判例検索β > 平成29年(ネ)第726号
事件番号平成29(ネ)726
裁判年月日平成29年10月16日
法廷名東京高等裁判所
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平成29年10月16日判決言渡

同日原本領収

平成29年(ネ)第726号,同第2261号

裁判所書記官
損害賠償請求控訴事件,同附帯控

訴事件(原審・横浜地方裁判所平成27年(ワ)第2398号)
口頭弁論終結日

平成29年7月10日
主文1
本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は
被控訴人の負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
本件控訴


原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。



上記取消しに係る被控訴人の請求を棄却する。



訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

2
本件附帯控訴



1
控訴人は,被控訴人に対し,10万円を支払え。


第2

原判決を次のとおり変更する。

訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,被控訴人が,同人を当事者とする別件の損害賠償請求訴訟において,
その控訴審である東京地方裁判所が言い渡した被控訴人敗訴の判決に対して上告を提起した上,上告理由書の提出期限とされた平成27年2月2日(月曜日)までの同年1月30日に上告理由書を提出したにもかかわらず,これを受け付けた担当裁判所書記官が提出期間経過後の同年2月3日の受付日付印を押したことから,上告審である東京高等裁判所において上告が不適法なものとして上告却下決定を受けたが,これは,国の公権力の行使に当たる公務員である裁判所書記官が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に被控訴人に損害を与えたものであるとして,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料10万円の支払を求めた事案である。
原審が,被控訴人の請求を1万円の支払を求める限度でこれを認容し,その余を棄却したところ,控訴人が本件控訴を,被控訴人が本件附帯控訴をそれぞれ提起した。
2
前提事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり補正し,当審における当事者の補充主張を後記3のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2

事案の概要」2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)


原判決2頁24行目末尾に改行して「民事第甲部では,本件上告理由書の本件受付印の日付を前提にすると,被控訴人については提出期間経過後の提出となるべきところ,民訴法316条1項2号により被控訴人の上告を却下せずに,相上告人であるAの事件とともに別件訴訟に係る事件を東京高等裁判所に対して送付した。」を加える。



原判決3頁14行目冒頭から17行目末尾までを削り,18行目の「職務上の注意義務違反の有無について」を「被控訴人が本件上告理由書を提出した日と異なる日付で受付日付印を押したかについて」に改める。



原判決4頁13行目冒頭から16行目末尾まで,18行目の「ア」及び25行目冒頭から原判決5頁6行目末尾までをいずれも削る。



原判決5頁10行目末尾に改行して次のとおり加える。
「⑵

控訴人の損害賠償責任の有無について
(被控訴人の主張)
本件書記官は,被控訴人が平成27年1月30日に提出した本件上告理由書について,職務上の法的義務に違反して,故意に,実際と異なる日付の同年2月3日の本件受付印を押したものであり,仮にそうでなくとも,本件書記官は,職務上の注意義務に違反して,過失により,上記のとおり誤った日付の本件受付印を押したものであるから,いずれにしても,控訴人は,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(控訴人の主張)
被控訴人の主張は否認ないし争う。被控訴人は,本件書記官が故意に実際と異なる日付の本件受付印を押したと主張するが,本件書記官がそのような行為をする理由は全くない。また,民事第甲部に備え付けられている受付日付印は,日付を印字する部分の年月日に係る数字を回転式ダイヤルにより合わせて押す構造になっているところ,本件書記官が,平成27年1月30日に提出された書類について,月も日も変えて同年2月3日の日付にダイヤルを合わせるなどということはおよそ考えられない。」

