判例検索β > 平成28年(ネ)第270号
損害賠償請求控訴事件
事件番号平成28(ネ)270
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日平成29年7月7日
法廷名名古屋高等裁判所
原審裁判所名名古屋地方裁判所
原審事件番号平成24(ワ)5496
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平成29年7月7日判決言渡
平成28年(ネ)第270号
(原審

名古屋高等裁判所
損害賠償請求控訴事件

名古屋地方裁判所平成24年(ワ)第5496号)

主文1
原判決を次のとおり変更する。

2
被控訴人は,控訴人に対し,7901万0771円及びこれに対する平成22年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
控訴人のその余の請求を棄却する。

4
訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

5
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人に対し,1億4463万3044円及びこれに対する平成22年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
第2

訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要(略語は,新たに定義するもののほか,原判決の例による。以下,本判決において同じ。


1
控訴人は,平成22年8月3日,被控訴人の開設するA病院(以下「被控訴人病院」という。
)において,持続性心房細動の治療を目的として,B医師
によるカテーテルアブレーションを受けたが(以下「本件施術」という。,)
直後に脳梗塞を発症し,左重度片麻痺,高次脳機能障害の後遺障害が残った。本件は,控訴人が,B医師が,(1)カテーテルアブレーションの禁忌である左心耳内血栓の所見又はそれを疑うべき所見を見落とした,(2)本件施術前に
十分な抗凝固療法を実施すべき義務に違反した,(3)カテーテルアブレーションに関する十分な説明をしなかった,と主張して,被控訴人に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,合計2億0668万5742円の損害賠償及び本件施術日である平成22年8月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,(1)ないし(3)のいずれも認められないとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人が控訴を提起した。なお,控訴人は,当審において,請求額を1億4463万3044円及びこれに対する遅延損害金に減縮した。2
その余の事案の概要等は,原判決を次のとおり補正し,当審における各当事者の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の2ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決の補正


原判決2頁13行目の「男性」の後に「
(本件施術当時63歳)
」を加

える。

同2頁26行目の「及び」から3頁3行目末尾までを,
「を渡して,本
件施術の内容について説明をした。
」に改める。


同3頁21行目の末尾に「
(乙A1の1・18,132,133頁)


を加える。

同4頁7行目の末尾に「
(甲A5)
」を加える。


同5頁20行目の末尾の後に「特に左心耳内SECの辺縁が明瞭であるものをスラッジ(sludge,英語で「へどろ」という意味)と呼ぶことがある。
」を加える。


同9頁9行目の「なお」から同10行目の末尾までを,
「なお,急性期
の脳梗塞の引き金となるのは新鮮血栓であり,器質化血栓が急性の塞栓症を発生させることはない(被控訴人の平成25年9月18日付けの準備書
面(4)4頁)」と改める。


同20行目の「
(原告の主張)イ」とあるのを「
(原告の主張)ア」に

改める。

同12頁25行目の冒頭から13頁14行目の末尾までを,以下のとおりに改める。


(控訴人の主張)
B医師の過失ないし注意義務違反により,控訴人は以下の損害を被った。ア
治療費
(ア)
(イ)

C病院に対する治療費

(ウ)

被控訴人病院に対する治療費

紙おむつ代

158万1967円
40万9479円
3万0030円

入院慰謝料

306万円

控訴人は,平成23年5月13日まで約9箇月間もの間,被控訴人病院で入院治療を強いられ,また,被控訴人病院を退院した後も,リハビリ目的で,同月16日から7月25日までの約40日間,C病院に入院した。これら合計10箇月以上にわたる入院に対する慰謝料は306万円をくだらない。

後遺障害逸失利益

5559万6240円

控訴人の公衆浴場業による年収は720万円である。自営業であり,控訴人の家系は長寿であるから,控訴人は,後遺障害の症状固定日から少なくとも10年間(当時64歳からの平均余命19.34年の約半分)は就労できたはずであるが,本件により100%労働能力を喪失する後遺障害を負った。
720万円×7.7217(10年のライプニッツ係数)=5559万6240円

後遺障害慰謝料

2800万円

控訴人は,現在も左上下肢機能全廃の後遺障害が残存し,精神的にも高次脳機能障害があり,今後回復する可能性はないから,かかる苦痛を慰謝するには,2800万円が相当である。

介護費
(ア)

2165万7302円

控訴人は,平成23年7月25日,C病院を退院した後,しばら

く妻による在宅介護を受けたが,平成24年11月12日,老人保健施設「D」に入所した。
控訴人は,平成28年1月25日,上記老人保健施設を退所し,
毎月概ね12日間は同施設のショートステイを利用するほか,毎週概ね3日間は社会医療法人Eが運営するデイサービスを利用し,その余は訪問介護員による介護を受けている。現状の介護状況を前提とした介護費用は以下のとおりとなる。
(イ)

平成28年6月までの介護費用


D入居費用


ショートステイ利用料

33万4712円


デイサービス利用料

59万0867円


居宅介護サービス利用料

16万8433円


合計

(ウ)

574万1307円

683万5319円

将来の介護費用


ショートステイ利用料(年額)

77万9755円


デイサービス利用料(年額)

30万3984円


居宅介護サービス利用料(年額)

12万1039円


障害福祉サービス利用料(年額)

22万3200円


年額合計


平均余命16年のライプニッツ係数


合計

142万7978円
10.3797

1482万1983円

142万7978円×10.3797=1482万1983円
(エ)

(イ)及び(ウ)の合計額

2165万7302円

自宅改造費

2119万8026円

控訴人は寝たきりの生活であり,移動の際は車椅子を利用しているため,自宅玄関や敷居等の段差を解消したり,トイレに手すりを取り付けるなど,車椅子生活に対応させるべく自宅等を改修する必要がある。控訴人は,当面,妻が勤務しながら控訴人を介護できるように172万5026円を出費して店舗の一部と休憩場(所有マンション)を改修したが,なお自宅の改造費として1947万3000円を要する。

弁護士費用


1310万円

合計額

1億4463万3044円

(被控訴人の主張)

いずれも否認ないし争う。


後遺障害逸失利益に関して
控訴人は症状固定当時64歳であったから,労働能力喪失期間は67歳までの3年間とするのが一般的である。控訴人が自営業であること,長寿の家系であることから,長期間にわたり63歳と同程度の稼働ができると推測する理由にはならない。控訴人には,本件施術を必要とする程度の持続性心房細動の持病があったのだからなおさらである。

後遺障害慰謝料について
控訴人の主張する2800万円は高額すぎて不適切である。


自宅改造費に関して
控訴人の提出する証拠(甲C5の1,2,甲C6)からも,自宅改造工事の具体的内容や必要性は不明であり,エレベーター設置が自宅における介護,療養生活のため必要不可欠な工事とはいえない上,同
居する家族がその効用を享受する結果となり,改造費に含めることは不適切である。

(2)

