判例検索β > 平成28年(行ケ)第10237号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成28(行ケ)10237
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年9月27日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成29年9月27日判決言渡
平成28年(行ケ)第10237号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

平成29年7月24日
判決原告X被告特
指定代理人

住田秀弘同小野忠悦同山村同板谷主許庁長官浩玲子文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が不服2015-4889号事件について平成28年9月30日にした審決を取り消す。

第2
1
事案の概要
特許庁における手続の経緯等

(1)

原告は,平成22年3月23日,発明の名称を「河川の上流部及び中流
部における護岸の方法。」とする特許出願(特願2010-65438号。請求項の数1。以下「本願」という。)をした。
原告は,本願について,平成25年7月29日付けの拒絶理由通知を受
1
け,同年9月17日付け手続補正書(甲2)により,特許請求の範囲を補正する手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,平成26年12月22日付けで拒絶査定を受けた。
そこで,原告は,平成27年3月13日,拒絶査定不服審判請求をした。(2)

特許庁は,上記審判請求について,不服2015-4889号事件とし
て審理を行い,平成28年9月30日,
「本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下「本件審決」という。
)をし,同年10月22日,その謄本
が原告に送達された。
(3)

原告は,平成28年11月9日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2
特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,本願に係
る明細書及び図面(甲1)を「本願明細書」という。)。

【請求項1】
岸辺から川の中央に向かって,或いは斜め上流又は斜め下流方向に向かって,
付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔をあけて,
単独又は複数の杭を埋設して,上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め,その場にとどめることにより,あるいは,単独又は複数の杭を埋設すると共に,大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して,その場にとどめることにより,新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させることを特徴とする護岸の方法。

3
本件審決の理由の要旨

(1)

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,その要
2
旨は,以下のとおりである。

請求項1記載の「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」(以下「本願杭間隔」という。)は,どの程度の間隔であるのか不明であり,発明の範囲が明確ではないから,本願は特許法36条6項2号の要件を満たしていない。


本願杭間隔につき,一応,「ある程度の大きさの石や岩がその場にとど
まる事ができる程度の間隔」を意味するものとして請求項1に係る発明を認定すると,後記⑵アのとおり(以下,この発明を「本願発明」という。)であるところ,本願発明は,特開平11-256548号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。

本願発明と引用発明1に相違点が認められるとしても,本願発明は,引
用発明1及び1998年2月20日発行の土木学会関西支部編「川のなんでも小辞典」212~219頁(以下「引用文献2」という。)ないし特開2001-172935号公報(以下「引用文献3」という。)に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。エ
本願発明は,引用文献2に記載された発明(以下「引用発明2」とい
う。)及び引用文献1又は1997年9月2日発行の高橋裕著「河川工学」210~219頁(以下「引用文献4」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


上記⑴イないしエの判断に当たり,本件審決が認定した本願発明,引用発
明1及び2並びに本件審決がした本願発明と各引用発明との対比・判断は,
3
以下のとおりである。

本願発明
「岸辺から川の中央に向かって,或いは斜め上流又は斜め下流方向に向かって,
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて,
単独又は複数の杭を埋設して,上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め,その場にとどめることにより,あるいは,単独又は複数の杭を埋設すると共に,大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して,その場にとどめることにより,
新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させることを特徴とする護岸の方法。(判決注:下線は,請求項1の記載文言と異なる」
部分である。



引用発明1

「河川7の水衝部5に根固めブロック1を敷設し,この上に複数の石3を積載して,根固めブロック1群とその上の石3が水流による河床4の洗掘を防ぐものであって,
河川7の岸に近い浅瀬に,根固めブロック1を河川7の中央に向かって多数敷設し,根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を打ち込んで河床4に固定して移動しないようにするとともに,上の石3が移動しないようにしており,
石3はその自重により水の流速への抵抗となり,流速が大なる箇所では杭の配置替えによる大粒径石の設置により対応させることができ,松杭2は水流に渦を生起して水の流れを弱め,この上に土砂が堆積させ易くし,護岸が施された堤と繋がった洲を形成する,河川水制工法」
4ウ
引用発明2
「川の流速を低下させたり,流れの方向を変えたりするために,河岸から流れの中心部に向かって突き出して設置される構造物であって,流水の作用によって河岸や堤防が削り崩されるのを防ぐものであり,なお強くするためにあいだあいだに杭を打ちこんだ拾い付き石出し。



本願発明と引用発明1との対比・判断
(ア)

本願発明と引用発明1とは,

「岸辺から川の中央に向かって,
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて,
複数の杭を埋設すると共に,大きな石や岩を設置して,その場にとどめることにより,
新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させる護岸の方法。
」である点で一致し,相違点は存在しない。
(イ)

