判例検索β > 平成29年(行コ)第7号
公務外災害認定処分取消請求控訴事件
事件番号平成29(行コ)7
事件名公務外災害認定処分取消請求控訴事件
裁判年月日平成29年7月6日
法廷名名古屋高等裁判所
原審裁判所名岐阜地方裁判所
原審事件番号平成25(行ウ)11
戻る / PDF版
平成29年7月6日判決言渡
平成29年(行コ)第7号

名古屋高等裁判所
公務外災害認定処分取消請求控訴事件(原審・岐阜地

方裁判所平成25年(行ウ)第11号)
主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

第2
1
事案の概要
本件は,岐阜市の職員であり,岐阜市役所都市建設部公園整備室長として勤務していたAが,平成19年11月26日,自殺したこと(以下「本件災害」という。)について,亡A(以下「亡A」という。)の妻である被控訴人が,亡Aは,業務が特殊かつ困難な公園整備室の室長となったが,その当時,例年になく困難な業務が多かったこと,都市建設部長や副市長からパワーハラスメントを受けたこと,公園遊具の設置に関し,決裁を後回しにされた上,押印を強要されたこと,降格覚悟で出した異動希望がかなわなかったこと,休日でも十分な休養を取れない状態にあったことなどから,強い精神的負荷を受け,うつ病を発症し,これにより自殺したものであり,本件災害は公務に起因するものであると主張して,処分行政庁に対し,公務災害の認定請求をしたところ,処分行政庁から,平成23年8月1日付けで,本件災害について公務外の災害と認定する旨の処分(以下「本件処分」という。)を受け,これを不服として地方公務員災害補償基金岐阜県支部審査会に対してした審査請求が平成25年3月15日付けで棄却され,地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求をしたが,再審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がないこと(その後,同年11月25日付け棄却の裁決)から,本件処分の取消しを求める事案である。
原審は,亡Aは,強度の精神的負荷を与える事象を伴う業務に従事したため,遅くとも平成19年11月頃までには抑うつ状態となったということができ,亡Aが従事した公務と上記精神疾患との間には相当因果関係が認められ,上記精神疾患と本件災害との間にも相当因果関係が認められるから,本件災害には公務起因性が認められるとして,本件処分を取り消し,被控訴人の請求を理由があるものとして認容した。
そこで,控訴人が控訴した。
2
前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,3のとおり控訴人の当審における補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2

事案の概要等」の2及び3に記載するとおりであるから,こ

れを引用する。
(1)

原判決2頁24行目の「1の6,」の次に「3の1,」を加える。
(2)

同3頁3行目の「18の4」の次に「,原審における証人B」を加える。
(3)

同3頁10行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「ウ

平成19年度の都市建設部は,C副市長が統括していた(乙3の5,弁論の全趣旨)。」

(4)

同3頁14行目ないし15行目の「27日」を「27日付けで」に改め
る。
(5)

同4頁6行目の「10日」を「10日付けで」に改める。

(6)

同4頁7行目の「審査会長」を「審査会」に改める。

(7)

同4頁8行目の「棄却された。(」の次に「甲4,」を加える。

(8)

同4頁16行目の「第9号」の次に「に該当する精神疾患に起因する自
殺」を加える。
(9)

同9頁14行目の「国体誘致」を「国体会場誘致」に改める。
(10)

同11頁6行目の「亡Aは,」の次に「公園整備室長の立場として,利
用者の安全を最優先に考え,」を加える。
(11)

同15頁18行目の「厚生労働基準局長」を「厚生労働省労働基準局長」
に改める。
(12)

同15頁20行目の「基発第1226号第1号」を「基発第1226第
1号」に改める。
(13)
3
同20頁1行目の「事件」を「事故」に改める。

控訴人の当審における補充主張
(1)

亡Aの精神疾患の発症時期は平成19年10月下旬以降であると考えら
れるところ,亡Aの精神疾患の発症前のおおむね6か月の間である平成19年4月から同年10月までの間に,亡Aが精神的負荷及び肉体的負荷を受けたと思われる出来事及びその心理的負荷の程度は以下のとおりである。なお,その間における亡Aの業務による出来事の心理的負荷の程度を評価するに当たっては,「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付け基発1226第1号)の別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「心理的負荷評価表」という。)及び「「精神疾患等の公務災害の認定について」の実施について(通知)」(平成24年3月16日地基補第62号)の別表「業務負荷の分析表」(以下「業務負荷分析表」という。)によって行うこととする。

長良公園の管理の一体化について
亡Aは,他の公園整備室職員とともに,平成19年夏頃,B部長から,岐阜県が管理する部分を含めて長良公園全体を岐阜市で引き受けるための資料の作成を指示された。これは心理的負荷評価表の15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当すると考えられるが,仕事の多さは特になく,平成19年7月以降の時間外労働時間数も20時間未満であることからすると,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

O広場の問題について
亡Aは,花火の時にO広場で人を入れて金を取ると言ってきた暴力団関係者と思われるDと話合いを行った上,平成19年7月28日及び同年8月4日の花火大会の日に同広場で監視業務を行ったが,その際,Dからクレームを受けた可能性は否定できない。これは心理的負荷評価表の12の「顧客や取引先からクレームを受けた」に該当すると考えられるが,クレームの内容が失当であることは明らかであり,亡A自身,Dと話がついたとされていることに照らせば,その業務内容や業務量に大きな変化はなかったと考えられるので,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
業務負荷分析表では「7

住民等との公務上での関係」の類型に該当す

ると考えられるが,上記からすれば,同表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

長良公園整備について
亡Aは,本件遊具の施工について反対し,着工を延ばすと完成までの工期が取れなくなってしまう事態に陥り,やむなくB部長と副市長で決裁した後,Fの説得を受けて決裁書に判を押した。これは心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,亡Aは,Fの説得を受けて決裁書に判を押した上,その後も公園整備室長としての業務に従事していたのであるから,その後の業務に大きな支障を来したとはいえず,その心理的負荷の程度は「中」にとどまるというべきである。業務負荷分析表では「6

対人関係等の職場環境」の類型に該当すると

考えられるが,上記によれば,同表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

公園管理事務所作業に伴う事故処理について
平成19年4月23日に上川手広場で職員が広場の隣地のフェンスを破損させる事故が発生し,同年9月7日に溝口公園で,同月21日に島南公園でそれぞれ職員が草刈り作業中付近の駐車車両のリアガラスを破損させる事故が発生したが,いずれも報道発表がなく,亡Aにおいて特段の対応を取ったことはうかがわれないから,亡Aが公園整備室長であることを考慮しても,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。


