判例検索β > 平成28年(行ケ)第10231号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成28(行ケ)10231
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成29年10月26日
法廷名知的財産高等裁判所
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平成29年10月26日判決言渡
平成28年(行ケ)第10231号
口頭弁論終結日

同日原本領収

裁判所書記官

審決取消請求事件

平成29年9月19日
判決原告
同訴訟代理人弁護士

ハノンシステムズ・ジャパン株式会社

澤野正明尾崎英男上野潤一日野英李被告
同訴訟代理人弁護士

知一郎珉
株式会社豊田自動織機

孝明國忠彦若山俊輔磯田志郎中村伊東佐主島

同訴訟代理人弁理士

永藤文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
敬正樹努
第1

請求

特許庁が無効2015-800122号事件について平成28年9月23日にした審決を取り消す。
第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯等



被告は,平成19年12月27日,発明の名称を「ピストン式圧縮機におけ
る冷媒吸入構造」とする特許出願(平成14年11月7日(優先権主張:平成13年11月21日,
日本国)
に出願した特願2002-324043号の分割)
をし,
平成21年5月15日,設定の登録(特許第4304544号)を受けた(請求項の数2。以下,この特許を「本件特許」という。甲49)。


原告は,平成27年5月1日,本件特許のうち請求項1に係る部分について
特許無効審判請求をし,無効2015-800122号事件として係属した(甲37)。


被告は,平成28年3月7日,本件特許に係る特許請求の範囲を訂正する旨
の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。甲46)。


特許庁は,平成28年9月23日,本件訂正を認めるとともに,本件審判の
請求は成り立たない旨の別紙審決書
(写し)
記載の審決
(以下
「本件審決」
という。

をし,その謄本は,同年10月3日,原告に送達された。


原告は,平成28年11月2日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2
特許請求の範囲の記載



本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び2の記載

本件訂正前の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は次のとおりである(甲49)

なお,「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し,前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ,前記回転軸と一体化されていると共に,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,/前記シリンダボアに連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路と,/吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有し,/前記シリンダブロックは,前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し,/前記導入通路の出口は,
前記ロータリバルブの外周面上にあり,
前記吸入通路の入口は,
前記軸孔の内周面上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,/前記ピストンは両頭ピストンであり,前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し,前記カム体は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており,前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,
該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,
前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。
【請求項2】前記回転軸を支持する軸孔の端部側には,他部位よりも小径のシール周面を有する請求項1に記載のピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。⑵

本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載

本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲46。訂正箇所に下線を付した。)。以下,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載された発明を「本件発明」という。また,その明細書(甲49)を,図面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し,前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ,前記回転軸と一体化されていると共に,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,/前記シリンダボアに連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路と,/吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有し,/前記シリンダブロックは,前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し,/前記導入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ,前記吸入通路の入口は,前記軸孔の内周面上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,/前記ピストンは両頭ピストンであり,前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し,前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し,前記カム体は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており,前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。3
本件審決の理由の要旨



本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,①本件
訂正は,ⅰ)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,ⅱ)特許無効審判の請求がされていない本件訂正後の請求項2に係る発明は独立して特許を受けることができるから,本件訂正が認められ,②本件発明は,ⅰ)下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて容易に発明をすることができたものではなく,ⅱ)下記ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)及び周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない,などというものである。ア
引用例1:特開平8-334085号公報(甲1)


引用例2:特開平5-126039号公報(甲2)


引用例3:特開平7-63165号公報(甲10)



本件発明と引用発明1との対比

本件審決は,引用発明1及び本件発明との一致点・相違点を,以下のとおり認定した(アないしウ)。なお,本件審決は,以下のとおり,引用例1には引用発明1(2)も記載されているとした上で,本件発明との一致点・相違点を認定した(エ)。ア
引用発明1

シリンダブロック11の両端部間に回転軸16と平行に延びるように同一円周上で所定間隔おきに貫通形成された複数のシリンダボア20内にピストン21が往復動可能に嵌挿支持され,前記回転軸16の回転に伴い斜板27を介して前記ピストン21を往復動させ,前記ピストン21によって前記シリンダボア20内に区画される圧縮室に冷媒ガスを導入する吸入弁機構35を備えた両頭ピストン型斜板式圧縮機において,/圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力を回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用させ,軸支孔37の内周壁に対して前記回転軸16上の大径の軸支部38を圧接する少なくとも斜板27を含む手段とを有し,/前記シリンダブロック11には,回転軸16上の大径の軸支部38が回転可能に嵌挿支持される軸支孔37が形成され,/前記軸支孔37に回転軸16上の大径の軸支部38が回転可能に嵌挿支持されてラジアルベアリング17,18となっており,ラジアルベアリング17,18は,前記回転軸16の部分に関する唯一のラジアルベアリングであり,/前記軸支孔37と前記軸支部38との間には,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39が形成され,/前記ピストン21は両頭型のピストン21であり,前記斜板27は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸16の軸線の方向の位置を規制されており,前記スラスト軸受手段は,前記シリンダブロック11の端面に形成された環状の突条と斜板27の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記斜板27の突条の径を前記シリンダブロック11の突条の径よりも大きくした両頭ピストン型斜板式圧縮機における冷媒ガス吸入構造。

本件発明と引用発明1との一致点

シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し,前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するためのバルブを備えたピストン式圧縮機において,/吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を回転軸に伝達して,軸孔の内周面に向けて前記回転軸を付勢する手段とを有し,/前記シリンダブロックは,回転軸を回転可能に収容する軸孔を有し,/前記軸孔の内周面に前記回転軸の外周面が直接支持されることによって前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,/前記ピストンは両頭ピストンであり,前記カム体は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており,スラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。ウ
(ア)

本件発明と引用発明1との相違点
相違点1

本件発明は,「前記回転軸と一体化されていると共に,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブ」を備えたものであり,それに伴い,「前記シリンダボアに連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路」と,「吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する」手段と,「前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔」とを有し,「前記導入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ,前記吸入通路の入口は,前記軸孔の内周面上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段」であり,「前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し,前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通」するものであるのに対して,引用発明1は,「吸入弁機構35」を有するものの,「ロータリバルブ」を有していない点。
(イ)

相違点2

本件発明は,「吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力をロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」を有し,「前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」構成を有するものであるのに対して,引用発明1は,「圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力を回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用させ,軸支孔37の内周壁に対して前記回転軸16上の大径の軸支部38を圧接する少なくとも斜板27を含む手段」を有し,「前記スラスト軸受手段は,前記シリンダブロック11の端面に形成された環状の突条と斜板27の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記斜板27体の突条の径を前記シリンダブロック11の突条の径よりも大きくした」構成を有するものであるが,「圧縮反力伝達手段」に相当する構成を含むか否かが明らかでなく,また,「前記軸支孔37と前記軸支部38との間には,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39」を有している点。

(ア)

本件発明と引用発明1(2)との対比
引用発明1(2)

シリンダブロック11の両端部間に回転軸16と平行に延びるように同一円周上で所定間隔おきに貫通形成された複数のシリンダボア20内にピストン21が往復動可能に嵌挿支持され,前記回転軸16の回転に伴い斜板27を介して前記ピストン21を往復動させ,前記回転軸16と一体回転可能に設けられていると共に,吸入行程にある前記ピストン21によって前記シリンダボア20内に区画される圧縮室に対して冷媒ガスを導入するための吸入通路を有するロータリバルブを備えた両頭ピストン型斜板式圧縮機において,/前記シリンダボア20に連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って間欠的に連通する,前記吸入通路と前記シリンダボア20とを連通させるために設けられている通路と,/圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力を回転軸16に設けられたロータリバルブに対しラジアル方向の分力として作用させ,圧縮行程にある前記シリンダボア20に連通する,前記吸入通路と前記シリンダボア20とを連通させるために設けられている通路の入口に向けて前記ロータリバルブを圧接する,少なくとも斜板27を含む手段とを有し,/前記シリンダブロック11には,回転軸16上の大径の軸支部38の部分に設けた前記ロータリバルブが回転可能に嵌挿支持される軸支孔37が形成され,/前記吸入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記吸入通路と前記シリンダボア20とを連通させるために設けられている通路の入口は,前記軸支孔37の内周面上にあり,前記軸支孔37の内周面に前記軸支部38の部分に設けた前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって,前記ロータリバルブを介して前記回転軸16を支持するラジアルベアリング17,18となっており,前記ラジアルベアリング17,18は,前記斜板27から前記ロータリバルブ側における前記回転軸16の部分に関する唯一のラジアルベアリングであり,/前記軸支孔37と前記軸支部38との間には,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39が形成され,/前記ピストン21は両頭型のピストン21であり,前記両頭型のピストン21を収容する前後一対のシリンダボア20に対応する一対のロータリバルブが回転軸16と一体的回転可能に設けられ,前記斜板27は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸16の軸線の方向の位置を規制されており,前記スラスト軸受手段は,前記シリンダブロック11の端面に形成された環状の突条と斜板27の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記斜板27の突条の径を前記シリンダブロック11の突条の径よりも大きくした両頭ピストン型斜板式圧縮機における冷媒ガス吸入構造。
(イ)

本件発明と引用発明1(2)との一致点
シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し,前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ,前記回転軸と一体化されていると共に,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,/前記シリンダボアに連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路と,/吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する手段とを有し,/前記シリンダブロックは,前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し,/前記導入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記吸入通路の入口は,前記軸孔の内周面上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,/前記ピストンは両頭ピストンであり,前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し,前記カム体は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており,スラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくしたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。
(ウ)
a
本件発明と引用発明1(2)との相違点
相違点1(2)

本件発明は,「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」るとともに,「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」ているのに対して,引用発明1(2)は,「ロータリ
バルブ」は有するものの,「前記軸支孔37と前記軸支部38との間には,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39」を有している点。
b
相違点2(2)

