判例検索β > 平成25年(ワ)第658号
横田基地飛行差止等請求事件
事件番号平成25(ワ)658
事件名横田基地飛行差止等請求事件
裁判年月日平成29年10月11日
法廷名東京地方裁判所  立川支部
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平成25年(ワ)第658号横田基地飛行差止等請求事件(以下「第1事件」という。)
平成25年(ワ)第1757号横田基地飛行差止等請求事件(以下「第2事件」という。)
(略称)以下においては,特に必要がない限り,第1事件原告か第2事件原告かを問わずに単に「原告」といい,個別の原告については「原告番号1の原告」のように原告番号によって特定する。また,第1事件,第2事件被告を単に「被告」という。
主1文
原告番号883の原告の訴え及び同原告に係る

B1

及び

B2

の訴訟

承継の申立てを却下する。
2
その余の原告らの各訴えのうち,平成29年3月2日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分を却下する。

3
原告番号1,76,101,102,391,598,699,789,835及び881の各原告による横田飛行場における自衛隊の使用する航空機の
離発着及びエンジンの作動の差止めの訴えを却下する。
4
第3項の各原告による横田飛行場におけるアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の離発着及びエンジンの作動の差止めの請求を棄却する。

5
原告番号865の原告の第3項及び第4項と同旨の差止請求に係る訴訟は,平成25年6月27日の同原告の死亡により終了した。

6
被告は,次の各原告に対し,次の各金員を支払え。


別紙3-1認容額一覧表1の「氏名」欄記載の各原告(ただし,同欄に「
(被承継人)
」と併記された者を除く。
)に対し,対応する同表の「元金合
計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年
4月27日から,「H25.3.27~H25.4.26」欄から「H29.1.27~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員⑵

別紙3-3承継人認容額一覧表の「承継人」欄記載の各原告(訴訟承継人)に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年4月27日から,「H25.3.27~H25.4.26」欄から「H28.7.27~H28.8.26」欄ま
での各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員


別紙3-2認容額一覧表2の「氏名」欄記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年8月10日から,「H25.8.1~H25.8.31」欄か
ら「H29.2.1~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員7
第6項の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

8
原告番号25,323,713,801,816,817の原告らの請求をいずれも棄却する。

9
訴訟費用は,全事件を通じ,第1項記載の原告及び訴訟承継人について生じた費用は原告訴訟代理人らの負担とし,第8項記載の原告らについて生じた費用は各原告の負担とし,第3項ないし第5項記載の原告らについて生じた費用は4分し,その3を上記原告らの,その余を被告の負担とし,その余の原告らについて生じた費用は2分し,その1を同原告らの,その余を被告の負担とし,
被告について生じた費用は2分し,その1を第1項記載の原告を除くその余の原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
10

この判決は,第6項⑴ないし⑶に限り,被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が原告らに対し,別
紙3-1認容額一覧表1,同3-2認容額一覧表2及び同3-3承継人認容額一覧表の各原告に対する「担保額」欄記載の各金員の担保を提供するときは,担保を提供した原告との関係でその執行を免れることができる。事実及び理由
第1部
第1
1
請求及び事案の概要
請求(第1事件,第2事件を通じて)
被告は,原告番号1,76,101,102,391,598,699,7
89,835,865及び881の原告(以下,一括して「差止原告ら」という。)に対し,自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして,横田飛行場において,毎日午後7時から翌日午前7時までの間,航空機の離発着をしてはならず,かつ,一切の航空機のエンジンを作動させてはならない。
2
被告は,各原告に対し,それぞれ79万2000円及びこれに対する第1事件原告については平成25年4月27日から,第2事件原告については同年8月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告は,各原告に対し,第1事件原告については平成25年3月27日から,第2事件原告については同年8月1日から,第1項記載の各行為がなくなり,かつ,その余の時間帯において原告らの居住地に65デシベルを超える一切の
航空機騒音が到達しなくなるまでの間,それぞれ毎月末日限り,1か月当たり2万2000円及びこれに対する当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4
訴訟費用は被告の負担とする。

5
第2項につき仮執行宣言

第2
1
事案の概要
本件は,横田飛行場の周辺に居住し,又は居住していた住民である原告らが,横田飛行場を航行する航空機の発する騒音を中心とする侵害により身体的被害,睡眠妨害,日常生活妨害や精神的・情緒的被害等を受けているとして,米軍の
使用する施設及び区域として,アメリカ合衆国に対して横田飛行場を提供している被告に対し,次の⑵の請求をし,併せて,第1事件原告らのうち11名の差止原告らにおいて次の⑴の請求をする事案である。⑴

人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,毎日午後7時から翌日午前7時までの間の被告及びアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の航空機の離発着及びエンジンの作動の禁止を求める差止請求



日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法(以下「民事特別法」という。)2条,国家賠償法(以下「国賠法」という。)2条1項又は同法1条1項に基づき,第1事件原告らは平成22年3月27日から,第2事件原告らは同年8月1日からそれぞれ差止対象行為がなくなり65dBを超える航空機騒音が原告らに到達しなく
なるまで(以下,第1事件原告らにつき平成22年3月27日以降,第2事件原告らにつき同年8月1日以降を「本件請求対象期間」という。),原告1名につき1か月当たり慰謝料2万円と弁護士費用2000円の合計2万2000円の割合による損害賠償金及びうち提訴日までの分79万2000円に対する各事件訴状送達の日の翌日(第1事件については同年4月27日,
第2事件については同年8月10日)から,提訴日後の毎月2万2000円に対する当該月の翌月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
2
被告は,被告(自衛隊)の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)の差止請求及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害の賠償請求並びに一部の原告らの請求にかかる訴えは不適法であるとして却下を求め,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)の差止請求は主張自体失当として棄却を求め,口頭弁論終結日までの過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度内にとどまるし,フィリピン国籍の原
告1名については国賠法6条の相互保証の要件を欠くなどとして請求の棄却を求めるとともに,仮に損害賠償責任が生じるとしても,原告らの一部は横田飛行場における航空機騒音等による被害を容認して横田飛行場の周辺に転居してきたなどとして危険への接近の法理に基づく損害の免除又は減額を主張し,さらに,住宅防音工事への助成を受けた原告につき減額を主張するなどして争っている。
第2部

前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。

第1

横田飛行場の設置・管理の経緯等

1
横田飛行場の所在位置及び規模
横田飛行場は,平成25年3月31日現在,東京都の福生市,立川市,武蔵
村山市,昭島市,羽村市及び西多摩郡瑞穂町(以下「瑞穂町」という。)の5市1町にまたがる地域に所在する総面積約713万6000平方メートルの施設及び区域であり,長さ約3350メートルの滑走路(これに接続して南側約305メートル,北側約300メートルのオーバーラン部分が設けられている。)及び長さ約2000メートルの誘導路を有し,格納庫,整備工場等の附
属施設のほか,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍第374空輸航空団等の各庁舎及び住宅等の支援施設が設置され,後述のとおり平成24年3月以降,航空自衛隊航空総隊司令部と関連部隊の施設も置かれている。
2
横田飛行場の設置及び管理の経緯


終戦までの経緯
旧陸軍省は,昭和15年4月,当時の福生町,羽村町,瑞穂町,砂川町,村山町及び拝島町にまたがる山林及び農地約446万平方メートルを買収し,多摩飛行場(旧陸軍の立川飛行場の附属施設)として開設した。旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦に至るまで,多摩飛行場を我が国の東部防衛飛行基地として管理運用していた。



終戦後の経緯ア

旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦により解体され,同年9月,連合国軍を構成する米軍は,その進駐に伴い,多摩飛行場を接収した。

米軍は,多摩飛行場を整備し,昭和21年8月,名称を当時の村山町の一字地名を採って横田飛行場と変更して,新たに米軍の使用する飛行場として開設した。


被告は,昭和27年4月28日,「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号。以下「平和条約」という。)の発効に伴い,「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(以下「旧安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」(以下「行政協定」という。)2条1項に基づき,横田飛行場を,米軍の
使用する施設及び区域として,アメリカ合衆国に提供した。アメリカ合衆国に提供される施設及び区域の決定や返還の請求は,これ以降,日米両国代表者による合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)の協議を経て行われることとなった。

被告は,その後,アメリカ合衆国に対し,日米合同委員会の協議に従い,数度にわたって施設及び区域の追加提供をした。そのうち,滑走路の拡張,航空機運航の安全確保等に関する主なものは,次のとおりである。昭和30年10月4日,滑走路拡張用地として約40万8447平方メートル,ローカライザー(着陸機に滑走路中心線からの左右の逸脱を
知らせる装置)用地として約1万1127平方メートル,アウターマーカー(計器進入着陸装置の1つで滑走路末端からの距離を知らせるもの)用地として約231平方メートル,アウターマーカーへの出入道路として約699平方メートルの地役権,航空障害物制限区域として約7万6972平方メートルにわたる土地の地役権(ただし,空間に航空機
の路線権を認めるための用役制限を内容とするもの)の提供
昭和37年12月21日,南北の進入灯設置用地として約3万3900平方メートルの提供(このうち,道路敷に係る部分は東京都の所有地等であり,鉄道敷に係る部分は旧日本国有鉄道の所有地であったため,これらの部分については地役権の提供)
昭和45年5月28日,滑走路南東側面の無障害地帯として約1万0700平方メートルの使用許可

昭和47年2月3日,滑走路北側の無障害地帯として約6万2679平方メートル(国有地であるが,このうち約6万2607平方メートルの部分は航空障害物制限区域として提供されたもの)の提供及び上記の航空障害物制限区域として既に提供してあった部分につき,この制限区域を解除し,改めて航空機の着陸安全確保のための米軍専用区域とした
上で同部分約7万6972平方メートルの提供
昭和47年3月2日,ミドルマーカー(計器着陸装置)設置用地として約1万7160平方メートル(このうち約1万6747平方メートルはミドルマーカー保護のための障害物制限用地として提供されたもの)の提供


被告は,この間の昭和35年6月23日,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「安保条約」という。)の締結に伴い,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)を締結し,地位協定2条1項⒜,
⒝に基づき,引き続き,米軍の使用する施設及び区域として横田飛行場をアメリカ合衆国に提供し,以後今日に至るまで,米軍が飛行場としてこれを管理,使用している。
3
横田飛行場の基地機能の変遷


駐屯部隊及び使用状況等の変遷

横田飛行場は,朝鮮戦争,ベトナム戦争の当時は,米軍の爆撃機や戦闘機の離着陸に使用されていたが,昭和46年の第347戦術戦闘航空団等の沖縄等への移駐に伴う戦闘爆撃機の撤収により,戦闘基地としての機能を失った。これ以降,横田飛行場は,DC-8,ボーイング727,同747及びその他の米軍にチャーターされた民間航空機並びにC-141及びC-5Aギャラクシー等の軍用輸送機の極東空輸中継基地となり,昭和
50年9月,沖縄の嘉手納飛行場からC-130を配備した第345戦術空輸大隊が移駐した。

また,被告は,昭和48年から昭和53年にかけて,日米両政府間で協議されていた在日アメリカ合衆国空軍の関東平野地域における施設・区域の整理統合計画(関東平野地域統合計画・略称KPCP)に基づき,米軍
から府中空軍施設,立川飛行場,関東村住宅地区等の各施設の返還を受け,これらの各施設の代替施設が横田飛行場内に建設された。府中空軍施設に設置されていた在日米軍司令部及び第5空軍司令部も,昭和49年11月以降,横田飛行場内に移設された。
フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)のクラーク基地から,
昭和63年10月,第600空軍音楽隊が移駐し,平成元年7月から9月にかけて,第9航空医療飛行隊等4部隊が移駐し,同年12月には,第374戦術空輸航空団が移駐した。
第374戦術空輸航空団は,平成4年4月,空軍再編の一環として横田飛行場の維持管理を任務としていた第475航空基地団と合併され,第3
74空輸航空団として再編成された。

横田飛行場に配備されていたC-130の一部は,平成10年3月末までに,アメリカ合衆国本土のエルメンドルフ空軍基地に移駐した。

航空医療輸送機として使用されていたC-9A4機は,平成15年9月末,第347航空医療輸送中隊の解散に伴って退役となり,以後,代替機は配置されていない。オ

日米安全保障協議委員会は,平成17年10月,「日米同盟:未来のための変革と再編」を発表し,その中で航空自衛隊航空総隊司令部をアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じく横田飛行場内に設置することが明記された。航空自衛隊は,同委員会が平成18年5月に発表した「再編実施のための日米のロードマップ」に基づき,横田飛行場において,航空総隊司令
部の運用に必要な各種施設を整備するとともに,指揮システムや自動警戒管制システムなどの指揮統制システム及び器材などの移設作業を進め,平成24年3月26日,航空総隊司令部及び関連部隊の横田飛行場への移転を完了し,横田飛行場における航空総隊司令部の運用を開始した。この際,横田飛行場に移転したのは,航空総隊司令部のほか作戦情報隊及び防空指
揮群であり,移転後の航空自衛隊の所在人員は約800名である。航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じ敷地内に設置されたことにより,被告とアメリカ合衆国との間において,対処可能時間が短い防空及び弾道ミサイル防衛に関する必要な情報をより迅速に共有することが可能となり,日米両司令部組織間の連携が強化され,相互運用性の
向上が図られた。

以上のとおり,横田飛行場は,開設以来,航空機が離着陸する飛行場として使用され,現在は,在日米軍司令部,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍の一部並びに航空自衛隊航空総隊司令部及び関連部隊が設置され,C-130(プロペラ輸送機),C-12(プロペラ輸送機)及びUH-
1N(ヘリコプター)が常駐する米軍の輸送中枢基地となるとともに,我が国の防空及びミサイル防衛の機能も併せ持つ日米が共同で使用する施設ともなっている。

横田飛行場における夜間着陸訓練の実施と代替施設の検討状況等

夜間着陸訓練(略称NLP)とは,航空母艦(以下「空母」という。)の艦載機が,滑走路の一部を空母の着艦甲板に見立て,夜間,地上の誘導ライト等を頼りに大きな推力を維持しつつ滑走路上に定められた基点に向けて滑走路に進入し,着陸後直ちに急上昇して復航することを数回繰り返すというものである(以下,夜間か否かを問わずこのような内容の訓練を「タッチアンドゴー」ということもある。)。

米軍の要請により昭和57年2月からは空母ミッドウェーの母港である横須賀海軍施設に近い厚木海軍飛行場において夜間着陸訓練を行うこととなった。そして,昭和58年1月以降は,横田飛行場においても同訓練を実施することとなり,横須賀基地に配備された航空母艦(平成3年8月までは空母ミッドウェー,同年9月以降は空母インディペンデンス,平成10年8月以降は空母キティホーク,平成20年9月以降は空母ジョージ・
ワシントン)が横須賀港から出港する直前の一定期間(概ね5日から23日までの間。ただし,1日のみの年や不実施の年もあり,平成13年以降は後述のとおり実施されていない。),その艦載機の早期警戒機や対潜哨戒機等が横田飛行場で同訓練を実施していた。

上記イのとおり,夜間着陸訓練は主として厚木海軍飛行場で行われてきたが,同飛行場周辺地域の市街化に伴う騒音問題を早急に解決する必要があり,また,米軍も騒音の軽減や同訓練の効率化を理由に関東地方及びその周辺における十分な訓練ができる飛行場の確保を要請してきたことから,防衛省(当時の防衛施設庁。以下,省庁名は特に断らない限り現在のものによる。)は,昭和58年度から,既存の飛行場の中に,米軍の要請
を満たし,周辺住民の理解が得られる飛行場の有無,飛行場を新たに設置するための適地の有無などの調査検討を行った。

これらの検討の結果,防衛省は,三宅島に空母艦載機着陸訓練場を設置することを計画したが,一旦は誘致を決議した地元村議会が反対に転じた
こと等により見通しが立たなくなり,実現までに相当の期間を要することが見込まれたことから,防衛省は,米軍に対し,硫黄島において空母艦載機着陸訓練を実施するという暫定措置を申し入れた。オ
防衛省は,この申入れを米軍が受け入れたことを踏まえ,平成元年度から,硫黄島に設置されている飛行場(海上自衛隊硫黄島航空基地)において,灯火施設等の滑走路関連施設,給油施設等の夜間着陸訓練に必要な施設の整備に着手し,約166億8600万円の予算を投じて,平成5年3
月末,上記施設を完成させた。米軍は,この施設整備期間中においても,硫黄島において,一部完成した施設を使用し,可能な範囲で夜間着陸訓練の一部を実施した。

防衛省は,硫黄島における夜間着陸訓練施設の完成に伴い,米軍に対し,硫黄島においてできるだけ多くの訓練を実施するよう要望し,米軍
も,その要望を受け入れる意向を示した。米軍は,硫黄島における上記施設完成後の平成5年4月から平成24年5月までの間,硫黄島において,41回にわたり,おおむね騒音の比較的大きいジェット戦闘機による夜間着陸訓練を実施した。

平成17年の「共同文書」において,空母艦載機着陸訓練のための恒常的な訓練施設が特定されるまでの間,現在の暫定的な措置に従い,米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨が確認された。平成18年5月の「再編の実施のための日米ロードマップ」では,恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組を設け,恒常的な
施設をできるだけ早い時期に選定することを目標とした。そして,平成23年6月の日本の外務・防衛大臣と米国の国務・国防長官による日米安全保障協議委員会(通称「2プラス2」)において,鹿児島県の馬毛島を大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに通常の訓練などのために使用する新たな自衛隊の施設を設け,併せて米軍の空母艦
載機着陸訓練の恒久的な施設として使用する検討対象とし,その旨を地元に説明することとした。ク

横田飛行場は,平成22年度まで,硫黄島における天候等の事情により所要の訓練を実施できない場合における空母艦載機着陸訓練の対象区域に指定されており,米軍は,硫黄島での訓練が悪天候によって予定どおり実施できないなどの特別な事情がある場合に,横田飛行場において,早期警戒機及び対戦哨戒機による訓練を実施していた。ただし,米軍は,平成1
2年9月を最後に横田飛行場においては夜間を含む空母艦載機着陸訓練を実施していない。
4
横田飛行場にかかる施設及び区域の一部返還とその後の利用状況


一部返還の概要
横田飛行場の用地及び飛行場運用のためにアメリカ合衆国に提供された土
地(地役権のみのものを含む。)のうち,被告が返還を受けたものは,次のとおりである。

昭和32年4月5日,旧陸軍時代に射撃練習場として使用され,提供後は遊休地となっていた土地約17万4474平方メートル


昭和46年4月12日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする税関庁舎等建設のための土地約2012平方メートル


昭和47年2月29日,変電所の移設に伴い不要となった土地約1743平方メートル


昭和52年9月30日及び同年11月11日,不要となったアウターマーカー関連用地約1310平方メートル


昭和55年8月29日,熊川交差点拡幅のための土地約742平方メートル


昭和56年8月13日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする東京入国管理事務所建設のための土地約750平方メートル

昭和60年7月8日,国道16号を拡幅するための土地約3万8990平方メートルク

以上合計約22万0021平方メートルの土地に加え,横田飛行場への専用側線(貨物列車の引込線)用地等合計約4800平方メートル


返還土地の利用状況

上記⑴アの土地
国有地である約16万0630平方メートルは,財務省(旧大蔵省。以
下同じ。)所管の普通財産として,一部は瑞穂町に貸し付けて中学校,公民館及び図書館用地として利用され,また,一部は東京都との交換に供して高等学校の用地として利用されている。その余の民有地部分は,所有者に返還された。

同イの土地
財務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための税関及び出入国管理事務所の合同庁舎用地として利用されている。

同ウの土地
大部分は民有地であったため,所有者に返還された。


同エの土地
大部分は財務省所管の普通財産,一部は都道として利用されている。

同オの土地
東京都の財産として,五日市街道用地の一部として利用されている。

同カの土地
法務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための
東京入国管理事務所庁舎用地として利用されている。

同キの土地
国土交通省所管の行政財産として,国道16号用地として利用されている。


その余の土地のうち国有地の一部は,市道や雨水汚水幹線敷として関係自治体に無償で貸し付けられている。5

横田飛行場の設置,管理及び米軍機の運航等の法律関係


終戦までの法律関係
我が国の旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦まで,横田飛行場をその財産として所管し,飛行場の設置,維持,管理,航空機の運航及びこれに伴う航空交通管制(旧航空法は,軍用航空機に対しては適用が除外されてい
た。)の全てを専権的に行っていた。


終戦から平和条約発効までの法律関係
横田飛行場は,上記2⑵ア,イのとおり昭和20年9月から平和条約の発効の日の前日である昭和27年4月27日までの間,米軍に接収され,施設及び区域の維持,管理,航空機の運航及びこれに伴う航空交通管制は,米軍
の専権下にあった。


平和条約発効後の法律関係
被告は,平和条約の発効により,昭和27年4月28日以降,行政協定2条1項に基づき米軍の使用する施設及び区域として横田飛行場を米軍に提供し,行政協定3条1項により,米軍が管理,使用を開始した。

これにより,米軍は,自らの判断と責任において横田飛行場に航空機を配備し,その運航のために横田飛行場を管理し,使用することとなった。その有する上記管理,使用権限は,横田飛行場に離着陸する米軍及びその関係の航空機の運航管理行為を含む。
被告は,昭和35年6月23日,安保条約及び地位協定を締結し,同日以
降,横田飛行場を地位協定2条1項⒜,⒝に基づいて提供し,現在に至っているが,地位協定3条1項でアメリカ合衆国は使用を許可された施設及び区域内でそれらの運営,管理等のために必要な全ての措置を執ることができるとされており,横田飛行場の管理,使用に係る法律関係は,従前と同様であって,米軍機の保有及び運航権限は,全て米軍の専権に属する。



現状以上のとおり,アメリカ合衆国は,安保条約及び地位協定2条1項⒜,⒝,3条1項に基づき,横田飛行場を使用し,横田飛行場内において,それらの運営,管理等のために必要な全ての措置を執る権限を有する。そして,米軍機の運航活動の内容について変更を求めるには,地位協定25条の定める日米合同委員会の協議によらなければならない。

6
横田飛行場の航空交通管制等


航空法の適用除外
被告は,平和条約発効後の昭和27年7月15日,国内における航空機の運航の安全,航行に起因する障害防止等の目的の下に,航空法(昭和27年
法律第231号)を制定した。これに伴って,それまで米軍独自の判断により我が国の領空を自由に航行していた米軍機と我が国の航空機との航空活動に伴う種々の面での法的調整を図る必要が生じたため,被告は,同日,航空法の制定と併行して,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地
位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(昭和27年法律第232号。以下「航空特例法」という。)を制定し,航空法所定の事項について,次のとおり幾つかの適用除外事項を定めた。適用除外事項が設けられたことにより,横田飛行場においては,適用除外事項について航空法所定の手続は行われて
いない。
アイ
航空機の耐空証明


航空機の運航従事者の資格の技能証明


飛行場,航空保安施設の設置に係る国土交通大臣の許可

操縦教育証明


外国航空機の航行の許可


外国航空機の国内使用の制限キ

軍需品輸送の禁止


各種証明書等の承認


航空機の運航に関する同法第六章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示,航空交通情報の入手のための連絡,飛行計画及びその承認並びに到着の通知を除くその余の事項(適用保留事項は,「日本国とアメリカ
合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律施行令」(昭和34年政令第334号。以下「航空特例法施行令」という。)において指定している。)



航空交通管制
航空法の制定に伴い,米軍機を含めた我が国の領空を運航する航空機に対する航空交通管制は国土交通大臣の権限事項となった(同法95条の2ないし97条参照)が,米軍機に対する航空交通管制を全て我が国の国土交通大
臣の権限に服せしめるのでは米軍機の運航に支障を来す場合も生じることから,日米合同委員会は,航空交通管制についても,地位協定6条1項(地位協定締結前は行政協定6条1項)により,地位協定2条(地位協定締結前は行政協定2条)に基づいて,アメリカ合衆国に対して提供された飛行場施設の隣接,近傍空域における航空交通管制業務は,同国(米軍)が行うことと
した。具体的には,航空交通管制業務(航空路管制業務,飛行場管制業務,進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務(航空法施行規則199条1項1号ないし5号))のうち,航空路管制業務は国土交通大臣が所管し,その余の横田飛行場に関する管制業務は米軍が行うこととされ,米軍は,横田飛行場内の離着陸管制,横田飛行場の管制圏及び進入
管制区内の航行については,米軍機のみならず我が国の民間機も含め全てこれを管制し,これから離脱する場合又は航空路から横田飛行場の進入管制区へ進入する場合には,国土交通省の航空路管制と管制の引継ぎを行うこととされている。


航空機騒音に関する日米合同委員会の合意
日米合同委員会は,昭和39年4月17日,横田飛行場周辺における米軍の航空機騒音の規制に関して諸種の規制措置を設けることに合意した。さら
に,同委員会は,平成5年11月18日,上記合意を一部改正し,「22時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動は,米軍の運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限される。夜間飛行訓練は,在日米軍の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制限し,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するよう全ての努力を
払う」との合意をした(以下「平成5年日米合同委員会合意」という。)。⑷

その他
横田飛行場(合計713万6000平方メートル)の財産管理関係の主なものは,平成24年12月31日現在,財務省所管の行政財産が約608万9000平方メートル,防衛省所管の行政財産が約2万6000平方メート
ル,国土交通省所管の行政財産が約96万平方メートル,東京都等の公有財産が約3万4000平方メートル,民有財産が約2万7000平方メートルとなっている。
7
自衛隊機使用の法律関係


自衛隊機の運航権限
自衛隊法3条は,「自衛隊は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の秩序の維持に当たるものとする。」と定め,同法第6章は,自衛隊の行動として,防衛出動,治安出動,海上における警備行
動,災害派遣,領空侵犯に対する措置等の各種の行動を規定している。自衛隊機の運航は,上記のような自衛隊の任務,特にその主たる任務である国の防衛を確実かつ効果的に遂行するため,防衛政策全般にわたる判断の下に行われる。
そして,防衛大臣は,内閣総理大臣が有する指揮監督権の下,自衛隊の隊務を統括する権限を有しており(自衛隊法8条),同権限には,自衛隊機の運航を統括する権限も含まれている。防衛大臣は,同権限に基づいて,同法
107条5項の規定により防衛大臣が定めた航空機の使用及び搭乗に関する訓令(昭和36年防衛庁訓令第2号)を発し,自衛隊機の具体的な運用は,同訓令2条6号に規定する航空機使用者に与えられ,当該航空機使用者は,同訓令3条に定められた場合に所属の航空機を使用することができる。⑵

自衛隊機の運航に関する規制
自衛隊機の運航には,次のとおりの規制がある。

航空法の適用除外
自衛隊法107条1項及び4項は,航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外し,同条5項で,防衛大臣は,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航
に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準を定め,その他航空機による災害を防止し,公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものと規定している。

防衛大臣の定める基準等
防衛大臣は,前同項に基づき,上記適用除外の代替措置として,自衛隊
が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準として,航空機の運航に関する訓令(昭和31年防衛庁訓令第34号)及び航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令(昭和30年防衛庁訓令第21号)を定めている。第2
1
航空機騒音の評価方法
音の尺度と航空機騒音の特性音とは,振動等が媒質(気体,液体,固体)を伝わり,聴覚に与える刺激である。人間の聴覚が刺激される範囲は,個人差はあるが,周波数(1秒間における音圧(音波によって空気中に生ずる圧力で,1気圧に対する圧力の増減量によって定められる。)による空気の変動繰り返し回数で,単位はヘルツ(以下「Hz」と表記する。))で20Hzから2万Hzまでとされている。音は,音波の周波数によって定められる音の高さ,音圧によって定まる音波の振幅の程度によって決まる音の大きさ及び音波の波形によって定まる音色の3つの要素によって構成される。このうち,音の大きさに関しては,同じ音圧の音であっても,周波数によって,人間の聴覚には異なった大きさの音に聞こえる
ことから,音圧に関して,対数的性質を持つ人間の感覚に着目し,人が聞くことのできる最小の音の音圧を基準とした音圧レベルの単位としてデシベル(以下「dB」と表記する。)という尺度を用いることがある。更に音圧レベルを人間の耳に感じる音の大きさを定量的に表示する方法として,音の大きさのレベルであるフォン(phon)が用いられている。ただし,phon値は,自
然界にはあまり存在しない正弦波(波形が正弦関数で表される波動。純音)のみを取り出したものであること(1000Hzの純音が実際にどのような大きさに聞こえるかを表すものであり,例えば1000Hzで70dBの純音と同じ大きさに聞こえる周波数帯の音圧レベルの音はすべて70phonと表示される。)や,聴覚に個人差があることなどから,騒音の程度を客観的に表示す
る値としては十分ではない。
そもそも,一概に騒音といっても,実際の騒音は,突発性,周波数成分の違いなどの様々な特性を有しており,一様ではない。殊に,航空機騒音は,工場騒音,自動車騒音等の他の地上音源からの騒音と比較して,継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること,音源パワーが桁違いに大きく広範囲に影響をも
たらすこと,飛行形態や飛行経路の変更,気象条件による飛行方向や音の伝播特性の変化により地上で聞こえる騒音の性状やレベルが大きく変化することといった特性がある。したがって,このような航空機騒音の特性を考慮し,「うるささ」という感覚的な評価を重視することが必要であると考えられるようになり,次のような評価方法が考案された(以上につき乙6参照)。
2
PNL(感覚騒音レベル。Perceived


Noise

Level)

概要
航空機騒音に対して感じる「やかましさ(Noisiness)」(「大きさ」ではない。)を求め(単位はnoyであり,1000Hzで大きさのレベルが40phonの音と同じやかましさの音が1Noyである。乙4),これを基礎にして「音の大きさのレベル」に対応するものとして考案
されたものに,PNL値による評価方法がある。


計算式
noy及びPNLは,次の計算式によって求められる(乙4参照)。ア
NT(総Noy)=Nmax+0.15(ΣN-Nmax)
Nmaxは,騒音を1/3オクターブバンド(オクターブバンドとは,あ
る周波数を中心として上限と下限の周波数比が2倍となる周波数の帯域をいい,オクターブバンドを1/3に分割したものが1/3オクターブバンドである。)による周波数分析をした各周波数帯の最大値である。また,ΣNは,各周波数帯のnoy数の総計である。

PNLは上記の総Noyを基に次の式で算出される。
100
PNL=40+
logNT
33
WECPNL(加重等価継続感覚騒音レベル。Weighted
valent

Continuous

Perceived

evel)


概要Equi

Noise

L
昭和46年,国際連合の下部機関であるICAO(国際民間航空機関)は,航空機騒音の特性を考慮し,航空機騒音にさらされている地域の住民が受ける感覚騒音量をより適切に評価する方法として,PNLを基礎にしたWECPNL値(以下「W値」といい,W値は「70W」などと数字に「W」を添えて表記する。)による評価方法を採択した。我が国でも,
後記第3のとおり航空機騒音に係る環境基準としてW値を採用し,後記第4のとおり横田飛行場のような防衛施設の防音工事を始めとする周辺対策を実施する上での行政指針としても採り入れた。


基本的な考え方
W値の評価方法は,上記1のとおりの航空機騒音自体の特異性,騒音の1
日を通じた定常性といった条件の下では,一般騒音と同様に,瞬間的な音圧レベルであるdBだけで評価するよりも,ある期間(例えば1日)について,時間帯補正をするなどしてその総曝露量で評価した方が人間の感覚的な騒音評価として適切であるとの考え方に基づく。
このように,W値とは,間欠的に発生する航空機騒音が日常生活面でどの
ように知覚されているのかを総合的に捉えようとする騒音評価方法であり,次のア~ウのとおりに補正されたPNLを意味する。W値には複数の算定方法があるが,我が国では後記第3の環境基準で用いられる環境庁方式と後記第4の周辺対策で用いられる防衛施設庁方式という二種類の算定方法が併存して使用されてきた。

W(Weighted)
例えば,90dBの航空機騒音でも,昼間と夜間では周囲の状況(騒音の対象がないときのその場所における騒音(暗騒音)の大きさの違い),あるいはその人が日常生活で置かれている状況(仕事,一家団らん,睡眠
等)などを考慮した場合には,心理的,生理的に反応する度合いが異なることを考慮して,時間帯に重み付けをするということである。イ

E(Equivalent)
1日の航空機騒音の総量を24時間(8万6400秒)で平均することを意味し,等価騒音値を求めるということである。


C(Continuous)
等価騒音値が1日中継続するという意味である。

第3
1
航空機騒音に係る環境基準について
環境基準告示の経緯
公害対策基本法(昭和42年法律第132号)9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それ
ぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」とし,4項は「政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,第一項の基準が確保されるように努めなければならない。」と定めた。この規定に基づいて,航空機による特殊騒音についても環境基準が設定された。

すなわち,環境庁長官の諮問を受けた中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,昭和48年4月,「航空機騒音に係る環境基準について(報告)」(乙64)を提出し,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定につき,航空機騒音の特徴をよく取り入れた単位であり航空機騒音の国際単位として採用されているという見地
から,航空機騒音の評価単位として人の感じる「うるささ」を表示するW値を用いることを提言するとともに,指針値を70W及び75Wとすること,その他騒音測定方法,指針値達成期間,指針値達成のための施策についての検討結果を報告した。
そして,中央公害対策審議会は,上記委員会報告に基づいて,同年12月6
日,環境庁長官に対し,「航空機騒音に係る環境基準の設定について」と題する答申(乙65)を行い,環境庁長官は,同27日,「航空機騒音に係る環境基準」(昭和48年環境省告示第154号。以下「昭和48年環境基準」という。乙5)を告示した。
2
昭和48年環境基準の内容
昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資す
るうえで維持することが望ましい航空機騒音に係る基準値及びその達成期間につき次のとおり定めた(乙5)。


基準値
専ら住居の用に供される地域(地域類型Ⅰ)につき70W以下と
し,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域
(地域類型Ⅱ)につき75W以下として,地域の類型は都道府県知事が指定する。
上記にいうW値は次の方法により測定・評価した場合における値
とする(以下,これに従ってW値を算出する方式を,後記第4の2の防衛施設庁長官の定めた算定方式(防衛施設庁方式)と対比させ
る意味で「環境庁方式」という)。

測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上
大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位はdB)及び航空機
の機数を記録するものとする。


測定は,屋外で行うものとし,その測定点として,当該地域の
航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。


測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を
考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時
期を選定するものとする。


測定は,計量法71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において,音圧の周波数補正回路は可聴音に対する人間の感覚をより反映するよう周波数に重み付けをして補正された音圧レベルであるA特性(単位はdBで,A特性で補正された数値であることを特に明示する趣旨で「dB(A)
」を用いることがあるが,
(A)は省略さ
れることが多く,本判決でも特に断らない限り,単に「dB」で表記した場合にはA特性による音圧を示すものとする。
)を,時間重み付け特性
(環境騒音においては,極めて短時間に音圧レベルが変化しているとこ
ろ,そのような激しい変動を測定器で読み取ることはできないことから,これらの変動を緩やかに見せる表示を行う必要がある。このことを時間重み付け特性というが,時間重み付け特性には,早く反応するFastとより反応の遅いSlowがある。
)は遅い時間重み付け特性(Sl
ow)を用いることとする。


評価は上記アのピークレベル及び機数から次の算式により1日
ごとの値(W値)を算出し,そのすべての値をパワー平均して行うものとする。
算式

dB(A)+10log10N-27

なお,N=N2+3N3+10(N1+N4)

上記算式のdB(A)とは,1日のすべての一機ごとのピークの音圧レベル(上記エのA特性で補正されたもの)をパワー平均したものをいい,Nの算定の基礎となるN1は午前0時から午前7時までの間の航空機の機数,N2は午前7時から午後7時までの間の航空機の機数,N3は午後7時から午後10時までの航空機の機数,N4は午後10時から午後1
2時までの間の航空機の機数をいい,これらを上記の算式のとおり時間帯によって重み付けして合計したものがNである。


達成期間
公共用飛行場等の周辺地域においては,飛行場の区分ごとに定める
達成期間で達成され,又は維持されるものとし,達成期間が5年を超える地域においては,中間的な改善目標をまず達成することとして,段階的に環境基準が達成されるようにするものとした。そして,横田飛行場については,達成期間は「10年を超える期間内に可及的に速やかに行うこと」とされ,改善目標は「5年以内に85W未満とすること又は85W以上の地域において屋内で65W以下とすること,10年以内に75W未満とすること又は75W以上の地域において屋内
で60W以下とすること」とされた。。また,自衛隊等が使用する飛行場の周辺地域においては,「平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある公共用飛行場等の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努めるものとする。」とされた。



東京都及び埼玉県における地域類型の指定
東京都は,昭和53年3月,埼玉県は,昭和57年12月,それぞれ横田飛行場周辺に係る地域類型対象区域を定めた上,当該対象区域内において昭和48年環境基準の地域類型を当てはめる地域を指定する旨の告示(東京都告示第309号,埼玉県告示第1841号)をした。これらによ
ると,上記対象区域のうち,地域類型Ⅰを当てはめる地域は都市計画法(昭和43年法律第100号)8条1項1号に定める第1種住居専用地域,第2種住居専用地域及び住居地域並びに同号の規定による用途地域として定められていない地域とされ,地域類型Ⅱを当てはめる地域は同号に定める近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域とされた(乙6
6,132,133,134)。
3
平成25年4月1日改正後の環境基準
公害対策基本法は,平成5年11月19日に廃止され,これに替わって新たに施行された環境基本法(平成5年法律第91号)16条1
項は,政府が,騒音等に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定める旨規定している。昭和48年環境基準は,環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)2条により,環境基本法16条1項に基づいて定められた航空機騒音に係る環境基準とみなされた。
その後,昭和48年環境基準は,平成19年環境省告示第114号
によって改正され,平成25年4月1日から改正後の基準(以下「改正環境基準」という。)が適用されることとなった。この改正は,近年の騒音測定機器の技術的進歩及び国際的動向に即して,W値の代わりに新たな評価指標として時間帯補正等価騒音レベル(Lden)を採用したものである。Ldenは夕方の騒音に5dB,夜間の騒音に10dBを加
えて評価した1日当たりの等価騒音レベルで,dはday(昼間・7時から19時),eはevening(夕方・19時から22時),nはnight(夜間・22時から翌日7時)の略であり,単位はdBである。
そして,基準値としては,昭和48年環境基準のレベルと同等のものを設
定することが適当であるとした上で,理論的及び実態的な関係からLdenの値はW値から13を引いたものにほぼ近似することから,地域類型ⅠでLden57dB以下,地域類型ⅡでLden62dB以下とされたが,評価指標を変更したにすぎず,実質的な基準の水準は改正前と同様である(以下,昭和48年環境基準と改正環境基準を一括して単に「航空機環境基準」ということがあ
る。以上につき乙7,8)

第4
1
法令の定め


防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度とその運用
生活環境整備法
防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号。以下「生活環境整備法」という。)は,自衛隊又は米軍(以下,生活環境整備法2条1項の定義規定に従い「自衛隊等」ということがある。)の行為又は防衛施設の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的としている(同法1条)。かかる
目的のため,同法4条は,被告が,「政令で定めるところにより自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(以下「第一種区域」という。)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者がその障害を防止し,又は
軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものする」と規定している(以下,この措置を「防音工事助成」という。)。また,同法5条1項は,第一種区域のうち上記の音響に起因する障害が特に著しいと認めて当該区域の指定の際現に所在する建物等につき所定の移転ないし除却をする場合の損失補償の措置(以下「移転措置」という。)を採
る区域として第二種区域,同法6条1項は第二種区域のうち上記の音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,併せてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて緑地帯その他の緩衝地帯として整備を行うべき区域として第三種区域についても定めている(以下,第一種区域,第二種区域及び第三種区域を総称して「第一種区域等」という。)。
なお,同法の制定に伴って従前,上記を含む周辺対策の根拠とされていた防衛施設周辺の整備に関する法律(昭和41年法律第135号。以下「周辺整備法」という。)は廃止されたが,周辺整備法に基づき指定された第二種区域は,その指定時に生活環境整備法5条1項により指定されたものとみなすこと(附則4項)とされている。



生活環境整備法施行令,同施行規則生活環境整備法の委任を受けた同法施行令(昭和49年政令第228号。以下「生活環境整備法施行令」という。)は,第一種区域等の指定は,「自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものする。」(8条)と規定し,この指定は官報で告示するとしていた(19条)。
そして,ここにいう防衛省令である同法施行規則(昭和49年総理府令第43号。平成25年防衛省令第5号による改正前のもの。以下「旧生活環境
整備法施行規則」という。)は,防衛省令で定める算定方法について,数式自体は前記第3の2⑴オの昭和48年環境基準と同じ次の算式を掲げた(同条1項)。
dB(A)+10log10N-27
N=N2+3N3+10(N1+N4)

ここでいうdB(A)やN等については実質的に前記第3の2⑴オとほぼ同一の定義がされている(同項2号)が,実際の算定方法には後記2のとおりの違いがある。
防衛施設庁長官がこれらの値を算定するに当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等がひん繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を
使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとした(同条3項)

その上で,旧生活環境整備法施行規則2条は,前述の各措置の対象となる第一種区域等を画する旧生活環境整備法施行令8条にいう防衛省令で定める
値について,第一種区域にあっては75W(旧生活環境整備法施行規則の制定当初は85Wであったところ,昭和54年総理府令第41号による改正により80Wに改められ,さらに昭和56年総理府令第49号による改正により75Wに改められた。),第二種区域にあっては90W,第三種区域にあっては95Wと定めていた(乙16ないし18)。
なお,旧生活環境整備法施行規則は,平成25年防衛省令第5号によって改正され,現行の生活環境整備法施行規則(以下「改正生活環境整備法施行
規則」という。)1条は,改正環境基準と同じく,W値に代えて時間帯補正等価騒音レベル(Lden)による算定方法を採用し,同規則2条の定める生活環境整備法施行令8条の防衛省令で定める値も,第一種区域においては75Wに代えて62dB,第二種区域においては90Wに代えて73dB,第三種区域においては95Wに代えて76dBとされた。改正生活環境整備法
施行規則は平成25年4月1日から施行されたが,同日以後の生活環境整備法4条による第一種区域等の指定について適用するとされており,横田飛行場周辺を含む同日より前にされた第一種区域等の指定については引き続き旧生活環境整備法施行規則の規定によることとなる。
2
防衛施設庁方式におけるW値の算定方法


算定方法の根拠等
上記1の法令の規定を受け,防衛施設庁長官は,上記算定方法等の細部基準等として,昭和55年10月2日,「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準について(通達)」(施本第2234号(CFS)。以
下「コンター作成旧通達」という。乙31)を定めた。その後の平成16年11月1日,「第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)」(施本第1589号(CFS)。以下「コンター作成新通達」という。乙32)により,新たなコンター作成基準を定め,コンター作成旧通達は廃止されたが,その内容は概ねコンター作成新通達に引き継がれている。なお,コ
ンター作成新通達は,その後平成19年8月30日に防衛庁の省移行に伴う規定整備により,防衛施設庁長官を防衛大臣に改める等の一部改正が行われて現在に至っている。コンター作成新通達は,各防衛施設周辺におけるW値を算定した上,75W以上の地域について,5Wごとに同位置の値を示す地点を結んだ線を騒音コンターとするものとしている(第1の3)。
コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に従ったW値の算定方法が防
衛施設庁方式である。


防衛施設庁方式のW値の算定方法(環境庁方式との相違点)
コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に定められたW値の算出方法(防衛施設庁方式)の具体的内容,とりわけ環境庁方式との相違点は,次の3点である(甲B58,59,乙31,32)。


環境庁方式では,飛行回数(N)として,運航スケジュールを用いて算出した1日当たりの単純平均回数を用いるのに対し,防衛施設庁方式では,最近1年間の日別,時間帯飛行回数のデータを基礎にして,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の上位から数えて90パーセントに相当する1日の総飛行回数をもって,その飛行場における1日の標準総飛行回数
とする。

環境庁方式は,騒音の継続時間を20秒と固定して一定値を補正するのに対し,防衛施設庁方式では,最大騒音レベルと前後のこれより10dB低いレベルを超える騒音の実際の継続時間を計測し,これに応じて個別の機種・飛行態様ごとに補正値を加算する。


環境庁方式ではジェット機の着陸音に対して補正を行わないが,防衛施設庁方式では当時の測定結果に基づきジェット機の着陸音に対してプラス2dBの補正を行っている。


両方式の算定結果の違い
以上⑵の算定方法の相違の結果,防衛施設である飛行場の周辺において,同一の条件の下で,環境庁方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式によって算定されるW値を比較すると,前者が後者よりも3~5W程度低くなるとされている(甲B58参照)。
3
横田飛行場周辺の騒音コンターの作成及び区域指定等


昭和50年代における第一種区域の指定の沿革

被告は,昭和52年3月14日から同月21日まで及び同年7月8日から同月13日までそれぞれ予備調査を行って横田飛行場に離着陸する米軍機の飛行形態等を把握し,次いで,同月18日から同月25日までの間(夏季)及び昭和53年2月13日から同月14日までの間(冬季)に本調査を行い,飛行場内測点500,北側固定測点15及び南側固定測点169において常時測定員を配置し,24時間連続して,発生時刻,機種,
飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観測した。また,移動点測定として,同時に12点から15点にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって毎日午前8時から午後5時までの間,移動しながら測定を行った。
被告は,これらの資料を総合し,N(1日の飛行回数)及び各地点での
dB(A)を算出し,着陸音補正(着陸時のジェット騒音について2dBを加える。)及び継続時間補正を行うなどして,横田飛行場周辺のW値を求め,それによる騒音コンター図(等音線ともいうべきもの。)を作成し,これに基づき,道路,河川等現地の状況を踏まえ,順次次のイないしエの区域指定を行った(乙31)。


被告は,昭和54年8月31日,当時の旧生活環境整備法施行規則(乙16)に基づき,W値(以下,特に断らない限り防衛施設庁方式によるものをいう。)が85以上の区域を第一種区域,同90以上の区域を第二種区域として指定する旨を告示した(防衛施設庁告示第17号,乙27)。

被告は,昭和54年9月14日総理府令第41号(乙17)による旧生活環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和55年9月10日,W値が80以上の区域を新たな第一種区域として指定する旨を告示した(防衛施設庁告示第14号,乙28)。

被告は,昭和56年12月21日総理府令第49号(乙18)による旧生活環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和59年3月31日,W値で75以上の区域を新たな第一種区域として指定する旨を告示した(防衛
施設庁告示第4号。乙29。以下「昭和59年告示」という)。


平成17年における第一種区域の解除及び指定

被告は,飛行場周辺における航空機騒音対策を始めとする周辺対策について,今後の採るべき施策の在り方に関する検討の資料を得ることを目的
として,平成13年9月,有識者による「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」を設置した。平成14年7月の上記懇談会の提言(乙30)は,「真に騒音等の影響を受けている住民に対して限られた財源を効果的に支出する観点から,深刻な騒音等の影響を被っている区域を見極める必要があり,改めて計画的に全国の飛行場施設の騒音度を調査
し,各防衛施設ごとに段階的に区域の見直しを図ることが適切な時期が到来している。」などと指摘した。この提言を踏まえた被告の委託により,財団法人防衛施設周辺整備会は,昭和59年告示による第一種区域の指定から約20年が経過し,その間,横田飛行場の航空機の騒音状況に変化が見られるなどとして,平成15年度に概ね次のとおりの内容で航空機騒音
調査を行った(乙89。以下「平成15年度調査」という。)。
調査期間
現地調査として,平成15年8月20日から同月22日までの間,離着陸訓練等の飛行態様や測定点の適切性を調査する事前調査を行い,その後同年9月5日から同月13日までの間(夏季),同年11月3日か
ら同月10日までの間(秋季)及び平成16年2月20日から同月28日までの間(冬季)の3回にわたり本調査を行った。また,飛行回数調査は,後述のとおり自動騒音測定装置によるものを含めて平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間を対象として行った。
調査対象地域
横田飛行場における過去の調査結果,飛行経路図等を参考にして,滑
走路を中心としてその延長方向に38キロメートル,垂直方向に6キロメートルの範囲とした,測定点は52地点と従前から自動騒音測定装置が設置された13地点とした。
調査対象機種
C-130,C-21,C-5,UH-1等を対象とした。

現地事前調査の調査方法
離着陸訓練等の飛行態様を現地で把握すると共に,あらかじめ地図上で選定した測定点を踏査し,暗騒音レベルが低く測定に支障がないこと,航空機の飛行状況が確認できる場所であること等,測定点として適切であるか否かを調べた。また,不適当な場合は,当初選定した予定地を至近の適当な場所に変更するなどし,その周辺において測定点として妥当な場所に測定点を設定した。そして,最終的に選定した測定点を地図上で確認するとともに,周辺の既存住宅や主要道路等について調査を行った。
現地本調査の調査方法

a
飛行状況調査
横田飛行場においては,米軍から飛行回数に関する資料が提供されず,自動騒音測定装置の観測データを基に飛行回数を確認するため,1週間連続で測定する点を設定し,機種,方向,態様,経路等を正確
に確認し,その比率を基に標準飛行回数の基となるデータを取得した。なお,測定は,夏季,秋季,冬季の3季について行い,測定時間は,自動騒音測定装置のデータを基に,夏季及び冬季については午前6時から午後10時までの16時間,秋季については午前8時から午後10時までの14時間とした。
b
飛行経路調査
飛行経路及び基礎データ作成用のスラントディスタンス(受音点と
航空機までの最短距離)の確認のため,過去の調査結果を参考に測定点を設定し,仰角測定により飛行位置(平面位置,高度)を確認した。
c
基礎データ調査
地上面にウインドスクリーン(風による雑音防止のためにマイクロ
ホンの先端に取り付けるスポンジ状のキャップ)を装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(C特性)を通してデータレコーダに録音し,持ち帰り分析用のデータとした。
d
ピーク騒音レベル及び継続時間
地上約1.5メートルの高さにウインドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(A特性)を通してレベルレコーダーに記録し,ピーク騒音レベル及び継続時間を読み取ると共に,飛行時刻,機種,飛行経路,飛行態様等をデータ用紙に記入した。
飛行回数

平成15年4月1日から平成16年3月31日までの期間の自動騒音測定装置(横田飛行場滑走路両端の2地点のもの)の航空機騒音発生回数及び上記本調査における飛行状況調査の結果を基に求めた。
W値の算出
上記調査に基づく機種別,飛行態様別,飛行経路別のピーク騒音レベ
ル,1日の標準飛行回数,継続時間のデータに基づき,防衛施設庁方式により(乙89の116頁の継続時間の補正,着陸音補正,112頁の飛行回数の算出方法参照)各測定地点のW値を算出した。W値に基づくコンターの作成
横田飛行場周辺の滑走路延長方向に28キロメートル,滑走路垂直方向に13キロメートルの範囲において250メートル間隔の格子点5989点のW値を算出し,その値からメッシュ法を用いてコンター図
(甲B177の3枚目。省略された乙89の123頁の図12に当たるもの。)を作成した。

被告は,平成17年10月21日,上記アの平成15年度調査の結果を基に,これまでの第一種区域等を見直し,区域の指定及び指定の解除(指
定の解除については,平成19年5月1日から適用。)を行い,防衛施設庁告示第9号をもって告示した(以下「平成17年告示」という。乙19)。新たに指定し直された第一種区域等の範囲は,別紙4-1「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」の「凡例」に「第一種区域

平1

7.10.20防衛施設庁告示9号」と記載された赤実線で囲む区域であり,指定を解除された第一種区域は,「第一種区域解除区域

平19.

