判例検索β > 平成29年(う)第7号
覚せい剤取締法違反等
事件番号平成29(う)7
事件名覚せい剤取締法違反等
裁判年月日平成29年9月26日
法廷名名古屋高等裁判所  金沢支部
原審裁判所名福井地方裁判所
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主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中230日を原判決の懲役刑に算入する。理由
本件控訴の趣意は,弁護人岩﨑史明作成の控訴趣意書,控訴趣意補充書及び検察官の答弁書に対する反論書各記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官齋智人作成の答弁書記載のとおりである(なお,主任弁護人岩﨑史明は,控訴趣意書等に「事実誤認」及び「理由不備」と記載のある部分は,訴訟手続の法令違反の主張の前提事実に関する原判決の事実誤認をいう趣旨である旨釈明した。)。第1
1
控訴趣意及び原判決の概要等
論旨は,訴訟手続の法令違反の主張であり,要するに,本件では,被告人が使用していた自動車に,捜査官がひそかにGPS端末を取り付け,その位置情報を検索し把握する捜査手法(以下,単に「GPS捜査」という。)が用いられ,これに基づき収集された証拠によって,原判示の各事実により被告人が起訴されたところ,本件では,令状なく違法なGPS捜査が実施されたことは明らかであり,同捜査により収集され,あるいはこれに関連する証拠は,全て違法収集証拠として証拠能力がないのに,本件で行われたGPS捜査(以下「本件GPS捜査」という。)は,任意捜査と解するのが相当であり,少なくとも令状主義の精神を没却する重大な違法があったとはいえず,仮に本件GPS捜査に重大な違法があったとしても同捜査との関連性は希薄であるなどとし,これらの証拠能力を認め,証拠として採用した上,原判示の各事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというものである。

2
本件は,被告人が,①営利の目的で,平成25年8月16日及び同月18日,福井市内の路上等において,外国人らに覚せい剤を譲り渡したほか,薬物犯罪を犯す意思をもって,平成24年10月頃から平成25年8月頃までの間,多
数回にわたり,同市内等において,数名の者に覚せい剤様の物を覚せい剤として有償で譲り渡し,覚せい剤を譲り渡す行為と薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡す行為を併せてすることを業とし(原判示第1の1),営利の目的で,同月20日,福井市内に駐車中の自動車内において覚せい剤を所持し(同第1の2),②平成25年8月18日頃,福井市内の被告人方において覚せい剤を自己使用した(同第2)という各事実から成る事案である。
被告人は,営利目的による覚せい剤の譲渡2件と所持,覚せい剤の自己使用の各事実で順次起訴され,これらは併合審理されて,当初の原審公判では各事実を認める旨の陳述をした。その後,営利目的による覚せい剤の譲渡及び所持の各事実につき,麻薬特例法違反及び覚せい剤取締法違反の事実に訴因等が変更され,裁判員裁判の対象となったことから,本件は,期日間整理手続に付され,同手続において,本件GPS捜査が違法であり,これと関連する検察官請求証拠が違法収集証拠として証拠能力が否定されるかどうかが主要な争点として整理された上,裁判員裁判として審理された。
3
原判決は,本件GPS捜査に関する事実経過等を認定した上,同捜査は強制処分に該当せず,任意捜査と解するのが相当であるとし,少なくとも令状主義の精神を没却するような重大な違法があったとはいえないとした。その上で,原判決は,証拠の標目欄に掲げた証拠を含む検察官請求証拠について個別に検討し,いずれも本件GPS捜査との関連性は希薄であり,仮に同捜査に令状主義の精神を没却するような重大な違法があったとしても,これらの証拠能力は否定されないというべきであるとして,原判示の各事実を認定した。
第2
1
当裁判所の判断
そこで,記録を調査して検討すると,原判決のうち,本件GPS捜査が強制処分に当たらないとした点は是認することができないが,原判決挙示の各証拠等につき,同捜査との関連性が希薄であるとしてその証拠能力を認めた点は,結論として相当であり,これらを採用して取り調べた原審の訴訟手続に法令違
反は認められない。以下,所論に鑑み,記録より補足して説明する。2
本件GPS捜査に関する主張について
(1)

