判例検索β > 平成29年(行ケ)第10049号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成29(行ケ)10049
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年9月14日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成29年9月14日 担
当 知的財産高等裁判所 第2部

事 件 番 号 平成29年(行ケ)10049号
○ 商標法4条1項7号該当性を判断した 事例。
(関連条文)商標法4条1項7号
(関連する権利番号等)不服2016-1536号,商願2014-108031号
判 決 要 旨
1 原告は,指定役務を第44類「助産,医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,栄養
の指導,介護,医療看護その他の医業」等とする「Advanced Midwife ア
ドバンス助産師」の文字を横書きしてなる商標(以下,「本願商標」という。)の登録出
願をしたが(商願2014-108031号),拒絶査定を受けたので,これに対する不
服審判請求をした(不服2016-1536号)。
審決は,本願商標の構成中,「助産師」の文字は,保健師助産師看護師法(以下,「保
助看法」という。)3条に規定される国家資格の名称であり,同法42条の3第2項にお
いて,「助産師でない者は,助産師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。」
と,名称の使用について規定されているから,その資格を得ることができない請求人(原
告)が,本願商標を,その指定役務に使用することは,上記保助看法42条の3第2項の
規定に抵触するおそれがあり,かつ,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成中の
「アドバンス助産師」の文字を捉え,国家資格である「助産師」の上級の国家資格である
かのごとく誤信する場合があるものといえ,国家資格と誤信されるおそれのある商標を登
録し役務に使用することは,これに接する一般世人において,国家資格である「助産師」
の制度に対する社会的信頼を失わせ,ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといえ
るから,本願商標は,商標法4条1項7号に該当するものと認められる,とした。
2 本判決は,以下のとおり判断し,審決を取り消した。
(1) 「アドバンス助産師」認証制度は,既に助産師資格を持つ者であって,一定の助産
実践能力を有する者を「アドバンス助産師」と認証するものであるところ,原告は,「ア
ドバンス助産師」を認証する団体であることから,本願商標の出願をしたものである。そ
うすると,本願商標は,助産師でない者を「助産師」と称するために出願されたものでは
ないから,本願商標が登録されたからといって,保助看法42条の3第2項の規定に違反
する事態が発生するおそれがあるということはできない。
(2) 本願商標は,「上級の助産師」の意味が生じる語を日本語表記及び英語表記で表示
したものであって,本願商標全体としても,「上級の助産師」の意味を生じるということ
ができる。
「アドバンス助産師」制度は,助産関連5団体によって創設されたもので,「アドバン
ス助産師」を認証するための指標は,公益社団法人日本看護協会が開発したものであるか
-1-
ら,その専門的知見が反映されているものと推認されること,②原告は,専門職大学院の
評価事業のほか,助産師養成機関や助産所の第三者評価事業を行っており,助産分野の評
価を適切に行えるものと推認されること,③「アドバンス助産師数」は,厚生労働省によ
り周産期医療体制の現状把握のための指標例とされていること,以上の事実からすると,
「アドバンス助産師」認証制度は,一定程度の高い助産実践能力を有する者を適切に認証
する制度であると評価されるべきものと認められる。また,「アドバンス助産師」認証制
度は,平成27年から実施され,既に1万人を超える「アドバンス助産師」が存在するこ
と,各病院において,ウェブサイトに「アドバンス助産師」の認証を受けた助産師が存在
することを記載し,充実した周産期医療を提供できることを広報していることからすると,
「アドバンス助産師」は,国家資格である助産師資格を有する者のうち,一定程度の高い
助産実践能力を持つ者を示すものであることが,相当程度認知されているものと認められ
る。
そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,「アドバンス助産師」を,助産師の
うち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者であると認識するということができるところ,
その認識自体は,決して誤ったものであるということはない。
(3) 国家資格の中には,知識や技能の難易度等に応じて,同種の資格の中で段階的にレ
ベル分けされているものがあることが認められるが,上級の資格を「アドバンス」と称す
る国家資格があるとは認められないことや前記のとおり「アドバンス助産師」制度が相当
程度認知されていることからすると,「アドバンス助産師」が「助産師」とは異なる国家
資格であると認識されるとは認められないし,仮に,そのように認識されることがあった
としても,本願商標が国家資格等の制度に対する社会的信用を失わせる「公の秩序又は善
良の風俗を害するおそれがある商標」ということはできない。
(4) したがって,本願商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商
標法4条1項7号)に当たるということはできない。
-2-
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平成29年9月14日判決言渡
平成29年(行ケ)第10049号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年7月13日
判決原告
一般財団法人日本助産評価機構