5.1解除」と記載された赤斜線部分である(以下,平成17年告示における第一種区域とその外側の区域とを画する線を「第一種区域線」という。)。
また,平成17年告示によって従前の第二種区域の指定も一部解除されたが,横田飛行場については,前述の生活環境整備法附則4項の規定によって第二種区域及び第三種区域とみなされる地域が引き続き存在し,その範囲は別紙4-1「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」及び別紙4-2「横田飛行場に係る移転措置対象区域指定参考図」の各「凡例」に,それぞれ「第二種区域(みなし)

昭42.3.31防衛施設庁告示

第5号」として黄色の実線で囲まれた範囲,「第三種区域(みなし)42.3.31防衛施設庁告示第5号昭

昭44.4.15防衛施設庁告第

6号」として緑色の実線で囲まれた範囲のとおりである。ただし,横田飛行場周辺地域は,平成17年告示当時の第三種区域の指定の基準であるW値95以上に達していないことから,同区域の指定はされていない。ウ
工法区分線等の設定
防衛大臣は,生活環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うため,「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年3月29日防衛省訓令第10号。乙25)を定め,同要綱5条に基づき,防衛省地方協力局長は,住宅防音工事標準仕方書(以下「防音工事仕方書」という。乙53)及び住宅防音工事
の標準仕方に係る工法区分線の設定等要領(以下「区分線設定等要領」という。乙53の最後から3枚分)を定めている(なお,防音工事仕方書は,上記要綱の制定以前から順次改正されており,乙53は平成25年12月時点のものでLdenとW値が併記されているが,その位置付けや工法別の計画防音量は実質的に従前と変わっていない。)。

防音工事仕方書は,防音工事の工法として第Ⅰ工法と第Ⅱ工法を定めている。第Ⅰ工法は,80W(Lden66)以上の区域内の住宅を対象として計画防音量25dB以上とするものであり,第Ⅱ工法は,75W以上80W未満(Lden62以上66未満)の区域内の住宅を対象として計画防音量を20dB以上とするものである。そして,区分線設定等要領は,そ
れぞれの工法の適用区域を区分する線(以下「工法区分線」という。)の設定方法を定めている。これによると,横田飛行場周辺の第Ⅰ工法と第Ⅱ工法の工法区分線は,80Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,80Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。
上記2つの工法による住宅防音工事は居室を対象として行うものである
が,平成15年1月24日施本第63号(CFS)通達により家屋全体を一つの区画としてその全体を対象に実施する防音工事である後記4⑵オの外郭防音工事が追加され(乙44),同通達及び区分線設定等要領によれば,全ての住宅が外郭防音工事の対象となる区域の外郭線(以下「外郭線」という。)について,85Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,85Wのコンターに沿って引くものとされている。
横田飛行場については,平成17年10月20日,当時の防音工事仕方
書及び区分線設定等要領に基づき,平成15年度調査に基づく騒音コンターにおける80Wのコンターを基礎にした新たな工法区分線と85Wの騒音コンターを基礎にした新たな外郭線が設定された。

本件請求対象期間の区域指定
以上の結果,横田飛行場周辺地域においては,平成17年10月20日
以降,防衛施設庁方式による平成15年度調査に基づくW値の大きさに従って,75Wコンターにつき第一種区域線,80Wコンターにつき工法区分線,85Wコンターにつき外郭線が画されていることとなり,現在もこれが維持されている(以下,これらに係るコンターを「告示コンター」ということがある。)。

本判決においては,上記の告示コンターによる第一種区域の外側の地域を「指定区域外」,第一種区域線と工法区分線の間の地域を「75W地域」,工法区分線と外郭線の間の地域を「80W地域」,外郭線の内側地域を「85W地域」といい,これらを一括して「告示コンター内地域」又は「75W以上の地域」という。また,指定区域外のうち,平成17年告
示により第一種区域から除外された範囲を「旧75W地域」という。各地域の概要は別紙4-3の原告ら作成の図面のとおりである(甲A20の2。75W地域が同図面の「告示コンター75W以上」,80W地域が「告示コンター80W以上」,85W地域が「告示コンター85W以上」,旧75W地域が「旧告示コンター75W以上」に該当する。)。
4
助成措置の対象となる防音工事の概要と種類⑴

概要
建物中の工事対象となる居室又は区画の内外部開口部の防音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに冷暖房設備と換気設備を取り付ける空気調和機器(以下「空調機器」という。)の設置工事を内容とし,被告は各家屋所有者らに対しこれらの工事に要する経費を補助金として
交付する。補助率は一定の限度額はあるが原則100パーセントで,外部開口部となる窓の数が多いとか,同開口部が特に大きいなど建物の構造が通常と異なっているといった特殊な場合を除き,補助額はほとんどの場合工事費全額で,個人負担が生じることはない。


種類

新規防音工事
いまだ住宅防音工事が実施されていない住宅につきその所有者の選択する2居室以内(ただし,平成11年12月10日までは世帯人員4人以下の場合は1居室)を対象とするもの。昭和50年代から実施されてきたが,住宅防音工事の進捗状況等を踏まえ,平成21年度末をもって廃止さ
れ,平成22年度以降は,防音工事未実施の住宅については後記の一挙防音工事が実施されることとなった。

追加防音工事
上記アを実施済みの住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数からアを実施済みの居室数を減じた居室数以内の居室を所有者
が選択して実施するもの

一挙防音工事
いまだ住宅防音工事が実施されていない住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数以内の居室を所有者が選択して実施するものエ
防音区画改善工事バリアフリー対応住宅,フレックス対応住宅及び身体障害者福祉法4条に規定する身体障害者が居住する住宅を対象に,専用調理所(台所),区画された玄関,廊下,浴室等の居室以外の区画と居室を併せて一つの防音区画として実施するもので,平成11年度から実施されている。世帯人員4人以下の場合は4居室,5人以上の場合は世帯人員に1を加えた居室数
(ただし,防音工事実施済みの場合は実施された居室数を減じる。)が上限となる。なお,上記イ又はウを実施済みの住宅について実施する場合は原則としてこれらの工事完了日から起算して10年以上経過していることを要する。

外郭防音工事
前述のW値が85以上の外郭線の内側の区域(外郭対象区域)に所在する住宅のうち,いまだ防音工事が実施されていない居室を有する住宅を対象に,世帯人員にかかわらず,原則として住宅全体を一つの防音区画として,その外郭の住宅防音工事を実施するもので,平成14年度から実施されている。また,第一種区域のうち外郭対象区域を除くW値75以上85
未満の区域に所在する鉄筋コンクリート造系の集合住宅のうち,防音工事未実施で一定の条件を満たすものも対象となる。なお,上記イ又はウを実施済みの住宅について実施する場合は原則としてこれらの工事完了日から起算して10年以上経過していることを要する。


助成対象となる住宅
生活環境整備法4条では第一種区域の指定の際に当該区域内に現に所在する住宅となっているが,被告はその指定に先立ち,昭和50年度から周辺整備法に基づき指定された第二種区域内で防音工事の助成措置を行ってきた。その後,前記3⑴イ~エのとおり段階的に第一種区域を指定した
が,その結果,例えば昭和54年の指定日以降に建築された住宅は,W値85以上の地域では同法による助成の対象とはならないのに,昭和55年の指定で新たに第一種区域とされたW値80以上85未満の地域では対象となるといった,いわゆるドーナツ現象が生じた。そのため,被告は,行政措置により,横田飛行場周辺においては,平成8年度からW値85以上の地域,平成11年度からW値80以上の地域において,ドーナツ現象により対象外となった住宅に対しても防音工事の助成を行い,さらに,平成
17年告示による第一種区域内の上記のいずれにも該当しない住宅(いわゆる告示後住宅)のうち,一定の地域及び基準日に所在するものについても同様の助成を行っている。(乙40,47)
第5

原告らの訴訟承継及び居住地等
別紙3-1の「氏名」欄に「(被承継人)」と付記した者(以下「被承継
人」という。)は,提訴後の同「死亡日」欄記載の日に死亡し,別紙3-3の当該「被承継人」に対応する「承継人」欄記載の者が同「相続割合」欄記載の割合で本件に関し相続した。
原告ら(被承継人を含み,原告を兼ねていない訴訟承継人を除く。以下,特に断らない限り同じ。)は,本件請求対象期間の少なくとも一部において,横
田飛行場周辺の告示コンター内地域又は指定区域外の旧75W地域に居住している。原告らの居住関係(居住地,居住期間,居住地に係る区域指定におけるW値等)の詳細は別紙5移動経過一覧表に記載のとおりである(なお,原告番号57の原告のW値「外」の「損害賠償請求期間」の「始期」は,甲A57の1の1・2に照らし「H26.9.25」の誤記と認めるのでその旨訂正し
た。)。
第6

横田飛行場を巡る従前の主な騒音訴訟の経緯
横田飛行場の周辺住民は,横田飛行場に離着陸する航空機による騒音等の被害を受けているとして,昭和51年以降,被告に対し,次のとおり損害賠償等を求める訴えの提起を繰り返してきた。

1
第1次,第2次訴訟横田飛行場の周辺住民は,昭和51年及び昭和52年,被告に対し,横田飛行場における航空機離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は昭和56年7月13日,差止めを求める訴えを不適法として却下し,85W以上の地域に受忍限度を超える損害が生じているとして過去の損害賠償請求の一部を認容し,その
余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例タイムズ445号88頁,判例時報1008号19頁)。
上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,昭和62年7月15日,差止めに係る控訴を棄却し,過去の損害賠償請求につき昭和48年環境基準の地域類型Ⅰについては75W以上,地域類型Ⅱについては80W以上の地
域に受忍限度を超える損害が生じているとして認容額を変更し,事実審口頭弁論終結後の将来請求に係る訴えを却下する判決を言い渡した(判例タイムズ641号232頁,判例時報1245号3頁。以下「横田昭和62年控訴審判決」という。)。
横田昭和62年控訴審判決に対し,周辺住民らが上告したが,最高裁判所
は,平成5年2月25日,米軍機の差止請求は却下ではなく主張自体失当として棄却すべきだが,不利益変更禁止の原則により上告棄却にとどめるとしたほかは,控訴審の判断を支持して上告を棄却する判決を言い渡した(裁判集民事167号359頁,判例タイムズ816号137頁,判例時報1456号53頁。以下「横田平成5年最高裁判決」という。)。

2
第3次訴訟
横田飛行場の周辺住民は,昭和57年,被告に対し,横田飛行場における航空機離着陸などの差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,平成元年3月15日,差止め
を求める訴え及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,受忍限度につき横田昭和62年控訴審判決と基本的に同様として原告の過去の損害賠償請求の一部を認容し,その余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例タイムズ705号205頁,判例時報1498号44頁)。
上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成6年3月30日,差止めを求める部分及び将来の損害賠償請求に係る部分につき控訴を棄却し,
受忍限度につき基本的に一審と同様としつつ,慰謝料の基準額を一部増額するなどして過去の損害賠償請求を一部認容する判決を言い渡し,この判決は確定した(判例タイムズ855号246頁,判例時報1498号25頁)。3
第5~7次訴訟(原告らの呼称では第1次新訴訟)等
横田飛行場の周辺住民は,平成8年,平成9年及び平成10年,米国及び被告に対し,横田飛行場における航空機離着陸などの差止め等(外交交渉義務確認請求を含むので「等」)並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。米国に対する訴訟については先行して却下判決がされ,我が国の民事裁判権は米国の主権行為には及ばないとしてこれ
を是認した最高裁判所の平成14年4月12日の判決(民集56巻4号729頁。以下「横田平成14年最高裁判決」という。)で決着した。被告に対する訴訟につき,東京地方裁判所八王子支部は,平成14年5月30日,差止め等を求める訴えを棄却し,将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,W値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の
損害賠償請求を一部認容し,その余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例タイムズ1164号196頁,判例時報1790号47頁。以下「横田平成14年一審判決」という。)。
横田平成14年一審判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成17年11月30日,差止め等を求める部分につき控訴を棄却し,将来の損害賠
償請求に係る訴えにつき,口頭弁論終結日の翌日から判決の言渡し日までについて認容し,その余は不適法として却下し,地域類型Ⅰと同Ⅱを区別することなくW値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の損害賠償請求を一部認容する判決を言い渡した(判例タイムズ1270号324頁,判例時報1938号61頁。以下「横田平成17年控訴審判決」という。)。
最高裁判所は,上記判決に対する被告の上告受理申立てを受理した上,平成
19年5月29日,将来の損害賠償請求に係る訴えのうち原審が認容した部分を破棄して周辺住民らの控訴を棄却する判決を言い渡した(裁判集民事224号391頁,判例タイムズ1248号117頁,判例時報1978号7頁。以下「横田平成19年最高裁判決」という。)。
なお,この間の平成6年と平成12年にも周辺住民らが同種の訴訟(第4,
8次訴訟)を提起したが,東京地裁八王子支部は平成15年5月13日にW値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして横田平成14年一審判決と基本的に同旨の判決を言い渡し,東京高裁は平成20年7月17日に一審判決後の平成15年度調査に基づく告示コンターの変更前と変更後の各W値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の損害
賠償の認容額を一部変更するほかは一審の判断を基本的に支持する判決を言い渡し(いずれも公刊物未登載だが判例秘書登載),最高裁での住民側の上告棄却・不受理決定により確定している。
本件訴訟は,通算すると第10,第11次に当たる。なお,第9,12次訴訟は当裁判所支部の民事第3部で審理が継続中である。(当裁判所に職務上顕
著な事実)
第3部
第1

原告らの主張

1
当事者の主張

差止請求権の法律上の根拠と許容性


法律上の根拠
差止原告らは,次のとおり憲法上保障される人格権,環境権,平和的生存権に基づき,被告に対し,横田基地の航空機の離着陸及びエンジン作動(以下「離着陸等」という。
)の差止請求権を有する。

人格権
人格権の一内容としての,静穏,快適かつ安全な日常生活を享受する権利は,憲法13条,25条によって保障されている。

本件において,差止原告ら横田基地周辺住民は,横田基地の騒音によって著しい精神的苦痛を被っているとともに,平穏で安全な生活を乱され,著しい生活上の妨害を被り続けており,その被害が現実化しているのであるから,人格権に基づき侵害行為の排除を求めることができる。イ
環境権
環境権は,健康で快適な生活を維持する条件としての良い環境を享受
し,これを支配する権利とされており,憲法13条,25条によって保障されている。
差止原告らは,横田基地の航空機による騒音により,健康で快適な生活を維持する条件としての良い環境を享受することができず,環境権を
侵害されているから,環境権に基づき,横田基地の航空機の離着陸等の差止めを求めることができる。

平和的生存権
戦争の準備行為,飛行訓練・演習等の軍事的な活動による被害や恐怖
にさらされている者は,平和的生存権(憲法前文,13条)に基づき,当該活動の差止めを請求することができる。
横田基地は軍事基地であり,戦闘行為を行うために必要な銃器,爆弾等の軍事物資を積んだ軍用機による飛行訓練・演習を行っているところ,差止原告らは,軍用機の騒音による被害,軍用機の墜落・落下物の危険,
戦争に巻き込まれるのではないかという恐怖にさられているのであって,平和的生存権を侵害されているから,平和的生存権に基づき,横田基地の航空機の離着陸等の差止めを請求することができる。⑵

民事訴訟による自衛隊機の飛行差止めが可能であること
被告は,厚木飛行場に関する最高裁判所平成5年2月25日判決・民集47巻2号643頁(以下「厚木平成5年最高裁判決」という。
)等を根拠
に,自衛隊機の離着陸等の差止めを求める訴えは不適法であると主張する。
しかしながら,厚木平成5年最高裁判決は,自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使について周辺住民との関係で公権力性を認めた点で間違っている。同判決後の小松基地に関する平成14年3月6日金沢地方裁判所判決(以下「小松平成14年一審判決」という。
)は,自衛隊法上,
防衛大臣が周辺住民に対する騒音の影響に配慮してその運航統括権限を行
使すべきことを定めた規定は設けられておらず,まして,それに当たり周辺住民等国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定し得ること,たとえば周辺住民に騒音等の受忍義務を課しうることを定めた規定も,その要件,内容,効果等を定めた規定も何ら設けられていないから,法治主義,法律による行政の原則に照らして,広汎性のある騒音の発生が必然的であ
るという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生するということにはならず,周辺住民への配慮責務が行政庁に課せられているということから法律上の明確な根拠なくして周辺住民に騒音受忍義務を課すことは許されない旨判示し,自衛隊等の離着陸等の差止請求は,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求
を包含することにならないとして,民事上の訴えとして不適法ではないとの判断を示している。


米軍機の飛行差止めが可能であること
被告は,厚木平成5年最高裁判決を根拠に,米軍機の離発着等の差止め
を請求するのは,国に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるとして,主張自体失当と主張する。しかしながら,地位協定3条3項が「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は,公共の安全に妥当な考慮を払つて行わなければならない。
」としており,また,同協定16条が「日本国において,日本国の法令を尊重し,及びこの協定の精神に反する活動,特に政治的活動を慎むことは,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。」
としているとおり,米軍の基地管理権限は無制限ではなく,本件のように米軍機が横田飛行場外を飛行する結果,基地外の住民に騒音被害をもたらす場合,日本国の法令による制約は米軍にも及ぶことになり,被告は米軍の活動を制限することができると解すべきである。また,地位協定18条
5項にいう「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」には,差止請求権も含まれると解されるから,原告らの請求は地位協定上の根拠を有するものである。さらに,午後10時か
ら翌朝午前6時までの米軍機の飛行及び地上での活動制限を内容とする平成5年日米合同委員会合意に基づき被告には同内容の履行義務が生じることからすれば,原告らの請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものではない。この合意によれば,少なくとも午後10時から午前6時までの飛行差止めを求める部分については認容されるべきであ
るし,それ以外の時間帯についても,日米合同委員会航空機騒音対策分科委員会(甲A17)において合意をして規制することができるのであるから,原告らの請求は認容されるべきである。
加えて,横田飛行場の米軍機による騒音が裁判所の判決によって何度も違法と認定されているにもかかわらず,被告が米軍に対する基地の提供を
やめないどころか,横田飛行場の拡張及び機能強化を積極的に行い,巨額の予算を投じてきたことは,被告自身が違法行為を行っているものと評価することができる。米軍機の飛行差止めの必要性について見ても,米軍機が平成5年日米合同委員会合意に違反して夜間,早朝飛行を行ってきたこと,米国政府が地位協定に基づく賠償金の負担を一切拒否していること,差止請求を認容しても横田飛行場の機能に影響はないことなどからすれば,米軍による違法
行為抑止のためにも,差止めを認める必要性が高い。
したがって,差止原告らは米軍機の飛行差止めを請求することができるというべきである。この点,差止原告らがアメリカ合衆国政府を被告として米軍機の飛行差止請求をしたとしても,日本国の民事裁判権が及ばないとして不適法却下判決がされることになるから(横田平成14年最高裁判
決)
,被告に対して飛行差止めを求める本件の請求を主張自体失当としてしまうと,米軍機の飛行差止請求については我が国の裁判所による実質的な判断が全くされないこととなり,裁判を受ける権利の侵害となりかねない。2
損害賠償請求権の法律上の根拠


民事特別法2条
民事特別法2条は,米軍の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために日本国内において他人に損害を生じたときは,国賠法2条の例により,国が損害賠償責任を負うという趣旨の規定であるから,国賠法2条についての大阪空港最高裁大法
廷判決の解釈がそのまま民事特別法2条についても当てはまる。
本件において,横田飛行場が「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件」に当たることは明らかである。そして,横田飛行場は多数の住民の居住する地域に極めて接近して存在しているため,多数のジェット機や大型機を離着陸させること等によって周辺住民に
騒音等による甚大な損害を及ぼすことは不可避である。
横田飛行場がこのような状態にあり,騒音等により原告らを含む周辺住民の人格権,環境権及び平和的生存権を侵害し,受忍限度を超える危害を生じさせていることは,営造物が有すべき安全性を欠いている状態,すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあるものというべきである。したがって,被告は,民事特別法2条によって,原告らの損害を賠償する責任を負う。



国賠法2条1項
営造物がその供用目的に沿って利用されている状況のもとにおいて,利用者以外の第三者に危害が生ずる場合も,これから危害が生ずるような場合も上記の瑕疵に含まれる。
被告は,東京都という人口過密な地域において,多数の住民の居住する
地域に極めて密接した場所にある横田飛行場内に自衛隊基地を設置し,米軍機の飛行に加えて自衛隊機が飛行するようになれば,横田飛行場の騒音による被害が増大することを知りながら,あえて横田基地に自衛隊基地を設置したのであるから,自衛隊基地としての横田飛行場の設置,管理に瑕疵があることは明らかである。

したがって,被告は,同条項により,原告らの被った損害を賠償する責任を負う。


国賠法1条1項
被告は,米軍に横田飛行場を提供し,周辺自治体を含む多数の住民の声
を無視して基地の拡張・機能強化に協力し,また,被告が有する権限を行使して原告ら周辺住民の被害を軽減すべき義務を一貫して怠ってきた。被告は,横田平成17年控訴審判決で,騒音被害を放置した責任を厳しく指摘されているにもかかわらず,その後もなお,横田飛行場を米軍に提供し続けており,周辺住民らの騒音被害を抜本的に解消したり,補償制度
を設けたりする対策を取ろうともしていない。
これらの被告の作為及び不作為は,被告の公権力の行使に当る公務員の作為及び不作為に該当することが明らかであり,原告らの被害は,これら被告の公務員の作為及び不作為によって生じたものである。
よって,被告は,同条項により,原告らの被った損害を賠償する責任を負う。
3
侵害行為の内容


航空機騒音による侵害

横田飛行場周辺における航空機の飛行状況
横田飛行場周辺では

ように米軍機及び自衛隊機(以下「米

軍機等」という。)が飛行し,周辺住民に騒音被害を与えている。常駐機について
横田飛行場には,C-130ハーキュリーズ,C-12Jヒューロン,UH-1Nイロコイといった米軍輸送機・連絡機が常駐している。C-130ハーキュリーズは,軍用中距離戦術空輸機であり,横田飛行場で年間を通じて最も離着陸回数が多い。C-12Jヒューロン
はプロペラ式の小型輸送機・連絡機で,人員輸送や貨物輸送に使用される。UH-1Nイロコイは連絡用の中型ヘリコプターである。これらの常駐機は昼夜を問わず頻繁に旋回訓練を行い,基地周辺に騒音被害を与えている。
他基地からの飛来機について

上記の常駐機のほか,横田飛行場には輸送機C-5ギャラクシー,同C-17グローブマスター,空中給油・輸送機KC-10エクステンダー,同KC-135ストラトタンカー,多用途ヘリコプターSH-60シーホーク,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド等の米軍輸送機が連日飛来している。また,戦闘機F-15イーグル,艦上戦闘・攻撃機F
A-18ホーネット,電子装備攻撃機EA-6Bプラウラー,早期警戒機E-2Cホークアイ,戦闘機F-16ファイティングファルコン等の米軍戦闘機や米軍攻撃機も頻繁に飛来して旋回訓練等を行っている。また,平成26年7月以降は,MV-22オスプレイも飛来している。中でも,C-5ギャラクシーは,世界最大級の輸送機で,離着陸時飛行直下では110dBを超える激しい騒音を発生させている。また戦闘機であるF-15イーグル,FA-18ホーネット等も頻繁に飛来しており,その騒音は激甚である。
横田飛行場には自衛隊機は常駐していないものの,連絡機が度々飛来するほか,横田飛行場日米友好祭等のイベントの際には多数の自衛隊機が飛来して,基地周辺に騒音被害を与えている。飛来機は中等練習機と
連絡・支援任務に使用されるジェット機T-4,大型輸送用ヘリコプターCH-47J,ビジネスジェット機U-4などである。
飛行コースについて
横田飛行場周辺での航空機の飛行コースは,南北の直進コース,東西の旋回コースに大別される。

南北の直進コースは横田飛行場に離着陸する航空機の取るコースである。一般的に離陸の方が着陸より高出力のため騒音のピーク値が高く持続時間も長いが,他方,着陸は進入角度が小さく低空で進入してくるため,騒音の影響はすさまじい。
また,東西の旋回コースは,搭乗員の離着陸訓練の際に取られている
コースで,2機から8機の編隊で行うこともある。旋回コースは多様で広範囲にわたり,発生する騒音は滑走路延長線上の測定点では捕捉されにくいが,周辺住民の被害感は強い。
飛行訓練について
横田飛行場では,常駐機及び飛来機による物資投下訓練やパラシュー
ト降下訓練,旋回訓練,タッチアンドゴーを日常的に行っている。横田飛行場の常駐機であるC-130ハーキュリーズの頻繁な低空・旋回訓練のほか,他基地からの飛来機を含めた戦闘機,ヘリコプターや警戒機等による旋回訓練が住民を苦しめ続けている。
また,飛行訓練としてサムライサージ訓練(輸送機の運用能力向上のため,多数機により編隊飛行などを行う訓練),緊急管理演習(略称EME。大地震,航空機事故等の重大事故における対応訓練),初動対応
即応演習(略称IRRE。緊急事態発生に対する初動の対応を行う訓練),運用即応演習(略称ORE。仮想戦闘環境における基地の機能テスト),戦闘対応即応演習(略称CERE。戦闘装備品等の確保に迅速に対処するための対応訓練)等が行われている。これらの訓練は激しい騒音を長時間にわたって発生させる。

なお,平成27年5月12日,日米両政府は,対テロ作戦等を主要任務とするCV-22オスプレイを平成29年後半以降に横田基地に配備することを公表しており,今後,騒音の更なる激化が懸念されている。イ
横田飛行場における航空機騒音の特徴
横田飛行場は,民間飛行場と異なり,定時に飛行がされるわけではなく,住民は,いつ爆音に曝されるか分からない上,日中のみならず深夜,早朝も飛行し,国際情勢や米国の都合により,いつ飛来する航空機の数や種類が増加して騒音が飛躍的に増加するかも分からない。
横田飛行場に離着陸する航空機は,大別するとジェット機,プロペラ機
及びヘリコプター機よりなるが,民間機と異なり,航続距離や運搬能力を重視する軍用機はエンジンの低騒音化を施しておらず,騒音に配慮した飛行方法もとられていない。
このうち,ジェット機の騒音は,その主成分が中高音域にあり,プロペラ機と比べて1000ないし4000Hzの周波数域での音圧が高く,4
000Hz以上の周波数域では圧倒的に音圧が高い。ジェット機の高音圧・高周波成分の騒音は,かん高い金属音となって響き,人に不快を感じさせる原因となっている。例えば,KC-135ストラトタンカー(空中給油・輸送機)は4000Hz付近の高音域に主成分があるため,横田飛行場に飛来する米軍機のなかでも最もやかましく感じられる機種の一つである。
プロペラ機は,75ないし300Hzに主成分があり,高音域になるに
従って音圧レベルが急速に低下し,また出力も小さいが,基地周辺ではジェット機よりも低空を低速度で飛行するため,高騒音・長時間の被害を住民に与える。
ヘリコプター機は,それ自体の騒音はプロペラ機ほどではないにしても,プロペラ機よりさらに低空を低速度で飛行するため,結局高騒音・長
時間の被害を住民に与えており,さらに後述する低周波音の影響もある。ウ
防衛施設庁方式によるW値を騒音の評価指標とすべきであること
航空機騒音の評価指標としては,従来,W値が用いられてきたが,一口にW値といっても,前述のとおり,我が国では昭和48年環境基準に
基づく環境庁方式と防音工事助成措置等に関して用いられてきた防衛施設庁方式の2つの方式が併用されており,これらは基礎となる数値の取り方や計算方法が異なる。
これらのW値の算定方式のうち,過去の基地騒音訴訟において用いられてきたのは,防衛施設庁方式によるW値であり,本件でもこの算定方
式によるW値が用いられるべきである。
すなわち,軍用空港は,一定の航空機が定期的に運航する民間空港に比べ,航空機の機種,飛行回数,飛行経路,飛行態様が格段に多種多様で複雑であり,同一地点でも航空機による騒音のピークレベルと継続時間の変化が大きく,ほとんど飛行がない日がある一方で1日に100回
を超える飛行が行われる日もあるなど日によって騒音への曝露状態が大きく異なることから,環境庁方式によるW値では住民のうるささの反応に適合せず,航空機騒音に対する受忍限度を判断する指標としては不適当である。これに対し,防衛施設庁方式では,上記のような軍用空港の特殊性に鑑みた補正が施されており,より適切に騒音とこれに対する住民の反応を評価することができる。
これに対し,被告は,防衛施設庁方式は,実際の飛行回数に補正など
をしているため,騒音が現実に生じたと推定されるわけではないなどと主張するが,上述のとおり,同方式は,軍用空港の特殊性をより正確に反映させるための算定方式であって,飛行回数の補正も,実証データに基づいた妥当性と合理性をもたせるために行われるものである。軍用空港周辺の航空機騒音について環境庁方式と防衛施設庁方式のそれぞれで
W値を算出すると,環境庁方式の方がW値で3~5程度低くなることが確認されており,環境庁方式では軍用空港周辺の騒音を過小に評価することになる。
さらに被告は,昼間の騒音を控除して環境省方式で算定した昼間騒音控除後W値なるものにより航空機騒音の内容及び程度を判断すべきであ
ると主張するが,W値とは一定の地域を一つの社会環境的な単位として1日24時間を前提に評価する尺度であるから,子どもや老人,健康な人や病人,会社員や自営業者,家庭の専業主婦や学生など,様々な生活パターンの人がいることを当然の前提としており,昼間に当該地域にいない人がいるという理由で昼間の騒音を控除することはW値の前提条件
を覆すものである。
昼間の騒音被害が共通損害とはいえないとの主張も,原告らが主張する後述の共通損害の考え方を誤解するものであって,失当である。エ
騒音の実態
被告が防衛省北関東防衛局のウェブページで公開している横田飛行場の北側(瑞穂町箱根ヶ崎)と南側(昭島市美堀町)の行政財産内の2地点(以下,単に「瑞穂」,「昭島」と表示する。)の自働測定結果(甲B276の1~287の9。70dB以上,継続時間3秒以上の航空機騒音が測定対象)を原告らが年度集計した結果によれば,横田基地の航空機の飛行実態は次のとおりである。
1日平均飛行回数

次のとおり,昭島での最近の1日平均飛行回数は28回から30回で,告示コンターが告示された平成17年の25.9回から明らかに増加しており,瑞穂でも同程度で,依然として高い水準にある。
H17

H18

H19

H20

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

H28

昭島

25.9

28.6

29.0

30.0

26.4

28.2

29.3

26.6

28.0

28.5

29.1

26.7

瑞穂

32.2

29.4

26.1

29.3

28.0

29.3

25.3

24.5

26.6

28.5

28.6

25.9

1日最大飛行回数
次のとおり,昭島では平成23年度に119回に達しており,平成2
4年度にいったん減少したものの,その後はまた増加に転じて,100回を超える飛行回数を記録している。瑞穂では平成21年度以降増加傾向にあり,平成23年度以降は6年間のうち5年間において,100回を超えている。
H17

H19

H20

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

H28

昭島

瑞穂
H18

団らん時間(19時から22時)及び深夜(22時から0時)と早朝(0時から7時)の飛行回数
次のとおり,団らん時間の飛行回数は,昭島においては,平成23年度以降,年間2000回前後へと増加した上,平成27年度には2163回に達して増加の一途にあり,瑞穂でも同様に増加している。
昭島

H20

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

団らん時間

深夜

早朝

瑞穂

H20

H21

H22

H23

H24

H25

H26

H27

団らん時間

深夜

早朝

深夜早朝の時間帯の飛行は,平成5年日米合同委員会合意によって原則として禁止されているにもかかわらず,依然としてなくなっていない。特に瑞穂で近年増加に転じており,早朝については,昭島,瑞穂のいずれでも平成26年度に増加に転じており,今後も増加が起こらないという保証は全くない。
また,平成27年度を例にすると,深夜早朝の合計は昭島で113回,瑞穂で134回となり,平均では3日に1回程度の割合となる。しかし,原告らが実感する騒音状況は年間飛行回数のみでは評価できず,
昭島市の拝島第二小学校における時間帯毎の自働測定結果(甲B234の8)を見ると,同年11月22日夜間から23日早朝にかけては,多くの人が就寝している午後11時から午前5時台に合計7回もの飛行があり,騒音によって一晩に7回も睡眠を妨害されるという深刻な被害の実態がある。

依然として高いW値
防衛省北関東防衛局の測定によるW値は,被告によれば環境庁方式で算定したものというのであるから,上記ウのとおり防衛施設庁方式のW値に換算する必要があり,この数値に両方式の開差を100パーセント含む数値である5Wを加算するのが相当である。そうすると,下表のとおりとなり,昭島では横ばいで,瑞穂では平成26年度に87Wに達するなど増加傾向といえる。航空機の運航態様が不定であるため,騒音曝露量が一定せず,期間ごとの変動幅が大きいという軍用空港の特殊性を
考慮すると,いずれにおいても全体的には告示コンター上のW値と概ね同程度ないしこれに近似した結果を示しているといえ,横田飛行場周辺の騒音曝露量は高水準のまま維持されている。
H22

H24

H25

H26

H27

H28

昭島

85.1

84.8

84.9

84.3

85.6

83.5

83.4

瑞穂


H23

85.0

85.1

85.1

84.4

87.0

84.8

85.4

告示コンターで捕捉されていない深刻な騒音の実態
飛行経路の種類

米軍の平成27年の発表(甲B167)により横田飛行場における飛行経路には次の①~⑤があることが明らかとなったが,告示コンターの基礎となった平成15年度調査ではそのうち①と④が調査の中心とされており,その余の3つは捕捉されていない。


有視界飛行方式(Visual

Flight

Rule。以下

「VFR」ということがある。
)による平均海面からの高度2000
フィート(約600メートル)地点での矩形パターン(以下,このパターンを「場周経路」という。

VFRとは離陸後に目視にて位置を判断する飛行方式をいい,これによって飛行する航空機の離着陸の際に定められた場周経路を飛行するものである。タッチアンドゴーや旋回訓練などVFRで滑走路を使う飛行機は全てこの場周経路に集中する。ただし,場周経路の運用実態は,パイロットが目視で飛行するため,幅がある。


VFRによる平均海面からの高度1500フィート(約450メートル)地点での場周経路



VFRオーバーヘッド・パターン
有視界飛行方式で,通常の場周経路よりも高い高度(2500フ

ィート。約750メートル)で飛行する航路である。飛行場上空まで速度と高度を落とさずに近づくことができ,敵機が接近して急襲してきた場合に迅速に対処するための訓練ルートである。


レーダー矩形パターン
計器飛行方式による滑走路延長線上の飛行航路である。



ヘリ移行パターン
ヘリコプターの場周経路である。
捕捉されていない飛行方法・飛行経路の存在
平成15年度調査

②やそれよりも低空飛行を行っている
③について全く考慮されておらず,さらに,飛行

方法についても,滑走路延長線をそのまま離陸することを前提にしているところ,横田飛行場における一般的な飛行方法のうち,西側を26マイルまで進出してから東側に飛行し,通常より低高度で飛行する離陸方法や,激甚な騒音を発生させる5500フィートからの急降下訓練や,場周経路外における旋回訓練などは捕捉されていない。
平成15年度調査のその余の問題点
その他,平成15年度調査は,滑走路延長線上と場周経路だけに特化した調査地点しか設けられておらず,調査日数も少ないほか,深夜の時間帯における飛行を調査しておらず,また,調査対象とした機種を8つ
に絞り,かつ機種識別を自動騒音測定装置に頼って調査してしまっているという点でも問題点がある。以上のとおり,平成15年度調査には問題が多く,騒音の実態を十分に捕捉しておらず,実際の騒音被害はより深刻である。


地上騒音による侵害
地上騒音とは,タクシーイング音(航空機が離着陸の前後に駐機場と滑走路を行き来する際の騒音)
,APU(駐機中の航空機に空気圧,油圧,電力

などを供給するために装備された補助動力装置)等の空港場内音,航空機の整備に伴うエンジン試運転の音,離着陸前のエンジン調整音,離陸直前のランナップ音などの上空ではなく飛行場内から発生する音のことをいう。原告らが平成28年3月23日から同月29日にかけて専門業者に依頼して行った騒音測定結果(甲B239)及び同年1月29日に実施された本件
検証期日における騒音測定結果(甲B161)によれば,横田飛行場周辺においてタクシーイング音等が確認されたほか,原告らも地上騒音の発生を訴えており,離着陸が続く際には地上騒音は長時間続き,早朝や深夜に発生することもあって,その程度は到底看過することができない重大なものである。しかるに,WECPNLでは,航空機の離陸や着陸に伴い発生する飛行騒音
が主として評価の対象となっており,地上騒音は評価の対象となっていない。⑶

航空機の排気ガス,振動等による侵害


航空機に使用されるジェット燃料は天然の原油を精製して得られる成分を主体に構成され,市販されている灯油やガソリンに幾分近い性質を備え
ているため,排気ガスを発生させる。横田飛行場を離着陸する航空機は,一酸化炭素,窒素酸化物などの大量の排気ガスを原告らが住む地域にまき散らして,原告らの家の壁やベランダ等に汚れを生じさせたり,健康への悪影響を生じさせたりしている。

航空機が周辺地域の居宅の上空を通過する際,家屋が振動し,場所によっては,屋根瓦やタイルの落下,外壁のひび割れ,居宅の家具の振動等の事態も生じている。⑷

航空機の墜落及び落下物等の危険による侵害


航空機の墜落及び落下物の事故の危険性
横田飛行場周辺では,従前から航空機の墜落及び落下物の事故が頻繁に発生している。過去にこのような事故があったという事実自体が,墜落及び落下物の事故により,自己の生命,身体,財産が侵害されるかもしれな
いという現実的な恐怖感を抱かせるものである。また,オスプレイも複数回飛来しており,原告ら周辺住民に,墜落事故の恐怖,不安をもたらしている。

基地施設からの燃料漏出事故等の危険性
横田飛行場では,航空機燃料の漏出事故や火災事故が多数回発生してお
り,原告ら周辺住民に対して大事故の不安を与えるだけでなく,周辺環境を汚染し,住民の良好な自然環境を奪っている。

米兵の犯罪事件による侵害の危険性
従前から横田基地所属の米兵による犯罪事件も多数起きており,これによっても,原告ら周辺住民は,生命,侵害,財産侵害の危険,不
安にさらされている。


低周波音による侵害
低周波音とは人間の耳には聞こえにくい100Hz以下の周波数の音であり,壁や屋根を突き抜けて伝播する特徴を持つ。低周波音は従前実
施されてきたA特性レベルによる騒音測定では捕捉できなかったが,原告らが琉球大学の渡嘉敷健准教授に委託して平成27年9月20日から同月26日に行った低周波音測定報告書(甲B267。以下「本件低周波音測定報告書」という。)によって,横田飛行場に定期的に飛来するC-5ギャラクシーや常駐機であるC-130等から相当程度の低周波
音が発生していることが確認された。低周波音に関する環境基準はまだ策定されていないが,環境省は,一定の数値を超えた場合に低周波音の被害が発生する目安として参照値を公表しているところ,C-5ギャラクシーもC-130もこの値を大きく超えるレベルの低周波音を発生させている。この調査は期間が短い上,横田飛行場南側の1地点のみで行われたものであり,横田飛行場の低周波音の実態を表したものとはいえないが,その一端を明らかにした意味は大きい。また,常駐機であるヘ
リコプターUH-1を始めとする他の航空機や地上騒音も低周波音を発生させており,原告らが低周波音の心理的影響とされる不快感,イライラ感,圧迫感及び物的影響とされる振動といった被害を訴えていることからも,横田飛行場周辺における低周波音の発生は明らかということができる。なお,普天間基地に関し福岡高等裁判所那覇支部が平成22年7
月29日に言い渡した判決(同裁判所支部平成20年(ネ)第125号・判例タイムズ1365号174頁,判例時報2091号162頁。以下「普天間平成22年控訴審判決」という。)及び那覇地方裁判所沖縄支部が平成28年11月17日に言い渡した判決(同裁判所支部平成24年(ワ)第121号,443号。以下「普天間平成28年一審判決」という。乙217)も低周
波音による被害を認めている。
4
航空機騒音その他の前記3の侵害による被害


総論

原告ら横田飛行場周辺住民の被害の多様性・重大性
原告らの居住地域は,都心への通勤圏内にあるベッドタウンであり,航空機による騒音等がなければ,豊かな自然環境に恵まれて静穏な生活を営むのに絶好の条件を備えた地域である。
しかし,原告らは,横田飛行場に離発着する航空機の騒音その他の前記
3の侵害(以下「航空機騒音等」という。
)によって長年にわたって苦し
められ続け,様々な被害を受けている。
横田飛行場に離発着する航空機の騒音は,間欠的かつ衝撃的であるが,その音量が日常生活において他の例を見ないほどに強大であり,ジェット機による金属音や大型輸送機による振動を伴う威圧的な音など,その音色も耐え難いものである。また,航空機による騒音や振動は,周辺の広範な地域に均質的に及ぼされ,原告らの頭上から突如として襲い掛かってくるもので,防音壁や家屋による遮音の効果もほとんど期待できない。
原告らは,日夜を問わず,防止困難な航空機騒音等により生活環境を著しく破壊されているほか,横田飛行場が軍事基地であることから生ずる特有の危険性を感じており,静穏かつ安全な日常生活を享受する権利や平和的生存権を侵害されている。
このように,航空機騒音等により,原告らは,後記⑵以下のとおり睡眠
妨害,高血圧等の身体的被害,家族の団らんの妨害をはじめとする日常生活の妨害(墜落や落下物等の恐怖を含む。,心理的・情緒的被害をはじめ)
生活全般に深刻かつ重大な被害を被っている。

共通損害
原告らが航空機騒音等によって受けている被害は,原告ら各自の年齢,性別,家族構成,職業,居住条件,生活形態等の個別的条件の相違に応じて,その内容,程度及び発現形態を異にする。
しかし,本件における原告ら各自が受けている被害は,横田飛行場に離発着する航空機の騒音等に起因して発現したものである点で共通するもの
であり,均質的な騒音により生活環境を破壊されている点でも共通している。また,原告らは,各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるものではなく,原告らの被害に伴う精神的苦痛を慰謝料という形で請求するのであるから,その精神的苦痛を一定の限度で原告ら全員に共通する損害と捉え,その限度において各自一律に慰謝料として賠償を求めること
ができる。このような考え方は大阪空港訴訟に係る最高裁大法廷判決(昭和51年

第395号同56年12月16日・民集35巻10号1369頁。以下「大阪空港最高裁大法廷判決」という。)や前記「第2部

前提

となる事実」第6の横田飛行場を巡る従前の第一審,控訴審及び最高裁の判決を始めとする累次の航空機騒音訴訟でも広く認められてきたところである。


睡眠妨害
国内外において,騒音が人の睡眠に及ぼす影響について多くの調査・研究がされており,航空機騒音により睡眠妨害が生じることは科学的に明らかにされている。具体的には,①世界保健機関(以下「WHO」という。)は,
平成11年に環境騒音のガイドライン(甲C8。以下「WHOガイドライ
ン」という。
)を作成し,その中で,睡眠妨害が環境騒音の主要な影響の一
つであるとして,騒音によって睡眠に一次的影響が生じ,更に騒音を受けた次の日にも不眠感などの二次的影響が生じるとして,睡眠妨害を防止するためのガイドライン値を定めているほか,②欧州夜間騒音ガイドライン(甲C20)はWHOガイドラインを補完して,夜間の騒音による睡眠妨害が健康
影響の重要な要因であるとして夜間騒音による健康影響が生じないようにするガイドライン値を定めている。さらに,③沖縄県の委託で平成11年に行われた嘉手納,普天間両基地の周辺住民の健康影響調査の報告書(甲C7。以下「沖縄県健康影響調査報告書」という。
)や④石川勤労者医療協会城北
病院の服部真医師(以下「服部医師」という。)らが平成23年に実施した
小松基地周辺住民の戦闘機騒音による健康影響調査(以下「小松基地調査」という。)の報告書(甲C11の1・2。以下「小松基地調査報告書」という。
)でも,航空機騒音により睡眠妨害や不眠症が生じているとの分析結果が報告されている。
本件では,欧州夜間騒音ガイドラインの睡眠妨害による健康影響を防ぐた
めのガイドライン値であるLnight,outside(22時から翌7時までの夜間に発生した騒音についての等価騒音レベルを示す指標で屋外での計測値から計算するもの)40dBを超える夜間騒音が発生している。さらに,70Wを超える騒音が発生している旧75W地域に居住する原告らを含めた原告らの居住地域全域において,原告らは,日中はもちろん,大多数の人間が1日の疲れを癒やし,子どもや体調の悪い者にとっては睡眠導入の時間帯となる午後7時から午後10時の時間帯や,多くの人が睡眠を取る時間帯である
午後10時から翌朝午前7時の深夜早朝にも航空機騒音に曝され,人間としての生活にとっても,心身の健康にとっても重要なはずの睡眠を妨害されている。

