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審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号平成28(行ケ)10266
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年9月27日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨判決年月日 平成29年9月27日 担 知的財産高等裁判所 第1部

事 件 番 号 平成28年(行ケ)第10266号 部
○ 立体商標について,商標法3条1項3号に該当し,同条2項の要件を具備するもので
はないと判断した審決が維持された事例
(関連条文)商標法3条1項3号,同条2項
(関連する権利番号等)商願2014-5943号,不服2015-907号
判 決 要 旨
【本件商標】 (第1/7図)
指定商品 第28類「 トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コー ド識別認識機能及び
識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してな
るトランプ繰り出し装置」(本願指定商品)
1 本件は,本願商標 (立体商標)についての拒絶査定不服審判請求 (不服 2015-
907号)の請求不成立 審決に対する取消訴訟である。 審決は,①本願商標は商標法3条
1項3号に該当する,② 本件使用商品の形状は ,本願商標と同一性を有しているものとは
認められず,本願商標が,その指定商品に使用された結果,需要者が 原告 の業務に係る商
品であることを認識することができるに至ったものとは 認められない から,本願商標が商
標法3条2項の要件を具備するものとはいえない と判断した。 本判決は,要旨,次のとお
り判示し,審決に取り消すべき違法はないとして,原告の請求を棄却した 。
2 商標法3条1項3号
本願商標の立体的形状は,客観的に見れば,機能又は美感に資することを目的として採
用されたものと認められ,また,需要者において,機能又は美感に資することを目的とし
た形状であると予測し得る範囲内のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当す るものと認めら
れる。
3 商標法3条2項
(1) 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,こ
のような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章 ,あるいは,商品
等の形状を表示する標章 であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲
するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもので
あるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き, 商
標としての機能を果たし得ないものであることによるものである。また, 商標法3条2項
は,同条1項3号に該当する商標のように,本来は, 特定人によるその独占使用を認める
のを公益上適当としないものであるとともに, 自他商品識別力を欠き,商標としての機能
を果たし得ないものであっても,その使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品
又は役務であることを認識することができるものについては,自他商品識別力を獲得した
ものとして,例外的に商標登録を受けることができる旨を定めたものである。そして,商
標法は全国一律に適用されるものであって,商標権が全国に効力の及ぶ更新登録可能な 排
他的な権利であることからすると,商標法3条2項により商標登録が認められるためには,
同条1項3号に該当する商標が,現実に使用された結果,指定商品又は指定役務の需要者
の間で,特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったことが必
要であると解される(そうである以上,指定商品又は指定役務の需要者は ,通常,全国的
に存在していることが前提となるものである。 )。上記の理は,商標法3条1項4号及び
5号に該当する商標について,同条2項により商標登録を受けることができる場合におい
ても異なるところはないといえる。なお,本件使用商品は,その上面に,「ANGEL E
YE」等の文字が記載されていることが認められるが,上記文字商標等を捨象して残され
た立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断す
るのが相当である。
(2) 以上を前提に,本願商標について検討するに,本願商標の立体的形状と実質的に
同一の形状を有する本件使用商品が,輸出専用の商品であって我が国において流通してい
ないことは,当事者間に争いがない。そして,原告が主張するように,本件使用商品が輸
出され,又は輸出を前提としてのみ譲渡若 しくはそのための展示がされることにより,本
願商標が使用されているとしても,本件使用商品の取引に関係する者は国内の販売代理店
に限定されており,本願商標を原告の出所表示として認識し得る需要者は限られた範囲に
とどまるから,本願指定商品の需要者が全国的に存在していると認められない。のみなら
ず,本件使用商品が輸出されることにより,諸外国で使用されており,諸外国 のカジノ関
係者に知られているとしても ,その周知性が我が国に及んでいると認めるに足りる証拠は
ないから,本願商標が, 現実に使用された結果,本願指定商品の需要者 の間で ,原告の出
所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったものと認めることはできない。
したがって,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと
いうことはできない。
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平成29年9月27日判決言渡
平成28年(行ケ)第10266号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年6月12日

判原決告
エンゼルプレイングカード株式会社

訴訟代理人弁理士

島紳行藤森裕司伊被飯藤大地告特
指定代理人

小林裕子早川文宏金子尚人主許庁長官文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1

原告の求めた裁判

特許庁が不服2015-907号事件について平成28年10月25日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要

本件は,商標登録出願に係る拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①商標法3条1項3号該当性及び②同条2項該当性である。1
本願商標及び特許庁における手続の経緯等
原告は,平成26年1月29日,第28類に属する商品「トランプに内蔵
印刷されたトランプ識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置,トランプ繰り出し用具,トランプ,遊戯用器具」を指定商品として,別紙本願商標目録のとおりの商標の登録出願をした(甲54。商願2014-5943号。以下,この商標を「本願商標」という。
)が,同年6月16日付けの拒絶理由通知を
受けたので,同年7月31日付け手続補正書をもって,その指定商品を第28類「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置」
(本願指定商品)と補正した(甲56)

原告は,平成26年10月9日付けの拒絶査定を受けたため,平成27年1月16日,上記拒絶査定に対する不服審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2015-907号事件として審理した上,平成28年10月25日,
「本件審判の請求は,成り立たない。
」との審決をし,その謄本
は,同年11月16日に原告に送達された。

