判例検索β > 平成28年(う)第2243号
業務上横領
事件番号平成28(う)2243
事件名業務上横領
裁判年月日平成29年9月28日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成25刑(わ)2945
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平成29年9月28日宣告

東京高等裁判所第2刑事部判決

平成28年(う)第2243号

業務上横領被告事件
主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人野嶋真人,弁護人横山雅及び同今村核が連名で作成した控訴趣意書及び同補充書に,これらに対する答弁は検察官椿剛志作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第1原判決が認定した犯罪事実及び論旨の概要
原判決は,医療機器の販売等を業とするA株式会社の代表取締役として,Aの現預金等の管理を含む業務全般を統括していた被告人が,1

平成19年9月13日,

東京都千代田区のB東京本部において,A名義の普通預金口座から払戻しを受けさせた現金1000万円を,Aのため業務上預かり保管中,同日,自己の用途に費消する目的で,ほしいままに,C証券名義の当座預金口座に,被告人名義の証券総合口座に入金させるため振込入金して横領し,2

平成20年1月23日,前記東京

本部において,A名義の普通預金口座から払戻しを受けさせた現金2000万円を,Aのため業務上預かり保管中,同日,同本部において,自己の用途に費消する目的で,ほしいままに,C証券職員に対し,被告人名義の証券総合口座に入金させるため手渡して横領した,との犯罪事実を認定している。
論旨は,要するに,前記の原判示各事実について,いずれも被告人が横領に及んだ事実はないから,これらを認定した原判決には事実誤認があるというのである。そこで,記録を調査し,検討する。
第2原判決の理由骨子
1客観的金銭の移動について
原判決は,まず,証拠上,原判示犯罪事実1及び2各記載のとおり,被告人が,B東京本部経理担当職員にAの預金口座からそれぞれ現金1000万円,同200
0万円の払い戻しを受けさせてこれらを受け取った上,いずれも自己の証券取引口座へ入金する目的で,C証券名義の当座預金口座に入金し,又はC証券職員に手渡したことは明らかである,としている。
2被告人の弁解内容
被告人は上記客観的金銭の移動事実を認めた上で,次のとおり主張して,横領が成立しないとする。
(1)

犯罪事実1及び2共通の弁解

被告人はAからの預り金を同社に対する立替金債権に充当し清算したにすぎず,横領には当たらない。
(2)

犯罪事実2特有の弁解

犯罪事実2については,被告人が政治活動資金を手金(被告人がBグループの政治活動資金に充てるために管理,運用していた資金であり,Bグループに属する金銭)から支出し,Aから預かった現金を手金に充当して清算したにすぎないから,少なくともAに対する横領は成立し得ない。
3原判決の争点に対する判断の骨子
(1)

Dの財産からの立替払について
各立替払の存否

(ア)

平成14年12月から平成19年4月までのEの事務所賃料1272万円
及び更新料53万円について
原判決は,見出しの支出について,①平成18年8月分までについては,Dの財産からの支払であることについてそれなりの裏付けがある,②同年9月から平成19年1月までの分も,その一部について事前にDから仮払いを受けていた現金から支払がされていないと断定することはできないとする一方,③平成19年2月から平成19年4月分の72万円については,Dの財産から支払がされたと考えることは困難である,とする。

(イ)

平成19年7月6日及び同月13日のEへの謝礼各500万円

原判決は,D名義の口座から出金された現金を原資として,7月6日と同月13日に各500万円がEに支払われたことを証拠上否定することはできないが,これらのEへの支払は,Aの財産によるものと認められ,Dの財産による立替払であるとの弁護人の主張は失当である,としている。

Dの財産を被告人の財産と同視できるかについて

原判決は,Dは,Bグループの政治活動のため,その資金を確保•支出する役割も担って,Fの意向に沿って設立された会社とみるべきであり,その財産を被告人の個人財産と同視することはできないから,結局,上記各立替払に関する弁護人の主張は前提を欠くものであって,採用することはできない,としている。(2)

被告人の個人財産による立替払の存否について
平成14年11月頃のE事務所初期費用200万円

原判決は,見出し費用につき,被告人の個人財産からの立替払がされていないことにつき証明されたとはいえず,これがあったことを前提としなければならない,としている。

平成18年11月28日のEへの謝礼5000万円

原判決は,見出し費用につき,被告人の個人財産による立替払とは認められない,としている。

平成19年9月28日の平成17年の選挙費用としての500万円(株式会社Gへ支払)

原判決は,見出し費用は,Aを借主とするHからの借入れを原資としていると認められるから,Aの資金による政治活動資金支出と評価すべきで,被告人の立替払ではないと認められる,としている。

平成18年9月29日の平成17年選挙費用としての500万円(I株式会社へ支払)

原判決は,見出し費用につき,被告人の個人財産からの立替払がされていないこ
とにつき合理的な疑いを超えて証明されたとはいえず,これがあったことを前提としなければならない,としている。

平成19年10月5日の平成17年の選挙費用としての450万円(I株式会社へ支払)