同訴訟代理人弁護士

川目被成黒樹豪告特
同指定代理人

真鍋伸中束と山田正樹板谷玲子主1許弘庁長官行しえ文
特許庁が不服2016-1536号事件について平成29年1月
11日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨

主文同旨
第2

事案の概要

本件は,商標登録出願に係る拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,商標法4条1項7号該当性の有無である。
1
特許庁における手続の経緯

原告は,平成26年12月9日,指定役務を第35類「市場調査又は分析,助産師のあっせん,助産師のための求人情報の提供」
,第41類「セミナーの企画・運営
又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作
(映画・放送番組・広告用のものを除く。,

興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。,映画・演芸・演)
劇・音楽又は教育研修のための施設の提供」
,第44類「助産,医業,医療情報の提
供,健康診断,調剤,栄養の指導,介護,医療看護その他の医業」及び第45類「乳幼児の保育」
を指定役務として,
「Advanced

Midwife

アドバンス

助産師」の文字を横書きしてなる商標(以下,
「本願商標」という。
)の登録出願を
し(商願2014-108031号。甲29)
,平成27年7月8日付けで,本願商
標の指定役務から,第45類「乳幼児の保育」を除く補正をした(甲30)が,同年11月6日付けで拒絶査定を受けた(甲31)ので,平成28年2月2日,これに対する不服審判請求をした(不服2016-1536号。甲47)。
特許庁は,平成29年1月11日,
「本件審判の請求は,成り立たない。
」との審
決をし,その謄本は,同月24日に原告に送達された。
2
審決の理由の要点

本願商標は,「Advanced

Midwife

アドバンス助産師」の文字

を横書きしてなるところ,その構成中前半の,「Advanced」の欧文字は,「上級の」等の意味を有する英語であり,「Midwife」の欧文字は,「助産師」の意味の英語であることから,構成中前半の「Advanced
Midwi

fe」の欧文字は,「上級の助産師」の意味合いが生じるものである。また,その構成中の「アドバンス」の片仮名は,「上級の」を意味するものとして我が国において馴染みのある,比較的平易な外来語であることから,本願商標の構成中後半の「アドバンス助産師」の文字からも,「上級の助産師」の意味合いが想起されるものである。

そして,その構成中,「助産師」の文字は,保健師助産師看護師法(以下,「保助看法」という。)3条に規定される国家資格の名称であり,同法42条の3第2項において,「助産師でない者は,助産師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。」と,名称の使用について規定されているから,その資格を得ることができない請求人(原告)が,「助産師」の文字を有し,「上級の助産師」の意味合いが想起される本願商標を,その指定役務に使用することは,上記保助看法42条の3第2項の規定に抵触するおそれがあり,かつ,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成中の「アドバンス助産師」の文字を捉え,国家資格である「助産師」の上級の国家資格であるかのごとく誤信する場合があるものといえる。ところで,国家資格に係る規定は,国家が,公共の福祉その他政策上の目的のために,国民の職業選択の自由を制限してでも,一定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位又は権限を付与する必要があると認めて法令をもってそのように定めたものである。したがって,国家資格と誤信されるおそれのある商標を登録し役務に使用することは,これに接する一般世人において,国家資格である「助産師」の制度に対する社会的信頼を失わせ,ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといえる。
よって,本願商標は,商標法4条1項7号に該当するものと認められる。第3
1
原告主張の審決取消事由
本願商標は,①国家資格に対する社会的信頼を害さず,②他の国家資格と誤
信されることはなく,③厚生労働省が承認しており,④かえって,本願商標の登録を認めないことによる害悪が発生し,⑤他の商標との均衡の点も考慮すると,公序良俗に反しないものである。
(1)