控訴人の当審における補充主張
判断枠組みについて
本件で問題となっている医師の注意義務の内容は,
「血栓ないし血栓の
疑いがあった場合には,カテーテルアブレーションは禁忌であって,その疑いが解消するまで見合わせるべきものである」というものであり,これについて医師の裁量は存在しないから,控訴人としては,本件TEEの画像上の陰影の存在により,心臓内に血栓が存在した疑い,すなわち血栓が存在するとのある程度の可能性(無視することが相当でない程度の可能
状筋ないしスラッジの可能性があることを反証しても,その可能性が著しく高く,相対的に血栓である疑いすら認められない場合は格別,それだけではB医師の注意義務違反を否定できない。
したがって,原判決が,上記陰影について,
することはできない。
」との理由でB医師の注意義務違反を否定したこと
が誤りであることは明白である。

B医師の注意義務違反を基礎付ける医学的知見等
控訴人は,本件施術実施当時,少なくとも血栓が存在するとの疑いがあったことを立証すべく,直接証拠として専門医であるF医師,G医師,H医師,I医師の各意見書を提出しているが,上記医師らは,その経歴や実績からも明らかなように,カテーテルアブレーションや血栓の態様に造詣の深い専門医である上,各意見書の内容は,本件TEEの画像を緻密に分析しつつ,具体的かつ合理的な所見や根拠を示して(自信のない部分はその旨を記載して)
,全体としては血栓ないし血栓の存在を疑うべき陰影の
存在を肯定することで一致している。


本件TEEの画像上の血栓所見の存在を裏付ける間接事実
本件の場合,控訴人が重篤な脳梗塞を発症していることから,本件施術中に相当程度の大きさと高い粘度を持つ血栓が存在したことは疑う余地がないが,本件においては,本件TEEの画像の各異常陰影をもって血栓を疑うべき所見と評価すべき根拠となる以下のような医学的事情が存在する。(ア)

術前の心臓CTの検査所見
7月22日に実施された心臓の造影CT検査(以下「本件CT」と
いう。
)の画像には左心耳内に異常陰影があり,被控訴人も本件CTの
陰影欠損が血栓であった可能性について争っていない。

」「線状構造」を特

徴とする構造物であるが,本件TEEの画像では,
「併走する類似の構
造物」が全く確認できていない。また,B医師もその証言で認めると
筋は比較的大きめであるところ,
「12:15:30」及び「12:1
6:42」の各画像で確認されるいぼ様の陰影の幅は約10mmである
(ウ)

左心耳内の血流速度
ドプラ法による左心耳内の血流速度が20cm/sを下回る場合は,血
栓が形成されやすいとされているところ,本件TEEの画像のうち「12:13:14」「12:13:21」の画像記録内の左心耳内,
の血流速度の波形からみた計測値によれば,ピーク速度は19.2cm/sと15.4cm/sであり,いずれも20cm/sを下回っている。したがって,控訴人の場合,左心耳内血栓形成のリスクが高い症例であったことは明らかである(甲B24)


被控訴人の主張に沿う証拠について

他方,被控訴人が提出した基本的な反対の直接証拠は,B医師の陳述書及びその証言を除いては,J医師の意見書(乙B18)しかなく,医療訴訟においては,複数の意見書が提出されることが通例であることに照らすと,極めて異例である。しかも,J医師の意見書ですら,本件TEEの画像の解釈につき,自らの知識と経験を基に読影した上で意見を述べているのではなく,
「担当医の判断を尊重したいと思います」と記述するにとど
まっており,しかも,
「12:15:30」及び「12:16:42」の
各画像で確認されているいぼ様の陰影について全く言及していない。結局,本件訴訟に提出された被控訴人側の基本的な直接証拠としては,B医師の陳述書及び証言のみとなるが,B医師の供述内容は,各専門医らの一致した所見に反するのみならず,当該所見の裏付けとなる上記間接事実に対しても,何ら合理的説明ができていないのであるから,その信頼性が極めて低いことは明らかである。
また,B医師は,原審の証言時まで,TEE検査に用いる機器の目盛りの正確なスケールを知らず,当時の原告代理人からの数回にわたる質問に対しても,画像が拡大されたので1目盛りは5mmのスケールになるとの誤った供述を訂正せず,機器の製造元からの回答書を突き付けられるまで誤りを認めなかったものであり,このようなB医師の証言等の証明力,信用力には大きな疑念を抱かざるを得ない。

本件CTの画像の異常陰影について
原判決は,本件CTの画像の異常陰影について,血栓である可能性を否定できないとする一方で,本件TEEにより血栓又はこれを疑うべき所見がないことが確認されたと判示する。そうすると,この間に血栓が完全に消滅したことになるところ,B医師は,ワーファリン投与の結果,上記血栓が溶けたと判断したと述べている。
しかしながら,Kクリニックでの同剤の継続的投与にもかかわらず,
本件CTの画像上,かなり大きな球状ないし塊状の血栓が左心耳に存在していたのであって,投与の効果はみられない。ところが,B医師が,本件CT後にワーファリンを投与すると(しかも1日当たり3mgに減量して),
上記血栓が消失したというのは到底考え難い。このことは,F医師が,本件TEE上の陰影の一部は器質化した血栓であると断定していること,B医師も器質化血栓はワーファリンでは溶けないことを認めていることからも裏付けられる。
この点,被控訴人は,3週間の抗凝固療法を実施すれば,TEE検査で血栓の有無を確認することを必須としなくても,カテーテルアブレーションを実施することが可能であると考えられていたと主張するが,そのような文献の記述や治療を行っている医療機関は存在せず,むしろ,このような主張をすること自体から,B医師が,本件TEEの画像上の陰影が血栓であるとの疑いがあるにもかかわらず,そのような考えで本件施術を断行したことが推認される。

いぼ様の陰影について
(ア)

原判決は,心房細動の場合,心房が非常に細かく動いているため,
耳を含む心臓全体もこれに連動して同様な動きをしているはずであるが,動画からそのような確認はできない。

ては1本しか写らないこともあり,120度から140度の角度も観察したが,特に変わった所見はなかったので,観察だけで終えたとの
通常,近接して何本も併走しているところ,B医師は,どのような角
想定し難いはずである。

耳壁から反対側までつながっているように見えるものであることが認
筋の画像として紹介されていることを理由に,上記指摘は当たらない

「マッチ棒ように頭があ
って下に筋肉が続くという形」状を有していることはB医師も自認しているところ,この形態が本件TEEの画像上のいぼ様の陰影と整合しないことは明らかである。
(エ)

原判決は,いぼ様の陰影は,右壁に付着する形態として現れ,右か
ら左まで連続して続く形態として現れていることが認められるので,
が認められると判断したが,血栓の形状,可動性はさまざまであり,細い茎で心臓壁に付着することもあるとされており,現に血栓であることが確実な本件CTの画像上の陰影は,細い茎によって左心耳壁につながっているように見えるのであるから,単に付着や連続といった形態だけで血栓でないと判断するのは誤りといわざるを得ない。
(オ)

原判決は,G医師の意見書について,本件CTの画像と本件TEE
の画像で現れた陰影が同じ位置にあることについての具体的説明がないこと,Dダイマーの数値は7月12日より8月3日の数値が下がっ
ていることから採用できないと判示するが,本件CTの画像と本件TEEの画像で現れた陰影が小さな左心耳内のほぼ同一場所にあることは明らかであって,Dダイマー数値の上昇は体内のどこかに血栓の存在を疑う0.5μg/mlを上回っているという意味であり,2時点で数値を比較して高くなっているという意味ではない。
被控訴人は,8月3日に検査した結果,Dダイマーが正常値を示していたことは血栓の存在を否定する要素であると主張するが,被控訴人自身,その当時において少なくともスラッジが存在していたことを自認しており,かつこれが本件TEEを実施している最中に溶融したなどと主張しているのであるから,血栓が存在したとしても何ら不自然ではない。