原判決は,見出し費用につき,立替払に関する被告人の供述は信用できず,これが被告人の個人財産による立替払として行われた疑いはない,としている。(3)被告人の本件各行為が立替金の清算といえるか(その前提としての清算権限の有無を含む。)について
原判決は,犯罪事実記載の各A仮払金については,被告人による立替金の清算とは評価できない,としている。
(4)被告人がAから預かった現金は手金に充当されるからAに対する横領にはならないとの主張について
原判決は,手金の補充に関する被告人の弁解はおよそ信用できないし,そもそも,被告人においてA仮払金と手金とを区別する必要があったとは認められず,弁護人の主張は失当である,としている。
(5)結論
原判決は,以上のとおり,一部の立替金の存在は認めつつも,Dの財産から支出された分については同社と被告人の個人財産は同視できないから,主張は前提を欠く,被告人の個人財産から支出された分については犯罪事実記載の各A仮払金が被告人による立替金の清算とは評価できない,手金の補充に関する被告人の弁解はおよそ信用できないとして,各犯罪事実記載の横領が成立するとしている。第3所論の検討
1Dと被告人の個人財産が同視できるとの所論について
前記のとおり,原判決は,Dの財産を被告人の個人財産と同視することはできないとしたが,所論は,Dと被告人の個人財産が同視できるというのである。なお,Dは,平成16年の商号変更前は株式会社Jであった(原審甲21・76
6丁)が,本判決書では時期にかかわらず,Dと呼称する。
(1)原判決がDと被告人の個人財産が同視できないとした理由
原判決は,まず,Dは,被告人とは別個の法人格を有する株式会社であり,Dの財産と被告人個人の財産とは特段の事情のない限り同視することはできないから,Dの設立経緯や業務の実態等に照らし,これらを同視することができるかについて検討する,としている。
その上で,原判決は,①DはBグループに属するK株式会社の資金を原資とした見せ金により設立されていること,②Dの業務の実態も,主たる業務であるL新聞の編集•発行については,これをBから請け負いながら,実際の業務は外部の業者に委託し,その差額をBグループとMの政治活動資金の原資として留保していたこと,③被告人の関与形態も,L新聞の編集にあたって時期に応じて必要な関与をしていたが,Fの意向をN(外注業者)に伝えて編集に反映させるなどしていたほか,取材費用をBが負担するかどうかの交渉窓口になっていたことなどであり,Bグループの広報としての活動といえるものであって,被告人の理事長室室長や事務総長といったBグループにおける地位とよく整合すること,④被告人自身,懲戒処分に関する聴聞会に際し,帳簿上明らかにできないMの活動資金を調達することがDの役割とされていた等と回答していたことを挙げて,Dは,Bグループとは無関係の被告人個人の会社とはいえず,むしろ,Fの了解の下に,Bとは別会社にBグループの広報誌であるL新聞の発行を委託するとともに,これを通じてBグループの政治活動資金を確保し,Mの政治活動を支援させること等のために,設立された会社であると評価すべきである,とした。
(2)Dが被告人の一人会社であるかについて
これに対し,所論は,①会社法の条文を引用しつつ,Dは被告人の一人会社であるから,被告人はDの財産を自由に利用処分できる権限を有している(2頁1以下),②Dの預貯金は被告人名義の預貯金と法的に同一であるとはいえないが,被告人の意思で自由に引き出して被告人の望む個人的な用途に利用できるという機能
の面では被告人個人の預貯金と同じである(14頁6),という。しかしながら,被告人がDの財産を自由に利用処分できる権限を有していることと,Dの財産と被告人の個人財産を同視できるかは別問題である。Dと被告人が法律上別人格である以上,原判決が,Dの財産と被告人個人の財産とは,特段の事情のない限り,同視することはできないと説示したのは当然の事理を述べたものといえる。
したがって,以下,本件に特段の事情が有るかという観点から所論を検討する。(3)D設立の経緯について
前記のとおり,原判決がDはBグループに属するKの資金を原資とした見せ金により設立されていると認定した点に対し,所論は,株式払込金1000万円は確かにKの資金から捻出したが,被告人は,平成11年7月21日にDを設立した後,同年8月3日にDの預金口座から1000万円の払い戻しを受けて,同日,同額をKに支払い,Kからの仮払金を全額返済済みである,そのDからの仮払金についても,被告人に支払われた役員報酬を原資にして返済済みである,被告人は,自らがD設立の発起人となり,全ての株式を引き受け,自己の費用で株式引受代金を負担した,というのである。
この点につき,原判決は,Dの設立直後に同社から仮払金として支出を受けた1000万円について,被告人の個人財産で清算されたか否かについては証拠上明らかではないとしつつ,仮にDがBグループとは無関係の被告人個人の会社であれば,その設立にFの承認を得たにせよ,Fに無断でKの資金を用いて設立することは不自然といわざるを得ない,と指摘している。
若干補足すると,見せ金の典型的な場合とは,発起人又は取締役が株式払込取扱銀行以外の第三者から金員を借り入れ,それで株式の払込みをし,会社設立後又は増資登記の完了後できるだけ短い期間内にこれを引き出し,借入先に返済するというものとされているが(最高裁判所判例解説・刑事篇・平成3年度・58頁),所論のいうKからの借財とその返済が払込の前後にわたって行われた経過(原審甲3
1・1054丁,被告人551,552丁)は,上記見せ金の典型例というほかない。Kの金銭出納について判断権限を持っていたのはFであるが(原審U・11丁),KはDの会社登記費用まで負担し,実際の登記手続は被告人個人ではなく,平成11年当時はKの職員であったOが行った(原審O307,336,337丁)。そうすると,仮にDがBグループとは無関係の被告人の個人会社であって,FがKの資金を使用することを承知していない(原審被告人684丁)のだとすれば,DがKの資金を使用した見せ金という異例の経過によって設立されたことの説明がつかないといえる。仮に,被告人が設立後数年も経ってからDの預金の引き出し分に相当する金額を充当したとしても上記評価を左右しない。
また,被告人がD設立の発起人となり,全ての株式を引き受けている点について,原判決は,選挙違反のリスクからBを遮断するというD設立の目的に照らすと,Dが被告人の一人会社という形態とされたのは,当該目的のための便宜的なものというべきであって,DがBグループと無関係であるとはいえないとしている。換言すれば,Bを選挙違反のリスクから遮断するためには,Bグループの法人等がDの株主となることは不都合であり,それ故に形式上被告人の一人会社という形態が選択されたと理解できるから,所論のように被告人の一人会社であることを以て,Dが被告人の個人会社であると根拠付けることはできないというべきである。なお,被告人は,Dは,①M(Fが創設したBの政治活動を支援することを目指す政党〔原審被告人544丁〕)の政治活動の前さばきをする,②L新聞発行に関してBの選挙違反のリスクを回避する,③L新聞の発行について,医療法における医療法人の独立性を確保するという目的で作られたと述べるが(原審被告人544丁),これらはいずれも,被告人の一人会社でなければ達成できないものではなく,むしろ,形式上は無関係の会社でありながら,実質はBのグループ会社を設立したことをうかがわせるものといえる。
結局,Dの設立経緯を,Dが「Fの了解の下に,Bグループの政治活動資金を確保し,Mの政治活動を支援させること等のために,設立された会社であること」を
推認させる事情の一つと評価した原判断に不合理なところはない。(4)Dの業務の実態について
前記のとおり,原判決は,Dの業務の実態について,主たる業務であるL新聞の編集•発行については,これをBから請け負いながら,実際の業務は外部の業者(N)に委託し,その差額をBグループとMの政治活動資金の原資として留保していたと指摘している。
所論は,上記差額を得ていたことや,上記差額を被告人が自己の意思に基づいてBグループの政治活動に使用していたことはDの財産と被告人の個人財産を同視できない理由にはならない,という。
しかしながら,BグループがDを通さずに直接外部の業者に委託すれば必ずしも払う必要のない割高な委託費をDに支払っていたということ,すなわちDの活動実態がいわゆるトンネル会社ともいうべきものであるということに加え,その広報活動に際して得た利益をDがBグループの政治活動に使っていたという事実は,DがBグループのために存続・活動していたことを示しているといえる。仮に,被告人がDの利益をBグループのために使う義務を負っておらず,個人的な用途に使用できるものだったとすれば,BグループがわざわざDを通して委託し続けて,被告人の個人会社にそのような利益を得させていたことの説明がつかない。被告人も,捜査段階では,DがBグループとNとの間に入ることで中間マージンが入るが,これは手金(Bグループの裏金)作りの方法の一つだったと供述していた(原審乙2・3980丁)。そもそも,Dが事業として行っていたL新聞の編集・発行という事業もFの意向に基づく事業であった(原審被告人680丁)のであるから,そのために設立された会社もFの意向に基づく会社であることが推認できる。そうすると,Dの業務実態を,Dが「Fの了解の下に,Bグループの政治活動資金を確保し,Mの政治活動を支援させること等のために,設立された会社であること」を推認させる事情の一つと評価した原判決に不合理なところはない。(5)被告人の関与形態について