国家資格に対する社会的信頼を害さないこと

原告は,平成27年度より「アドバンス助産師」の認証業務を運営している。原告は,助産師資格保有者による公共的な性格を有する職能団体であり,助産関連5団体(原告,公益社団法人日本看護協会,公益社団法人日本助産師会,一般社団法
人日本助産学会,公益社団法人全国助産師教育協議会。以下,
「助産関連5団体」と
いう。
)が制定した認証要件(一定の実務経験,助産能力についての要件)を充たす助産師資格保有者に対してのみ,
「アドバンス助産師」の認証を行っている。原告が
実施する研修等は,助産関連5団体が定めた上記認証要件に即した内容である。したがって,原告が,アドバンス助産師認証業務を運営することにより,助産師資格に対する社会的信頼が害されることは想定できない。また,実際に「アドバンス助産師」という認証名を用いているのは,国家資格である助産師を保有する者であるため,周産期医療の利用者による国家資格である助産師に対する信頼が害されることもない。
(2)

他の国家資格との誤信がないこと

「Advanced」等の英単語を片仮名表記にして,漢字からなる国家資格名と組み合わせて,
上級の国家資格を表す例はない。
したがって,
「アドバンス助産師」
という認証名称が,国家資格と誤信される可能性はない。
(3)

厚生労働省の承認

厚生労働省の公式文書である
「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」
(医政地発0331第3号)と題する通知の「別表9

周産期医療の医療体制構築

に係る現状把握のための指標例」において,
「アドバンス助産師数」を「助産師数」
とは別項目として,
「新生児集中ケア認定看護師数」
と並列する形式で指標に掲げる
など,厚生労働省は,
「アドバンス助産師」が周産期医療において重要な役割を担っ
ていることを認めているから,厚生労働省は,
「アドバンス助産師」名称を用いた認
証制度を承認している。
(4)

本願商標の登録を認めないことによる害悪

平成27年の認証業務の開始より,現に就業している助産師のうち約3分の1の助産師が「アドバンス助産師」の認証を受けて,業務を行っている。そして,当該助産師が所属する病院等において,認証を受けたことが公表されており,周産期医療の利用者から,一定水準の能力を有するアドバンス助産師に対しての信頼が形成
されている。それにもかかわらず,本願商標を登録することができず,「アドバンス
助産師」の名称使用をコントロールできないのであれば,
「アドバンス助産師」と類
似した名称の認証制度が生じてくるおそれがあり,医療の現場や周産期医療の利用者に混乱を生じさせるおそれがある。
審決は,
「アドバンス助産師」認証制度と類似する名称の使用等に関しては,保助看法による助産師の名称独占の規定により対処されるべきものであり,商標権により保護すべき理由とはならない,とする。しかし,保助看法が定める刑事罰による規制と,商標権による名称使用のコントロールとは,手続主体,手続内容等が異なるから,代替できるものではない。
(5)

他商標との均衡

公益社団法人日本看護協会は,
一定の専門的能力を有する看護師に対して,
「認定
看護師」
「専門看護師」という資格を付与しており,
「認定看護師」及び「専門看護
師」の商標権は,登録されている。
「認定看護師」
「専門看護師」の資格制度と,
「ア
ドバンス助産師」認証制度は,実質的に異なるものではないから,本願商標の登録が認められないのは,均衡を欠く。
2
特許庁は,国家資格名を包含する商標について,一定の例外に該当する商標
以外は,公序良俗に反する商標であると認定するという厳格な運用を行っている。しかし,国家資格名を包含する商標を,使用する主体や具体的な使用方法等を考慮することなく,一定の例外に該当する商標以外は登録査定を行わないという審査基準は,商標が公序良俗違反にならない場合を不当に制限しているものである。第4
1
被告の主張
本願商標が商標法4条1項7号に該当することについて
(1)