身体的被害・健康被害
騒音は,人間に物理的ないし精神的・社会的ストレスを与える外部刺激の一つであり,直接的には聴覚器に作用して,一時的又は永続的に聴力を損なうほか,間接的には,自律神経を介した生体反応,内分泌反応,免疫系の変動が生じ,これらが相関し合って循環機能,呼吸機能,代謝機能,消化機能などに変化をもたらし,騒音量が一定量を超えて身体に影響を与えると,
様々な疾患・体調不良が生じる。WHOは,
「健康」について,
「身体的,精
神的,社会的に完全に良好な状態であり,単に病気又は虚弱でないことではない」と定義しており,騒音により健康が害されているかについては,疾病等が生じているかのみならず,精神的・社会的な良好状態が害されているかという点からも判断すべきである。WHOガイドラインによれば,騒音によ
り身体的被害が生じることが確立されているとされているほか,松井利仁北海道大学教授が嘉手納基地周辺の住民の高血圧の有症者数が1000人以上と推定される旨を算定した意見書(甲C24。以下「松井意見書」という。,)
沖縄県健康影響調査報告書,小松基地調査報告書などによれば,①高血圧・虚血性疾患などの心循環器系疾患,②聴力障害,耳鳴り,③流産や早産など
の妊婦に与える影響,④心身不調,自律神経失調症等の精神障害,胃への影響,発がんの促進その他の原告らに共通して発生している身体的精神的影響,⑤騒音を原因とする睡眠妨害に起因する各種健康被害,⑥会話や日常生活上の重要な音が聞き取れないという聴取妨害などの聴覚への影響,⑦認知能力の低下に伴う作業,学習に対する影響,⑧音そのものによって生じる不快感,⑨騒音への感受性が強い子どもの認知障害,行動・情緒障害は,全て騒音を原因とする健康被害に該当する。以上のように原告らは騒音により日々健康
をむしばまれながら生活を送っており,単に「うるさい」というだけではなく,身体的・健康的な被害という側面から騒音被害をとらえなおすべきである。

日常生活の妨害

騒音による会話の中断と電話・テレビ等の聴取妨害
原告らは,航空機騒音により,家族,親族,近隣住民,友人知人らとの会話や電話での通話を妨害され,仕事に支障が出ているほか,テレビ,ラジオの視聴や音楽鑑賞を妨害されている。


思考,読書,仕事,趣味等知的作業に対する妨害
原告らは,いつ発生するか予測ができない航空機騒音により,知的作業
を妨害されている。新聞,雑誌,書籍を読んだり,文章を書いたりすることや,俳句,詩歌,書道,楽器演奏などの趣味も妨害されている。さらに,家事労働,自宅を仕事場としている業務,文筆業,美容・理容業,事務仕事その他の作業を妨害されており,業務能率も低下している。

家族の団らんや休息時間の妨害
午後7時から午後10時までは本来家族で楽しく会話をしたり,食事をとったり,テレビを見たりといういわゆる団らんの時間であり,ゆっくりと穏やかに過ごす休息の時間であるが,横田飛行場周辺では,この団らん・休息時間帯に前記3⑴

のとおり年間2000回を超える航空機騒

音が発生しており,これら家族のコミュニケーションが中断され,家族の団らんや休息が破壊されている。エ

騒音の感受性が高い人への影響
病気療養中の人,障害者,高齢者,妊婦,乳幼児にとっては,強大な航空機騒音下での生活による精神的苦痛は特に厳しく,身体的影響も健常者に比して一層強く,その影響は大きいものである。


学習,勉学,学校の授業等の妨害,思考力や集中力の低下,特に年少者への悪影響
原告らの居住地域には,多数の小,中,高等学校が存在する。児童生徒らは,航空機騒音によりしばしば授業が中断し,集中力を妨げられ,授業の効果が低下している。さらに,自宅や学習塾,自習室等で静かに学習することも妨げられている。児童生徒らは,騒音のためにイライラし,落ち
着きを保てず,思考力や集中力が低下している。特に年少の子どもらは,大切な成長期にあるため,人格形成上の被害は大きい。


心理的・情緒的被害
横田飛行場に飛来する航空機は大型軍用機が多く,その騒音は,日常生活
上,他に類を見ないほどの強大さであり,かつ金属性の痛音である。このような騒音に日夜さらされている原告らは,いずれも強い不快感,いらだち,イライラ感を覚え,神経過敏となっているのみならず,常に航空機の墜落および落下物の恐怖,不安に怯えている状況である。中には,これが高じてノイローゼその他,精神,神経症状を訴える者もいる。また,騒音によりテレ
ビの音や会話が聞こえなくなったり集中力が途切れたりすることから,日常生活や学校生活において気短になったり,イライラし,落ち着きがなくなり,集中力を欠き,飽きっぽくなったり,神経質な性格になったりもする。さらに乳幼児期に航空機騒音にさらされたことによって過敏な反応を起こしたことが原因で,子どもの人格形成に悪影響を及ぼしたり,将来の悪影響の発現
を心配したりすることもある。
そしてこれらの被害は,WHOが,アノイアンスとして,心理的・情緒的被害というよりもそれ自体を健康被害としてとらえているのみならず,それによって健康を害する誘因となる点でも重大なものである。


その他の被害

交通事故の危険
原告らの居住する地域では,激甚な航空機騒音により,自動車のエンジ
ン音,クラクション音,接近音等がかき消されることもある。そのため,原告らは,自動車等の接近に気付かず,事故に遭う危険を感じている。イ
ペットに対する悪影響
犬,猫などのペットの飼育やペットとの生活は,都市近郊の住宅地域である本件被害地域でも,通常の市民生活において欠かすことのできない存
在になっている。航空機騒音に怯えるのは,犬,猫等のペットも同様であり,怯えるあまり,吠えるなどしたことが近隣で問題になり,対人関係を悪化させたりすることもある。

戦争の想起による精神的苦痛
原告らの中には戦争を体験した者もおり,そうでなくとも,横田飛行場
を離着陸する米軍機等の騒音により原告らは戦争を想起せざるを得なくなるという精神的苦痛を受けている。

排気ガスによる被害
大型ジェット機は,自動車とは比べものにならない大量の排気ガスを排出する。原告らが居住する地域の大気は,横田飛行場を離発着する航空機
の排出する排気ガスにより汚染されている。また,この排気ガスにより,屋根や物干し竿,住宅外部の手摺り等のベタつき,洗濯物の黒ずみ等が観察されることもある。

家屋の振動
横田飛行場に飛来する航空機,特に大型ジェット輸送機の飛行音は,他の騒音源と比較して著しく大きく,その高速進行が大気にもたらす衝撃は極めて強烈である。原告らが居住する地域では,航空機が飛行するたびに,家屋が振動し,場所によっては,屋根瓦やタイル等の落下,外壁のひび割れ等の危険がある。
5
損害賠償請求について


受忍限度を超える違法な侵害行為

告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告
侵害行為の違法性が認められるためには,当該侵害行為が社会生活上受忍すべきであると考えられる範囲を超えていることを要するとされるところ,その判断要素としては,
「侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害
利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容
と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきもの」とされている(大阪空港最高裁大法廷判決)

横田基地の騒音被害については,横田平成5年最高裁判決において7
5W以上の地域に居住する原告については受忍限度を超える違法な侵害行為が存在することが認められた。また,横田平成17年控訴審判決においても,同様の判断をしており,この判断は横田平成19年最高裁判決において確定している。本件訴訟においても,かかる地域に居住する原告らに対する侵害行為が受忍限度を超える違法なものであることは明
白である。

旧75W地域に居住する原告
告示コンターでは指定区域外とされている旧75W地域に居住すると主張する原告番号323番,713番,801番,816番,817番,
1067番の6名の原告ら(以下,一括して「指定区域外原告ら」という。
)も,次の理由により,75W以上の地域に居住する原告らと同様,同程度の航空機騒音等を原因とする身体的被害,睡眠妨害,日常生活妨害その他の被害による精神的苦痛を受けており,受忍限度を超える被害を受け続けていることが明白である。
前記3⑴エのとおり,航空機騒音の実態は平成15年度調査よりも深刻である上,A特性を前提として実施された同調査ではA特性では拾いきれない高レベルの低周波音は捕捉されていないし,前記3⑵の地上騒音もほとんど反映されていないから,実際には深刻な騒音被害が告示コンターの範囲を超えた指定区域外原告らの居住地域にも生じている。
また,環境基本法16条の規定に基づき,人の健康の保護及び生活環
境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として環境基準が示されており,航空機騒音に関しては,環境庁の告示(昭和48年環境基準)により,指定区域外原告らの居住地域を含む専ら住居の用に供される地域(Ⅰ類型)では70W以下,Ⅰ類型以外の地域で通常の生活を保全する必要がある地域(Ⅱ類型)では75W以下と定められている。こ
れは,科学的知見を前提として調査研究の結果をもとに政策的な要素も加味して,本来達成されるべき基準よりも緩和した基準であるところ,過去の調査で70W地域に居住する住民にも騒音による深刻な影響が生じることが明らかになっていること,横田飛行場が軍用の飛行場であることなどに照らして,最低限達成されるべき環境基準は防衛施設庁方式
での70Wとすべきである。指定区域外原告らの居住地域は,もともとは75W以上の地域であったが,平成19年5月1日に発効した第一種区域指定解除の告示(平成17年告示)により除外されたにすぎず,実質的には,75Wのコンターの外縁から至近距離に位置して従来と変わらぬ質・量の騒音に悩まされ続けているのであり,これらの原告らの居
住地が,少なくとも70W以上の騒音地域であることは明白である。さらに,欧州夜間騒音ガイドラインは,ガイドライン値をLnight,outside
40dBと定めているから,同ガイドライン値を超える地域に

も,受忍限度を超える騒音被害が生じていると見るべきである。そして,原告らの依頼で作成されたLnight,outsideによる騒音コンター図(甲C29。以下「原告夜間騒音コンター図」ということがある。)のと
おり,指定区域外原告らの居住地は,いずれもLnight,outside40
dBを超える地域である。
以上より,指定区域外原告らも,75W以上の地域に居住する原告らと同様,被告又は米軍が横田飛行場で発する騒音等により,共通の被害を受け続けていることが明らかであり,かかる被害は,音環境や静穏に対する社会的な価値が変化し,静音を求める社会的な要請が強まってい
る社会背景も併せ考慮すれば,受忍限度を超えるものというべきである。⑵

横田飛行場の公共性に関する被告の主張に対する反論
被告は横田飛行場には高度の公共性が認められ,受忍限度も高くなると主張する。しかしながら,憲法の規定する平和主義(前文,9条,13
条)に照らして,軍事的公共性は否定されるべきである。また,国防は他の行政部門と同等のものとみるべきであること,むしろ国防には外部からの攻撃対象にされるのではないかという不安感を与えるなどの消極的側面があること,仮に公共の利益の実現に資するとしても横田飛行場の周辺住民という一部の者を犠牲にすることは不公平であることに照らせば,横田
飛行場に高度の公共性は認められない。したがって,騒音被害の違法性(受忍限度)の判断に当たってこれを斟酌し,または重視することは許されない。
ましてや,横田平成17年控訴審判決においては,長きにわたり騒音等の被害を放置し続けてきた国の姿勢を「法治国家のありようから見て,異
常の事態で,立法府は,適切な国防の維持の観点からも,怠慢の誹りを免れない。
」と厳しく糾弾し,かかる違法状態の是正が強く求められたところである。しかし,現状はいまだ変わらないばかりか,かえって新たに横田基地に自衛隊航空総隊司令部を移転させるなど,被告は上記判決の指摘及び度重なる最高裁判決を無視し続けているのであり,かかる被告の姿勢自体,上記侵害行為の違法性を高めるものである。
なお被告は,航空機環境基準は受忍限度を画する基準ではないと主張し
つつ,同基準の類型Ⅱの地域に居住している原告らについては受忍限度を80Wとすべきであるなどと主張するが,自己に都合の悪い時は環境基準を軽んじ,都合のよい時にだけこれに依拠するという極めてご都合主義的な主張といわざるを得ない。被告の主張のように地域類型を考慮するのであれば,類型Ⅰの地域では受忍限度を70Wとすべきである。

以上のとおり,被告の侵害行為は,人格権,環境権及び平和的生存権を侵害するものであって著しい違法性を有し,受忍限度を優に超えるものである。

被告の防音工事助成その他の周辺対策等の主張に対する反論

住宅防音工事の実施状況について
被告の主張する原告ら(口頭弁論終結前に死亡した原告を含む。
)の
住宅に対する被告の助成による防音工事の実施状況のうち,各工事の種別,各工事の完了年月日及び各工事により防音工事が実施された室数が別紙6「防音工事一覧表」の各該当欄記載のとおりであることについては,
原告番号17,18,129~132,183,184,187~190,204,223,224,237~239,713,745,841~845,914~916,955,956,1061,1062の原告らに関する部分は平成28年12月時点で十分な資料の提出がなく,又は提出された資料と齟齬があるので知らず,原告番号983~990の原告らに
関する部分は,防音工事が実施された室数が1室にとどまるかについては知らず,その余の原告らに関する部分は認める。

住宅防音工事による減額について
被告は,住宅防音工事が実施された住宅については,航空機騒音に係る昭和48年環境基準の改善目標が達成できているなどとして,原告らの損害を減額すべきであると主張する。
しかしながら,仮に被告の主張を前提としても,そもそも,航空機環
境基準は屋外の騒音に関して設定されたものであり,屋内における騒音に関するものではない上,屋内におけるW値を60以下にすることは,昭和48年環境基準の告示後10年以内に達成されるべき改善目標にすぎず,最終的に達成されるべき基準そのものではない。
また,住宅防音工事の実態をみても,横田飛行場に関する住宅防音工
事は施工できる居室数が限られるなど対象が限定的であって,かつ効果がほとんどないか極めて乏しい。他方,防音工事を実施したほぼ全世帯が窓を閉めないと防音工事の効果が出ないと考えているところ,居住者にとっては,窓を閉め切って生活をすること自体が苦痛であること,住宅防音工事によって湿気や結露が発生すること,気管支やのどの痛み,
ぜんそく,呼吸障害等の病気にかかりやすくなること,窓を閉め切ることで空調機器を使用する頻度が高くなって電気料金が高額になることなどの弊害が多々生じている。沖縄県健康影響調査報告書においても防音工事実施の有無で健康への影響につき著明な差が認められなかったとされている。以上のように被告の主張する住宅防音工事は原告らの被害を
軽減するものではなく,これによる減額を認めるのは不当である。ウ
その余の周辺対策について
被告が主張するその余の周辺対策の大部分は,騒音被害の軽減とは無関係の施策であり,減額要素となるものではない。



被告の危険への接近の法理の主張に対する反論
横田平成17年控訴審判決は,危険への接近論について,大阪空港最高裁大法廷判決の判断枠組みを前提としながらも,免責法理としても減額法理としても全面的に排斥し,この判決は確定したこと,近時の他の基地訴訟の判決においても,危険への接近論を排斥する判断がなされていることからすれば,本件においても,危険への接近論を適用すべきではない。被告は自己責任の原則及び衡平の理念を持ち出して危険への接近論の適
用を主張するが,被告は,裁判所の度重なる違法の判断にもかかわらず,その違法状態を解消することなく被害を放置,拡大しているばかりか,被害実態等に関する情報を隠蔽してきたのであるから,そのような加害者である被告に自らの責任を棚に上げて自己責任の原則及び衡平の理念を持ち出す資格はない。

仮に危険への接近論の適用の可否を検討するとしても,原告らへの非難可能性はなく,原告らが騒音被害を容認していたものではない。すなわち,原告らは,経済的制約や通勤の便宜等諸般の事情を考慮した結果,各地域に居を定めざるを得なかったのであり,また,被告が積極的に騒音被害の範囲,程度,被害実態に関する情報を開示しない中で,原告らが住居の選
定に当たって騒音を現実に認識することは困難であるから,原告らの被害地域への転入は非難されるべきではないし,騒音被害を容認していたということもあり得ない。
さらに被告は,平成6年1月1日を基準日とし,同日以降の被害地域への転入者につき被害を認容していたか,認識しなかったことに過失がある
などと主張するが,被告が主張する横田飛行場に関する報道や告示は危険についての認容あるいは過失の根拠にはならず,また,航空機騒音は横田飛行場周辺に一定期間居住して初めて認識できるものであること等からすれば,同日が何らの基準日にもなり得るものではない。その他,個別の原告に係る被告の危険への接近論の主張はいずれも失当である。



原告番号25のフィリピン国籍の原告についての相互保証に関する被告の主張に対する反論ア
立証責任は被告にあること
国家賠償請求権を定めた憲法17条の規定の文言は「何人も」として対象を限定しておらず,また,国賠法1条1項及び同法2条1項は「他人」とのみ規定し,日本国民ないし相互の保証の存在する国の国籍を有
する外国人という規定にはなっていない。そして,国賠法6条は,その者が外国人である場合に初めて,その外国人が国籍を有する国と我が国との間に相互の保証があるかどうかを問題にしている。このような憲法及び国賠法の規定の構造に鑑みると,当該原告についてフィリピン法による相互保証がないことを被告が抗弁事実として主張立証すべきである。

相互保証の要件を充足すること
そもそも,国賠法6条は違憲の疑いがあるところ,被害者救済の観点及び国際協調主義の観点も併せて考えれば,同条の要件を厳格に解釈すべきではなく,フィリピンにおいて日本人が同種の請求をした際に何ら
かの法的救済の途があれば相互保証の要件を満たすというべきである。そして,フィリピンにおいては,外国人が国に対し損害賠償請求を行う場合に相互保証は求められず,民法等により一定の場合に国又は地方自治体が損害賠償責任を負うこととされているから,日本国民も,フィリピン政府に対し,法的救済を求めることができる。厚木飛行場に係る
平成27年7月30日東京高裁判決(判例時報2277号84頁。以下「厚木平成27年控訴審判決」という。
)も,フィリピンでは国家無答
責の原則が実定法上規定されているものの,その適用範囲は国の同意や裁判所の判断により限定されている場合もあり,同法理の存在を絶対視することはできないなどとして,フィリピン国籍の者について,国賠法
6条の相互保証の要件を満たすと判断した。
したがって,本件においても,フィリピン国籍の原告番号25の原告は,相互保証の要件を充足する。⑹

原告番号883の原告に係る裁判所の補正命令への反論
上記の原告については,本来は,訴訟委任状の裏面に記載されているはずの代理人目録が印刷ミスにより空白となっていたが,他の書面によって授権が明らかであれば足りるところ,第1事件について同時に裁判所に提出され
た他の訴訟委任状や世帯を同じくする娘である原告番号881の原告が作成した,原告番号883の原告が同一代理人に第1事件を委任した旨の陳述書(甲C10の881の2)等によって授権の事実は明らかである。原告番号883の原告は補正命令当時既に死亡しており,当該原告に訴訟委任状の提出を命ずる補正命令は不可能を強いるもので民訴法59条,31条1項の要
件を欠き,無効である。


損害額
騒音の人に対する有害性が広く周知され,静かな環境を確保することの重要さが意識されるようになったことや近時の航空機騒音訴訟における損
害賠償額の高額化傾向に加え,原告らが横田飛行場の航空機騒音等によって受けている被害が単なる不快感にとどまらず,身体や健康,情緒あるいは日常生活等の様々な局面に及ぶ極めて重大な被害であること,何度も訴訟を提起しなければならない原告らの負担が大きいこと,横田飛行場の航空機騒音等への抜本的対策を執らずに放置している被告への制裁や不法行
為の抑止の必要性が高いこと等に照らせば,原告らが被った被害に伴う全員に共通する損害は,どんなに少なくみても,原告ら1人当たり,慰謝料として1か月当たり2万円を下らず,それに伴う弁護士費用は慰謝料額の10パーセントに相当する1か月当たり2000円が相当である。原告らは,提訴時までに発生した損害として,提訴日より遡って過去3年分(第
1事件原告らにおいては平成22年3月27日から平成25年3月26日まで,第2事件原告らにおいては平成22年8月1日から平成25年7月31日まで)の慰謝料と弁護士費用の合計である79万2000円をそれぞれ請求し,提訴日以降も1か月当たり2万2000円の支払を請求し,併せて上記79万2000円に対する各訴状送達の日の翌日から,提訴日以降分の毎月2万2000円に対する当該月の翌日1日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。



口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求の適法性
そもそも,将来の損害賠償の訴えを不適法として却下すべきものとした大阪空港最高裁大法廷判決の判断は,40年近く前のものであり,この判断に対する裁判所,研究者からの批判があることに照らし,見直すべきで
あって,あらかじめその請求をする必要がある限り,将来の損害賠償請求を認容すべきである。本件では,横田飛行場の基地としての重要性が増大し,騒音被害が継続しているから,あらかじめその請求をする必要がある場合に当たることは明らかである。
仮に,大阪空港最高裁大法廷判決の判断基準によるとしても,本件では,
横田飛行場周辺の航空機騒音の発生により被害地域で居住する原告らは受忍限度を超える被害を受けているのであるから,請求権の基礎となる事実関係及び法律関係が既に存在するといえ,昭和51年の第1次訴訟の提訴から既に2度の最高裁判決を含む3度の確定判決により周辺住民の損害賠償請求が認容されるなど,横田飛行場周辺の航空機騒音の違法性は少なく
とも40年近くにわたって継続している。これに加えて,平成29年後半からCV-22オスプレイが配備される計画があることからすれば,上記請求権の基礎となる事実関係及び法律関係の継続が予測される。
また,請求権の成否及び内容につき被告に有利な影響を生じ得る事情の変動としては,①航空機騒音状況の改善,②周辺住民の転居・死亡,③住
宅防音工事の実施状況の3点が考えられるが,上記①は騒音データ等に基づく限り複雑な判断や評価を要しないものであるし,②は客観的事実として明確であることに加え,③は前述のとおり原告らにとってその効果が期待できずそもそも被告に有利な事情とはいえないから,いずれも将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られているといえる。
さらに,上記①及び②の立証の負担を被告に課すことの当否についても,
①は,被告は横田飛行場の設置者として航空機騒音の状況を最もよく把握し得る立場にあるから,被告が航空機騒音の発生状況の変化の事実を立証することが困難であるとはいえず,②についても,被告には住民票の写しの閲覧や交付請求が認められており,その調査確認が著しく困難であるとはいえないから,いずれについても請求異議の訴えによりその発生を証明
してのみ執行を阻止しうるという負担を被告に課しても格別不当とはいえない。
第2
1
被告の主張
差止請求の許否ないし可否


自衛隊機に対する差止請求が不適法であること(本案前の答弁)
差止原告らの請求のうち,自衛隊機の離着陸等の差止めを求める部分
は,厚木平成5年最高裁判決及び福岡空港に係る最高裁平成4年(オ)第1180号同6年1月20日第一小法廷判決・裁判集民事171号15頁(判例タイムズ855号103頁,判例時報1502号98頁。以下「福岡空港最高裁判決」という。)が説示するとおり,防衛大臣に委ねられた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるから,民事上の訴えとしては不適法であり,却下されるべきである。


米軍機に対する差止請求が主張自体失当であること
米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を理由として,直接の加害者では
ない被告に対し,米軍機の差止請求をするためには,被告が米軍機の運航等を規制し,制限することのできる立場にあることが必要であるところ,横田飛行場に係る被告と米軍との法律関係は,条約(地位協定2条1項⒜⒝)に基づくものであるから,被告は,条約及びこれに基づく国内法令に特段の定めがない限り,米軍の横田飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得るものではない。

現在,関係条約及び国内法令に前記のような米軍機の横田飛行場における運航の規制等に関する特段の定めはないから,差止原告らの米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものであって,主張自体失当である(横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決,福岡空港最高裁判決参照)。

したがって,差止原告らの請求のうち,米軍機の差止めを求める部分は,その主張それ自体から理由がないことが明らかである。
2
損害賠償請求権の法律上の根拠に関する原告らの主張に対する反論原告らは,過去の損害の賠償を求める部分に関する適用法条として,民事特
別法2条並びに国賠法1条1項及び2条1項を挙げているが,本件損害賠償請求については,端的に民事特別法2条の規定に照らしてその成否を検討すれば足りる。
すなわち,民事特別法2条にいう「土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があった」とは,国賠法2条1項における解釈と同様に,当該物件を
構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず,その物件が供用目的に沿って利用されることとの関連において他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み,また,その危害は,当該物件の利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解される(大阪空港最高裁大法廷判決参照)。

原告らは,横田飛行場が民事特別法2条にいう「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件」に当たることを前提として,横田飛行場は,多数の住民が居住する地域に極めて接近した場所に所在するところ,被告が被害の発生を防止するために十分な措置を講じないまま,多数のジェット機等を離着陸させ,あるいは訓練飛行としての旋回訓練をさせることによって,原告ら周辺住民に対し,航空機騒音等による甚大な被害を及ぼすおそれを生じさせていることなどを理由に,本件損害賠償請求をしている。民事特
別法の前記解釈に照らせば,本件損害賠償請求が認められるかどうかは,まさに同条にいう「設置又は管理の瑕疵」の有無の解釈に尽きる問題である。そうすると,本件損害賠償請求については,端的に民事特別法2条の規定に照らしてその成否を検討すれば足りるのであって,それ以外に国賠法1条1項及び2条1項の適用を検討する必要はなく,これらの規定を適用する余地もな
い。
3
侵害行為に関する原告らの主張に対する反論


航空機騒音による侵害について

航空機騒音の特性と防衛施設としての横田飛行場の特殊性
航空機騒音は,その継続時間が短く,一過性,間欠的であることに特徴があり,しかも,飛行形態や飛行経路,気象条件等によって音の伝播特性が異なる。また,航空機騒音による影響は飛行場からの距離,飛行形態,飛行方向,離着陸の別等によっても大きく異なる。
さらに,横田飛行場のような防衛施設としての飛行場は,民間航空機が
使用する公共用飛行場とは異なり,航空機の運航形態に一定性がなく,航空機が比較的多く飛行する日がある反面,ほとんど飛行しない日もあり,その周辺の航空機騒音の状況は日々変化している。
これらの航空機騒音の特性や防衛施設としての横田飛行場の特殊性等からすれば,W値が一定値以上の区域においても日ごと,月ごとに騒音の頻
度や程度は一定ではなく,W値は一定程度以上の騒音が恒常的に発生していることを示すものではないことに留意すべきである。横田飛行場における航空機騒音がもたらす周辺住民の心身への影響や生活妨害の程度を的確に認定するためには,騒音の大きさ,その発生回数,年別,月別,曜日別,日別の騒音量の変化,時間帯別の発生回数及び騒音の継続時間その他の発生形態等について,個々の住民,居住地ごとに多面的かつ具体的な検討を加える必要がある。


環境庁方式を前提に昼間騒音を控除して計算したW値(後述の「昼間騒音控除後W値」)を騒音の評価基準として用いるべきであること
告示コンターの前提となる防衛施設庁方式は,防衛施設周辺の関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする政策的補償
措置として家屋への防音工事等の周辺対策を手厚く実施するために設計されたものである。そのため,特定の区域内において,①常に当該区域を設定した時点と同等の騒音が生じていることが推定されるわけではないし,②飛行回数について実際の飛行回数の算術平均を大幅に上回るいわば架空の飛行による数値を計上しているから,当該区域に付された防
衛施設庁方式によるW値に相当する騒音が現実に生じたことが推定されるわけでもない。加えて,③防衛施設庁方式によるW値は,年間を通じて屋外で曝露し続けることを前提としているところ,個々の居住者は,それぞれ固有の様々な生活様式に従って生活しているのであるから,これら個々の居住者がすべからく告示された指定区域のW値に相当する騒
音にさらされているなどと推定することは到底できない。
他方,航空機環境基準は,あくまで行政目的達成のための望ましい基準とされるもので,直ちに航空機騒音の受忍限度を画する基準となるものではないとはいえ,人の健康保護や生活環境保全を念頭に置いたものである。また,航空機環境基準は,自衛隊等が使用する飛行場も対象と
しており,騒音測定日数の点で自衛隊等の特殊性を反映させようとする以外は,環境庁方式を用いることを含め,公共用飛行場と差異を設けておらず,もとより防衛施設庁方式で評価するなどとは一切規定していない。したがって,騒音の評価の基礎としては環境庁方式によるW値を用いるのが相当である。
原告ら全員が昼間の時間帯に共通して一定程度の航空
機騒音に曝露されているわけではなく,昼間の時間帯は勤務や就学等で
居住地域を離れる者が相当数存在することを考慮すると,原告らが現実に共通して曝露された騒音の内容と程度の認定は,防衛施設庁方式で算出したW値によるべきではなく,環境庁方式によった上で昼間騒音を控除して計算したW値(以下「昼間騒音控除後W値」という。)を用いて行うべきである。昼間騒音控除後W値は,基本的には環境庁方式による
W値の算出方法と同様の方法で算出するが,飛行回数については,1日ごとの総飛行回数を時間帯別による重み付けをして算出するに当たって,「平日(土日,祝日及び12月29日から1月3日を除く。)の昼間の時間帯(午前9時から午後5時)」の飛行回数を除いて算出するものである。

したがって,航空機騒音の内容及び程度は,告示コンターではなく,被告が本件訴訟で平成15年度調査における基礎データを基に算出した昼間騒音控除後W値に基づいて作成させたコンター図(乙106の1・2。以下「昼間騒音控除コンター図」という。)及び同コンター図における原告ら主張の居住場所を表示した地図(乙128の1ないし10)
に基づいて認定判断すべきである。

環境庁方式による自動騒音測定の結果に見られる航空機騒音の減少被告は,別紙7-1の10か所(同別紙に記載のない⑦,⑪,⑫は平成17年告示による縮小前の旧75地域のさらに外側なので除外)に自動騒
音測定装置を設置しており,うち,⑤,⑧,⑨,⑩が75W地域,⑥が80W地域,①と②が85W地域,③,④,⑬が旧75W地域に設置されている(以下,一括して「被告測定地点」という。)。平成20年度から平成27年度までの昼間騒音を控除しない環境庁方式によるこれらの地点での測定結果(乙68の2,乙69の1・2,乙70の2)は,別紙7-2のとおりである。この結果によれば,実際の測定値は75W地域でも80W地域でも各地点が属するコンターのW値より相当程度低くなっており,
85W地域が横ばいであることを考慮しても,第一種地域内の航空機騒音は全体傾向として減少している。また,いずれの測定地点でも,航空機騒音は,日中(午前7時から午後7時まで)に極端に集中しており,深夜(午後10時から午前0時まで)及び早朝(午前0時から7時まで)はほとんど発生しておらず,一般的な就寝時間における騒音量は少なくなって
いる。このように,近時の横田飛行場周辺の騒音の状況は,過去の騒音訴訟の時とは異なって軽減されている。


地上騒音による侵害について
原告らは,原告らの陳述書こそが最重視されるべきであると主張して,横
田飛行場から発生する地上音がどの程度であり,原告らに対してどの程度の侵害を与えているか等につき,客観的証拠を提出していない。しかも,地上音に関して記載のある陳述書は398通(1078名分)のうち96通(283名分。人数比約26.3パーセント)にすぎず,さらに地上音についての具体的状況を記載しているものは61通(184名分。人数比約17.1
パーセント)にとどまる。また,原告らの陳述書では,同じW値の地域内でも訴えの状況が共通ではなく,W値と被害の訴えの状況に相関関係も認められない。
仮に横田飛行場から地上騒音が発生していたとしても,横田飛行場において地上騒音が発生すると考えられるエンジン試運転場及びエンジン調整場は
いずれも横田飛行場の中央部分に位置しており,その周辺には多数の基地施設の建物が存在しているのであるから,音の特性(距離減衰等)に照らせば,原告らが主張するような深刻な被害をもたらすものとは認められない。また,横田飛行場の周辺には国道16号,都道5号(新青梅街道)等の幹線道路及び一般道路が存在しているため,地上騒音があるとしても,自動車騒音に起因する可能性もあり,それが横田飛行場から発生した地上騒音に起因するものか否かは不明である。

実際に,平成15年度調査の測定結果によれば,観測された地上騒音は比較的短時間であり,横田飛行場直近の3か所のみであった(乙89)。また,平成19年3月に出された日本騒音制御工学会の報告書(乙90)によっても,飛行場周辺での地上音の影響は些少であるとされている。以上によれば,横田飛行場における地上騒音が原告らに対して深刻な被害
を与えるほどの侵害行為を構成しているとは認められない。


航空機の排気ガス,振動による侵害について

航空機の排気ガスについて
横田飛行場の離着陸は一本の滑走路で行われるため,一定の時間的間隔
が不可欠である。一般的にも飛行場における航空機の離着陸は単発的,間欠的であり,このため,飛行場は,長時間継続的に自動車等の並行走行や渋滞などが生ずる自動車道路などと比べて大気汚染源となりにくい。また,航空機の排気ガスは大容量でPPM濃度が薄く,高速で噴気するために拡散率が高く,局所的な汚染現象を示しにくい。

加えて,横田飛行場の総面積は約714万平方メートルにも及び,離着陸の方向は風向きによって変わり,飛行方向も一定ではないため,拡散率が高く,排気ガスの周辺への影響は低くなる。
これらの事情からすると,横田飛行場において排気ガスによる侵害が発生することはあり得ない。現に,横田飛行場周辺の測定局の排気ガス成分
の年平均値は,他の測定局の年平均値と比べて特別に高い値を示しているわけではなく(乙208,209),これらの測定結果からすれば,横田飛行場を離着陸する航空機の排気が横田飛行場周辺の大気汚染に対して影響を与えているとは認められない。

航空機の通過に伴う振動について
航空機が30ないし40メートルまで接近して飛行する建物を除き,航空機による振動が何らかの被害につながることはほとんどないとされてい
る(乙143)。そして,横田飛行場における航空機の運航においては,昭和39年4月の日米合同委員会における合意(乙146)に基づき,「離着陸及び計器進入の場合を除き,横田飛行場隣接地域の上空における最低飛行高度はジェット機については平均海面上2000フィート(609.6メートル)とし,ターボプロップ機及び在来機については平均海面
上1500フィート(457.2メートル)」とすることとされており,米軍機等が30ないし40メートルにまで建物に接近して低空飛行するなどということは通常あり得ない。
また,実際に生じる振動は,航空機騒音のレベルが同一であっても,家屋等の構造その他の諸要因次第で全く相違してくるものであるから,騒音
とは別に振動による侵害行為を取り上げる必要はない。


航空機の墜落及び落下物等の危険による侵害について
過去に航空機の墜落事故等が発生したことがあるからといって,直接の被害者ではない原告らとの間では何ら侵害行為になるわけではない。原告らの
主張は,航空機墜落事故等の危険性について抽象的に指摘するものにすぎず,このような抽象的な事故の危険性があることをもって違法な権利侵害ということはできない。
そもそも,横田飛行場は,我が国の航空関係法規の適用がある一般の公共用飛行場以上の広大な敷地を有しており,滑走路の位置,長さ,幅員も一般
の公共用飛行場に適用される航空法の基準を満たしていて,航空管制に関する設備及び計器飛行(航空法2条16項)に必要な設備も具備されている。また,米軍は,自ら各種基準を設けてその安全性の確保に努めており,自衛隊も,同様に安全性確保のための各種の基準を設けている。加えて,被告は,昭和40年7月30日付け基地問題等閣僚懇談会了解事項「横田及び厚木飛行場等の周辺における安全措置について」並びに周辺整備法及び生活環境整備法に基づき,一定範囲における移転補償,土地買収の措置を講じ,結
果的に航空交通量の多い空域の直下の土地を空き地とすることによって飛行場周辺の安全性を確保している。
したがって,横田飛行場の安全対策は十分に執られており,原告らが主張するような事故が起こる危険性は少ない。


低周波音による侵害について
原告らが提出する本件低周波音測定報告書は,1か所の測定地点でわずか5日間測定した結果にすぎず,横田飛行場周辺の低周波音の実態を示したものと認めるにはおよそ不十分である。また,その測定方法や測定結果の分析も不適切であり,結果の信用性は乏しく,横田飛行場を離着陸する航空機の発する低周波音の実態を裏付けるものとは認め難い。

仮に横田飛行場周辺において低周波音が発生しているとしても,低周波音の音圧は,W値において適切に評価されているから,航空機騒音と別の侵害として捉える必要はない。また,低周波音により健康障害が発生することを肯定する科学的知見は確立していないこと等によれば低周波音による心身等に対する影響ないし被害を軽々に認定すべきではない。原告らは,上記測定
結果が環境省の示す参考値を超えるなどと主張するが,参考値は,苦情申立てが発生したときにこれが低周波音によるものであるか否かを判断する目安として示されたものである上,固定発生源から発生する低周波音を適用対象とするもので,航空機騒音のような一過性,間欠性の音源から発生し得る低周波音については適用が除外されている。

4
航空機騒音等による被害に関する原告らの主張に対する反論⑴
共通損害論について

主張立証責任
横田飛行場の供用が違法であるかどうかを判断するに当たっては,原告らにおいて侵害行為の態様と程度及び被侵害利益の性質と内容を明らかにすることが必要であり,本件のような集団訴訟においても,各原告がそれ
ぞれその主張する被害を被っていることを個別具体的に主張立証しなければならない。
すなわち,横田飛行場の航空機騒音によって原告らに身体的被害や生活妨害等の法益侵害が具体的に発生しており,横田飛行場の供用が違法と評価されるためには,個々の原告において,実際に曝露されている騒音の内
容や程度を明らかにした上で,その主張に係る各種被害が具体的に発生していることを個別具体的に主張立証する必要がある。そして,各人の性別,年齢,職業,健康状態,気質,体質,騒音等に対する感受性や慣れの程度,騒音等の発生源に対する利害関係,居住地域,防音工事実施の有無等による家屋の遮音性,居住期間,勤務地,通学先など,身体的,心理
的,社会的な条件や生活の態様が異なるのに応じて,各人が受けるであろう精神的被害(心理的不快感),生活妨害,身体的被害の有無・程度は当然異なるものであるから,上記の主張立証に当たっては,個々の原告ごとに航空機騒音等によって受けているとする被害の内容,程度を個別的,具体的に明らかにしなければならない。

本来,世帯を同じくする原告らであっても,個々に自己の被害を主張立証すべきであり,世帯の代表者の陳述書によって直ちに他の同居の原告らの被害までもが立証されるものではない。仮に,世帯の代表者による陳述書により同一世帯の他の原告らの被害を立証できるとする場合でも,その者と同居していた時期の被害に限定される。


共通損害を主張立証しようとする場合にも,原告らに最小限共通する被害の主張立証責任があること原告らは,大阪空港最高裁大法廷判決に依拠して原告ら各自が等しく被っていると認められる被害を原告ら全員に共通する損害としてとらえて損害賠償を請求しているものと考えられる。
しかしながら,原告らが,原告ら全員に最小限共通する損害が存在する
として,当該共通する損害について賠償を求めるのであれば,どのような損害を一定の限度で原告ら全員が等しく被っているのかを具体的に立証すべきことは当然であり,大阪空港最高裁大法廷判決は,共通損害に関して,損害の立証の程度が軽減されることを認めたものではない。
すなわち,共通損害が認められるためには,①原告らの一部の者にその
ような被害が発生していることを主張立証するのみでは足りず,②その被害が現に他の原告らにも共通に生じていると認められるような性質,内容及び程度のものであることを合理的な疑いを容れない程度に主張立証することが必要とされるのである。

昼間の騒音被害は共通損害ではないこと
仮に,原告らが共通して曝露された航空機騒音の内容と程度を認定するのに何らかの基準を用いざるを得ないとしても,原告らの中には昼間の時間帯は出勤や通学により不在とする者も多く,全員が共通して昼間の時間帯に在宅しているものではないことは明らかであるから,昼間の時間帯に騒音被害地域にいない者もそこにいる者と同じ騒音被害を受けているとい
う論拠が何ら明らかにされていない本件では,共通損害として1日24時間を通して騒音にさらされていることを前提に出されたW値を用いることは不当である。この観点からも,前述のとおり,実際に原告らが共通して曝露された騒音の内容と程度の実態に近い昼間騒音控除後W値を用いるべきである。



睡眠妨害について睡眠妨害はその原因や程度について個人差が顕著である上,航空機騒音との関連性を示す客観的な基準も存在しないから,そもそも共通損害となり得ない。
原告らは,WHOガイドラインや欧州夜間騒音ガイドラインを根拠にして,騒音曝露と睡眠妨害を含めた身体的被害との因果関係は確立されているなどと主張する。しかしながら,WHOガイドラインは,WHO憲章第1条に示された健康観に基づき,その増進のための長期的な達成目標を示しているにすぎず,あえて高感受性群を念頭に置き,安全確保に万全を期すための指針値として設けられたものと位置付けられるから,高感受性群以外の一般
人に共通する基準を定めたものではないのであって,その数値が航空機騒音と健康被害との因果関係を検討する場合の尺度にならないことは明らかである。また,欧州夜間騒音ガイドラインは,騒音対策,騒音規制の策定に当たっての参考値,指針値としての意味合いを有するものの,夜間騒音と健康被害との間の相当因果関係を明らかにする基準値にはなり得ない。そもそも,
欧州夜間騒音ガイドラインは,Lnight,outsideを指標としているところ,同指標は,W値と算定方法が異なっており,飛行回数の時間帯別の重みづけがないほか,夜間の8時間のみの測定結果をもとに算定しており,比較対象とはなり得ない。
加えて,厚生労働省が実施した平成23年国民健康・栄養調査結果の概要
(乙154の1)によれば,我が国で生活する者の50パーセント以上が睡眠の質に何らかの問題を抱えているとの報告がある上,ファイザー株式会社が平成23年に行った全国の20歳以上の男女4000人を対象とした不眠に関する意識調査(乙155)でも,4割以上の者が不眠症の疑いがあるとの結果が得られている。航空機騒音の有無とは関係なく,これほど多数の者
の睡眠の質が劣化しているのであるから,原告らの中に睡眠の質について何らかの不都合を感じる者がいたとしても,これが航空機騒音に起因するものと即断することは誤りである。原告らは,小松基地調査報告書及び沖縄県健康影響調査報告書を根拠にして原告らの健康被害と騒音との間の因果関係を立証しようとしているが,上記各報告書は,横田飛行場とは所属機種等が異なるために騒音状況が異なる別の飛行場周辺における調査の結果にすぎず,また,かかるアンケートによ
って得られた訴えのみをもって睡眠妨害とする疫学調査は法的因果関係を立証するには不十分であって,これらによって原告らの睡眠妨害に係る健康被害を立証することはできない。仮に原告らが航空機騒音により睡眠を妨げられているとしても,別紙7-2の被告測定地点の自動騒音測定状況によれば,横田飛行場周辺における午後10時から午前7時までの1日平均騒音発
生回数は85W地域内の被告測定地点①,②においてすら極めてわずかであり,また,屋外のW値が85であっても,後述のとおり住宅防音工事施工済み住宅では少なくとも20dB以上の防音効果が認められて屋内においては48年環境基準が達成されたと同様の環境が整備されたこととなり,防音工事が実施されていない住宅でも上記の時間帯は窓を閉めることが通常と考え
られ,就寝中の屋内の騒音量は相当に減衰するといえるのであるから,Lnight,outside

がそれほど高い値を示すとも考えられず,受忍限度内のも

のというべきである。


身体的被害について
我が国のみならず,国際的にも,飛行場周辺で航空機騒音を受けることに
より人の身体又は精神に直接的かつ深刻な影響を及ぼすことを示す明確な科学的知見はない。上記⑵のとおり小松基地調査報告書によっても因果関係は証明されていないから,原告らに横田飛行場の航空機騒音等による共通損害としての身体的被害(精神症状を含む。)を認めることはできない。⑷

日常生活の妨害及び心理的・情緒的被害について
一般的に,航空機騒音が各種の生活妨害及び心理的不快感等の日常生活への悪影響を与える可能性があること自体は否定できないが,原告らがこれを共通損害として主張するのであれば,社会生活上耐え難い程度の被害が原告ら全員に共通して生じていることにつき客観的な証拠をもって明らかにすべきであり,陳述書や供述では不十分である。また,仮に原告らに何らかの生活妨害等が生じているとしても,前記3⑴ウのとおり近時の横田飛行場周辺
の騒音が軽減の傾向にあることや後述の住宅防音工事の効果を考慮すると,受忍限度内のものというべきである。


その他の被害について
そもそもいずれも原告らに共通する損害とはいえないし,振動及び排気ガスによる被害については前記3⑶のとおり認められず,その余を含め,いず
れも原告らの陳述書や供述のみでは十分な立証がされているとはいえない。5
損害賠償請求権について


違法性の判断枠組み
民事特別法2条にいう営造物の設置,管理の瑕疵が認められるためには,その営造物を供用目的に従って利用に供した結果として,利用者以外の第三
者の権利ないし法益を侵害し,同侵害が社会生活上受忍すべき限度を超え,違法と評価されることが必要である。そして,この違法性の存否は,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の
有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきこととされている(大阪空港最高裁大法廷判決参照)。⑵

横田飛行場の公共性
飛行場における米軍機等の運航活動といった公共性を有する行為が第三者
との関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかを判断するにあたって,当該活動の公共性が判断要素となり,公共性が高ければ,それに応じて当該活動による被害を受忍すべき限度も高くなる。横田飛行場は,アメリカ合衆国空軍が管理し,航空自衛隊航空総隊指令本部が設置され,安保条約に基づき,我が国の平和と安全に寄与し,並びに極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという高度に政治的・行政的な目的のため米軍に対して提供され,その目的を遂行する上で必要不可欠な施設として,米軍が利用している。そして,横田飛行場が日本本土のほぼ中央の首都圏の郊外に位置し,交通,輸送及び通信網も発達していることから,在日米軍の任務遂行に当たり日本政府の関係当局者と常時緊密な連携が維持し得るとともに,要員の居住条件も整備されている。しかも,横田飛行
場はその敷地のほとんどが国有地で,昭和15年に旧陸軍により多摩飛行場として設置されて以来,一貫して飛行場として使用され,在日米軍の航空基地としての経済的な立地条件を備えている。また,昭和48年から昭和53年にかけて,かつて関東平野地域で在日米空軍の使用していた施設や区域の合計面積約2220万平方メートルが我が国に返還され,これら施設及び区
域の機能の大部分が横田飛行場に集約された経緯があり,他にこれに代替するような規模や同条件を同じくする施設・区域を首都圏の近くに求めることは不可能である。なお,横田飛行場は滑走路が3353メートルと長く,大型機の離着陸が可能であることから,平成23年3月11日の東日本大震災発生直後の成田,羽田両空港の閉鎖の際には代替空港として機能し,また,
同震災後に米軍が行った「トモダチ作戦」という大規模な人道支援,災害救助活動の際には人員や物資の空輸等の基地として重要な役割を果たした。したがって,横田飛行場を離着陸する米軍機等の諸活動は,我が国の基本的な存立と安全を確保するための高度の公共性を有する活動にほかならず,高度の公共性が認められるものである。