本件発明は,「吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」を有し,「前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」構成を有するものであるが,引用発明1(2)は,
「圧縮動作時にシリンダボ
ア20内のピストン21からの圧縮反力を回転軸16に設けられたロータリバルブに対しラジアル方向の分力として作用させ,圧縮行程にある前記シリンダボア20に連通する,前記吸入通路と前記シリンダボア20とを連通させるために設けられている通路の入口に向けて前記ロータリバルブを圧接する,少なくとも斜板27を含む手段」を有し,「前記スラスト軸受手段は,前記シリンダブロック11の端面に形成された環状の突条と斜板27の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記斜板27体の突条の径を前記シリンダブロック11の突条の径よりも大きくした」構成を有するものの,「圧縮反力伝達手段」に相当する構成を含むか否かが明らかでない点。


本件発明と引用発明3との対比

本件審決は,引用発明3及び本件発明との一致点・相違点を,以下のとおり認定した。

引用発明3

シリンダブロック2における回転軸24の周囲に配列された複数のシリンダ12,13内にピストン30を収容し,回転軸24の回転に斜板27を介してピストン30を連動させ,回転軸24と一体化されていると共に,ピストン30によってシリンダ12,13内に区画される作動室に冷媒を導入するための吸入通路38,39を有するジャーナル部24a,24bを備えた斜板型圧縮機1において,/シリンダ12,13に連通し,かつジャーナル部24a,24bの回転に伴って吸入通路38,39と間欠的に連通する吸入ポート40,41と,/シリンダブロック2は貫通穴33及び34を有し,その貫通穴33及び34の中心に,ジャーナル部24a,24bを回転可能に収容する比較的薄肉の滑り軸受35,36が一体的に固定され,/吸入通路38,39の出口は,ジャーナル部24a,24bの外周面上にあり,ジャーナル部24a,24bの外周面は吸入通路38,39の出口を除いて円筒形状とされ,吸入ポート40,41の入口は,滑り軸受35,36の内周面上にあり,滑り軸受35,36の内周面にジャーナル部24a,24bの外周面が摺動回転可能に支持されることによってジャーナル部24a,24bを介して回転軸24を支持するジャーナル軸受25,26を有し,/ピストン30は両頭ピストンであり,両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダ12,13に対応する一対のジャーナル部24a,
24bが回転軸24と一体的に回転し,
ジャーナル部24a,
24bの各吸入通路38,39は前記回転軸24内に形成された通路を介して連通し,斜板27は,前後一対のスラスト軸受28,29によって挟まれて回転軸24の軸線の方向の位置を規制されているピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。イ
本件発明と引用発明3との一致点

シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し,前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ,前記回転軸と一体化されていると共に,前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,/前記シリンダボアに連通し,かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路を有し,/前記シリンダブロックは,前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し,/前記導入通路の出口は,前記ロータリバルブの外周面上にあり,前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ,前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段を有し,/前記ピストンは両頭ピストンであり,前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し,前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し,前記カム体は,前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されているピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。

(ア)

本件発明と引用発明3との相違点
相違点3

本件発明は,「吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」を有し,「前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ものであるのに対して,引用発明3は,「圧縮反力伝達手段」を有するか否かが明らかでなく,また,少なくとも一方のスラスト軸受手段が「前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接」するものであって,前記各突起が「前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ものであるとの構成を有していない点。
(イ)

相違点4

本件発明は,「前記吸入通路の入口は,前記軸孔の内周面上にあり,前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており,前記ラジアル軸受手段は,前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり,」との構成を有するのに対して,引用発明3は,ラジアル軸受手段が,「貫通穴33及び34」に一体的に固定された「滑り軸受35,36」と「ジャーナル部24a,24b」とからなるものである点。4
取消事由



本件訂正の可否(取消事由1)


新規事項の追加


本件訂正後の請求項2に係る発明の独立特許要件



引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)



引用発明3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)

第3
1
当事者の主張
取消事由1(本件訂正の可否)について

〔原告の主張〕
(1)

新規事項の追加
本件訂正による訂正事項のうち「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入
通路の出口を除いて円筒形状とされ」
との部分は,
新規事項を追加するものである。

明細書の記載

願書添付の明細書には,「ロータリバルブ35,36の外周面に導入通路の出口を除いて溝や凹部等が設けられておらず,ロータリバルブ35,36の外周面が円筒形状であること」が一切記載されていない。
被告が主張する「冷媒を洩れ難くし,体積効率を向上させる」という本件発明の作用効果は,ロータリバルブの付勢の結果として生じるものであり,ロータリバルブを,外周面に溝や凹部等が設けられていない円筒形状とすることにより生じるものではなく,このことについて願書添付の明細書には記載も示唆もされていない。ウ
図面の記載

願書添付の図面(【図1】~【図5】)に関しても,これらの図面に表されていない領域において,ロータリバルブ35,36の外周面が溝や凹部が設けられていない形状を有しているか否かは不明であるから,「ロータリバルブの外周面に導入通路の出口を除いて溝や凹部等が設けられていない」という構成が記載されているということはできない。かかる溝や凹部等は,本件発明が作用効果を奏する上で無関係の構成であり,特段の技術的意義を有しないものであるから,図面にもあえて破線等で記載しなかったものと解される。
また,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等を設けることは,滑性及びシール性の向上,
ブローバイガスの回収,
体積効率の向上等のために慣用技術であるから
(甲
29~32),【図1】ないし【図5】に表されていない領域において,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等を有する構造は,排除されていない。エ
したがって,本件訂正は,願書添付の明細書等に記載した事項の範囲内にお
いてされたものではない。
(2)

独立特許要件

本件訂正後の請求項2に係る発明は,独立して特許を受けることができない。(3)

小括

よって,本件訂正は認められるものではない。
〔被告の主張〕
(1)

新規事項の追加
本件訂正による訂正事項のうち「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入
通路の出口を除いて円筒形状とされ」との部分は,新規事項を追加するものではない。

明細書の記載
願書添付の明細書には,「ロータリバルブ形成箇所の軸径」(【0066】)という記載があるほか,ロータリバルブは,軸孔内において回転し,回転に伴ってロータリバルブの導入通路を間欠的に吸入通路と連通するものであるから,ロータリバルブの外周面は,導入通路の出口を除いて円筒形状となる。
また,願書添付の明細書には,ロータリバルブ35,36の外周面に溝や凹部等を設けることは一切記載されていない。ロータリバルブの外周面に溝や凹部等が設けられれば,吐出行程にあるシリンダボア内の冷媒が吸入通路からロータリバルブの外周面に沿って溝や凹部等に漏洩し,「冷媒を洩れ難くし,体積効率を向上させる」という本件発明の作用効果が損なわれるから,本件発明において,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等を設けるという構成は採用されていないものである。ウ
図面の記載

願書添付の図面(【図1】~【図5】)から,ロータリバルブ35,36の外周面に導入通路の出口を除いて溝や凹部等が設けられておらず,
ロータリバルブ35,
36の外周面が円筒形状であることを把握できる。

したがって,本件訂正は,願書添付の明細書等に記載した事項の範囲内にお
いてなされたものである。
(2)

独立特許要件

本件訂正後の請求項2に係る発明は,独立して特許を受けることができる。(3)

小括

よって,本件訂正は認められるべきものである。
2
取消事由2(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について

〔原告の主張〕
(1)

相違点1の容易想到性に係る判断について
まず,本件審決が正しく判断したとおり,当業者であれば,引用発明1にお
いて,「吸入弁機構35」に代えて,引用発明2の「回転弁22」を「回転軸16」の「ラジアルベアリング17,18」の部分に設けることは容易に想到し得る。イ
(ア)

ロータリバルブの外周面の形状
次に,引用発明1において,「凹部40」を無くし,「前記ロータリバル
ブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」る構成を採用することは容易に想到し得る。
(イ)

すなわち,凹部40等の「反力付与構造39」は,「ラジアル方向の力P
2」(圧縮反力)を「相殺」するといっても完全に打ち消すものではなく,「回転軸16の円滑な回転に支障は生じない」程度まで低減するものである。そして,凹部40の大きさをどの程度にするかは,滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じないように当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない【0048】。(

したがって,滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じないのであれば,凹部40を設ける必要がないことも,引用例1に基づき当業者が容易に想到し得ることである。
(ウ)

また,引用発明1において,凹部40を設けないことに阻害要因などは存
在しない。
引用発明1は,
滑り軸受を使用した場合において,
「ラジアル方向の力P2」
(圧
縮反力)が大きすぎて回転軸の円滑な回転に支障が生じたときであっても,凹部40を設けることにより,円滑な回転を実現可能にする技術である。引用発明1の前提として凹部40を持たない圧縮機が従来存在したことを考えれば,引用発明1の反力付与手段は,回転軸の円滑な回転に必要な場合に用いればよいというものである。さらには,凹部40は,反力付与構造の一構成要素にすぎず,ガス通路41を設けるだけでも,回転軸の外周面に圧力をかけて,圧縮反力とは反対の方向に回転軸を付勢することができるものである。
これに対し,本件発明は,軸孔の内周面にロータリバルブの外周面が直接支持される滑り軸受構造を使用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じないから,凹部40が設けられていないにすぎない。引用例1には,「回転軸16のラジアルベアリングと対応する部分にロータリバルブを配設した圧縮機において,そのロータリバルブ上に反力付与構造39を配設すること」(【0049】)と記載されていることからすれば,引用例1は,ロータリバルブ式の斜板式圧縮機も従来技術として想定するものであって,引用発明1は,本件発明に「反力付与手段」を更に具備した発明であって,本件発明は後退発明というべきものである。
(エ)