本願商標について

本願商標のうち「アドバンス助産師」の文字部分からは,
「上級の助産師」程の意
味合いが生じるものである。また,本願商標のうち「Advanced
Midw

ife」の文字部分の「Advanced」「Midwife」の各欧文字は,,
「上

級の」「助産師」をそれぞれ意味する英語であるから,

「Advanced

Mid

wife」の欧文字部分からは,
「上級の助産師」の意味合いが生じるものである。
そうすると,本願商標は,
「上級の助産師」の意味合いが生じる語を日本語表記及
び英語表記で表示したものと認識,理解させるものということができ,本願商標全体としても,
「上級の助産師」の意味合いを認識させるということができる。
「アドバンス」の文字は,各種の資格において,
「上級の(上位の等級の)
」程の
意味合いを表す語として使用されている実情がある(乙10~20)。
現在,我が国においては,法律に基づき,国又は国から委任を受けた機関が実施する国家資格,地方行政機関等が実施する公的資格及び上記以外の団体,企業等が実施する民間資格など多数の資格が存在しているところ,これらにおいて,その知識や技能の難易度等に応じて,同種の資格の中でも段階的にレベル分けがされているものが多数存在し(乙21~36[枝番を全て含む。以下同じ。)],また,上位の
等級の資格を表す語として「上級」の文字が使用されている実情がある(乙29~36)

以上のとおり,
「アドバンス」の文字が資格の名称とともに表示された場合には,これが,当該資格における上位の等級の資格を表すものであると,一般の取引者,需要者に認識,理解されるというべきである。
したがって,アドバンス助産師」

の文字を,
本願商標の指定役務に使用した場合,
これに接する一般の取引者,需要者は,分娩を助け,また妊婦・褥婦・新生児の保健指導を職業とする者である「助産師」の上位の等級の資格,すなわち,「助産師」
と何らかの関係を有する医療・助産分野に関連した国家資格であると認識,理解するというべきである。
(2)

国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせるおそれのある商標であるこ
とについて

商標法以外の法律によって,その使用等が禁止されている商標であるこ
とについて

本願商標は,その構成中に「助産師」の文字を含んでなるものであり,かつ,その文字を含む「アドバンス助産師」の文字部分は「上級の助産師」の意味合いを理解させるものである。しかるところ,
「助産師」の文字は,保助看法3条に規定され
る国家資格の名称であり,同法42条の3第2項において,
「助産師でない者は,助
産師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。と,

名称の使用について規
定されている。その趣旨は,助産師でない者が「助産師」の名称を使用することによって,その者を助産師であると一般世人が誤信することを防止しようとするものであると解される。その資格を得ることができない原告が,
「助産師」と紛らわしい
名称を含む本願商標を登録し,その指定役務に使用することは,
「助産師」及びこれ
に関連した国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせることになり,社会公共の利益に反するものというべきである。

国家資格であるかのように誤信するおそれのある商標であることについ

前記(1)のとおり,本願商標は,それ自体が国家資格であるかのように認識,理解されるというべきである。しかし,
「アドバンス助産師」なる名称の国家資格は,存
在しない。したがって,本願商標に接する一般の取引者,需要者は,これが国家資格であるかのように誤信するおそれがあるというべきである。
そして,原告は,
「助産師」に関する国家資格の認定機関ではない。
そうすると,国家資格と誤信されるおそれのある本願商標を登録し,これをその指定役務について使用することは,これに接する一般世人において,国家資格である「助産師」及びこれに関連した国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせることになり,社会公共の利益に反するものというべきである。
(3)

小括

したがって,本願商標は,商標法4条1項7号に該当する。
2
原告の主張に対する反論
(1)

国家資格に対する社会的信頼を害することについて

「アドバンス助産師」制度の認証を受ける者が,国家資格たる「助産師」資格を保有する者であったとしても,
「助産師」の中でも“国により”当該資格の上級と認
定される者であると一般の取引者,需要者において認識されるのであれば,あたかも国が認めた優れた技術・知識を有する助産師であるかのように思われるため,当該国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせるおそれがあるといえる。そして,原告から提出された証拠を勘案しても,
同制度が国家資格とは異なる制度であって,
「助産師」又は「助産師」と何らかの関係を有する医療又は助産分野に関連した国家資格と誤信しないといえる程度にまで,審決時において,一般世人に対して同制度が広く知られていたとはいえないものである。
また,
「アドバンス助産師」認証制度は,助産師資格の監督官庁である厚生労働省が実質的に認証している機関において実施されている制度とはいえず,国家資格である「助産師」又はそれに準ずる国が認める資格に係るものであるとはいえないことから,国家資格と誤信させるおそれのある本願商標を商標登録し,使用することは,これに接する一般世人において,国家資格の制度に対する社会的信頼を失わせることになり,社会公共の利益に反するものというべきである。
(2)