そして,原告らが侵害行為であると主張する航空機騒音等は,横田飛行場の使用に伴って必然的に生ずるものであり,その使用態様において米軍が条約や法律によって与えられた権限を逸脱したり濫用したりすることによって生じたものではなく,違法性ないし受忍限度の判断においては,上記のような横田飛行場の公共性を十分に考慮すべきである。


被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減概要
被告は,横田飛行場の存続によってもたらされる公益の重大性と,横田飛行場において米軍機等が運航されることによって影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るために,平成27年度までに総額約4911億円の国費を用いて住宅防音工事の助成,移転措置と緑地帯の整備,学校,病院その他の公共施設の防音工事の助成及びその他種々の周辺対策(テレ
ビ受信料の助成措置,騒音用電話機の設置に対する補助,民生安定施設の一般助成,再編交付金,基地交付金及び調整交付金の助成等)を実施してきた。これらの対策により,原告らを含む周辺住民にもたらされる航空機騒音を主とする不利益ないし影響は相当程度防止又は軽減されており,仮に原告らに一定の生活妨害等が発生しているとしても,それが受忍限度を
超えると見ることはできない。

住宅防音工事の助成
住宅防音工事の助成の実施
被告は,昭和50年度から平成27年度までに横田飛行場周辺地域の
住宅の所有者に対し合計約1233億6924万円を支出して,前記第2部「前提となる事実」第4の4の住宅防音工事への助成を実施しており,これによって

騒音による周辺住民への影響は軽減さ

れている。
住宅防音工事の効果
住宅防音工事は,第2部「前提となる事実」第4の3⑵ウのとおり,防音工事仕方書に従って行われ,標準的工法は,80W地域に所在する住宅を対象とする第Ⅰ工法と75W地域に所在する住宅を対象とする第Ⅱ工法に分けられ,前者では25dB以上,後者では20dB以上を計画防音量とした上で,使用する建具等の基準を定めている。そして,被告は,工事完了の際,提出資料や現地調査等により防音工事仕方書に従って工事がされたことを必ず確認しているから,すべての防音工事において防音工事仕方書に定められた計画防音量は達成されている。現に,平成13年10月から平成14年3月にかけて防衛施設庁が住宅防音工事事業に関する政策評価において行った防音量調査(第Ⅰ工法につき14か所の飛行場周辺で118世帯,第Ⅱ工法につき4か所の飛行場周辺
で23世帯が対象。乙113)では,第Ⅰ工法につき最低でも25.0dB,最高で44.0dB,第Ⅱ工法につき最低でも20.0dB,最高で32.4dBの遮音効果が認められている。また,過去の横田飛行場の騒音訴訟や厚木飛行場の騒音訴訟における検証結果(乙54,180)でも計画防音量かそれ以上の遮音効果が確認されている。さらに,。

被告が平成28年9月12日に昭島市内の85W地域で平成27年度に外郭防音工事を実施した住宅内で航空機飛来時に行った騒音測定結果(乙180)では32.1dBの防音効果が確認されており,計画防音量が達成されていることが明らかである。
原告らの住居についての住宅防音工事の実施状況

原告らの住居に対する被告の助成による防音工事の実施状況は,別紙6「防音工事一覧表」に記載のとおりである。
住宅防音工事助成の強化・充実
被告は,住宅防音工事につき逐次その強化・充実を図ってきた。例えば,平成11年度からはバリアフリー対応住宅等を対象に従前は防音工
事の施工対象外であった厨房,浴室,玄関,廊下等の居室以外の部分と居室を一体の防音区画とした防音区画改善工事及び老朽化のため建て替えられた住宅への防音工事,老朽化した防音建具の機能復旧工事を助成の対象に加え,平成14年度からは住宅全体を一つの防音区画とする外郭防音工事の助成を実施し,居室単位の防音工事について指摘されてきた閉塞感といった問題点を大幅に改善した。また,防音工事で設置した空調機器の電気代の負担軽減策として,この間の平成元年度から生活保
護法に規定する被保護者等に対し電気代を助成する空調機器稼働費助成事業を行い,さらに平成15年度からは太陽光発電システム設置に係るモニタリング事業を行っている。被告は,今後も財政事情等を踏まえつつ,さらなる施策の充実を図る予定である。

その他の周辺対策等
移転措置及び緑地帯整備事業
被告は,周辺整備法及び生活環境整備法に基づき,移転対象区域に居住等する住民がより好ましい環境に移転する場合,現に所在する建物等の移転の補償等を行うとともに,その跡地等を買い上げて緑地帯その他
の緩衝地帯とし,地方公共団体が一定の用に供するときは無償で使用させることにより,周辺住民の生活環境の整備を図る措置を講じてきた。昭和39年度から平成27年度までに被告が横田飛行場に関してこれらの事業に支出した総額は,移転措置事業が136億7958万2000円,緑地帯等整備事業が約20億0669万6000円に及ぶ。その結
果,平成27年度末時点で,昭島市においては広場,種苗育成施設,消防に関する施設敷地等として約1万0500平方メートル,福生市においては広場,駐車場,花壇等として約2万1900平方メートル,立川市においては広場,消防に関する施設敷地として約2万8500平方メートル,瑞穂町においては広場として約2万9700平方メートルが
無償で使用されるに至った。
学校,病院等その他の施設の防音工事の助成被告は,横田飛行場周辺地域において,周辺整備法,生活環境整備法又は行政措置に基づき,平成27年度までに,学校等の防音工事の補助金として昭和29年度から総額684億0298万8000円,学校等の防音工事関連設備の使用に要する費用の補助金として昭和48年度から総額76億5587万1000円,病院等の防音工事の補助金として昭和34年度から総額80億3671万5000円,公民館,図書館等の学習等供用施設や老人福祉センターといった民生安定施設の防音工事の補助金として昭和42年度から総額229億9013万3000円を交付した。

その他の周辺対策
被告は,平成27年度までに横田飛行場の周辺において,航空機騒音が家屋内で伝播することにより生じる聴取障害(テレビの音声が聞き取りにくくなったり,音声が細切れに聞こえたりするなど)に関して,昭和45年度以降はNHK,平成18年度以降は放送受信契約者を対象に
補助金を交付するテレビ受信料の助成措置として,昭和45年度から総額145億1751万6000円を交付したほか,騒音用電話機の設置に対する補助金として,昭和46年度から総額約4847万7000円を交付した。
また,自衛隊等の使用する施設の周辺において自衛隊等の行為によっ
て生ずる障害を防止又は軽減する障害防止工事としての排水路等の改修工事につき,昭和40年度から総額61億9343万円,民生安定施設の整備等の一般助成のための地方公共団体への補助金として昭和37年度から総額323億5211万1000円を交付した。
さらに,地方公共団体が行う防衛施設周辺整備統合事業及び基本構想
策定に対する補助金として,平成19年度から総額4億1047万3000円を交付し,公共用施設の整備又は事業のための特定防衛施設周辺整備調整交付金として,昭和50年度から総額348億9657万3000円を交付したほか,営農者に対する航空機の離発着等による就労阻害に係る損失補償として,昭和35年度から総額3億3845万7000円を支出している。
加えて,被告は,再編関連特別事業(防災,教育・スポーツ及び文化
の振興,交通の発達及び改善,公園及び緑地の整備等のほか生活環境の整備に関する事業で防衛大臣が定めて告示するもの)に対する再編交付金として,平成19年度から総額54億5077万9000円を交付し,また,地方公共団体に対する条件や使途等に制約のない一般財源の補給金である基地交付金及び調整交付金として,昭和32年度から総額11
99億0471万5000円を交付した。
音源対策等
第2部「前提となる事実」の第1の3⑵のとおり,被告は,夜間着陸訓練による騒音の軽減を図るため,平成元年度から平成5年3月未までに,約166億8600万円をかけて空母艦載機着陸訓練に必要な施設
を完成させ,平成13年度以降,横田飛行場では夜間着陸訓練は実施されていない。
また,被告は,米軍機の運航方式に直接に制限を加える権限がない中で,外交交渉の努力を重ね,第2部「前提となる事実」の第1の6⑶のとおり,平成5年11月18日の平成5年日米合同委員会合意により,
米軍の22時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動を制限し,夜間飛行訓練を必要最小限にすること等を合意し,以後,米軍は上記合意事項を実践し,被告も折にふれてその実行につき協力を求めてきた。


本件における受忍限度の判断

航空機環境基準は受忍限度を画する基準とはならないこと航空機環境基準は,「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(環境基本法16条1項)と規定されていることから明らかなように,政府が航空機騒音に対する総合的施策を進める上で,達成されることが望ましい基準であって,損害賠償請求権の発生を基礎づける航空機騒音の受忍限度を画する基準となるものではないし,
仮に原告らが環境基準を超える航空機騒音に曝露されているという事実があったとしても,直ちに原告らに航空機騒音による健康被害が生じたとの事実を推認させるものではない。
また,第2部「前提となる事実」第3のとおりの航空機環境基準の制定の経緯やその内容に照らしても,あくまでも理想的な生活環境を造出する
ための行政上の改善目標として設定されたものであり,受忍限度を画する基準とはなり得ない。
ただし,航空機環境基準は,地域類型Ⅰについては70W以下とされ,地域類型Ⅱについては75W以下とされて地域類型によって差異を設けているところ,この5Wの差は,環境騒音に対する住民意識の差違等による
ものであると説明されているのであるから,仮に受忍限度につき何らかの基準を設ける場合でも,地域類型Ⅰと地域類型Ⅱとでは差を設けるべきである

告示コンターは受忍限度を画する基準とはならないこと
前述のとおり,告示コンターは,政策的補償措置としての防音工事等の周辺対策を実施するために政策的に算定された防衛施設庁方式に基づくW値を基礎にして,その実施区域を画するものにすぎず,当該区域に付されたW値に相当する騒音が現実に発生していることが推定されるわけではない。また,現実には多くの居住者は,指定区域内にいる場合もほとんどは
屋内で生活しているにもかかわらず,告示コンターは年間を通じて屋外で曝露し続けることを前提としており,実態と乖離した過大な騒音曝露を認めることになる。したがって,指定区域内に居住していることをもって,防衛施設庁方式で算定された当該指定区域のW値に相当する騒音曝露を受けていると推認することはできない。
実際にも,別紙7-2の被告測定地点の騒音発生状況と防音工事の効果
によれば,第一種区域内の実勢騒音は,各測定点が属するコンターのW値よりも相当程度低いし,85W地域であっても,防音工事施設内においては,住宅防音工事の効果により航空機環境基準が達成されたと同様の屋内環境が保持されるとうかがわれるから,原告らが第一種区域内に居住しているというだけで原告らが受忍限度を超える航空機騒音に曝露されている
とは認められない。

原告らへの航空機騒音の影響が受忍限度の範囲内であること
前述のとおり,横田飛行場周辺の航空機騒音の発生状況が軽減されていること,航空機騒音以外の侵害行為は認められないこと,周辺住民が受けている影響は日常生活の妨害や心理的な不快感等にとどまること,横田飛
行場には高度の公共性があること,被告による住宅防音工事その他の周辺対策等が一定の効果を上げていること等を考慮すると,横田飛行場に航行する航空機の騒音によって原告らに何らかの損害が発生しているとしても,社会生活上,受忍すべき限度を超えるものとは認められない。


危険への接近の法理による免責又は損害賠償の減額

免責又は減額の法理としての危険への接近の法理
免責の法理としての危険への接近の法理とは,ある者がある場所に危険が存することを認識しながら又は過失により認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのため損害を受けたときは,危険を容認した
もの又はそれに準ずるものとして,加害者の責任が否定されるとするものである。これは,私法関係において自由な意思決定によって選択した結果は自らが負担するのが原則(自己責任の原則)であり,これによる損害を他に転嫁することは不法行為法を支える根本理念の1つである衡平の理念(損害の公平な分担)に反するという考え方に根ざすものである。免責の法理としての危険への接近の法理の要件について,大阪空港最高裁大法廷判決は,①危険に接近した者が侵害行為の存在を認識しながらあ
えてそれによる被害を容認して居住を開始したこと(被害容認要件),②被害が精神的苦痛ないし生活妨害の程度にとどまり,直接,生命,身体にかかわるものでないこと(被害程度要件),③侵害行為に相当高度の公共性が認められること(公共性要件),④実際の被害が入居時の侵害行為からの推測を超える程度のものであったとか,入居後に侵害行為の程度が格
段に増大したなどの特段の事情が認められないこと(消極的要件)が満たされる場合,そのような被害は,入居者において受忍しなければならず,同被害を理由として慰謝料の請求をすることは許されない旨の判断を示したものと解釈され,免責の法理としての危険への接近の法理を認めた。また,上記①の被害認容要件を欠き,危険への接近の法理により免責が
認められない場合であったとしても,危険(騒音の存在)を認識し又は過失によってこれを認識せず,当該危険が存在する場所に接近し,そのために被害を被ったときは,損害額の減額事由としてこれを考慮するのが衡平の理念に照らして相当であり,このような減額の法理としての危険への接近も認めるべきである。


本件における免責の法理としての危険への接近
次の経過からすれば,遅くとも平成6年1月1日以降に横田飛行場周辺の第1種指定区域(以下「指定区域」という。)内に居住を開始した原告らについては,航空機騒音による被害の発生状況を認識し,その被害を容
認していたことが推定され,同日以降,指定区域内に転居した原告ら(出生者を除き,指定区域内で転居した者を含む。)については,免責の法理としての危険への接近を適用すべきである。すなわち,①昭和38年,福岡県米軍板付基地に所在する航空団がF105D戦闘爆撃機と共に横田基地に移駐する計画があり,その計画に対して昭島市議会が全会一致の反対決議を行ったこと(乙103の1・2),②昭和39年5月に当該戦闘爆撃機が横田飛行場に移駐した後,滑走路近隣地区の住民から,同地区住民全員を他地区に移転させる補償を求める旨の国への陳情書,市議会への請願書が提出されたことを受け,昭和40年7月30日,政府が集団移転の基準を定めたこと(乙103の3)から,昭和40年には,横田飛行場周辺が恒常的に航空機騒音の曝露を受ける地域であることが広く知れ渡るに
至っていたと認められ,本来は遅くとも昭和41年1月1日以降に横田飛行場周辺に転入した原告らは,転入時に航空機騒音の存在を十分に認識しており,かつ,その被害を認容していたことが推認されるというべきである。そして,上記の事情に加え,③昭和42年3月31日に移転対象区域が告示されたこと(乙36),④昭和50年3月1日には生活環境整備法
9条1項に基づき,横田飛行場を含む複数の防衛施設が特定防衛施設に,立川市,昭島市,福生市,武蔵村山市,東京都西多摩郡羽村町(現羽村市)及び瑞穂町を含む複数の市町村が特定防衛施設関連市町村にそれぞれ指定され,官報で告示されたこと(乙116),⑤防衛大臣が,生活環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成対象区域について,昭和54年8
月31日に第一種区域及び第二種区域を,昭和55年9月10日に第一種区域を,昭和59年3月31日に第一種区域をそれぞれ指定した上,いずれも官報で告示したこと(乙27~29),⑥平成5年2月25日に横田平成5年最高裁判決の言渡しがされたことが主要日刊紙において全国的に報道されたこと,⑦同年11月には平成5年日米合同委員会合意がなされ
たことが全国的に報道されたことなどからすれば,どんなに遅くとも,平成6年1月1日以降においては,横田飛行場周辺の航空機騒音が社会問題として取り上げられ,誰もが迅速かつ容易に同周辺地域の航空機騒音に関する情報を入手できる状況となったと認められる。
そうすると,少なくとも平成6年1月1日(以下「基準日」という。)以降,指定区域内に転居した原告ら(出生者を除き,指定区域内で転居した者も含む。別紙8「居住履歴一覧表」の類型A)については,免責の法
理としての危険への接近を適用すべきである。
仮に平成6年1月1日以降における指定区域内への転入の事実のみでは原告らが被害を容認していたとまでは認められないとしても,少なくとも次の別紙8「居住履歴一覧表」の類型B1~B3のいずれかに当たる者は,転入ないし転居時に航空機騒音の被害を容認していた事実が強く推認
されるから,その転居等が選択の余地のないものであったなどの特段の事情がない限り,免責の法理としての危険への接近の法理を適用すべきである。


類型B1

基準日以降,指定区域内に居住した事実が認められ,その

後いったん同区域外に転居したにもかかわらず,再び同区域内に転入し
た者


類型B2

基準日以降に指定区域内に居住の事実が認められ,その

後,より騒音レベルの高い区域に転居した者


類型B3

基準日以降に指定区域内で複数回転居を繰り返している者

本件における減額の法理としての危険への接近
少なくとも,基準日(平成6年1月1日)以降に指定区域内に居住を開始した原告ら(上記の類型A)又はそのうち上記の類型B1~B3のいずれかに該当する者については,航空機騒音による被害を認識していたか,又はこれを認識しなかったことに過失があると認められ,減額の法理とし
ての危険への接近の法理を適用して,損害額につき相当の減額をすべきである。エ

危険への接近の法理の適用を受けるべき原告ら
本件において,被告が免責の法理又は減額の法理としての危険への接近の法理の適用を受けるべきと主張する原告らは,主位的には別紙8「居住履歴一覧表」の「危険への接近類型」欄にAの記号があり,かつ,「法理適用の有無」欄に○印を付した者であり,予備的には上記「危険への接近
類型」欄にB1,B2,B3のいずれかの記号があるもののうち,「法理適用の有無」欄に○印を付した者である。なお,親の転居に帯同しての転居,婚姻に伴う配偶者宅への転居,親の面倒を見るための転居,相続した土地への転居等については,住民票や陳述書等で分かる範囲で除外し,「法理適用の有無」欄に×印を付した。



原告番号25のフィリピン国籍の原告に関する相互保証等についてア
相互保証の立証責任を負う同原告がその立証をしないこと
国賠法6条の文言からすれば,相互保証は外国人の国家賠償請求権の権
利取得要件であると読むのが素直であるから,同条は外国人の国家賠償請求権の権利根拠規定であり,相互保証があることの立証責任は同原告が負
う。

相互保証の要件が欠けること
相互保証があるといえるためには,当該国籍国が,我が国の国賠法と同一か又はそれより厳重でない要件の下に日本人の被害者に対して賠償責任
を負うことが必要であり,その判断に当たっては,①公の営造物の設置又は管理の瑕疵から発生した,②生命・身体・財産に直接の影響を与えない生活妨害等の精神的被害に基づく慰謝料請求が,③加害者の故意・過失を要せずに認められることという具体的な事柄についての実質的な比較を要するというべきである。

フィリピン政府の平成24年6月6日付け調査訓令(国家賠償に関する外国立法例:フィリピン回答)」(乙170)及び同年5月22日付け「見解(国家賠償法に関する調査協議事項)」(乙172の2)によれば,日本国の国賠法に対応する特別な法律は存在しないとした上で,「国家はその同意なく訴えられることができないことは,確固としている。」,「国家に対して訴訟が行われるためには,国家が訴えられることを許可する同意がなければならず,それは特別法又は一般法によって明示され
る。」「その原則は,国家に対する訴訟のみを禁止するように見られるが,公務員が職務行為で履行した行動に対して,その職員に対して訴訟手続きをとることにも,この原則は適用される。」などとされており,フィリピンにおいては,政府ないし国がその賠償責任を負う日本国の国賠法に相当する制度は確立されていないものと考えられ,上記①ないし③についての
比較において,我が国の国賠法が定める要件と実質的に同等の要件でフィリピン政府の賠償責任が認められるとは到底いえない。
したがって,フィリピン法で相互保証のあることが認められるとはいえない。

住居地における居住の実態が認められないこと
原告番号25の原告は,原告番号19の原告の陳述書(甲C10の19)に同居の家族として記載されるにとどまり,居住地における生活実態が不明であって,その被害について具体的な立証がないから,損害賠償請求は認められない。原告番号25の原告が指定区域内の外国人住民となったのは平成24年7月9日であるが,その後も頻繁に長期間の出国を繰り
返しており,少なくとも同月8日以前と合計456日に上る出国期間に係る請求は棄却すべきである。


その余について判断するまでもなく請求が退けられるべき原告ら
原告番号29,161,230,243,398及び640の原告らにつ
いては提訴後に死亡しているところ,訴訟手続の受継手続がされておらず訴訟要件を欠くから,これらの原告らに係る訴えは却下すべきである。⑻
損害額に関する原告らの主張に対する反論

損害額一般
仮に横田飛行場の供用に係る航空機騒音が受忍限度を超える内容及び程度のものであると判断された場合でも,原告らは一律の請求をするにとどまり,これによる個別具体的な被害の内容及び程度につき的確な主張立証
をしていないし,原告らが支払を求める損害賠償額は,これまでの裁判例等に照らすと高額にすぎる。

住宅防音工事が実施された住宅における損害の減額
前記⑶のとおり被告の助成による防音工事が実施された居室については,少なくとも20dB~25dBの防音効果が認められる。そして,原
告らが主張する騒音等の被害は,住宅の総居室数に占める住宅防音工事が実施された居室数の割合に応じて軽減されるから,防音工事が実施された住宅の居住者(口頭弁論終結前に死亡した者を含む。)については,当該住宅の総居室数に占める住宅防音工事が実施された居室数の割合に応じて損害額を減額すべきである。しかるところ,当該住宅の全室数及び防音工
事が実施された居室数は,別紙6「防音工事一覧表」の「全室数」欄及び「住宅防音工事」の「工事室数」欄に各記載のとおりであるから,該当する原告についてはそれぞれ後者を前者で割って算出した「施工割合(%)」(小数点以下切捨て)を減額すべきである。


口頭弁論終結の翌日以降の将来の損害賠償請求が不適法であること(本案前の答弁)

将来の給付の訴えの要件
民訴法135条は,将来の給付を求める訴えについて,「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができる」と規定し
ている。この将来の給付を求める訴えの要件について,大阪空港最高裁大法廷判決は,「同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるととも
に,その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては,本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはで
きないと解するのが相当である。」と判示している。そして,この法理は,横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決のほか,厚木飛行場に係る最高裁判所平成27年(受)第2309号同28年12月8日第一小法廷判決・裁判所時報1665号5頁(以下「厚木平成28年民事最高裁判決」という。によっても踏襲されている。


口頭弁論終結日の翌日以降の損害賠償請求が不適法であること
本件においては,口頭弁論終結後において,原告らのいう侵害行為又は損害の発生の基礎となる事実関係が変動することが予測されるのであり,将来の不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性の要件をいずれも充足
するものではない。
すなわち,実体法上,原告らが横田飛行場に関して損害賠償請求権を取得し得るのは,横田飛行場における航空機エンジンの作動,航空機の航行によって生じる騒音等が受忍限度を超える場合に限られるが,騒音等が受忍限度を超えているか否かの判断は,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵
害利益の性質と内容,公共性,地域性,先住性,危険への接近及び侵害防止措置等の多様な事実関係の総合的判断の上で決せられることになる。しかるに,横田飛行場における将来の航空機騒音発生の違法性や損害の有無については,航空機騒音の程度が受忍限度を超えるかどうかが上記のような複雑多様な諸要素により判断されるものであることに加え,航空機騒音等の状況には恒常性がなく,原告らの生活状況の変動等や今後講じられる被害対策の内容によっても左右され,多分に流動的要素を含むものであるから,これらをあらかじめ一義的かつ明確に判断することは極めて困難といわざるを得ない。実際に,横田基地に配備されているC-130H輸送機は,平成28年12月からC-130J輸送機に順次更新される計画であり,後継機であるC-130J輸送機の飛行による騒音は,従来機と比
較して大幅に低減され,離陸時の騒音の範囲は81パーセント減少し,着陸時の騒音の範囲は73パーセント減少するとされているところであり,この事実からすれば,今後航空機騒音の程度が大きく変動する可能性が高い。
他方,原告らの請求を認容するには,将来においても横田飛行場周辺に
居住していることが前提となるが,原告らが将来転居する可能性もあるのであり,転居の有無は,原告らにとっては明白な事実であっても,被告にとっては,1078名を超える原告らの居住地全てを逐次把握することは非常に困難であり,将来の転居の事実を違法性阻却事由のように捉えて被告にその立証の負担を課すことは相当ではなく,むしろ請求時点における
居住地については,原告らにこれを立証させるべきである。また,被告による周辺対策も,例えば住宅防音工事については着実に実績が積み重ねられており,原告らの被害についても変動があり得るのであって,将来における被害の内容・程度をあらかじめ一義的かつ明確に認定することは極めて困難である。

以上によれば,横田飛行場の航空機騒音による損害賠償請求権の将来における発生の有無は,極めて不明確であり,また,損害の有無,程度についても変動があり得るのであって,明確な具体的基準により,その変動状況をあらかじめ把握することも極めて困難である。そうすると,損害賠償請求権の成否及びその内容を的確に把握するためには,それが成立したとされる時点の事実関係に基づいて,改めてその成立の有無及びその内容を審理判断するほかない。

第4部

争点
以上を整理すると,本件の争点は次のとおりとなり,基本的にこの順序で判断することとする。
第1
1
差止請求の趣旨等

2
自衛隊機の差止請求の許否

3
差止請求について

米軍機の差止請求の可否

第2
1
損害賠償請求について
原告番号883の原告の請求及び被告が却下を申し立てる他の原告らに係る訴えの許否

23
侵害行為の有無と内容について

4
被害の性質と内容について

5
法律上の根拠及び判断枠組み

横田飛行場の公共性について

6
被告の防音工事の助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減について

78
危険への接近について

9
違法性の有無(受忍限度)の判断について

国賠法6条の相互保証等について

損害額について

第4

口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求の許否第5部

当裁判所の判断

第1

差止請求について

1
差止請求の趣旨等


差止請求の趣旨
差止原告ら(ただし,後記⑵の原告番号865の原告を除く。以下同
じ。)は,被告に対し,人格権その他の私法上の権利に基づく民事訴訟として,毎日午後7時から翌午前7時までの被告自身及び米軍による,航空機の離発着等の差止めを請求するものである。この請求(以下「本件差止請求」という。)には自衛隊機に係るものと米軍機に係るものを包含し,両者は扱いを異にすると解されるので,後記2以下で分けて検
討する。


原告番号865の原告の差止請求の帰すう
同原告が本件提訴後の平成25年6月27日に死亡したことは当事者間に争いがないところ,人格権その他の私法上の権利に基づく航空機の離着陸等の差止めの請求権は請求権者の一身に専属する権利であって相
続の対象となり得ないものと解されるから,本件訴訟のうち同原告の航空機の離着陸等の差止めに関する部分は,同原告の死亡により当然に終了したというべきである(厚木平成28年民事最高裁判決参照)。したがって,本件訴訟のうち上記請求に関する部分については,同原告の死亡により終了したことを宣言することとする。

2
自衛隊機の差止請求の許否
差止原告らは,被告に対し,人格権その他の私法上の権利に基づく民事訴訟として,横田飛行場における一定の時間帯における自衛隊機の離着陸等の差止めを求めている。

この点,前記第2部「前提となる事実」第1の7のとおり,防衛大臣は,自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し,その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって,自衛隊機の運航は,このような防衛大臣の権限の下に行われるものである。そして,自衛隊機の運航はその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり,防衛大臣は,騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し,統括すべきものである。しかし,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると,上記権限の行使は,騒音等により影響を受ける周辺住民
との関係において,公権力の行使に当たる行為というべきである。差止原告らの自衛隊機に係る差止請求は,被告に対し,横田飛行場における一定の時間帯(毎日午後7時から翌日午前7時までの間)における自衛隊機の離着陸等の差止めを私法上の権利に基づく民事上の請求として求めるものである。しかしながら,上記に説示したところに照らせば,このような請求は,必
然的に防衛大臣に委ねられた上記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから,行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして,本件の自衛隊機に係る差止請求は不適法というべきである(厚木平成5年最高裁判決参照)。原告らの引用する小松平
成14年一審判決は,差止請求を適法とした上で棄却したが,上記と見解を同じくする控訴審である名古屋高裁金沢支部平成14年(ネ)第183号同19年4月16日判決(公刊物未登載だが判例秘書登載)によって取り消されて差止めに係る訴えは却下されている。ちなみに,地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則1条2項により当立川支部には行政事件訴訟に係る事件に関する事務を
取り扱う権限はない。
よって,差止原告らの自衛隊機の離着陸等の差止請求に係る訴えは,不適法であり却下を免れない。3
米軍機の差止請求の可否


検討
差止原告らは,人格権その他の私法上の権利に基づき,被告に対し,被告が妨害を除去し得る立場にあること又は被告自身が違法行為を行っていると
評価できることを主張して,夜間の一定の時間帯につき,横田飛行場における米軍機の離発着等の差止めを請求している。
しかしながら,前記第2部「前提となる事実」第1の5及び6によれば,横田飛行場は,被告が安保条約及び地位協定に基づき,米軍の使用する施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供しているものであって,横田飛行場に
おいて米軍機を運航させているのは被告ではなく,アメリカ合衆国であると認められ,被告自身がこれらの行為を行っているとは認められない。また,アメリカ合衆国は,安保条約及び地位協定2条1項⒜,⒝及び3条1項に基づき,横田飛行場内において,その運営,管理等のために必要な全ての措置を執る権限を有するとされる一方,被告に横田飛行場を始めとする施設及び
区域の管理運営を規制する権限を与える規定は関係条約及び国内法令には見当たらないのであるから,横田飛行場の管理運営の権限は,全てアメリカ合衆国に委ねられており,被告は,横田飛行場における米軍機の運航等を規制し,制限することのできる立場にはないと評価せざるを得ない。
よって,差止原告らの米軍機の離着陸等の差止請求に係る訴えは,被告に
対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,主張自体失当として棄却を免れない(横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決参照)。⑵
差止原告らの主張について
これに対し,差止原告らは,被告が,横田飛行場の米軍機による騒音が裁判所の判決によって何度も違法と認定されているにもかかわらず,被害防止の措置等を講じることなく,横田基地の米軍への提供を継続するほか,横田飛行場の拡張及び機能強化を積極的に行っているから,これをもって被告が差止原告らの人格権その他の私法上の権利を侵害していると評価できるとして,本件差止請求の相手方となる旨を主張する。
しかしながら,本件における直接の侵害行為者は,横田飛行場において米軍機の運航等を行っているアメリカ合衆国であること,また,直接の侵害行為である米軍機の運航等を規制し制限する権限を被告が有していないことは,上記⑴のとおりであり,これらの事実は,被告が安保条約や地位協定等を締結して横田飛行場をアメリカ合衆国に提供しており,その意味で差止原告ら
の主張する被害に加功していると評価できるとしても変わらないから,原告らの主張は理由がない。
また,差止原告らは,地位協定3条3項,16条によれば,米軍機が横田飛行場外を飛行する結果,基地外の住民に騒音被害をもたらす場合は,日本国の法令による制約は米軍にも及ぶことになり,被告は米軍の活動を
制限することができると解すべきであって,同協定18条5項にいう「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」には,差止請求権も含まれると解され,少なくとも午後10時から
翌朝午前6時までの米軍機の飛行及び地上での活動制限を内容とする平成5年日米合同委員会合意に基づき被告には同内容の履行義務が生じるなどとして,差止原告らの請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものではないと主張する。
しかしながら,米軍機の運航活動の内容について変更を求めるには,地
位協定25条の定める日米合同委員会の協議によらなければならならないところ,原告らが引用する地位協定のいずれの条文も,横田飛行場における米軍機の運航等を規制し,制限することのできる根拠となり得るとは解されない。平成5年日米合同委員会合意についても,米軍に対して努力を求めたものにすぎず,これを根拠として横田飛行場における米軍機の運航等を規制ないし制限することのできる権限が被告に付与されたとはいえないのであって,原告らの主張は採用することができない。

さらに,差止原告らは,上記のような判断は米軍機の離着陸等の差止請求については我が国の裁判所による実質的な判断がされないこととなり,裁判を受ける権利を侵害する旨を主張するが,差止原告らがその請求の根拠とする私法上の差止請求について,その成立要件としていかなる要件が求められるのか,本件において成立要件を充足する事実関係が存するのかという実体
法上の争点について差止原告らに主張立証の機会が与えられ,上記⑴のとおりその主張について当裁判所が検討し,判断を示している以上,裁判を拒否しているということはできず,差止原告らの主張は採用することができない。その他差止原告らが主張するところは,上記⑴の判断を左右するものではない。

第2

損害賠償請求について

1
原告番号883の原告の請求等及び被告が却下を申し立てる他の原告らに係る訴えの許否


原告番号883の原告の請求とこれに係る訴訟承継の申立てについて当裁判所に対して第1事件の提訴に当たり提出された同原告の訴訟委任状には,「後記代理人目録記載の各弁護士を訴訟代理人と定め,下記の事項を委任します。」という記載のみがあり,代理人目録が存在しなかったのであるから,同原告に関する限り,第1事件の提起は無権限でなされ,いまだ同原告につき訴訟係属は生じていないといわざるを得ない。当裁判所はこの瑕
疵を補正するため,同原告につき訴訟委任状の提出を求める補正命令を発したところ,同原告は既に死亡していたというのであるから,もはやこの瑕疵を補正して同原告につき訴訟係属を生じさせることは不可能というべきである。
なお,原告ら代理人は,原告番号883の原告と世帯を同じくする同881の原告が陳述書(甲C10の881・881-2)を提出していることをもって原告番号883の原告についての訴訟代理人の範囲は明らかであると
主張するが,問題となっているのは訴訟代理人が誰かではなく訴訟代理権限の授与の有無であり,仮に原告ら代理人の主張を前提としても,原告番号883の原告と同時に提出された同世帯とされる同881及び882の各原告についても,訴訟委任状に同様に代理人目録が記載されておらず訴訟係属が生じていないという瑕疵があり,補正によって初めてこれが治癒されたもの
であるから,上記主張は採用することができない。また,上記訴訟委任状が他の原告らの代理人目録の記載のある訴訟委任状と同時に裁判所に提出されたという一事をもって,原告番号881の原告を始めとするこれらの原告が他の原告らと同様の訴訟委任をしたと認めることもできない。他に一件記録を精査しても,原告番号881の原告について第1事件の提訴の時点での訴
訟委任を認めるに足りない。
よって,同原告についての提訴は訴訟委任に基づかずにされた瑕疵があり,この瑕疵は補正できないというべきであるから,同原告の訴え及びこれを前提とする訴訟承継の申立ては却下を免れない。


被告が訴え却下を申し立てる他の原告らについて
被告は,原告番号29,161,230,243,398及び640の原告らについて,本件訴訟の係属後に死亡したことが認められるが訴訟受継の手続が執られていないとして,訴えを却下すべきと主張する。しかし,同29の原告については訴訟承継人の申立てがあり,その余の原告らについては
死亡の時点までに有効な訴訟委任がされて訴訟代理人が選任されているから,死亡によって訴訟手続の中断が生じることはなく(民訴法124条2項),これらの原告の死亡までに生じた慰謝料請求権は既に請求の意思が明示されている以上,一身専属性を失ってその相続権を有する者に相続され,原告ら訴訟代理人はこれらの相続人の代理人として訴訟を追行しているというべきであるから,被告の主張は採用することができない。
2
法律上の根拠及び判断枠組み


民事特別法2条について
原告らは,損害賠償請求についての適用法条として,民事特別法2条,国賠法1条1項,2条1項を選択的に主張するところ,まず民事特別法2条について検討する。

横田飛行場は,前記第2部「前提となる事実」第1の2⑵オによれば,同法2条にいう「合衆国軍隊が占有し,所有し,又は管理する土地の工作物」に当たる。
次に,民事特別法2条は,上記の工作物の設置又は管理の瑕疵によって日本国内で他人に損害を生じたときは,「国の占有し,所有し,又は管理する
土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じた場合の例により,国がその損害を賠償する責に任ずる。」と規定するところ,「例により」とは,ある事項について,他の法令の下における制度又は手続を包括的に当てはめて適用することを表現する用語として用いられるものであるから,民事特別法2条にいう土地の工作物その他の物件の設
置又は管理の瑕疵については,国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵についての解釈が当然に妥当する。しかるところ,国賠法2条1項にいう土地の工作物その他の物件の設置又は管理の瑕疵とは,土地の工作物その他の物件が有すべき安全性を欠いている状態をいうのであるが,当該物件を構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって他人
に危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず,その物件が供用目的に沿って利用されることとの関連において他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み,また,その危害は,営造物の利用者に対してのみならず,利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解される。すなわち,当該物件の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても,これを超える利用によって危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には,そのような利用に供される限りにおいて同物件の設置又は管理には瑕疵があるというを妨げず,したがって,同物件の設置,管理者において,そのような危険性があるにもかかわらず,これにつき特段の措置を講ずることなく,また,適切な制限を加えないままこれを利用に供し,その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜし
めたときは,それが設置,管理者の予測し得ない事由によるものでない限り,同条の規定による責任を免れることができないと解され,民事特別法2条の責任についても同様と解される(大阪空港最高裁大法廷判決,横田平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決参照)。
原告らの主張する横田飛行場の設置又は管理の瑕疵は,横田飛行場に離発
着する米軍機及び自衛隊機等が発する航空機騒音等が原告らに被害を生ぜしめているという点にあるところ,上記のとおり,このような第三者に対する被害を生じさせていることも民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵に含まれ,また,工作物がその供用目的に沿って利用されている状況のもとにおいてこの利用から危害が生ずるような場合もこれに含まれるというべきであるから,
横田飛行場の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となる限り,横田飛行場に民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵があるというべきである。
そして,土地の工作物その他の物件の使用又は供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっ
ては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきである(大阪空港最高裁大法廷判決,厚木平成5年最高裁判決参照)。
以下,この見地から,まず侵害行為,原告らの被害,横田飛行場の公共性
及び防音工事の助成を始めとする被告の措置による被害の防止又は軽減に関して順次認定判断し,その上で横田飛行場の使用又は供用が上記の諸点に照らして周辺住民である原告らに対する関係において受忍限度を超える違法な権利侵害ないし法益侵害となるかを検討する。


原告らの他の選択的主張について
国賠法1条1項は特定の公務員の職務上の故意過失を要件とするが,原告らの主張はかかる特定を欠くから失当である。また,国賠法2条1項についても,上記第1の3⑴のとおり横田飛行場の管理運営の権限は基本的にアメリカ合衆国に委ねられていて被告にはなく,単にその前身にすぎない多摩飛行場を旧陸軍が開設したことや被告が安保条約等に基づき横田飛行場を提供
していることをもってこれを被告が設置管理しているということはできないから理由がない。
3
侵害行為の有無と内容について


航空機騒音について

本件請求対象期間における横田飛行場への航空機の離発着の状況の概要前記第2部「前提となる事実」第1の1及び3⑴に加え,証拠(甲B186,187。福生市が平成28年3月,瑞穂町が平成26年3月に公表した横田基地に関する資料)によれば,次のとおりと認めることができる。常駐機

横田飛行場には,C-130ハーキュリーズ,C-12ヒューロン,UH-1Nヒューイといった米軍輸送機・連絡機が常駐している。C-130ハーキュリーズは,軍用中距離輸送機であり,横田飛行場で年間を通じて最も離着陸回数が多く,編隊飛行を含め訓練飛行を行う機種の大半を占めており,旋回時に機体上面が見えるほどの低空飛行を行うこともあるが,他の機種に比べると騒音は小さく音質も高周波成分が少ない。C-12ヒューロンはプロペラ式の小型輸送,連絡機で,人員輸送や貨物輸送に使用され,プロペラ機のため比較的低騒音である。UH-1Nヒューイは中型ヘリコプターで主に人員輸送等に使用されている。
他基地からの飛来機

上記の常駐機のほか,横田飛行場には輸送機C-5Aギャラクシー,同C-17AグローブマスターⅢ,空中給油・輸送機KC-10エクステンダー,同KC-135ストラトタンカー,多用途ヘリコプターSH-60シーホーク,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド等の米軍輸送機が飛来している。また,戦闘機F-15イーグル,艦上戦闘・攻撃機
FA-18ホーネット,早期警戒機E-2Cホークアイ,戦闘機F-16ファイティングファルコン等の米軍戦闘機や米軍攻撃機も飛来している。また,平成26年7月以降は,MV-22オスプレイも飛来している。
このうち,C-5Aギャラクシーは,ジャンボジェット機(B-74
7)よりも一回り大きい世界最大級の輸送機で,離着陸時飛行直下では110dBを超える激しい騒音を発生させ,低空時の威圧感も大きい。また,C-17A及びKC-135は燃料を満載した離陸時にはC-5Aを上回る騒音を発生させるが,近年は低騒音型のエンジンとなり飛行時の騒音は緩和されている。さらに,戦闘機であるF-15イーグル,
F-16ファイティングファルコン,FA-18ホーネット等も頻繁に飛来しており,その騒音は極めて大きい。横田飛行場には自衛隊機は常駐していないものの,連絡機が度々飛来するほか,横田飛行場日米友好祭等のイベントの際には多数の自衛隊機が飛来して,基地周辺に騒音被害を与えている。飛来機は中等練習機と連絡・支援任務に使用されるジェット機川崎T-4,大型輸送用ヘリコプターCH-47J,ビジネスジェット機であるガルフストリームU-4やブリティッシュ・エアロスペースU-125などであり,特にT-4は,飛来数は少ないがビジネスジェット機に比較して騒音が大きい。飛行訓練について
横田飛行場では,所属機による通常の飛行訓練の他に様々な事態を想
定して,サムライサージ訓練(輸送機による大規模編隊飛行訓練),滑走路上へのパラシュート降下訓練,物資投下訓練,緊急管理演習(略称EME。大地震,航空機事故,バスと航空機の衝突事故等の様々な状況を想定した重大事故における対応訓練),運用即応演習(略称ORE。テロ攻撃や航空機,地上戦力による攻撃等に実践的な即応体制をとるこ
とを目的とした仮想戦闘環境における基地の機能テスト),初動対応即応演習(略称IRRE。OREの初期段階を想定して緊急事態発生に対する初動の対応を行う訓練),戦闘対応即応演習(略称CERE。戦闘装備品等の確保に迅速に対処するための対応訓練)等が不定期に行われている。

特に,平成23年以降,所属部隊だけでなく沖縄等の米軍も参加して,サムライサージ等の輸送機の編隊飛行や滑走路上へのパラシュート降下訓練,物資投下訓練がしばしば行われ,複数の航空機から一度に数十人が降下することもある。このような訓練では輸送機が飛行場周辺の市街地上空を低空で旋回することが多い。ただし,横田飛行場での夜間
着陸訓練(NLP)は,平成13年度以降は実施されていない。
なお,平成27年5月12日,日米両政府は,対テロ作戦等を主要任務とするCV-22オスプレイを平成29年後半以降に横田基地に配備することを公表したが,本件口頭弁論が終結した同年3月時点では上記配備は行われていない。

航空機騒音の評価指標(環境庁方式と防衛施設庁方式のいずれが相当か)
前記第2部「前提となる事実」第2,第3及び第4のとおり,航空機騒音の評価方法として我が国では従前からW値が採用されており,W値を基準として航空機騒音を評価することに合理性が認められるところ,我が国で用いられているW値の算出方法には,同第3の2⑴の環境庁方式と同第
4の2の防衛施設庁方式があり,原告らは後者を,被告は前者さらにはこの算定方法から昼間騒音を控除した昼間騒音控除後W値を評価指標とするべきであると主張して争っている。
そこで,本件の航空機騒音の評価指標としていずれを用いるのが適切かについて,まず検討する。

防衛施設庁方式の策定経緯は,証拠(甲B48,49,58,59)を総合すれば,次のとおりである。
防衛施設庁は,周辺整備法及び生活環境整備法に基づく周辺対策を進める中で防衛施設毎に順次騒音コンターの作成作業を行ってきたが,騒音調査の方法,調査結果の整理方法などに一定の基準を作り,コンター
の合理性,再現性等について検討し得るよう準備する必要があると考え,社団法人日本音響材料協会(以下「音響材料協会」という。)に対し,「防衛施設周辺騒音コンター作成基準の設定」を委託し,昭和51年6月,「防衛施設周辺騒音コンター作成基準委員会」(以下「基準委員会」という。)を発足させ,同委員会は,昭和52年3月,その検討結
果を「防衛施設周辺騒音コンター作成基準報告書」(以下「基準報告書」という。甲B48)にとりまとめた。次いで,同委員会の後身である「防衛施設周辺騒音調査研究委員会」(以下「研究委員会」という。)が,昭和53年3月,最終的な報告書をとりまとめ,これに基づいて防衛施設庁方式のW値が策定された。
生活環境整備法に基づく第一種区域等の指定をする基準となるW値の算定方法について,環境庁方式に代えて防衛施設庁方式が策定,採用された理由は,基準報告書(甲B48)及び証拠(甲B58,59。基準委員会及び研究委員会で専門委員を務め,コンター作成新通達の作成に調査委員会委員として関与した田村明弘横浜大学名誉教授(以下「田村名誉教授」という。)作成の平成23年9月3日付けの意見書及び横浜
地方裁判所で平成19年11月7日に実施された田村名誉教授の証人尋問調書)によれば,次のとおりであると認められる。
民間航空機が使用する公共用飛行場では,年間を通じて飛行回数に大きな増減がなく,機種や飛行態様も一定であるのに対して,自衛隊及び米軍が運用する軍用飛行場では,年間を通じて飛行回数の変動が非常に
大きく,機種や運航態様も多種多様である。
公共用飛行場と軍用飛行場との間のこのような違いは,周辺住民の騒音に対する反応にも差違をもたらす。具体的には,騒音を受ける日にばらつきがある場合,うるささに対する人間の感覚が,比喩的にいえば,「騒音が多かった日に引き寄せられて感じる」という特性を持つことか
ら,騒音回数が多く騒音程度の著しい日の騒音に強い印象を受ける。そして,1日当たりの航空機数に変動がある場合に,一定期間内の平均機数よりも数多く飛行した日を基準にしたW値が周辺住民の反応に比例する。このことは,公共用飛行場1か所と軍用飛行場3か所の周辺住民に対するアンケート調査を昭和50年度から昭和53年度までの3年間に
わたり実施し,航空機騒音に対する意識尺度と評価値がどのような関連性を有するかを調査した木村翔日本大学教授(基準委員会の副委員長でもあった。)外の共同研究の結果(甲B49。その要点につき甲B46(共同研究者の荘美知子工学博士(以下「荘博士」という。)の陳述書)参照)によっても実証されている。防衛施設庁方式の算定の基礎となる飛行回数として累積度90パーセント方式が採用されたのは,軍用飛行場における騒音に対する上記のような住民反応を適切に評価することができ,民間空港と同等な評価法に補正して整合を得ることができるからである。
また,継続時間補正については,軍用機は低高度の場合には騒音の継続時間が4秒程度と短くなるほか,機種による速度や高度の差も大きい
ので,環境庁方式のように継続時間を一律20秒として画一的に取り扱うのは不適当であるからであり,着陸音補正も,実測データに基づき2dBの補正が必要と認められることによるものであって,いずれも軍用飛行場の特殊性を考慮した補正である。
以上によれば,防衛施設庁方式は,基準委員会及び研究委員会の検討
と実証的研究による裏付けの下で,1年を通じて飛行回数,機種及び飛行態様が不規則でその変動が大きい軍用飛行場周辺において,そのような変動がほとんどない民間空港周辺における環境庁方式によるW値と同等の住民反応が得られるようにするにはどのような補正をすべきかという観点から提案,策定された算定方式であると認められ,被告の主張す
るように周辺対策を手厚くするための政策的なものにとどまるということはできない。そうすると,軍用飛行場である横田飛行場周辺の航空機騒音を評価する指標としては,環境庁方式によるW値よりも,防衛施設庁方式によるW値の方が単なる騒音曝露量ではなくこれに対する騒音の受け手である住民の「うるささ」という感覚的評価を重視して数値化し
ようとするW値の趣旨により適合し適切であると認められる。
これに対し,被告は,防衛施設庁方式は,飛行回数について実際の飛行回数の算術平均を大幅に上回る数値を計上しており,W値に相当する騒音が現実に生じたことが推定されるわけではないなどとして,環境庁方式を採用することが相当であるとした上で,昼間の時間帯には勤務や就学等で居住地域を離れる者が存在するとして,昼間騒音控除後W値を用いるべきであると主張する。
しかし,上述のとおり,防衛施設庁方式における飛行回数その他の補正は,実証的なデータと研究に基づき,民間空港と異なる軍用空港の特殊性やこれに対する住民反応をより適切に評価するためのものであって,環境庁方式が先行していたにもかかわらず,防衛施設庁長官があえて防
衛施設庁方式を策定,採用した経緯に照らしても,環境庁方式を採用すべきであるとする被告の主張は到底採用することができない。
また,被告の主張する昼間騒音控除後W値については,環境庁方式を基礎とする点で既に採用の限りではない。この点を措くとしても,前記第2部「前提となる事実」第2の3及び証拠(甲B58,59)によれ
ば,W値とは,間欠的ではあるが,騒音レベルが高く音源が固定されていないため,影響が広範囲に及ぶなどの航空機騒音の特殊性を前提に,一定の地域ごとにその地域に居住する者がほぼ同程度の航空機騒音にさらされるという考え方に基づき,一定の地域を社会環境単位と捉え,航空機騒音はその社会環境単位に居住する住民の属性や生活パターンを超
越して影響をもたらすことを前提に,このような航空機騒音がもたらす社会環境単位における住民反応を適切に評価するには当該地域の戸外騒音を終日にわたって区別なく評価する尺度がふさわしいという考え方に基づき(甲B58の15頁,59の9頁,40頁~),昼間の時間帯に居住地域を離れる者が存在することをも考慮した上での受音者側の感覚
的要素を加味した「うるささ」の評価尺度であって,地域内における単なる物理的な騒音曝露量の総体を示すものではないから,被告の主張はW値についての考え方を正解しないものである。そして,1日(24時間)に生じた航空機騒音を総合して評価するという理念で考案された評価尺度がW値であるところ,昼間控除後W値は,平日の昼間の午前9時から午後5時の飛行回数を除いて算出するなど,実際にある昼間の騒音をないものとして算定しておきながら,24時間で平均化するという点
でも,評価方法として矛盾があり,採用することができない(甲B59の26頁)。
したがって,被告作成の昼間騒音控除コンター図及びこれに基づく被告の主張はおよそ採用の余地がない。
以上によれば,本件における航空機騒音の評価指標としては防衛施設
庁方式で算定したW値によることが相当である。ただし,実際の騒音のデータとしては環境庁方式によるW値しか存在しないことが多いが,一般に環境庁方式と防衛施設庁方式では前者が後者よりも3~5W数値が低くなることを考慮して,便宜上,環境庁方式による数値に4Wを加えた数値を防衛施設庁方式によるW値の近似値として取り扱うこととする。