引用発明1において,凹部40が存在することは,「圧縮反力伝達手段」
を具備しないことを意味せず,本件発明の特徴とは無関係な事項でしかない「凹部40」の有無を単純に比較し,進歩性の判断を形式的に行った本件審決は誤りである。

(ア)

ロータリバルブの各導入通路の連通
加えて,引用発明1において,「ロータリバルブの各導入通路は回転軸内
に形成された通路を介して連通」する構成を採用することは容易に想到し得る。(イ)

すなわち,両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機において,
「ロータリバルブの各導入通路は回転軸内に形成された通路を介して連通」したものとすることは,本件特許の原出願の優先日前に周知の事項である(甲10,33~35,50,52,53)。そうすると,引用発明1においてロータリバルブを備える両頭ピストン型の圧縮機について,当業者は,吸入室として利用できる空洞の存在しないフロントハウジング側にも吸入室を設け,さらに,回転軸と吸入室33との間が離れているにもかかわらず,回転弁を同吸入室と連通させる構成を想起することはなく,むしろ,周知技術を適用し,回転軸内の通路によって両導入通路が連通する構成を有し,リアハウジング側の中央部にある空洞を唯一の吸入室として用いる構成を容易に想到する。
(ウ)

これに対し,引用発明1の「吸入室33」は両頭ピストンの両側に有する
タイプであるものの,ロータリバルブを採用した場合に,冷媒は,回転軸の内部に設けられた通路から,ロータリバルブ及び吸入通路を経てシリンダに供給されるのであって,「吸入室33」は不要な構成になる。したがって,「吸入室33」の存在する位置に基づいて,各導入通路が回転軸内に形成された通路を介して連通させる必要がないとするのは失当である。また,引用発明1の「吸入室33」に相当する空間がありながら,ロータリバルブの各導入通路が回転軸内に形成された通路を介して連通する圧縮機も存在する(甲34,50~53)。
さらに,引用発明1に「ロータリバルブ」を適用したものは,引用例1から又は引用例1及び2から導き出せる事項であって,引用例1にも引用例2にも「両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機全体の構成」が開示されていないということはできない。

したがって,引用発明1において,相違点1に係る本件発明の構成を採用す
ることは,当業者が容易に想到することができる。
(2)

被告の主張について
被告は,本件審決は,引用発明1の圧縮反力伝達手段に相当する構成につい
て認定を誤り,相違点の認定を誤ったものである,正しく認定した引用発明1を前提とすれば,相違点A及びBなどを認定すべきであり,これらの相違点は容易に想到できない旨主張する。しかし,以下のとおり,被告の主張は誤りである。イ
(ア)

引用発明1の認定
被告は,本件発明の「圧縮反力伝達手段」に対応する引用発明1の構成に
ついて,本件審決は認定を誤った旨主張するが理由がない。
(イ)

すなわち,引用発明1において,吐出行程にあるシリンダボア20内のピ
ストン21に対する圧縮反力は,斜板27を介して回転軸16に作用し,回転軸16のラジアルベアリング17,18に対応する部分に伝達され,吐出行程の状態にあるシリンダボア20に連通するガス通路41の入口に向けて同部分が付勢される(【0003】【0013】【0034】)。したがって,引用発明1の斜板27及び回転軸16は,本件発明における「圧縮反力伝達手段」に相当する。このことは,引用発明1に,反力付与構造39があったとしても変わりはない。そして,引用発明1においては,反力付与構造39の存在によって,吐出行程にあるシリンダボア側へ回転軸を付勢する圧縮反力の一部が相殺されるにすぎず,圧縮行程(吐出行程)にあるシリンダボアの吸入通路の入口に向けて,ラジアルベアリング17,18に対応する部分が付勢されていることに変わりはない。また,引用発明1において,反力付与構造39が設けられたとしても,ラジアルベアリングに加わる負荷は,完全に相殺されるものではない(【0036】)。反力付与構造39によって回転軸16に作用する力のモーメントは,圧縮反力による力のモーメントよりはるかに小さいことは明らかである。そもそも,引用発明1は,反力付与構造39を設けることで,「回転軸が滑り軸受けに強く圧接されることはなく,滑り軸受けを使用しても回転軸の円滑な回転に支障は生じない。」(【0013】)というものであるから,滑り軸受と回転軸の摺動抵抗が,回転軸の回転に支障がない程度に小さくなるように,回転軸が滑り軸受に圧接する力を弱めてやれば足り,圧接する力を零にする必要まではない。

相違点の認定及び判断

被告は,本件発明と引用発明1との圧縮反力伝達手段に関する相違点について,相違点1及び2ではなく,相違点A及びBなどと認定すべきである旨主張する。しかし,引用発明1には,圧縮反力伝達手段に相当する構成が存在するから,相違点A及びBは存在せず,本件審決が認定した相違点2も存在しない。また,仮に相違点2が認定されたとしても,本件審決が正しく判断したとおり,引用発明1に引用発明2の
「回転弁22」
を適用して,
相違点2に係る本件発明の構成とすることは,
当業者にとって格別なことであるとはいえない。
(3)

小括

よって,本件発明は,引用発明1及び引用発明2に基づき,当業者が容易に想到することができたものである。なお,同様に,本件発明は,引用発明1(2)及び引用発明2に基づき,当業者が容易に想到することができたものである。〔被告の主張〕
(1)

相違点1の容易想到性に係る判断について
引用発明1の圧縮機は,フロントハウジング12及びリアハウジング13の両方に冷媒を導入する経路を備え,前側のシリンダボアにはフロントハウジング12の吸入室33から冷媒が吸入され,後側のシリンダボアにはリアハウジング13の吸入室33から冷媒が吸入されていたのであり,引用発明2の圧縮機のように,これに別途の「回転弁22」を付加して前後のシリンダボアに冷媒を吸入する必要性は全くない。

(ア)

ロータリバルブの外周面の形状
引用発明1において,「凹部40」を無くし,「前記ロータリバルブの外
周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」る構成を採用することは容易に想到できない。
(イ)

引用発明1は,「反力付与構造39」の一つとして,回転軸16の軸支部
38の外面に「凹部40」
が形成されており,「凹部40」が存在しなければ,「圧
縮反力のラジアル方向の分力P2」を相殺する反対方向の力を回転軸16に付与することができなくなる。そのため,引用発明1において,「凹部40」を無くし,回転軸16の軸支部38の外面を円筒形状とすることは,引用発明1が実施できなくなる。回転軸16の軸支部38の外面に形成される「凹部40」は,引用発明1にとって必要不可欠な構成である。
(ウ)

原告は,回転軸の円滑な回転を実現できるのであれば,「凹部40」を設
けるべき必要はないと主張する。しかし,引用発明1は,従来の圧縮機ではラジアル方向の負荷が加わることを前提として(【0003】),滑り軸受を使用するために「凹部40」を含む反力付与構造39を採用したものである(【0005】)。引用例1において,
「滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じない」
状況は,想定されていない。
また,引用発明1の従来技術は,リードバルブ式の斜板式圧縮機において,転がり軸受を採用したものであり,本件発明の従来技術とは異なるものである。引用発明1は,本件発明に「反力付与手段」をさらに具備した発明であるということはできない。本件発明は,引用発明1とは全く異なるロータリバルブ式のピストン式圧縮機に特有の課題に対して,本件発明の構成要件の全てを一体的に採用することにより,冷媒を洩れ難くし,体積効率を向上させるという効果を奏するものである。ウ
(ア)

ロータリバルブの各導入通路の連通
引用発明1において,「ロータリバルブの各導入通路は回転軸内に形成さ
れた通路を介して連通」する構成を採用することは,容易に想到できない。(イ)

引用例1にも引用例2にも,両頭ピストン側のロータリバルブを配設した
圧縮機の構成は開示されていない。引用例1及び2から,両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機において,前側のロータリバルブの導入通路及び後側のロータリバルブの導入通路にどのように冷媒を供給するのか把握することはできない。
また,仮に,引用発明1に引用発明2を適用して,フロントハウジング12とリアハウジング13の吸入室33に,回転弁22を付加した場合,前後の吸入室33からそれぞれ前後の回転弁22を介してシリンダボアに冷媒を供給すればよい。また,
両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機において,前側のロータリバルブの導入通路及び後側のロータリバルブの導入通路に冷媒を供給する手法は様々存在する(甲31,32)。したがって,「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通」させる必要性は全くなく,このような構成を採用する動機付けは存在しない。

したがって,引用発明1において,相違点1に係る本件発明の構成を採用す
ることは,当業者が容易に想到することができたものではない。
(2)

本件発明の容易想到性について
仮に相違点1について容易に想到できるとしても,以下のとおり,引用発明
1に基づく進歩性を否定した本件審決は,結論において誤りはない。すなわち,正しく認定した引用発明1を前提とすれば,相違点1に対応する相違点のほか,相違点A及びBを認定することができ,これらの相違点は,当業者が容易に想到することができたものではない。

(ア)

引用発明1の認定
本件発明の「圧縮反力伝達手段」に対応する構成の誤り

本件審決は,引用発明1を「圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力を回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用させ,軸支孔37の内周壁に対して前記回転軸16上の大径の軸支部38を圧接する少なくとも斜板27を含む手段とを有し」,「前記軸支孔37と前記軸支部38との間には,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39が形成され」と認定した。
しかし,正しくは,引用発明1は,「圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力が回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用するが,前記軸支孔37と前記軸支部38との間に形成され,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力を相殺する反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39とを有し」と認定されるべきである。引用例1は,本件発明における「圧縮反力伝達手段」を開示するものではない。
(イ)

