判例検索β > 平成29年(ヨ)第186号
暴力団組事務所使用禁止等仮処分命令申立
事件番号平成29(ヨ)186
事件名暴力団組事務所使用禁止等仮処分命令申立
裁判年月日平成29年9月1日
法廷名京都地方裁判所
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主1文
債務者は,別紙物件目録記載1の建物につき,下記の行為をするなどして,
指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の事務所又は連絡場所として使用してはならない。



上記建物内で指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の定例会,儀式又は会合を行うこと



上記建物内に指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の構成員を立ち入らせ,又は当番員をおくこと



上記建物の外壁に指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団を表象する紋章,文字板,看板,表札及びこれに類するものを設置すること
2執行官は,前項の趣旨を適当な方法で公示しなければならない。3申立費用は債務者の負担とする。

理由
第1申立ての趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下「暴力団対策法」という。)32条の5第1項により国家公安委員会の認定を受けた都道府県暴力追放運動推進センターである債権者が,別紙物件目録記載1の建物(以下「本件建物」という。)の付近に居住する委託者ら(以下「本件委託者ら」という。)から委託を受けて,同法32条の4第1項に基づき,本件委託者らのために,本件建物が指定暴力団六代目A会の下部組織であるB会の事
務所として使用されていることにより,本件委託者らの平穏に生活する権利が侵害されていると主張して,人格権(妨害排除請求権)に基づき,同会会長である債務者に対して,本件建物を同会その他の指定暴力団の事務所等として使用することの禁止等の仮処分を求めた事案である。
2本決定に使用する用語の説明
暴力団
その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう(暴力団対策法2条2号参照)。
指定暴力団
都道府県公安委員会において,その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として,暴力団対策法3条に基づき指定した暴力団をいう。
3前提事実
以下の事実は,各項末尾の括弧内掲記の疎明資料及び審尋の全趣旨によって,容易に認められる。
当事者等

債権者等
債権者は,暴力団対策法32条の3に基づき,京都府公安委員会から指定された都道府県暴力追放運動推進センターであり,かつ国家公安委員会から同法32条の5第1項に基づく差止請求関係業務を行うことができる都道府県暴力追放運動推進センターとしての認定を受けている(甲1,2)。
本件委託者らは,いずれも京都市a区b町c丁目ないしd丁目(位置関係は,別紙図面(○番号で示しているのは,京都市a区b町以下の「丁目」の番号である。)記載のとおり)に居住する者であり,その居
住区域は,いずれも同町e丁目に所在する本件建物(別紙図面記載の赤丸斜線の位置)から約500m以内の距離にある。
本件委託者らは,暴力団対策法32条の4第1項に基づき,本件建物について,指定暴力団の事務所としての使用及びこれに付随する行為の差止めの請求について,債権者に委託を行った。(以上につき,甲30,審尋の全趣旨)

債務者及び関係者
債務者は,指定暴力団六代目A会(以下,現在の指定暴力団を指すときは「六代目A会」といい,平成4年7月27日の1回目の指定暴力団の指定を受けて以降,現在に至るまでの一連の暴力団組織を指すときは,単に「A会」という。)の下部組織であるB会の会長であり,六代目A会若頭であった者で,現在は,自身を七代目A会会長に就任したと主張する者である(甲7の1・2,8,審尋の全趣旨)。
B会は,六代目A会の下部組織であり,約15人の構成員を擁する暴力団である(甲7の1·2)。
A会は,平成28年7月時点で,京都府及び北海道を中心に勢力を有し,約130人の構成員を擁する暴力団である。京都府公安委員会は,直近では,同年7月27日に,暴力団対策法3条の要件を満たすとして,六代目A会について,指定暴力団の指定を行った。(以上につき,甲7の1·2)
Cは,六代目A会の会長であった者であり,現在,自身を七代目A会の総裁の地位にあると主張する者である(甲8)。
Dは,六代目A会の下部組織であるE会の会長であり,現在は,自身を平成29年1月にCの地位を承継し,七代目A会の会長に就任したと主張する者である(甲8)。
本件建物の使用状況,周辺環境等