本件における航空機騒音の程度を認定する資料としての告示コンターの合理性
前記第2部「前提となる事実」第4の3のとおり,横田飛行場周辺においては,被告の委託によって平成15年度調査が実施され,これに基
づいて第一種区域線,工法区分線及び外郭線が指定ないし設定されて告示コンターが作成されている。平成15年度調査は,昭和59年告示から約20年が経過し,その間,横田飛行場の航空機の騒音状況に変化が見られることなどから実施されたものであるところ,前提となる昭和59年告示に至るまでに被告が行った騒音調査は,まず予備調査を行って
横田飛行場に離着陸する米軍機等の飛行形態を把握し,次いで,夏季の1週間及び冬季の2日間に本調査を行い,飛行場内測点(500か所),北側固定測点(15か所)及び南側固定測点(169か所)において常時測定員を配置し,24時間連続して,発生時刻,機種,飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観測し,また,移動点測定においては,同時に12か所から15か所にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって毎日午前8時から午後5時までの間,移動しながら測定を行うという大規模かつ詳細なものであった。平成15年度調査は,昭和59年告示から騒音状況に変化がみられるかを調査するため,前記第2部「前提となる事実」第4の3⑵アのとおり,3日間の現地事前調査により測定点としての適切性等を調査し,
夏季,秋季及び冬季の3回に分けてそれぞれ9日,8日,9日にわたって実施した現地での本調査により,52の測定点において飛行状況調査,飛行経路調査,騒音測定等の基礎データ調査を行うとともに,平成15年4月1日から1年間の自動騒音測定による航空機騒音発生回数及び本調査による飛行状況調査の結果から飛行回数を求め,防衛施設庁方式に
より各測定地点のW値を算出し,これによるコンター図を作成して,第一種区域等を新たに指定したものである。
このように,告示コンターは,極めて大規模かつ詳細な騒音調査を行った昭和59年告示を踏まえ,新たに大規模かつ詳細な騒音測定等の調査に基づき,軍用飛行場における航空機騒音を適切に評価する指標であ
る防衛施設庁方式のW値によって横田飛行場周辺の航空機騒音を評価した結果によるものであるから,少なくとも上記各調査がなされた当時の航空機騒音の実態に合致したものであったと認めるのが相当である。そして,告示コンターが全面的に適用された平成19年5月から本件請求対象期間の始期である平成22年3月又は同年8月までは3年前後
しか経過しておらず,口頭弁論終結日の時点で更に7年近くが経過しているところ,上記のとおりの告示コンターの合理性に加え,現に被告において平成15年度調査を行わせて第一種区域等の見直しを実施していること等に照らせば,同調査時の航空機騒音の実態と現状との食違いが顕著となっている場合には被告において告示コンターの再見直しがなされるはずであり,少なくとも,告示コンターを作成する際の各騒音調査と同程度の規模,内容の騒音調査がなされて原告らが損害賠償を求める平成22年3月以降の航空機騒音の状況が,告示コンターの前提となった平成15年度調査の結果と比較して乖離が顕著となっていることが認められない限りは,告示コンターに基づいて本件請求対象期間の航空機騒音の状況を認定することが合理的であり,相当である。現に被告の主
張する昼間騒音控除後W値も,新たな騒音測定をしてその結果に基づいて算出したものではなく,告示コンターの基礎となった平成15年度調査のデータを基に防衛施設協会に委託して昼間騒音を控除した環境庁方式によるW値に換算させたものにすぎないから(乙106の1・2),被告自身も平成15年度調査による騒音データが調査当時の航空機騒音
の実態を反映したものであることは自認しているということができる。また,原告らは平成15年度調査の時点又はそれ以降において実際には告示コンターを上回る航空機騒音が発生していたと主張するが,この主張は平成15年度調査の時点から本件口頭弁論終結日まで少なくとも告示コンターが前提とした程度の航空機騒音が発生し続けていることを前
提とするものというべきであり,実質的には発生する騒音の最低線を画する限度では告示コンターに一定の合理性を認めるものということができる。
これに対し,被告は,別紙7-1の自動騒音測定装置の設置位置図(乙68の2)記載の「測定場所」欄の測定地点10か所(85W地域
2か所,80W地域1か所,75W地域4か所,区域外3か所。以下「被告測定地点」又は単に「測定地点」といい,個別の測定地点については「測定地点①」などと表記する。)における平成20年度から27年度までの測定地点ごとのW値,1日当たりの時間帯別及び騒音レベル別の平均騒音発生回数の集計結果(乙68・69の各1・2)に基づき,告示コンターの各W値の区域において,実際にはそれを下回るW値の騒音しか発生していないとか,平成15年度調査の時点よりも騒音が減少しているなどと主張する。
そこで,被告が援用する上記騒音測定結果についてみるに,被告は,上記10か所の測定地点における継続時間3秒以上の70dB以上の航空機の騒音発生回数をまとめているところ,本件請求対象期間に先立つ
平成20年度(平成20年4月)から平成27年度までのW値の推移と平均騒音発生回数(4月から翌年3月までの発生回数を同期間の日数で除したもの)は別紙7-2のとおりである。ただし,被告の援用する別紙7-2の「W値」欄に記載された数値は環境庁方式により算定したものなので,当裁判所でこれに4を加えた防衛施設庁方式による近似値を
その欄外下に追加記載した。また,平均騒音発生回数につき,被告は元データの小数点第2位を四捨五入した値を記載しているが,その結果が0となる場合は更に傾向を詳しく見るために下側に元データの数値を併記した。
まず。防衛施設庁方式によるW値の推移を見るに,75W地域では概
ね75Wかそれ以上となっていて顕著な乖離はなく,85W地域ではむしろほとんどの年度で90を超えるかこれを僅かに下回る程度で騒音はむしろ平成15年度調査の時点よりも激化していると認められる。これに対し,80W地域では,いずれの年度でも80を下回ってはいるものの,77台が多く最低でも75を上回っていて乖離が顕著とまではいえ
ない。そもそも平成15年度調査と異なって機種や飛行態様・方法等の調査も行われていないのであるから,これをもって告示コンターの80W地域で騒音が減少して平成15年度調査の結果と乖離していると見ることはできない。
次に,深夜と早朝の平均騒音発生回数の傾向を検討するに,まず,85W地域(測定地点①,②)では,夜間(午後10時から午前0時まで)は,測定地点①で平成26年度に0.04となっているのを唯一の例外として,いずれの年度でも0.1を維持しており,基本的に変わっていない。早朝(午前0時から午前7時まで)は平成21年度をピークにして若干減少傾向にあるとはいえ,平成26年度以降も0.3又は0.4を維持している。

次に,80W地域(測定地点⑥)を見ると,深夜は,平成20年度以降,ほぼ0.1回で少ない年でも0.04回を維持しており,基本的に変動はない。早朝については平成21年度をピークとして平成23年度までは若干減少傾向にあったが,平成24年度以降は0.3回と0.2回の間で推移している。

また,75W地域(測定地点⑤,⑧,⑨,⑩)では,深夜については概ね0.1回から0.04回の間を推移している(昭島市宮沢町の測定地点⑨は他と比較するとやや0.1回を下回る年度が多いが,減少傾向にあるとはいえない。)。早朝は平成21年度をピークとして若干減少したものの,平成24年度以降はいずれにおいても0.2回から0.3
回の間を推移しており,足踏み状態にある。
ちなみに,これに対し,旧W値75地域(測定地点③,④,⑬)では,深夜については,特に④(飯能市岩沢)では平成23年度以降一貫して0.02回にとどまっているが,その余の地点では0.1回と0.03又は0.04回との間をゆれ動いているものの,早朝は基本的に
いずれの地点でも平成21年度をピークとして以降は減少傾向にあるということができる。これに対し,原告らは,測定地点①,②についての被告がウェブページで公開している測定結果(甲B276の1~287の9)を集計したとする結果をもとに騒音の発生状況を主張するが,深夜や早朝の飛行回数等は原告らの主張する年間の総数よりも別紙7-2のような1日当たりの平均の方が発生状況が把握しやすいので,被告の書証によることとし,むしろ,別紙7-2の測定結果では80W地域が瑞穂町の1か所しかなかったこと等を考慮し,これを補完する意味で原告らが提出する昭島市の測定結果(甲B55,228の各3,6,8,11頁)について検討する(なお,原告らは瑞穂町における測定結果(甲B220~22
6)も提出するが,証拠(甲B319)によっても80W地域か85W地域かが不明で,比較の対象とできず,年度ごとの集計もされていないから,こちらは考慮し得ない。)。
昭島市では,85W地域の昭島市拝島町の拝島第二小学校屋上(以下「拝島第二小地点」という。)及び80W地域の昭島市田中町の市役所
庁舎屋上(以下「昭島市役所地点」という。)において航空機騒音の自動測定を行っている。測定方法は,平成25年3月までは70dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,同年4月からは暗騒音+8dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,騒音を測定するというものである。これらの測定結果に基づき当裁判所が計算した平成21年度から平成
27年度までのW値の推移及び1日当たりの平均騒音発生回数は,別紙7-3のとおりである。ただし,前者については元データが環境庁方式によるものなので4を足した防衛施設庁方式による近似値を併記し,後者については別紙7-2と同じく,小数点第2位を四捨五入し,その結果0となる場合は小数点第3位を切り捨てた。

これによれば,防衛施設庁方式によるW値を見ると,85W地域の拝島第二小地点ではどの年度も85W前後で一貫しており,平成27年度は84Wであるものの,前年の平成26年度は本件請求対象期間では最高の88Wに達するなどしていて,騒音が減少傾向にあるとは到底いえない。また,80W地域の拝島市役所地点でも80を下回ってはいるが,平成26年度は79に達し,最低でも76にとどまっていて,やはり乖離が顕著とはいえない。
さらに,深夜,早朝の平均騒音発生回数を見ても,拝島第二小地点(85W地域)では,深夜は,平成24年度の0.03を唯一の例外として一貫して0.1回であり,早朝は,平成21年度をピークにして若干減少傾向にあるとはいえ,平成24年度以降0.3を維持していて,
同じ85W地域である別紙7-2の測定地点①,②と基本的に同様である。
また,昭島市役所地点(80W区域)では深夜は0.04の年度もあるが概ね0.1を維持しており,早朝は平成21年度をピークにして若干減少傾向にあったが平成24年度以降は0.3と0.2との間を推移
していて,やはり基本的に同じ80W地域である別紙7-2の測定地点⑥と同様の傾向を示している。
以上は年平均で見たものであるが,1日の騒音発生状況の実例を見ると,例えば拝島第二小学校における時間帯毎の自動測定結果(甲B234の8,235の2)によれば,平成27年11月22日夜間から23
日早朝にかけては,午後11時台に1回,午前0時台と午前2時台に各2回,午前3時台と午前5時台に各1回と合計7回の騒音が記録されている。また,平成28年5月25日の夜間から同月27日の早朝にかけても,同月25日の午後7時から午後10時にかけて合計15回の騒音が記録され,引き続き同月26日の午前0時台,午前1時台,午前4時
台,午前5時台,午前6時台に1回ずつ合計5回の騒音が記録され,さらに,同日の午後11時台と翌27日の午前2時台,3時台に各1回の騒音が記録されている。なお,深夜や早朝ではないが,同年7月7日の午後7時から午後10時の間にも合計34回もの騒音が記録されている。以上によれば,W値の推移と夜間早朝の年間騒音発生回数のいずれを見ても,告示コンターとの乖離が顕著とはいえないし,騒音が軽減される傾向にあるとも到底いえない。80W地域については,瑞穂町の測定地点⑥も拝島市役所地点も一応80Wには達していないとはいえ,僅か2か所での測定結果であり,機種や飛行経路の調査もされていないから,平成15年度調査の妥当性を左右するものではない。そもそも被告が,真に実際の騒音の状況が告示コンターを不合理とするまでに変化して現
状と乖離しているという認識を有しているのであれば,少なくとも平成15年度調査と同程度の現地調査を改めて行ってこれに基づき新たなコンターを作成すれば足りるはずである。そうすると,平成15年度調査の結果と比較して航空機騒音が軽減していると認めることはできず,被告の主張は,採用することができない。

他方,原告らは,平成15年度調査につき,①考慮された飛行方法が滑走路延長線上の計器飛行方式での離発着と平均海面からの高度2000フィート(約600メートル)での場周経路に限られ,場周経路上の飛行のうち高度1500フィート(約450メートル)の有視界飛行及び高度2500フィート(約750メートル)のオーバーヘッド・パ
ターンによる飛行等は考慮されておらず,捕捉された騒音が極めて限定的であること,②調査方法についても,調査地点が少なく,偏在しており,調査期間が短いこと,③飛行状況調査につき夜間の飛行を除外していること,④機種識別を自動騒音測定装置に頼っていることなどの点で,平成15年度調査は不十分であり,実際には告示コンターの区域外の旧
75W地域内においても75W地域と同等の騒音が生じていることが明らかであるなどと主張する。しかしながら,上記①の主張については,原告らがその根拠として援用する東京都環境局が作成した「横田飛行場周辺航空機騒音調査」(甲B155)は,同調査が実施された平成22年11月の8日間において平成15年度調査が騒音測定の実施に当たって想定していなかった飛行方法が存在することを示すものであるとはいえ,限られた測定結果に基づき航空機の航跡調査を行ったものにすぎず,平成15年度調査の時点はもとより,本件請求対象期間においても,そのような飛行が恒常的に繰り返されていたことまでを立証するものとはいい難い。また,在日米軍横田基地第374空輸航空団が平成25年4月21日に作成した「航
空機空中衝突防止のために」と題する書面(甲B165)及び米空軍特殊作戦コマンドが平成27年2月24日に作成した「CV-22の横田飛行場配備に関する環境レビュー」抜粋(甲B167)において記載されている横田飛行場の航空機の飛行経路の種類に至っては,いつの時点のどのようなデータに基づいているかが明らかではないほか,平成15
年度調査が騒音測定の対象としていなかった飛行方法がどの程度の頻度で実施されているかも具体的に明らかではないから,平成15年度調査の時点はもとより,本件請求対象期間を通じて恒常的にそのような飛行が繰り返されていることまでを立証するものとはいい難い。さらに,原告らの②ないし④の主張は,平成15年度調査に必ずしも完全に航空機
騒音の実態を捕捉し切れていない可能性があることを示唆するものではあるが,これらの点を考慮しても,平成15年度調査に基本的な合理性る。そうすると,これらの事実をもっ
て原告らの主張するように直ちに旧75W地域を含めて告示コンターよりも深刻な航空機騒音が発生していると認めることはできない。

そして,先に検討した昭島市内の2地点の平成21年度の騒音測定の集計結果に加え,同地点における平成19年~23年測定結果(甲2。これのみ「年度」(4月~翌年3月)でなく「年」(1月~12月)単位で集計),うち拝島第二小地点における日ごとの時間帯別及び騒音レベル別の騒音測定回数,継続時間合計,日最高音,パワー平均,W値等の集計結果の平成22年度分(甲B229の1~12),平成23年度分(甲B230の1~12),平成24年度分(甲B231の1~12),平成25年度分(甲B232の1~12),平成26年度分(甲B233の1~12),平成27年度分(甲B234の1~12),平成28年4月~12月分(甲B235の1~4),瑞穂町役場及び瑞穂町箱根ヶ崎の民家(前者は甲A12によれば指定区域外とうかがわれ,
後者は甲B319によっても瑞穂町が個人情報として所在地を開示していないため80W地域か85W地域かが不明)における騒音発生回数(1日平均回数),最高音圧レベル(dB),W値等の測定データの平成21年度~23年度分(甲3),平成24年度分(甲B56),平成25年度~27年度分(甲B219の1~3),上記民家における日ご
との騒音最高値(dB),時間帯別騒音発生回数,W値等の集計結果の平成22年度分(甲B220の1~12),平成23年度分(甲B221の1~12),平成24年度分(甲B222の1~12),平成25年度分(甲B223の1~12),平成26年度分(甲B224の1~12),平成27年度分(甲B225の1~12),平成28年4月~
12月分(甲B226の1~9)のほか,八王子市の宇津木台町会会館(80W地域)における平成28年7月と同年8月のdBによる騒音測定結果(甲B259の1の45~55頁。ただし現地進行協議の指示説明書の添付資料としての提出にとどまる。),福生市内の2地点における騒音測定結果の平成17年度~22年2月分(甲1の78~80頁),
平成27年度分(甲B227。ただしLdenのみ),東京都環境局による昭島市,福生市,武蔵村山市,瑞穂町内の各1地点(ただし,昭島市内の測定地点は前記昭島市役所地点)における平成24年度と平成26年度の航空機騒音調査結果報告書(甲B57,236)に加え,平成28年1月29日の検証期日及び同年10月14日の現地進行協議期日の騒音測定結果(甲B162,260。なお,各期日における被告の騒音測定結果は乙149,182)を提出する。

しかし,最も古いものでも平成19年の測定結果(甲2)であって,もとより平成15年度調査の信頼性を左右するに足りるものではない。また,これらのW値はいずれも環境庁方式によるものとうかがわれるところ,原告らから,これらを防衛施設庁方式のW値に換算した上で,これらの測定結果と平成15年度調査との間に顕著な乖離が生じているこ
とを認めるに足りるような具体的な主張立証はない。そうすると,平成15年度調査の際に比較して,航空機騒音が告示コンターを不合理とする程度にまで深刻化していると認めることはできない。
以上によれば,告示コンターは横田飛行場周辺における航空機騒音を基本的に正確に反映しているものと認められ,平成15年度調査以後,
原告ら及び被告により,これと同程度の規模,内容の騒音調査がなされた事実はなく,また,本件訴訟で提出された各種の測定結果に照らしても,平成15年度調査当時との乖離が顕著となっているとは認められない。そうすると,本件請求対象期間においても,告示コンターによる75W以上の地域においては,当該W値に照応する航空機騒音が発生して
いると認めるのが相当である。


地上騒音による侵害について

認定事実
証拠(以下括弧内掲記のもの)によれば,次の事実が認められる。
地上騒音の意義と種類
地上騒音とは,航空機の離着陸に伴い発生する上記⑴の航空機騒音と区別されるものであり,飛行場内における航空機の運用や機体整備に伴い発生する騒音である。地上騒音の例としては,①着陸機が接地後の制動のためエンジンを逆噴射するときに発するリバース音,②航空機が駐機場と滑走路を行き来する際に発するタクシーイング音,③駐機中の航空機に空気圧,油圧,電力などを供給するために航空機の尾部に装備された補助動力装置であるAPU(Auxiliary

Power

U
nits)の稼動音,④整備に伴うエンジン試運転の音,⑤離陸前のエンジン調整音,⑥離陸直前の戦闘機のエンジン最終点検によるランナップ音が挙げられる(甲B238の24頁以下,乙90の107頁以下)。平成15年度調査における地上騒音の測定結果(乙89)
夏季,秋季及び冬季の各7日間における3度の本調査で得られた各測定点におけるピーク騒音レベル及び継続時間のデータを,機種別,飛行方向別,飛行態様別にそれぞれ平均値を求めて整理した結果によれば,52の固定測定地点のうち,測定点14(87.1W),同20(83.
8W),同24(69.3W),同26(75.3W),同28(68.6W),同31(73.1W),同32(79.2W),同35(75.9W),同36(83.4W),同41(71.5W)(乙89の37頁以下で「G」と記載された地点。なお,各地点のW値については同122頁参照)の計10地点において,地上音が確認された。

原告らによる地上音の測定結果
原告らが日本音響エンジニアリング株式会社に依頼して平成28年3月23日から同月29日にかけて,原告番号829の原告宅4階ベランダ(75W地域内)において自動騒音測定装置を用いた騒音測定結果には,同月23日及び同月24日に「タクシーイングあるいは誘導路上で
一事停止する際のアイドリングと思われる騒音」が確認されたとする記載があるが,実音データの聴感によるもので,目視で裏付けられたものではない(甲B239の10頁)。平成18年度環境省請負業務騒音評価手法及び規制手法等検討調査業務報告書(乙90)
この報告書は,社団法人日本騒音制御工学会が作成したものであり,我が国の騒音対策における評価量が整合されていないために住民が実際に受けている騒音の総曝露量などを適切に評価できないとの問題意識から,諸外国の騒音に係る評価手法や規制手法の実態を調査するとともに,音源ごとの評価・規制のあり方について技術的検討を行い,将来における騒音政策に関する技術的課題を検討する際の有用な資料を提供するこ
とを目的として,防衛施設を含む複数の飛行場の飛行経路等のデータを参考に,運用状況につき典型的な条件を設定して推計によりW値への影響を検討して,前述の田村名誉教授や荘博士も委員を務める検討委員会の審議によって取りまとめられたものである。その地上音評価の必要性に関する検討結果の概要は次のとおりである。

地上騒音の一般的な特徴として,気象の影響を強く受け,騒音レベルが大きく変化すること,騒音の影響を受ける地域がごく限定された範囲にとどまること等が挙げられる。そして,上記

の地上騒音のうち,A

PU稼動音は暗騒音との区別や測定が困難であり,整備に伴うエンジン試運転音も騒音に配慮した施設内で実施されるため騒音への寄与は低い。また,タクシーイング音は誘導路近傍を除いて影響は小さく,離陸前の調整音も飛行音に比べてレベルが小さく影響は少ない。これに対し,着陸後のリバース音は滑走路側方で比較的大きな音として頻繁に観測され,従前の基準でも測定,評価の対象とされているが,空港から離れた地域では寄与は少なく,離陸直前のランナップ音についても滑走路側方1キ
ロメートル地点でも騒音曝露評価値の上昇は0.1~0.4dBで影響は小さい。イ

検討
上記ア



によれば,平成15年度内の計21日間及び平成28年3

月23日及び同月24日において,横田飛行場周辺の地域のいくつかの地点において何らかの地上騒音が発生していることがうかがわれるものの,その音源等は必ずしも明確とはいえず,測定の期間,箇所のいずれにおいても本件で問題になっている平成22年頃から現在までの本件請求期間内に,告示コンターの各地域という広がりを持った地域内においてどのような地上騒音が生じているのかを認定する客観的資料としては不十分といわざるを得ない上,同

の検討結果によれば,防衛施設周辺において生じる

地上騒音がW値の算定に与える影響は小さいというのである。
これに対し,原告らはW値で評価される航空機騒音とは別個に深刻な地上騒音による侵害が発生していると主張し,原告らの陳述書(甲C10。なお,枝番号が原告番号に対応しているところ,枝番号の記載は特に必要がない限りは省略する。)にもエンジン調整音を主とする地上音に言及す
るものがある。しかし,地上騒音について具体的に陳述するものは,被告の指摘(平成29年3月1日付け準備書面

添付の地上音に関する陳述書

集計表⑴)によれば陳述書総数398通の2割にも満たず,本人尋問を受けた原告16名の陳述書だけを見ても,地上騒音に特に触れていない原告が過半数の9名(原告番号5,196,520,639,662,713,801,861,1067)にも及び,言及する者のうち2名(同352,839)は抽象的に地上騒音がある旨を陳述書に記載するにとどまっている上,地上騒音に言及しない上記原告の居住区域は85W地域(もともと同8の1名のみ)を除く全ての地域に及んでいる。
以上によれば,横田飛行場周辺の原告らの居住地域の全域又は一定のW
値以上の地域において,航空機騒音とは別の侵害として把握するに足りる地上騒音による侵害が発生していることを認めることはできない。⑶
航空機の排気ガス,振動による侵害について

排気ガスによる侵害について
原告らは,航空機が排気ガスを上空から広範囲にまき散らし,原告らの家の壁やベランダ等に汚れを生じさせ,健康への悪影響を生じさせていると主張し,平成28年1月29日に行われた本件検証期日において離陸し
た航空機から茶色の排ガスの排出が観察されたこと(甲B161の10~11頁),原告番号692の原告(80W地域)の自宅屋根の雨樋に黒い汚れが付着していること(甲B272,273)を指摘するほか,原告らの陳述書(甲C10)中にも排気ガスの被害を訴えるものが散見される。しかしながら,原告らは,横田飛行場周辺地域においてどのような種類
の排気ガスがどの程度,どの範囲において生じているのかについて,客観的資料をもって具体的に主張立証するものではない。そればかりか,証拠(乙208,209)及び弁論の全趣旨によれば,横田飛行場に近い福生市役所を始めとする横田飛行場周辺自治体の6箇所の測定局の排気ガス成分である二酸化窒素や一酸化炭素の平成21年度から平成27年度の年平
均値を見ても,他の東京都下の測定局の年平均値と比べて特別に高い値を示しているわけではなく,いずれの年度でも環境基準を達成していることが認められる。
したがって,横田飛行場周辺において排気ガスによる侵害が発生していると認めることはできない。


振動による侵害について
原告らは,横田飛行場周辺を飛行する航空機による振動が家屋等の構造物に対する物理的被害を与え,また,家の窓ガラス等がガタガタと大きな音を立てることにより原告らに恐怖や不安を与えているなどと主張し,被
告の指摘(平成29年1月18日付け準備書面

添付の陳述書集計表1

「以下「被告振動等陳述書集計表1」という。)によっても原告らの陳述書(甲C10)の通数,人数のいずれで見ても6割近くが振動について言及している。
これにつき,原告らは,構造物に物的被害を生じるのは85dB以上の振動であり,長期にわたり振動にさらされる公害振動の場合に物的被害が生じない限界がほぼ70dBとするのが適切と考えられていることなどの一般論が記載された文献(甲B263。弁護士村頭秀人著の「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」)を引用するが,同文献の上記記載は主に地盤の振動に関するものと見受けられ,原告らの主張する振動被害の発生の機序は必ずしも明確とはいい難い。他方,被告は,航空機が30
~40メートルまで接近する建物を除き,航空機による振動(空気振動を通しての建物の振動)が何らかの被害につながることはほとんどないとの知見(乙143の39頁。航空公害研究センター所長守田栄の「航空公害・音に関する基礎量と単位」)を前提に,昭和39年4月の日米合同委員会による横田飛行場隣接地域の最低飛行速度に関する合意(乙146)
からすれば,米軍機がこのような低空を飛行することは通常あり得ないと主張する。しかし,上記合意は離着陸及び計器侵入の場合を除いており,現に平成29年1月29日の拝島第二小学校における当裁判所の検証において,C-5輸送機が着陸する際に同小学校の屋上から相当に低空を飛行し(甲B161の91頁・写真8-5参照),その際に振動が体感された
ことが経験された。しかしながら,上記はあくまでも屋外でのことであるし,振動の有無や程度については,家屋の構造や建築・耐用年数,窓ガラス,屋根材等の材質その他さまざまな要因による影響が考えられ,原告らが陳述する振動や建物の損傷が航空機の航行に起因するとまでは認めるに足りない。

そうすると,横田飛行場の周辺で少なからぬ原告らが航空機の航行時に建物の振動を経験していることはうかがわれるものの,その発生機序は現時点では明確とはいえず,上記⑴の航空機騒音とは別個の侵害として,振動による侵害が横田飛行場周辺の原告らの居住地域の全域又は一定のW値以上の地域に共通する侵害として発生しているとまでは認めることができない。


航空機の墜落事故等の危険性による侵害について

航空機の墜落及び落下物事故の危険性について
証拠(甲B13,186,247,274,275,298)によれば,次の事実が認められる。
昭和22年7月から昭和59年10月までの間,横田飛行場周辺に
おいては10件の航空機墜落事故が発生し,このうち6件においては基地関係者以外にも身体的,財産的被害が発生している。また,昭和53年4月から平成28年10月までの間に4件の不時着事故,1件の発煙事故,1件のエンジンカバー紛失事故,13件の事故予防着陸ないし緊急着陸,1件の着陸時の事故が発生した。特に平成28年に
は2月,4月,10月と立て続けにヘリコプターUH-1ないしUH-1Nが予防着陸を繰り返し,横田飛行場の所在する5市1町から徹底した原因究明と再発防止等を求める口頭要請がされた。
さらに,昭和38年1月から平成20年7月までの間,横田飛行場周辺において,3件の模擬爆弾や訓練用砂袋の誤投下事故,8件の航
空機部品やヘルメット,ペットボトルの落下事故,1件の部品紛失事故が発生し,うち平成11年5月の誤投下事故と同年9月の部品落下事故では民間建物の屋根を損傷した上,平成25年7月から平成26年11月にかけても紛失場所不明の5件の部品紛失事故が発生している。

原告らは,過去に以上のような航空機の事故があったことをもって,今後も同種の事故が発生する危険性があり,このこと自体が航空機騒音による被害とは別個の違法な侵害行為を構成すると主張する。しかるところ,現実にこれらの事故が発生し,その中には周辺住民に現実に身体的,財産的被害を生じたものもあることに照らすと,原告らが横田飛行場に離着陸する航空機の事故に対する危険を感じ,不安,恐怖を覚えているとしても理解できるところであり,このような事故が生じることへの不安感や恐怖感自体は後述のとおり航空機騒音に伴う原告らの心理的・情緒的被害の一環として考慮すべきである。
しかしながら,昭和59年10月を最後に墜落事故は発生しておらず,明確に部品等の落下と認められる事故も平成20年7月を最後に発生し
ていないこと,その他事故の内容及び頻度等に照らすと,本件請求対象期間において横田飛行場を航行する航空機によって墜落や落下物事故が起こる具体的な危険性があったとまでは認めることができず,このような危険性が現実に存在するとしてこれ自体が侵害行為を構成するということは困難といわざるを得ない。原告らは,横田飛行場に飛来するM
V-22オスプレイの墜落事故の危険性についても言及するが,証拠(甲B123,128~130,140,142,198,205,211,213~216,乙183,185,187~189,191)によれば,沖縄の普天間基地に配備されたMV-22オスプレイが平成26年7月以降,横田飛行場にも時折飛来していること,米軍普天間基
地所属の同機種のオスプレイが平成28年12月13日に沖縄県内の浅瀬に墜落する事故を起こしたことが認められるものの,これらの証拠を考慮しても,上記墜落事故の原因はいまだ不明であり,オスプレイ自体の構造に欠陥があるとまでは断定できず,オスプレイの飛来が原告らの不安感,恐怖感を強めていることは理解できるものの,上記認定を左右
するものとまではいえない。

燃料漏出及び火災事故等について
証拠(甲B13,14の1・2,15,97,186)によれば,次の事実が認められる。
平成5年10月,平成10年7月,平成19年9月に,横田飛行場では3回の燃料漏出事故(漏出量はそれぞれ1万8000ガロン,30~
50ガロン及び1480ガロン)が発生している。また,昭和42年5月,昭和53年7月及び平成10年10月には横田飛行場内又はその周辺で運航中の航空機の火災事故が発生した。さらに,平成21年1月には横田飛行場内の平屋建ての建物約3600平方メートルが全焼する火災事故が発生し,東京都と横田基地の所在する5市1町の首長で構成さ
れる横田基地に関する東京都と周辺市町連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が即時の情報提供と原因究明,再発防止策の説明を行うよう要請したが,後日,その消火活動に使われた大量の汚濁した水が福生市内の公園の池に流れ込み,数百匹の魚が死んだことが判明した。原告らは,

のような事故があったことから横田飛行場内の施設

の設置,運用自体が大事故の不安を与えるとともに周辺環境を汚染して航空機騒音とは別個の侵害行為を構成するなどと主張する。
しかるところ,共通損害といえるか否かはともかくとして,航空機騒音から想起されるそのような事故が生じることへの不安感や恐怖感を心理的・情緒的被害の一環として斟酌する余地はあり得る。しかし,上記
の事故の内容及び頻度等に照らすと,かかる事故のあった飛行場というだけで横田飛行場の設置,運用が原告らに対する具体的な危険性を伴う侵害行為となるとは認めることができないというべきである。このことは原告らが主張する横田飛行場所属の米兵や米軍属による犯罪の発生についても同様である。



低周波音による侵害についてア

原告らは,平成27年9月に原告らが委託して実施,作成された本件低周波音測定報告書(甲B267)に基づき,横田飛行場に飛来する航空機から相当程度の低周波音が発生しており,航空機騒音とは別個の侵害を構成すると主張する。


しかるところ,環境庁は,低周波音による苦情に対応するため,平成12年10月,「低周波音の測定方法に関するマニュアル」(甲B265。以下「環境庁マニュアル」という。)を公表しており,これによれば低周波音に関する知見は次のとおりである。
低周波音の意義等

一般に,人が聴くことができる音の周波数範囲は20Hzから20kHzまでとされており,周波数20Hz以下の音波を超低周波音といい,100Hz以下の低周波数の可聴音と超低周波音を含む音波を低周波音という(同1頁)。
低周波音は多くの環境騒音に含まれているが,音圧レベルの高い低周
波音は,不快感や圧迫感を与え(心理的・生理的影響),また,家屋の窓や戸の揺れ,がたつきなどを生じさせる(物理的影響)ことが知られている。ジェット機のジェットエンジンやヘリコプターの回転翼は低周波音の問題を発生させる可能性がある(同4~6頁)。
現在のところ,低周波音に関する環境基準やガイドラインは存在しな
い。
A特性とG特性
前記第2部「前提となる事実」第3の2⑴エのとおり航空機の騒音レベルの評価は,可聴音に対する人間のうるささの感覚をより的確に反映するため,A特性音圧レベルで行われ,W値を算出する際にもA特性で
補正した値を用いている。これに対して,20Hzまでの超低周波音の人体感覚を評価するため,16Hz付近の周波数特性の重み付けを高くした周波数補正特性をG特性といい,この周波数補正特性を反映した音圧レベルをG特性音圧レベルという(同1頁)。
低周波音の測定方法
測定にはG特性音圧レベルを測定できる音圧レベル計を用いるものとし,G特性を持たない低周波音圧レベル計を用いる場合には,実時間周
波数分析器等を用いて現場で周波数分析を行うか,周波数重み付けをしない平坦特性で低周波音を録音し,持ち帰って再生し,実時間周波数分析器等を用いて周波数分析を行うものとしている(同21頁)。
低周波音の測定では,風の影響を強く受ける。対象とする低周波音の音圧レベルが小さいほど,また,周波数が低いほど風の影響を受けやす
い。風雑音によるレベルの上昇は不規則かつ不安定で,風の強い場合には人が測定器に張り付いて風雑音と対象音を逐次仕分けする必要があり,大きな音圧レベルが発生したのは実は風によるものだったということになりかねないので特に注意を要する。そのため,音圧レベル計にはできるだけレベルレコーダーを併用して風雑音の影響をこまめにチェックし,
録音に際しても風雑音の影響をこまめにアナウンスすることが望ましい。風が強いときには測定をしない方が無難である(同21,28頁)。マイクロホンに騒音計用の防風スクリーン(通常直径9センチメートル)を付けるがあまり大きな効果は期待できない。低周波音の音圧レベルが80dB程度で草木や木の葉が風で揺れているときは測定は難しい(同
51頁)。
また,音圧レベル計とレベルレコーダーの動作特性は遅い時間重み付け特性であるSlowを用いる(同24,26頁)。

環境省の「低周波音問題対応の手引書」とその位置付け(甲B264)環境省は,平成16年6月,低周波音についての苦情に地方自治体が対応する際の解決に至る道筋を示すものとして「低周波音問題対応の手引書」(以下「環境省手引書」という。)を公表した。ただし,この手引書は,固定発生源から発生する低周波音に適用するものであり,航空機を始めとする交通機関のような移動音源には適用しないことが明記されている(同1頁)。また,環境省手引書は,建具のがたつき等の物理的苦情と室内において感じられる不快感等の心身に係る苦情とを分けて,評価指針として後述の音圧レベルによる参照値を示したが,これについては,交通機関等の移動発生源には適用しないこと,低周波音についての対策目標値,環境アセスメントの環境保全目標値や作業環境ガイドラインとして策定したものではないことが留意事項として明記されている。また,心身に係る
基準に関する参照値については,低周波音に関する感覚について個人差が大きいことを考慮して大部分の被験者が許容できる音圧レベルを設定したものであり,ほとんどの苦情は室内で起こることから室内の測定値であるとされている(同23,26頁)。
また,環境省手引書は,低周波音の測定に際しては,測定項目を低周波
音の1/3オクターブ周波数分析,G特性音圧レベル,風向,風速等として的確な測定計画を立案した上で,環境庁マニュアルを参考にして測定を実施するものとしている。測定の際の注意事項として,風が強いと風雑音が対象となる低周波音より大きくなってしまうことが考えられるため,その影響が小さくなる条件で測定する必要があることを明記している(同6,
8頁)。
さらに,評価指針では,物的苦情に関する測定場所は問題となる住居などの建物の屋外で建物から1~2メートル離れた位置とすること,測定量はG特性音圧レベル及び1/3オクターブバンド音圧レベルとすること,測定周波数範囲は原則として1/3オクターブバンド中心周波数1Hz~
80Hzとすること,低周波音レベル計の聴感補正特性は周波数分析の場合は平坦特性(周波数補正のないもの)とし,G特性音圧レベルを用いる場合はG特性とするが,G特性の付いていない低周波音レベル計では平坦特性でも可とするとされている(同26,27頁)。
その上で,苦情については,第1に発生源と疑われる施設・設備機器等と苦情内容との間に対応関係があることを確認し,第2に低周波音の測定結果と環境省が評価指標として示す周波数毎の1/3オクターブバンド音
圧レベルによる参照値(以下「参照値」という。中心周波数40Hzを例にとると,物的苦情については93dB,心身に係る苦情については57dB)とを照らし合わせた上で,測定値がいずれかの周波数で参照値以上であれば,その周波数が苦情の原因である可能性が高いとしている。また,心身に係る苦情については,G特性音圧レベルが92dB以上の場合も2
0Hz以下の超低周波音による苦情の可能性が考えられるとしている(同21~23頁)。

本件低周波音測定報告書(甲B267)とその問題点
本件低周波音測定報告書は,横田飛行場滑走路南端からほぼ南へ約1.
2キロメートルの位置にある東京都立川市西砂町a-b-cの家屋(80W地域)の2階屋上から1.2メートルの高さに騒音計マイクロホンを設置し,平成27年9月20日から同月26日の7日間にわたって,騒音及び低周波音の測定を行ったとするものである。測定にあたっては,C特性を用い,速い時間重み付け特性(Fast)を用いたデータ解析ができたの
は,同年9月20日と23日~26日の5日間であり,そのうち①同月20日の午後5時5分から10分までの間,②同月23日の午後5時40分から午後6時までの間,③同日の午後6時から午後6時30分までの間,④同月24日の午後6時10分から午後6時15分までの間,⑤同月25日の午前10時1分から午前10時15分までの間及び⑥同月26日の午
後1時53分から午後1時58分までの間に低周波音を観測したとする。そして,原告らは,同期間の横田飛行場周辺の上記測定地点を含む6か所のいずれかで航空機の目撃がされたとする飛行記録作成報告書(甲B268。以下「本件飛行記録」という。)との照合の結果として,低周波音はC-5ギャラクシー及びC-130の飛来時に観測されたものであるなどと主張する。
しかしながら,本件低周波音測定報告書は,測定地点がわずか1か所で,測定・分析を行ったのも平成27年9月中の5日間の中のごく限られた期間にすぎず,原告らも自認するとおり,横田飛行場周辺の低周波音の全体像を示すものとはいい難い。この点を措くとしても,少なくとも,次の点で本件低周波音測定報告書には疑義がある。すなわち,環境庁マニュアル
では,音圧レベルとしてG特性若しくは平坦特性を用いるとされているにもかかわらず,本件低周波音測定報告書は,周波数補正特性についてC特性とA特性を用いている。原告らは,20Hz以下の風の影響を少なくするためにC特性を用いたと主張するが,C特性の場合に風の影響を考慮しなくてよいとする文献等の提出がないことはもとより,G特性ないし平坦
特性とC特性との間にどのような差違があるのかを判断するための十分な証拠はなく,環境庁マニュアルに沿っていないC特性による測定結果には疑問がある。
また,環境庁マニュアルでは,低周波音の測定で最も注意すべきは風による影響であることが随所で強調され,風が強い場合には人が測定器に張
り付いて風雑音と対象音とを仕分けする必要があるとされているし,環境省手引書でも風速や風向を低周波音測定時の測定項目としているが,本件低周波音測定報告書には測定地点における風向,風速が全く記載されていない。原告らは,青梅市における平成27年9月20日と同月23日の風向,風速の気象データ(甲B271)を提出するが,青梅市で測定された
風向,風速が立川市西砂町にそのまま妥当するとは到底考え難く,風雑音による影響がどの程度排除された測定結果かについても疑問がある。加えて,測定結果の評価を見ても,本件飛行記録で本件低周波音測定報告書の測定地点(Zと表示)において同報告書で低周波音が測定されたとする時間帯に符合して航空機の飛来が目撃されたのは平成27年9月20日17時7分のC-5ギャラクシー程度であり,逆に同月23日の19時24分には同所でC-130の飛来が目撃されているのに低周波音が測定された形跡はなく,本件飛行記録のその他の地点での目撃状況と照合しても本件低周波音測定報告書とは必ずしも一致しないから,この点でも本件低周波音測定報告書には疑問が残る。
そうすると,本件低周波音測定報告書をにわかに採用することはできず,
原告らの一部の陳述書に低周波音に言及するものがあることを考慮しても,原告らの居住地の全域又は一部の地域において,横田飛行場を離着陸する航空機等から心理的・生理的影響や物理的影響を及ぼす程度の低周波音が発せられていることを認めるに足りる証拠はない。
なお,原告らは,普天間平成22年控訴審判決や普天間平成28年一審
判決(乙217)で低周波音による侵害ないし被害が認められたことを指摘するが,これらの判決は低周波音についての沖縄県等の複数地点での数年にまたがる時期を異にする測定結果に基づき,常駐機としてヘリコプターが大半を占めているという普天間飛行場の特殊性を考慮した上で,低周波音に日常的に曝露されていることを認めたものとうかがわれ,仮に本
件低周波音測定報告書が採用できたとしても,1地点におけるごく短期間の低周波音の測定結果しかなく,普天間飛行場とは飛来する航空機の内容も異なる横田飛行場については低周波音の実態がこれに匹敵する程度に明らかとは到底いい難く,低周波音による侵害を認めることはできない。なお,本件低周波音測定報告書と同一の測定者による低周波音の測定報告書
は普天間平成28年一審判決でも証拠として採用されていない(乙217)。したがって,横田飛行場周辺において航空機騒音とは別に低周波音による侵害が発生していると認めることはできず,もとより先に見た振動の原因が低周波音によることを認めるに足りる証拠もない。
4
被害の性質と内容について


共通損害論について(判断枠組み)
原告らは,本件で主張する被害を原告ら全員に共通するものとして主張するとともに,航空機の騒音被害に関する裁判例等によれば,原告ら各自の被害の個別具体的な立証は不要であるとするのに対し,被告は,原告らの被害を個別具体的に主張立証する必要があると主張するので,まず,この点につ
き検討する。
民事特別法2条は,原告ら各自の被っている被害につき,それぞれの固有の権利として損害賠償の請求をすることを認めているものであるから,各原告について,それぞれ受忍限度を超える被害の発生と内容が認定されなければならないことは当然である。

しかしながら,原告らの請求は,原告ら各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく,それらの被害のうち原告ら全員が等しく被っていると認められる程度のものにつきその限度で各自が慰謝料という形での損害賠償を求めているにすぎないから,更に原告ら各自の事情を個別具体的に立証するまでもなく,そのような意味で原告らに最小限度共通に生じて
いる被害を原告ら各自につき違法性の判断要素として考慮し,損害賠償を認めることは許されるし相当である。もちろん,このような被害であっても,原告ら各自の生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容及び程度を異にし得るものではあるが,そこには全員について同一に存在が認められるものや,例えば生活妨害の被害のように,その具体的内容において若干の差違
はあっても,静穏な日常生活の享受が妨げられているという点においては共通性があって,これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差違がないと認められるものも存在し得ることからすれば,このような被害の主張立証も一概に排除されるべきものではない。
ただし,横田飛行場の設置管理の違法性の判断については,その供用に伴う航空機の離着陸の際に生ずる騒音等が原告ら周辺住民にどのような種類,性質,内容の被害をどの程度に生ぜしめているかが一つの重要な考慮要素を
なすところ,この場合における被害の総体的な認定判断においては,必ずしも原告ら全員に共通する被害のみに限らず,その一部にのみ生じている特別の被害も考慮の対象にすることができる。この見地からは,原告のうち特殊な生活条件,身体的条件を有する者について生ずる特別の被害も加えて総体的な評価判断をすることができ,このような損害は,共通損害に対する慰謝
料の算定の要素とはならないものの,上記の限度では問題となり得る。以上は大阪空港最高裁大法廷判決を始め,横田飛行場を巡る従前の累次の一審,控訴審及び最高裁の判決並びに他の基地関係の騒音訴訟の判決においても認められてきたところであり,当裁判所もこれと見解を同じくするものである。よって,以下ではこのような観点から,原告らの被害について検討,
判断することとする。