原判決は,被告人の関与形態について,被告人はL新聞の編集にあたって,時期に応じて必要な関与をしていたが,Fの意向をNに伝えて編集に反映させるなどしていたほか,取材費用をBが負担するかどうかの交渉窓口になっていたことなどであり,Bグループの広報としての活動といえるものであって,このことは,被告人の理事長室室長や事務総長といったBグループにおける地位とよく整合すると説示している。
これに対し,所論は,①平成11年7月,L新聞社設立後,被告人は,同月,新聞発行を行うために,元P新聞社のQをDに入社させ,Qが株式会社Rという会社をL新聞の編集業務に参画させ,L新聞製作の編集チームを作り,被告人の下で編集業務を行っていた,②平成13年4月,外注先がRからNに代わり,被告人がNの担当者と編集作業を協働することで,L新聞の発行業務を遂行できるようになった,③Dは,社員を雇って,Mのホームページの管理を行うなどしたのであり,被告人の関与は,Bグループの広報活動の範囲を超えている,というのである。しかしながら,NでL新聞の編集をしていたSは,被告人について「B側のスポークスマンみたいな立場にあった」と証言している(原審S175丁)。また,Qを雇用するに当たって,被告人はQをFに引き合わせ(原審被告人552丁),Fがiにやらせろと言うとQを退職させてiのNに外注先を変更する(原審被告人556丁)など,FはDの業務の核心部分に介入・干渉しており,被告人の一人会社とはおよそ考えられない。そうすると,所論の指摘するような事実は,まさしくBグループの広報としての活動又はその周辺活動と評価できるものであり,そのように評価した原判決が不合理であるとはいえない。
(6)

