判例検索β > 平成29年(ラ)第1332号
事件番号平成29(ラ)1332
裁判年月日平成29年7月19日
法廷名東京高等裁判所
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平成29年(ラ)第1332号新株発行差止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成29年(ヨ)第20068号)
主文1
本件抗告をいずれも棄却する

2
抗告費用は抗告人らの負担とする。

第1


抗告の趣旨及び理由等
抗告人らの抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書,即時抗告理由書及
び平成29年7月19日付け主張書面(いずれも写し)各記載のとおりであり,これに対する相手方の反論は,別紙答弁書及び同日付け第1準備書面(いずれも写し)各記載のとおりである。
第2

事案の概要

1
本件は,相手方の株主である抗告人らが,相手方が平成29年7月3日の取締役会決議に基づいて公募増資の方法で行う4800万株の普通株式の発行(以下「本件新株発行」という。)は「株式の発行(中略)が著しく不公正な方法により行われる場合」(会社法210条2号)に該当し,これによって抗告人らが「不利益を受けるおそれがある」(同条柱書き)として,本件新株発行を仮に差し止めるよう求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。
原審が,本件申立てをいずれも却下したところ,抗告人らが,これを不服として本件抗告をした。

2
前提事実は,原決定の「事実及び理由」欄の「第2

事案の概要等」の2に

記載のとおりであるから,これを引用する。
3
抗告人らの当審における主な主張は,次のとおりである。


原決定は,「Dら債務者経営陣の全部又は一部には,株主を巻き込んだ債
務者の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目
的が存在したと一応認められる」としつつ,「債務者には客観的な資金調達の目的も存在したものと認められ,両者は併存するものというべきである」とした上で,相手方が本件ブリッジローン契約に基づく借入金の弁済期を数か月後に控えていて,それまでに返済資金を用意する必要性が高いなどとして,本件新株発行の主要な目的が,客観的な資金調達の目的ではなく,抗告人らと相手方経営陣との間の相手方の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的であるとまで断ずるに足りる証拠はなく,他にこれを認めるに足りる証拠はないとする。
しかしながら,相手方が昭和シェル株式を取得するために借り入れた本件ブリッジローンを返済する必要が認められるとしても,相手方は,マイナス金利政策の下金融機関から超低金利で借入れをしたり,社債発行をしたりするなど新株発行以外の方法で資金調達をすることが容易であり,かつ,合理的であって(企業経営においては,少ない資金で効率的な投資を行うことができるため,借入れや社債の発行によって投資を行うことが一般的である。),本件ブリッジローンの返済をするための資金を新株発行により調達する必要性や合理性があるとはいえない。なお,新株発行による資金調達は,ROEの数値を悪化させることにもつながることから回避される傾向にあり,この観点からも新株発行による資金調達を行うことは不合理である。また,相手方が主張する資金調達の目的は,株主割当増資という既存株主に不利益にならない方法でも実現可能であるにもかかわらず,相手方は,その方法を用いず,しかも,本件新株発行のように発行株式数の規模において大きい公募増資にこだわりながら,そのことについて何ら合理的な理由を説明していない。さらに,相手方は,平成25年頃に増資を検討した際の資料を疎明資料として提出するが,本件新株発行に関する引受証券会社等から提供されたはずの資料は何ら疎明資料として提出しておらず,このことは相手方が主張する目的が本件新株発行の真の目的かを疑わせるに十分な事情であ
る。
したがって,本件新株発行は,相手方の株主総会における合併の特別決議に対する抗告人らの拒否権の行使を妨害するという不当な目的を主要な目的として行われるものである。


原決定は,上記のとおり,相手方経営陣が,株主を巻き込んだ相手方の支
配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的が存在したと一応認められるとしつつ,一般論として,①公募増資においては,割当先が取締役の意思とは無関係に決定され,割当先が取締役の意向に沿って議決権を行使する保証はないこと,②取締役に反対する株主や第三者も株式の割当を受ける可能性があること,③取締役に反対する株主が,公募増資後,株式市場に売りに出された株式を取得する可能性も否定できないことからすると,第三者割当増資の場合に比して,取締役に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性は弱いものと考えられるとし,そのような一般論としての可能性を根拠に相手方の主張する資金調達目的を本件新株発行の主要な目的として認めているが,絶対に確実とまではいえない手段であっても,目的達成のために有用であれば採用するのが当然であって,目的達成の確実性に欠けるからそれが目的ではなかったということにはならない。
しかも,本件新株発行の取締役会決議の4日前である平成29年6月29日に開催された相手方の第102回定時株主総会における取締役選任議案に反対票を投じ,ひいては本件経営統合に反対すると見込まれる一般株主の割合はわずかであり,これは公募に応じて新たに株主になる者についても同様と考えられるから,抗告人ら以外の相手方の株主や第三者が本件新株発行により発行される株式の割当を受けても,それらの者のほとんどは相手方経営陣の提案に賛成する議決権の行使を行うであろうと見込まれるし,また,抗告人らが持株比率の減少を実質的に止められるような数の株式を取得することは不可能であり,新株発行後の市場での株式取得による持分比率の回復方
法は条件面で著しく不利であって,抗告人らが持株比率を実質的に本件新株発行前と同様に回復できるような数の株式を取得することはできないから,原決定が述べる上記①ないし③の可能性は現実的かつ意味のある可能性であるとはいえず,それらが相手方経営陣が本件新株発行を行うことを決める目的に影響を与えたとは考えられない。
したがって,原決定の上記判断は不当である。