なお,引用発明1の根固めブロック1に着目すると,本願発明は,
杭を川にどのように埋設するか特定がないのに対し,引用発明1は,根固めブロック1を敷設し,根固めブロックの杭孔1aに松杭2を打ちこんで河床4に固定する点で相違するとも考えられる。
この相違点について予備的に検討すると,水制工として杭を河底に直接固定することは,引用文献2又は引用文献3に記載されているように,本願出願前に公知又は周知の技術であるから,引用発明1において,必要に応じて根固めブロック1を省いた上で,松杭2を河床4に固定することは,当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)

したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるか,
引用発明1及び引用文献2ないし引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

5オ
本願発明と引用発明2との対比・判断
(ア)

一致点

「岸辺から川の中央に向かって,
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて,
複数の杭を埋設すると共に,大きな石や岩を設置して,その場にとどめることにより,
新たな岸辺を形成し,それらを岸辺の構成部分として機能させる方法。

(イ)

相違点
新たな岸辺が,本願発明は,
「護岸の構成部分として機能させる」の

に対し,引用発明2は,護岸の構成部分として機能するものかどうか不明な点。
(ウ)

相違点についての判断
引用発明2は,流水の作用によって堤防が削りくずされるのを防ぐも
のであるから,河岸には堤防が設けられているものである。そして,堤防には護岸工事を施すことが一般的である。
そして,引用文献4には「護岸と水制が一体となって堤防を保護」することが記載され,引用文献1にも「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する」発明が記載されていることから,引用発明2の拾い付き石出しを,護岸と一体となって堤防を保護するものに替えることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,本願発明は,引用発明2及び引用文献1又は引用文献4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4
取消事由

6


明確性要件についての判断の誤り(取消事由1)



本願発明の認定の誤り(取消事由2)



本願発明と引用発明1の一致点の認定の誤り・相違点の看過(取消事由3)


本願発明と引用発明2の一致点の認定の誤り・相違点の看過(取消事由4)


本願発明と引用発明2の相違点についての容易想到性判断の誤り(取消事由5)

第3

取消事由に関する当事者の主張

1
取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)
(原告の主張)


「付近にある中で大きめの石や岩」との記載の明確性
本件審決は,付近にある石や岩のうち,大きめとしている石や岩は,どの程度まで大きいものを規定しているか不明であり,他の大きめではないとする石や岩との線引きができず,その意味が明確ではない旨判断する。しかし,河川に自然に存在する石や岩は,その形や大きさが様々であり,その大きさを厳密に計測して数値に表現することは困難であるから,本願の特許請求の範囲においても,杭でせき止める石や岩の大きさを厳密な数値で特定する必要はない。仮に,これを特定の数値で表すとすると,それは,特定の河川の,特定の場所の,特定の時期における設置例を表現することになるが,それでは,技術としての汎用性がなくなり,特許として成り立ち得ないことになる。
他方,河川では上流になるほど石や岩が大きくなる現象が生じることからすれば,河川のそれぞれの場所にある石や岩の大きさは,場所ごとに限度があり,選択の幅は大きくない。そして,石や岩の大きさは数値で表されていなくても誰にでも分かるものであり,また,大きな石や岩はよく目立つから,河川のそれぞれの場所における「大きめの石や岩」を見つけることは,容易なことである。
7
このように,河川の場所が定まれば,
「付近にある中で大きめの石や岩」
は自ずから定まるものであるから,その意味が明確でないとはいえず,本件審決の判断は誤りである。


「石や岩がその場にとどまる事の出来る程度」の「間隔」との記載の明
確性
本件審決は,石や岩がとどまるかどうかは,その石や岩の大きさと杭の間隔のみで決まるものではなく,石や岩の大きさが杭の間隔より小さい場合でも,1本の杭に引っ掛かるだけでその場にとどまる事もあり得るから,「石や岩がその場にとどまる事の出来る程度」の「間隔」との記載は明確でない旨判断する。
しかし,河川の上流から流下してくる石や岩をせき止めることは,複数の杭の間隔又は杭と護岸との間隔を,目標とする石や岩の大きさよりも少し狭くすることによって可能となるものであるから,
「石や岩がその場にとど
まる事の出来る程度」の「間隔」が,そのような「間隔」を意味することは明らかであって,その意味が明確でないとはいえない。
本件審決は,
「石や岩の大きさが杭の間隔より小さい場合でも,1本の杭
に引っ掛かるだけでその場にとどまる事もあり得る」ことを指摘するが,そのようなことが生じる可能性があるからといって,上記結論が左右される理由はない。


「小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載の明確性本件審決は,
「小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載に
ついても明確ではない旨判断する。
しかし,複数の杭の間隔又は杭と護岸との間隔が狭すぎると,最初に小さな石や岩がせき止められてしまい,後から流下してくる大きめの石や岩がせき止められることを妨げる可能性があるため,そのような事態を防ぐように杭の間隔を設定する必要がある。請求項1の「小さい石や岩が最初に止まる
8
こともない間隔」とは,これを実現させるための複数の杭の間隔又は杭と護岸との間隔を意味するものと理解できるから,その意味が明確でないとはいえない。


