判例検索β > 平成29年(ネ)第10056号
売買代金請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ネ)10056
事件名売買代金請求控訴事件
裁判年月日平成29年9月27日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(ワ)4376
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平成29年9月27日判決言渡
平成29年(ネ)第10056号

売買代金請求控訴事件

(原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4376号)
口頭弁論終結日

平成29年7月12日
判控訴決人X
訴訟代理人弁護士

伊東幸同内田光同吉本同亀島宏美同中村政也本徹意被控訴人控訴人朗彦隼Y1

被太
Y2

上記両名訴訟代理人弁護士

松主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して3100万円並びに内金2100万円に対する平成25年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金1000万円に対する平成26年3月1日から支払済みまで年5分の割合
1
による金員を支払え。
第2

事案の概要
本判決の略称は,特段の断りがない限り,原判決に従う。

1
事案の要旨
(1)

本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,以下の各請求をした事案であ
る。

被控訴人Y1に対し,控訴人と被控訴人Y1の間で,特許第4003
832号の特許権(本件特許権)について,平成25年5月12日付けの「特許権譲渡契約書」と題する契約書(甲2。本件契約書)に基づいて締結された契約(本件契約)に基づき,売買代金1億5000万円の内金3100万円(平成25年5月31日を弁済期とする2600万円の未払分2100万円及び平成26年2月末日を弁済期とする1000万円)及び内金2100万円に対する平成25年6月1日から,内金1000万円に対する平成26年3月1日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求。

被控訴人Y2に対し,控訴人と被控訴人Y2の間で,本件契約書に基
づいて,被控訴人Y2が被控訴人Y1の上記アの債務を連帯保証する旨の契約が締結されたと主張し,同契約に基づき,上記アと同額の支払を求める請求。


原判決は,本件契約が,被控訴人Y1の本件契約締結の意思表示の錯誤により無効であることを理由として,控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した。


2
そこで,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
判断の基礎となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり
原判決を補正し,後記第3の1(2)に当審における控訴人の補充主張を摘示するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1及び2(原判決2頁8行目から
2
9頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。(1)

原判決2頁23行目の「乙7」を「甲24」と改める。

(2)

原判決3頁25行目末尾に「
(甲1,9の8及び9)
」を加える。

(3)

原判決4頁1行目末尾に「
(甲1,乙6)
」を加え,同頁3行目の「特許

名義の」を「特許名義を」と改める。
(4)

原判決6頁10行目の「3月19日」を「3月」と,同頁13行目の
「5月31日」を「5月12日」と,それぞれ改め,同頁16行目の「同弁済期までに」から19行目末尾までを削除する。
第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,原審と同様に,被控訴人Y1の本件契約締結の意思表示には
法律行為の要素に錯誤があり,かつ,当該錯誤について被控訴人Y1に重大な過失があるとは認められないから,本件契約は民法95条により無効とされるものであり,したがって,控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記(1)のとおり原判決を補正し,後記(2)のとおり「当審における控訴人の補充主張に対する判断」を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1及び2(原判決9頁16行目から17頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決の補正


原判決9頁21行目の「平成16年3月11日」を削除し,同頁22
行目の「Aは,
」の後に「平成16年3月11日」を加え,同頁25行目
の「乙7」を「17,24」と改める。

原判決10頁8行目から9行目にかけての「平成20年10月27
日,本件特許権の持分を譲り受けていたが」を「本件特許権の持分を譲り受け,平成20年10月27日,その旨の移転登録を経由したが」と改める。

原判決10頁13行目の「甲17,
」の後に「乙9,
」を,同行目の

3
「原告本人」の後に「,被控訴人Y2本人,証人B」を,それぞれ加える。エ
原判決11頁19行目の「特許名義の」を「特許名義を」と改める。

原判決12頁8行目の「本件特許を被告に譲渡すること」を「控訴人が被控訴人Y1に本件特許権を譲渡すること」と,同頁17行目の「持分(本件契約においてはBの持分として特定されている。
)が原告に移転さ
れ」を「持分(本件契約においてはBの持分として特定されている。)に
ついて被控訴人Y1への移転登録がされ」と,同頁20行目の「(8)」を「(7)」と,同頁22行目の「持分が被告Y1に譲渡された」を「持分について被控訴人Y1への移転登録がされた」と,それぞれ改める。

原判決13頁4行目の「被告Y1本人」の前に「甲22,
」を加える。


原判決14頁25行目の「錯誤があるというものである。
」の後に,次

のとおり加える。
「そこで検討するに,上記1の事実経過からすれば,被控訴人Y1が控訴人との取引に至った目的が,控訴人から提供を受ける技術に基づき,凝集剤の製造・販売を事業化して相応の利益を得ることにあるのは明らかであるところ,そのような目的を持つ被控訴人Y1が本件契約を締結したのは,上記技術を用いることが本件特許発明の実施となるとの理解の下,上記事業を行うには被控訴人Y1が本件特許権を保有することが必要であり,しかも,これによって当該事業を独占的に実施することが可能となり,それに相応した利益が得られるものと考えたからであると認められる(そうでなければ,いまだ事業化の現実的な見通しが立っていない技術の提供を受けるために,特許権の買取りを行い,その対価として1億5000万円もの支払義務を負担する契約を締結することは考えにくい。。とこ)
ろが,結果的に,控訴人から被控訴人Y1に提供された技術は,凝集剤製造の原料となるカーバイドスラリーを800℃~1300℃で焼成する工程を含まないもの(乾燥カーバイドスラリーを用いるもの)であり,これ
4
を用いても本件特許発明を実施することにはならないものであったのであるから,この点において,被控訴人Y1に錯誤が認められることは明らかである(控訴人は,焼成工程を経ない乾燥カーバイドスラリーを用いた凝集剤の製造方法は,本件特許発明を改善進歩させたより良いノウハウであって本件特許に附帯する技術であるという趣旨の主張をする。しかし,特許請求の範囲に含まれない技術は,特許発明の内容とはならず,したがって,独占権が認められることもないのであるから,控訴人から提供される技術が,特許請求の範囲に含まれるかどうかは決定的に重要な事柄であったといわざるを得ず,控訴人の上記主張は採用できない。。そし)
て,