被告人に対する本件GPS捜査の実施経緯やその捜査状況等は,原判決が
「証拠能力についての補足説明」の2(1)ないし(6)で認定したとおりであるが,記録と併せれば,概要として次のとおり認められる。

福井県警察本部組織犯罪対策課の警察官ら(以下,所属は同じ)は,暴力団員であった被告人が,所属組織の関係者と共に覚せい剤を密売している旨の情報等を基に,平成25年(以下,後記3(4)ウまで,同年中の出来事は年数記載を省略)3月下旬から被告人に対する捜査を本格的に開始した。
警察官らは,覚せい剤取引の現認等のため,捜査車両により被告人使用車両に対する尾行捜査を行っていたが,被告人が尾行を警戒していたなどの事情から,捜査主任官においてGPS捜査を行うことを決め,4月2日頃より本件GPS捜査を開始した。なお,本件GPS捜査は,事前に検察官に相談することなく,無令状で行われ,その実施中も捜査状況を検察官に報告するなどの措置は取られなかった。


本件GPS捜査は,被告人使用車両(マツダ・デミオ及びスズキ・スイフト)の後部底面に,磁石付きケースに入れたGPS端末機(J株式会社が提供する位置情報提供サービス用のK)をひそかに取り付け,各捜査員が所持する携帯電話機を使って契約者専用ホームページにアクセスし,その位置情報を検索,取得するというものであり,立ち回り先に被告人使用車両がなかった場合や,尾行中に同車を失尾した場合に同端末機の位置情報を取得していた。そして,取得した位置情報は,無線や携帯電話機を使うなどして捜査員間で共有し,尾行捜査の補助手段として用いていた。

前記GPS端末は,4月2日頃から23日頃までの間はデミオに,4月26日頃から5月7日頃までの間,5月10日頃から13日頃までの間及
び5月27日頃から6月6日頃までの間はいずれもスイフトにそれぞれ取り付けられていたが,同日(6月6日)頃,被告人が同端末の存在に気付いたため,その時点で本件GPS捜査は終了した。なお,被告人に対する尾行捜査等は,被告人が逮捕された8月20日まで続けられた。
(2)

原判決は,本件GPS捜査が強制処分に該当するか否かは専ら被告人のプ
ライバシーがどの程度制約されていたかを問題とすべきであり,その程度の判断は,同捜査により取得された情報の内容等の事情を中心的な要素として検討するのが相当とした上,同捜査で取得されたのはGPS端末が取り付けられた被告人使用車両の点としての位置情報であり,それ自体は公道上又は公道から出入りできる建物等における同車の位置情報にすぎず,通常の目視による尾行捜査でも取得可能なものであること等から,類型的にプライバシー保護の合理的期待が高く,その検索・取得がプライバシーを大きく制約するものとまではいい難いこと,GPS端末が被告人使用車両に取り付けられていた期間(合計約49日間)のうち,実際に位置情報が取得されたのは約39日間であり,位置情報の検索・取得は尾行捜査の補助手段として,おおむね断続的かつ不規則に行われたものにすぎないし,本件GPS捜査で取得された位置情報を全体としてみても,個々の位置情報を超えた個人の情報が明らかにされる可能性が高いとまではいえず,同捜査により被告人のプライバシーが制約される度合いが高かったとまではいえないことから,同捜査は強制処分に該当せず,任意捜査と解するのが相当であり,同捜査において,警察庁制定の移動追跡装置運用要領が完全に遵守されたか疑念が残る部分はあるが,これが直ちに被告人のプライバシー制約の度合いを高めたとはいい難く,これをもって同捜査が強制処分に該当するとはいえないと説示した。そして,原判決は,本件GPS捜査当時,被告人に対する覚せい剤密売の嫌疑が相当高かったこと,覚せい剤の拡散防止等のためにも早期検挙の必要があったが,覚せい剤取引の現認や証拠化が困難であり,被告人が尾行を警
戒する行動を盛んにしていて,途中で尾行を断念せざるを得ないことが少なからずあったこと等から,被告人を尾行するため,速やかに被告人使用車両にGPS端末を取り付け,その位置情報を取得する本件GPS捜査を実施する必要性は相当高かったといえ,その開始後から終了に至るまでの間,前記嫌疑はもとより,捜査の必要性は依然として相当高いままであったと認められるとし,本件GPS捜査は,被告人の財産権やプライバシーを大きく制約するものではなく,使用されたGPS端末は1台のみで,被告人使用車両の変更等があった場合には速やかに取り外され,その着脱も全て公道上で行われたこと等の事情からすれば,同捜査は基本的に相当な方法で行われたといえ,少なくとも令状主義の精神を没却するような重大な違法があったとはいえないと説示した。
(3)