径が小さいことは医学上の常識であり,百歩譲っても陰影の幅が10m
らといって,直ちに血栓の疑いが否定されるものではない。

「平均的には1mm超で

と証言した(証人B23,39頁)

ところが,本件TEEに用いた機器の目盛りのスケールに関するB医師の証言が誤りであったことが明らかになるにつれ,被控訴人の主
上記証言と矛盾する内容の主張をするに至っている。

被控訴人は,控訴人の平成23年5月11日撮影の心臓CT画像
(乙A11)やB医師が撮影した別の患者のTEE画像(乙B23の
造物である可能性も十分に考えられる,とされている(甲B34,35の1ないし4,甲B36の1ないし3,甲B37)

(キ)

B医師は,TEEに用いるプローブの角度を120度から140度
にして観察した際の画像を残さなかったことを自認しているが,この
B医師が,他の角度での画像を残しながら,肝心のこの角度での画像は「特に変わった所見ではありませんでした」との理由で残さなかったというのは不可解極まることであり,そこに疑念を抱かざるを得ない。

クローバー様の陰影について
(ア)

血栓とスラッジとの境界は画然としたものではないところ,H医師
は,
「血液が泥状となった状態(スラッジ)のように見えます」との見解を述べているが(甲B24)
,クローバー様陰影がスラッジであると
断定している訳ではないし,当該所見が「血栓ではない」として,血栓である可能性を否定しているわけでもない。
他方,G医師(甲B22・1頁④,別紙2参照)も,F医師(甲B4の1)も,一致してクローバー様陰影が血栓の所見であることを認めているのであるから,医学的に合理的な理由がない限りは,血栓の可能性を否定することはできないはずである。
(イ)

被控訴人は,クローバー様陰影は,
「12:08:50」と「1

2:09:07」の画像内で形態が変化し,
「12:11:39」の画
像では消失しているから,スラッジであると主張するが,各画像が正
確に同じ位置の断面を同じ角度で撮影したものではなく,はっきりと見られたクローバー様陰影が,約2分半後に完全消失することなどあり得ない。そうすると,クローバー様の陰影の形状が変化したり,あたかも消えているように見える現象は,撮影断面が異なっていることに起因すると考えるのが自然である。

控訴人の重篤な脳梗塞の原因について
控訴人は,午後2時35分頃から午後5時52分頃にかけて行われた本件施術の直後である午後6時50分頃に左上下肢に麻痺を発症し,連絡を受けた被控訴人病院の脳神経外科医が駆けつけ,ヘパリン投与や脳アンギオを実施し,さらに緊急のバルーン挿入,拡張などの血管内治療を試みた結果,中大脳動脈の再開通に成功したものの,意識障害と左上下肢麻痺は遷遅し,その後に生じた脳腫張に対しても内外減圧術や低体温療法が行われたが,重篤な障害を残す結果となった。
このように各種の治療の甲斐もなく重篤な事態を招いたのは,その原因となった血栓が右中大脳動脈の完全閉塞をもたらすほどの規模・凝固性を有していたからと推認される。この点,B医師は,本件施術は線上焼灼術のため,焼灼部位が多くて長かったことから,カテーテル先端に血栓が形成されたと考えると述べているが,焼灼に使用するカテーテル先端に血栓が形成され,重篤な脳梗塞を引き起こすことを具体的に説明した文献は提出されていない上,B医師は,自らが術者となって実施したカテーテルアブレーションの症例数が約1200例に達すると述べていること,本件施術中は,抗凝固剤のヘパリンを投与することにより,活性化凝固時間値は300秒以上に維持されていたこと等を考慮すると,カテーテル先端に右中大脳動脈の完全閉塞をもたらすほどの血栓が新たに生じた可能性は著しく低いと考えられる。
本件施術による合併症の平均発生率5.2%のうち脳梗塞の出現頻度は
わずかに0.27%にすぎず,しかもこの数値には左房内既存血栓の遊離が含まれており,それが適切な措置を講じても避けられなかったとの判断を示すものではない(甲B16・39,40頁)

したがって,本件では,本件施術により従前から左心耳内に存在した血栓が移動し,脳梗塞を発症させたと考えるのが合理的,整合的である。(3)

被控訴人の当審における補充主張
判断枠組みについて
本件の主要な争点は,本件施術実施前に血栓所見又は血栓を疑うべき所見の見落としがあったか否かであり,控訴人は,
「いぼ様陰影」「クロ

ーバー様陰影」が「血栓を疑うべき所見」に当たるとし,被控訴人は,,
「クローバー様陰影」はスラッジであって,血
栓を疑うべき所見には当たらないと主張した。
原判決は,
「いぼ様陰影」や「クローバー様陰影」が血栓を疑うべき所

「血栓を疑うべき所見」に当たるとは認められないと判示した。
「血栓を疑うべき所見か否か」という判断は,医師による画像所見の評価を経ることが必須であり,当該医師による画像所見の評価が適切であ
スラッジの所見であるという画像所見の評価の適否を検討し,B医師の画像所見の評価が適切であると判断した結果,上述のとおり,
「血栓を疑う
べき所見」ではないと判断したものであり,その判断手法は合理的である。イ
控訴人が提出した各医師の意見書について
各医師の意見書については,それぞれ血栓もしくは血栓を疑うと指摘する所見に違いがあることが客観的に明白である。
本件TEEは,約20分にわたって実施されているが,記録された画像はその一部にすぎない。また,それぞれの位置,角度で10秒以上観察を
行っているが,時間的には各2心拍分しか記録しておらず,記録に残した位置,角度も限られており,術者であるB医師が検査時に得た画像と,控訴人の提出した意見書を作成した医師らが見た画像とでは情報量の多寡が全く異なっている。控訴人の依頼により意見書を提出した医師らが意見を述べる経過も,臨床現場において経時的にTEEで新鮮血栓の有無やもやもやエコー,スラッジとの鑑別を行うための観察方法,手順と異なっている。
このように控訴人提出にかかる意見書作成医らが得られた画像情報には限界があり,それゆえに本件TEE全体から得られた画像情報をふまえたB医師の適切な判断と異なる意見を述べる結果となったものである。ウ
控訴人の左心耳内の血流速度の低下について
控訴人の左心耳内の血流低下については,心房細動の病態そのものであり,一般的に血流速度が低下して血栓が形成されやすい状態になることに対する治療としてカテーテルアブレーションを実施するのである。そして,本件では,カテーテルアブレーション実施前のTEEで血栓及び血栓を疑うべき所見は認められず,検査当時,左心耳内血栓形成のリスクは現実化していなかった。したがって,左心耳内の血流速度の低下を,血栓の存在の疑いを推認させる間接事実と評価することは不適切である。