原判決15頁12行目の「原告から」から同頁15行目の「被告Y1の動機」までを次のとおり改め,同20行目冒頭から原判決16頁6行目末尾までを削除する。
「控訴人から提供を受ける技術を用いることが本件特許発明の実施となるとの理解の下,当該技術に基づく事業を行うには被控訴人Y1が本件特許権を保有することが必要であり,しかも,これによって当該事業を独占的に実施することが可能となり,それに相応した利益が得られるものと考えたという被控訴人Y1の動機」


原判決17頁5行目の「見受けられるのである」の後に,次のとおり加える。

(例えば,控訴人は,原審の原告準備書面11(2頁)において,「原告
としては,…本件特許とは異なる焼成を省いた工程が,本件特許の効力が及ばないものであるとは考えておらず,本件特許に付帯する技術であると考えていた。
」と主張している。」


(2)

当審における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は,控訴人が被控訴人Y1に提供した焼成工程を省いた凝集剤の
5
製造方法に係る技術に本件特許権の効力が及ばないとしても,控訴人は,被控訴人Y1に対し,凝集剤の製造方法として,①本件特許権に基づく製造方法(焼成工程を行うもの)と②焼成工程を省いた製造方法(乾燥カーバイドスラリーを用いるもの)のいずれについても説明しており,結果的に上記②の技術を提供したのは,被控訴人Y1が,電気炉使用によるコストを避けるため,当該技術の方を希望したからであって,控訴人としては,上記①の技術を提供することも可能で,本来それを提供したかったのに,被控訴人Y1の選択により上記②の技術を提供したものであるから,被控訴人Y1には,その主張するような錯誤はなく,あったとしても重過失が認められる旨主張する。
そこで検討するに,控訴人が被控訴人Y1に上記②の技術を提供するに至った経過については,証拠上必ずしも明確ではないが,控訴人の主張によれば,本件契約締結の半年程前に,控訴人,被控訴人Y1及び同Y2が集まり,控訴人が本件特許発明に係る凝集剤の製造方法の説明をした際,被控訴人Y1が電気炉使用によるコストを問題視したことから,被控訴人Y2が焼成工程を省く方法があることを口にし,これを受けて,控訴人が上記②の技術を説明するとともに,凝集能力等には劣るが,マーケットや用途によっては使用できることを説明したところ,結果的に,被控訴人Y1の求める技術は,上記②の技術のみとなったものとされる(原審の原告準備書面11(1頁))。
しかるところ,このような控訴人主張の経過を前提とすれば,平成25年5月12日の本件契約の締結に当たり,控訴人から被控訴人Y1に提供されるべき技術として当事者間で想定されていたものが上記②の技術であったことは明らかであり,このことは,本件契約締結の前後に控訴人から被控訴人Y1に交付された技術の説明に係る書面をみても,乾燥カーバイドスラリーを用いる旨を記載した書面(甲6の2及び3)がある一方,焼成工程を行う
6
旨を記載した書面は見当たらないことからも裏付けられる。そして,そうである以上,本件契約に基づいて控訴人から被控訴人Y1に提供される技術は本件特許発明を実施するものではなかったのであり,にもかかわらず,被控訴人Y1は,前記(1)キのとおり,控訴人から提供を受ける技術を用いることが本件特許発明の実施となるとの理解の下,当該技術に基づく事業を行うには被控訴人Y1が本件特許権を保有することが必要であり,しかも,これによって当該事業を独占的に実施することが可能となり,それに相応した利益が得られるものと考えていたのであるから,この点において,被控訴人Y1に錯誤が認められることは明らかである。また,このような被控訴人Y1の錯誤が控訴人によるその旨の説明によって惹起されたものであり,したがって,控訴人が被控訴人Y1の重過失を主張することが失当であることも,前記(原判決「事実及び理由」の第3の2(4))のとおりである。控訴人は,上記②の技術を提供したことが被控訴人Y1の希望によるものであることを上記主張の根拠とするが,錯誤の成否との関係で問題とされるべきは,本件契約の締結に当たり,控訴人から被控訴人Y1に提供されるべき技術として当事者間で想定されていたものが本件特許発明を実施するものか否かということであって,それが被控訴人Y1の希望したものであるからといって,錯誤の成否が左右されるものではない。
してみると,控訴人の上記主張は,その主張どおりの事実経過を前提としても理由のないものであって,採用することができない。
2
結論
以上によれば,控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

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裁判長裁判官

鶴岡稔彦大西勝滋杉浦正樹
裁判官

裁判官

8
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