しかし,GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握す
べく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含め,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にし,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,これを可能とする機器を個人の所持品にひそかに装着して行う点において,公道上の所在を肉眼で把握するなどの手法と異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うというべきである。そうすると,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品にひそかに装着することにより,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧し,憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と
解すべきである(最高裁判所平成29年3月15日大法廷判決参照)。そして,本件GPS捜査の状況等は前記(1)のとおりであるところ,その実施期間は合計約49日間と長期間に及び,この間の検索回数も,被告人使用車両2台を併せ,合計371回(検索不能分を含む。)と多かったこと,移動追跡装置運用要領中に「捜査書類には,移動追跡装置の存在を推知させるような記載をしない」とあるように,被告人の捜査に係る捜査報告書等には本件GPS捜査に関する記載をせず,その実施前から実施中を通じ,検察官に知らされなかったのであり,その適法性の判断を事後的にも困難にするものであったことを併せ考慮すると,同捜査の違法の程度は,令状主義の精神を没却する重大なものというべきである。
したがって,令状がなく行われた本件GPS捜査は,強制処分法定主義(刑訴法197条1項ただし書)に反する違法なものであり,その違法の程度も重大というべきである。本件GPS捜査が任意捜査に該当し,少なくとも令状主義の精神を没却するような重大な違法があったとはいえないとした原判決の判断は,是認することができない。
なお,所論は,本件GPS捜査では複数のGPS端末が用いられ,その被告人使用車両への着脱も被告人方敷地等に入って行われていたし,尾行捜査が行われていたとは考えられない早朝の時間帯にも被告人使用車両の位置検索が行われた実態があるのに,本件GPS捜査に用いられたGPS端末は1台であり,その着脱は公道上で行われ,早朝の時間であっても,尾行捜査の結果として被告人の行動が把握されていた可能性も十分に考えられる旨説示した原判決は誤っていると主張する。
しかし,所論が指摘する諸点については,記録を調査しても原判決の認定説示(「証拠能力についての補足説明」の3(2),(4))に誤りがあるとは認められないが,所論を前提としても本件GPS捜査が違法であることに変わりはない。

3
違法収集証拠に関する主張について
そこで,本件GPS捜査の違法性と,所論が違法収集証拠として排除すべき旨を主張する検察官請求証拠の証拠能力との関連性の有無・程度につき,所論に即して順次検討する。
なお,本件GPS捜査終了後の捜査経過等は,原判決が「証拠能力についての補足説明」の6(1)で認定した事実を前提とし,また,控訴趣意書等において所論が違法収集証拠に当たると主張する検察官請求証拠のうち,原判決が「証拠の標目」に掲げた証拠のみを対象とする。
(1)

まず,被告人と,被告人から覚せい剤を購入していた者(B,C,D,E,
F,G,H及びI(B,C,F及びGは外国人)。以下,外国人の氏名は原判決の表記に合わせる。)との間の携帯電話の通話状況に関する捜査報告書(原審甲146ないし153)について検討する。

記録によれば,これらの基となった資料は次のとおりと認められる。


差押許可状(6月18日請求・発付)により差し押さえられた被告人使用の携帯電話機(電話番号●●●-●●●●-●●●●)の通話明細(以下,それぞれ「●●●●携帯」,「●●●●明細」といい,携帯電話機はその電話番号下4桁による同様の表記で特定する。)



