は一定期間の経過により閲覧することができなくなってしまうが,そうした情報を保存して閲覧可能な状態を維持しておくという点でも,公共上の意義を有している。
本件逮捕事実が本件リンク先ウェブページに掲載された時点から現在に至るまで,振り込め詐欺に対しては一貫して強い社会的非難がされており,この点で社会的状況の変化はない。
犯罪の実名報道は,報道の正確性・信頼性等の観点から広く行われており,本件リンク先サイトにおいても実名を記載する必要性がある。また,本件検索結果が控訴人の氏名及び住所地名を検索語として検索した場合に表示されるものであることを考えると,本件検索結果においても実名を表示する必要がある。さらに,本件リンク先サイトは,新聞社等の報道機関によるニュースを引用しているものであり,引用の正確性の観点からも,実名を記載する必要がある,
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決10頁21行目の「ウェブサイト」の次に「(本件リンク先サイト)」を,同頁22行目の「ウェブページ」の次に「(本件リンク先ウェブページ)」を加える。
同10頁26行目の「本件」から「ウェブページ」までを「本件リンク先ウェブページ」と改める。
同11頁7行目の「乙」の次に「20,乙」を加える。
同11頁8行目末尾の次に改行の上,以下を加える。
「ウ

本件リンク先サイトは,■との名称であり,消費者問題,宗教問題,ネット事件に関する記事を収集・保存し,同ウェブサイト訪問者の閲覧に供しており,同ウェブサイト訪問者は,記事の登録のほか,既に登録されている記事に対するコメントや追加情報の投稿も行うことができる(甲1,甲26の1ないし3,乙36の1及び2)。」
同11頁14・15行目の「広がるなどして,」の次に「振り込め詐欺は
多数の者が関与して組織的にかつ巧妙な手口により行われ,」を加え,同頁21行目の「乙21,22」を「乙21ないし25」と改める。
同11頁22行目の「警察は」を「振り込め詐欺は,ここ10年以上にわたり我が国の大きな社会問題となっている犯罪であって,強い社会的非難の対象となっており,その取締りの強化及び防犯等に関する社会的関心は高く,警察は」と改める。
同12頁10行目の「26頁」の次に「・27頁」を加える。
同12頁11行目の「本件」から「ウェブサイト」までを「本件リンク先サイトの」と改める。
同12頁25行目冒頭から同14頁18行目末尾までを次のとおり改める。「

そして,前科等にかかわる事実は,個人のプライバシーに属する事実であり,これをみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年

第323号同56年4月14日第三小法廷判決

・民集35巻3号620頁,平成6年最判,平成15年最判,平成29年最決等参照)。
一方,前記前提となる事実

及び前記1

認定の事実によれば,被控訴人

の提供する本件検索サービスは,被控訴人が開発したプログラムによって,機械的かつ自動的に,インターネット上の既存のウェブページを収集し,それらのウェブページの情報を解析して検索情報ないし索引(インデックス)を作成して情報を整理し,本件サイトの利用者が入力した検索語に応じて,被控訴人が定めた一定のアルゴリズムに従って,検索語と関連性のある既存のウェブページを抽出し,そのタイトル,URL及び抜粋(スニペット)のリストを検索結果として提供するサービスであるが,上記ウェブページの収集,整理,抽出及び検索結果の提供(表示)は,検索結果の提供に関する被控訴人の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたプログラムによって行われていることに鑑みれば,検索結果の提供は,被控訴人による表現行為という側面を有するものと認められる。また,被控訴人を含む検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることが認められるから,被控訴人による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされることは,前記の被控訴人の表現行為の制約となるだけでなく,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約ともなると認められる。以上の検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,被控訴人のような検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である(平成29年最決参照)。」
同15頁11行目の「違法性のある表現」を「前記⑴の判断基準を満たす検索結果の提供」と改める。
同16頁2行目冒頭から同頁24行目末尾までを次のとおり改める。「