引用発明1において,圧縮反力に基づいて回転軸16に作用する「圧縮反
力のラジアル方向の分力P2」は,「反力付与構造39による反対方向の力」により「相殺」される。したがって,「圧縮反力」に基づく「圧縮反力のラジアル方向の分力P2」により,「軸支部38」を「軸支孔37の内周壁」に押し付ける力は零である。
また,引用例1は,反力付与手段によりラジアル方向の力が相殺され,回転軸が滑り軸受に
「強く圧接」
されることはないことを開示しているから,
軸支部38は,
軸支孔37の内周壁を圧接するとの記載(【0003】【0013】【0034】~【0036】)は,反力付与手段が設けられた引用発明1の圧縮機において,回転軸が滑り軸受に圧接されることを開示するものではない。
さらに,引用例1には,「圧縮反力のラジアル方向の分力P2」と「反力付与構造39による反対方向の力」とを,同じ大きさの力で「相殺」することしか開示されておらず,いずれかの力を大きくすることについて一切開示されていない。凹部の形状について「回転軸16に作用するラジアル方向の力P2を考慮して,最適なものを選択すればよい。」(【0048】)と記載されていることからすれば,引用発明1は,「反力付与構造」によって「圧縮反力」に基づいて回転軸16に作用する「圧縮反力のラジアル方向の分力P2」を相殺し,回転軸16にラジアル方向の分力を作用させないことを基本的な技術思想としていることが理解できる。(ウ)

(ア)

したがって,本件審決は,引用発明1の認定を誤ったものである。相違点の認定及び判断
前記イ(ア)のとおり,正しく認定した引用発明1を前提とすれば,本件発
明と引用発明1との相違点は,相違点1に対応する相違点に加えて,次のとおり,認定すべきである。
a
相違点A

本件発明は,「吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して,吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段」を有するのに対し,引用発明1は,「圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力が回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用するが,前記軸支孔37と前記軸支部38との間に形成され,ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力を相殺する反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する反力付与構造39」を有し,「圧縮動作時にシリンダボア20内のピストン21からの圧縮反力が回転軸16に対しラジアル方向の分力として作用する」が,反力付与構造39により「ピストン21の圧縮動作時に斜板27を介して回転軸16にそのラジアル方向へ作用する力を相殺する反対方向の力を,前記回転軸16に対して付与する」ため,回転軸16には圧縮反力に基づく力が作用しておらず,本件発明の「圧縮反力伝達手段」を有しない点。b
相違点B

本件発明は,「前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし,該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は,前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」のに対し,引用発明1は,この構成が開示されていない点。(イ)

そして,相違点A及びBに係る本件発明の構成は,次のとおり,引用発明
1及び引用発明2に基づき容易に想到することができるものではない。a
相違点Aの容易想到性

引用発明1においては,「反力付与構造39による反対方向の力」よりも「圧縮反力のラジアル方向の分力P2」を大きくし,「吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する」構成を具備することへの動機付けは存在しない。また,引用発明2には,そもそも回転弁22に対してラジアル方向に力が作用することについて何らの記載も示唆も存在せず,本件発明の課題も効果も開示するものでもないから,引用発明1において相違点Aに係る本件発明の構成を採用する動機付けとなるものではない。
b
相違点Bの容易想到性

「ロータリバルブを配設した圧縮機」において,スラスト荷重吸収機能を付加されたスラスト軸受手段を採用することは周知技術でも慣用技術でもなく,スラスト荷重吸収機能を付加されたスラスト軸受手段を備えた両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機の構成は,引用例1にも引用例2にも開示されていない。⑶

小括

よって,本件発明は,引用発明1及び引用発明2に基づき,当業者が容易に想到することができたものということはできない。なお,同様に,本件発明は,引用発明1(2)及び引用発明2に基づき,
当業者が容易に想到することができたものという
ことはできない。
3
取消事由3(引用発明3に基づく進歩性判断の誤り)について

〔原告の主張〕
(1)

相違点4の容易想到性に係る判断について
引用発明3に,周知慣用技術(「回転軸をシリンダブロックにより直接支持
する構成」)を適用して,相違点4に係る本件発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

すなわち,引用例1【0045】,甲9,甲19【0040】,甲20のほ
か,片頭ピストンではあるものの甲21(【図1】【図3】)の記載によれば,「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」は慣用技術である。また,「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」によって,引用発明3の構成に比して,さらに部品点数の削減,加工工程の削減,製造原価の削減を図ることができる。
したがって,引用発明3から「滑り軸受35,36」を無くし,回転軸をシリンダブロックで直接軸受けする構成を想到することは,設計事項にすぎない。ウ
さらに,引用発明3の必須の構成は,回転軸を支持するラジアル軸受を,転
がり軸受ではなく滑り軸受として,回転軸の内周面の加工を容易にするとともに,回転軸に取り付けられた「ロータリバルブ」を排除し,回転軸自体に吸入弁を併設して,公差の発生原因を取り除き,これらにより,クリアランスを小さくしたものである。そして,引用発明3の滑り軸受構造に,「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」を組み合わせても,上記構成はそのままであり,滑り軸受部分の円筒内面の精密な仕上げ加工を可能とし,クリアランスを大幅に小さくして,冷媒の漏洩を防止できるという効果は何ら妨げられない。
なお,回転抵抗低減のために軸受の内周面等に潤滑油やフッ素樹脂等の固体潤滑材を用いることは慣用技術であるから(甲20),引用発明3において「回転軸をシリンダブロックで直接支持する構成」を採用しても,阻害要因はない。エ
一方,「滑り軸受35,36」は,回転抵抗低減のために設けられる部材で
あることを理由として,
引用発明3に必須の構成であるということはできないから,
同構成を,「回転軸をシリンダブロックで直接軸受する構成」に置換することに阻害要因はない。
すなわち,引用例3には,クリアランスを小さくすると回転抵抗が増大する旨の記載はないこと,引用例3は,冷媒の漏洩や小型化を課題とするものであって,課題解決過程において,「極めて小さなクリアランスと回転軸の円滑な回転とを同時に実現する」という課題も存在しないことから,「滑り軸受35,36」は必須の構成であるということはできない。引用例3【0028】には,回転軸をシリンダブロックで直接受けるのではなく,回転軸を「滑り軸受35,36」により受けることによる効果も記載されていない。引用例3【0027】には,回転軸の径を小さくすることによって固体潤滑材のコーティングを施す必要がなくなることが示唆されているほか,回転軸をシリンダブロックで直接軸受けする構成が慣用技術であって,回転抵抗低減のためにフッ素樹脂等を積層する構成も慣用技術であることからも,「滑り軸受35,36」のような別部材を用いる必然性はなく,これが必須の構成であるということはできない。
また,「滑り軸受35,36」の内周面に「フッ素樹脂等」を積層することは一実施例の記載にすぎないから,フッ素樹脂が低摩擦を実現するための素材であることをもって,「滑り軸受35,36」は,回転抵抗低減のために設けられる部材ということはできない。さらに,回転軸の回転抵抗低減に資する部分は「滑り軸受35,36」の内周面に積層されたフッ素樹脂自体であるから,「滑り軸受35,36」が回転抵抗低減のために設けられる部材であるということもできない。引用発明3において,
フッ素樹脂等の固体潤滑材のコーティングを施した
「滑り軸受35,
36」のような部材を用いることは必須の構成ではない。
(2)

被告の主張について
被告は,相違点3が容易に想到できるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,
本件審決が正しく判断したとおり,
引用発明3に,
周知技術を適用して,
相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

まず,甲3,7,9,17,28から,軸線方向の寸法公差を吸収するため
に,斜板式圧縮機の斜板の前後方向に斜板を挟むように設けられるスラスト軸受手段を,シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と斜板の端面に形成された環状の突条とに当接するものとし,更に,斜板の環状の突条の径をシリンダブロックの環状の突条の径よりも大きくすることが周知の技術であったことが認められる。なお,甲28(【0060】【図1】)及び甲67(【図11】)には,ロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段を採用することも記載されている。

そして,ピストン式圧縮機においては,ロータリバルブ式かリードバルブ式
かを問わず,組み付け時の公差を吸収するために,少なくとも一方にスラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受を採用することは,技術常識である(甲24~27)。リードバルブ式には,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受を採用することで公差を吸収することができても,ロータリバルブ式にはスラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受を採用することができないとか,これを採用しても公差が吸収されないといった事情はない。
そして,このような技術常識に鑑みれば,引用発明3において,少なくとも一方のスラスト軸受を,上記周知技術のように弾性変形可能にすることは,当業者が当然に採用すべき事項である。
引用発明3のようなロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,「圧縮反力伝達手段の一部として」という目的がなければ,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段を採用する動機付けがないということはできない。エ
これに対し,被告は,引用発明3を,圧縮反力によって回転軸を変位させないスラスト軸受28及び29を採用したものであると主張するが誤りである。すなわち,引用例3には,圧縮反力にもかかわらず,スラスト軸受28及び29が回転軸の変位を抑えることによって,クリアランスを維持するとの構成は記載されておらず,その示唆もない。引用例3の従来技術(【図3】)と引用発明3(【図1】)とは,ラジアル軸受の配設位置の相違を示すものであって,これをもってスラスト軸受28及び29の構造を比較し,引用発明3のスラスト軸受が回転軸の変位を許容しないものと解釈することはできない。
また,引用発明3において,斜板に作用する均等でない圧縮反力を排除できていない。引用発明3のスラスト軸受28及び29は,平坦な端面と当接する構造ではあるものの,応力を受けて歪み,回転軸が傾いたり,軸がずれたりするから(甲26【0006】,甲27【0006】【0026】),引用発明3は,回転軸の回転中に圧縮反力を受け,回転軸の変位を許容する構造である。転がり軸受タイプのスラスト軸受には遊隙が存し,軸と垂直方向の遊隙により軸の偏心を吸収することは本件特許の出願前から技術常識として存する(甲54~58)。さらに,図1では,スラスト軸受が斜板に接する位置に設けられているところ,この位置は,スラスト軸受を設けることのできる位置としては,回転軸の変位の中心に最も近い位置であり,
回転軸の変位を抑えることが最も難しい位置であるから,
スラスト軸受の位置に鑑みても,引用発明3が,スラスト軸受によって,回転軸の変位を抑えることを目的としていたと考えることはできない。
加えて,引用発明3において,スラスト軸受28及び29とは異なり,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段を採用しても,回転軸の挙動は異なるものではない(甲66)。
(3)

