判例検索β > 平成27年(ワ)第1378号
事件番号平成27(ワ)1378
裁判年月日平成29年10月13日
法廷名さいたま地方裁判所
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主1文
被告は,原告に対し,5万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを70分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4
この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

第1
1実及び理由
請求
被告は,原告に対し,さいたま市立三橋公民館(以下「三橋公民館」という。)が発行する三橋公民館だより(以下「本件たより」という。)に,別紙俳句目録1記載の文章(以下「本件俳句」という。)を同目録2記載の体裁で掲載せよ。

2
被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2
1
事案の概要
本件は,原告が被告(さいたま市)に対し,①かたばみ三橋俳句会(以下「本件句会」という。)と三橋公民館は,本件句会が三橋公民館に提出した俳句を同公民館が発行する公民館だより(本件たより)に掲載する合意をしたと主張し,同合意に基づき,原告が詠んだ俳句(本件俳句)を本件たよりに掲載することを求めるとともに,②三橋公民館(その職員ら)が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより精神的苦痛を受けたと主張し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料200万円及びこれに対する本件俳句が掲載されなかった本件たよりの発行日である平成26年7月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2
前提事実(当事者間に争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認められる事実)
(1)

当事者等


原告(昭和15年9月28日生)は,さいたま市a区に居住し,平成16年に本件句会に入会した者である(原告本人・2頁,弁論の全趣旨)。

被告は,地方公共団体(さいたま市)である(弁論の全趣旨)。


三橋公民館は,さいたま市a区に所在し,平成22年当時の館長はA,
主幹はB,平成26年当時の館長はC,主幹はDであった(乙7,8,C・1頁)。
三橋公民館は,さいたま市立桜木公民館(以下「桜木公民館」という。)を拠点公民館とする地区公民館であり,桜木公民館の館長は,平成26年当時,Eであった(乙9)。
三橋公民館の館長は非常勤の職員であり,主幹は常勤の職員である(B・2頁)。
主幹の主な職務は,公民館が主催する講座の計画や運営,公民館だより(本件たより)の作成及び接客等である(B・2頁)。

本件句会は,三橋地区周辺の住民約20名が平成10年ころに立ち上げた俳句サークルである(甲25)。
本件句会の主たる活動内容は,会員が詠んだ俳句を2句ずつ持ち寄り,俳人であり,かつ,本件句会を含む多数の俳句会で構成される,かたばみ俳句会の主宰であるF(以下「F主宰」という。)から各俳句に対する論評をもらうというものであり,三橋公民館において,毎月第4火曜日の午後1時30分から午後4時まで行われている(甲24,25)。
本件句会は,平成18年4月,本件句会の申合わせを作成したところ,同申合せの内容は,代表は,本件句会の会員の話合いにより決定し,会費は,月額1000円程度を年3回程度に分けて集金するといったものであり,同申合わせは,作成された当初から現在に至るまで,本件句会の進行
の方法が,本件句会の会員は,全員の俳句が集まったところで,無分別に短冊を参加者全員に2枚ずつ配布し,これを席次番号のある清書用紙に記入するというものから,全ての句を手分けして1つの句稿を作り,会員に配布するというものに変更された以外は変更されていない(甲14,原告本人・29,30頁,弁論の全趣旨)。
Gは,平成22年10月当時,本件句会の代表であったが,体調を崩したため,Hが,平成26年6月ころまでに,本件句会の代表代行を務めることとなった(甲25,弁論の全趣旨)。
(2)

本件たよりの発行
三橋公民館は,毎月1日,本件たよりを発行しており,三橋公民館の主幹であったBは,平成25年3月まで,桜木公民館長の決裁を受けることなく,三橋公民館の職員にゲラを回覧した上,本件たよりを作成してきた(甲1の1ないし56,B・3,9,16頁)。


Dは,平成25年4月,Bの後任として三橋公民館の主幹となったところ,同月以降のいずれかの時期から,三橋公民館の職員にゲラを回覧した上,桜木公民館長の決裁を受けて発行することになった(乙8・D・2頁)。


上記イの決裁には,電子決済システムが利用されており,同システムにおける電子決裁の記録の保存期間は1年間である(D・2頁,弁論の全趣旨)。

(3)

本件句会と三橋公民館との間のやり取り
Bは,平成22年10月末ころ,公民館祭りの運営のための会議における交流をきっかけに親しくなった,本件句会の代表であったGに対し,本件句会の俳句を本件たよりに掲載してはどうかとの提案をした(以下「本件提案」という。甲25,乙7,B・5頁,H・3頁)。


このため,Gは,本件句会の会員に本件提案についての意見を求めた上,
本件句会の代表として,本件提案を了承した(H・3頁,B・5頁。以下,本件提案と同了承をまとめて「本件合意」という。)。

本件句会では,F主宰が特選,秀逸,佳作の3段階の評価をし,特選の評価を受けた俳句のうち,会員から最も多くの票を獲得したものを秀句と呼び,これを本件たよりに掲載する俳句として選出していた(甲32,H・13頁,弁論の全趣旨)。


秀句の提出方法は,本件句会が,三橋公民館の職員に対し,秀句を記載した紙を提出するというものであり,本件句会が三橋公民館に提出した秀句は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,各月発行の本件たよりにそれぞれ掲載された(甲1の2ないし45,H・19頁)。
秀句が掲載される位置は,本件たよりの裏面の下欄であり,掲載される秀句の体裁は,別紙俳句目録2記載のとおりであり,同目録1記載のとおり,本件句会の名称及び作者名が明示されることになっている(甲1の2ないし45,弁論の全趣旨)。

(4)

本件俳句について
原告は,平成26年6月24日,本件句会において,「梅雨空に
条守れ」の

「九

女性デモ」との俳句(本件俳句)を詠んだところ,本件俳句

は,F主宰から特選の評価を受け,会員から最も多くの票を獲得し,秀句として選出された(甲24,H・13頁)。

平成26年6月当時,「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(通称:安保法案)の成立に向けた動きがあったところ,その過程で,憲法9条は,集団的自衛権の行使を許容するものと解釈することができるかどうかが中心的な争点となっており,この点に関する報道
が連日行われ,同年7月1日,憲法9条は,集団的自衛権の行使を許容するものと解釈するとの閣議決定がされた(公知の事実)。

本件俳句は,原告が,平成26年6月初旬ころ,東京都中央区b町で行われていた憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものであるとの解釈に反対する女性らのデモを見かけて,これに加わったことをきっかけに詠まれたものである(甲24,原告本人・23頁)。

(5)

本件俳句の不掲載について
Dは,平成26年6月25日,本件句会の代表代行であったHに対し,本件俳句は,世論を二分するようなテーマのものであるため,本件たよりに掲載することはできない旨伝え,代わりに別の俳句を提出することはできないかと提案したところ,Hは,これを断った(H・6頁,D・28頁)。


このため,原告は,翌26日,三橋公民館に電話したところ,Dがこれに対応し,原告に対し,本件俳句を本件たよりに掲載することはできない旨伝えた(原告本人・11頁,D・8頁)。
原告は,Dに対し,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について書面で回答するよう求めたところ,三橋公民館は,同年7月3日,原告に対し,館長(C)名義で,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,「公民館だよりへの俳句不掲載について」と題する書面(以下「本件書面1」という。)で回答した(甲2,3,D・9頁)。
本件書面1には,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載することができないと判断した根拠として,①公民館は特定の政党の利害に関する事業を行うことは禁止されていること(社会教育法23条1項2号),②国内世論が大きく分かれているものは広告掲載を行わないとされていること(さいたま市広告掲載基準4条(1)エ)が挙げられており,本件俳句の
「九条守れ」という文言が公民館の考えであるとの誤解を招く可能性がある旨記載されている(甲2)。

また,三橋公民館は,館長(C)名義で,平成26年12月10日付け「「公民館だよりへの俳句不掲載について」の訂正について」と題する書面(以下「本件書面2」という。)を作成したところ,同書面には,上記イ①は本件俳句を本件たよりに掲載することができないとする根拠とはならないこと,上記イ②は本件俳句を本件たよりに掲載することができるか否かの判断に当たって参考としたにすぎないこと,本件俳句の「九条守れ」という文言が公民館の考えであるとの誤解を招く可能性があるとの記載は不適切であったこと等が記載されており,本件俳句を本件たよりに掲載することができないと判断した理由について,「公民館だよりは,公民館の事業や地域の活動を広報することを目的とし,公共施設である公民館が責任を持って編集・発行している刊行物でありますので,公平中立の立場であるべきとの観点から,掲載することは好ましくないと判断したものです。」と記載されている(甲3)。


