判例検索β > 平成29年(ネ)第54号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成29(ネ)54
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年9月1日
法廷名大阪高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)8062
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主1文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,5万円を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを100分し,その97を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,160万円を支払え。

3
訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,控訴人が,大阪市情報公開条例(平成13年大阪市条例第3号。以下「本件条例」という。
)に基づき,大阪市教育委員会に対し,ピースおおさ
か展示リニューアル監修委員会における配布資料(以下「本件文書」という。)
等の公開請求(以下「本件請求」という。
)をしたところ,大阪市教育委員会
から,平成27年2月12日付けで,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由とする非公開決定(以下「本件非公開決定」という。
)を受けたことをめぐって,同決定
等の違法を理由として,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料160万円の支払を求める事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴した。

2
本件条例の定め(乙1)
原判決2頁2行目から3頁5行目までのとおりであるから,これを引用する。3
前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,又は証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる(一部の事実は,当裁判所に顕著である。。)
関係者

公益財団法人大阪国際平和センター(以下「本件センター」という。)
は,大阪空襲の犠牲者を追悼し,平和を祈念するとともに,空襲を中心に大阪の人々の戦争体験に関する情報及び資料の収集,保存,展示等を通じて,戦争の悲惨さ及び平和の尊さを次の世代に伝え,平和を願う豊かな心を育み,
もって世界の平和に貢献することを目的とする法人である乙2)


本件センターは,平成元年7月に被控訴人と大阪府が共同して出捐して設立された法人であり,本件請求当時(平成27年1月)の職員は4名であった(乙5)



本件センターは,前記目的を実現するための基幹事業として,平成3年9月,平和資料館「ピースおおさか」
(以下「ピースおおさか」という。

を設置し,以降,ピースおおさかを運営して戦争と平和に関する資料を展示している(甲3,乙5)

ピースおおさか展示リニューアル事業(以下「本件事業」という。)


本件センターは,本件事業について,平成25年4月9日,ピースおおさか展示リニューアル構想を発表した(乙5)



本件センターは,本件事業について,平成25年9月13日,ピースおおさか展示リニューアル基本設計(中間報告)を発表し,同年11月27日,ピースおおさか展示リニューアル基本設計を発表した(乙7,11)。


本件センターは,本件事業について,平成26年2月4日,前記イの基本設計に基づき,ピースおおさか展示リニューアル実施設計(中間報告)を発表し,同年4月10日,ピースおおさか展示リニューアル実施設計を発表した。なお,遅くとも同年9月頃には,ピースおおさかのリニューアルオープンの時期が平成27年4月に予定されていた。
(乙15,16,
18,19,21,24)

ピースおおさかは,平成27年4月30日,リニューアルオープンしたが,
事前にリニューアル後の具体的な展示内容は公開されなかった甲8)(

本件非公開決定に至る経緯等


控訴人は,「ピースおおさか」の危機を考える連絡会事務局」の肩書き「
で,平成27年1月27日付けで,大阪市教育委員会に対し,本件条例5条に基づき,公文書特定事項を「ピースおおさか展示リニューアルに係る次の文書」「B.世界中が戦争をしていた時代」のコーナーの映像シナ,「
リオ(検討中の文書),「F.私たちの未来を創っていくために」のコー」「
ナーにおける自衛隊・集団的自衛権・国際社会における平和貢献に関する展示」「直近の監修委員会において検討した資料」として,公文書の公開,
請求(本件請求)をした(甲12)



大阪市教育委員会は,本件請求の対象となる文書を,第16回ピースおおさか展示リニューアル監修委員会配布資料(本件文書)であると特定した上,平成27年2月12日付けで,控訴人に対し,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由として,本件文書を公開しない旨の本件非公開決定をし,控訴人は,同月14日,同決定の通知書を受領した(甲5,6)



控訴人は,平成27年3月6日付けで,本件非公開決定を不服として,大阪市教育委員会に対し,異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)
を行った(甲6)