本件CTの異常陰影について
控訴人は,本件CTの異常陰影を血栓と断定し,これが8月3日までに消滅するとは到底考え難いと主張するが,仮に本件CTの異常陰影が血栓であったとしても,8月3日までの抗凝固療法によって消失したといえるのであり,原判決の判断は適切である。
本件施術当時,実施時期に関する医学的知見として,除細動前3週間の抗凝固療法が挙げられており,これらは3週間の抗凝固療法を実施すれば,TEE検査で血栓の有無を確認することを必須としなくとも,カテーテル
アブレーションを実施することが可能であると考えられていたことを意味しており,仮に血栓があったとしても,3週間の抗凝固療法の実施で血栓が消失する可能性が高いことを前提としていることは明らかである。本件では,7月10日からワーファリンが投与され,8月3日の時点では投薬開始から3週間以上が経過していたから,途中7月22日の時点で血栓があったとしても,8月3日までに消えたことに何の疑問もない。

クローバー様の陰影について
クローバー様の陰影は,B医師の証言のとおり,
「12:08:50」
と「12:09:07」の画像内で形態が変化し,
「12:11:39」
の画像では見られなくなっており,B医師の証言の信用性を評価し,スラッジの性質に関する医学的知見に照らして,血栓を疑うべき所見に当たるとは認めなかった原判決の評価は適切である。


いぼ様の陰影について
(ア)

いぼ様陰影の動きについて
控訴人は,H医師の意見は「心臓全体の動きとは一致しない細かな
振動」があるというものだと主張するが,心房細動は,統率のない早い不規則な心房興奮のため心室充満に対する心房収縮の寄与が消失する病態であり,B医師が証言したとおり,心房が非常に細かく動き,心拍出に伴う心臓全体の動きとは一致しない動きが生じるということ
ない細かな振動が見られたとしても,何の不思議もなく,仮にそのような細かな振動が見られるとしても,血栓を疑う理由とはならない。(イ)

類似の構造物について

るが,超音波検査の特性から,超音波が構造物に当たる角度や構造物の位置によって,描出される構造物は変わるのであって,必ず併走す
であったにすぎない。
(ウ)

控訴人は,B医師が120度から140度の画像を残さなかったこ
とが不可解だと主張するが,本件TEE検査の時点では本件施術後の脳梗塞発症の具体的予見可能性はなかったのであるから,B医師が画像の記録を残す判断をするにあたり恣意的な判断をする必要は全くない。また,控訴人が脳梗塞を発症する前に,血栓事故に備えて施術の正当性を示す目的で画像記録を残すという発想を持つこともないから,B医師が120度から140度の画像を残さなかったことに何の不合理もない。

することはなく,いぼ様の陰影と整合しない等と主張する。

肉が続くという形態であることが多いが,その太さは均一ではない。そのため,エコーで見る断面によっては太い部分と細い部分が描出されて,エコー画面では中央が細く見えることがあり,先細りの糸状の構造で,対側と連続することもある。控訴人は,そのように見える具
は患者ごとに異なってくるのであるから,具体的な角度等を具体的に説明することは困難である。
(オ)

G医師の意見書について
G医師の意見書には,本件CTで認められた異常陰影と本件TEE
のいぼ様陰影が同じ場所にあることの具体的な説明はない。また,同意見書には,
「12:08:50」のクローバー様陰影,
「12:1
5:30」と「12:16:42」のいぼ様陰影が血栓と述べられて
いるが,これが同一の血栓なのか,全て本件CTで認められた異常陰影と部位が同一なのかは全く指摘されていない。
これに対しB医師は,TEE画像と心臓CTでは見え方が異なることを前提として,本件CTで異常陰影が認められた箇所は左心耳の入口付近であるが,本件TEEのいぼ様陰影が認められた場所は左心耳の中部付近であると述べており,これは医学的に合理性のある証言内容である。
G医師の意見書が引用する論文(乙B22)は,Dダイマー値が一定以上レベルの患者は,長期にわたる追跡調査を行うと,ワーファリンによる経口抗凝固療法の継続では心血管イベントを発生する率が高いことを報告するものであり,Dダイマー値が0.5μg/mlを上回っていた場合に,その計測当時に血栓が存在していることを示すものではない。Dダイマー値の測定は,活動性の血栓の除外診断に非常に有用とされており,B医師はこれを認識して8月3日にDダイマー値を測定したものであり,7月12日に高値であったDダイマー値が8月3日に正常値となっていたことは,8月3日に血栓の存在を否定する要素である。
(カ)

陰影の径について

筋を否定する理由にならない。

形状が重視されており,大きさによる鑑別の指摘はされていないし,
さ(径)が約10mmであることを挙げてはいない。

出されており(乙B23の1,2)
,控訴人につき,平成23年5月1

められ(乙A10)
することが裏付けられる。
また,仮に径約10mmのいぼ様の陰影が血栓であったとすると,動脈の血管径の関係から,中大脳動脈までは至らず,より低い動脈,例えば総頸動脈(健康な成年男子で径7~8mm)や内頸動脈(同径5~6mm)が塞栓するはずであるが,本件ではこれらの動脈は閉塞していない。また,仮に径約10mmのいぼ様陰影が血栓であったとして,これが壊れて動脈を詰まらせたのであれば,複数の箇所で動脈が塞栓するはずであるが,本件では塞栓箇所は右中大脳動脈の1箇所だけである。これらのことも上記のいぼ様陰影が血栓ではないことを示している。

控訴人に発症した脳梗塞の原因について
本件で右中大脳動脈の塞栓源となったのは,カテーテルアブレーション手技である心筋焼灼により形成された血栓である。心筋焼灼というカテーテルアブレーションの手技の性質上,赤血球の凝固や血栓のかすを形成することは不可避であることに加え,本件では線状焼灼のために焼灼する時間が長くなったことが,塞栓源となる血栓が形成された原因である。「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」(甲
B16・14頁表6,29,30頁)にも,焼灼時にカテーテル先端に血栓が生じ得ることを前提とした記載がされており,医学的知見として確立されている内容である。

また,カテーテルアブレーションの施術中はヘパリンを投与することが一般的であるが,それでも血栓が形成され得るから,合併症として挙げられているのである。
さらに,上記カ(カ)の塞栓の発生状況からも,術前から控訴人の左心耳内に存在した血栓が移動して脳梗塞を発生させたとの因果関係に関する控訴人の主張は否定される。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求は,7901万0771円及びこれに対する平成22年8月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断するが,その理由は,以下のとおりである。
2
認定事実
次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決13頁25行目の「を覚えるようになった」を「が増してきた」
に改める。
(2)

同14頁17行目の「2.5」を「0.25」に,同19行目の「であ
った。
」を「であり,いずれも高値であった。
」に,それぞれ改める。
(3)