2
審決の理由の要点

本願商標は,以下のとおり,商標法3条1項3号に該当し,また,同条2項の要件を具備するものではないから,登録することができない。
商標法3条1項3号について
本願商標は,箱状の立体的形状からなり,上面をなだらかに傾斜させ,角度を付けて傾斜させた前面には弧状の開口部を有し,上面にランプ,側面にボタン,背面
にスイッチ及び各種機器との接続口とおぼしき部分を有し,全体として,曲線を多用した輪郭を有する形状からなるものである。そして,本願指定商品は,トランプゲームに使用する商品であり,ゲーム用品の範ちゅうに属するものである。ところで,諸外国のカジノにおいては,バカラやブラックジャックなどのカジノゲーム(トランプゲーム)を行う際に,トランプを格納して,上から一枚ずつ取り出せるカード容器が用いられている事実が確認できる。また,我が国におけるゲーム用品を取り扱う業界においても,上記カード容器と同様の箱状の立体的形状が,トランプゲームを行う際に,トランプを格納して,上から一枚ずつ取り出せる商品として販売されている事実がうかがえる。
本願商標の立体的形状と,一般的なカード容器の形状とは,箱状である点,上面をなだらかに傾斜させている点,角度を付けて傾斜させた前面に弧状の開口部が設けられている点において共通する。そして,本願商標の輪郭が一般的なカード容器に比して,より曲線を多用したものであったとしても,それをもって,需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられているとはいえないものであるから,本願商標は,同種の商品等について,美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものといい得るのであって,商品の美観に資することを目的とする形状というのが相当である。また,一般に,ランプやボタン,接続口等は,各種電子機器の機能を発揮させるために搭載されているものであって,本願指定商品は電子機器としての機能をも有する商品である。本願商標におけるこれらのランプやボタン,接続口等は,いずれも,トランプの識別コードにより,トランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するという,同種の商品等について,機能上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものといい得るものであって,商品の機能に資することを目的とする形状というのが相当である。
そうすると,本願商標は,これをその指定商品に使用しても,これに接する取引者・需要者をして,単に商品の形状を表示したものとして理解するにとどまり,自他商品の識別標識として認識し得ないものといわなければならない。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
商標法3条2項について

商標法3条2項により商標登録が認められるためには,同条1項3号か
ら5号までに該当する商標が,その使用の結果,指定商品又は指定役務の需要者の間で,特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったことが必要であるものと解される。また,出願に係る商標が,指定商品に係る商品の形状を表示するものとして商標法3条1項3号に該当する場合に,それが同条2項に該当し,登録が認められるかどうかは,使用に係る商標及び商品,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否かによって決定すべきものであり,その場合に,使用に係る商標及び商品は,出願に係る商標及びその指定商品と同一の場合に限られるものである。

そこで,上記アを踏まえ,以下検討,判断する。
本願商標及び使用に係る商品の構成態様

請求人である原告は,本願商標と類似する形状の商品「バカラ電子シュー」(以
下「本件使用商品」という。
)を製造及び販売しており,本件使用商品は,本願指
定商品といえるものである(甲1~4,6)

本件使用商品と本願商標を比較するに,前者と後者とは,ランプの数や曲面の形状,カード繰り出し口の形状等において若干相違するものもあるから,両者が完全に同一の形状からなるものということはできない(甲18)
。また,本件使用商品
は,その上面に,看者の注意を惹くように書された「ANGEL
GEL

EYE


「ANGEL

II

EX」及び「ANGEL

EYE

EYE」「AN


III」の文字(以下

EYE」等」という。
)の記載が認められる(甲1,2,18,甲

24の2ないし5,7,甲37)

本願商標と使用に係る商標が,仮に,その立体的形状部分は本願商標と同一の範
囲内のものであると認められるとしても,両者は,立体的形状よりも,看者の注意を惹く程度が著しく,自他商品識別力が強い,
「ANGEL

EYE」等の文字の

有無において異なっているから,全体的な構成を比較対照した場合には,同一性を有しないというべきである。
使用期間,使用地域及び商品の販売数量
請求人である原告は,本件使用商品を2005年(平成17年)2月17日より,日本から海外へ輸出している(甲18)
。本件使用商品は,輸出専用品であ
り,我が国において流通しているものではないところ,請求人である原告は,本件使用商品を,2005年(平成17年)から2014年(平成26年)の間に,アジア・オセアニア・北米及びヨーロッパの各国に,合計1万4841台販売し,同時期の売上高は約27億円,販売促進費用は約1億3千万円であること(甲40,49)
,マツイ社が販売代理店として,本件使用商品を韓国へ販売していたこと(甲44)がうかがえる。しかしながら,本件使用商品を取り扱う業界の規模が不明であり,その販売台数や販売地域をもって,需要者間に認識されたものと評価することはできない。
広告宣伝の方法
本件使用商品がゲーム産業における賞を受賞したことなどがうかがえるものの,当該賞の選考基準,表彰までの経緯等が定かでない。また,海外のカジノ関連雑誌に本件使用商品が掲載されていることがうかがえるが,これらの雑誌は,その発行部数,発行地域等が不明である。
需要者の商標の認識度
本願商標の立体的形状に関する多数の外国人による証明書(甲27),マツイ社
による証明書(甲29)及びカジノ業界を精通する有力者とされる者の宣誓書(甲30,31)は,本願商標と同一の態様の商品について証明したものではあるものの,これら証明書の客観性は直ちに認め難く,証拠力に乏しいものである。さらに,請求人である原告の国内工場において開催された,本件使用商品についての説
明会への来訪者数は,8年間で198名にとどまり(甲32の3),決して多い数
とはいえない上,来訪者のうちのほとんどが外国のカジノ関係者であり,日本の企業関係者は,わずかにマツイ社の数名が確認できるにすぎないから,このことが,我が国において,本願商標が請求人である原告の業務に係る商品を表すものとして,需要者の間に広く認識されていることの根拠となるものではない。輸出行為による著名性獲得及びその他の事情
本件使用商品に係る販売数量,シェア,雑誌記事及びウェブサイト記事,需要者の証明書及び宣誓書等の諸点は,いずれも我が国の市場における使用の事実について述べたものと認めることはできない。なお,韓国のカジノを訪れる日本人観光客の正確な数は不明であり,マツイ社の証明書も,いかなる具体的な事実のもとで証明したかが定かでないし,一社のみの証明書をもって,直ちに,本願商標が日本において十分な自他商品識別力を有するに至っているものということもできない。さらに,日本のカジノ情報サイトを示す資料(甲52,53)については,当該ウェブサイトの会員数及びアクセス数や,会員が訪れるカジノのほぼ全てに本願商標が設置されている事実のみをもって,直ちに,我が国における需要者の間で本願商標が広く知られているということはできず,本願商標が相当数の日本人カジノプレーヤーに認知されているという主張は,明確な根拠がないものである。小括
本件使用商品の形状は,本願商標と同一性を有しているものとは認められず,原告の主張する事情及び証拠を総合して勘案しても,本願商標が,その指定商品に使用された結果,需要者が請求人である原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められない。
以上によれば,本願商標が商標法3条2項の要件を具備するものとはいえない。
第3
1
原告主張の審決取消事由
取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)