Dの財産が証券投資に使われていた点について

所論(9頁~)は,被告人は,①D名義でC証券に申込みをして証券投資を始め,DからC証券の口座への証券取引資金の入金は,11回にわたり,合計2185万円に及んでおり,被告人が誰の許可を得ることも報告することもなく,Dの多額の財産を証券取引に使用していた,②個人名義でもC証券で証券投資を開始し,当初
こそ日経平均のオプション取引だったが,平成19年7月からはリスクの高い日経平均先物取引も始めた,しかしOがDの預貯金を使い込んでDの資金がなくなってしまったため,被告人は急いでAから仮払いを受けて清算をする必要になった,という。
しかしながら,所論指摘の事情は,DがBグループの政治活動資金を確保し,Mの政治活動を支援させること等のために設立された会社であるのに,被告人が勝手にDの資金を使い込んで証券取引をしていたとしても十分説明がつくから,被告人がD名義であれ,個人名義であれ,Dの財産を証券取引に使用していたからといって,それが両者の財産を同視すべき特段の事情があるということはできない。(7)

聴聞告知書に対する被告人の回答について

原判決は,被告人自身が,Bグループの懲戒処分に関する聴聞会に際し,帳簿上明らかにできないMの活動資金を調達することがDの役割とされていた等と回答していたことを,DがBグループの政治活動資金を確保してMの政治活動を支援させること等のために設立された会社であることの根拠として挙げている。所論は,聴聞告知書に対する回答は,DのBグループへの貢献を強調せざるを得ないという事情の下で,被告人自身の意思として,Dの財産をBグループやMの政治活動の資金として使用したいという思いがあり,実際に使用してきたことから,その側面を強調する内容になっている,という。
しかしながら,仮にBグループへの貢献を強調せざるを得ない状況であったとしても,所論によれば,Dは被告人の個人財産で作った被告人個人の会社であるにもかかわらず,多額の財産をBグループの政治活動の資金として使っていたというのであるから,そのとおり回答すれば,被告人のBグループに対する貢献を強調するには十分であったはずである。にもかかわらず,あえて,それとは異なり,Mの公の政党としての活動に関するものであって,被告人の個人的な利益に関わる資金移動は一切ない(原審甲20・734,被告人685丁)などと所論と正反対の回答をしたことの説明がつかない。結局,被告人自身が聴聞告知書でした説明が虚偽であるとする事情は見当たらないのであって,これをDという会社の性格認定に用いた原判決が不合理であるとはいえない。
(8)まとめ
以上によれば,所論の指摘を検討しても,Dと被告人個人の財産を同視できるような特段の事情はない。加えて,原判決が指摘した以外にも,Dが振り出した手形にAが裏書きすることもあった(原審O377丁)が,Dで総務・経理を担当していたOもそれに違和感を持っていなかったこと(原審O346丁),Bグループの財務の責任者であったUもDはグループ会社の一つであったとの認識を示しており(原審U43丁),Fの側近であったVも同様であること(原審V298丁)など,Dは,Bグループの政治活動資金を確保し,Mの政治活動を支援させること等のために設立されたグループ会社の一つであることをうかがせる事情が多々あるのであって,Dと被告人個人の財産を同視することはできないとした原判決に不合理なところはない。
2D財産による立替払について
既に述べたとおり,Dの財産からの立替払については,Dと被告人個人の財産を同視することはできないのであるから,個々の立替払の存否に立ち入るまでもなく,被告人の弁解は成り立たない。したがって,以下は本来不要な検討ということになるが,所論及び訴訟経過にかんがみ,原判決が示した個々の立替払の存否について判断を示すことにする。
原判決は,平成19年7月6日及び同月13日のEへの謝礼各500万円について,D名義の口座から出金された現金を原資として,7月6日と13日に各500万円がEに支払われたことを証拠上否定することはできないとしつつ,Dは,同社名義の振出による額面2000万円の手形を用いて株式会社Wから貸付を受け,平成19年7月6日に1917万円余りが前記D名義の口座へ入金され,同日1020万円が出金されるとともに,Eが代表を務めるXの口座へ400万円が入金されていること,同月13日にはD名義の口座から合計900万840円の出金とXの口座へ500万円の振込があることからすると,これらいずれの支払も前記Wからの1900万円余りの借入れが原資になっていると考えられること,そして,前記手形はAが裏書し,遡及義務を負っているものであることに加え,同手形の決済は,AがHから借り入れた3000万円を原資としてD名義の口座に入金された2000万円によって行われていることからすると,このWからの借入れはAによる借入れとみるべきであるから,これらのEへの支払は,Aの財産によるものと認められる,としている。
所論は,Wからの借入当事者は,あくまでもDである上,Hからの借入は,横領よりも後のことであるから,横領罪の成否には影響を与えない,というのである。原判決が認定するとおり,Dには,Eに支払った合計1000万円に見合う資金がないため,Wからの借入金でこれを賄ったことが明らかであるから,Wからの借入をした当事者は誰なのかが問題である。借入に用いた手形は確かにDが振り出しているから,所論がいうとおり,形式的な当事者はDである。問題は,経済的にそれがDの負担したものといえるかどうかであるが,前記手形は,Aが借り入れた資金(Hからの借り主がAであることについては後述する。)をDの口座に振り込むことで決済しているのであるから,結局,Dは実質的な負担をしていないことを原判決は指摘しているのである。