同頁20行目から15頁8行目までを以下のとおり改める。

「エ

控訴人は,7月22日,被控訴人病院を受診し,血液検査を受けた。
同日のPT-INR値は2.46であり,抗凝固療法で推奨される範囲の数値であった。
B医師は,同日,控訴人に対し,心房細動に対する治療方法には,抗不整脈薬を服用する薬物療法とカテーテルアブレーションの2つの方法があること,薬物療法では入院は必要ないが,心房細動を根治できないため薬を飲み続ける必要があるほか,副作用があること,カテーテルアブレーションでは入院が必要になるが,根治療法の1つになり得ること等を説明
した。そして,控訴人に,
「不整脈に対するカテーテル治療(心筋焼灼
術)を受けられる方へ」と題する書面(甲A3,乙A1の1・122,123頁)を渡し,同書面を示しながら,カテーテルアブレーションの具体的な方法,出血,心タンポナーデ,血管損傷,血栓塞栓症などの発生リスクがあること,発生率は全国統計で0.7%であること等を説明した。なお,B医師は,平成26年10月8日付けの陳述書(乙A6)を作成した時点において,術者として約1200例のカテーテルアブレーションを実施した経験を有していた。そして,控訴人は,B医師の説明を聞いた上で,カテーテルアブレーションを受けることを希望した。
そこで,B医師は,カテーテルアブレーションの実施に向け,控訴人の心臓の形状を把握する目的で,控訴人の心臓造影CT検査(本件CT)の実施を指示した。本件CTの画像には,控訴人の左心耳内に10数mmの球状の陰影欠損が認められたが(乙A1の1・201頁,乙A2),B医
師は,その日は本件CTの画像を確認しなかった。

(4)

同15頁の13行目の「同日朝まで」を「前日の夜か当日の朝」に,同
18行目の「残した。
」を「記録した。B医師は,本件TEEにより左心耳
内にもやもやエコー及び肉柱構造を認めたが,左房内に血栓はなかった旨をカルテに記載した(乙A1の1・18頁)」に,同20行目及び21行目。
の「TEE」を「本件TEE」に,それぞれ改める。
(5)

同16頁1行目末尾の後に「なお,本件施術にはノンイリゲーションカ
テーテル(先端から生理食塩水の流出がないもの)が使用されたが,術中に血栓が形成されることを防止するため,カテーテル挿入後からヘパリンが投与され,活性化凝固時間(ACT)はほぼ300秒以上に維持されていた(乙A6・14頁)」を加える。

(6)

同17頁12行目末尾の後に,行を改めて以下を加える。

合に強く疑う。血栓は,左心耳内腔に塊状エコーとして認める場合と,左
正常構造物との鑑別が困難な場合には,もやもやエコー,左心耳血流速度,あるいは血液検査(PT-INRあるいはDダイマー)を参考にすることもある。どうしても判断に悩む場合はいったんアブレーションを延期し,抗凝固療法を強化し6~8週間後に再評価を行う。一般的に左房血栓症例に対し抗凝固療法を開始すると6~8週間で約80%の症例で血栓が溶解するとされている。

(7)

同19頁7行目の後に,行を改めて以下を加える。

「(ア)

左心房や左心耳内の血栓の評価
左心耳の描出は中部食道二腔像が容易なことが多い。左右にプローブを
回転させて左心耳をスキャンすれば,血栓の大まかなスクリーニングは可
やもやエコーや左心耳血流速度などを参考にする。

(8)

同8行目の冒頭に「(イ)」を加える。

(9)

同21頁7行目の「画面」を「画像」に,同17行目の「である。」を

「であり,比較的大きめであると思う。
」に,それぞれ改める。
(10)

同22頁13行目末尾の後に,行を改めて以下を加える。

「(5)

各医師の意見書の概要
M大学大学院医学系研究科循環器内科学教授F医師(甲B4の1)本件TEEの画像のうち,
「12:11:39」のいぼ様の陰影につ
いては不明,
「12:15:30」及び「12:16:42」のいぼ様
の陰影,並びに「12:08:50」のクローバー様の陰影については血栓を考える。左心耳内に血栓の存在が疑われ,一部は器質化しているが,クローバー様の陰影はひらひらと動いており,比較的最近できた血栓であると思われる。この状況でカテーテルアブレーションを行うこと
は脳梗塞を起こす可能性があるので,当科では実施しない。ワーファリン治療により,少なくとも血栓が消失するまでは延期する。

N医科大学O病院非常勤講師I医師(甲B19の1)
本件CTの画像では,左心耳内に境界明瞭な造影されない陰影欠損を認め,血栓と思われる塊の存在が確認される。
本件TEEにおいては,一部は肉柱とみられる影像もあるが,左心耳内の有茎の血栓と考えられる所見があり,血栓を疑う所見と考える。本件CTで確認された血栓を本件TEEで疑いの余地なく明らかに血栓がないと評価できない理由は,記録されたものを見る限り左心耳内を入念にくまなく観察されている検査とは評価できないからである。十分な観察をした検査が施行されているのであれば,本件CTで疑われた所見を明確に否定する記録をすべきである。なぜならば,重大な合併症である血栓塞栓症を起こし得る危険があり,本件施術の適応となるかどうかを決める重要な所見であるからである。
いずれにせよ,本件TEEにおいても,左心耳内に血栓が存在する,又は左心耳内に血栓の存在が強く疑われると判断される。


国立Pセンター心臓血管内科(不整脈担当)部長G医師(甲B22)血栓の存在確認には,通常,Dダイマー測定,心臓CT,TEEの3つを用い総合的に判断される。Dダイマー測定では,部位の診断はできないが,>0.5μg/mlの場合は体内のどこかに血栓の存在を疑う。本件の症例を検査結果から判断するとDダイマー上昇を認め血栓の存在が疑われること,本件CTでは左心耳に血栓がないとはいえないこと,本件TEEでは血栓あるいは血栓様のものを認めることから総合的に判断して左心耳内に血栓は存在したと考えるのが妥当である。本件CTの画像は,造影欠損を認め形状から血栓の存在が疑われ,本件TEEでは,その部位に一致して血栓あるいは血栓様構造物を認
める。ワーファリン投与から期間が短く,Dダイマー上昇を認めることから,完全に溶解していない血栓と判断することが妥当である。本件TEEの画像のうち,
「12:08:50」のクローバー様の陰
影は血栓,
「12:09:07」の陰影はスラッジもしくは一部血栓,
「12:15:30」のいぼ様陰影は血栓,
「12:16:42」のい
ぼ様陰影を血栓又は血栓の疑いとそれぞれ診断する。

国立Pセンター放射線部CT室医長Q医師(甲B23)
本件CTの画像は,心電図同期で撮影されたものと判断され,左房,肺静脈が良好に造影されており,適切なタイミングで撮影されている。本件CTの所見として,左房内に十数mmの球状の低濃度域を認めるが,正常例ではこのような球状低濃度域が認められることはなく,左房内血栓を強く疑う。