同種の商品について
本願指定商品は,「バカラのいかさま防止」
「ディーラーの間違い発見」
「ゲーム
結果の自動表示」という用途及び機能を有し,特許取得の独特のコードが印刷されたカードをセンサーで読み取り,パソコンなど通信機能を備えた機器との間でデータを交信する機能をその本質的な要素としている極めて特殊な商品であり(甲1~8)
,本格的なカジノゲームが可能なカジノ施設内で使用される商品であって,その用途及び機能から,合法的にバカラゲームを行うことができない我が国において普通一般に流通することはない輸出専用品である(甲67,68)。他方,審決が
指摘するカード容器(カードシュー)は,電子機器としての機能を有さない商品であり,飲食店(酒場)などで,誰でもが提供できるゲーム用品の一種と思われる。そうすると,本願指定商品とカードシューは,そもそも,その具体的構成が全く異なる上,その使用される場所が全く異なり,その需要者も全く異なる上,商品の価格が全く異なるから,カードシューは,本願指定商品と同一の需要者に代替的に供給される同種の商品といえない。
審決は,本願商標とカードシューの立体的形状を同種の商品として比較しているけれども,カードシューは,本願指定商品と同種の商品ではないから,誤っている。
商品の美観に資することを目的とする形状でないこと
本願商標は,その具体的な構成としては,背面部をほぼ垂直状とし,上面部を前方に向かって緩やかな斜傾状とした横長略台形状であって,平面後方部に結果表示ランプを設け,左側面下方後方に内蔵モニターを設け,左側面下方前方にインストラクションボタンを設け,輪郭線として緩やかな曲線を多用することにより,近未来的な立体造形物における流線形状から醸し出される標章であって,それ自体が極めて特異なものである。本願商標の立体的形状は,カジノでディーラーがカードを配るときに用いるシューの語源である「靴」のイメージ(靴のイメージとしては,全体的に曲線を取り入れるとともに,真上から見たときに中央部が左右に少し膨ら
むような形を採用している点)と,カジノ業界にこれまでなかった初めてのバカラ電子シューであることから,パイオニアとして先頭を走ることを象徴する「スポーツカー」のイメージ(スポーツカーのイメージとしては,流線型の洗練されたフォルムや,ランプをテールランプに見立てて後方に配置した点,側面から見たときにランプ部分が本体より少し上方に盛り上がっている点)を,意図的に組み入れたものであって,原告は,その形状自体を自他商品識別標識として採用したものである。
そして,本願商標の立体的形状は,曲線を多用したその全体的な構成の特異性ゆえに,本願指定商品の取引者・需要者に対して,現代社会から見た美しい未来感とともに大自然の緩やかな流れを具現した標章であるという印象を与え,強く記憶に残すものであり,美観等の向上という観点に加えて,再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っているものである。
したがって,本願商標の立体的形状は,美観の観点から選択したものではなく,商品の機能等から生ずる制約の中で,美観等の向上を図ると同時に,自他商品識別力を有するものとするべく商品の形状に創意工夫を凝らしている形状というのが相当である。
商品の機能に資することを目的とする形状でないこと
本願商標の立体的形状は,商品の用途,性質等に基づく制約の下で,ある程度の選択の幅がある中で,曲線を多用した構成を採用した上で,美観等の向上を図ると同時に,その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく,そのランプ,ボタン,接続口等の位置,大きさ,範囲について,創意工夫を凝らした形状である。本願指定商品の機能を確保するために,本願商標の立体的形状と同じ構成を不可避的に採用しなければならない関係にはない。
また,本願商標の立体的形状は,曲線を多用した構成において,ランプ,ボタン,接続口等をその位置,大きさ,範囲に配置することにより,近未来的な立体造
形物における流線形状から醸し出される標章であるという全体的な印象を与えているものであり,機能上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものともいえず,その構成をもって商品の出所を表示し,自他商品の識別標識としての機能を発揮し得るものであるから,本願商標の立体的形状は,商品の機能に資することを目的とする形状とはいえない。
本願商標の自他商品識別性について
本願商標の立体的形状は,自他商品識別力を有する。また,本願商標の立体的形状又はこれに類似する形状を採用した指定商品を取り扱う事業者は,カジノ業界において原告以外に存在せず,それゆえ,本願商標の立体的形状は,カジノ業界にこれまでなかった初めてのバカラ電子シューの立体的形状を構成しており,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものでも,一般的に使用される標章でもない。
加えて,需要者である我が国及び諸外国のカジノ関係者の認知度は高く(甲27の1~甲32の3),また,原告は,バカラゲームを行うカジノ施設を有する海外において,本願商標について商標登録出願をしており,少なくとも,米国,欧州連合,オーストラリア,ロシア,マレーシア,ニュージーランドにおいては,自他商品識別力を有するものとして商標登録されていることからすると(甲26の1~8)
,輸出元となる我が国で何人も本願商標をその指定商品に使用できるものとして開放しなければならない理由は全く見当たらず,我が国において原告に独占使用を認めても公益上何ら問題が生ずることはない。
審決の判断について
審決は,本願商標は商標法3条1項3号に該当すると判断した。しかしながら,本願商標の立体的形状は,本願商標の立体的形状を見る需要者の観点からしても,その全体的な構成に曲線が多用されている形状から受け取る総合的な印象は,次回の取引を検討する際に,本願商標の指定商品の購入ないしは非購入を決定する上での標識とするに足りる程度に十分特徴的であるといえるから,商品の機能や美観を
際立たせるために選択したものと認識せず,出所表示識別のために選択されたものと認識し得るものであり,商品の美観及び機能に資することを目的とする形状ではなく,客観的にも,そのような目的のために採用されたと認められる形状とはいえない。
以上のとおり,本願商標は商標法3条1項3号に該当しないから,審決の判断には誤りがあり,違法なものとして取り消されるべきである。

