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損害賠償請求事件
事件番号平成26(ワ)2217
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成29年9月15日
法廷名名古屋地方裁判所
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平成29年9月15日判決言渡
平成26年(ワ)第2217号
口頭弁論終結日

損害賠償請求事件

平成29年7月24日
判主1決文
被告は,原告に対し,1195万7799円及びこれに対する平成24年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用はこれを6分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告に対し,7139万円及びこれに対する平成24年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,被告の従業員から勧誘を受けて仕組債を購入した原告が,同勧誘行為につき適合性原則及び説明義務に反する違法があり,違法な実質的一任売買にも当たると主張して,被告に対し,民法715条に基づき,同仕組債の購入によって被った損害
(弁護士費用を含む。7139万円及びこれに対する不法

行為終了日である平成24年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1
前提事実(争いがないか,弁論の全趣旨及び後掲各証拠により明らかに認められる。



当事者

原告は,昭和2年生まれで,原告が設立したA株式会社(以下「A」という。の代表取締役社長を務めていたが,

平成11年12月に長男に社長
を譲った後は,Aの代表取締役会長を務めている者である(甲7)。

被告は,有価証券の売買,市場デリバティブ取引,外国市場テリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引並びにこれら取引の媒介,取次ぎ及び代理等を目的とする株式会社である。



原告と被告との仕組債についての取引経緯
原告は,平成15年8月に被告との取引口座を開設して,国内株式取引等を行っていたが,仕組債に関する取引経緯は,以下のとおりである。ア
原告は,平成17年11月1日,発行体「国際復興開発銀行」
,銘柄コー

「〇」発行日平成17年11月21日,

償還日平成47年11月21日,
券面5000万円とする仕組債(以下「先行仕組債1」という。
)を払込金
額4985万円で購入した(甲4,乙8)
。先行仕組債1の概要は,別紙1
のとおりである。
原告は,平成18年5月23日,先行仕組債1の初回のクーポン262万5000円(税引後210万円)の支払を受けた(甲4,乙25)。
原告は,平成18年11月15日,先行仕組債1を5352万2542円で売却した(甲4,乙25)



原告は,平成18年10月11日,発行体「B(NO.〇),銘柄コー」
ド「〇」
,発行日平成18年11月7日,償還日平成48年11月7日,券面5000万円とする仕組債(以下「先行仕組債2」といい,先行仕組債1と併せて「先行各仕組債」という。
)を払込金額4375万円で購入した
(甲2の1,甲4,乙9,20)
。先行仕組債2の概要は,別紙2のとおり
である。
原告は,平成19年4月12日,先行仕組債2を4866万6667円で売却した(甲2の2,甲4,乙25)



原告は,平成18年11月8日,発行体「B(NO.〇),銘柄コード」
「〇」
,発行日平成18年12月4日,償還日平成48年12月4日,券面5000万円とする仕組債(以下「本件仕組債1」という。
)を払込金額5
000万円で購入した(甲1の1,甲4,乙1,21)
。本件仕組債1の概
要は,別紙3のとおりである。
原告は,平成19年6月5日,本件仕組債1の初回のクーポン250万円(税引後200万円)の支払を受けた(甲4,乙33の1)

原告は,平成19年12月5日,本件仕組債1の2回目のクーポン63万8750円(税引後51万1001円)の支払を受けた(甲4,乙33の2)


原告は,平成19年4月12日,発行体「B(NO.〇),銘柄コード」
「〇」
,発行日平成19年5月8日,償還日平成49年5月8日,券面5000万円とする仕組債(以下「本件仕組債2」といい,本件仕組債1と併せて「本件各仕組債」という。
)を払込金額5000万円で購入した(甲1
の2,甲4,乙10,22)
。本件仕組債2の概要は,別紙4のとおりであ
る。
原告は,平成19年11月9日,本件仕組債2の初回のクーポン500万円(税引後400万円)の支払を受けた(甲4,乙34の1)

原告は,平成20年5月9日,本件仕組債2の2回目のクーポン500万円(税引後400万円)の支払を受けた(甲4,乙34の2)



原告は,平成24年10月3日,本件仕組債1を1875万円で,本件仕組債2を1635万円でそれぞれ売却し,合計6490万円の損失が発生した(甲1の3・4,甲4)




本件各仕組債の概要

本件仕組債1の概要は,以下のとおりである(乙1)

(ア)当初6か月間のクーポン(
「利子」ともいう。以下,同じ。
)は年率1
0%
(イ)それ以降の29年6か月間は,米ドルと豪ドルの2通貨に連動し,①利払日の10営業日前の為替レートが1米ドル107.55円より円安で,かつ,②利払日の10営業日前の為替レートが1豪ドル80.60円より円安である場合に,
その差分の小さい方を基準に,
その差分に1.
00%を乗じたクーポンが支払われる。
(ウ)当該利払日のクーポンを含むクーポンの累積額が額面の6.30%を超える場合に,
当該利払日に,
その元本5000万円が早期償還される。
(エ)しかし,(ウ)の早期償還条件を満たさないまま30年目の利払日を迎えた場合には,発行体の選択で,62万5000米ドル(5000万円を1米ドル80円の為替レートで換算したもの)100万豪ドル
か,
(5
000万円を1豪ドル50円の為替レートで換算したもの)で償還される。

本件仕組債2の概要は,以下のとおりである(乙10)

(ア)当初1年間のクーポンは年率20%
(イ)それ以降の29年間は,米ドルと豪ドルの2通貨に連動し,①利払日の10営業日前の為替レートが1米ドル101.20円より円安で,かつ,②利払日の10営業日前の為替レートが1豪ドル83.50円より円安である場合に,
その差分の小さい方を基準に,
その差分に1.
00%
を乗じたクーポンが支払われる。
(ウ)当該利払日のクーポンを含むクーポンの累積額が額面の35.20%を超える場合に,当該利払日に,その元本5000万円が早期償還される。
(エ)しかし,(ウ)の早期償還条件を満たさないまま30年目の利払日を迎えた場合には,発行体の選択で,55万5555.56米ドル(5000万円を1米ドル90円の為替レートで換算したもの)か,83万3333.34豪ドル(5000万円を1豪ドル60円の為替レートで換算したもの)で償還される。
2
争点及びこれに対する当事者の主張


適合性原則違反

(原告の主張)

金融商品取引法40条1項は,金融商品取引行為について,

顧客の知識,
経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護にかけることとなっており,又は欠けるおそれがあること」のないように,業務を行わければならないとする適合性原則を規定しており,これは業法のルールであると同時に私法原理でもある。