特許第3297906号との比較
特許第3297906号(甲7)に係る発明(以下「甲7発明」という。
)は,河川の治水に関わる発明であり,特許請求の範囲の内容において本願との類似性が認められるところ,甲7発明に係る特許請求の範囲の記載(
「該横梁の上下方向の間隔が,前記スリット部の下段においては当該ダムに到達すると予測される石礫の最大径の1.0ないし1.5倍に,上段ないし中段においては当該ダムに到達すると予測される石礫の平均径の1.0ないし1.5倍に選定され」
)と比べれば,本願の特許請求の
範囲の記載の方が明確であることは明らかである。
そうすると,甲7発明が特許されている以上,本願に係る発明も特許されるのが当然である。



以上によれば,本願について,明確性要件を満たしていないとした本件審決の判断は誤りである。

(被告の主張)


「付近にある中で大きめの石や岩」との記載の明確性に対し

原告は,河川では上流になるほど石や岩が大きくなる現象が生じることからすれば,河川の場所が決まれば,
「大きめの石や岩」の大きさは定ま
るなどとして,その意味は明確である旨主張する。
しかし,原告主張のように自然現象を定性的に把握できたとしても,「大きめの石や岩」に該当するか否かの判断基準が明確になるわけではなく,当該判断基準が明確でない以上,河川の場所が決まっても,
「大きめ
の石や岩」か否かは定まらないのであるから,原告の上記主張は理由がない。

9イ
また,原告は,自然に存在する石や岩は大きさ等が様々であり,その大きさを厳密に計測して数値に表現することは困難であるから,数値による特定まで必要ではなく,これを求めるとすると,技術としての汎用性がなくなるなどと主張する。
しかし,原告の上記主張は,
「大きめの石や岩」に該当するか否かの判
断基準の明確性の有無とは関係のない事情を述べるものにすぎない。そもそも,石や岩の大きさの計測ないし特定手法は,大きさに関する種々の尺度に基づき適宜定められるべきことであり,これをどのように表現するかは出願人である原告が定めることであるが,いずれにしても不明確な記載が許容されることにはならない。



「石や岩がその場にとどまる事の出来る程度」の「間隔」との記載の明確性に対し
原告は,
「石や岩がその場にとどまる事の出来る程度」の「間隔」が,複
数の杭の間隔又は杭と護岸との間隔が目標とする石や岩の大きさよりも少し狭いことを意味することは明らかであり,その意味は明確であるなどと主張する。
しかし,上記⑴のとおり,
「大きめの石や岩」との記載が明確でない以
上,
「大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度」の「間隔」との記載も明確でないことに変わりはないから,原告の上記主張は理由がない。


「小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載の明確性に対し
原告は,
「小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載は,目

標とする大きめな石や岩が杭によってせき止められる前に,それより小さな石や岩が杭によってせき止められる事態を防ぐための杭の間隔を意味しており,その意味は明確である旨主張する。
しかし,上記⑴及び⑵と同様の理由で,「小さな石や岩」との記載及び

10

「小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載は明確ではないのであって,原告の主張によっても,そのことに変わりない。


特許第3297906号との比較に対し
原告は,明確性要件に関する本件審決の判断は,甲7発明を特許と認めた判断と整合しない旨主張するが,本願における「大きめの石や岩」との記載の明確性の有無に影響しない事情にすぎない。


2
以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
取消事由2(本願発明の認定の誤り)

(原告の主張)
本件審決は,請求項1記載の本願杭間隔は,その構成が不明確であるとした上で,
「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔」を意味するものとして本願発明を認定し,これに基づいて新規性及び進歩性を検討している。
しかしながら,発明の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うのが原則であり,その記載が明確でない場合には,明細書及び図面の記載を考慮して認定すべきものとされる。しかるところ,本願の請求項1には,「付近にあ
る中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」と記載されており,前記1の(原告の主張)で述べたとおりその意味は明確であるから,本願に係る発明は,上記記載どおりに認定されるべきである。これに対し,当該構成を,
「ある程度の大
きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔」とする本件審決の認定は,本願の請求項1の記載や本願明細書の記載内容を逸脱するものであり,しかも,
「ある程度の大きさ」がどのような大きさを示すのかが明らかではなく,かえって,明確性を損なうものといえる。
したがって,本件審決による本願発明の認定は,
「付近にある中で大きめの
石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に
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止まることもない間隔」とすべきところを,
「ある程度の大きさの石や岩がそ
の場にとどまる事が出来る程度の間隔」とした点において誤りであり,これを前提とした新規性及び進歩性についての判断も誤りである。
(被告の主張)
原告は,本件審決が,請求項1の「付近にある中で大きめの石や岩」を「ある程度の大きさの石や岩」を意味すると解した上で本願発明を認定したことが誤りである旨主張する。
この点,請求項1の「付近にある中で大きめの石や岩」との記載は明確ではないが,本件審決は,本願の事案に鑑み,新規性・進歩性の判断も示したのであり,その際,本願明細書の段落【0015】及び【0016】の記載から,「ある程度の大きさの石や岩」をその場に止めれば,それらより小さな石や岩もその場に止まって土砂が堆積するとの機序を奏すると解されることから,請求項1の「付近にある中で大きめの石や岩」を「ある程度の大きさの石や岩」と解したものである。このように,本件審決による本願発明の認定は,本願明細書の記載を参酌してされたものである。
また,原告は,本件審決による本願発明の認定がかえって明確性を損なう旨も主張するが,本件審決が認定した本願発明は,先行技術と対比できる程度に明確である。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3
取消事由3(本願発明と引用発明1の一致点の認定の誤り・相違点の看過)