また,横領日との先後関係については,確かに,1回目の横領日である平成19年9月13日の時点では,立替金原資であるDが振り出した手形の決済資金は未だAから振り込まれていなかったから,その時点では経済的な負担をDが負う可能性があったが,手形の決済日は10月1日なのであり,その決済資金を手当てした者こそが実質的負担者というべきである。仮に,所論のとおり,原判示1の1000万円の被告人への交付が,立替金の清算の趣旨でなされたのであれば,それが前記手形の決済に使用されずに証券取引に使われる一方,後からAが借り入れてまで別途に手形決済資金を用意しているのであるから,結果的にAは二重払いしたことになり,これらの事実が説明がつかないことになる。要するに,Eに支払った合計1000万円は別途,後からAから補填されることになっていたものであり,また現にそうなっているのであるから,Dによる立替金の清算とみることはできないとした原判断に誤りはない。
3被告人による立替金の清算権限について
(1)被告人の清算権限について
一般に,受任者が委任者に対して債権を有する場合であっても,受託金銭をもってその弁済に充当することは民法上正当な相殺権の行使とはいえず,横領罪の成否について,その違法性を阻却しない(大審院明治43年2月17日判決録16輯272頁参照)。したがって,横領罪において,立替払の清算を理由に,違法性が阻却されたり,不法領得の意思が否定されたりするためには,単に立替金の支出自体が委託の趣旨の範囲内であるだけでは十分ではなく,預かり金によって立替金の清算をすることについても予め委託者から受託者に対して権限が与えられていることが必要である。もし,その権限が与えられていなかったり,与えられていてもそれを逸脱した場合には,委託者の委託の趣旨に反し,横領罪が成立する。本件について,これをみると,まず,立替金の支出権限について,原判決は,被告人にはBグループのため,政治活動資金を支出することにつき一定の裁量があったが,Bグループの最終意思決定権者がFであったことは疑いがなく,被告人の政治活動資金支出に関する裁量もFの意思決定権に由来するものであるから,被告人の自由な裁量で支出をすることが無制限に許されるものではなく,Fの方針に従った支出のみが認められるのであって,最終的な承認権限はFにあったとし,被告人は,政治活動資金につき,Fの方針に従う範囲において,一々Fに報告し承認を求めずともこれを支出する裁量を有していたが,Fの方針から外れた支出を行うことは許されなかったとしている。
本件で被告人が立替払を主張している費用については,いずれもこの政治活動該当性は肯定できると思われ,立替自体が委託の趣旨に反しているわけではない。次に,立替金の清算権限について,原判決は,上記立替権限の性質から,(被告人が)Fから(政治活動資金についての)報告を求められた際には,Fの方針に従った支出であることを適切に報告できるようにする必要があり,特に,被告人が政治活動資金を立て替えこれを清算する場合には,Bグループ,特に被告人が代表者であったA等から直接被告人に資金が支払われることとなり,その外形は利益相反そのものであるから,Bグループから政治活動資金を支出する場合に比べ,よりそのような支出が適切な裏付けを伴うものであることを明らかにする必要性は高かった,としている。
所論は,原判決がFの方針について具体的に認定していないと非難し,Fの方針は,Bの理念に沿え,選挙活動の汚い部分は「被告人がかぶれ」という極めて大まかなものに過ぎない,被告人の報告義務というものは極めて緩やかなものであり,Fが特にこれを報告しろと被告人に具体的に報告を命ずることはなかった,という。確かに,「Fの方針」について原判決は,明確な定義を示していないが,F自身が個人資金を出資したBグループの関連会社のオーナーであり,Aの資金についての最終的な処分権者であったこと,Aの資金がFやYの選挙運動やMの活動資金などの多額の政治活動資金を確保する手段の一つであったことなどF及びAと被告人との基本的な関係や属性から,Bグループの政治資金として有用な使い方を求められていたことを指していることは関係証拠上明らかである。
次に,被告人の報告及び立証の義務については,FはALS発症後も被告人に直接指示をし(原審U35丁),政治資金,選挙資金についても被告人は年に2,3回A4版で1枚の紙を見せて,それにFは親指と人差し指をくっつけてOKのサインを作り,肯定の趣旨を示し(原審V276丁),被告人はFにICレコーダーをイヤホンで聞かせるということもやっていた(原審V275丁),被告人はFが病床に臥してからも何年かはほぼ毎日のように,後年に関しても1週間に1,2回ぐらいはコンタクトを取っていた(原審V270丁),というのであり,被告人自身も,全て一任されていたわけではなく,一度ルートができたところは任されていたが,初めてやるところについてはFの確認か報告が必要だったとしているところであって(原審被告人538丁),Fが病気になってなお,被告人に報告させるなどして最終意思決定権を保持していた(原審U43丁)ことが明らかであるから,当然,このFの意思決定権を担保する手段が求められる。また,被告人自身も,清算に当たっては,最終的にUに判断してもらい,Aの資金で処理してもらうつもりだった(原審被告人715丁)というのであるから,Uの審査に耐える資料が用意されなければならない。そうすると,被告人の立替払の清算は,上記のとおり,Fの方針に従った支出であり,かつ,適切な裏付けを伴うものであることを明らかにすることが求められており,これが被告人の清算権限の前提となっていたと解される。上記原判断に不合理なところはない。
(2)被告人の主張する立替払が与えられた権限に整合していないことア
原判決の認定