騒音が心身に影響を与える一般的な可能性

沖縄県が平成11年に作成した航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書(甲C7。沖縄県健康影響調査報告書)は,「第1章

序論」

において航空機騒音によって健康影響が発現する経路ないしその構造について,次のとおり説明しており,騒音の人体への生理学的な影響の発現経路に関する研究結果を踏まえた一般論としてはこのとおりと認めることができる。
騒音は,外耳道から鼓膜,耳小骨連鎖を経て内耳に入り,有毛細胞に傷
害を与えることによって,聴力の低下を引き起こす。内耳の有毛細胞において神経インパルスに変換された騒音は,聴神経を経て大脳皮質の聴覚域に達して音感覚を成立させるとともに聴取妨害をもたらす。一方,網様体を経て大脳の新皮質に到達した神経インパルスは,覚醒,睡眠妨害,あるいは思考・精神作業妨害を起こす。また,視床下部を介して大脳旧皮質全体を刺激し,不快感,イライラ等の情緒妨害を起こし,さらに食欲・性欲等の本能欲を妨害するに至る。このような情緒妨害,日常生活妨害がアノ
イアンスとして捉えられている反応の背景要因を構成するものである。また,これらの影響が一定の限度を超すと,ストレス反応として,視床下部と下垂体を介して甲状腺,副腎,生殖腺等の内分泌系に影響が現れる。さらに,視床下部からのインパルスは自律神経系を介して循環器系や消化器系に影響を及ぼすと考えられている。(同1-5,6頁)

したがって,航空機騒音は,これに対する曝露状況やその内容・程度によっては,原告らの身体又は精神に影響を及ぼし得る可能性があるものと認められる。

これに対して被告は,航空機騒音が人の身体又は精神に直接的かつ深刻な影響を及ぼすことは一般的に否定されているとして,各種の国内外の研
究や調査の結果(乙156~167)を提出する。
しかしながら,被告が依拠する研究,調査の大半は,昭和40年代から50年代の知見(乙156~161,164)であり,その後の新たな知見を基に作成された沖縄県健康影響調査報告書や後述のWHOガイドライン,欧州夜間騒音ガイドラインなどの原告らが依拠する証拠を排斥するも
のとはいえない。したがって,以下では,原告らが主張する被害類型毎に,原告らが提出する証拠と比較的近時の被告が掲げる証拠(乙163,165~167)とを個別的に検討し,横田飛行場の航空機騒音等により原告らに共通の被害が生じていると認めることができるか及びこれが認められる場合の性質・程度につき検討する。



睡眠妨害ア

認定事実
以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。
用語の補足説明(甲8,甲D3,乙207,219)
a
等価騒音レベル(Equivalent
A-weighted

sound

Continuous

pressure

Leve

l)
不規則かつ大幅に騒音レベルが変動している場合に,測定時間内のA特性による音圧レベルのエネルギーを時間平均したものであり,測定時間T時間内の等価騒音レベルをLAeq,T(単位はdB)で表記する。ただし,Tは省略することがある。

b
単発騒音曝露レベル(Weighted
Continuous

Perceived

Equivalent
Noise

Leve

l)
単発的な騒音の大きさをそのエネルギーと等しいエネルギーを持つ継続時間1秒間の定常騒音の騒音レベルに換算したもので,LAE
(単位はdB)で表記する。
c
最大騒音レベル
対象とする時間範囲に発生した騒音レベルの最大値であり,時間重み付け特性をFastとしたA特性の音圧レベルを測定した騒音計の指示値の最大値で,LAmax(単位はdB)で表記する。

d
夜間の等価騒音レベル
最も曝露される建物の前面(外側)で8時間(午後11時~午前7時)測定された1年間のLAeqであり,Lnight,outside(単位はdB)で表記する。

WHOガイドライン(甲C8)
平成11年に公表されたWHOガイドラインでは,睡眠妨害は,環境騒音(航空機騒音を始めとするあらゆる音源から発生する音。同1頁)の主要な影響の一つであるとされ,要旨次のとおりの記述がある。騒音によって睡眠中に生じる一次影響として入眠困難,覚醒や睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,不整脈,体動の増加などがある。騒音曝露を受けた翌朝やその後何日間かに現れる二次影響として不眠感,疲労感,憂うつ,作業能率の低下がある。一次影響の反応確率には,問題となっている騒音の騒音レベルよりも暗騒音とのレベル差が関与する。そして,快適な睡眠のためには,騒音が定常的な音ならば,夜間の屋内の暗騒音のLAeqは30dB以下
にとどめるべきであり,個々の発生音についても,45dBを超えるような騒音は避けるべきである(同4頁)。
間欠音による睡眠妨害は,最大騒音レベルとともに増加し,たとえ全体的な等価騒音レベルがかなり低くても,高い最大騒音レベルの騒音が少しでも発生すれば睡眠に影響が生じる。したがって,睡眠妨害を防ぐ
ためには,等価騒音レベルだけでなく,最大騒音レベルや騒音の発生回数によっても定められるべきである。暗騒音のレベルが低い場合,可能な限り,LAmax45dBを超える騒音は制限すべきである(同7~8頁)。
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C20)

WHO欧州事務局が平成15年に夜間騒音曝露の制御と監視に関する将来的な法規制及び政策実施に関する科学的な助言を欧州委員会とその加盟国に提供する目的で設置した専門家による作業部会が,騒音の健康影響に関する文献調査を行い,作業部会の中に設置された4つの専門家会議での討議を経てまとめた草案を平成18年から企業,各国政府,非
政府組織などと共に検討した上で,平成21年10月,最終報告書として提出したものであり,要旨次のとおりの記述がある。睡眠が生物学的に必要であり,睡眠の妨害は,健康に関わる様々な悪影響と関連している。睡眠中の騒音が心拍数の増大,脳幹の反応,睡眠深度の変化及び覚醒反応といった生物学的影響を与えることに関する十分な知見がある。夜間騒音曝露が自己申告による睡眠妨害,薬物使用の増加,体動の増加,(環境要因による)不眠症の原因になることを示す十分な知見がある。また,夜間騒音がホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患,うつ,その他の精神的疾患といった臨床症状を引き起こすという限定的な知見がある。なお,ここにいう「十分な知見」とは夜間騒音曝露と健康影響との因果関係は既に確立されていることをいい,偶然の
一致,バイアス,歪みなどが十分に排除されていると考えられる研究において,その関係を確認し得ること,騒音が健康影響をもたらす生物学的妥当性も十分に確立されていることをいうものと定義されている。また,「限定的な知見」とは,騒音と健康影響の関連性は直接的には観測されていないが,因果関係を支持するに足る優れた知見があること,間
接的な知見は豊富に存在し,それらは健康に悪影響を及ぼす生理学的変化の中間的影響と騒音曝露とを結びつけていることをいうと定義されている(同4頁)。
欧州夜間騒音ガイドラインは,以上の知見を基礎として,自己申告による睡眠妨害や,環境要因による不眠症,睡眠薬・鎮痛薬服用の増加な
どの健康に対する悪影響を防止するための夜間騒音のガイドライン値として,Lnight,outside40dBとすること及び種々の理由でこれを早期に達成できない場合の暫定目標を同55dBとすることを提案した(同10頁)。
長田泰公らによる「騒音の睡眠に及ぼす影響に関する実験的研究」と
題する論文(甲C4。以下「長田論文」という。)
昭和43年に公表された文献で,内容は要旨次のとおりである。19~20歳の健康な男子学生5名に対し,睡眠中,テープに録音した夜間の道路交通騒音と小規模な機械工場の騒音とを午前0時から6時までの6時間,寝台上の位置で40dB及び55dBになるようにして聞かせて,被験者の脳波,精神電流反射,脈拍数,血液・尿などを検査する実験を行った。その結果,夜間睡眠中に聞かせた騒音は40dBでも脳波からみた睡眠深度を浅くし,脈拍の安定を乱し,血球にも変化を与えて睡眠による休養効果を損なうことが判明した。そして,40dBよりも55dBの方が,脳波からみた睡眠深度,脈拍への影響が強かった。もっとも,被験者は騒音に気づいておらず,主観的にはよく眠れた
と答えていた。
原告夜間騒音コンター図(甲C29)
このコンター図(同13頁)は,原告らが,平成28年10月,前述の被告測定地点10箇所と昭島市拝島第二小学校に昭島市が約3か月毎に異なる時期に測定した3か所と東京都の測定した14か所(ただし,
うち4か所は9月中,うち6か所は7月中の各14日のみの測定で,1年間分の測定結果があるのは残りの4か所)を加えた28か所の測定地点での平成24年度における夜間騒音データを基に,日本音響エンジニアリング株式会社に依頼して測定点ごとのLnight,outsideを算定した結果に基づいて作成させたものである。ただし,算定の基礎となった
とする各測定地点毎のデータは示されていない。
原告夜間騒音コンター図によれば,上記

の欧州夜間騒音ガイドライ

ンのガイドライン値である告示コンターの75W地域内の測定地点ではいずれもLnight,outside40dBを超えていて,同地域が同40dBを示すコンター線の中にほぼ含まれ,また,告示コンターの80W地域内の測定地点ではいずれも同45dBを超えて,同地域は同45dBのコンター線にほぼ重なっている。ただし,75W地域外で同40dBを超える測定地点は1か所にとどまり,また,南北方向の同40dBや同35dBのコンター線上には全く測定地点がない。現に作成者自身が,同45dBと同50dBのコンター線は概ね実態に沿って引けているが,同40dBと同35dBのコンター線の外側に調査地点がなく,調査地点の不足により実態との乖離が著しいとの留保を付している(同14頁)。
沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
同報告書の第3章には要旨次のとおりの記載がある。
a
生活質・環境質の調査のため平成8年から平成9年にかけて,全部で98問の質問項目から成る調査票を,嘉手納飛行場周辺の75W以
上の区域及び普天間飛行場周辺の区域(75W未満として指定はないが,騒音の影響を受けていると思われる区域(以下「75W未満区域」という。)を含む。)の住民並びに対照群として航空機騒音に曝露されていない区域に居住する住民の合計7894名に配布し,5693名分の有効回答(うち嘉手納飛行場周辺3560名,普天間飛行
場周辺1448名,対照群685名)を得た(3-2~3頁)。
b
「睡眠妨害」の頻度に関する設問について「いつもある」,「ときどきある」と回答した者の合計割合(反応率ともいう。)は,嘉手納飛行場及び普天間飛行場いずれにおいても,指定区域のW値と相関し,
W値が高くなるほど高くなった(もっとも,両飛行場周辺の75W区域及び80W区域においては,普天間飛行場周辺における反応率が嘉手納飛行場における反応率よりも格段に高く,反応率が異なっている。)。また,特定の航空機騒音による睡眠妨害(飛行機・ヘリコプターの音による睡眠妨害とエンジン調整音による睡眠妨害の2種類)
についても反応率が調べられ,いずれについても「週に何日も妨害される」,「週1,2回妨害される」と回答した者の合計割合は,W値が高くなるほど高くなった(3-16頁)。c
上記調査においては「睡眠障害」に関する調査も実施した。
日常における睡眠障害一般につき,「床についたとき,寝つけなくて困ることがありますか」,「夜中に目がさめて,その後寝つけなく
て困ることはありますか」,「朝早く目がさめてしまって困ることがありますか」,「一晩じゅう十分に眠れなかった感じのすることがありますか」との4つの設問を設け,「週に3回以上ある」と「週に1,2回ある」と回答した項目数を「睡眠障害:週1,2回」とし,「週に3回以上ある」,「週に1,2回ある」,「月に1,2回ある」の
いずれかに回答した項目数を「睡眠障害:月1,2回」として,それぞれの尺度値とした。いずれも4つの設問に対する回答数(1問につき1点)に応じて,0点から4点までの値を取る尺度値であり(すなわち,4つの設問全てに「週に1,2回ある」以上の頻度の選択肢を選んだ回答者は,「睡眠障害:週1,2回」が4点となる。),点数
が高いほど睡眠障害の程度が高いと推定される。
以上を基に,「睡眠障害:週1,2回」が4点であった回答者の割合と「睡眠障害:月1,2回」が1点以上であった回答者(前者は,比較的重度な睡眠障害を示し,後者は,比較的軽度な睡眠障害を示す。)の割合を年齢・性別の構成比が対照群と一致するように調整し
て算出したところ,全体として,睡眠障害と航空機騒音曝露との間に量反応関係がみられた。
一方,航空機騒音に曝露されていない対照群における結果は,航空機騒音にさらされていない者が他の何らかの要因で睡眠障害を経験している割合を示すから,今回の場合には曝露地区の回答結果が対照群
と比較してどの程度増加しているかが問われるとして,多重ロジスティック回帰分析(統計的な多変量解析の一手法で,ある事象が起こる確率を複数の要因から予測するための回帰式を導くことができ,各要因の影響の程度は後述のオッズ比として得られる。同A-4頁)により,対照群に対する各指定区域群の睡眠障害のオッズ比を求めた。なお,オッズ比とは疾病の発病リスクなどを比較するために一般に用いられる尺度であり,騒音曝露群での該当者の比率をP1,対照群での比率をP0とすると,{(1-P0)/P0}}×{P1/(1-P1
)}という数式で表される。両群に差がない場合,オッズ比は1と
なり,曝露群での比率の方が高い場合には1以上の値となる(同A-2頁)。
その結果,嘉手納飛行場周辺においては,「睡眠障害:週1,2
回」(4点),「睡眠障害:月1,2回」(1点以上)のいずれについても,航空機騒音曝露とオッズ比との間に著明な量反応関係が認められた。他方で,普天間飛行場周辺においては,「睡眠障害:週1,2回」(4点)については量反応関係が認められなかったが,「睡眠
障害:月1,2回」(1点以上)については,量反応関係が有意に認められた。比較的重度な睡眠障害を示す「週1,2回」では,対照群との間に5パーセントの有意水準で有意差が認められるのはW値85以上の区域であるが,比較的軽度な睡眠障害である「月1,2回」では,75W以上の全ての曝露群において,対照群との間にオッズ比の
有意差が認められた。他方,75W未満区域については,月1,2回の睡眠障害の回答率に関してすら非曝露群との有意差があるとはうかがわれない(以上につき図3-14を含む3-16~18頁)。
小松基地調査報告書(甲C11の1。なお同報告書の本文中で引用の表は甲C11の2)の記載

平成23年に服部医師が行った小松基地調査では,「成人・学生(15歳以上)用の騒音と健康に関する調査票」(甲C12。以下「小松騒音調査票」という。)を使用して調査を行った。この調査の方法及び結果につき,同報告書には要旨次のとおりの記載がある。
a
小松基地周辺の地域のそれぞれW値70,75,80,85の区域並びに対照群としての非騒音地区として小松基地から離れた地域の2町会を調査対象とし,調査票によるアンケートを676世帯に配布し,
584世帯(70W区域105世帯,75W区域109世帯,80W区域115世帯,85W区域76世帯,非騒音地区179世帯)の回答を得た(10,12頁)。
b
統計解析については,性・年齢や属性の影響を調整して,地区騒音レベルや「戦闘機騒音のうるささ」が健康や疾病に与える影響を評価
するため,得点に対しては重回帰分析を行って得点の推定値とその95パーセント信頼区間を示し,カットオフ値以上か否かに対しては多変量ロジスティック回帰分析を行いオッズ比とその95パーセント信頼区間を示した。
調整する属性は性・年齢など交絡要因になることが明らかな属性を
基本に選択した。調整した値と調整していない値を区別する必要がある場合には,調整した値は「調整得点」や「調整割合」など,調整していない値は粗得点や粗割合などと表記した(以上同14~15頁)。c
過去1か月間の睡眠の状態や1か月間に少なくとも週3回以上経験した睡眠のトラブルについての設問につき,戦闘機騒音で睡眠が妨げられることが「かなりある」,「ひどくある」と回答した人の粗割合は,騒音レベルが高くなるに従い増加する量反応関係が有意に認められた。また,75W以上の区域に居住する人について,防音工事を行った部屋の有無やその部屋にいる時間との関連を検討したが,性,年
齢,深夜勤務の有無,病気の有無などで補正しても,睡眠妨害との間に有意の関連性はなかった(21~22頁)。d

「現在不眠症又は睡眠薬を毎日服用する」と回答した人の粗割合は,地区騒音レベルが高くなるに従い増加する量反応関係が有意に認められた。ただし,性・年齢を調整して非騒音地区と比較すると,70W区域,75W区域,85W区域では有意ではなく,80W区域のみ有意に高かった。また,「現在不眠症または睡眠薬を毎日服用する」と
の回答と戦闘機による睡眠妨害の頻度を「ほとんどない」と「あまりない」,「少しある」,「かなりある」と「ひどくある」に分けて比較すると,有意に関連しており,戦闘機騒音により睡眠が妨げられる頻度が高くなるにつれ,不眠症又は睡眠薬を毎日服用する人の割合が高くなる傾向がみられる。「現在不眠症または睡眠薬を毎日服用す
る」との回答者のうち,戦闘機騒音で睡眠が妨げられたことが「ある」と「少しある」と回答した人は合計66.7パーセントであった(23頁)。
e
不眠症についての国際的な判定方法であるWHOアテネ不眠症尺度を用いた小松騒音調査票中の設問の得点(8項目の回答に0~3点を与え,合計を尺度得点としたもの。)では,尺度粗得点でみると,非騒音地区,70W・75W区域,80W・85W区域の3群に分けて比較すると非騒音地区以外の区域の得点が増加する量反応関係が有意に認められた。性・年齢に加え深夜勤務の有無,騒音作業歴,現在の
病気の有無を交絡要因として調整した結果でも同様の関係が認められた(同24~26頁)。
原告らの供述及び陳述書(甲C10)
被告の主張(前掲の被告振動等陳述書集計表1)によっても,原告らの人数比にして約78パーセントが,航空機騒音により,寝付けない,
起こされる,眠りが浅いといった睡眠妨害の被害を訴えているというのであって,陳述書に明示的に睡眠妨害がないと記載した者は4パーセントに満たず,本人尋問をした75W以上の地区内の原告12名中原告番号861の原告を除く全員が何らかの睡眠妨害を陳述ないし供述していた。

検討
WHOガイドラインは,屋内において睡眠妨害が生じ始めるガイドライン値を単発の最大騒音レベルで45dBとしている(上記ア

)。ま

た,欧州夜間騒音ガイドラインは,睡眠妨害や不眠症,睡眠薬・鎮痛薬服用の増加などの健康に対する悪影響などを防止するためのガイドライン値をLnight,outside40dBとすることを提案している(同)。

さらに,長田論文によれば,調査範囲が狭く,直ちにその実験結果を一般化することは困難であるものの,40dB以上の騒音により睡眠深度を浅くするなどの影響が現れ始めるものとされている(同
そして,前記3⑴のウ

及び

)。

で検討した別紙7-2及び7-3の7

5W以上の地域内の被告測定地点並びに昭島市市役所地点及び拝島第二小地点における平成21年度から平成27年度までの1日当たりの平均騒音発生回数をみると,深夜においては概ね10日間に1日程度(1日当たり0.1回),早朝においては概ね10日間に2ないし7日程度(1日当たり0.2回から0.7回)の頻度で70dB以上の航空機騒音が発生し,その頻度は,特に早朝の時間帯を見ると,決して低いとは
いい難い
かけて断続的に航空機騒音が発生することもある。これに対し,被告は,住宅防音工事施工済みの住宅においては少なくとも20dBの防音効果が認められると主張するが,後述のとおり防音効果が発生するのは開口部の施錠を完全にしている場合に限られるし,仮にこれを前提としても,
WHOガイドラインが制限すべきとするLAmax45dBを超えており,睡眠の質に影響を与えるレベルの騒音であると認められる。なお,原告夜間騒音コンター図については,平成24年度という限られた期間における限られた地点の測定結果を前提として作成されたデータであり,算定の基となったデータも必ずしも明らかでない上,特にLnight,outside
40dB以下のコンター線については作成者自身が不正確であるこ
とを自認していて,これによって原告らが現実に上記コンター図のとおりの夜間の等価騒音レベルの曝露を受けているとまでは認定できない。ただし,被告がその数値の正確性自体については特に争っていないことにも鑑みると,上記コンター図のLnight,outside40dBを示すコンター内に包含された告示コンターの75W以上の地域ではLnight,
outside

40dBを超える騒音が発生していることがうかがわれ,こ

の限度で,一定の証明力を認める余地がある。少なくとも平成24年度のデータに基づいて作成されているという点では,平成15年度調査のデータを環境庁方式に換算し昼間騒音を控除して焼き直したにすぎない被告作成の昼間騒音控除コンター図よりは遙かに有用性が高いというべきである。
以上のほか,経験則上も,一定以上の騒音に曝されることによって睡眠が妨げられることは肯定することができること,沖縄県健康影響調査報告書及び小松基地調査報告書において睡眠妨害に関する訴えと航空機騒音曝露との間に量反応関係があることが統計学的に示されていること
(上記ア



),本件においても陳述書を提出しあるいは本人尋問で

供述した原告らの相当数が自身又はその家族において航空機騒音により睡眠妨害を受けていると訴えていること(同

),自覚を伴わない睡眠

妨害が生じている可能性もあり得ること(同

)を併せ考慮すると,7

5W以上の地域に居住する原告らは,その影響の程度や頻度に違いがあるとはいえ,一定程度の睡眠妨害の被害を等しく受けていると認めることができる。これに対し,旧75W地域に居住する原告について検討するに,そもそもこれらの原告の居住地点における騒音の推移を示す継続的な測定結果は提出されておらず,これについての明確な主張もされていない。また,上記ア
のとおり,沖縄県健康影響調査報告書でも75W未満区域

と非曝露群との間で睡眠妨害の頻度につき有意差は認められていない。さらに,原告夜間騒音コンター図についても,Lnight,outside40dBのコンター線は作成者自身が不正確であることを自認していて,前示のとおり告示コンター75Wの内側でこの基準を超える騒音が発生していることをうかがわせるにとどまり,これをもって旧75W地域でも
同様の騒音に曝露されていると認めることはできない。他に旧75W地域で,航空機騒音に曝露されていない非指定区域に比べ,睡眠妨害が多く生じている事実を示す証拠はなく,むしろ,本人尋問を行った提訴時に旧75W地域に居住する原告5名について見ても,少なくとも平成26年に作成された当初の陳述書においては,原告番号323の原告が騒
音で目が覚めることはないと明記し(甲C10の323),同817の原告は睡眠時間帯について記載しながら特に睡眠妨害には言及しておらず(甲C10の817),同1067の原告も,就寝する夜9時頃にはまだ飛行機は飛んでいることが多いが眠りに入ることはできる(甲C10の1067)などと記載し,また,同801の原告は本人尋問におい
ても一度就寝すれば朝までぐっすり就寝できると供述する(同原告本人12頁)など,5名中4名については75W以上の地域の原告と訴えの切実性にニュアンスの差があることがうかがわれ,経験則上も騒音曝露量が小さければ睡眠妨害の程度は小さいと考えられるから,告示コンター内地域と同程度の睡眠妨害が生じているとまでは認めるに足りない
といわざるを得ない。
被告の反論についてa

被告は,WHOガイドラインは,WHO憲章第1条に示された健康観に基づき,その増進のための長期的な達成目標を示しているにすぎず,かつ,あえて高感受性群を念頭に置いて安全確保に万全を期するための指針値として設けられたものと位置付けられており,高感受性
群以外の者に共通する基準を定めたものではないとして,その数値が航空機騒音と健康被害との因果関係を検討する場合の尺度にはならないし,欧州夜間騒音ガイドラインも,夜間騒音と健康被害との間の相当因果関係を明らかにする基準値にはなり得ないほか,同ガイドラインが指標とするLnight,outsideは,W値と算定方法が異なってお
り,比較対象とはなり得ないなどと主張する。
しかしながら,証拠(甲C8)によれば,WHOガイドラインは,WHOが,平成7年までに行われた研究及びその後に行われた分析に基づいて,平成11年に特定の環境と重要な健康影響ごとに重要な健康影響が生じる最低レベルとしてのガイドライン値をまとめたもので
あることが認められ,そのガイドライン値や,その前提として当該文書にまとめられた知見は,その作成過程や内容等に照らし,基本的に信用性が高いと考えられる。また,証拠(甲C20)によれば,欧州夜間騒音ガイドラインは,夜間騒音の法規制のための専門的・科学的知見を提供することを目的として,平成15年に専門家による作業部
会を設置した上で,夜間騒音による健康影響に関する既存の科学的知見に係る文献調査等を実施し,これらを基に平成21年に提案されたものであり,平成11年に策定されたWHOガイドラインを前提にしつつ,その後の重要な研究成果を踏まえてその内容を補足するものと位置付けられていることが認められ,そのガイドライン値や,その前
提として当該文書にまとめられた知見も,その作成過程,内容等に照らし,WHOガイドラインと同様に基本的に信用性が高いと認められる。そして,欧州夜間騒音ガイドラインが基準値としてW値とは異なるLnight,outsideを使用していることは,横田飛行場周辺で行われた騒音調査によって計測されたW値と単純な比較ができないことを意味するにとどまり,そのガイドライン値そのものの信用性について疑義を生じさせるものではない。当裁判所は,基本的にはWHOガイ
ドラインが示した45dBを目安とし,原告らが算定したLnight,outside

は補足的に参照しているにすぎず,この算定値自体には被

告も特段の異議を唱えていないのであるから,被告の主張はいずれも上記
b
の認定を左右するものではない。

被告は,沖縄県健康影響調査報告書及び小松基地調査報告書は,横田飛行場とは騒音の状況が異なる他の飛行場における,ある一定の時期についての調査結果にすぎず,横田飛行場の航空機騒音による被害を立証するものではないと主張する。しかし,いずれの調査も,防衛施設庁方式によるW値に従って指定等された区域と当該区域に居住す
る住民反応との関連性を調査したものであり,同様に防衛施設庁方式によるW値に従って指定等された地域における騒音被害が問題になっている本件についても,一定程度参考にし得るところがあるから,被告の主張は採用することができない。
また,被告は,これらの調査報告書のようにアンケートによって得
られた訴えのみをもって睡眠妨害とする疫学調査によって法的因果関係を立証することはできないとも主張する

当裁

判所は,沖縄県健康影響調査報告書等の社会調査のみから睡眠妨害という共通損害を認めたものではないし,睡眠妨害の有無などは,その被害の内容,性質が複雑,多岐,微妙で,外形的には容易に捕捉し難く,騒音への被曝露者の主観的条件によっても差違が生じ得る反面,その主観的な受け止め方を抜きにしてはこれを正確に認識,把握することができないものであるから,アンケート調査等に主観的要素が含まれているからといって,証拠価値を否定することは相当でない(大阪空港最高裁大法廷判決参照)。
さらに,被告は,厚生労働省が公表した平成25年度の国民健康・栄養調査の概要(乙154の2)によれば,航空機騒音の有無とは関
係なく,6割以上の回答者が睡眠について何らかの問題を抱えていると考えられるほど睡眠の質が劣化しているのであり,ファイザー株式会社が平成23年にアテネ不眠症尺度を用いて行った調査結果(乙204)でも不眠症の疑いがあると回答した者が4割以上であったとの結果が得られているとして,原告らの中に睡眠の質について何らかの
不都合を感じる者がいたとしても,これが航空機騒音に起因するものと即断することは誤りであり,上記の各調査報告書から疫学的関連性を認めることはできないなどと主張する。
しかし被告の引用する厚生労働省の調査の睡眠の質に関する質問は,「睡眠全体の質に満足できなかった」,「日中眠気を感じた」といっ
た沖縄県健康影響調査報告書や小松基地調査報告書とは異なる,必ずしも睡眠障害に直結するとはいい切れない抽象的な選択肢を含むものであり,直ちにこれらと比較することはできない。また,ファイザー社の調査についても,この一事をもって沖縄県健康影響調査報告書等が認めた量反応関係が否定されるものではなく,むしろ,ファイザー
社の調査が,不眠症の疑いのある回答者の7割以上に不眠症の自覚がないと指摘していることは,前述の長田論文を補強するというべきである。

身体的被害・健康被害

身体的被害・健康被害の意義と検討の対象
原告らは,身体的被害・健康被害として,①高血圧・虚血性疾患などの心循環器系疾患,②聴力障害・耳鳴りなどの聴覚への影響,③流産や早産などの妊婦に与える影響,④その他の原告らに共通して発生している身体的精神的影響を主張し,横田飛行場からの航空機騒音等によってこれらの身体的被害・健康被害が原告らの共通損害として発生していると主張する。原告らは,以上に加え,⑤睡眠妨害に起因する各種健康被害についても独立した健康被害であるかのように主張するが,これについては,前述の睡眠妨害の被害として検討済みであるか,後記イ以下の個別の項目と重複するから,こちらで検討すれば足りるというべきである。
また,原告らは,WHOの健康に関する定義を引用して,⑥会話や日常
生活上の重要な音が聞き取れないという聴取妨害も,聴覚への影響の一環として身体的被害・健康被害という概念で捉えることが相当であると主張し,さらには⑦認知能力の低下に伴う作業・学習への影響や⑧音そのものによって生じる不快感についても同様と主張する。しかし,これらは,持続的な生理的影響ないし身体症状への影響を伴わないから,上記⑥と⑦に
ついては後記⑸の日常生活の妨害の一環として,また,上記⑧については後記⑹の心理的・情緒的被害として検討するのが相当である。さらに,原告らは,WHOガイドラインに認知能力,読解力や学習意欲への低下,攻撃的行動の増加などに関する記載があることに依拠して,身体的被害の一つとして,⑨子どもの認知障害及び行動・情緒障害をも挙げ
る。しかし,認知障害や情緒障害の概念は多義的であるのに,原告らは具体的にどのような生理的影響ないし身体症状をいうのか明らかにしておらず,WHOガイドラインの記載も,直ちに原告らのいう身体的被害としての認知障害及び行動・情緒障害について言及したものとまでは認められない。そうすると,原告らの主張する子どもへの影響については,身体的被
害の一つとして捉えることはできず,子どもに対する後記⑸及び⑹の被害の発現として考慮するのが相当である。そこで,以下では,上記①~④について順次検討する。イ
高血圧・虚血性心疾患などの心循環器系疾患
認定事実
以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。

a
WHOガイドライン(甲C8)
「生理的機能」として次の記述があるものの,騒音の特異的健康影響を考慮した「指針値」の項目ではこれを考慮した特段の値は示されていない。
空港,工場,騒音の激しい道路近傍の住民に対して騒音が生理的機能に急性的,慢性的な影響を及ぼしている可能性がある。長期曝露に
よって,住民の中の高感受性群が高血圧や虚血性心疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられる。強大な工場騒音に5~30年曝露された労働者は血圧が上昇し,高血圧になるリスクが高まると考えられる。心循環器系への影響は,LAeq,24hが65ないし70dBの航空機騒音・道路交通騒音の長期曝露地域においても明ら
かにされている。騒音と高血圧や心疾患の発症率との関連は必ずしも強いものではないが,高血圧よりも虚血性心疾患の方が騒音との関連がいくぶん強いとされている(同4頁)。
b
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C20の4,6頁)
前記⑶ア

のとおり,夜間騒音が及ぼす高血圧,心筋梗塞,うつ病

等の影響については「限定的な知見」にとどまるとする(同4頁)。他方,心筋梗塞のリスクがLday(昼間(午前7時から午後7時まで)の等価騒音レベル)に関連して上昇することは十分な知見があるものの,Lnight,outsideが比較的新しい指標であり,心臓血管疾患に関して夜間騒音に着目した調査が少ないため,Lnight,outside

に関連する知見は限定的であるとしつつ,夜間の騒音曝露が日中の騒音曝露よりも心臓血管疾患などの影響に強く影響しているという仮説を支持する動物やヒトを対象とした研究の知見があり,この研究項目に関する疫学的研究の必要性は高いとする(同4頁)。そして,騒音影響の閾値(影響が生じ始める値,もしくはそのレベルであれば影響が曝露レベルと関係する値と定義されている。同5頁)の項目に
おいて「心臓血管系機能の変化」を掲げながらも,生物学的に妥当な因果の経路が構築されているものの,これを定めるには至っていない旨を注記して,特段の指針値を示していない(同6頁)。その一方で,「健康保護のための提言」として,Lnight,outsideが55dB以上になると夜間騒音による心臓血管系への影響が公衆衛生上の重要な
事項となるとも記述する(同9頁)。
c
沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
第7章の本文に要旨次のとおりの記載がある。
平成6年度及び平成7年度に嘉手納飛行場と普天間飛行場の周辺の
市町村で行われた老人保健法に基づく基本健康診査データを基にW値と最高,最低血圧との関連を調査した(7-1頁)。
血圧は年齢や肥満度による違いが大きく,特に年齢との関連が顕著であるところから,10歳毎の年齢別に90パーセントタイル値を求め,これを上回る比率についてW値との関連を分析した。その結果,
多少の凹凸はあるものの,顕著な量反応関係が認められた(7-1,3頁)。
ただし,7-3頁に記載された90パーセントタイルの表では最高血圧についてはW値が増すごとにオッズ比が上昇しているが,最低血圧についてはW値75未満の対照群とW値80区域のオッズ比はほと
んど変わらないように見受けられ,本文との間にニュアンスの差があるように見受けられる。d

小松基地調査報告書(甲C11)の記載
小松騒音調査票(甲C12)で,高血圧,心臓病,脳出血や脳梗塞後などを例示して「現在治療中か,医師から治療が必要と言われた病気がありますか」という質問をしたところ,その回答の分析として要旨次のとおりの記載がある。

各騒音地区の有病者数が少なく,70W~85Wの各騒音地区間には粗有病率(現在治療が必要な病気を有する粗割合)の有意差がなかったため,70W~85Wをまとめて騒音地区とし,非騒音地区と比較した。騒音地区の粗有病率は非騒音地区と比べて「脳出血や脳梗塞後」が4.2倍,「心臓病」が2.2倍でそれぞれ有意に高かった。
これらについての性・年齢調整後のオッズ比も有意に高かったが,騒音地区の中では70と75,75と80,80と85との間に有意差はなかった。性・年齢に加えて他の属性も含めて調整した非騒音地区に対する騒音地区の多要因調整オッズ比は有意に高かった(21頁)。e
運輸省等の空港周辺住民健康調査(乙166)
運輸省航空局及び財団法人空港環境整備協会が,平成12年3月に結果を公表した調査であり,要旨次のとおりの記述がある。
平成元年から平成10年までの間に大阪国際空港及び福岡空港の周辺で実施された健康診断結果のデータを集計・集約して,航空機騒音
による最高血圧,最低血圧並びに血圧判定及び心電図判定への長期影響を検討した。当時の公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律8条の2,9条及び同施行令6条に定める第一種区域外,第一種区域(環境庁方式W値75以上)
,第二種区域
(同90以上)のそれぞれの10年間の最高血圧,最低血圧の推移を
みると,大阪,福岡の男女ともにほぼ横ばいに推移を示しており,増加あるいは減少傾向は認められなかった。騒音対策区域間を年度で比較すると,福岡では男女ともに最高・最低血圧は第二種区域が他の2群に比べて低い傾向を示しているが,これは騒音対策区域3群の平均年齢がそのまま反映されたもので,航空機騒音によるものではないと判断した。さらに医師が下す心電図判定結果の正常者率も,ほぼ横ばいで推移していた。以上により航空機騒音による直接的な影響は否定
された。
f
原告らの供述及び陳述書
原告番号861の原告は突発性頻脈の発症を訴えるが,本人尋問の結果によってもその原因は不明というのであり(同原告本人7頁),
同587の原告は狭心症を訴えるものの,原因はストレスの可能性があるというにとどまっている(同原告本人5頁)。その他陳述書で高血圧,弱狭心症,不整脈などの心循環器系の疾患に罹患している旨を記載している原告らが散見されるものの,これらの症状が航空機騒音によって発生したことを裏付けるに足りる診断書等の提出はない。
検討
原告らは,航空機騒音により高血圧,虚血性心疾患等の心循環器系疾患に罹患する危険性に曝されており,この危険性の増大を共通損害として認めるべきであると主張するので,検討する。
まず,WHOガイドラインは,騒音と高血圧や心疾患の発症率との関
連は必ずしも強いものではないとしており,循環器系への影響の具体的な態様は明らかにしていない

。また,欧州夜間騒音ガイド

ラインは,夜間騒音が及ぼす高血圧,心筋梗塞等の影響について「限定的な知見」があるとするものの(同b),前記⑶

で引用したその定

義によれば,騒音と健康影響との関連性は直接的には観測されていないが,因果関係を支持するに足る間接的な知見があることをいうとされており,間接的な知見から一応矛盾のない説明はできるが,直接的な証拠はないことから,当該知見につきなお異論の余地があることを示すものと解釈することができる。しかるところ,同ガイドライン自体は,ここでいう間接的な証拠や異論の内容を示しておらず,同ガイドラインをもって騒音と高血圧や心循環器系疾患との因果関係が明確になっているとまではいい難い。
また,沖縄県健康影響調査報告書や小松基地調査報告書の本文中には原告らの主張に沿うかのような記載があるが,前者の記述には必ずしも掲示された図と一致していないのではないかとの疑いがあり
c),後者についてもそもそも有病者数が少なくW値毎の有意性は認め
られていない(同d)など,いずれにも疑問が残る。なお,原告らは嘉手納飛行場周辺の高血圧有症者が約1000人と推定されるとの松井意見書の記載(甲C24・49頁)を指摘するが,上記の疑問の残る沖縄県健康影響調査報告書の結論を前提とした推論にとどまり,独自の意味を有するものとはいえない。他方,運輸省等の空港周辺住民健康調査の
ように長期にわたる診断結果を踏まえて騒音と血圧や心疾患との関連性を否定する調査結果も存在する(同e)のであって,証拠上,航空機騒音と高血圧や心循環器系疾患との間に因果関係があり航空機騒音によってこれらに罹患する具体的な危険性が高まると認めることには躊躇を覚えざるを得ない。

したがって,騒音により高血圧や心循環器系疾患に罹患する危険性が高まるとする原告らの主張は客観的証拠による因果関係の裏付けが必ずしも十分とはいえず,これを認めることはできない。ただし,欧州夜間騒音ガイドラインが,上記のとおり限定的な知見があるとするにとどめながらも,予防的見地から,健康に対する悪影響の防止の趣旨も含めた
暫定目標を示していることに照らすと,原告らが騒音に曝露されることによって高血圧や心循環器系疾患を発症するのではないかという不安感を感じることは十分に理解できるところであり,後述のとおり,心理的・情緒的損害の一環という限度において,このような不安感については共通の被害として認めることができる。

聴力障害・耳鳴り等
認定事実

以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。
a
WHOガイドライン(甲C8)
騒音による健康影響について要旨次のとおりの記述をした上で,聴力障害が生じ始めるガイドライン値につき,工業地域,商業地域,道路沿道(屋内,屋外)の環境条件においては,LAeq,24hで70
dB,LAmaxで110dBとすることを提言する(同12頁)。騒音性障害は,世界で最も広汎に見られる回復不能な職業病であり,世界全体で1億2000万人が聴取困難の障害を有していると推計されるが,職業性の曝露による聴力障害の程度はLAeq,8hが75dB以下であれば,職業曝露が長期にわたっても聴力障害は生じないと
期待され,また,環境騒音や娯楽にかかわる騒音のLAeq,24hが70dB以下であれば,たとえ生涯にわたって曝露されても大多数の人には聴力障害が生じないと期待される(同3頁)。
ISO1999が,LAeq,24hが70dB以下の曝露であれば,長期的な曝露であっても聴力障害には至らないことを示しており,聴
力保護の観点からすれば,衝撃音のピーク音圧レベル(瞬時音圧のレベルであり,騒音レベルの最大値とは異なる。特に衝撃音の場合は最大騒音レベルよりもかなり大きな値となる。)は成人に対して140dB,小児に対して120dB以下にとどめることが絶対的に必要である(同7頁)。

b
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C20)騒音による慢性的聴力障害に関する記述は見受けられない。c
児玉省日本女子大学名誉教授の調査(甲C28の3)
同教授は,昭和39年から45年にかけて,横田飛行場周辺地域の航空機騒音による生活・健康への影響調査を行い(以下「児玉調査」という),次のとおり報告した。

横田飛行場を離着陸する航空機の進路直下にある拝島第二小学校
(横田飛行場より約1キロメートル)の児童56名と,横田飛行場より東へ約3キロメートルの距離にある東小学校の児童41名に対して2年間にわたって聴覚検査を実施したところ,拝島第二小学校の児童の方が,各周波数を通じて聴力損失度が大きいことが明らかになった。
ただし,これが直ちに永久的な聴力損失であるかは,新たな検査を待たなければならないし,また,この聴力障害をもって直ちに航空機騒音の結果と断定するわけにはいかない(同20頁)。
d
沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
第9章に要旨次のとおりの記載がある。
航空機騒音が騒音性の聴力損失を発生させているかという問題については,従来から肯定するものと否定するものとがあり議論されてきた。空港や基地の周辺で住民に騒音性難聴が生じるかどうかは騒音曝露量によるが,仮に激甚な騒音曝露があったとしても,航空機騒音に
よる聴力喪失者を見いだせるかどうかの問題がある(9-1頁)。平成3年に北谷町において実施されたアンケート調査において「耳の聞こえが悪い」とする者の割合が95W以上の区域において対照群に比べて有意に高かったこと,また,過去の資料を用いてベトナム戦争当時の騒音曝露量を推定してW値が105程度,LAeq,24hが
85dB程度であると推定される地区について,聴力損失が生じている可能性があると推察し,聴力検診を実施した。対象は,嘉手納飛行場周辺の北谷町砂辺区(W値85以上100未満の地区)と嘉手納町屋良(W値90以上95未満の地区)に居住する25歳から69歳までの男女2035名であり,二次にわたる検診の成績を総合的に評価した結果,航空機騒音への曝露が原因と濃厚に疑われる聴力損失者を12名(北谷町砂辺区で10名,嘉手納町屋良
で2名)確認した(以上につき9-11,12頁)。
e
小松基地調査報告書(甲C11の1)の記載
小松騒音調査票の健康状態・自覚症状に関する質問への回答分析として要旨次のとおりの記載がある。
「かなりある」と「ひどくある」と回答した者の合計の粗割合につ
き,「耳が遠くなった」,「胸がどきどきする」については地区騒音レベルが高くなるに従い増加する量反応関係が有意に認められ,「耳鳴りがする」,「肩がこる」の粗割合には地区騒音レベルとの関係は認められず,「腰が痛い」についても騒音地区内での量反応関係はなかった。非騒音地区に対する性・年齢調整オッズ比を見ても「耳鳴り
がする」は有意ではなかったが,それ以外の項目は70W以上の騒音地区全体では有意だった(同20,21頁。ただし,その引用する表5-1-4を見る限り,上記のいずれの項目でも地区騒音レベルに従って高くなるという量反応関係は見受けられない。甲C11の2)。f
運輸省等の空港周辺住民健康調査
前記イ

eのとおり血圧等への影響に関するものであるが,その冒

頭部分で聴覚影響については長年にわたる研究成果の蓄積があり,空港周辺住民に騒音性難聴がみられることはまずないとの結論が得られていると記載している(乙166の1頁)。
g
原告らの供述及び陳述書
原告番号5の原告は耳鳴りを訴えるが原因は不特定であると供述しており(同原告本人11頁),同839の原告も昭和50年頃から耳鳴りがあったとするが医師の診察は受けておらず(同原告本人13,14頁),騒音が原因かは不明であると陳述している(甲Cの839)。また,同939の原告は小学校6年生の頃に難聴の診断を受けたと供述するが(同原告本人9頁),その原因については特に言及していない。その他,陳述書で耳鳴りや難聴を訴える原告が散見されるが(甲Cの578等),これらの症状が横田飛行場の騒音によることを個別的に認めるに足りる診断書その他の証拠はない
検討

WHOガイドラインは,工業地域,商業地域,道路沿道(屋内,屋外)の環境条件に対する聴力障害が生じ始めるガイドライン値につき,LAeqを24hで70dB,LAmaxを110dBと定めるが,横田飛行場周辺においてこのようなレベルの航空機騒音が生じてきたとの主張立証はない。

また,沖縄県健康影響調査報告書は,嘉手納飛行場周辺において騒音性難聴の可能性が濃厚な症例があったと指摘しているが,上記の診断自体が確定的なものでないことは同報告書も自認している上,過去のベトナム戦争の時期にW値105程度の激しい騒音に曝されたことが推測されるという特殊の条件下での可能性にとどまるものであって,これをも
って横田飛行場の航空機騒音によって一部の原告らが訴える聴力障害が発生していると認めることはできず,小松基地調査報告書を含め,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記

gの原告らの供述や陳述書を考慮しても,原告ら

の訴える難聴や耳鳴り等の慢性的な聴力障害が横田飛行場の航空機騒音によって生じたと認めるに足りる証拠はなく,これを騒音による健康被害と認定することはできないし,騒音によってこれらの症状を発症する具体的な危険性があるとも認めるに足りない。エ
流産や早産などの妊婦に与える影響
認定事実
証拠によれば,次の事実が認められる。

a
沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
同報告書の第8章には「低出生体重児出生率」として要旨次のとおりの記載がある。
低出生体重児とは,一般に2500グラム未満の体重で出生した幼児のことをいうところ,身体の発育や学習能力などに関して出生後長
期にわたってリスクを負うことが報告されている(8-1頁)。
沖縄県は,昭和49年から平成5年までの20年間の沖縄本島内の人口動態調査出生票約36万件を利用して市町村別の低出生体重児の出生率を調査した上で,嘉手納飛行場周辺の市町村に絞って騒音曝露量との関連を調査,分析した。ただし,上記の出生票は市町村単位で
防衛施設庁のW値別のコンターを利用することはできないため,騒音曝露量については,昭和52年の実測値に基づく地域区分から市町村ごとの平均曝露量を求め,①嘉手納町(平均88.0W),②北谷町(平均83.5W),③低曝露5市町村(平均75Wないし77.8W),④対照群としてのその余の8市町村(平均72.5Wないし7
3.4W)の4群に分類して比較検討した(同8-3~4頁)。
その結果,嘉手納町では対照群よりも低出生体重児の出生率が約1.3倍高く,北谷町は低曝露5市町村と同程度の比率であるものの,その2群をまとめて嘉手納町及び対照群9市町村と比較すると,騒音曝露量が高くなるほど上昇するという関係が見られた(同8-3~5
頁)。
ただし,低体重児の出生率には,多くの因子が影響を及ぼすので,そのうち,性別,母親の年齢,出生順位,世帯の主な仕事,嫡出か否か,出生年,母親の年齢と出生順位の交互作用を調整して,騒音曝露と低出生体重児との関係を多重ロジスティック回帰分析によって解析した。その結果,対照群と北谷町との間でも有意な差が生じ,騒音曝露量と低体重児の出生との間には顕著な量反応関係が得られた(同
8-5~6頁)。
また,上記4群ごとの早産児(ここでは,在胎37週未満の出生児をいう。)の出生率についても,北谷町と低曝露5市町村とはいずれも同程度の比率であるものの,その2群と嘉手納町及び対照群9市町村で比較すると,騒音曝露量が高くなるほど上昇するという関係が見
られた。この結果について,低体重児出生率と同様の多重ロジスティック解析をしたところ,北谷町と低曝露5市町村との間にも有意な差が見られ,騒音曝露量と早産児出生率との間には顕著な量反応関係が得られた(同8-8~10頁)。
b
小松基地調査報告書(甲C11)の記載
小松基地調査では,妊娠出産調査票(甲C15。以下「小松出産調査票」という。)を使用して調査を行ったところ,同報告書にはその回答の分析として要旨次のとおりの記載がある。
前記⑶ア

a記載の調査対象世帯のうちの平成8年4月以降に出産,

死産,流産した女性を対象に小松出産調査票を配布して271名から回答を得,そのうち解析可能な回答が含まれる256名を対象に解析を行った。256名の内訳は非騒音地区が100人,70W地区が33人,75W地区が41人,80W地区が47人,85W地区が35人であるが,70W~85Wの各騒音地区は人数が少ないため検出力
が低く,かつ,各騒音地区間の出生体重に有意差がなかった。そこで,70W以上の地区をまとめて騒音地区とし,非騒音地区と比較した。その上で,妊娠経過に基地騒音の影響を受ける現在の地区に居住中(里帰り分娩を含む。)に妊娠・出産した200人(非騒音地区74人,騒音地区126人)と基地騒音の影響を受けない他の地区に居住中に妊娠・出産した56人(非騒音地区26人,騒音地区30人)に分けて解析した(甲C11の40頁)。
その結果,全体では,騒音地区の出生体重は非騒音地区に比べて124グラム有意に少なく,妊娠中の居住地区別に分けると,現在の地区での妊娠・出産では騒音地区の出生体重は非騒音地区に比べて159グラム有意に少なかったが,他の地区に居住していたときの妊娠・
出産では騒音地区と非騒音地区の差は有意ではなかった(同40頁)。また,現在の地区での妊娠・出産について,低出生体重児(2500グラム未満)の粗割合を比較し,非騒音地区に対する低出生体重児のオッズ比を見ると,75W地区と85W地区は有意に高かったが,70W地区と80W地区は有意ではなかった。70W以上の騒音地区
をまとめて非騒音地区と比較したところ,低体重児の割合は,騒音地区が有意に多かった。さらに,出生時の母親の年齢,喫煙習慣,飲酒習慣,母親の身長と妊娠前体重,子どもの性別,多胎か単胎かの多要因で調整した騒音地区の出生体重は非騒音地区に比べて平均155グラム有意に少なかった(同41~42頁)。