本件句会は,平成26年7月,三橋公民館に対し,本件俳句及び同月の句会で選出された秀句を提出したところ,三橋公民館は,本件俳句は本件たよりに掲載することができないが,もう一方の秀句のみであれば掲載することができると述べた。
三橋公民館は,その後も,本件俳句を本件たよりに掲載することはできないとの対応をとっていたところ,本件句会は,本件俳句が本件たよりに掲載されないのであれば,他の秀句を掲載することを希望しないとして,三橋公民館に対し,秀句を提出することを止めたため,本件句会の俳句は,平成26年7月以降,本件たよりに掲載されていない。
(甲1の46ないし56,甲25,弁論の全趣旨)。

(6)

社会教育法の定め


社会教育法1条は,「この法律は,教育基本法(平成18年法律第120号)の精神に則り,社会教育に関する国及び地方公共団体の任務を明らかにすることを目的とする。」と規定する。


同法2条は,「この法律において,「社会教育」とは,学校教育法(昭和22年法律第26号)又は就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)に基づき,学校の教育課程として行われる教育活動を除き,主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーシヨンの活動を含む。)をいう。」と規定する。


同法3条1項は,「国及び地方公共団体は,この法律及び他の法令の定めるところにより,社会教育の奨励に必要な施設の設置及び運営,集会の開催,資料の作製,頒布その他の方法により,すべての国民があらゆる機会,あらゆる場所を利用して,自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成するように努めなければならない。」,同2項は,「国及び地方公共団体は,前項の任務を行うに当たつては,国民の学習に対する多様な需要を踏まえ,これに適切に対応するために必要な学習の機会の提供及びその奨励を行うことにより,生涯学習の振興に寄与することとなるよう努めるものとする。」,同3項は,「国及び地方公共団体は,第1項の任務を行うに当たつては,社会教育が学校教育及び家庭教育との密接な関連性を有することにかんがみ,学校教育との連携の確保に努め,及び家庭教育の向上に資することとなるよう必要な配慮をするとともに,学校,家庭及び地域住民その他の関係者相互間の連携及び協力の促進に資することとなるよう努めるものとする。」と規定する。


同法9条の3第1項は,「社会教育主事は,社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える。ただし,命令及び監督をしてはならない。」と規定する。


同法10条は,「この法律で「社会教育関係団体」とは,法人であると否とを問わず,公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行うことを主たる目的とするものをいう。」と規定する。


同法12条は,「国及び地方公共団体は,社会教育関係団体に対し,いかなる方法によつても,不当に統制的支配を及ぼし,又はその事業に干渉を加えてはならない。」と規定する。


同法20条は,「公民館は,市町村その他一定区域内の住民のために,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行い,もつて住民の教養の向上,健康の増進,情操の純化を図り,生活文化の振興,社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」と規定する。


同法22条柱書きは,「公民館は第20条の目的達成のために,おおむね,左の事業を行う。但し,この法律及び他の法令によつて禁じられたものは,この限りではない。」と規定し,同各号で「1

定期講座を開設す

ること。」,「2

討論会,講習会,講演会,実習会,展示会等を開催す

ること。」,「3

図書,記録,模型,資料等を備え,その利用を図るこ

と。」,「4
と。」,「5

体育,レクリエーシヨン等に関する集会を開催するこ
各種の団体,機関等の連絡を図ること。」,「6

その施

設を住民の集会その他の公共的利用に供すること。」と規定する。ケ
同法23条1項柱書きは,「公民館は,次の行為を行つてはならな
い。」と規定し,同各号で「1

もつぱら営利を目的として事業を行い,

特定の営利事業に公民館の名称を利用させその他営利事業を援助すること。」,「2

特定の政党の利害に関する事業を行い,又は公私の選挙に

関し,特定の候補者を支持すること。」と規定し,同2項は,「市町村の設置する公民館は,特定の宗教を支持し,又は特定の教派,宗派若しくは教団を支援してはならない。」と規定する。

同法27条1項は,「公民館に館長を置き,主事その他必要な職員を置
くことができる。」と規定し,同2項は,「館長は,公民館の各種の事業の企画実施その他必要な事務を行い,所属職員を監督する。」と規定し,同3項は,「主事は,館長の命を受け,公民館の事業の実施にあたる。」と規定する。

同法29条1項は,「公民館に公民館運営審議会を置くことができ
る。」と規定し,同2項は,「公民館運営審議会は,館長の諮問に応じ,公民館における各種の事業の企画実施につき調査審議するものとする。」と規定する。
(7)

教育基本法の定め
教育基本法16条1項は,「教育は,不当な支配に服することなく,この
法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり,教育行政は,国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下,公正かつ適正に行われなければならない。」と規定する。
3
争点
(1)

本件合意の内容は,本件俳句を本件たよりに掲載することについて訴求
力ある権利を発生させるものであったか。
(2)

三橋公民館の職員には,本件句会との間で,本件句会ないしその会員に
本件たよりへの俳句の掲載請求権を発生させる合意をする権限があったか。(3)

本件句会と三橋公民館が,本件合意をするに当たり,地方自治法234
条の適用を受けるか。
(4)

原告は,本件合意に基づく俳句の掲載請求権を有するか。

(5)

三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,原告の学
習権を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。
(6)

三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,原告の表
現の自由を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。
(7)

三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,原告の人
格権ないし人格的利益を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。
(8)
4
原告の損害

争点に関する当事者双方の主張
(1)

争点(1)(本件合意の内容は,本件俳句を本件たよりに掲載することにつ
いて訴求力ある権利を発生させるものであったか。)について
(原告の主張)

三橋公民館の主幹であったBは,平成22年10月ころ,本件句会の代表であったGに対し,特定の内容の俳句を本件たよりに掲載することはできないといった条件を付けておらず,また,三橋公民館が,本件句会から提出された俳句を修正する場合がある旨の説明もしないで,本件提案をし,本件句会が,本件提案を了承したという経緯,本件句会は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,三橋公民館に対し,秀句を提出してきており,三橋公民館は,この間,提出された秀句を本件たよりに掲載することを拒否したり,内容に意見を述べたりしたことはなかったことからすれば,本件合意の内容は,本件句会が本件たよりに掲載する俳句を選出し,三橋公民館は,同俳句の内容等に条件を付さないというもの,すなわち,三橋公民館が,本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載しなければならない義務を負うと解すべきである。なお,本件句会は,公民館に対する秀句の提出義務は負わない(片面的債務)と解すべきである。


公民館は,「実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行」うことを目的として設置されたものであり(社会教育法20条),公民館で行われる本件句会のような社会教育関係団体の自主的な社会教育活動を保障する義務を負っており,その義務の履行を通じて,住民の学習権を保障する役割を担っている。
そして,住民の学習権は,自己学習と相互学習により実現されると
ころ,公民館での社会教育を通じた本件句会の学習の成果物である秀句が公民館だよりに掲載されることは,学習成果を地域に還元するという相互学習に資するものであり,住民の学習権の保障にとって重要な要素となるものであり,また,学習成果の発表という表現行為である。
したがって,本件合意は,上記のように重要な要素を内容とするものであるから,本件合意の内容は,三橋公民館に秀句の掲載義務を課し,本件俳句を本件たよりに掲載することについて訴求力のある権利を発生させるものであるというべきであって,三橋公民館は,本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載しなければならない義務を負うと解すべきである。
(被告の主張)

本件句会が提出した秀句が,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月にわたり,継続して本件たよりに掲載されてきたことをもって,三橋公民館が本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載することを承諾したということはできない。


Bは,本件句会に対し,表現の場として本件たよりの紙面の一部を提供したのではなく,本件たよりの紙面を彩りのあるバラエティに富んだ親しみやすいものにするために本件提案をしたにすぎず,本件合意に基づく俳句の掲載請求権は,三橋公民館が本件句会の提出した秀句の掲載に任意に応じれば本件たよりに掲載されるという給付保持力があるにとどまり,訴求力を有しない自然債務的効力を有する権利にすぎないと解すべきである(本件合意の内容は,本件句会が,三橋公民館からの秀句の提供の求めを一方的に拒絶することができ,三橋公民館も提出された秀句の掲載の求めを一方的に拒絶することができるというものにすぎない。)。


仮に,本件合意に基づく権利が,法的な訴求力を有するものであるとしても,公民館の運営方針に合致する範囲の権利が発生するにすぎず,原告には,三橋公民館に対し,本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載させることができる権利が発生するものではなく,本件合意の内容は,三橋公民館が,本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載しなければならない義務を負う一方,本件句会は,公民館に対する秀句の提出義務は負わないというもの(片面的債務)と解することはできない。

(2)

争点(2)(三橋公民館の職員には,本件句会との間で,本件句会ない
しその会員に本件たよりへの俳句の掲載請求権を発生させる合意をする権限があったか。)について
(原告の主張)