各差押許可状(8月1日請求・発付)により差し押さえられたB(電話番号○○○-○○○○-○○○○及び△△△-△△△△-△△△△),C(□□□-□□□□-□□□□),D(◎◎◎-◎◎◎◎-◎◎◎◎)及びF(▽▽▽-▽▽▽▽-▽▽▽▽)各使用の携帯電話機の通話明細(いずれも●●●●携帯との通話記録があり,●●●●明細により判明したもの)



差押許可状(8月29日請求・発付)より差し押さえられた次の各通話明細


①②の各携帯電話機につき,①②で差し押さえられた通話明細以後
の期間分


被告人使用の携帯電話機(電話番号▲▲▲-▲▲▲▲-▲▲▲▲。6月20日に通話停止となった●●●●携帯の代替),B(◇◇◇-◇◇◇◇-◇◇◇◇)及びE各使用の携帯電話機の通話明細(なお,記録によれば,E使用の携帯電話機については,5月24日から8月28日までの通話明細が差し押さえられ,5月23日以前の通話明細は,別件の被疑事実で発付された差押許可状に基づき,同月30日に差し押さえられたことが認められる。)


所論は,本件GPS捜査は,複数の警察官が組織的に行った違法捜査であり,警察官個人の捜査過程における違法性が問題となった場合と事案を異にするとし,本件では,令状請求の疎明資料から本件GPS捜査で得られた証拠やこれを踏まえた捜査書類が排除されていれば,当該令状が発付されていたかという観点から検討すべきであるとした上,前記①の差押許可状の発付が認められるには,本件GPS捜査中のものを含む尾行捜査の結果に関する疎明資料が決定的な意味を持ち,目視のみの尾行結果では疎明資料として不十分であったから,差押許可状は発付されなかった可能性が高く,前記②③の各差押許可状についても,本件GPS捜査と関連する尾行結果の資料や●●●●明細が疎明資料から排除されれば発付されなかったとし,前記①ないし③の各通話明細は同捜査と明確な関連性があり,違法収集証拠として排除すべきであると主張する。


本件GPS捜査が違法で,その違法の程度も重大であることは,前記2(3)で説示したように,GPS捜査が令状がなければ行うことのできない強制処分と解されることに加え,本件GPS捜査の実施経緯,その期間や態様等から認められるのであり,同捜査が組織的なものであった点は,その経緯として既に評価されている。そして,本件GPS捜査の違法性と令状請求に用いられた疎明資料との関係は,その資料中に同捜査の結果が
どの程度反映されているか,他の資料によっても令状が発付されたといえるかなどを具体的に検討すべきものである。
記録によれば,前記各差押許可状請求の疎明資料には,尾行捜査の結果による被告人の行動に関するものが含まれており,②③の各令状請求の疎明資料には,①の令状請求時の資料に加え,各差押えの結果を解析した資料等が順次付加されていたことが認められるところ,被告人の行動に関する資料中には,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査時のものが含まれている可能性があるから,各令状請求時の疎明資料として用いられた結果として,本件GPS捜査が前記各通話明細の取得に関連しているといえる(なお,記録中には,原審弁護人の証拠開示裁定請求(平成27年10月28日付け)に対する意見書の疎明資料として,検察官が提出した捜査報告書謄本等が編てつされているところ,①の疎明資料とうかがわれる平成25年6月17日付け捜査報告書謄本(捜査結果に関するもの)中には,本件GPS捜査の結果を反映したとうかがわれる記載がある。)。
しかし,記録によれば,前記①の差押許可状請求の疎明資料中(その内容は,原判決の「証拠能力についての補足説明」の6(1)アのとおり)には,被告人が●●●●携帯を使い,覚せい剤の密売を行っている旨の匿名情報や,別の事件で逮捕した覚せい剤常習者2名から押収した携帯電話機に「A(被告人の氏をひらがなで表示)」又は「A(被告人の氏)さん」の名で●●●●携帯の登録がある旨の解析結果が含まれていたことが認められるところ,これらは本件GPS捜査と関係のない資料であり,これによっても,被告人による●●●●携帯を使った覚せい剤密売の嫌疑を認めることは十分可能といえる。そうすると,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査の結果を含む資料は,●●●●携帯だけではなく,その代替として被告人が使い始めた▲▲▲▲携帯及び●●●●携帯の通話先の各通話明細の差押許可状発付のため,特に必要であったとは認められない(なお,
記録によれば,B使用の◇◇◇◇携帯と●●●●携帯間の通話記録はなく,8月19日に実施されたBの居宅等の捜索時に◇◇◇◇携帯が押収されたため,その通話明細が差し押えられることになったものと認められるが,同捜索と本件GPS捜査との関連性が希薄であることは,後記(2)ウのとおりである。)。
また,記録によれば,前記②の令状請求の疎明資料には,本件GPS捜査とは関係のない,被告人の密売相手の供述調書が含まれていたこと,前記③の令状請求時には,捜索の結果,BとCの各居宅や被告人の使用車両から覚せい剤が発見されており,BとCは,それぞれ発見された覚せい剤を被告人から買った旨を,被告人もBに覚せい剤を譲渡した事実等を認める旨をそれぞれ供述し,これらに関する資料も疎明資料とされていたことが認められ,これらの資料により②③の各令状の発付は可能であったといえるから,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査の結果を含む資料の影響は,更に希薄であったというべきである。
なお,所論は,令状請求の際,捜査官は,通常,必要十分な範囲で疎明資料を提出するという経験則が存在するから,不要な資料を提出することは考えられないと主張するが,そのような経験則があるとは認め難い。以上のとおり,前記①ないし③の各差押許可状の発付に当たり,本件GPS捜査の結果を含む資料の必要性はなかったか,又はその影響は希薄であり,他の疎明資料により各令状を発付することは可能であったと認められる。