妊娠期間には各地区間の有意差はなく,70W以上の地区をまとめた騒音地区と非騒音地区との比較でも有意差はなかった。37週未満の早産の割合を見ても騒音地区と非騒音地区に有意差はなかった(45頁)。
他の地区での妊娠も含む全体で354回の妊娠と現在の地区に居住
しているときの262回の妊娠について,流産・死産率を検討した。各地区の流産・死産数が少ないため,70W以上の地区をまとめて騒音地区とし,非騒音地区と比較したところ,全体の354回の妊娠について,粗流産・死産率には非騒音地区と有意差はなかった。現在の地区に居住しているときの母親124人,262回の妊娠について比較すると,70W以上の騒音地区の粗流産・死産率13.7パーセントは非騒音地区5.7パーセントより2倍以上高く,有意に高い傾向
があった(同46頁)。
もっとも,流産・死産数が少ないため検出力が弱く,この差が真実かどうかを確認するためにはさらに多い母親の調査が必要であった。また,今回は流産の時期について限定しなかったが,妊娠前期の流産は正確な把握が困難なため,妊娠後期に限定することや医療機関の協
力を得た調査も必要であった(同53頁)。
c
伊丹市における調査(甲C2の176頁)
「騒音の影響・文献抄録集第2」の中に上記調査の要約として要旨次のとおりの記載がある。
騒音影響調査研究会が,大阪国際空港周辺都市の一つである伊丹市
の昭和44年生まれの乳児から無作為抽出された713件の体重について,生活水準,性別,出生順位,出生時体重,母の職業と年齢,旧住所の騒音,現在地の航空機及び他の騒音との関係を解析したところ,航空機騒音レベル以外には関連因子はなかった。そこで,伊丹市とその周辺で静かな都市との比較をしたところ,大阪国際空港にジェット
機が就航する以前には伊丹市と出生体重に差がなかったのに,就航後は伊丹市の出生体重は他の都市より軽くなっていた。また,伊丹,豊中,宝塚の各保健所の昭和44年生まれの低体重児を調べたところ,騒音の大きい地域(ECPNL85dB以上)では未熟児出生率が高かった。

d
原告らの供述及び陳述書原告番号345の原告は,長女が早期破水で出生時から全盲となったことにつき騒音によるストレスが原因と思っていると供述する一方で,医学的には早期破水の原因が不明であることを認める旨の供述及び陳述をしている(同原告本人5頁,甲C10の345)。他にも複数の原告が流産や切迫流産の危険での入院等を経験したことを陳述しているが,騒音が原因か不明である旨の留保を付している者も少なくない(甲C10の341,715)。
検討
沖縄県健康影響調査報告書は,

aのとおり市町村ごとの平均曝

露量を求めて分析しているが,証拠(甲C7の8-4頁の表8-2)によれば,北谷町は実際には75W区域から95Wの区域まで5つの区域に分かれている一方,低曝露5市町村の中にも80W区域や85W区域への居住者が相当数おり,さらには対照群の中にも75W区域を有する市町村が複数あることが認められ,各市町村の中で複数の騒音曝露量が
混在する状況を踏まえていない点で前提となるべき母親の騒音曝露量の設定に疑問があるといわざるを得ず,その分析結果をにわかに採用することはできない。また,小松基地調査報告書や伊丹市での調査については,出生体重や妊娠期間に影響を及ぼす可能性のある因子として沖縄県健康影響調査報告書が指摘する,母親の身長及び体重,前回の妊娠から
の期間,妊娠中の就業状況,母親の栄養状態,喫煙,飲酒,社会的地位,所得水準,両親の学歴などの多くの要因(甲C7の8-11頁)の一部しか検討されていないか,又は全く考慮されておらず,その結論をにわかに採用することはできない。特に原告らが直接問題とする早産や流産については,小松基地調査報告書でも有意差は認められていないか,さ
らに調査による検証が必要とされており,これをもって騒音との因果関係を認めることはできない。そうすると,上記の各報告書及び一部の原告らの供述や陳述書をもって,騒音への曝露によって流産や早産などの妊婦に与える影響が発生したと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。オ
心身不調その他の健康被害
認定事実

以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。
a
WHOガイドライン(甲C8)
精神的疾患につき,環境騒音が精神的疾患を直接に引き起こすと
は考えられておらず,環境騒音への曝露とメンタルヘルスとの関係については明確な結論は得られていないとの記載がある(同5頁)。
b
欧州夜間騒音ガイドライン(甲C20)
前記

のとおり,夜間騒音がホルモンレベルの変化やうつ,そ

の他の精神的疾患といった臨床症状を引き起こすことについては「限定的な知見がある」とするにとどまる(同4頁)。
c
小松基地調査報告書(甲C11の1)の記載
前記ウ

eに加え,要旨次のとおりの記載がある。

平成23年の小松基地調査において使用された小松騒音調査票には精神疾患のスクリーニングに世界中で使用されている調査方法であるGHQ(The
General

Health

Question

naire)28項目版が含まれている(同11頁)。
上記調査票につき精神疾患を疑う6点以上及び精神疾患と診断される12点以上の回答者の粗割合は,85W区域と80W区域では非騒音地区に比較してカットオフ値以上の割合が有意に高かった(28頁)。

性・年齢に加え,居住年数,深夜勤務の有無,現在の病気の有無,耳の病気の既往で調整した多要因調整GHQ総得点は,非騒音地区と比較すると,80W,85W区域が有意に高かったが,70W区域は有意に高い可能性が高いにとどまり,75W区域は有意差がなかった(29頁,甲C11の2の表5-1-6-6)。
d
平成10年の小松基地周辺での調査の報告書(甲C16の1)の記載
服部医師は,平成10年にも小松基地周辺住民を対象として航空機騒音による健康影響の調査(以下「平成10年小松基地調査」という。)を行っていたところ,その報告書には要旨次のとおりの記載がある。

騒音地区として85W区域100世帯,80W区域129世帯,75W区域234世帯,非騒音地区226世帯を対象に,各種の身体的症例を含め「まったくない」,「あまりない」,「少しある」,「かなりある」,「ひどくある」の5段階に分けて回答を求める調査票を配布して調査を行った。調査票では,身体的症状として,「頭が痛
い」,「疲れやすい」,「肩がこる」,「腰が痛い」,「胃腸の調子が悪い」などの項目につき,「まったくない」,「あまりない」,「少しある」,「かなりある」,「ひどくある」の5段階に分けて回答を求めた。そのうち「かなりある」,「ひどくある」を症状ありとして地区別の頻度を算出し,さらに,全地区合計で症状ありの頻度が
5パーセント未満の項目は,「少しある」も症状ありに加えた地区別頻度も併せて比較した(同22頁)。
その結果,身体的症状のうち,「めまいがする」以外の症状は,非騒音地区に比べて騒音地区に有意に多かったが,これについても「少しある」を症状ありに加えると騒音地区に有意に多くなった。騒音レ
ベルが高くなるにつれて症状が増える項目が多かったが,「腰が痛い」と「胃腸の調子が悪い」は(85W区域よりも)80W区域に最も多かった(同25頁,甲C16の2の図5)。e
原告らの陳述書
原告番号173の原告は肩こりや頭痛があると陳述している(甲C10の173)
。また,同204の原告も肩こり等を訴え,また,同

260の原告は頭痛を訴えているものの,いずれも騒音の影響かどうかは不明との留保を付している(甲C10の204,260)同3。
53の原告は妻である同354の原告がノイローゼで精神科に通院していると陳述している(甲C10の353)
。ただし,以上の原告を
始めとするその余の身体・精神症状を訴える原告らについて症状が騒
音によるものであることを示す診断書その他の証拠の提出はない。検討
WHOガイドラインは騒音とメンタルヘルスとの関係について明確な結論は得られていないとし,欧州夜間騒音ガイドラインもホルモンバランスの変化や精神的疾患を引き起こす「限定的な知見がある」とするに
とどまっていて,このような知見はいまだ法的因果関係が認められる程度までには確立されていないことを示しているといえる。現に小松基地調査報告書によっても,肩こりや腰の痛みの訴えについては騒音レベルに応じた量反応関係は認められておらず,精神疾患を示す多要因調整GHQの総得点についても75W区域と非騒音地区で有意差がなく,むし
ろ70W区域の方が高かったというのであるし,平成10年の小松基地調査でも頭痛等の割合は85W区域よりも80W区域の方が高くなっているなど,航空機騒音と原告らが主張するような身体や精神症状との間に定量的な関係があるとはいえず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そもそも原告らの主張する身体的,精神的被害の存在や原因は本来
医師の診断書等のより客観的な証拠をもって認定可能な性質のものであり,その提出がない以上,これを航空機騒音等による被害として認めることはできない。⑸

日常生活の妨害

認定事実
以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。
WHOガイドライン(甲C8)

a
会話妨害について
要旨次のとおりの記載があり,これを踏まえて昼間と夕方の屋内における会話妨害のガイドライン値をLAeq,16hで35dBとすることを提案している(同12頁)。
会話了解度は騒音によって低下する。会話音の音響エネルギーは大
部分が100Hzから6kHzの周波数領域に存在し,そのうち300Hzから3kHzは会話の理解に最も重要な役割を果たしているところ,会話と同時に妨害音が発生することによってマスキングされて会話の理解が困難となる。環境騒音はドアのベル,電話の呼び出し音,その他の警告音や音楽といった日常生活を送る上で重要な会話以外の
音を妨害することもある(同3頁)。
高感受性群の例としては,特定の疾病や健康問題を有する人,盲人,聴覚障害者,乳児,小児,高齢者などが挙げられる。高周波領域の聴力がわずかに低下しているだけでも,騒音環境下では会話が困難になると考えられ,会話妨害に関しては,住民の大多数が高感受性群に属
する(同6頁)。
複雑な内容(学校での会話,外国語,電話の声)を聞くときには,聞き取ろうとする音声が50dBの場合,会話音と妨害音のレベル差が少なくとも15dBは必要であり,会話を正確に聞き取るためには暗騒音を35dB以下にとどめるべきである(同7頁)。

b
作業,学習への影響について要旨次のとおりの記載がある。
主に労働者や小児に対して騒音が認知作業の成績に悪影響を及ぼし得ることが明らかにされている。騒音によって集中力が賦活され単純作業の能率を短期間上昇させることもあるが,複雑な作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する。読解力,集中力,問題を解く力,記
憶力などが騒音によって特に影響を受ける認知能力である。騒音は集中を妨げる刺激となり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある。騒音への曝露は曝露終了後の成績にも悪影響が生じると考えられ,慢性的に航空機騒音に曝露されている空港周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の
成績,学習意欲が標準よりも低い。騒音は作業中の障害やミスを増加させると考えられ,ある種の事故は作業能率の低下を示す指標になり得る(同5頁)。
c
社会的行動について
要旨次のとおりの記載がある。
環境騒音の影響は,社会的行動やその他の行動に対する妨害の程度を調査することによって評価することができる。多くの環境騒音は,休息,娯楽,テレビの視聴などに対する妨害が最も重要な影響と思われる。80dB以上の騒音が援助的な行動を減少させることや,大き
な騒音が攻撃的な人の攻撃的行動を増加させることについてかなり整合性のある研究結果が得られている。慢性的に高レベルの騒音に曝露されている小児が無力感を抱くことも懸念されている(同8頁)。沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
同報告書の第3章には,要旨次のとおりの記載がある。

沖縄県健康影響調査では,生活質・環境質の調査のため,平成8年から平成9年にかけて,全部で98問の質問項目から成る調査票を,嘉手納飛行場及び普天間飛行場の周辺地域(ただし,普天間飛行場周辺については75W未満として指定を受けていない地区を含む。)並びに対照群として航空機騒音に曝露されていない地域に居住する合計7894名に配布し,5693名分の有効回答(内訳は嘉手納周辺3560名,普天間周辺1448名,対照群685名)を得た(3-1~3頁)。そのうち,飛行機の音などによる会話妨害,電話聴取妨害,TV聴取妨害,作業妨害,思考妨害,休息妨害の質問項目について「いつもある」,「ときどきある」,「たまにある」,「あまりない」,「まったくない」の5つの選択肢による回答を求め,「いつもある」と回答した
人数の割合の合計を年齢・性別の構成比率を調整の上,W値ごとに分析した。いずれについても,W値の増大とともに,正反応率が上昇し,著明な量反応関係が認められ,特にコミュニケーションに関する妨害である会話妨害,電話聴取妨害,TV聴取妨害の3項目は正反応率が最も高く,極めて明瞭な量反応関係が認められる(同3-10,13~14
頁)。
これに対し,警告音聴取妨害(自動車での走行中又は道路の歩行中に警笛が聞こえなくて危ない思いをしたかどうか。)の設問への反応率は,85W以下の区域ではほとんど認められず,「いつもある」と「ときどきある」を合計しても約10%もしくはそれ以下にとどまっている(同
3-15頁)。
小松基地調査報告書(甲C11)の記載
小松騒音調査票(甲C12)の「テレビや電話が聞き取りにくい」,「会話が妨げられる」,「ゆっくりくつろげない」,「考え事や読書ができない」という質問に対する回答結果の分析として,要旨次のとおり
の記載がある。
上記各質問のいずれについても「かなりある」と「ひどくある」と回答した者の合計の粗割合が地区騒音レベルが高くなるに従い増加する量反応関係が有意に認められた。また,上記合計の非騒音地区に対する性・年齢調整オッズ比も騒音地区全体で有意に高かった(20,21頁。その引用する表5-1-4を見ると,
「考え事や読書ができない」が8
5W区域より80W区域で若干高くなっていることを除いては,騒音地区の間でも量反応関係が有意に認められることがうかがわれる。甲C11の2)

国民生活時間調査報告書(甲C30)
NHK放送文化研究所が,平成27年10月,1万2600人以上に
ついて15分ごとの生活行動と在宅状況を調査し,7882人から有効な回答を得たところ,平日でも午後7時には67.6パーセントの人が在宅しており,その後在宅する人の割合は増え,午後8時では75.3パーセント,午後9時では81.7パーセント,午後10時では86.9パーセントに増加している。そして,午後7時の時点では,33.1
パーセントの人が自宅でテレビを視聴して27.1パーセントの人が食事をしている。その後,自宅でテレビを視聴している人の割合は増加して午後8時には40.1パーセント,午後8時30分に41.4パーセントとピークとなり,午後9時には38.1パーセント,午後10時には28.0パーセントと減少し,他方,午後10時には27.5パーセ
ントが睡眠についている。
原告らの供述及び陳述書
a
騒音による会話の中断及び電話,テレビ等の聴取妨害
原告らの大半がこれらにより仕事や日常生活への支障が生じている旨を陳述ないし供述している。特に原告番号352の原告は,平成2
8年9月まで24時間操業のパン工場に勤務しており,自宅にいる時にも上司から勤務調整その他の仕事上の電話が頻繁にかかってきたが,航空機騒音があると大声で話してもらったり聞き返したりして気を遣う等,電話の聴取妨害による支障を具体的に供述している(同原告本人8,10頁)
。また,同861の原告は野球中継を見ていてクライ
マックスに航空機騒音で解説が聞こえなくなり臨場感が遮断されて興ざめな気持ちとなることを(同原告本人10頁)
,同196の原告は

朝の連続ドラマや旅や釣りの番組を好んで視聴しているが,航空機騒音で聞こえなくなるため,対策として録画しながら見ていることを(同原告本人7頁)
,具体的に供述している。さらに,テレビのサス
ペンスドラマを好んで視聴しているが,それまで一生懸命聞いていたのに航空機騒音で一部の台詞が聞こえず微妙なニュアンスが分からな
くなってがっかりするとの陳述(甲C10の919)やラジオの中国語ニュースその他の語学講座の聴取が航空機騒音で妨げられ憎しみさえ感じるとの陳述(甲C10の997)もある。
b
思考,読書,仕事,趣味等知的作業に対する妨害
原告らの複数名が,騒音による集中力の低下に伴う知的作業による妨害や騒音そのものによる仕事の中断による業務への支障が生じている旨を陳述ないし供述している。例えば,原告番号520の原告は,自宅離れのプレハブで建築工事に使用する鉄筋の積算や図面作成の仕事に従事しているところ,航空機騒音により集中力が低下して仕事の
中断を余儀なくされることがあり,また,電話での打合せ中は聞き間違いを防ぐため相手に騒音が収まるまで待ってもらう等の支障が生じている旨を具体的に供述しており(同原告本人5~6頁)
,自宅でト
ラック整備業を営む同196の原告も航空機騒音による仕事の妨害について具体的に供述している(同原告本人6頁)
。また,大学教員で

ある同639の原告は,自宅で論文執筆時に航空機騒音により集中力を阻害され騒音が収まった後も執筆を続ける意欲をそがれる旨を供述している(同原告本人9~10頁)。さらに,同939の原告は,妻
である同940の原告と共にプロの音楽家として音楽活動に従事して自宅でCDやテープの録音等をし,また妻が自宅で歌のレッスンをしているところ,航空機騒音によって録音のやり直しやレッスンの中断を余儀なくされ,これらが妨げられていることを具体的に供述してい
る(同原告本人4~6,8頁)

c
家族の団らんや休息時間の妨害
原告らの相当数が夕方以降の家族の団らんの時間が航空機騒音のために妨害されている旨を供述している。例えば,原告番号8の原告は,現在大学生,専門学校生である同11,12の原告がそれぞれ高校生,
中学生であった平成22年当時は午後7時から8時頃まで家族で食事を一緒にして学校や部活動に関する相談をするなどしていたところ,航空機騒音によって会話を妨げられるなどの被害を受けていた旨を供述している(同原告本人7~8頁)
。また,同639の原告も,午後
7時から8時頃にかけて家族で夕食をとり,その後に大学生の二女や
長男とアルバイトの相談や就職の話などをしていても,航空機騒音があると皆が黙って話が途切れてそれきりになってしまい,家族のコミュニケーションを重視して妻が台所にいても会話に参加できるようオープンキッチンにしたのに,その意味が薄くなっている旨を供述している(同本人6~8頁)


d
騒音の感受性が高い人への影響
原告番号5の原告は,二男である同7の原告につき,知的障害があって言葉が話せないところ,航空機騒音があるとおびえて上に向かって指をさして壁をたたいたり床を踏んだりして暴れるなどと供述及び
陳述している(同原告本人6,12頁,甲C10の5)。また,同345の原告は,二女である同347の原告が全盲であり,周囲の音を目安に方向を探って歩行するが,航空機騒音があると方向が分からなくなりその場で立ち止まらざるを得なくなること,最寄駅から自宅までの道順を音の順番で把握するところ,横田飛行場の騒音のために途中で居場所が分からなくなって独力で帰宅する訓練を断念せざるを得なくなり,現在ヘルパーなしでは外出できない状態であることなど,
視覚障害者に対する深刻な影響を具体的に供述している(同原告本人6~9頁)。

検討
WHOガイドラインは,騒音による会話妨害に関しては住民の大多数
が高感受性群に属するとしてこれを重視し,騒音が集中力を妨げることや作業中のミスを増加させることを肯定し,休息,娯楽,テレビ等の聴取妨害をその重要な影響として挙げている

沖縄県

健康影響調査報告書によれば,電話聴取妨害,TV聴取妨害,作業妨害,思考妨害,休息妨害といった生活妨害に関する質問に対して著明な量反応関係が認められ(

),小松基地調査報告書でも実質的にこれ

とほぼ同様の結果が得られていること(同

)から,航空機騒音が生活

妨害を生じさせているとの結論は統計学の知見からも一応支持される。経験則に照らしても,航空機騒音に曝露されることによって,音の聴取や集中力の維持を妨げられ,それによって会話,電話やテレビ等の視聴など音を聞き取ることを必要とする作業や仕事や学習,趣味等の意識の集中を要する作業及び家族の団らんが妨げられることは明らかである。現に原告らの少なからずが,騒音による会話の中断,テレビや電話の聴取妨害による仕事や日常生活への支障,騒音による集中力の低下や仕事の中断による業務への支障につき具体的に陳述ないし供述している(同
。また,夕方以降の家族の団らんの時間の妨害についての陳述や供述も少なくないところ,同では夕食とその後の団らんの時間と位置付けられていることがうかがわれ,別紙7-2の75W以上の地域の1日当たりの騒音発生回数を見ても,この時間帯には,早朝及び深夜の時間帯よりも多くの航空機が飛行しており,毎日2回から6回近くの頻度で騒音が発生していることからも上記の供述等は裏付けられているということができる。
以上に照らすと,75W以上の地域に居住する原告らは,横田飛行場の航空機騒音によって,その日常生活において,音の聴取(会話,テレビ,電話等)や意識の集中(仕事,学習,趣味等)を要する作業及び家族の団らんのような生活の質を高める行為を妨げられ,その日常生活が
妨害されていること,その妨害の程度は,各原告らのW値の大きさに応じて増大していることが認められ,このような生活妨害は,原告らに共通する被害と認められる。
なお,

dによれば,横田飛行場の航空機騒音が知的障害者や

視覚障害者といった騒音の感受性が高い者に対してより深刻な影響を与えていることが認められ,これ自体は原告らの共通損害とはいえないものの,違法性の判断要素の一つとして考慮すべきである。
これに対し,旧75W地域に居住する原告(指定区域外原告)については,そもそも各原告の居住地での騒音曝露量やこれに対するうるささの住民反応を個別的に認めるに足りる騒音の測定結果やW値の算定に関
する主張立証はないし,沖縄県健康影響調査報告書によっても,各生活妨害について「いつもある」と回答した者の割合は普天間基地周辺の75W未満の区域では75W以上の区域に比べてごく低率にとどまっている上(甲C11の3-78頁),そもそも対照群との比較もなく,経験則上も騒音曝露量が小さければ生活妨害の程度が小さくなると考えられ
ることに照らすと,ある程度の生活妨害が生じることがあるとしても,その程度は,75W以上の地域に居住する原告らに比べて小さいといわざるを得ず,75W以上の地域と同程度の生活妨害が発生しているとまで認めることはできない。また,小松基地調査報告書は,W値70~85の地区を騒音地区と一括して非騒音地区と比較しているにすぎず,75W未満の地区が非騒音地区と比べて特段に大きい被害を受けていることまでを裏付けるものとみることはできない。

他方,被告は,航空機騒音が原告らの主張するような生活妨害を生じさせる可能性は否定しないものの,陳述書や供述では証明が不十分であると主張するが,睡眠障害につき前述したのと同様に,被害の性質上,外形的には補足し難く,騒音への被曝露者の主観的な受け止め方を度外視して正確な認識,把握は困難であるから,理由がない。また,横田飛
行場の高度の公共性に照らすとその程度が受忍限度を超えるものとの証明がないとも主張するが,公共性に関する検討で後述するとおり採用し難い。

心理的・情緒的被害

認定事実
以下括弧内掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。
WHOガイドライン(甲C8)
a~cの知見に加え,高速道路,空港,工場のような大
きな騒音源の近くに保育所や学校を作るべきでないことは明らかである
と指摘し,これらの知見を踏まえ,学校関係のガイドラインを授業中の室内はLAeq35dB,屋外の校庭は昼間の居住地域と同じLAeq55dBとすることを提言する(8,9頁)。
児玉調査(甲C28の5)
前記⑷ウ

cのとおり,昭和39年から昭和45年にかけて横田飛行

場の飛行コース直下の拝島第二小学校の児童を対象にして,横田飛行場から離れた東小学校その他の対照群と比較調査したものであるが,心理的諸検査の結果として,拝島第二小学校の生徒には,対照群と比較して,根気のなさが見られ,感情的不安及び攻撃的傾向を示す反応や回答が高いこと,特にロールシャッハテスト(紙にインクをたらして,2枚折にしてできた図版が何に見えるかを尋ねるもの)では,不安傾向,攻撃的傾向,衝動的傾向が濃厚であり,それら不安等の傾向が空を飛ぶもの,空で火をふいているものなどと航空機に結びつくことが十分に推測されたとの記載がある(同6~9頁)

沖縄県健康影響調査報告書(甲C7)の記載
同調査における前記

回答結果として,第3章

に要旨次のとおりの記載がある。
同調査票に対する5693名分の有効回答のうち,「あなたの生活は基地の騒音によってどの程度の被害を受けていますか」との設問(「耐
えがたい被害をうけている」「非常に被害をうけている」「かなり被害,

をうけている」「少し被害をうけている」「被害をうけていない」の5,


段階から一つを選択)に対し,
「耐えがたい被害をうけている」及び
「非常に被害をうけている」と回答した者の合計割合は,嘉手納,普天間の両飛行場周辺ともに,W値の増大とともに上昇する傾向が著明である。ただし,75W未満の群については,上記回答の合計割合は,5%程度にすぎず,同じ普天間飛行場周辺の75W区域や嘉手納飛行場周辺
を含む75W区域全体に比較して低率にとどまるとうかがわれる(同3-9,77頁)

また,イライラ感(イライラする,腹が立つ)や恐怖感(飛行機の音が怖いと思う)についての設問(前記
択するもの)に対し,
「いつもある」と「ときどきある」と回答した者

の合計割合についても同様にW値の増大に伴って上昇する傾向が見受けられる。これに対し,戦争への恐怖(戦争を思い出して怖いと思う)の設問については,同様の回答をした者の反応率は低く,W値への連動傾向も明らかではないように見受けられる(同3-9頁,3-11頁の図3-9⒜~⒞)
。さらに,飛行機の墜落の不安や飛行機からの落下物の
不安についての設問(
「非常に感じる」「かなり感じる」「少し感じ


る」「あまり感じない」「まったく感じない」の5段階から一つを選択,

するもの)につき「非常に感じる」と「かなり感じる」と回答した者の合計割合についても,後者についての嘉手納飛行場周辺の75W区域と80W区域の差が僅差であることを除いて基本的に上記と同様の傾向が見受けられる(同3-10頁の図3-10,3-70頁)


原告らの供述及び陳述書
ほとんどの原告らが,航空機騒音に対する何らかのイライラ感や落着きのなさを訴えている。例えば原告番号861の原告は航空機騒音にさらされると平常心でいられず,落着きがなくなって情緒不安定やいらだちを感じ,バイクの発信音が異常に気になるようになったと供述してお
り(同原告本人6頁)
,他にも同様のイライラ感や落着きのなさを陳述
する原告が少なくなく(甲C10の74等)
,中には集中している時に
騒音で中断されるとイライラするので,これを避けるために集中しないで本を読むようになり,読書の楽しみが半減したと陳述する原告もある(甲C10の833)
。また,騒音に対する無気力感を陳述する原告も

ある(甲C10の264)

さらに,多数の原告が航空機の墜落事故や航空機からの部品等の落下事故の不安感についても言及しており,例えば,原告番号8の原告は自宅が空路の真下で墜落事故のニュースに接すると人ごとではないと感じる旨を供述し(同原告本人9頁)
,航空機が相当な低空飛行をしている

としていつ墜落してもおかしくないと考えてしまうと陳述する原告もいる(甲C10の440)
。また,同196の原告は,低空飛行で模擬かもしれないが爆弾型の積荷まで見え,それが落ちるのではないかという不安があると供述し(同原告本人10頁)
,同639の原告も航空機の
騒音は単なる騒音ではなく墜落又は落下物事故による死を感じさせる音であると供述している(同原告本人11頁)

加えて,子どもへの悪影響を訴える原告も少なくなく,例えば,原告
番号196の原告は,息子(原告にはなっていない。
)が幼い時に航空
機の騒音があると両耳を押さえて叫び,自分の声で騒音を消そうとしていたことを供述し(同原告本人11頁)
,同61の原告も,同居の子で
ある同63,64の原告らが小さい頃は騒音があると大声で叫ぼうとしていたことに加え,拝島第二小学校に通っていた際に度々航空機騒音で
授業や運動会,音楽会などの学校行事が中断されたことを具体的に陳述している(甲C10の61)
。また,同330の原告も同居の子である
同331,332の原告らにつき,小さい頃,航空機騒音が聞こえるたびに泣き出したりおびえたりする様子が見られ,また,騒音の影響でいらいらしたり怒りっぽかったりしたと陳述し,同440の原告も同44
1の原告を含む子らにつき同旨の陳述をしている(甲C10の330・440)


検討
前記⑸ア

b,cのとおり,WHOガイドラインが,騒音は集中力や

持続力を妨げ攻撃的行動を増加させるといった知見を示しており,相当古いとはいえ,横田飛行場周辺を対象に行われた数少ない調査である児玉調査の結果はこれに沿うものであるし,沖縄県健康影響調査報告書によれば,75W以上の地域における被害感と騒音曝露量との間には著明な量反応関係が認められ,騒音が被害感などの精神的苦痛を生じさせて
いるという結論は統計学の知見からも一応支持される。そして,経験則に照らしても,航空機騒音そのもの,又はこれによる会話,電話,テレビ視聴の妨害や趣味,作業の中断といった各種の生活妨害によってイライラ感や落着きのなさ等の不快感を覚えることは明らかといえるし,現にほとんどの原告が何らかのイライラ感その他の不快感を訴えている。また,航空機騒音から想起される墜落事故や落下物事故の不安感についても多数の原告が言及しているところ,前記3⑷ア
で認定した横田

飛行場に所属する航空機自体や落下物の事故の発生履歴や内容に照らせば,かかる不安感にも相当の根拠があり,沖縄県健康影響調査報告書によれば航空機騒音の恐怖感や事故の不安感についても基本的にW値に応じて増大する傾向が見受けられる。
以上によれば,75W以上の地域に居住する原告らは,横田飛行場の航空機騒音によって,イライラ感その他の不快感や不安感等の心理的・精神的苦痛を感じており,このような心理的・情緒的被害は,原告らに共通する被害と認められる。
原告らは子どもへの影響についても主張するところ,WHOガイドラ
インが小児を高感受性群と位置付けていることからすると,成人である原告らが先に認定した生活妨害や上記のような心理的・情緒的被害を被っている以上,子どももこれと同様の被害を被って成人以上の影響を受けていることが認められ,児玉調査やこれに沿うWHOガイドラインの知見並びに原告らの供述及び陳述書によれば,その主張するような騒音
に対する反応やいらいらしやすさといった心理的・情緒的被害が発生していることが認められる。
ただし,現在原告となっている者についても,多くはかかる被害が発生したのは本件請求対象期間よりも前のこととうかがわれ,このような子に対する悪影響は,本件請求対象期間に未成年であった原告を除いて
は,共通損害としてではなく,違法性の判断の一要素として考慮するのが相当である。これに対し,指定区域外原告に関しては,前記⑸でも指摘のとおりそもそも騒音曝露量やこれに対する住民反応を示す的確な証拠がない上,沖縄県健康影響調査報告書によっても,75W未満の区域における被害感についての正反応率は低率にとどまり,恐怖感や事故の不安感については75W未満の区域と対照群との比較は示されていないから,この間
に有意な差があるとも認められない。経験則上も騒音曝露量が小さければ心理的・情緒的被害の程度も小さくなると考えられる。そうすると,一定程度の心理的・情緒的被害が生じることがあるとしても,その程度は,75W以上の地域に居住する原告らに比べると小さいといわざるを得ず,指定区域外原告の供述及び陳述書を考慮しても,75W地域と同
等程度の損害が発生していると認めることはできない。
他方,被告は

採用すること

ができない。

その他の被害

交通事故の危険
原告らの中には,航空機騒音によって周囲の音がかき消され,横田飛行場の周辺で交通事故が発生しやすくなる危険性を供述ないし陳述する者がいる(原告番号345,587の各原告本人等)。
しかしながら,横田飛行場周辺における交通事故の発生頻度が他の地域
と比較して特別に高いことを示すような証拠はなく,前記⑸ア
のとおり

沖縄県健康影響調査報告書においても85W以下の曝露群では交通事故の危険を示す警告音聴取妨害への反応率は極めて低率にとどまったところ,原告らの居住地域には85W以下の地域しかないことにも照らすと,このような危険性やこれに対する不安感が原告らに共通する被害として認められるとはいえない。

ペットに対する悪影響
原告らの中には,横田飛行場を離着陸する航空機によって飼育している犬等のペットに悪影響が及び,これによって苦痛を感じている旨を陳述する者がいる(甲C10の164,556,1009)。
しかしながら,ペットを飼育していない者を含む原告らの全てが横田飛
行場周辺の住民が飼育しているペットに悪影響が及んだとして苦痛を感じているとは認め難い上,そのような苦痛を感じている者がいたとしても,それは上記⑹の心理的・情緒的被害に包含されるものとみるのが相当であって,かかる精神的苦痛が独立した被害として発生しているとは認められない。


戦争の想起による精神的苦痛
原告らの中には,戦争を経験するなどして横田飛行場の航空機騒音により,戦争を想起するという苦痛を感じている者がいる(甲C10の249,497,777,1041)

しかしながら,原告らの全てが戦争を経験しているわけではないし,前
記⑹ア

のとおり日本で唯一地上戦を経験した沖縄県においての沖縄県健

康影響調査報告書においてすら,戦争への恐怖についてはイライラ感や恐怖感に比べて反応率が低く,W値との連動傾向も明確ではないことを考慮すると,戦争の想起が,上記⑹の心理的・情緒的被害と独立した共通の被害として発生しているとは認められず,このような苦痛を感じる原告がい
ることは違法性の判断の一要素として考慮し得るにとどまるというべきである。

排気ガス及び振動による被害
原告らの中には,排気ガスによる被害を申告する者がいる(甲C10
の219,442,458)

しかしながら,前記3⑶アのとおり,横田飛行場を離着陸する航空機から原告らの主張する被害を発生させるような排気ガスが発生していることは認められず,かかる被害を認めることはできない。
原告らの中には,横田飛行場を離着陸する航空機騒音等により家屋等の振動を感じている者も少なくない(原告番号196の原告本人5頁,甲C10の87,233,271,578,959,962)


しかしながら,前記3⑶イ及び⑸のとおりであって,航空機騒音とは別個の侵害として振動が発生していることを証拠上認めるに足りないし,原告らに共通する被害とも認めるに足りない。
5
横田飛行場の公共性について


被告の主張の要旨
原告らが横田飛行場における航空機の運航に伴う騒音等を違法な権利侵害ないし法益侵害であると主張するのに対し,被告は横田飛行場における航空機の運航には高度の公共性があるとして受忍限度を超えていないと主張するから,この点について検討する。



横田飛行場の公共性の有無と内容
前記第2部「前提となる事実」の第1の1ないし4及び証拠(甲B184,185,甲D10,乙72,73)によれば,横田飛行場は,アメリカ合衆国空軍が管理し,安保条約に基づき,我が国の安全に寄与し,極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという高度に政治的・行政的な目的のた
め米軍に対して提供されている上,平成23年3月には我が国のミサイル防衛における統合任務部隊の指揮等を行う航空自衛隊航空総隊司令部も設置されていることが認められる。そして,現在の不安定かつ流動的な国際情勢の下において,被告の主張する横田飛行場の立地条件・規模,施設の状況等を考慮すると,横田飛行場における米軍機等の運航は,我が国の防衛政策及び
外交政策上重要な位置を占める米軍の活動の一環であり,上記の目的の下で我が国の基本的な存立と安全を確保するための活動として公共性が認められる。⑶

公共性と受忍限度
もっとも,前述のとおり,米軍機等による横田飛行場の航行に伴う航空機騒音によって原告らには睡眠妨害,各種の生活妨害及び心理的・情緒的被害が発生していると認められ,身体的被害ないし健康被害までは認めるに足り
ないとしても,その被害の程度は原告らが当然に受忍しなければならないほど軽度とはいえず,しかもその被害を受ける地域は広範で多数の住民に被害が及んでいる。しかも,横田飛行場における米軍機等の航行によって発生する利益は,我が国の国民全体が等しく享受するものではあるが,上記の利益が増大するに伴って横田飛行場の周辺住民である原告らが受ける利益も増大
するという彼此相補の関係にはなく,むしろ横田飛行場の使用によって国民全体が上記のような利益を受ける一方で,原告らを含む周辺住民という一部の少数者に特別の犠牲が強いられているという不公平が存在する。そして,このような不公平は,上記の公共性をもっては直ちに正当化することはできないというべきであり,上記の公共性の一事をもって,原告らの損害賠償請
求権を否定することはできない(厚木平成5年最高裁判決参照)

したがって,被告の主張は採用することができない。
6
被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減について⑴

被告の主張の要旨
被告は,横田飛行場の提供によってもたらされる公益の重大性と,横田飛行場において米軍機等が運航されることによって影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るために,防音工事助成及びその他の周辺対策を実施しており,これらによって原告らの被害は相当程度に防止ないし軽減されているとして,原告らの被害は受忍限度の範囲内と見るべきであると主張する。
そこで,まず防音工事助成につき,次いでその余の周辺対策等につき検討する。⑵

防音工事助成について

認定事実
以下括弧内に掲記する証拠等によれば次のとおり認められる。
防音工事の工事内容等(乙53,検証の結果)

前記第2部「前提となる事実」第4の3⑵ウのとおり,被告の助成による防音工事は,防音工事仕方書(乙53)に従って行われる。標準的な工法は,80W以上の区域に所在する住宅について25dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅰ工法と,75Wの区域に所在する住宅について20dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅱ工法とに分類され,各工
法について,鉄筋コンクリート造系と木造系の標準工法例を定めている。鉄筋コンクリート造系の防音工事は,第Ⅰ工法と第Ⅱ工法で基本的に違いがなく,主として開口部に対する工事であり,窓等の外部開口部については,在来の建具を撤去し,アルミニウム合金製気密建具を取り付け,内部開口部については,木製防音建具(周囲に植毛ゴムパッキング
を用いて気密性を保たせた建具)を取り付けることとされている。木造系の防音工事は,開口部に対する鉄筋コンクリート造系と同様の防音工事に加え,壁及び天井に対しても改造を加える。外壁に対する工事は,例えば,第Ⅰ工法においては,在来仕上げを撤去の上,壁胴縁を格子に組み,その間に吸音材を充てんし,その上に石膏ボードを打ち付
け,さらに,従来張られていた物と同等の仕上げ材を新たに張り直すなどしている。また,第Ⅱ工法にあっては,原則として在来仕上げのままであるが,防音上著しく有害な亀裂,隙間等がある場合は,同一の仕上げ材等で補修する。天井に対する工事は,例えば,第Ⅰ工法における最上階二重天井にあっては,在来の天井を撤去し,野縁(天井の裏に入れ
る骨組み)を新設して石膏ボードを打ち付け,更にその下部に同様に野縁を組んで,これに吸音材を張り,更に化粧石膏ボードを打ち付けている。第Ⅱ工法にあっては,原則として在来仕上げのままであるが,防音上著しく有害な亀裂,隙間等がある場合や在来の天井がない場合は,有効な防音工事を施している。ただし,木造系および鉄筋コンクリート造系のいずれについても,屋根は在来のままであるし,実際に計画防音量に達する防音効果を上げるためには,内外の開口部を完全に閉め切って室内を密閉することが必要である。そして,外部開口部に設置されるアルミニウム合金製気密建具は,框と可動部分との間に気密材を使用し,レバーを上に引き上げて気密性を保持する構造であるが,レバーの引き上げにはある程度の力を要する。また,内部開口部に取り付ける木製防
音建具は,通常の建具よりかなり重量があり,やや使いにくい(この点は当裁判所の防音工事済み住宅の検証の際に被告指定代理人も自認するところである。。さらに,防音工事を実施した居室を閉め切ると密閉状)
態となることから温度調節及び換気のために空調機器の使用が必須となり,そのための電気代の支払が必要となる。

住宅防音工事の実施状況
本件請求対象期間に75W以上の地域に居住していたことのある原告ら(口頭弁論終結前に死亡した原告を含む。に対する防音工事の実施)
状況のうち,前記「第2部

前提となる事実」第4の4⑵の各工事の種

別,各工事の完了年月日及び各工事により防音工事が実施された室数が別紙6「防音工事一覧表」の各該当欄に記載のとおりであることは,原告番号17,18,129~132,183,184,187~190,204,223,224,237~239,713,745,841~845,914~916,955,956,983~990,1061,1062の各原告については証拠(甲C10の17,129,183,
188,204,223,238,842,914,乙148の745,841~845,914~916,955,956,983~990,1061,1062)及び弁論の全趣旨によって認められ,その余の原告らについては当事者間に争いがない。なお,原告番号745の原告については,乙148の745の1の10枚目に新規工事として3居室に防音工事を実施した旨の書込みがあり,乙148の745の2に照らすとその後の平成6年の追加工事では空調機器の設置工事が行われたにとどまり,同別紙と齟齬がないことが認められる。
住宅防音工事の助成に支出した費用の総額(弁論の全趣旨)
被告は,昭和50年度から平成27年度までに,横田飛行場周辺の住宅防音工事に対する助成の総額として,新規,追加,一挙防音工事の合
計につき約1233億6900万円,防音区画改善工事につき約7億2900万円,外郭防音工事につき約53億0300万円を支出した。防音工事仕方書に従って行われた住宅防音工事の効果の検証結果
a
防衛施設庁は,平成13年度に住宅防音工事事業に関する政策評価書をとりまとめるに当たり,平成13年10月から平成14年3月にかけて,第Ⅰ工法については14か所の飛行場周辺の118世帯を,
第Ⅱ工法については4か所の飛行場周辺の23世帯を対象として防音量調査を行った。その結果,第Ⅰ工法では,最低でも25.0dB,最高で44.0dBの遮音効果が認められ,第Ⅱ工法では,最低でも20.0dB,最高で32.4dBの遮音効果が認められた(乙113)


b
過去の横田飛行場の騒音訴訟における平成10年10月27日の検証期日での防音工事実施済み住宅における被告国側の測定結果によれば,午後2時56分に飛来した航空機(C-9)の騒音について,屋外75dBに対し屋外は44dBであり,31dBの差が認められた(乙54)


c
厚木飛行場の騒音訴訟における平成11年8月24日の検証結果によれば,午後4時2分に飛来した航空機(FA-18C)の騒音は,屋外では96dB(国側測定)又は98dB(原告住民側測定)であったのに対し,防音工事を実施した部屋の屋内で窓を閉めた状態では73dB(原告住民側測定)であった。ただし,同じ部屋の屋内で窓を開けた状態で測定した午後3時49分に飛来したFA-18Cの騒音は90dBであり,同時刻の屋内での測定結果は92dB(原告住民側測定)又は93dB(被告国側測定)で,ほとんど差がなかった。(乙221)
原告らの供述及び陳述書(甲C10)における評価

住宅防音工事を実施した世帯の原告らの住宅防音工事の効果に関する評価については,工事の種別を問わず,全く効果がないわけではないが不十分であるとする意見が大勢と認められ,屋根は防音工事の対象とならないため上方からの騒音は遮断されない,自然の風が入らない,引き戸が重い,窓を閉めていないと効果が出ないためエアコンの冷房で電気
代がかかる,部屋を閉め切ることで圧迫感がある,携帯電話の電波が入りにくくなったなど,騒音対策としては一定の限界や少なからぬ弊害があることを指摘している。例えば,原告番号861の原告は,同居する95歳の父親が防音工事によって重くなった洗面所のドアの開閉ができないなどの不都合が生じている旨を供述し(同原告本人11頁)
,原告

らの中で唯一防音区画改善工事をした同345の原告も,窓やサッシを閉めれば多少の違いはあるが,
(閉めただけでは)テレビの音は相変わ
らず聞こえず,サッシの施錠までしないと効果はないと供述し,ドアや窓がとても重く引戸を開け損ねて爪が2回ほどはがれたとも陳述している(同原告本人12頁,甲C10の345)
。さらに,外郭防音工事を

行った同150の原告も,冷暖房の電気代が負担で,引戸が重くなった上,
(引戸を閉めた状態では)他の部屋からの呼び声や電話のベルが聞こえず,室内では生活音などがかえって大きく聞こえて気になるようになった等の不便があると陳述している(甲C10の150)

防音工事の効果に対するその余の評価
a
上記

aの政策評価書のとりまとめに際して防衛施設庁が平成13

年3月から同年5月まで厚木飛行場周辺で実施した住民意識調査(回
答者数5136名)では,
「防音効果が不足している」及び「防音効
果が全くない」とする回答が合計で約66パーセントであった。その理由としては,
「テレビ,電話等が聞き取りにくく,会話や睡眠が妨
害されるなど,予想していたほど防音効果がなかった」と「住宅全体を防音工事していない」が多かった。また,同評価書によれば,神奈
川県が平成12年7月から同年9月にかけて実施した厚木飛行場周辺の生活環境調査では「防音工事の効果があまりない」と「全くない」との回答が合計で約53パーセントであったとされている(乙113の6頁,別紙12)

b
沖縄県健康影響調査報告書は,第3章の生活質・環境質の調査で防音工事を実施した者についてその効果等についても調査しており,その結果について要旨次のとおり記載している。
防音効果に関する質問(「十分にある」,「かなりある」,「ある程度ある」,「あまりない」,「全くない」の5段階から選択)に
「あまりない」と「全くない」と回答した者の合計は,75W群では19~20.6パーセントであったが,W値の上昇とともに増大した。また,防音工事の満足度に関する質問に対し,「不満」及び「大変不満」と回答した者の合計もW値の上昇とともに増大した(同3-27頁。同3-74頁の表で概算すると,嘉手納飛行場周辺の75W群で
は約10%,80W群では約14%,85W群では約25%がこのような回答をしているとうかがわれる。)。嘉手納飛行場周辺の回答者につき防音工事実施の有無で回答率に変化があるかを見るに,騒音につき「大変うるさい」と答えた回答者では防音工事実施群と非実施群で量反応曲線にほとんど違いがなく,テレビ聴取妨害が「いつもある」と「ときどきある」とした回答者でも同様であった。また,睡眠妨害に関する4つの設問のいずれかに「月
1,2回」とした回答者のオッズ比にも著名な差はなく,かえってW95以上の群では実施群の方が非実施群より高くなっていた(同3-29~30頁)。
この結果によれば,現行の防音工事は物理的には一定の効果をもたらしているが,生活実態としては必ずしも居住者の生活環境の改善に
十分に寄与していない。その理由としては,防音工事をしても窓を開けて生活している世帯が多いことのほかに,遮音量の問題が考えられる。すなわち,1家屋の中で防音工事の対象となる居室は限られており,神経質に境界部分のドアのロックを励行しない限り所定の遮音量は得られないが,例えば台所には防音工事が行われないことが多く,
日常生活の中で台所に隣接する居室等との境界部分のドアをいちいち閉めてロックすることは非現実的である(同3-31頁)。