本件各仕組債は,次のような特性及びリスクを有している。
(ア)本件各仕組債は,①早期償還されれば元本5000万円を円貨で満額受け取ることに加えて高率のクーポンを受け取ることができるものの,②対米ドル及び対豪ドルのいずれかの関係で円高傾向が続くと,最長で30年間償還されないことになり,③当初1年間のクーポンが高率であることを考慮しても,資金を長期間拘束されることに比して十分な利回りを得ることができず,④それに加えて,30年後の償還額は外貨(発行体が選択した米ドル又は豪ドル)で,しかも極めて円高な水準(本件仕組債1につき1米ドル80円又は1豪ドル50円,本件仕組債2につき1米ドル90円又は1豪ドル60円)で算出されるので,為替による元本毀損リスクが高く,⑤また,このような見通しの中で途中売却をする場合にも期待収益によって算出される理論値よりもさらに買い叩かれるというリスクも存する。
(イ)本件各仕組債の具体的な危険性は以下のとおりである。
a
仕組みの複雑性,リスク・リターンの理解困難性
本件各仕組債は,スワップ取引とオプション取引を複雑に組み合わせたものであり,その本質はオプションの売りにある極めて危険性の高い証券である。しかも,価格形成が不透明で,為替相場の動向によっては30年という最長期間,金利を得ることすらできないまま「塩漬け」になるおそれがある。
b
為替相場の専門性
本件各仕組債は,米ドル及び豪ドルの為替レートの変動に賭ける投機的な商品であり,為替相場の動きはプロでも予測不可能であり,一般投資家において理解できるものではない。

c
価格形成の難解性
本件各仕組債は,債券部分とオプション部分とに分けられ,債券部分の現在価値は,償還までの期間に対応した金利によって割引計算をして算定されるものであるが,本件各仕組債は,満期償還の場合,為替レートを反映して償還金額を決定するよう仕組むために外貨先渡取引を組み込んでいることから,
これも合わせて計算しなければならず,
さらに早期償還する場合もあり,価格決定は複雑かつ難解になる。また,オプション部分の価格決定理論はそもそも難解である上に,本件各仕組債で用いられているオプションは経路依存型オプションを含み,かつ期間30年という実際にはほとんど取引されていない店頭オプションであるから,価格形成は極めて不透明である。

d
価格形成の不透明性
本件各仕組債が見かけ高クーポンとなっているのは,オプションの売りを含むと評価できる構造を有しており,ここから得られるオプション料を債券のクーポンに上乗せしているからであるところ,このオプション料の中から,本件各仕組債発行にかかわるアレンジャーや販売会社(被告)が手数料を抜いてしまうため,投資家は本来得られるはずのオプション料よりも低いクーポンしか得られることができず,その結果,得られるクーポンは証券に内在するリスクに見合わないものになっている。
e
流動性リスク
本件各仕組債を売却しようとする場合は,被告に買い取ってもらうほかないが,被告は,自らリスクを抱え込むことを避けるため,理論価格よりも大幅に低い価格でしか引き取らない。また,顧客が売却するか否かの意思決定をするためには,過去の価格推移や現在の売却価格を知ることが不可欠であるが,被告はこれを明らかにしないのであるから,事実上売却は不可能に等しい。

f
金利がゼロとなるリスク
本件各仕組債には,為替が一定以上円高になると金利がゼロとなるリスクがあり,しかも,2通貨の低い方を基準としてクーポンを決定するため,1通貨に比べてゼロ金利となる危険性が大幅に高くなる。また,満期償還時には外貨で償還されるのであるから,その場合には実質的に外貨運用となっているといえるが,ゼロ金利となれば高利率の外貨による運用益を失うに等しいものである。

g
市場リスク
本件各仕組債は,満期償還時にはあらかじめ定められた外貨で償還されるものであり,満期における為替リスクを負っている。しかも,2通貨の低い方を基準として償還元本が決まるため,1通貨の場合に比べて元本割れとなる危険性及び元本割れの程度は大幅に高くなっている。

h
インフレリスク
我が国では,戦後,長期的に見てインフレが続いており,長期の資産運用にあってはインフレリスクを考慮することが不可欠である。仮に,30年後の貨幣価値が3分の1になっていたとすると,償還金額の実質的価値はインフレによって3分の1になる。
i
信用リスク
本件各仕組債は債券の一種であるから,発行体の信用リスクを有する。30年後を予測することなどできないから,信用リスクも決して小さいとはいえない。


原告の属性として,次のような事情が存する。
(ア)原告は,昭和2年生まれで,平成18年11月当時は78歳であり,戦前に尋常高等小学校を卒業した後,5年間C県警に務め,昭和25年頃から自営で食品製造の仕事を始めたほか,昭和36年頃からは,鋼材関係の仕事を自営で始め,会社組織にしてからは同会社の社長ないし会長を務めている。
(イ)原告は,平成15年8月に被告D支店に口座を開設して現物株の取引を始めたが,被告の外務員から勧められて仕組債や投資信託等の取引を行ったことがあるものの,
原告が望んだ取引は日本の現物株のみであり,
原告には,日本の現物株式に関する知識があったとしても,他の金融商品についての知識はほとんどなく,デリバティブに関する知識も全くなかった。
原告としては,日本の現物株以外の取引をしようと考えたことはないし,日本の現物株取引よりリスクの大きい金融商品の取引をしようと考えたことはなかった。原告が,全く仕組債について知識がないにもかかわらず本件各仕組債を購入したのは,被告担当者から「儲かる」と言われたので購入したにすぎない。


本件各仕組債の特性及びリスクは,前記イのとおりであり,原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向等は,前記ウのとおりであるところ,原告は,本件各仕組債の特性とリスクを理解するだけの知識や経験,為替相場や外国企業の信用状態を判断する能力を有しておらず,さらに,本件各仕組債のような危険性を持つ商品に投資する意向は全くなかったのである。被告の外務員であるEは,上記のような原告の属性を十分に調査することなく,危険性の高い本件各仕組債を勧誘したものであり,この勧誘行為には,適合性原則違反の違法性が認められる。
(被告の主張)

原告の属性については,次の事情が認められる。
(ア)原告は,平成15年8月,被告D支店で有価証券の取引口座を開設して,主に国内の上場株式の売買取引を行っていたが,口座開設時に申告した投資方針として
「安全性と収益性のバランスに配慮したい。のうち

の「収益性をより重視したい。
」を選択している。なお,原告は,平成1
5年当時,原告自身が創業したAの代表取締役会長であって,社長職を息子に譲っていたが,実権は握っており,平成28年5月まで出社していた。
(イ)原告は,株式の売買について自分で銘柄を選ぶことが多く,株式取引の値下がりリスクについては,場合によって半値以下にまで値下がりするリスクがあることを認識している。
また,原告は,本件仕組債2を購入した約2か月後の平成19年6月に買い付けて平成20年9月のリーマンショック後の同年12月に売却した三菱地所株式の売買では64%の損失,本件仕組債1の買付と本件仕組債2の買付の間の時期である平成19年2月に買い付けて平成21年5月20日に売却した日産自動車株式の売買では62%の損失を出したことがある。
(ウ)原告は,Eに対して示した有価証券の明細によれば,UFJ系列の証券会社で豪ドル建て債券を保有していたことが窺われるし,他社との取引があることから被告の担当者からの勧誘を断ったことが複数回をあった。
(エ)原告は,転売利益を期待して本件各仕組債を購入したとのことであるから,株式取引において価格変動により損をするリスクがあるのと同様に,仕組債の価格変動により損をするリスクが存することも認識していたというべきである。原告は前記(イ)のとおり株式取引で6割程度の損失を被っていることと比較して,本件各仕組債の売買で生じた損失も株式取引で生じ得る範囲のものである。
(オ)原告は,平成24年10月に本件各仕組債を売却して,約6割ないし7割近い損失が生じたが,この時点で売却をしたのは,原告自身の為替の相場観により更なる値下がりを避けるためであった。
しかし,本件各仕組債は,その時点で満期まで20年以上も残存していたから,その時点で売却しなければ,その後必ず損失が拡大するとまではいえないし,満期における償還金額は,米ドルと豪ドルのうち顧客に不利な方が選択されるものの,発行時点や原告の売却時点の相場よりもかなり円高の設定の設定であるから,満期までの期間が長いことは,一方的に顧客に不利なリスクと捉えるべきではない。
本件各仕組債によって発生した損失は,原告自身の為替の相場観によって上記の時期に売却したことにより発生したものであり,Eがこれほど損が出るとは言わなかったなどという不満により,その損失の責任を被告に転嫁するのは不当である。