(原告の主張)
以下に述べるとおり,本件審決は,本願発明と引用発明1との対比を誤っており,その結果,一致点の認定を誤り,ひいては,相違点を看過した誤りがある。


本件審決は,引用発明1では,
「根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を

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打ち込んで河床4に固定して移動しないようにするとともに,上の石3が移動しないようにしている」ことから,引用発明1の松杭2の間隔は,本願発明の「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔」といえると認定する。
しかし,引用発明1においては,杭を根固めブロックに穿孔された杭孔に打ち込むことを前提とするところ,根固めブロックはいくつかが緩連結されるから,根固めブロックの敷設後に杭孔の位置を変更することはできない。そのため,引用発明1では,それぞれの現場で杭と杭の間隔を自由に調整することはできない。これに対し,本願発明は,河川の上流に至るほど石や岩が大きくなる現象に対応して,杭と杭の間隔を容易に調整できるものである。
以上のような両発明の相違からすれば,上記の点において引用発明1と本願発明の共通性を認めた本件審決の認定は誤りである。


本件審決は,引用発明1の「松杭2を打ち込んで」
「上の石3が移動しな

いようにして」いることは,本願発明の「大きな石や岩を」
「設置して,そ
の場にとどめること」に相当すると認定する。
しかし,引用文献1の記載によれば,引用発明1において打ち込まれる杭は,根固めブロックを河床あるいは海底に固定し,その移動を防ぐとともに,石の移動と崩落を防ぐことを目的とすることは明らかであるが,根固めブロック上に積載した多数の石を,杭を設置してその杭と杭との間隔によってせき止めることについては,引用文献1に何らの記載もない。これに対し,本願発明においては,
「上流から移動して来る大きな石や岩」「元々あ

った大きな石や岩」及び「大きな石や岩に擬した人工の構造物」のいずれも,
「単独又は複数の杭を埋設して」
,その間隔によってせき止めるものとさ
れる。
以上のような両発明の相違からすれば,上記の点において引用発明1と本
13

願発明の共通性を認めた本件審決の認定は誤りである。


本件審決は,引用発明1の「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する,河川水制工法」は,本願発明の「新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させる」
「護岸の方法」に相当すると認定する。
しかし,
「岸」あるいは「岸辺」と「洲」とは異なるものであり,
「洲」が
どのように岸辺と繋がろうとも,
「岸」や「岸辺」ではあり得ない。
また,本願発明は,石や岩が多くある河川上流・中流での工事方法の発明であり,石や岩の多い河川での土砂流下の規則性に従った仕組み・構造を有するのに対し,引用文献1では,河川のどのような場所での工事方法であるかが明確にされておらず,本願発明のように土砂流下の規則性に従った仕組み・構造は考慮されていない。
さらに,引用発明1では,引用文献1の請求項6に記載されるとおり,「…河川の水際近くの浅瀬に所定距離離して複数個所施工」するものとされるのに対し,本願発明では,設置する構造物を「所定距離離して複数個所施工」する必要はない。
以上のような両発明の相違からすれば,上記の点において引用発明1と本願発明の共通性を認めた本件審決の認定は誤りである。

(被告の主張)


原告は,①引用発明1は根固めブロックを用いるため,杭と杭の間隔を調整できないのに対し,本願発明は当該間隔の調整ができるから,引用発明1の松杭2の間隔が,本願発明の「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔」に相当する旨の本件審決の認定は誤りである旨,②引用文献1には,石を杭と杭との間隔によってせき止めるとの記載はなく,その点において本願発明と引用発明1は異なるから,引用発明1の「松杭2を打ち込んで」
「上の石3が移動しないようにして」いることが,本願発明
の「大きな石や岩を」
「設置して,その場にとどめること」に相当する旨の

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本件審決の認定は誤りである旨を主張する。
しかし,引用発明1は,複数の松杭2によって上の石3が移動しないようにされているから,当業者であれば,松杭2と松杭2との間隔が,上の石3を「その場にとどめ」る程度のものであってよいことを理解できる。したがって,本件審決の上記各認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。