社会教育法27条1項は,「公民館に館長を置き,主事その他必要な職員を置くことができる。」と規定した上,同2項は,「館長は,公民館の各種の事業の企画実施その他必要な事務を行い,所属職員を監督する。」と規定していることからすれば,同法22条が規定する公民館事業の企画実施及びそれに伴う事務の法律上の権限は,公民館長に付与されているものと解される。
本件たよりの内容は,俳句等の学習成果の掲載,公民館主催行事の告知等の学習機会の提供,サークルのメンバー募集等の団体活動支援及び事務的お知らせであり,前三者が本件たよりの紙面の大部分を占め,社会教育法20条が規定する公民館の目的に合致するものである上,そのような本件たよりが反復継続して発行されていることからすれば,本件たよりの発行は,同法22条が規定する公民館の事業に該当するものである。
そして,三橋公民館が,本件合意をすることは,本件たよりの発行
という事業の実施に伴う事務に該当するものであるから,本件合意をする権限は,三橋公民館長にある。

自動車及びその部品の開発,設計,製造,売買等の事業を営む被告会社の従業者である被告人3名が,他の従業者と共謀の上,国土交通省の職員から,道路運送車両法(平成14年法律第89号による改正前のもの)63条の4第1項に基づき,大型車両の前輪のタイヤホイールと車軸を結合する重要保安部品であるフロントホイールハブについてリコール等の改善措置に関する報告を求められた際,虚偽の報告をしたとして起訴された事案において,東京高等裁判所は,同法に基づく報告要求の存否に関し,報告要求を行う権限は国土交通大臣にあるが,国土交通省決裁規則により自動車交通局長が専決権限を有し,さらに,報告要求に関する同法の趣旨及び事務取扱いの実情等から,慣行として,自動車交通局長から同局技術安全部長,審査課長及びリコール対策室長に,その意思決定を含めた処理権限が委ねられ,国土交通大臣もこれを了承していたものと認められるとした上,リコール対策室課長補佐が電話で報告を求めたことを同法に基づく報告要求と評価できるか否かにつき,技術安全部長,審査課長,リコール対策室長には,慣行上,報告要求の事務を取り扱う権限が認められる上,同法に基づく報告要求については,実務上,自動車交通局長の決裁を得て行うことは異例であり,一連の交渉に際し,事故の報告を受けた自動車交通局長が,技術安全部長等に対して,メーカーから報告を求めるなどして調査し,原因と改善措置について明らかにするよう指示しており,同部長等には,この包括的指示により,必要な報告を求める権限が与えられていたと認められるとした(同裁判所平成20年7月15日判決(以下「本件高裁判決」という。)参照)。
本件高裁判決によれば,各省の訓令や地方自治体の決裁規定等によ
り専決権限が定められている場合であっても,実務上の必要性と合理性があれば,慣行上更に下位の者に事務処理を行う権限が委ねられることはあり得るところであり,決裁規定上の専決権者よりも下位の補助機関が権限を補助執行していたという事務取扱いの実情が存在し,権限の根拠法令の趣旨等に照らし,下位の者に事務処理を行わせるという事務取扱いに合理性が認められれば,補助機関に慣行上の決裁権限が委ねられていたものということができる。
そして,仮に,本件合意をする権限が三橋公民館長になく,教育長にあったとしても,本件たよりは,平成25年3月ころまで,拠点公民館長である桜木公民館長の決裁を受けず,三橋公民館の職員にゲラを回覧した上,三橋公民館長の了承の下,発行されていたものであるから,三橋公民館長の了承によって三橋公民館を利用する団体に関する記事を本件たよりに掲載することが決定されていたという事務取扱いの実情があり,本件たよりに掲載する記事の分量等について,各団体と協議・調整をする必要があることからすれば,同事務取扱いには合理性があった。
したがって,慣行上,三橋公民館長に本件たよりに掲載する記事に関する交渉ないし各団体との合意についての専決権限があったというべきである。
(被告の主張)
ア(ア)

公民館だよりの編集・発行は,教育委員会の事務である「社会

教育に関する情報の提供」(社会教育法5条16号)に該当するところ,上記事務は,さいたま市教育委員会教育長に対する事務委任規則2条により,教育長に委任されている。
(イ)

さいたま市教育委員会事務専決規程3条1項により準用されるさ

いたま市事務専決規程の別表2において,「定期刊行物の刊行の決
定及びその編集並びに発行(市の行政の方針,施策等が掲載されているものを除く。)に関すること」のうち「軽易なもの」は,「課長」の専決事項とされている。
拠点公民館長は,さいたま市教育委員会事務専決規程2条8号に
おける「組織規則第4条第3項に掲げる第2類の施設の長」に当たるから,同規程における「課長」に該当する。
(ウ)

公民館だよりの編集・発行は,「定期刊行物の刊行の決定及びそ

の編集並びに発行(市の行政の方針,施策等が掲載されているものを除く。)に関するもの」のうち「軽易なもの」であるから,さいたま市教育委員会事務専決規程における「課長」である拠点公民館長が,公民館だよりの編集・発行についての専決権者である。
(エ)

上記(ア)ないし(ウ)によれば,公民館だよりの発行についての専
決権限は,拠点公民館長である桜木公民館長にあるから,三橋公民館の主幹であるBには,本件合意のような第三者と契約を締結する権限はない。

被告(さいたま市)が第三者と契約を締結する場合,その権限は,市長が有するものである(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第22条5号)ところ,公民館に関する契約の場合,その専決権者である拠点公民館長が第三者と契約を締結する権限を有する者であり,公民館の職員には,上記権限はないから,本件合意のような第三者と契約を締結する権限は,三橋公民館の主幹であるBではなく,桜木公民館長が有していたものである。

(3)

争点(3)(本件句会と三橋公民館が,本件合意をするに当たり,地方
自治法234条の適用を受けるか。)について
(原告の主張)
地方自治法234条1項は,「売買,賃借,請負その他の契約は,一
般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」と規定しているところ,同項の趣旨は,地方公共団体の行う契約事務には,公正性,機会均等性,経済性を確保する必要があるため,不特定多数人の参加を求め,入札の方法によって競争を行わせることが合理的であることにあるから,「その他の契約」とは,上記趣旨に合致するものをいう。
そして,本件合意は,三橋公民館が,本件句会が提出した秀句を本件たよりに掲載することを内容とするものであり,金銭支払義務等の経済的負担を負うことはないので,不特定多数人の参加を求め,入札の方法によって競争を行わせる必要性がないものというべきであって,同項の趣旨に合致するものではないから「その他の契約」に該当せず,地方自治法234条1項は適用されない。
(被告の主張)
争う。
(4)

争点(4)(原告は,本件合意に基づく俳句の掲載請求権を有する
か。)について
(原告の主張)

代理
Bが,権利能力なき社団である本件句会の会員全員を代理するGに対し,本件提案による申込みをし,本件句会もこれを了承して承諾したから,本人である原告は,本件合意に基づく俳句の掲載請求権を有する。


代表(掲載請求権を不可分債権とする合意)
権利能力なき社団である本件句会が,Bの本件提案による申込みを了承して承諾したところ,本件合意に基づく俳句の掲載請求権は,本件句会と俳句の作者に不可分に帰属するものであるから,原告は,同
掲載請求権を有する。

第三者のためにする契約
本件句会が,三橋公民館との間で,俳句の作者を受益者とする第三者のためにする契約をしたから,受益者である原告は,本件合意に基づく俳句の掲載請求権を有する。

(被告の主張)
いずれも争う。Bには本件合意をする権限はなく,また,本件合意は,訴求力のある権利を発生させるものではないから,原告は本件俳句の掲載請求権を有しない。
(5)

争点(5)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが,原告の学
習権を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について
(原告の主張)
ア(ア)

一般的に,公民館だよりは,公民館が,その事業として発行す

る媒体であって,公民館における学習成果を地域に還元し,住民に対する社会教育の環境を醸成するものであるところ,本件たよりの内容は,俳句等の学習成果の掲載,公民館主催行事の告知等の学習機会の提供,サークルのメンバー募集等の団体活動支援及び事務的お知らせであり,前三者が本件たよりの紙面の大部分を占めているから,本件たよりも,一般的な公民館だよりと同様,公民館における学習成果を地域に還元し,住民に対する社会教育の環境を醸成するものということができる。
(イ)

そして,公民館職員には,社会教育法12条,9条の3第1項

等の規定から,公民館の事業を行うに当たって,独断的な評価や個人的な好みによらず,公民館利用者を公正に取り扱う義務が課されるものと解されるところ,三橋公民館において,本件たよりの発行に当たって,俳句の掲載を拒否する場合の基準は作成されておらず,
本件句会が三橋公民館に提出した秀句は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,本件たよりに掲載されなかったことがなかった上,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)は,平成26年6月25日,本件俳句を本件たよりに掲載することができるかどうかについて,1時間程度しか議論せず,本件俳句を本件たよりに掲載することができない合理的な理由とならない①公民館は特定の政党の利害に関する事業を行うことは禁止されていること(社会教育法23条1項2号),②国内世論が大きく分かれているものは広告掲載を行わないとされていること(さいたま市広告掲載基準4条(1)エ)を理由とするといった的外れな検討をするにとどまった。
(ウ)