以上によれば,●●●●明細等の通話明細を基に作成された前記各捜査報告書は,本件GPS捜査との関係で違法収集証拠には当たらず,これらの証拠能力に問題はない。所論は採用することができない。

(2)

次に,B及びCの覚せい剤所持事実等に関する捜査報告書と各自の供述調
書について検討する(Bにつき,捜査報告書(原審甲123),警察官調書謄本
(原審甲1)及び検察官調書謄本(原審甲2)。Cにつき,捜査報告書(原審甲124),警察官調書謄本(原審甲15)及び検察官調書謄本(原審甲16・17)。なお,各供述調書の一部は,公判において取り調べない決定がされている。)。ア
B及びC(以下,併せて「Bら」という。)の居宅(福井市hi丁目所在のj)に対する捜索差押許可状請求等の経緯やその実施状況等は,原判決の認定(「証拠能力についての補足説明」の6(1)ウ,エ)のとおりである。すなわち,8月18日に請求,発付された捜索差押許可状により,同月19日夕方,B方(前記j103)において,同日夜から翌20日にかけ,C方(同所302)において,それぞれ捜索差押えが実施され,いずれも居室内から覚せい剤が発見,押収されて,Bらがその所持の現行犯人として逮捕されたことが認められる。そして,記録によれば,前記各捜査報告書は,それぞれの捜索差押調書,発見された覚せい剤に係る鑑定嘱託書謄本及び鑑定書等を基に作成され,Bらは,逮捕後の取調べで事実関係を認め,前記各供述調書が作成されたことが認められる。


所論は,本件GPS捜査を行わなければ,捜査機関において,被告人がBらに覚せい剤を譲渡していたことを知り得ず,また,Bらに対する捜索差押許可状は,同捜査と関連性がある尾行捜査の結果に関する資料や,●●●●明細及びその通話先の携帯電話機の契約者照会結果がなければ発付されなかったから,本件GPS捜査と前記各捜査報告書は明確な関連性があり,捜索差押許可状の発付等がなければ,Bらの供述を得ることも不可能であったから,前記各供述調書についても明確な関連性があると主張する。