大阪市教育委員会は,ピースおおさかのリニューアルオープン後の平成27年6月12日付けで,本件非公開決定を取り消した上(以下「本件取消決定」という。,本件請求について,個人の氏名(既に公開されている)
部分を除く。
)を除く部分を公開する旨の部分公開決定(以下「本件部分
公開決定」という。
)をし,控訴人は,その頃,同決定の通知書を受領し
た(甲7)


控訴人は,平成27年8月14日,本件訴えを提起した。


大阪市教育委員会は,平成27年9月11日,本件異議申立てについて,本件条例17条に基づき,審査会への諮問を行った。

4
争点
本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか
本件取消決定は国家賠償法上違法であるか
本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮問を行わなかったことは,国家賠償法上違法であるか
損害の有無及び損害額

5
争点に関する当事者の主張
本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか
(控訴人の主張)

本件文書に記録されている情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該当しないこと
被控訴人は,本件文書には,本件条例7条2号(以下,単に「2号」ということがある。
)が定める「法人等に関する情報であって,公にす
ることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する非公開情報が記録されている旨主張する。しかし,後記

ないし

のとおり,上記主張は失当である。

大阪市が作成しホームページにおいて公表している「情報公開条例解釈・運用の手引」
(甲15)は,2号にいう「公にすることにより,権
利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」情報とは,次のようなものをいうとしている。


法人等の事業者が保有する生産技術上又は販売上の情報であって,公開することにより,当該法人等の事業者の事業活動が損なわれるおそれがあるもの


経営方針,経理,人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する
事項に関する情報であって,公開することにより,法人等の事業者の事業運営が損なわれるおそれがあるもの


その他公開することにより,法人等の事業者の名誉,社会的評価,
社会的活動の自由等が損なわれるおそれがあるもの
本件文書に記録されている情報は,次のとおり,前記

の①ないし③

のいずれにも当たらない。
被控訴人は,本件文書の公開により,本件センターに市民団体等から展示内容に関する要望や批判が寄せられ,メディアにも批判的に報道されることとなり,本件センターの職員4名が展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,質問に対する回答要求(以下「回答要求」という。)
や,各種メディアによる報道取材への対応に追われ,平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあったから,本件センターの業務に支障が生じるおそれがあった旨主張する。
しかし,多数の意見が提出されることは市民の注目を集める行政分野においては当然あり得ることであり,
「意見を寄せられては困るから情
報を秘匿する」といった運用が許されるべきではない。
控訴人を含む多数の市民が,ピースおおさか展示リニューアルについて,意見表明を重ねてきたが,それらはいずれも平穏な態様で行われてきた。市民団体は,平穏な態様で,要望書や要請書を提出していたものであり,その対応のために本件センターの職員に多大な負担を生じさせたことはなかった。
したがって,本件請求がされた時点において,本件文書の公開をすれば,上記職員が,市民団体等から提出される展示内容に関する要望や批判,回答要求に対する対応に追われてしまうと危惧されるような状況は存在しなかったのであり,本件文書を公開することにより,本件センターの業務に支障が生じるおそれがあったとはいえない。
被控訴人は,リニューアル後の展示内容を事前にどの程度明らかにするかは,ピースおおさかを設置運営する本件センターの裁量に属し,その裁量権が害されないこと自体が,2号にいう「正当な利益」に当たる旨主張する。
しかし,法人等に上記のような裁量権が認められる場合であっても,本件条例に基づいて外郭団体に関する情報公開を請求する権利が認められているのであるから,裁量権の存在は非公開情報に該当するか否かとは無関係であり,裁量権の存在をもって非公開情報に該当することの根拠とすることはできないはずである。したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
そうすると,本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情報に該当しないというべきである。そして,被控訴人は,本件文書に記録されている情報について,2号以外の本件条例7条各号に該当する旨の主張立証をしていないのであるから,本件文書に記録されている情報は,本件条例7条各号所定の非公開情報に該当するとはいえない。したがって,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由としてした本件非公開決定は,違法である。