また,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)は,

本件俳句を本件たよりに掲載しないことが,逆に公民館の中立性や公平性・公正性に反する可能性や本件俳句の「九条守れ」という文言が,そもそも世論を二分する内容であるかどうかについて検討せずに,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととした。
(エ)

したがって,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及び

E)は,公民館利用者である原告を公正に取り扱う義務に違反し,原告の学習権を侵害したものである。

社会教育法9条の3第1項違反
社会教育法9条の3第1項は,「社会教育主事は,社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える。ただし,命令及び監督をしてはならない。」と規定し,大人の学習権を保障しているところ,三橋公民館は,助言・指導の範囲を超え,本件俳句を本件たよりに掲載しないという措置を講じ,本件句会に対する命令・監督をしたものであるから,三橋公民館による上記措置は,社会教育法9条の3第1項
に違反し,原告の学習権を侵害したものである。

社会教育法12条違反
社会教育法12条は,「国及び地方公共団体は,社会教育関係団体に対し,いかなる方法によつても,不当に統制的支配を及ぼし,又はその事業に干渉を加えてはならない。」と規定し,大人の学習権を保障しているところ,三橋公民館は,本件俳句の内容に着目して,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととしたのであるから,本件句会の事業に不当な干渉を加えたということができ,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,社会教育法12条に違反し,原告の学習権を侵害したものである。


表現の自由と学習権は,いずれも憲法が保障する基本的人権として尊重されるべきものであり,学習権の内容である学習成果の発表は,表現活動の1つとして,表現の自由によっても保障を受けるため,両者には重なる部分があるが,学習成果の発表は,学習権の不可欠の要素であるから,表現の自由とは別に,学習権として保障されるべきものである。
また,学習権は,自己学習及び相互学習,学習成果の発表の自由及び住民の知る権利を内容とするものであるところ,学習成果の発表の自由や住民の知る権利という部分は,表現の自由によっても保障を受けるため,両者には重なる部分があるが,学習権の内容である住民の知る権利は,表現の自由の内容である知る権利とは異なり,教育という観点が存在し,単純に情報にアクセスするのではなく,真実を学び,知るというものであるから,学習権は,表現の自由とは異なる性格を持つ以上,表現の自由とは別に保障されるべきものである。
さらに,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより,原告の学習発表の自由が制限され,また,俳句の創作活動と
いった原告が参加する本件句会における相互学習に萎縮効果を生じさせるものであるから,表現の自由の侵害とは別に学習権の侵害があったというべきである。
(被告の主張)

本件たよりは,三橋公民館の主催行事の案内等の広報をする刊行物であって,同公民館を使用する個々の団体の活動成果を発表する役割まで担っているものではない。


三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことには,正当な理由があり,違法性はない。
(ア)

公民館の職員は公務を行う上で,公務員として中立性や公平

性・公正性に配慮した姿勢を保たなければならず,本件たよりに掲載する記事の内容も中立性や公平性・公正性が保たれたものとしなければならない。
(イ)

憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきか

否かについては,平成26年6月当時,賛否が分かれていたところ,同年7月1日には,憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものと解釈するとの閣議決定がされ,賛否の意見の対立は最高潮となった。なお,本件たよりは,毎月1日に発行されるものであるため,本件俳句が本件たよりに掲載されていたとすれば,本件俳句は,同日発行の本件たよりに掲載されることになったはずである。
原告は,憲法9条を集団的自衛権の行使を許容するものと解釈す
る立場に反対し,憲法9条を守るべきであることを訴えたいと考え,自らデモに飛び入り参加したのであるから,本件俳句は単にデモの状況を詠んだものということはできず,本件句会の会員は,原告の上記考えを含んだ本件俳句を秀句として選出したものである。
上記の点を考慮すると,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに

掲載することは,世論の一方の意見を取り上げ,憲法9条は集団的自衛権の行使を許容すると解釈する立場に反対する者の立場に偏することとなり,中立性に反する。
(ウ)

公民館が,ある事柄に関して意見の対立がある場合,一方の意

見についてのみ発表の場を与えることは,一部を優遇し,あるいは冷遇することになり,公平性・公正性を害するため,許されない。ウ
三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,原告が公民館を利用して行う俳句の創作・発表活動に干渉するものではないから,原告の学習権を侵害するものではない。

(6)

争点(6)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが,原告の表
現の自由を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について
(原告の主張)

本件たよりは,その紙面に公民館を利用する団体の作品が掲載され,地域住民や地域の小学校等に配布されたり,インターネット上で公開されたりするものであり,本件句会が三橋公民館に提出した秀句は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,いずれも本件たよりに掲載されてきたことからすれば,同年7月当時の本件たよりは,本件句会が提出した秀句の発表の場としての性格を有するものであった。
表現の自由には,自己実現及び自己統治という重要な価値があり,
憲法が保障する人権の中でも優越的な地位にあるところ,表現行為は表現の受け手とのコミュニケーションを前提とするものであるから,同地位が実現されるためには,表現が受け手に受領されるまでの一連の過程全体が保障されなければならない。
そして,表現の自由は,基本的に,公権力による妨害を排除する消極的権利であり,表現行為を積極的に求めるという積極的権利ではな
いが,表現が受け手に受領されるまでの一連の過程全体が保障されるべきであるから,発表の場として提供されたものについては,公権力の裁量は制限され,公権力が表現の場として提供した場での表現活動を制限することは,原則として,表現の自由を侵害するものであるから,仮に,原告に本件俳句の掲載請求権がないとしても表現の自由が侵害されたということができる。

公民館は,地域住民に対し,その教養の向上を図るため,学習の機会や学習の成果等を提供する役割を担う公的施設であるところ,公民館だよりは,公民館が公民館の事業として発行するものであるから,公民館の上記役割からすれば,本件たよりもまた,学習の機会や学習の成果等を提供する場であるというべきである。
また,本件合意が,BがGに対し本件提案をしたところ,本件句会がこれを了承するという経緯でされたことにかんがみれば,三橋公民館は,本件句会に対し,学習成果の発表の場として本件たよりのスペースを提供したというべきであるから,同スペースは,指定されたパブリック・フォーラムであるということができる。
そして,表現の自由の重要性からすると,表現内容に関する制限は原則として禁止されるのであり,三橋公民館による本件俳句を本件たよりに掲載しないという制限が正当化されるのは,その目的がやむにやまれぬものであり,上記制限が目的達成のために必要最小限度のものにとどまる場合である。
三橋公民館は,公民館の中立性や公平性・公正性を確保することを
目的として,①公民館は特定の政党の利害に関する事業を行うことは禁止されていること(社会教育法23条1項2号)及び②国内世論が大きく分かれているものは広告掲載を行わないとされていること(さいたま市広告掲載基準4条(1)エ)を本件俳句を本件たよりに掲載
することができない理由として挙げているが,①本件俳句は,特定の政党の利害に関する内容を含むものではなく,社会教育法23条1項2号が禁止するのは,公民館が特定の政党の利害に関する事業を行うことであり,公民館の利用者である原告の行為を禁止するものではなく,②さいたま市広告掲載基準が想定する広告は,民間企業の広告であり,本件俳句の掲載とは関係がない規定であるから,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由として挙げた①及び②は,いずれもやむにやまれぬものではなく,三橋公民館による本件俳句を本件たよりに掲載しないことは,やむにやまれぬ目的を達成するための必要最小限度の制限にとどまらないから,原告の表現の自由を侵害するものである。
また,本件たよりのスペースは,本件句会に対し,学習成果の発表の場として提供されていたものであるから,他の媒体による発表の機会があることをもって,本件俳句を本件たよりに掲載しないという制限が正当化されるわけではない。

三橋公民館が,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月の間,本件句会に対し,秀句を掲載する場として本件たよりのスペースを提供していたことは,一種の助成措置であると捉え,三橋公民館に助成を行うか否かについての一定の裁量があるとしたとしても,表現の自由には,憲法が保障する人権の中でも優越的な地位にあること,表現内容に関する制限は原則として禁止されることからすれば,三橋公民館には,本件たよりのスペースを提供することを止めるという助成措置の撤回についての裁量は制限されると解するのが相当であり,上記イのとおり,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由として挙げた①及び②は,いずれもやむにやまれぬ目的ではなく,本件俳句を本件たよりに掲載しないことは,やむに
やまれぬ目的を達成するための必要最小限度の制限にとどまらないから,原告の表現の自由を侵害するものである。
(被告の主張)

表現の自由は,本件たよりへの本件俳句の掲載請求権という具体的権利を発生させるものではない。


公民館だよりは,公民館の主催行事の案内等の広報をする刊行物であって,公民館を利用する個々の団体の活動成果を発表する役割まで担っているわけではないし,三橋公民館は,本件句会に対し,本件たよりを発表の場として提供していない。

