判例検索β > 平成28合年(わ)第23号
傷害致死被告事件
事件番号平成28合(わ)23
事件名傷害致死被告事件
裁判年月日平成29年9月13日
法廷名東京地方裁判所
結果その他
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平成29年9月13日宣告
平成2


傷害致死被告事件
主文
被告人を懲役8年に処する
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成28年1月25日午後9時30分頃から同日午後10時頃までの間,東京都大田区ab丁目c番d号e号室A方において,B(当時3歳)に対し,その身体を放り投げて同人の頭部を同所に置かれた収納ケースに衝突させ,その顔面を平手で数回殴り,その身体を持ち上げて布団上に数回叩き付け,その頭部をかかとで1回蹴り,その両こめかみを片手で強くつかむなどの暴行を加え,同人に頭部外傷による硬膜下血腫等の傷害を負わせ,よって,同月27日午前1時28分頃,同区fg丁目h番i号j病院において,同人を前記頭部外傷に基づく硬膜下血腫により死亡させた。
(争点に対する判断)
1
争点

弁護人は,判示事実記載の暴行のうち,B(以下,
「被害者」という。
)の頭部を
かかとで1回蹴った行為,及び同人の両こめかみを片手で強くつかんだ行為を被告人は行っていないと主張し,被告人も公判において,これに沿う供述をするので,以下補足して説明する。
2
本件に至る経緯