3
原判決5頁11行目の「⑵」を「⑶」に改める。当審における当事者の補充主張



控訴人の補充主張
裁判所の実務において,受付日付印の押印は,書類を受領した事実を確認するとともに,その受領日を証明することを目的として,担当裁判所書記官等によりされる行為である。そして,上記の受付日付印の作成目的,作成者の地位(本件では公証官である裁判所書記官が押印している。),その作業の単純性や日常性といった事情に加え,裁判所においては,書類を受領すると速やかに受付日付印を押す実務が定着しており,後日に受付日付印を押すことはないことや,一般的に,担当裁判所書記官が受付日付印を押すことについて事件当事者との関係で何らの利害関係を有していないことも考慮すると,受付日付印の実質的証拠力は相当高いものというべきであり,特段の事情がない限り,裁判所に提出された書類はその受付日付印の日付の日に提出されたことが事実上推定されるのであって,これを争う当事者から強い反対証拠が提出されない限り,上記推定は覆らないというべきである。原判決は,受付日付印が有する実質的証拠力に何ら配慮することなく,被控訴人のパスモの利用履歴や,被控訴人とAが霞ケ関駅で合流する旨のやり取りが記載されたLINEの画面等の内容から,被控訴人が平成27年1月30日に本件上告理由書を提出したものと推認しているが,これらの証拠はいずれも間接的な証拠であって,これにより,仮に,同日に被控訴人及びAが霞ケ関駅周辺に居たことや,被控訴人が同日までに本件上告理由書を作成したことが認められるとしても,被控訴人が同日に民事第甲部を訪れ,かつ,本件上告理由書を提出したことを直接証明するものではない。
また,原判決は,本件書記官の陳述書(乙5)について,事件に関する書類の受付手続に係る事務処理の一般論を述べるにとどまり,本件上告理由書を受け付けた日付や本件受付印を被控訴人らの面前で押したか否かなどの具体的な記憶がないということをとらえ,本件上告理由書が平成27年2月3日に提出されたことを裏付けるものとは言い難いと判示しているが,本件書記官において実際に受け付けた日を特定するような具体的な記憶がないのは,書類の受付や受付日付印の押印という作業が日常的な書記官事務であり,日常的に受付分配通達に従って事務処理を行っていたからこそ,特段の記憶が残らなかったと評価すべきであって,原判決は,この点の評価を誤り,上記陳述書を不当に低く評価している。
さらに,原判決は,本件書記官が,例えば書類の受領日当日中に事務処理を行うことを懈怠あるいは失念したなどの理由により,後日になって,本件上告理由書に実際に受け付けた日より後の日付で受付日付印が押された可能性は払拭できるものではないと判示しているが,仮に,平成27年1月30日に本件上告理由書が提出され,本件書記官が当日中に受付日付印を押すことを懈怠あるいは失念したとしても,本件書記官が,実際に受け付けた日より後の日付で本件受付印を押したと認定するためには,そのような事態が具体的かつ合理的に想定されるものでなければならないが,かかる事態はおよそ考えられない。
以上によれば,本件上告理由書の提出日は,本件受付印の日付である平成27年2月3日と認められる。


被控訴人の補充主張

被控訴人は,本件訴訟のために,東京地裁及び東京高裁に3回,横浜地裁に口頭弁論期日だけでも8回も足を運び,4通の準備書面,29件の書証などを含む数多くの書類を作成し,原審では別件訴訟の膨大な資料のコピーの提出を求められた。これらの回復不可能なほど多大な経済的及び精神的損害を金銭に評価すれば,慰謝料として10万円を下回ることはなく,原判決が認容した1万円は,被控訴人のこれらの損害をあまりに軽く評価したものであって不当である。


原判決は,被控訴人の主張を認め,被控訴人が本件上告理由書を提出期間内に提出したのに,本件書記官が提出期間経過後の受付日付印を押したために上告却下となったと認定しているから,被控訴人は完全な被害者であり,被控訴人の実質完全勝訴である。それにもかかわらず,原判決は,訴訟費用を10分し,その9を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とするとしたが,これは不当であり,訴訟費用はすべて控訴人の負担とすべきである。

第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の請求は1万円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり,当審における当事者の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3

当裁判所の判断」1ないし3に記載のとおり

であるから,これを引用する。
(原判決の補正)