以上のとおり,原告は,十分な投資判断能力,リスク負担能力を有し,株式取引や仕組債取引について,自ら必要と考える情報を収集し,適時にリスクを取って取引する商品,銘柄を判断し,利益を追求してきた者であり,本件各仕組債の取引についても,自らの判断で,転売により利益を上げようと思って取引し,自らの為替の相場観により更なる値下がりを避けるために売却した結果,損失が生じたものであって,原告の投資意向や投資判断能力を踏まえても,Eが原告に対して本件各仕組債を勧誘したことが適合性の原則に違反するものでないことは明らかである。


説明義務違反

(原告の主張)

本件各仕組債はその仕組みが複雑であるから,そのリスクの内容についても,単に元本毀損のリスクがあると説明するだけでは足りず,その商品特性を踏まえて,具体的にどのような内容及び程度のリスクが存在するかについて,当該顧客が理解できるように,必要な方法及び程度による説明を行う義務があるというべきである。


本件各仕組債の危険性及び原告の属性からすれば,勧誘に当たっては,本件各仕組債の特性,リスクの質,程度を理解させ,自らの投資意向や実情との関係において,購入の可否を主体的に判断できるだけの説明をすべきである。金融庁の監督指針においても,最悪のシナリオを想定した最大損失,前提が異なればさらに損害が拡大する可能性があること,途中売却する場合における売却額の内容などを説明すべきと定められている。本件各仕組債の商品特性を踏まえると,本件各仕組債を勧誘したEにおいては,①当初の一定期間は高クーポンが得られ,為替レートが円高傾向になれば高クーポンを得て早期償還するため,一見有利に見えるが,この裏にはクーポンがゼロになって元本が30年間拘束されるという大きなリスクがあること,②利益には上限があるのに対し,リスクは,クーポンがゼロになって元金が30年間拘束されるという大きなものであること,③流動性が十分になく,一旦購入すると途中売却できるとは限らず,できるとしても理論価格から買い叩かれて安くなってしまうから,購入時30年間の為替相場や金利相場の変動や発行体の信用状態の変化を見越して,償還条件やクーポンの条件が有利かを判断する必要があるが,そのような判断はプロでも困難であり,本件各仕組債の購入は,そのような困難な投資判断をするものであること,④本件各仕組債は,実質的には購入代金を担保にしてデリバティブ取引を行うに等しく,しかも隠れた手数料を抜かれるため,投資家が負担するリスクに見合ったリターンを得ることができないにもかかわらず,契約時のスポットレートを前提にすると早期償還するように見えるため,早期償還しなかった場合に不利益の質と大きさが把握しにくく,有利な証券であるとの誤解を招く構造を持っていること,⑤過去のストレス時のデータ等合理的な前提を用いた最悪のシナリオを想定した想定最大損失を発生し得ること,⑥想定最大損失は異なる状況になれば,
さらに損失が拡大する可能性があること,
⑦途中売却できないこと,
仮に途中売却ができたとしても最悪シナリオを想定した途中売却に伴う損失見込額が生じ得ること,⑧2通貨型は1通貨型に比べて飛躍的に危険性が増すことを説明すべきであった。
また,説明義務違反の有無は説明の態様を踏まえて総合的に判断すべきであり,メリットに偏った説明をしていた場合や,形式的な説明をしていたにすぎない場合は,説明を尽くしたとはいえない。

しかしながら,Eは,原告に対し,本件各仕組債について説明すべき重要な事項は何ら説明していない。
仮に,Eが原告に対して説明したと述べる事項を基にしても,①元金が30年間拘束されるというリスクが原告にとって大きなリスクであるといった観点では何ら説明されていないこと,②デリバティブに関わっているため大きなリスクがあるといった観点で説明されていないこと,③リスクの程度を原告に正確に伝えようとせず,わざとぼかして説明しようとしていること,④途中売却の場合のリスクについて十分な説明をしていないこと,など,Eの説明は,本件各仕組債の構造や重要なリスクについて原告にできるような説明となっていないことは明らかである。


したがって,Eが原告に対し本件各仕組債についてした説明には,説明義務違反の違法性が認められる。
(被告の主張)

Eは,原告に対して,本件各仕組債の提案,説明をした際,
「ユーロ債の
ご案内」を示して,発行条件,クーポンの支払条件,満期が30年であり早期償還条件が付いていること,早期償還条件が成就する具体的な条件,満期償還金額が外貨で決まっていることについて説明するとともに,いずれも米ドルと豪ドルの為替レートが影響する条件であることを説明した。また,
本件各仕組債と同種の仕組債
(リーストダイレクトパワーターン債)
の一般的な説明資料(乙7,27)により,クーポン等のイメージ図などを見せて説明を補充した。
また,Eは,先行仕組債2を説明したときは先行仕組債1との違いを説明し,本件仕組債1を説明したときは先行各仕組債との違いを説明し,本件仕組債2を説明したときは本件仕組債1との違いを説明した。


Eは,上記の説明の際に,将来の為替レートに応じて,円安で顧客に有利になって利払いがある場合と円高で顧客に不利になってクーポンが支払われない状態について,それぞれの仕組債毎に決まった条件として提示されている計算式に具体的な数値を当てはめて説明した。また,Eは,為替相場の水準により,
早期償還条件を満たさない場合には満期まで30年間,
クーポンの支払がない状態となったまま保有することになることと,満期償還時の為替リスクについても説明している。


Eは,次のとおり途中売却時のリスクについても説明している。
すなわち,Eは,先行仕組債1の説明をした際,原告から途中売却できるからどうか聞かれたことから,仕組債は私募債であるので通常は被告が買い取る形になること,
したがって,
被告が買い取る価格を提示するため,
その価格に納得してもらえなければ結果として売れないことになるが,途中売却自体ができないことは通常はないと説明した。
そして,途中売却時に損失が生じる可能性があることについて,Eは,原告に対して,
「ダイレクトパワートリガー債(順デュアル型)に関する留
意点」
(乙27と同様の書類)
に記載されている各項目を順番に説明してお
り,原告は,金利・為替の変動の影響等により途中売却時に損失を被ることがあることや,大幅な円高の結果,著しく価格が低下する場合があることを理解していた。
その後,Eは,原告に対し,先行仕組債2,本件各仕組債を説明した際にも,その都度,途中売却時に為替相場の影響等で損失を被ること及び大幅な円高により著しく価格が低下する場合があるものの,通常は売却できないことはないこと,被告が買い取る形となるので,被告が提示する価格に納得してもらえなければ,結果として売れないことになることを説明した。

なお,途中売却時のリスクとしては,為替系仕組債の価格が値下がりするリスクがあること自体は説明すべきであるといえるとしても,途中売却時の売却価格の具体的な計算方法や提示する価格の決定方法,途中売却時の売却の相手方が被告となることを説明する義務はないというべきである。そもそも,本件各仕組債は,クーポンの支払や早期償還条件が将来の所定の時期における為替相場の数値を所定の計算式等に代入して確定することが,予め発行条件として提示されているものであって,満期までの間に途中売却することが前提となっているものではなく,途中売却時の時価や途中売却時に被告が提示する買取価格はそもそも予め具体的に説明できる性質の事柄ではない。
なお,Eが原告に説明したとおり,本件各仕組債が仕組債は私募債であるので通常は被告が買い取る形になり,被告が買い取る価格を提示することになるが,それは,被告が顧客の途中売却の要望に応じてサービスの一環として行う措置である。
したがって,顧客が途中売却を要望した場合の買取価格についての具体的な説明をする義務はないし,そもそも,将来の途中売却時の価格の見込みについて,どれだけ詳しく説明しようとしても,実際にできることは過去の為替相場のデータから推論するという性質の説明となり,事柄が将来の価格についての推測である限り,あくまでも仮定の議論を含んだ説明とならざるを得ない。

