判例検索β > 平成28合年(わ)第207号
住居侵入、強盗殺人、死体遺棄(変更後の訴因 死体損壊、死体遺棄)被告事件
事件番号平成28合(わ)207
事件名住居侵入,強盗殺人,死体遺棄(変更後の訴因 死体損壊,死体遺棄)被告事件
裁判年月日平成29年9月29日
法廷名東京地方裁判所
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住居侵入,強盗殺人,死体遺棄(変更後の訴因
平成28年


死体損壊,死体遺棄)被告事件

1642号

平成29年9月29日判決言渡
主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

金品強取の目的で,平成28年6月20日午前2時30分頃から同日午前5時16分頃までの間に,東京都世田谷区ab丁目c番d号ef号室A方にベランダから侵入し,同人方において,ベッドで眠っていた同人(当時88歳)を認め,同人を起こしてキャッシュカードの所在や暗証番号などを聞き出そうと考え,同人の頭部を右手で押さえつけて声をかけるなどの暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,同人が被告人の手を振り払うなどして抵抗したため,大声を出されることを防ぐためにAを殺害することを決意し,その頸部を両手で絞めて同人を殺害し,

第2

前記日時場所において,包丁等を用いて,同人の死体の頸部,腰部及び四肢を切断するなどしてその死体を解体した上,同月21日,同所から,解体した同人の死体を東京都目黒区gh丁目i番j号B公園まで運んで同公園内の池に投棄し,もって死体を損壊・遺棄した。

(事実認定の補足説明)
第1

本件における争点の所在と当裁判所の判断
判示第1の事実のうち,被告人が被害者方に侵入したこと,被害者を殺害したことについては当事者間に争いがない。
検察官は,①被告人は強取目的で被害者方に侵入した,②被害者を脅して,
現金を奪うとともに,キャッシュカードの所在と暗証番号を聞き出そうと考えて,ベッドで寝ていた被害者の頭を右手で押さえつけたもので,この行為は強盗の実行の着手に該当する,③被告人が被害者を殺害したのは金品を強奪するためであった,④被告人は被害者から現金約35万円を奪った旨を各主張し,被告人の行為については住居侵入・強盗殺人罪が成立する旨を主張している。他方,弁護人は,①被害者方への侵入は金品を盗むためで,強盗の目的まではなかった,②被告人が,寝ている被害者の頭部に触って被害者を起こした行為は,財物奪取に向けられた暴行・脅迫ではなく,強盗の実行の着手はない,③被告人が被害者を殺害したのは,被害者を起こした後に会話をしながらキャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すつもりであったが,その会話をする前に予想に反して被害者がパニックになったことから,とっさに首を絞めて殺害したものであり,金品を強奪するためではない,④被告人は被害者から現金を奪っていない旨を各主張し,被告人の行為については住居侵入・殺人罪が成立するにとどまると主張している。
当裁判所は,①被告人が被害者方に侵入したのは金品を強取するためであった,②被告人が被害者の頭を手で押さえつけるなどした行為は強盗の実行の着手に当たる,③被告人の被害者殺害の目的が,金品を強奪するためであったとは認められない,④被告人が被害者から現金を奪ったとは認められない,と各判断し,被告人の行為については住居侵入・強盗殺人罪が成立すると判断したので,以下にその理由を説明する。
第2