スプリング遊具破損対応について
平成19年6月18日に寺田公園でスプリング遊具破損の事故が発生し,同月20日,同年9月5日及び同月7日に新聞報道がなされ,亡Aは,同月6日の記者発表をFと2名で行ったものであるが,そのほかに亡Aが特段の対応をとったことはうかがえないから,亡Aが公園整備室長であることを考慮しても,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記によれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。


管理公園内での第三者事故対応について
亡Aは,①平成19年7月8日に北山公園で発生した滑り台コンビ遊具からの落下事故に関して,消防本部から連絡があり,情報収集を部下に指示し,対応策を考え,上司の了解を得た上で,直接対応し又はその指示を出したこと,②同年10月14日に清水緑地で発生した公園施設内にカラースプレーで落書きされる事故に関し,Fとともに,事故の経緯が分かる書面とQ&Aを作成し,記者発表を行ったこと,③同月31日にサッカーゴール事故に関し,被害者側の考え方が変わって急きょ記者発表を行うことになり,B部長から正確な情報を上げるよう注意され,かつ,記者発表の場で記者から厳しい質問を受けて答えられず,Fが代わりに答えたことがあった。
管理公園内での第三者事故が発生したときの初期対応並びに記者発表及びそのための準備作業は,公園整備室長としての通常の業務の範囲内であり,心理的負荷評価表の「具体的出来事」のいずれにも当たらないから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。また,記者発表に関するB部長からの注意は,心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,業務指導の範囲内である指導であり,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。さらに,記者発表の場で記者から厳しい質問を受けたことは,心理的負荷評価表の12の「顧客や取引先からクレームを受けた」に該当すると考えられるが,Fが代わりに回答し,その後に特段の対応を求められることもなかったのであるから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

水の体験学習館(水琴窟)について
亡Aは,公園整備室長になってからも,定期的に水琴窟裁判の状況を確認し,書類を決裁に上げるとき確認し,Gに質問していた。これは心理的負荷評価表の「具体的出来事」のいずれにも当てはまらないから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
また,亡Aは,9月市議会で,議員から,水琴窟裁判の質問はするが,質問内容はあらかじめ通告しないという対応をされ,Gらとともに市議会の控え室で待機していた。これも心理的負荷評価表の「具体的出来事」のいずれにも当てはまらないから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

P公園審査請求(行政不服審査法)について
亡Aは,部下の職員を連れて,P公園の占有利用に関して抗議していた住民の自宅を何回も訪問していた。これは心理的負荷評価表の12の「顧客や取引先からクレームを受けた」に該当すると考えられるが,N団体に使用許可を出したのは亡Aではないから,亡Aの対応自体が非難を受けているものではなく,実際に亡Aとしては,自宅訪問以外の特段の対応を求められるものではないことからすると,業務内容や業務量にも大きな変化はなかったと考えられるから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。


条例改正について
(ア)

北西部運動公園に関する料金について
亡Aは,本件条例案の作成に当たり,Gと手分けをして,全国の中核
市で似たようなスポーツ施設を持つ自治体に電話をして料金を聞き,市民体育室から出てきた意見を併せて条例案を作成した。これは心理的負荷評価表の15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当すると考えられるが,平成19年7月以降の時間外労働時間数も20時間未満であることからすれば,仕事内容・仕事量の大きな変化はなかったといえ,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
また,亡Aは,平成19年10月23日,北西部運動公園の条例改定に関し,B部長から金額設定の根拠が不十分なので追加調査を行うよう指示された。これは心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,業務指導の範囲内である指導であり,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。
(イ)

岐阜公園の駐車場の料金について
亡Aは,本件条例案を決裁に上げたところ,岐阜公園の駐車場の条例
案の作成を指示され,Gと一緒に関連するところに電話をかけて料金を調べて確認を取り,金額を決めて条例の形を整えた。これは心理的負荷評価表の15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当すると考えられるが,平成19年7月以降の時間外労働時間数も20時間未満であることからすれば,仕事内容・仕事量の変化は大きくなかったといえ,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
また,亡Aは,Gに岐阜公園の駐車場の条例案を作成するよう伝えた際,Gと一時口論になり,にらみ合いになるほどだった。これは心理的負荷評価表の32の「部下とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,口論やにらみ合いは一時的なものであり,その後は協力して条例案の作成に必要な調査をしていることから,客観的に認識されるトラブルとはいえず,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。
(ウ)

無料の公園施設の予約システムについて
亡Aは,C副市長に本件条例案を持って行ったところ,無料の公園施設の予約システムを電子化するように言われ,そのシステムを作らなければ本件条例案も判を押さないと言われた。これは心理的負荷評価表の8の「達成困難なノルマが課された」に該当すると考えられるが,最終的には,電子化を検討することを約束するだけで判を押してもらっており,その後に具体的な対応をしておらず,そのやりとりも約20日間に生じた出来事であったことがうかがわれるから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

Q公園について
亡Aは,平成19年9月頃,Q公園の件で,ある個人による公園整備室への訪問又は電話の対応をしたことがうかがわれる。これは心理的負荷評価表の11の「顧客や取引先から無理な注文を受けた」に該当すると考えられるが,警察と対応を協議したこともなかったのであるから,同人からの要望それ自体が達成を強く求められるものではなく,業務内容・業務量に大きな変化はなかったと考えられるから,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
業務負荷分析表では「7

住民等との公務上での関係」の類型に該当す

ると考えられるが,上記によれば,同表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

B部長の叱責について
亡Aは,平成19年度の初め頃に1回だけ,B部長から市長報告について,「組織としてどう考えているのか。1人で仕事をしているわけではない。」と叱責を受けた。これは心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,業務指導の範囲内である指導・叱責であり,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
上記からすれば,業務負荷分析表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しない。

公園整備室長に就任したことについて
(ア)

亡Aは,平成18年4月に公園整備室の審議監に就任し,平成19
年4月に公園整備室長に就任した。これは心理的負荷評価表の25の「自分の昇格・昇進があった」に該当すると考えられるが,亡Aが公園整備室長として公務に従事した平成19年4月から同年10月までの具体的な出来事の心理的負荷の程度については,上記アないしサのとおりであり,いずれも亡Aの経験等と著しくかい離した責任を課せられた出来事ではなく,その他に特筆すべき出来事はなかったのであるから,公園整備室長に就任したこと自体による心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである。
業務負荷分析表では「3