(7)

争点(7)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが,原告の人
格権ないし人格的利益を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について
(原告の主張)

本件句会の学習成果であり,かつ,作者の思想等が込められた作品を住民に発表ないし伝達する利益は,①公民館が,住民の学習権の保障を実質化するための社会教育施設であること,②公民館だよりは,地域住民に対する社会教育の助長・奨励のための媒体であり,学習成果を地域へ還元し,地域住民に対し,学習の機会を提供することを目的とし,また,公民館で活動する団体に対し,学習成果を発表する場として設けられたものであること及び③本件句会の会員は,公民館を利用する者であり,本件句会で会員らが詠んだ俳句が秀句となった場合,本件たよりに掲載することができたことを踏まえると,秀句の作者には,本件たよりに掲載することにより秀句を地域住民に発表する権利ないし利益があり,これは,人格権ないし人格的利益として法律上保護されるところ,三橋公民館は,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととして,同権利ないし利益を侵害した。


また,三橋公民館は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,本件句会が三橋公民館に提出した秀句を本件たよりに掲載し続けてきたのであるから,秀句の作者には,本件たよりに秀句を掲載されることについて期待する権利ないし利益があり,秀句の作者の思想良心の自由や表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにかんがみると,三橋公民館は,原告の思想や信条を理由とした不公正な取扱いによって,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととしたのであるから,その思想,意見等を公衆に伝達する原告の人格的権利ないし利益を不当に侵害した。

(被告の主張)
原告が,本件俳句は本件たよりに掲載されるものと期待していたとしても,本件たよりの編集・発行権限は被告にあり,Bが,Gに対し,本件提案をした目的は,本件たよりの紙面を彩りのあるバラエティに富んだ親しみやすいものにすることにあったことからすれば,原告の上記期待は,法律上保護されるものではない。
(8)

争点(8)(原告の損害)について

(原告の主張)
本件句会における活動は,会員が詠んだ俳句について議論をするという相互学習が行われることに意味があるものであり,三橋公民館による本件俳句を本件たよりに掲載しないとの制限は,原告を含む本件句会の会員の学習及び表現に萎縮効果を生じさせるものであることからすれば,本件俳句が本件たよりに掲載されなかったことにより原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円が相当である。
(被告の主張)
本件合意がされるに至った経緯,秀句が掲載される場所は本件たよりの紙面の下欄のわずかなスペースであること及び原告は本件俳句を本件
たより以外の場で発表することができたことからすれば,原告には,本件俳句が本件たよりに掲載されなかったことによる精神的苦痛は生じていない。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおりである。
(1)

公民館の職員らについて
Bは,平成4年に教員として採用され,田島小学校の教務主任を務めるなどした後,平成22年4月,三橋公民館の主幹を務め,その後,芝原小学校の主幹教諭を務めるなどした(乙7,B・1頁)。


Dは,平成11年に教員として採用され,さいたま市及び鳩ケ谷市の小学校において教員として勤務し,平成25年4月,三橋公民館の主幹を務め,その後,さいたま市立大宮小学校の教頭となった(乙8)。


Cは,昭和52年4月,馬宮中学校の教員として採用され,平成11年4月から旧大宮市立馬宮公民館の主査,平成13年5月からさいたま市立馬宮公民館の副主幹,同年6月から平成26年3月まで,さいたま市の複数の中学校の教頭を務めた後,退職し,同年4月から,三橋公民館の館長となった(C・1頁)。


Eは,昭和49年4月,旧大宮市役所に入所し,その後,教育委員会総務課等への異動を経て,平成19年4月からさいたま市立浦和高等学校の事務主幹,平成25年4月から桜木公民館長を務め,その後,定年退職した(乙9)。

(2)

生涯学習総合センター等
さいたま市立生涯学習センターは,同市の拠点公民館を所管し,拠点公民館は,それぞれ同市の地区公民館を所管する。

拠点公民館は,所管する地区公民館の予算執行,指導助言,その他関係機関との連絡調整及び維持管理に関する事務を所掌する。
(乙12,15)

さいたま市教育委員会教育長に対する事務委任規則2条により,「学齢児童・生徒の就学すべき学区の設定又は変更をすること。」,「委員会の附属機関の委員の任免を行うこと。」,「教科用図書の採択に関すること。」,「委員会表彰を行うこと。」,「文化財の指定又は解除に関すること。」,「人事の基本方針を定めること。」及び「前各号に掲げるもののほか,教育長に委任することが適用でないと認められる事務を行うこと。」以外の事務が,教育委員会から教育長に対し,委任されている(乙10)。
さいたま市教育委員会事務専決規程は,市教育委員会教育長の権限に属する事務の処理に関し必要な事項を定めるものであり,拠点公民館長は,同規程における課長に該当するものであるところ,同規程における課長の専決事項については,さいたま市事務専決規程の別表第2を準用しており,同別表では,定期刊行物の決定及びその編集並びに発行(市の行政の方針,施策等が掲載されているものを除く。)は,課長の専決事項とされている(乙10ないし15)。


公民館だよりの発行事務は,定期刊行物の決定及びその編集並びに発行(市の行政の方針,施策等が掲載されているものを除く。)に該当する(乙15,弁論の全趣旨)。

(3)

本件たよりについて
本件たよりは,三橋公民館が主催するものであるか否かを問わず,サークルの案内等の記事を掲載するものであり,自治会に回覧され,地域の小学校等に配布されるものである(甲1の1ないし56,原告本人・6頁,D・4,5頁)。


本件句会は,Bからの本件提案を了承した(本件合意をした)際,秀句の本件たよりへの掲載方法,期間,要件ないし体裁等について要望したことはなく,その後も,三橋公民館との間で,これらの事項について取決めをしたことはなかった(H・19頁,弁論の全趣旨)。


三橋公民館で活動する団体には,本件句会のほか,三橋切り絵の会や絵手紙ろの会などがあり,Bは,本件句会以外のサークルに対しても,本件提案と同様の提案をしており,三橋切り絵の会は,Bの提案に応じて作品を三橋公民館に提供してきたが,三橋公民館に提供することができる作品がなくなったとして,作品の提出を止めたところ,それ以降,本件たよりに三橋切り絵の会の作品が掲載されることはなくなり,代わりに,絵手紙ろの会の作品が掲載されることになった(甲1の1ないし56,B・3,4,9頁)。
Bが,本件句会や他のサークルに対し,各サークルの作品の提供を受けた上,これを本件たよりに掲載することを提案した目的は,本件たよりの紙面を彩りのあるバラエティに富んだ親しみのあるものにすることにあった(B・4,5頁)。


本件たよりに掲載することができない記事や作品についての判断基準は,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととした平成26年6月当時,作成されておらず,その後も,作成されていない(D・31頁,E・34頁)。
公民館の中には,住民の意見を公民館だよりに反映させることを目的とする公民館だよりの編集委員会を設置するものがあるが,三橋公民館には,上記委員会等の本件たよりの内容について意見を述べる機関は設置されていない(甲7ないし9,B・6,7頁,弁論の全趣旨)。


Bは,三橋切り絵の会から複数の作品の提出を受けていたため,任意の作品を選んだ上,各月の本件たよりに掲載していた(B・16頁)。
また,Bは,Gから,秀句の季語が,本件たよりが発行される時期とずれる場合には,その旨断りを入れてほしい旨要望があったため,これに応じて,本件たよりにその旨記載したことがあった(甲1の3ないし19,B・6頁)。
(4)

本件俳句の不掲載までの経緯
Dは,本件句会から本件俳句の提出を受けたが,これを本件たよりに掲載するのは問題ではないかと考え,Cに意見を求めたところ,Cは,本件俳句を掲載することは難しいと考える旨回答した(D・5,6頁,C・4,5頁)。


このため,Dは,平成26年6月25日,桜木公民館を訪れ,Eら同公民館の職員らと1時間程度,本件俳句を本件たよりに掲載することができるかどうかについて検討した上,Hに対し,本件俳句を本件たよりに掲載することはできない旨伝えた(乙9,D・20,22頁)。


DとEら桜木公民館の職員らが,上記検討をした際,本件俳句を本件たよりに掲載すべきである旨の意見が出されたことはなく,これを掲載しないことが,逆に公民館の中立性や公平性・公正性に反する可能性があることについての議論はされなかった(D・32,33頁)。


本件書面1は,Eが作成した原案をもとにDないしCが作成したものであり,本件書面2は,Eが文案を作成し,DないしCが書面化したものである(甲2,3,D・8,9頁,E・4,5頁,C・7,9頁)。

C,D及び生涯学習総合センターの職員2名は,平成26年7月22日の本件句会の活動終了後,本件句会の会員約20名に対し,本件俳句を本件たよりに掲載しなかった経緯について説明した(甲16,24,25)。
(5)