そこで,被告人の主張する立替払が上記要件を満たしているか検討すると,原判決は,被告人による立替払について一切の記録が残されておらず,支払われた政治活動資金がA仮払金や他のBグループ法人からの支出によるものであるか,手金によるものであるか,被告人の個人財産による立替払であるかが問題となった場合には,被告人による説明以外にこれを区別する手段はなく,Fの方針に従った支出であるかを検証する手段もないこと,このような態様による被告人の政治活動資金の立替払は,被告人の権限の内容と整合しないものとなっていると指摘する。原判決は,立替金の清算に際し,被告人は,個別にどの立替金の清算に充てるか対応関係を意識しておらず,立替金の総額が増減するという程度の認識で行っていた旨供述しているところ,これを前提としたとしても,本件各犯行当時,どの程度の立替金があり,清算により残額がどの程度となったかについて,具体的な説明をすることもできないなど,立替払について全く記録が残されておらず,被告人自身,その残額と清算額との関係を説明できないような状況で,適正な立替金の清算が行われるとはおよそ期待できないのであって,このような清算までもがFの方針に従った被告人の権限内のものであるとは考えがたいとしている。
原判決は,また,A仮払金の調査に際しても,被告人は立替払の事実を明らかにしようとせず,Bグループによる支出の検証にも応じようとしていないのであって,明らかに被告人の権限に整合しない行動をとっていると指摘する。さらに,原判決は,被告人が,原審公判廷において,個別にどの立替金の清算に充てるか対応関係を意識しておらず(原審被告人599,610丁),立替金の総額が増減するという程度の認識で行っていた旨供述しながら,検察官の追及を受けると,犯罪事実1記載の仮払いについて,株式会社GとIに対する1000万円の立替払の清算に充てたなどと供述し(原審被告人718丁),その後,その趣旨に関する裁判長の質問を受けて,再び個別の立替払との対応関係は意識していなかったという供述に戻っている(原審被告人773丁)ところ,このような被告人の供述態度からも,立替払の清算という被告人の弁解が,後付けの説明であることが示唆される,とする。
原判決は,以上からすれば,本件で問題となっているA仮払金の使途について,立替払の清算という被告人の供述は信用できず,被告人がその権限において立替金の清算に充てたものとは認められない,としている。

所論について

これに対し,所論は,①政治資金の記録化は相手に大変な迷惑がかかるから,被告人の脳裏だけにとどめるのは当然であり,立替金については,特に帳簿をつくるまでもなく,その痕跡を残している,②Fは被告人に使途を一任しており,帳簿を作らせてこれをチェックするようなことはしていない,③一時的に自己資金で立て替えた場合,その立替金を清算できることは当然であり,立替金の清算権限はAからの支出権限の論理的な帰結である,④原判決は後付けの説明というが,捜査段階で立替金との説明をしなかったのは,被告人がEが協力しないものと絶望し,弁護士の方針に従ったまでである,というのである。
しかしながら,①の使途の明確化については,被告人は,自分の行った使途が委託の趣旨に反していないこと,すなわちBの政治資金として使ったことをFに報告・立証する義務を負っていたことは既に述べたとおりであり,この義務を果たすために残す記録は公開したりFあるいはU等以外に開示したりすることを予定したものではないから,記録を残さないことになっていたなどとは考え難い。②Fの監督の実情については,Fが自身の病状のため,次第に被告人に詳細な報告を求めることがなくなっていったことはそのとおりであり,イヤホンによる報告は年1回程度,書面による報告も年2,3回程度だった(原審V278丁)が,だからといって,上記義務が免除されることにはならず,最終的に清算処理をするUに対して説明できるようにすることが求められていたと考えられる。政治資金の使途が被告人に一任されていることと,それが正しく委任の趣旨に沿った支出であることを立証できるようにしておくことは別問題である。このことは立替払をせずに,直接Aから仮払いを受ける場合,政治資金としての支出のみ許され,個人的な用途では支払を受けることは許されなかった(原審U37丁)こととの対比からもいえる。③の被告人の権限については,それが無限定なものではないことは既に述べたとおりである。④Eの協力の見込みや弁護人の助言についても,それが立替金の清算であるとの事情を主張できない理由になるとは考え難い。被告人は,捜査段階では,手金の存在を明らかにしながら,犯罪事実1,2のいずれについても,むしろ,政治活動費や政治資金パーティー券の購入に手金を使った分をAの仮払金で穴埋めをして清算した上で,手金を一時的にC証券での先物取引に流用したにすぎないなどとも説明し(原審乙8),自己の立替払いの清算という説明を全くしていないのであって,現在の主張とは全く異なる弁解をしていたのである。所論のいうような事情があるからといって全く性質の異なる弁解をせざるを得なかったとは考え難いのであって,被告人の弁解が場当たり的との評価を免れない。
そうすると,被告人は立替払について個別に清算を求めたことがなく(原審U35丁),かつ,その記録が全く残されておらず(原審被告人717丁),被告人自身も,その残額と清算額との関係を説明できないような状況は被告人の清算権限に明らかに反したものであったとし,その他,平成24年のAの調査に対しても,犯罪事実1記載のものについては「⇒Z?」と,同2記載のものについては「⇒aパーティー」と回答し,いずれも被告人の個人財産による立替金の清算に充てたとはしていないこと(原審弁95),上記のとおり,捜査段階で全く異なる弁解をしていたことを指摘し,後付けの弁解と断じた原判決に不合理なところはない。4被告人の個人財産による立替払の存否について
既に述べたとおり,被告人の立替金の清算であるとの主張は,被告人の清算権限に反したもので,信用できない後付けの弁解であるから,具体的な立替払の有無に立ち入るまでもなく理由がないことになる。しかし,念のため,被告人の個人財産による立替払の存否についても検討しておく。
(1)