国立Pセンター心臓血管内科H医師(甲B24)
本件TEEの画像のうち,
「12:08:50」では左心耳内に不定
型な異常エコーが観察され,スラッジのように見える。
「12:09:
07」では左心耳内に同様にスラッジ様のエコーが観察される。
「1
2:11:39」では左心耳内に複数の異常エコー像が観察される。12時13分に記録されたドプラ法による左心耳内の血流速度の計測値をみると,ピーク速度は19.2cm/sと15.4cm/sであった。左心耳血流速度のピーク速度が20cm/sを下回ると左心耳に血栓が形成されやすくなるといわれていることから,本件は,心エコー図的には,血栓形成のリスクが高かったと考える。
「12:15:30」の画像には,左心耳の(向かって)右壁に付着するいぼ様の異常エコーが4分前と形態を変えずに記録されており,さらに,
「12:16:42」の画像では,いぼ様の異常エコーが左心
耳の奥にある別の異常エコーと糸状の構造で連続している様子が記録
うに比較的一定の幅の構造物として観察されるが,急速に先細りにな
確認できるはずの併走する類似の構造物が確認できない。また,左心耳の右壁に付着するいぼ様異常エコーには,心臓全体の動きとは一致しない細かな振動があり,付着した壁とは異なる性質のものであると判読でき,いぼ様異常エコーの境界が明瞭で4分以上その形態が変化しないことからすれば,上記いぼ様異常エコーはスラッジではないと思われ,12時16分の時点での左心耳内血栓の存在を否定できない。カ
R大学S病院に勤務する循環器専門医(甲B30)
本件では,心不全に対する治療として利尿剤(ルプラック)を用いているが,一般に利尿薬を用いると,血液は濃くなる傾向になるので,血栓がさらに生じやすくなる。利尿剤を用い,心臓CTでは血栓の存在が疑われながら,ワーファリンによる凝固能(PT-INR)コントロールが7月22日に良かった(2.46)との条件のみで,12日後にアブレーションの予定を入れるという行為はいささか慎重さに欠けると思われる。


T病院循環器内科医長J医師(乙B18)
本件CTは心電図同期ではないので画像にぶれが生じ,遅延像が撮られていないので血栓の有無判断に用いることは不適当である。その点を差し置いて画像のみを吟味すると,左心耳基部付近には周囲が造影されている割に球状に造影欠損があり,血栓の疑いがある。
本件TEEの画像では,かなり高度のもやもやエコー(血液のよどみ)と一部に血栓とも疑えるような像を認めるが,血栓とスラッジとの鑑別は容易ではなく,時間をかけて観察し,その観察の結果,スラッジと確認できれば,本件施術を実施することに差し支えはない。本
件TEEの画像は,各々1秒程度の短いもので,画像のみで血栓の有無を判断すると,専門医であっても血栓の有無などについて意見が分かれると思う。しかし,担当医は少なくとも10分以上にわたって左心耳内を観察してスラッジはあるものの血栓はないと判断したものであり,これはリアルタイムの記録を十分に見なければ判断できないものである。よって,担当医の判断を尊重したい。
その他,本件では,Dダイマーが何度か測定されており,術前は0.7μg/mlと記録されている。世界的な学術誌に掲載された論文(European

Heart

Journal(2007)28,22

17-2222)でDダイマー値が1.15μg/ml未満であればTEEで見る限り左心耳血栓がない確率は97%と報告されている。
担当医はこのようなDダイマー値に関する知見も併せて血栓の有無を総合的に判断しており,血栓の有無の判定において軽率な判断はなかったと考える。

3
争点(1)(B医師の過失の有無)について
(1)

カテーテルアブレーションを実施する医師の注意義務について
前提事実記載のとおり,左房ないし左心耳内に血栓が存在する場合のみな
らず,その存在が疑われる場合であっても,カテーテルアブレーションを実施することは禁忌とされているから(原判決5頁10から11行目),血栓
の存在を疑うべき所見が認められる場合に,これを看過してカテーテルアブレーションを実施した結果,患者に脳梗塞等の重篤な後遺症が残った場合には,担当医師は,血栓の存在を疑わせる所見がないことを確認する注意義務を尽くさなかったことによる過失責任を免れないと解すべきである。(2)

本件CTの画像について
証拠(甲B23,乙A2)によれば,7月22日に撮影された本件CTの
画像には,控訴人の左心耳内に10数mmの球状の陰影欠損が存在することが
認められ,控訴人から提出された各医師の意見書(甲B19の1,甲B22,23)によれば血栓の存在を強く疑うとされ,被控訴人から提出されたJ医師の意見書(乙B18)においても,上記陰影欠損について血栓を疑う旨が記載されていることに照らせば,少なくとも7月22日時点で,控訴人の左心耳内に相当な大きさを有する血栓が存在したことが強く疑われるというべきである。

く造影剤が行き渡らない等のいずれの理由によるものかを判断できるほど明瞭な画像ではないと主張するが,証拠(甲B14の1ないし,甲B23,乙A2)によれば,本件CTの画像は最新の320列の機種により心電図同期で撮影されたことが認められ,陰影欠損の境界が明瞭であり,造影剤のムラ
と,控訴人が心不全を合併した持続性心房細動であり,血栓が生じやすい状態にあったことも併せ考えると,本件CTの画像上の陰影から血栓の存在が強く疑われたというべきである。
そして,本件施術が特に緊急を要するものではなく,仮に血栓が存在した場合に重篤な合併症を引き起こすおそれがあったこと,本件CTの実施日から本件施術の実施日までの期間が12日間であったことに照らせば,本件CTにより血栓を強く疑わせる陰影が認められた以上,B医師は,本件TEEに際し,控訴人の左心耳内をより慎重に検査して,血栓を疑わせる所見がないことを十分に確認する義務を負っていたというべきである。
(3)

本件TEEの画像について
そこで,本件TEEの画像から左心耳内に血栓の存在を疑うべき所見はな
いといえるかについて検討するに,証拠(乙A3)及び弁論の全趣旨(被控訴人の平成25年4月17日付け準備書面(2)添付資料3等)によれば,「12:08:50」の画像には,左心耳内の入口付近にクローバー様の異
常陰影が存在すること,
「12:11:39」「12:15:30」及び

「12:16:42」の各画像には,左心耳内にいぼ様の異常陰影が存在することが,それぞれ認められる。

クローバー様の陰影について
被控訴人は,本件TEEの画像上に現れたクローバー様の陰影について,ダイナミックに形状が変化し,後の画像で消滅していることから,スラッジであると主張し,B医師が同旨の供述をする。
確かに,
「12:08:50」の画像上に現れたクローバー様の陰影は,
同画像中で形状が変化しているようにも見え,また,
「12:11:3
9」の画像上には描出されていないことが認められる。
しかしながら,他方で,
「12:08:50」の画像上,クローバー様
の陰影の境界はかなり明瞭であり,形状が変化しているのではなく,ひらひらと動いているようにも見えること,
「12:11:39」までのわず
か3分間足らずの間に,明瞭に描出されたスラッジが完全に消滅することは考え難く,単に撮影断面の違いから描出されなかった可能性も否定し難いこと,専門医であるF医師(甲B4の1)及びG医師(甲B22)が,上記各画像を見た上で,血栓を考える旨の診断をしていることに照らすと,本件TEEの画像のみから,クローバー様の陰影がスラッジであると断定することはできない。


いぼ様の陰影について

あると主張し,B医師が同旨の供述をする。

存在するところ(乙B14・93頁等)
筋と判断した根拠として述べるのは,いぼのように見えたものが対側に向かって連続してつながっている様子があったという点であるが,B医師自
しており,本件TEEの画像のように先細りになって対側と連続するように写ることは多くないことを供述しており(証人B52,59頁),いぼ

を有するとの記述があるのに対し,本件TEEの画像(乙A3)によれば,いぼ様の陰影の径が1cm程度あることが認められるところ,B医師は,本件TEEの画像の目盛りを読み違え,上記陰影の径が5mm程度であること)