原判決6頁22行目の「全部で」の次に「本文」を加え,24行目の
「(甲8,14,15,25)」を「(甲2,25,乙10)」に改める。⑵

原判決7頁3行目末尾に「なお,本件書記官は,同月2日,週休日の振替えにより出勤しなかった(乙16)。」を加える。



原判決8頁3行目の「職務上の注意義務違反の有無」を「被控訴人が本件上告理由書を提出した日と異なる日付で受付日付印を押したか」に改め,4行目の「午後2時頃」を削り,7行目の「事実が」の次に「日比谷公園内の」を,8行目の「られている」の次に「こと」を,10行目の「内容からは,」の次に「被控訴人とAは同日に地下鉄霞ケ関駅付近で会っていること,」を,11行目の「考えられること」の次に「(このことは,本件上告理由書の日付が平成27年1月30日であることや,本件上告理由書の文書データの最終更新が同日午前4時39分であること(甲15)からも裏付けられる。)」をそれぞれ加え,12行目の「理解していた」から13行目の「とすれば」までを「理解していたことが認められるのであり,これらのことからすれば,被控訴人及びAが」に,15行目の「考えても,不自然ではなく」を「考えるのが自然であり,」にそれぞれ改め,17行目の「認められること」の次に「や当審における被控訴人の尋問の結果が全体として合理的な内容であること」を,22行目の「上,」の次に「本件証拠上,被控訴人及びAが,同年1月30日にいったん本件上告理由書の提出を見送ったこと,あるいは,同年2月3日に東京地方裁判所を訪れたことを窺わせる証拠はなく,また,」をそれぞれ加える。



原判決9頁2行目の「であって,」を「であり,この点につき,本件書記官の陳述書(乙13)及び証言内容も同旨であって,」に改め,14行目末尾に改行して「3

争点⑵(控訴人の損害賠償責任の有無)について」を,
更に改行して「被控訴人は,本件書記官が,被控訴人が平成27年1月30日に提出した本件上告理由書について,職務上の法的義務に違反して,故意に,実際と異なる日付の同年2月3日の本件受付印を押したと主張するが,本件において,本件書記官が故意にそのような行為を行ったとは認められないから,被控訴人の主張は採用できない。」を加え,15行目の「⑶」を削る。


原判決10頁4行目の「(なお,」から7行目の「見当たらない。)」までを削り,10行目の「3

2
争点⑵」を「4

争点⑶」に改める。

当審における当事者の補充主張に対する判断


控訴人の補充主張について

裁判所の裁判事務の取扱いにおいて,受付日付印の押印は,書類を受領した事実を確認するとともに,その受領日を証明することを目的として行われるものであること,これを行う者は,公証官である裁判所書記官ないしその補助者である裁判所事務官であること,受付分配通達(乙4)により,書類を受領した場合にはその日のうちに受付日付印の押印などの事務を終えなければならないとされていることなどに照らせば,一般的に,裁判所に提出された書類に押された受付日付印は,書類を受け付けた当日の正確な日付で押されていると信頼することができるものであるから,特段の事情がない限り,これと異なる事実を認めることはできないというべきである。


控訴人は,上記の裁判所の受付日付印の実質的証拠力に照らせば,被控訴人のパスモの利用履歴や,被控訴人とAとの間のやり取りが記載されたLINEの画面等の内容は,被控訴人が平成27年1月30日に民事第甲部を訪れ,かつ,本件上告理由書を提出したことを直接証明するものではないから,このような証拠によっては,本件上告理由書の提出日が本件受付印の日付である同年2月3日であるとの事実上の推定を覆すことはできないと主張する。
しかし,補正の上で引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3

裁判所の判断」2⑴で説示のとおり,関係証拠に照らせば,被控訴人及びAが同年1月30日に民事第甲部に赴き,本件上告理由書を提出したとの事実を認定することができ,上記の特段の事情が存在するといえるから,控訴人の主張は採用できない。この点につき,本件書記官は,本件受付印を押した当日,被控訴人とAが一緒に民事第甲部を訪れ,本件上告理由書を提出したと証言するところ,同年2月3日については,Aは午前10時から午後4時30分まで東京都八王子市において介護の仕事をしていたこと(甲16),被控訴人とAのやり取りが記載されたLINEの同年1月31日の画面には,Aは同年2月3日に仕事がある旨が記載されていること(甲14),被控訴人のパスモの利用履歴には,被控訴人が同日に東京地方裁判所の近くの駅まで鉄道を利用した形跡がないこと(甲7)が認められ,これらの事実に照らして考えると,本件書記官の上記証言は直ちに採用することができない。

また,控訴人は,本件書記官が,本件上告理由書を受け付けた日付や本件受付印を被控訴人らの面前で押したか否かなどの具体的な記憶がないのは,書類の受付や受付日付印の押印という作業が日常的な書記官事務であり,日常的に受付分配通達に従って事務処理を行っていたからこそ,特段の記憶が残らなかったと評価すべきであるとして,原判決は評価を誤っていると主張する。
しかし,補正の上で引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3