しかしながら,被控訴人の本件検索サービスによる検索結果の提供が,被控訴人の方針に沿った一貫性のある表現行為という側面を有するものであり,また,被控訴人を含む検索事業者による検索結果の提供が,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを踏まえて,検索事業者に対し検索結果の削除義務を課することは,検索事業者の表現行為に対する制約となるだけでなく,上記役割に対する制約ともなることを考慮して,個人のプライバシーに属する事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当であることは,前記

説示のと

おりである。被控訴人の主張は採用することができない。」
同17頁3行目の「主張する」から同20頁20行目末尾までを次のとおり改める。
「主張し,その根拠として,本件検索サービスの提供がインターネット上の情報流通において公益的な役割を果たしていること,被控訴人に対する検索結果の削除請求を認めれば,迅速な検索結果の提供を不可能にするほか,リンク先のウェブサイトにおける適法な表現まで過剰に削除したり,適法な表現へのアクセスが制限されたりして,萎縮的効果が生じたり,表現の自由への過剰な制約が生じたりするなどの弊害が生じることなどを挙げる。しかしながら,被控訴人の本件検索サービスによる検索結果の提供が,被控訴人の方針に沿った一貫性のある表現行為という側面を有するものであり,被控訴人を含む検索事業者による検索結果の提供が,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを踏まえて,検索事業者に対し検索結果の削除義務を課することは,検索事業者の表現行為に対する制約となるだけでなく,上記役割に対する制約ともなることを考慮して,個人のプライバシーに属する事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当であることは,前記

説示のとおりであ

る。被控訴人の主張は採用することができない。」
同20頁22行目冒頭から同23頁8行目末尾までを次のとおり改める。「

前記

説示の判断枠組みに従って,控訴人の本件検索結果の削除請求の可
否について検討する。
前記前提となる事実及び前記1認定の事実によれば,本件リンク先ウェブページに掲載されている控訴人が振り込め詐欺の容疑で逮捕されたとの事実(本件逮捕事実)は,控訴人の前科等にかかわる事実であり,他人にみだりに知られたくない控訴人のプライバシーに属する事実ではあるが,詐欺は,法定刑が10年以下の懲役である重い犯罪であり(刑法246条1項),前記1認定のとおり,振り込め詐欺は,平成15年頃から被害件数,被害額とも増加し,平成26年には被害額が全財産犯の現金被害額のおよそ50%に及んでおり,高齢者等を標的とし,多数の者が関与して組織的にかつ巧妙な手口により行われ,ここ10年以上にわたって我が国の大きな社会問題となり,強い社会的非難の対象となっている犯罪であって,その取締りの強化及び防犯等に関する社会的関心は高いことが認められる。そして,本件リンク先ウェブページに掲載された記事には,控訴人は,詐取金の引き出しを専門に行うグループのリーダーとして振り込め詐欺に関与し,これまでに数億円の引き出しを請け負ったとみられるとの記載があることは,前記1認定のとおりであって,強い社会的非難の対象となっている振り込め詐欺の事案において決して小さくない役割を果たしたのであり,本件逮捕から約12年が経過しているものの,本件逮捕事実は,現在でもなお公共の安全・平穏に関わる社会的に正当な関心の対象であると認められ,本件逮捕事実を記載した記事の公表の必要性を否定することはできない。さらに,前記前提となる事実のとおり,本件検索結果は,控訴人の氏名及び控訴人の住所地の属する市区町村名を検索語とした場合に検索結果として表示されるものの一部であることなどからすれば,本件検索結果の表示によって本件逮捕事実が伝達される範囲は,ある程度限られたものといえる。加えて,本件リンク先ウェブページに掲載されている本件逮捕事実を記載した記事は,本件逮捕当時に新聞に掲載された通信社又は新聞社作成の記事のコピーであって,これらの記事は,当時から社会問題となっていた振り込め詐欺について犯人逮捕の報道を行うものであり,公益を図る目的で公共の利害に関する事実を掲載したものといえる。さらに,本件リンク先サイトは,消費者問題等に関するニュースを収集しているウェブサイトであって,本件リンク先ウェブページの掲載記事についても,一般市民を標的とした振り込め詐欺事件に関する公共性のある報道記事として保存し,ウェブサイト訪問者の閲覧に供しているものと認められる。
以上の諸事情に照らすと,前記1認定のとおり,執行猶予期間満了から約6年が経過し,控訴人が,本件犯罪について有罪判決を受けた後約11年半にわたって再犯に及ぶことなく一市民として日常生活を営み,現在は妻子とともに暮らし,会社の代表取締役として事業を行っていることを考慮しても,控訴人の本件逮捕事実を公表されない法的利益が本件検索結果を提供する理由に関する諸事情に優越することが明らかであるとは認められないというべきである。
控訴人の主張について
控訴人は,控訴人の経営する会社が,取引先等から,本件検索結果の表示により本件逮捕事実を知ったことを理由として融資や取引を断られるなどの具体的な不利益を受けたと主張し,控訴人の陳述書(甲2)には,控訴人の経営する会社の融資の申込みが断られた理由は,インターネット上の記事が問題視されたことにあったらしいとの記載がある。前記⑴説示のとおり,プライバシーに属する事実が伝達されることにより,その者が被る具体的被害の程度は,当該事実を公表されない法的利益の判断に当たって考慮すべき要素であるが,上記陳述書の記載は,推測を述べるものに止まり,前記融資申込みの拒絶の理由が,本件検索結果の表示による本件逮捕事実の公表によるものであったことを認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,控訴人は,本件検索結果の表示により本件逮捕事実が公表されることによって,控訴人の経営する会社の従業員に不安を与え,控訴人の子供らの生活にも支障を来すなど,控訴人が新たに形成している社会生活が破壊されるおそれがあると主張し,その陳述書(甲2)にも同旨の記載があるが,これについても,本件検索結果の表示による本件逮捕事実の公表によって,控訴人の経営する会社の従業員に不安を与え,控訴人の子供らの生活に影響が生じる具体的なおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。控訴人の上記主張及び陳述書の記載は,結局のところ,控訴人の内心の不安,懸念を述べるに止まるものといわざるを得ず,前記