小括

よって,本件発明は,引用発明3及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易に想到することができたものである。
〔被告の主張〕
(1)

相違点4の容易想到性に係る判断について
本件発明の相違点4に係る構成は,引用発明3及び「回転軸をシリンダブロ
ックにより直接支持する構成」という周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

すなわち,
引用発明3は,
軸受構造と吸入弁の構造を簡単にするだけでなく,

滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工が容易に行われ,ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくすることを可能とし,圧縮された流体が吸入弁から漏洩することを防止するために,ジャーナル軸受を採用したものである(【0009】【0016】【0020】【0021】【0028】)。引用例3の請求項1にも,回転軸を指示する軸受がジャーナル軸受であると記載され,シリンダブロック内に取り付けられる滑り軸受が発明の構成に欠くことができない事項であることが明記されている。引用発明3の滑り軸受35,36は,滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工が容易に行われ,ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくするために必要とされているものである。
したがって,引用発明3において,回転軸を支持する軸受を,滑り軸受とジャーナル部とによって構成されるジャーナル軸受とすることは,課題解決に必要不可欠な構成要件であって,当業者は,滑り軸受35,36を除くことを想到し得ない。なお,
引用例3には,
「回転軸の円滑な回転」
に関する課題は明記されていないが,
回転軸を円滑に回転させることはラジアル軸受の基本的な機能に由来する自明な課題であるから,本件審決の判断に誤りはない。

そもそも,ロータリバルブ式の圧縮機におけるラジアル軸受手段は,甲9,
19,20においては,一切開示されておらず,引用例1【0049】において,部分的に開示されるのみである。したがって,「回転軸をシリンダブロックで直接軸受けする構成」を,ロータリバルブ式の圧縮機の周知慣用技術であるということはできない。
(2)

本件発明の容易想到性について

仮に相違点4について容易に想到できるとしても,以下のとおり,引用発明
3に基づく進歩性を否定した本件審決は,結論において誤りはない。すなわち,本件発明の相違点3に係る構成は,引用発明3及び原告主張の周知技術(スラスト軸受として径の異なる環状の突条を当接させる構成,すなわち,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段)に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。

引用例3の従来技術(【0025】【図3】)とは異なり,引用発明3の前
後一対のスラスト軸受28及び29は,いずれもが平坦な端面と当接しているから(【図1】),斜板27に加えられた圧縮反力によってスラスト軸受が撓み変形することはなく,圧縮反力を回転軸24に伝達しない。このため,圧縮反力によって回転軸が変位しない。このように,引用発明3は,微小なクリアランスを維持するために圧縮反力によって回転軸が変位しないスラスト軸受28及び29を採用したものである(【0021】【0025】)。
そして,引用発明3に,スラスト軸受として径の異なる環状の突条を当接させる構成を適用した場合,圧縮反力によって回転軸が変位することになり,微小なクリアランスを維持できなくなることにつながり,引用発明3の課題を解決できなくなる。したがって,上記構成がたとえ周知技術であったとしても,これを引用発明3に適用することは当業者が容易に想到し得ない。
なお,本件審決は,引用例3には,スラスト軸受が転がり軸受であることが示唆されており,転がり軸受には遊隙があることが自明であって,この遊隙があることにより圧縮反力が伝達され得るとするが,引用例3には,スラスト軸受について遊隙があることは記載されておらず,スラスト軸受に関する技術常識にも反する(乙2)。また,甲26及び27において,前後一対のスラスト軸受のうち,一方のスラスト軸受は平坦な端面と当接していたとしても,他方のスラスト軸受は平坦な端面と当接する構造を採用していないから,「スラスト軸受が平坦な端面と当接していても,スラスト軸受が転がり軸受の場合にはゆがむことはありうる」ということはできない。

また,引用例3には,圧縮反力により,吐出行程にあるシリンダボアに連通
する吸入通路の入口に向けてロータリバルブを付勢することについては,記載も示唆も存在しない。むしろ,引用発明3は,圧縮反力が問題発生の要因の一つであることを明らかにしている(【0004】【0025】)。したがって,当業者にとって,周知技術を採用することにより,圧縮反力を積極的に利用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けてロータリバルブを付勢し,冷媒の漏れを防止し,体積効率を向上させた本件発明を想到することは容易になし得るものではない。また,本件発明は,引用発明3から予測できない顕著な効果を奏するものである。

そもそも,周知技術の根拠とされる甲3,7,9及び17は,いずれもロー
タリバルブを備えたピストン式圧縮機を開示していない。引用発明3のようなロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において,圧縮反力伝達手段の一部としてスラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段を採用することについては記載も示唆も一切存在しない。
甲28からも,リードバルブを備えたピストン式圧縮機において,弁形成板を本体板に対して固定するための固定手段を本体板と弁形成板との間に設けた構造が把握できるだけであり(【0008】),具体的なロータリバルブを備えた圧縮機の構造は開示されておらず,また,甲28は,スラスト荷重吸収機能を付与されたスラスト軸受手段に関するものでもない。
(3)

小括

よって,本件発明は,引用発明3に基づき,当業者が容易に想到することができたものではない。
第4
1
当裁判所の判断
本件発明について

本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2⑵【請求項1】のとおりであるところ,本件明細書(甲49)によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。なお,本件明細書には,別紙1本件明細書図面目録のとおり,図面が記載されている。


本件発明は,回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを
収容し,回転軸の回転にカム体を介してピストンを連動させ,また,回転軸と一体化されていると共に,ピストンによってシリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機における冷媒吸入構造に関するものである(【0001】)。


従来,圧縮機において,吐出行程にあるシリンダボア内の冷媒がこのシリン
ダボアに連通する吸入通路からロータリバルブの外周面に沿ってシリンダボア外に洩れやすい。そして,このような冷媒漏れは,圧縮機の体積効率を低下させるという問題があった(【0004】)。


本件発明は,ロータリバルブを用いたピストン式圧縮機における体積効率を
向上させることを目的とするものである(【0005】)。


本件発明は,上記目的を達成するために,請求項1の構成を採用したもので
ある。
すなわち,本件発明は,吐出行程にあるシリンダボア内のピストンが,圧縮反力を受け,この圧縮反力が,ピストン及びカム体を介して回転軸に伝達され,回転軸に伝達される圧縮反力が,吐出行程にあるシリンダボアに向けてロータリバルブを付勢し,吐出行程にあるシリンダボアに向けて付勢されるロータリバルブが,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けて付勢されるという構成を有する(【0007】【0008】)。そして,このような吸入通路の入口に向けてロータリバルブを付勢するという構成は,吸入通路からの冷媒漏れ防止に寄与する(【0008】)。
また,本件発明における回転軸のラジアル軸受手段は,シリンダブロックが回転軸をロータリバルブを介して支持するというものであり,回転軸と一体化された導入通路の出口が,ロータリバルブの外周面上に設けられ,吸入通路の入口が,軸孔の内周面上に設けられ,軸孔の内周面にロータリバルブの外周面が直接支持され,さらに,これが唯一のラジアル軸受手段とされている(【0009】)。そして,このような支持構成は,吸入通路の入口に向けたロータリバルブの付勢による冷媒漏れ防止作用を高める(【0010】)。
さらに,本件発明におけるカム体のスラスト軸受手段の少なくとも一方は,シリンダブロックの端面に形成された環状の突条とカム体の端面に形成された環状の突条とに当接し,カム体の突条の径はシリンダブロックの突条の径よりも大きく,スラスト荷重吸収機能が付与されている(【0010】)。そして,このようなスラスト荷重吸収機能は,吸入通路の入口に向けてロータリバルブを付勢する状態をもたらすような回転軸の変位を許容する(【0010】)。


本件発明は,吐出行程にあるシリンダボア内のピストンに対する圧縮反力に
より,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向けてロータリバルブを付勢し,吸入通路からの冷媒漏れを防止することによって,ロータリバルブを用いたピストン式圧縮機における体積効率を向上し得る(【0015】)。2
取消事由1(本件訂正の可否)について



新規事項の追加


原告は,本件訂正による訂正事項のうち「前記ロータリバルブの外周面は,
前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」との部分(以下「本件訂正部分」という。)は,新規事項を追加するものであると主張する。

本件訂正部分の内容

本件訂正部分に関する本件訂正は,「ロータリバルブ」について,「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ」という事項を追加することにより,ロータリバルブの外周面の形状について,特定されていなかったものを,導入通路の出口以外,溝,凹部等が設けられていないと特定するものである。
そうすると,本件訂正部分に関する本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加するものということができる。ウ
願書に添付した図面の記載

願書に添付した図面(甲49)【図1】において,ロータリバルブ35,36の指し示す範囲の外周面には,導入通路の出口を除いて溝や凹部等が記載されていない。
また,同図面【図1】におけるA-A線断面図である【図2】(a)とその要部拡大図である【図2】(b),及び,B-B線断面図である【図3】(a)とその要部拡大図である【図3】(b)のいずれにおいてもロータリバルブ35,36の外周面351,361に導入通路31,32の出口を除いて,溝や凹部等が記載されていない。そして,【図2】【図3】は,ロータリバルブ35,36の断面の形状を表そうとするものと解されるから,ロータリバルブ35,36のA-A線及びB-B線以外の部分の断面の形状も,A-A線及びB-B線の断面図と同様のものを考えるのが自然である。仮に,ロータリバルブ35,36の外周面に,導入通路31,
32の出口を除いて溝や凹部等が存在するのであれば,
【図2】
(a)(b)