認めている。
他方で,専門医であるF医師,G医師及びH医師が,本件TEEの画像を確認した上で,いぼ様の陰影についていずれも血栓又は血栓を疑う旨
茎で付着する場合もあるとされていること(乙B3・424頁図6,乙B11・198,199頁図13等)に照らすと,いぼのように見えたものが対側に向かって連続してつながっている様子があったことから,直ちにいぼ様の陰影が血栓である可能性を否定することはできない。

ると断定することはできない。
これに対し,被控訴人は,控訴人の本件施術後の心臓CT画像(乙A10)
,B医師が検査した他の患者のTEE画像(乙B23の1,2)を
筋が存在する旨主張するが,U病院副院長循環器内科L医師は,被控訴人
後である旨の判断を示しており(甲B34,35の1ないし4,甲B36の1ないし3)
,控訴人のCT画像(乙A10)の陰影と本件TEEの画
像のいぼ様の陰影との対応関係も明らかではないことに照らすと,これら
ことはできない。

本件TEEの画像の異常陰影が血栓であると疑わせる事情
左心耳内の血流速度のピーク速度が20cm/sを下回ると,左心耳内に血栓が形成されやすくなるとされているところ(甲B24)
,本件TEE
時の左心耳内の血流速度は,12時13分記録のドプラ法による計測値からピーク速度が19.2cm/sと15.4cm/sで,いずれも20cm/sを下回っていたことが認められる。そして,上記認定した医学的文献(乙
に難しいことがあり,もやもやエコーや左心耳血流速度などを参考にするとされているところ,B医師は,本件TEE時にもやもやエコーが見られたことを認めている(証人B16,19頁)


これらの事情に照らすと,本件TEEの画像上に認められるクローバー
せる所見でないと判断することはできないというべきである。
(4)

被控訴人の主張について
被控訴人は,本件TEEで記録化された画像は,検査での観察時間の一部に過ぎず,実際の検査とは情報量が全く異なるから,記録化された画像のみから血栓の有無を判断することには限界がある,B医師は,左心耳内を慎重に観察した上で,各陰影が血栓ではないことを確認している旨主張し,B医師が同旨の供述をする。
しかしながら,B医師は,クローバー様の陰影について,同じ角度で観察を続けるうちに消滅したことからスラッジと判断した旨供述するもの
の(証人B16頁)
,消滅直後の画像は記録されていない。また,いぼ様

の角度も観察し,特に問題はなかったと供述するものの(同24頁),同

えるような画像も記録されていない。
上記のとおり,B医師は,本件CTの画像に血栓であることが強く疑われる陰影が存在したことから,本件TEEに際して,左心耳内に血栓が存在しないことを慎重に確認する義務を負っていたところ,本件TEEで観察された異常陰影が血栓でないことを明らかにするような画像は記録されておらず,記録された画像のほとんどが90度付近から観察されたものであること,上記のとおり,B医師が,本件TEEの画像の目盛りを読み違え,いぼ様の陰影の大きさを誤認していたことを併せ考えると,各異常陰影が血栓でないことを十分に確認した旨のB医師の供述をそのまま採用することはできない。

被控訴人は,本件施術当日の控訴人のDダイマー値が正常値である0.7μg/mlであったことから,控訴人の左心耳内に血栓を疑わせる所見があったとはいえない旨主張する。
確かに証拠(乙B19)によれば,Dダイマー値が1.15μg/ml未満の場合,TEEによって左心耳内に血栓が検出されない確率が97%であった旨の研究結果があることが認められる。しかしながら,他方で,Dダイマーが陰性であっても,血栓を認める症例が散見されたとの報告がされていること(甲B5)
,亜急性の血栓症例(1週間以上前)や最近抗凝
固療法を行った例では偽陰性となるので,Dダイマーの検査結果のみから血栓の有無を判断すべきではないとの指摘があること(甲B6・30頁),
G医師が,血栓の存在確認には,通常,Dダイマー測定,心臓CT,TEEの3つを用い総合的に判断されると述べていること(甲B22),B医

師も,Dダイマー値は補助的な情報であると述べていること(乙A6・12頁)も併せ考えると,控訴人のDダイマー値が0.7μg/mlであったことをもって,直ちに本件TEEの画像上の異常陰影が血栓でないと判断することはできない。
なお,被控訴人は,急性期の脳梗塞の引き金となるのは新鮮血栓であり,器質化血栓によって急性の脳梗塞を発症することはない旨の主張をするが,器質化した血栓により脳梗塞を発症したケースを紹介する医学文献(甲B8)が提出されているのに対し,TEEにおいて器質化血栓を新鮮血栓と区別してカテーテルアブレーションの禁忌の対象から除外する医学的知見の存在を裏付ける証拠は提出されていないから,被控訴人の上記主張は,たやすく採用できない。

被控訴人は,本件施術直後に発症した控訴人の脳梗塞の原因について,本件施術中にカテーテルの先端に生じた血栓によるものである旨主張する。しかしながら,カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン(甲B16)によれば,血栓塞栓症のリスクを軽減するため,アブレーション中のヘパリン投与は必須であり,活性化凝固時間(ACT)値を300秒以上に維持することにより,左房内血栓形成を減少させることが可能とされているところ(同38頁)
,本件施術中もヘパリンが適切
に投与され,ACT値がほぼ300秒以上に保たれていたこと(乙A6・14頁)
,心房細動に対するアブレーション手技の合併症発生率は全体で
平均5.2%であり,うち脳梗塞の出現頻度は平均0.27%とされており(甲B16・39頁表10)
,そこには左房内既存血栓によるもの,術
中管理が適切でなかったものも含まれることが認められるから,適切にACT値が管理されていた本件施術において脳梗塞の合併症が生じた可能性は極めて低いと考えられる。
この点のほか,本件施術直後に控訴人が発症した脳梗塞は,右中大脳
動脈を完全に塞栓するもので,相当程度の大きさと粘度のある血栓によるものと認められること,上記のとおり,F医師を始めとする複数の医師が,本件TEEの画像上の異常陰影が血栓であることが疑われるとの所見を述べていることを併せ考慮すれば,控訴人が脳梗塞を発症した機序については,本件施術中にカテーテル先端に生じた血栓によって脳梗塞が発症したと推認するよりも,控訴人の左心耳内に存在した既存血栓が本件施術により移動して発症したと推認する方が合理性が高いと考えられる。

これに対し,被控訴人は,仮に径約10mmのいぼ様の陰影が血栓であったとすると,動脈の血管径の関係から,中大脳動脈までは至らず,より低い動脈,例えば総頸動脈や内頸動脈が塞栓するはずであるが,本件ではこれらの動脈は閉塞していないこと,また,仮に径約10mmのいぼ様陰影が血栓であったとして,これが壊れて動脈を詰まらせたのであれば,複数の箇所で動脈が塞栓するはずであるが,本件では塞栓箇所は右中大脳動脈の1箇所だけであることを指摘して,これらの事実は,径約10mmのいぼ様陰影が血栓でないことを示していると主張する。
しかし,本件施術前から一定期間ワーファリンが投与され,本件施術の開始直前からはヘパリンの大量投与による術中管理が行われていたことの影響で血栓の大きさや形状が変化した可能性もあること,総頸動脈や内頸動脈等の血管壁の弾力性,柔軟性には個人差があると考えられること,上記のとおり,複数の医師が本件TEEの画像上の異常陰影が血栓であることが疑われるとの所見を述べていること等を考慮すれば,被控訴人の上記主張は,たやすく採用することができない。