前記アによれば,大阪市教育委員会の担当公務員が,本件文書に記録されている情報につき本件条例7条所定の非公開情報に該当すると判断したことについて,合理的根拠はなかったというべきである。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたということができるから,上記担当公務員が本件非公開決定をしたことは,国家賠償法上違法である。
(被控訴人の主張)

本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情報に該当すること
本件文書には,
「法人等に関する情報であって,公にすることにより,
当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する非公開情報(2号所定の非公開情報)が記録されている。その根拠は,次のとおりである。

本件文書は,第16回ピースおおさか展示リニューアル監修委員会における配布資料であって,平成27年4月中にリニューアルオープンが予定されていたピースおおさかのリニューアル後の展示内容,展示位置,展示物等で検討段階のものが詳細に記載されており,本件センターにおいてリニューアルオープン前にこれらを公開することは予定していなかった。
ピースおおさかのリニューアルについては,展示内容等に関し,市民団体等からそれぞれの歴史認識に基づく具体的な要望が出され,メディアによる報道もされていた。上記展示内容については,南京大虐殺や朝鮮人強制連行等に関する展示(以下「加害展示」という。
)の
撤去の当否などについて,市民団体や各種メディアの間で尖鋭な意見対立が生じており,本件センターにおいても,展示リニューアル構想,展示リニューアル基本設計,展示リニューアル実施設計を発表するたびに展示内容に関する意見や批判,回答要求を受け,その内容はリニューアル後の展示内容が明らかになるにつれて具体性を増していた。このような状況下において,展示内容を詳細に記載している本件文書を公開すれば,本件センターに市民団体等から展示内容に関する更なる具体的な要望や批判が寄せられ,メディアにも批判的に報道されることは容易に想定された。
本件センターの職員は4名のみであるから,展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,回答要求があった場合や,各種メディアがピースおおさかの展示内容に関する報道を行うにあたって本件センターに取材を行った場合,上記職員4名が,これらの対応に追われ,ピースおおさかのリニューアルオープンに向けて必要な準備を行うことが困難となり,平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあった。
したがって,本件文書を公開すれば,本件センターの業務に支障が生じるおそれがあった。

本件センターにおいては,本件請求がされた後においても,リニューアルオープンに向けたPR活動やその後の集客方針を検討するものとされていた。
そして,リニューアルオープン前にリニューアル後の展示内容をどの程度明らかにするかということは,ピースおおさかを設置運営する本件センターの裁量に属する事項であることからすれば,その裁量権(リニューアル後の展示内容について情報公開するかしないかを決定することにつき有する裁量権)が害されないこと自体が,2号にいう「正当な利益」に当たる。
そうすると,大阪市教育委員会が本件文書を公開してリニューアル後の展示内容の詳細を明らかにすることは,本件センターの上記裁量権を害することになるから,2号にいう「正当な利益を害するおそれ」があるといえる。
なお,本件非公開決定は,本件文書に記録されている情報につき本件
条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当するとしたが,本件訴訟では,本件文書に記録されている情報が,本件条例7条所定の非公開情報に該当することの根拠としては,2号のみを主張し,4号及び5号の主張はしない。

前記ア

によれば,大阪市教育委員会が,本件文書を公開することによ

り,本件センターの正当な利益を害するおそれがあるとして,2号所定の非公開情報に該当することを理由に本件非公開決定をしたことについて,相応の合理的な根拠があったというべきである。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたということはできず,上記担当公務員が本件非公開決定をしたことが国家賠償法上違法であるとはいえない。
本件取消決定は国家賠償法上違法であるか
原判決7頁23行目から8頁8行目までのとおりであるから,これを引用する。
本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮問を行わなかったことは,国家賠償法上違法であるか
原判決8頁10行目から9頁10行目までのとおりであるから,これを引用する。
損害の有無及び損害額
原判決9頁12行目から10頁5行目までのとおりであるから,これを引用する。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
本件文書
本件文書は,本件事業に関する本件センターの諮問機関である展示リニューアル監修委員会において配布された検討資料であって,平成27年1月下旬頃にとりまとめられた(甲5,14)