原告は,
本件各仕組債について分からなかったと述べるものの,
それは,
「ユーロ債のご案内」に記載されている債券の発行条件やリスクそれ自体(どのような経済事情の影響によって仕組債が値動きするか,リスクが発生するか)ということではなく,仕組債の購入時点で,仕組債が実際に値上がりするかどうか,また,リーマンショック後に大きく値下がりした時点においても,その後,再び値上がりするかどうかという見通しについて分からなかったにすぎないというべきである。
Eは,原告に対し,本件各仕組債の発行条件やリスクについて説明すべき事項は全て説明したというべきであり,その勧誘について何ら説明義務違反に該当する事実はないというべきである。



実質的一任売買

(原告の主張)

Eは,原告が証券取引に関する知識・経験に乏しく,とりわけ,デリバティブに関する知識を全く有せず,本件各仕組債の仕組みやどの程度の危険性が発生するおそれがあるかについても全く理解していないにもかかわらず,その仕組みや取引によって発生することが予想されるリスクの程度について,
原告が理解できるような具体的な説明を行うことなく,
「儲けが
とれる商品である」といった説明をして,原告を信用させ,Eの思うがままに,本件各仕組債を次々と購入させていったものである。


したがって,Eが原告に本件各仕組債を購入させたことについては,実質的一任売買の違法性が認められる。
(被告の主張)

原告は,株式を含め,投資を検討する金融商品についての原告自身の考えがあり,Eが提案しようとしても商品説明も聞かなかったし,勧めた株式も銘柄によっては断ったことがあるし,国債については具体的な条件にかかわらず購入しないという意向を有している。


原告が本件各仕組債の取引について,その説明を全く聞いていないと述べるところは信用できないが,原告自身は,要するに転売して利息以上の利益を上げることを期待して本件各仕組債を買った旨述べており,また,本件各仕組債を6割ないし7割程度の損失を出して売却したときは,当時の為替相場の状況によって値下がりしていることを認識し,それ以降も株式のようには値上がりしないだろうと考えて,原告自ら売却することを決めた旨述べている。


すなわち,原告は,Eらが述べる見通しに関する意見を聞くことはしたが,投資判断自体は自ら行っていたことを原告自身が述べているのであって,Eが原告の仕組債取引について一任された事実は全くない。



原告の被った損害の額

(原告の主張)

原告は,Eの違法な勧誘を受けて,本件各仕組債を購入させられ,その結果,6490万円の損害を被った。
本件事案はテリバティブ取引に関する専門知識とノウハウをもって分析する必要があるため,原告は,上記損害の回復を求めるために原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起さぜるを得なかったところ,その弁護士費用としては649万円が相当である。


したがって,原告が被った損害の合計は,7139万円となる。

(被告の主張)

原告の損害発生に関する主張は否認する。

過失相殺(予備的主張)
原告は,
Aの代表取締役会長として会社経営の実権を握っていた者であり,被告における株式売買の取引履歴を見ただけでも,相当の情報収集能力,投資判断能力及びリスク負担能力があることが明らかである。原告は,国債については具体的な条件にかかわらず購入しないという意向を有するなど,金融商品について一定の知識があり,理解力や投資決定力が高いことも明らかである。
原告は取引に関する資料の交付を受けたことは認めているところ,その資料を見れば,途中売却の可否やその際の為替変動リスクを含む,本件各仕組債の発行条件やリスクを理解することができるのであるから,仮に,原告が本件各仕組債の内容を知らずに取引をしたのであれば,そのこと自体が重大な過失であるというべきである。
しかも,原告は,転売利益を見込んで本件各仕組債を買い付けたものであり,現実に発生した売却損失は,原告自身が相場判断をして売却した時期の為替相場の状況によって発生したものであって(なお,原告が本件各仕組債を売却した平成24年10月3日以降,米ドルや豪ドルの為替レートが円安に推移した時期があったから,仮に継続保有していた場合には,本件仕組債1は平成26年12月4日の利払日に早期償還となっていたものである。,)
本件各仕組債の取引によって発生し,あるいは拡大した損失についての原告の過失の程度は著しく高いというべきである。
よって,被告は,原告の過失の程度につき,9割以上の過失相殺を主張する。


損益相殺(予備的主張)について
原告は,本件仕組債1については251万1001円の利金,本件仕組債2に関しては800万円の利金をそれぞれ受領している。
仮に被告に何らかの不法行為責任が認められた場合であっては,上記利金合計1051万1001円はその損害から控除すべきである。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実


原告の経歴の概要(前記前提事実⑴,甲7,原告本人)原告は,昭和2年生まれで,平成18年11月当時は78歳であり,戦前に尋常高等小学校を卒業した後,5年間C県警に務め,昭和25年頃から自営で食品製造の仕事を始め,
昭和36年頃から自営で鋼材関係の仕事を始め,
それが後に原告が代表取締役社長を務めるAとなり,平成11年12月に長男に社長を譲った後は,原告が同会社の代表取締役会長を務めるようになったが,同会社の実権はほとんど原告が握っていた。
Aは,主に新日鉄や日本鋼管からコイル状の鉄板を仕入れ,それを加工して自動車部品等を作成して納入するという業務を行っていた。



原告の投資経験,先行仕組債1の取引までの経過

原告は,平成15年8月に被告D支店において取引口座を開設したが,その時点での投資経験につき,
陳述書
(甲7)
及び原告本人尋問において,
会社経営を引退してから,日本の現物株の取引を少し勉強しようと思って取引を始めた,それまでは証券取引等は全くやったことはないなどと述べる(原告本人・2頁)

しかしながら,原告は,取引口座を開設した際,被告従業員から渡された「証券総合サービス申込書」
(乙17)に氏名,住所,職業等を記載し,
「お客様カード」
(乙18)の投資方針についての「安全性と収益性のバラ
ンスに配慮したい。
」のうちの「収益性をより重視したい。
」とのチェック
欄,公社債及び株式の投資経験があり,年収は3000万円以上で,金融資産は3000~5000万円であることを示す各チェック欄,国内外の株式・債券・CB(転換社債若しくは転換社債型新株予約権付社債)について,以後重要事項について改めて説明を受ける必要はないと考えている旨のチェック欄をそれぞれ選択して署名し,これらの書類を被告従業員に交付していることが認められるから,その時点で証券取引等は全くやったことはないなどとする原告本人尋問における上記供述部分を直ちに採用することはできない。
また,被告が証拠として提出する接触履歴(乙19)は,被告従業員が顧客と応対した都度,当日ないしその翌々日までの間に応対内容を記載したものであり(証人E・5頁)
,その記載内容を見ても直ちに信用性を疑わ
なければならない事情は見当たらないところ,当該接触履歴によれば,原告は,被告担当者との連絡の際,株式の購入銘柄について自らの意見を積極的に述べており,この点は,原告が本人尋問において,ニュースの情報を得たり,自分で新聞で読んだりして,株式を買う時は自ら銘柄を選んでいた旨述べること(原告本人・27頁)と合致する。なお,同接触履歴中には,原告が銀行等の他社との取引があることを理由に被告との取引を差し控える趣旨の対応をした記載があるところ(乙19・2頁2004年3月15日,同年4月8日,3頁同年6月11日,4頁同年8月18日,同年9月3日)
,原告及びAが主として取引していた三菱東京UFJ銀行と
の間では金融商品の取引を行っていた事実はないし,同銀行系列の三菱UFJモルガン・スタンレー証券との間では取引口座が開設されていないことが認められるものの
(調査嘱託の結果)他の金融機関との間で金融商品