国家資格と誤信されることについて

「アドバンス」の文字は,資格の名称とともに用いられた場合においては,「上級
の資格」を表す語として,一般的に広く知られており,英語を片仮名表記にして漢字と組み合わせた国家資格が多数あることからすると,英語を片仮名表記にして漢字と組み合わせた構成からなる「アドバンス助産師」についても,国家資格である「助産師」における上位の等級の資格,すなわち,それ自体が国家資格であるかのように認識,理解されるものであるといえる。
(3)

厚生労働省の承認について

厚生労働省の通知である
「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」
は,
疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制に関する専門的な分野についてのものであって,周産期医療の利用者である妊婦やその家族を含む一般世人が目にする機会が
普通にあるとはいえないものである。そして,仮に一般世人においてその通知を目にする機会があったとしても,
「アドバンス助産師」の文字は,その通知内における
指標例の項目として,
「助産師数」と上下に並んで「アドバンス助産師数」と記載さ
れているにすぎず,かつ,その通知の内容自体に,
「アドバンス助産師」に言及した
記述はないから,その通知の上記項目の配置から,一般世人が「アドバンス助産師」を「助産師」と同じ国家資格であると誤信することがあるとしても,これが国家資格とは異なるものであると理解することはできず,また,厚生労働省が国家資格として「アドバンス助産師」を承認したものとはいえない。
(4)

本願商標の登録を認めないことによる害悪について

原告は,
「アドバンス助産師」制度を実施するに際し,本願商標以外の名称を採択し,使用することができたにもかかわらず,本願商標を採択したものである。そして,本願商標については,これを登録し,その指定役務に使用することが商標法4条1項7号に該当するものであるか否かが問題であって,これと,原告の事情により採択した名称の使用をコントロールする必要があることとは,別の問題というべきものである。したがって,そのような事情が存することが,同号に該当する商標を登録しなければならない理由にはならない。
(5)

他の商標との均衡について

商標法4条1項7号に該当するか否かは,査定時又は審決時における個別具体的な事情に基づき判断されるものであるから,原告の挙げた商標登録の例があるからといってその判断が左右されるべきものではない。
第5
1
当裁判所の判断
認定事実

以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。(1)

原告の前身である特定非営利活動法人日本助産評価機構は,
平成19年1

月に設立され(甲4,37)
,平成20年4月8日,専門職大学院のうち助産分野の
評価を行う認証評価機関として,学校教育法110条の規定によって,文部科学大
臣に認証された(甲5,37,40)

(2)

原告は,平成26年11月25日,
「母子を中心とした一般市民を対象と

して,助産実践及び教育の第三者評価及び認証に関する事業を行うことで,助産教育及び実践の質の向上と利用者の選択の利便を支援すると共に,その成果を助産教育機関・助産所・実践助産師・一般市民に情報開示し,社会における助産サービスの質がより一層向上し,ひいては母子の保健・福祉の向上に寄与すること」を目的として設立された
(甲2)原告は,

引き続き,
専門職大学院の評価事業を行うほか,
助産師養成機関や助産所の第三者評価事業を行ってきた(甲4,37)。
(3)

助産関連5団体は,
既に助産師資格を有する者のうち,
公益社団法人日本

看護協会が開発した助産実践能力習熟段階
(クリニカルラダー)
のレベルⅢである,
「入院期間を通して,
責任をもって妊産褥婦・新生児の助産ケアを実践できる」

「助
産外来において,個別性を考慮したケアを自律して提供できる」「助産外来におい,
て,指導的な役割を実践できる」「院内助産において,自律してケアを提供できる」,
及び「ハイリスクへの移行を想起に発見し対処できる」といったレベルに到達している者を「アドバンス助産師」と認証する制度を創設し,原告にその認証を行わせることとして,原告は,平成27年8月1日から,認証申請の受付を開始した(甲1,8~12,37)
。原告は,同年12月25日,申請者のうち5562人を「ア
ドバンス助産師」と認証した(甲13,14,53)

(4)

厚生労働省は,
平成27年10月15日,
第2回周産期医療体制のあり方

に関する検討会を開催し,この中で,アドバンス助産師認証制度が紹介された(甲15)

(5)