本件文書には,ピースおおさかのリニューアル後の展示内容の詳細が示されており,各展示ゾーンにおける展示物の配置,展示物の寸法,内容,展示方法等映像についてはキャプチャー画像,

字幕の内容,
表示方法等も含む。

が明らかにされているほか,これらの根拠となる統計資料や従前の検討資料からの変更点も記載されていたが,本件センターはリニューアルオープン前にこれらを公開することを予定していなかった(甲14)

本件事業に関する経緯

ピースおおさかは,平成3年9月の開館以来,世界平和に貢献するという設置理念の下,戦争による被害と加害を両面から捉える必要性を意識し,加害展示を行っていた(甲3,乙4,5)

加害展示については,肯定的な意見もある一方,残酷,偏向,自虐的などとする否定的な意見もあり,従前には加害展示に関する資料の撤去,差替え,説明文の変更等を行ったことがあった(乙5)



本件センターは,ピースおおさかが開館以来,常設展示のリニューアルがされていないことなどを受け,平成25年4月9日,ピースおおさか展示リニューアル構想を発表した。同構想においては,“大阪中心”に“子「
ども目線”で「平和を自分自身の課題として考えられる展示」
」にリニュ
ーアルすることがコンセプトとして掲げられ,加害展示についても見直す方針であることなどが報道された。
(乙4,5)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,原判決別紙1「ピースおおさかの展示リニューアルに対しての要望等(受理日順)(以下「要望等一覧」という。」

の受付番号1から19まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の1)。

本件センターは,平成25年9月13日に展示リニューアル基本設計中(
間報告)を発表した。同設計においては,従前まで加害展示を扱ってきた部分を,大阪空襲に至った経緯として日清・日露戦争から太平洋戦争までを概観する内容とすることが示され,各種メディアにおいても,
「南京の
展示がなくなる可能性が高い」などといったピースおおさかの館長の発言とともに加害展示が大幅に縮小される旨報道された。
(乙7から10まで)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号20から53まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の2)



本件センターは,平成25年11月27日に展示リニューアル基本設計を発表した。同設計においては,市民団体からの指摘等を踏まえ,前記ウの中間報告から,大阪空襲に至る経緯に関する展示が補充されたほか,大阪空襲直前の大阪市街地の航空写真の展示を取りやめるなどの修正が行われた。
(乙11から13まで)
上記発表やこれに関する報道を受けて,本件センターには市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号54から69まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の3)
。また,
控訴人の所属する市民団体である「ピースおおさか」の危機を考える連「
絡会」は,大阪府知事及び大阪市長に対し,計画の見直しを求める6662筆の署名を提出した(乙14)



本件センターは,平成26年2月4日に展示リニューアル実施設計(中間報告)を発表した。同設計においては,
「展示に当たっての留意点」と
して「政府の統一的な見解を踏まえつつ,事実を客観的に展示することを基本とし…」などとされたほか,照明・音響等を利用して当時の防空壕を再現することなどが示されたのに対し,各種メディアには,博物館の方針が時の政権に左右される懸念がある,防空壕の安全性に対する誤解を与えるなどと報道をするものがあった。
(乙15から17まで)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号70から74まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の4)


本件センターは,平成26年4月10日に展示リニューアル実施設計を発表したが,その後も,各種メディアにおいては,南京事件に関する展示を撤去する方針を撤回する旨の方針が示された旨の報道がされるなど,ピースおおさかの展示内容に関する報道が継続的に行われた。
(乙19から
乙29まで)
上記発表及び報道を受けて,本件センターには,市民団体等からリニューアル後の展示内容に関し,要旨,要望等一覧の受付番号75から93まで記載のとおりの意見や要望が寄せられた(乙6の5)