の取引をしていた可能性は否定できない。
したがって,原告は,被告と取引口座を開設する以前にどの程度の投資経験があったのかは必ずしも明らかではないものの,
「お客様カード」
(乙
18)に記載したように,少なくとも公社債及び株式の一定の投資経験があったものと認められる。

原告は,被告と取引口座を開設してから,ニュースや新聞から得た知識や,被告従業員からのアドバイスを参考にし,自ら銘柄を選んで国内株式等の取引をした(原告本人・27頁)

被告外務員のEが,平成16年7月頃,前任者から原告の取引口座の営業担当を引き継いだが,その時点で,原告は,国内株式(日産自動車,三共,三洋電機,商船三井,電源開発,東レ,三菱地所)と,債券型投資信託であるF(毎月分配型で原則として為替ヘッジなしの内容のもの)を保有していた(乙25)



原告の被告における仕組債の係る取引経緯
前記前提事実に加え,証拠(乙19,25,26,証人E,原告本人,後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(前記のとおり,接触履歴《乙19》には直ちに信用性を疑わなければならない事情は見当たらない。
原告本人尋問中,
以下の認定事実に反する部分は採用できない。。


先行仕組債1の取引経緯
原告は,平成17年10月28日,Eに電話を架け,UFJ銀行から仕組債の案内を受けたので商品性について詳しく教えてほしいこと,もし条件がよければ被告から買いたいので具体的な形で案内してほしいことなどを伝えた(乙19・5頁の日付「20051028」欄)

Eは,同月31日,トリガー付パワーデュアル債(順デュアル債)と呼ばれる先行仕組債1の「ユーロ債のご案内」
(乙8)
,発行体である国際復
興開発銀行の概要,
「ダイレクトパワートリガー債(順デュアル型)
」説明
資料
(乙27と同様の書類)為替相場の推移に関するチャートを持参して,,
原告の自宅に赴いた。Eは,原告に対し,仕組債の取引は額面5000万円からでないと買付ができないと伝えたところ,原告はその金額であっても問題はない旨回答したため,先行仕組債1の具体的な説明をすることとし,国際復興開発銀行は世界的に有名な格付会社2社がいずれもトリプルAを付与しており信用リスクは非常に低いことを説明した上で,
「ユーロ
債のご案内」
(乙8)を基に,クーポンがいくら支払われるのか,クーポン
が支払われなくなるのはどのような場合かを,為替レートの具体的な数字を示しながら説明し,早期償還条件が満たされる場合を具体的に説明し,為替相場のチャートを示しながら為替レートの相場状況について説明するとともに,満期償還の場合に1豪ドルが50円という為替レートで換算し,5000万円を100万豪ドルで償還するので,1豪ドル50円より円高であれば為替差損が発生することを説明した。
また,Eは,先行仕組債1の満期が30年であることを説明したが,原告からは,そのような長い満期は考えられないとか,途中売却できるのかなどの発言があったため,Eは,説明資料を示して,途中売却の場合は,金利,為替の変動の影響等で損失を被ることがあることを説明した。そして,原告から,損得があることは仕方がないが,途中で売却できないのは困るなどの発言があったため,Eは,この債券は私募債であるので,被告が提示した価格で買い取ることになり,通常の場合は途中売却できないことはほとんどないが,被告が提示した価格に納得できない場合には途中売却できないことになることなどを説明した。さらに,原告から,仕組債の相続について質問を受けたことから,Eは,株式,債券,投資信託等と同様に,換金することなく相続人に相続できることを説明した。
原告は,上記の説明をした翌日の平成17年11月1日,先行仕組債1を払込金額4985万円で購入した。
原告は,平成18年5月23日,先行仕組債1の初回のクーポン262万5000円(税引後210万円)の支払を受けた。

先行仕組債2の取引経緯
Eは,平成18年10月11日,原告宅に赴き,先行仕組債2の発行条件が記載された「ユーロ債のご案内」
(乙9)
,発行体であるBの概要,同
種債券の一般的な説明資料
(乙27と同様の書類)為替相場の推移のチャ

ート,先行仕組債1の「ユーロ債のご案内」を持参して,先行仕組債1と比較しながら,先行仕組債2の説明をした。
Eは,原告に対し,発行体の概要を説明するとともに,本件仕組債2の格付は,日本の格付会社2社(R&I,JCR)が「A+」又は「AA」で,米国の格付会社(S&P)が「A」であることを説明した上,先行仕組債1と先行仕組債2のそれぞれの「ユーロ債のご案内」を示しながら,クーポンがいくら支払われるのか,クーポンが支払われなくなるのはどのような場合かを,為替レートの具体的な数字を示しながら説明し,先行仕組債2は発行価格が87.5%なので払込金額が4375万円となり,早期償還条件を満たせば,償還金額5000万円との差額625万円が利益となる旨説明した。
Eは,その後,先行仕組債2のリスク(早期償還されない場合の満期が30年であること,満期償還金の為替リスク,途中売却の場合のリスク)についても,先行仕組債1と同様に説明した。
原告は,Eから上記の説明を聞いて,先行仕組債2を払込金額4375万円で購入した。

本件仕組債1の取引経緯
Eは,原告から,先行仕組債1が早期償還するのであれば,その償還金でまた仕組債を買いたいとの意向を聞いていたところ,平成18年11月2日,
先行仕組債1の早期償還の可能性が高くなってきたことから,
「リー
ストダイレクトパワーターン債(順デュアル型・満期償還通貨発行体選択型)
」説明資料(乙7)
,本件仕組債1の「ユーロ債のご案内」
(乙1と同様
の書類)及び発行体であるBの概要(乙2と同様の書類)を原告宅に郵送した。
Eは,平成18年11月8日,先行仕組債1の早期償還条件が満たされたため,原告宅に赴き,本件仕組債1の発行条件が記載された「ユーロ債のご案内」
(乙1と同様の書類)
,発行体であるBの概要(乙2と同様の書
類)
,同種債券の一般的な説明資料(乙7と同様の書類)
,為替相場の推移
のチャート,先行各仕組債の「ユーロ債のご案内」を持参して,本件仕組債1の説明をした。
Eは,原告に対し,先行各仕組債,本件仕組債1のそれぞれの「ユーロ債のご案内」を示しながら,クーポンがいくら支払われるのか,クーポンが支払われなくなるのはどのような場合かを,為替レートの具体的な数字を示しながら説明し,本件仕組債1は,先行各仕組債と異なり,豪ドルだけでなく米ドルの為替レートにも影響を受けること,早期償還条件が,基準時点の為替レートで決まるのではなく,原告がその時点までに受け取ったクーポンの合計額がターゲットレベル以上になるか否かで決まること等を説明した。
また,Eは,原告に対し,途中売却の場合には金利,米ドルと豪ドルの為替の変動で損失を被ることがあること,本件仕組債1は元本を保証するものではなく,早期償還されずに円高方向に為替が変動した場合には,ゼロクーポンが長期間継続する可能性があることや,満期償還金が外貨で決まっているので為替変動リスクを負うことなどのリスクを説明した。原告は,同日,本件仕組債1を払込金額5000万円で購入した。なお,原告は,平成18年11月15日,先行仕組債1について,早期償還日(同月21日)以前に売却すると経過利子が非課税となって早期償還日の償還額よりも有利となるため,5352万2542円で売却した。エ
本件仕組債2の取引経緯
Eは,平成19年4月12日,原告宅に赴き,本件仕組債2の発行条件が記載された「ユーロ債のご案内」
(乙10)
,発行体であるBの概要(乙
11)
,同種債券の一般的な説明資料(乙7)
,為替相場の推移のチャート
(乙12~15)
,本件仕組債1の「ユーロ債のご案内」
(乙1)を持参し
て,本件仕組債1と比較しながら,本件仕組債2の説明をした。
Eは,原告に対し,本件仕組債1と本件仕組債2のそれぞれの「ユーロ債のご案内」を示しながら,クーポンがいくら支払われるのか,クーポンが支払われなくなるのはどのような場合かを,為替レートの具体的な数字を示しながら説明し,原告がその時点までに受け取ったクーポンの合計額がターゲットレベル以上になれば早期償還条件を満たすことや,満期償還金が外貨で決まっているので為替変動リスクを負うことなどを説明した。また,Eは,原告に対し,同種債券の一般的な説明資料(乙7)を示しながら,本件仕組債2は元本を保証するものではなく,途中売却の場合には金利,米ドルと豪ドルの為替の変動で損失を被ることがあること,早期償還されずに円高方向に為替が変動した場合には,ゼロクーポンが長期間継続する可能性があることや,満期償還金が外貨で決まっているので為替変動リスクを負うことなどのリスクを説明した。
原告は,同日,先行仕組債2を4866万6667円で売却し(前記前提事実⑵イ)本件仕組債2を払込金額5000万円で購入した,
(前記前提
事実⑵エ)