各争点に対する当裁判所の判断

1
被告人の被害者方への侵入目的について(前記争点①)検察官による被告人の取調べ状況を録音・録画した録音・録画記録媒体副本
(乙3。以下「被告人供述DVD」という。)を含む関係証拠によれば,被告人は,判示第1の日時頃,被害者方マンションの敷地と,その隣の公園との境界線上に設置された金網フェンスを公園側からよじ上り,同マンション2階のベ
ランダの手すりを伝うなどして,まず同マンション2階のベランダに到達し,次いで,同マンション3階のベランダの手すりを伝うなどして被害者方ベランダに侵入したことが認められる。
また,侵入後の行動については,後に述べるように,被告人は,侵入した被害者方居室内において,ベッドで寝ている被害者を発見し,室内の物色をすることなく,被害者の頭を押さえつける,という行動に及んでいる。そして,被告人は,被告人供述DVDにおいて,生活費を得るため,人の家に入り,脅してキャッシュカードをとり,暗証番号も聞き出そうと考えて,平成28年6月頃から入るべき家の物色を始め,同月19日の午後にも,同様の目的で被害者方マンションの周辺を物色し,ベランダに柵がついているなどして入りやすいと思ったことから,被害者方マンションに侵入した旨を供述している。
被告人の前記供述は,被害者方への侵入も,家人を脅してキャッシュカードを盗み,暗証番号を聞き出す目的であったとする趣旨と解されるところ,この供述は,先に述べた,被害者方への侵入方法や,侵入後の行動を合理的に説明し得る自然なものといえる。
したがって,被告人が被害者方に侵入した目的は,キャッシュカードを盗むにとどまらず,家人を脅して暗証番号を聞き出すことにあったと認められるところ,こうした行為が家人に対する強盗行為に該当することは明らかであるから,判示のとおり,被告人は金品強取の目的で被害者方に侵入したものと認定した。
2
強盗の実行の着手の有無について(前記争点②)
被告人は,被告人供述DVDにおいて,被害者方ベランダに侵入した後の自らの行動について,以下のように述べている。すなわち,部屋の中に寝ている人がいたので,その頭を右手で押さえつけるようにして声をかけた,相手が目を覚ましたので話をしようとしたが,被害者は被告人の手を振り払うなどして暴
れ,会話にならなかった,大声を出されるのが嫌で,大声を出される前に被害者の首を両手で絞め,殺害した。
本件においては,被告人が被害者を殺害し,その死体を解体して遺棄した事実は,当事者間に争いはないし,関係証拠からも,これらの事実を認めることができる。しかしながら,具体的な殺害方法や殺害までの経緯は,死因の点を含め,他の証拠から確定することは困難で,これらを説明する証拠資料は被告人の前記供述以外にはない。
そこで,被告人の前記供述の信用性について検討すると,まず,被害者の殺害方法に関する部分は,殺意を否定できないような殺害方法を具体的に述べた,被告人にとって極めて不利な事実を内容とするものである。しかも,被告人は,まずは正面から相対する状態で,両手で被害者の首を絞め,その後床に押しつけるような体勢で首を絞め続け,被害者が死亡したことは,その首と手首の脈で確認した旨の具体的な供述を行っており,その信用性は極めて高いものと評価できる。そして,被告人が被害者を殺害するに至った経緯の部分は,そうした殺害状況へと自然につながるものといえる。
以上の点に鑑みれば,殺害に至る経緯に関する被告人の供述は,被害者の頭を手で押さえつけるようにして声をかけたとする点を含めて,十分に信用できると考えるのが相当である。
したがって,被告人は,被害者方への侵入後,ベッドで寝ている被害者を見つけ,その頭を押さえつけるなどした事実が認められるところ,その行為の目的については,前記のとおり認定した,被害者方への侵入の目的に照らしても,また,被害者方に室内が物色された形跡が存在しないことに照らしても,被害者を起こして,キャッシュカードの所在や暗証番号を聞き出すためであったと認定することができる。
そこで,さらに進んで,こうした被告人の行為が,強盗の実行の着手に当たるかどうかを検討すると,高齢の女性である被害者が,深夜,就寝中に,家に
侵入してきた見ず知らずの男性から,頭を押さえつけられて起こされたという本件状況下においては,被告人の存在自体が,被害者の生命身体に対する重大な脅威であり,被害者に強い恐怖心を引き起こすことは容易に想像し得るところである。したがって,頭を押さえつける力自体がさほど強いものでなかったとしても,この行為が,客観的に見て,被害者の反抗を抑圧するに十分な暴行脅迫であることは明らかである。そして,被告人は,こうした状況をすべて認識した上で,前記の目的で,被害者の頭を押さえつけるという行為に及んでいるのであるから,被告人の行為は強盗の実行の着手に当たると解さざるを得ない。
この点について弁護人は,被告人が被害者の頭を押さえたのは,単に,被害者と話をしたかったからだと主張するが,頭を押さえつけて起こす,という行為は,対等な立場でのコミュニケーションを望む者のとるべき行動とはかけ離れているといわざるを得ないし,そもそも,前記のような状況で,そうした関係性を築く余地のないことは誰の目にも明らかである。そして,認識能力や知的能力に何ら問題のない被告人が,そうしたことを理解していなかったということはあり得ないから,弁護人の前記主張は採用することができない。3
被告人が被害者を殺害した目的について(前記争点③)被告人は,前記のとおり,キャッシュカードをとるとともに,家人を脅して暗証番号を聞き出すことを目的として被害者方に侵入したものと認められるし,被告人が凶器等を用意していたことをうかがわせる証拠は存しないから,被告人が,住居侵入時において既に,家人を殺害することまで予定していたと認めることはできない。また,被害者方に室内を物色された形跡はなく,後に述べるとおり,被告人が被害者方から現金を奪ったと認めることもできない。他方において,被告人は,被害者を殺害するに至った経緯について,前記のとおり,大声を出されるのが嫌で殺害した旨を供述しており,この供述に,特にその信用性を疑うべき事情は存しない。