本件建物は,別紙図面記載の赤丸斜線の位置にあるが,同位置はF駅から南西に約500mの位置にあり,その近隣は,第一種住居地域に指定されている。
本件建物から北東に約400mの位置には京都市立G小学校が,北に約300mの位置にはH大学が,南西に約100mの位置にはI児童館がそれぞれ存在する。(以上につき,甲4)


債務者は,現在まで,本件建物を債務者が会長を務めるB会の事務所として使用するとともに,平成29年2月7日頃からは,自ら会長に就任したと主張する七代目A会の本部としても使用している。(以上につき,甲7の1·2,審尋の全趣旨)


B会の組員である,J,K,L及びMは,住民票上の住所を本件建物所在地に定めている(乙1~4)。
裁判所によるA会事務所の使用禁止
京都地方裁判所は,Nの申立てを認め,平成29年4月27日,従前,六
代目A会の事務所として使用されていた別紙物件目録記載2の建物(以下「別件建物」という。)について,暴力団事務所としての使用を禁止する仮(以下「別件仮処分決定」とい
う。)をした(甲8)。
4争点及び争点に関する当事者の主張
被保全権利の有無(争点



〔債権者〕
以下の事情からすると,本件建物周辺で抗争事件が発生する危険性は高く,本件委託者らを含む周辺住民は強い精神的不安の中での生活を強いられているのであるから,本件委託者らの平穏に生活する権利は侵害されており,本件委託者らは,人格権(妨害排除請求権)に基づき,本件建物を暴力団の事務所として使用することの差止請求権を有する。


そもそも,縄張等をめぐって暴力団相互間又は暴力団内部で対立が生じ
た場合には,暴力行為を伴った抗争事件が生じることは,暴力団という団体の性質上不可避である。

A会においては,日本最大の指定暴力団でありA会とも強い結び付きを有するO組の分裂騒動に関連して,内部分裂が生じ,平成29年1月以降現在まで,いずれも六代目A会の下部組織の組長であった債務者とDのそれぞれが七代目A会会長に就任したことを主張するという異例の事態となっており,緊張状態にある。


上記A会の分裂騒動は,O組とP組との分裂騒動と密接な関連性を有するところ,この分裂騒動に関連して,極めて危険性の高い抗争事件が多数発生している。


別件仮処分決定が出されたことにより,別件建物をA会の本部事務所として使用できないことになったことから,債務者は,本件建物をB会の事務所としてのみならず,自らが正統性を主張する七代目A会の本部事務所として使用している。
また,B会の組員のみならず,O組関係者も平成29年1月11日の騒動以降本件建物に日常的に出入りし,債務者を支持するA会構成員と行動を共にしている。なお,同年7月中旬以降については,O組関係車両が本件建物に立ち寄っていないことは積極的に争うものではないが,これまで立ち寄っていた理由を債務者において明らかにしていない以上,単に立ち入る者の人数の減少が両組織の関係性が希薄化していることを示す事情にはならない。
そうすると,本件建物は,債務者及びそれを支持するO組に関連する施設として,対立するD及びそれを支持するP組関係者からの襲撃の標的となる可能性が高い。


京都府警察本部とQ警察署は,平成29年4月19日及び同月20日,
債務者らB会暴力団員9名に対し,同年3月25日から同年4月2日までの間,本件建物及びその周辺において,敵対する暴力団関係者からの襲撃に備え,同会暴力団員等が集団でたむろし,通行人等を睨み付けるなどの威勢を示し,その付近の住民又は通行人に不安を覚えさせる行為をしたとして,暴力団対策法30条に基づく中止命令を発令した。
〔債務者〕
本件においては,以下のとおり,本件委託者らを含む周辺住民の平穏に生活を送る権利が受忍限度を超えて侵害されているということはないから,債権者の主張する被保全権利は存在しない。

暴力団対策法の改正によって,抗争事件に巻き込まれた市民が容易に暴力団組長の民事責任を追及することが可能となり,抗争事件に市民を巻き込むことは,暴力団の存続を危うくすることを意味するようになった。そのため,最近の暴力団による抗争事件においては,対立する暴力団の構成員のみを確実に攻撃の対象とすることとされており,一般市民を巻き込むことは禁忌とされている。