の判断を左右する

ものとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
また,控訴人は,本件逮捕事実は,10年以上前の詐欺罪についてのものであり,詐欺罪の公訴時効が7年(刑訴法250条2項4号)であることにも照らせば,現在,公共の関心は希薄化しており,本件逮捕事実自体が殊更社会に重大な影響を与えたとはいえず,控訴人は一般私人であって政治活動をしているわけでもないから,実名により本件逮捕事実を控訴人の知人らに知らしめる必要性は低いと主張する。
しかしながら,振り込め詐欺が今なお我が国の大きな社会問題となっており,強い社会的非難の対象となっている犯罪であって,その取締りの強化及び防犯等に関する社会的関心は高く,さらに,控訴人は,振り込め詐欺の事案において決して小さく役割を果たしたのであり,本件逮捕事実は,現在でもなお公共の安全・平穏に関わる社会的に正当な関心の対象であると認められ,本件逮捕事実を記載した記事の公表の必要性を否定することはできないことは,前記

説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができな

い。
以上のとおりであるから,本件検索結果を表示することは,受忍限度を超えて控訴人の人格権を侵害するものであり,本件検索結果削除請求は認められるべきであるとの控訴人の主張は,その余の控訴人の主張について検討するまでもなく,採用することができない。」
2
当審における控訴人の補充主張に対する判断
平成29年最決の示した判断枠組みについて

控訴人は,平成29年最決にいう「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」の意義につき,①プロバイダ責任制限法4条1項1号の定める権利侵害の明白性要件と同様に,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の不存在を意味すると解すべきであると主張し,また,②平成29年最決が,総合衡量の結果として「優越することが明らか」との規範を定立していることからすれば,一つの違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在すれば,「優越することが明らか」の要件を満たさなくなると解すべきではなく,複数の評価根拠事実の総合衡量の結果として,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在するかどうかを判断すべきであると主張する。
しかしながら,本件で問題となるプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益に基づく検索結果削除請求権と,プロバイダ責任制限法4条に基づく発信者情報開示請求権とは,それぞれの権利の趣旨・目的,発生根拠,内容及び効果,権利者と義務者との関係等を異にすることが明らかであるから,平成29年最決の趣旨とプロバイダ責任制限法4条の趣旨との類似性,前記各権利の趣旨・目的の類似性ないし前記各権利が認められた背景事情の類似性を根拠とする前記①の主張は,その前提を欠くものであり,また,前記①の主張を前提とする前記②の主張も,その前提を欠くものであって,いずれも採用することができない。