原告は,引用発明1の「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する,河川水制工法」が,本願発明の「新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させる」
「護岸の方法」に相当するとの本件審決の認定が誤りで
ある旨主張し,その根拠として,①引用発明1の「洲」と,本願発明の「岸辺」とは異なること,②引用文献1には,本願発明のような「岸辺」の形成メカニズムの記載がないこと,③本願発明は,引用文献1の請求項6のように,設置する構造物を,所定距離離して複数個所施工する必要がないことを挙げる。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当であり,本件審決の上記認定に誤りはない。

上記①について
「岸辺」の字義は「岸に沿った所」
(乙3)であり,
「岸」の字義は「陸
地が水と接する所」
(乙3)である。そして,引用発明1の「洲」
(土砂が
堆積して形成されるもの)は「堤と繋が」るものであるところ,そのような状態は,本願明細書の段落【0016】の「土砂の堆積が岸辺に形成され」るということと変わりがない。
したがって,引用発明1の「洲を形成する」ことは,本願発明の「新たな岸辺を形成」することに相当する。


上記②について
引用発明1は,
「上の石3」がとどめられるとともに,上記アのとお

15

り,土砂が堆積して形成された「洲」が「堤と繋が」るものであるから,その意味において,本願発明の「岸辺」の形成メカニズムと変わることはない。

上記③について
引用発明1は,引用文献1の「松杭2は水流に渦を生起して水の流れを弱め,この上に土砂が堆積させ易くし,堤と繋がった洲を形成し」(4頁
左欄44~46行)との記載などに基づいて認定されており,当該記載に係る技術思想は,構造物を所定距離離すことや複数個所施工することを必須とはしないことが明らかである。



以上によれば,本件審決による本願発明と引用発明1との対比に誤りがあるとする原告の主張は失当であり,したがって,その誤りを前提として,本件審決に一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるとする原告の主張も失当である。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。

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取消事由4(本願発明と引用発明2の一致点の認定の誤り・相違点の看過)(原告の主張)
以下に述べるとおり,本件審決は,本願発明と引用発明2との対比を誤っており,その結果,一致点の認定を誤り,ひいては,相違点を看過した誤りがある。


本件審決は,引用発明2の「拾い付き石出し」に「なお強くするため
にあいだあいだに杭を打ちこ」んだことは,本願発明の「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまることが出来る程度の間隔をあけて,」
「複数の杭を埋設すると共に,大きな石や岩を設置して,その場にとどめること」に相当すると認定する。
しかし,本願発明は,杭と杭の間隔によって石や岩をせき止めるものでり,当該間隔がせき止めようとする石や岩の大きさによって規定されるのに
16

対し,引用発明2では,杭と杭の間隔が全く不明であり,その杭が石に対してどのように作用するのかも不明である。
また,本願発明では,杭と杭の間隔によってせき止める石や岩の大きさを「付近にある中で大きめの石や岩」と規定し,その結果,これらの石や岩が容易に流れ下ることなく,自然の岸辺を形成しやすくするのに対し,引用発明2では,
「拾い付き石出し」に使用される石の大きさが不明であって,石
の流下等の可能性がある。
以上のような両発明の相違からすれば,上記の点において引用発明2と本願発明の共通性を認めた本件審決の認定は誤りである。


本件審決は,引用発明2の「構造物を」
「河岸から流れの中心部に向か
って突き出して設置」することと,本願発明の「新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させる護岸の方法。
」とは,
「新たな
岸辺を形成し,それらを岸辺の構成部分として機能させる方法。
」であ
る点において共通すると認定する。
しかし,引用発明2において,
「あいだあいだに杭を打ちこ」んだ「拾
い付き石出し」が,設置された石を流下させることがないとしても,打ち込まれた杭がその間隔によって増水時においても間違いなく石をせき止め,同時にその石がその場所の流れの強さに適合した大きさでない限り,それらの石の周囲に自然の岸辺を形成することはない。引用発明2においては,上記⑴のとおり,杭と杭の間隔も,
「拾い付き石出し」に使
用される石の大きさも不明なのであるから,
「拾い付き石出し」が「新た
な岸辺を形成し,それらを岸辺の構成部分として機能させる」可能性はほとんどないと考えられる。
したがって,上記の点において引用発明2と本願発明の共通性を認めた本件審決の認定は誤りである。

(被告の主張)

17



原告は,引用発明2の「拾い付き石出し」に「なお強くするためにあいだあいだに杭を打ちこ」んだことは,本願発明の「ある程度の石や岩がその場にとどまることが出来る程度の間隔をあけて,「複数の杭を埋設する」
と共に,大きな石や岩を設置してその場にとどめること」に相当するとの本件審決の認定が誤りである旨主張し,その根拠として,①本願発明では,杭と杭の間隔をその場にせき止めようとする石や岩の大きさによって規定するのに対し,引用発明2では杭と杭の間隔が不明であること,②せき止める石の大きさについて,本願発明では「付近にある中で大きめの石や岩」と規定されるのに対し,引用発明2では不明であることを挙げる。
しかしながら,以下のとおり,原告の主張は失当であり,本件審決の上記
認定に誤りはない。