確かに,平成29年1月11日以降,債務者とDがともに七代目A会会長を名乗り,A会は分裂したような状態になっているが,同日に騒動があった後には,この両者の間で衝突やトラブルが起きたことはなく,事態は沈静化している。


債権者は,O組の分裂騒動に関連する抗争事件が全国で多発していることを本件建物周辺の危険性を支える事情として主張するが,この抗争事件は,平成28年4月にP組が指定暴力団とされて以降,激減しており,沈静化している。


本件建物に立ち寄るO組関係車両の数についても,平成29年6月以降急激に減少しており,同年7月中旬以降は存在しない。


債権者指摘の中止命令が出されたのは事実であるが,これは,B会組員
数名がH大学へ入学すると思しき若者とその家族が他府県ナンバーの車で本件建物周辺を往来するのを注視していたことを警察から問題にされたにすぎない。

本件建物は,これまで約35年もの長期間にわたって,B会の事務所として使用されているが,これまでその周辺で抗争事件が発生したことはない。B会構成員は,暴力団構成員であることを自覚し,周辺住民に迷惑をかけないよう配慮し,周辺住民と共存してきた。債務者は,中止命令を受けて以降,自動車での来訪者には近隣のコインパーキングに駐車するよう指示したり,サーチライトのスイッチも切るなど,改善策を実行している。また,4人のB会構成員が本件建物に住民票を置き,生活の本拠としているのであって,本件仮処分が発令されれば,これらの者の住居が奪われる。
保全の必要性の有無(争点



〔債権者〕
前記のとおり,本件建物周辺で抗争事件が発生する危険性は高いが,ひとたびそのような事態が発生すれば,本件委託者らに回復不可能な性質の損害が生じるおそれがあるから,保全の必要性がある。
〔債務者〕
債権者の主張は争う。
仮処分の方法(争点



〔債権者〕
法律上仮処分の方法については特に限定されておらず,裁判所はその裁量により必要な処分をすることができるところ(民事保全法24条),執行官による公示については,それによって,B会の暴力団構成員以外の者にも,本件建物が暴力団の事務所として使用することが禁じられていることを示すことが可能となり,本件建物の占有をめぐる紛争やそれに付随する抗争事件
の発生を未然に防ぐ効果があるため請求するものである。
〔債務者〕
執行官による公示については,そもそも不作為を公示しても法律上何らの効果も生ぜず無意味であること,債権者は実体法上の公示請求権を有しないから,これを認めると債権者に本案で勝訴した以上の利益を与えることになること,不作為命令の公示は執行官の職務内容に属しないことなどからすると,裁判所が執行官による公示を命じることはできない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実及び疎明資料(甲5,6,7の1·2,9,12,13,17~19,25~27,乙1~4)並びに審尋の全趣旨によれば,以下の事実が一応認められる。
A会及びそれに関連する暴力団の近時の情勢について

六代目A会は,別件建物を主たる事務所とする指定暴力団であり,平成29年7月時点で,京都府及び北海道を中心に勢力を有してその構成員は約130人に及んでいる。
Cは,平成20年頃,六代目A会の会長に就任し,以後同会の会長を務めており,債務者は,Cの下で,同会の若頭を務めていた。