株式会社Gへの500万円の支払
原判決の認定

原判決は,株式会社Gへの500万円の支払は,平成19年9月のHからの借入金が原資となっていると認められるところ,Hの代表者bは,貸し付け相手はBのグループ会社であり,被告人個人に貸し付けるという話ではなかった旨証言しており(原判決21頁,原審b210,212,214丁),これによれば,同社からの借入れはAを借主とする借入れであると認められ,これを原資とする株式会社Gへの支払は,Aの資金による政治活動資金の支出であり,被告人の立替払ではないと認められる(原判決23頁)としている。

所論について

所論は,Hからの借入れはAが借主ではなく,被告人が借主であったというのであり,その根拠として,(ア)Hからの借入は,Aの会計責任者であるUを通さず,Aの口座を経由せず,直接,被告人個人の口座に振り込まれ,Aの決算書類・帳簿に一切載っておらず,Aで会計処理がなされていない,(イ)借入に際して担保として差し入れたのはDの手形であるが,同社は被告人の個人会社であり,被告人が個人で担保責任を果たしていることになる(以上19,21頁),(ウ)bは捜査段階では被告人個人に貸した旨供述していたのであり,bの供述は変遷している(20頁),(エ)Hからの借入の返済原資も被告人の個人財産からなされているというので,検討する。
(ア)

Aからの会計処理について

所論指摘の事情があることはそのとおりであるが,Aの代表者であった被告人が適切な会計処理を怠っていたともいえるのであり,これだけで,Bのグループ会社に貸し付けたというb証言の信用性を揺るがすものとはいえない。(イ)

被告人が個人で担保責任を果たしたとの点について

所論は,担保の手形を振り出したDが被告人の個人会社であるという前提に立つが,その前提自体が認められないことは既に述べた。
(ウ)

b供述の変遷について

この点につき,原判決は,bは,警察官に対し,あくまでもBのグループ会社へ貸し付けた旨説明したが,他方,被告人がBグループで実質的に一番権限のある人で,貸付先のグループ会社を代表していることから,言葉の上では「(被告人)さん,(被告人)さん」とも話した,被告人もAもj病院も全部ひっくるめてBだと認識していた上,事情聴取を受けた当時被告人個人に貸したのかBのグループ会社に貸したのかが重要だとは思っておらず,調書の確認の際もその表現に注意してはいなかったなどと供述するところ,これらの説明は十分に納得のいくものであって,弁護人が指摘するような供述の変遷があるとは認められない,としている。これらの原判決の評価に不合理なところはない。
(エ)Hからの借入の返済原資について
原判決は,Hからの借入金の返済原資は,証拠上有限会社cからの借入金及びMの資金によりまかなわれているところ(原審甲32),このcからの借入れに際して作成された借用書もA名義となっている(同1059丁),と指摘している(22頁)。
これに対し,所論は,上記のうちMからの資金は,dからの1500万円が原資になっているところ,その帳簿では,借受金と記載されているから,被告人個人の借入であり,結局,被告人個人財産が返済原資になっている,というのである。しかしながら,所論は,原審記録に基づかない主張である上,計上した費目に関わらず,上記借入がMの帳簿に記載され,かつ,Mの口座に振り込まれていることに鑑みても,被告人個人の借財であるとは考え難く,採用の限りでない。ウ
結論

以上のとおり,所論はいずれも採用できない。加えて,原判決が指摘するとおり(22頁),金銭消費貸借の契約書上借主が法人であるAとなっていること(印鑑もAの社判が押されている,原審甲32・1069丁),Hでは,個人に金銭を貸したときには個人名を元帳に記載することになっており,このときも被告人個人からの借入であれば,被告人の個人名を隠さなければならない理由はなかったこと(原審b221丁)などの事情にかんがみれば,前記b証言の信用性を肯定して,Hからの借入主体はAであると認定した原判決に不合理なところはない。(2)Iへの450万円の支払について

原判決の認定

原判決は,I及び株式会社eの代表取締役であるfは,選挙キャンペーン用Tシャツの製作費等450万円を平成19年10月5日に振込を受けたと供述し,被告人は,g銀行に開設された被告人個人名義の口座から平成19年8月24日から同月31日までの間に100万円ずつ3回,h銀行に開設された被告人個人名義の口座から平成19年9月3日から同月26日までの間に50万円ずつ7回にわたって引き出された合計650万円(甲35,37)をその支払に充てた旨供述するが,この被告人の供述は信用できず,この支払が被告人の個人財産による立替払として行われた疑いはない,としている。