その後の経緯
(ア)原告は,平成19年6月5日,本件仕組債1の初回のクーポン250万円(税引後200万円)の支払を受けた(前記前提事実⑵ウ)。
原告は,同年11月9日,本件仕組債2の初回のクーポン500万円(税引後400万円)の支払を受けた(前記前提事実⑵エ)。
原告は,同年12月5日,本件仕組債1の2回目のクーポン63万8750円(税引後51万1001円)の支払を受けた(前記前提事実⑵ウ)

原告は,平成20年5月9日,本件仕組債2の2回目のクーポン500万円(税引後400万円)の支払を受けた(前記前提事実⑵エ)。
(イ)原告は,平成24年10月3日,本件仕組債1を1875万円で,本件仕組債2を1635万円でそれぞれ売却し,合計6490万円の損失が発生した(前記前提事実⑵オ)

2
適合性原則違反について


平成18年法律第65号による改正前の証券取引法43条1項は,顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないように業務を営まなければならない旨規定して,適合性の原則の遵守義務を定めており,証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となるというべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1323頁)


⑵ア

本件各仕組債は,
「リーストダイレクトパワーターン債(順デュアル型・
満期償還通貨発行体選択型)と呼ばれる仕組債であって,

具体的な商品特
性として,①本件仕組債1は最初の半年間につき年率10%,本件仕組債2は最初の1年間につき年率20%の高利率のクーポンを受け取ることができること,②それ以降は,米ドルと豪ドルに連動し,設定為替レートよりも円安であれば,その差分の小さい方を基準に,その差分に1.00%を乗じたクーポンが支払われるが,設定為替レートよりも円高であれば,クーポンの支払はないこと,③早期償還条件(クーポンの累積額が額面の一定割合を超えること)を満たせば,クーポンに加えて元本5000万円を円貨で受け取ることができるものの,同条件を満たさないと30年間償還されないこと,④30年後の満期償還時は,発行体が選択した米ドル又は豪ドルで算出した金額(本件仕組債1につき1米ドル80円又は1豪ドル50円,本件仕組債2につき1米ドル90円又は1豪ドル60円)で償還されること,⑤早期償還条件を満たさない状況で,途中売却をする場合には,本件各仕組債は私募債で一般の取引市場がなく,流動性のあるものではないので,顧客が他の買い手を見つけて売却することができないではないが,事実上は被告が買い取ることとなり,その場合には被告が算定した提示額で売買されること,という特性を有する(①~④の商品特性は,別紙3,4の「ユーロ債のご案内」に記載された事柄,⑤の商品特性は,弁論の全趣旨により認定される事柄である。。

そして,上記⑤の途中売却した場合の価格については,予め確定的に算出することは困難であるが,リーストダイレクトパワーターン債(順デュアル型・満期償還通貨発行体選択型)の説明資料(乙7・8頁)には,本債券の価格変動について,
「償還金の価値は,早期償還がない場合には,償
還金が外貨なため,償還通貨建のゼロクーポン債の価値を足元のスポット為替で円換算するのと同様に考えることができます。,
」「一般的にゼロク
ーポン債の価値は,償還通貨の金利が高い(低い)ほど,満期までの期間が長い(短い)ほど小さく(大きく)なります。
」とされ,金利年5.8%
で期間30年の場合は約17%,金利年6.5%で期間30年の場合は約15%となる旨記載されているように(乙27・6頁にも同様の記載がある。,途中売却時の本件各仕組債の価値は,途中売却時期や為替レートの)
変動状況によっては元本を大幅に割り込むことが想定される(実際,本件各仕組債による損失は元本の約65%に及んでいる。。


本件各仕組債における顧客のメリットについて見ると,最初の半年間ないし1年間は固定金利の高率のクーポンを受け取ることができ,その後,基準レートよりも円安傾向にあれば,引き続きクーポンの支払を受けることができること(ただし,クーポンの支払が一定額に達すると早期償還となり,それ以上のクーポンの支払を受けることはできないという上限がある。が挙げられる。

早期償還の場合は元本が円貨で満額返還されるから元
本割れすることはなく,早期償還の条件を満たさず満期償還に至った場合は,為替レートが基準レートよりも円高傾向で推移した場合であるから,満期償還によって為替差益を得る可能性は低い。
一方,本件各仕組債における顧客のリスクについて見ると,クーポンに関するリスクとしては,①基準レートよりも円高傾向にあればクーポンの支払を受けることができないというものであり,元本返還に関するリスクとしては,②早期償還の条件を満たさないと5000万円もの資金が30年間拘束されること,③30年後の満期償還額は,発行体が選択した米ドル又は豪ドル(ただし,換算レートは予め設定された固定値)で算出した金額で償還され,設定された換算レートよりも円高に推移していれば為替レートによる元本割れのリスクを負うこと,④30年間の資金拘束を解くためには途中売却する必要があるが,原則として被告が買い手となることが想定され,その場合は被告が算定した提示額で売買されることになるというリスク(本件各仕組債の売却価格のように大幅に元本割れすることもある。を負うこと,