以上の点に鑑みると,被告人が金品奪取を目的として被害者を殺害したと認定することはできない。
4
現金奪取の有無について(前記争点④)
被告人の母親や姉の当公判廷における供述,被告人の預金口座の取引や残高の推移に関する統合捜査報告書(甲83)等の関係証拠によれば,被告人は,平成28年3月までは,ホテルの客室清掃員の仕事をして,月約10万円から約16万円の給料を得るとともに,資材搬入等の仕事もかけもちして,ここからも収入を得て,同居する母親に,毎月の生活費として,姉から毎月振り込まれる6万円に9万円を加えた15万円を渡す生活を送っていたが,同月31日をもって仕事をすべて辞めて無収入となり,しばらくは貯金をとりくずして,母親に渡す生活費や自らの生活費をやりくりしていたものの,同年6月19日の時点では,給料の振込を受けていたC銀行の口座の残高は1万822円,姉からの振込を受けていたD銀行の口座の残高は50円となっていた事実が認められ,判示第1の犯行の直前には,相当に厳しい経済状態にあったことが認められる。
そして,そうした経済状態にもかかわらず,被告人は,判示第1の犯行の直後である同月20日午後0時16分頃,C口座に2万円を,同日午後0時20分頃にはD口座に35万円を入金した事実が認められ,これら合計37万円の現金については,本件全証拠によっても,その入手経路は不明というほかないし,被告人からもこの点に関する説明は全くなされていない。
他方,被害者の経済状態に関する統合捜査報告書(甲84)等の関係証拠によれば,被害者は,自宅のダイニングキッチンの椅子に掛けられていたバッグに残されていた財布に現金8万円を,寝室に置かれた和ダンスの施錠された引き出し内に現金12万円を所持していたほか,相当額の預貯金を有していたことが認められ,自宅に37万円程度の現金を所持していたとしても,決しておかしくはない経済状態であったと認めることができる。

こうした事情を考慮すると,被告人が,判示第1の犯行の折に被害者方から現金を奪取し,これを即日自らの口座に入金したのではないか,と考えることは極めて自然な推測というべきで,その嫌疑は高いといわざるを得ない。しかしながら,他方においては,被告人が現金を奪取したと認定することに疑問を差し挟むべき事情も複数存在している。
まず,被害者方には,物色のなされた痕跡が全くなく,前記のとおり,ダイニングキッチンに,すぐに目につく状態で椅子の背もたれに掛けられていたバッグに入っていたにもかかわらず,財布には8万円の現金が残されている。また,現金12万円のほか,キャッシュカードなどが入っていた前記の引き出しにも,開錠を試みられた形跡は存在しない。これらの事実は,被告人が相当額の現金をやすやすと手に入れたからこそ,それ以上の物色をしなかったのだと考える余地もないではないが,その反面において,金目当てに侵入した者の行動としては不自然とも解釈のできるところである。
そして,この点について被告人は,被告人供述DVDにおいて,金品目当てで被害者方に侵入したものの,前記のような経緯で被害者を殺害してしまったことから,死体を運びやすくするため,判示第2記載のとおり,死体の解体に着手し,この作業に手間取るうち,時間が経過し,徐々に外も明るくなってきたことから,結局何もとらず,金品を探すこともしないで被害者方を出た旨を供述している。この供述は,被害者方の前記状況を合理的に説明し得るものである。また,被告人が被害者方を出た時間は,被害者方マンションに設置された防犯カメラ映像(甲82)等の関係証拠によれば,事件の日の午前5時16分頃と認められるから,外が明るくなってきたとの前記供述は,この事実と符合するものといえる。さらに,被告人の被告人供述DVDにおける供述は,前記のとおり,殺害の経緯や方法など,自分に極めて不利な事実を供述するものである上,死体の損壊状況について述べるところも,発見された部分死体の状況と完全に符合するなど,その信憑性は全体として極めて高いと評価することがで
きる。そうした中で,現金奪取の点についてのみ虚偽を述べていると考えることには,相当の抵抗感を覚えざるを得ない。
そこで,翻って検討すると,まず,被害者方に,37万円程度の現金が,被告人が,何ら物色行為をすることなく,すぐに発見できるような状態で存在していた事実を示す証拠はない。むしろ,現金やキャッシュカードなどが,施錠された引き出しに保管されていた事実からは,被害者が貴重品をきちんと管理していたことがうかがわれ,このような被害者の生活態度を考えると,多額の現金をそのように取り扱っていたと考えることには,躊躇を覚えざるを得ない。
また,被告人が口座に入金した合計37万円の現金について,被害者方からの奪取以外に入手の可能性が全くなかったのかどうか,という点について考えると,まず,そうした可能性には様々なものが考えられるところである。加えて,被告人が,資材搬入等の仕事については,現金で報酬の支払を受けていたことや,D口座に姉からの振込金がそのままプールされ,その残高が32万円に達した時期(平成28年3月15日)もあったことなどを考慮すると,被害者方からの奪取以外の可能性を完全に否定することは困難である。以上の検討に鑑みると,被告人が被害者方から現金を奪ったとの事実については,これを認定するに足るだけの証拠はないといわざるを得ない。第3