(5)

以上によれば,本件TEEの画像から認められるクローバー様の陰影及
びいぼ様の陰影は,血栓を疑わせる所見であったと認められるから,B医師には,本件施術を実施するに当たり,血栓を疑わせる所見がないことを確認する注意義務を尽くさなかった過失があったと認められる。

4
争点(4)(因果関係の有無)について
以上検討したところによれば,本件施術直後に控訴人に確認された右中大脳動脈の完全閉塞は,控訴人の左心耳内に存在した既存血栓が本件施術により移動して生じたと推認されるから,B医師の上記過失と控訴人が脳梗塞を発症したこととの間には相当因果関係の存在が認められる。

5
争点(5)(損害の有無及びその額)について
そこで,控訴人が脳梗塞を発症したことによる損害額について検討する。(1)

治療費について

199万1446円

証拠(甲C7の1~8,甲C8の1~3)によれば,控訴人は脳梗塞発症後の治療費として,被控訴人病院に対し合計158万1967円を,C病院に対し合計40万9479円を支払ったことが認められ,その全額を損害と認める。
(2)

紙おむつ代について

3万0030円

証拠(甲C9の1,2)によれば,控訴人は紙おむつ代として合計3万0030円を支払ったことが認められ,その全額を損害と認める。
(3)

入院慰謝料について

300万円

証拠(甲A5,甲C7の1~8,甲C8の1~3,乙A1の1,2)によれば,控訴人は,当初,8月5日までの予定で被控訴人病院に入院したが,本件施術後に脳梗塞を発症したことにより,平成23年5月13日まで被控訴人病院に入院した後,同月16日からC病院に入院し,同年7月1日に症状固定の診断を受けるまで約10箇月余りにわたって入院治療を受けたことが認められ,その間の慰謝料として300万円を認めるのが相当である。(4)

逸失利益について

1960万7040円

証拠(甲A5,6の1,2,甲C1~3)によれば,控訴人は,本件施術当時,公衆浴場を経営する有限会社の代表取締役として,年額720万円の給与を受け取っていたところ,本件施術により脳梗塞を発症し,入院治療を
受けたものの,左上下肢の機能全廃及び高次脳機能障害の後遺障害が残り,労働能力を完全に喪失したことが認められる。
控訴人は,自営業であり,長寿の家系であることから,症状固定日(64歳)から少なくとも10年間は就労可能であったと主張するが,控訴人の主張する事情をもって直ちに74歳まで稼働していた蓋然性が高いと認めることはできない。
よって,67歳までの3年間に限って逸失利益を認めることが相当であり,以下の計算式のとおり1960万7040円を損害と認める。
720万円×2.7232(3年間のライプニッツ係数)=1960万7040円
(5)

後遺障害慰謝料について

2400万円

控訴人には,上記のとおり,左上下肢機能全廃及び高次脳機能障害の障害が残存していることが認められ,その後遺障害の程度,内容に照らすと,後遺障害慰謝料として2400万円を認めるのが相当である。
(6)

介護費について

2165万7229円

上記認定した控訴人の後遺障害の程度,内容に照らすと,症状固定後から将来にわたって,控訴人について介護が必要であると認められるところ,証拠(甲C12の1~13,甲C13の1~6,甲C14の1,2,甲C15の1~6,甲C16,17の1~6,甲C18の1~3)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,平成23年7月25日にC病院を退院した後,平成24年11月12日から平成28年1月25日までの間,老人保健施設「D」に入所していたが,その後は,同施設のショートステイ,社会医療法人Eが運営するデイサービス,訪問介護員による介護を受けており,これらの利用料金として平成24年11月12日から平成28年6月末までの間に,以下のとおり,合計683万5319円を要したことが認められる。

(ア)


平成27年1月分から12月分までの合計182万3518円(甲
C12の1~12)
月額平均

15万1959円

15万1959円×37箇月+11万8824円(平成28年1月分(甲C12の13)
)=574万1307円
(イ)

Dショートステイ
合計33万4712円(甲C13の1ないし6)

(ウ)

Vデイサービス
合計59万0867円(甲C14の1,2,甲C15の1~6)

(エ)

居宅介護サービス利用料
合計16万8433円(甲C16)

(オ)

上記(ア)~(エ)の合計額

683万5319円

上記現在の介護の状況を踏まえて今後の介護に要する料金を計算すると,以下のとおり合計1482万1910円となる。
(ア)

ショートステイ利用料
平成28年2月分から6月分までの月額平均値は6万4979円

(甲C13の2~6)であり,年額にすると77万9748円となる。(イ)

デイサービス利用料
平成28年2月分から6月分までの月額平均値は2万5332円

(甲C15の2~6)であり,年額にすると30万3984円となる。(ウ)

居宅介護サービス利用料
平成28年1月から6月までの合計額は6万0520円であり(甲
C16,17の1~6)であり,年額にすると12万1039円となる。
(エ)

障害福祉サービス利用料

月額1万8600円と認められ(甲C16,18の1~3)
,年額に
すると22万3200円となる。
(オ)

上記(ア)~(エ)の合計額

142万7971円

(カ)

142万7971円×10.3797(控訴人の平均余命15年に
対応するライプニッツ係数)=1482万1910円

よって,控訴人の介護費用として,上記ア及びイの合計額2165万7229円を損害と認める。

(7)

自宅改造費について

172万5026円

証拠(甲C5の1,2,甲C11)によれば,控訴人の介護等の必要から,同人の妻が働く公衆浴場の隣にあるマンション及び倉庫をバリアフリー仕様に改造する必要が生じ,その工事費用として172万5026円を現実に支出したことが認められ,控訴人の損害と認める。
控訴人は,今後,在宅介護のため,エレベーターを設置するなどの改造工事を行う必要があるとして,総額1947万3000円の見積書(甲C6)を提出するが,添付された自宅図面等に照らし,エレベーターの設置工事等が不可欠とまで認め難く,上記のとおり,すでに在宅介護が始まっているにもかかわらず,現在まで上記改造工事を実施した旨の主張はされていないことに照らすと,上記施工済みの工事代金172万5026円の限度で本件施術と相当因果関係のある控訴人の損害と認める。
(8)

弁護士費用

700万円

上記(1)ないし(7)の合計額7201万0771円の約1割に相当する700万円の限度で,本件と相当因果関係のある弁護士費用として,控訴人の損害と認める。
(9)
第4

合計

7901万0771円

結論
以上のとおり,控訴人の請求は7901万0771円及びこれに対する不法
行為日である平成22年8月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は失当であって,本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。なお,本件事案に照らして,仮執行免脱宣言を付すことは相当でないから,これを付さない。
名古屋高等裁判所民事第2部

裁判長裁判官

孝橋
裁判官

近田
裁判官

剱持宏正晴亮
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