控訴人は,平成6年最判及び平成15年最判を引用して,前科等のある者の更生を妨げない利益につき,プライバシー一般とは別途の配慮・検討を要すると解すべきであると主張する。
しかしながら,前科等にかかわる事実は,個人のプライバシーに属する事実であり,これをみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるものであり,一方で,検索事業者による検索結果の提供が,検索事業者による表現行為という側面を有し,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果していること等を踏まえ,検索事業者がある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものと解するのが相当であることは,前記1説示のとおりであり,前科等に関わる事実の公表によりその者の更生が妨げられるという具体的なおそれがある場合には,前記のプライバシーに属する事実が伝達されることによりその者が被る具体的被害として考慮すべき事情に当たるものと解される。そして,控訴人について,前記のような具体的被害を被るおそれがあるものとは認められないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。
本件について

控訴人は,犯罪組織の末端に位置する出し子として本件犯罪に関与したにすぎなかったこと,控訴人が有罪判決を受けてから約12年(執行猶予期間満了から6年余り)が経過したことに照らせば,本件逮捕事実はもはや公共の利害に関わる事項とはいえず,実名報道の必要性はなく,一方,控訴人は■に懲役3年,執行猶予5年の有罪判決を受けた後,起業により更生する道を選び,現在,妻子と共に平穏な生活をしているが,控訴人と一定の社会生活上の関係を築いている者が,本件検索結果を閲覧し,控訴人が振り込め詐欺の引き出し役のグループのリーダー格であったこと等より詳細な犯罪情報を知る可能性は高く,これらの情報を知った者が,控訴人との交流を敬遠し控訴人が新たに形成している社会生活の平穏を害する事態が生じ,更生が妨げられない利益が侵害される度合いは大きいから,控訴人の本件逮捕事実を公表されない法的利益が,本件検索結果を検索結果として提供する理由に関する諸事情に優越することが明らかであり,控訴人の本件検索結果の削除請求は認められるべきであると主張する。イ
しかしながら,前記1認定説示の本件犯罪の性質及び内容,振り込め詐欺の事案において控訴人が果たした役割,振り込め詐欺が今なお大きな社会問題となっており,強い社会的非難の対象となっていること,振り込め詐欺の取締り及び防犯に対する社会的関心の高さ等に照らすと,本件逮捕事実を記載した記事の公表の必要性を否定することはできず,控訴人が執行猶予期間満了から約6年が経過し,有罪判決を受けてから約11年半にわたって一市民として日常生活を営んでいること等を考慮しても,本件逮捕事実を公表されない法的利益が本件検索結果を提供する理由に関する諸事情に優越することが明らかであるとは認められないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。
なお,控訴人は,控訴人の氏名のみを検索語として本件検索サービスにより検索する場合であっても,本件検索結果は表示されるから,本件検索結果の表示によって本件逮捕事実が伝達される範囲は広範であるとも主張するが,控訴人の氏名のみを検索語として本件検索サービスにより検索する場合にも本件検索結果は表示されるとの事実を認めるに足りる証拠はない。また,仮に,同事実が認められるとしても,控訴人の氏名を検索語として検索を行う者は,控訴人と一定の関係を有している者等一定の範囲の者に限られると考えられるから,同事実を前提としても,本件検索結果の表示によって本件逮捕事実が伝達される範囲は広範であるとまではいえない。
以上のとおりであるから,当審における控訴人の補充主張は,いずれも採
用することができない。
3
結論
よって,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部

裁判長裁判官

後藤
裁判官

武田美
裁判官

大賀寛須博和子之
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