役割・地位等の変化

(2)昇任」の類型に

該当すると考えられ,亡Aは,初めて管理職になり,業務・人事管理の責任に加え,公園整備室の懸案事項の処理を期待されたといえるが,上記からすれば,亡Aに期待された懸案事項は,いずれも必ずしも困難なものとはいい難く,同表の「過重な負荷となる可能性のある業務例」のいずれにも該当しないというべきである。仮に,困難な懸案事項の処理を期待されたといい得るとしても,個々の懸案事項の具体的な状況を踏まえて検討すれば,強度の精神的負荷を受ける業務に従事したとまではいえないというべきである。
(イ)

亡Aが事務職職員であることに起因すると思われる具体的な出来事
としては,長良公園整備(上記ウ)があるのみであり,この件以外では,亡Aが事務職職員であることに起因して業務に支障が生じたことはうかがわれないのであるから,この点を単独で取り上げて大きな精神的苦痛があったとすることは失当である。
また,都市建設部の部長であるB部長,統括審議監であるF,公園整備室長を補佐するH審議監は,いずれも技術職職員であり,事務職職員である公園整備室長をサポートできる体制が整っていたのであるから,亡Aが技術職職員をまとめていく立場となった点を単独で取り上げて相当の業務上の負荷があったとすることは失当である。
さらに,平成19年度の公園整備室における事故やトラブルの具体的な状況を前提として検討した心理的負荷の程度は,上記エ(公園管理事務所作業に伴う事故処理について),上記オ(スプリング遊具破損対応について),上記カ(管理公園内での第三者事故対応について)及び上記ケ(条例改正について)のとおりであり,これら事故やトラブルの具体的な状況を考慮することなく,以前よりも事故件数が多かったことから一般的・抽象的に精神的・肉体的負荷の大きいものであったとすることは失当である。
加えて,住民からの苦情や議員対応の具体的な状況を前提として検討した心理的負荷の程度は,上記イ(O広場の問題について),上記キ(水の体験学習館(水琴窟)について),上記ク(P公園審査請求(行政不服審査法)について)及び上記コ(Q公園について)のとおりであり,これら苦情や対応の具体的な状況を考慮することなく,苦情が多いことや議員の関心が高いことのみで一般的・抽象的に精神的・肉体的負荷の大きいものであったとすることは失当である。
(2)

上記(1)からすれば,平成19年4月から同年10月における亡Aの業務
による出来事のうち,長良公園整備については,その心理的負荷の程度は「中」に該当すると考えらえるが,その余の出来事はいずれも「弱」にとどまるものであるから,全体を評価しても「中」にとどまり,強度の精神的負荷を受ける業務に従事したとはいえないというべきである。
また,亡Aの同年7月から同年11月の時間外労働時間数は,休日労働時間を含めて,強度の肉体的負荷を受ける業務に従事したともいえない。したがって,同年4月から同年10月における亡Aの業務による出来事と精神疾患発症との間には相当因果関係は認められないというべきである。よって,本件災害についての公務起因性は認められない。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,亡Aの公務と精神疾患及び本件災害との間に相当因果関係を認めることができるから,公務起因性を否定した本件処分は取り消されるべきであると判断する。その理由は,次のとおり補正し,2のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3

当裁判所の判断」の1ないし5及び「第4

結論」(ただし,原判決

60頁5行目ないし6行目を除く。)に記載するとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決22頁12行目の「(乙」の次に「1の8,」を加える。

(2)

同22頁15行目の「管理グループ」の次に「(その職務内容は上記(ア)
②ないし⑦)」を加え,19行目の「乙」の次に「1の8,」を加える。(3)

同23頁2行目ないし3行目の「(乙5の1及び5,8の2,38)」
を「また,公園整備室を訪問し,怒鳴り声をあげる人も多く,職員の中には雰囲気の悪い職場だと感じる者もいた。(乙5の1及び5,8の2,38,39)」に改める。
(4)

同23頁11行目の「こともあった。」の次に「さらに,市議会議員の
要望対応も,公園整備室長が受けなければならないことが多かった。」を加える。
(5)

同24頁4行目の「国際推進室」を「国際交流推進室」に改める。
(6)

同24頁13行目の「ならないことから」を「ならず,技術職職員を指
導監督していくことは,事務職職員の場合とは違った配慮が必要なことから」に,同24行目の「技術職」を「技術職職員」にそれぞれ改める。(7)

同25頁25行目の「58の6,」の次に「原審における証人G,」を
加える。
(8)

同27頁1行目の「乙36」を「甲37の1,3及び4,乙3の6,乙
36」に改める。
(9)

同27頁12行目の「得なかった。(」の次に「甲36の1及び3,」
を,同19行目の「甲16の1,」の次に「乙3の6,」を,それぞれ加える。
(10)

同28頁10行目冒頭から12行目末尾までを削除する。

(11)

同29頁4行目の「証人G」の次に「,弁論の全趣旨」を加える。
(12)

同30頁3行目の「公園施設を使用していた」を「公園施設を事実上優
先的に使用していた」と改める。
(13)

同32頁20行目冒頭から24行目末尾までを次のとおり改める。
「(イ)

B部長は,9月市議会の際,議員からの質問に対応するため,かな
りいらだった状態で控え室に戻ってきた。そして,B部長は,控え室で待機していたI室長,亡A及びGに対し,事実関係等について質問したが,亡A及びGが直ちに的確な回答ができなかったことに怒り,亡A及びGに対して,強い口調で声を荒げて叱責した。そのため,Gは,叱責されて萎縮してしまった(乙39,原審における証人G)。」
(14)

同33頁4行目の「亡Aは」から7行目の「考えていた。」までを削除
する。
(15)

同33頁26行目の「亡Aが」から同34頁3行目末尾までを「そのよ
うな場合,B部長から受ける指示や注意が,B部長の対応に慣れていない亡Aのような者らにとっては,全てが叱責と受け止められるものであったことは十分に考えられることである。」に改める。
(16)

同34頁4行目冒頭から12行目の「いなかったと認めることはできない」までを次のとおり改める。


控訴人は,公園整備室の職員らが作成した書面(乙5の1から3まで,5から7まで,乙24の2から8まで)には,B部長が亡Aを叱責するところを見たことがない等と記載されていることを指摘する。しかし,これらの書面が作成されたのは,いずれもB部長が都市建設部長として在職中であった平成22年のことであり(乙63),組織の問題として,上記職員らには,自分のマイナスになるようなことは答えづらいと推測される状況が存在したと認められること(乙38,原審における証人J)に加え,これらの書面の中にも,B部長の席から遠かったり,亡AがB部長に報告等する場に同席していなかったから分からないなどとするものもあり(乙5の3,5から7まで,24の4,6から8まで),これらの書面だけで,B部長が亡Aを叱責していたことが否定されるものではない。」