さいたま市公民館運営審議会(以下「本件公運審」という。)における
審議等

本件公運審は,平成25年10月,「社会変化に対処する公民館のあり
方について」と題する答申をまとめたところ,同答申には,学習成果の地域への還元という項において,「公民館の学習活動がカルチャーセンターや私塾での学習と異なるところは,学習を単に個人の満足にとどめず,学習の成果をボランティア活動や地域形成の活動に生かすよう継続発展させ,これを地域社会に還元し拡大させるようにすることが期待されている。」と記載されている(甲12)。

Cは,平成27年7月に開催された第7期第5回の本件公運審において,本件俳句を本件たよりに掲載しないことにした際,上記アの答申は参照しなかった旨述べた(甲17,I・27頁,弁論の全趣旨)。


本件公運審は,平成27年10月ころ,「市民の<声>が生きる公民館へ」と題する提言を作成した(甲13,弁論の全趣旨)。


さいたま市公民館条例22条2項柱書きは,「審議会は,委員15人以内をもって組織し,次に掲げる者のうちから委員会が委嘱する。」と規定し,「学校教育及び社会教育の関係者」,「家庭教育の向上に資する活動を行う者」,「学識経験を有する者」,「公募による市民」を掲げている(乙13)。

(6)

その他


本件句会を含む多数の俳句会で構成される,かたばみ俳句会は,同人誌を発行しており,原告は,かたばみ俳句会の会員でもあった(甲61,62,H・11頁,原告本人・8頁,弁論の全趣旨)。


Cが教員時代に出席した職員会議では,毎年,卒業式や入学式で国旗
(日の丸)を掲げるか否か,国歌(君が代)を歌うか否かについての議論が活発に行われ,教員同士で意見の対立があった(C・5,16,17頁)。

原告は,以前,自己の俳句が本件たよりに掲載された際,地域の住民から,原告の俳句を見たと言われたことがあった(原告本人・6頁)。

原告は,本人尋問において,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかった真の理由について思い当たるところはないと供述した(原告本人・32頁)。

2
争点(1)(本件合意の内容は,本件俳句を本件たよりに掲載することについて訴求力ある権利を発生させるものであったか。)について
(1)

原告は,本件合意の内容は,三橋公民館に秀句の掲載義務を課し,本
件俳句を本件たよりに掲載することについて訴求力のある権利を発生させるものであるというべきであって,三橋公民館は,本件句会が提出した秀句をそのまま本件たよりに掲載しなければならない義務を負う旨主張する。
(2)

Bは,平成22年10月ころ,Gに対し,本件句会の俳句を公民館だよ
りに掲載してはどうかとの提案(本件提案)をした(前提事実(3)ア)ところ,本件提案を受けたGは,本件句会の会員に本件提案についての意見を求めた上,本件句会の代表として,これを了承し(前提事実(3)イ),本件句会は,同年11月以降,本件句会が選出した秀句を三橋公民館の職員に提出し,三橋公民館は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,これを本件たよりに掲載してきた(前提事実(3)エ)ことからすれば,本件句会とBが,本件句会が提出した俳句を本件たよりに掲載することについて,申込み(本件提案)と承諾(本件句会が本件提案を受け入れることとしたこと)があった(本件合意)と認められる。
(3)ア

認定事実(3)ウのとおり,Bが本件提案をした目的は,本件たよりの紙
面を彩りのあるバラエティに富んだ親しみのあるものにするためであり,本件合意は,Bが本件提案をし,Gが本件句会の代表として,これを了承したという経緯によりされるに至ったところ(上記(2)),本件句会が,その際,秀句の本件たよりへの掲載方法,期間,要件ないし体裁等について要望したことはなく,その後も,三橋公民館との間で,これらの事項に
ついて取決めをしたことはなかった(認定事実(3)イ)。
そして,Bは,Gから,秀句の季語が,本件たよりが発行される時期とずれる場合には,その旨断りを入れてほしい旨の要望を受け,これに応じたものの(認定事実(3)オ),断りの文言等について,本件句会から具体的な要望があった形跡はないこと,本件たよりに掲載することができない記事や作品についての判断基準は,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととした平成26年6月当時,作成されておらず,その後も,作成されていないこと,三橋公民館には,編集委員会や本件たよりの内容について意見を述べる機関が設置されていなかったこと(認定事実(3)エ),Bは,三橋切り絵の会から複数の作品の提出を受けていたため,任意の作品を選んで,各月の本件たよりに掲載していたこと(認定事実(3)オ)も考慮すれば,本件句会の会員は,三橋公民館の主幹であるBが,本件句会から提出された俳句が,本件たよりの紙面を彩るのにふさわしいかどうかを検討して,掲載するかどうか決めることを了承していたものと認められる。
そうすると,本件たよりの編集権限は,事実上,三橋公民館の主幹にあり,本件たよりに俳句を掲載するかどうかは,Bの判断に委ねられていたものというべきである。

なお,認定事実(3)ウのとおり,Bは,本件句会以外のサークルに対しても,本件提案と同様の提案をしており,三橋切り絵の会も,Bの提案に応じて,作品を三橋公民館に提出してきたが,三橋公民館に提出することができる作品がなくなったとして,作品の提出を止めたところ,それ以降,三橋切り絵の会の作品が,本件たよりに掲載されることはなくなり,かつ,三橋公民館が,三橋切り絵の会に対し,作品の提出を求めた形跡がないことからすれば,三橋公民館との間で本件たよりにサークルの作品を掲載するとの合意をした各サークルが,三橋公民館に対し,作品を提供する義務
を負っていたとするのは相当でないから,本件句会には,秀句を提供する義務はないと解される(原告もその旨主張している。)。

上記ア及びイからすると,本件合意の内容は,本件句会が俳句の提供義務を負い,三橋公民館が本件句会から提出された秀句をそのまま本件たよりに掲載する義務を負うといったものではなく,本件句会が俳句を提供し,本件たよりの事実上の編集権限を有する三橋公民館の主幹が,本件たよりの紙面を彩るために有効であるとして掲載することを決めた場合,俳句を掲載するというものにすぎなかったと解するのが相当である(なお,本件句会が三橋公民館に提出した秀句が,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間にわたって,本件たよりに継続して掲載されたことにより,本件合意の内容に質的な変化が生じたと認めるに足りる証拠はない。)。

(4)

したがって,本件合意の内容は,法的に訴求力のある権利ないし義務を
発生させるものではないとするのが相当であるから,原告の上記主張は採用することができない。
なお,原告は,本件合意の内容は,三橋公民館は,いかなる場合であっても,本件句会が提出した秀句を本件たよりに掲載しなければならない義務を発生させるものである旨主張するが,明らかに社会的相当性を欠く内容の俳句(他者の人格を侵害する蓋然性のある俳句等)であっても,三橋公民館はこれらを掲載しなければならないという内容の合意がされることはないはずであるから,原告の上記主張も採用することはできない。
3
争点(2)(三橋公民館の職員には,本件句会との間で,本件句会ないしその会員に本件たよりへの俳句の掲載請求権を発生させる合意をする権限があったか。)について
(1)

原告は,三橋公民館が,本件合意をすることは,本件たよりの発行とい
う事業の実施に伴う事務に該当するものであるから,本件合意をする権限は,
三橋公民館長にある旨主張するので,この点について,念のため,検討するに,本件合意に係る本件提案をしたのは,当時の三橋公民館の主幹であったBであるところ,本件たよりの編集権限は,事実上,実際に本件たよりを作成していた三橋公民館の主幹にあり(上記2(3)ア),その決裁権限は,桜木公民館長にあったというべきであるが(認定事実(2)イ及びウ),本件たよりの編集権限及び決裁権限(内部的な権限)と,第三者である本件句会と本件合意をする権限(外部的な権限)は,その内容を異にするものであるから,本件提案をしたBに,本件句会との間で,本件句会ないしその会員に訴求力のある俳句の掲載請求権を発生させる合意をする権限があったと認めることはできない。
なお,三橋公民館長及び桜木公民館長が本件合意についての決裁をしたと認めるに足りる証拠はなく,桜木公民館長が,本件たよりを決裁したことをもって,本件合意の決裁をしたとみることもできない。
(2)ア

原告は,各省の訓令や地方自治体の決裁規定等により専決権限が定め
られている場合であっても,決裁規定上の専決権者よりも下位の補助機関が権限を補助執行していたという事務取扱いの実情が存在し,権限の根拠法令の趣旨等に照らし,下位の者に事務処理を行わせるという事務取扱いに合理性が認められれば,補助機関に慣行上の決裁権限が委ねられていたものということができるところ,本件たよりは,平成25年3月ころまで,拠点公民館長である桜木公民館長の決裁を受けず,三橋公民館の職員にゲラを回覧した上,三橋公民館の了承の下,発行されていたものであるから,三橋公民館長の了承によって三橋公民館を利用する団体に関する記事を本件たよりに掲載することが決定されていたという事務取扱いの実情があり,本件たよりに掲載する記事の分量等について,各団体と協議・調整をする必要があることからすれば,同事務取扱いには,必要性及び合理性があったから,慣行上,三橋公民館長に本件たよりに掲載する記事に関する交渉
ないし各団体との合意についての専決権限があったというべきである旨主張する。