被告人に対する尾行捜査や本件GPS捜査の結果,被告人がBらの居住するjに頻繁に立ち寄っていることが判明したため,警察官らは,6月21日から同所周辺に固定カメラを設置し,被告人と覚せい剤譲受人との接触状況等を記録していたことは,原判決が認定するとおりであって(「証
拠能力についての補足説明」の6(1)イ),その経緯からすれば,Bらの居宅が判明した経過に同捜査の結果が含まれている可能性があり,同人ら方の捜索差押えと同捜査の関連性は否定し難い(なお,原審で取り調べない決定をした証拠ではあるが,被告人とBらの接触状況に関する7月26日付け捜査報告書(原審甲8)中には,本件GPS捜査を踏まえたものとうかがわれる記載がある。)。
しかし,●●●●明細が本件GPS捜査に関わらず入手可能であったことは,既に説示したとおりであり,記録によれば,Bらの氏名や居住場所は,●●●●明細から判明した通話先に関する捜査からも判明していたことが認められるから,同人らの氏名等は,本件GPS捜査の結果によらずとも把握し得たものといえる。そして,Bらの居宅に対する捜索差押令状請求の疎明資料(原判決「証拠能力についての補足説明」の6(1)ウ,エ)からすれば,本件GPS捜査の結果にかかわらず,同令状の発付は可能であったと認められ,同捜査との関連性は希薄というべきである。また,これらの令状による捜索差押えの結果,Bらの居宅内から覚せい剤が発見,押収され,Bらがその所持の現行犯人として逮捕されて,その取調べ中に前記各供述調書が作成されたのであり,本件GPS捜査の結果がBらの供述に影響を与えたことをうかがわせる事情は認められない。Bらの供述調書についても,本件GPS捜査との関連性は希薄というべきである。

以上によれば,Bらの居宅に対する捜索差押許可状の発付につき,本件GPS捜査の影響は希薄であり,他の捜査結果を基にした疎明資料により同令状を発付することは可能であったと認められるから,その執行を契機として収集された証拠(捜索差押調書,発見された覚せい剤に係る鑑定嘱託書謄本及び鑑定書等)を基に作成された前記捜査報告書やBらの供述調書は,本件GPS捜査との関係では違法収集証拠に当たらず,これらの証
拠能力に問題はない。所論は採用することができない。
(3)

また,Bら以外の前記(1)の関係者の各供述調書(Dの検察官調書(原審
甲54),Eの検察官調書謄本(原審甲57・58),F(原審甲140・141),G(原審甲142),H(原審甲273)及びI(原審甲275)の各警察官調書謄抄本)についてみると,所論は,これらの者の氏名や住所は,●●●●明細による通話先携帯電話の契約者照会から判明し,これにより前記関係者らから供述を得ることが可能となったところ,●●●●明細に係る差押許可状は,本件GPS捜査と関連する尾行捜査の結果等の疎明資料がなければ発付されなかったから,本件GPS捜査と前記関係者らの供述調書の間には明確な関連性があると主張する。
しかし,●●●●明細に係る差押許可状発付に当たり,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査の結果を含む資料は特に必要ではなく,本件GPS捜査との関連性が希薄であることは,前記(1)で説示したとおりであり,同捜査がDらの供述獲得に影響を及ぼしていたことを示す事情も認められない。したがって,Dらの前記各供述調書は,本件GPS捜査との関係で違法収集証拠に当たらない。所論は採用することができない。
(4)

最後に,被告人に関する証拠(捜査報告書(原審甲14・126・155・
156・279),検察官調書(原審乙2ないし4・14ないし18)及び警察官調書抄本(原審乙20・21))について検討する。

被告人の自宅,使用車両,着衣及び所持品等に関する捜索差押許可状の請求,発付,その執行状況,被告人逮捕の経緯や供述状況等については,原判決の認定(「証拠能力についての補足説明」の6(1)エないしケ)のとおりである。
また,前記各証拠のうち,①捜査報告書(原審甲126・156)は,8月18日に請求,発付された捜索差押許可状による被告人の使用車両(トヨタ・クラウン)及びその自宅等に対する捜索差押え状況をまとめたもの,
②捜査報告書(原審甲279)は,①の令状により被告人の自宅から押収された▲▲▲▲携帯の電話帳登録状況の解析結果をまとめたもの,③捜査報告書(原審甲155)は,8月20日の逮捕後に被告人が任意提出した尿の鑑定結果等をまとめたもの,④捜査報告書(原審甲14)は,9月3日に被告人がBらに覚せい剤を譲渡した場所等を案内した引当り捜査に関するものであり,⑤その余は,逮捕後の取調べで作成された被告人の供述調書である。