O組は,平成26年末の時点で構成員等が合計2万3400人に及ぶ日本最大の指定暴力団であり,その人数は日本の全暴力団構成員等の人数の約4割超を占めていたが,平成27年8月末,13人の直系組長が同組を離脱し,新たに暴力団P組(平成28年4月15日に指定暴力団とされた。)を結成したことにより,分裂して対立状態となった。
警察庁は,同年3月7日,両団体が対立抗争状態にあると認定し,これを受けて,全国44都道府県警察において集中取締本部が設置され,京都府警察においても,同月8日,O組・P組対立抗争集中取締本部を設置し,
以後,この対立抗争についての警戒や取締りの徹底を図っている。同年3月7日から同年4月14日までには,O組とP組の対立抗争に起因するとみられる抗争事件が少なくとも全国で26件発生し,同月15日にP組が新たに指定暴力団とされて以降は,発生頻度は減少したものの,同月15日から同年12月末までの間,少なくとも15件発生した。同年におけるこれらの抗争事件のうち主要なものとしては,P組下部組織構成員が,同年3月,埼玉県行田市内において,O組下部組織事務所に火炎瓶を投げ入れて放火し,同県熊谷市内において,同組下部組織幹部の使用車両に放火したもの,O組下部組織幹部らが,同年3月,神戸市内において,P組下部組織事務所にダンプカーを突入させたもの,P組下部組織構成員が,同年3月,東京都足立区内において,O組下部組織構成員らを殴打したもの,O組下部組織組長らが,同年3月,京都市内において,P組下部組織事務所に拳銃を発砲したもの,O組下部組織構成員が,同年5月,岡山市内において,P組下部組織幹部を射殺したものがある。
両組織の対立状態は,現在まで収束しておらず,平成29年6月にも,P組下部組織幹部が愛媛県西条市内において刺殺され,その後,O組関連組織組長がこれを行った疑いで逮捕された事件,P組下部組織組長らの乗った車が大阪府東大阪市内の路上で銃撃された事件等が発生した。ウ
A会は,もともとO組と友好関係にあったが,平成27年8月末にO組が分裂して以降,六代目A会内において,P組に近いCとそれを支持する構成員,O組に近い債務者とそれを支持する構成員との間に内部対立が生じていた。
このような状況下で,Cは,平成28年12月に,裁判所(一審)で,詐欺罪により実刑判決を受けた。このため,Cは将来収監が予想されることになり,しかも75歳と高齢でもあったことから,これを機に,A会会長の後継者を巡る紛争が表面化した。


平成29年1月10日,A会本部事務所(別件建物)において同会の定例会が予定されていたが,多数のO組関係者が上記本部事務所に押し掛け,これと行動を共にする一部のA会構成員が上記本部事務所を占拠した。また,同日,Cが会長を退任すること,債務者がCの後継者に当たるA会七代目会長となることを内容とするC名義の通知が関係する暴力団等に発せられたものの,その直後,Cにより,上記通知はCの関知しないものであること,債務者を絶縁処分とすることを内容とする通知が関係する暴力団等に発せられた。
Cは,翌11日,多数のP組関係者とともに,上記本部事務所に入り,これを占拠した。そして,これに対抗した債務者及びO組関係者が上記本部事務所周辺を取り囲むなどしたため,上記本部事務所周辺は,多数の暴力団関係者の怒号が飛び交うなど騒然とした状態となった。
この騒動のため,京都府警察は機動隊を出動させ,近隣の小学校では授業の一部が取りやめとなった。


Cは,平成29年1月21日には,Dが組長を務めるE会の事務所において,自身は六代目A会会長を引退して総裁の地位に就き,DがCの引退を受けて,七代目A会会長に就任する旨の継承式を開催した。同継承式では,P組と友好関係にある暴力団組織の幹部が取持人を務めた。
他方で,債務者は,同年2月7日,自身が会長を務めるB会の事務所である本件建物において,自身がA会七代目会長に就任する旨の継承式を開催した。同継承式では,O組若頭補佐であるRが後見人を務めた。

その後現在まで,債務者とDとは,いずれも自身が正統なA会七代目会
長である旨主張している。
本件建物の使用状況及びその周辺環境等について

本件建物の所在地は,近隣が第1種住居地域に指定され,北東約400mの位置に小学校,北に約300mの位置に大学,南西約100mの位置
に児童館がある。
本件建物は,鉄骨造3階建の建物であり,その全てがB会の事務所として使用されている。

京都地方裁判所は,Nの申立てを認め,平成29年4月27日,債務者らを債務者として,従前,六代目A会の事務所として使用されていた別件建物について,暴力団事務所としての使用を禁止する別件仮処分決定をした。
これにより,別件建物がA会の本部事務所として使用できなくなったこともあり,債務者は,現在は,本件建物を債務者が正統性を主張する七代目A会の本部としても使用している。