(17)

同36頁24行目の「小さな事故」から25行目の「そのための」まで
を「公園で発生した事故は,基本的には記者発表しようという都市建設部(B部長)の方針のため,その」に改める。
(18)


同37頁10行目冒頭から14行目末尾までを次のとおり改める。しかし,亡Aは,平成19年度になり,本件計画を実行するか否かを決めるべき時期になると,何よりも人命が大切であり,そのためには高さ3メートル以上の遊具は作るべきでないとして,本件計画に頑なに反対するようになり,同年9月頃には,公園整備室長である亡Aの強い反対意見により,本件計画が進まない状況になっていた。これに対し,技術職職員らは,本件計画については自分たちに任せてほしいという気持ちを有していた。」

(19)

同37頁16行目の「本件計画について,」の次に「亡Aは,B部長か
ら公園整備室の方針を決めるように言われたことから,」を加える。(20)

同38頁5行目の「叫んだ」を「叫んだが,本件会議の結果,本件計画を実行することが決定した」と改める。
(21)

同38頁21行目の「長良川公園」を「長良公園」に改める。

(22)

同40頁13行目及び24行目の各「事件」をいずれも「事故」に改め
る。
(23)

同41頁8行目の「室長の」から10行目末尾までを「室長が年度途中
で異動するのは難しいので,すぐには無理である,平成20年3月まで待つようにと答えた。」に改める。
(24)

同42頁10行目の「ファミリーパーク」を「岐阜ファミリーパーク」
に,同11行目の「叱責」を「強い叱責」にそれぞれ改める。
(25)

同42頁16行目の「何度も」及び20行目の「は不眠を訴えていたが」
をいずれも削除する。
(26)

同43頁2行目の「乙1の9,」の次に「11,」を加える。

(27)

同43頁3行目冒頭から8行目末尾までを次のとおり改める。

「(イ)

上記認定に対し,被控訴人は,亡AがK議員から怒鳴られたと主張
する。この点,亡Aが,I室長に対し,K議員から強い叱責を受けたと述べ,被控訴人に対し,K議員から怒鳴られたと述べたこと自体が認められることは,上記(ア)のとおりである。しかし,この頃の亡Aは既に精神疾患を発症しており(上記コ(原判決)),K議員の叱責とはいえないような発言を叱責と捉え,怒鳴られたと受け止めたにすぎない可能性も高いといえることからすると,上記認定を超えて,被控訴人の主張するような事実を認定することはできない。」
(28)

同44頁6行目の「18の4」の次に「,26」を加え,同9行目から
10行目にかけての「各公演」を「各公園」と改める。
(29)

同45頁10行目ないし11行目の「小さいことまで気にする」を「部
下や上司の意見を素直に認めないところがある」に改める。
(30)

同46頁11行目の「なっていたことからすると」から13行目末尾までを「なっていた。そして,岐阜大学医学部附属病院精神神経科准教授Lは,本件災害前の亡Aの状況を子細に検討し,これらを総合すると,平成19年10月下旬から11月初旬頃には,うつ病エピソード(F32)を満たすほどの強い抑うつ症状が出現していたと考えられると判断していること(乙40),控訴人の精神医学専門家会議は,被控訴人及び亡Aの同僚職員等の証言を見ると,平成19年11月頃,何らかの精神疾患を発症していたと考えられるとの意見を述べていること(乙15)を総合考慮すると,亡Aは,同年11月頃には,うつ病を発症したと認められる。」に改める。
(31)

同46頁20行目の「判例時報837号34頁」を「裁判集民事119
号189頁」と,同47頁2行目の「判例時報1557号58頁」を「裁判集民事178号83頁」と,同3行目の「判例時報1564号137頁」を「裁判集民事178号621頁」と,それぞれ改める。
(32)

同47頁26行目の「参考すべきである」を「参考にすべきである」に
改める。
(33)


同49頁5行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
さらに,公園整備室では,技術職職員と事務職職員の間で安全性に対す
る考え方が異なる面もあり,管理職である事務職職員が,技術職職員を指導監督していくことには,事務職職員を指導監督する場合とは違った配慮が必要であるから,そのような中で職員をまとめていくについても,精神的負荷があったと考えられる。」
(34)

同51頁5行目の「責任者であったこと」の次に「に加え,亡Aが公園
整備室長になった頃には,職員が多忙のため,室長が自ら対応せざるを得ない状況にあり,組織としての対応力が弱まっていた面があったと指摘できること」を加える。
(35)

同52頁5行目の「訴訟準備」から6行目の「業務といえる。」までを
「訴訟準備は担当部署である公園整備室が担わざるを得ず,その責任者である公園整備室長にとっても精神的負荷のある業務といえる。」に改める。(36)

同52頁11行目の「大きいものであった」を「小さくはなかった」に
改める。
(37)

同53頁12行目の「亡Aの精神的負荷は大きかった」を「亡Aに精神
的負荷を与えるものであった」に,同17行目の「相当程度負荷の大きいものであった」を「相当程度の負荷があった」に,それぞれ改める。(38)

同53頁26行目の「亡Aは」から同54頁8行目末尾までを次のとお
り改める。
「B部長の対応に慣れない亡Aら事務職職員にとっては,B部長等の注意等は,叱責されているとか無能呼ばわりされているなどと受け止められるものであり,これらの者をますます萎縮させるものであったことが認められる。しかも,亡Aの場合には,公園整備室長としての業務が上記(2)(補正後)で述べたように過重なものであったことに加えて,初めての一部門の責任者である管理職としての精神的負荷も軽視できない状態であったことからしても,B部長との関係は,亡Aに対し,強い精神的負荷を与えるものとなっていたというべきであり,平均的な職員であっても,このような状況下に置かれれば,同様の強い精神的負荷を受けるものであったと考えることができる。」
(39)

同54頁9行目冒頭から同56頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「(4)