本件センターが平成27年1月30日に開催した理事会(平成26年度第6回理事会)では,
「ピースおおさか展示リニューアル「詳細設計」最
終報告(案)について」と題する議案が審議され,おおむね原案の内容で進めるものの,一部については引き続き監修委員会で精査するものとされた。また,同理事会においては,オープン日をいつに設定するかの意見や,どのようにPRするかについて検討し団体見学受付は連休明けの早い時期から受け付けるよう検討すべきであるなどの意見も出された。
(乙41)
なお,ピースおおさか展示リニューアル「詳細設計」最終報告は,同年3月20日に開催された本件センターの平成26年度第7回理事会において,出席理事全員一致により可決された(乙42)



ピースおおさかは,平成27年4月30日にリニューアルオープンしたところ,その後も,原判決別紙2「ピースおおさかリニューアルオープン以降の要望等一覧(財団)
」記載のとおり,本件センターには市民団体等から展示内容に関する批判や変更を求める要請が寄せられた(甲10,乙40,43から45まで,48から58まで)

2
争点

(本件非公開決定は国家賠償法上違法であるか)について

前記前提事実,前記認定事実及び証拠(後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定判断することができる。
本件文書に記録されている情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該当するか

大阪市が作成しホームページにおいて公表している「情報公開条例解釈・運用の手引」
(甲15)は,2号にいう「公にすることにより,権利,
競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」情報とは,次のような情報をいうとしている。


法人等の事業者が保有する生産技術上又は販売上の情報であって,公開することにより,当該法人等の事業者の事業活動が損なわれるおそれがあるもの



経営方針,経理,人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報であって,公開することにより,法人等の事業者の事業運営が損なわれるおそれがあるもの



その他公開することにより,法人等の事業者の名誉,社会的評価,社会的活動の自由等が損なわれるおそれがあるもの


被控訴人は,本件文書の公開により,市民団体等から展示内容に関する要望や批判が寄せられ,メディアにも批判的に報道されることとなり,本件センターの職員4名が展示内容に関する市民団体等からの要望や批判,回答要求や,各種メディアの報道取材への対応に追われ,平成27年4月中のリニューアルオープンが不可能となるおそれがあったから,本件文書を公開すれば,ピースおおさかのリニューアルオープンに向けての準備に係る本件センターの業務に支障が生じるおそれがあったとして,本件文書に記録されている情報は2号所定の非公開情報に該当する旨主張するので,以下検討する。
非公開とされた本件文書は,展示リニューアル監修委員会における配布資料として,平成27年1月下旬頃にとりまとめられたものであるところ,ピースおおさかのリニューアルオープンは同年4月中と間近に迫っており,その内容が詳細にわたっていることに照らせば,これが公開されることにより,リニューアル後の展示内容の詳細が明らかになるものであったといえる。しかし,それは予定された公開展示の内容であり,それまでに展示リニューアル基本設計,同実施設計が公表されてきたことに照らしても,それ自体秘密性を有するものとはいえないし,また,前記アの①ないし③の類型にあてはまるものではない。一方,ピースおおさかの展示内容については,加害展示の撤去の当否などをめぐって市民団体や各種メディアの間で尖鋭な意見対立が生じており,本件センターは,展示リニューアル構想,展示リニューアル基本設計,展示リニューアル実施設計を発表するたびに展示内容に関する意見や批判,回答要求を受け,その内容はリニューアル後の展示内容が明らかになるにつれて具体性を増していたものと認められる。
本件請求がされたのは,ピースおおさかのリニューアルオープンが約3か月後に迫った平成27年1月27日であるところ,上記のようなピースおおさかのリニューアルをめぐる状況に照らせば,本件請求当時,リニューアル後の展示内容の詳細を明らかにする本件文書を公開すれば,本件センターに市民団体等から更に具体的な展示内容に関する意見,批判,回答要求等が多数提出されることや,メディアにより展示内容につき批判的に報道されることが予想される状況であったと認めることができる。
しかしながら,本件センターは,大阪府と大阪市が設立した公益財団法人であり,その目的に照らしても強い公共的性格を有するところ,その職員が4名のみであるとしても,本件センターが,展示内容に関する市民団体等からの意見や批判,回答要求の提出を受けることのないように取り計らうことは,直ちに正当なものと解し難い。そして,上記の意見や批判,回答要求の提出があった場合であっても,本件センターはこれに対応ないし応答する義務を負うものではないのであるから,その職員がリニューアルオープンに向けた準備を行うのに支障が生じない範囲で対応することで足りるというべきであって,
それは可能なはずである。
また,各種メディアがピースおおさかの展示内容に関する報道を行うにあたって本件センターに取材を行ったとしても,同様に業務に支障のない範囲で対応することで足りるというべきである。また,本件センターと大阪府や被控訴人との関係からすれば,本件センターが大阪府や被控訴人から一時的に人員の応援派遣を受けることも考えられないではなく,そうすることにより本件センターの業務への影響は更に軽減することができたと考えられる。
そうすると,本件文書を公開することにより,本件センターの職員4名が,ピースおおさかのリニューアルオープンに向けて必要な準備を行うことにつきある程度の影響が出ることは否定できないとしても,リニューアルオープンが困難となるおそれがあったとまでは認め難い。したがって,被控訴人の前記