平成29年1月以降,本件建物にO組関係車両が頻繁に立ち寄るようになった。その車両の台数,乗車人数や頻度は,同年4月までは,ほぼ毎日,少ない日で台数は1台,乗車人数は1名,多い日は,台数は6台,乗車人数は15名に及んでいたが,その頻度や数は,同年3月頃から減少し,7月中旬以降については立寄りの事実は認められていない。


京都府警察本部とQ警察署は,平成29年4月19日及び同月20日,債務者らB会暴力団員9名に対し,同年3月25日から同年4月2日までの間,本件建物及びその周辺において,敵対する暴力団関係者からの襲撃に備え,同会暴力団員等が集団でたむろし,通行人等を睨み付けるなどの威勢を示し,その付近の住民又は通行人に不安を覚えさせる行為をしたとして,暴力団対策法30条に基づく中止命令を発令した。
本件委託者らの居住地域について
本件委託者らは,いずれも京都市a区b町c丁目ないしd丁目(位置関係
は,別紙図面(○番号で示しているのは,京都市a区b町以下の「丁目」の番号である。)記載のとおり)に居住する者であり,その居住区域は,いずれも同町e丁目に所在する本件建物(別紙図面記載の赤丸斜線の位置)から
約500m以内の距離にある。
暴力団の性格及び暴力団全般の情勢について

暴力団は,その団体の構成員である暴力団員が集団的に又は常習的に暴
力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体であり,その共通した性格は,その団体の威力を利用して暴力団員に資金獲得活動を行わせて利益の獲得を追求するところにある。暴力団においては,強固な組織の結び付きを維持するため,組長と組員が,「杯事(さかずきごと)」といわれる秘儀を通じて親子(若中),兄弟(舎弟)という家父長制を模した序列的擬制的血縁関係を結び,組員は,組長に対する全人格的包括的な服従統制下に置かれている。
暴力団にとって,縄張や威力,威信の維持は,その資金獲得活動に不可欠のものであるから,他の暴力団との間に緊張対立が生じたときには,これに対する組織的対応として暴力行為を伴った対立抗争が生ずることが不可避である。

平成19年から平成28年までの10年間において,暴力団の対立抗争
に起因する不法行為は合計141回発生し,うち銃器が使用されたものは合計67回ある。これらの不法行為による死者数は合計23人であり,負傷者数は合計38人であり,そのうち平成19年死者1人は暴力団構成員等ではない一般市民である。また,同じ期間において,暴力団によるとみられる銃器発砲事件は合計249件発生している。
2被保全権利の有無(争点⑴)について
判断

本件建物は,第1種住居地域に指定された住宅街に所在し,本件委託者
らはいずれも本件建物(別紙図面記載の赤丸斜線の位置)から約500m以内の距離に居住していることから,本件委託者らは日常的に本件建物付近を往来しているものと推認でき,ひとたび本件建物で暴力団の抗争事件
が生じれば,その生命,身体に危害が及ぶ蓋然性は高いと考えられる。そして,前記認定のとおり,本件建物は,長年にわたり,債務者が会長であるB会の事務所としても使用されているだけでなく,現在は,正統な七代目A会会長であると主張する債務者により,同会の事務所としても使用されている。
A会においては,Cの後継者をめぐり,債務者とDとが共に正統な七代目会長を名乗って,相容れない状況下にあり,内部的に強い緊張状態にあるところ,A会のこのような状態は,単なる同会の内紛にとどまるものではなく,O組とP組との分裂騒動と密接に関連しており,実際に,平成29年1月10日及び同月11日には,債務者及びO組関係者とC,D及びP組関係者との間で,衝突が起きた。
O組と同組から離脱したP組との対立に関連する抗争事件は,全国規模で生じているところ,京都府警察も対策本部を設置して警戒に当たっていることは前記認定のとおりであり,この分裂騒動に関連する抗争事件が京都府内でも現実に生じる危険性があると認められる。
本件建物自体に関する危険性についても,上記のとおり,本件建物が債務者が正統性を主張する七代目A会の本部事務所として使用されていること,平成29年1月以降同年7月中旬頃までは,本件建物にO組関係車両が立ち寄っていたこと,京都府警察本部とQ警察署は,同年4月19日及び同月20日,債務者らB会暴力団構成員9名に対し,暴力団対策法30条に基づく中止命令を発令したことなどから容易に推認できるものである。これらの事情に,暴力団にとっては,他の暴力団との間に緊張対立が生じたときには,これに対する組織的対応として暴力行為を伴った対立抗争が生ずることが不可避であるという暴力団の性格に照らすと,債務者が活動拠点としている本件建物及びその周辺においては,債務者やこれを支持する者が債務者に対抗する者やこれを支持する者からの攻撃を受けるなど,
暴力行為を伴う抗争事件が生じる蓋然性が高い状態にあるというべきである。
そして,前記認定事実記載のとおり,一般的に暴力団による抗争事件においては銃器が用いられる場合も少なくなく,一般市民に死者が生じた事案も存在する。
また,O組とP組との抗争事件においては,拳銃による射撃,火炎瓶による放火,ダンプカーによる突入等が行われていることは前記認定のとおりであり,一般市民に被害が及ぶ危険性の高い形態による攻撃が実際に繰り返されているということができる。