上記①について
引用発明2の「杭」は,拾い付き石出しを「なお強くするために」,石
の「あいだあいだに」
「打ちこ」んだものであるから,当業者であれば,
杭と杭との間隔が,石を「その場にとどめ」ている程度のものであってよいことを理解できる。


上記②について
引用発明2は水制に関するものであるから,その石は,相当程度大きいものと解されるし,そのことは,引用文献2の図4-4-1からもうかがわれる。
また,本願発明における「付近にある中で大きめの石や岩」が,大きさに相当程度の幅があることは明らかである。
してみると,引用発明2の石の大きさと本願発明における「付近にある中で大きめの石や岩」の大きさとの間に,特段の差異はないというべきである。

18



原告は,引用発明2の「構造物を」
「河岸から流れの中心部に向かって突
き出して設置」することと,本願発明の「新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構成部分として機能させる護岸の方法」とは,
「新たな岸辺を形成し,
それらを岸辺の構成部分として機能させる方法」である点において共通するとの本件審決の認定が誤りである旨主張し,その根拠として,引用発明2の杭が,増水時においても間違いなく石をせき止め,同時にその石がその場所の流れの強さに適合した大きさでない限り,それらの石の周囲に自然の岸辺を形成することはないことを挙げる。
しかし,引用発明2の「拾い付き石出し」は,
「なお強く」されたもので
あるから,
「石」はその場にとどまると考えられる。そして,引用発明2
は,水制に関するものであって,
「川の流速を低下させ」るとともに,その
「構造物」は「河岸」につながっているから,本願明細書の段落【0015】及び【0016】の記載と同様の理由で,
「新たな岸辺を形成」するも
のといえる。
したがって,原告の主張は失当であり,本件審決の上記認定に誤りはない。



以上によれば,本件審決による本願発明と引用発明2との対比に誤りがあるとする原告の主張は失当であり,したがって,その誤りを前提として,本件審決に一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるとする原告の主張も失当である。
したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。

5
取消事由5(本願発明と引用発明2の相違点についての容易想到性判断の誤り)

(原告の主張)
本件審決は,本願発明と引用発明2との相違点(前記第2の3(2)オ(イ))について,引用文献4には,「護岸と水制が一体となって堤防を保護」す
19

ることが記載され,引用文献1にも,「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する」発明が記載されていることから,引用発明2の拾い付き石出しを,護岸と一体となって堤防を保護するものに替えることは,当業者が容易になし得たことである旨判断する。
しかし,まず,引用文献1に「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する」発明が記載されているとの本件審決の認定は誤りである。すなわち,「護岸が施された堤」とは,「岸」あるいは「岸辺」に該当するところ,引用文献1に記載されているのは「洲」であり,「洲」は,どのように岸辺と繋がろうとも,「岸」や「岸辺」ではあり得ない。
また,「引用発明2の拾い付き石出しを,護岸と一体となって堤防を保護するものに替えること」が可能でないことは,前記4の(原告の主張)(2)で述べたとおりである。
さらに,本件審決の上記判断は,引用発明2に引用文献1及び4の各記載を同時に組み合わせるものであり,「審査対象の特許を比較する際に,独立した二つ以上の引用発明を同時に組み合わせて比較してはならない」との原則に反するものである。
したがって,本願発明と引用発明2との相違点について,容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである。
(被告の主張)


原告は,本願発明と引用発明2との相違点を容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張し,その根拠として,①引用文献1に記載されているのは「洲」であって,
「岸」あるいは「岸辺」を形成するもの
ではないこと,②引用発明2は,
「新たな岸辺を形成し,それらを護岸の構
成部分として機能させる」ものとはいえないこと,③本件審決の相違点についての判断が,引用発明2に,引用文献1及び4の各記載を同時に組み合わせるものであることを挙げる。

20

しかしながら,以下のとおり,原告の主張は失当であり,本件審決の上記判断に誤りはない。

上記①について
前記3の(被告の主張)⑵アで述べたとおりである。

上記②について
前記4の(被告の主張)⑵のとおり,引用発明2は,「新たな岸辺を形
成」するものである。そして,引用発明2の「新たな岸辺」を,堤防に施されることが一般的である護岸の構成部分として機能させて,上記相違点のようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。