【図3】(a),(b)において,当該溝や凹部等は,甲29【図3】【図5】,甲30【図3】,甲31【図3】【図5】のように,破線等を用いて図示されるものである。
そうすると,本件訂正部分は,願書に添付した図面に記載されていたものということができる。

特段の事情

本件訂正部分に関する本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加するものであって,本件訂正部分は,願書に添付した図面の記載から自明であるから,このような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,新規事項を追加するものではないというべきである。
そして,願書に添付した明細書等には,ロータリバルブの外周面について,導入通路の出口部分以外には溝や凹部等がなく,円筒形状であることに矛盾する記載も見当たらないから,上記特段の事情があるということはできない。オ
(ア)

原告の主張について
原告は,願書に添付した図面に表されていない領域(A-A線断面,B-
B線断面以外の領域)において,ロータリバルブの外周面に,溝や凹部等が設けられているか否かについては不明である,また,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等を設けることは慣用技術である,と主張する。
しかし,本件発明において,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等を設けることは,願書に添付した特許請求の範囲に記載されているわけではなく,発明の課題解決手段として必須であったということもできない。したがって,仮にロータリバルブの外周面に溝や凹部等を設けることが慣用技術であったとしても,これをもって,
願書に添付した図面に表されていない領域において,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等が設けられていない構成が排除されているということはできない。そして,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等が設けられていない構成が排除されていないのであるから,本件訂正部分は,願書に添付した明細書等に記載されていたものということができる。
(イ)

原告は,「冷媒を漏れ難くし,体積効率を向上させる」という本件発明の
効果は,ロータリバルブの外周面に溝や凹部等がないことにより生じるものではないと主張する。
しかし,前記ウのとおり,願書に添付した図面に,ロータリバルブの外周面が,導入通路の出口を除いて円筒形状とされていることが記載されているから,原告の上記主張は,新規事項の追加の有無の判断を左右するものにはならない。カ
以上によれば,本件訂正部分に関する本件訂正は,新規事項を追加するもの
ではなく,願書に添付した明細書等に記載した範囲内においてなされたものということができる。


独立特許要件

後記3,4のとおり,本件発明は,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないところ,本件訂正後の請求項2に係る発明は,本件発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付したものであるから,本件訂正後の請求項2に係る発明もまた,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
したがって,本件訂正後の請求項2に係る発明は,独立して特許を受けることができる。


小括

以上によれば,本件訂正は,新規事項の追加には当たらず,独立特許要件も満たすものであるから,許されるべきものである。
よって,取消事由1は理由がない。
3
取消事由2(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について



引用発明1について開示された事項

引用例1(甲1)には,別紙2引用例図面目録引用例1【図4】のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明1に関し,以下の点が開示されているものと認められる。

引用発明1は,斜板式圧縮機等の往復動型圧縮機に関するものである(【0
001】)。

従来の,回転軸に斜板が支持され,回転軸の回転に伴いこの斜板を介してピ
ストンが往復動されるような圧縮機においては,斜板が傾斜しているから,ピストンの圧縮動作時に発生する圧縮荷重,すなわち圧縮反力が,斜板を介して回転軸に対し,その回転軸のラジアル方向の分力として作用し,ラジアルベアリングに大きな負荷が加わる。このため,このような大きなラジアル方向の負荷が加わっても,回転軸の円滑な回転に支障が無いように,ラジアルベアリングとしてニードルベアリングやボールベアリング等の転がり軸受が使用されていた(【0003】)。しかし,ニードルベアリングやボールベアリング等の転がり軸受は高価であるから圧縮機のコスト低減の妨げになるという問題があった(【0004】)。ウ
引用発明1は,回転軸を支持するラジアルベアリングとして,高価な転がり
軸受を使用する必要がなく,製造コストの低減を図ることができる圧縮機を提供することを目的とするものである(【0004】)。

引用発明1は,上記目的を達成するために,ラジアルベアリングを滑り軸受
により構成するとともに,ピストンの圧縮動作時に斜板を介して回転軸にそのラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を,同回転軸に対して付与するために,滑り軸受と対向する回転軸の外面においてピストンが上死点付近にあるシリンダボアと対応するように形成された凹部40と,その凹部内に高圧ガスを導入するためのガス通路41とから構成される反力付与構造39を設けたものである(【0005】【0006】【0043】)。

引用発明1は,ラジアルベアリングが転がり軸受ではなく,滑り軸受により
構成されるから製造コストが低減される(【0013】)。
また,引用発明1では,回転軸に作用する圧縮荷重のラジアル方向への分力と,回転軸上の凹部に高圧ガスが導入され,その圧力が高められることによって回転軸に付与される反対方向の力とが相殺されるから,回転軸が滑り軸受に強く圧接されることはなく,滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に支障は生じない(【0013】【0014】)。


引用発明1の認定


本件発明の「圧縮反力伝達手段」に対応する構成について

(ア)

引用例1(甲1)の【0003】【0013】【0034】【0042】
及び【図4】の記載によれば,引用例1に記載された圧縮機は,圧縮動作時に少なくとも斜板27を含む手段が,回転軸16上の大径の軸支部38に,ラジアル方向の分力P2を作用させ,軸支部38は,軸支孔37の内周壁を圧接することが認められる。
(イ)

これに対し,被告は,引用例1に記載された圧縮機において,圧縮反力に
基づいて回転軸16に作用する「圧縮反力のラジアル方向の分力P2」は,「反力付与構造39による反対方向の力」により「相殺」されるから,引用例1には,回転軸(軸支部38)が滑り軸受(軸支孔37の内周壁)に圧接される圧縮機は開示されていない旨主張する。
しかし,前記⑴のとおり,引用例1には,ピストンの圧縮動作時に発生する圧縮反力が,斜板を介して回転軸に対し,回転軸のラジアル方向の分力として作用することで,ラジアルベアリングに大きな負荷がかかるものであるところ,その大きな負荷を解消するために反力付与手段を設けた圧縮機が記載されている。そして,反力付与手段は,圧縮反力のラジアル方向の分力と反対方向の力を作用させて圧縮反力のラジアル方向の分力を相殺し,「軸支部38」を押し付ける力を零にしようとするものであって(【0013】【0035】【0036】),圧縮反力自体をなくすことにより,圧縮反力のラジアル方向の分力をなくすものではない。このように,引用例1に記載された圧縮機は,反力付与手段の有無に関係なく,ピストンの圧縮動作時に発生する圧縮反力が,斜板を介して回転軸に対し,回転軸のラジアル方向の分力として作用することにより,回転軸(軸支部38)が滑り軸受(軸支孔37の内周壁)に圧接されるものである。被告の上記主張は採用できない。

そして,上記検討に加え,引用例1(甲1)の記載(【0001】【000
5】【0006】【0014】【0042】~【0044】【図4】)によれば,引用例1に前記第2の3⑵アの引用発明1が記載されていることが認められる。⑶

相違点の認定


本件発明と引用発明1とを対比すれば,本件発明と引用発明1の相違点は,
前記第2の3⑵ウの相違点1及び2のとおりであると認められる。イ
これに対し,被告は,本件発明と引用発明1とは,相違点A及びBにおいて
相違する旨主張する。しかし,同主張は,前記⑵ア(イ)のとおり,引用発明1の誤った認定を前提とするものであるから,採用できない。
また,
原告は,
引用発明1には圧縮反力伝達手段に相当する構成が存在するから,本件審決の相違点2の認定は,この点において誤りである旨主張する。しかし,引用発明1は,ピストン21からの圧縮反力を回転軸16に対し作用させるものであるが,本件発明と同様の伝達手段までをも備えるかについては,必ずしも明らかではないから,原告の上記主張は採用できない。


相違点1の容易想到性


原告は,引用発明1に,引用発明2を適用して,相違点1に係る本件発明の
構成を採用することは,当業者が容易になし得たものであると主張する。イ
(ア)

引用発明2
引用例2(甲2)には,本件審決が認定したとおり,「シリンダブロック
1における駆動軸6の周囲に配列された5個のボア1b内にピストン15を収容し,前記駆動軸6の回転により斜板9を介して前記ピストン15を往復動させ,前記駆動軸6の後端に装着されているとともに,前記ピストン15によって前記ボア1b内の区画される空間に冷媒を導入するための吸入通路25を有する回転弁22を備えた揺動斜板式圧縮機において,/前記ボア1bに連通し,かつ前記回転弁22の回転に伴って前記吸入通路25との連通と遮断を繰り返す吸入ポート21を有し,/前記シリンダブロック1は,前記回転弁22を滑合可能に収容する軸心孔1aを有し,/前記吸入通路25の溝部25bは,前記回転弁22の外周面上にあり,前記吸入ポート21の入口は,前記軸心孔1aの内周面上にあり,/前記ピストン15を収容するボア1bに対応する回転弁22が駆動軸6と同期して回転する揺動斜板式圧縮機における冷媒吸入構造。」との発明が記載されていることについては,当事者間に争いがない。
(イ)