裁判所の判断」2⑴で説示のとおり,本件書記官の陳述書(乙5,13)及び証言が,本件上告理由書が平成27年2月3日に提出されたことを裏付けるに足りる具体的なものとはいえないことは明らかである。加えて,裁判所の事務処理の状況等からみて,地方裁判所が取り扱う控訴事件に対して上告がされることはそれほど多くはなく,まして上告理由書が提出期間内に提出されないという事態は,相当まれなことであると考えられるところ,証拠(乙13,証人B)によれば,本件書記官は,訴訟記録のプラスチックカバーの背表紙に上告理由書の提出期限日を書いたテープを貼って同期限を把握していたと認められることからすれば,仮に,本件上告理由書が提出期間経過後の平成27年2月3日に提出されたのであれば,Aの上告理由書だけが提出期間内に提出されることになったことと相まって,民事第甲部の書記官室及び裁判官室内で同事実が直ちに情報共有がされた上,相当まれな事態が生じたことについて,速やかに,部内で原裁判所による上告却下を含め,今後の取扱い等をめぐって議論がされるのが通常であり,その結果,本件書記官はもとより,主任書記官にもその時点でのやり取り等について具体的な記憶として残っていてしかるべきである。しかし,本件書記官の陳述書(乙5,13)及び証言中には,こうした記憶についての説明は一切見られないばかりか,本件書記官が本件上告理由書を実際に受け付けた日時を特定するような具体的な出来事(エピソード)についての説明が全くされておらず,主任書記官の陳述書(乙14)にも,記録送付の際の記録査閲時における検討内容について陳述する部分があるものの,本件上告理由書の提出時における部内での具体的なやり取りについては触れるところがないのであり,このような点に照らしても,本件書記官の陳述書等をもってしては,本件上告理由書が同年1月30日に提出されたとの事実認定を左右するには至らないというべきである。

さらに,控訴人は,仮に,平成27年1月30日に本件上告理由書が提出され,本件書記官が当日中に受付日付印を押すことを懈怠あるいは失念したとしても,本件書記官が,実際に受け付けた日より後の日付で本件受付印を押したと認定するためには,そのような事態が具体的かつ合理的に想定されるものでなければならないが,かかる事態はおよそ考えられないと主張する。
しかし,上記ウで検討したところと乙16を総合して考えると,本件書記官は,平成27年1月30日に本件上告理由書が提出されたにもかかわらず,当日中に受付日付印を押すことを懈怠あるいは失念した上,土日及び週休日の振替日後の同年2月3日に出勤した際,注意不足によりそれに気付かないまま,誤った日付である本件受付印を押したということを想定し得るのであるから,控訴人の主張は採用できない。

以上によれば,原判決が,被控訴人が本件上告理由書を民事第甲部に提出した日が平成27年1月30日であると認定した点について誤りはない。


なお,控訴人は,原判決が,本件書記官について過失があったことを認定して被控訴人の請求を一部認容した点について,被控訴人は故意による行為のみを問題としていたから,弁論主義違反の違法がある旨主張するが,この点に関する原審での主張整理にはやや十分でない点があるものの,被控訴人は,続審である当審において,上記過失の点をも主張するものである旨明確に述べており,控訴人においてこの主張に対して民訴法157条に基づく却下の申立て等をしていないことからすれば,当裁判所が,上記過失の有無について判断することに問題はなく,控訴人の上記主張は採用できない。



被控訴人の補充主張アについて
被控訴人は,本件訴訟の準備及び追行のために,多大な経済的及び精神的損害を被ったと主張するが,その主張するものの大部分は本来訴訟費用に含まれるものであり,また,これに含まれないものを慰謝料の算定に当たり考慮するとしても,本件事案の内容,その他本件記録に現れた諸事情に照らせば,本件の慰謝料を1万円と認定した原判決は相当であり,被控訴人の主張は採用できない。


被控訴人の補充主張イについて
被控訴人は,原判決の訴訟費用の裁判について不服を申し立てるが,上記⑵のとおり,被控訴人の本案の裁判に対する本件附帯控訴は理由がなく,このような場合,訴訟費用の裁判に対する不服申立ては許されないから(最高裁昭和29年1月28日第一小法廷判決・民集8巻1号308頁参照),被控訴人の主張は採用できない。

第4

結論
以上によれば,被控訴人の請求は1万円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部

裁判長裁判官

安浪亮介
裁判官

片山憲一
裁判官

杉山順一
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