結語
以上より,被告人は,金品強取の目的で被害者方に侵入し,就寝中の被害者の頭を押さえつけるなどして,強盗の実行に着手したが,被害者に抵抗され,大声を出されるのを防ぐために被害者を殺害したものと認定することができる。
そして,被告人は,強盗の実行の着手と極めて近接した時間,場所において,強取行為の相手方である被害者を殺害したのであるから,本件殺害行為が,強盗と連続し,これと密接に関連して行われたものであることは明らかで
ある。
以上によれば,被告人は,強盗の機会に被害者を殺害したものと評価できるから,被告人の行為については,住居侵入罪のほか,強盗殺人罪が成立する。(量刑の理由)
1
被害者の殺害結果が重大であることはいうまでもなく,殺害の態様も,動かなくなるまで高齢の女性である被害者の首を絞め続けたというのであり,強固な殺意に基づく冷酷なものである。被害者が感じたであろう恐怖心や無念さは察するに余りある。
被告人が本件各犯行に及んだ経緯や動機についてみても,無職の状態が続いた場合を考えて生活費を得ておきたいという,非常に身勝手かつ自己中心的な動機に基づく犯行であるし,本件犯行に及ぶよりも数週間前から入りやすそうな家をあらかじめ物色し,手袋等を準備した上で犯行に及んでいる点からは,被告人なりの計画性もうかがわれる。被害者の殺害についても,大声を出されるのが嫌だったという極めて短絡的な理由で殺害に至っている。
しかも,被告人は,被害者の殺害後,犯行の発覚を防ぐために,被害者の死体をバラバラにすることを考え,被害者方にあった包丁を使用して直ちに死体の解体に着手し,翌日にはこれを被害者方から運び出して公園の池に投棄している。これらの行動に見られる,被告人の,他者の生命や尊厳に対する極端な冷淡さは誠に恐ろしく,慄然たる思いを抱かざるを得ない。
以上のような一連の犯行に及んでいながら,被告人は,被害者やその遺族に対する慰謝の措置を何らとっておらず,反省の言葉も述べない。被害者の長男が,書面により,優しかった母を突然失った上,遺体の顔を見ることさえもできなかったなどの心情を述べ,被告人に対して厳罰を強く望んでいるのも当然である。
2
弁護人は,被告人が被害者の殺害に及んだことについては,被告人に自閉スペクトラム障害(発達障害)の傾向があることが影響している旨を主張する。しかし,被告人の精神鑑定を行った医師であるE鑑定人は,被告人に同障害の
傾向があることを指摘してはいるものの,被告人が同障害を有するとの診断はしていないし,被告人が,本件犯行に及ぶまで特に問題なく通常の社会生活を送ってきたことからすれば,同障害の傾向が被害者の殺害に強い影響を及ぼしていたとは考え難く,この点を刑を大きく軽減すべき事情として考慮することはできない。
また,E鑑定人によれば,被告人が対人恐怖症であることが認められ,そのために仕事に就くことに対する困難を感じていたことが本件の発端となったことは考えられるものの,それが本件のような重大な犯罪に及ぶ理由にならないことは明らかで,この点も量刑に当たって大きく考慮することはできない。3
以上によれば,被告人の責任は非常に重く,被害者を殺害し,死体を損壊・遺棄したこと自体は逮捕後間もなく認めるに至っていることや,被告人に前科がないこと,殺害目的が金品の強取とは認められず,財物の奪取も認められないこと,被告人の年齢などの被告人に有利に斟酌し得る事情を十分に考慮しても,本件は刑を酌量減軽すべき事案とはいえず,被告人については,その一生をかけて罪を償わせるのが相当と認め,主文のとおり量刑した次第である。
(求刑

無期懲役)

平成29年9月29日
東京地方裁判所刑事第17部
裁判長裁判官

石井俊和
裁判官

福嶋一訓
裁判官

椎名
まり絵

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