そして,引用例2(甲2)には,別紙2引用例図面目録引用例2【図1】
のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明2に関し,以下の点が開示されているものと認められる。
a
引用発明2は,車両空調用に供して好適な往復動型圧縮機に関するものであ
る(【0001】)。
b
従来の往復動型圧縮機においては,リアハウジングの外周側に吸入室が環状
に形成され,この吸入室は,リアハウジングの外周側に貫設された冷媒導入孔87aにより冷凍回路と接続される。しかし,この種の往復動型圧縮機では,冷媒導入孔87aから各吸入ポートを介して各ボアに至る吸入経路が不均衡になっていたため,冷媒導入孔に近いボアでは好適に冷媒を吸入・圧縮するものの,冷媒導入孔から遠いボアでは圧力損失から不足した冷媒を吸入・圧縮することとなり,各ボアをそれぞれ有効に活用できず,充分な性能を発揮できないとともに,各ボアの圧縮反力のアンバランスから振動・異音を生じるなどの問題があった(【0006】【0007】)。
c
引用発明2は,往復動型圧縮機における上記問題を解決するために,ハウジ
ングには内周側に吸入室,外周側に吐出室を隔設し,吸入室の外側壁には駆動軸と同心上に整合する冷媒導入孔を貫設する構成とし,また,吸入弁手段として,駆動軸に一体回転可能に装着され,吸入室と吸入行程時の吸入ポートとを連通させる吸入通路をもつ回転弁を採用したものである(【0008】【0009】)。d
引用発明2は,上記構成を採用することにより,冷媒導入孔から各ボアに至
る吸入経路が均等かつ最短になっており,全ボアが好適に冷媒を吸入・圧縮するから,各ボアをそれぞれ有効に活用して充分な性能を発揮させるとともに,各ボアの圧縮反力のバランスから振動・異音を生じさせることがない(【0010】【0024】)。

(ア)
a
容易想到性について
ロータリバルブの外周面の形状
「ロータリバルブ」を有していない引用発明1に,溝部25bを除く回転弁
22の外周面の形状が特定されていない引用発明2を適用することにより,「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状」とされる本件発明の構成を採用することを,当業者が容易になし得たか否かについて検討する。b
前記(1)によれば,
引用発明1は,
回転軸を支持するラジアルベアリングとし

て,製造コスト低減のために,転がり軸受ではなく,滑り軸受を採用したものである。また,引用発明1は,滑り軸受を採用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じないようにするために,回転軸が滑り軸受に強く圧接されないための構成として,ラジアル方向へ作用する力と反対方向の力を回転軸に付与するために,回転軸の外面に凹部と,それに高圧ガスを導入するためのガス通路とから構成される反力付与構造39を設けたものである。
したがって,引用発明1において回転軸の外面に凹部などの反力付与構造が設けられたことは,製造コスト低減という課題の解決手段として滑り軸受を採用するための必須の構成であるということができる。
そうすると,回転軸の外面に凹部などの反力付与構造39を設けることを必須の構成として有する引用発明1に,溝部25bを除く回転弁22の外周面の形状が特定されていない引用発明2を適用しても,「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状」とされる本件発明の構成には至らないというべきである。
このことは,引用発明1と引用発明2とは,ピストン型斜板式圧縮機という同一の技術分野に属すること,引用例1には,「例えば特開平5-126039号公報(判決注:引用例2)に開示されているように,回転軸16のラジアルベアリングと対応する部分にロータリバルブを配設した圧縮機において,そのロータリバルブ上に反力付与構造39を配設すること。」と記載されていること(【0049】)をもって,左右されるものではない。
c
(a)

原告の主張について
原告は,
凹部40の大きさは,
滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に

支障が生じないように当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎないから,滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な支障が生じないのであれば,凹部40を設ける必要がない旨主張する。
しかし,引用発明1は,滑り軸受を採用することによって,回転軸に円滑な回転の支障が生じることを前提に,これを軽減するために,凹部40等から構成される反力付与構造39を採用したものである。滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な支障が生じないことを前提として,引用発明1を解釈する原告の上記主張は採用できない。


原告は,凹部40を持たない圧縮機は従来存在した,本件発明は滑り軸受構
造を使用しても回転軸の円滑な回転に支障を生じないから凹部40が設けられていないにすぎない,凹部40は本件発明の特徴と無関係であるなどと主張する。しかし,引用発明1は,滑り軸受を採用することによって回転軸の円滑な回転に支障が生じることを軽減するために,凹部40等から構成される反力付与構造39を採用したものである。引用発明1において回転軸の外周面に凹部40を採用した技術的意義を捨象して,引用発明1に基づく容易想到性を判断できるものではないから,引用発明1を離れて凹部40の意義を解釈する原告の主張は採用できない。⒞

原告は,引用発明1において,凹部40は反力付与構造の一構成要素にすぎ
ず,ガス通路41を設けるだけでも,回転軸の外周面に圧力をかけることができると主張する。
しかし,引用例1には「各反力付与構造39は吐出圧導入溝40a及び圧力作用部40bよりなる凹部40と,複数のガス通路41とから構成されている」(【0043】)と記載されており,凹部40を有さずに,ガス通路を設けるだけの反力付与構造39は当業者が容易に想到できるものではない。凹部40を反力付与構造の一構成要素にすぎないとする原告の主張は採用できない。
d
よって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けを欠くから,引用発明
1及び引用発明2に基づき,相違点1に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到できたものであるということはできない。
(イ)

ロータリバルブの各導入通路の連通
a
引用発明1は,両頭ピストンの両側に「吸入弁機構35」を有するものであ
るところ,これに,引用発明2の「駆動軸6の後端に装着されているとともに」,「吸入通路25を有する回転弁22」
を適用した場合,
吸入通路を有する回転弁が,
回転軸の両端部に配置されることになる。
そして,引用発明1は,「吸入弁機構35」を有するから,回転軸16に通路は形成されていない。また,引用発明2の「回転弁22」も「駆動軸6の後端に装着されている」から,回転弁22には,駆動軸の後端から冷媒が吸入され,駆動軸に通路は形成されていない。そうすると,引用発明1に引用発明2を適用しても,吸入通路を有する回転弁が,回転軸の両端部に配置されるにとどまり,回転弁の各吸入通路が,回転軸内に形成された通路を介して連通されることはない。そして,引用発明2は,回転弁22に駆動軸6の後端から冷媒が吸入されるものであるから,引用発明1に引用発明2を適用した場合,回転弁の各吸入通路には回転軸の各端部から冷媒が吸入される構成となる。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用しても,「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」という本件発明の構成には至らないというべきである。
b
原告の主張について

原告は,両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機において,「ロータリバルブの各導入通路は回転軸内に形成された通路を介して連通」したものとすることは周知技術であるから,当業者は,周知技術を適用し,回転軸内の通路によって両導入通路が連通する構成を容易に想到する旨主張する。
しかし,前記aのとおり,引用発明1に引用発明2を適用した圧縮機において,回転軸の各吸入通路は,回転軸内に形成された通路を介して連通されていない構成を有する。そうすると,引用発明1に引用発明2を適用した上で,さらに原告主張の上記周知技術を適用するのは容易に想到できるものではない。
また,前記aのとおり,引用発明2は,回転弁22に駆動軸6の後端から冷媒が吸入されるという技術を開示するものであるから,引用発明1に引用発明2を適用した圧縮機においては,回転弁の各吸入通路には,回転軸の端部から冷媒が吸入されるものである。引用例1に,フロントハウジング側の回転軸近傍に吸入室として利用できる空洞が存在せず,また回転軸と吸入室33との間の距離の離れた実施例の図面(【図4】)が記載されていたとしても,引用発明1は,そのように特定された圧縮機に関する発明ではない。そして,引用発明1に引用発明2を適用した圧縮機においては,回転弁の各吸入通路には,回転軸の端部から冷媒が吸入されるのであるから,さらに原告主張の上記周知技術を適用し,回転軸に通路を形成して,各吸入通路を連通する必要はない。
なお,引用例1には,「例えば特開平5-126039号公報(判決注:引用例2)に開示されているように,回転軸16のラジアルベアリングと対応する部分にロータリバルブを配設した圧縮機において,そのロータリバルブ上に反力付与構造39を配設すること。」と記載されているとしても(【0049】),同記載は,ロータリバルブ上に反力付与構造39を配設することを開示するものであるから,同記載をもって,両頭ピストン型のロータリバルブを配設した圧縮機全体の何らかの構成を想定できるものではない。
したがって,原告主張の周知技術を斟酌しても,引用発明1に引用発明2を適用することにより,「前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し」という本件発明の構成には至らないというべきである。⑸

小括

以上によれば,本件発明は,引用発明1及び引用発明2に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。なお,仮に,引用発明1(2)が認定できたとしても,本件発明と引用発明1(2)との相違点1(2)は,引用発明1との相違点1と同様に,ロータリバルブの外周面の形状及びロータリバルブの各導入通路の連通に関する相違点を含むものであるから,
前記(4)ウと同様に,
引用発明
1(2)及び引用発明2に基づき,
当業者が容易に発明をすることができたものという
ことはできない。
よって,取消事由2は理由がない。
4
取消事由3(引用発明3に基づく進歩性判断の誤り)について



引用発明3

引用例3
(甲10)前記第2の3(3)アの引用発明3が記載されていることは,に,
当事者間に争いがない。
そして,
引用例3には,
別紙2引用例図面目録引用例3
【図
1】のとおり,図面が記載されるとともに,引用発明3に関し,以下の点が開示されているものと認められる。

引用発明3は,自動車用空調装置の冷媒圧縮機として使用することができる
斜板型圧縮機,特にその吸入弁と軸受部に関するものである(【0001】)。イ
従来のロータリバルブを吸入弁として使用する斜板型圧縮機においては,①
転がり軸受であるラジアル軸受によって支持されている回転軸と,ハウジング側のバルブシリンダとの間には,各部品の製作上の加工誤差(公差)や,転がり軸受の作動に必要な遊隙等によって相当大きな心ずれが存在し,構造上その心ずれ量を少なくすることが難しいこと,②斜板に作用する圧縮反力が回転軸の回りに均等に作用しないで一方に偏っていること等を原因として,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすく,シリンダブロックに設けられた幾つかの吸入ポートの周囲からロータリバルブの外周を通じて圧縮された冷媒等の流体が漏洩し,それによって圧縮機の作動効率が低下するという問題等があった(【0004】)。