上記③について
本件審決は,
「引用発明2及び引用文献1または4に記載された事項に

基づいて」
(本件審決の17頁の(イ))
,容易想到性を判断したものである
から,原告の主張は誤りである。

第4

以上のとおりであるから,原告主張の取消事由5は理由がない。
当裁判所の判断

1
取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)について


特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとの要件(明確性要件)に適合するものでなければならないと規定するところ,その趣旨は,特許請求の範囲の記載が特許権の権利範囲を確定するものであることからすると,仮に特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,権利の及ぶ範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような事態を防止しようとするものである。そして,特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載に加え,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,出願当時における当業者の技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載
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が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。より具体的に言えば,請求項の記載がそれ自体で明確であると認められる場合には,明細書又は図面中に請求項の用語についての定義又は説明があるかどうかを検討し,その定義又は説明によって,かえって請求項の記載が不明確にならないかを判断し,他方,請求項の記載がそれ自体で明確でない場合は,明細書又は図面中に請求項の用語についての定義又は説明があるかどうかを検討し,その定義又は説明を出願時の技術常識をもって考慮して請求項中の用語を解釈することによって,請求項の記載が明確といえるかどうかを判断し,以上の結果,請求項の記載から特許を受けようとする発明が明確に把握できるか否かによって判断するのが相当である。


「付近にある中で大きめの石や岩」との記載の明確性について
本願の請求項1における「付近にある中で大きめの石や岩」との記載は,本願の護岸の方法に係る発明において,埋設される杭の間隔を規定する前提となる記載であるところ,本件審決は,「付近にある中で大きめの石や岩」との記載がどの程度まで大きいものを規定しているのかが不明であるとし,この点をもって,本願が明確性要件を満たさないことの根拠の一つとしている。そこで,上記記載の明確性について,以下検討する。

一般に,「○○め」との語は,「形容詞の語幹に付いて,多少そ
の性質や傾向をもつことを表す」接尾語である(大辞林第三版)から,「大きめ」とは,「大きい」という性質や傾向を有することを表す語であると解される。そうすると,請求項1の「付近にある中で大きめの石や岩」とは,河川の特定の場所(本願の発明に係る護岸を施す場所)において,付近にある石や岩のうち,「大きい」と
22

いう性質や傾向を有する石や岩のことであると理解することができる。しかしながら,「大きめ」という語自体は,「大きい」という性質や傾向をどの程度有するのかを何ら特定するものではないか
ら,結局のところ,どの程度の大きさをもって「大きめ」とすべきかは,「大きめ」という語自体からは判然としないものというほかない。また,請求項1のその他の記載を参酌してみても,「大き
い」という性質や傾向をどの程度有していれば,請求項1にいう
「大きめ」に該当するのかを理解し得る手掛かりは見当たらない。してみると,付近にある石や岩のうち,どの程度の大きさのもの
であれば,「付近にある中で大きめの石や岩」に該当するのかについては,「付近にある中で大きめの石や岩」という記載自体から客観的に定まるものではなく,付近にある石や岩を観察する者が,各自の基準に基づいてこれに当たるか否かを主観的に判断するほかはないものといえる。そして,そうであるとすれば,「付近にある中で大きめの石や岩」の範囲は,その判断者いかんによって変わり得るものであって,客観的に定まるものではないと言わざるを得な
い。
したがって,本願の請求項1における「付近にある中で大きめの
石や岩」との記載は,それ自体で明確であると認められるものではない。

そこで,本願明細書の記載を参照するに,本願明細書において,

「大きめの石や岩」又は「付近にある中で大きめの石や岩」に言及する記載は,「大きめの石や岩がそれによって止まる場合に最も大きな効果を上げることが出来ますから,杭は,付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて,なおかつそれらの圧力に耐える事の出来るように埋設します。これに
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より,小さな石や岩が最初に止まることもなく,上流から移動して来る大きめの石や岩が堰止められます。」(段落【0013】)との記載のみである。しかるところ,上記記載は,本願の護岸の方法に係る発明における課題を解決するための手段を説明する記載ではあるものの,その中に,「大きめの石や岩」又は「付近にある中で大きめの石や岩」の意味を説明する記載は認められない。また,本願明細書に記載され,又は図示されたその他の事項を参酌しても,「大きめの石や岩」又は「付近にある中で大きめの石や岩」との記載の意味を理解し得る手掛かりは見当たらない。加えて,請求項1の「大きめの石や岩」又は「付近にある中で大きめの石や岩」との記載の意味について,上記アのような理解とは異なる理解ができることを根拠付けるような技術常識を認めるに足りる証拠もない。
したがって,本願の請求項1における「付近にある中で大きめの
石や岩」との記載は,本願明細書の記載を参酌してみても,明確であると認められるものではない。

以上によれば,本願の請求項1のうち,「付近にある中で大きめ
の石や岩」との記載は,その範囲が客観的に定まるものではないから,明確であるとはいえず,そうすると,請求項1の護岸の方法において,埋設される杭の間隔を規定する「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載も,必然的に明確であるとはいえない。