原決定は,本件新株発行後,直ちに株主総会が開催され,昭和シェルとの
合併が特別決議事項として議題になることをうかがわせる証拠はないとするが,相手方経営陣は,本件新株発行が公表された4日前に開催された相手方の第102回定時株主総会において,その時点で既に本件新株発行についての準備が万全に整っていたはずであるにもかかわらず,本件新株発行に何ら言及することなく,上記定時株主総会終了の4日後に本件新株発行の取締役会決議を行ったことは,既存株主に対する騙し討ちというべきであり,このように騙し討ちで本件経営統合にまい進する相手方経営陣が本件新株発行後に直ちに株主総会を開催しないとするのは経験則に反している。
第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,本件申立てはいずれも理由がないからこれらを却下するのが相当であると判断する。その理由は,次の2のとおり当審における抗告人らの主張に対する判断を付加するほかは,原決定の「事実及び理由」欄の「第3裁判所の判断」及び「第4


結論」に記載のとおりであるから,これを引用す

る。ただし,原決定を次のとおり訂正する。


原決定中の各「証拠」をいずれも「疎明資料」と改める。



原決定18頁1行目の「させ,」の次に「抗告人らが共同して反対することにより昭和シェルとの合併のための特別決議がそれだけで拒否される状況を解消し,」を加え,11行目から12行目にかけての「①公募増資においては,割当先が」を「①上場企業の公募増資においては,新株の割当先は引
受証券会社により決定され,発行会社は割当先を引受証券会社に指示することはできず,日本証券業協会の自主規制により,引受証券会社による割当先への配分については,「公正を旨とし,合理的な理由なく特定の投資家に偏ることのないよう」に行われることが求められているほか,特定の投資家による応募額の上限が定められており,発行会社の意図を汲んだ配分が行われたり,大株主が出現することはないことから,割当先は」と改める。⑶

原決定26頁16行目の「行った」を「行わなかった」と改める。


原決定27頁8行目の「である。」の次に「その場合,本件新株発行によって調達した資金の一部を前記の戦略投資に充てること自体の合理性は否定されない。」を加える。



原決定28頁16行目の「本件申立て」から17行目の「決定する」までを「本件申立てはいずれも理由がないからこれらを却下すべきである」と改める。

2
当審における抗告人らの主張に対する判断


抗告人らは,前記第2の3⑴のとおり主張する。
しかしながら,本件新株発行の主要な目的が,客観的な資金調達の目的ではなく,抗告人らと相手方経営陣との間の相手方の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的であるとまで断ずるに足りる疎明資料はなく,他にこれを認めるに足りる疎明資料がないことは,前記1⑴のとおり原決定を訂正して説示したとおりである。抗告人らは,相手方が昭和シェル株式を取得するために借り入れた本件ブリッジローンを返済する必要が認められるとしても,相手方は,金融機関から借入れをしたり,社債発行をするなど新株発行以外の方法で資金調達をすることが容易であり,かつ,合理的であって,本件ブリッジローンの返済をするための資金を新株発行により調達する必要性や合理性があるとはいえない,新株発行による資金調達は,ROEの数値を悪化させることにもつなが
ることから回避される傾向にあり,この観点からも新株発行による資金調達を行うことは不合理であると主張するところ,相手方では遅くとも平成24年頃から財務体質の改善の必要性が認識されてきたことや本件ブリッジローン契約に基づく借入金の借換資金を本件劣後ローン契約によって調達するに至らなかった経緯その他相手方が置かれた具体的な状況を踏まえた資金調達方法として,金融機関から借入れをしたり,社債発行をすることがより合理的であるとして,本件ブリッジローンの返済をするための資金を新株発行により調達する必要性や合理性があることを否定するに足りる疎明資料はない。また,他の資金調達手段が存在することから直ちに本件新株発行による資金調達の必要性・合理性が失われるわけではないことは,原決定が説示するとおりである。
また,抗告人らは,相手方が主張する資金調達の目的は,株主割当増資という既存株主に不利益にならない方法でも実現可能であるにもかかわらず,相手方は,その方法を用いず,しかも,本件新株発行のように発行株式数の規模において大きい公募増資にこだわりながら,そのことについて何ら合理的な理由を説明していないと主張する。しかしながら,審理の全趣旨によれば,株主割当は類型的に資金調達の規模が制限され,相当規模での増資の目的を達成することができないことが認められるところである(相手方は,株主割当では1000億円を超える規模の増資は現実的に不可能である旨主張するところ,抗告人らも,976億8200万円を調達した株主割当の例があると述べるにとどまる。)。また,相手方は,本件ブリッジローンの返済資金の調達を含め財務体質の改善の必要性を述べるとともに,相手方がかねてより公募増資を実行しようとしていたこと,以前の公募増資の計画では発行済株式の20ないし30%の発行を計画しており(例えば,直近で検討した3回目では発行済株式の●●●●の発行を計画した。),本件新株発行はその規模に変わりがないこと,株主割当は類型的に資金調達の規模が制限さ
れ,財務体質改善の目的を達成するための相当規模での増資の目的を達成することができないことを説明しているのであるから,抗告人らの上記主張は失当である。
さらに,抗告人らは,相手方は平成25年頃に増資を検討した際の資料を疎明資料として提出するが,本件新株発行に関する引受証券会社等から提供されたはずの資料は何ら疎明資料として提出しておらず,このことは相手方が主張する目的が本件新株発行の真の目的かを疑わせるに十分な事情であると主張するが,本件新株発行については,従前の公募増資の検討の場合とは異なり,取締役会で正式決定され,引受証券会社の審査を経て公表されており,資金使途等も公表されているのである(疎甲4,審理の全趣旨)から,相手方が引受証券会社等から提供された資料を疎明資料として提出していないからといって,それだけで相手方が主張する目的が本件新株発行の真の目的かを疑わせるに十分な事情であるということはできない。
したがって,抗告人らの前記第2の3⑴の主張は採用することができない。