関係証拠によれば以下の事実が認められ,当事者間にも争いはない。被告人は,平成27年夏頃,被害者の母Aとソーシャルネットワークサービスを介して知り合った。被告人は,同年秋頃,約1週間,A方で過ごしたが,その後は平成28年1月初旬まで,Aと連絡を取っていなかった。被告人は,平成27年12月頃,当時同居していた母親とけんかをし,家出をして,居場所がなくなったため,平成28年1月初旬,Aに連絡を取った。被告人は,最初は3日間泊めてもらうという約束で,同月8日からA方で寝泊まりするようになったが,3日経った後もA方から出て行かなかった。被告人は,A方で過ごす間,掃除や調理などの家事を行い,被害者とも遊ぶなどしていたが,食事の仕方について被害者に注意する際,被害者の頬を平手打ちすることがあった。そして,同月25日午後9時30分頃,A方で3人で食事をとっていた際に,本件が発生した。
3
Aの公判供述
Aは,公判において,被告人が被害者に加えた暴行について,要旨次のとお
り供述している。
食事中,子供用の椅子に座っていた被害者が私の方に倒れてきた。見ると,被告人が片足を引っ込めていたので,被告人が被害者を蹴ったのだと思った。次に,被告人は,被害者の胸ぐらを片手でつかんでボーリングの球を投げるようにしてその身体を投げた。被害者は,布団に着地した後,ガラスの収納ケースに頭をぶつけたが,強くぶつけたわけではない。その後,被告人は,被害者の服の背中の部分をつかんで,被告人の太ももの高さぐらいまで持ち上げ,被害者の身体を3回ほど布団に叩き付けた。被告人は,被害者の身体を軽く蹴ったり,足で踏み付けたりもした。さらに,被告人は,台所から包丁を取り出し,私と被害者に示してきたので,私は包丁を戻すよう被告人に言った。被告人は,包丁を元の場所に戻した後,キャスター付きの椅子に座り,被害者をその向かいの子供用の椅子に座らせた。そして,被告人は被害者の両肩に両足を乗せたところ,被害者は嫌がり,両手で被告人の足を押して払いのけようとした。被告人は,足を被害者の肩から下ろしたが,突然,片足を被害者の頭部より高い位置に上げて下ろし,その足が被害者の頭の上に当たり,その勢いで被害者は椅子から落ちた。その後,被告人は私と被害者を布団の上に座らせ,被害者を罵っていたが,被害者がテレビの方をちらちら見始めたため,「こ
こを強くつかむと人間は死ぬんだ。
」と言いながら,被害者のこめかみを片手でつ
かんでその身体を1分ほど持ち上げていた。この時,被害者は泣きながら痛いと訴えていた。その後,被告人は被害者のおでこを押して後ろに倒し,ボールを蹴るように二,三回蹴り転がした。すると,被害者がけいれんし始めたので,被告人は暴行をやめた。被告人は被害者に往復ビンタをしたこともあったが,覚えているのは1回だけである。
上記のとおり,Aは,被告人が行った暴行について,具体的かつ詳細に述べており,被告人に不利益な事実を過大に述べている様子も認められない。その供述内容は,被害者の身体各部に多数の皮下出血が認められたこととも符合する。特に,被告人が行っていないと主張する暴行に関する供述は,経験をしていない者が想像により語ることができるような内容のものではない。被害者を司法解剖したC医師の証言等によれば,被害者の左右の耳の周辺にはいずれも紫色変色部が複数あり,かつ,左右両方の側頭筋に出血が複数あったこと,側頭筋の出血は相当強い外力が働いたことによるものであることが認められる。上記傷害の部位は,被害者のこめかみ辺りの部分であり,被告人が被害者のこめかみをつかんだという,Aの供述の信用性を裏付けている。
以上によれば,Aの公判供述は信用でき,同公判供述によれば,被告人が被害者に対し,判示のとおりの暴行を加えた事実が認定できる。
4
弁護人の主張について
これに対し,弁護人は,①被告人がかかと落としをしたというAの供述は,
被害者の頭部にその痕跡が認められないことや頚部に損傷が認められないことと整合しない,②被告人が,身長約93センチメートル,体重約13キログラムの被害者を,こめかみをつかんで約1分間持ち上げることは不可能である,③Aは,捜査段階の当初,特徴的な①②の暴行について述べていなかった,などと指摘して,Aの公判供述は信用できないと主張する。
①については,確かに,Aは,その供述中で,
「かかと落とし」という表現
を用いてはいるものの,その前後の供述内容に照らせば,空手技としての強力な「かかと落とし」の趣旨として述べているとは認められない。
②については,被告人の体格(当時,身長約192センチメートル,体重約130キログラム)や空手,格闘技の経験を考慮すれば,被害者のこめかみをつかんで持ち上げることは可能であったと認められる。
③については,本件は,被告人が被害者に対し種々の暴行を加えた事案であり,それを目撃したAが,被告人が行った暴行について,漏れなく順序立てて供述することは容易なことではないから,そのうちの一部について,当初は供述していないことが,Aの供述の信用性に疑問を生じさせるものではない。
したがって,弁護人の主張はいずれも採用できない。
(量刑の理由)
1
本件は,被告人が,幼い被害者に対し,約30分間にわたり,種々の暴行を
断続的に加えた結果,被害者に硬膜下血腫の傷害を負わせ,約1日後に死亡させたという,傷害致死の事案である。
2
被告人は,被害者とは大きな体格差があり,また,被告人には空手や格闘技
の経験もあった。そのような被告人が,無抵抗の幼い被害者に対して,一方的に,判示のとおりの種々の暴行を断続的に加えたのであり,被害者の身体各部に多数の皮下出血が生じていることや,死因となった硬膜下血腫の傷害が生じていることに照らしても,その暴行は相当に強度で,危険性の高いものであったと認められる。被害者が死亡するに至るまでに感じた苦痛も非常に大きかったと考えられる。わずか3歳にして,このような形で生涯を閉じることとなった被害者に思いを致すと,同情の念を禁じ得ない。
被告人は,本件犯行の動機について,被害者に食事の際の行儀・作法について繰り返ししつけをしていたのに,被害者ができないため,次第に腹が立ってきて,やりすぎてしまったなどと述べている。しかしながら,被告人は,A方に一時的に居候していたに過ぎないのであり,そもそも被害者にしつけをしなければならないような立場にはなかった。また,被告人自身が認めるとおり,途中からはしつけのための暴行ではなくなっていたのであり,犯行動機に酌むべき事情は認められない。被告人は,少年時代に傷害の非行歴を重ね,本件当時は保護観察処分を受けていたが,保護司との連絡を断ち,居所を転々とする中で,本件犯行に及んだという点も考慮すると,犯情は甚だ悪い。
以上によれば,本件は,幼児に対し暴行を加え,死亡させた事案の中では,重い部類に属する。
3
被告人については,公判に先立って,2名の鑑定人による情状鑑定が行われ,
①被告人の知能,資質,性格及びその形成過程,②本件犯行に至る心理経過及び本件犯行時の心理状況,①が②に与えた影響等について,専門的知見に基づく詳細な分析がされた。その結果,被告人の抱える問題点が相当程度明らかになり,被告人の知能は「特に低い」という分類に位置すること,被告人は基本的には暴力的な気質ではないが,我慢の限界を超えた場合には,自分で暴力を止められなくなってしまうこと,被告人がその生育歴の中で,食事の際の行儀・作法へのこだわりを持つに至っていたことなどが,説得的に指摘された。このような情状鑑定の結果は,裁判所が本件事案を理解するのに有用であり,被告人の自己理解にも資するものであった。
4
被告人が本件当時20歳であり,情状鑑定によって指摘された被告人の問題
点は,被告人の生来の資質や生育歴に由来する部分も大きく,本件犯行の動機の形成過程にも影響していると考えられ,その限度において,被告人のために一定程度考慮すべきである。また,情状鑑定を通じて,被告人が自己理解の機会を与えられたことや,被告人と母親との関係が改善のきざしを見せ,母親が陳述書において,社会復帰後の被告人を受け入れ監督する旨述べていることは,被告人の更生可能性を高めるものといえ,やはり,被告人のために一定程度考慮すべきである。しかしながら,上記2の事情に照らせば,これらの点は,被告人の刑事責任を大きく軽減するほどのものではない。
5
以上の点を総合考慮した結果,主文の刑が相当と判断した次第である。(求刑-懲役9年)
平成29年9月26日
東京地方裁判所刑事第13部

裁判長裁判官

家令和典
裁判官

佐藤卓生
裁判官

須藤晴菜
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