2
取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)
本件使用商品の形状と本願商標とは同一であること

本願商標と本件使用商品の立体的形状とは,商標としての同一性を損なわない形状であり,これを同一の範囲内のものと捉えても,競業者や取引者,需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められる。また,本件使用商品の上面には,
「ANGEL

EYE」等の文字が付されているけれど

も,この文字が看者の注意を惹く程度が著しいと断ずることはできない。本願商標と本件使用商品の立体的形状とは,商標としての同一性を損なわない形状であるといえ,本願商標と本件使用商品の立体的形状との間の形状の相違を殊更に捉えて,両者の同一性を否定する審決の判断は,取引の実情を無視したものといわざるを得ず,誤りである。
需要者に本願商標が原告の商品出所識別標識として認識されることア
使用の実情
本件使用商品の使用状況等

本件使用商品は,輪郭線として緩やかな曲線を多用することなどにより,近未来的な立体造形物における流線形状から醸し出される標章であって,その形状は他に見当たらない特異性を有することから,需要者の目に付きやすく,強い印象を与えるものである。原告は,1949年(昭和24年)の創業以来各種カードゲーム専門メーカーとして,世界を舞台に幅広く活動している企業であるところ,本件使用商品は,2005年(平成17年)以降10年以上にわたって諸外国のカジノに輸出され,使用されており,世界最大のカジノ市場であるマカオにおいて約90%のシェアを有する。
原告は,会社案内(甲1)及びホームページ(甲2)に,本件使用商品を掲載し,その広告宣伝を行っている(ホームページは英文である。。カジノに関するニュー)
スを内容とする海外のウェブサイトにおいて,
カジノの様子を撮影した写真中にも,
本件使用商品が写っている(甲25の1~7)

また,原告は,原告の工場の来訪者に対して,映像を用いて,本件使用商品についての説明会(商品展示会)を開催し,原告の工場には,カジノグループの社員が多数訪問しており(甲32)
,本件使用商品に関する商談が日本でなされており,少
なくとも,原告が本件使用商品の譲渡又は輸出するために日本で展示し,商品に関する宣伝広告を日本で行っていることは明らかである。そして,本件使用商品は,バカラ電子シューのマーケットでは90%以上のシェアを占めるに至っており,日本及び諸外国のカジノ関係者の認知度も高く(甲27の1~甲32の3),ゲーム産業における賞にノミネートされ,受賞したことからすると(甲24),カジノ関係者が,日本において本件使用商品に接する場合,これが原告の製造に係る商品であることを認識できるといえる。原告は,自社工場に国内外の代理店業者やカジノ関係者を招いて商談を行っているが,商談時点では取引の形態は決まっておらず,原告からカジノ施設に直接輸出し,販売する場合もあれば,国内外の代理店経由で輸出し,販売する場合もあるため,原告の工場に訪問した人々は,在外者であったとしても,我が国の需要者として評価し得る。
そして,
本件使用商品を2005年
(平成17年)
から2014年
(平成26年)
の間に,アジア・オセアニア・北米及びヨーロッパの各国に合計1万4841台販売し,
同時期の売上は約27億円,
販売促進費用は約1億3千万円であり
(甲40,
49)
,株式会社マツイ・ゲーミング・マシン(以下「マツイ社」という。)が販売
代理店として本件使用商品を韓国へ販売している(甲44,49~51)。
したがって,本件使用商品に使用された本願商標は,原告により2005年(平成17年)から使用開始され,カジノ業界において長期的使用されていたものであり,
その宣伝広告を行うことにより,
その高いシェアを維持していると認められる。
カジノ関係者の認識
原告による本件使用商品の製造,輸出の結果,多数のカジノ関係者(オセアニア,シンガポール,香港,フィリピン,マレーシア,マカオに所在するカジノの関係者(合計101名),日本のカジノ用品の最大手販売代理店であるマツイ社,カ)
ジノ業界を精通する有力者が,本件使用商品と同一の本願商標の画像について,原告の出所に係る商品であることを認識している(甲27の1~101,甲29,31,32)

日本人観光客の認識可能性
日本最大のカジノサイトである「リゾカジ」
(会員数3万人のカジノ情報サイト
であり,同サイトへの月間アクセスは30万近くに上る。
)は,日本語のみのウェ
ブサイトであるため,その登録会員及び閲覧者のほとんどは,諸外国のカジノ施設への訪問を望む日本人観光客と推測される。
「リゾカジ」の会員になっている日本
人観光客が訪問するカジノにはほぼ100%,本件使用商品が設置されているから,本件使用商品は,相当数のカジノ施設を訪問する日本人観光客に認知されていると推察できる。
諸外国の登録例及びカジノ業界におけるシェア
原告は,バカラゲームを行うカジノ施設を有する海外において,本願商標について商標登録出願をしており,米国,欧州連合,オーストラリア,ロシア,マレーシア,ニュージーランドにおいては,自他商品識別力を有するものとして商標登録されている(甲26の1~8)
。また,原告が本願商標を盛大に継続使用したことに
より,本件使用商品は,バカラ電子シューのマーケットでは90%以上のシェアを占めるに至っている(甲27の1~甲32の3)

したがって,本件使用商品と同一性を有する本願商標は,少なくとも,諸外国のカジノ業界において原告の業務に係るものとして広く認識されており,諸外国のカジノ関係者が,我が国に来訪し,取引を開始する場合には,その需要者は,本願商標を原告の業務に係る商品出所識別標識として認識し,理解できることは明らかである。輸出専用品に使用される本願商標に関する自他商品識別性の判断について,諸外国における登録例と同一に解釈しなければならない事情が存するものといえる。イ
まとめ

本件使用商品の形状と同一性を有する本願商標が,仮に,商標法3条1項3号に該当するとしても,原告の使用により,我が国及び諸外国の需要者に,商品出所識別標識として認識されているものであるから,商標法3条2項により,商標登録を
受けることができる。本件商標が商標法3条2項の要件を具備しないと判断した審決には誤りがあるから,取り消されるべきである。