原告の主張について
これに対し,原告は,「付近にある中で大きめの石や岩」という記
載は明確でないとはいえない旨主張し,その根拠として,①河川に自然に存在する石や岩の大きさを厳密に計測して数値に表現することは
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困難であるから,本願の特許請求の範囲においても,杭でせき止める石や岩の大きさを厳密な数値で特定する必要はない旨,②河川では上流になるほど石や岩が大きくなる現象が生じ,河川のそれぞれの場所にある石や岩の大きさは場所ごとに限度があり,選択の幅は大きくないところ,河川のそれぞれの場所における「大きめの石や岩」を見つけることは誰でも容易にできるから,河川の場所が定まれば,「付近にある中で大きめの石や岩」は自ずから定まる旨,③甲7発明が特許されている以上,同発明よりも特許請求の範囲の記載が明確な本願に係る発明も特許されるべきである旨を主張するので,以下,その当否について検討する。

上記①について
原告指摘のとおり,河川に自然に存在する石や岩の大きさを厳密
に計測して数値に表現することが困難であるとしても,本願の請求項1の記載に,特許を受けようとする発明を客観的に把握し得るだけの明確性が求められることに何ら変わりはない。本願の出願人である原告としては,請求項1の護岸の方法において,埋設される杭の間隔に係る構成を,せき止められる石や岩の大きさをもって規定しようとするのであれば,当該石や岩の大きさを客観的に把握し得るような記載(その具体的内容は,出願人たる原告が考えるべきことである。)を用いなければならないのであって,そのことは,河川に自然に存在する石や岩の大きさを厳密に計測して数値に表現することが困難であるからといって異なるものではない(石や岩の大きさを数値によって規定できないのであれば,それ以外の方法によって客観的に特定し得る記載を考案すべきであるし,それがおよそできないのであれば,せき止められる石や岩の大きさ以外の要素によって杭の間隔を規定するなどの方法を検討すべきなのであって,
25

いずれにしても,発明を客観的に把握し得るだけの明確な記載が求められることに変わりはない。)。ところが,本願の請求項1で
は,「付近にある中で大きめの石や岩」なる記載によって,石や岩の大きさを規定するのみであり,このような記載では当該「石や
岩」の範囲が客観的に定まらないことは,上記⑵アで述べたとおりである。
したがって,原告が指摘する上記①の点は,「付近にある中で大きめの石や岩」との記載が明確であることを何ら根拠付けるものではない。

上記②について
まず,原告は,河川では上流になるほど石や岩が大きくなる現象
が生じ,河川のそれぞれの場所にある石や岩の大きさは場所ごとに限度があり,選択の幅は大きくない旨を指摘するところ,仮にそのような事実があるとしても,それぞれの場所にある石や岩の大きさに幅がある以上,どの程度の大きさの石や岩をもって「大きめの石や岩」とするかが客観的に定まらないことに変わりはないから,このこと自体が,「大きめの石や岩」との記載の明確性を根拠付けることにはならない。
また,原告は,河川のそれぞれの場所における「大きめの石や
岩」を見つけることは誰でも容易にできるから,河川の場所が定まれば,「付近にある中で大きめの石や岩」は自ずから定まる旨主張するが,この主張は,付近にある石や岩を観察する者が,各自の基準に基づいて「大きめの石や岩」に当たるか否かを主観的に判断し得るということを指摘するものにすぎず,「大きめの石や岩」の範囲が客観的に定まるものであることを何ら示すものではない。
したがって,原告が指摘する上記②の点も,「付近にある中で大
26

きめの石や岩」との記載が明確であることを根拠付けるものではない。

上記③について
前記⑴で述べたとおり,本願の請求項1が明確性要件に適合するか否かは,当該請求項1自体の記載のほか,本願明細書の記載及び技術常識に基づいて判断されるべき事柄であり,本願と直接関係のない別特許(甲7)に係る特許請求の範囲の記載との比較によって判断されるべきものではない。しかも,甲7発明が特許されているという事実は,その審査を担当した審査官が,甲7発明が明確性要件を含む特許の要件を満たすものであると判断したことを示すものではあるとしても,このような審査官の判断に,本件の審判官や当裁判所が拘束される理由はないから,甲7発明が特許されているからといって,本願発明も特許されるべきであるとの判断をしなければならないものではない。
したがって,原告が指摘する上記③の点も,「付近にある中で大きめの石や岩」との記載が明確であることを何ら根拠付けるものではない。


なお,原告は,この点に関してそのほかにも種々主張するが,こ
れらの主張は,結局のところ,「付近にある中で大きめの石や岩」との記載が明確であるといえるためには,これに当たるか否かを各人が主観的に判断できれば足りるとする理解を前提とするものであって,いずれも採用することができない。



小括
以上によれば,本願の請求項1における「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で,なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔」との記載が不明確であることを理由
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として,本願は明確性要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1には理由がない。
2
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由がないから,その余の取消事由
について判断するまでもなく,本願につき特許を受けることができないとした本件審決の結論に誤りはなく,これを取り消すべき理由はない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦大西勝滋杉浦正樹
裁判官

裁判官

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