抗告人らは,前記第2の3⑵のとおり主張する。
しかしながら,一般論として,①上場企業の公募増資においては,新株の割当先は引受証券会社により決定され,発行会社は割当先を引受証券会社に指示することはできず,日本証券業協会の自主規制により,引受証券会社による割当先への配分については,「公正を旨とし,合理的な理由なく特定の投資家に偏ることのないよう」に行われることが求められているほか,特定の投資家による応募額の上限が定められており,発行会社の意図を汲んだ配分が行われたり,大株主が出現することはないことから,割当先は取締役の意思とは無関係に決定され,割当先が取締役の意向に沿って議決権を行使する保証はないこと,②取締役に反対する株主や第三者も株式の割当を受ける可能性があること,③取締役に反対する株主が,公募増資後,株式市場に売
りに出された株式を取得する可能性も否定できないことからすると,第三者割当増資の場合に比して,取締役に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性が弱いものと考えられることは,前記1⑵のとおり原決定を訂正して説示したとおりである。抗告人らが新株の割当を受けることによって現在の株式比率を維持するのに必要な資金を調達することが現実には困難であるとしても,抗告人らにおいて本件新株発行に応募したり,抗告人らと意見を同じくする者らに応募を呼び掛けたりすることが可能であることは否定できない。また,前記認定のとおり,相手方の第101回定時株主総会における取締役の選任決議において,Dに対する賛成の割合は約52.3パーセントで,その余の取締役に対する賛成の割合も約58.8ないし60.7パーセント程度であり,第102回定時株主総会における取締役の選任決議においても,Dら5名の取締役に対する賛成の割合は約61.1ないし61.3パーセント程度であったのであり,現に抗告人らに同調している株主が相当程度いるのであって,上記①ないし③の点も併せて考慮すれば,公募により新たに株主となる者においても,そのほとんどが相手方経営陣の提案に賛成するとは限らないのであるから,第三者割当増資の場合に比して相手方経営陣に反対する株主らの支配権を減弱させる確実性が弱いといわざるを得ず,そうであるとすれば,Dら相手方経営陣の全部又は一部に株主を巻き込んだ相手方の支配権をめぐる実質的な争いにおいて自らを有利な立場に置くとの目的が存在したものと一応認められるとしても(原決定も本決定も,そのような目的がなかったという判断をしているわけではないから,そのような判断をしているかのような前提でこれを批判している抗告人らの主張部分は失当である。),当該目的が新株発行の唯一の又は主要な目的であるか否かを判断するに当たっては,公募増資の上記のような制約ないし事情を考慮する必要があるというべきである。
したがって,抗告人らの前記第2の3⑵の主張は採用することができな
い。


抗告人らは,前記第2の3⑶のとおり主張する。
しかしながら,相手方経営陣において,定時株主総会において公表前の増資について言及することができないことは,情報管理の観点から当然であって,これをもって既存株主に対する騙し討ちであると評価することは相当でない。そして,本件新株発行後,直ちに株主総会が開催され,昭和シェルとの合併が議題になることをうかがわせる疎明資料がないことは,前記1⑴のとおり原決定を訂正して説示したとおりである。
したがって,抗告人らの上記主張は採用することができない。



抗告人らは,その他るる主張するが,前記1の認定判断を左右するもので
はない。
3
よって,原決定は相当であり,本件抗告はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり決定する。
平成29年7月19日
東京高等裁判所第17民事部

裁判長裁判官

川神裕
裁判官

伊藤繁
裁判官

武藤
真紀子

別紙「即時抗告申立書」,「即時抗告理由書」,「平成29年7月19日付け主張書面」,「答弁書」,「平成29年7月19日付け第1準備書面」省略
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