第4
1
被告の主張
取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
本願指定商品等について

本願指定商品は,トランプを繰り出すための装置であり,また,原告の主張によれば,カジノ施設内で使用される商品である。ところで,諸外国のカジノ施設では,バカラなどのトランプゲームにおいて,ディーラーがトランプを配る際に,複数組のトランプを収納し,繰り出すための容器が,
「カードシュー」「シュー」


「カードシューター」及び「ディーリングシュー」
(以下「カードシュー」とい
う。
)などと称されて用いられている(乙1~5)
。なお,カードシューは,カジノ
が合法化されていない我が国においては,ゲーム用品などとして流通しているものであるが(乙6~14)
,当該カードシューと同様のものが,実際に諸外国のカジ
ノ施設においても使用されている。そして,本願指定商品は,諸外国のカジノ施設において,トランプの繰り出しに加えて,バカラのいかさま防止,ディーラーの間違い発見,ゲーム結果の自動表示という目的のために,カードシューに替えて使用されているものである。
そうすると,本願指定商品とカードシューとは,同種の商品というべきである。本願商標の形状とカードシューの形状との比較
本願商標の立体的形状とカードシューの立体的形状とは,横長の箱状である点,上面をなだらかに傾斜させている点,前面を傾斜させ,半円状の開口部を設けている点で共通し,基本的な特徴において共通するものといえる。
また,本願商標の立体的形状が全体的に曲線を輪郭として用いたものであるとしても,カードシューとしての立体的形状を大きく超えるものではないし,商品の美観を高めるために採用されたものと認識されるものである。そして,本願指定商品は,電子的機能を有するものであって,そのランプ・ボタン等は,ゲームの結果を表示するため,又は機器を制御するために設けられたものであるから,これに接する需要者が,商品の機能を効果的に発揮させることを目的として選択されたものと予測し得る範囲内のものといえる。
そうすると,本願商標に係る立体的形状は,カードシューの機能又は美観を効果的に高めるために採用されるものであって,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものというべきである。本願商標の識別性について
以上によれば,本願商標の立体的形状は,本願指定商品の機能又は美観に資することを目的とする形状からなるものであり,本願指定商品の需要者が本願商標に接する場合,単に商品の形状を表したものと認識するにすぎないというべきである。したがって,商標法3項1項3号該当性に関する審決の判断に誤りはない。
2
取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
本願商標と本件使用商品の同一性について

本件使用商品の立体的形状と本願商標とは,その形状については,同一の範囲内といえるものの,本件使用商品には,
「ANGELEYE」等の文字が付され,本
件使用商品において,最も目につきやすい上面に,顕著に表されているから,本件使用商品においては,顕著に表された「ANGELEYE」等の文字部分が自他商品識別力を有する部分であるというべきである。
したがって,本件使用商品の立体的形状と本願商標とは,自他商品識別力を有する「ANGELEYE」等の文字部分の有無において異なっているから,両者は,同一性を有しているとはいえない。
本願商標の使用について

本件使用商品の使用状況について

本件使用商品は,原告も自認するとおり,輸出専用品であって,本件使用商品に関する使用状況等は,いずれも諸外国における使用状況を示すものである。また,原告の工場における本件使用商品の説明会への来訪者も,諸外国のグループの社員がほとんどであり,我が国からの来訪者は,原告の販売代理店の数名にすぎない。イ
カジノ関係者の証明書について

多数のカジノ関係者の証明書(甲27の1~101)等については,諸外国のカジノ業界において,本願商標が,原告の業務に係るものと認識できるに至っていることを証明するものであって,本願商標や本件使用商品が,我が国の需要者に,広く知られていることについて立証するものではない。

日本人観光客の認識可能性について

本件使用商品は,専ら諸外国のカジノ施設において使用される輸出専用品であって,例え諸外国において,一定程度の日本人観光客に認知されているとしても,我が国で流通しているものではないから,本願商標が原告の業務に係る商品を表すものとして,我が国における需要者の間に広く認識されているということはできない。

カジノ業界に占めるシェアについて
原告が主張するシェアは,カジノ施設を有する諸外国のマーケットにおけるシェアであって,我が国おける使用状況を示すものではない。
以上のとおり,本願商標は,本件使用商品の立体的形状と同一性を有しているとはいえず,また,その指定商品に使用された結果,本願指定商品の需要者間で,原告の業務に係る商品の出所を表示するものとして我が国において全国的に認識されるに至ったものとはいえないから,本願商標が,商標法3条2項の要件を具備しないとした審決の判断に誤りはない。

第5
1
当裁判所の判断
取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
認定事実

証拠(甲1~8,18,乙1~14)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

本願指定商品等

賭博行為を行う諸外国のカジノ施設では,バカラなどのトランプゲームにおいて,ディーラーがトランプを配る際に,複数組のトランプを収納し,繰り出すための容器が,
「カードシュー」「シュー」「カードシューター」及び「ディーリング,

シュー」
(カードシュー)などと称されて用いられている。このようなカードシューは,我が国においては,ゲーム用品などとして流通しているものであるところ,本願商標の出願日前に,当該カードシューと同様のものが,実際に諸外国のカジノ施設においても使用されていた。
本願指定商品は,
「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認識機能
及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置」であり,上記のカードシューに「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなる」ものであるところ,このような商品は,諸外国のカジノ施設において,トランプの収納や繰り出しに加えて,バカラのいかさま防止,ディーラーの間違い発見,ゲーム結果の自動表示という目的のために,従前のカードシューに替えて使用されている。なお,指定商品は,通常,我が国で商品が流通し,一定の取引市場が形成されていることを前提とするところ,本願指定商品に係る商品は,現実には我が国の市場で流通しておらず,現段階でその一般的な需要者を具体的に想起できないが,将来において,これが存在することがあり得るものとして検討する。