長良公園の遊具(本件遊具)問題(後閲問題)について
上記認定事実(前記1(5)イないしエ,補正後)によると,次の事実が認められる。
本件遊具を設置する計画(本件計画)について,本件計画に携わった公園整備室の技術職職員らは,安全性の観点も含め,十分な自信を持っていた。これに対し,亡Aは,人命が大切であるとして,公園整備室長として本件計画に反対し,本件計画が進まない状況になっていたが,部下である技術職職員らは,本件計画を自分たちに任せてほしいという気持ちを持っていた。亡Aは,B部長から公園整備室の方針を決めるように言われ,公園整備室の意見として,本件遊具を設置しないという亡Aの意見を採用したが,B部長は,その翌日の本件会議で,亡Aを一喝して叱り,亡Aの意見が間違っていると指摘し,亡Aの部下の技術職職員らの意見を支持した。このように本件遊具の設置が決定した後も,亡Aは本件計画の決裁に応じなかったため,B部長は,自ら決裁した上で,Jに指示し,亡Aの決裁を受けないまま,先にC副市長から本件計画の決裁を受けて,本件遊具の設置が決定された。その上で,B部長は,F及びI室長に対し,亡Aを説得するよう指示し,亡Aに決裁印を押させた。

亡Aは,B部長から言われて,公園整備室長としての立場において,
公園整備室の意見を取りまとめたにもかかわらず,その翌日には,B部長から,その意見を否定され,むしろ部下の意見を支持されたのであり,公園整備室内での室長と部下との意見対立を顕在化させて,公園整備室長の立場をなくされたようなものである。それのみならず,本件計画の決裁の順序を無視され,先にB部長及びC副市長が決裁をすることにより,自己の意見とは異なる意見に同調することを強いられたのであり,自尊心を傷つけられる行為がなされたといえる。そして,そのような立場に立たされた上司としては,その後の部下の指導がやりにくいと考えるのが当然であり,その後の業務に支障が生じるものであるというべきである。これら一連の経緯に鑑みれば,後閲問題は,亡Aに対し,相当強度の精神的負荷を与えるものであったことは明らかである。

これに対し,控訴人は,本件計画に反対する亡Aの主張は,合理
的・具体的根拠に欠けるものであり,亡Aが決裁印を押印しないことにより公園整備の計画を中断させることは組織として許されるものではなく,後閲問題が発生したのは,亡Aが自己の主義・主張を通そうとした結果生じたものであるから,この一連の経過を公務過重性として評価するのは不適当である旨主張する。
確かに,本件計画は,既に前年度の平成18年度の段階で実施のための予算が組まれていたし,公園整備室の技術職職員が安全性の観点からも念入りに検討していたから,この段階で本件計画の実施を中断させようとした亡Aの意見が採用されず,B部長において,本件計画を実施することに決めたことは自然な流れであったと思われ,B部長が本件計画の実施を決断したにもかかわらず,あくまでも本件計画の実施に反対して,決裁に応じなかった亡Aの行動は,疑問である。しかし,亡Aの行動に疑問な点があったとしても,亡Aは,後閲問題が発生した当時,公務の精神的負荷により,既に精神的な不調を来しており,そのような状態の中で,後閲問題によって亡Aが強い精神的負荷を負ったことは明らかであるから,公務過重性として評価すべきものである。」
(40)

同56頁17行目の「後閲問題によって受けた亡Aの精神的苦痛」を
「後閲問題が亡Aに与えた精神的苦痛」に改める。
(41)

同58頁1行目の「事務職職員」から3行目の「考えられる。」までを
「亡Aのような事務職職員が公園整備室長になった場合には,技術的な面の見識が深いとはいえないことから,技術職職員をとりまとめることに苦労があると考えられる。」に改める。
(42)


同58頁9行目冒頭から21行目末尾までを次のとおり改める。
このように,亡Aには,業務の面からも,職場における人間関係の面からも,精神的負荷のかかる状態にあったところ,本件遊具の設置問題があり,後閲問題が発生し,それらは公園整備室長である亡Aの自尊心を深く傷つけるようなものであったことからすると,この問題による亡Aに対する精神的負荷は,それ以前からあるB部長との関係や日常業務による精神的負荷とも相まって,極めて強いものであったと認められ,亡Aにかかる精神的負荷は,一般的にみても強度の域に達していたものということができ,新認定基準によっても,少なくとも第3(認定要件の検討)の1(1)ア(イ)⑫に該当するものがあるということができる。」
(43)

同59頁3行目の「4月1月」を「4月1日」と改め,4行目ないし5
行目の「あるから,」の次に「その時点では,亡Aは精神疾患にかかっていたとはいえず,」を加える。
2
控訴人の当審における補充主張に対する判断
(1)

控訴人は,当審において,心理的負荷評価表及び業務負荷分析表に基づ
く主張をしている。これらの基となる「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付け基発1226第1号)や「「精神疾患等の公務災害の認定について」の実施について(通知)」は,裁判所による行政処分の違法性に関する判断を直接拘束するものではないが,いずれも医学的知見に沿って作成されたものであり,一定の合理性があるから,以下,これらを適宜参照し,公務と精神疾患発症との間の相当因果関係の有無について判断することとする。
(2)ア

長良公園の管理の一体化について
これまで岐阜県が管理する部分と岐阜市が管理する部分が分かれていた
長良公園を岐阜市で一体管理するため,公園整備室長である亡Aの下,公園整備室で作業を行っていたものである(原判決の第3の1(3)キ)。これは心理的負荷評価表の15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当するといえるが,一体管理することのメリットを考えている段階であり(同上),何らかの具体的な調整を近接した期限までに行わなければならない状況にあったとは認められないから,仕事内容,仕事量の変化が大きいとまではいえず,その心理的負荷の程度は「弱」と判断すべきである。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「2

仕事の質・量

(1)

仕事の内容」の類型に該当し,出来事例の「制度の創設等に携わった」に近いものと見ることができるが,仕事の状況からすれば,負荷があったとしても,その程度はそれほど強いものであったとはいい難い。

O広場の問題について
(ア)

控訴人は,O広場の一部を駐車場として貸して金銭を得ていたDと
亡Aとの間で話合いがついたと主張し,そうであるとすれば,同人物との対応が一般的に肉体的・精神的疲労を感じさせるものであったとは考え難い旨主張する。確かに,亡Aが平成19年10月に作成した文書(乙6の5)には,「O広場の整備工事の件

以前,無断使用で揉めて

いたD氏とは,話がついた」との記載がある。しかし,上記文書の記載は簡潔にすぎ,その趣旨は必ずしも明らかではないし,本件災害後にも,Dが亡Aの名前を記載したわら人形をO広場の木に五寸釘で打ち付けるなどしていたことが明らかになっていること(原判決の第3の1(3)オ(補正後))からすると,Dと何らかの話合いができたとしても,それによってトラブルが全面的に解消したとは認められないから,この件は肉体的・精神的疲労を感じさせるものであったというべきである。(イ)