原告は,平成28年12月24日,申請者のうち5440人を「アドバン
ス助産師」と認証した(甲42,53)

(6)

厚生労働省医政局地域医療計画課長は,
平成29年3月31日,
各都道府

県衛生主管部(局)長に対する「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」と題する通知において,周産期医療の体制を構築するに当たっての現状把握のための指標例として,
「アドバンス助産師数」を挙げた(甲48,49,51,52)

(7)

病院によっては,ウェブサイトに「アドバンス助産師」が病院内に存在す
ることを記載し,充実した周産期医療を提供できることを広報している病院がある(甲17~24,26,27)

(8)

原告は,
「アドバンス助産師」の認証を行う団体として,類似の民間資格

等が出現することを防ぐために本願商標の出願をした。
2
判断
(1)

前記1(3),(8)のとおり,
「アドバンス助産師」認証制度は,既に助産師

資格を持つ者であって,一定の助産実践能力を有する者を「アドバンス助産師」と認証するものであるところ,原告は,
「アドバンス助産師」を認証する団体であるこ
とから,本願商標の出願をしたものである。そうすると,本願商標は,助産師でない者を「助産師」と称するために出願されたものではないから,本願商標が登録されたからといって,保助看法42条の3第2項の規定に違反する事態が発生するおそれがあるということはできない。
(2)

本願商標のうち「Advanced

Midwife」の文字部分の「A

dvanced」「Midwife」の各欧文字は,

「上級の」「助産師」をそれぞ

れ意味する英語である(乙3,4)から,
「Advanced

Midwife」の

欧文字部分からは,
「上級の助産師」の意味が生じるものと認められる。また,本願
商標のうち,
「アドバンス助産師」の文字部分からは,
「上級の助産師」という意味
が生じるものと認められる。
そうすると,本願商標は,
「上級の助産師」の意味が生じる語を日本語表記及び英
語表記で表示したものであって,本願商標全体としても,
「上級の助産師」の意味を
生じるということができる。
ところで,①前記1(3)のとおり,
「アドバンス助産師」制度は,助産関連5団体
によって創設されたもので,
「アドバンス助産師」を認証するための指標は,公益社
団法人日本看護協会が開発したものであるから,その専門的知見が反映されているものと推認されること,②前記1(1),(2)のとおり,原告は,専門職大学院の評価事業のほか,助産師養成機関や助産所の第三者評価事業を行っており,助産分野の評価を適切に行えるものと推認されること,③前記1(6)のとおり,「アドバンス助
産師数」は,厚生労働省により周産期医療体制の現状把握のための指標例とされていること,以上の事実からすると,
「アドバンス助産師」認証制度は,一定程度の高
い助産実践能力を有する者を適切に認証する制度であると評価されるべきものと認められる。また,前記1(3),(5)のとおり,
「アドバンス助産師」認証制度は,平成
27年から実施され,既に1万人を超える「アドバンス助産師」が存在すること,前記1(7)のとおり,各病院において,ウェブサイトに「アドバンス助産師」の認証を受けた助産師が存在することを記載し,充実した周産期医療を提供できることを広報していることからすると,
「アドバンス助産師」は,国家資格である助産師資格
を有する者のうち,
一定程度の高い助産実践能力を持つ者を示すものであることが,
相当程度認知されているものと認められる。
そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,
「アドバンス助産師」を,助産
師のうち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者であると認識するということができるところ,その認識自体は,決して誤ったものであるということはない。(3)

国家資格の中には,
知識や技能の難易度等に応じて,
同種の資格の中で段

階的にレベル分けされているものがあることが認められる(乙21~28)が,上級の資格を「アドバンス」と称する国家資格があるとは認められないこと(甲28参照)や前記のとおり「アドバンス助産師」制度が相当程度認知されていることからすると,
「アドバンス助産師」が「助産師」とは異なる国家資格であると認識されるとは認められないし,仮に,そのように認識されることがあったとしても,以上の(1),(2)で述べたところからすると,本願商標が国家資格等の制度に対する社会的信用を失わせる「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」ということはできない。
(4)

したがって,
本願商標が
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある
商標」
(商標法4条1項7号)に当たるということはできない。
第6

結論

よって,原告の請求には理由があるから,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官
森義之早苗
裁判官
永田古庄
裁判官

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