しかし,原告が引用する本件高裁判決は,車両法に基づく報告要求について,実務上,自動車交通局長の決裁を得て行うことは異例であり,審査課長又はリコール対策室長の判断・指示に基づき,同室の職員がこれを行うのが通例であったことを根拠として,専決権限を有していない補助機関による報告要求の効力を肯定するものであるところ,前提事実(2)イによれば,本件たよりの決裁権限は,平成25年4月以降のいずれかの時期から,拠点公民館長である桜木公民館長に帰属していたと推認されるから,桜木公民館長の決裁を得て公民館だよりの発行を行うことが異例であるといった事情があるということはできず,本件は,本件高裁判決と異なる状況にあったというべきであるから,上記主張は前提を欠くものである。
(3)

したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
(4)

よって,争点(3)及び(4)について判断するまでもなく,本件俳句を本件
たよりに掲載することを求める原告の請求は理由がない。
4
争点(5)(本件俳句を不掲載としたことが,原告の学習権を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について
(1)

原告は,三橋公民館の職員は,①公民館利用者である原告を公正に取り
扱う義務に違反し,②学習権を保障する趣旨の規定である社会教育法9条の3第1項及び③同法12条に違反して,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより,原告の学習権を侵害した旨主張する。
しかし,社会教育法9条の3第1項及び同法12条の各規定は,原告が主張するとおり,大人の学習権を保障する趣旨のものであるから,上記各規定により,公民館の職員に課される学習権を保障するための義務は,原告が主張する①公民館利用者である原告を公正に取り扱う義務の一内容に過ぎないというべきであり,原告の学習権侵害に関する上記②及び③の主張は,結局,
①の主張と同じものであると解するのが相当である。(2)

学習権は,憲法26条に基づき,国民各自が,一個の人間として,また,
一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする権利であり,特に,自ら学習することのできない子どもとの関係では,自己に教育を施すことを大人一般に対して要求することができる権利をいうと解するのが相当である(最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)から,子どものみならず,大人についても,憲法上,学習権が保障されるというべきであり,社会教育法2条及び3条は,これを前提とする規定であると解するのが相当である。
しかし,憲法23条の学問の自由の内容に,研究発表の自由が含まれると一般的に解されている(上記最高裁判所判決参照)のと異なり,人間のあらゆる表現は,学習を前提としてされるものであるから,学習成果の発表は,表現そのものにほかならないというべきである。
したがって,学習成果の発表の自由は,学習権の一部として保障されるのではなく,表現の自由として保障されるものと解するのが相当であるから,学習権の内容に学習成果の発表の自由が含まれると解することはできない。(3)

原告は,①表現の自由と学習権は,学習権の内容である学習成果の発表
は,表現活動の1つとして,表現の自由によっても保障を受けるため,両者には重なる部分があるが,学習成果の発表は,学習権の不可欠の要素であること及び②学習権は,自己学習及び相互学習,学習成果の発表の自由及び住民の知る権利を内容とするものであるところ,学習成果の発表の自由や住民の知る権利という部分は,表現の自由によっても保障を受けるため,両者には重なる部分があるが,学習権の内容である住民の知る権利は,表現の自由の内容である知る権利とは異なり,教育という観点が存在し,単純に情報にアクセスするのではなく,真実を学び,知るというものであることから,学習権は,表現の自由とは異なる性格を持つ以上,表現の自由とは別に保障さ
れるべきものである旨主張する。
しかし,上記(2)のとおり,学習権の内容に学習成果の発表の自由が含まれると解するのは相当ではない。
また,本件は,原告が詠んだ本件俳句を本件たよりに掲載することにより発表することの可否が問題となるものであるから,本件俳句が本件たよりに掲載されないことによって,原告が学習をすること自体が制限されるわけではない。
なお,原告は,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより,俳句の創作活動といった原告が参加する本件句会における相互学習に萎縮効果を生じさせるとも主張するが,そのような萎縮効果が生じ,又は生じるおそれがあると認めるに足りる証拠はない(本件句会は,Bが本件提案をする以前は,秀句を本件たよりに掲載することを希望することなく活動しており,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととした後,三橋公民館が本件句会に対し,本件俳句とは別の俳句を掲載することを提案したにもかかわらず,本件句会がこれを拒絶して,三橋公民館に対し,秀句を提出することを止めたまま活動を継続していたことからすれば(前提事実(5)エ),原告を含む本件句会の相互学習に萎縮効果が生じたと認めることはできない。)。
(4)
5
したがって,原告の主張はいずれも採用することができない。

争点(6)(本件俳句を不掲載としたことが,原告の表現の自由を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について
(1)

原告は,本件たよりは,本件句会が提出した秀句の発表の場としての性
格を有するものであること,表現の自由の優越的な地位が実現されるためには,表現が受け手に受領されるまでの一連の過程全体が保障されなければならないことを理由として,公権力が発表の場として提供した場での表現活動を制限することは,原則として表現の自由を侵害するものであるから,仮
に,原告に本件俳句の掲載請求権がないとしても表現の自由が侵害されたということができる旨主張する。
しかし,原告は,本件たよりという特定の表現手段による表現を制限されたにすぎず,かたばみ等の同人誌やインターネット等による表現が制限されたわけではない上(認定事実(6)ア),特定の表現手段による表現の制限が,表現者の表現の自由を侵害するものというためには,同人が,この表現手段の利用権を有することが必要と解される(ある者が国営の新聞社に対し,投書をしたところ,同社が同投書を投書欄に掲載しなかったからといって,これが,同人の表現の自由を侵害するということはできないことは明らかである。)から,本件においては,原告が,本件俳句を本件たよりに掲載することを求めることができる掲載請求権を有することが必要となるところ,上記2及び3のとおり,原告には,本件俳句の掲載請求権があるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,前提を欠き,採用することができない。(2)

原告は,本件たよりは,パブリック・フォーラムであり,三橋公民館に
よる本件俳句を本件たよりに掲載しないという制限が正当化されるのは,その目的がやむにやまれぬものであり,上記制限が目的達成のために必要最小限度にとどまる場合であるところ,上記制限は,これらの要件を充足しないから,原告の表現の自由を侵害する旨主張する。
しかし,本件たよりがパブリック・フォーラムに該当するというためには,原告が本件たよりというフォーラムに立ち入ることができる権利を有することが必要と解すべきところ,原告は,本件俳句の掲載請求権を有しておらず(上記2及び3),また,公民館の利用権は,本件たよりへの掲載請求権とは異なるものであるから,原告が,フォーラムとしての本件たよりに立ち入ることができる権利を有するということはできない。
したがって,原告の上記主張は,前提を欠き,採用することができない。
(3)

原告は,三橋公民館が,平成22年11月から平成26年6月までの3
年8か月の間,本件句会に対し,秀句を掲載する場として本件たよりのスペースを提供していたことを一種の助成措置であると捉え,三橋公民館が,本件たよりのスペースを提供することを止めること(助成措置の撤回)に関する裁量は制限される旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,三橋公民館が,本件句会の会員らに対し,本件たよりを表現の場として提供することにより,助成したことを前提とするものであって,原告のパブリック・フォーラム論の主張とほぼ同一のものと解されるところ,本件たよりが,本件句会の会員らに対し,表現の場として提供されたものであると認めるに足りる証拠はないし,上記2,3及び(2)のとおり,原告は本件俳句の掲載請求権を有しておらず,また,フォーラムとしての本件たよりに立ち入ることができる権利を有するということはできないから,原告の上記主張も,前提を欠き,採用することができない。(4)
6
したがって,原告の主張は,いずれも採用することができない。

争点(7)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが,原告の人格権ないし人格的利益を侵害し,国家賠償法上,違法であるか。)について(1)

原告は,本件句会の学習成果であり,かつ,作者の思想等が込められた
作品を住民に発表ないし伝達する利益は,①公民館が,住民の学習権の保障を実質化するための社会教育施設であること,②公民館だよりは,地域住民に対する社会教育の助長・奨励のための媒体であり,学習成果を地域へ還元し,地域住民に対し,学習の機会を提供することを目的とし,公民館で活動する団体に対し,学習成果を発表する場を設けたものであること,③本件句会の会員は,公民館を利用する者であり,本件句会で会員らが詠んだ俳句が秀句となった場合,本件たよりに掲載することができたことを踏まえると,本件句会の秀句の作者には,本件たよりにより秀句を地域住民に発表する権利ないし利益があり,これは,人格権ないし人格的利益として法律上保護さ
れると主張する。
しかし,上記2及び3のとおり,原告は,本件俳句の掲載請求権を有していないから,これを人格権ないし人格的利益という被侵害利益とする不法行為が直ちに成立するということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)