控訴人は,亡Aが,Dからクレームを受けた可能性は否定できない
が,その内容が失当であることは明らかであることなどに照らせば,その業務内容や業務量に大きな変化はなく,その心理的負荷の程度は「弱」にとどまるというべきである旨主張する。しかし,O広場の出来事について,Dの行為に関し,周辺住民から岐阜市にクレームが入ったものであり,周辺住民は,岐阜市がO広場を管理できないのであれば,責任を追及すると述べていたこと,そのため,亡Aは,部下とともに,花火大会の当日にその状況を監視しに行っていること,周辺住民の1人に対する対応には半日を要することも多く,Dもわら人形を打ち付けるような人物であることからすると(原判決の第3の1(3)オ(補正後)),周辺住民からのクレームは失当であるとはいえず,周辺住民の中には対応の困難な者もおり,監視などの事後的対応が必要であったこと,わら人形を打ち付けるようなDの対応もそれなりに困難であったと推測されることなどからすると,心理的負荷評価表の12の「顧客や取引先からクレームを受けた」に該当し,その心理的負荷の程度は「弱」ではあってもやや「中」に近いものがあると判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「7

住民等との公務上

での関係」の類型に該当するが,住民から「ひどい」ことをされたとはいえず,出来事例には当てはまらないものの,亡Aが行った上記対応等に照らせば,負荷のかかる業務ではあったというべきである。

長良公園整備について
(ア)

控訴人は,原審におけるJの証言及び主幹Eの意見書(甲2(36
頁))から,本件会議で亡AがB部長から一喝された事実は認められない旨主張する。しかし,Jの証言は,本件災害から約8年半も経過した後のものであり,それよりも本件災害にずっと近い時期に作成されたJ作成の公務災害認定請求に関する意見書(乙5の4)及び陳述書(乙38)を覆すものとはいえない。主幹Eの上記意見書によっても,B部長の行動を否定するものではないことは,原判決が,公園整備室の職員らが作成した書面について,第3の1(4)イ(ア)(補正後)で説示するところと同じである。
また,控訴人は,Jの上記証言,F作成の「元公園整備室長

A氏の

事故について」と題する書面(乙38)及び原審における証人B部長の証言からすれば,亡Aは最終的には納得の上公園整備室長の判を押したというべきである旨主張する。しかし,Jの上記証言については,上記で説示するとおりである。Fの上記書面は,Jの上記意見書及び陳述書や後閲問題が発生した前後の一連の事実経過(原判決の第3の1(5))に照らし,にわかに採用することができない。この点に関する証人B部長の上記証言が採用できないことは,原判決が第3の1(5)ウ(イ)で説示するとおりである。
(イ)

亡Aは,公園整備室の技術職職員らが本件計画を推進しようとした
のに対し,人命が大切であるとして,本件遊具の施工に反対し,B部長から公園整備室の意見をまとめるように言われ,亡Aの意見が公園整備室の意見となったにもかかわらず,翌日の本件会議では,B部長は,亡Aを一喝して叱り,亡Aの意見が間違っていると指摘し,亡Aの部下の技術職職員らの意見を支持して,本件遊具の施工を決定し,先にC副市長の決裁を受けた上で,Fらに亡Aを説得させて決裁印を押させたものである(原判決の第3の1(5)イないしエ(補正後))。これらは心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」か32の「部下とのトラブルがあった」に該当すると考えられるところ,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が生じたことは明らかであるし,B部長の行為は,結果的に,亡Aと技術職職員を分断し,亡Aの孤立を招くものとも評価できるものであり,今後の業務に支障が生じると考えることに十分理由があるといえる状況にあったことからすると,その心理的負荷の程度は「中」の中でも「強」に近いものであると判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事は,「6

対人関係等の職場環境」

のうち「職場の上司と人間関係でトラブルがあった」か「職場の部下と人間関係でトラブルがあった」の類型に該当すると考えられ,B部長の行為は,結果的に亡Aを孤立させるものであり,後閲問題など通常の業務のやり方とはいいにくいものであったことからすると,亡Aに過重な負荷を与えるものであったと判断することができる。
これに対し,控訴人は,亡Aが,本件遊具の施工に反対し,工期との関係から,やむなくB部長とC副市長で決裁した後,Fの説得を受けて決裁書に判を押したが,その後の公園整備室長としての業務に大きな支障を来したとはいえないから,その心理的負荷の程度は「中」にとどまる旨主張するが,前提とすべき事実経過が異なるものであり,採用することができない。

公園管理事務所作業に伴う事故処理,スプリング遊具破損対応,管理公園内での第三者事故対応について
公園における職員の作業による事故,スプリング遊具が破損したことに対する各種対応,管理公園内で発生した事故に対する対応については,それぞれは公園整備室としての業務や管理の一環であり,それぞれを単独で評価するよりも,亡Aが就任した公園整備室長が担当する業務の内容として評価するほうがふさわしいから,後記コ(公園整備室長に就任したことについて)で検討することとする。


水の体験学習館(水琴窟)について
(ア)

水琴窟裁判は,遅くとも平成18年までには提起されており,亡A
は,公園整備室の審議監として担当していたものであって(原判決の第3の1(3)ア),公園整備室長となって,担当から外れ,公園整備室の責任者の立場からかかわっているにすぎないことからすると,このこと自体を単独で評価するのは相当ではなく,公園整備室長の業務の内容として検討すべきであるのは,上記エと同様であり,後記コ(公園整備室長に就任したことについて)で検討することとする。
また,水琴窟裁判の件に関し,亡Aは,9月市議会の際,B部長から強い口調で声を荒げて叱責されているが,水琴窟裁判特有の出来事ではなく,むしろ亡AとB部長との関係における出来事であるから,この点に関する心理的負荷の程度の評価については,後記ケ(B部長の叱責について)で検討することとする。
(イ)

なお,上記叱責に関し,控訴人は,Gが,原審における証人尋問に
おいて,怒鳴られたのはI室長とGであったと証言しているから,B部長が亡A及びGを強い口調で声を荒げて叱責したとするのは誤りである旨主張する。しかし,Gの証人尋問中には,上記のような証言をした部分もあるが,他の部分では,B部長から叱責された状況について具体的に証言し,その際,亡AもいてB部長から叱責された旨証言しているから,控訴人の主張するような証言部分があったからといって,上記認定が誤りであることにはならない。

P公園審査請求(行政不服審査法)について
(ア)

亡Aは,P公園をめぐって,そこを独占使用するN団体とそれを問
題視した住民との間の調整役を担っていたが,平成19年度になって審査請求が行われている(原判決の第3の1(3)イ(補正後))。これは心理的負荷評価表の12の「顧客や取引先からクレームを受けた」に該当すると考えられるが,審査請求が行われたことに対して,何らかの対応が必要であった状況があったことはうかがえないことからすると,その心理的負荷の程度は「弱」と判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「7