の主張は採用することができない。

被控訴人は,リニューアル後の展示内容を事前にどの程度明らかにするかは,ピースおおさかを設置運営する本件センターの裁量に属し,その裁量権が害されないこと自体が,2号にいう「正当な利益」に当たる旨主張するので,以下検討する。
被控訴人の主張するような本件センターの裁量が2号にいう「正当な利益」に含まれる余地があるとしても,前記のような本件センターの性格に照らすと,上記「正当な利益」が肯定されるのは,本件センターがリニューアル後の展示内容をリニューアルオープンまで明らかにしないことについて合理的な理由がある場合に限られると解すべきである。なぜならば,合理性のない判断は「正当な利益」を基礎づけるものではないし,また,本件条例7条3号では,実施機関が公にしないとの条件で任意に提供を受けた情報であっても,非公開とするには,当該条件を付することが合理的であると認められることを要するものとされていることとの均衡からも,上記のように解すべきことは明らかである。
そして,本件において,本件センターがリニューアル後の展示内容を事前に公開しないと判断したことの根拠は,公開した場合に予想される市民団体からの要望や批判,回答要求があった場合や,各種メディアからの報道取材への対応に追われ,リニューアルオープンに向けて必要な準備ができなくなることにあると解されるところ,このような理由が,合理的なものとはいえないことは,前記イに説示したところに照らして明らかである。
したがって,被控訴人の前記

の主張は採用することができない。

以上によれば,本件文書に記録されている情報は,2号所定の非公開情報に該当するとは認められないというべきである。そして,被控訴人は,本件文書に記録されている情報について,2号以外の本件条例7条各号に該当する旨の主張立証をしていないのであるから,本件文書に記録されている情報は,本件条例7条所定の非公開情報に該当するということはできない。
したがって,本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号,4号及び5号所定の非公開情報に該当することを理由としてした本件非公開決定は,違法である。
前記

によれば,大阪市教育委員会の担当公務員が,本件文書に記録されている情報につき本件条例7条2号所定の非公開情報に該当すると判断したことについて,合理的根拠はなかったというべきであり,相応の合理的な根拠があった旨の被控訴人の主張は採用することができない。
したがって,大阪市教育委員会の担当公務員は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件非公開決定をしたといわざるを得ないから,上記担当公務員が本件非公開決定をしたことは,国家賠償法1条1項の適用上違法である。そして,上記担当公務員に過失があったことも明らかであって,被控訴人には,本件非公開決定によって控訴人が被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。
3
争点