本願商標の立体的形状

本願商標は,別紙本願商標目録のとおり,箱状の立体的形状からなり,上面をなだらかに傾斜させ,角度を付けて傾斜させた前面には弧状の開口部を有し,上面にランプ,側面にボタン,背面にスイッチ及び各種機器との接続口を有し,全体として,曲線を多用した輪郭を有する形状からなるものである(当事者間に争いがない。
)ところ,①全体として横長の箱状であること,②上面をなだらかに傾斜させていること,③前面を傾斜させ,半円状の開口部を設けていること,④輪郭を曲線としていること,⑤上面部及び側面部に,ランプ,ボタン,スイッチなどの立体的形状を有していることをその特徴とするものということができる。そして,上記ランプやボタン等は,ゲームの結果を表示(結果表示ランプ)し,又は機器を制御(インストラクションボタン)するなどのために設けられたものであると認められる。

カードシューの立体的形状

カードシューは,バカラ等のトランプゲームを行う際のトランプを繰り出すための商品であって,諸外国のカジノ施設において使用されているほか,我が国でもトランプゲームの際に用いられるものである。そして,一般的なカードシューは,その立体的形状において,①複数組のトランプを格納する容器として一般に採用される,横長の箱状であること,②格納されたトランプを前方に押し出すため,トランプ収納部分の下面を前方に向かってなだらかに傾斜させた結果,上面もなだらかに傾斜していること,③トランプを手で前方に滑らせて取り出しやすくするため,前面を傾斜させ,半円状の取出口を設けていることを特徴とするものということができる。このようなカードシューの形状は,複数組のトランプカードを格納した上,上から一枚ずつ前方に滑らせて円滑に取り出すという機能を効果的に発揮させるなどの目的で選択されるものであり,商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識としての機能を有するとはいえないものである。
商標法3条1項3号該当性
前記

によれば,本願商標の形状と一般的なカードシューの形状とは,横長の箱
状であり,上面をなだらかに傾斜させるとともに,前面を傾斜させ,半円状の開口部が設けられているという点において共通するものであり,その共通する形状は,トランプを格納して,上から一枚ずつ取り出せるカード容器の基本的な形状であって,トランプ繰り出し装置という機能を効果的に発揮させるために通常採用されている形状であることが認められる。
そして,本願商標の立体的形状は,全体として曲線を輪郭として用いていることなど,一定の特徴的形態を有するものであるけれども,このような曲線を輪郭とするカードシューは,他にも存在するのであって(乙4,11)
,通常採用されてい
る形状の範囲を超えるものとまでは認められず,本願商標に接した需要者が,商品の美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認められる。
また,本願指定商品は,
「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認
識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなる」ものであるところ,前記認定のとおり,ランプやボタン等は,電子的にトランプカードを識別認識してゲームの結果を表示する,又は電子機器を制御するために設けられたものであると認められる。このような電子的な機能を有する商品には,その機能を発揮させるために,ランプやボタン,スイッチ等を搭載することが通例であるといえ,本願商標のランプやボタン,スイッチ等の特徴的形態については,本願商標に接した需要者が,商品の機能を効果的に発揮させることを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認められる。以上によれば,本願商標の立体的形状は,客観的に見れば,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,需要者において,機能又は美感に資することを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
原告の主張について