住民等との公務上

での関係」に該当すると考えられるが,「公務に関連し,住民からひどい嫌がらせ,いじめ又は暴行を受けた」とまではいえないから,それ自体の負荷としてはそれほど大きいものがあったとはいえない。
(イ)

控訴人は,亡Aが当該住民とN団体の間の調整がうまくできず,審
査請求が行われたことを心配に思っていたことを認めるに足りる証拠はない旨主張するが,その事実自体は,「平成19年度公園整備室の業務について」と題する書面(乙3の6)により認めることができる。キ
条例改正について
亡Aは,11月市議会に提出するために,公園整備室において,Gとともに,本件条例案を作成することになったが,料金設定には調査が必要であり,市民体育室との調整も困難な中,本件条例案を完成させたものの,突如,C副市長から岐阜公園の駐車場料金に関する条例案も同時に作成するように言われ,大変な作業であったこと,亡Aは,C副市長から,本件条例案と上記駐車場料金に関する条例案の決裁をもらおうとしたところ,C副市長から,公園施設の無料予約システムを電子化するよう求められ,それができない限り,上記条例案の決裁を行わないと告げられたこと,その後,亡Aは,電子化を検討することをC副市長と約束し,上記条例案の決裁を受けたことが認められる(原判決の第3の1(3)カ)。これは心理的負荷評価表の15の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当すると考えられるが,11月市議会への提出という一定の期限が区切られた中,複数の作業を要求され,それなりの調査が必要な大変な作業であったことからすると,仕事内容・仕事量に大きな変化を生じさせる出来事であったと評価することができ,その心理的負荷の程度は「中」であると判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「2

仕事の質・量

(1)

仕事の内容」の類型に該当すると考えられ,「制度の創設等に携わった」の出来事例に当てはまる。業務の対象が条例案の作成であり,職員にとって新規性が低いといえる面もないではないが,処理期限を伴う複数の作業を同時進行させるものであったことからすると,相当程度の心理的負荷があったものと判断できる。
これに対し,控訴人は,心理的負荷の程度について,本件条例案の作成自体は「弱」,B部長からの金額設定の根拠の追加調査依頼は「弱」,駐車場料金の条例案の作成自体は「弱」,その際のGとのトラブルは「弱」,C副市長からの公園施設の無料予約システムの電子化の要求は「弱」にそれぞれとどまる旨主張するが,本件条例案の作成をめぐる関連した一連の出来事と評価することができるから,その全体を一つの出来事として評価すべきであり,個々の出来事を単独で評価するのは相当ではない。ク
Q公園について
(ア)

控訴人は,被控訴人作成の時系列表(乙11)によれば,平成19
年9月13日の欄に「Q公園

クレーマーのMについて

ほとほと困っ

た」とあるのみで,ある個人(M)による公園整備室への訪問又は電話の対応をしたのは,平成19年9月頃だけである旨主張する。しかし,上記個人が,平成18年度になってから,多いときには月1回の頻度で,本件災害時までに合計10回程,公園整備室を訪問していたことは,Gの証言(原審における証人G)及び陳述書(乙39)並びに岐阜市長の調査票(乙43)から認められる。
(イ)

Q公園の駐車場を無断で住民が使用しているとして,ある個人が同
公園と隣接する寺院との間にロープを張るように再三要求していたが,境界がはっきりしないため,要求に応じられない状況にあったところ,当該個人が,平成18年度から,多い時には月1回の頻度で,本件災害時までに10回程,公園整備室を訪問し,激しく怒鳴り散らすなど,恫喝行為を行っており,職員での対応が大変であったため,亡Aが,警察と対応を協議した上で対応することになった(原判決の第3の1(3)ウ)。これは心理的負荷評価表の11の「顧客や取引先から無理な注文を受けた」に該当すると考えられるが,当該住民の要求の妥当性に疑問はあるものの,困難な応対が複数回にわたって行われたことからすると,その心理的負荷の程度は「弱」の中でも「中」に近いものがあったと判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「7

住民等との公務上

での関係」の類型に該当し,「公務に関連し,住民からひどい嫌がらせ,いじめ又は暴行を受けた」にやや近いものがあるといえ,相応の心理的負荷があったものといえる。
これに対し,控訴人は,Q公園の件での心理的負荷の程度は「弱」にとどまる旨主張するが,評価の前提となる事実が異なっているから,採用することができない。

B部長の叱責について
B部長は,声が大きく,威圧的で,そのいい方もきつく,単に注意をすべきような場合であっても,感情的になる面があり,B部長の対応に慣れていない者からすると,怒鳴られ,ののしられていると感じても無理のない雰囲気を持った者であること,B部長は,9月市議会の対応準備の際,亡A及びGが,求めた受け答えができなかったことに怒り,強い口調で声を荒げて叱責したこと,事務職職員である亡Aは,技術的な点の理解が十分でない面があり,決裁などの過程で注意,指導を受ける際,B部長から上記のような言い方をされたことが認められる(原判決の第3の1(4)ア)。これは心理的負荷評価表の30の「上司とのトラブルがあった」に該当すると考えられるが,指導・叱責には強いものがあったといえるから,その心理的負荷の程度は「中」であると判断することができる。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「6

対人関係等の職場環

境」の類型に該当し,「職場の上司と人間関係でトラブルがあった」の出来事例に当たるが,その指導が業務指導等の範囲を逸脱するとまではいえないことからすると,負荷の程度はかなりのものがあったといえるが,強いものであったとまではいえない。
これに対し,控訴人は,上記出来事について,その心理的負荷の程度が「弱」にとどまる旨主張するが,控訴人の主張は,B部長からの叱責が1回だけというものであり,前提事実が異なり,採用することができない。コ
公園整備室長に就任したことについて
(ア)