所論について

所論(25頁)は,具体的な使途がない場合であっても,政治活動資金としての突然の出費等に備え,一定額を定期的に個人の銀行口座から出金し手元に置いていたこと,fから急な督促があり,すぐに支払う必要があると感じたことから,手元にためてあった現金から出金したものであり,被告人の供述に何ら不明瞭なところはない,という。
しかしながら,原判決(25頁~)は,被告人の供述が信用できない理由について,①所論が450万円の原資として主張する被告人個人名義の口座からの出金は合計650万円と,Iへの支払額と200万円のズレがあること,②最初の出金から支払に至るまで1か月以上の期間があり,しかも,合計10回に分けて50万円又は100万円ずつ引き出されているが,他の政治活動資金の立替払は,いずれも具体的な支出先と対応する形で原資が出金あるいは借り入れられるなどしているから,前記のような形で引き出した現金を,1回の立替払の振込に充てるというのは不自然であること,③そもそもBグループの政治活動資金は,A仮払金(平成19年4月以降はA仮払金の支出も多用されている。)や,裏金を蓄積し被告人が管理していた手金からの支出,その他の方法により,まずはBグループが支出していたはずであるから,具体的な政治活動資金の支出の必要があって,これらのBの財産を原資とする支出が困難な事情がある場合であれば,被告人が手元にある個人財産で立替払をすることもあり得なくはないが,具体的な支出先が明らかでないにもかかわらず,Bグループの政治活動資金の原資とするため,被告人がその個人口座から引き出す形で現金を徐々に手元にためておき,必要に応じて支出するという形式で政治活動資金の立替払をするというのは,不自然というほかないこと,④被告人は,政治活動資金に充てるための流動資金として相当額の手金(被告人によれば平成18年9月時点で5000万円程度等)を管理•運用しており,それとは別に立替払のための費用として個人の口座から引き出した現金を手元に置いておく必要性もうかがわれないことを挙げている。これらの考察に基づき,立替金の支出に関する被告人の供述を信用できないとした原判決に不合理なところはない。(3)まとめ
以上によれば,弁護人主張の各立替払のうち認められるのは,平成14年頃のE事務所の初期費用に関する立替払としての200万円,平成18年9月29日Iへの支払に関する立替払としての500万円の合計700万円のみであるとする(27頁)原判決に誤りはない。そして,金額如何にかかわらず,被告人による立替金の清算が認められないことは既に述べたとおりである。
5原判示犯罪事実2に係る行為がAに対する横領にはならないとの主張について
(1)

原判決の認定

原判決は,被告人がAから現金を預かった時点で当該現金は手金に充当されたからAへの横領にはならないとの主張について,手金への補充に関する被告人の弁解はおよそ信用できないし,そもそも,被告人においてA仮払金と手金とを区別する必要があったとは認められない,としている。
(2)

所論について

所論(41頁)は,被告人がAから受領し,自己名義の証券取引口座に入金したのは,手金であり,Aから預託された金員ではない,手金は病院建設のときのゼネコンからのキックバック等であり,不動産の賃料,株式会社kからの借入金等を原資とするAとは異なる,手金の所有者はBのグループ全体(B系の病院,診療所の総体)である,Aは営利法人たる株式会社であって,Bグループには所属しない関連企業群の一つに過ぎない,したがって,A仮払金と手金は区別されるべきであって,Aに対する横領は成立しない,というのである。
しかしながら,原判決は,被告人によれば,Bグループの政治活動資金は,Aがグループ全体のために負担すべきものであり,他方,手金も,Bグループの政治活動資金として被告人が管理•運用していたのであるから,手金から政治活動資金を支出した場合に,Aの資金により補充しなければならない関係があるわけではない(原審被告人776丁)ことに加えて,被告人は,Bグループのために政治活動資金を支出することにつき一定の裁量を有し,A仮払金及び手金はいずれもその原資として用いられるべきものであって,被告人自身もそのように認識していたこと(原審被告人777丁)からすれば,被告人においてA仮払金と手金とを区別する必要があったとは認められない,としている。被告人も,使用した政治活動資金の清算に当たっては,最終的にUに判断してもらい,Aの資金で処理してもらうつもりだった(原審被告人715丁)というのであり,政治活動資金の最終的な負担者はAであるとの認識を示していることに照らしても,手金とAの資金との区別に関する原判決に不合理なところはない。
また,原判決は,手金の補充に関する被告人供述について,①一般論としては,手金から支出した場合に,一々A仮払金で補充していたというわけではなく,一定額より少なくなったときなどに補充していたとして,手金からの支出とその補充には対応関係が存在しないと供述する一方で,犯罪事実2の仮払金については,パーティー券代として手金を支出したため手金への補充の必要性があったなどと供述し,②平成20年1月23日当時の手金の状況について,直ちに手金を補充する必要性はなく,手金は潤沢にあった(原審被告人767丁)などとも供述する一方,パーティー券代の支出により,流動的な資金需要に対応できなくなるおそれがあったので犯罪事実2の仮払金を手金に補充する必要があったといい,にもかかわらず,他方でその補充した手金から直ちに自らの立替金の清算に充てて,結局被告人自身の語る手金補充の実をあげることができていない(原審被告人766丁)など,被告人は,手金にAの仮払金から補充する必要性について,合理的な説明が何らできていないばかりか,相矛盾する内容を述べていることを指摘し,犯罪事実2における手金への補充に関する被告人の弁解はおよそ信用できないと評価している。以上の原判決の指摘・評価はもっともであり,不合理なところは見当たらない。第4結論
以上によれば,所論が主張する弁解はいずれも採用できず,論旨は理由がない。簡潔に述べれば,被告人は犯罪事実1,2のA資金をその払戻しを受けると直ちに自己の証券取引口座に入金する目的でC証券名義の当座預金口座に入金するなどしており,特段の事情がない限り業務上横領したと推認できるところ,被告人の供述する立替金の清算であったとする弁解は,その弁解内容の不自然さ,弁解がされるに至った経緯に照らして「後付け」の虚偽のものと断ずるほかないのであって,被告人の各業務上横領を認定した原判決に不合理なところはない。よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。平成29年9月28日
東京高等裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

青柳
裁判官

岡部
裁判官

溝田豪泰之
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