原告は,本願指定商品は,「バカラのいかさま防止」
「ディーラーの間

違い発見」
「ゲーム結果の自動表示」という用途及び機能を有し,特許取得の独特のコードが印刷されたカードをセンサーで読み取り,パソコンなど通信機能を備えた機器との間でデータを交信する機能をその本質的な要素としている極めて特殊な商品であるから(甲1~8)
,本格的なカジノゲームが可能なカジノ施設内で使用
される商品であり,その用途及び機能から,合法的にバカラゲームを行うことができない我が国において普通一般に流通することはない輸出専用品であるのに対し,カードシューは,電子機器としての機能を有さない商品であり,飲食店(酒場)などで,誰でもが提供できるゲーム用品の一種と思われるから,本願指定商品とカードシューは,そもそも,その具体的構成が全く異なる上,その使用される場所が全く異なり,その需要者も異なるから,本願指定商品と同一の需要者に代替的に供給される同種の商品とはいえない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本願指定商品は,カードシューに「トランプに内蔵印刷されたトランプ識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなる」ものであり,トランプを配る際に,複数組のトランプカードを収納した上,上から1枚ずつ前方に滑らせて繰り出すための容器(トランプ繰り出し装置)としての一般的なカードシューの機能に,電子的にトランプカードを識別認識し,トランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵するなどの機能を付加したものであるといえる。
そして,本願指定商品とカードシューは,共にトランプカードを用いたゲームに使用される商品であって,本願商標の立体的形状とカードシューの形状とは,前記のとおり,多くの共通する要素を含む程度に類似しているのであるから,本願指定商品が,専ら外国のカジノなどで使用され,原告の主張するような特殊な電子的機能を有するものであるとしても,本願商標の立体的形状が,商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するか否かを判断するに当たっては,カードシューの立体的形状と比較して検討するのが相当であるといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,本願商標の立体的形状は,カジノでディーラーがカードを配る
ときに用いるシューの語源である「靴」のイメージと,カジノ業界にこれまでなかった初めてのバカラ電子シューであることから,パイオニアとして先頭を走ることを象徴する「スポーツカー」のイメージを意図的に組み入れたもので(原告は,その形状自体を自他商品識別標識として採用した。,曲線を多用したその全体的な構)
成の特異性ゆえに,本願指定商品の需要者に対して,現代社会から見た美しい未来感とともに大自然の緩やかな流れを具現した標章であるという印象を与え,強く記憶に残すものであり,美観等の向上という観点に加えて,再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っているものであるから,本願商標の立体的形状は,美観の観点から選択したものではなく,商品の機能等から生ずる制約の中で,美観等の向上を図ると同時に,自他商品識別力を有するものとするべく商品の形状に創意工夫を凝らしている形状というのが相当である旨主張する。しかしながら,本願商標の立体的形状が,全体として曲線を輪郭として用いていることなどについては,通常,カードシューに採用されている形状の範囲を超えるものではなく,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められるのは前記認定のとおりである。原告の主観的な意図として,本願商標の形状自体を自他商品識別標識として採用し,商品の形状に創意工夫を凝らしたものであったとしても,そのことは,需要者が商品を選択するに際し,外観上の美感という嗜好上の意味合いを与え得るにすぎず,客観的に,需要者はそれを未だ商品の形状であると認識するにとどまるものであるから,本願商標が,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であるとの認定を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,本願商標の立体的形状は,商品の用途,性質等に基づく制約の
下で,ある程度の選択の幅がある中で,曲線を多用した構成を採用した上で,美観等の向上を図ると同時に,その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく,そのランプ,ボタン等の位置,大きさ,範囲について,一定の創意工夫を凝らした形状であり,本願指定商品の機能を確保するために,本願商標の立体的形状と同じ構成を不可避的に採用しなければならない関係にもなく,機能上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものともいえないから,本願商標の立体的形状は,商品の機能に資することを目的とする形状ではない旨主張する。
しかしながら,原告が,本願商標の立体的形状について,商品の用途,性質等に基づく制約の下で,自他商品識別力を有するものとするべく,そのランプ,ボタン等の位置,大きさ,範囲について,選択の幅の中で,創意工夫を凝らしたものであり,その結果採用された本願商標の立体的形状が,本願指定商品の機能を確保するために不可避的に採用しなければならない構成ではないとしても,本願指定商品のような電子的な機能を有する商品には,その機能を発揮させるために,ランプやボタン,スイッチ等を搭載することが通例であるといえ,その位置,大きさ等を客観的にみても,本願商標に接した需要者が,商品の機能を効果的に発揮させることを目的とした形状であると予測し得る範囲内のものであると認められるのは前記認定のとおりである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,本願商標の立体的形状は,自他商品識別力を有するものであ
り,また,本願商標の立体的形状又はこれに類似する形状を採用した本願指定商品を取り扱う事業者は,カジノ業界において原告以外に存在せず,それゆえ,本願商標の立体的形状は,カジノ業界にこれまでなかった初めてのバカラ電子シューの立体的形状を構成しており,その特異な立体的形状である本願商標は,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものでも,一般的に使用される標章でもない旨主張する。
しかしながら,本願商標の立体的形状又はこれに類似する形状を採用した指定商品を取り扱う事業者が,仮に,現在,原告のみであり,本願商標が,業界初の電子的機能を有するカードシューの立体的形状を構成するものであるとしても,前記認定のとおり,本願商標の立体的形状は,客観的にみて,電子的機能を有するカードシューとして,その商品等の機能又は美感に資することを目的とする一般的な形状であるといえるから,将来的に,何人もその使用を欲するものではないとはいえず,先に商標出願したことのみを理由として,本願商標を原告に独占使用させることは公益上の観点からも適切であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,バカラゲームを行うカジノ施設を有する諸外国において,本願
商標について商標登録出願をしており,少なくとも,米国,欧州連合,オーストラリア,ロシア,マレーシア,ニュージーランドにおいては,自他商品識別力を有するものとして商標登録されている(甲26の1~8)ことからすると,輸出元となる我が国において原告に独占使用を認めても公益上何ら問題が生ずることはない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本願商標は,これをその指定商品に使用した場合,需要者は,単に,商品の形状を表したものと認識するにすぎないものというべきであり,自他商品識別力を有するものではないから,本件使用商品が一般的に流通している上記諸外国において商標登録がされたからといって,これが流通していない我が国における商標登録が当然に認められるべきであるとはいえない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,本願商標が,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。

2
取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
商標法3条2項の適用について

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章,あるいは,商品等の形状を表示する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものである。また,商標法3条2項は,同条1項3号に該当する商標のように,本来は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであっても,その使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,自他商品識別力を獲得したものとして,例外的に商標登録を受けることができる旨を定めたものである。そして,商標法は全国一律に適用されるものであって,商標権が全国に効力の及ぶ更新登録可能な排他的な権利であることからすると,商標法3条2項により商標登録が認められるためには,同条1項3号に該当する商標が,現実に使用された結果,指定商品又は指定役務の需要者の間で,特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったことが必要であると解される(そうである以上,指定商品又は指定役務の需要者は,通常,全国的に存在していることが前提となるものである。。上記の理)
は,商標法3条1項4号及び5号に該当する商標について,同条2項により商標登録を受けることができる場合においても異なるところはないといえる。本願商標及び使用に係る商品の構成態様
本願商標は,前記1

に認定したとおりの構成からなるものであるのに対し,証

拠(甲1~4,6,18,22,37,49)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本願商標と類似する形状の商品「バカラ電子シュー」
(本件使用商品)を製造
及び販売しているところ,本件使用商品は,
「トランプに内蔵印刷されたトランプ
識別コード識別認識機能及び識別認識結果によりトランプの真偽又はゲームの勝敗を判定するプログラムを内蔵してなるトランプ繰り出し装置」であり,本願指定商品に属するものであること,本件使用商品と本願商標の立体的形状は,ランプの数や曲面の形状,カード繰り出し口の形状等において若干相違するものもあり,完全に同一の形状からなるものということはできないものの,実質的に同一性を有するものであるといえることなどが認められる。なお,証拠(甲1,2,18,24,37,41)及び弁論の全趣旨によれば,本件使用商品は,その上面に,看者の注意を惹くように書された「ANGEL

EYE」等の文字が記載されていることが

認められるが,商品等は,その販売等に当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通例であることに照らすと,使用に係る立体形状にこれらが付されているということのみで,直ちに本願商標の立体的形状について,商標法3条2項の適用を否定することは適切ではなく,上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断するのが相当である。
以上を前提に,本願商標について検討するに,本願商標の立体的形状と実質的に同一の形状を有する本件使用商品が,輸出専用の商品であって我が国において流通していないことは,当事者間に争いがない。そして,原告が主張するように,本件使用商品が輸出され,又は輸出を前提としてのみ譲渡若しくはそのための展示がされることにより,本願商標が使用されているとしても,本件使用商品の取引に関係する者は国内の販売代理店に限定されており,本願商標を原告の出所表示として認識し得る需要者は限られた範囲にとどまるから,本願指定商品の需要者が全国的に存在していると認められない。のみならず,本件使用商品が輸出されることにより,諸外国で使用されており,諸外国のカジノ関係者に知られているとしても,その周知性が我が国に及んでいると認めるに足りる証拠はないから,本願商標が,現実に使用された結果,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったものと認めることはできない。したがって,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものということはできない。
原告の主張について