亡Aは,これまで事務的な業務の多い職場に配属され,平成18年
4月に公園整備室の審議監となった後も,主に管理部門を担当していたが,平成19年4月から公園整備室長に就任し,構想から計画,設計,施工監理,維持管理といった幅広い業務の責任者となった。公園整備室が設置された平成15年以降,公園整備室長には土木の技術職職員が就任しているなか,事務職職員である亡Aが公園整備室長に就任したものであり,また,公園整備室長の職は,亡Aにとって初めての管理職であった。さらに,平成19年度はその前年度に比べ,公園での事故やトラブルが多く,事故やトラブルが起きた場合には,早急の対応が求められ,公園整備室にはストレスを感じる者もいたところ,そのような中,亡Aは,事故やトラブルのたびに,市長報告や記者発表をすべきかどうか検討し,B部長に報告の上,対応しなければならなかったことが認められる(原判決の第3の1(1),(2))。
亡Aは,公園整備室長に昇格したものであり,心理的負荷評価表の25の「自分の昇格・昇進があった」に該当することが考えられるが,公園整備室長にはこれまで技術職職員しか就任したことがないことからすると,技術職職員が就任することが望ましい地位と評価されていたことが推認されるなか,事務職職員である亡Aが就任したものであり,相当困難な業務に就いたものであるといえ,しかも,ストレスを感じる者もいる公園整備室という職場の責任者となったものであり,前年に比べて多くの事故及びトラブルに囲まれる中,緊張を強いられる状況が継続していたといえることからすると,その心理的負荷の程度は「中」の中でもかなり「強」に近いものがあると判断するのが相当である。
業務負荷分析表では,上記出来事について,「3
役割・地位等の変


(2)昇任」の類型に該当すると考えられるが,亡Aの場合,業務例
である「初めて管理職となり,業務・人事管理の責任に加え,困難な懸案事項の処理を期待された場合」に近いものがあるといえる。そして,亡Aが,客観的には「責任ある地位に就いたが職責を果たせなかった」とはいえないものの,長良公園整備の件(上記ウ)などを考え併せると,亡Aとしては「職責を果たせなかった」と認識するような状態にあったといえるから,過重な負荷を与えるものであったと十分に判断できるというべきである。
(イ)

控訴人は,亡Aが事務職職員であることに起因する具体的な出来事と
しては,長良公園整備の件(上記ウ)があるのみであり,これ以外では業務に支障が生じたことはうかがわれないから,この点を単独で取り上げて大きな精神的苦痛があったとすることは失当である旨主張する。しかし,仕事内容の変化自体も心理的負荷を考える上での具体的出来事なのであり,亡Aは,公園整備室長になることにより,都市公園,委託事業の設計・施工・監督を職務とする建設グループを統括するようになったのであるから(乙1の8),事務職職員であることに起因する具体的な出来事が長良公園整備の件だけであるといえない。
この点に関して,控訴人は,都市建設部には,部長,統括審議監,審議監がおり,事務職職員である公園整備室長をサポートできる体制が整っていたのであるから,この点を単独で取り上げて相当の業務上の負荷があるとすることは失当である旨主張する。しかし,公園整備室が出来て以降,亡A以外には,公園整備室長には土木の技術職職員が就いていること(原判決の第3の1(2)イ(イ))自体が,単に事務職職員である公園整備室長を技術職職員がサポートできる体制が整っているだけでは足りない何ものかがあることが如実に表されているというべきである。
また,控訴人は,公園管理事務所作業に伴う事故処理(控訴人の当審における補充主張エ),スプリング遊具破損対応(同オ),管理公園内での第三者事故対応(同カ)及び条例改正(同ケ)などの事故やトラブルの具体的な状況を考慮することなく,以前よりも事故件数が多かったことから一般的・抽象的に精神的・肉体的負荷の大きいものであったとすることは失当である旨主張する。しかし,前三者については,具体的な事故状況よりも,公園整備室ないし公園整備室長の業務の特色としてとらえられるべきであるところ,それが亡Aの業務として精神的に負荷の大きいものであるといえることは,上記(ア)で説示するとおりであり,条例改正について具体的な状況を考慮して精神的な負荷を考慮していることは,上記キで説示し,原判決が第3の4(2)ウで説示するところから明らかである。さらに,控訴人は,O広場(控訴人の当審における補充主張イ),水の体験学習館(水琴窟)(同キ),P公園審査請求(行政不服審査法)(同ク)及びQ公園(同コ)などの苦情や対応の具体的な状況を考慮することなく,苦情が多いことや議員の関心が高いことのみで一般的・抽象的に精神的・肉体的負荷が大きいものがあったとすることは失当である旨主張する。しかし,これらについて具体的な状況を考慮して精神的負荷を考慮していることは,水の体験学習館(水琴窟)を除き(これについては,公園整備室長の業務内容として評価すべきであることは,上記オのとおりである。),上記イ,カ及びクで説示し,原判決が第3の1(3)アないしウ及びオ(補正後)で具体的な状況を事実認定した上で,第3の4(2)ア,イ及びオ(補正後)で説示していることから明らかである。
(3)

以上によれば,心理的負荷評価表において,心理的負荷の程度が「中」
の中でもかなり「強」に近い出来事が1つ(公園整備室長に就任したこと(上記(2)コ)),「中」の中でも「強」に近い出来事が1つ(長良公園整備(同ウ)),「中」の出来事が2つ(条例改正(同キ)及びB部長の叱責(同ケ)),「弱」であってもやや「中」に近い出来事が1つ(O広場(同イ)),「弱」の出来事が2つ(長良公園の管理の一体化(同ア)及びP公園審査請求(行政不服審査法)(同カ))あるということになり,「強」そのものに該当する出来事があったとまでは認められない。
しかし,「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(上記(1))では,対象疾病の発病に関与する業務による出来事が複数ある場合の心理的負荷の程度は,全体評価をするものとされているところ(甲A7),「中」の中でもかなり「強」に近い公園整備室長に就任し,「中」であるB部長からの叱責を受ける状況にあり,しかも,公園整備室長の業務には,「中」である条例改正や「弱」であってもやや「中」に近いO広場などがあるのであり,その後,「中」の中でも「強」に近い長良公園整備の件が発生したことからすると,上記各出来事を全体としてみれば,その心理的負荷は「強」に至るものであったと認められる。
また,業務負荷分析表でも,出来事が複数存在する場合には,それらの出来事の関連性,時間的な近接の程度,数及び各出来事の内容等を総合的に判断することにより,過重性を総合判断するものとされているところ(甲A43),心理的負荷評価表における判断とは若干異なるところはあるものの,亡Aに生じた上記各出来事は,全体としてみれば,おおむね心理的負荷評価表の場合と同様に評価ができるものということができ,亡Aの業務は,業務負荷分析表によっても,強い負荷となるものであったと判断することができるものといえる。
(4)

そして,亡Aの精神疾患発症と本件災害との間には相当因果関係が認め
られることは,原判決が第3の5で説示するとおりであるから,本件災害には業務起因性が認められる。
第4

結論
よって,被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部

裁判長裁判官

永野圧彦
裁判官

鈴木幸男
裁判官

大保香織久
トップに戻る

saiban.in