以上のとおり,現在,本件建物又はその周辺において,債務者やこれを支持する者が攻撃を受けるなど,暴力行為を伴う抗争事件が生じる蓋然性が高く,かつ,その際には一般市民にも被害が及びかねない危険な攻撃が行われる可能性も十分にあるといえるのであるから,本件建物から約500mにすぎない範囲に居住する本件委託者らにとっては,本件建物が債務者を会長とする指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の事務所として使用されることにより,生命,身体又は財産に被害を生じる蓋然性も認められ,人格権としての平穏に生活する権利が受忍限度を超えて侵害されているものというべきである。
したがって,本件仮処分の被保全権利として,本件委託者らは,債務者に対し,本件建物を指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の事務所として使用すること及びこれに付随する行為の禁止を求める権利を有するものと認められる。
債務者の主張について


債務者は,平成16年に暴力団対策法が改正され,抗争事件に巻き込まれた一般市民が暴力団組長の民事責任を追及することが容易となって以降,暴力団においては,抗争事件で一般市民に被害を生じさせることは禁忌と
なり,そのため,現在では,仮に抗争事件が生じたとしても一般市民に被害が及ぶ可能性は乏しくなっていると主張する。
確かに,平成20年以降には,暴力団の抗争事件に巻き込まれて一般市民が死亡する事案は発生していない。しかしながら,同年以降も抗争事件においては一定の割合で銃器が使用され続けており,平成28年のO組とP組との抗争事件においては,銃器の他にも火炎瓶やダンプカーが使用されるなど,上記法改正以降も現在に至るまで,客観的には一般市民への二次的な被害も生じかねない危険な攻撃方法が採られているものといわざるを得ず,これに反する内容の疎明資料は何ら提出されていない。そうすると,抗争事件の危険性を客観的に評価すると,債務者の主張を採用することは困難といわなければならない。

また,債務者は,A会の分裂騒動,O組とP組との対立抗争は,いずれも現在までに沈静化していると主張する。
しかしながら,A会においては,債務者とDが共に七代目会長を名乗っている状態が依然として継続していて,相容れない状況下にあることから,強い緊張状態にあり,その対立状態が解消したことを認めるに足りる疎明資料は存しないこと,O組とP組の対立抗争に関連すると考えられる暴力行為は,平成29年6月においても,愛媛県及び大阪府で発生していることからすると,これらの分裂騒動が抗争事件の可能性がなくなるほどに沈静化していると評価することは困難である。
債務者は,A会におけるO組とP組の対立抗争に関連する衝突は,同年1月11日の一回だけしかないことを強調するが,むしろ,対立状態が継続する現状においては,一回衝突が生じたこと自体,A会について,対立する者の間で衝突が生じる危険性が現実化する可能性を示す事情とみることもできる。
なお,確かに,本件建物に立ち寄るO組関係車両は,同年1月以降漸減
しており,同年7月中旬以降は存在しないことは前記認定のとおりであるが,この関係車両の減少等は未だ短期間のものにとどまり,現状が将来にわたって継続する保証は全くないのであって,その他にも債務者とO組との関係が解消されたことを示す疎明資料はない。

