判例検索β > 平成29年(わ)第1393号
傷害
事件番号平成29(わ)1393
事件名傷害
裁判年月日平成29年10月3日
法廷名名古屋地方裁判所
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判決主文
被告人を懲役2年6月に処する
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,愛知県東海市A町BC番地所在の株式会社Dに介護職員として勤務していたものであるが,新規採用者の教育態勢や自分への処遇等に対する不満を募らせ,職員が利用するドリンクキーパー内の焙じ茶に睡眠薬を投入して恨みを晴らそうなどと考え,平成28年12月9日午前8時頃,上記D2階職員用休憩室において,同所に設置されていた職員用のドリンクキーパー内の焙じ茶に睡眠薬成分であるトリアゾラムを含有する液体を混入させ,同日午後0時10分頃から同日午後2時頃までの間,同所において,情を知らないEら10名に上記焙じ茶を飲ませ,よって,同人らにそれぞれ睡眠薬による薬物中毒の各傷害を負わせた。
(法令の適用)
罰条
科刑上一罪処理

被害者毎に刑法204条
同法54条1項前段,10条
(1罪として犯情の最も重いEに対する傷害罪の刑で処断)

刑種の選択

懲役刑

未決勾留日数算入

同法21条

刑の執行猶予

同法25条1項


同法25条の2第1項前段

護観察訴訟費用
刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)

(量刑の理由)
被告人は,職場の新規採用者に対する教育態勢が十分でなかったことや,自己に対する処遇(正社員に昇格させることなく,パートとして働かされていたこと)などに不満を募らせ,職員が睡眠薬を混入した飲料を飲めば,職場等への恨みが晴らせるなどと考えて本件犯行に及んだものである。自分の勤務意欲や能力の不足を棚に上げ,自己中心的な受け止めや思考をする傾向があることもあって,職場での対応に一方的に不満や恨みを募らせていき,上司等に十分な相談をするなど常識的な対応を採ることなく,理不尽にも職員の健康等を損なう悪辣な手段を選択したもので,被告人の行為はおよそ正当化できるものではなく,動機は誠に身勝手であり,強い非難に値する。
被告人は,介護中の母親に処方されていた即効性のある多数の睡眠薬(トリアゾラム錠0.25㎎)を管理していたことをよいことに,同睡眠薬約二,三〇錠を自宅で砕いて湯に溶かして液体を作り,これを職場に持参した上で,他の職員のいないことを見計らって職員用のドリンクキーパーの焙じ茶内にその液体を混入して,多くの職員が飲める状態にしたものであり,その態様は,計画的かつ巧妙で,悪質である。現に,そのことを知らずに焙じ茶を飲んだ職員10名がいずれも眠気,目眩,ふらつき等の薬物中毒の症状を呈し,うち2名は2日間の入院治療が必要な状態となっており,生じた結果も看過することができない。被害者の中には運転手も含まれており,もし車両運転中に症状が出たら,人命にかかわる重大事故に至る危険性もあった。
以上の事情によると,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は相応に重いといわざるを得ず,この際,被告人を実刑に処することも考えられる。
しかしながら,幸いなことに長期入院や後遺症の発現など深刻かつ重大な症状が出た被害者はおらず,大事には至っていないこと,被告人は,前科前歴がなく,初めて公判請求を受けて反省と謝罪の弁を述べていること,認知症を患う母と障害を
有する子を抱えていることなど,酌むべき事情も認められるから,被告人に対し,社会内更生の機会を与えるため,主文の刑を定めた上でその刑の執行を猶予するのが相当である。
もっとも,職員全員に対し恨みがあるというわけではなく,多数の職員に害が及ぶことを容易に認識できたのに,後先を考えずに抵抗感なく,飲料に薬物を混入するという対象は職員に限られるとはいえ無差別的な犯行に及んだことからも明らかなとおり,規範意識の鈍麻が認められる上,自己中心的な発想・思考をしがちで,他者への配慮に欠けるところがあり,社会適応が十分にできていない傾向がうかがえることや,身近に適切な監督者が見当たらないこと等に照らすと,被告人に対し,社会性を涵養させて再犯の防止を図るためには,保護観察所の指導支援を受けさせる必要があるから,刑の執行猶予の期間中被告人を保護観察に付すこととした。(求刑―懲役2年6月)
平成29年10月3日
名古屋地方裁判所刑事第1部

裁判官山田耕司
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