⑤発行体の財務状況の悪化により債務不履行となるリスク自体を完全に否定することができないこと,が挙げられる。


原告は,昭和2年生まれであり,本件仕組債1を購入した当時は78歳という年齢ではあったものの,
昭和36年頃から自営で鋼材関係の仕事を始め,
Aを設立してからは同社の代表取締役社長を務め,平成11年12月に長男に社長の地位を譲った後も同社の代表取締役会長の立場で実権を握ってきたものである。
Aが行う取引は,その取引価格に外国為替レートが直接影響するようなものはなかったかもしれないが,納入先が自動車関連の会社であれば,原告としても海外通貨の為替レートに一定の関心を有していたし,経済事情について一定の理解力を有していたと思われる。また,原告は,被告との取引口座を開設した平成15年当時にも公社債及び株式の一定の投資経験があり,同取引口座を開設してから,原告自身が自ら銘柄を選んで国内株式等の取引をし,先行仕組債1を買った当時は,数社の国内株式と債券型投資信託を保有している状態であったものであり,証券投資については一定の経験を有していたと評価することができる。
原告自身も,被告との口座開設の際に,
「収益性をより重視したい。
」とい
う投資方針を伝えており,本人尋問において,国債はあまり魅力がない,国債ぐらいの利率では買っても余り意味がないなどと述べ(原告本人・34,35頁)
,ある程度のリスクがあっても収益性を重視するという投資方針を有しており,本件各仕組債とほぼ同時期に行っていた株式取引により,三菱地所株式につき約64%の損失,日産自動車株式につき約62%の損失を被っている。こうした国内株式の取引による損失割合は,本件各仕組債による損失(約65%)とほぼ同程度のものである。
また,被告との仕組債の取引を開始したのも,原告が,他社銀行から仕組債の案内を受けたことをきっかけとして,被告から商品性について説明を受けて条件がよければ被告と取引しようとしたという経緯も認められる。⑷

本件各仕組債のクーポンの発生や償還の条件は,米ドルないし豪ドルの為替レートによって定まるものであるから,米ドルや豪ドルの為替レートがどういうものか,円安・円高とはどういうことかなどの基本的な事項を理解している者であれば理解することは可能であるから,原告のような投資経験,為替レート等の経済事情の知識・理解力を有している者であれば十分判断可能な内容である。
また,
途中売却された場合には大幅に元本割れすることがあり得ることや,発行体の財務状況の悪化により債務不履行となるリスク自体も完全には否定できないものの,こうしたリスクは,株式売買においても株価の大幅な下落や倒産といった事態により同程度のリスクとして顕在化し得るものであって,原告自身が,ある程度のリスクがあっても収益性を重視するという投資方針を有し,
自ら銘柄を選定して積極的に株式売買をしていたことを考慮すれば,Eが原告に本件各仕組債を勧誘したことが,原告の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う金融商品を勧誘したものと認めることは困難であり,本件各仕組債の勧誘行為をもって直ちに適合性原則に違反する違法なものであるということはできない。
3
説明義務違反について


金融商品の販売者は,当該顧客の知識,経験,財産の状況等を踏まえて,当該顧客が金融商品のリスクを理解するのに必要な情報を,理解できるような方法で説明すべき信義則上の義務を負うというべきである。



本件各仕組債のリスクは,前記のとおり,①当初の固定クーポン以後のクーポンがゼロとなるリスク,②早期償還の条件を満たさないと5000万円の資金が30年間拘束されるリスク,③30年後の償還額が為替レートにより元本割れとなるリスク,④途中売却した際の売却時期や為替レートの変動状況によって元本割れとなるリスク,⑤発行体の債務不履行リスクが挙げられる。
このうち,①ないし③のリスクについては,米ドルないし豪ドルの為替レートによってどの程度のリスクが生じるのかが定まるものであり,そのリスクが生じる場合や損失額は「ユーロ債のご案内」により具体的に説明されているし,Eも原告に対して数値を当てはめながらそのリスクを具体的に説明している。満期売却時の損失リスクについて見ると,Eは,原告に対し,設定された換算レートよりも円高に推移していれば為替レートによる元本割れのリスクを負うことを具体的に説明していたから,外国通貨の為替レートについての一般的な知識を有する顧客であれば,例えば,設定された換算レートよりも1割程度円高になっていれば,1割程度の元本割れが生ずるというリスクを理解することができるものと考えられる。
また,⑤のリスクについては,Eが発行体の概要を示して一応の説明をしており,このリスクについての説明義務違反もないというべきである(本件各仕組債で発生した損失は⑤のリスクが顕在化したものでもない。。)


④のリスクについての説明義務について検討する。ア
本件各仕組債は,早期償還条件を満たさなければ30年という長期間,5000万円という多額の資金が拘束されるものであるから,顧客にとって途中売却が可能かどうか,途中売却によってどの程度の損失リスクを負うのかについては,重要な情報であるというべきである。
被告は,本件各仕組債はそもそも途中売却を前提としたものではないとして,途中売却価格の具体的な計算方法や被告が提示する価格の決定方法,途中売却時の売却の相手方が被告となることを説明する義務を負うものではないと主張するが,資金拘束期間が30年という長期間に及ぶものである以上,本件各仕組債のリスクを説明する際には,顧客が途中売却を選択することを当然に想定すべき事柄であるといわざるを得ない。


そして,前記2⑵のとおり,本件各仕組債の途中売却による損失リスクは,原則として被告が買い手となることが想定され,その場合は被告が算定した提示額で売買され,途中売却の価格は大幅に元本割れすることがあり得るというものであり,本件各仕組債の販売者はこうしたリスクを顧客が理解できるような方法で具体的に説明すべき義務を負うというべきである。
このうち,被告が買い手となることが想定され,その場合は被告が算定した提示額で売買されることについては,前記1⑶で認定したとおり,Eは原告に説明したものと認められる。
これに対し,途中売却の損失リスクについて見ると,満期償還時の損失リスクは,前記2⑵のとおり「ユーロ債のご案内」によって具体的に説明されているし,その元本割れの程度も,例えば設定レートよりも1割程度円高になっていれば1割程度の損失が生ずるという程度のものである一方,途中売却の損失リスクは,為替レートの状況に応じて生じ得るものであるものの,大幅に元本割れすることがあり得るものであって(ゼロクーポン債として価値を把握すると,金利年5.8%で期間30年の場合は約17%,金利年6.5%で期間30年の場合は約15%となり,元本が6分の1以下になってしまう。,その損失リスクがいずれも為替レートに応)
じて発生するものであるものの,両者は質的に異なるものである。しかも,本件各仕組債は,当初期間に高率の固定クーポンを受け取ることができ,為替レートが顧客に有利に推移すれば更にクーポンを得ることができること(ただし,ターゲットレベルを上限とする。
)というメリット
があり,一方で,為替レートが顧客に不利に推移した場合でも,当初期間の固定クーポン以外のクーポンがゼロとなり,30年の満期償還時は5000万円を予め定めた為替レート(本件仕組債1につき1米ドル80円又は1豪ドル50円,本件仕組債2につき1米ドル90円又は1豪ドル60円。なお,この為替レートは取引時よりも円高に設定してある。
)で換算し
た償還金が支払われるというものであって,こうした特性自体は,顧客の一般的な投資姿勢(クーポンはより確実により多く得たいし,元本割れリスクは避けたい。
)に沿ったメリット,リスクとして,説明し易いものとな
っている。こうしたメリット,リスクを顧客に説明する際に,途中売却時の元本割れリスクを
「為替レートによっては元本割れすることがある。と

いう程度の説明をしただけでは,顧客が途中売却時の元本割れリスクを他のリスクと同レベルのものとして誤解しかねないし,仮に途中売却時の元本割れリスクが顧客の投資姿勢と相容れないものであったとしても,そうしたリスクが顧客が違和感を感じない他のメリットやリスクの中に埋没されてしまい,誤った投資判断をしてしまうことになりかねない。したがって,本件各仕組債の途中売却の損失リスクを説明する際には,上記のように,その損失リスクが,満期償還時の損失リスクとは質的に異なる大幅な元本割れに繋がることを顧客が理解できるような方法で具体的に説明すべきである。