原告は,①原告は,1949年(昭和24年)の創業以来各種カードゲ
ーム専門メーカーとして,世界を舞台に幅広く活動している企業であるところ,本件使用商品は,2005年(平成17年)以降10年以上にわたって諸外国のカジノに輸出され,使用されており,世界最大のカジノ市場であるマカオにおいて約90%のシェアを有すること,②原告は,本件使用商品を2005年(平成17年)から2014年(平成26年)の間に,アジア・オセアニア・北米及びヨーロッパの各国に合計1万4841台販売し,同時期の売上は約27億円,販売促進費用は約1億3千万円であり(甲40,49)
,また,マツイ社が販売代理店として本件
使用商品を韓国へも販売していること,③原告は,会社案内(甲1)及びホームページ(甲2)に,本件使用商品を掲載し,その広告宣伝を行っているところ,カジノに関するニュースを内容とする海外のウェブサイトにおいて,カジノの様子を撮影した写真中にも,本件使用商品が写っている(甲25の1~7)こと,④そして,本件使用商品は,バカラ電子シューのマーケットにおいて90%以上のシェアを占めるに至っており,諸外国のカジノ関係者の認知度も高く(甲27の1~甲32の3),ゲーム産業における賞にノミネートされ,受賞したことからすると(甲24),カジノ関係者が,日本において本件使用商品に接する場合,これが原告の製造に係る商品であることを認識することができるといえること,⑤原告は,原告の工場の来訪者に対して,映像を用いて,本件使用商品についての説明会(商品展示会)を開催しているところ,原告の工場には,カジノグループの社員が多数訪問しており(甲32)
,本件使用商品に関する商談が日本でなされているから,少な
くとも,原告が本件使用商品の譲渡又は輸出するために日本で展示し,商品に関する宣伝広告を日本で行っていることは明らかであること,⑥原告は,自社工場に国内外の代理店業者やカジノ関係者を招いて商談を行っており,原告の工場に訪問した人々は,在外者であったとしても,我が国の需要者として評価し得ることなどを主張して,本願商標がその指定商品に使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であると認識することができるに至ったものといえるから,本願商標は商標法3条2項に該当する旨主張する。
しかしながら,本件使用商品に関する使用状況,販売台数,シェア,売上,受賞歴,ウェブサイト等における掲載記事及び販売促進の状況等について原告が主張する事情は,いずれもカジノ施設のある諸外国における状況を示すものであり,我が国における本件使用商品の使用状況等についてのものではないから,我が国における需要者の認識を反映したものとは認め難い。
また,原告の工場における本件使用商品の説明会への来訪者についても,合計の訪問者数が8年間で約198名であり,そのうち国内の訪問者は,原告の販売代理店の数名にすぎないこと(甲32)などに照らすと,我が国の原告の工場で本件使用商品に関する商談が行われているとしても,外国からの訪問者は我が国の需要者とはいえず,需要者といい得るのは販売代理店の数名の者であって限られた範囲にとどまるものであるから,本願指定商品の需要者が全国的に存在しているとは認められず,本願商標が現実に使用された結果,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。イ
原告は,原告による本件使用商品の製造,輸出の結果,多数のカジノ関
係者(オセアニア,シンガポール,香港,フィリピン,マレーシア,マカオに所在するカジノの関係者(合計101名)
)等が本件使用商品と同一の本願商標の画像
について,原告の出所に係る商品であることを認識している旨主張する。しかしながら,原告が提出する多数のカジノ関係者の証明書等(甲27,29~31)は,諸外国のカジノ関係者において,本件使用商品が原告の業務に係るものであると認識することができるということを内容とするものであって,直ちに,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったことの根拠となるものではないといわざるを得ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,日本最大のカジノサイトである「リゾカジ」は,会員数
が約3万人であり,月間アクセス数は30万近くにのぼるものであり,日本語のみのウェブサイトであるため,その登録会員及び閲覧者のほとんどは,諸外国のカジノ施設への訪問を望む日本人観光客と推測され,
「リゾカジ」の会員である日本人
観光客が訪問するカジノにはほぼ100%,本件使用商品が設置されているから,本件使用商品は,相当数のカジノ施設を訪問する日本人観光客に認知されていると推察できる旨主張する。
しかしながら,仮に,上記サイトの会員数やアクセス数などから,本件使用商品自体が,外国のカジノ施設を訪問する一定数の日本人観光客に認知されていると推察することができ,これらの者が需要者といい得るとしても,当該商品の出所にまで関心を寄せていたとは認め難いから,原告が主張する上記事情をもって,本願指定商品の需要者の間で,原告の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

さらに,原告は,本願商標は,バカラゲームを行うカジノ施設を有する
諸外国(米国,欧州連合,オーストラリア,ロシア,マレーシア,ニュージーランド)においては,自他商品識別力を有するものとして商標登録されており(甲26の1~8)
,また,原告が本願商標を盛大に継続使用したことにより,本件使用商品は,バカラ電子シューのマーケットでは90%以上のシェアを占めるに至っている(甲27の1~甲32の3)旨主張する。
しかしながら,仮に,諸外国のカジノ関係者が,本願商標を原告の業務に係る出所表示として認識し,理解できるとしても,これらの者は我が国の需要者とはいえず,本願商標が使用された結果,原告の出所表示として我が国において全国的に認識されるに至ったと認めることができないのは前記認定のとおりである。そうすると,本願商標が,バカラゲームを行うカジノ施設を有する諸外国において商標登録されているとしても,商標法3条2項が適用されるべき事情があるとはいえないから,原告の上記主張は,前記認定を左右するものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,本願商標が,商標法3項2項の要件を具備するものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
第6

結論

以上のとおり,原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
清水節中島基至岡田慎吾
裁判官

裁判官
別紙
本願商標目録
【第1/7図】

【第2/7図】

【第3/7図】
【第4/7図】

【第5/7図】

【第6/7図】

【第7/7図】
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