検討
被告が助成の対象とする防音工事は防音工事仕方書に従って行われるも
のとされているところ,上記

の防音工事が実施された原告らの住宅に

つき防音工事仕方書に従わない工事がされたとの主張立証はないから,これらの工事は防音工事仕方書に従って行われたものと認められる。そして,によれば,防音工事仕方書に従って防音工事を行った場合は,内外の建具を閉め切って密閉状態にする限り,計画防音量を達成するものであることが認められる。
そうすると,防音工事の効果に否定的な一部の原告らの陳述を勘案しても,防音工事は,同工事を実施した住宅に居住する原告らに対して,物理的には一定の限度で防音効果を生じさせているといえ,一定の被害軽減の効果をもたらしていると認めるのが相当である。
しかしながら,被告が助成の対象とする防音工事は,住宅防音工事という呼称とは裏腹に,原則として85W以上の区域でしか行われない外郭防音工事を除いては,住宅全体にではなく,独立した厨房,玄関,廊下,浴室等を除いた一部の居室にしか実施されないのであり,防音工事を実施した居室ないし区画を閉め切って密閉状態にしなければ防音工事仕方書が定める計画防音量を達成することはできないもので,その大半の実態は,
「居室防音工事」と呼称すべきものである。しかるところ,沖縄県健康影響調査報告書が指摘するとおり,日常生活において,不定期的にいつ発生するかもしれない航空機騒音に備えて防音工事実施部分の内部開口部の建具をその都度閉め切ることは煩雑で必ずしも現実的ではない上,内部開口部の建具は通常のものよりも重くて使い勝手が悪く,老人や小児など力の
弱い者にとってはこれを開閉すること自体が困難と認められる。
また,上記

cの検証結果によっても防音工事は窓を開けた状態では

ほとんど効果がないことが明らかであり,外郭防音工事の場合を含め,計画防音量を達成させるためには少なくとも外部開口部の窓等のサッシを閉めレバーを操作するなどして密閉する必要があるところ,そのような自然の光や風を享受できない密閉された空間で24時間生活するということは困難であるし,単にサッシを閉めるだけでなくその都度レバーを操作することもいささか煩雑で力を要するから,実際に原告らが住宅防音工事による被害の軽減を享受し得る場面は限られているといわざるを得ない。加えて,原告らの供述や陳述書によれば,自然の風が入らない,引き戸が重い,
密閉しないと効果が出ないため空調機器の稼働のための電気代がかかる,部屋を閉め切ることで圧迫感がある,携帯電話の電波が入りにくくなるなど,防音工事を行うことによる弊害が少なくないことも認められる。なお,被告は,防音工事で設置した空調機器の電気代の負担軽減策として平成元年度から生活保護法に規定する被保護者等に対し上記電気代の助成措置を行い,平成15年度からは太陽光発電システム設置に係るモニタリング事業を行っていると主張するが,前者は対象者が極めて限定されて
おり,後者も試行段階にすぎないから,現時点での実績や実効性は乏しく,考慮の対象外というべきである。また,老朽化した防音建具の機能復旧工事等についても,現状を維持するために当然必要な措置にすぎず,特段考慮すべきものとはいえない。なお,いずれについても原告らの中に対象者がいるか否かは明らかでない。

以上のとおりであるから,被告が実施した住宅防音工事は,少なくとも物理的には騒音を一定程度軽減する効果があるものの,その大半は,そもそも住居内の限られた居室のみを対象とするものであり,この点を措くとしても,常時密閉された状態で生活することは期待できないから,実際にはその効果が発揮される場面は限られる上,弊害も少なくないなど,原告
らが受けている騒音被害を根本的に解消し,又はそれに近い効果を上げているとは到底認められず,これをもって原告らの被害が受忍限度の範囲内にあるとは到底いい難く,この措置を受けた者に対する慰謝料算定の際の一事情として考慮するにとどめるのが相当である(具体的な考慮の程度については後述する。。




その余の被害防止措置について

認定事実
弁論の全趣旨によれば次のとおり認められる。
移転措置及び緑地帯整備事業

被告は,周辺整備法及び生活環境整備法に基づき,移転対象区域に居住等する住民がより好ましい環境に移転する場合,現に所在する建物等の移転の補償等を行うとともに,その跡地等を買い上げて緑地帯その他の緩衝地帯とし,地方公共団体が一定の用に供するときは無償で使用させることにより,周辺住民の生活環境の整備を図る措置を講じてきた。昭和39年度から平成27年度までに被告が横田飛行場に関してこれらの事業に支出した総額は,移転措置事業が約136億7900万円,緑地帯等整備事業が約20億0600万円に及ぶ。その結果,平成27年度末時点で,昭島市においては広場,種苗育成施設,消防に関する施設敷地等として約1万0500平方メートル,福生市においては広場,駐車場,花壇等として約2万1900平方メートル,立川市においては広
場,消防に関する施設敷地として約2万8500平方メートル,瑞穂町においては広場として約2万9700平方メートルが無償で使用されるに至った。
学校,病院等及びその他の施設の防音工事の助成
被告は,横田飛行場周辺地域において,周辺整備法,生活環境整備法
又は行政措置に基づき,平成27年度までに,学校等の防音工事の補助金として昭和29年度から総額約684億0200万円,学校等の防音工事関連設備の使用に要する費用の補助金として昭和48年度から総額約76億5500万円,病院等の防音工事の補助金として昭和34年度から総額約80億3600万円,公民館,図書館等の学習等供用施設や
老人福祉センターといった民生安定施設の防音工事の補助金として昭和42年度から総額約229億9000万円を交付した。
その他の周辺対策
被告は,平成27年度まで(以下も同じ。
)に横田飛行場の周辺にお
いて,航空機騒音が家屋内で伝播することにより生じる聴取障害(テレ
ビの音声が聞き取りにくくなったり,音声が細切れに聞こえたりするなど)に対する補償の趣旨で,昭和45年度以降はNHK,平成18年度以降は放送受信契約者を対象に補助金を交付するテレビ受信料の助成措置として,昭和45年度から総額約145億1700万円を交付したほか,騒音用電話機の設置に対する補助金として,昭和46年度から総額約4800万円を交付した。
また,自衛隊等の使用する施設の周辺において自衛隊等の行為によって生ずる障害を防止又は軽減する障害防止工事としての排水路等の改修工事につき,昭和40年度から総額約61億9300万円,民生安定施設の整備等の一般助成のための地方公共団体への補助金として昭和37年度から総額約323億5200万円を交付した。

さらに,地方公共団体が行う防衛施設周辺整備統合事業及び基本構想策定に対する補助金として,平成19年度から総額約4億1000万円を交付し,公共用施設の整備又は事業のための特定防衛施設周辺整備調整交付金として,昭和50年度から総額約348億9600万円を交付したほか,営農者に対する航空機の離発着等による就労阻害に係る損失
補償として,昭和35年度から総額約3億3800万円を支出している。加えて,被告は,再編関連特別事業(防災,教育・スポーツ及び文化の振興,交通の発達及び改善,公園及び緑地の整備等のほか生活環境の整備に関する事業で防衛大臣が定めて告示するもの)に対する再編交付金として,平成19年度から総額約54億5000万円を交付し,また,
地方公共団体に対する条件や使途等に制約のない一般財源の補給金である基地交付金及び調整交付金として,昭和32年度から総額約1199億0400万円を交付した。
音源対策等
第2部「前提となる事実」の第1の3⑵のとおり,被告は,夜間着陸
訓練による騒音の軽減を図るため,平成元年度から空母艦載機離着陸訓練に必要な施設の整備に着手し,約166億8600万円をかけて平成5年3月末にこれを完成させた。また,第2部「前提となる事実」の第1の6⑶のとおり,平成5年11月18日の平成5年日米合同委員会合意により,米軍の22時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動は,運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限され,夜間飛行訓練は,在日米軍
の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制限され,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するよう全ての努力を払うことが合意された。

検討
前示のとおり,横田飛行場の使用によって国民全体が利益を受ける一方で,その使用に伴って発生する航空機騒音によって原告らを含む周辺住民は特別の犠牲を強いられるという不公平が存在するのである。しかるところ,上記ア

の移転措置は,引き続き横田飛行場周辺地域に居住し続けて

いる原告らの航空機騒音による被害を低減させるものではなく,
のう

ち農業等就労阻害に対する補償についても特定の損失に対する補償であって原告らが間接的にせよ何らかの利益を受けるとはいえず,上記の不公平を是正するものとはいえないから,原告らとの関係でこれを違法性ないし受忍限度の判断に当たって考慮することはできない。
他方,上記ア

のうちの緑地帯等整備事業と

及び

については,よ

り良好な社会環境を原告らの居住する地域に提供するものであり,W値が前提とする,一定の地域を社会環境単位と捉え,その社会環境単位に居住する住民の属性や生活パターンを超越して影響をもたらすという航空機騒音の特性にも照らせば,間接的とはいえ上記のような不公平に対する総体的な補償の一環と位置付けることができ,違法性ないし受忍限度を考慮す
るに当たっての要素の一つとはなり得るということができる。
もっとも,もとよりこれらの周辺対策が直接に原告らが被っている航空機騒音による被害そのものを軽減させるものではないから,差止請求権についてはともかく,損害賠償請求権に関する限り,これらの周辺対策をもって原告らの被害が受忍限度の範囲内にあるということは到底できず,慰謝料の算定に当たっての一要素として限られた範囲で考慮する余地があるにとどまるというべきである。

また,上記ア

の音源対策等については,硫黄島の施設の整備や平成5

年日米合同委員会合意にもかかわらず,前示のとおり依然として本件請求対象期間においても午後10時以降の深夜,早朝に米軍機の航行が行われ,これによって現に原告らに睡眠妨害を始めとする深刻な被害を生じさせているのであるから,損害賠償請求において,これをもって違法性を軽減さ
せるものということはできない。むしろ,平成5年日米合同委員会合意があるにもかかわらず,被告がその後に米軍にこれを遵守させるために何らかの実効性のある働きかけをしたとの主張立証はなく,この点を侵害行為の違法性ないし受忍限度の判断に当たって考慮するのが相当である。7
違法性の有無(受忍限度)の判断について


告示コンター内地域に居住する原告らについて
上記3及び4のとおり,横田飛行場を航行する航空機の騒音により,少なくとも告示コンター内地域(防衛施設庁方式による75W以上の地域)に本件請求対象期間内の一部において居住していた原告らは,その
居住期間において,相当に大きな騒音に曝露されるという侵害を受け,これによる共通の被害として,睡眠妨害,会話の中断,電話・テレビ・ラジオの聴取困難,仕事,学習,趣味等の知的作業の妨害や家族の団らんの妨害といった日常生活の妨害及び不快感,不安感等による心理的・精神的苦痛といった心理的・情緒的被害を生じさせられている。

そして,生活環境整備法,同施行令及び同施行規則が,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(第一種区域)に当該指定の際現に所在する住宅について,防音工事の助成をすることを規定し,この第一種区域を画する基準を防衛施設庁方式で算定したW値で75Wとしていること(前記第2部「前提となる事実」第4の1)に照らすと,法令上も,75W以上の地域においては航空機騒音による損害が著しく,居住者に対する個別的な被害の軽減策を図る必要を生じさせる程度にまで至っていると判断されていると見るのが相当である。
他方,前記5のとおり,横田飛行場における米軍機等の航行は,我が
国の基本的な存立と安全を確保するための活動として公共性が認められるものの,その公共性は国民全体に帰属するもので,むしろそのために原告らに特別の犠牲を強いるという不公平を生じさせているのであるから,これをもって原告らの被害が受忍限度の範囲内にあるということはできない。

また,前記6のとおり被告が行っている防音工事助成その他の周辺対策等をもって原告らの被害が受忍限度の範囲内にあるとすることもできない。
そして,前記第2部「前提となる事実」第6のとおり,横田飛行場の周辺住民は,横田飛行場を航行する航空機による騒音等の被害を受けて
いるとして,昭和51年以降繰り返し訴訟を提起し,一審,控訴審及び最高裁において,防衛施設庁方式によるW値75以上の地域の居住者の騒音被害を認定して被告に慰謝料の支払を命じる判断が繰り返し出されてきた中で,前記6のとおり,被告は住宅防音工事助成及びその他の周辺対策を行ってきたものの,これらには限定的及び間接的な効果しかな
く,むしろ平成5年日米合同委員会合意から本件口頭弁論終結日までに四半世紀近くが経過しようとしているにもかかわらず,被告が米軍にこれを遵守させるための何らかの働きかけをした形跡はないのであって,被告が騒音による権利侵害を少しでも抜本的に解決しようとする努力を十分に果たしているとはいい難い。
以上の事情を総合考慮すれば,告示コンター75W以上の地域に居住していた原告らは,その居住期間において,社会生活上受忍すべき限度
を超える違法な権利ないし法律上の利益の侵害を受けているということができ,これによる被害は民事特別法2条にいう工作物の設置又は管理の瑕疵による損害に当たるというべきであるから,被告には原告らの共通被害に対し慰謝料を支払う義務がある。


指定区域外原告らについて

指定区域外原告らの主張の要旨
指定区域外原告ら(原告番号323,713,801,816,817,1067の6名の原告ら)は,旧75地域に居住している間,コンター内地域に居住していた原告らと同様の受忍限度を超える騒音等による被害を
受けているとし,その根拠として次のとおり主張する。①告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査では捕捉されない航空機騒音や地上騒音,低周波音による侵害があり,騒音の実態は平成15年度調査よりも深刻である,②航空機環境基準が,指定区域外原告らの居住地域を含む専ら住居の用に供される地域(類型Ⅰ)では70W以下,Ⅰ類型以外の
地域で通常の生活を保全する必要がある地域(類型Ⅱ)では75W以下と定められていることからすると,最低限達成されるべき環境基準は防衛施設庁方式での70Wとすべきであるところ,原告らの居住地が,少なくとも70W以上の騒音地域であることは明白である,③欧州夜間騒音ガイドラインが定めるガイドライン値はLnight,outside40dB
であるところ,原告夜間騒音コンター図によれば,指定区域外原告らの居住地は,いずれも同ガイドライン値を超える地域内にある。イ

上記①について
そもそも低周波音や地上騒音はもとより,航空機騒音についても,指定区域外原告らの居住地域における実際の騒音測定結果についての主張立証はなく,騒音の客観的な発生頻度や程度を認めるに足りる証拠はな
い。この点を措くとしても,告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査は,前記3⑴ウのとおり,調査当時の航空機騒音の実態に合致したものであり,本件請求対象期間においても,告示コンターを不合理とする程度にまで騒音被害が深刻化しているとは認められないから,原告らの主張は採用することができない。

そもそも本件において,原告らは,横田飛行場の騒音等に日々曝露されることによって原告らに生じる被害の総体を主張していると解され,運航が不定期,不規則であるという軍用飛行場の特殊性にも照らすと,その認定には,その原因となる原告ら各自の年単位での平均的,総体的な騒音曝露状況を認定できることが不可欠というべきであり,この点は
指定区域の内外を問わず基本的に同様である。もっとも,告示コンター内地域の原告らについては,前示のとおり,本件請求対象期間の騒音の実態が,これと乖離する程度に激化又は緩和されているとは認められず,告示コンターが合理性を失っていない以上,75W,80W,85Wの各コンター線の範囲内では平均的,総体的に少なくとも各W値に相当す
る航空機騒音が発生していると認定することができる。しかし,指定区域外原告らについては,このような認定をすべき根拠がなく,各原告において,平成15年度調査に匹敵する程度の季節を異にしたある程度の期間の騒音の発生状況を個別具体的に主張立証することを要するというべきである。しかるところ,このような主張立証はなく,原告番号81
6の原告の陳述書等(甲C10の816。細枝番を含む。以下同じ)やその余の指定区域外原告らの供述及び陳述書等(甲C10の323,713,801,817,1067)を踏まえても,指定区域外原告らの平均的,総体的な騒音曝露状況を認めることはできない。
したがって,上記①の指定区域外原告らの主張は理由がない。ウ
上記②について
公害対策基本法9条及びその後身である環境基本法16条の規定(第2
部「前提となる事実」第3の1及び3)によれば,航空機環境基準は行政上目指すべき政策目標として位置付けられており,直ちに受忍限度を超えた騒音の基準となるということはできない。また,原告らが航空機環境基準をW75とする地域類型Ⅱの居住者らを含む共通損害を主張していることと上記のような原告らの主張が整合するかにも疑問がある。いずれにせ
よ,平成17年告示により第一種地域から外れた以上,告示コンターの75Wのコンター線の外縁から至近距離に居住していることをもって,告示コンター内地域と同程度の騒音被害を受けているとまでは認め難く,指定区域外原告らの居住地域における騒音の発生状況を認めるに足りる的確な主張立証がない以上,上記主張は採用することができない。むし
ろ,前記4⑸及び⑹のとおり,経験則上も,W値が小さくなれば横田飛行場を航行する航空機の騒音の被害も小さくなると考えるのが自然である。

上記③について
前記4⑶

のとおり,原告夜間騒音コンター図は,告示コンターの7

5Wの外縁を超える部分については正確性が認め難いというべきであるから,これをもって指定区域外原告らが現実にLnight,outside40dB以上の夜間騒音への曝露を受けているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

小結
以上によれば,指定区域外原告らについては,平均的,総体的な騒音曝露状況が明らかでなく,もとよりこれが受忍限度を超えていると認めるに足りる証拠もないから,慰謝料を認めることはできない。なお,以上の点は,その余の原告らのうち,本件請求対象期間内の一部の期間において指定区域外に居住していたと認められる原告らの当該居住期間についても同様である。逆に,原告番号1067の原告については,本件請求対象期間
の一部の期間内は告示コンター内地域に居住していたと認められるから,この期間については慰謝料が認められる。


航空機環境基準上の地域類型の考慮の要否
被告は,航空機環境基準において,専ら住居の用に供される地域(地
域類型Ⅰ)と通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)が設けられ,この類型ごとに指針値が定められていることから,原告らの被害が受忍限度を超えているかどうかを判断するに際しても,地域類型の差を考慮すべきであると主張する。
昭和48年環境基準の設定に係る中央公害対策審議会の答申の基となった
同審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会の報告(乙64。第2部「前提となる事実」第3の1参照)によれば,上記地域類型が設けられたのは,先行して設定されていた一般の騒音に係る環境基準に地域類型が設けられていることを踏襲したものと認められるところ,その設定の際の専門委員会の報告等(乙136,138)に照らすと,一般の騒音に係る環境基準で地域類型
が設けられた理由は,騒音の特性として,影響範囲が騒音発生源から比較的近距離の周辺地域に限定されているのが通常であるとした上で,住居地域などの静穏を要する地域と商工業地域とで都市騒音の実態や騒音に関する住民の意識等に地域差が見られると考えたことによると認められる。
しかしながら,前記第2部「前提となる事実」第2の1で見たとおり,航
空機騒音は,工場騒音,自動車騒音等の他の騒音と比較して広範囲に及ぶこと,継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること等の特性があって影響が質的に異なり,地上の特定の音源から生じる定常的な騒音のように,住居地域と商工業地域とでその実態やこれに対する住民の意識が大きく異なるとは考え難い。このような特性に照らすと,航空機騒音については,地域類型ごとに被害の実態が異なるということはできない。現に生活環境整備法を受けた同施行令は,「音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生回数及び
時刻等を考慮」した算定値を基準に定めた区域を基準に第一種区域等の指定を行うとして,航空機騒音に対する曝露状況を基準に対策措置を講じており,コンター内の地域類型の差は考慮していない。
以上によれば,受忍限度の判断に際して航空機環境基準の地域類型を考慮すべきとする被告の主張は理由がない。



結論
以上のとおりであるから,横田飛行場における航空機の航行は,告示コンターにおける防衛施設庁方式による75W以上の地域に居住し,又は本件請求対象期間内に居住したことのある原告らにつき,その居住期間において,違法な権利侵害ないし法律上の利益の侵害に当たり,上記の限度で,横田飛
行場には,民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵があると認められる。8
危険への接近について


被告の主張の要旨
被告は,大阪空港大法廷判決が説示した,いわゆる危険への接近の法理を
援用して,平成5年2月や同年11月に横田平成5年最高裁判決や平成5年日米合同委員会合意が主要日刊紙において全国的に報道されたことやそこに至るまでの横田飛行場を巡る訴訟及び官報告示等の経緯等をるる主張した上,遅くとも平成6年1月1日には横田飛行場の航空機騒音が重要な社会問題として広く国民の注目を集めるようになっていたとして,主位的に,同日以降,
生活環境整備法4条に基づく第一種区域に指定された区域(被告のいう指定区域)内に居住を開始した原告ら(出生者を除き,コンター内地域間で転居した者を含む。)は,居住開始時に航空機騒音による被害の発生状況を認識しその被害を容認していたことが推定されるとして,このような原告らについては,特段の事情がない限り,免責の法理としての危険への接近を適用して,損害賠償請求権を否定すべきであると主張し,予備的に,具体的な類型を挙げた上,少なくともこの類型に該当する原告らについては同法理を適用
すべきであると主張する(別紙8「居住履歴一覧表」参照)。


検討

大阪空港大法廷判決は,危険への接近について被告が主張するような法理を説示しているわけではなく,あくまでも一つの事例判断にとどまると
いうべきであるが,同判決が「危険に接近した者(中略)が危険の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認していたようなときは」と説示して,危険の認識と被害の容認を明確に区別していることに照らすと,被告の主張するように,騒音の認識をもって一般的に被害の容認が推定されるとは到底いうことができない。

そうすると,上記の点において既に被告の主位的主張は失当というべきであるが,予備的主張との関係も考慮して横田飛行場の周辺において,どのような場合に被害を容認したといえるかを検討する。人が住居の移動をする場合は,自身や家族の進学,就職,転勤,経済状態の変動,婚姻等の身分関係の変動及び家族の介護等の何らかの事情を伴うことがほとんどで
ある。また,新たに住居を購入ないし賃貸等する場合の意思決定は様々な要素を総合的に考慮した結果行われるものであって,航空機騒音の有無はそのような意思決定の過程の一つの要素にすぎず,仮に航空機騒音による被害があることを具体的に知っていたとしても,親の介護,子どもや自己の通勤通学のための交通の便宜,婚姻に伴う配偶者との同居,親兄弟の土
地建物の相続,経済的事情その他諸般の理由から,そのような被害のある物件を選択せざるを得ないことも十分にあり得るのであって,このような場合に騒音被害のあることを知っていたという一事をもって,被害を容認したとして危険への接近の法理を適用して損害賠償が一切受けられないとするのは公平に反し,相当とはいい難い。そして,このような事情は,告示コンター地域内で転居する場合であっても基本的に同様である。そうすると,航空機騒音による損害賠償を請求する者が,航空機騒音に
よる被害を容認していたとして被告のいう免責の法理としての危険への接近を適用するためには,他に上記のような転居の理由がないこと,換言すれば専ら損害賠償を受ける目的をもって告示コンター内地域に居住を開始したことをこの法理の適用を主張する者が抗弁として主張立証することを要すると解するのが相当である。


被告が主張する横田平成5年最高裁判決の報道や平成5年日米合同委員会合意の報道及びこれに先行する官報告示その他の経緯は被告の引用する証拠によって認められ,これらによれば,平成6年1月1日の時点では,横田飛行場周辺において航空機騒音が社会問題化して周辺住民の関心が高
まっていたことはうかがわれる。しかし,この種の報道が全国的に連日にわたって間断なく行われていたというわけではないから,横田飛行場の航空機騒音問題が周辺住民以外にも広く知られるようになっていたとまでは認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また,一口に横田飛行場の周辺地域といっても広大であり,平成6年1
月1日当時は昭和59年告示が適用されて第一種区域が現在よりも広かったことを措いて告示コンターによる現在の第一種区域の範囲だけを見ても,北は埼玉県飯能市から南は東京都八王子市,日野市にまで広がっているのであって,指定区域外からコンター内地域への転入者はもとより,コンター内地域で移動する者であっても,移動先がコンター内地域であるか否
かや移動先の騒音の発生状況を具体的に認識しているとは考え難く,もとより騒音被害を容認していたとは認め難い。さらに,横田飛行場を航行する航空機の飛行実態は不規則,不定期で年間を通じても変動し,仮に転居前に現地を下見したとしても航空機を見かけず,騒音問題に気付かないことも十分あり得るものである。
また,仮に下見のときにたまたま航空機騒音に遭遇したとしても,横田飛行場周辺における航空機騒音被害の実態は,実際に騒音被害地域に一定期間在住するなどしなければ正確には把握できないものであるから,上記のような一回的な経験があったからといって,実際に転居先で生活する際に受ける騒音被害の程度を認識していたということはできない。原告番号587の原告も,80W地域に自宅敷地を購入する前又は後に航空機を目
撃したと供述しつつ(同原告本人11,15,19頁)
,騒音がこれほど
ひどいとは思わなかったと陳述している(甲C10の587,乙181)。
以上については,平成29年1月29日に当裁判所が瑞穂町箱根ヶ崎の防音工事実施済住宅(75W地域)及び昭島市美堀町の原告番号939の原告の自宅(80W地域)で行った検証において航空機が全く飛来せず
(検証の結果)
,同年10月14日に八王子市久保山町1,2丁目(80
W地域)で行った現地進行協議期日においては,航空機は1回しか飛来しなかったものであって(乙182)
,いずれの地域も基本的には通常の又
は通常以上に閑静な住宅街という印象であったことから,当裁判所も実感するところである。

ただし,被告が予備的に主張するB1~B3の3類型のうち,告示コンター内地域に居住後に一旦指定区域外への転居を経て元の住居地又はその近接地に戻った原告については,航空機騒音による被害の認識はあったものとうかがわれる。しかしながら,上記アのとおり,人が住居を定める場合は,血縁上,地縁上又は職業上などの何らかの事情を伴うことがほとん
どであり,特に一旦ある土地に居住すると,そこでの不動産の取得,家族の存在,友人や勤務先等の社会的生活基盤の形成により,当該地域との結びつきが強まることは明らかであって,この点においては騒音被害を認識しながら転居せずに居住を継続している原告らと本質的に異なるところはないというべきである。例えば,平成6年1月1日後に75W地域から80W地域に転居した原告番号45の原告は,老親(原告番号43,44番の原告ら)を呼びよせて同居するために近隣の広い家に転居したことがうかがわれ(甲C10の43)
,80W地域に居住後,一旦指定区域外に転
出し,その後に85W地域に転入した同975の原告についても,実家から婚姻に伴って転出し,その後85W地域内の都営住宅の抽選に当選して転入したことがうかがわれる(甲C10の975)
。さらに,75W地域

から80W地域に転居した同1051の原告は,事情があって所有する居宅を手放し,子どもの転校を避けるため同じ学区内で転居したことが認められる(甲C10の1051)
。その他,同659の原告は,離婚に伴っ
て同656の原告の住居である実家に戻って同居したものとうかがわれ(甲C10の656,弁論の全趣旨)
,被告がコンター地域内の移動者と

して危険への接近の法理を適用すべきと主張する原告の多くが陳述書の作成者の同居家族とうかがわれることからすれば,多かれ少なかれ,地縁,血縁等に由来する同様の相当な事情があるものとうかがわれる。そうすると,これらの原告についても,これをもって騒音被害を容認したものとして損害賠償請求が許されないとすることは公平に反する。

以上によれば,平成6年1月1日以降に横田飛行場周辺地域に居住を開始した原告らの全部又は一部が一律に航空機騒音による被害の発生状況を認識していたと認めることはできず,被告の主張はこの観点からも採用することができない。なお,被告は,当初,昭和41年1月1日以降に転入した原告らについて同様に騒音被害の容認が推定されるとして危険への接
近の法理による免責を主張していたものの,最終的にこの主張は撤回したとうかがわれるが,この主張についても理由がないことは,以上の説示から明らかというべきである。⑶

危険への接近の法理による減額の主張とその検討
さらに,被告は,平成6年1月1日以降に指定区域内に居住を開始した原告らについては,航空機騒音を認識していたか,少なくともこれを認識しな
かったことに過失があるとして,過失相殺の法理に準じた危険への接近による損害賠償額の減額を主張する。
しかし,上記⑵で検討したとおり,これらの原告が航空機騒音を認識していたとは認め難いし,また,仮に認識していたとしてもなお指定区域内に居住せざるを得なかった事情があるものとうかがわれる。

また,被告は,騒音被害を認識していなかったとしても過失があると主張するが,そもそもこのような場合にまで危険への接近の理論を拡大して適用することが大阪空港最高裁大法廷判決の趣旨に沿うとは考えられない。このような過失を構成するためには,危険への接近が基礎とする公平の理念に照らし,少なくとも,被告において,横田飛行場周辺に転入しようとする原告
に対し,転入前に指定区域の範囲及び航空機騒音の実態等を直接かつ具体的に情報提供し,当該原告においてこれを認識した上で転入したことを主張立証する必要があるというべきところ,被告において,このような情報提供を行ったことの主張立証はない。加えて,静穏な生活環境への要求が高まっている現代社会において,航空機騒音による原告らの睡眠妨害,生活妨害及び
心理的・情緒的被害は決して軽視することはできない上,前示のとおり,被告は横田飛行場周辺の住民が受けている騒音被害が受忍限度を超えて違法な程度に達しているとする度重なる司法判断にもかかわらず,違法状態の解消に向けた十分な努力をしたとは認められないことに照らすと,これらの点を度外視して,被告が原告らの騒音の存在の認識又はこれを認識しなかった過
失を理由に損害賠償額の減額を主張するのは危険への接近の法理ないし過失相殺の法理が基礎とする公平の観念にかえって反するといわざるを得ず,この点からも被告の危険への接近の法理による減額の主張は,採用することができない。


結論
以上のとおり,被告の危険への接近の法理による免責又は損害賠償額の減額についての主張は,いずれも認めることができない。

9
国賠法6条の相互保証等について


双方の主張の要旨
被告は,フィリピン国籍を有する原告番号25の原告につき,同人の本国法において相互保証があること(国賠法6条)について立証責任を負っているのに,その立証をしていないとして,損害賠償請求は認められないと主張
し,同原告は,相互保証の立証責任は被告にあり,相互保証の要件は満たされていると主張する。


相互保証の立証責任
民事特別法2条は,
「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の

工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために日本国内において他人に損害を生じたときは,国の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じた場合の例により,国がその損害を賠償する責に任ずる。
」と定め,国賠法の関
連規定を包括的に適用しているから,外国籍の原告の民事特別法に基づく請
求についても国賠法6条が適用され,相互の保証があることを要する。しかるところ,民事特別法2条及びその引用する国賠法2条は,いずれも特段の限定を付することなく「他人に損害を生じたとき」と規定し,別途,国賠法6条で「外国人が被害者である場合」に相互の保証を要する旨が定められている。また,我が国と法制度の異なる外国の法制度の内容を把握し主張する
に当たっては,単なる法律の規定の文言だけでなく現実の運用も問題となり得,特にいわゆる判例法国ではこの傾向が著しいというべきであって,当該国の国民であるからといってこれが一般的に可能かつ容易とは考えられず,むしろ,被告側である国の方が必要があれば在外公館を通じた調査等によりこのような資料を入手しやすい立場にあるということができる。さらに,外国法について相互の保証を問題とすることによる損害賠償責任を免れるという利益は国側に帰属するから,その内容の主張立証についても国側に委ねる
のが公平というべきである。以上のような法規の構造,立証の難易及び公平の観点からすると,当該外国法につき相互の保証がないことを国側において抗弁として主張立証すべきと解するのが相当である。


相互保証の内容
国賠法6条は,我が国の国民に国家賠償による救済を与えない国の国民に
対し,我が国が積極的に救済を与える必要はないという衡平の観念に基づくものであるところ,各国の法制度は多様であり,我が国と法制度の異なる外国の法制度との同一性を厳密に要求することは救済が認められる範囲を不当に制限することとなりかねないから,相互の保証があると認められるかどうかは,当該救済を認めることが国賠法6条の依拠する衡平の観念に反するか
どうかという基準で決すべきであり,具体的には,我が国と当該国の法制度が重要な点で同一であるか否かによって判断するのが相当である。これに対し,被告は,当該国籍国が国賠法と同一かそれより厳重でない要件の下に日本人の被害者に対して賠償責任を負うことを要するなどと主張するが,上記の同条の趣旨に照らし,採用することができない。



本件についての検討
以上を踏まえて原告番号25の原告の本国法であるフィリピン法において相互保証があるかを検討する。
フィリピンにおいては,同国の1987年憲法の第16条3項で,国家は,
その合意なしに訴訟の対象となることができないと定め,行政法第3章第10節において,法律に規定された同意がない限り国家に対して訴訟を提起することができない旨を定めており,原則として,国家無答責の原則を採用している(乙173)
。そして,訴訟提起の同意が認められる場合として明示
的同意と黙示的同意があるとされており,前者については国家を訴えることができる旨を規定する一般法又は特別法がある場合がこれに当たる。後者は,国家が訴訟を提起した場合,

及び

国家が行った契約に関する請求をする場合

国家とは別の法人格を有しない政府機関に対する訴訟において,問題
とされる行為を①国家を維持するための行政機能(governmental
function)と②私人が行う経済活動を単に国家が行っているに
すぎない職務的機能(proprietary
function)とに分

類し,そのうちの②に当たる場合に限られている。我が国の国家賠償法に相当するような法律はなく,むしろ,国家無答責の原則は,表面上は国の政府職員に対する訴訟であっても最終的な法的責任が政府に帰する場合にも適用される。そして,フィリピン政治法の教科書(乙179)においては,訴えられた政府職員に判決が下されたときに,これを満たすための金額の配賦な
ど国の積極的行動が必要となる場合には,当該訴えは国に対するものとなるとされ,フィリピンの最高裁判所において,法律により要求された軍事訓練で負傷したとしてフィリピン国防軍の幹部個人を訴えた事件において,国が国家無答責の原則の放棄をしなかったことを理由に訴えを退けた事例(ガルシア対職員長事件。Garciav.ChiefofStaff,17SCRA120)や米軍の海軍
基地の従業員が同基地の長官等に対し中傷的な発言をしたとして損害賠償請求をした事件で責任があるのは米国政府であるとして同意のない訴えにあたるとした事例(サンダース対ヴェリディアーノ事件。Sandersv.Veridiano,162SCRA88)があることが報告されている。また,米国技術司令部を通じた埠頭の修理契約に関わる米国に対する損害賠償等の請求につき,(黙示

的)同意は契約が統治的機能に関する場合には認められないとして,問題のプロジェクトが米国とフィリピンの防衛のための海軍基地に関わり,最重要の政府機能に関するとして訴えからの免除を認めた事例(米国対ルイス事件。UnitedStatesofAmericav.Ruiz,136SCRA487)も紹介されている(乙170,174,177,179)

そこで,フィリピンの法制度において,国家無答責の原則にもかかわらず,本件のような国に対する損害賠償請求訴訟が許容されるかを検討するに,フィリピン民法27条は,公務員が正当な理由なく公務の遂行を拒否又は懈怠した場合の財産的,精神的損害の賠償請求権を肯定しているものの,この規定は公務員の不法行為でなく義務不履行に限って定めたものとされている。そして,同法2180条は,国が不法行為につき責任を負うのは特命の機関
(special

agent)を通じて行動した場合に限られるが,この

責任は公務員が職務を正当に遂行した場合に生じた損害には及ばないとしており,民法の注釈書は,訴えの対象となった行為が公務員の職務の執行として行われたときは,国は責任を負わないと指摘している(乙175)。また,
フィリピン民法2189条は,州,市及び地方公共団体については,これらの管理する道路,橋,公共建築物及びその他の公共営造物の欠陥によって発生した人の死傷について責任を有すると規定するが,国の管理下にある公共営造物の欠陥によって発生した場合に同様の責任を肯定した規定や法令は見当たらず,明示的同意による国家無答責の例外は見受けられない。さらに,本件は,

国家が訴訟を提起した場合にも,

関する請求を行う場合にも当たらず,むしろ

国家が行った契約に
行政機能に関する

訴訟であると考えられる。そうすると,本件は,明示的又は黙示的同意がある場合に該当するとは認められず,先に指摘した判例上も,本件のような場合は国家に対して訴えを提起すること自体が否定される公算が強い。そうすると,フィリピンの法制度においては,国家無答責の原則により,国に対して本件のような訴訟を提起することは認められないと解されるから,相互の保証はないものと認められ,これを左右するに足りる証拠はない。⑸
結論
よって,その余の点を検討するまでもなく,原告番号25の原告の請求は,理由がない。

10
損害額について



基本となる慰謝料額
以上によれば,告示コンターの75W以上の地域に居住していた原告らは,その居住期間において,日常的に睡眠妨害,各種の生活妨害及び心理的・情緒的な不安感,恐怖感といった被害をある程度等しく被っており,これらによる共通損害の程度は,原告らの居住する指定区域のW値が高く
なるほど大きくなるといえるから,慰謝料額を定めるに当たっては,原告らそれぞれの居住する地域におけるW値を参考にするのが相当である。そして,本件における侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性の内容と程度,侵害行為の継続の経過及び状況,周辺対策を含むその間に採られた被害の防止軽減措置等の一切の事情を考慮
すると,原告らそれぞれの居住する地域における騒音の大きさに応じて,共通する最小限度の損害の程度に対応するものとして,基準となるべき1か月当たりの慰謝料額は,次のとおりとするのが相当である。


4000円


75W地域
80W地域

8000円



85W地域

1万2000円

なお,慰謝料額の算定期間を1か月単位としたのは,原告らの請求が1か月を単位としていることを踏まえ,横田飛行場に航行する航空機の発する騒音の回数や大きさが日によって異なるため1日を単位とするのは適当ではなく,他方,1年を通じて極端な差違があるとまではいえず,1か月単位の平均で把握するのが最も被害の実情に即すること等を考慮したためである。また,原告らが提訴日(第1事件につき平成25年3月27日,第2事件につき同年8月1日)を基準にして提訴前の3年間分と提訴日後の分につき1か月単位で慰謝料を請求していること,後述のとおり本件訴訟においては,口頭弁論終結後の損倍賠償を請求することはできず,本件口頭弁論の終結日である平成29年3月1日までに発生した損害が賠償の対象となることを考慮して,1か月の単位を原告らの各請求期間の初日から1か月間ずつ(第1事
件では平成22年3月27日から同年4月26日,第2事件では平成22年8月1日から同月31日として,以下これに準ずる。以下「慰謝料算定の基準期間」という。)とする。
そして,上記のような被害の実情や損害計算の便宜を考慮し,原告らが当該W値の地区に居住した期間が1か月に満たない場合(慰謝料算定の基準期
間の途中で出生や死亡が生じた場合を含む。)であっても,慰謝料算定の基準期間に1日でも当該地域に居住した事実が認められれば,1か月分の慰謝料を認めることとした。また,慰謝料算定の基準期間の途中で告示コンター内の地区間の転居や後述の防音工事の施工による変動があった場合には,1日でもより大量の騒音に曝露される環境に居住していたことを考慮して,当
該日の属する慰謝料算定の基準期間についてはより高い方の慰謝料額を認めることとした。ただし,口頭弁論終結日前の最後の慰謝料算定の基準期間については,1か月を1日又は3日超えるにすぎず,実質的に1か月と同視できるところ,この1日又は3日を日割計算とするのは他の同期間内の変動の場合の取扱いと均衡を欠くこと,後述のとおり同日の翌日以降の損害賠償請
求が認められないことも考慮して,口頭弁論終結日までを含むものとした。⑵

住宅防音工事の助成による減額
前記6⑵イのとおり,被告の助成により防音工事が実施されたことは,同工事が実施された住居に居住する原告らの被害を一定程度軽減する事
情として,慰謝料算定の際に考慮するのが相当である。そして,その減額割合については,航空機騒音の被害を根本的に解消するものとはいえないこと,対象が原則として住宅内の一部の居室に限られ,その室数等にも制限があること,外郭防音工事を含めて防音効果を享受するためには工事実施部分を密閉する必要があり,実際に防音工事による被害の低減を享受できる場面は限られていることに加えて,自然の風が入らない,引き戸が重い,閉め切らないと効果が出ないため空調機器の使用によって電気
代がかかる,部屋を閉め切ることで圧迫感がある,携帯電話の電波が入りにくくなるなどの弊害も多々あることに照らせば,被告からの助成を受けて防音工事を実施した原告及びその同居者につき,防音工事を実施した居室の数や工事の種別に関わりなく,最初の防音工事の実施後の慰謝料の額を一律に10パーセント減額するのが相当である。

これに対して,被告は,防音工事による損害の減額は,住宅の総居室数に占める防音工事が実施された居室数の割合に応じて行うべきであると主張するが,そもそも総居室数や防音工事を実施した居室数のとらえ方自体が必ずしも一律ではなく,原告らの住宅の状況や防音工事の具体的な施工方法によってもその効果が変動し得ることに加え,沖縄県健康影
響調査報告書によれば,そもそも防音工事の実施の有無と騒音による被害感との間にすら有意の相関関係はなく,もとより住宅防音工事が実施された居室数や住宅の総居室数に占めるその割合との間についても同様とうかがわれ,原告らの供述及び陳述書によっても有意の相関関係を認めるに足りないから,被告の主張は採用することができない。



弁護士費用
原告らは,本件訴訟の追行を弁護士に委任しているところ,その弁護士費用については,本訴訟における立証の難易度,本件における認容額等の諸般の事情を考慮し,慰謝料額算定の基準期間の各1か月につき,その10パー
セントの割合に相当する金額を侵害行為との間で相当因果関係のある損害と認めることとする。⑷

認容額一覧表について
以上の考え方をもとに,第1事件については認容額一覧表1において平成22年3月27日以降,第2事件については認容額一覧表2において平成22年8月1日以降,口頭弁論終結日までの各原告に対応する慰謝料算定の基準期間欄毎に慰謝料及び弁護士費用の合計額を記載し,その総額を「元金合
計」欄に記載したほか,第1事件については認容額一覧表1において平成25年3月26日まで,第2事件については認容額一覧表2において平成25年7月31日までの合計額を「提訴前合計」欄に記載した。


承継人認容額一覧表について
承継人認容額一覧表の「被承継人」欄記載の被承継人については,同「承
継人」欄記載の承継人が「相続割合」欄記載の割合で被承継人の死亡日までに生じた損害賠償請求権を取得しているところ,被承継人に生じた損害額は,認容額一覧表1の,当該被承継人に対応する「提訴前合計」欄及び「H25.3.27~H25.4.26」欄以降の各慰謝料算定の基準期間欄に記載のとおり(死亡後の基準期間欄については0と記載)となる。その上で,承継
人認容額一覧表の当該承継人に対応する最初の行にこれらの記載を転記し(認容額一覧表1で転居等により2行以上にわたっている場合でも1行にまとめた。),承継人認容額一覧表の「承継人」欄記載の原告訴訟承継人に対応する「提訴前合計」欄記載の金額及び提訴後の各慰謝料算定の基準期間毎の金額にそれぞれ同表の「相続割合」欄記載の割合を乗じた金額(円未満切
捨て)を記載し,各承継人ごとの総額を「元金合計」欄に記載した。したがって,もともと自らも原告として損害賠償請求をし,その後,親族の分を承継取得した原告については,認容額一覧表1記載の当該原告欄の金額と承継人認容額一覧表の同原告を承継人とする部分の金額を合算した金額が当該原告兼訴訟承継人に対する認容合計額ということになる。



遅延損害金について提訴日までに生じた損害については,認容額一覧表1記載の第1事件原告ら及び承継人認容額一覧表記載の訴訟承継人らについては,各人に対応する「提訴前合計」欄の額に対する第1事件の訴状送達日の翌日である平成25年4月27日から,認容額一覧表2記載の第2事件原告らについては第2事件の訴状送達日の翌日である同年8月10日から各支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金を認める。
提訴後に生じた損害については,提訴前に生じた損害に対する遅延損害金との重複を避けつつ,原告らが基準期間の翌月1日を遅延損害金の起算日として請求していることに照らし,認容額一覧表1及び同2記載の各原告並びに承継人認容額一覧表記載の各訴訟承継人に対応する各慰謝料算定の基準期
間欄記載の各金員に対する同期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を認める。
第3

口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求の許否
継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ
同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべきであり,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利
成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないと解するのが相当である。そして,飛行場において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち口頭弁論終結の日の翌日以
降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の権利関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべきであり,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権は将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものである(大阪空港最高裁大法廷判決,横田平成19年最高裁判決,厚木平成28年民事最高裁判決参照)。
したがって,原告らの被告に対する口頭弁論終結日の翌日である平成29年
3月2日以降に発生した被害についての損害賠償請求については,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものというべきであり,権利保護の要件を欠くから,原告らの同部分の請求に係る訴えを却下する。
第6部
第1

結論
原告番号883の原告の訴えは,訴訟委任に基づかない瑕疵があるから同訴
え及びこれに係る訴訟承継の申立てを却下する。
第2

差止請求について

1
原告番号865の原告の差止請求は死亡により終了した。

2
その余の差止原告らの自衛隊機に関する離着陸等の差止請求に係る訴えは,不適法であるから却下する。

3
その余の差止原告らの米軍機に関する離着陸等の差止請求は主張自体失当で理由がないから棄却する。

第3
損害賠償請求について

1
原告番号25の原告については相互保証の要件がなく,同323,713,801,816及び817の原告らについては受忍限度を超える損害の発生が認められないから,これらの原告らの請求はいずれも棄却する。

2
本件口頭弁論終結日である平成29年3月1日までの損害賠償請求について,次の限度で理由があるから認容し,その余は棄却する。



別紙3-1認容額一覧表1記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年4月27日から,「H25.3.27~H25.4.26」欄から「H29.1.27~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員


別紙3-3承継人認容額一覧表の「承継人」欄記載の各原告(訴訟承継人)に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合
計」欄記載の金員に対する平成25年4月27日から,「H25.3.27~H25.4.26」欄から「H28.7.27~H28.8.26」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員


別紙3-2認容額一覧表2記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年8月10日から,「H25.8.1~H25.8.31」欄から「H29.2.1~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員

3
原告らの平成29年3月2日以降の損害賠償請求に係る訴えは不適法であるから却下する。

第4

仮執行宣言及び仮執行免脱宣言について
原告らの請求のうち,口頭弁論終結日までの過去の損害賠償請求を認容した部分については,仮執行宣言を付した上で,別紙3-1ないし3-2記載
の各原告及び別紙3-3記載の各承継人に対してそれぞれ各別紙の「担保額」欄記載の担保を立てることを条件とする仮執行免脱の宣言をすることが相当である。また,仮執行宣言の執行開始時期については,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときと定めるのが相当である。東京地方裁判所立川支部民事第1部

裁判長裁判官

瀬戸口壯夫
裁判官

原雅基
裁判官池上絵美は,差支えのため署名押印することができない。

裁判長裁判官

瀬戸口壯夫
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