前記1⑶で認定したとおり,Eが原告に対してした途中売却の損失リスクの説明は,説明資料を示しながら,仕組債は私募債であるので被告が提示した価格で買い取ることになり,通常の場合は途中売却できないことはほとんどないが,被告が提示した価格に納得できない場合には途中売却できないことになることや,金利,為替の変動の影響等で損失を被ることがあることを説明したという程度のものである。Eは,途中売却の際に被告が提示する買取価格とか社内時価について説明はしていないし(証人E・33頁,61頁)
,途中売却時の損失リスクについて,
「金利,為替の変動
の影響等で損失を被る」という程度に留まっており,それ以上に,損失リスクの程度が,満期償還時の損失リスクとは質的に異なる大幅な元本割れに繋がることを具体的に説明した事実は認められない。
なお,
Eが説明する際に原告に交付した同種債券の一般的な説明資料
(乙
7,27)には,
「償還金の価値は,早期償還がない場合には,償還金が外
貨なため,償還通貨建のゼロクーポン債の価値を足元のスポット為替で円換算するのと同様に考えることができます。,
」「一般的にゼロクーポン債
の価値は,償還通貨の金利が高い(低い)ほど,満期までの期間が長い(短い)ほど小さく(大きく)なります。,
」「ゼロクーポン債の価値計算例・金
利5.
8%で期間30年の場合:100%÷
(1+
〔5.
8%〕
/100%)
^
〔30年〕
=約17%,
金利6.
5%で期間30年の場合:100%÷
(1
+〔6.5%〕/100%)^〔30年〕=約15%」との記載があり,本債券の留意点として,複数の項目が列記され(乙7・9頁の12項目,乙27・7頁の9項目)
,その中に,
「金利・為替の変動の影響等により途中
売却時に損失を被ることがあります。,

「大幅な円高の結果,
著しく価格が
低下し,本債券と同年限の満期期間の長いゼロクーポン債と同様の価値(円換算したもの)
まで下落する場合があります。との記載がある。

Eは,
本債券の留意点として列記された項目の説明について「まとめに近いようなものになるんですが,順番に説明していきまして,途中売却等についてもそうですし,為替,順番にこう説明していきました,これについてまとめのようなかたちで。
」と述べる(証人E・13頁)
。しかし,Eの説明は,
本件各債券の他のリスクについては,
「ユーロ債のご案内」を基に,数値を
当てはめながらそのリスクを具体的に説明しているのに対し,途中売却時の損失リスクについては,金利,為替の変動の影響等で損失を被ることがあることを説明したという程度であって,途中売却時の損失リスクが,満期償還時の元本割れリスクとは質的に異なる大幅な損失を生じさせるものであることを具体的に説明したとは言い難い。このような説明を聞いたとしても,途中売却時の損失リスクが,具体的に説明された他のリスク・メリットの中に埋没してしまって,説明を聞いた顧客が,途中売却時の損失リスクに特段の注意を払うことがなかったとしても当然といえる。また,仮に,Eが証言するように,本債券の留意点を順に説明したことがあったとしても,まとめとして9項目ないし12項目の列記事項を順に説明したという程度のものであり,
「本債券と同年限の満期期間の長いゼ
ロクーポン債と同様の価値(円換算したもの)まで下落する」とはどの程度のリスクに繋がるのかとか,途中売却時の損失リスクが他のリスクと異なる大幅な損失に繋がることが具体的に説明されたと認めることは困難であるし,原告が途中売却の損失リスクに係る記載部分の重要性に留意することがなかったとしてもやむを得ないというべきである。
原告は,Aの代表取締役会長を務めていたとしても,本件仕組債1を購入した当時は78歳という年齢であり,Eが交付した一般的な説明資料の上記記載事項を自ら読んで理解することができたとは直ちに認め難いから,Eの説明が上記の程度に留まるものであった以上,一般的な説明資料を交付してあるから原告はその内容を理解することができたはずであると認めることもできない。

なお,被告は,途中売却時の時価や途中売却時に被告が提示する買取価格はそもそも予め具体的に説明できる性質の事柄ではないなどと主張するが,途中売却時の具体的な価格を予め算定することができないとしても,途中売却時の損失リスクの程度が,満期償還時の損失リスクとは質的に異なる大幅な元本割れに繋がることを顧客に理解させることは,説明方法を工夫すれば十分に可能であるというべきである。


したがって,Eが原告に対し本件各仕組債の途中売却による損失リスクについてした説明には,説明義務違反の違法性が認められるというべきである。



原告は,その他にも,Eが説明すべきであった事項として複数の指摘をするが,それらの事項の説明をすることが望ましいといえるとしても,その説明がなかったことから,直ちに本件各仕組債のリスクを理解するのに必要な説明が欠ける違法があると認めることはできない。

4
一任売買
前記1⑵イで認定したとおり,原告は,被告と取引口座を開設してから,ニュースや新聞から得た知識や,被告従業員からのアドバイスを参考にし,自ら銘柄を選んで国内株式等の取引をしていたものであり,原告には,自らの判断で投資銘柄を決めるという姿勢が窺われるから,本件各仕組債についても,Eから勧誘を受け,説明を受けた情報を基に,自らの判断で購入したというべきであり,本件各証拠を検討しても,原告が行った本件各仕組債の取引が実質的に一任売買としてされた違法なものであると認めるに足りる証拠はない。
5
損害及び過失相殺


原告は,本件各仕組債の取引によって合計6490万円の損失を被ったものであるが
(前記前提事実⑵オ)本件仕組債1のクーポンとして合計251,
万1001円(税引後)を受け取り(前記前提事実⑵ウ),本件仕組債2のク
ーポンとして合計800万円(税引後)を受け取っているから(前記前提事実⑵エ)原告が本件各仕組債で被った実質的な損害は,,
5438万8999
円となる。


もっとも,①原告は,Aの代表取締役会長として実質的な実権を握っていた者であり,一定の投資経験,為替レート等の経済事情の知識・理解力を有している者であること,②原告自身が,ある程度のリスクがあっても収益性を重視するという投資方針を有しており,本件各仕組債とほぼ同時期に行っていた株式取引により,三菱地所株式につき約64%の損失,日産自動車株式につき約62%の損失を被っていたこと,③原告が仕組債の取引を始めたのは,他社銀行から仕組債の案内を受けて,被告に仕組債の説明を求めたことがきっかけであったこと,④Eが原告に対してした途中売却時の損失リスクに関する説明は十分なものではなかったが,原告自身も,Eに対して途中売却のリスクについて積極的に説明を求めることはなかったし,交付された同種債券の一般的な説明資料の内容について確認することもなかったこと,⑤本件各仕組債の損失が確定したのは,原告が満期償還前に売却したことによるものであり,満期償還まで売却しなかった場合には損失が縮小した可能性もあることからすると,原告が途中売却のリスクについて十分に検討することなく安易に本件各仕組債を購入した上,途中売却により多額の損失を被ったことについては原告側にも過失があるとして過失相殺すべきであるところ,上記の諸事情を考慮すると,原告の損害の8割を過失相殺として控除すべきである。
上記⑴の損害額から8割を過失相殺として控除すると,1087万7799円となる。



本件事案の内容,審理経過,認められるべき損害額などを考慮すると,弁護士費用としては108万円が相当である。

第4

結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として1195万7799円(1087万7799円+108万円)及びこれに対する不法行為終了日(損害確定日)である平成24年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第7部


裁判官



別紙1ないし4は添付省略

田郁勝
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