(本件取消決定は国家賠償法上違法であるか)について

本件取消決定は,ピースおおさかのリニューアルオープンに伴い,非公開とすべき事由が消滅したとの判断の下に本件非公開決定を取り消すものであるところ(前記前提事実

エ)
,当時の大阪市教育委員会が非公開とする判

断をした根拠によれば,リニューアルオープン後においては,なお同決定を維持すべき理由はなく,改めて公開すべきこととなるから,その趣旨に従って新たな公開決定をする前提として本件非公開決定を取り消すこととしたのは当然であり,かつ,控訴人の利益となる処分であるから,これが控訴人に対して国家賠償法上違法となる余地はないというべきである。
控訴人は,①本件非公開決定が取り消されたことにより,同決定の取消しを求める訴えの利益がなくなり,行政事件訴訟法により保障された裁判を受けることができなくなったから,本件取消決定は裁判を受ける権利を侵害する,②本件取消決定は本件非公開決定という違法行為を追認し矮小化するものであるなどと主張する。
しかしながら,①本件取消決定は,控訴人が訴訟によって求める本件非公開決定の取消しと同様の効果を実現するものであって,裁判を受ける権利は裁判外で当該権利の救済が実現されることを否定するものではないから,本件取消決定が控訴人の裁判を受ける権利を侵害するものとはいえないし,②本件非公開決定が違法であるとすれば,これを正すことは行政の使命であるから,本件取消決定は本件非公開決定の違法を理由としてされたものではないとはいえ,結果的にそれと同様の効果をもたらす本件取消決定をすることは,なんら違法行為を追認するものというに当たらない。したがって,控訴人の主張には理由がない。
4
争点

(本件異議申立てにおいて,平成27年9月11日まで審査会への諮
問を行わなかったことは,国家賠償法上違法であるか)について
後記

のとおり補正するほかは,原判決17頁11行目から18頁23行
目までのとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正

原判決18頁5行目から7行目にかけての「これらの事情に加えて,本件非公開決定が違法とはいえないことを併せ考慮すれば,
」を「これらの
事情によれば,本件非公開決定が違法であることを考慮しても,
」に改め
る。


原判決18頁19行目の「必要はない。
」の次に,
「もっとも,本件部分
開示決定は,
「個人の氏名(すでに公開された部分を除く)
」を非開示とし
ており,全部公開されたわけでないことから,なお異議申立ての利益があると解される余地があり,その点を考慮して後日審査会への諮問が行われたものと推測される。しかし,そのような解釈を採ったとしても,控訴人の目的はすでに実質的に達成されていることからすると,このような形式的な手続の遅延をもって控訴人に対する国家賠償法上の違法をもたらすとみることはできない。
」を加える。

5
争点

(損害の有無及び損害額)について

前判示のとおり,被控訴人には,本件非公開決定によって控訴人が被った損害を賠償すべき責任がある。控訴人は,本件非公開決定によって控訴人が被った精神的苦痛につき慰謝料を請求しているところ,前記認定事実のとおり,控訴人は,本件非公開決定によりピースおおさかのリニューアルオープンの前に本件文書を見ることできず,展示内容に対する意見を述べることができなかったこと,しかし,リニューアルオープンの後ではあるが,本件部分開示決定により,本件文書の部分開示を受けることができたこと,また,仮に控訴人がリニューアルオープン前に本件文書の開示を受けて展示に関する意見を述べたとしても,展示内容の決定についてはすでに最終段階に至った後であり,本件センターとしては,意見を考慮する余地はなかったし,その繁忙状況からして控訴人からの意見等に何らかの対応を採ることは困難であったものと考えられることなど,本件において認められる諸般の事情を考慮すると,控訴人に対する慰謝料としては,5万円を認めるのが相当である。
第4

結論
以上によれば,控訴人の請求は,慰謝料5万円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。したがって,これと異なる原判決を主文第1項のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官

佐村浩之
裁判官

大野正

裁判官

井田宏
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