引用発明3は,上記問題等を解決するために,シリンダブロック内において
回転軸を支持する軸受について,ジャーナル軸受であって,シリンダブロック内に取り付けられる滑り軸受とそれによって支持される回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成される軸受を採用するなどしたものである(【0006】【0007】)。
引用発明3において,斜板27を駆動することによって回転軸24に発生する反力としての軸方向荷重は,斜板27の両側に設けられた一対のスラスト軸受28及び29によって支持される(【0014】)。また,ジャーナル軸受25及び26は,回転軸24の外径よりも例えば2~4mm程度大きい貫通穴33及び34の中に,打ち込み等の方法で一体的に固定されている比較的薄肉の滑り軸受35及び36と,それらの滑り軸受35及び36によって摺動回転可能に支持されている回転軸24自体の円筒面の一部であるジャーナル部24a及び24bとからなり,滑り軸受35及び36は,例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層したもので,貫通穴33及び34の中に打ち込んで一体化した後,内径を精密加工して,それに対応する回転軸24のジャーナル部24a及び24bの外径に極めて近い内径となるように高精度に仕上げられる(【0016】)。

引用発明3は,上記構成を採用することにより,滑り軸受の円筒内面の仕上
げ加工が容易に行われて,ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくすることが可能になり,圧縮された流体が吸入弁から漏洩することがない(【0009】【0
035】)。
(2)

本件発明と引用発明3との対比

本件発明と引用発明3との相違点は,
前記第2の3(3)ウの相違点3及び4のとお
りである。
(3)

相違点4の容易想到性
引用発明3に,「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」とい
う周知慣用技術を適用することにより,本件発明の構成を採用することを,当業者が容易になし得たか否かについて検討する。

前記(1)によれば,引用発明3は,ラジアル軸受として,ジャーナル軸受であ
って,滑り軸受とそれによって支持される回転軸の一部としてのジャーナル部とから構成される軸受を採用することにより,滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工を容易に行い,ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくすることを可能とした発明である。また,引用発明3において,ジャーナル軸受25及び26は,回転軸24のジャーナル部24a及び24bと,滑り軸受35及び36から成るところ,滑り軸受35及び36は,例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層した比較的薄肉のものであって,シリンダブロックの貫通穴33及び34の中に打ち込んで回転軸と一体化した後,ジャーナル部24a及び24bの外径に極めて近い内径となるように精密加工されるものである。
このように,引用発明3において,ラジアル軸受手段として「滑り軸受35及び36」を有するジャーナル軸受が採用されたのは,滑り軸受の円筒内面の仕上げ加工を容易に行い,ジャーナル部とのクリアランスを極めて小さくするためである。そして,円筒内面の仕上げ加工を容易に行えるのは,例えば金属ベースの上にフッ素樹脂等を積層した比較的薄肉のものである滑り軸受35及び36があらかじめ準備され,滑り軸受35及び36はシリンダブロックの貫通穴33及び34の中に打ち込まれることにより回転軸と一体化され,その後,ジャーナル部24a及び24bの外径に極めて近い内径となるように滑り軸受35及び36を精密加工できることによるものと解される。したがって,引用発明3において,ラジアル軸受手段として「滑り軸受35及び36」を有するジャーナル軸受が採用されたのは,クリアランスを極めて小さくするという課題の解決手段として必須の構成であるということができる。
そうすると,ラジアル軸受手段として「滑り軸受35及び36」を有するジャーナル軸受を採用することを必須の構成とする引用発明3に,「滑り軸受35及び36」
を有しない構成である,
「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」
である技術を適用することは,引用発明3の必須の構成を無くすことになるから,動機付けを欠くというべきである。
このことは,仮に「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」が周知慣用技術として認められたとしても左右されるものではない。

(ア)

原告の主張について
原告は,引用発明3の滑り軸受構造に,「回転軸をシリンダブロックにより直接支持する構成」を組み合わせても,滑り軸受部分の円筒内面の精密な仕上げ加工を可能とし,クリアランスを大幅に小さくでき,冷媒の漏洩を防止できるという効果は何ら妨げられないと主張する。
しかし,引用発明3において「滑り軸受35及び36」に代えて,シリンダブロックにより回転軸を直接支持する場合において,当該「滑り軸受35及び36」の円筒内面の仕上げ加工と同様に,当該シリンダブロックの円筒内面の仕上げ加工を行えるものではないから,原告の主張は採用できない。
(イ)

原告は,回転抵抗低減のために軸受の内周面等にフッ素樹脂等の固体潤滑
材を用いることは慣用技術であることから,引用発明3において「滑り軸受35及び36」のような別部材を用いる必然性はないと主張する。
しかし,原告主張の慣用技術があったとしても,別部材である「滑り軸受35及び36」に固体潤滑材を用いることと,シリンダブロックに固体潤滑材を用いることは異なるから,引用発明3において「滑り軸受35及び36」を用いる必然性はないということはできない。

したがって,仮に原告主張の周知慣用技術が認められたとしても,引用発明
3に同周知慣用技術を適用する動機付けを欠くから,引用発明3及び同周知慣用技術に基づき,相違点4に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到できたものということはできない。
(4)

相違点3の容易想到性
被告の主張に鑑み,相違点3の容易想到性,すなわち,スラスト軸受手段に
ついて「前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」ものであるとの構成を有しない引用発明3に,スラスト軸受手段として径の異なる環状の突条を当接させるという周知技術を適用することにより,「前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした」という本件発明の構成を採用することを,当業者が容易になし得たか否かについて検討する。イ
前記(1)のとおり,
引用発明3は,
斜板に作用する圧縮反力が回転軸の回りに
均等に作用しないで一方に偏っていることなどを原因として,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすく,その結果として,幾つかの吸入ポートの周囲から圧縮された冷媒等の流体が漏洩することを課題とし,このクリアランスを小さくするための技術を採用したものである。一方,
スラスト軸受手段として径の異なる環状の突条を当接させるという技術は,斜板に作用する圧縮反力を回転軸に伝達するものであるから,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスを大きくするものであって,その結果として,冷媒等の流体が漏洩する可能性を高めるものである。
そうすると,スラスト軸受手段として径の異なる環状の突条を当接させるという技術は,冷媒等の流体が漏洩する可能性を高めるものであって,引用発明3が解決しようとする課題に反するものであるから,
仮にこれが周知技術であったとしても,
当業者は,引用発明3にこのような技術を適用しようとは考えないというべきである。
なお,スラスト軸受手段として径の異なる環状の突条を当接させるという技術によって,ロータリバルブとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなる部分があったとしても,本件発明の構成によれば,冷媒等の流体の漏洩につながるものではない。しかし,引用例3は,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすいことなどが,幾つかの吸入ポートの周囲から冷媒等の流体が漏洩することの原因であるという前提で記載がなされており,クリアランスの増加が,吸入ポートの周囲からの冷媒等の漏洩につながらないことを示す技術事項が,本件特許の優先日当時,周知であったことを示す文献もない。ウ
(ア)

原告の主張について
原告は,ピストン式圧縮機において,組付け時の交差を吸収するために,
スラスト軸受手段として径の異なる環状の突条を当接させるという周知技術を採用することは技術常識である旨主張する。
しかし,前記イのとおり,原告主張の周知技術を適用することは,引用発明3の解決すべき課題に反するものであるから,組付け時の交差を吸収するという観点のみから,同周知技術を適用する動機付けがあるということはできない。(イ)

原告は,引用例3には,圧縮反力にもかかわらず,スラスト軸受28及び
29が回転軸の変位を抑えることによって,クリアランスを維持するとの構成は記載されていないと主張する。
しかし,引用例3には,引用発明3の従来技術の課題として,「斜板に作用する圧縮反力が回転軸の回りに均等に作用しないで一方に偏っていること等から,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスが大きくなりやすく,それによってシリンダブロックに設けられた幾つかの吸入ポートのうちで,圧縮行程において閉塞されるべきものが完全に閉塞されないために,それらの吸入ポートの周囲からロータリバルブの外周を通じて圧縮された冷媒等の流体が漏洩」する旨記載されている。したがって,スラスト軸受28及び29が回転軸の変位を抑えるとの記載の有無にかかわらず,当業者は,ロータリバルブのローターとバルブシリンダとの間のクリアランスを大きくすることになる,スラスト軸受手段において径の異なる環状の突条を当接させるという技術を,引用発明3に適用することは考えないというべきである。
(ウ)

原告は,引用発明3において,斜板に作用する均等でない圧縮反力は排除
できていない,引用発明3におけるスラスト軸受28及び29ではなく,径の異なる環状の突条を当接させるというスラスト軸受手段を採用しても,回転軸の挙動は異ならないなどと主張する。
しかし,引用発明3におけるスラスト軸受28及び29によって圧縮反力を排除できていなかったとしても,あえてこれらのスラスト軸受に代えて,クリアランスを大きくすることになる,スラスト軸受手段において径の異なる環状の突条を当接させるという技術を採用することに至るものではない。

したがって,仮に原告主張の周知技術が認められたとしても,引用発明3に
同周知技術を適用する動機付けを欠くから,引用発明3及び同周知技術に基づき,相違点3に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到できたものということはできない。
(5)

小括

以上によれば,本件発明は,引用発明3及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
よって,取消事由3は理由がない。
5
結論

以上のとおり,取消事由はいずれも理由がない。原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

髙部
裁判官

山門優
裁判官

片瀬亮眞規子
別紙1
本件明細書図面目録
【図1】

【図4】

【図5】

別紙2
引用例図面目録
引用例1
【図4】

引用例2
【図1】

引用例3
【図1】

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