所論は,①②の前提となった捜索差押許可状は,本件GPS捜査と関連する尾行捜査の結果による資料や,●●●●明細とこれにより判明した通話先携帯電話機の契約者照会結果がなければ発付されなかったもので,①②の各捜査報告書と本件GPS捜査には明確な関連性があるとし,また,被告人の逮捕状(8月20日,9月9日及び同月20日にそれぞれ発付されたもの)についても,同捜査と関連する疎明資料がなければ発付されず,これらの逮捕がなければ被告人から供述を得ること等は不可能であったから,③ないし⑤の捜査報告書及び供述調書と同捜査の間には明確な関連性があると主張する。


被告人の使用車両や自宅等に対する捜索差押許可状の請求,発付の経緯や,これと併せ,Bらの居宅に対する捜索差押許可状も請求されていたこと,8月20日以降の被告人の逮捕状請求の経緯等の原判決認定の事実関係に照らせば,各令状請求時の疎明資料に本件GPS捜査の結果が含まれている可能性があり,同捜査との関連性は否定し難い。
しかし,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査の結果を含む資料は,●●●●明細に係る差押許可状発付に当たり,特に必要ではなかったことは,前記(1)ウで説示したとおりである。
また,被告人の使用車両等に対する捜索差押許可状の請求当時,被告人が覚せい剤の密売を行っている旨の匿名情報が捜査機関に寄せられていた
ほか,覚せい剤使用常習者の携帯電話機の解析結果や,被告人から覚せい剤を譲り受けていた者等の供述調書,本件GPS捜査とは関係のない,被告人の密売相手の供述調書等があり,これらも疎明資料として提出されたことからすれば,同資料によって前記捜索差押許可状の発付に必要な嫌疑は得られていたといえ,同捜査との関連性は希薄であったと認められる。そして,被告人に対する各逮捕状請求時にも,前記捜索差押許可状の疎明資料が提出されていたことに加え,Bらへの覚せい剤の営利目的譲渡を被疑事実とする逮捕状(8月20日・9月9日発付)請求の際には,同人らの居宅から発見,押収された覚せい剤等に関する資料や,その入手先が被告人である旨の同人らの供述調書,携帯電話機の通話明細等が,使用車両(クラウン)内における覚せい剤の営利目的所持を被疑事実とする逮捕状(9月20日発付)請求の際には,これらのほか,被告人の供述調書が疎明資料として提出されていたことは,原判決が認定するとおりである(「証拠能力についての補足説明」の6(1)オないしケ)。
そうすると,これらの資料により各逮捕状の発付は可能であったと認められ,本件GPS捜査で可能となった尾行捜査の結果を含む資料が必要であったとはいえないし,本件GPS捜査の結果が被告人の各供述調書の作成に影響を及ぼしたことを示す事情も認められない。

以上のとおり,被告人に対する前記捜索差押許可状や逮捕状の発付に当たり,本件GPS捜査の影響は希薄であり,他の捜査結果に基づく疎明資料により各令状を発付することは可能であったと認められる。そして,各令状の執行を契機に収集された証拠を基に作成された前記捜査報告書や,逮捕後の取調べにより作成された被告人の各供述調書は,本件GPS捜査との関係では違法収集証拠に当たらず,その証拠能力に問題があるとは認められない。所論は採用することができない。

(5)

これまで検討したとおり,本件GPS捜査と,所論が違法収集証拠として
排除すべき旨を主張する検察官請求証拠との間の関連性はいずれも希薄であり,同捜査との関係で違法収集証拠に当たらず,その証拠能力に影響しないものと認められる(なお,原判決が「証拠の標目」に掲げた証拠で,所論が特に指摘していないものについても同様である。)。検察官請求証拠の証拠能力を認めた原判決の判断は,結論において正当であり,これを採用して取り調べた原審の訴訟手続に法令違反は認められない。論旨は理由がない。第3

結論
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未
決勾留日数の算入につき刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
平成29年10月3日
名古屋高等裁判所金沢支部第2部

裁判長裁判官

石川
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