債務者は,本件建物は,これまで約35年もの長期間にわたって,B会の事務所として使用しており,周辺住民と共存してきたと主張するが,仮にそのような事情があるとしても,前記のとおり,平成29年1月にはA会の分裂騒動が表面化し,同会の本部事務所において現実に構成員同士の衝突が生じており,本件建物はB会の事務所のみならず,債務者が正統性を主張する七代目A会の本部事務所としても使用されているのであって,現在では,本件建物と周辺住民との関係についても,従前とは異なる状況に至っているというべきである。
なお,本件申立てにおける本件委託者らは19人にすぎないが,本件のような暴力団員を債務者とする仮処分の性質に鑑みると,一般市民が委託者となるのに多少なりとも心理的抵抗を感じるのは自然なことであり,これらの人数の多寡によって地域社会におけるB会事務所の受容性を評価することはできない。


前記前提事実記載のとおり,現在,4人のB会構成員が本件建物に住民票を置いていることが認められるところ,債務者は,本件仮処分が発令されれば,これらの者の住居が奪われるということになることを主張する。しかしながら,上記4名が本件建物を生活の本拠として使用しているこ
と自体については,これを認めるに足りる疎明がない上,仮にそのとおりであるとしても,暴力団の事務所自体,暴力団対策法においても,使用制限がされ得るものとされており(同法15条),上記4名も当然これを知悉していると解されることからすれば,本件仮処分が発令されることにより,上記4名が本件建物に居住できなくなるおそれがあるとしても,これ
をもって,本件仮処分の発令を妨げる事情とみることは困難といわざるを得ない。
4保全の必要性の有無(争点

)について

前記3記載の事情に照らすと,本件建物が指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の事務所として使用されることにより,本件委託者らの生命,身体又は財産に被害を生じる蓋然性が認められ,本件委託者らに生じる著しい損害又は窮迫の危険を避けるため本件仮処分を発する必要性が認められる(民事保全法23条2項)。
5仮処分の方法(争点

)について

仮処分の方法については,本件建物につき,指定暴力団六代目A会B会その他の指定暴力団の事務所又は連絡場所としての使用することを禁止する(主文第1項)とともに,前記3記載の事情に照らし,本件委託者らの生命,身体又は財産に被害を生じる危険を避ける目的を達するために必要な処分として,執行官をして,上記使用禁止の趣旨を公示させる(主文第2項)こととする。債務者は,執行官による公示を認めることの問題点を指摘するが,法文上「必要な処分」(民事保全法24条)には限定がないところ,本件においては,指定暴力団という,その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい団体の下部組織の代表者を債務者とするものであり,不作為命令のみであると債務者がこれに従わないおそれがあること,単に抗争事件が生じる危険性がある暴力団の事務所が存在しているというにとどまらず,A会において,七代目会長が並立する内部的な緊張状態が今なお継続している上,これと密接に関連するO組とP組との対立抗争が継続している状態にあることなどから,本件建物及びその周辺において,本件委託者らの生命,身体又は財産に被害を生じる危険が現に切迫しているという特別な事情が存することなどからすると,上記の危険を回避する本件仮処分の目的を達するためには,本件建物につき債務者に対してB会等の事務所等としての使用禁止
を命ずるのみでは足りず,その旨を公示し,本件建物がB会等の事務所等として使用することが禁止されている旨を対外的にも明らかにする必要があるものと認められる。
6結論
以上のとおりであるから,債権者の本件申立ては理由があり,事案の性質に照らして債権者に担保を立てさせないで,これを認容することとする。よって,主文のとおり決定する。
平成29年9月1日
京都地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

神山
裁判官

中嶌諏訪
裁判官

渡邊毅裕
〔別紙は省略〕


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