原告は,三橋公民館は,平成22年11月から平成26年6月までの3
年8か月間,本件句会の秀句を本件たよりに掲載し続けてきたのであるから,秀句の作者には,秀句を本件たよりに掲載されることについて期待する権利ないし利益があり,秀句の作者の思想良心の自由や表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにかんがみると,三橋公民館は,原告の思想や信条を理由とした不公正な取扱いによって本件俳句を本件たよりに掲載しないこととしたのであるから,三橋公民館が本件俳句を不掲載としたことは,思想,意見等を公衆に伝達する原告の権利ないし利益を不当に侵害するものである旨主張する。
(3)

前提事実(3)イ及びエのとおり,三橋公民館は,本件合意に基づき,本件
句会が提出した秀句を3年8か月にわたり,継続して本件たよりに掲載してきたのであるから,原告が,秀句として選出された本件俳句も,本件たよりに掲載されると期待するのは当然というべきところ,原告の上記期待は,著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり,公務員である三橋公民館及び桜木公民館の職員らが,著作者である原告の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いをした場合,同取扱いは,国家賠償法上違法となると解するのが相当である(最高裁判所平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁参照)。
(4)

被告は,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載することは,世論
の一方の意見を取り上げ,憲法9条は集団的自衛権の行使を許容すると解釈
する立場に反対する者の立場に偏することとなり,中立性に反し,また,公民館が,ある事柄に関して意見の対立がある場合,一方の意見についてのみ発表の場を与えることは,一部を優遇し,あるいは冷遇することになり,公平性・公正性を害するため,許されないから,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことには,正当な理由がある旨主張する。

教育行政の基本は,政治的中立性が確保されることにあることはいうまでもないところ,教育基本法16条1項や社会教育法12条等が,教育行政は,政治的に中立であるべきといった内容を定めていることは,これを当然の前提とするものと解される。


しかし,前提事実(5)イ及びウのとおり,三橋公民館は,本件書面1により,原告に本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について回答したが,本件書面2により,本件書面1で本件俳句を公民館だよりに掲載することができない理由としていたものを撤回するに至っており,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととするに当たって,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)は,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,十分な検討を行っていなかったと認められる。
なお,本件書面1には,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由として,①公民館は特定の政党の利害に関する事業を行うことは禁止されていること(社会教育法23条1項2号)及び②国内世論が大きく分かれているものは広告掲載を行わないとされていること(さいたま市広告掲載基準4条(1)エ)が挙げられているが(前提事実(5)イ及びウ),①社会教育法23条1項2号は,公民館が,特定の政党の利害に関する事業を行うことを禁止する規定であること,②さいたま市広告掲載基準が想定する広告は,民間企業等の広告であることからすれば,本件たよりに本件俳句を掲載することができるかどうかの判断の根拠となるものでないこと
が明らかである。

本件俳句が,憲法9条が集団的自衛権の行使を許容していると解釈すべきでないとの立場を表明したものであるとすると,本件俳句を本件たよりに掲載することにより,三橋公民館は,上記立場に反対する立場の者からクレームを受ける可能性があることを否定することはできないが,前提事実(3)エのとおり,本件俳句を本件たよりに掲載する場合,別紙俳句目録1記載のように,本件句会の名称及び作者名が明示されることになっていることからすれば,三橋公民館が,本件俳句と同じ立場にあるとみられることは考え難いから,これを掲載することが,直ちに三橋公民館の中立性や公平性・公正性を害するということはできない。
むしろ,行政が,中立性や公平性・公正性を確保する目的が,国民の行政に対する信頼を確保することにあるとすれば,本件俳句を本件たよりに掲載しないことにより,三橋公民館が,憲法9条は,集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきとの立場に与しているとして,上記立場と反対の立場の者との関係で,行政に対する信頼を失うことになるという問題が生じるが,認定事実(4)で認定した本件俳句の不掲載までの経緯によれば,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととするに当たって,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)は,この点について何ら検討していないものと認められる(なお,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととした当時,上記職員らが,原告がデモに参加したことを認識していた形跡はないから,原告がデモに参加したことを考慮して,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由としたとする被告の主張は採用することができない。)。


また,前提事実(4)イのとおり,平成26年6月当時,憲法9条が,集団的自衛権の行使を許容すると解釈すべきかどうかについて,賛否が分かれていたものの,賛成・反対いずれの立場も,憲法9条を守ること自体に
ついては一致していたのであるから,本件俳句の「九条守れ」との文言が,直ちに世論を二分するものといえるかについても疑問を容れる余地があるところ,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととするに当たって,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)が,この点について検討した形跡はない。

上記イないしエのとおり,三橋公民館及び桜木公民館の職員らは,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しないこととするに当たって,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,十分な検討を行っておらず,三橋公民館は,このような不十分な検討結果をもとに,本件書面1記載の内容を根拠として,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととし,その後,本件書面1記載の内容が不適切であったことを認めた上,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,本件書面2記載の内容に変更するなど,場当たり的な説明をしていたものである(前提事実(5)イ及びウ)。


以上によれば,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことに,正当な理由があったということはできず,三橋公民館及び桜木公民館の職員らは,原告が,憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想や信条を有しているものと認識し,これを理由として不公正な取扱いしたというべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。


なお,上記イないしエのように,三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)が,本件俳句を本件たよりに掲載することができるかどうかについて,十分な検討を行わなかった原因について,次のように推認することができる。
認定事実(1)イ及びウのとおり,D及びCは教員を経験した後,三橋公民館の主幹ないし館長を経て,管理職となっており,認定事実(1)エのと
おり,Eは,教育委員会や高校の事務主幹を経験した後,桜木公民館の館長となっているところ,認定事実(6)イのとおり,Cが,教育現場において,国旗(日の丸)や国歌(君が代)に関する議論など,憲法に関連する意見の対立を目の当たりにしてきたように,D及びEも,上記のような意見の対立を目の当たりにして,これに辟易しており,一種の「憲法アレルギー」のような状態に陥っていたのではないかと推認される。
そして,上記「憲法アレルギー」の発露として,Dは,本件俳句を本件たよりに掲載するのは問題ではないかと考え,Cに意見を求め,Cは,これに対し,本件俳句を本件たよりに掲載することは難しいと考える旨回答し(認定事実(4)ア),Eら桜木公民館の職員らも,「九条守れ」という憲法に関連する文言が含まれた本件俳句に抵抗感を示し,上記イないしエのとおり,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,十分な検討を行わないまま,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととしたものと推認するのが相当である(なお,原告は,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかった真意は不明である旨供述しており(認定事実(6)エ),三橋公民館及び桜木公民館の職員ら(C,D及びE)が,本件俳句を本件たよりに掲載することができないとするに当たって,さいたま市長等の意向を忖度した形跡はない。)。
(5)

したがって,三橋公民館及び桜木公民館の職員らが,原告の思想や信条
を理由として,本件俳句を本件たよりに掲載しないという不公正な取扱いをしたことにより,法律上保護される利益である本件俳句が掲載されるとの原告の期待が侵害されたということができるから,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,国家賠償法上,違法というべきである。7
争点(8)(原告の損害)について
(1)

原告は,本件俳句を不掲載にされたことにより受けた精神的苦痛に対す
る慰謝料としては200万円が相当であると主張する。

(2)

三橋公民館及び桜木公民館の職員らは,三橋公民館が本件俳句を本件た
よりに掲載しないこととするに当たって,本件俳句を本件たよりに掲載することができない理由について,十分な検討を行っておらず,三橋公民館は,このような不十分な検討結果をもとに,本件書面1記載の内容を根拠として,本件俳句を本件たよりに掲載しないこととしたところ,本件俳句を本件たよりに掲載することができないと判断した理由は,合理的な根拠を欠くものであること(上記6(4)),本件句会が三橋公民館に提出した秀句は,平成22年11月から平成26年6月までの3年8か月間,本件たよりに掲載されてきたことからすれば,原告は,本件俳句が本件たよりに掲載されることについて法律上保護される利益を有していたものである(上記6(3))。(3)

一方,上記4(3)のとおり,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載
しなかったことにより,原告を含む本件句会の相互学習に萎縮効果が生じたと認めることはできない。
(4)

上記(2)及び(3)に掲記した事情等,本件に現れた一切の事情を総合
考慮すれば,原告が本件俳句を不掲載にされたことによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては5万円が相当である。
8
結論
以上によれば,原告の請求は,5万円及びこれに対する不法行為の日(本件俳句が掲載されなかった本件たよりの発行日)である平成26年7月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第6民事部

裁判長裁判官

大野和明
裁判官

佐藤美穂
裁判官

足立賢明
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